JP2011168017A - ステンレス鋼板と熱可塑性樹脂組成物の成形体とが接合された複合体、およびその製造方法 - Google Patents

ステンレス鋼板と熱可塑性樹脂組成物の成形体とが接合された複合体、およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】ステンレス鋼板と熱可塑性樹脂組成物とが接合された複合体であって、熱可塑性樹脂組成物の密着性に優れた複合体を提供すること。
【解決手段】塩化第二鉄水溶液に酸化性化合物を溶解させた処理液にステンレス鋼板を浸漬して、ステンレス鋼板の表面に複数のピットを形成する。形成されたピットのうち60個数%以上のピットは、ピット開口部の径Dに対するピット内部の最大径Dの比率D/Dが1.05以上である。また、浸漬処理前の鋼板表面の酸化皮膜の平均厚みDに対する浸漬処理後の鋼板表面の酸化皮膜の平均厚みDの比率D/Dは、1.1以上である。得られた粗面化ステンレス鋼板を射出成形金型に挿入し、熱可塑性樹脂組成物を射出成形金型内に射出して、複合体を製造する。
【選択図】なし

Description

本発明は、ステンレス鋼板と熱可塑性樹脂組成物の成形体とが接合された複合体、およびその製造方法に関する。
金属と樹脂とを一体化する技術として、接着剤によって接着させる方法が知られている。また、近年、アルミニウム合金を挿入した射出成形金型に熱可塑性樹脂を射出することで、アルミニウム合金と熱可塑性樹脂とを接合させる方法(インサート射出成形接着法)が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。特許文献1〜3の方法では、アルミニウム合金の表面を所定の水溶液などで処理して、アルミニウム合金の表面に微細な凹凸を形成することで、密着性を向上させている。
一方、ステンレス鋼板の表面を粗面化して、ステンレス鋼板と被覆材(塗膜やゴム層など)との密着性を向上させる方法が提案されている(例えば、特許文献4,5参照)。特許文献4,5の方法では、ステンレス鋼板を塩化第二鉄水溶液中で交番電解することで、ステンレス鋼板の表面を粗面化している(例えば、特許文献5)。
特開2006−027018号公報 特開2004−050488号公報 特開2005−342895号公報 特開平10−259499号公報 特開2002−106718号公報
ステンレス鋼板と熱可塑性樹脂とを接合させるために、前述のインサート射出成形接着法を適用しても、十分な密着性が得られず、特に経時的に熱可塑性樹脂の密着性が低下していく場合があった。そのため、例えば、インサート射出成形接着法で製造した容器に内容物を封入して長期保存すると、内容物が漏洩することがあった。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、ステンレス鋼板と熱可塑性樹脂組成物とが接合された複合体であって、熱可塑性樹脂組成物の密着性に優れた複合体を提供することを目的とする。
本発明者は、酸化性化合物を含む塩化第二鉄水溶液で処理したステンレス鋼板と熱可塑性樹脂とを接合させることで、上記課題を解決できることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。
すなわち、本発明の第一は、以下の複合体に関する。
[1]ステンレス鋼板と熱可塑性樹脂組成物の成形体とが接合された複合体であって:前記ステンレス鋼板は、前記熱可塑性樹脂組成物の成形体との接合面の30面積%以上にピットが形成されており;前記接合面に形成されたピットのうち60個数%以上のピットは、ピット開口部の径Dに対するピット内部の最大径Dの比率D/Dが1.05以上である、複合体。
[2]前記ピットが形成される前の前記ステンレス鋼板表面の酸化皮膜の平均厚みDに対する、前記ピットが形成された後の前記ステンレス鋼板表面の酸化皮膜の平均厚みDの比率D/Dは、1.1以上である、[1]に記載の複合体。
[3]前記熱可塑性樹脂組成物の成形収縮率は、1.0%以下である、[1]または[2]に記載の複合体。
[4]前記熱可塑性樹脂組成物は、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂およびパーフルオロ系樹脂からなる群から選択される1種以上を含む、[1]〜[3]のいずれかに記載の複合体。
また、本発明の第二は、以下の複合体の製造方法に関する。
[5]ステンレス鋼板と熱可塑性樹脂組成物の成形体とが接合された複合体の製造方法であって:粗面化ステンレス鋼板を射出成形金型に挿入するステップと、前記射出成形金型に熱可塑性樹脂を射出して、前記粗面化ステンレス鋼板の表面に前記熱可塑性樹脂組成物の成形体を接合するステップとを有し;前記粗面化ステンレス鋼板は、その表面の30面積%以上にピットが形成されており;前記ピットのうち60個数%以上のピットは、ピット開口部の径Dに対するピット内部の最大径Dの比率D/Dが1.05以上である、複合体の製造方法。
[6]塩化第二鉄水溶液に酸化性化合物を溶解させた処理液にステンレス鋼板を浸漬して、前記粗面化ステンレス鋼板を得るステップをさらに有する、[5]に記載の複合体の製造方法。
[7]前記酸化性化合物は、硝酸である、[6]に記載の複合体の製造方法。
[8]前記処理液において、Feに対する前記酸化性化合物のモル比は、0.5〜3.0の範囲内である、[6]または[7]に記載の複合体の製造方法。
[9]前記浸漬処理前の前記ステンレス鋼板表面の酸化皮膜の平均厚みDに対する、前記浸漬処理後の前記粗面化ステンレス鋼板表面の酸化皮膜の平均厚みDの比率D/Dは、1.1以上である、[6]〜[8]のいずれかに記載の複合体の製造方法。
[10]前記熱可塑性樹脂組成物の成形収縮率は、1.0%以下である、[5]〜[9]のいずれかに記載の複合体の製造方法。
[11]前記熱可塑性樹脂組成物は、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂およびパーフルオロ系樹脂からなる群から選択される1種以上を含む、[5]〜[10]のいずれかに記載の複合体の製造方法。
本発明によれば、熱可塑性樹脂組成物の密着性に優れた、ステンレス鋼板と熱可塑性樹脂組成物の成形体との複合体を容易に製造することができる。
図1Aは、鋼板No.7のステンレス鋼板の浸漬処理後の鋼板表面を示す電子顕微鏡写真である。図1Bは、鋼板No.7のステンレス鋼板の浸漬処理後の鋼板断面を示す電子顕微鏡写真である。 図2Aは、鋼板No.24のステンレス鋼板の浸漬処理後の鋼板表面を示す電子顕微鏡写真である。図2Bは、鋼板No.24のステンレス鋼板の浸漬処理後の鋼板断面を示す電子顕微鏡写真である。 図3Aは、鋼板No.27のステンレス鋼板の浸漬処理後の鋼板表面を示す電子顕微鏡写真である。図3Bは、鋼板No.27のステンレス鋼板の浸漬処理後の鋼板断面を示す電子顕微鏡写真である。 塩化第二鉄水溶液中における、SUS304およびSUS430の浸漬電位の測定結果を示すグラフである。 塩化第二鉄水溶液または硝酸を含む塩化第二鉄水溶液中における、SUS430の浸漬電位の測定結果を示すグラフである。 図6Aは、浸漬処理前のステンレス鋼板Bの深さ方向のAESプロファイルである。図6Bは、鋼板No.19のステンレス鋼板の深さ方向のAESプロファイルである。図6Cは、鋼板No.24のステンレス鋼板の深さ方向のAESプロファイルである。
1.ステンレス鋼板と熱可塑性樹脂組成物の成形体との複合体
本発明の複合体は、ステンレス鋼板と熱可塑性樹脂組成物の成形体とが接合されている複合体である。本明細書では、ステンレス鋼板の表面のうち、熱可塑性樹脂組成物の成形体と接合している領域を「接合面」という。
熱可塑性樹脂組成物の成形体と接合されるステンレス鋼板は、オーステナイト系、フェライト系、マルテンサイト系など、特に限定されない。ステンレス鋼板の鋼種の例には、SUS304、SUS430、SUS316などが含まれる。また、ステンレス鋼板の表面仕上げの種類も、特に限定されない。表面仕上げの種類の例には、BA、2B、2D、No.4、HLなどが含まれる。
ステンレス鋼板表面の接合面には、複数のピットが形成されている。本発明の複合体では、接合面において熱可塑性樹脂がステンレス鋼板のピット内に入り込むため、ステンレス鋼板と熱可塑性樹脂組成物の成形体とが強固に接合される。
接合面におけるピット形成部の面積率は、30面積%以上であることが好ましい。ピット形成部の面積率が30面積%未満の場合、十分なアンカー効果が得られず、熱可塑性樹脂組成物の密着性を十分に向上させることができない。ピット形成部の面積率は、ステンレス鋼板の接合面の垂直投影面積に対するピット形成部の面積率を測定することで確認することができる。または、ステンレス鋼板の接合面を上から撮像した電子顕微鏡(SEM)写真を画像解析することによって、ピット形成部の面積率を確認することもできる。ステンレス鋼板の接合面を上から撮像した電子顕微鏡(SEM)写真の例が、図1Aに示される。たとえば、電子顕微鏡(SEM)写真を二値化処理し、0.5μm以上の深さがある部位とその他の部位とを区別して、ピット形成部の面積率を求めることができる。
前記複数のピットのうちの少なくとも一部のピットは、オーバーハング部を有するピットであることが好ましい。本明細書において、「オーバーハング部を有するピット」とは、ピット内部の最大径をDとし、ピット開口部の径をDとしたとき、DがDよりも大きいピットを意味し、好ましくはD/Dが1.05以上のピットを意味する(図1B参照)。ピットの径は、ステンレス鋼板の接合面の断面の電子顕微鏡(SEM)写真を観察して測定することができる。ステンレス鋼板の接合面の断面を撮像した電子顕微鏡(SEM)写真の例が、図1Bに示される。
接合面に形成されたピットの数に対するオーバーハング部を有するピット(D/Dが1.05以上のピット)の数の割合は、60個数%以上であることが好ましい。オーバーハング部を有するピットは、オーバーハング部を有しないピットに比べてより優れたアンカー効果を発揮する。したがって、オーバーハング部を有するピットの数の割合が60個数%以上の場合、経時的な密着性をより向上させることができる。一方、オーバーハング部を有するピットの数の割合が60個数%未満の場合、熱可塑性樹脂組成物の密着性を十分に向上させることができない。オーバーハング部を有するピットの数の割合は、接合面の断面の電子顕微鏡(SEM)写真を観察し、D/Dが1.05以上となっているピットの数と、それ以外のピットの数を計測することで確認できる。
また、熱可塑性樹脂組成物の成形体と接合されるステンレス鋼板は、複数のピットが形成される前の酸化皮膜の平均厚みDに対する複数のピットが形成された後の酸化皮膜の平均厚みDの比率D/Dが1.1以上であることが好ましい。すなわち、ステンレス鋼板の酸化皮膜の平均厚みDは、ピットが形成される前のステンレス鋼板の酸化皮膜の平均厚みDよりも大きいことが好ましい。酸化皮膜の平均厚みの比率D/Dが1.1未満の場合、耐食性が不十分となるおそれがある。酸化皮膜の平均厚みは、オージェ電子分光法(AES)により測定することができる。
熱可塑性樹脂組成物の成形体を構成する熱可塑性樹脂組成物は、結晶性の熱可塑性樹脂および非結晶性の熱可塑性樹脂のどちらを含んでいてもよい。結晶性の熱可塑性樹脂の例には、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂などが含まれる。非結晶性の熱可塑性樹脂の例には、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、パーフルオロ系樹脂(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテルなど)が含まれる。
熱可塑樹脂組成物の成形収縮率は、1.0%以下であることが好ましい。成形収縮率は、射出成形時に使用した金型の樹脂流入部の容積Aに対し、射出成形後に固化した樹脂の容積Bを測定し、「(A−B)/A×100(%)」として求めることができる。
熱可塑樹脂組成物の成形収縮率は、樹脂の種類によっても調整されうるが、例えばフィラーを添加することによっても調整されうる。フィラーの例には、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド樹脂などの繊維系フィラー;カーボンブラック、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、タルク、ガラス、粘土、リグニン、雲母、石英粉、ガラス球などの粉フィラー;炭素繊維やアラミド繊維の粉砕物などが含まれるが、特に限定されない。熱可塑性樹脂組成物におけるフィラーの含有量は、5〜60質量%の範囲内が好ましく、10〜40質量%の範囲内がより好ましい。
熱可塑樹脂組成物の成形収縮率は、結晶性樹脂と非結晶性樹脂とを混合することによっても調整されうる。一般的に、結晶性樹脂の方が、非結晶性樹脂よりも成形収縮率が大きいので、非結晶性樹脂の混合比率を高めれば、成形収縮率も低減されうる。
本発明の複合体は、特に限定されないが、例えば以下の方法により製造されうる。
2.複合体の製造方法
本発明の複合体の製造方法は、1)粗面化ステンレス鋼板を射出成形金型に挿入する第1のステップと、2)熱可塑性樹脂組成物を射出成形金型内に射出する第2のステップとを有する。
第1のステップでは、粗面化ステンレス鋼板を射出成形金型に挿入する。
粗面化ステンレス鋼板としては、A)その表面の30面積%以上にピットが形成されており、かつB)表面に形成されたピットのうち60個数%以上のピットは、ピット開口部の径Dに対するピット内部の最大径Dの比率D/Dが1.05以上である、ステンレス鋼板が使用される。
たとえば、上記A)およびB)の要件を満たす粗面化ステンレス鋼板は、後述する粗面化ステンレス鋼板の製造方法により製造されうる。
第2のステップでは、射出成形金型内に、高温の熱可塑性樹脂組成物を高圧で射出する。このとき、射出成形金型にガス抜きを設けて、熱可塑性樹脂組成物が円滑に流れるようにすることが好ましい。第1のステップで挿入した粗面化ステンレス鋼板の表面には複数のピットが形成されており、高温の熱可塑性樹脂組成物はピットが形成された表面に接触する。射出成形金型の温度は、使用する樹脂の融点近傍であることが好ましい。射出された熱可塑性樹脂組成物が、粗面化ステンレス鋼板のピットの内部に侵入しやすくするためである。
射出終了後、金型を開き離型して複合体を得る。射出成形により得られた複合体は、成形後にアニール処理をして、成形収縮による内部歪みを解消することが好ましい。
以上の手順により、粗面化ステンレス鋼板の表面に熱可塑性樹脂組成物の成形体を接合させて、本発明の複合体を製造することができる。このようにして製造された本発明の複合体は、熱可塑性樹脂がステンレス鋼板のピットに入り込むため、優れた接合性を発揮することができる。
3.粗面化ステンレス鋼板の製造方法
本発明の複合体の製造方法で使用されうる粗面化ステンレス鋼板は、ステンレス鋼板を所定の処理液に浸漬することで製造することができる。
処理液に浸漬されるステンレス鋼板の種類は、オーステナイト系、フェライト系、マルテンサイト系など、特に限定されない。また、ステンレス鋼板の表面仕上げの種類も、特に限定されない。
ステンレス鋼板を浸漬する処理液としては、塩化第二鉄水溶液に酸化性化合物を溶解させた水溶液が使用される。この処理液にステンレス鋼板を浸漬することで、ステンレス鋼板の表面においてオーバーハング部を有する複数のピットが形成される。
処理液中の塩化第二鉄(FeCl)は、Clイオンの吸着部を起点とする孔食作用により、ステンレス鋼板表面にピットを形成する。処理液中の塩化第二鉄の濃度は、0.1〜3.7mol/Lの範囲内が好ましい。塩化第二鉄の濃度が0.1mol/L未満の場合、ステンレス鋼板の表面に十分な深さのピットを形成することができない。一方、塩化第二鉄の濃度が3.7mol/L超の塩化第二鉄水溶液には、酸化性化合物を添加することが物理的に困難である。
酸化性化合物は、ステンレス鋼板表面の酸化皮膜(不動態皮膜)の厚さを増大して、ステンレス鋼板表面の溶解を抑制する。前述の通り、ピットは、Clイオンの吸着部を起点とする孔食作用により形成される。そして、孔食部(ピット内部)ではClイオンが濃化し、局所的にpHが低下するため、エッチングが進行する。一方、処理液中のFe3+がFe2+に還元される際に鋼板表面が酸化されるため、ステンレス鋼板表面のClイオンが吸着していない部位は保護される。酸化性化合物は、Fe2+をFe3+に酸化するとともに、鋼板表面を酸化するため、塩化第二鉄水溶液単独の場合よりもさらに不動態皮膜を強化することができる。
このように、処理液に酸化性化合物を添加することで、ピット開口部の溶解を抑制して、オーバーハング部を有するピットを形成することができる。また、酸化性化合物は、浸漬処理により処理液中に発生したFe2+をFe3+に酸化する作用があるため、処理液の加水分解により生じる水酸化鉄(III)/Fe(OH)からなる沈殿物の発生を抑制する。このように沈殿物の発生を抑制することにより、処理液の安定性が向上し、その結果として連続処理性を向上させることができる。
酸化性化合物の種類は、塩化第二鉄水溶液によるステンレス鋼板表面の溶解を抑制できる程度に、ステンレス鋼板表面の酸化皮膜の厚さを増大しうるものであれば特に限定されない。そのような酸化性化合物の例には、過マンガン酸カリウム(KMnO)などの過マンガン酸塩;重クロム酸カリウム(KCr)やクロム酸(VI)(CrO)などのクロム酸塩;硝酸(HNO)や硝酸カリウム(KNO)などの硝酸類;過酸化水素(H)や過酸化ナトリウム(Na)などの過酸化物;硫酸(HSO)などの硫酸類などが含まれる。
本発明者らの実験によれば、上記の酸化性化合物は、いずれもステンレス鋼板表面の溶解の抑制に有効であった。これらの酸化性化合物の中では、過マンガン酸カリウムおよび重クロム酸カリウムは、酸化作用は大きいが、溶解度が小さく水溶液の調製が困難であるため、使用しにくい。これに対し、硝酸、過酸化水素水、硫酸は、最初から水溶液であるため使用しやすい。硝酸、過酸化水素水および硫酸の中では、酸化力が最も強い(電子の授受が多い)硝酸が好ましい。
処理液中のFeに対する酸化性化合物(例えば、硝酸)のモル比は、0.5〜3.0の範囲内が好ましい。モル比が0.5未満の場合、ステンレス鋼板表面の酸化皮膜(不動態皮膜)の厚さを十分に増大させることができず、また水酸化鉄(III)/Fe(OH)からなる沈殿物の発生を十分に抑制することができない。一方、モル比を3.0超としても、酸化性化合物の濃度上昇に見合うだけの酸化皮膜の厚さの増大を認められない。
処理液の液温は、室温〜95℃の範囲内が好ましく、室温〜60℃の範囲内がより好ましい。液温が高いと、処理液の蒸発が顕著となるからである。
処理液にステンレス鋼板を浸漬させる時間は、120秒以下が好ましい。浸漬時間が120秒を超えると、形成されるピットの径が過剰に大きくなり、アンカー効果が低下してしまう。また、60秒を超える時間処理してもアンカー効果の顕著な向上は認められないため、浸漬時間を60秒以下とすることがより好ましい。一方、1秒以下の浸漬処理は制御するのが困難なため、浸漬時間は2秒以上が好ましい。
なお、ステンレス鋼板を処理液に浸漬する代わりに、ステンレス鋼板の表面に処理液を塗布しても同様の効果を得られる。しかしながら、ステンレス鋼板の形状によっては、鋼板表面に処理液を均一に塗布するのが困難であるため、浸漬処理によりピットを形成することが好ましい。また、浸漬処理を行う場合は、処理液の飛散や空気の巻き込みによる接液不良を防止する観点から、攪拌速度をできるだけ低速とすることが好ましい。
前述の通り、ステンレス鋼板を塩化第二鉄水溶液に浸漬すると、塩化第二鉄(FeCl)に由来するClイオンの孔食作用により、ステンレス鋼板表面にオーバーハング部を有する複数のピットが形成される。しかしながら、ステンレス鋼板の種類や表面仕上げの種類によっては、ステンレス鋼板全体の溶解が起こり、ピット開口部(オーバーハング部)も溶解してしまうため、オーバーハング部を有するピットを形成できないことがある。たとえば、SUS430は、SUS304に比べて塩化第二鉄水溶液中の浸漬電位が低く、鋼板表面が全体的に溶解されやすい。したがって、SUS430を塩化第二鉄水溶液に浸漬しても、ピットの形成と並行してピット開口部の溶解も進行してしまうため、形成されたピットのうちオーバーハング部を有するピットの割合が60個数%未満となってしまうことがある(実施例参照)。
この問題点を、本製造方法では、塩化第二鉄水溶液に酸化性化合物を溶解させることで解決している。すなわち、酸化性化合物の作用により鋼板表面の酸化皮膜(不動態皮膜)の厚さを増大させて鋼板表面を溶解しにくくし、ピット開口部(オーバーハング部)の溶解を抑制している。したがって、本製造方法では、浸漬処理前の鋼板表面の酸化皮膜の平均厚みDに対する、浸漬処理後の鋼板表面の酸化皮膜の平均厚みDの比率D/Dは、1.1以上となる。このようにすることで、酸化性化合物の作用によりピット開口部の溶解を抑制しつつ、塩化第二鉄(FeCl)に由来するClイオンの孔食作用によりピットを形成することができるため、オーバーハング部を有するピットを形成することができる。
本製造方法で製造された粗面化ステンレス鋼板の表面には、ピットが多数形成されている(図1参照)。浸漬処理を行った領域の面積に対するピット形成部の面積の割合は、30面積%以上である。前述の通り、ピット形成部の面積率は、ステンレス鋼板表面を上から撮像した電子顕微鏡(SEM)写真を画像解析することによって測定することができる(実施例参照)。
また、本製造方法で粗面化ステンレス鋼板を製造した場合、鋼板表面に形成された複数のピットのうち60個数%以上のピットは、ピット開口部の径Dに対するピット内部の最大径Dの比率D/Dが1.05以上である(実施例参照)。すなわち、鋼板表面に形成されたピットの大半は、オーバーハング部を有する。このようにオーバーハング部を有するピットは、アンカー効果により熱可塑性樹脂組成物との密着性を向上させる。すなわち、本製造方法で製造された粗面化ステンレス鋼板の表面に熱可塑性樹脂組成物を接触させた場合、熱可塑性樹脂組成物の一部がこれらのピット内に入り込むため、アンカー効果により熱可塑性樹脂組成物との密着性が向上する。前述の通り、ピットの径は、鋼板断面を撮像した電子顕微鏡(SEM)写真を用いて測定することができる(実施例参照)。
また、本製造方法で粗面化ステンレス鋼板を製造した場合、浸漬処理前の酸化皮膜(不動態皮膜)の平均厚みDに対する浸漬処理後の酸化皮膜(不動態皮膜)の平均厚みDの比率D/Dが1.1以上となる。したがって、本製造方法で製造された粗面化ステンレス鋼板は、酸化皮膜(不動態皮膜)が厚いため、優れた耐食性を有する。酸化皮膜の平均厚みは、オージェ電子分光法(AES)により測定することができる(実施例参照)。
以下、本発明を実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
1.粗面化ステンレス鋼板の作製
供試ステンレス鋼板として、以下の2種類のステンレス鋼板を準備した。
ステンレス鋼板A:SUS304、2B仕上げ材、板厚0.8mm
ステンレス鋼板B:SUS430、2B仕上げ材、板厚0.8mm
各ステンレス鋼板(ステンレス鋼板Aまたはステンレス鋼板B)をアルカリ脱脂(pH12、液温60℃、浸漬時間1分間)した後、表1に示す組成の水溶液に表1に示す条件(液温、時間)で浸漬して、各ステンレス鋼板の表面にピットを形成した。各水溶液は、ビーカーに所定量のFeCl・6HO(n=270.2)またはHClと酸化性化合物とを入れ、合計量が1Lとなるように上水を加え、ホットスターラー上で攪拌することで調製した。浸漬処理を終えた各ステンレス鋼板は、流水で洗浄した後、熱風乾燥機で乾燥させた。
浸漬処理を終えた各ステンレス鋼板(鋼板No.1〜32;表2参照)について、浸漬処理前の酸化皮膜の平均厚みDに対する浸漬処理後の酸化皮膜の平均厚みDの比率D/D、ピットの面積率、ピット開口部の径Dに対するピット内部の最大径Dの比率D/Dが1.05以上のピットの比率を求めた。
酸化皮膜の平均厚みの比率D/Dは、オージェ電子分光装置(JAMP−9500F;日本電子株式会社)を用いて、鋼板表面から深さ方向にO、FeおよびCrのプロファイルを得ることで求めた。より具体的には、オージェ分析のプロファイルにおいて、分析時間0秒の点(鋼板表面)から、OのピークがFeのピークと重なる点までを酸化皮膜として、酸化皮膜の平均厚みの比率D/Dを求めた。
ピットの面積率は、レーザー形状測定顕微鏡(OLS1200;オリンパス光学工業株式会社)を用いて鋼板表面を500倍の視野で観察し、0.5μm以上の深さがある部位と、その他の部位とで二値化処理して、0.5μm以上の深さがある部位を着色し、その他の部位を無着色とする。そして、着色された部分の面積率を求めて、ピット形成部の面積率とした。
ピット開口部の径Dおよびピット内部の最大径Dは、FE−SEM(S−4000;株式会社日立ハイテクノロジーズ)を用いて鋼板の断面(幅200μm分)を5000倍で観察して測定した(図1B参照)。
表2に、浸漬処理を終えた各ステンレス鋼板(鋼板No.1〜32)についての、浸漬処理の条件(処理No.)、ステンレス鋼板の種類、酸化皮膜の平均厚みの比率D/D、ピットの面積率、およびピット径の比率D/Dが1.05以上のピットの比率を示す。なお、鋼板No.31、32は、浸漬処理を行っておらず、未処理の鋼板である。
図1は、鋼板No.7のステンレス鋼板の、浸漬処理後の鋼板表面(図1A)および鋼板断面(図1B)を示す写真(SEM像)である。これらの写真に示されるように、硝酸などの酸化性化合物を含む塩化第二鉄水溶液で浸漬処理をすることにより、オーバーハング部を有する多数のピットを形成することができた(鋼板No.1〜22)。
図2は、鋼板No.24のステンレス鋼板の、浸漬処理後の鋼板表面(図2A)および鋼板断面(図2B)を示す写真(SEM像)である。これらの写真に示されるように、塩化第二鉄水溶液のみで浸漬処理をした場合は、複数のピットが形成されるが、ピット開口部が溶解してしまうため、オーバーハング部を有するピットの割合は60個数%未満であった(鋼板No.23〜25)。
図3は、鋼板No.27のステンレス鋼板の、浸漬処理後の鋼板表面(図3A)および鋼板断面(図3B)を示す写真(SEM像)である。これらの写真に示されるように、塩酸で浸漬処理をした場合は、鋼板表面が全体的に溶解してしまうため、オーバーハング部を有するピットを形成できなかった(鋼板No.26、27)。
図4は、ステンレス鋼板A(SUS304)およびステンレス鋼板B(SUS430)の塩化第二鉄水溶液(FeCl:1.0mol/L、液温80℃)中における浸漬電位の測定結果を示すグラフである。このグラフから、ステンレス鋼板B(SUS430)は、ステンレス鋼板A(SUS304)に比べて浸漬電位が低く、Feが溶解しやすいことがわかる。したがって、ステンレス鋼板B(SUS430)は、ステンレス鋼板A(SUS304)に比べて鋼板表面が溶解しやすく、オーバーハング部を有するピットを形成しにくいことがわかる。
図5は、塩化第二鉄水溶液(FeCl:1.0mol/L、液温80℃)または硝酸を含む塩化第二鉄水溶液(FeCl:1.0mol/L、HNO:2.0mol/L、液温80℃)中における、ステンレス鋼板B(SUS430)の、浸漬電位の測定結果を示すグラフである。このグラフから、塩化第二鉄水溶液に酸化性化合物(硝酸)を添加することで、浸漬電位が上昇し、Feが溶解しにくくなることがわかる。したがって、鋼板表面が溶解しやすいステンレス鋼板B(SUS430)であっても、塩化第二鉄水溶液に硝酸を添加することで、オーバーハング部を有するピットの形成を促進できることが示唆される。
図6Aは、浸漬処理前のステンレス鋼板B(SUS430)の深さ方向のAESプロファイルである。図6Bは、鋼板No.19のステンレス鋼板の深さ方向のAESプロファイルである。図6Cは、鋼板No.24のステンレス鋼板の深さ方向のAESプロファイルである。図6Aと図6Bとを比較することで、硝酸などの酸化性化合物を含む塩化第二鉄水溶液で浸漬処理をすることにより、酸化皮膜(図中矢印で示す)が厚くなることがわかる。一方、図6Aと図6Cとを比較することで、硝酸などの酸化性化合物を含まない塩化第二鉄水溶液で浸漬処理をしたときは、酸化皮膜が薄くなってしまうことがわかる。
表2に示されるように、鋼板No.1〜22のステンレス鋼板は、ピットの面積率が30面積%以上であり、かつピット径の比率D/Dが1.05以上のピットの比率が60個数%以上であり、アンカー効果を期待できる形状のピットが多数形成されていた。
これに対し、塩化第二鉄を含まない水溶液で処理した鋼板No.26〜30のステンレス鋼板では、ピットがほとんど形成されなかった。また、酸化性化合物を含まない塩化第二鉄水溶液で処理した鋼板No.23〜25のステンレス鋼板では、ピットは形成されたものの、ピット径の比率D/Dが1.05以上のピットの比率が60個数%未満であり、アンカー効果を期待できる形状のピットはあまり形成されていなかった。
2.接合性試験および裸耐食性試験
(1)接合性試験
粗面化処理を終えた各ステンレス鋼板(鋼板No.1〜32)から、幅30mm×長さ100mmの試験片を切り出した。また、表3に示す組成の熱可塑性樹脂組成物を射出成形装置に充填し、溶融させた。
表3に示される各樹脂について、ポリエチレンは、ニポロンハード1000(融点134℃;東ソー株式会社)を使用した。また、ポリプロピレンは、ノバテックPP MA1B(融点170℃;日本ポリプロ株式会社)を使用した。アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンは、テクノABS130(融点91℃;テクノポリマー株式会社)を使用した。ポリエチレンテレフタレートは、ライナイト530(融点230℃;デュポン株式会社)を使用した。ポリブチレンテレフタレートは、ジュラネックス2002(融点228℃;ポリプラスチックス株式会社)を使用した。ポリカーボネートは、ユーピロンGS−2030MR2(融点250℃;三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社)を使用した。ポリアセタールは、TPS−POM NC(融点163℃;東洋プラスチック精工株式会社)を使用した。テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテルは、フルオンPFA P−65P(融点310℃、旭硝子株式会社)を使用した。フェノール樹脂は、スミコンM9640(融点100℃;住友ベークライト株式会社)を使用した。ポリフェニレンサルファイドは、フォートロン0220A9(融点280℃;ポリプラスチックス株式会社)を使用した。
射出成形金型に試験片(鋼板No.1〜32)を挿入し、溶融状態の熱可塑性樹脂組成物を射出成形金型内に射出した。射出成形金型内の熱可塑性樹脂組成物を流入させる部分の容積は、幅30mm×長さ100mm×厚さ4mmであり、幅30mm×長さ30mmの領域で試験片(ステンレス鋼板)と熱可塑性樹脂組成物とが接触している。熱可塑性樹脂組成物を射出成形金型内に射出した後、熱可塑性樹脂組成物を固化させて、試験片と熱可塑性樹脂の成形体との複合体(実施例1〜22、比較例1〜10)を得た。
得られた各複合体(実施例1〜22、比較例1〜10)について、熱衝撃試験を行った。具体的には、複合体を恒温恒湿試験機A(−30℃、相対湿度95%)内に30分間保管した後、速やかに恒温恒湿試験機B(70℃、相対湿度95%)内に移して30分間保管する工程を1サイクルとして10サイクル行った。熱衝撃試験を終えた後、各複合体について引張り試験を行い、引張り速度100mm/分で破断したときの強度を測定した。剥離強度が4.0kN以上の場合を「◎」、2.5kN以上4.0kN未満の場合を「○」、1.5kN以上2.5kN未満の場合を「△」、1.5kN未満の場合を「×」と評価した。
(2)耐食性試験
耐食性試験は、上記接合性試験で得られた各複合体(実施例1〜22、比較例1〜10)を屋外(大阪府堺市;離岸距離約100m)に暴露することにより行った。各複合体には、5質量%のNaCl水溶液を1週間に1回噴霧した。暴露開始から約1ヶ月後に各複合体のステンレス鋼板の表面を観察し、発生した錆の発生面積率により耐食性を評価した。このとき、錆の発生面積率が5面積%未満の場合を「◎」、5面積%以上10面積%未満の場合を「○」、10面積%以上20面積%未満の場合を「△」、20面積%以上の場合を「×」と評価した。
(3)結果
接合性試験および耐食性試験の結果を表4に示す。
実施例1〜22の複合体は、接合面におけるピット径の比率D/Dが1.05以上のピットの割合が60個数%以上であるため、接合性について良好な評価が得られた。また、実施例1〜22の複合体は、ステンレス鋼板の酸化皮膜の厚みの比率D/Dが1.1以上であるため、耐食性について良好な評価が得られた。これに対し、比較例1〜8の複合体は、接合面におけるピット径の比率D/Dが1.05以上のピットの割合が60個数%未満であるため、接合性について良好な評価が得られなかった。また、比較例1〜5、8の複合体は、ステンレス鋼板の酸化皮膜の厚みの比率D/Dが1.1未満であるため、耐食性について良好な評価が得られなかった。
本発明の複合体は、ステンレス鋼板と熱可塑性樹脂との密着性が優れているため、例えば各種電子機器、家庭用電化製品、医療機器、自動車車体、車両搭載用品、建築資材などに好適に用いられる。

Claims (11)

  1. ステンレス鋼板と熱可塑性樹脂組成物の成形体とが接合された複合体であって、
    前記ステンレス鋼板は、前記熱可塑性樹脂組成物の成形体との接合面の30面積%以上にピットが形成されており、
    前記接合面に形成されたピットのうち60個数%以上のピットは、ピット開口部の径Dに対するピット内部の最大径Dの比率D/Dが1.05以上である、
    複合体。
  2. 前記ピットが形成される前の前記ステンレス鋼板表面の酸化皮膜の平均厚みDに対する、前記ピットが形成された後の前記ステンレス鋼板表面の酸化皮膜の平均厚みDの比率D/Dは、1.1以上である、請求項1に記載の複合体。
  3. 前記熱可塑性樹脂組成物の成形収縮率は、1.0%以下である、請求項1に記載の複合体。
  4. 前記熱可塑性樹脂組成物は、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂およびパーフルオロ系樹脂からなる群から選択される1種以上を含む、請求項1に記載の複合体。
  5. ステンレス鋼板と熱可塑性樹脂組成物の成形体とが接合された複合体の製造方法であって、
    粗面化ステンレス鋼板を射出成形金型に挿入するステップと、
    前記射出成形金型に熱可塑性樹脂組成物を射出して、前記粗面化ステンレス鋼板の表面に前記熱可塑性樹脂組成物の成形体を接合するステップと、を有し、
    前記粗面化ステンレス鋼板は、その表面の30面積%以上にピットが形成されており、
    前記ピットのうち60個数%以上のピットは、ピット開口部の径Dに対するピット内部の最大径Dの比率D/Dが1.05以上である、
    複合体の製造方法。
  6. 塩化第二鉄水溶液に酸化性化合物を溶解させた処理液にステンレス鋼板を浸漬して、前記粗面化ステンレス鋼板を得るステップをさらに有する、請求項5に記載の複合体の製造方法。
  7. 前記酸化性化合物は、硝酸である、請求項6に記載の複合体の製造方法。
  8. 前記処理液において、Feに対する前記酸化性化合物のモル比は、0.5〜3.0の範囲内である、請求項6に記載の複合体の製造方法。
  9. 前記浸漬処理前の前記ステンレス鋼板表面の酸化皮膜の平均厚みDに対する、前記浸漬処理後の前記粗面化ステンレス鋼板表面の酸化皮膜の平均厚みDの比率D/Dは、1.1以上である、請求項6に記載の複合体の製造方法。
  10. 前記熱可塑性樹脂組成物の成形収縮率は、1.0%以下である、請求項5に記載の複合体の製造方法。
  11. 前記熱可塑性樹脂組成物は、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂およびパーフルオロ系樹脂からなる群から選択される1種以上を含む、請求項5に記載の複合体の製造方法。
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