JP2010233203A - 弾性表面波共振子、および弾性表面波発振器 - Google Patents

弾性表面波共振子、および弾性表面波発振器 Download PDF

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Abstract

【課題】良好な周波数温度特性を実現することのできる弾性表面波共振子を提供する。
【解決手段】上記課題を解決するためのSAW共振子は、オイラー角(−1°≦φ≦1°,117°≦θ≦142°,42.79°≦|ψ|≦49.57°)の水晶基板30を用い、ストップバンド上端モードのSAWを励振するIDT12と、IDT12を構成する電極指18間に位置する基板を窪ませた溝32を有するSAW共振子10であって、SAWの波長をλ、溝32の深さをGとした場合に、
【数35】

を満たし、かつ、IDT12のライン占有率をηとした場合に、溝32の深さGと前記ライン占有率ηとが
【数36】

の関係を満たすことを特徴とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、弾性表面波共振子、およびこれを搭載した弾性表面波発振器に係り、特に基板表面に溝を設けたタイプの弾性表面波共振子、およびこれを搭載した弾性表面波発振器に関する。
弾性表面波(SAW:surface acoustic wave)装置(例えばSAW共振子)において、周波数温度特性の変化には、SAWのストップバンドや水晶基板のカット角、およびIDT(interdigital transducer)の形成形態等が及ぼす影響が大きい。
例えば特許文献1には、SAWのストップバンドの上端モード、下端モードのそれぞれを励起させる構成、およびストップバンドの上端モード、下端モードにおけるそれぞれの定在波の分布などが開示されている。
また、特許文献2〜5には、SAWにおけるストップバンドの上端モードの方が、ストップバンドの下端モードよりも周波数温度特性が良好である点が記載されている。そして、特許文献2、3には、レイリー波を利用したSAW装置において良好な周波数温度特性を得るために、水晶基板のカット角を調整すると共に、電極の基準化膜厚(H/λ)を0.1程度まで厚くする事が記載されている。
また、特許文献4には、レイリー波を利用したSAW装置において水晶基板のカット角を調整すると共に、電極の基準化膜厚(H/λ)を0.045程度以上厚くする旨が記載されている。
また、特許文献5には、回転YカットX伝搬の水晶基板を用い、ストップバンドの上端の共振を利用することで、ストップバンドの下端の共振を用いる場合よりも周波数温度特性が向上する旨が記載されている。
また、特許文献6、および非特許文献1には、STカット水晶基板を用いたSAW装置において、IDTを構成する電極指間や反射器を構成する導体ストリップ間に溝(グルーブ)を設けることが記載されている。また非特許文献1には、溝の深さにより周波数温度特性が変化する旨が記載されている。
また、特許文献7には、LSTカットの水晶基板を用いたSAW装置において、周波数温度特性を示す曲線を三次元曲線とするための構成が記載されていると共に、レイリー波を用いたSAW装置においては、三次元曲線で示されるような温度特性を持つカット角の基板は発見することができなかった旨が記載されている。
特開平11−214958号公報 特開2006−148622号公報 特開2007−208871号公報 特開2007−267033号公報 特開2002−100959号公報 特開昭57−5418号公報 特許第3851336号公報
グルーブ形SAW共振器の製造条件と特性(電子通信学会技術研究報告MW82−59(1982))
上記のように、周波数温度特性を改善するための要素は多岐に亙り、特にレイリー波を用いたSAW装置では、IDTを構成する電極の膜厚を厚くすることが周波数温度特性に寄与する要因の1つであると考えられている。しかし本願出願人は、電極の膜厚を厚くすると、経時変化特性や耐温度衝撃特性等の耐環境特性が劣化することを実験的に見出した。また、周波数温度特性の改善を主目的とした場合には、前述したように電極膜厚を厚くしなければならず、これに伴って経時変化特性や耐温度衝撃特性等の劣化を余儀なくされていた。これはQ値に関しても当てはめられることであり、電極膜厚を厚くせずに高Q化実現させることは困難であった。
したがって本願発明において弾性表面波共振子、および弾性表面波発振器を提供する際の課題は第1に、良好な周波数温度特性の実現、第2に耐環境特性の向上、第3に高いQ値を得る、というものである。
本発明は上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
[適用例1]オイラー角(−1.5°≦φ≦1.5°,117°≦θ≦142°,41.9°≦|ψ|≦49.5749°)の水晶基板上に設けられ、ストップバンド上端モードの弾性表面波を励振するIDTと、前記IDTを構成する電極指間に位置する基板を窪ませた電極指間溝を有する弾性表面波共振子であって、前記弾性表面波の波長をλ、前記電極指間溝の深さをGとした場合に、
を満たし、かつ、前記IDTのライン占有率をηとした場合に、前記電極指間溝の深さGと前記ライン占有率ηとが
の関係を満たすことを特徴とする弾性表面波共振子。
このような特徴を持つ弾性表面波共振子によれば、周波数温度特性の向上を図ることができる。
[適用例2]適用例1に記載の弾性表面波共振子であって、前記電極指間溝の深さGが、
の関係を満たすことを特徴とする弾性表面波共振子。
このような特徴を持つ弾性表面波共振子によれば、電極指間溝の深さGが製造時の誤差によりずれた場合であっても、個体間における共振周波数のシフトを補正範囲内に抑えることができる。
[適用例3]適用例1または適用例2に記載の弾性表面波共振子であって、前記IDTの電極膜厚をHとした場合に、
の関係を満たすことを特徴とする弾性表面波共振子。
このような特徴を有する弾性表面波共振子によれば、動作温度範囲内において良好な周波数温度特性を示すことを実現することができる。また、このような特徴を有することによれば、電極膜厚の増加に伴う耐環境特性の劣化を抑制することが可能となる。
[適用例4]適用例3に記載の弾性表面波共振子であって、前記ライン占有率ηが、
の関係を満たすことを特徴とする弾性表面波共振子。
適用例3における電極膜厚の範囲内において数式5を満たすようにηを定めることで、二次温度係数を略、±0.01ppm/℃以内に収めることが可能となる。
[適用例5]適用例3または適用例4に記載の弾性表面波共振子であって、前記電極指間溝の深さGと前記電極膜厚Hとの和が、
の関係を満たすことを特徴とする弾性表面波共振子。
電極指間溝の深さGと電極膜厚Hとの和を数式6のように定めることで、従来の弾性表面波共振子よりも高いQ値を得ることができる。
[適用例6]適用例1乃至適用例5のいずれか1例に記載の弾性表面波共振子であって、前記ψと前記θが、
の関係を満たすことを特徴とする弾性表面波共振子。
このような特徴を有するカット角で切り出された水晶基板を用いて弾性表面波共振子を製造することで、広い範囲で良好な周波数温度特性を示す弾性表面波共振子とすることができる。
[適用例7]適用例1乃至適用例6のいずれか1例に記載の弾性表面波共振子であって、前記IDTにおけるストップバンド上端モードの周波数をft2、前記IDTを弾性表面波の伝搬方向に挟み込むように配置される反射器におけるストップバンド下端モードの周波数をfr1、前記反射器のストップバンド上端モードの周波数をfr2としたとき、
の関係を満たすことを特徴とする弾性表面波共振子。
このような特徴を有することにより、IDTのストップバンド上端モードの周波数ft2において、反射器の反射係数|Γ|が大きくなり、IDTから励振されたストップバンド上端モードの弾性表面波が、反射器にて高い反射係数でIDT側に反射されるようになる。そしてストップバンド上端モードの弾性表面波のエネルギー閉じ込めが強くなり、低損失な弾性表面波共振子を実現することができる。
[適用例8]適用例1乃至適用例7のいずれか1例に記載の弾性表面波共振子であって、前記反射器を構成する導体ストリップ間に導体ストリップ間溝を設け、前記電極指間溝よりも前記導体ストリップ間溝の深さの方が浅いことを特徴とする弾性表面波共振子。
このような特徴を有することで、反射器のストップバンドをIDTのストップバンドよりも高域側へ周波数シフトさせることができる。このため、数式8の関係を実現させることが可能となる。
[適用例9]適用例1乃至適用例8のいずれか1例に記載の弾性表面波共振子と、前記IDTを駆動するためのICを備えたことを特徴とする弾性表面波発振器。
実施形態に係るSAWデバイスの構成を示す図である。 ストップバンド上端モードと下端モードとの関係を示す図である。 電極指間溝の深さと動作温度範囲内における周波数変動量との関係を示すグラフである。 ストップバンド上端モードの共振点とストップバンド下端モードの共振点におけるライン占有率ηの変化に伴う二次温度係数の変化の違いを示すグラフである。 電極膜厚を0として電極指間溝の深さを変えた場合におけるライン占有率ηと二次温度係数βとの関係を示すグラフである。 電極膜厚を0とした場合における二次温度係数が0となる電極指間溝の深さとライン占有率ηとの関係を示すグラフである。 電極膜厚を0として電極指間溝の深さを変えた場合におけるライン占有率ηと周波数変動量ΔFとの関係を示すグラフである。 電極指間溝の深さが±0.001λずれた場合における特定の電極指間溝の深さと、ずれに伴うSAW共振子間に生ずる周波数差の関係を示すグラフである。 電極膜厚を変化させた場合における二次温度係数が0となる電極指間溝の深さとライン占有率ηとの関係を示すグラフである。 各電極膜厚における二次温度係数が0となるη1と電極指間溝との関係を1つのグラフにまとめた図である。 電極膜厚H≒0からH=0.035λまでの電極指間溝とライン占有率ηとの関係を近似直線で示した図である。 電極膜厚を0.01λとして電極指間溝の深さを変えた場合におけるライン占有率ηと二次温度係数βとの関係を示すグラフである。 電極膜厚を0.015λとして電極指間溝の深さを変えた場合におけるライン占有率ηと二次温度係数βとの関係を示すグラフである。 電極膜厚を0.02λとして電極指間溝の深さを変えた場合におけるライン占有率ηと二次温度係数βとの関係を示すグラフである。 電極膜厚を0.025λとして電極指間溝の深さを変えた場合におけるライン占有率ηと二次温度係数βとの関係を示すグラフである。 電極膜厚を0.03λとして電極指間溝の深さを変えた場合におけるライン占有率ηと二次温度係数βとの関係を示すグラフである。 電極膜厚を0.035λとして電極指間溝の深さを変えた場合におけるライン占有率ηと二次温度係数βとの関係を示すグラフである。 電極膜厚を0.01λとして電極指間溝の深さを変えた場合におけるライン占有率ηと周波数変動量ΔFとの関係を示すグラフである。 電極膜厚を0.015λとして電極指間溝の深さを変えた場合におけるライン占有率ηと周波数変動量ΔFとの関係を示すグラフである。 電極膜厚を0.02λとして電極指間溝の深さを変えた場合におけるライン占有率ηと周波数変動量ΔFとの関係を示すグラフである。 電極膜厚を0.025λとして電極指間溝の深さを変えた場合におけるライン占有率ηと周波数変動量ΔFとの関係を示すグラフである。 電極膜厚を0.03λとして電極指間溝の深さを変えた場合におけるライン占有率ηと周波数変動量ΔFとの関係を示すグラフである。 電極膜厚を0.035λとして電極指間溝の深さを変えた場合におけるライン占有率ηと周波数変動量ΔFとの関係を示すグラフである。 電極膜厚、ライン占有率ηを定めた際の電極指間溝とオイラー角ψとの関係を示すグラフである。 電極膜厚を変えた電極指間溝とオイラー角ψとの関係のグラフを1つのグラフにまとめた図である。 二次温度係数βが−0.01ppm/℃となる電極指間溝とオイラー角ψとの関係を示すグラフである。 二次温度係数βが+0.01ppm/℃となる電極指間溝とオイラー角ψとの関係を示すグラフである。 電極膜厚0.02λ、電極指間溝の深さ0.04λにおけるオイラー角θと二次温度係数βとの関係を示すグラフである。 オイラー角φと二次温度係数βとの関係を示すグラフである。 周波数温度特性が良好となるオイラー角θとオイラー角ψとの関係を示すグラフである。 周波数温度特性が最も良好となった条件下における4つの試験片での周波数温度特性データの例を示す図である。 電極指間溝と電極膜厚との和である段差とCI値との関係を示すグラフである。 本実施形態に係るSAW共振子における等価回路定数や静特性の例を示す表である。 本実施形態に係るSAW共振子におけるインピーダンスカーブデータである。 従来のSAW共振子における段差とQ値の関係と本実施形態に係るSAW共振子段差とQ値の関係を比較するためのグラフである。 IDTと反射器のSAW反射特性を示す図である。 ヒートサイクル試験における電極膜厚と周波数変動との関係を示すグラフである。 実施形態に係るSAW発振器の構成を示す図である。
以下、本発明の弾性表面波共振子、および弾性表面波発振器に係る実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
まず、図1を参照して、本発明の弾性表面波(SAW)共振子に係る第1の実施形態について説明する。なお図1において、図1(A)はSAW共振子の平面図であり、図1(B)は部分拡大断面図、図1(C)は同図(B)における詳細を説明するための拡大図である。
本実施形態に係るSAW共振子10は、水晶基板30と、IDT12、および反射器20を基本として構成される。水晶基板30は、結晶軸をX軸(電気軸)、Y軸(機械軸)、およびZ軸(光軸)で示すものを用いる。
本実施形態では水晶基板30として、オイラー角(−1°≦φ≦1°,117°≦θ≦142°,41.9°≦|ψ|≦49.57°)で表される面内回転STカット水晶基板を採用した。ここで、オイラー角について説明する。オイラー角(0°,0°,0°)で表される基板は、Z軸に垂直な主面を有するZカット基板となる。ここで、オイラー角(φ,θ,ψ)のφはZカット基板の第1の回転に関するものであり、Z軸を回転軸とし、+X軸から+Y軸側へ回転する方向を正の回転角度とした第1回転角度である。オイラー角のθはZカット基板の第1の回転後に行う第2の回転に関するものであり、第1の回転後のX軸を回転軸とし、第1の回転後の+Y軸から+Z軸へ回転する方向を正の回転角度とした第2の回転角度である。圧電基板のカット面は、第1回転角度φと第2回転角度θとで決定される。オイラー角のψはZカット基板の第2の回転後に行う第3の回転に関するものであり、第2の回転後のZ軸を回転軸とし、第2の回転後の+X軸から第2の回転後の+Y軸側へ回転する方向を正の回転角度とした第3回転角度である。SAWの伝搬方向は、第2の回転後のX軸に対する第3回転角度ψで表される。
IDT12は、複数の電極指18の基端部をバスバー16で接続した櫛歯状電極14a,14bを一対有し、一方の櫛歯状電極14a(または14b)を構成する電極指18と他方の櫛歯状電極14b(または14a)を構成する電極指18とを所定の間隔をあけて交互に配置している。ここで、電極指18は、弾性表面波の伝播方向であるX′軸と直交する方向に配置される。このようにして構成されるSAW共振子10によって励起されるSAWは、Rayleigh型(レイリー型)のSAWであり、第3の回転後のZ軸と第3の回転後のX軸の両方に振動変位成分を有する。そしてこのように、SAWの伝播方向を水晶の結晶軸であるX軸からずらすことで、ストップバンド上端モードのSAWを励起することが可能となるのである。
ここで、ストップバンド上端モードのSAWと下端モードのSAWの関係について説明する。図2に示すような正規型IDT12(図2に示すのはIDT12を構成する電極指18)によって形成されるストップバンド下端モード、および上端モードのSAWにおいて、それぞれの定在波は、腹(又は節)の位置が互いにπ/2ずれている。図2は、正規型IDT12におけるストップバンド上端モードおよび下端モードの定在波の分布を示す図である。
図2によれば上述したように、実線で示すストップバンド下端モードの定在波は、電極指18の中央位置、すなわち反射中心位置に腹が存在し、一点鎖線で示したストップバンド上端モードの定在波は反射中心位置に節が存在する。
また、反射器20は、前記IDT12をSAWの伝播方向に挟み込むように一対設けられる。具体的構成としては、IDT12を構成する電極指18と平行に設けられる複数の導体ストリップ22の両端をそれぞれ接続したものである。
なお、水晶基板のSAW伝搬方向の端面からの反射波を積極的に利用する端面反射型SAW共振子や、IDTの電極指対数を多くすることでIDT自体でSAWの定在波を励起する多対IDT型SAW共振子においては、反射器は必ずしも必要ではない。
このようにして構成されるIDT12や反射器20を構成する電極膜の材料としては、アルミニウム(Al)やAlを主体とした合金を用いることができる。なお、電極膜材料として合金を用いる場合、主成分となるAl以外の金属は重量比で10%以下にすればよい。
上記のような基本構成を有するSAW共振子10における水晶基板30は、IDT12の電極指間や反射器20の導体ストリップ間に溝(電極指間溝)32を設けている。
水晶基板30に設ける溝32は、ストップバンド上端モードにおけるSAWの波長をλとし、溝深さをGとした場合、
とすると良い。なお溝深さGについて上限値を定める場合には、図3を参照することで読み取れるように、
の範囲とすると良い。溝深さGをこのような範囲で定めることにより、動作温度範囲内(−40℃〜+85℃)における周波数変動量を、詳細を後述する目標値としての25ppm以下とすることができるからである。また、溝深さGについて望ましくは、
の範囲とすると良い。溝深さGをこのような範囲で定めることにより、溝深さGに製造上のばらつきが生じた場合であっても、SAW共振子10個体間における共振周波数のシフト量を補正範囲内に抑えることができる。
また、ライン占有率ηとは図1(C)に示すように、電極指18の線幅(水晶凸部のみの場合には凸部の幅をいう)Lを電極指18間のピッチλ/2(=L+S)で除した値である。したがって、ライン占有率ηは、数式12で示すことができる。
ここで本実施形態に係るSAW共振子10は、ライン占有率ηを数式13のような範囲で定めると良い。なお、数式13からも解るようにηは溝32の深さGを定めることにより導き出すことができる。
また、本実施形態に係るSAW共振子10における電極膜材料(IDT12や反射器20等)の膜厚は、
の範囲とすることが望ましい。
さらに、ライン占有率ηについて数式14で示した電極膜の厚みを考慮した場合、ηは数式15により求めることができる。
ライン占有率ηは、電極膜厚が厚いほど電気的特性(特に共振周波数)の製造ばらつきが大きくなり、電極膜厚Hが数式14の範囲内においては±0.04以内の製造ばらつき、H>0.035λにおいては±0.04より大きい製造ばらつきが生じる可能性が大きい。しかしながら、電極膜厚Hが数式14の範囲内であり、且つライン占有率ηのばらつきが±0.04以内であれば、二次温度係数βの小さいSAWデバイスが実現できる。即ちライン占有率ηは、数式15に±0.04の公差を加えた数式16の範囲まで許容できる。
上記のような構成の本実施形態に係るSAW共振子10では、二次温度係数βを±0.01ppm/℃以内とし、望ましくはSAWの動作温度範囲を−40℃〜+85℃とした場合に、当該動作温度範囲内における周波数変動量ΔFを25ppm以下とすることができる程度まで、周波数温度特性を向上させることを目的としている。なお、二次温度係数βは、SAWの周波数温度特性を示す曲線の多項式近似における二次係数であるため、二次温度係数の絶対値が小さい事は周波数変動量が小さい事を意味し、周波数温度特性が良好であるということができる。以下は、上記のような構成のSAWデバイスが、本発明の目的を達成することのできる要素を備えていることについてのシミュレーションを用いた証明である。
なお、STカットと呼ばれる水晶基板を用いて伝搬方向を結晶X軸方向としたSAW共振子は、動作温度範囲を同一とした場合、動作温度範囲内における周波数変動量ΔFは約117ppmとなり、二次温度係数βは、−0.030ppm/℃程度となる。また、水晶基板のカット角とSAW伝搬方向をオイラー角表示で(0,123°,45°)とし、動作温度範囲を同一とした面内回転STカット水晶基板を用いたSAW共振子の場合、周波数変動量ΔFは約63ppm、二次温度係数βは−0.016ppm/℃程度となる。
SAW共振子10の周波数温度特性の変化には上述したように、IDT12における電極指18のライン占有率ηや電極膜厚H、及び溝深さGなどが関係している。そして本実施形態に係るSAW共振子10は、ストップバンド上端モードの励振を利用する。
図4は、ライン占有率ηを変化させて水晶基板30にSAWを伝播させた場合における二次温度係数βの変化を示すグラフである。図4において図4(A)は溝深さGを0.02λとした場合のストップバンド上端モードの共振における二次温度係数βを示し、図4(B)は溝深さGを0.02λとした場合のストップバンド下端モードの共振における二次温度係数βを示す。また、図4において図4(C)は溝深さGを0.04λとした場合のストップバンド上端モードの共振における二次温度係数βを示し、図4(D)は溝深さGを0.04λとした場合のストップバンド下端モードの共振における二次温度係数βを示す。なお、図4に示すシミュレーションは、周波数温度特性を変動させる因子を減らすために、電極膜を設けない水晶基板30に何らかの形でSAWを伝搬させた場合の例を示すものである。また、水晶基板30のカット角は、オイラー角(0°,123°,ψ)のものを使用した。なお、ψに関しては、二次温度係数βの絶対値が最少となる値を適宜選択している。
図4からは、ストップバンド上端モードの場合も下端モードの場合も、ライン占有率ηが0.6〜0.7となるあたりで二次温度係数βが大きく変化していることを読み取ることができる。そして、ストップバンド上端モードにおける二次温度係数βの変化とストップバンド下端モードにおける二次温度係数βの変化とを比較すると、次のような事を読み取ることができる。すなわち、ストップバンド下端モードにおける二次温度係数βの変化は、マイナス側からさらにマイナス側へ変化する事により特性が低下している(二次温度係数βの絶対値が大きくなっている)。これに対し、ストップバンド上端モードにおける二次温度係数βの変化は、マイナス側からプラス側へ変化することにより特性が向上している(二次温度係数βの絶対値が小さくなっている)ということである。
このことより、SAWデバイスにおいて良好な周波数温度特性を得るためには、ストップバンド上端モードの振動を用いることが望ましいということができる。
次に発明者は、溝深さGを種々変化させた水晶基板においてストップバンド上端モードのSAWを伝搬させた際におけるライン占有率ηと二次温度係数βとの関係について調べた。
図5は、溝深さGを0.01λ(1%λ)から0.08λ(8%λ)まで変化させた際のライン占有率ηと二次温度係数βとの関係を示すシミュレーションのグラフである。図5からは、溝深さGを0.0125λ(1.25%λ)としたあたりからβ=0となる点、すなわち周波数温度特性を示す近似曲線が三次曲線を示す点が現れ始めていることが読み取れる。そして、図5からは、β=0となるηがそれぞれ2箇所(ηが大きな方におけるβ=0となる点(η1)や、ηが小さい方におけるβ=0となる点(η2))がある。なお図5からは、η2の方が、η1よりも溝深さGの変化に対するライン占有率ηの変動量が大きいという事も読み取ることができる。
この点については、図6を参照することによりその理解を深めることができる。図6は、溝深さGを変えていった場合において二次温度係数βが0となるη1、η2をそれぞれプロットしたグラフである。図6は、溝深さGが大きくなるにつれて、η1、η2は互いに小さくなるが、η2の方は、溝深さG=0.04λとなったあたりで0.5λ〜0.9λの範囲で示したグラフをスケールアウトしてしまうほど変動量が大きいということを読み取ることができる。つまり、η2は、溝深さGの変化に対する変動量が大きいということがいえる。
図7は、図5における縦軸を二次温度係数βに替えて周波数変動量ΔFとして示したグラフである。図7からは当然に、β=0となる2つの点(η1、η2)において、周波数変動量ΔFが低下する事を読み取ることができる。さらに図7からは、β=0となる2つの点では、溝深さGを変えたいずれのグラフにおいても、η1にあたる点の方が、周波数変動量ΔFが小さく抑えられているということを読み取ることができる。
上記傾向によると、製造時に誤差が生じ易い量産品に関しては、溝深さGの変動に対するβ=0となる点の変動量が少ない方、すなわちη1を採用することが望ましいと考えられる。図3には、各溝深さGにおいて二次温度係数βが最少となる点(η1)での周波数変動量ΔFと溝深さGとの関係のグラフを示す。図3によると、周波数変動量ΔFが目標値である25ppm以下となる溝深さGの下限値は、溝深さGが0.01λとなり、溝深さGの範囲はそれ以上、すなわち0.01≦Gということになる。
なお、図3にはシミュレーションよって、溝深さGが0.08以上となる場合の例も追加した。このシミュレーションによれば溝深さGは、0.01λ以上で周波数変動量ΔFが25ppm以下となり、その後、溝深さGが増す毎に周波数変動量ΔFが小さくなる。しかし、溝深さGが約0.9λ以上となった場合に、周波数変動量ΔFは再び増加し、0.094λを越えると周波数変動量ΔFが25ppmを超えることとなる。
図3に示すグラフは水晶基板30上に、IDT12や反射器20等の電極膜を形成していない状態でのシミュレーションであるが、詳細を以下に示す図16〜図21を参照すると解るように、SAW共振子10は電極膜を設けた方が周波数変動量ΔFを小さくすることができると考えられる。よって溝深さGの上限値を定めるとすれば電極膜を形成していない状態での最大値、すなわちG≦0.94λとすれば良く、目標を達成するために好適な溝深さGの範囲としては、
と示すことができる。
なお、量産工程において溝深さGは、最大±0.001λ程度のバラツキを持つ。よって、ライン占有率ηを一定とした場合において、溝深さGが±0.001λだけズレた場合におけるSAW共振子10の個々の周波数変動量Δfについて図8に示す。図8によれば、G=0.04λの場合において、溝深さGが±0.001λズレた場合、すなわち溝深さが0.039λ≦G≦0.041λの範囲においては、周波数変動量Δfが±500ppm程度であるということを読み取ることができる。
ここで、周波数変動量Δfが±1000ppm未満であれば、種々の周波数微調整手段により周波数調整が可能であると考える。しかし、周波数変動量Δfが±1000ppm以上となった場合には、周波数の調整によりQ値、CI(crystal impedance)値等の静特性や、長期信頼性への影響が生じ、SAW共振子10として良品率の低下へと繋がる。
図8に示すプロットを繋ぐ直線について、周波数変動量Δf[ppm]と溝深さGとの関係を示す近似式を導くと、数式18を得ることができる。
ここで、Δf<1000ppmとなるGの値を求めると、G≦0.0695λとなる。したがって、本実施形態に係る溝深さGの範囲として好適には、
とすることが望ましいということができる。
次に、図9に、二次温度係数β=0となるη、すなわち三次温特を示すライン占有率ηと溝深さGとの関係をグラフに示す。水晶基板30は、オイラー角を(0°,123°,ψ)とした。ここでψについては、周波数温度特性が三次曲線の傾向を示す角度、すなわち二次温度係数β=0となる角度を適宜選択している。なお、図9と同様な条件において、β=0となるηを得た際のオイラー角ψと溝深さGとの関係を図24に示す。図24の電極膜厚H=0.02λのグラフにおいて、ψ<42°のプロットが表示されていないが、このグラフのη2のプロットはG=0.03λにてψ=41.9°となっている。各電極膜厚における溝深さGとライン占有率ηとの関係については、詳細を後述する図12〜図17に基づいてプロットを得ている。
図9からは、いずれの膜厚においても、上述したように、η1はη2に比べて溝深さGの変化による変動が少ないということを読み取ることができる。このため、図9におけるそれぞれの膜厚のグラフについて、η1を抜き出し、図10にまとめた。図10からは、破線で示すラインの中にη1が集中していることを読み取ることができる。また、図10によると、ライン占有率ηの上限を示すプロットは、電極膜厚H=0.01λとしたSAW共振子であり、ライン占有率ηの下限を示すプロットは、電極膜厚H=0.035λとしたSAW共振子である。つまり、電極膜厚Hを厚くするに従って二次温度係数β=0とすることのできるライン占有率ηが小さくなるということができる。
これらを踏まえ、ライン占有率ηの上限を示すプロットと下限を示すプロットのそれぞれについて近似式を求めると、数式18と、数式19を導くことができる。
数式20、数式21より、図10において破線で囲った範囲においてηは、数式22の範囲で定めることができるといえる。
ここで、二次温度係数βを±0.01ppm/℃以内まで許容する場合、数式19と数式22を共に満たすことで、二次温度係数βが±0.01ppm/℃以内になることを確認した。
また、数式20〜22を踏まえて電極膜厚H≒0、0.01λ、0.02λ、0.03λ、0.035λとしたSAW共振子10についてそれぞれ、β=0となる溝深さGとライン占有率ηとの関係を近似直線で示すと図11のようになる。なお、電極膜を設けない水晶基板30における溝深さGとライン占有率ηとの関係については、図6に示した通りである。
これら電極膜厚Hを踏まえた近似直線を示す近似式に基づいて周波数温度特性が良好となる溝深さGとライン占有率ηの関係式は、数式23のようになる。
ライン占有率ηは、電極膜厚が厚いほど電気的特性(特に共振周波数)の製造ばらつきが大きくなり、電極膜厚Hが数式14の範囲内においては±0.04以内の製造ばらつき、H>0.035λにおいては±0.04より大きい製造ばらつきが生じる可能性が大きい。しかしながら、電極膜厚Hが数式14の範囲内であり、且つライン占有率ηのばらつきが±0.04以内であれば、二次温度係数βの小さいSAWデバイスが実現できる。即ち、ライン占有率の製造ばらつきを考慮した上で二次温度係数βを±0.01ppm/℃2以内とする場合、ライン占有率ηは、数式23に±0,04の公差を加えた数式24の範囲まで許容できる。
図12〜図17に、電極膜厚をそれぞれ0.01λ(1%λ)、0.015λ(1.5%λ)、0.02λ(2%λ)、0.025λ(2.5%λ)、0.03λ(3%λ)、0.035λ(3.5%λ)とした場合において、溝深さGを変化させた場合におけるライン占有率ηと二次温度係数βとの関係のグラフを示す。
また、図18〜図23には、図12〜図17に対応したSAW共振子10におけるライン占有率ηと周波数変動量ΔFとの関係のグラフを示す。なお、水晶基板はいずれもオイラー角(0°,123°,ψ)のものを使用し、ψについては適宜ΔFが最小となる角度を選択する。
ここで、図12は、電極膜厚Hを0.01λとした場合のライン占有率ηと二次温度係数βとの関係を示す図であり、図18は電極膜厚Hを0.01λとした場合のライン占有率ηと周波数変動量ΔFとの関係を示す図である。
また、図13は、電極膜厚Hを0.015λとした場合のライン占有率ηと二次温度係数βとの関係を示す図であり、図19は電極膜厚Hを0.015λとした場合のライン占有率ηと周波数変動量ΔFとの関係を示す図である。
また、図14は、電極膜厚Hを0.02λとした場合のライン占有率ηと二次温度係数βとの関係を示す図であり、図20は電極膜厚Hを0.02λとした場合のライン占有率ηと周波数変動量ΔFとの関係を示す図である。
また、図15は、電極膜厚Hを0.025λとした場合のライン占有率ηと二次温度係数βとの関係を示す図であり、図21は電極膜厚Hを0.025λとした場合のライン占有率ηと周波数変動量ΔFとの関係を示す図である。
また、図16は、電極膜厚Hを0.03λとした場合のライン占有率ηと二次温度係数βとの関係を示す図であり、図22は電極膜厚Hを0.03λとした場合のライン占有率ηと周波数変動量ΔFとの関係を示す図である。
また、図17は、電極膜厚Hを0.035λとした場合のライン占有率ηと二次温度係数βとの関係を示す図であり、図23は電極膜厚Hを0.035λとした場合のライン占有率ηと周波数変動量ΔFとの関係を示す図である。
これらの図(図12〜図23)においては、いずれのグラフにおいても微差はあるものの、その変化の傾向に関しては、水晶基板30のみにおけるライン占有率ηと二次温度係数β、およびライン占有率ηと周波数変動量ΔFの関係を示すグラフである図5、図7と似ていることが解る。
つまり、本実施形態に係る効果は、電極膜を除いた水晶基板30単体における弾性表面波の伝播においても奏することができるということが言える。
図25に、図24に示すグラフにおけるη1によって得られるψと溝深さGとの関係をまとめた。なお、η1を選択した理由については上述した通りである。図25に示すように、電極膜の膜厚が変化した場合であっても、ψの角度には殆ど違いは無く、ψの最適角度は溝深さGの変動にしたがって変化して行くことが解る。これも、二次温度係数βの変化が水晶基板30の形態に起因する割合が高いことの裏付けということができる。
上記と同様にして、二次温度係数β=−0.01ppm/℃となるψとβ=+0.01ppm/℃となるψについて溝深さGとの関係を求め、図26、図27にまとめた。これらのグラフ(図25〜図27)から−0.01≦β≦+0.01とすることのできるψの角度を求めると、上記条件下における好適なψの角度範囲は43°<ψ<45°と定めることができ、さらに好適には43.2°≦ψ≦44.2と定めることができる。
次に、図28にθの角度を振った際の二次温度係数βの変化、すなわちθと二次温度係数βとの関係を示す。ここで、シミュレーションに用いたSAWデバイスは、カット角とSAW伝搬方向をオイラー角表示で(0,θ,ψ)とし、溝深さGを0.04λとした水晶基板であり、電極膜厚Hは0.02λとしている。なお、ψに関しては、θの設定角度に基づいて、上述した角度範囲内において、適宜二次温度係数βの絶対値が最少となる値を選択した。また、ηに関しては、上記数式23に従って、0.6383とした。
このような条件の下、θと二次温度係数βとの関係を示す図28からは、θが117°以上142°以下の範囲内であれば、二次温度係数βの絶対値が0.01ppm/℃の範囲内にある事を読み取ることができる。よって、上記のような設定値において、θを117°≦θ≦142°の範囲で定めることによれば、良好な周波数温度特性を持ったSAW共振子10を構成することができると言える。
図29は、オイラー角表示で(φ,123°,43.77°)の水晶基板30を用い、溝深さGを0.04λ、電極膜厚Hを0.02λ、及びライン占有率ηを0.65とした場合において、φの角度と二次温度係数βとの関係を示すグラフである。
図29からは、φが−2°、+2°の場合にはそれぞれ二次温度係数βが−0.01よりも低くなってしまっているが、φが−1.5°から+1.5°の範囲であれば確実に、二次温度係数βの絶対値が0.01の範囲内にある事を読み取ることができる。よって、上記のような設定値においてφを−1.5°≦φ≦+1.5°、好適には−1°≦φ≦+1°の範囲で定めることによれば、良好な周波数温度特性を持ったSAW共振子10を構成することができる。
上記説明では、φ、θ、ψはそれぞれ、一定条件の下に溝深さGとの関係において最適値の範囲を導き出している。これに対し、図30では、−40℃〜+85℃における周波数変動量が最小となる非常に望ましいθとψの関係を示しており、その近似式を求めている。図30によれば、ψの角度は、θの角度上昇に伴って変化し、三次曲線を描くように上昇する。なお、図30の例では、θ=117°とした場合のψは42.79°であり、θ=142°とした場合のψは49.57°である。これらのプロットを近似曲線として示すと図30中破線で示す曲線となり、近似式としては数式25で示すことができる。
このことより、ψはθが定まることにより定めることができ、θの範囲を117°≦θ≦142°とした場合におけるψの範囲は42.79°≦ψ≦49.57°とすることができる。なお、シミュレーションにおける溝深さG、電極膜厚Hはそれぞれ、G=0.04λ、H=0.02λとした。
上記のような理由により、本実施形態において種々定めた条件によりSAW共振子10を構成することによれば、目標値を満たす良好な周波数温度特性を実現可能なSAW共振子とすることができる。
また、本実施形態に係るSAW共振子10では、数式14や図12〜図23に示したように、電極膜の膜厚Hを0<H≦0.035λの範囲とした上で周波数温度特性の改善を図っている。これは、従来のように膜厚Hを極度に厚くして周波数温度特性の改善を図るものとは異なり、耐環境特性を維持したまま周波数温度特性の改善を実現するものである。図37に、ヒートサイクル試験における電極膜厚(Al電極膜厚)と周波数変動との関係を示す。なお、図37に示したヒートサイクル試験の結果は、−55℃雰囲気下においてSAW共振子を30分間晒した上で雰囲気温度+125℃まで上昇させて30分晒すというサイクルを8回続けた後のものである。図37からは、電極膜厚Hを0.06λにし、且つ電極指間溝を設けない場合に比べ、本実施形態に係るSAW共振子10の電極膜厚Hの範囲では、周波数変動(F変動)が、1/3以下になっていることを読み取ることができる。なお、図37は何れのプロットもH+G=0.06λとしている。
また、図37と同じ条件で製造されたSAW共振子について、125℃雰囲気に1000時間放置する高温放置試験を行ったところ、従来のSAW共振子(H=0.06λ且つG=0)に比べ、本実施形態に係るSAW共振子(H=0.03λ且つG=0.03λ、H=0.02λ且つG=0.04λ、H=0.015λ且つG=0.045λ、H=0.01λ且つG=0.05λの4条件)の試験前後の周波数変動量が1/3以下になることを確認した。
上記のような条件の下、H+G=0.067λ(アルミ膜厚2000Å、溝深さ4700Å)、IDTのライン占有率ηi=0.6、反射器のライン占有率ηr=0.8、オイラー角(0°,123°,43.5°)、IDTの対数120対、交差幅40λ(λ=10μm)、反射器本数(片側あたり)72本(36対)、電極指の傾斜角度なし(電極指の配列方向とSAWの位相速度方向が一致)、といった条件で製造されたSAW共振子10では、図31に示すような周波数温度特性を示すこととなる。
図31は、試験片個数n=4個による周波数温度特性をプロットしたものである。図31によれば、これらの試験片による動作温度範囲内における周波数変動量ΔFは約20ppm以下に抑制されていることを読み取ることができる。
本実施形態では溝深さGや電極膜厚H等による周波数温度特性への影響を説明してきた。しかし溝深さGと電極膜厚Hを合わせた深さ(段差)は、等価回路定数やCI値等の静特性やQ値にも影響を与える。例えば図32、段差を0.062λ〜0.071λまで変化させた場合における段差とCI値との関係を示すグラフである。図32によればCI値は、段差を0.067λとした時に収束し、段差をそれ以上大きくした場合であっても良化しない(低くならない)ということを読み取ることができる。
図31に示すような周波数温度特性を示すSAW共振子10における周波数と等価回路定数、および静特性を図33にまとめた。ここで、Fは周波数、QはQ値、γは容量比、CIはCI(クリスタルインピーダンス:Crystal Impedance)値、Mは性能指数(フィギュアオブメリット:Figure of Merit)をそれぞれ示す。
また、図35には、従来のSAW共振子と、本実施形態に係るSAW共振子10における段差とQ値との関係を比較するためのグラフを示す。なお、図35においては、太線で示すグラフが本実施形態に係るSAW共振子10の特性を示すものであり、電極指間に溝を設け、且つストップバンド上端モードの共振を用いたものである。細線で示すグラフが従来のSAW共振子の特性を示すものであり、電極指間に溝を設けずにストップバンド上端モードの共振を用いたものである。図35から明らかなように、電極指間に溝を設け、且つストップバンド上端モードの共振を用いると、段差(G+H)が0.0407λ(4.07%λ)以上の領域において、電極指間に溝を設けずにストップバンド下端モードの共振を用いた場合よりも高いQ値が得られる。
なお、シミュレーションに係るSAW共振子の基本データは以下の通りである。
・本実施形態に係るSAW共振子10の基本データ
H:0.02λ
G:変化
IDTライン占有率ηi:0.6
反射器ライン占有率ηr:0.8
オイラー角(0°,123°,43.5°)
対数:120
交差幅:40λ(λ=10μm)
反射器本数(片側あたり):60
電極指の傾斜角度なし
・従来のSAW共振子の基本データ
H:変化
G:ゼロ
IDTライン占有率ηi:0.4
反射器ライン占有率ηr:0.3
オイラー角(0°,123°,43.5°)
対数:120
交差幅:40λ(λ=10μm)
反射器本数(片側あたり):60
電極指の傾斜角度なし
これらのSAW共振子の特性を比較するため図33や図35を参照すると、本実施形態に係るSAW共振子10が、いかに高Q化されているかを理解することができる。このような高Q化は、エネルギー閉じ込め効果の向上によるものであると考えられ、以下の理由による。
ストップバンドの上端モードで励振した弾性表面波を効率良くエネルギー閉じ込めするためには、図36のように、IDT12のストップバンド上端の周波数ft2を、反射器20のストップバンド下端の周波数fr1と反射器20のストップバンド上端の周波数fr2との間に設定すれば良い。即ち、
の関係を満たすように設定すれば良い。これにより、IDT12のストップバンド上端の周波数ft2において、反射器20の反射係数Γが大きくなり、IDT12から励振されたストップバンド上端モードのSAWが、反射器20にて高い反射係数でIDT12側に反射されるようになる。そしてストップバンド上端モードのSAWのエネルギー閉じ込めが強くなり、低損失な共振子を実現することができる。
これに対し、IDT12のストップバンド上端の周波数ft2と反射器20のストップバンド下端の周波数fr1、反射器20のストップバンド上端の周波数fr2との関係をft2<fr1の状態やfr2<ft2の状態に設定してしまうと、IDT12のストップバンド上端周波数ft2において反射器20の反射係数Γが小さくなってしまい、強いエネルギー閉じ込め状態を実現することが困難になってしまう。
ここで、数式26の状態を実現するためには、反射器20のストップバンドをIDT12のストップバンドよりも高域側へ周波数シフトする必要がある。具体的には、IDT12の電極指18の配列周期よりも、反射器20の導体ストリップ22の配列周期を小さくすることで実現できる。また、他の方法としては、IDT12の電極指18として形成された電極膜の膜厚よりも反射器20の導体ストリップ22として形成された電極膜の膜厚を薄くしたり、IDT12の電極指間溝の深さよりも反射器20の導体ストリップ間溝の深さを浅くすることで実現できる。また、これらの手法を複数組み合わせて適用しても良い。
なお図33によれば、高Q化の他、高いフィギュアオブメリットMを得ることができているということができる。また、図34は、図33を得たSAW共振子におけるインピーダンスZと周波数との関係を示すグラフである。図34からは、共振点付近に無用なスプリアスが存在していない事を読み取ることができる。
上記実施形態では、SAW共振子10を構成するIDT12はすべての電極指が交互に交差しているように示した。しかし、本発明にかかるSAW共振子10は、その水晶基板のみによっても相当な効果を奏することができる。このため、IDT12における電極指18を間引きした場合であっても、同様な効果を奏することができる。
また、溝32に関しても、電極指18間や反射器20の導体ストリップ22間に部分的に設けるようにしても良い。特に、振動変位の高いIDT12の中央部は周波数温度特性に支配的な影響を与えるため、その部分のみに溝32を設ける構造としても良い。このような構造であっても、周波数温度特性が良好なSAW共振子10とすることができる。
また、上記実施形態では、電極膜としてAlまたはAlを主体とする合金を用いる旨記載した。しかしながら、上記実施形態と同様な効果を奏することのできる金属であれば、他の金属材料を用いて電極膜を構成しても良い。
また、上記実施形態はIDTを一つだけ設けた一端子対SAW共振子であるが、本発明はIDTを複数設けた二端子対SAW共振子にも適用可能であり、縦結合型や横結合型の二重モードSAWフィルタや多重モードSAWフィルタにも適用可能である。
次に、本発明に係るSAW発振器について、図38を参照して説明する。本発明に係るSAW発振器は図38に示すように、上述したSAW共振子10と、このSAW共振子10のIDT12に電圧を印加して駆動制御するIC(integrated circuit)50と、これらを収容するパッケージとから成る。なお、図38において、図38(A)はリッドを除いた平面図であり、図38(B)は、同図(A)におけるA−A断面を示す図である。
実施形態に係るSAW発振器100では、SAW共振子10とIC50とを同一のパッケージ56に収容し、パッケージ56の底板56aに形成された電極パターン54a〜54gとSAW共振子10の櫛歯状電極14a,14b、およびIC50のパッド52a〜52fとを金属ワイヤ60により接続している。そして、SAW共振子10とIC50とを収容したパッケージ56のキャビティは、リッド58により気密に封止している。このような構成とすることで、IDT12(図1参照)とIC50、及びパッケージ56の底面に形成された図示しない外部実装電極とを電気的に接続することができる。
10………弾性表面波共振子(SAW共振子)、12………IDT、14a,14b………櫛歯状電極、16………バスバー、18………電極指、20………反射器、22………導体ストリップ、30………水晶基板、32………溝。

Claims (9)

  1. オイラー角(−1.5°≦φ≦1.5°,117°≦θ≦142°,41.9°≦|ψ|≦49.57°)の水晶基板上に設けられ、ストップバンド上端モードの弾性表面波を励振するIDTと、前記IDTを構成する電極指間に位置する基板を窪ませた電極指間溝を有する弾性表面波共振子であって、
    前記弾性表面波の波長をλ、前記電極指間溝の深さをGとした場合に、
    を満たし、
    かつ、前記IDTのライン占有率をηとした場合に、前記電極指間溝の深さGと前記ライン占有率ηとが
    の関係を満たすことを特徴とする弾性表面波共振子。
  2. 請求項1に記載の弾性表面波共振子であって、
    前記電極指間溝の深さGが、
    の関係を満たすことを特徴とする弾性表面波共振子。
  3. 請求項1または請求項2に記載の弾性表面波共振子であって、
    前記IDTの電極膜厚をHとした場合に、
    の関係を満たすことを特徴とする弾性表面波共振子。
  4. 請求項3に記載の弾性表面波共振子であって、
    前記ライン占有率ηが、
    の関係を満たすことを特徴とする弾性表面波共振子。
  5. 請求項3または請求項4に記載の弾性表面波共振子であって、
    前記電極指間溝の深さGと前記電極膜厚Hとの和が、
    の関係を満たすことを特徴とする弾性表面波共振子。
  6. 請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の弾性表面波共振子であって、前記ψと前記θが、
    の関係を満たすことを特徴とする弾性表面波共振子。
  7. 請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の弾性表面波共振子であって、
    前記IDTにおけるストップバンド上端モードの周波数をft2、前記IDTを弾性表面波の伝搬方向に挟み込むように配置される反射器におけるストップバンド下端モードの周波数をfr1、前記反射器のストップバンド上端モードの周波数をfr2としたとき、
    の関係を満たすことを特徴とする弾性表面波共振子。
  8. 請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の弾性表面波共振子であって、
    前記反射器を構成する導体ストリップ間に導体ストリップ間溝を設け、
    前記電極指間溝よりも前記導体ストリップ間溝の深さの方が浅いことを特徴とする弾性表面波共振子。
  9. 請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の弾性表面波共振子と、前記IDTを駆動するためのICを備えたことを特徴とする弾性表面波発振器。
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