JP2010202640A - (z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの精製方法 - Google Patents

(z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの精製方法 Download PDF

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Abstract

【課題】
通常の蒸留操作では分離が困難な(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンとの分離を工業的規模で分離できる方法を提供する。
【解決手段】
(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンを含む混合物を蒸留する際に、抽出溶剤として式
Figure 2010202640

[式中、Xは水素(H)、フッ素(F)、又は塩素(Cl)であり、nは0〜3の整数、mは0〜2の整数である。]
で表されるハロゲン化炭化水素、ハロゲン化不飽和炭化水素類、ニトリル類、ケトン類、カーボネート類、エーテル類、エステル類、アルコール類からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を共存させて抽出蒸留を行うことを特徴とする。
本発明によれば、実用的かつ高純度で目的物を得ることができ、工業的にも優れた方法である。
【選択図】なし

Description

本発明は、洗浄剤、溶媒、冷媒、噴射剤等の機能物質および各種機能製品の中間体等に有用な、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの精製方法、より詳しくは1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンを含む粗1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンから(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを分離する精製方法に関する。
ハイドロフルオロカーボン類の1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン(HCFC−141b)、ジクロロペンタフルオロプロパン(HCFC−225)等は、現在溶剤、洗浄剤等に用いられているが、オゾン層破壊係数(ODP)が高く、地球環境への影響が大きいため規制対象となっている。そこで、これらの用途分野では、地球環境に対する影響がないか、きわめて小さい物質が要望されている。
一方、含フッ素不飽和炭化水素である1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンは分子内に二重結合を有するためODPおよび地球温暖化係数(GWP)がきわめて小さく、代替物質の一つとして注目される物質である。1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの製造法として、特許文献1に、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの製造方法における第1工程として、気相で1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンをフッ素化水素と反応させて1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを得る方法が開示されている。また、特許文献2に1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの製造方法における第1工程として、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンを無触媒でフッ素化水素と反応させて1,1,1−トリフルオロ−3−クロロ−2−プロペン(1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン)を得る方法が開示されている。特許文献3では、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの製造方法として、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンを反応容器中、ルイス酸触媒またはルイス酸触媒の混合物の存在下、150℃より低い温度で、液相で反応させること、反応容器中で生成した塩化水素及び1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを連続的に取り出すこと、及び1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを単離する方法が開示されている。
しかしながら、これらの方法においては、目的物の他に副生成物が多く生成し、選択率が低下するという問題があった。
一方、工業的な製造方法において、液体又は液化可能な気体混合物を分離する方法として蒸留法が一般的に採用される。しかしながら、不純物を含む目的物を分離する場合、副生成物の沸点が目的物のそれと近接している場合、不純物から目的物のみを効率的に分離する方法は極めて困難であった。
そこで、蒸留方法として抽出蒸留法が有効な方法の一つとして用いられてきた。「抽出蒸留」とは、少なくとも2種の成分を含む混合物に対し、第3の沸点の高い成分を添加して、分離すべき成分の比揮発度を変化させ、蒸留によって分離することを言う。例えば特許文献4では、ペンタフルオロエタンとクロロペンタフルオロエタンの分離では1,2−ジクロロテトラフルオロエタンが抽出溶剤として抽出蒸留に用いられ良好な結果が得られることが開示されている。特許文献5では、ペンタフルオロエタンとクロロペンタフルオロエタンの抽出蒸留において、アセトン、n−ペンタン等のケトン類やパラフィン類が抽出溶剤として用いられている。また、特許文献6では、ペンタフルオロエタンと1,1,1−トリフルオロエタンの抽出蒸留において、抽出溶剤として炭素数1〜2の塩化炭素類または塩化炭化水素類を用いる方法が開示されている。
また、本願発明に関連する技術として、特許文献7では1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンと1−クロロ−3,3,3−トリフルオロ−trans−1−プロペンを含んでなる混合物から1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを蒸留により分離する方法であって、該混合物を蒸留する際に第三成分として1−クロロ−3,3,3−トリフルオロ−trans−1−プロペンより沸点の高い飽和炭化水素化合物を共存させることにより抽出蒸留を行う方法が開示されている。
特開平9−183740号公報 特開平11−180908号公報 国際公開2005−014512号公報 米国特許第5087329号明細書 特開平7−133240号公報 特開平9−12487号公報 特開平11−209316号公報
前述したように、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンは1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンをフッ素化することで得られるが、その際、トランス体(E)とシス体(Z)の混合物として得られる。
Figure 2010202640
シス体、トランス体の標準沸点がそれぞれ39.0℃、21.0℃であり、シス体はトランス体から容易に常圧で蒸留分離することができる。
ここで、当該プロペンの他に不純物として1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパン(HCFC−244fa、沸点42.2℃)が存在すると、シス体との沸点がきわめて近接しているため、通常の蒸留精製では分離し難く、1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンが、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(シス体)と同伴して留出する。
このように、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンは、前述のように1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンから通常の蒸留法により分離しようとしても、容易に各々の成分に分離しないという問題があった。
抽出蒸留を工業的に行うにあたっては、抽出溶剤の選択が特に重要な要件であり、さらに特定の抽出溶剤について蒸留の諸条件を適性化する必要がある。これまで先例として挙げられた抽出溶剤を用いた抽出蒸留法を、そのまま本発明の物質の分離に適用できないため、新たに開発する必要があった。
本発明者らはかかる従来技術の問題点に鑑み、工業的規模での製造に適した(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの製造方法を確立するべく、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンからの分離を促進する方法について鋭意検討を加えたところ、特定の抽出溶剤の存在下で蒸留することで、極めて容易に(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを分離できることを見いだし、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、[発明1]−[発明8]に記載する発明を提供する。
[発明1]
式[1]で表される(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン
Figure 2010202640
と1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパン(CF3CH2CHClF)を含む混合物を蒸留して、式[1]で表される(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを精製する方法であって、該混合物を蒸留する際に抽出溶剤として式[2]で表されるハロゲン化炭化水素
Figure 2010202640
[式[2]中、Xは水素(H)、フッ素(F)、又は塩素(Cl)であり、nは0〜3の整数、mは0〜2の整数である。]
、ハロゲン化不飽和炭化水素類、ニトリル類、ケトン類、カーボネート類、エーテル類、エステル類、アルコール類からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を共存させて抽出蒸留を行うことを特徴とする、式[1]で表される(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの精製方法。
[発明2]
ハロゲン化炭化水素が1、1−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロパン、1,1,3−トリクロロ−3,3−ジフルオロプロパン、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン、1,1,2−トリクロロ−3,3,3−トリフルオロプロパンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、発明1に記載の方法。
[発明3]
ハロゲン化不飽和炭化水素類が、1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、1,2,3−トリクロロ−3,3−ジフルオロプロペン、1,2,3,3−テトラクロロ−3−フルオロプロペン、1,3−ジクロロ−3,3−ジフルオロプロペン、2,3−ジクロロ−3,3−ジフルオロプロペン、1,3,3−トリクロロ−3−フルオロプロペン、2,3,3−トリクロロ−3−フルオロプロペンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、発明1に記載の方法。
[発明4]
式[1]で表される(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン
Figure 2010202640
と1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパン(CF3CH2CHClF)を含む混合物を蒸留して、式[1]で表される(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを精製する方法であって、該混合物を蒸留する際に抽出溶剤として1、1−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロパン、1,1,3−トリクロロ−3,3−ジフルオロプロパン、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン、1,1,2−トリクロロ−3,3,3−トリフルオロプロパン、アセトン、アセトニトリル、ジメチルカーボネート、エタノール、1,3−ジオキソラン、γ―ブチロラクトンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を共存させて抽出蒸留を行うことを特徴とする、式[1]で表される(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの精製方法。
[発明5]
抽出溶剤の標準沸点が、50℃〜220℃の範囲にあるものを用いることにより行うことを特徴とする、発明1乃至4の何れかに記載の方法。
[発明6]
抽出溶剤として50質量%未満の水を含むことを特徴とする、発明1乃至5の何れかに記載の方法。
[発明7]
式[1]で表される1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンを含む混合物100質量部に対し、抽出溶剤を10〜10000質量部の範囲で共存させることにより行うことを特徴とする、発明1乃至6の何れかに記載の方法。
[発明8]
蒸留の後に得られた、抽出溶剤、及び抽出溶剤により抽出された1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンもしくは(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを含む混合物を蒸留し、該混合物より分離した1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンもしくは(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを反応系に戻し、さらに該混合物より分離した抽出溶剤を回収して再利用することを特徴とする、発明1乃至7の何れかに記載の方法。
本願発明は、特許文献4−6で述べられている飽和化合物と違い、不飽和化合物を含むものを対象としている。例えば、不飽和化合物を含む化合物を用いる発明として、特表2000−508315号公報に、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンと1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの混合物から、ある特定の反応条件下で反応させることで1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを除去し、高純度の1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを得るという方法が開示されている。これは非常に有用な方法であるが、通常の蒸留操作では目的物である1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを蒸留で分離するのは非常に困難であった(また、その旨も当該文献に記載されている)。
一般的に、化合物の分子構造や極性等の物性が異なれば、混合物の比揮発度が変化し、蒸留時の挙動が大きく変わることが大いに予想されるが、沸点の近接している混合物の蒸留分離は通常きわめて困難である。例えば、後述の比較例に示すように、抽出溶剤を用いない場合、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンの分離が非常に困難であった。
このようなことから、本願発明の出発原料から、効率的に含フッ素不飽和化合物である(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを効率よく取り出せるかどうか、不明であった。
ところが発明者らは、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンとを含む混合物に対し、当該混合物の比揮発度を、ある特定の範囲に変化させる抽出溶剤を用いて抽出蒸留を行うことで、容易に(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを取り出すことが出来るといった、工業的に優位な知見を得た。
このように、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン及び1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンの混合物から、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを選択的にかつ効率よく取り出す技術は知られていなかった。
また、発明者らは、用いた抽出溶剤、及び抽出溶剤により抽出された1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンもしくは(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを含む混合物を蒸留し、該混合物より分離した1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンもしくは(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを反応系に戻し、さらに該混合物より分離した抽出溶剤を回収して再利用することができるという知見も得た。
このように、本願発明は、沸点が極めて近い不純物を含む(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの混合物から、抽出蒸留によって含フッ素不飽和炭化水素である(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを容易に精製できる。用いる抽出溶剤も再利用ができることから、廃棄物が大いに削減できる。本願発明は工業的製造に優れた方法である。
通常の蒸留操作では分離が困難な(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンとの混合物より、特定の抽出溶剤を用いることで、工業的規模で、かつ高純度で分離できるという効果を奏する。
本発明の方法を以下、詳細に説明する。適用する(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンに1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンを含んでなる混合物の組成は、通常1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを製造する際の反応条件や蒸留精製条件等により異なる。反応による生成物組成は、化学平衡のため反応温度、圧力ならびに反応系中の塩化水素濃度および精製蒸留等のパラメーターに依存し特定の組成となるが、一般には1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの製造効率が最大または製造コストが最低となるように設定される。
本発明の方法において分離の対象となる混合物の組成は特に限定されないが、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンのモル比は、通常、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン1モルに対し、1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパン0.001〜1モルである。1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンが1モルを超えても技術的には問題ないが、循環されるべき1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンが増加したり、経済的に負荷がかかることから、上述の範囲で行うのが好ましい。
本発明の方法を適用する(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンとを含んでなる混合物の製造方法は特に限定されない。例えば、式[2]で表されるハロゲン化炭化水素を無触媒下液相においてフッ化水素でフッ素化する方法、特に1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンをフッ化水素で液相フッ素化して1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを製造する方法であって、無触媒高温高圧下で液相または気相反応する方法、あるいは1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンをフッ素化アルミナやクロミア触媒等の存在下気相においてフッ化水素でフッ素化する方法によって製造したものを挙げることができる。これらの方法では、通常1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンは極めて微量しか生成しないが、(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを分離するため蒸留を繰り返すことにより(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとともに濃縮される。
なお、上記の方法で製造した1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンはトランス体(E)とシス体(Z)の混合物として得られる。本願発明は混合物のままで行うことができるが、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを良好に得るために、予め蒸留を行い、トランス体である(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを取り除いてから本願発明を行うことで、効率よくかつ高純度で該目的物を得ることができる。このことは特に好ましい態様の一つである。
(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンとの蒸留分離は、両成分の比揮発度を1より増加または減少させることにより達成できる。
比揮発度は流体混合物中の構成成分の平衡係数の比として定義され、構成成分が(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(A)と1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパン(B)の場合は次式で表される。
比揮発度(A/B)=(気相モル分率/液相モル分率)A/(気相モル分率/液相モル分率)B
本発明の方法で用いる抽出溶剤は、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンに対する1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンの比揮発度を変化しうる物質である。
ここで、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを流出させる場合、通常、比揮発度を1より大きい範囲、好ましくは比揮発度が2以上になるような抽出溶剤を用いると良い。比揮発度が1より大きくなると、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの気相モル分率が増加することで気相に(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンが増加し、蒸留による分離が可能となる。
一方、1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンを流出させる場合、比揮発度が1より小さい範囲になるような抽出溶剤を用いることもできる。(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの液相モル分率が増加することで液相に(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンが増加し、1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンが留出することになる。
なお、比揮発度が1の場合は、各相の組成が同一になるため、蒸留による分離は不可能になる。
本発明は、製造における取り扱いの点からも、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを流出させるように、比揮発度が1より大きい範囲になるような抽出溶剤を用いることが好ましい。ここでは、抽出される物質、すなわち1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンとの分離が容易にできるように、充分高い沸点を有する抽出溶剤を用いることが望ましい。
さらに、抽出溶剤は反応系に混入しても影響しない原料または中間生成物であることがより望ましい。また工業的に用いる場合、入手が容易であり価格的にも安価な溶剤であることが望ましく、このような条件に適した溶剤としては、本願発明で用いる、式[2]で表されるハロゲン化炭化水素、ハロゲン化不飽和炭化水素類、ニトリル類、ケトン類、カーボネート類、エーテル類、エステル類、アルコール類からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。
これらの化合物の他、比揮発度を変化させる物質を表1に示す。
Figure 2010202640
抽出溶剤の具体例として、ハロゲン化炭化水素としては1、1−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロパン、1,1,3−トリクロロ−3,3−ジフルオロプロパン、1,1,2−トリクロロ−3,3,3−トリフルオロプロパンまたは1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン等が挙げられるが、これらのなかで1、1−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロパンが好ましい。ハロゲン化不飽和炭化水素類としては、1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、1,2,3−トリクロロ−3,3−ジフルオロプロペン、1,2,3,3−テトラクロロ−3−フルオロプロペン、1,3−ジクロロ−3,3−ジフルオロプロペン、2,3−ジクロロ−3,3−ジフルオロプロペン、1,3,3−トリクロロ−3−フルオロプロペン、2,3,3−トリクロロ−3−フルオロプロペン等が挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、アセチルアセトンまたはシクロヘキサノン等が挙げられるが、これらのなかでアセトンが特に好ましい。またニトリル類としては、アセトニトリル、プロピオニトリルまたはブチロニトリル等が挙げられるが、これらのなかでアセトニトリルが特に好ましい。カーボネート類としてはジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネートまたはジブチルカーボネート等が挙げられるが、これらのなかでジメチルカーボネートが特に好ましい。エーテル類としてはジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン等が挙げられるが、これらのなかで1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサンが特に好ましい。エステル類としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、オルト蟻酸トリメチル、ジメチル硫酸、γ―ブチロラクトン等が挙げられる。アルコール類としてはメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、2,2,3,3−テトラフルオロプロパノールまたは1−(トリフルオロメチル)−2,2,2−トリフルオロエタノールが挙げられる。また、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、ジメチルホルムアミド等のアミド類やN−メチルピロリドン等のピロリドン類等も挙げることができる。これらの化合物は単独または2種以上の混合物として用いることもできる。
また、水溶性の化合物の場合、水と混合した抽出溶剤として使用することもできる。例えば、アセトン、アセトニトリル、ジオキサン、γ―ブチロラクトン等の水溶液を用いることができ、有機化合物と水との混合比は、抽出効率の観点から水が50質量%未満であることが好ましい。
さらに、これらの抽出溶剤のうち、水溶性の化合物に対しては、抽出溶剤と共に別途水を加えて、水との混合系で用いることもでき、当業者が適宜調整することができる。
なお、水溶性の化合物を抽出溶剤としても用いた場合、留出液に目的物である(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと共に混在することがあるが、その際、水洗等の操作で容易に抽出溶剤と分離することができる。
抽出溶剤における標準沸点の温度範囲に関しては、抽出溶剤と本願発明の対象となる化合物が、単蒸留、ストリッピング等で分離できる程度の温度差、通常20℃以上の温度差があれば良い。すなわち、具体的な抽出溶剤の標準沸点の範囲としては、50℃〜220℃のものを選択すると良い。中でも、60℃〜120℃のものであるものを選択することが好ましい。
標準沸点が220℃を超える抽出溶剤を選択することでも本願発明を実施することができるが、極度に高沸点の抽出溶剤を用いると、抽出溶剤回収の加熱エネルギーが大きくなるため、経済的に負荷がかかるため、前述の範囲のものを用いることが好ましい。また、50℃未満では、抽出蒸留の効果がうまく発揮できないこともあるため、あまり好ましくない。
本発明の方法において抽出溶剤量は特に限定されず、原料に対する抽出溶剤量の比率が高い(抽出溶剤濃度が高い)方が抽出に際しての分離は効率的であるが、その比が高すぎる場合は装置の大型化やユーテイリティ増大などの点で経済的に好ましくなく、反対にその比が低すぎる場合は分離効果が少なく製品純度を高くできず好ましくない。したがって、例えば、原料100質量部に対して抽出溶剤10〜10000質量部とし、50〜5000質量部が好ましく、さらに100〜2000が好ましい。
本発明の方法は、蒸留塔を用いることで実施できるが、充填塔または棚段塔の使用が好ましく、抽出溶剤を供給原料の供給段より上段から導入して蒸留塔全体に存在させる。抽出溶剤の導入段と原料の供給段間の段数、塔頂と抽出溶剤の導入段間の段数および塔底と原料の供給段間の段数は、留出成分の純度、回収率等の関係を予備的に検討し適宜選ぶことができる。
比揮発度が1よりも大きな抽出溶剤の場合、塔頂より(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを留出させ、蒸留缶に抽出溶剤と1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンを回収して、抽出蒸留を行う。蒸留塔の各部位における温度、原料の供給段、抽出溶剤の供給量等の操作条件は、特に限定されないが、蒸留塔の性能、非処理物(原料)中の(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンとの含有比、使用する抽出溶剤の種類および量などにより異なる。それらの条件は予備的な試験により決定することができる。また、蒸留操作の安定を保つために原料に抽出溶剤を添加しておくこともできる。本発明の方法は、不連続操作または連続操作で行うことができ、工業的には連続操作での実施が好ましい。さらに、抽出蒸留を繰り返すことにより、留出成分は高純度化することができる。
抽出された原料の一部と抽出溶剤の混合物は、ストリッピング、蒸留等の操作により分離し、原料の一部は再度反応系に戻し、一方、抽出溶剤は循環して抽出蒸留に再使用できる。すなわち、抽出溶剤、及び抽出溶剤により抽出された1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンもしくは(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを含む混合物を蒸留し、該混合物より分離した1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンもしくは(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを反応系に戻し、さらに該混合物より分離した抽出溶剤を回収して再利用することが可能である。このことは、廃棄物の大きな削減につながることからも、好ましい態様の一つとして挙げられる。
本発明で用いる反応器は、ガラス、ステンレス鋼あるいは四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂等を内部にライニングした炭素鋼で製作したものが好適に使用できる。
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、これらによって本発明は限定されるものではない。なお、実施例において「%」は「質量%」を表す。
[実施例]
本実施例で用いる出発原料は、従来公知の方法で(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンを含む混合物を得た。該混合物を蒸留することで(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを分離し、得られた(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンを含む混合物(質量%は後述)を用いて、以下の実施例及び比較例を行った。
塔径26mmφ、ステンレス製充填材(東京特殊金網(株)製ヘリパックNo.2)を充填した理論段数50段の真空外套式ガラス製精留塔を用い、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを83.6%および1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパン16.4%を含む原料を塔頂から40段の部位より81.0g/hで、また1、1−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロパンを頭頂から10段の部位より801.0g/hでそれぞれ供給した。常圧下、還流比5、ボトム温度70℃で蒸留を行い、頭頂より68.1g/hで留出させた。缶出液は813.9g/hであった。原料、留出液および缶出液の組成を表2に示す。
Figure 2010202640
塔径26mmφ、ステンレス製充填材(東京特殊金網(株)製ディクソンパッキング)を充填した理論段数33段の真空外套式ガラス製精留塔を用い、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを82.6%および1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパン17.4%を含む原料を塔頂から28段の部位より22.8g/hで、またジメチルカーボネートを頭頂から10段の部位より197.2g/hでそれぞれ供給した。常圧下、還流比5、ボトム温度91℃で蒸留を行い、頭頂より18.5g/hで留出させた。缶出液は201.5g/hであった。原料、留出液および缶出液の組成を表3に示す。
Figure 2010202640
塔径26mmφ、ステンレス製充填材(東京特殊金網(株)製造ヘリパックNo.2)を充填した理論段数50段の真空外套式ガラス製精留塔を用い、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを82.6%および1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパン17.4%を含む原料を塔頂から40段の部位より81.0g/hで、またアセトニトリルを頭頂から10段の部位より797.9g/hでそれぞれ供給した。常圧下、還流比5、ボトム温度82℃で蒸留を行い、頭頂より64.1g/hで留出させた。缶出液は814.8g/hであった。原料、留出液および缶出液の組成を表4に示す。
Figure 2010202640
塔径26mmφ、ステンレス製充填材(東京特殊金網(株)製ヘリパックNo.2)を充填した理論段数50段の真空外套式ガラス製精留塔を用い、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを82.6%および1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパン17.4%を含む原料を塔頂から40段の部位より81.0g/hで、またアセトンを頭頂から10段の部位より793.8g/hでそれぞれ供給した。常圧下、還流比5、ボトム温度57℃で蒸留を行い、頭頂より228.4g/hで留出させた。缶出液のは646.4g/hであった。原料、留出液および缶出液の組成を表5に示す。
Figure 2010202640
塔径26mmφ、ステンレス製充填材(東京特殊金網(株)製ヘリパックNo.2)を充填した理論段数50段の真空外套式ガラス製精留塔を用い、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを82.6%および1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパン17.4%を含む原料を塔頂から40段の部位より40.5g/hで、またアセトン/水(H2O)=90/10重量比の混合溶剤を頭頂から10段の部位より
324.4g/hでそれぞれ供給した。常圧下、還流比5、ボトム温度58℃で蒸留を行い、頭頂より70.9g/hで留出させた。缶出液は294.0g/hであった。原料、留出液および缶出液の組成を表6に示す。
Figure 2010202640
[比較例1]
塔径26mmφ、ステンレス製充填材(東京特殊金網(株)製ディクソンパッキング)を充填した理論段数50段の真空外套式ガラス製精留塔を用い、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを83.8%および1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパン16.2%を含む原料を塔頂から42段の部位より130.0g/hで供給した。常圧下、還流比10、ボトム温度39℃で蒸留を行い、頭頂より58.3g/hで留出させた。缶出液は71.7g/hであった。原料、留出液および缶出液の組成を表7に示す。
Figure 2010202640

Claims (8)

  1. 式[1]で表される(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン
    Figure 2010202640
    と1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパン(CF3CH2CHClF)を含む混合物を蒸留して、式[1]で表される(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを精製する方法であって、該混合物を蒸留する際に抽出溶剤として式[2]で表されるハロゲン化炭化水素
    Figure 2010202640
    [式[2]中、Xは水素(H)、フッ素(F)、又は塩素(Cl)であり、nは0〜3の整数、mは0〜2の整数である。]
    、ハロゲン化不飽和炭化水素類、ニトリル類、ケトン類、カーボネート類、エーテル類、エステル類、アルコール類からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を共存させて抽出蒸留を行うことを特徴とする、式[1]で表される(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの精製方法。
  2. ハロゲン化炭化水素が1、1−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロパン、1,1,3−トリクロロ−3,3−ジフルオロプロパン、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン、1,1,2−トリクロロ−3,3,3−トリフルオロプロパンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の方法。
  3. ハロゲン化不飽和炭化水素類が、1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、1,2,3−トリクロロ−3,3−ジフルオロプロペン、1,2,3,3−テトラクロロ−3−フルオロプロペン、1,3−ジクロロ−3,3−ジフルオロプロペン、2,3−ジクロロ−3,3−ジフルオロプロペン、1,3,3−トリクロロ−3−フルオロプロペン、2,3,3−トリクロロ−3−フルオロプロペンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の方法。
  4. 式[1]で表される(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン
    Figure 2010202640
    と1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパン(CF3CH2CHClF)を含む混合物を蒸留して、式[1]で表される(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを精製する方法であって、該混合物を蒸留する際に抽出溶剤として1、1−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロパン、1,1,3−トリクロロ−3,3−ジフルオロプロパン、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン、1,1,2−トリクロロ−3,3,3−トリフルオロプロパン、アセトン、アセトニトリル、ジメチルカーボネート、エタノール、1,3−ジオキソラン、γ―ブチロラクトンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を共存させて抽出蒸留を行うことを特徴とする、式[1]で表される(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの精製方法。
  5. 抽出溶剤の標準沸点が、50℃〜220℃の範囲にあるものを用いることにより行うことを特徴とする、請求項1乃至4の何れかに記載の方法。
  6. 抽出溶剤として50質量%未満の水を含むことを特徴とする、請求項1乃至5の何れかに記載の方法。
  7. 式[1]で表される1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンを含む混合物100質量部に対し、抽出溶剤を10〜10000質量部の範囲で共存させることにより行うことを特徴とする、請求項1乃至6の何れかに記載の方法。
  8. 蒸留の後に得られた、抽出溶剤、及び抽出溶剤により抽出された1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンもしくは(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを含む混合物を蒸留し、該混合物より分離した1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロプロパンもしくは(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを反応系に戻し、さらに該混合物より分離した抽出溶剤を回収して再利用することを特徴とする、請求項1乃至7の何れかに記載の方法。
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