以下に、本発明の電子放出素子およびその製造方法について説明するが、以下に示す材料や値は一例である。本発明の目的、効果を奏する範囲内であれば、上記材料や数値などは、その応用に適するように、種々の材料や値の変形例を採用することができる。
(第1の実施形態例)
まず、本発明の電子放出素子の最も典型的な形態例である第1の実施形態例の基本的な構成について図26(a)〜図26(c)を用いて説明する。
図26(a)は、本実施形態例における典型的な構成を示す模式的な平面図である。図26(b)及び図26(c)は、それぞれ、図26(a)のB−B’、C−C’における断面模式図である。
図26(a)〜図26(c)に示す形態例では、基体(100)を、実質的に絶縁性の基板(1)と、第1部分(5)と、第2部分(6)とで構成した例を示した。第2部分(6)は、第1部分(5)よりも高い熱伝導性を有する。そして、この形態例では第2部分(6)が2つの領域に分けて配置しており、且つ、第2部分(6)が第1部分(5)を挟むように配置させている。
基体(100)上には第1補助電極(2)と第2補助電極(3)とが間隔L1離れて配置されている。そして、第1補助電極(2)には第1導電性膜30aが接続され、第2補助電極(3)には第2導電性膜30bが接続されている。そして、第1導電性膜(30a)と第2導電性膜(30b)が間隙(8)を挟んで対向している。即ち、間隙(8)は第補助1電極(2)と第2補助電極(3)との間に配置されていることになる。そして、間隙(8)が第1部分(5)の直上の領域内に配置されている。第2の間隙(8)の幅(L3)は、ドライバーのコストなどを考慮して駆動電圧を30V以下にするため、及び、駆動時の予期せぬ電圧変動による放電を抑制するために、典型的には1nm以上10nm以下に設定される。
尚、図26では、第1導電性膜(30a)と第2導電性膜(30b)を完全に分離された2つの膜として示した。しかし、間隙(8)は上述したように非常に狭い幅であるので、間隙(8)と第1導電性膜(30a)と第2導電性膜(30b)とをまとめて、「間隙を備える導電性膜」と表現することができる。
また、第1導電性膜(30a)と第2導電性膜(30b)は極めて微小な領域で繋がっている場合もある。極めて微小な領域であれば、その領域は高抵抗であるので電子放出特性への影響は限定的であるため許容できる。この様な、第1導電性膜(30a)と第2導電性膜(30b)が一部で繋がった形態も、「間隙を備える導電性膜」と表現することができる。
尚、図26(a)では間隙(8)が特別な周期性をもたずに蛇行している例を示した。しかしながら、間隙(8)は、必ずしも蛇行している必要はない。直線状であったり、周期性をもって折れ曲がったり、円弧状であったり、円弧と直線を組み合わせた形態などの所望の形態であっても良い。
ここで、間隙(8)は、第1導電性膜(30a)の端縁(外縁)と第2導電性膜(30b)の端縁(外縁)とが対向することで構成されている。
そして、一方の導電性膜(30aまたは30b)の端縁の一部であって、間隙(8)の外縁を構成する部分に多数の電子放出部が存在すると考えられる。例えば、第1補助電極(2)の電位を第2補助電極(3)の電位よりも高くして駆動させた時には、第2補助電極(3)に接続する第2導電性膜(30b)がエミッターに相当する。即ち、第2導電性膜(30b)の端縁の一部であって、間隙(8)の外縁を構成する部分に多数の電子放出部が存在することになる。逆に、第2補助電極(3)の電位を第1補助電極(2)の電位よりも高くして駆動させた時には、第1補助電極(2)に接続する第1導電性膜(30a)が電子放出膜(エミッターに相当する。即ち、第1導電性膜(30a)の端縁の一部であって、間隙(8)の外縁を構成する部分に多数の電子放出部が存在することになる。
間隙(8)は、FIB(集束イオンビーム)などのナノスケールの各種高精細な加工方法を導電性膜に施すことによっても形成することができる。そのため、本発明の電子放出素子の間隙(8)は、後述する「活性化」処理で形成するものに限定されることはない。
尚、図26(a)〜図26(c)では、基板(1)と、その表面に別途設けられた第1部分(5)および第2部分(6)とで、基体(100)を構成した例を示した。しかし、第1部分(5)は、基板(1)の一部で形成されていも良い。また、図1に示す様に、基板(1)表面に積層した別の部材で形成されても良い。同様に、第2部分(6)は、基板1の一部で構成されてもよいし、基板(1)表面に積層した別部材であっても良い。
但し、上述したように、第2部分(6)は第1部分(5)よりも熱伝導性が高い必要がある。また、基板(1)上であって、補助電極(2、3)や導電性膜(30a、30b)が配置されていない領域には、第1部分(5)および第2部分(6)とは異なる熱伝導性を備えた部分が配置されていてもよい。その様な領域としては、例えば、第1補助電極(2)と第2補助電極(3)の下の領域や、第1補助電極(2)と第2補助電極(3)の間の領域を除いた領域などが挙げられる。
この様な構成を採用することで、電子放出量の「ゆらぎ」を低減することができる。この理由は定かではないが、おそらく、間隙(8)の両脇に熱伝導率の高い第2部分(6)が存在することで、駆動時の導電性膜(30a、30b)の温度上昇を抑制できるためではないかと考えている。これにより、駆動中における、導電性膜(30a、30b)の材料の拡散や変形、あるいは、基体100中に存在する不純物イオンなどの拡散が抑制されるのではないかと考えている。即ち、補助電極(2または3)から各電子放出部に流れ込む電流や補助電極(2または3)から各電子放出部までの実効的な抵抗値のバラツキが抑制されるのではないかと考えている。また、駆動時の間隙(8)近傍の温度上昇も抑制されるので、間隙(8)近傍の基体(100)表面の熱変形が抑制され、結果、間隙(8)の形状変化をも抑制できると考えられる。そのため、駆動時に間隙(8)への実効的に印加される電圧が安定になり、放出電流Ie(または輝度)の「ゆらぎ」が抑制されるものと考えている。
尚、ここでは、少なくとも第2部分(6)が導電性膜(30a、30b)に直接接触した形態を示した。しかしながら、本発明の効果を奏する範囲内であれば、第2部分(6)と導電性膜(30a、30b)との間に別の層が配置されていても良い。また、本発明の効果を奏する範囲内であれば、第2部分(6)がその全てに渡って均質である必要もない。同様に、本発明の効果を奏する範囲内であれば、第1部分(5)の上に別の層が配置されていたり、第1部分(5)がその全てに渡って均質である必要もない。
また、ここで示した導電性膜(30a、30b)は後述する第2の実施形態例のように、カーボン膜(21a、21b)と電極(4a、4b)とで構成することもできる。
導電性膜(30a、30b)の材料としては、金属や半導体などの導電性材料を用いることができる。例えばPd、Ni、Cr、Au、Ag、Mo、W、Pt、Ti、Al、Cu、Pd等の金属或はそれらの合金、あるいはカーボン等を用いることができる。特に、後述する「活性化」処理により形成することができるので、導電性膜(30a、30b)はカーボン膜であることが好ましい。本実施形態例におけるカーボン膜は、後述する第2の実施形態例で説明するカーボン膜と同様の材料、組成で構成される。
導電性膜(30a、30b)は、Rs(シート抵抗)が102Ω/□以上107Ω/□以下の抵抗値の範囲で形成されることが好ましい。上記抵抗値を示す膜厚としては、具体的には5nm〜100nmの範囲にあることが好ましい。なおRsは、厚さがt、幅がwで長さがlの膜の長さ方向に測定した抵抗Rを、R=Rs(l/w)とおいたときに現われる値で、抵抗率をρとすればRs=ρ/tである。また、導電性膜(30a、30b)の幅W’は、好ましくは補助電極(2、3)の幅Wよりも小さく設定される(図26(a)参照)。WをW’よりも広く設定することで、補助電極(2,3)から各電子放出部への距離のばらつきを低減できる。W’の値に特に制限はないが、実用的な範囲として10μm以上500μm以下であることが好ましい。
尚、第1補助電極(2)と第2補助電極(3)の主な役割は、導電性膜(30a、30b)に電圧を印加するための端子である。そのため、間隙(8)に電圧が印加する別の手段があれば、補助電極(2、3)は省略することもできる。
基板(1)としては、石英ガラス、青板ガラス、ガラス基板に酸化シリコン(典型的にはSiO2)を積層したガラス基板、あるいは、アルカリ成分を減らしたガラス基板を用いることができる。
第1部分(5)および第2部分(6)は、絶縁体で構成されることが好ましい。第1部分(5)が実質的な導電体であると、間隙(8)に強い電界を生じさせることができなくなり、最悪の場合、電子が放出されないためである。また、第2部分(6)が高い導電性を有すると、「活性化」処理や駆動時に放電が起きた場合に電子放出部が破壊される様な電流が間隙(8)に流れてしまう可能性がある。
そのため、第1部分(5)は実質的に絶縁体であることが重要である。そして、第2部分(6)は導電性膜(30a、30b)よりも導電性が低い(典型的には高いシート抵抗値あるいは高い抵抗値を有する)ことが重要である。第1部分(5)を構成する材料の抵抗率は、実用的には、第2部分(6)を構成する材料の抵抗率(108Ωm以上)と同じかそれ以上であることが好ましい。また、シート抵抗で換言すると、第1部分(5)の抵抗値(あるいはシート抵抗値)は、第2部分(6)のシート抵抗値(あるいはシート抵抗値)と同じかそれ以上であることが好ましい。
そこで、後述する厚みを考慮すると、第1部分(5)及び第2部分(6)のシート抵抗値は、具体的には、1013Ω/□以上であることが好ましい。このようなシート抵抗値を実現するためには、第1部分(5)及び第2部分(6)は、実用的には108Ωm以上の比抵抗を有する材料を用いることが好ましい。
第2部分(6)の材料としては、基板(1)及び第1部分(5)よりも熱伝導率が高い材料が選択される。具体的には、窒化シリコン、アルミナ、窒化アルミニウム、五酸化タンタル、酸化チタンを用いることができる。
また、第2部分(6)の厚さ(図26におけるZ方向の厚み)は、材料にもよるが、本発明の効果上、実効的には10nm以上が好ましく、100nm以上であることがより好ましい。また、効果上の厚さの上限値はないが、プロセスの安定性や基板(1)との熱応力の関係上、実効的には、10μm以下とすることが好ましい。
第1部分(5)は、後述する「活性化」処理で高い電子放出特性(特には高い電子放出量)を実現するためにも、また駆動時の安定性のためにも酸化シリコン(典型的にはSiO2)を含むことが好ましい。そして、特には、第1部分(5)は、酸化シリコンを主体とすることが好ましい。酸化シリコンを主体とする場合には、実用的には、第1部分(5)中に含まれる酸化シリコンは、80wt%以上、好ましくは90wt%以上である。
間隙(8)の幅の実用的な範囲は、後述するように、1nm〜10nmである。そのため、駆動時に第1部分(5)の変形(熱膨張)が生じると、間隙(8)の形状に影響が生じ、放出電流(Ie)や素子電流(If)における変動を誘発してしまう。酸化シリコン(典型的にはSiO2)は線熱膨張係数が非常に小さい。そのため、駆動時に間隙(8)近傍が高温になっても、「ゆらぎ」などの、放出電流(Ie)や素子電流(If)における変動を特に効果的に抑制することができる。また、このような効果を再現性良く発現するためには、第2部分(6)の熱伝導率が、第1部分(5)の熱伝導率の4倍以上であることが好ましい。
第1補助電極(2)と第2補助電極(3)とが対向する方向(X方向)における間隔L1及びそれぞれの膜厚は、電子放出素子の応用形態等によって適宜設計される。例えば、後述するテレビジョン等の画像表示装置に用いる場合では、解像度に対応して設計される。とりわけ、高品位(HD)テレビでは高精細さが要求されるため、画素サイズを小さくする必要がある。そのため、電子放出素子のサイズが限定されたなかで、十分な輝度を得るために、十分な放出電流Ieが得られるように設計される。
第1補助電極(2)と第2補助電極(3)とのX方向(対向する方向)における間隔L1は、実用的には5μm以上100μm以下に設定される。L1が5μm以上である理由としては、5μm未満であると、後述する「活性化」処理や駆動時に放電が生じた場合に電子放出素子に大きなダメージを与えてしまう場合があるためである。また、100μm以上であると、高精細な高品位(HD)テレビに用いる場合に設計が難しくなるためである。補助電極(2、3)の膜厚は、実用的には100nm以上10μm以下である。
補助電極(2、3)の材料としては、金属や半導体などの導電性材料を用いることができる。例えばNi、Cr、Au、Mo、W、Pt、Ti、Al、Cu、Pd等の金属或は合金およびPd、Ag、Au、RuO2、Pd−Ag等の金属或は金属酸化物等を用いることができる。
導電性膜(30a、30b)は補助電極(2、3)に比べて薄いので、補助電極(2、3)は)導電性膜(30a、30b)に比べて十分に高い熱伝導性を備える。
第1部分(5)のX方向における幅L2は、間隔L1より十分に小さく設定される。電子放出量の「ゆらぎ」を効果的に低減する上で、L2はL1/2以下、好ましくはL1/10以下であることがより好ましい。
第1部分(5)は間隙(8)の直下に位置し、L2の値はできる限り間隙(8)の幅(図1のX方向における幅L3)に近いことが望ましい。これは、導電性膜(30a、30b)と、その直下に位置する第2部分(6)との接触面積をできるだけ大きくすることが上記した本発明の効果を奏する上で望ましいためである。しかしながら、間隙(8)は、作成方法にもよるが、後述する「活性化」処理を行う場合などの様に、その幅(L3)や蛇行形状を一様に形成できない場合も多い。
そのため、実効的には、L2の値は、間隙(8)の幅(L3)よりも大きく設定される。そして、実用的には、パターニング精度などを考慮してL2は10nm以上好ましくは20nm以上に設定されることが好ましい。
いずれにしても、上述した効果を奏するために、間隙(8)の少なくとも一部が、第1部分(5)の直上の領域内に納まっている必要がある。即ち、Y方向に延在するZ−X断面の少なくとも一部のZ−X断面に存在する間隙(8)が、第1部分(5)の直上の領域内に納まっている必要がある。勿論、図26に示す様に、X−Y平面における間隙(8)が全て第1部分(5)の直上の領域内に納まっていることが好ましい。しかしながら、本発明の効果を奏する範囲内であれば、例えば、図27に示す様に、X−Y平面における間隙(8)の一部が第1部分(5)の直上の領域内からはみ出す形態を除外するものではない。
そのため、実用的には、X−Y平面における間隙(8)の80%以上が第1部分(5)の直上に納まっていることが好ましい。尚、上記80%は、X−Y平面における間隙(8)の面積の80%に置き換えることができる。また、換言すると、実用的には、一対の導電性膜(30a及び30b)の端縁の各々の、X−Y平面における間隙(8)を構成する部分の長さの80%以上が、第1部分(5)の直上に納まっていればよい。
また、間隙(8)内に位置する基体(100)の表面(第1部分(5)の表面)は、後述する「活性化」処理で説明するように、凹状であることが好ましい。このような形態であれば、第1導電性膜(30a)と第2導電性膜(30b)との沿面距離を長く保てるので、沿面耐圧を向上することができるので好ましい。
尚、第1部分(5)は、間隙(8)の直下に配置されていれば、補助電極(2)と補助電極(3)の間の中央に位置しなくても良い。また、第1部分(5)は、図26(a)に示した例においては、Y方向に直線状に形成した例を示したが、直線状でなくても構わない。
図26(c)では、第1補助電極(2)と第2補助電極(3)の間であって、導電性膜(30a、30b)が配置されていない領域においても、第2部分(6)に第1部分(5)が挟まれている場合を示している。しかし、本発明では、この形態に限定されることはなく、第1補助電極(2)と第2補助電極(3)の間であって、導電性膜(30a、30b)が配置されていない領域には第1部分がなくてもよい。すなわち、第1補助電極(2)と第2補助電極(3)間における基体(100)の表面であって、導電性膜(30a、30b)が配置されていない領域は全て、第2部分で占められている形態であっても良い。
但し、いずれの形態においても、第2の間隙(8)の直下には、第1部分(5)が配置されている。従って、第1の間隙(7)も第1部分(5)の上に配置されている。
また、本発明の電子放出素子は、様々な変形例を採用することができる。
(第2の実施形態例)
本発明の電子放出素子の変形例である第2の実施形態例の基本的な構成について図1(a)〜図1(c)を用いて説明する。
図1(a)は、本実施形態例における典型的な構成を示す模式的な平面図である。図1(b)及び図1(c)は、それぞれ、図1(a)のB−B’、C−C’における断面模式図である。図1では、第1の実施形態例で説明した部材と同じ部材には同じ番号を付してある。この形態例における、L1、L2、L3などの大きさや、各部材の材料や大きさなどは、第1の実施形態例で既に説明したものと同様である。
本実施形態例においては、第1の実施形態例における導電性膜(30a、30b)をカーボン膜(21a、21b)と電極(4a、4b)に置き換えた以外は、第1の実施形態例と同様である。尚、カーボン膜(21a、21b)は導電性を備えている。
本実施形態例においては、基体(100)上には、第1補助電極(2)と第2補助電極(3)とが配置されている。そして、第1補助電極(2)に第1電極(4a)が接続され、第2補助電極(3)に第2電極(4b)が接続されている。更に、第1電極(4a)に第1カーボン膜(21a)が接続され、第2電極(4b)に第2カーボン膜(21b)が接続されている。
また、第1電極(4a)と第2電極(4b)は、第1の間隙(7)を挟んで対向している。そして第1の間隙(7)は、少なくともその一部(好ましくは全て)が第1部分(5)の直上に配置されている。
また、第1カーボン膜(21a)と第2カーボン膜(21b)は、第2の間隙(8)を挟んで対向している。そして第2の間隙(8)は、第1の間隙(7)の内側に配置される。即ち、第1の間隙(7)の幅(電極(4a)と電極(4b)との間隔)は、第2の間隙(8)の幅(第1カーボン膜(21a)と第2カーボン膜(21b)との間隔)よりも大きい。
そして、本実施形態例における第2の間隙(8)が、第1の実施形態例における間隙(8)に対応する。そのため、この形態例では、第2の間隙(8)が、第1カーボン膜(21a)の端縁(外縁)と第2カーボン膜(21b)の端縁(外縁)とが対向することで構成されている。
そして、一方のカーボン膜(21aまたは21b)の端縁の一部であって、第2の間隙(8)の外縁を構成する部分に多数の電子放出部が存在すると考えられる。例えば、第1補助電極(2)の電位を第2補助電極(3)の電位よりも高くして駆動させた時には、第2補助電極(3)に接続する第2カーボン膜(30b)がエミッターに相当する。即ち、第2カーボン膜(30b)の端縁の一部であって、第2の間隙(8)の外縁を構成する部分に多数の電子放出部が存在することになる。
図1(a)〜図1(c)に示す形態例では、第1の実施形態例における第1導電性膜(30a)を第1電極(4a)と第1カーボン膜(21a)とで構成している。そして、第2導電性膜(30b)を第2電極(4b)と第2カーボン膜(21a)とで構成している。この様な形態を採用することで、導電性膜(30a、30b)を、電子放出膜(エミッター)として機能するカーボン膜(21a、21b)と、抵抗体として機能する電極(4a、4b)とに機能を切り分ける事ができる。即ち、電極(4a、4b)の抵抗値を制御することで、補助電極(2、3)から第2の間隙(8)までの実効的な抵抗値の大部分を制御することができる。その結果、第1カーボン膜(21a)と第2カーボン膜(21b)との間の放電を抑制することができ、また、「ゆらぎ」の更なる抑制を行うことができる。
第1の間隙(7)の幅は、典型的には10nm以上1μm以下に設定される。また、第2の間隙(8)は、ドライバーのコストを考慮して駆動電圧を40V以下にするため、及び、駆動時の予期せぬ電圧変動による放電を抑制するために、典型的には1nm以上10nm以下に設定される。
尚、図1では、第1カーボン膜(21a)と第2カーボン膜(21b)を完全に分離された2つの膜として示した。しかし、第2の間隙(8)は上述したように非常に狭い幅であるので、第2の間隙(8)と第1カーボン膜(21a)と第2カーボン膜(21b)とをまとめて、「間隙を備える導電性膜」と表現することができる。
また、第1カーボン膜(21a)と第2カーボン膜(21b)は極めて微小な領域で繋がっている場合もある。極めて微小な領域であれば、その領域は高抵抗であるので電子放出特性への影響は限定的であるので許容できる。この様な、第1カーボン膜(21a)と第2カーボン膜(21b)が一部で繋がった形態も、「間隙を備える導電性膜」と表現することができる。
尚、図1(a)では第2の間隙(8)が特別な周期性をもたずに蛇行している例を示した。しかしながら、本実施形態例において、間隙(8)は、必ずしも蛇行している必要はない。直線状であったり、周期性をもって折れ曲がったり、円弧状であったり、円弧と直線を組み合わせた形態など所望の形態であっても良い。
ここで、第2の間隙(8)は、第1カーボン膜(21a)の端縁(外縁)と第2カーボン膜(21b)の端縁(外縁)とが対向することで構成されている。
そして、一方のカーボン膜(21aまたは21b)の端縁の一部であって、間隙(8)の外縁を構成する部分に多数の電子放出部が存在すると考えられる。例えば、第1補助電極(2)の電位を第2補助電極(3)の電位よりも高くして駆動させた時には、第2補助電極(3)に接続する第2カーボン膜(21b)がエミッターに相当する。即ち、第2カーボン膜(21b)の端縁の一部であって、間隙(8)の外縁を構成する部分に多数の電子放出部が存在することになる。
第2の間隙(8)は、第1の実施形態例と同様に、その全てが第1部分(5)の直上に納まることが好ましいが、実用的には、80%以上が第1部分(5)の直上に納まっていることが好ましい。
第1の間隙(7)は、電子ビームリソグラフィーやFIB(集束イオンビーム)などの各種加工技術を導電性膜に施すことによって形成することができる。そのため、本発明の電子放出素子の第1の間隙(7)は、後述する「通電フォーミング」処理で形成するものに限定されることはない。また、同様に、第2の間隙(8)は、FIB(集束イオンビーム)などのナノスケールの各種高精細な加工方法をカーボン膜に施すことによっても形成することができる。そのため、本発明の電子放出素子の第2の間隙(8)は、後述する「活性化」処理で形成するものに限定されることはない。
この様な構成を採用することで、実施形態例1と同様に電子放出量の「ゆらぎ」を低減することができる。この理由は定かではないが、おそらく、第2の間隙(8)の両脇に熱伝導率の高い第2部分(6)が存在することで、駆動時の電極(4a、4b)の温度上昇を抑制できるためではないかと考えている。これにより、駆動中における、電極(4a、4b)の材料の拡散や変形、あるいは、基体100中に存在する不純物イオンなどの拡散が抑制されるのではないかと考えている。
即ち、補助電極(2または3)から各電子放出部に流れ込む電流や補助電極(2または3)から各電子放出部までの実効的な抵抗値のバラツキが抑制されるのではないかと考えている。その結果、駆動時に第2の間隙(8)への実効的に印加される電圧が安定になり、放出電流Ie(または輝度)の「ゆらぎ」が抑制されるものと考えている。
電極(4a、4b)の材料としては、金属や半導体などの導電性材料を用いることができる。例えばPd、Ni、Cr、Au、Ag、Mo、W、Pt、Ti、Al、Cu、Pd等の金属或はそれらの合金等を用いることができる。電極(4a、4b)の抵抗値を大きくし過ぎると、所望の電子放出量を得ることができず、結果として「ゆらぎ」を低減できなくなってしまう場合がある。そのため、電極(4a、4b)は、後述する「通電フォーミング」処理を良好に行う場合なども考慮して、Rs(シート抵抗値)が102Ω/□以上107Ω/□以下の範囲で形成されることが好ましい。上記抵抗値を示す膜厚としては、具体的には5nm〜50nmの範囲にある。なおRsは、厚さがt、幅がwで長さがlの膜の長さ方向に測定した抵抗Rを、R=Rs(l/w)とおいたときに現われる値で、抵抗率をρとすればRs=ρ/tである。また、電極(4a、4b)の幅W’(図1参照)は、好ましくは補助電極(2、3)の幅Wよりも小さく設定される。WをW’よりも広く設定することで、補助電極(2,3)から各電子放出部への距離のばらつきを低減できる。W’の値に特に制限はないが、実用的な範囲として10μm以上500μm以下であることが好ましい。尚、電極(4a、4b)は補助電極(2、3)に比べて薄いので、補助電極(2、3)は電極(4)に比べて十分に高い熱伝導性を備える。
カーボン膜(21a、21b)は炭素を含む膜で構成される。そして、炭素を主成分とする膜であることが好ましい。尚、炭素を主成分とする膜は、実用的には、70wt%以上、好ましくは80wt%以上の炭素がカーボン膜中に含まれる。そして、カーボン膜(21a、21b)は導電性である。また、カーボン膜(21a、21b)は、グラファイト状炭素を含むことが好ましい。グラファイト状炭素とは、完全なグラファイトの結晶構造を有するもの(いわゆるHOPG)を包含する。また、結晶粒が20nm程度で結晶構造がやや乱れたもの(PG)を包含する。また、結晶粒が2nm程度になり結晶構造の乱れがさらに大きくなったもの(GC)を包含する。そして、また、非晶質カーボンであるもの(アモルファスカーボン及び/あるいはアモルファスカーボンと前記グラファイトの微結晶の混合物を指す)をも包含する。
すなわち、グラファイト粒子間の粒界などの層の乱れが存在していてもカーボン膜(21a、21b)として好ましく用いることができる。
尚、補助電極(2、3)は第1の実施形態例で説明したように、省略することもできる。
基体(100)については、第1の実施形態例で説明したものを採用することができる。
第1部分(5)は、「活性化」処理で高い電子放出特性(特には高い電子放出量)を実現するためにも、また駆動時の安定性のためにも、酸化シリコン(典型的にはSiO2)を含むことが好ましい。そして、特には、第1部分(5)は、酸化シリコンを主体とすることが好ましい。酸化シリコンを主体とする場合には、実用的には、第1部分(5)中に含まれる酸化シリコンは、80wt%以上、好ましくは90wt%以上である。
第2の間隙(8)の幅は、1nm〜10nmナノメートルオーダーである。そのため、駆動時に第1部分(5)の変形が生じると、第2の間隙(8)の形状に影響が生じ、放出電流(Ie)や素子電流(If)における変動を誘発してしまう。酸化シリコン(典型的にはSiO2)は線熱膨張係数が非常に小さいので、駆動時に第2の間隙(8)近傍が高温になっても、「ゆらぎ」などの、放出電流(Ie)や素子電流(If)における変動を特に効果的に抑制することができる。また、このような効果を再現性良く発現するためには、第2部分(6)の熱伝導率が、第1部分(5)の熱伝導率の4倍以上であることが好ましい。
第1部分(5)は第2の間隙(8)の直下に位置し、L2の値はできる限り第2の間隙(8)の幅(図1のX方向における幅)に近いことが望ましい。これは、電極(4a、4b)と、その直下に位置する第2部分(6)との接触面積をできるだけ大きくすることが上記した本発明の効果を奏する上で望ましいためである。しかしながら、間隙(8)は、作成方法にもよるが、後述する「活性化」処理を行う場合などの様に、その幅(L3)や蛇行形状を一様に形成できない場合も多い。
そのため、実効的には、L2の値は、第2の間隙(8)の幅よりも大きく設定される。そして、実用的には、パターニング精度などを考慮してL2は10nm以上好ましくは20nm以上に設定されることが好ましい。
いずれにしても、上述した効果を奏するために、間隙(8)の少なくとも一部が、第1部分(5)の直上の領域内に納まっている必要がある。即ち、Y方向に連続するZ−X断面の少なくとも一部のZ−X断面に存在する間隙(8)が、第1部分(5)の直上の領域内に納まっている必要がある。勿論、図1に示す様に、X−Y平面における間隙(8)が全て第1部分(5)の直上の領域内に納まっていることが好ましい。しかし、第1の実施形態例で述べた様に、本発明の効果を奏する範囲であれば、図27に示す様なX−Y平面における間隙(8)の一部が第1部分(5)の直上の領域内からはみ出す形態を除外するものではない。
そのため、実用的には、X−Y平面における間隙(8)の80%以上が第1部分(5)の直上に納まっていることが好ましい。尚、上記80%は、X−Y平面における間隙(8)の面積の80%に置き換えることができる。また、換言すると、実用的には、一対の導電性膜(30a及び30b)の端縁の各々の、X−Y平面における間隙(8)を構成する部分の長さの80%以上が、第1部分(5)の直上に納まっていればよい。
尚、第1部分(5)は、第2の間隙(8)の直下に配置されていれば、補助電極(2)と補助電極(3)の間の中央に位置しなくても良い。また、第1部分(5)は、図1(a)に示した例においては、Y方向に直線状に形成した例を示したが、直線状でなくても構わない。
図1(c)では、第1補助電極(2)と第2補助電極(3)の間であって、電極(4a、4b)が配置されていない領域においても、第2部分(6)に第1部分(5)が挟まれている場合を示している。しかし、本発明では、この形態に限定されることはなく、第1補助電極(2)と第2補助電極(3)の間であって、電極(4a、4b)が配置されていない領域には第1部分がなくてもよい。すなわち、第1補助電極(2)と第2補助電極(3)間における基体(100)の表面であって、電極(4a、4b)が配置されていない領域は全て、第2部分で占められている形態であっても良い。
但し、いずれの形態においても、第2の間隙(8)の直下には、第1部分(5)が配置されている。従って、第1の間隙(7)の少なくとも一部は第1部分(5)の上に配置されていることになる。
(第3の実施形態例)
本発明の電子放出素子の変形例である第3の実施形態例の基本的な構成について図3を用いて説明する。
図3(a)は模式的な平面図である。図3(b)及び図3(c)は、それぞれ、図3(a)のB−B’、C−C’における断面模式図である。図3では、第1〜第2の実施形態例で説明した部材と同じ部材には同じ番号を付してある。この形態例における、L1、L2などの大きさや、各部材の材料や大きさなどは、第1〜第2の実施形態例で既に説明したものと同様である。
図1に示した第2の実施形態例では、第1部分(5)が第2部分(6)で挟まれていたが、図3に示した本実施形態例では、第1部分(5)と第2部分(6)とが並設している。そのため、基体(100)の構造と、それに伴う第2の間隙(8)の位置が第2の実施形態例と異なる以外は、本質的に図1に示した第2の実施形態例と同様である。
また、前述した「ゆらぎ」の抑制効果と同等の効果が、図3に示した形態であっても得ることができる。
但し、図3(a)〜図3(c)に示した形態においては、補助電極2が補助電極3よりも第2の間隙(8)の近傍に位置している。そのため、電子放出させる際(駆動時)には、第2補助電極(3)の電位を第1補助電極2よりも電位が低くなるようにして駆動することが好ましい。
この様に駆動することで、電位が低い側の補助電極(3)に接続する第2電極(4b)がエミッタ側になる。そして、第2カーボン膜(21b)の端縁であって、第2の間隙(8)を構成する部分に電子放出部が存在することになる。そこで、エミッタ側の電極(4b)の直下には高抵抗な第2部分(6)を配置することで、第1電極(4a)側を低電位に設定するよりも、放電が生じた場合でもダメージを低減することができる。
図3(c)では、第1補助電極(2)と第2補助電極(3)の間であって、電極(4a、4b)が配置されていない領域でも、第2部分(6)と第1部分(5)とが並設された例を示している。また、補助電極(2、3)や電極(4a、4b)が配置されていない領域には、第1部分(5)および第2部分(6)とは異なる熱伝導性を備えた部分が配置されていてもよい。また、補助電極(2)と補助電極(3)の間であって、電極(4a、4b)およびカーボン膜(21a、21b)が配置されていない領域には第1部分(5)がなくてもよい。すなわち、補助電極(2)と補助電極(3)間における基体(100)の表面であって、電極(4a、4b)が配置されていない領域は全て、第2部分(6)で占められている形態であっても良い。但し、いずれの形態においても、第2の間隙(8)の直下には、第1部分(5)が配置されている。従って、第1の間隙(7)も第1部分(5)の上に配置されている。
また、本実施形態例で示した基体(100)の構造は、第1の実施形態例の基体(100)の構造にも適用することができる。即ち、その場合は、図3で示した、第1電極(4a)と第1カーボン膜(21a)が第1導電性膜(30a)に置き換わり、第2電極(4b)と第2カーボン膜(21b)が第2導電性膜(30b)に置き換わる。
(第4の実施形態例)
本発明の電子放出素子の変形例である第4の実施形態例の基本的な構成について図4を用いて説明する。
図4において、第1〜第3の実施形態例で説明した部材と同じ部材には同じ番号を付してある。この形態例における、L1、L2などの大きさや、各部材の材料や大きさなどは、第1〜第3の実施形態例で既に説明したものと同様である。
図4(a)は模式的な平面図であり、図4(b)、図4(c)はそれぞれ図4(a)のB−B’、C−C’における断面模式図である。
この変形例においては、図4(b)に示す様に、電極(4a、4b)上に、第2の間隙(8)が露出する開口を備えた第2部分6が配置されている。図1、図3で示した形態においては、第1部分(5)及び第2部分(6)が電極(4a、4b)の下側に配置された場合を示したが、この例は、電極(4a、4b)の上側に配置した。尚、本変形例における第1部分(5)は、開口に相当する。本発明の電子放出素子は真空中で駆動するものであるから、本変形例では、第1部分(5)が真空となる。
この形態例においては、第2の実施形態例と同様にカーボン膜(21a、21b)を用いる場合には、図4(b)に示すように、第2部分(6)の開口部の側面を導電性膜(21a、21b)で覆うことが好ましい。第1の実施形態例で説明したように、第2部分(6)は高抵抗な部材であり、好ましくは絶縁体である。そのため、間隙(8)から放出された電子が、この開口を通過する際に、放出された電子の一部が第2部分(6)に衝突し、第2部分(6)の開口内がチャージアップする可能性がある。そこで、開口内の表面(開口内の側面)を導電性を有する導電性膜(21a、21b)で覆うことが好ましい。この様にすることで、開口内の第2部分(6)の表面(側面)に電子が衝突しても、放出された電子のビーム軌道への影響を抑制することができる。また、間隙(8)から放出された電子の広がり(電子ビーム径)は、開口で規定することができる。そのため、前述した「ゆらぎ」の抑制効果に加え、開口の形状を制御するだけで、本実施形態例の電子放出素子では高精細な電子ビームを放出することができるという効果を備える。そして、本実施形態例の電子放出素子用いた画像表示装置においては、高精細で安定した表示画像を得ることができる。
(第5の実施形態例)
本発明の電子放出素子の変形例である第5の実施形態例の基本的な構成について図6を用いて説明する。
図6において、第1〜第4の実施形態例で説明した部材と同じ部材には同じ番号を付してある。この形態例における、L1、L2などの大きさや、各部材の材料や大きさなどは、第1〜第4の実施形態例で既に説明したものと同様である。
図6に示した本実施形態例では、第1のカーボン膜21aと第2のカーボン膜21bとが対向する方向を、基板1の表面に対して交差するように配置した例である。より具体的には、第1部分(5)と第2部分(6)と第1補助電極(2)とを基板(1)上に積層した例である。この形態例においても、基板(1)と第1部分(5)と第2部分(6)とで基体(100)が構成されている。
そのため、第2の間隙(8)が、第1部分(5)と第2部分(6)と第1補助電極(2)とで構成された積層体の側面(第1部分(5)の側面)に配置されている。それ以外は、本質的に、図1や図3に示した、第2および第3の実施形態例と同様である。また、前述した「ゆらぎ」の抑制効果と同等の効果が、図6に示した形態であっても得ることができる。
図6(a)は模式的な平面図であり、図6(b)は図6(a)のB−B’断面図である。図6(c)および図6(d)は、図6(a)のB−B’断面図における別の形態例である。
本実施形態例においても、前述した図1の様に、第1部分(5)は、第2部分(6)に挟まれて配置されていても良い(図6(b))。即ち、基板(1)上に、第2部分(6)、第1部分(5)、第2部分(6)、第1補助電極(2)の順番で積層された形態でも良い。
また、前述した図3で示した形態例の様に、第1部分(5)と第2部分(6)とが並設された形態であっても良い。即ち、第1部分(5)が第1補助電極(2)と第2部分(6)との間に配置されていても良い(図6(c))。即ち、基板(1)上に、第2部分(6)、第1部分(5)、第1補助電極(2)の順番で積層された形態でも良い。
また、図6(d)のように第1補助電極(2)の端部が、第1部分(5)の端部から離れていてもかまわない。このようにすることで、第1補助電極と第1カーボン膜(21a)との距離、即ち第1補助電極と第2の間隙(8)との距離を長くとることができる。その結果、第1電極4aの抵抗値を制御することで、第3の実施形態例で既に述べたように、放電が起こっても、電子放出部へのダメージを抑制することができる。
尚、ここで示した例では、第2の間隙(8)が配置される、積層体の側面が、基板(1)表面に対して実質的に垂直に配置されている。
第1の実施形態例では、第1導電性膜(30a)と第2導電性膜(30b)とが対向する方向が基板1の平面方向(X方向)であった。また、第2〜第4の実施形態例では、第1カーボン膜(21a)と第2カーボン膜(21b)とが対向する方向が基板1の平面方向(X方向)であった。
しかしながら、第1カーボン膜(21a)と第2カーボン膜(21b)とが対向する方向が基板(1)表面に対して垂直であることが電子放出効率(η)を向上させる観点から好ましい。
本発明の電子放出素子では、駆動時において、図10を用いて後述するように、基板(1)の平面に対してZ方向に離れてアノード電極(44)が配置される。
そのため、本実施形態例のように、第1カーボン膜(21a)と第2カーボン膜(21b)とが対向する方向がアノード電極(44)に向かっていると、電子放出効率(η)を高くすることができる。
但し、本実施形態例において、積層体の側面が基板(1)の表面に対し垂直に限定されることはない。実効的には、積層体の側面が基板(1)の表面に対して、30度以上90度以下に設定されることが好ましい。
尚、電子放出効率(η)とは、電子放出量(Ie)/素子電流(If)で表される値である。ここで、電子放出量(Ie)はアノード電極(44)に流れ込む電流であり、素子電流(If)は第1補助電極(2)と第2補助電極(3)との間を流れる電流で規定することができる。
そして、電子放出効率(η)を高くするためには、図6で示した形態例において、第1補助電極(2)の電位を第2補助電極(3)の電位よりも高く設定して駆動することが好ましい。この様にすれば、間隙(8)近傍から放出される電子の出射方向がアノード補助電極(44)に向いているために、素子電流(If)に対して、アノード補助電極に到達する電流(電子放出量)を多くすることができる。
このように、駆動時において、第2補助電極(3)の電位に比べて第1補助電極(2)の電位を高く設定する場合には、第2部分(6)は高い絶縁性を有することが好ましい。この様な駆動を行った際には、第3の実施形態例で説明したように、第2補助電極(3)側に接続される第2カーボン膜(21b)が電子放出体(エミッタ)になる。そのため、第2電極(4b)の直下に位置する第2部分(6)が高い絶縁性であれば、仮に放電が起きたとしても電子放出部へのダメージを抑制することができる。
また、本実施形態例で示した基体(100)の構造は、第1の実施形態例の基体(100)の構造にも適用することができる。即ち、その場合は、図6で示した、第1電極(4a)と第1カーボン膜(21a)が第1導電性膜(30a)に置き換わり、第2電極(4b)と第2カーボン膜(21b)が第2導電性膜(30b)に置き換わる。
次に、本発明の電子放出素子の製造方法について説明する。以下に説明する本発明の製造方法によれば、上述した第1〜第5の実施形態例の電子放出素子を形成することができる。
尚、上述した本発明の電子放出素子を形成するための製造方法は、前述したように、以下に示す「通電フォーミング」処理および「活性化」処理を用いた製造方法に限定されるものではない。
以下では、第1の間隙(7)を「通電フォーミング」処理により形成する手法を示す。以下の製造方法によれば、「通電フォーミング」処理において、第1の間隙(7)の位置および形状を簡易に制御することができる。その結果、更に、「活性化」処理を施すことで、第2の間隙(8)を前述した第1部分(5)の直上に配置することができるため、電子放出部の位置を制御することができる。
以下では、図1に示した第2の実施形態例の電子放出素子を「通電フォーミング」処理および「活性化」処理を用いて形成する場合の例について説明する。
まず、従来技術で述べた補助電極(2)と補助電極(3)とを接続した導電性に「通電フォーミング」処理を行う際における、第1の間隙(7)の生成過程について述べる。
第1の間隙(7)が形成される過程の極めて初期の段階では、まず、電極(4)の極めて微小な一部が、ジュール熱によって、高抵抗化する(亀裂が発生する)と考えられる。尚、この段階では、最終的に形成される第1の間隙(7)の一部が形成されるだけである。即ち、補助電極(2)と補助電極(3)とが対向する方向(X方向)に対しておおよそ垂直な方向(Y方向)において、電極4の端から端まで間隙7が形成されている訳ではない。そして、上述した高抵抗化(亀裂の発生)により、「通電フォーミング」で印加する電圧に起因する電極4中を流れる電流分布が変化する。そのため、今度は、電極4中の別の部分に電流の集中が起こり、その部分の高抵抗化(亀裂の発生)が起こると考えられる。このような高抵抗化が次々と連鎖的に生じることによって、高抵抗化した部分(亀裂)同士が徐々に繋がっていき、最終的に、電極(4)のX方向における両端部(両端部近傍)をつなぐ第1の間隙7が形成されると考えられている。
以上を踏まえて、第2の実施形態例の電子放出素子を例にして、本発明の製造方法の一例を図2を用いて以下に具体的に説明する。本発明の製造方法は、例えば以下の工程(1)〜工程(5)によって行うことができる。
(工程1)
基板(1)を十分に洗浄し、フォトリソグラフィー技術(レジスト塗布、露光、現像、エッチング)を用いて、第1部分(5)を形成する。その後、第2部分を形成するための材料を、真空蒸着法、スパッタ法、CVD法等により堆積する。その後、剥離剤を用いてリフトオフを行い、第2部分(6)が第1部分(5)を挟むように第1部分(5)と第2部分(6)を配置する(図2(a))。
このとき、第2部分(6)の表面と第1部分(5)の表面(即ち、基体(100)の表面)がほぼ平らになる様に形成することが好ましい。しかし、後述する工程3で形成する導電性膜4の膜厚に特段の変化がなければ第2部分(6)の表面に対して第1部分(5)の表面が多少凹凸状になっていてもかまわない。
また、ここでは、第1部分(5)および第2部分(6)を基板(1)上に形成する例を示す。しかしながら、第1部分(5)と第2部分(6)の一方または両方が、基板(1)の一部で形成されていても良い。
基板(1)としては、石英ガラス、青板ガラス、ガラス基板にスパッタ法等公知の成膜方法により形成した酸化シリコン(典型的にはSiO2)を積層したガラス基板、あるいは、アルカリ成分を減らしたガラス基板を用いることができる。本発明では、基板(1)として、酸化シリコン(典型的にはSiO2)を含んだ材料が望ましい。
第1部分(5)は、第2の間隙(8)の直下に位置する。そのため、間隙(8)において、電子の量子力学的なトンネル現象を効率良く行うために、第1部分(5)は、十分に高い絶縁性を有することが必要である。
そのため、第1部分(5)は絶縁性材料で構成されていることが好ましい。具体的には、第1部分(5)を構成する材料の抵抗率は、実用的には、第2部分(6)を構成する材料の抵抗率(108Ω・m以上)と同じかそれ以上であることが好ましい。また、シート抵抗値で換言すると、第1部分(5)のシート抵抗値は、第2部分(6)のシート抵抗値(1013Ω/□以上)と同じかそれ以上であることが好ましい。
そして、後述する「活性化」処理によって良好な電子放出特性を得る上で、酸化シリコン(典型的にはSiO2)を含む絶縁体であることが望ましい。そして、特には、第1部分(5)は、酸化シリコンを主体とすることが好ましい。酸化シリコンを主体とする場合には、実用的には、第1部分(5)中に含まれる酸化シリコンは、80wt%以上、好ましくは90wt%以上である。
第2部分(6)には、第1部分(5)よりも高い熱伝導性を示す部材を用いる。具体的には、第1部分(5)の熱伝導率の4倍以上であることで、第1の間隙(7)の位置を第1部分(5)上に高い確率で配置することができるので好ましい。また、第2部分(6)には、後述する工程3で形成する導電性膜(4)よりも高抵抗な材料を用いる。工程3で形成される導電性膜(4)より第2部分(6)が高抵抗であると、導電性膜(4)によって繋がれる補助電極(2,3)間の抵抗値が導電性膜(4)の抵抗よりも下がることがない。その結果、後述する「活性化」処理の際に放電が生じる可能性を低くすることができる。また、仮に放電が生じた場合においても、第2部分(6)に存在する電子の量が少ないので、放電の影響を低減することができる。また、駆動の際の放出電流(Ie)を安定させることができるので、画像表示装置に用いる場合、良好な画像を維持できない場合がある。
そのため、第2部分(6)は電極(4)よりも高抵抗であり、その材料としては、抵抗率が108Ωm以上の材料が好ましい。また、シート抵抗値で換言すると、第2部分(6)のシート抵抗は、1013Ω/□以上以上であることが好ましい。
第2部分(6)を形成するための材料としては、前述した様に、第1部分(5)の材料よりも熱伝導率が高い材料が選択される。具体的には、窒化シリコン、アルミナ、窒化アルミニウム、五酸化タンタル、酸化チタンを用いることができる。また、第2部分(6)を上記した材料で形成し、第1部分(5)を酸化シリコンを主体とする絶縁体で形成すれば、後述する「活性化」処理により、実効的な電子放出部(第2の間隙(8))を第1部分(5)の直上に配置することができる。これは、後述する「活性化」処理が、酸化シリコンを含む部材上で効果的に行われるためである。上述したような、第2部分(6)に用いる材料では、「活性化」処理を行っても、電子放出特性が向上せず、良好な電子放出特性を生み出す第2の間隙(8)が形成されないためであると考えている。従って、例え「通電フォーミング」処理で第1の間隙(7)の一部が第1部分(5)の直上から外れても、「活性化」処理を施すことで、電子放出部を実効的に第1部分(5)上にのみ形成することができる。
また、第2部分(6)の厚さは、上記材料の選択にもよるが、本発明の効果上、10nm以上が好ましく、より好ましくは、100nm以上である。また、厚みに上限はないが、プロセスの安定性や基板1との熱応力の関係上10μm以下が好ましい。
第1の間隙(7)の形状の制御を行う上で、第1部分(5)のX方向における幅L2は、間隔L1より十分に小さく設定される。電子放出量の「ゆらぎ」を効果的に低減する上で、実用的には、L2はL1/2以下、好ましくはL1/10以下に設定される。また、第1の間隙(7)の蛇行の範囲を抑制する効果を実用的に発現するためには、第2部分(6)の熱伝導率が、第1部分(5)の熱伝導率の4倍以上であることが好ましい。
(工程2)
次に、補助電極(2,3)を形成するための材料を、真空蒸着法、スパッタ法等により堆積する。そして、フォトリソグラフィー技術などを用いてパターニングすることにより、第1補助電極(2)および第2補助電極(3)を形成する(図2(b))。
このとき第1部分(5)と第2部分(6)の境界が第1補助電極(2)と第2補助電極(3)との間に位置するように形成する。ここでは、第1部分(5)を第2部分(6)で挟んだ形態であるので、第1部分(5)と第2部分(6)との2つの境界が、第1補助電極(2)と第2補助電極(3)との間に位置するように形成する。図3で示した実施形態例では、第1部分(5)と第2部分(6)との1つの境界が、第1補助電極(2)と第2補助電極(3)との間に位置するように形成する。
補助電極(2,3)の材料としては、金属や半導体などの導電性材料を用いることができる。例えばNi、Cr、Au、Mo、W、Pt、Ti、Al、Cu、Pd等の金属或は合金およびPd、Ag、Au、RuO2、Pd−Ag等の金属或は金属酸化物、半導体等を用いることができる。補助電極(2、3)の膜厚や、間隔(L1)や、幅(W)などは、前述した第1〜第2の実施形態例で述べた値を適宜適用すれば良い。
(工程3)
続いて、基板1上に設けられた第1補助電極(2)と第2補助電極(3)との間を接続する導電性膜4を形成する(図2(c))。
導電性膜4の製造方法としては、例えば、まず、有機金属溶液を塗布して乾燥することにより、有機金属膜を形成する。そして、有機金属膜を加熱焼成処理し、金属膜あるいは金属酸化物膜などの金属化合物膜とする。その後、リフトオフ、エッチング等によりパターニングすることで導電性膜4を得る方法を採用とすることができる。
導電性膜4の材料としては、金属や半導体などの導電性材料を用いることができる。例えば、Ni、Cr、Au、Mo、W、Pt、Ti、Al、Cu、Pd等の金属或は金属化合物(合金や金属酸化物など)を用いることができる。
なお、ここでは、有機金属溶液の塗布法により説明したが、導電性膜4の形成法はこれに限られるものではない。例えば、真空蒸着法、スパッタ法、CVD法、分散塗布法、ディッピング法、スピンナー法、インクジェット法等の公知の手法によっても形成することも出来る。
次の工程で「通電フォーミング」処理を良好に行うために、導電性膜4は、Rs(シート抵抗)が102Ω/□以上107Ω/□以下の抵抗値の範囲で形成される。
なおRsは、厚さがt、幅がwで長さがlの膜の長さ方向に測定した抵抗Rを、R=Rs(l/w)とおいたときに現われる値で、抵抗率をρとすればRs=ρ/tである。
上記抵抗値を示す膜厚としては、実用的には、5nm〜50nmの範囲にある。また、導電性膜4の幅W’(図1参照)は補助電極(2、3)の幅Wよりも小さく設定される。
尚、工程3と工程2は順序を入れ替えることも可能である。
(工程4)
つづいて、「通電フォーミング」処理を行う。具体的には、導電性膜(4)に電流を流すことにより行う。導電性膜(4)に電流を流すためには、具体的には、第1補助電極(2)と第2補助電極(3)の間に電圧を印加することで行うことができる。
導電性膜(4)に電流を流すことにより、導電性膜(4)の一部(第1部分(5)上)に第1の間隙(7)が形成される。その結果、第1の間隙(7)を挟んで、X方向に、第1電極(4a)と第2電極(4b)とが対向して配置される。(図2(d))。尚、第1電極(4a)と第2電極(4b)は微小な部分で繋がっている場合もある。
「通電フォーミング」処理以降の処理は、例えば、図10に示す真空装置内に上記工程1〜3を終えた基体(100)を配置し、内部を真空にした後で行うことができる。
なお、図10に示した測定評価装置は真空装置(真空チャンバー)を備えており、該真空装置には不図示の排気ポンプ及び真空計等の真空装置に必要な機器が具備されている。内部は、所望の真空下で種々の測定評価を行えるようになっている。
なお、排気ポンプ(不図示)は、磁気浮上ターボポンプ、ドライポンプ等のオイルを使用しない高真空装置用と、イオンポンプからなる超高真空装置系用とを備えることができる。
また、本測定評価装置には、不図示のガス導入装置を付設することで、後述する「活性化」処理に用いる炭素含有ガスを所望の圧力で真空装置内に導入することができる。また、真空装置全体、及び真空装置内に配置された基体(100)は、不図示のヒーターにより加熱することができる。
「通電フォーミング」処理は、パルス波高値が定電圧(一定)であるパルス電圧を繰り返し第1補助電極(2)と第2補助電極(3)との間に印加することによって行うことができる。また、パルス波高値を徐々に増加させながら、パルス電圧を印加することによって行うこともできる。パルス波高値が一定である場合のパルス波形の例を図11(a)に示す。図11(a)中、T1及びT2は電圧波形のパルス幅とパルス間隔(休止時間)であり、T1は1μsec〜10msec、T2は10μsec〜100msecとすることができる。印加するパルス波形自体は、三角波や矩形波を用いることができる。
次に、パルス波高値を増加させながら、パルス電圧を印加する場合のパルス波形の例を図11(b)に示す。図11(b)中、T1及びT2は電圧波形のパルス幅とパルス間隔(休止時間)であり、T1は1μsec〜10msec、T2は10μsec〜100msecとすることができる。印加するパルス波形自体は、三角波や矩形波を用いることができる。印加するパルス電圧の波高値は、例えば0.1Vステップ程度ずつ、増加させる。
以上説明した例においては、第1補助電極(2)と第2補助電極(3)との間に三角波パルスを印加している。しかしながら、補助電極2,3間に印加する波形は三角波に限定することはなく、矩形波など所望の波形を用いてもよい。また、その波高値及びパルス幅、パルス間隔等についても上述の値に限ることない。第1の間隙(7)が良好に形成されるように、電子放出素子の抵抗値等にあわせて、適切な値を選択することができる。
次に、図9を用いて、「通電フォーミング」処理において、本発明の製造方法で、第1の間隙(7)の形状が制御される理由について説明する。
従来の「通電フォーミング」処理を施した場合の通電中における温度分布を図9(b)に示す。この場合には、ジュール熱による温度分布が補助電極2,3間でブロードになる。その結果、前述したようなさまざまな不均一性により、図8(a)に示したように第1の間隙(7)が大きく蛇行する場合がある。一方、本発明の製造方法では、「通電フォーミング」処理を施した場合の通電中における温度分布は図9(a)のように急峻にすることができる。
本発明の場合には、第1部分(5)よりも熱伝導率が高い第2部分(6)へ熱が拡散するため、ジュール熱による温度分布は、従来の「通電フォーミング」よりも急峻になる。前述した様な様々な不均一性が多少あっても、第1部分(5)の幅L2の直上に第1の間隙(7)を配置することができる。L2の幅を前述した範囲をあまり大きく外れると、図25に示すように、第1の間隙(7)の全てが、第1部分(5)の直上に納まらなくなる場合もある。しかし、その場合でも、前述したように、第1部分(5)と第2部分(6)の材料を選択することで、後述する「活性化」処理により、実効的に、第1部分(5)上にのみ電子放出部を配置することができる。
(工程5)
次に、好ましくは、「活性化」処理を施す(図2(e))。
「活性化」処理は、例えば、図10に示した真空装置内に炭素含有ガスを導入し、炭素含有ガスを含む雰囲気下で、補助電極2,3間に両極性の電圧を印加することで行うことができる。
この処理により、雰囲気中に存在する炭素含有ガスから、カーボン膜(21a、21b)を形成することができる。具体的には、第1電極(4a)と第2電極(4b)との間の基体(100)上(第1部分(5)上)およびその近傍の電極(4a、4b)上にカーボン膜(21a、21b)を堆積させることができる。
上記炭素含有ガスとしては例えば有機物質ガスを用いることができる。有機物質としては、アルカン、アルケン、アルキンの脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、アミン類、フェノール、カルボン、スルホン酸等の有機酸類等を挙げることが出来、具体的には、メタン、エタン、プロパンなどCn H2n+2で表される飽和炭化水素、エチレン、プロピレンなどCn H2n等の組成式で表される不飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルアミン、エチルアミン、フェノール、蟻酸、酢酸、プロピオン酸等が使用できる。
また、真空装置内の好ましい炭素含有ガスの分圧は、電子放出素子の形態、真空容器の形状や、用いる炭素含有ガスの種類などにより異なるため、適宜設定される。
上記「活性化」処理中に補助電極2,3間に印加する電圧波形としては、例えば図12(a)あるいは図12(b)に示したパルス波形を用いることもできる。印加する最大電圧値(絶対値)は、10〜25Vの範囲で適宜選択することが好ましい。
図12(a)中、T1は、印加するパルス電圧のパルス幅、T2はパルス間隔である。この例では、電圧値は正負の絶対値が等しい場合を示しているが、電圧値は正負の絶対値が異なる場合もある。また、図12(b)中、T1は正の電圧値のパルス電圧のパルス幅であり、T1’は負の電圧値のパルス電圧のパルス幅である。T2はパルス間隔である。尚、この例においては、T1>T1’に設定し、電圧値は正負の絶対値が等しく設定されている場合を示しているが、電圧値は正負の絶対値が異なる場合もある。「活性化」処理は、素子電流(If)の上昇が緩やかになった後に終了することが好ましい。
また、図12に示したどちらの波形を用いても、素子電流(If)の上昇が緩やかになるまで「活性化」処理を行うことで、図2(e)に示す様に基体表面に変質部(凹部)22を形成することができる。この変質部(凹部)22については、次のように考えている。
炭素の近くにSiO2(基体の材料)が存在する条件下で基体の温度が上昇すると、Siが消費される。
SiO2+C→SiO↑+CO↑
この様な反応が起こることによって基体中のSiが消費され、基体表面(第1部分(5)の表面)が削れた形状(凹部)が形成されるのではないかと考える。
変質部(凹部)22を有すると、第1カーボン膜21aと第2カーボン膜21bとの沿面距離を増やすことができる。そのため、第1カーボン膜21aと第2カーボン膜21bとの間に駆動時に印加される強電界に起因するとみられる放電現象や、過剰な素子電流(If)の発生を抑制することができる。
「活性化」処理で形成されるカーボン膜(21aと21b)は、第2の実施形態例で説明したグラファイト状炭素を含むカーボン膜とすることができる。
以上の工程1〜工程5により作製された電子放出素子は、駆動を行う前(画像表示装置に適用する場合には発光体に電子線を照射する前)に、好ましくは、真空中で加熱する処理である「安定化」処理を行う。
「安定化」処理を行うことで、前述した「活性化」処理などによって基体(100)の表面や、その他の箇所に付着した余分な炭素や有機物を除去することが好ましい。
具体的には、真空装置内で、余分な炭素や有機物質を排気する。真空装置内の有機物質は極力排除することが望ましいが、有機物質の分圧としては1×10―8Pa以下まで除去することが好ましい。また、有機物質以外の他のガスをも含めた真空容器内の全圧力は、3×10―6Pa以下が好ましい。
「安定化」処理を行った後に、電子放出素子を駆動する時の雰囲気は、上記「安定化」処理終了時の雰囲気を維持するのが好ましいが、これに限るものではない。有機物質が十分除去されていれば、圧力自体は多少上昇しても十分に安定な特性を維持することができる。
以上の工程により、本発明の電子放出素子を形成することができる。
尚、図4に示した実施形態例の電子放出素子は、例えば、以下のようにして形成することができる。一例を図5を用いて説明する。
即ち、上記工程1で説明した基板(1)として、上記した第1部分(5)に相当する材料の基板を用い、その上に、上記した工程2および工程3と同様の工程を行う(図5(a)、図5(b)。そして、次に、上記した第2部分(6)に相当する材料からなる層6を、導電性膜4上に成膜する。このとき、第2部分(6)に相当する材料からなる層の第1の間隙(7)を形成したい箇所に、フォトリソ技術等を用いて、開口を設けておく(図5(c))。そして上記した工程4と同様の工程を施せば、開口内に第1の間隙(7)を形成することができる(図5(d))。続いて、工程5と同様の工程を施す(図5(e))ことで、図4に示した構成の電子放出素子を得ることができる。
また、図6(b)に示した実施形態例の電子放出素子は、例えば、以下の様にして形成することができる。一例を図7を用いて説明する。
まず、上記工程1で説明した基板(1)上に、第2部分(6)を構成する材料層、第1部分(5)を構成する材料層、第2部分(6)を構成する材料層を、この順番で積層する。これらの各層は、真空蒸着法、スパッタ法、CVD法等により基板(1)上に堆積させることができる。次に、第1補助電極(2)を構成する材料層を第2部分(6)を構成する材料層上に真空蒸着法、スパッタ法、CVD法等により堆積させる(図7(a)参照)。
その後、フォトリソグラフィー技術など公知のパターニング方法により、段差形状を備える積層体を形成する(図7(b))。
次に、第2補助電極(3)を基板(1)上に形成する(図7(c))。
続いて、積層体の側面上を被覆するように、且つ、第1補助電極(2)と第2補助電極(3)の間を接続するように、前述した工程3と同様にして、導電性膜4を形成する(図7(d))。
そして、前述した工程4、工程5と同様に、「通電フォーミング」および「活性化」処理を行う(図7(e)、(f))。
以上のようにして、図6(b)に示した実施形態例の電子放出素子を形成することができる。尚、図6(c)に示した形態例は、上記工程において第2部分(6)を構成する材料からなる層の一方を省けば、形成することができる。また、図6(d)に示した形態例は、図6(c)に示した形態例の作成方法にさらに、第1補助電極(2)の端部の位置をずらしただけであるので、パターニング工程を加えれば問題なく形成することができる。
尚、ここで示した前述した実施形態例の電子放出素子の製造方法は一例であり、これらの製造方法により製造された電子放出素子に上述した第1〜第5の実施形態例の電子放出素子は限定されることはない。
次に、上述した第1〜第5の実施形態例で示した本発明の電子放出素子の基本特性について、図13を用いて説明する。図10に示した測定評価装置により測定される、本発明の電子放出素子の放出電流(Ie)及び素子電流(If)と補助電極(2,3)印加する素子電圧(Vf)の関係の典型的な例を図13に示す。
なお、図13は、放出電流(Ie)は素子電流(If)に比べて著しく小さいので、任意単位で示されている。図13からも明らかなように、本発明の電子放出素子は放出電流(Ie)に対する3つの性質を有する。
まず第1に、本発明の電子放出素子は、ある電圧(しきい値電圧と呼ぶ;図13中のVth)以上の素子電圧を印加すると急激に放出電流Ieが増加する。一方で、しきい値電圧Vth以下では放出電流(Ie)がほとんど検出されない。すなわち、放出電流(Ie)に対する明確なしきい値電圧Vthを持った非線形素子である。
第2に、放出電流(Ie)が素子電圧Vfに依存するため、放出電流(Ie)は素子電圧Vfで制御できる。
第3に、アノード電極44に捕捉される放出電荷は、素子電圧Vfを印加する時間に依存する。つまり、アノード電極44に捕捉される電荷量は、素子電圧Vfを印加する時間により制御できる。
以上のような電子放出素子の特性を用いると、入力信号に応じて電子放出特性を容易に制御できることになる。
図14(a)〜図14(c)に、電子放出素子を長時間駆動した場合の放出電流Ie(または輝度)を示す。図14(a)〜図14(c)において、縦軸および横軸は同じスケールで表している。
図8に示した従来例のような第2の間隙(8)の蛇行が大きい(即ち第1の間隙(7)の蛇行が大きい)場合、図14(a)に示す様に、放出電流Ie(または輝度)のゆらぎが大きい。
また、図14(b)は、第2の間隙(8)の蛇行を小さく抑えてはいるが、基体(100)の表面を全面酸化シリコンで構成した電子放出素子における放出電流Ie(または輝度)の変動の様子を示している。典型的には、図1に示した構成における第1部分(5)と第2部分(6)とを単一の酸化シリコン層に置き換えた形態と同等の構成の場合である。この場合、図14(b)に示したように放出電流Ie(または輝度)のゆらぎは図14(a)に比べて多少改善されるが十分ではない。
図14(c)は、図1に示した第2の実施形態例の電子放出素子における放出電流Ie(または輝度)の変動の様子を示している。尚、この特性は、本発明の他の実施形態例の電子放出素子においても同様である。第1部分(5)上にある第2の間隙(8)近傍において駆動時に生じる熱が、高熱伝導材料を用いた第2部分(6)へ直ちに拡散すると考えられる。その結果、第1の実施形態例で既に述べたように、駆動時の第2の間隙(8)における局所的な温度上昇およびおよび導電性膜(4a、4b、21a、21b)自体の温度上昇が抑制される。そのため本発明の電子放出素子では、放出電流(または輝度)のゆらぎが最も抑制されるのではないかと考えている。
次に、上述した第1〜第5の実施形態例に示した本発明の電子放出素子の応用例について以下に述べる。
本発明の電子放出素子を複数個基板上に配列することで、例えば、電子源や、フラットパネル型テレビジョンなどの画像表示装置を構成することができる。
基板上の電子放出素子の配列形態としては、例えば、マトリクス型配列が挙げられる。この配列形態では、前述の第1補助電極(2)が基板上に配置されたm本のX方向配線のうちの1本に接続される。そして、前述の第2補助電極(3)が基板上に配置されたn本のY方向配線のうちの1本に電気的に接続される。尚、m、nは、共に正の整数である。
次に、このマトリクス型配列の電子源基板の構成について、図15を用いて説明する。
上述したm本のX方向配線(72)は、Dx1,Dx2,……,Dxmからなり、絶縁性基板(71)上に、真空蒸着法、印刷法、スパッタ法等で形成される。X方向配線(72)は、金属等の導電性材料からなる。n本のY方向配線(73)は、Dy1,Dy2,…,Dynのn本の配線よりなり、X方向配線(72)と同様の手法、同様の材料により形成することができる。これらm本のX方向配線(72)とn本のY方向配線(73)との間(交差部)には、不図示の絶縁層が配置される。絶縁層は、真空蒸着法、印刷法、スパッタ法等で形成することができる。
また、前記X方向配線(72)には、走査信号を印加する不図示の走査信号印加手段が電気的に接続される。一方、Y方向配線(73)には、走査信号に同期して、選択された各電子放出素子(74)から放出される電子を変調するための変調信号を印加する不図示の変調信号発生手段が電気的に接続される。各電子放出素子に印加される駆動電圧Vfは、印加される走査信号と変調信号との差電圧として供給される。
次に、上記のようなマトリクス配列の電子源基板を用いた電子源、及び、画像表示装置の一例について、図16と図17を用いて説明する。図16は画像表示装置を構成する外囲器(ディスプレイパネル)(88)の基本構成図であり、図17は蛍光体膜の構成を示す模式図である。
図16において、電子源基板(リアプレート)(71)上に本発明の電子放出素子(74)をマトリクス状に複数配列している。フェースプレート(86)はガラスなどの透明基板(83)の内面に蛍光体膜(84)と導電性膜(85)等が形成されたである。支持枠(82)はフェースプレート(86)とリアプレート(71)の間に配置される。リアプレート(71)、支持枠(82)及びフェースプレート(86)は、接合部にフリットガラスやインジウムなどの接着剤を付与することにより封着されている。この封着された構造体で外囲器(ディスプレイパネル)(88)が構成される。尚、上記導電性膜(85)は、図10を用いて説明したアノード(44)に相当する部材である。
外囲器(88)は、フェースプレート(86)、支持枠(82)、リアプレート(71)で構成することができる。また、フェースプレート(86)とリアプレート(71)との間に、スペーサーと呼ばれる不図示の支持体を設置することにより、大気圧に対して十分な強度を持つ外囲器(88)を構成することができる。
図17(a)、(b)は、それぞれ、図17で示した蛍光体膜(84)の具体的な構成例である。蛍光体膜(84)は、モノクロームの場合は単色の蛍光体(92)のみから成る。カラーの画像表示装置を構成する場合には、蛍光体膜(84)は、少なくともRGB3原色の蛍光体(92)と、各色の間に配置される光吸収部材(91)とを含む。光吸収部材(91)は好ましくは、黒色の部材を用いることができる。図17(a)は、光吸収部材(91)をストライプ状に配列した形態である。図17(b)は、光吸収部材(91)をマトリクス状に配列した形態である。一般に、図17(a)の形態は「ブラックストライプ」と呼ばれ、図17(b)の形態は「ブラックマトリクス」と呼ばれる。光吸収部材(91)を設ける目的は、カラー表示の場合必要となる3原色蛍光体の各蛍光体(92)間の塗り分け部における混色等を目立たなくすることと、蛍光体膜(84)における外光反射によるコントラストの低下を抑制することにある。光吸収部材(91)の材料としては、通常良く用いられている黒鉛を主成分とする材料だけでなく、光の透過及び反射が少ない材料であればこれに限るものではない。また、導電性であっても絶縁性であっても良い。
また、蛍光体膜(84)の内面側(電子放出素子(74)側)には、「メタルバック」などと呼ばれる導電性膜(85)が設けられる。導電性膜(85)の目的は、蛍光体(92)からの発光のうち、電子放出素子(74)側へ向かう光をフェースプレート(86)側へ鏡面反射することで輝度を向上させることである。また、電子ビーム加速電圧を印加するためのアノードとして作用させること、及び、外囲器(88)内で発生した負イオンの衝突による蛍光体のダメージを抑制すること等である。
導電性膜(85)は、好ましくは、アルミニウム膜で形成される。導電性膜(85)は、蛍光体膜(84)作製後、蛍光体膜(84)の表面の平滑化処理(通常、「フィルミング」と呼ばれる)を行い、その後Alを真空蒸着等で堆積することで作製できる。
フェースプレート(86)には、更に蛍光体膜(84)の導電性を高めるため、蛍光体膜(84)と透明基板(83)との間にITOなどからなる透明電極(不図示)を設けてもよい。
上記外囲器(88)内の各電子放出素子(74)は図15を用いて前述したX方向配線(72)およびY方向配線(73)に接続している。そのため、各電子放出素子(74)に接続する端子Dox1〜Doxm、Doy1〜Doynを通じて電圧を印加することにより、所望の電子放出素子(74)から電子放出させることができる。この時、高圧端子(87)を通じ、導電性膜(85)に5kV以上30kV以下、好ましくは10kV以上25kV以下の電圧を印加する。尚、フェースプレート(86)と基板(71)との間隔は1mm以上5mm以下、更に好ましくは1mm以上3mm以下に設定される。この様にする事で、選択した電子放出素子から放出された電子は、メタルバック(85)を透過し、蛍光体膜(84)に衝突する。そして蛍光体(92)を励起・発光させることで画像を表示するものである。
なお、以上述べた構成においては、各部材の材料等、詳細な部分は上記した内容に限られるものではなく、目的に応じて適宜変更される。
また、図16を用いて説明した本発明の外囲器(ディスプレイパネル)(88)を用いて情報表示再生装置を構成することができる。
具体的には、受信装置と、受信した信号を選曲するチューナーと、選曲した信号に含まれる信号を、ディスプレイパネル(88)に出力してスクリーンに表示または再生させる。上記受信装置は、テレビジョン放送などの放送信号を受信することができる。また、上記選曲した信号に含まれる信号としては、映像情報、文字情報および音声情報の少なくとも1つを指す。尚、上記「スクリーン」は、図16で示したディスプレイパネル(88)においては、蛍光体膜(84)に相当すると言うことができる。この構成によりテレビジョンなどの情報表示再生装置を構成することができる。勿論、放送信号がエンコードされている場合には、本発明の情報表示再生装置はデコーダーも含むことができる。また、音声信号については、別途設けたスピーカーなどの音声再生手段に出力して、ディスプレイパネル(88)に表示される映像情報や文字情報と同期させて再生する。
また、映像情報または文字情報をディスプレイパネル(88)に出力してスクリーンに表示および/あるいは再生させる方法としては、例えば以下のように行うことができる。まず、受信した映像情報や文字情報から、ディスプレイパネル(88)の各画素に対応した画像信号を生成する。そして生成した画像信号を、ディスプレイパネル(C11)の駆動回路(C12)に入力する。そして、駆動回路に入力された画像信号に基づいて、駆動回路からディスプレイパネル(88)内の各電子放出素子に印加する電圧を制御して、画像を表示する。
図23は、本発明に係るテレビジョン装置のブロック図である。受信回路(C20)は、チューナーやデコーダ等からなり、衛星放送や地上波等のテレビ信号、ネットワークを介したデータ放送等を受信し、復号化した映像データをI/F部(インターフェース部)(C30)に出力する。I/F部(C30)は、映像データを表示装置の表示フォーマットに変換して上記ディスプレイパネル(C11)に画像データを出力する。画像表示装置(C10)は、ディスプレイパネル(C11)、駆動回路(C12)及び制御回路(C13)を含む。制御回路は、入力した画像データに表示パネルに適した補正処理等の画像処理を施すともに、駆動回路(C12)に画像データ及び各種制御信号を出力する。駆動回路(C12)は、入力された画像データに基づいて、ディスプレイパネル(C11)の各配線(図16のDox1〜Doxm、Doy1〜Doyn参照)に駆動信号を出力し、テレビ映像が表示される。受信回路(C20)とI/F部(C30)は、セットトップボックス(STB)として画像表示装置(C10)とは別の筐体に収められていてもよいし、また画像表示装置(C10)と同一の筐体に収められていてもよい。
また、インターフェースには、プリンター、デジタルビデオカメラ、デジタルカメラ、ハードディスクドライブ(HDD)、デジタルビデオディスク(DVD)などの画像記録装置や画像出力装置に接続することができる構成とすることもできる。そして、このようにすれば、画像記録装置に記録された画像をディスプレイパネル(C11)に表示させることもできる。また、ディスプレイパネル(C11)に表示させた画像を、必要に応じて加工し、画像出力装置に出力させることもできる情報表示再生装置(またはテレビジョン)を構成することができる。
ここで述べた情報表示再生装置の構成は、一例であり、本発明の技術思想に基づいて種々の変形が可能である。また、本発明の情報表示再生装置は、テレビ会議システムやコンピュータ等のシステムと接続することで、様々な情報表示再生装置を構成することができる。
以下に、実施例を挙げて、本発明をさらに詳述する。
(実施例1)
本実施例では、第2の実施形態例で説明した電子放出素子を作成した例を示す。本実施例の電子放出素子の構成は、図1と同様である。以下、図1、図2を用いて、本実施例の電子放出素子の基本的な構成及び製造方法を説明する。
(工程−a)
最初に、清浄化した石英基板(1)上に、第2部分(6)のパターンに対応した開口を備えたフォトレジスト層を形成する。その後、ドライエッチング法を用いて第2部分(6)に対応するパターンの凹部を基板(1)の表面に形成する。このようにして同様の基板(1)を5つ用意した。
その後、それぞれの基板(1)の第2部分(6)に相当する凹部に、基板ごとに用いる材料が異なるように、Si3N4、AlN、Al2O3、TiO2、ZrO2を凹部に堆積させた。Si3N4はプラズマCVD法により形成し、AlN、Al2O3、TiO2、ZrO2はスパッタ法により形成した。この実施例においては、第1部分(5)が石英で形成されたことになる。
同時に、抵抗率、熱伝導率測定用の石英基板を用意し、この基板にも各材料を上記の方法と同様に堆積させ、それぞれの抵抗率、熱伝導率を測定したところ、以下のようであった。
室温における抵抗率は、AlNは5×1013Ωm、Si3N4は1×1013Ωm、Al2O3は2×1013Ωm、TiO2は4×108Ωm、ZrO2は1×108Ωmであった。また、室温における熱伝導率は、AlNは200W/m・K、Si3N4は25W/m・K、Al2O3は18W/m・K、TiO2は6W/m・K、ZrO2は4W/m・K(室温)であった。また、石英基板1の抵抗率は、1×1014Ωm以上であり、熱伝導率は、1.4W/m・Kであった。
上記各材料は、第2部分(6)と第1部分(5)の表面がほぼ平らになるように堆積させた。
次いで、フォトレジストパターンを有機溶剤で溶解し、フォトレジスト上の堆積膜をリフトオフして、第2部分(6)が第1部分(5)を挟むように配置された基体(100)を得た(図2(a))。
尚、第1部分(5)の幅L2を5μm、第2部分(6)の厚さを2μmとした。
また、比較例1として、第1部分(5)、第2部分(6)を形成しない基板(すなわち石英基板1のみ)を用意した。また、比較例1’として、石英基板(1)の表面上に上記各材料をパターニングせずに堆積させた基板1(この場合、表面は全て第2部分(6)となる)も用意した。
(工程−b)
次に、厚さ5nmのTiとその上に形成した厚さ45nmのPtとからなる補助電極(2、3)を本実施例および比較例の各基体(100)上に形成した。間隔L1を20μmとした。
尚、第1部分(5)の中央が、補助電極(2,3)のほぼ中央になるように形成した。また、補助電極(2,3)の幅W(図1参照)は500μmとした(図2(b))。
(工程−c)
続いて、工程―aおよび工程−bを経た各基体(100)上に、有機パラジウム化合物溶液を回転塗布した後に、加熱焼成処理をした。こうしてPdを主元素として含む導電性膜4が形成された。続いて導電性膜4をパターニングして、導電性膜4を第1補助電極(2)と第2補助電極(3)とをつなぐように形成した(図2(c))。形成された導電性膜4のRs(シート抵抗)は、1×104Ω/□であり、膜厚は、10nmとした。
(工程−d)
次に、上記工程―a〜工程−cを経た各基体(100)を図10の真空装置内に設置し、内部を1×10−6Paの真空度まで排気した。その後、電源41を用いて第1補助電極(2)と第2補助電極(3)との間に電圧Vfを印加し、「通電フォーミング」処理を行った。この結果、導電性膜4に第1の間隙(7)を形成して、電極(4a、4b)を形成した(図2(d))。尚、「通電フォーミング」処理における電圧波形は図11(b)に示したものを用いた。本実施例ではT1を1msec、T2を16.7msecとし、三角波の波高値は0.1Vステップで昇圧させることで、「通電フォーミング」を行った。尚、「通電フォーミング」処理の終了は、第1補助電極(2)と第2補助電極(3)間の測定値が、約1MΩ以上になった時とした。
(工程−e)
続いて、「活性化」処理を行った。具体的には、トルニトリルを真空装置内に導入した。その後、図12(a)に示した波形のパルス電圧を、最大電圧値±20V、T1が1msec、T2が10msecの条件で、補助電極2、3間に印加した。「活性化」処理を開始後、素子電流(If)が緩やかな上昇に入ったことを確認し、電圧の印加を停止し、「活性化」処理を終了した。その結果、カーボン膜(21a、21b)を形成した(図2(e))。
以上の工程で電子放出素子を形成した。
このようにして、第2部分(6)をAlN、Si3N4、Al2O3、TiO2、ZrO2で形成した基体(100)の各々と、比較例1及び比較例1’で形成した基体(100)の各々に対し、工程―b〜工程―eまで同じ処理を施した。また、それぞれの基体(100)上に、10個ずつ同じ製造方法で電子放出素子を作成した。
また、本実施例において、第2部分(6)に用いた各材料の抵抗率は108Ωm以上であるため、上記「活性化」処理中において大きなダメージを与える様な放電は生じなかった。
(工程−f)
次に、それぞれの電子放出素子に対し、「安定化」処理を行った。具体的には、真空装置及び電子放出素子をヒーターにより加熱して約250℃に維持しながら真空装置内の排気を続けた。20時間後、ヒーターによる加熱を止め、室温に戻したところ真空装置内の圧力は1×10−8Pa程度に達した。
続いて、図10に示した測定装置で、各電子放出素子の放出電流(Ie)と輝度の測定を行った。
放出電流(Ie)と輝度の測定では、予め蛍光体を付与したアノード電極(44)と電子放出素子の間の距離Hを2mmとし、高圧電源(43)によりアノード電極(44)に5kVの電位を与えた。この状態で、電源(41)を用いて各電子放出素子の第1補助電極(2)と第2補助電極(3)との間に、波高値17Vの矩形パルス電圧を印加した。
尚、この測定の際には、電流計(42)により、本実施例及び比較例の電子放出素子の放出電流(Ie)を測定し、真空装置に設置された透明ガラス窓(不図示)から蛍光体輝度を測定した。測定された放出電流(Ie)および輝度の「ばらつき」を以下の表1に示す。ここで「ばらつき」とは、各基体(100)それぞれの上に形成された10個の電子放出素子の放出電流(Ie)および輝度の(標準偏差/平均値*100(%))であらわした値のことを言う。
表1に示した様に、比較例1の電子放出素子に対し、本実施例の電子放出素子は、放出電流(Ie)の「ばらつき」および輝度の「ばらつき」が顕著に小さくなった。また、比較例1’の電子放出素子と比較例1の電子放出素子とでは、放出電流(Ie)は比較例1の電子放出素子の方が格段に大きかった。しかし、「ばらつき」については、比較例1’の電子放出素子と比較例1の電子放出素子とではあまり顕著な差は見られなかった。
第2部分(6)にZrO2を用いた本実施例の電子放出素子では、放出電流Ieの「ばらつき」および輝度の「ばらつき」は、比較例1’の電子放出素子とあまり変わらなかった。しかしながら、放出電流(Ie)に関しては、本実施例の電子放出素子の方が比較例1’の電子放出素子に比べて、桁で異なるほど遥かに大きな放出電流(Ie)を得ることができた。これは、作成工程に「活性化」処理を用いており、比較例1’の電子放出素子では第1の間隙(7)の直下(第1部分(5))に酸化シリコンを用いていなかったためであると思われる。即ち、比較例1’の電子放出素子は、いずれも、十分な「活性化」処理を行うことが出来なかったためであると推測される。
また、本実施例の電子放出素子のうち、第2部分(6)の熱伝導率が第1部分(5)の熱伝導率の4倍以上の場合は、ばらつきの抑制に顕著な効果があることがわかる。
上記放出電流(Ie)と輝度の測定を行った後、各電子放出素子の第2の間隙(8)近傍をSEMで観察した。
比較例1の電子放出素子はどれも、図8(a)に示したように電子放出部(間隙8)が大きく蛇行していた。また、比較例1’の電子放出素子は、カーボン膜(21a、21b)の堆積にばらつきがあり、第2の間隙(8)も大きく蛇行していた。
一方、本実施例の電子放出素子においては、ZrO2を第2部分に用いた例以外は、どれも、図1(a)に示したように第2の間隙(8)は第1部分の幅L2内に実効的に納まっていた。但し、ZrO2を第2部分に用いた例では、X−Y平面内における第2の間隙(8)の一部が、図27に示す様に、第1部分(5)の直上の領域から若干はみ出している部分があった。しかしながら、第1部分の直上の領域内では、カーボン膜(21a、21b)の堆積量に顕著なばらつきは見られなかった。そして、第1部分(5)の直上の領域から若干はみ出している部分にはカーボン膜の堆積にばらつきが見られた。このため、第1部分(5)の直上の領域から若干はみ出している部分には実効的な電子放出部が存在せず、実質的に電子放出部は第1部分(5)の直上の領域内に納まっているものと推測される。
(実施例2)
本実施例では、実施例1で記した製造方法と同じ方法で、図1に示した構成の電子放出素子を作成した。用いた材料や大きさなども実施例1と同様である。また、ここでは、比較例1の電子放出素子も実施例1で述べたものと同じ方法で形成した。
但し、ここでは、比較例2の電子放出素子を以下の方法で作成した。まず、石英基板(1)上に、実施例1の(工程−b)と(工程−c)とを施した。実施例1の比較例1と同様に、第1部分(5)と第2部分(6)とを比較例2の基体(100)には配置していない。次に、第1補助電極(2)と第2補助電極(3)のほぼ中央に図1などに示したY方向に伸びる第1の間隙(7)を、FIBを用いて、導電性膜4に形成した。即ち、第1の電極(4a)と第2の電極(4b)を形成した。尚、形成した間隙(7)は、実施例1の第1部分(5)の幅(L2)の範囲と同様の範囲内に納まるように形成した。その後、実施例1の(工程−d)および(工程−e)と同様の工程を行った。以上の工程で比較例2の電子放出素子を石英基板(1)上に10個形成した。
本実施例では、このようにして形成した各電子放出素子の電子放出量(Ie)および輝度の「ゆらぎ」を測定した。
尚、「ゆらぎ」は各電子放出素子に対し、実用的な駆動を行い、放出電流(Ie)と輝度を長時間に渡り測定した。実用的な駆動では、実施例1で記した測定同様、予め蛍光体を付与したアノード電極44を用意した。そして、アノード電極(44)と電子放出素子の間の距離Hを2mmとし、高圧電源(43)によりアノード電極(44)に5kVの電位を与えた。そして、各電子放出素子の第1補助電極(2)と第2補助電極(3)との間に電源(41)から波高値15[V]、パルス幅100[μs]、周波数60[Hz]の矩形状の電圧パルスを繰返し印加した。
電流計(42)により、本実施例の電子放出素子、比較例1、比較例2の電子放出素子の放出電流(Ie)を測定し、真空装置に設置された透明ガラス窓(不図示)から蛍光体の発光輝度を測定した。
放出電流(Ie)と輝度のゆらぎ値は、全ての電子放出素子において、同じ測定間隔で複数回行い、得られた複数のデータの(標準偏差/平均値×100(%))を計算することで求めた。
以下の表2に各電子放出素子の放出電流(Ie)と輝度のゆらぎの値を示す。
表2のように比較例1の電子放出素子に対し、本実施例の第2の間隙(8)の蛇行と同程度に第2の間隙(8)の蛇行が小さい比較例2の電子放出素子では放出電流Ieと輝度のゆらぎ値は小さかった。
また、本実施例の電子放出素子のうち、第2部分(6)の熱伝導率が第1部分(5)の4倍以上である電子放出素子では、放出電流Ieと輝度のゆらぎの値が特異的に小さくなった。また、第2部分(6)にZrO2を用いた本実施例の電子放出素子の放出電流Ieと輝度のゆらぎの値は、比較例2の電子放出素子よりは少ないが特異な差は見られなかった。
上記放出電流Ieと輝度の測定後、各電子放出素子の第2の間隙(8)近傍をSEMで観察した。比較例2以外は、実施例1で既に述べた形態と同様であった。比較例1の電子放出素子が一番大きく蛇行していた。そして、第2部分(6)にZrO2を用いた電子放出素子が次に大きく蛇行していた。その他の電子放出素子はどれも、図1(a)に示したように第2の間隙(8)の蛇行は第1部分(5)の幅L2内に実効的に納まっていた。
以上述べた実施例1と実施例2から、本発明の電子放出素子は、放出電流のバラツキが少なく、「ゆらぎ」も少ない良好な電子放出素子であることがわかる。
(実施例3)
本実施例では、第3の実施形態で説明した電子放出素子を作成した例を示す。
本実施例にかかわる基本的な電子放出素子の構成は、図4と同様である。以下、図4、図5を用いて、本実施例の電子放出素子の製造方法を説明する。
(工程−a)
最初に、清浄化した石英基板(1)上に、補助電極(2、3)のパターンに対応した開口を備えるフォトレジストを形成する。次いで、厚さ5nmのTiと厚さ45nmのPtを順次堆積した。次に、フォトレジストを有機溶剤で溶解し、Pt/Ti堆積膜をリフトオフして、20μmの間隔L1を隔てて対向する補助電極(2、3)を形成した。尚、補助電極(2,3)の幅Wは500μmとした(図5(a))。
尚、本実施例においては、石英基板(1)が第1部分(5)に相当する。
(工程−b)
続いて、工程―aで作製した基板1上に、有機パラジウム化合物溶液を回転塗布した後に、加熱焼成処理をした。こうしてPdを主元素として含む導電性膜4が形成した。次に導電性膜4をパターニングして、導電性膜4を補助電極2、3とをつなぐように形成した(図5(b))。形成された導電性膜4のRs(シート抵抗)は、1×104Ω/□であった。
(工程−c)
次に、工程―bまでに作製された基板1上に、第2部分(6)に設ける開口パターンに対応してフォトレジスト層を形成する。このようにして同様の基板(1)を5つ用意した。
その後、それぞれの基板(1)上に、基板ごとに用いる材料が異なるように、Si3N4、AlN、Al2O3,TiO2、ZrO2を堆積させた。Si3N4はプラズマCVD法により形成し、AlN、Al2O3,TiO2、ZrO2はスパッタ法により形成した。同時に抵抗率、熱伝導率測定用の基板にも各材料を堆積させ、抵抗率、熱伝導率を測定したところ、各測定値は実施例1と同じであった。
次いで、フォトレジストパターンを有機溶剤で溶解し、上記堆積膜をパターニングした。これにより、第1補助電極(2)と第2補助電極(3)との間のほぼ中央に開口を設けた第2部分(6)が配置された基板1を得た(図5(c))。
尚、第2部分(6)の開口の幅L2を5μm、厚さを2μmとした。
次に、実施例1と同様の方法で、前述の(工程−d)〜(工程−f)を行った。
以上の工程で電子放出素子を形成した。また、本実施例においても、実施例1と同様に、同一基板上に10個ずつ同じ製造方法で電子放出素子を作成した。
尚、本実施例においても、第2部分(6)に用いた各材料の抵抗率が108Ωm以上であるため、上記「活性化」処理中において大きな放電は生じなかった。
続いて、実施例1と同様に、各電子放出素子の放出電流Ieと輝度の測定を行った。測定された放出電流Ieおよび輝度の「ばらつき」を以下の表3に示す。また、比較例3として、比較例1と同じ電子放出素子を作成した。
表3のように従来の電子放出素子(比較例3)に対し、本実施例の電子放出素子、すなわち、第2部分(6)を備える電子放出素子では放出電流Ieおよび輝度の「ばらつき」が小さくなった。また、特に熱伝導率が比較例3の4倍以上の素子は、放出電流Ieおよび輝度の「ばらつき」が小さくなった。
上記特性評価後、各電子放出素子の間隙8近傍をSEMで観察した。
比較例3の電子放出素子は皆、図8(a)に示したように第2の間隙(8)が大きく蛇行していた。一方、本実施例の各電子放出素子はどれも、図4(a)に示したように第2の間隙(8)の蛇行は、第2部分(6)に設けた開口の幅L3内にほぼ制限されていた。
また、本実施例の電子放出素子の「ゆらぎ」について、実施例2と同様にして測定したところ、表2で示したのと同様に「ゆらぎ」の少ない良好な電子放出特性が得られた。
(実施例4)
本実施例では、第5の実施形態例で説明した電子放出素子を作成した例を示す。
本実施例にかかわる基本的な電子放出素子の構成は、図6(b)と同様である。以下、図6、図7を用いて、本実施例の電子放出素子の製造方法を説明する。
(工程−a)
最初に、清浄化した石英基板(1)を5つ用意した。そして、それぞれの上に、基板(1)上に、基板ごとに用いる材料が異なるように、第2部分(6)を形成する材料として、Si3N4、AlN、Al2O3,TiO2、ZrO2を堆積させた。Si3N4はプラズマCVD法により形成し、AlN、Al2O3、TiO2、ZrO2はスパッタ法により形成した。同時に抵抗率、熱伝導率測定用の別の基板にも上記各材料を堆積させ、抵抗率、熱伝導率を測定したところ、各測定値は実施例1、2と同じであった。
その後、第1部分(5)を形成する材料として、プラズマCVD法により酸化シリコン(SiO2)を全ての基板(1)上に堆積させた。同時に抵抗率、熱伝導率測定用の基板にもSiO2を堆積させ、抵抗率、熱伝導率を測定したところ、各測定値は比較例1、2と同じであった。
次に、酸化シリコン(5)の上に、再度、第2部分(6)を形成する材料を堆積させた。ここでは、それぞれの基板(1)において、最初に形成した第2部分(6)を形成する材料と同じ材料を酸化シリコン(5)上に形成した。
さらに第2部分(6)の上に、補助電極(2)を形成する材料として、厚さ5nmのTiと厚さ45nmのPtを順次堆積させた(図7(a))。
その後、フォトレジストのスピンコーティング、マスクパターンの露光及び現像を行い、ドライエッチングで第1部分(5)と第1部分(5)を挟む第2部分(6)とで構成された積層体と、該積層体上に配置され第1補助電極(2)を形成した(図7(b))。
次に、フォトレジストを剥離した後、再度フォトレジストのスピンコーティング、マスクパターンの露光及び現像を行い、第2補助電極(3)のパターンに相当する開口を備えるフォトレジストを形成した。続いて、開口内に厚さ5nmのTiと厚さ45nmのPtを順次堆積させた。続いて、フォトレジストのリフトオフを行い、第2補助電極(3)を形成した(図7(c))。
補助電極(3)と補助電極(2)の幅Wは500μmとした。第1部分(5)の膜厚は50nmとした。第2部分(6)のうち、基板(1)側の膜厚は500nmとした。一方、第2部分(6)のうち、基板(1)から離れている方の膜厚を30nmとした。
また、第2部分(6)を形成せず、基板(1)表面と第1補助電極(2)との間にSiO2層(第1部分)のみを580nmの厚さで形成させた基板(1)も用意した(比較例4)。また、第1部分(5)を形成せず、基板1表面と第1補助電極(2)との間に第2部分(6)のみを580nmの厚さで形成させた基板(1)も用意した(比較例4’)。
後の工程は、実施例1の(工程−c)〜(工程−f)と同様の工程を行うことで電子放出素子を形成した。実施例1と同様、本実施例においても、各基板毎に、10個ずつ電子放出素子を作成した。
また、本実施例において、第2部分(6)に用いた各材料の抵抗率が108Ωm以上であるため、上記「活性化」処理中において大きな放電は生じなかった。
続いて、実施例1、2と同様に、各電子放出素子の放出電流Ieと輝度の測定を行った。測定された放出電流Ieおよび輝度の「ばらつき」を以下の表4に示す。
表4のように比較例4の電子放出素子に対し、本実施例の電子放出素子は放出電流Ieおよび輝度の「ばらつき」が小さくなった。また、比較例4’の電子放出素子と比較例4の電子放出素子とでは、放出電流(Ie)は比較例4の電子放出素子の方が格段に大きかった。また、「ばらつき」については、比較例4’の電子放出素子と比較例4の電子放出素子とではあまり顕著な差は見られなかった。
第2部分(6)にZrO2を用いた本実施例の電子放出素子では、放出電流Ieの「ばらつき」および輝度の「ばらつき」は、比較例の電子放出素子よりは優れているがその効果はそれほど大きくない。しかしながら、放出電流(Ie)に関しては、本実施例の電子放出素子の方が比較例4’の電子放出素子に比べて、桁で異なるほど遥かに大きな放出電流(Ie)を得ることができた。これは、作成工程に「活性化」処理を用いており、比較例4’の電子放出素子では第1の間隙(7)の直下に酸化シリコンが存在していなかったために、十分な「活性化」処理を行うことが出来なかったためである。
また、第2部分(6)の熱伝導率が第1部分(5)の熱伝導率の4倍以上の場合は、ばらつきの抑制に顕著な効果があることがわかる。
上記特性評価後、各電子放出素子の第2の間隙(8)近傍をSEMで観察した。比較例4、比較例4’の素子はどれも、図8(a)に示したように電子放出部(間隙8)が大きく蛇行していた。また、比較例4’の電子放出素子は、カーボン膜(21a、21b)の堆積にばらつきがあり、第2の間隙(8)も大きく蛇行していた。
一方、本実施例の電子放出素子はどれも、においては、ZrO2を第2部分に用いた例以外は、どれも、図1(a)に示したように第2の間隙(8)は第1部分の幅L2内に全てに納まっていた。但し、ZrO2を第2部分に用いた例では、第1の間隙(7)は、第1部分(5)の幅Lからはみ出している部分があった。しかしながら、第1部分の直上の領域内では、カーボン膜(21a、21b)の堆積量にばらつきはそれほどなかった。
また、本実施例の電子放出素子の「ゆらぎ」について、実施例2と同様にして測定したところ、表2で示したのと同様に「ゆらぎ」の少ない良好な電子放出特性が得られた。
(実施例5)
本実施例では、上述した実施例1で作成した電子放出素子と同様の製造方法によって形成した電子放出素子を多数基板上にマトリクス状に配列して電子源を形成した例である。そして、この電子源を用いて図16に示した画像表示装置を作成した例でもある。以下に本実施例で作成した画像表示装置の製造工程を説明する。
〈基板作成工程〉
ガラス基板71上に酸化シリコン膜を成膜した。第1部分(5)のパターンに対応してフォトレジストを酸化シリコン膜上に形成した。その後、ドライエッチング法を用いて第2部分(6)のパターンに相当する凹部を形成した。その後、プラズマCVD法によりSi3N4を第2部分(6)の材料として、第2部分(6)と酸化シリコン膜の表面がほぼ平らになるように用いて堆積させた。次いで、フォトレジストパターンを有機溶剤で溶解し、上記堆積膜をリフトオフして、第2部分(6)が第1部分(5)を挟むように配置された基板71を得た。尚、第1部分(5)の幅L2を5μm、第2部分(6)の厚さを2μmとした。尚、この実施例においては、酸化シリコンで第1部分(5)が形成されている。
〈補助電極作成工程〉
次に、補助電極(2、3)を、基板71上に多数形成した(図18)。具体的には、チタニウムTiと白金Ptとの積層膜を40nmの厚みで基板71上に成膜した後、フォトリソグラフィー法によってパターニングして形成した。本実施例では補助電極(2)と補助電極(3)との間の中央に第1部分(5)のほぼ中央が位置するように配置した。また、補助電極(2)と補助電極(3)との間隔L1を10μmとし、長さWを200μmとした。
〈Y方向配線形成工程〉
次に、図19に示すように、銀を主成分とするY方向配線(73)を、補助電極(3)に接続するように形成した。このY方向配線(73)は変調信号が印加される配線として機能する。
〈絶縁層形成工程〉
次に図20に示すように、次の工程で作成するX方向配線(72)と前述のY方向配線(73)を絶縁するために、酸化シリコンからなる絶縁層(75)を配置する。後述するX方向配線(72)の下であって、且つ、先に形成したY方向配線(73)を覆うように、絶縁層(75)を配置する。X方向配線(72)と補助電極(2)との電気的接続が可能なように、絶縁層(75)の一部にコンタクトホールを開けて形成した。
〈X方向配線形成工程〉
図21に示すように、銀を主成分とするX方向配線(72)を、先に形成した絶縁層(75)の上に形成した。X方向配線(72)は、絶縁層(75)を挟んでY方向配線(24)と交差しており、絶縁層(75)のコンタクトホール部分で補助電極(2)に接続される。このX方向配線(72)は走査信号が印加される配線として機能する。このようにしてマトリクス配線を有する基板(71)が形成される。
〈導電性膜形成工程〉
上記マトリクス配線が形成された基(71)上の補助電極(2)と補助電極(3)の間にインクジェット法により、導電性膜(4)を形成した(図22)。本実施例では、インクジェット法に用いるインクとして、有機パラジウム錯体溶液を用いた。この有機パラジウム錯体溶液を、補助電極(2)と補助電極(3)間をつなぐように付与した。その後、この基板(71)を空気中にて、加熱焼成処理をして酸化パラジウム(PdO)からなる導電性膜4とした。
〈「通電フォーミング」処理、「活性化」処理〉
次に、上述した工程によって、補助電極(2)と補助電極(3)とが、導電性膜(4)で接続されたユニットが多数形成された基板(71)を、真空容器の中に配置した。
そして、真空容器内を排気した後、「通電フォーミング」処理と「活性化」処理とを行った。「通電フォーミング」処理と「活性化」処理において、各ユニットに印加する電圧の波形などは、実施例1の電子放出素子の作成方法で示したとおりである。
尚、「通電フォーミング」処理は、複数のX方向配線(72)の中から1本づつ順次選択したX方向配線に1パルスづつ印加する方法で行った。つまり、「複数のX方向配線(72)の中から選択した1本のX方向配線に1パルス印加した後に、別の1本のX方向配線を選択して1パルス印加する」という工程を繰り返した。
以上の工程で、本実施例の電子源(複数の電子放出素子)が配置された基板(71)が形成された。
次いで、図16に示したように、上記基板(71)の2mm上方に、ガラス基板(83)の内面に蛍光体膜(84)とメタルバック(85)とが積層されているフェースプレート(86)を支持枠(82)を介して配置した。
そして、フェースプレート(86)、支持枠(82)、基板(71)の接合部を、低融点金属であるインジウム(In)を加熱し冷却することによって封着した。また、この封着工程は、真空チャンバー中で行ったため、排気管を用いずに、封着と封止を同時に行った。
本実施例では、画像形成部材である蛍光体膜(84)は、カラー表示するために、ストライプ形状(図17(a)参照)の蛍光体とした。そして、まずブラックストライプ(91)を所望の間隔を置いて形成した。続いて、ブラックストライプ(91)間にスラリー法により各色蛍光体(92)を塗布して蛍光膜(84)を作製した。ブラックストライプ(91)の材料としては、通常よく用いられている黒鉛を主成分とする材料を用いた。
また、蛍光膜(84)の内面側(電子放出素子側)にはアルミニウムからなるメタルバック(85)を設けた。メタルバック(85)は、蛍光体膜(84)の内面側に、Alを真空蒸着することで作製した。
以上のようにして完成した画像表示装置のX方向配線およびY方向配線を通じて、所望の電子放出素子を選択し、14Vのパルス電圧を印加した。そして同時に、高圧端子Hvを通じてメタルバック(73)に10kVの電圧を印加したところ、輝度むらが少なく、輝度の変動も少ない明るい良好な画像を長時間に渡り表示することができた。
以上説明した実施形態および実施例は、本発明の一例に過ぎず、上記した各材料、サイズなどについての様々な変形例を本発明は除外するものではない。