JP2004198883A - 調光素子 - Google Patents
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Abstract
【課題】天然曝露の状態で使用される場合にも、内部の液体の蒸発が抑制されており、調光特性の劣化が少ない調光素子を提供すること
【解決手段】調光素子を、基板1と前記基板1に重ね合わされた調光シート2と、を含んで構成し、調光シート2の少なくとも端部を、液体蒸発防止部材3より覆う。また、基板1は複数からなってもく、この基板1間に調光シート2を挟持させた構成でもよい。
【選択図】 図1
【解決手段】調光素子を、基板1と前記基板1に重ね合わされた調光シート2と、を含んで構成し、調光シート2の少なくとも端部を、液体蒸発防止部材3より覆う。また、基板1は複数からなってもく、この基板1間に調光シート2を挟持させた構成でもよい。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、建築物及び自動車などを始めとする車両の窓材に使用し得る調光素子に関するものである。より詳細には、外部刺激により可逆的に透過率変化を生じる調光素子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
本発明者らは特開平11−236559号公報において新規な発色材料を透明基板間に挟持した構成の調光素子を提案している。この提案においては、刺激の付与による液体の吸収・放出により膨潤・収縮する高分子ゲル中に飽和吸収濃度以上の顔料を含有してなる調光粒子を、膨潤液体とともに直接基板間に封入した構成、及びフィルム間に挟持封止した構成を提示している。
【0003】
【特許文献1】
特開平11−236559号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、調光素子の作製においては、基板間に封入した構成の場合、多種多様な大きさの調光素子の製造が煩雑になるという問題がある。また、フィルムを基板に貼り付ける構成では、建築物や車両の窓ガラスに使用する場合、長期にわたる耐用年数が必要となり、フィルム端部からの、内部の液体の蒸発による調光特性の劣化が問題である。
【0005】
そこで本発明は、天然曝露の状態で使用される場合にも、内部の液体の蒸発が抑制されており、調光特性の劣化が少ない調光素子を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決する為の手段】
上記の目的は、以下の本発明により達成される。即ち本発明は、
<1> 基板と、前記基板に重ね合わされた調光シートと、を含んで構成され、
前記調光シートの少なくとも端部が、液体蒸発防止部材より覆われていることを特徴とする調光素子。
<2> 複数の基板と、前記複数の基板間に挟持された調光シートと、を含んで構成され、
前記調光シートの少なくとも端部が、液体蒸発防止部材より覆われていることを特徴とする調光素子。
<3> 前記液体蒸発防止部材に、紫外線吸収材料が含まれることを特徴とする前記<1>又は<2>に記載の調光素子
<4> 調光シートが、少なくとも、透明フィルムと、外部刺激の付与により可逆的に液体を吸収・放出して体積変化を生ずる高分子ゲルと、前記高分子ゲルが吸収・放出し得る液体と、を含んで構成されていることを特徴とする前記<1>〜<3>のいずれかに記載の調光素子。
<5> 前記高分子ゲル中に、少なくとも収縮時に飽和吸収濃度以上となる量の顔料を含有していることを特徴とする前記<4>に記載の調光素子。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、実質的に同じ機能を有する部材は、全図面通して同じ符号を付与して説明する。
【0008】
[調光素子]
本発明の調光素子は、例えば、図1に示すように、1枚の基板1の表面に後述する調光シート2を配置し、該調光シート2の端部周辺は液体蒸発防止部材3が貼着されている。このとき該調光シート2は、好ましくは基板1の表面に接着性樹脂4を介して配置され、基板面からの脱離が抑制されている。また、本発明の調光素子は、図2に示すように、一対の基板1間に調光シートを挟持した構成も挙げられる。なお、図1及び図2に示す調光素子には、保護層、防汚層、紫外線遮蔽層、帯電防止層などの他の構成層が形成されていても構わない。
【0009】
本発明の調光素子は、1枚の基板1と、これに重ね合わされる調光シート2とを含む構成、或いは、複数の基板1と、当該複数の基板1間に挟持される調光シート2を含む構成において、調光シート2の少なくと端部周辺が液体蒸発防止部材3に覆ったものである。このような構成にすることで、天然曝露の状態などの過酷な条件下での使用の際、調光シート端部からの液体の蒸発を極力抑制し、調光特性を劣化を減少させることが可能となる。以下、各部材について説明する。
【0010】
接着性樹脂4としては、有機溶剤揮散型接着剤(クロロプレンゴム系、ウレタン系など)、熱硬化反応型接着剤(エポキシ系、レゾール系など)、湿気硬化反応型接着剤(2−シアノアクリル酸エステル系、シリコーン系など)、紫外線硬化反応型接着剤(アクリル系オリゴマーなど)、縮合反応型接着剤(ユリア樹脂系)、付加反応型接着剤(エポキシ系、イソシアネート系など)、熱溶融型接着剤などが挙げられる。
【0011】
この中でも特に熱溶融型接着剤が好適であり、例えば、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリオレフィン誘導体(マレイン酸変性ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、マレイン酸変性ポリプロピレン、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−無水マレイン酸共重合体、プロピレン−アクリル酸共重合体、プロピレン−無水マレイン酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体、マレイン化ポリブタジエン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)及びそのマレイン化物など)、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカプロラクトン系樹脂、ポリスチレン樹脂、及びその誘導体(ポリスチレン、スルホン化ポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体など)、熱可塑性ポリウレタン樹脂、高分子量ポリエチレングリコール、酢酸ビニル樹脂、ワックス類(パラフィンワックス、ミツロウ、牛脂など)、長鎖脂肪酸エステル樹脂及びこれら2種以上の混合物などが挙げられる。
【0012】
液体蒸発防止部材3としては、ポリイソブチレン系、シリコーン系、ウレタン系、変成シリコーン系、ポリサルファイド系、アクリル系、ブチル系、エポキシ系、変成ウレタン系、変成ポリサルファイド系、アクリルウレタン系などの各種シーリング材、及びウレタンゴム系、アクリルゴム系、クロロプレンゴム系、アクリル樹脂エマルジョン系、ゴムアスファルトエマルジョン系などの各種塗膜防水材が適用できる。その他、ガラス、セラミックスなどの無機材料や銀、銅、鉛、錫などの各種金属材料の適用も可能である。
【0013】
なお、基板1としてガラスを用いる場合には、液体蒸発防止部材3としては、これらの中でも特に、ポリイソブチレン系、シリコーン系、アクリル系の各シーリング材、及びアクリル樹脂エマルジョン系の塗膜防水材が好ましく用いられる。
具体的には、ポリイソブチレン系シーリング材としては、ペンギンシール7000(サンスター技研社製)、RENOシールII(セメダイン社製)、IB2000(ブリヂストン社製)などの2成分形シーリング材が、またシリコーン系シーリング材としては、トスシール381,83(GE東芝シリコーン社製)、シーラント45FP(信越化学工業社製)、SH780(東レダウコーニングシリコーン社製)、8060プロ(セメダイン社製)、シャーピーシール・ペンタブル(シャープ化学社製)などの1成分形シーリング材、及びペンギンシール2520(サンスター技研社製)、トスシール361,63,64,67,90(GE東芝シリコーン社製)などの2成分形シーリング材が、またアクリル系シーリング材としては、トップシーラー#5000,#5000L(ヤマウチ社製)などの1成分形シーリング材が挙げられる。また、アクリル樹脂エマルジョン系塗膜防水材としては、Myルーファー(三菱化学産資社製)、FDコート(フヨー社製)などが挙げられる。
【0014】
液体蒸発防止部材3には、紫外線吸収材を含ませることができる。液体蒸発防止部材3に紫外線吸収材を含ませることで、調光シート2端部周辺の紫外線による劣化を抑制させ、より効果的に液体の漏れや蒸発を防止し、調光機能の劣化を抑制させることが可能となる。このような紫外線吸収材としては、例えば、共同薬品社製Viosorb112、Viosorb105、大塚化学社製PUVA−NW、PUVA−CW、日本触媒社製FX−UFZ−CO、住友化学社製Sumisorb320、Sumisorb340などが挙げられる。
【0015】
基板1としては、主にガラスが好ましく用いられるが、それ以外にポリエステル、ポリイミド、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスルフォン、ポリカーボネート、ポリエーテル、セルロース誘導体などの高分子板状体などの使用も可能である。なお、これらの基板の大きさや厚さは特に限定するものではない。
【0016】
調光シート2としては、例えば、と2枚のフィルムの間に調光組成物を封入し、周囲の端部を封止した構成のものである。
【0017】
調光シート2に用いられる調光組成物6としては、調光粒子7と吸脱液体8とを含んで構成されるものが挙げられる。具体的に、例えば、特開平11−236559号公報に記載されている内部に顔料を分散した刺激応答性高分子ゲルを用いるもの、特公昭61−7948号公報、特開平3−237426号公報、特開平8−82809号公報などに記載されている下限臨界溶解温度(LCST)をもつ高分子材料の溶液を用いるもの、特公平7−23471号公報、特開平6−220453号公報、特開平6−255016号公報などに記載されているリオトロピック型コレステリック液晶を用いるもの、特開平6−192525号公報、特開平7−242785号公報、特開平8−165396号公報、特開平8−183893号公報などに記載されているLCSTを有するフッ素系サーモクロミック材料を用いるものなどが適用できる。なお、調光組成物6についての詳細は、後述する。
【0018】
調光シート2の具体的な構成としては、例えば、図3に示す構成が挙げられる。調光シート2は、図3(a)に示すように、少なくとも基材となるフィルム5と調光組成物6からなり、少なくとも2枚のフィルム5の内部に該調光組成物6が挟持封入され、2枚のフィルム5端部周辺を加熱溶着されて構成している。また、調光シート2は、図3(b)に示すように必要に応じてスペーサー10を具備していてもよい。また、調光シート2は、図4に示すように、封止用接着剤などの封止部材13により封止された構成でもよい。
【0019】
調光シート2の基材となるフィルム5としては、ポリエステル、ポリイミド、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスルフォン、ポリカーボネート、ポリエーテル、セルロース誘導体などの高分子フィルムや板状体などが使用可能である。なお、これらの基材の大きさや厚さは特に限定するものではない。
【0020】
また、フィルムに5は水蒸気や有機溶剤のガスなどの透過蒸発を防止するために、特開2002−258001号公報に記載されたバリア性材料を含有していてもよい。具体的には、例えば、ポリマー材料としては塩化ビニリデン系共重合体やエチレン−ビニルアルコール共重合体などが挙げられる。また、無機物としては、例えば、周期律表13族元素または14族元素の金属単体かこれらの酸化物などが挙げられる。
【0021】
スペーサー10としては、基材のフィルムの間隙を安定して維持できる形状であれば特に限定されないが、例えば、球、立方体、柱状のものなどの独立した形状のものが好ましく用いられる。また、連続した形状を有するスペーサー10を使用することもできる。この場合、それらの形状は、安定して間隙を維持できる形状であれば特に限定されず、主に格子状、ハニカム状などの多角形を始めとして、様々な形状を適用することが出来る。これらのスペーサー10は、後述する調光組成物の構成部材である吸脱液体に安定な材料であれば特に限定されず、例えば、樹脂、金属、金属酸化物、ガラスなどが適用できる。
【0022】
なお、これらのスペーサー10は、より好ましくはフィルム5表面に固定されていることが望ましい。固定に使用する接着剤としては、接着性樹脂4として例示した接着剤が適用できる。
【0023】
スペーサー10をフィルム5表面に固定する際に使用する接着剤の割合は、通常、被接着物100質量部に対して接着剤の量が0.1〜50質量部、好ましくは1〜30質量部程度で十分ある。接着剤の量が50質量部を超えると基材(フィルム5)への固着性は向上するものの、過剰な接着剤の影響でスペーサー10により規定されるべきフィルム5間の間隙が変化することや、製造コストが増加するという問題が生じることがある。一方、0.1質量部未満では、スペーサー10の基材(フィルム5)への固着が不十分となることがある。
【0024】
また、接着剤を用いたスペーサー10の固定は、例えば、スペーサー10粒子と粒子状の接着性樹脂の混合物を被接着面に散布した後、加熱処理を施して接着する方法が適用できる。この時、混合に使用する装置は特に限定されず、通常の粉体混合装置でよく、例えば、コニカルブレンダー、ナウターミキサー、V型ブレンダー、タービュライザー、スクリュー式ラインブレンダーなどが挙げられる。
【0025】
その他、接着剤を溶媒に溶かした接着性溶液を調製し、被接着面に該接着剤溶液を塗布した後、スペーサー10粒子を散布して加熱処理を施しても構わない。この時使用される溶媒は、フィルム5を変質させず接着性樹脂が可溶なものであれば特に限定されないが、溶媒の沸点は比較的低い方がよく、150℃以下、好ましくは100℃以下が適当であり、例えば、アセトンなどのケトン類、エタノール、メタノールなどのアルコール類、酢酸エチルなどのカルボン酸エステル類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテルなどのエーテル類、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類及び、これらの混合物などが挙げられる。また、接着剤溶液の被接着面への適用方法は、塗布、噴霧、浸漬などが挙げられる。
【0026】
また、接着のための加熱処理は特に限定されないが、熱風加熱機、赤外線加熱機、高周波加熱機及びヒートローラなどの接触式加熱機などが適用でき、加熱温度は、接着剤の溶融温度の従いおよそ50℃〜200℃の間で適宜設定される。
【0027】
調光シート2の厚みの好ましい範囲は、1μm〜20mm、より好ましくは2μm〜5mmの範囲である。これは、1μmよりも小さいと、調光性能が低くなり所望の調光効果を得ることができない場合があり、20mm以上では応答特性が低下する恐れがあるためである。
【0028】
本発明の調光素子において、調光シート2の封止形態は、必ずしも調光シート2端部の封止部材13と液体蒸発防止部材3が別々な部材により行われている必要はなく、調光素子は、図5に示すように、調光シート2端部周辺を、封止部材13と液体蒸発防止部材3が同一部材で構成された封止兼蒸発防止部材14により覆われた構成でも構わない。なお、図5(a)は、調光シート2を基板1に重ね合わせた構成であり、図5(b)は、調光シート2を2枚の基板1間に挟持した構成である。
【0029】
本発明の調光素子は、さらに、調光シート2を別なフィルムでラミネートする方法も適用可能であり、具体的には、図6に示すように、調光シート2を、フィルム5と調光組成物6とラミネート用フィルム15とからなり、少なくとも2枚のフィルム5の内部に該調光組成物6が挟持封入され、2枚のフィルム5端部周辺を封止部材13により封止したものを、さらにラミネート用フィルム15で挟持しその端部加熱溶着した構成でもよい。なお、図6(a)は、調光シート2を基板1に重ね合わせた構成であり、図6(b)は、調光シート2を2枚の基板1間に挟持した構成である。
【0030】
また、発明の調光素子は、さらに、調光シート2を別なフィルムでラミネートにより調光シート2を封止する形態も適用可能であり、具体的には、図7に示すように、少なくとも2枚のフィルム5の内部に該調光組成物6が挟持封入されたものを、ラミネート用フィルム15で挟持しその端部加熱溶着して封止した構成でもよい。なお、図7(a)は、調光シート2を基板1に重ね合わせた構成であり、図7(b)は、調光シート2を2枚の基板1間に挟持した構成である。
【0031】
ここで用いられるラミネート用フィルム15は、調光シート2の基材として示した材料が適用可能であり、フィルム5と同様に、水蒸気や有機溶剤のガスなどの透過蒸発を防止するために、特開2002−258001号公報に記載されたバリア性材料を含有していてもよい。このラミネート用フィルムの主な目的は液体蒸発の防止であるが、保護層、防汚層、紫外線遮蔽層、帯電防止層などとしての機能が付与されていても構わない。また、ここで用いられる接着剤としては、フィルムの剥がれが容易に起こらないものであれば特に限定されず、たとえば有機溶剤揮散型接着剤(クロロプレンゴム系、ウレタン系など)、熱硬化反応型接着剤(エポキシ系、レゾール系など)、湿気硬化反応型接着剤(2−シアノアクリル酸エステル系、シリコーン系など)、紫外線硬化反応型接着剤(アクリル系オリゴマーなど)、縮合反応型接着剤(ユリア樹脂系)、付加反応型接着剤(エポキシ系、イソシアネート系など)、熱溶融型接着剤などが挙げられる。本発明においては、この中でも特に熱溶融型接着剤が好適であり、例えば、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリオレフィン誘導体(マレイン酸変性ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、マレイン酸変性ポリプロピレン、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−無水マレイン酸共重合体、プロピレン−アクリル酸共重合体、プロピレン−無水マレイン酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体、マレイン化ポリブタジエン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)及びそのマレイン化物など)、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカプロラクトン系樹脂、ポリスチレン樹脂、及びその誘導体(ポリスチレン、スルホン化ポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体など)、熱可塑性ポリウレタン樹脂、高分子量ポリエチレングリコール、酢酸ビニル樹脂、ワックス類(パラフィンワックス、ミツロウ、牛脂など)、長鎖脂肪酸エステル樹脂及びこれら2種以上の混合物などが挙げられる。
【0032】
[調光組成物]
以下、本発明の調光素子を構成する調光シート2の内部に充填されている調光組成物6について、図3に従い詳細に説明する。本発明の調光シートの内部には、前述の各種調光組成物が用いられる。その中でも特に、外部刺激の付与により可逆的に液体を吸収・放出して体積変化を生ずる調光粒子7(高分子ゲル)と、該調光粒子が吸収・放出し得る液体8(以後、単に吸脱液体という)とからなる調光組成物6、自己保持性のある樹脂あるいはゲルマトリックス中に調光粒子7が担持された構成の調光組成物6などが好ましく適用される。また、図8に示すように、前記調光粒子7は、膨潤状態において吸脱液体8を保持している、内部に色材や光散乱剤などの調光用材料9が含有された高分子ゲルにより構成されていることが望ましい。
【0033】
調光組成物6が調光粒子7と吸脱液体8から構成される場合、調光粒子7が基材(フィルム5)表面に固定されていることが好ましい。これは、調光粒子7の移動による凝集が、調光特性の低下や調光素子の不均一性を生じるためである。本発明においては、充填される吸脱液体8の粘度が高いことにより調光粒子7の移動が抑制されている形態である、自己保持性のある樹脂あるいはゲルマトリックス中に調光粒子7が担持された構成が、より好ましく用いられる。この自己保持性のある樹脂あるいはゲルマトリックスとしては、たとえば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコールなどの高分子化合物を主鎖に持つ架橋体などが好ましく用いられる。
【0034】
次に、調光組成物6に使用可能な調光粒子7としては、高分子ゲルが好適に適用可能である。高分子ゲルとしては、熱の付与によって液体を吸収・放出し、可逆的に体積変化(膨潤・収縮)する刺激応答する高分子ゲルが好ましい。ただし、「可逆的」といっても、膨潤時と収縮時で同一刺激量に応じた体積変化量が異なる、いわゆるヒステリシスな性質を有するものであっても問題なく、本発明において、このような性質の場合も「可逆的」の概念に含まれる。
【0035】
このような高分子ゲルとして具体的には、LCST(下限臨界溶液温度)やUCST(上限臨界溶液温度)をもつ高分子の架橋体(前者を「LCSTゲル」、後者を「UCSTゲル」と称する。)、互いに水素結合する二成分の高分子ゲルのIPN体(相互侵入網目構造体)や結晶性などの凝集性の側鎖をもつ高分子ゲル(前者を「IPNゲル」、後者を「結晶性ゲル」と称する。)などが好ましいものとして例示される。なお、LCSTゲルは高温において収縮し、UCSTゲル、IPNゲル及び結晶性ゲルは逆に高温において膨潤する特性を持っている。
【0036】
LCSTゲルの具体例としては、ポリ[N−イソプロピルアクリルアミド]などのポリ[N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド]の架橋体;N−アルキル置換(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルなどから選択される1種以上との共重合体の架橋体やその塩;ポリビニルメチルエーテルの架橋体;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのアルキル置換セルロース誘導体の架橋体;などが挙げられる。
【0037】
UCSTゲルの具体例としては、ポリ[3−ジメチル(メタクリロイルオキシエチル)アンモニウムプロパンスルフォネート]などの、分子内にアニオンとカチオンの両成分を有する双性イオン高分子の架橋体が挙げられる。
一方、IPNゲルの代表的な例としては、ポリ(メタ)アクリルアミドの架橋体とポリ(メタ)アクリル酸の架橋体からなるIPN体及びその部分中和物(アクリル酸単位のカルボキシル基の一部を金属イオンなどの陽イオンで中和したもの)が挙げられる。その他、(メタ)アクリルアミドあるいはN,N−ジメチル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド誘導体を主成分とする共重合体の架橋体と(メタ)アクリル酸あるいはマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸などの不飽和カルボン酸を主成分とする共重合体の架橋体からなるIPN体及びそれらの部分中和物;少なくとも(メタ)アクリルアミドあるいはN,N−ジメチル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド誘導体と(メタ)アクリル酸あるいはマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸などの不飽和カルボン酸を含む共重合体の架橋体及びその部分中和物;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートを主成分とする共重合体の架橋体;少なくともステアリル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のアルキルエステルと(メタ)アクリル酸あるいはマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸などの不飽和カルボン酸を含む共重合体の架橋体及びその部分中和物;少なくともアクリロキシメチルウラシルなど側鎖に核酸塩基を導入した(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸あるいはマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸などの不飽和カルボン酸を含む共重合体の架橋体及びその部分中和物などが挙げられる。
【0038】
また、結晶性ゲルとしてはオクチル基、デシル基、ラウリル基、ステアリル基などの長鎖アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸との共重合体の架橋体やその塩;コレステリル系モノマあるいは芳香族系モノマと(メタ)アクリル酸との共重合体の架橋体やその塩が挙げられる。
さらに、温度変化に応じて複数の相転移温度を示す高分子ゲルも好ましく使用できる。このような高分子ゲルとしては、例えば、ポリ[N−イソプロピルアクリルアミド]などのポリ[N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド]の架橋体とポリ(メタ)アクリル酸の架橋体とのIPN体などが挙げられる。かかる高分子ゲルは、温度上昇に伴い、膨潤−収縮−膨潤という二つの相転移温度を示すことが知られている。
【0039】
なお、上記の括弧を用いた記述は、括弧内の接頭語を含まない化合物及び含む化合物の両方を示しており、例えば「(メタ)アクリル」という記述は、「アクリル」及び「メタクリル」のいずれをも意味するものである。
【0040】
高分子ゲルの体積変化量は、少なくとも体積比が5以上、より好ましくは8以上であることが望ましい。なお、体積比が5未満であると十分な調光コントラストが得られない可能性がある。
【0041】
次に、上記した高分子ゲルはそれ自身でも、体積変化に伴い光散乱性が変化するという調光能を示すが、より大きな調光特性や色変化を発現するために、調光用材料9が高分子ゲル内部に含有されていることが好ましい。
【0042】
使用可能な調光用材料9としては、顔料及び染料などの色材や光散乱材などが挙げられる。例えば、顔料としてはカーボンブラックなどの黒色顔料、ベンジジン系のイエロー顔料、キナクリドン系、ローダミン系のマゼンタ顔料、フタロシアニン系のシアン顔料などを挙げることができる。
より詳しくは、黒色顔料としてはチャネルブラック、ファーネスブラックなどのカーボンブラック及びチタンブラックなどが挙げられる。
またイエロー顔料としては、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、アリルアミド化合物に代表される化合物が用いられる。具体的には、例えば顔料としては、C.I.ピグメントイエロー12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、109、110、111、128、129、147、168等が好適に用いられる。
またマゼンタ顔料としては、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、ペリレン化合物が用いられる。具体的には、例えば顔料としては、C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、23、48;2、48;3、48;4、57;1、81;1、144、146、166、169、177、184、185、202、206、220、221、254が特に好ましい。
そしてシアン顔料としては、銅フタロシアニン化合物及びその誘導体、アントラキノン化合物、塩基染料レーキ化合物等が利用できる。具体的には、例えば顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、7、15、15:1、15:2、15;3、15:4、60、62、66等が特に好適に利用できる。
【0043】
また染料としては、黒色染料のニグロシン系染料及び各種カラー染料であるアゾ染料をはじめとし、その他アントラキノン系染料、インジゴ系染料、フタロシアニン系染料、カルボニウム系染料、キノンイミン染料、メチン染料、キノリン染料、ニトロ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料、ナフタルイミド染料、ベリノン染料などが挙げられ、特に光吸収係数が高いものが好ましい。
染料の好適な具体例としては、例えば、C.I.ダイレクトイエロー1、8、11、12、24、26、27、28、33、39、44、50、58、85、86、87、88、89、98、157、C.I.アシッドイエロー1、3、7、11、17、19、23、25、29、38、44、79、127、144、245、C.I.ベイシックイエロー1、2、11、34、C.I.フードイエロー4、C.I.リアクティブイエロー37、C.I.ソルベントイエロー6、9、17、31、35、100、102、103、105、C.I.ダイレクトレッド1、2、4、9、11、13、17、20、23、24、28、31、33、37、39、44、46、62、63、75、79、80、81、83、84、89、95、99、113、197、201、218、220、224、225、226、227、228、229、230、231、C.I.アシッドレッド1、6、8、9、13、14、18、26、27、35、37、42、52、82、85、87、89、92、97、106、111、114、115、118、134、158、186、249、254、289、C.I.ベイシックレッド1、2、9、12、14、17、18、37、C.I.フードレッド14、C.I.リアクティブレッド23、180、C.I.ソルベントレッド5、16、17、18、19、22、23、143、145、146、149、150、151、157、158、C.I.ダイレクトブルー1、2、6、15、22、25、41、71、76、78、86、87、90、98、163、165、199、202、C.I.アシッドブルー1、7、9、22、23、25、29、40、41、43、45、78、80、82、92、93、127、249、C.I.ベイシックブルー1、3、5、7、9、22、24、25、26、28、29、C.I.フードブルー2、C.I.ソルベントブルー22、63、78、83〜86、191、194、195、104、C.I.ダイレクトブラック2、7、19、22、24、32、38、51、56、63、71、74、75、77、108、154、168、171、C.I.アシッドブラック1、2、7、24、26、29、31、44、48、50、52、94、C.I.ベイシックブラック2、8、C.I.フードブラック1、2、C.I.リアクティブブラック31、C.I.フードバイオレット2、C.I.ソルベントバイオレット31、33、37、C.I.ソルベントグリーン24、25、C.I.ソルベントブラウン3、9等が挙げられる。
【0044】
これらの顔料及び染料は、単独で使用してもよく、さもなければ所望とする色を得るために混合して使用してもよい。ただし、耐候性の観点からは染料よりも顔料を用いるほうが好ましい。
【0045】
また、光散乱材としては、高分子ゲルの体積変化に用いられる液体の屈折率と異なる屈折率を有する材料が好ましいが、それ以外には特に制限はなく、各種の無機化合物及び有機化合物が適用できる。
【0046】
無機材料の具体例としては、酸化亜鉛、塩基性炭酸鉛、塩基性硫酸鉛、硫酸鉛、リトボン、白雲母、硫化亜鉛、酸化チタン、酸化アンモチモン、鉛白、酸化ジルコニウム、アルミナ、マイカナイト、マイカレックス、石英、炭酸カルシウム、石膏、クレー、シリカ、ケイ酸、珪素土、タルク、塩基性炭酸マグネシウム、アルミナホワイト、グロスホワイト、サチン白等の無機酸化物や、亜鉛、アルメル、アンチモン、アルミニウム、アルミニウム合金、イリジウム、インジウム、オスミウム、クロム、クロメル、コバルト、ジルコニウム、ステンレス鋼、金、銀、洋銀、銅、青銅、すず、タングステン、タングステン鋼、鉄、鉛、ニッケル、ニッケル合金、ニッケリン、白金、白金ロジウム、タンタル、ジュラルミン、ニクロム、チタン、クルップ・オーステナイト鋼、コンスタンタン、真鍮、白金イリジウム、パラジウム、パラジウム合金、モリブデン、モリブデン鋼、マンガン、マンガン合金、ロジウム、ロジウム金などの金属材料、ITO(インジウム・スズ酸化物)等の無機導電性材料などが挙げられる。
【0047】
また、有機材料の具体例としては、フェノール樹脂、フラン樹脂、キシレン・ホルムアルデヒド樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アニリン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ−p−キシリレン、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、フッ素系プラスチック、ポリアクリロニトリル、ポリビニルエーテル、ポリビニルケトン、ポリエーテル、ポリカーボネート、熱可塑性ポリエステル、ポリアミド、ジエン系プラスチック、ポリウレタン系プラスチック、ポリフェニレン、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、芳香族ヘテロ環ポリマー、シリコーン、天然ゴム系プラスチック、セルロース系プラスチック等やこれら2種類以上の高分子材料の混合材料(ポリマーブレンド)などの高分子材料が挙げられる。
【0048】
使用する顔料や光散乱材の好ましい大きさは、一次粒子の平均粒子径で0.001μm〜1μmの範囲、より好ましくは0.01μm〜0.5μmの範囲である。これは、平均粒子径で0.01μm以下又は0.5μm以上になると、顔料及び光散乱材に求められる発色及び光散乱効果が低くなるためである。さらに、平均粒子径0.01μm以下では、高分子ゲル内部からの外部への流出が起こりやすい。
【0049】
顔料及び光散乱材の流出を防止するためには、使用する高分子ゲルの架橋密度を最適化して顔料や光散乱材を前記高分子ゲルの網目内部に物理的に閉じ込めたり、前記高分子ゲルとの電気的、イオン的、その他物理的な相互作用が高い顔料及び光散乱材を用いること、表面を化学修飾した顔料及び光散乱材を用いることなどが挙げられる。
【0050】
例えば、表面を化学修飾した顔料及び光散乱材として例えば、表面にビニル基などの不飽和基や不対電子(ラジカル)などの高分子ゲルとの化学結合する基を導入したものや、高分子材料をグラフト結合したものなどが挙げられる。
【0051】
高分子ゲル中に含有される顔料及び光散乱材の濃度は、高分子ゲルが収縮した時に、少なくとも高分子ゲルの一部分で飽和吸収濃度以上(あるいは飽和光散乱濃度以上)の濃度に達することが望ましい。ここで、飽和吸収濃度以上(あるいは飽和光散乱濃度以上)とは、ひとつの指標として各々の顔料及び光散乱材同士の平均間隔が十分に短くなることで、顔料及び光散乱材の可視光線吸収及び散乱の働きが1次粒子的なものから集合体的なものに変化し、可視光線吸収及び散乱の効率が減少する濃度である。このような顔料及び光散乱材が集合体的な可視光線吸収及び散乱特性を示す状態を、顔料及び光散乱材の濃度が飽和吸収濃度以上(あるいは飽和光散乱濃度以上)にある状態と呼ぶ。また、飽和吸収濃度以上(あるいは飽和光散乱濃度以上)という定義を別な特性で表現すれば、特定の光路長のもとにおける顔料及び光散乱材濃度と可視光線吸収及び散乱量の関係が1次直線の関係から大きく乖離するような顔料及び光散乱材濃度である。すなわち、顔料及び光散乱材濃度が飽和吸収濃度以上(あるいは飽和光散乱濃度以上)になると、顔料及び光散乱材の1粒子あたりの可視光線吸収及び散乱効率が下がることで、可視光線吸収及び散乱量がそれぞれ顔料及び光散乱材濃度に比例しなくなり、1次直線の関係から予想される可視光線吸収及び散乱量と比べて低くなる。一方、飽和吸収濃度以下(あるいは飽和光散乱濃度以下)では、可視光線吸収及び散乱量がそれぞれ顔料及び光散乱材濃度に比例しており、顔料及び光散乱材1粒子あたりの可視光線吸収及び散乱効率は殆ど一定になる。
【0052】
なお、高分子ゲル中に顔料及び光散乱材を飽和吸収濃度以上(あるいは飽和光散乱濃度以上)に含有させる理由は、次に示すとおりである。
すなわち、高分子ゲル中に顔料及び光散乱材を飽和吸収濃度以上(あるいは飽和光散乱濃度以上)に含有させた場合、膨潤時に可視光線を効率よく吸収及び散乱することができ、収縮時と比べて可視光線吸収及び散乱量をより大きくすることができる。つまりこの場合、高分子ゲルが収縮した時に顔料及び光散乱材を飽和吸収濃度以上に含有できるので、この高分子ゲルが膨潤すると、顔料及び光散乱材の濃度が下がり、顔料及び光散乱材1粒子あたりの可視光線の吸収及び散乱効率を収縮時よりも上げることができる。その結果、膨潤時に可視光線の吸収及び散乱量を大きく上げ、収縮時には可視光線の吸収及び散乱量を大きく下げることができる。
一方、含有させる顔料及び光散乱材の濃度を飽和吸収濃度以下(あるいは飽和光散乱濃度以下)にすると、収縮時の顔料及び光散乱材1粒子あたりの可視光線及び赤外線の吸収効率が膨潤時の効率と同程度になる。その結果、膨潤時に可視光線の吸収及び散乱量を大きく上げ、収縮時に可視光線の吸収及び散乱量を大きく下げることができなくなる。
【0053】
以上のことから、飽和吸収濃度(あるいは飽和光散乱濃度)とは膨潤・収縮による可視光線の吸収及び散乱量変化をより大きくするために必要な濃度であり、顔料及び光散乱材の濃度を飽和吸収濃度以上(あるいは飽和光散乱濃度以上)に設定することが好ましい。
【0054】
なお、高分子ゲルが収縮した時に、高分子ゲル中に含有されるこれらの調光用材料の濃度が、飽和濃度(飽和吸収濃度及び飽和光散乱濃度)以上になる濃度となるのは、該高分子ゲルのうち少なくとも一部であればよい。ここで、「高分子ゲルのうち少なくとも一部」とは、その高分子ゲルの内部において、調光用材料が飽和濃度以上に濃縮されているところが、部分的あるいは全体的である場合、及び、調光用材料が飽和濃度以上に濃縮されている高分子ゲルが、全高分子ゲルのうちの一部あるいは全部である場合の双方を意味するものとする。「高分子ゲルのうち少なくとも一部」が飽和濃度以上になる濃度となっていれば、調光作用を発揮することができるが、その高分子ゲルの内部のより多くの部分が、あるいは、より多くの高分子ゲルが、前記飽和濃度以上になる濃度であることが好ましい。
【0055】
このような特性を有するために必要な高分子ゲルに含有させる顔料及び光散乱材の濃度は、一般に3質量%〜95質量%の範囲が好ましく、より好ましくは5質量〜80質量%の範囲である。顔料及び光散乱材の濃度が3質量%未満であると、飽和吸収濃度以上(あるいは飽和光散乱濃度以上)とはならず、高分子ゲルの体積変化による調光特性が不充分となる場合がある。一方、顔料及び光散乱材の濃度が95質量%を超える場合、高分子ゲルの刺激応答速度や体積変化量が低下してしまう恐れがある。
【0056】
一方、高分子ゲル中に含有させる染料の好ましい濃度は、3質量%から50質量%の範囲であり、特に好ましくは5質量%から30質量%の範囲である。染料濃度としては、顔料と同様に、少なくとも高分子ゲルの乾燥あるいは収縮状態において飽和吸収濃度以上であることが望ましい。また、染料を高分子ゲルに固定化するためには、不飽和二重結合基などの重合可能な官能基を有する構造の染料や、高分子ゲルと反応可能ないわゆる反応性染料などが好ましく使用される。
このような顔料や染料などの色材及び光散乱材などの調光用材料を含む高分子ゲルは、架橋前の高分子に該調光用材料を均一に分散、混合した後に架橋する方法や、重合時に高分子前駆体組成物に該調光用材料を添加して重合する方法によって製造することができる。重合時において調光用材料を添加する場合には、前記したように重合性基や不対電子(ラジカル)をもつ調光用材料を使用し、高分子ゲルに化学結合させることも好ましく実施される。
【0057】
また、調光用材料は高分子ゲル中に極力均一に分散されていることが望ましい。特に、架橋前の高分子への分散や、高分子前駆体モノマ組成物への添加に際して、機械的混練法、攪拌法やあるいは分散剤などを利用して均一に分散させることが望ましい。
【0058】
高分子ゲルの形状としては、特に限定されるものではないが、応答速度や加工の容易性などの観点からは、粒子状であることが好ましい。粒子状の高分子ゲルの具体的な形状としては、球体、楕円体、紡錘体、立方体、多面体、多孔質体、繊維状、星状、針状、中空状などが挙げられるが、その他不定形のものであってもよい。粒子状の高分子ゲルの好ましい大きさは、膨潤・収縮用液体を含まない状態において、体積平均粒子径で0.1μm〜1mmの範囲、より好ましくは1μm〜0.5mmの範囲である。体積平均粒子径が0.1μm未満であると、粒子の扱いが困難になる、優れた光学特性が得られないなどの問題を生じる場合がある。一方、体積平均粒子径が0.5mmよりも大きくなると、体積変化に要する応答時間が大幅に長くなってしまうなどの問題が生じる場合がある。
【0059】
粒子状の高分子ゲルは、バルク状の高分子ゲルを物理的粉砕方法によって粉砕する方法や、架橋前の高分子を物理的粉砕方法や化学的粉砕方法によって粒子化した後に架橋して高分子ゲルとする方法、あるいは乳化重合法、懸濁重合法、分散重合法などの粒子化重合法など、一般的な方法によって作製することができる。
【0060】
高分子ゲルを形成するために適用される架橋剤としては、例えば分子内に重合性不飽和基、反応性官能基などを2個以上有する化合物を挙げることができる。上記重合性不飽和基を2個以上有する化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリンポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリグリセリンなどのポリオール類のジ又はトリ(メタ)アクリル酸エステル類、前記ポリオール類とマレイン酸、フマル酸などの不飽和酸類とを反応させて得られる不飽和ポリエステル類、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミドなどのビス(メタ)アクリルアミド類、トリレジンイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどのポリイソシアネートと(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルとを反応させて得られるジ(メタ)アクリル酸カルバミン酸エステル類、アリル化澱粉、アリル化セルロース、ジアリルフタレート、その他のテトラアリロキシエタン、ペンタンエリスリトールトリアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、ジエチレングリコールジアリルエーテル、トリアリルトリメチルエーテルなどの多価アリル系を挙げることができる。これらの中でも本発明には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミドなどが好ましく使用される。
【0061】
また、反応性官能基を2個以上有する化合物としては、ジグリシジルエーテル化合物、ハロエポキシ化合物、ジ及びトリイソシアネート化合物などを挙げることができる。ジグリシジルエーテル化合物の具体例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、ポリグリセリンジグリシジルエーテルなどを挙げることができる。その他、ハロエポキシ化合物の具体例としては、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、β−メチルエピクロロヒドリンなどを挙げることができる。また、ジイソシアネート化合物の具体例としては、2,4−トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどを挙げることができる。これらの中でも本発明には、特にエチレングリコールジグリシジルエーテル、ヘキサメチレンジイソシアネートなどが好ましく使用される。
【0062】
これらのうち特に好ましいのはN,N′−メチレンビス(メタ)アクリルアミドである。架橋剤の使用量は、前記モノマーの仕込み量に対して一般に0.001〜10質量%、好ましくは0.01〜5質量%である。
【0063】
本発明で用いられる重合開始剤は、前記モノマー溶液に溶解し得るものであればよい。具体的には、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキシドやクメンハイドロパーオキシド等のパーオキシド類、アゾイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩等のアゾ化合物などが用いられる。これらの重合開始剤の中でも、特に、過硫酸塩、ハイドロパーオキシド類等の様な酸化性を示す開始剤は、例えば亜硫酸水素ナトリウム、L−アスコルビン酸、第一鉄塩等の様な還元性物質、あるいはN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンなどのアミン類との組合せによるレドックス開始剤としても用いることができる。これらの開始剤の使用量は、一般には主モノマーに対して0.0001〜10質量%、好ましくは0.001〜5質量%である。
【0064】
なおその他、高分子に電子線やガンマ線などの放射線を照射する、加熱するなどの一般的な方法により高分子ゲルを作製することもできる。
また、高分子ゲルの刺激応答による体積変化速度をより高速にするために、高分子ゲルの従来技術と同様に材料を多孔質化して液体の出入り易さを向上させることも好ましい。一般的には膨潤した高分子ゲルを凍結乾燥する方法等で多孔質化することができる。
【0065】
調光組成物6に用いられる吸脱液体8としては、特に制限はないが、好ましくは水;電解質水溶液;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;酢酸エチルなどのエステル類;ジメチルエーテル、メチルエチルエーテルなどのエーテル類;その他ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホオキシド、アセトニトリル、プロピレンカーボネート、キシレン、トルエンなどの芳香族系有機溶媒、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族系有機溶媒、シクロヘキサンなどの脂環式有機溶媒、及びそれらの混合物が挙げられる。また、該液体には必要に応じて各種高分子、酸、アルカリ、塩、界面活性剤、分散安定剤、あるいは酸化防止や紫外線吸収などを目的とする安定剤、ならびに防腐剤などを添加しても構わない。
【0066】
なお、調光組成物6においては、前記高分子ゲル(調光粒子7)と上記吸脱液体8との好ましい混合比の範囲は、質量比で1:2000〜1:1(高分子ゲル:吸脱液体)である。
【0067】
また、上記した刺激応答性高分子ゲル以外の調光組成物6として、水系溶液として下限臨界溶解温度(LCST)を有し曇点を示す高分子であるポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ〔N―アルキル置換(メタ)アクリルアミド〕、ポリ〔アルキル置換アミノアルキル(メタ)アクリレート〕、ポリビニルメチルエーテル、メチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリ(N−ビニルカプロラクタム)、ポリメタクリル酸などが特公昭61−7948、特開平3−237426、特開平8−82809等に開示されている。また、上記の高分子溶液を他の高分子と混合した架橋物が特開平8−47634等に開示されている。架橋物とすることで流動性を無くすことができ、耐久性や用途拡大の上で効果的である。これらの組成物はLCST以上において白濁する性質を持っている。ここで用いられる高分子の詳細なものとしては、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ〔N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド〕などのポリ〔N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド〕、ポリ〔N−ビニルイソブチルアミド〕、ポリビニルメチルエーテルなどのポリビニルアルキルエーテル、ポリ(オキシエチレンオキシビニルエーテル)、ポリ(メタ)アクリル酸及びその塩、ポリ〔2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート〕、ポリ〔N−(メタ)アクリルピペリジン〕、ポリ(2―エチルオキサゾリン)、ポリビニルアルコール及びその部分けん化物、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシドとポリプロピレンオキシドとの共重合体、ポリ(エチレングリコールモノメタアクリレート)、ポリ(エチレングリコールモノアクリレート)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの置換セルロース誘導体、ポリ(N−ビニルカプロラクタム)など、及びこれらの高分子を主成分とする共重合体やポリマーブレンド、これらの高分子とポリ(メタ)アクリルアミド架橋体、ポリビニルアルコール架橋体やポリ(メタ)アクリル酸の架橋体などとの混合組成物が挙げられる。
【0068】
上記のなかで(メタ)なる表記は、例えばメタアクリレートやアクリレートの双方を含む表現である。
【0069】
上記の高分子に各種液体、例えば、水、アルコール類、ケトン類、エーテル類、などを混合することで光散乱性組成物とすることができる。また、これ以外に染料や顔料などの色材、酸、アルカリ、塩、防腐剤、抗菌剤、UV吸収剤、酸化防止剤、増粘剤、脱泡剤、等を添加しても構わない。
【0070】
【実施例】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
[調光粒子Aの調製]
500mlのセパラブルフラスコ内で、アクリルアミド12.00質量部、色材として黒色顔料分散液(大成化工社製カーボンブラック分散液TBK−BC3:固形分15.1質量%含有)34.06質量部、架橋剤としてメチレンビスアクリルアミド0.048質量部、蒸留水19.08質量部を混合し十分に窒素置換した後、過硫酸アンモニウム0.41質量部を添加し十分に攪拌混合した。次に、界面活性剤としてSO−15R(ニッコーケミカルズ社製)を9.00質量部含有する234質量部の十分に窒素置換されたシクロヘキサン溶液を注入した。この混合液を15℃、1200rpmで30分間攪拌し懸濁した後、テトラメチルエチレンジアミン1.68質量部を添加し、300rpmで3時間攪拌保持することで重合反応を行い、ほぼ球形の粒子状の黒色アクリルアミドゲルを得た。得られた粒子はジメチルホルムアミドで洗浄した後、さらに蒸留水で洗浄し、水分散液として回収した。
【0072】
次に、アクリル酸42.9質量部、メチレンビスアクリルアミド0.0086質量部、蒸留水96.76質量部の混合溶液を十分に窒素置換した後、過硫酸アンモニウム0.022質量部を添加し十分に攪拌混合した。次に、この溶液に、先に得られた黒色アクリルアミドゲル粒子の水分散液(固形分3質量%)47.67質量部を添加し十分に混合した後、60℃の水浴に浸し3時間保持することで重合反応を行い、粒子状の黒色調光ゲル粒子を得た。得られた調光ゲル粒子は蒸留水で十分に洗浄した。このとき、得られた調光ゲル粒子の体積平均粒子径は、蒸留水中で20℃において約20μmであった。
【0073】
また、この調光ゲル粒子を光学顕微鏡で観察した結果、蒸留水中で50℃では体積平均粒子径が約43μmであり、50℃においては体積が20℃と比較して約10倍に膨張していた。このように、得られた調光ゲル粒子は、温度に依存して体積が変化する感熱応答性を有することを確認した。なお、相転移点は30〜40℃の温度範囲にあった。つまり、相転移点よりも高温では膨潤し、低温では収縮する特性を有することが確認された。
【0074】
[調光粒子Bの作製]
N−イソプロピルアクリルアミド3.58質量部、メチレンビスアクリルアミド0.0072質量部、黒色顔料水分散液(大日本インキ化学工業社製、MC Black 082−E、顔料分14.3質量%)10.72質量部、水4.86質量部の混合液(19.16質量部)に、毎分0.1Lの流量で15分間窒素を通し溶存酸素を除いた。この混合液に対して6質量%の過硫酸アンモニウム水溶液0.5質量部を加えて攪拌し均一に混合した。
【0075】
次に、攪拌翼としてφ75mmのマリン翼を取り付けた2Lのセパラブルフラスコに、ソルゲン50(第一工業製薬社製)6質量部を均一に溶解したシクロヘキサン溶液1.2Lをいれ、さらに先に調整した顔料混合N−イソプロピルアクリルアミド水溶液を加え、窒素を導入してフラスコ内部全体を窒素置換した。
その後、ウォーターバスを用いてこのフラスコ全体を25℃に保ち、攪拌翼を800rpmで15分間回転させて水相をシクロヘキサン中に懸濁した。次に、攪拌翼の回転数を250rpmにして、この分散液に対して20質量%のテトラメチルエチレンジアミンのシクロヘキサン溶液4mlを加えて反応を開始させ、25℃に保ったまま250rpmで2時間重合して調光粒子を得た。
【0076】
得られた粒子は、ジメチルホルムアミドと水を用いて十分に洗浄し、水分散液として調光粒子を回収した。この調光粒子は、25℃(膨潤状態)での体積平均粒径が約30μmであった。また、この調光粒子は34℃付近に相転移温度を有しており、相転移温度よりも高い温度では収縮状態となり、相転移温度よりも低い温度では膨潤状態となった。またその体積変化量は約15倍であり、約50℃での収縮状態における体積平均粒径は約12μmであった。
【0077】
[調光シートAの作製]
最初に、ポリアクリル酸(和光純薬社製・平均分子量250000)の20質量%水溶液20質量部に対し、メタクリル酸グリシジル0.5質量部を加え、室温で24時間攪拌し反応させた。この溶液に対して光開始剤(チバスペシャリティケミカル社製 イルガキュア2959)を0.8質量部と純水60質量部とを加え、樹脂組成物Aを調製した。なおこの樹脂組成物は、紫外線照射(高圧水銀灯、160W/cm、150秒、照射距離40cm)により、樹脂組成物全体がゲル化し自己保持性のある硬化物を形成することが出来ることを確認した。
【0078】
次に、固形分濃度2.5質量%の割合で調光粒子Aを含む水分散液を調製した。この調光粒子分散液10mlを、先に調製した樹脂組成物A10gに加え、ウエーブローターで3時間分散して調光粒子Aを樹脂組成物A中に均一に分散した混合液Aを得た。
【0079】
次に、混合液Aをブレードコーターを用いてPET基板上に厚さ150μmに成形し、もう一枚のPETフイルムでラミネートした。その後、紫外線照射(高圧水銀灯、160W/cm、150秒、照射距離40cm)によって硬化した。さらに周囲を熱可塑性の感光性のアクリル系接着剤(日本化薬社製 KAYARAD R381I)で封止し、調光シートAを作製した。
【0080】
[調光シートBの作製]
調光粒子Bを用いて、以下に示す方法により調光シートを作製した。
最初に、固形分濃度2.5質量%の割合で調光粒子Bを含む水分散液を調製した。この水分散液10質量部を、フッ素系の紫外線硬化樹脂(日本化薬社製 KAYARAD FAD−515)のフッ素系界面活性剤(セイミケミカル社製 Surflon S−383)5質量%溶液10質量部に対して加え0℃に冷却した。この混合液をウェーブローターで分散し、調光粒子Bの水分散液を紫外線硬化樹脂中に分散した混合液を得た(混合液B)。
【0081】
次に、混合液Bをブレードコーターを用いてPET基板上に厚さ150μmに成形し、もう一枚のPETフイルムでラミネートした。その後、紫外線照射(高圧水銀灯、160W/cm、150秒、照射距離40cm)によって硬化した。さらに周囲を熱可塑性の感光性のアクリル系接着剤(日本化薬社製 KAYARAD R381I)で封止し、調光シートBを作製した。
【0082】
<実施例1>
調光シートAを用いて、以下に示す方法により調光素子を作製した。
最初に、透明基板として150mm四方で厚さ3mmの青板フロートガラスを準備した。この基板上に調光シートを固定するための接着剤層を形成するために、合成樹脂系接着剤PA7426(住友スリーエム社製)をローラーで塗布した。次に、この接着剤層の上にガラス基板の周囲が各辺5mmずつ露出するように140mm四方の調光シートAを貼付した。
【0083】
次に、貼付した調光シートAの各辺の端部が被覆されるように、液体蒸発防止部材としてポリイソブチレン系シーリング材ペンギンシール7000(サンスター技研社製)を基板端部から面内方向内側に10mmの幅で層厚1mm程度被覆し、調光シートを貼付した調光素子を作製した。
【0084】
<実施例2>
液体蒸発防止部材としてシリコーン系シーリング材シーラント45FP(信越化学工業社製)を用いたこと以外は、すべて実施例1と同様な方法で、調光シートを貼付した調光素子を作製した。
【0085】
<実施例3>
液体蒸発防止部材としてアクリル系シーリング材トップシーラー#5000L(ヤマウチ社製)を用いたこと以外は、すべて実施例1と同様な方法で、調光シートを貼付した調光素子を作製した。
【0086】
<比較例1>
液体蒸発防止部材を使用しないこと以外、実施例1と同様な方法で、調光シートを貼付した調光素子を作製した。
【0087】
[実施例1〜3及び比較例1の性能評価]
実施例1〜3及び比較例1に示した調光素子を、スガ試験機製のサンシャインウエザメータ(WEL−SUN−HC型)を使用し、ブラックパネル温度63℃の条件下で1000時間の耐候性試験を行った。その結果を表1に示した。
なお、表1は、実施例1〜3及び比較例1の調光素子の、波長400nm〜800nmの範囲の光の平均透過率を示す表である。
【0088】
【表1】
【0089】
表1からわかるように、本発明の液体蒸発防止部材が具備されている調光素子(実施例1〜3)は、いずれも1000時間の耐候性試験後において、消色時透過率のわずかな減少があるものの、試験前とはぼ同等の感熱透過率変化を示していた。一方、液体蒸発防止部材が具備されていない調光素子(比較例1)は、相転移温度以下における消色時の透過率が大きく低下し、調光コントラストが非常に小さくなっていた。これは、フィルム内部の水がフィルム端部から蒸発し、内部の溶液組成が変化したこと及び、水分の減少による調光粒子の粘着、張り付きが生じたためであると推定される。
【0090】
以上のことから、本発明は調光シート端部に液体蒸発防止部材を具備することで、優れた耐候性が得られることが確認された。
【0091】
<実施例4>
調光シートBを用いて、以下に示す方法により調光素子を作製した。
最初に、透明基板として150mm四方で厚さ3mmの青板フロートガラスを準備した。この基板上に調光シートを固定するための接着剤層を形成するために、合成樹脂系接着剤PA7426(住友スリーエム社製)をスプレー塗布した。次に、この接着剤層の上にガラス基板の周囲が各辺5mmずつ露出するように140mm四方の調光シートBを貼付した。
【0092】
次に、貼付した調光シートBの各辺の端部が被覆されるように、液体蒸発防止部材としてポリイソブチレン系シーリング材RENOシールII(セメダイン社製)を基板端面から面内方向内側に10mmの幅で層厚1mm程度被覆し、調光シートを貼付した。その後、先ほどと同様な、調光シート固定用接着剤層を形成した別なガラス基板(3mm青板フロートガラス)を重ね合わせ、調光シートを内部に挟持した合わせガラスタイプの調光素子を作製した。
【0093】
<実施例5>
液体蒸発防止部材としてシリコーン系シーリング材トスシール381(GE東芝シリコーン社製)を用いたこと以外は、すべて実施例4と同様な方法で、調光シートを内部に挟持した合わせガラスタイプの調光素子を作製した。
【0094】
<実施例6>
液体蒸発防止部材としてアクリル樹脂エマルジョン系塗膜防水材Myルーファー(三菱化学産資社製)を用いたこと以外は、すべて実施例4と同様な方法で、調光シートを内部に挟持した合わせガラスタイプの調光素子を作製した。
【0095】
<比較例2>
液体蒸発防止部材を使用しないこと以外、実施例4と同様な方法で、調光シートを内部に挟持した合わせガラスタイプの調光素子を作製した。
【0096】
[実施例4〜6及び比較例2の性能評価]
実施例4〜6及び比較例2に示した調光素子を、スガ試験機製のサンシャインウエザメータ(WEL−SUN−HC型)を使用し、ブラックパネル温度63℃の条件下で1000時間の耐候性試験を行った。その結果を表2に示した。なお、表2は、実施例4〜6及び比較例2の調光素子の、波長400nm〜800nmの範囲の光の平均透過率を示す表である。
【0097】
【表2】
【0098】
表2からわかるように、本発明の液体蒸発防止部材が具備されている調光素子(実施例4〜6)は、いずれも1000時間の耐候性試験後において、試験前と同等の感熱透過率変化を示していた。一方、液体蒸発防止部材が具備されていない調光素子(比較例2)は、相転移温度以上における消色時の透過率が低く調光コントラストが小さくなっていた。これは、フィルム内部の水がフィルム端部から蒸発し、内部の溶液組成が変化したこと及び、水分の減少による調光粒子の粘着、張り付きが生じたためであると推定される。
なお、比較例1よりも比較例2の方が、耐候性試験1000時間後の消色時透過率の減少割合が小さいことは、調光シート貼付タイプよりも基板間挟持タイプの方が、耐候性が高いことを示している。
以上のことから、本発明は調光シート端部に液体蒸発防止部材を具備することで、優れた耐候性が得られることが確認された。
【0099】
<実施例7>
実施例4と同様な方法で、調光シートを内部に挟持した合わせガラスタイプの調光素子を作製する際に、液体蒸発防止部材として、1質量%の割合で紫外線吸収材Viosorb112(共同薬品社製)を分散させたRENOシールII(セメダイン社製)を用いた。
【0100】
[実施例7の性能評価]
3000時間の耐候性試験を行った結果、紫外線吸収材を含まない実施例4の調光素子は、発色時透過率に変化はなかったが、消色時透過率は74%から70%に低下した。一方、紫外線吸収材を分散した実施例7の調光素子は、発色時透過率および消色時透過率ともに、試験前の値と変化が無かった。このように、液体蒸発防止部材中に紫外線吸収材を分散させることで、より高い耐候性が得られることが判った。
【0101】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、基板の表面に調光シートが担持されている調光素子、及び調光シートが複数枚の基板に挟持されている調光素子において、調光シートの端部に液体蒸発防止部材が取り付けられていることにより、調光シート内部の液体の蒸発が抑制され、安定した調光特性が得られる調光素子の作製が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の調光素子の構成の1例を示す概略図。
【図2】本発明の調光素子の構成の別な1例を示す概略図。
【図3】本発明の調光素子を構成する調光シートの構成の1例を示す概略図。
【図4】本発明の調光素子を構成する調光シートの構成の別な1例を示す概略図。
【図5】本発明の調光素子の構成の別な1例を示す概略図。
【図6】本発明の調光素子の構成の別な1例を示す概略図。
【図7】本発明の調光素子の構成の別な1例を示す概略図。
【図8】本発明の調光素子に用いられる調光粒子の1例を示す概略図。
1 基板
2 調光シート
3 液体蒸発防止部材
4 接着性樹脂
5 フィルム
6 調光組成物
7 調光粒子
8 吸脱液体
9 調光用材料
10 スペーサー
13 封止部材
14 封止兼蒸発防止部材
15 ラミネート用フィルム
【発明の属する技術分野】
本発明は、建築物及び自動車などを始めとする車両の窓材に使用し得る調光素子に関するものである。より詳細には、外部刺激により可逆的に透過率変化を生じる調光素子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
本発明者らは特開平11−236559号公報において新規な発色材料を透明基板間に挟持した構成の調光素子を提案している。この提案においては、刺激の付与による液体の吸収・放出により膨潤・収縮する高分子ゲル中に飽和吸収濃度以上の顔料を含有してなる調光粒子を、膨潤液体とともに直接基板間に封入した構成、及びフィルム間に挟持封止した構成を提示している。
【0003】
【特許文献1】
特開平11−236559号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、調光素子の作製においては、基板間に封入した構成の場合、多種多様な大きさの調光素子の製造が煩雑になるという問題がある。また、フィルムを基板に貼り付ける構成では、建築物や車両の窓ガラスに使用する場合、長期にわたる耐用年数が必要となり、フィルム端部からの、内部の液体の蒸発による調光特性の劣化が問題である。
【0005】
そこで本発明は、天然曝露の状態で使用される場合にも、内部の液体の蒸発が抑制されており、調光特性の劣化が少ない調光素子を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決する為の手段】
上記の目的は、以下の本発明により達成される。即ち本発明は、
<1> 基板と、前記基板に重ね合わされた調光シートと、を含んで構成され、
前記調光シートの少なくとも端部が、液体蒸発防止部材より覆われていることを特徴とする調光素子。
<2> 複数の基板と、前記複数の基板間に挟持された調光シートと、を含んで構成され、
前記調光シートの少なくとも端部が、液体蒸発防止部材より覆われていることを特徴とする調光素子。
<3> 前記液体蒸発防止部材に、紫外線吸収材料が含まれることを特徴とする前記<1>又は<2>に記載の調光素子
<4> 調光シートが、少なくとも、透明フィルムと、外部刺激の付与により可逆的に液体を吸収・放出して体積変化を生ずる高分子ゲルと、前記高分子ゲルが吸収・放出し得る液体と、を含んで構成されていることを特徴とする前記<1>〜<3>のいずれかに記載の調光素子。
<5> 前記高分子ゲル中に、少なくとも収縮時に飽和吸収濃度以上となる量の顔料を含有していることを特徴とする前記<4>に記載の調光素子。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、実質的に同じ機能を有する部材は、全図面通して同じ符号を付与して説明する。
【0008】
[調光素子]
本発明の調光素子は、例えば、図1に示すように、1枚の基板1の表面に後述する調光シート2を配置し、該調光シート2の端部周辺は液体蒸発防止部材3が貼着されている。このとき該調光シート2は、好ましくは基板1の表面に接着性樹脂4を介して配置され、基板面からの脱離が抑制されている。また、本発明の調光素子は、図2に示すように、一対の基板1間に調光シートを挟持した構成も挙げられる。なお、図1及び図2に示す調光素子には、保護層、防汚層、紫外線遮蔽層、帯電防止層などの他の構成層が形成されていても構わない。
【0009】
本発明の調光素子は、1枚の基板1と、これに重ね合わされる調光シート2とを含む構成、或いは、複数の基板1と、当該複数の基板1間に挟持される調光シート2を含む構成において、調光シート2の少なくと端部周辺が液体蒸発防止部材3に覆ったものである。このような構成にすることで、天然曝露の状態などの過酷な条件下での使用の際、調光シート端部からの液体の蒸発を極力抑制し、調光特性を劣化を減少させることが可能となる。以下、各部材について説明する。
【0010】
接着性樹脂4としては、有機溶剤揮散型接着剤(クロロプレンゴム系、ウレタン系など)、熱硬化反応型接着剤(エポキシ系、レゾール系など)、湿気硬化反応型接着剤(2−シアノアクリル酸エステル系、シリコーン系など)、紫外線硬化反応型接着剤(アクリル系オリゴマーなど)、縮合反応型接着剤(ユリア樹脂系)、付加反応型接着剤(エポキシ系、イソシアネート系など)、熱溶融型接着剤などが挙げられる。
【0011】
この中でも特に熱溶融型接着剤が好適であり、例えば、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリオレフィン誘導体(マレイン酸変性ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、マレイン酸変性ポリプロピレン、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−無水マレイン酸共重合体、プロピレン−アクリル酸共重合体、プロピレン−無水マレイン酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体、マレイン化ポリブタジエン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)及びそのマレイン化物など)、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカプロラクトン系樹脂、ポリスチレン樹脂、及びその誘導体(ポリスチレン、スルホン化ポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体など)、熱可塑性ポリウレタン樹脂、高分子量ポリエチレングリコール、酢酸ビニル樹脂、ワックス類(パラフィンワックス、ミツロウ、牛脂など)、長鎖脂肪酸エステル樹脂及びこれら2種以上の混合物などが挙げられる。
【0012】
液体蒸発防止部材3としては、ポリイソブチレン系、シリコーン系、ウレタン系、変成シリコーン系、ポリサルファイド系、アクリル系、ブチル系、エポキシ系、変成ウレタン系、変成ポリサルファイド系、アクリルウレタン系などの各種シーリング材、及びウレタンゴム系、アクリルゴム系、クロロプレンゴム系、アクリル樹脂エマルジョン系、ゴムアスファルトエマルジョン系などの各種塗膜防水材が適用できる。その他、ガラス、セラミックスなどの無機材料や銀、銅、鉛、錫などの各種金属材料の適用も可能である。
【0013】
なお、基板1としてガラスを用いる場合には、液体蒸発防止部材3としては、これらの中でも特に、ポリイソブチレン系、シリコーン系、アクリル系の各シーリング材、及びアクリル樹脂エマルジョン系の塗膜防水材が好ましく用いられる。
具体的には、ポリイソブチレン系シーリング材としては、ペンギンシール7000(サンスター技研社製)、RENOシールII(セメダイン社製)、IB2000(ブリヂストン社製)などの2成分形シーリング材が、またシリコーン系シーリング材としては、トスシール381,83(GE東芝シリコーン社製)、シーラント45FP(信越化学工業社製)、SH780(東レダウコーニングシリコーン社製)、8060プロ(セメダイン社製)、シャーピーシール・ペンタブル(シャープ化学社製)などの1成分形シーリング材、及びペンギンシール2520(サンスター技研社製)、トスシール361,63,64,67,90(GE東芝シリコーン社製)などの2成分形シーリング材が、またアクリル系シーリング材としては、トップシーラー#5000,#5000L(ヤマウチ社製)などの1成分形シーリング材が挙げられる。また、アクリル樹脂エマルジョン系塗膜防水材としては、Myルーファー(三菱化学産資社製)、FDコート(フヨー社製)などが挙げられる。
【0014】
液体蒸発防止部材3には、紫外線吸収材を含ませることができる。液体蒸発防止部材3に紫外線吸収材を含ませることで、調光シート2端部周辺の紫外線による劣化を抑制させ、より効果的に液体の漏れや蒸発を防止し、調光機能の劣化を抑制させることが可能となる。このような紫外線吸収材としては、例えば、共同薬品社製Viosorb112、Viosorb105、大塚化学社製PUVA−NW、PUVA−CW、日本触媒社製FX−UFZ−CO、住友化学社製Sumisorb320、Sumisorb340などが挙げられる。
【0015】
基板1としては、主にガラスが好ましく用いられるが、それ以外にポリエステル、ポリイミド、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスルフォン、ポリカーボネート、ポリエーテル、セルロース誘導体などの高分子板状体などの使用も可能である。なお、これらの基板の大きさや厚さは特に限定するものではない。
【0016】
調光シート2としては、例えば、と2枚のフィルムの間に調光組成物を封入し、周囲の端部を封止した構成のものである。
【0017】
調光シート2に用いられる調光組成物6としては、調光粒子7と吸脱液体8とを含んで構成されるものが挙げられる。具体的に、例えば、特開平11−236559号公報に記載されている内部に顔料を分散した刺激応答性高分子ゲルを用いるもの、特公昭61−7948号公報、特開平3−237426号公報、特開平8−82809号公報などに記載されている下限臨界溶解温度(LCST)をもつ高分子材料の溶液を用いるもの、特公平7−23471号公報、特開平6−220453号公報、特開平6−255016号公報などに記載されているリオトロピック型コレステリック液晶を用いるもの、特開平6−192525号公報、特開平7−242785号公報、特開平8−165396号公報、特開平8−183893号公報などに記載されているLCSTを有するフッ素系サーモクロミック材料を用いるものなどが適用できる。なお、調光組成物6についての詳細は、後述する。
【0018】
調光シート2の具体的な構成としては、例えば、図3に示す構成が挙げられる。調光シート2は、図3(a)に示すように、少なくとも基材となるフィルム5と調光組成物6からなり、少なくとも2枚のフィルム5の内部に該調光組成物6が挟持封入され、2枚のフィルム5端部周辺を加熱溶着されて構成している。また、調光シート2は、図3(b)に示すように必要に応じてスペーサー10を具備していてもよい。また、調光シート2は、図4に示すように、封止用接着剤などの封止部材13により封止された構成でもよい。
【0019】
調光シート2の基材となるフィルム5としては、ポリエステル、ポリイミド、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスルフォン、ポリカーボネート、ポリエーテル、セルロース誘導体などの高分子フィルムや板状体などが使用可能である。なお、これらの基材の大きさや厚さは特に限定するものではない。
【0020】
また、フィルムに5は水蒸気や有機溶剤のガスなどの透過蒸発を防止するために、特開2002−258001号公報に記載されたバリア性材料を含有していてもよい。具体的には、例えば、ポリマー材料としては塩化ビニリデン系共重合体やエチレン−ビニルアルコール共重合体などが挙げられる。また、無機物としては、例えば、周期律表13族元素または14族元素の金属単体かこれらの酸化物などが挙げられる。
【0021】
スペーサー10としては、基材のフィルムの間隙を安定して維持できる形状であれば特に限定されないが、例えば、球、立方体、柱状のものなどの独立した形状のものが好ましく用いられる。また、連続した形状を有するスペーサー10を使用することもできる。この場合、それらの形状は、安定して間隙を維持できる形状であれば特に限定されず、主に格子状、ハニカム状などの多角形を始めとして、様々な形状を適用することが出来る。これらのスペーサー10は、後述する調光組成物の構成部材である吸脱液体に安定な材料であれば特に限定されず、例えば、樹脂、金属、金属酸化物、ガラスなどが適用できる。
【0022】
なお、これらのスペーサー10は、より好ましくはフィルム5表面に固定されていることが望ましい。固定に使用する接着剤としては、接着性樹脂4として例示した接着剤が適用できる。
【0023】
スペーサー10をフィルム5表面に固定する際に使用する接着剤の割合は、通常、被接着物100質量部に対して接着剤の量が0.1〜50質量部、好ましくは1〜30質量部程度で十分ある。接着剤の量が50質量部を超えると基材(フィルム5)への固着性は向上するものの、過剰な接着剤の影響でスペーサー10により規定されるべきフィルム5間の間隙が変化することや、製造コストが増加するという問題が生じることがある。一方、0.1質量部未満では、スペーサー10の基材(フィルム5)への固着が不十分となることがある。
【0024】
また、接着剤を用いたスペーサー10の固定は、例えば、スペーサー10粒子と粒子状の接着性樹脂の混合物を被接着面に散布した後、加熱処理を施して接着する方法が適用できる。この時、混合に使用する装置は特に限定されず、通常の粉体混合装置でよく、例えば、コニカルブレンダー、ナウターミキサー、V型ブレンダー、タービュライザー、スクリュー式ラインブレンダーなどが挙げられる。
【0025】
その他、接着剤を溶媒に溶かした接着性溶液を調製し、被接着面に該接着剤溶液を塗布した後、スペーサー10粒子を散布して加熱処理を施しても構わない。この時使用される溶媒は、フィルム5を変質させず接着性樹脂が可溶なものであれば特に限定されないが、溶媒の沸点は比較的低い方がよく、150℃以下、好ましくは100℃以下が適当であり、例えば、アセトンなどのケトン類、エタノール、メタノールなどのアルコール類、酢酸エチルなどのカルボン酸エステル類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテルなどのエーテル類、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類及び、これらの混合物などが挙げられる。また、接着剤溶液の被接着面への適用方法は、塗布、噴霧、浸漬などが挙げられる。
【0026】
また、接着のための加熱処理は特に限定されないが、熱風加熱機、赤外線加熱機、高周波加熱機及びヒートローラなどの接触式加熱機などが適用でき、加熱温度は、接着剤の溶融温度の従いおよそ50℃〜200℃の間で適宜設定される。
【0027】
調光シート2の厚みの好ましい範囲は、1μm〜20mm、より好ましくは2μm〜5mmの範囲である。これは、1μmよりも小さいと、調光性能が低くなり所望の調光効果を得ることができない場合があり、20mm以上では応答特性が低下する恐れがあるためである。
【0028】
本発明の調光素子において、調光シート2の封止形態は、必ずしも調光シート2端部の封止部材13と液体蒸発防止部材3が別々な部材により行われている必要はなく、調光素子は、図5に示すように、調光シート2端部周辺を、封止部材13と液体蒸発防止部材3が同一部材で構成された封止兼蒸発防止部材14により覆われた構成でも構わない。なお、図5(a)は、調光シート2を基板1に重ね合わせた構成であり、図5(b)は、調光シート2を2枚の基板1間に挟持した構成である。
【0029】
本発明の調光素子は、さらに、調光シート2を別なフィルムでラミネートする方法も適用可能であり、具体的には、図6に示すように、調光シート2を、フィルム5と調光組成物6とラミネート用フィルム15とからなり、少なくとも2枚のフィルム5の内部に該調光組成物6が挟持封入され、2枚のフィルム5端部周辺を封止部材13により封止したものを、さらにラミネート用フィルム15で挟持しその端部加熱溶着した構成でもよい。なお、図6(a)は、調光シート2を基板1に重ね合わせた構成であり、図6(b)は、調光シート2を2枚の基板1間に挟持した構成である。
【0030】
また、発明の調光素子は、さらに、調光シート2を別なフィルムでラミネートにより調光シート2を封止する形態も適用可能であり、具体的には、図7に示すように、少なくとも2枚のフィルム5の内部に該調光組成物6が挟持封入されたものを、ラミネート用フィルム15で挟持しその端部加熱溶着して封止した構成でもよい。なお、図7(a)は、調光シート2を基板1に重ね合わせた構成であり、図7(b)は、調光シート2を2枚の基板1間に挟持した構成である。
【0031】
ここで用いられるラミネート用フィルム15は、調光シート2の基材として示した材料が適用可能であり、フィルム5と同様に、水蒸気や有機溶剤のガスなどの透過蒸発を防止するために、特開2002−258001号公報に記載されたバリア性材料を含有していてもよい。このラミネート用フィルムの主な目的は液体蒸発の防止であるが、保護層、防汚層、紫外線遮蔽層、帯電防止層などとしての機能が付与されていても構わない。また、ここで用いられる接着剤としては、フィルムの剥がれが容易に起こらないものであれば特に限定されず、たとえば有機溶剤揮散型接着剤(クロロプレンゴム系、ウレタン系など)、熱硬化反応型接着剤(エポキシ系、レゾール系など)、湿気硬化反応型接着剤(2−シアノアクリル酸エステル系、シリコーン系など)、紫外線硬化反応型接着剤(アクリル系オリゴマーなど)、縮合反応型接着剤(ユリア樹脂系)、付加反応型接着剤(エポキシ系、イソシアネート系など)、熱溶融型接着剤などが挙げられる。本発明においては、この中でも特に熱溶融型接着剤が好適であり、例えば、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリオレフィン誘導体(マレイン酸変性ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、マレイン酸変性ポリプロピレン、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−無水マレイン酸共重合体、プロピレン−アクリル酸共重合体、プロピレン−無水マレイン酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体、マレイン化ポリブタジエン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)及びそのマレイン化物など)、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカプロラクトン系樹脂、ポリスチレン樹脂、及びその誘導体(ポリスチレン、スルホン化ポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体など)、熱可塑性ポリウレタン樹脂、高分子量ポリエチレングリコール、酢酸ビニル樹脂、ワックス類(パラフィンワックス、ミツロウ、牛脂など)、長鎖脂肪酸エステル樹脂及びこれら2種以上の混合物などが挙げられる。
【0032】
[調光組成物]
以下、本発明の調光素子を構成する調光シート2の内部に充填されている調光組成物6について、図3に従い詳細に説明する。本発明の調光シートの内部には、前述の各種調光組成物が用いられる。その中でも特に、外部刺激の付与により可逆的に液体を吸収・放出して体積変化を生ずる調光粒子7(高分子ゲル)と、該調光粒子が吸収・放出し得る液体8(以後、単に吸脱液体という)とからなる調光組成物6、自己保持性のある樹脂あるいはゲルマトリックス中に調光粒子7が担持された構成の調光組成物6などが好ましく適用される。また、図8に示すように、前記調光粒子7は、膨潤状態において吸脱液体8を保持している、内部に色材や光散乱剤などの調光用材料9が含有された高分子ゲルにより構成されていることが望ましい。
【0033】
調光組成物6が調光粒子7と吸脱液体8から構成される場合、調光粒子7が基材(フィルム5)表面に固定されていることが好ましい。これは、調光粒子7の移動による凝集が、調光特性の低下や調光素子の不均一性を生じるためである。本発明においては、充填される吸脱液体8の粘度が高いことにより調光粒子7の移動が抑制されている形態である、自己保持性のある樹脂あるいはゲルマトリックス中に調光粒子7が担持された構成が、より好ましく用いられる。この自己保持性のある樹脂あるいはゲルマトリックスとしては、たとえば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコールなどの高分子化合物を主鎖に持つ架橋体などが好ましく用いられる。
【0034】
次に、調光組成物6に使用可能な調光粒子7としては、高分子ゲルが好適に適用可能である。高分子ゲルとしては、熱の付与によって液体を吸収・放出し、可逆的に体積変化(膨潤・収縮)する刺激応答する高分子ゲルが好ましい。ただし、「可逆的」といっても、膨潤時と収縮時で同一刺激量に応じた体積変化量が異なる、いわゆるヒステリシスな性質を有するものであっても問題なく、本発明において、このような性質の場合も「可逆的」の概念に含まれる。
【0035】
このような高分子ゲルとして具体的には、LCST(下限臨界溶液温度)やUCST(上限臨界溶液温度)をもつ高分子の架橋体(前者を「LCSTゲル」、後者を「UCSTゲル」と称する。)、互いに水素結合する二成分の高分子ゲルのIPN体(相互侵入網目構造体)や結晶性などの凝集性の側鎖をもつ高分子ゲル(前者を「IPNゲル」、後者を「結晶性ゲル」と称する。)などが好ましいものとして例示される。なお、LCSTゲルは高温において収縮し、UCSTゲル、IPNゲル及び結晶性ゲルは逆に高温において膨潤する特性を持っている。
【0036】
LCSTゲルの具体例としては、ポリ[N−イソプロピルアクリルアミド]などのポリ[N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド]の架橋体;N−アルキル置換(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルなどから選択される1種以上との共重合体の架橋体やその塩;ポリビニルメチルエーテルの架橋体;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのアルキル置換セルロース誘導体の架橋体;などが挙げられる。
【0037】
UCSTゲルの具体例としては、ポリ[3−ジメチル(メタクリロイルオキシエチル)アンモニウムプロパンスルフォネート]などの、分子内にアニオンとカチオンの両成分を有する双性イオン高分子の架橋体が挙げられる。
一方、IPNゲルの代表的な例としては、ポリ(メタ)アクリルアミドの架橋体とポリ(メタ)アクリル酸の架橋体からなるIPN体及びその部分中和物(アクリル酸単位のカルボキシル基の一部を金属イオンなどの陽イオンで中和したもの)が挙げられる。その他、(メタ)アクリルアミドあるいはN,N−ジメチル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド誘導体を主成分とする共重合体の架橋体と(メタ)アクリル酸あるいはマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸などの不飽和カルボン酸を主成分とする共重合体の架橋体からなるIPN体及びそれらの部分中和物;少なくとも(メタ)アクリルアミドあるいはN,N−ジメチル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド誘導体と(メタ)アクリル酸あるいはマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸などの不飽和カルボン酸を含む共重合体の架橋体及びその部分中和物;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートを主成分とする共重合体の架橋体;少なくともステアリル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のアルキルエステルと(メタ)アクリル酸あるいはマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸などの不飽和カルボン酸を含む共重合体の架橋体及びその部分中和物;少なくともアクリロキシメチルウラシルなど側鎖に核酸塩基を導入した(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸あるいはマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸などの不飽和カルボン酸を含む共重合体の架橋体及びその部分中和物などが挙げられる。
【0038】
また、結晶性ゲルとしてはオクチル基、デシル基、ラウリル基、ステアリル基などの長鎖アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸との共重合体の架橋体やその塩;コレステリル系モノマあるいは芳香族系モノマと(メタ)アクリル酸との共重合体の架橋体やその塩が挙げられる。
さらに、温度変化に応じて複数の相転移温度を示す高分子ゲルも好ましく使用できる。このような高分子ゲルとしては、例えば、ポリ[N−イソプロピルアクリルアミド]などのポリ[N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド]の架橋体とポリ(メタ)アクリル酸の架橋体とのIPN体などが挙げられる。かかる高分子ゲルは、温度上昇に伴い、膨潤−収縮−膨潤という二つの相転移温度を示すことが知られている。
【0039】
なお、上記の括弧を用いた記述は、括弧内の接頭語を含まない化合物及び含む化合物の両方を示しており、例えば「(メタ)アクリル」という記述は、「アクリル」及び「メタクリル」のいずれをも意味するものである。
【0040】
高分子ゲルの体積変化量は、少なくとも体積比が5以上、より好ましくは8以上であることが望ましい。なお、体積比が5未満であると十分な調光コントラストが得られない可能性がある。
【0041】
次に、上記した高分子ゲルはそれ自身でも、体積変化に伴い光散乱性が変化するという調光能を示すが、より大きな調光特性や色変化を発現するために、調光用材料9が高分子ゲル内部に含有されていることが好ましい。
【0042】
使用可能な調光用材料9としては、顔料及び染料などの色材や光散乱材などが挙げられる。例えば、顔料としてはカーボンブラックなどの黒色顔料、ベンジジン系のイエロー顔料、キナクリドン系、ローダミン系のマゼンタ顔料、フタロシアニン系のシアン顔料などを挙げることができる。
より詳しくは、黒色顔料としてはチャネルブラック、ファーネスブラックなどのカーボンブラック及びチタンブラックなどが挙げられる。
またイエロー顔料としては、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、アリルアミド化合物に代表される化合物が用いられる。具体的には、例えば顔料としては、C.I.ピグメントイエロー12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、109、110、111、128、129、147、168等が好適に用いられる。
またマゼンタ顔料としては、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、ペリレン化合物が用いられる。具体的には、例えば顔料としては、C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、23、48;2、48;3、48;4、57;1、81;1、144、146、166、169、177、184、185、202、206、220、221、254が特に好ましい。
そしてシアン顔料としては、銅フタロシアニン化合物及びその誘導体、アントラキノン化合物、塩基染料レーキ化合物等が利用できる。具体的には、例えば顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、7、15、15:1、15:2、15;3、15:4、60、62、66等が特に好適に利用できる。
【0043】
また染料としては、黒色染料のニグロシン系染料及び各種カラー染料であるアゾ染料をはじめとし、その他アントラキノン系染料、インジゴ系染料、フタロシアニン系染料、カルボニウム系染料、キノンイミン染料、メチン染料、キノリン染料、ニトロ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料、ナフタルイミド染料、ベリノン染料などが挙げられ、特に光吸収係数が高いものが好ましい。
染料の好適な具体例としては、例えば、C.I.ダイレクトイエロー1、8、11、12、24、26、27、28、33、39、44、50、58、85、86、87、88、89、98、157、C.I.アシッドイエロー1、3、7、11、17、19、23、25、29、38、44、79、127、144、245、C.I.ベイシックイエロー1、2、11、34、C.I.フードイエロー4、C.I.リアクティブイエロー37、C.I.ソルベントイエロー6、9、17、31、35、100、102、103、105、C.I.ダイレクトレッド1、2、4、9、11、13、17、20、23、24、28、31、33、37、39、44、46、62、63、75、79、80、81、83、84、89、95、99、113、197、201、218、220、224、225、226、227、228、229、230、231、C.I.アシッドレッド1、6、8、9、13、14、18、26、27、35、37、42、52、82、85、87、89、92、97、106、111、114、115、118、134、158、186、249、254、289、C.I.ベイシックレッド1、2、9、12、14、17、18、37、C.I.フードレッド14、C.I.リアクティブレッド23、180、C.I.ソルベントレッド5、16、17、18、19、22、23、143、145、146、149、150、151、157、158、C.I.ダイレクトブルー1、2、6、15、22、25、41、71、76、78、86、87、90、98、163、165、199、202、C.I.アシッドブルー1、7、9、22、23、25、29、40、41、43、45、78、80、82、92、93、127、249、C.I.ベイシックブルー1、3、5、7、9、22、24、25、26、28、29、C.I.フードブルー2、C.I.ソルベントブルー22、63、78、83〜86、191、194、195、104、C.I.ダイレクトブラック2、7、19、22、24、32、38、51、56、63、71、74、75、77、108、154、168、171、C.I.アシッドブラック1、2、7、24、26、29、31、44、48、50、52、94、C.I.ベイシックブラック2、8、C.I.フードブラック1、2、C.I.リアクティブブラック31、C.I.フードバイオレット2、C.I.ソルベントバイオレット31、33、37、C.I.ソルベントグリーン24、25、C.I.ソルベントブラウン3、9等が挙げられる。
【0044】
これらの顔料及び染料は、単独で使用してもよく、さもなければ所望とする色を得るために混合して使用してもよい。ただし、耐候性の観点からは染料よりも顔料を用いるほうが好ましい。
【0045】
また、光散乱材としては、高分子ゲルの体積変化に用いられる液体の屈折率と異なる屈折率を有する材料が好ましいが、それ以外には特に制限はなく、各種の無機化合物及び有機化合物が適用できる。
【0046】
無機材料の具体例としては、酸化亜鉛、塩基性炭酸鉛、塩基性硫酸鉛、硫酸鉛、リトボン、白雲母、硫化亜鉛、酸化チタン、酸化アンモチモン、鉛白、酸化ジルコニウム、アルミナ、マイカナイト、マイカレックス、石英、炭酸カルシウム、石膏、クレー、シリカ、ケイ酸、珪素土、タルク、塩基性炭酸マグネシウム、アルミナホワイト、グロスホワイト、サチン白等の無機酸化物や、亜鉛、アルメル、アンチモン、アルミニウム、アルミニウム合金、イリジウム、インジウム、オスミウム、クロム、クロメル、コバルト、ジルコニウム、ステンレス鋼、金、銀、洋銀、銅、青銅、すず、タングステン、タングステン鋼、鉄、鉛、ニッケル、ニッケル合金、ニッケリン、白金、白金ロジウム、タンタル、ジュラルミン、ニクロム、チタン、クルップ・オーステナイト鋼、コンスタンタン、真鍮、白金イリジウム、パラジウム、パラジウム合金、モリブデン、モリブデン鋼、マンガン、マンガン合金、ロジウム、ロジウム金などの金属材料、ITO(インジウム・スズ酸化物)等の無機導電性材料などが挙げられる。
【0047】
また、有機材料の具体例としては、フェノール樹脂、フラン樹脂、キシレン・ホルムアルデヒド樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アニリン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ−p−キシリレン、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、フッ素系プラスチック、ポリアクリロニトリル、ポリビニルエーテル、ポリビニルケトン、ポリエーテル、ポリカーボネート、熱可塑性ポリエステル、ポリアミド、ジエン系プラスチック、ポリウレタン系プラスチック、ポリフェニレン、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、芳香族ヘテロ環ポリマー、シリコーン、天然ゴム系プラスチック、セルロース系プラスチック等やこれら2種類以上の高分子材料の混合材料(ポリマーブレンド)などの高分子材料が挙げられる。
【0048】
使用する顔料や光散乱材の好ましい大きさは、一次粒子の平均粒子径で0.001μm〜1μmの範囲、より好ましくは0.01μm〜0.5μmの範囲である。これは、平均粒子径で0.01μm以下又は0.5μm以上になると、顔料及び光散乱材に求められる発色及び光散乱効果が低くなるためである。さらに、平均粒子径0.01μm以下では、高分子ゲル内部からの外部への流出が起こりやすい。
【0049】
顔料及び光散乱材の流出を防止するためには、使用する高分子ゲルの架橋密度を最適化して顔料や光散乱材を前記高分子ゲルの網目内部に物理的に閉じ込めたり、前記高分子ゲルとの電気的、イオン的、その他物理的な相互作用が高い顔料及び光散乱材を用いること、表面を化学修飾した顔料及び光散乱材を用いることなどが挙げられる。
【0050】
例えば、表面を化学修飾した顔料及び光散乱材として例えば、表面にビニル基などの不飽和基や不対電子(ラジカル)などの高分子ゲルとの化学結合する基を導入したものや、高分子材料をグラフト結合したものなどが挙げられる。
【0051】
高分子ゲル中に含有される顔料及び光散乱材の濃度は、高分子ゲルが収縮した時に、少なくとも高分子ゲルの一部分で飽和吸収濃度以上(あるいは飽和光散乱濃度以上)の濃度に達することが望ましい。ここで、飽和吸収濃度以上(あるいは飽和光散乱濃度以上)とは、ひとつの指標として各々の顔料及び光散乱材同士の平均間隔が十分に短くなることで、顔料及び光散乱材の可視光線吸収及び散乱の働きが1次粒子的なものから集合体的なものに変化し、可視光線吸収及び散乱の効率が減少する濃度である。このような顔料及び光散乱材が集合体的な可視光線吸収及び散乱特性を示す状態を、顔料及び光散乱材の濃度が飽和吸収濃度以上(あるいは飽和光散乱濃度以上)にある状態と呼ぶ。また、飽和吸収濃度以上(あるいは飽和光散乱濃度以上)という定義を別な特性で表現すれば、特定の光路長のもとにおける顔料及び光散乱材濃度と可視光線吸収及び散乱量の関係が1次直線の関係から大きく乖離するような顔料及び光散乱材濃度である。すなわち、顔料及び光散乱材濃度が飽和吸収濃度以上(あるいは飽和光散乱濃度以上)になると、顔料及び光散乱材の1粒子あたりの可視光線吸収及び散乱効率が下がることで、可視光線吸収及び散乱量がそれぞれ顔料及び光散乱材濃度に比例しなくなり、1次直線の関係から予想される可視光線吸収及び散乱量と比べて低くなる。一方、飽和吸収濃度以下(あるいは飽和光散乱濃度以下)では、可視光線吸収及び散乱量がそれぞれ顔料及び光散乱材濃度に比例しており、顔料及び光散乱材1粒子あたりの可視光線吸収及び散乱効率は殆ど一定になる。
【0052】
なお、高分子ゲル中に顔料及び光散乱材を飽和吸収濃度以上(あるいは飽和光散乱濃度以上)に含有させる理由は、次に示すとおりである。
すなわち、高分子ゲル中に顔料及び光散乱材を飽和吸収濃度以上(あるいは飽和光散乱濃度以上)に含有させた場合、膨潤時に可視光線を効率よく吸収及び散乱することができ、収縮時と比べて可視光線吸収及び散乱量をより大きくすることができる。つまりこの場合、高分子ゲルが収縮した時に顔料及び光散乱材を飽和吸収濃度以上に含有できるので、この高分子ゲルが膨潤すると、顔料及び光散乱材の濃度が下がり、顔料及び光散乱材1粒子あたりの可視光線の吸収及び散乱効率を収縮時よりも上げることができる。その結果、膨潤時に可視光線の吸収及び散乱量を大きく上げ、収縮時には可視光線の吸収及び散乱量を大きく下げることができる。
一方、含有させる顔料及び光散乱材の濃度を飽和吸収濃度以下(あるいは飽和光散乱濃度以下)にすると、収縮時の顔料及び光散乱材1粒子あたりの可視光線及び赤外線の吸収効率が膨潤時の効率と同程度になる。その結果、膨潤時に可視光線の吸収及び散乱量を大きく上げ、収縮時に可視光線の吸収及び散乱量を大きく下げることができなくなる。
【0053】
以上のことから、飽和吸収濃度(あるいは飽和光散乱濃度)とは膨潤・収縮による可視光線の吸収及び散乱量変化をより大きくするために必要な濃度であり、顔料及び光散乱材の濃度を飽和吸収濃度以上(あるいは飽和光散乱濃度以上)に設定することが好ましい。
【0054】
なお、高分子ゲルが収縮した時に、高分子ゲル中に含有されるこれらの調光用材料の濃度が、飽和濃度(飽和吸収濃度及び飽和光散乱濃度)以上になる濃度となるのは、該高分子ゲルのうち少なくとも一部であればよい。ここで、「高分子ゲルのうち少なくとも一部」とは、その高分子ゲルの内部において、調光用材料が飽和濃度以上に濃縮されているところが、部分的あるいは全体的である場合、及び、調光用材料が飽和濃度以上に濃縮されている高分子ゲルが、全高分子ゲルのうちの一部あるいは全部である場合の双方を意味するものとする。「高分子ゲルのうち少なくとも一部」が飽和濃度以上になる濃度となっていれば、調光作用を発揮することができるが、その高分子ゲルの内部のより多くの部分が、あるいは、より多くの高分子ゲルが、前記飽和濃度以上になる濃度であることが好ましい。
【0055】
このような特性を有するために必要な高分子ゲルに含有させる顔料及び光散乱材の濃度は、一般に3質量%〜95質量%の範囲が好ましく、より好ましくは5質量〜80質量%の範囲である。顔料及び光散乱材の濃度が3質量%未満であると、飽和吸収濃度以上(あるいは飽和光散乱濃度以上)とはならず、高分子ゲルの体積変化による調光特性が不充分となる場合がある。一方、顔料及び光散乱材の濃度が95質量%を超える場合、高分子ゲルの刺激応答速度や体積変化量が低下してしまう恐れがある。
【0056】
一方、高分子ゲル中に含有させる染料の好ましい濃度は、3質量%から50質量%の範囲であり、特に好ましくは5質量%から30質量%の範囲である。染料濃度としては、顔料と同様に、少なくとも高分子ゲルの乾燥あるいは収縮状態において飽和吸収濃度以上であることが望ましい。また、染料を高分子ゲルに固定化するためには、不飽和二重結合基などの重合可能な官能基を有する構造の染料や、高分子ゲルと反応可能ないわゆる反応性染料などが好ましく使用される。
このような顔料や染料などの色材及び光散乱材などの調光用材料を含む高分子ゲルは、架橋前の高分子に該調光用材料を均一に分散、混合した後に架橋する方法や、重合時に高分子前駆体組成物に該調光用材料を添加して重合する方法によって製造することができる。重合時において調光用材料を添加する場合には、前記したように重合性基や不対電子(ラジカル)をもつ調光用材料を使用し、高分子ゲルに化学結合させることも好ましく実施される。
【0057】
また、調光用材料は高分子ゲル中に極力均一に分散されていることが望ましい。特に、架橋前の高分子への分散や、高分子前駆体モノマ組成物への添加に際して、機械的混練法、攪拌法やあるいは分散剤などを利用して均一に分散させることが望ましい。
【0058】
高分子ゲルの形状としては、特に限定されるものではないが、応答速度や加工の容易性などの観点からは、粒子状であることが好ましい。粒子状の高分子ゲルの具体的な形状としては、球体、楕円体、紡錘体、立方体、多面体、多孔質体、繊維状、星状、針状、中空状などが挙げられるが、その他不定形のものであってもよい。粒子状の高分子ゲルの好ましい大きさは、膨潤・収縮用液体を含まない状態において、体積平均粒子径で0.1μm〜1mmの範囲、より好ましくは1μm〜0.5mmの範囲である。体積平均粒子径が0.1μm未満であると、粒子の扱いが困難になる、優れた光学特性が得られないなどの問題を生じる場合がある。一方、体積平均粒子径が0.5mmよりも大きくなると、体積変化に要する応答時間が大幅に長くなってしまうなどの問題が生じる場合がある。
【0059】
粒子状の高分子ゲルは、バルク状の高分子ゲルを物理的粉砕方法によって粉砕する方法や、架橋前の高分子を物理的粉砕方法や化学的粉砕方法によって粒子化した後に架橋して高分子ゲルとする方法、あるいは乳化重合法、懸濁重合法、分散重合法などの粒子化重合法など、一般的な方法によって作製することができる。
【0060】
高分子ゲルを形成するために適用される架橋剤としては、例えば分子内に重合性不飽和基、反応性官能基などを2個以上有する化合物を挙げることができる。上記重合性不飽和基を2個以上有する化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリンポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリグリセリンなどのポリオール類のジ又はトリ(メタ)アクリル酸エステル類、前記ポリオール類とマレイン酸、フマル酸などの不飽和酸類とを反応させて得られる不飽和ポリエステル類、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミドなどのビス(メタ)アクリルアミド類、トリレジンイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどのポリイソシアネートと(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルとを反応させて得られるジ(メタ)アクリル酸カルバミン酸エステル類、アリル化澱粉、アリル化セルロース、ジアリルフタレート、その他のテトラアリロキシエタン、ペンタンエリスリトールトリアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、ジエチレングリコールジアリルエーテル、トリアリルトリメチルエーテルなどの多価アリル系を挙げることができる。これらの中でも本発明には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミドなどが好ましく使用される。
【0061】
また、反応性官能基を2個以上有する化合物としては、ジグリシジルエーテル化合物、ハロエポキシ化合物、ジ及びトリイソシアネート化合物などを挙げることができる。ジグリシジルエーテル化合物の具体例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、ポリグリセリンジグリシジルエーテルなどを挙げることができる。その他、ハロエポキシ化合物の具体例としては、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、β−メチルエピクロロヒドリンなどを挙げることができる。また、ジイソシアネート化合物の具体例としては、2,4−トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどを挙げることができる。これらの中でも本発明には、特にエチレングリコールジグリシジルエーテル、ヘキサメチレンジイソシアネートなどが好ましく使用される。
【0062】
これらのうち特に好ましいのはN,N′−メチレンビス(メタ)アクリルアミドである。架橋剤の使用量は、前記モノマーの仕込み量に対して一般に0.001〜10質量%、好ましくは0.01〜5質量%である。
【0063】
本発明で用いられる重合開始剤は、前記モノマー溶液に溶解し得るものであればよい。具体的には、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキシドやクメンハイドロパーオキシド等のパーオキシド類、アゾイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩等のアゾ化合物などが用いられる。これらの重合開始剤の中でも、特に、過硫酸塩、ハイドロパーオキシド類等の様な酸化性を示す開始剤は、例えば亜硫酸水素ナトリウム、L−アスコルビン酸、第一鉄塩等の様な還元性物質、あるいはN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンなどのアミン類との組合せによるレドックス開始剤としても用いることができる。これらの開始剤の使用量は、一般には主モノマーに対して0.0001〜10質量%、好ましくは0.001〜5質量%である。
【0064】
なおその他、高分子に電子線やガンマ線などの放射線を照射する、加熱するなどの一般的な方法により高分子ゲルを作製することもできる。
また、高分子ゲルの刺激応答による体積変化速度をより高速にするために、高分子ゲルの従来技術と同様に材料を多孔質化して液体の出入り易さを向上させることも好ましい。一般的には膨潤した高分子ゲルを凍結乾燥する方法等で多孔質化することができる。
【0065】
調光組成物6に用いられる吸脱液体8としては、特に制限はないが、好ましくは水;電解質水溶液;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;酢酸エチルなどのエステル類;ジメチルエーテル、メチルエチルエーテルなどのエーテル類;その他ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホオキシド、アセトニトリル、プロピレンカーボネート、キシレン、トルエンなどの芳香族系有機溶媒、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族系有機溶媒、シクロヘキサンなどの脂環式有機溶媒、及びそれらの混合物が挙げられる。また、該液体には必要に応じて各種高分子、酸、アルカリ、塩、界面活性剤、分散安定剤、あるいは酸化防止や紫外線吸収などを目的とする安定剤、ならびに防腐剤などを添加しても構わない。
【0066】
なお、調光組成物6においては、前記高分子ゲル(調光粒子7)と上記吸脱液体8との好ましい混合比の範囲は、質量比で1:2000〜1:1(高分子ゲル:吸脱液体)である。
【0067】
また、上記した刺激応答性高分子ゲル以外の調光組成物6として、水系溶液として下限臨界溶解温度(LCST)を有し曇点を示す高分子であるポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ〔N―アルキル置換(メタ)アクリルアミド〕、ポリ〔アルキル置換アミノアルキル(メタ)アクリレート〕、ポリビニルメチルエーテル、メチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリ(N−ビニルカプロラクタム)、ポリメタクリル酸などが特公昭61−7948、特開平3−237426、特開平8−82809等に開示されている。また、上記の高分子溶液を他の高分子と混合した架橋物が特開平8−47634等に開示されている。架橋物とすることで流動性を無くすことができ、耐久性や用途拡大の上で効果的である。これらの組成物はLCST以上において白濁する性質を持っている。ここで用いられる高分子の詳細なものとしては、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ〔N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド〕などのポリ〔N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド〕、ポリ〔N−ビニルイソブチルアミド〕、ポリビニルメチルエーテルなどのポリビニルアルキルエーテル、ポリ(オキシエチレンオキシビニルエーテル)、ポリ(メタ)アクリル酸及びその塩、ポリ〔2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート〕、ポリ〔N−(メタ)アクリルピペリジン〕、ポリ(2―エチルオキサゾリン)、ポリビニルアルコール及びその部分けん化物、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシドとポリプロピレンオキシドとの共重合体、ポリ(エチレングリコールモノメタアクリレート)、ポリ(エチレングリコールモノアクリレート)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの置換セルロース誘導体、ポリ(N−ビニルカプロラクタム)など、及びこれらの高分子を主成分とする共重合体やポリマーブレンド、これらの高分子とポリ(メタ)アクリルアミド架橋体、ポリビニルアルコール架橋体やポリ(メタ)アクリル酸の架橋体などとの混合組成物が挙げられる。
【0068】
上記のなかで(メタ)なる表記は、例えばメタアクリレートやアクリレートの双方を含む表現である。
【0069】
上記の高分子に各種液体、例えば、水、アルコール類、ケトン類、エーテル類、などを混合することで光散乱性組成物とすることができる。また、これ以外に染料や顔料などの色材、酸、アルカリ、塩、防腐剤、抗菌剤、UV吸収剤、酸化防止剤、増粘剤、脱泡剤、等を添加しても構わない。
【0070】
【実施例】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
[調光粒子Aの調製]
500mlのセパラブルフラスコ内で、アクリルアミド12.00質量部、色材として黒色顔料分散液(大成化工社製カーボンブラック分散液TBK−BC3:固形分15.1質量%含有)34.06質量部、架橋剤としてメチレンビスアクリルアミド0.048質量部、蒸留水19.08質量部を混合し十分に窒素置換した後、過硫酸アンモニウム0.41質量部を添加し十分に攪拌混合した。次に、界面活性剤としてSO−15R(ニッコーケミカルズ社製)を9.00質量部含有する234質量部の十分に窒素置換されたシクロヘキサン溶液を注入した。この混合液を15℃、1200rpmで30分間攪拌し懸濁した後、テトラメチルエチレンジアミン1.68質量部を添加し、300rpmで3時間攪拌保持することで重合反応を行い、ほぼ球形の粒子状の黒色アクリルアミドゲルを得た。得られた粒子はジメチルホルムアミドで洗浄した後、さらに蒸留水で洗浄し、水分散液として回収した。
【0072】
次に、アクリル酸42.9質量部、メチレンビスアクリルアミド0.0086質量部、蒸留水96.76質量部の混合溶液を十分に窒素置換した後、過硫酸アンモニウム0.022質量部を添加し十分に攪拌混合した。次に、この溶液に、先に得られた黒色アクリルアミドゲル粒子の水分散液(固形分3質量%)47.67質量部を添加し十分に混合した後、60℃の水浴に浸し3時間保持することで重合反応を行い、粒子状の黒色調光ゲル粒子を得た。得られた調光ゲル粒子は蒸留水で十分に洗浄した。このとき、得られた調光ゲル粒子の体積平均粒子径は、蒸留水中で20℃において約20μmであった。
【0073】
また、この調光ゲル粒子を光学顕微鏡で観察した結果、蒸留水中で50℃では体積平均粒子径が約43μmであり、50℃においては体積が20℃と比較して約10倍に膨張していた。このように、得られた調光ゲル粒子は、温度に依存して体積が変化する感熱応答性を有することを確認した。なお、相転移点は30〜40℃の温度範囲にあった。つまり、相転移点よりも高温では膨潤し、低温では収縮する特性を有することが確認された。
【0074】
[調光粒子Bの作製]
N−イソプロピルアクリルアミド3.58質量部、メチレンビスアクリルアミド0.0072質量部、黒色顔料水分散液(大日本インキ化学工業社製、MC Black 082−E、顔料分14.3質量%)10.72質量部、水4.86質量部の混合液(19.16質量部)に、毎分0.1Lの流量で15分間窒素を通し溶存酸素を除いた。この混合液に対して6質量%の過硫酸アンモニウム水溶液0.5質量部を加えて攪拌し均一に混合した。
【0075】
次に、攪拌翼としてφ75mmのマリン翼を取り付けた2Lのセパラブルフラスコに、ソルゲン50(第一工業製薬社製)6質量部を均一に溶解したシクロヘキサン溶液1.2Lをいれ、さらに先に調整した顔料混合N−イソプロピルアクリルアミド水溶液を加え、窒素を導入してフラスコ内部全体を窒素置換した。
その後、ウォーターバスを用いてこのフラスコ全体を25℃に保ち、攪拌翼を800rpmで15分間回転させて水相をシクロヘキサン中に懸濁した。次に、攪拌翼の回転数を250rpmにして、この分散液に対して20質量%のテトラメチルエチレンジアミンのシクロヘキサン溶液4mlを加えて反応を開始させ、25℃に保ったまま250rpmで2時間重合して調光粒子を得た。
【0076】
得られた粒子は、ジメチルホルムアミドと水を用いて十分に洗浄し、水分散液として調光粒子を回収した。この調光粒子は、25℃(膨潤状態)での体積平均粒径が約30μmであった。また、この調光粒子は34℃付近に相転移温度を有しており、相転移温度よりも高い温度では収縮状態となり、相転移温度よりも低い温度では膨潤状態となった。またその体積変化量は約15倍であり、約50℃での収縮状態における体積平均粒径は約12μmであった。
【0077】
[調光シートAの作製]
最初に、ポリアクリル酸(和光純薬社製・平均分子量250000)の20質量%水溶液20質量部に対し、メタクリル酸グリシジル0.5質量部を加え、室温で24時間攪拌し反応させた。この溶液に対して光開始剤(チバスペシャリティケミカル社製 イルガキュア2959)を0.8質量部と純水60質量部とを加え、樹脂組成物Aを調製した。なおこの樹脂組成物は、紫外線照射(高圧水銀灯、160W/cm、150秒、照射距離40cm)により、樹脂組成物全体がゲル化し自己保持性のある硬化物を形成することが出来ることを確認した。
【0078】
次に、固形分濃度2.5質量%の割合で調光粒子Aを含む水分散液を調製した。この調光粒子分散液10mlを、先に調製した樹脂組成物A10gに加え、ウエーブローターで3時間分散して調光粒子Aを樹脂組成物A中に均一に分散した混合液Aを得た。
【0079】
次に、混合液Aをブレードコーターを用いてPET基板上に厚さ150μmに成形し、もう一枚のPETフイルムでラミネートした。その後、紫外線照射(高圧水銀灯、160W/cm、150秒、照射距離40cm)によって硬化した。さらに周囲を熱可塑性の感光性のアクリル系接着剤(日本化薬社製 KAYARAD R381I)で封止し、調光シートAを作製した。
【0080】
[調光シートBの作製]
調光粒子Bを用いて、以下に示す方法により調光シートを作製した。
最初に、固形分濃度2.5質量%の割合で調光粒子Bを含む水分散液を調製した。この水分散液10質量部を、フッ素系の紫外線硬化樹脂(日本化薬社製 KAYARAD FAD−515)のフッ素系界面活性剤(セイミケミカル社製 Surflon S−383)5質量%溶液10質量部に対して加え0℃に冷却した。この混合液をウェーブローターで分散し、調光粒子Bの水分散液を紫外線硬化樹脂中に分散した混合液を得た(混合液B)。
【0081】
次に、混合液Bをブレードコーターを用いてPET基板上に厚さ150μmに成形し、もう一枚のPETフイルムでラミネートした。その後、紫外線照射(高圧水銀灯、160W/cm、150秒、照射距離40cm)によって硬化した。さらに周囲を熱可塑性の感光性のアクリル系接着剤(日本化薬社製 KAYARAD R381I)で封止し、調光シートBを作製した。
【0082】
<実施例1>
調光シートAを用いて、以下に示す方法により調光素子を作製した。
最初に、透明基板として150mm四方で厚さ3mmの青板フロートガラスを準備した。この基板上に調光シートを固定するための接着剤層を形成するために、合成樹脂系接着剤PA7426(住友スリーエム社製)をローラーで塗布した。次に、この接着剤層の上にガラス基板の周囲が各辺5mmずつ露出するように140mm四方の調光シートAを貼付した。
【0083】
次に、貼付した調光シートAの各辺の端部が被覆されるように、液体蒸発防止部材としてポリイソブチレン系シーリング材ペンギンシール7000(サンスター技研社製)を基板端部から面内方向内側に10mmの幅で層厚1mm程度被覆し、調光シートを貼付した調光素子を作製した。
【0084】
<実施例2>
液体蒸発防止部材としてシリコーン系シーリング材シーラント45FP(信越化学工業社製)を用いたこと以外は、すべて実施例1と同様な方法で、調光シートを貼付した調光素子を作製した。
【0085】
<実施例3>
液体蒸発防止部材としてアクリル系シーリング材トップシーラー#5000L(ヤマウチ社製)を用いたこと以外は、すべて実施例1と同様な方法で、調光シートを貼付した調光素子を作製した。
【0086】
<比較例1>
液体蒸発防止部材を使用しないこと以外、実施例1と同様な方法で、調光シートを貼付した調光素子を作製した。
【0087】
[実施例1〜3及び比較例1の性能評価]
実施例1〜3及び比較例1に示した調光素子を、スガ試験機製のサンシャインウエザメータ(WEL−SUN−HC型)を使用し、ブラックパネル温度63℃の条件下で1000時間の耐候性試験を行った。その結果を表1に示した。
なお、表1は、実施例1〜3及び比較例1の調光素子の、波長400nm〜800nmの範囲の光の平均透過率を示す表である。
【0088】
【表1】
【0089】
表1からわかるように、本発明の液体蒸発防止部材が具備されている調光素子(実施例1〜3)は、いずれも1000時間の耐候性試験後において、消色時透過率のわずかな減少があるものの、試験前とはぼ同等の感熱透過率変化を示していた。一方、液体蒸発防止部材が具備されていない調光素子(比較例1)は、相転移温度以下における消色時の透過率が大きく低下し、調光コントラストが非常に小さくなっていた。これは、フィルム内部の水がフィルム端部から蒸発し、内部の溶液組成が変化したこと及び、水分の減少による調光粒子の粘着、張り付きが生じたためであると推定される。
【0090】
以上のことから、本発明は調光シート端部に液体蒸発防止部材を具備することで、優れた耐候性が得られることが確認された。
【0091】
<実施例4>
調光シートBを用いて、以下に示す方法により調光素子を作製した。
最初に、透明基板として150mm四方で厚さ3mmの青板フロートガラスを準備した。この基板上に調光シートを固定するための接着剤層を形成するために、合成樹脂系接着剤PA7426(住友スリーエム社製)をスプレー塗布した。次に、この接着剤層の上にガラス基板の周囲が各辺5mmずつ露出するように140mm四方の調光シートBを貼付した。
【0092】
次に、貼付した調光シートBの各辺の端部が被覆されるように、液体蒸発防止部材としてポリイソブチレン系シーリング材RENOシールII(セメダイン社製)を基板端面から面内方向内側に10mmの幅で層厚1mm程度被覆し、調光シートを貼付した。その後、先ほどと同様な、調光シート固定用接着剤層を形成した別なガラス基板(3mm青板フロートガラス)を重ね合わせ、調光シートを内部に挟持した合わせガラスタイプの調光素子を作製した。
【0093】
<実施例5>
液体蒸発防止部材としてシリコーン系シーリング材トスシール381(GE東芝シリコーン社製)を用いたこと以外は、すべて実施例4と同様な方法で、調光シートを内部に挟持した合わせガラスタイプの調光素子を作製した。
【0094】
<実施例6>
液体蒸発防止部材としてアクリル樹脂エマルジョン系塗膜防水材Myルーファー(三菱化学産資社製)を用いたこと以外は、すべて実施例4と同様な方法で、調光シートを内部に挟持した合わせガラスタイプの調光素子を作製した。
【0095】
<比較例2>
液体蒸発防止部材を使用しないこと以外、実施例4と同様な方法で、調光シートを内部に挟持した合わせガラスタイプの調光素子を作製した。
【0096】
[実施例4〜6及び比較例2の性能評価]
実施例4〜6及び比較例2に示した調光素子を、スガ試験機製のサンシャインウエザメータ(WEL−SUN−HC型)を使用し、ブラックパネル温度63℃の条件下で1000時間の耐候性試験を行った。その結果を表2に示した。なお、表2は、実施例4〜6及び比較例2の調光素子の、波長400nm〜800nmの範囲の光の平均透過率を示す表である。
【0097】
【表2】
【0098】
表2からわかるように、本発明の液体蒸発防止部材が具備されている調光素子(実施例4〜6)は、いずれも1000時間の耐候性試験後において、試験前と同等の感熱透過率変化を示していた。一方、液体蒸発防止部材が具備されていない調光素子(比較例2)は、相転移温度以上における消色時の透過率が低く調光コントラストが小さくなっていた。これは、フィルム内部の水がフィルム端部から蒸発し、内部の溶液組成が変化したこと及び、水分の減少による調光粒子の粘着、張り付きが生じたためであると推定される。
なお、比較例1よりも比較例2の方が、耐候性試験1000時間後の消色時透過率の減少割合が小さいことは、調光シート貼付タイプよりも基板間挟持タイプの方が、耐候性が高いことを示している。
以上のことから、本発明は調光シート端部に液体蒸発防止部材を具備することで、優れた耐候性が得られることが確認された。
【0099】
<実施例7>
実施例4と同様な方法で、調光シートを内部に挟持した合わせガラスタイプの調光素子を作製する際に、液体蒸発防止部材として、1質量%の割合で紫外線吸収材Viosorb112(共同薬品社製)を分散させたRENOシールII(セメダイン社製)を用いた。
【0100】
[実施例7の性能評価]
3000時間の耐候性試験を行った結果、紫外線吸収材を含まない実施例4の調光素子は、発色時透過率に変化はなかったが、消色時透過率は74%から70%に低下した。一方、紫外線吸収材を分散した実施例7の調光素子は、発色時透過率および消色時透過率ともに、試験前の値と変化が無かった。このように、液体蒸発防止部材中に紫外線吸収材を分散させることで、より高い耐候性が得られることが判った。
【0101】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、基板の表面に調光シートが担持されている調光素子、及び調光シートが複数枚の基板に挟持されている調光素子において、調光シートの端部に液体蒸発防止部材が取り付けられていることにより、調光シート内部の液体の蒸発が抑制され、安定した調光特性が得られる調光素子の作製が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の調光素子の構成の1例を示す概略図。
【図2】本発明の調光素子の構成の別な1例を示す概略図。
【図3】本発明の調光素子を構成する調光シートの構成の1例を示す概略図。
【図4】本発明の調光素子を構成する調光シートの構成の別な1例を示す概略図。
【図5】本発明の調光素子の構成の別な1例を示す概略図。
【図6】本発明の調光素子の構成の別な1例を示す概略図。
【図7】本発明の調光素子の構成の別な1例を示す概略図。
【図8】本発明の調光素子に用いられる調光粒子の1例を示す概略図。
1 基板
2 調光シート
3 液体蒸発防止部材
4 接着性樹脂
5 フィルム
6 調光組成物
7 調光粒子
8 吸脱液体
9 調光用材料
10 スペーサー
13 封止部材
14 封止兼蒸発防止部材
15 ラミネート用フィルム
Claims (5)
- 基板と、前記基板に重ね合わされた調光シートと、を含んで構成され、
前記調光シートの少なくとも端部が、液体蒸発防止部材より覆われていることを特徴とする調光素子。 - 複数の基板と、前記複数の基板間に挟持された調光シートと、を含んで構成され、
前記調光シートの少なくとも端部が、液体蒸発防止部材より覆われていることを特徴とする調光素子。 - 前記液体蒸発防止部材に、紫外線吸収材料が含まれることを特徴とする請求項1又は2に記載の調光素子
- 調光シートが、少なくとも、透明フィルムと、外部刺激の付与により可逆的に液体を吸収・放出して体積変化を生ずる高分子ゲルと、前記高分子ゲルが吸収・放出し得る液体と、を含んで構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の調光素子。
- 前記高分子ゲル中に、少なくとも収縮時に飽和吸収濃度以上となる量の顔料を含有していることを特徴とする請求項4に記載の調光素子。
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