JP4400074B2 - 光学素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、外部刺激により可逆的に液体を吸収・放出して体積変化を生ずる高分子ゲルを用いた光学素子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
本発明者らは新規な発色材料の提案をしている(例えば、特許文献1参照。)。該特許においては、刺激の付与による液体の吸収・放出により膨潤・収縮する高分子ゲル中に、飽和吸収濃度以上の顔料を含有してなる組成物および発色材料を提案している。該組成物は、飽和吸収濃度以上の顔料を含有している高分子ゲルが収縮状態のときには、顔料の局所的な凝集により光吸収効率が低下し組成物全体として光透過性となる。一方、飽和吸収濃度以上の顔料を含有している高分子ゲルが膨潤状態のときには、顔料が組成物全体に拡散することで光吸収効率が向上し、該組成物は発色状態となる。
【0003】
【特許文献1】
特開平11−236559号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の刺激応答性高分子ゲルを利用して光の透過量を制御することで調光を行う技術においては、調光コントラストを高くするために、前記高分子ゲルがある一定量以上の体積変化量を有する必要があった。
【0005】
本発明は、従来技術の上記要求特性をより緩和するものであり、具体的には、少ない体積変化量を有する刺激応答性高分子ゲルを用いても、大きな調光コントラストを有する光学素子を得ることを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記の目的は、以下の本発明により達成される。即ち本発明は、
<1> 一対の基板間に、少なくとも、外部刺激により可逆的に液体を吸収・放出して体積変化を生ずる高分子ゲルと、前記高分子ゲルが吸収・放出し得る液体と、を有する光調組成物を備えた光学素子であって、前記高分子ゲルは、膨潤した状態において両方の基板と接触し変形することを特徴とする光学素子である。
【0007】
<2> 前記高分子ゲルは、少なくとも一方の基板表面に固定されていることを特徴とする<1>に記載の光学素子である。
【0008】
<3> 前記高分子ゲルは、収縮した状態において飽和吸収濃度以上となる量の調光用材料を含有していることを特徴とする<1>又は<2>に記載の光学素子である。
【0009】
<4> 前記高分子ゲルの変形率は、5%以上であることを特徴とする<1>乃至<3>のいずれか1つに記載の光学素子である。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の光学素子を詳細に説明する。
<光学素子の調光機能>
本発明の光学素子は、一対の基板間に、少なくとも、外部刺激により可逆的に液体を吸収・放出して体積変化を生ずる高分子ゲルと、前記高分子ゲルが吸収・放出し得る液体と、を有する光調組成物を備えた光学素子であって、前記高分子ゲルは、膨潤した状態において両方の基板と接触し変形することを特徴とする。本発明の光学素子は、調光ガラス、調光素子、センサー、表示素子などへの応用に適している。
【0011】
本発明の光学素子を実現するためには、後述するように、前記高分子ゲルが膨潤した状態において2枚の基板と接触して変形すること、つまり、膨潤状態の前記高分子ゲルが本来示す、基板表面に対する法線方向の粒子径よりも、基板間距離を短くすることが効果的である。
【0012】
なお、以降の記述において特に断りがない限り、前記高分子ゲルの、単一粒子の粒子径を議論する場合は光学顕微鏡観察による直接測定による値とし、粒子の集合体の粒子径を議論する場合はレーザー回折・散乱式粒度分布計などの間接測定による体積平均粒子径の値とする。
【0013】
以下、図1を用いて本発明の光学素子の調光機能について、略真球粒子状の高分子ゲルを例にとって詳細に説明する。
図1(a)〜(c)は、図示していないギャップ保持部材により特定の基板間距離dとなるように平行に配置された一対の基板2a、2b(以下、各々第1および第2基板と呼ぶことがある。)の間に、調光組成物が挟持されている状態を模式的に示したものである。そして、調光組成物を構成する高分子ゲル粒子1は、第1基板(2a)上に固定されている。なお、高分子ゲルが吸収・放出し得る液体(以下、吸脱液体ということがある。)および封止部材は省略されている。
【0014】
図1(a)は、高分子ゲル粒子1が収縮した状態を示す。収縮状態の高分子ゲル粒子1の粒子径をr0とする。
図1(b)は、第1基板上に固定された高分子ゲル粒子1が、その膨潤状態のときに第2基板と接触しない場合、つまり基板間距離が該高分子ゲル粒子1の膨潤状態の粒子径よりも長い場合(従来技術)を示す。このとき、膨潤状態の高分子ゲル粒子1の粒子径をr(ただしd>r)とする。このとき、高分子ゲル粒子1の粒子径と、高分子ゲル粒子1の基板表面に対する法線方向への正射影の直径とは等しい。
図1(c)は、基板間距離が前記高分子ゲル粒子1の膨潤状態の粒子径よりも短い場合(本発明)に、第1基板上の膨潤した高分子ゲル粒子1が、第2基板との接触によって変形した状態の1例を示す。このとき、変形した膨潤状態の高分子ゲル粒子1の、基板表面に対する法線方向への正射影の直径をR(ただしd<r)とする。
【0015】
本発明の光学素子(図1(c))において、従来技術(図1(b))と同様の調光コントラスト(ここでは、高分子ゲル粒子の基板表面に対する法線方向への正射影の面積変化に相当する。)を得るために必要な体積変化量(ΔV’)を、従来技術の体積変化量(ΔV)と比較すると、d=nr(0<n<1)と置き換えて次式のように表される。
【0016】
ΔV’/ΔV=(10−3π)n3/4+(3π−12)n2/4+3n/2
【0017】
表1には、この関係を具体的な数値で表した。また、図2には0<n<1の範囲におけるΔV’/ΔVの値を示した。
【0018】
【表1】
【0019】
図2のグラフからわかるように、基板間距離が高分子ゲル粒子の膨潤状態の粒子径よりも短くなる(すなわち、nが0に近くなる)に従い、従来技術と同等の調光特性を生じるために必要な体積変化量が、従来技術よりも非常に小さいことが期待される。たとえば、基板間距離が高分子ゲル粒子の膨潤状態の粒子径の半分になると、従来技術と同等の調光特性を生じるために必要な体積変化量は、従来技術の体積変化量の6割程度でよいことになる。
【0020】
このような効果について、別な見方をすれば次のような関係を議論することが出来る。
本発明の光学素子(図1(c))において、従来技術(図1(b))と同様の体積変化量を有する(すなわち、ΔV=ΔV’)高分子ゲル粒子を用いた場合、従来技術の調光量(ここでは、高分子ゲル粒子の基板表面の法線方向への正射影の面積変化量(ΔS)をいう。)と比較すると、d=nr(0<n<1)と置き換えて次式のように表される。
【0021】
ΔS’/ΔS=(1/3−π/2+π2/8)n2+2/(3n)
+(2−π/2)n((π2/16−2/3)n2+2/(3n))0.5
【0022】
表2には、この関係を具体的な数値で表した。また、図3には0<n<1の範囲におけるΔS’/ΔSの値を示した。
【0023】
【表2】
【0024】
図3のグラフからわかるように、基板間距離が高分子ゲル粒子の膨潤状態の粒子径よりも短くなる(すなわち、nが0に近くなる)に従い、従来技術と同等の体積変化量を有する(すなわち、ΔV=ΔV’)高分子ゲル粒子を用いた場合、従来技術よりも非常に大きい調光量(ここではΔS’)が期待される。たとえば、基板間距離が高分子ゲル粒子の膨潤状態の粒子径の半分になると、従来技術と同等の体積変化量を有する(すなわち、ΔV=ΔV’)高分子ゲル粒子を用いた場合、従来技術の1.6倍程度の調光量が得られることがわかる。
【0025】
このように、本発明の光学素子は、基板間距離を高分子ゲル粒子の膨潤状態の粒子径よりも小さくするほど、大きな調光特性が得られる。
【0026】
なお、本発明において変形率とは、前記rとRとによって定義されるものであり、次式で表される。
【0027】
変形率=(r−R)/r×100(%)
【0028】
したがって、膨潤状態の粒子径が、2枚の基板間距離よりも小さい従来技術においては、R=rとなり変形率は0%である。
本発明においては、変形率が大きいほど、同じ調光ゲル粒子を使用した場合の調光特性の増大量が大きくなる。したがって本発明においては、変形率は0%よりも大きな値であればよいが、実質的な効果を得ようとする場合には5%以上の変形率があることが好ましい。これは、5%よりも少ない変形率の場合、調光特性の増大量が透過率で3%程度となり、実質的に効果を感じられないからである。
【0029】
なお、理解を容易にするために略真球粒子の例で説明したが、高分子ゲルの形状は球形粒子に限定されるものではなく、不定形粒子の場合には、基板表面に対する法線方向の正射影の外接円の直径を粒子径と定義することで同様な作用が説明される。なおこの場合の粒子径は、粒子を基板表面に対する法線方向から観察した画像に対して、実測するかまたはPC上で画像解析ソフトを用いることにより算出される。
【0030】
<光学素子>
次に、本発明の光学素子の構成について、図4に従い詳細に説明する。本発明の光学素子は、前述の基板間距離dを有し、後述する調光組成物を含むものである。
【0031】
光学素子10は、平行に配置された2枚の基板2a、2bの間に、高分子ゲル粒子1と吸脱液体5とを有する調光組成物により構成される調光組成物層4が配され、基板2a、2bの周囲は接着剤や紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂などの封止材6により吸脱液体5が流出しないように封止処理されている。なお、図5に示すように高分子ゲル粒子1には、不図示の吸脱液体5及び、必要に応じて後述する調光用材料3が含有される。
【0032】
また、2枚の基板2a、2bの向かい合う2つの面のうち、少なくとも高分子ゲル粒子1と対向する面が撥水処理されていることがより好ましい。これは、使用する高分子ゲルの中には、非常に付着性の高いものもあり、膨潤状態のときに基板表面と接触した際に付着し再度収縮する作用を妨げることを防止するために効果的である。なお、基板2a、2bの表面に後述する刺激付与部材7が設けられる場合、刺激付与部材7表面が撥水処理されてもよい。
【0033】
ここで、使用する撥水処理剤としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等のカップリング剤や、種々の界面活性剤が挙げられる。
具体的には、シラン系カップリング剤としては、例えば、フルオロアルキル基、疎水性基、アミノ基或いはエポキシ基を有するものを用いることができる。
フルオロアルキル基をもつシラン系カップリング剤としては、例えば、ウンデカフルオロペンチルトリメトキシシラン、トリデカフルオロヘキシルトリメトキシシラン、ウンデカフルオロペンチルトリエトキシシラン、パーフルオロドデシルトリメトキシシラン、ヘプタフルオロイソプロピルトリメトキシシランなどを挙げることができる。
【0034】
また、疎水性基をもつシラン系カップリング剤としては、例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシ)シラン等を挙げることができる。
アミノ基をもつシラン系カップリング剤としては、例えば、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルメトキシジエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
エポキシ基をもつシラン系カップリング剤としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシラン等が挙げられる。
【0035】
チタネート系カップリング剤としては、例えば、イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート、イソプロピル−4−アミノベンゼンスルホニル−ジ(ドデシルベンゼンスルホニル)チタネート、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロペルトリス(ジオクチルピロホスフェート)チタネート等を挙げることができる。
【0036】
これらの各種カップリング剤の中でも、特にフルオロアルキル基を有するものが好ましく、具体的には、KP−801M(信越化学工業社製)、TSL8233(東芝シリコーン社製)、X−24−7868(信越化学工業社製)、サイトップCTX−100(旭硝子社製)、フロラ−ドFC−725(住友スリーエム社製)、フロラ−ドFX−3325(住友スリーエム社製)などを挙げることができる。なお、その他、各種フッ素系撥水処理剤およびシリコーン系撥水処理剤なども適用可能である。
撥水処理剤は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を併用することもできる。
【0037】
2枚の基板2a、2bの向かい合う2つの面には、必要に応じて片面あるいは両面に刺激付与手段である刺激付与部材7が設けられる。当該刺激付与部材7としては、内部に充填する調光組成物を構成する高分子ゲルに適した刺激を付与し得るものが選ばれる。したがって、例えば電気応答性の高分子ゲルに対しては、刺激付与部材7として電極が選択され、熱応答性の高分子ゲルに対しては、刺激付与部材7として発熱抵抗体が選択される。本発明において好ましく用いられる刺激付与手段は、主に電気刺激を付与するための電極、および発熱抵抗体である。電極や発熱抵抗体の構成は、単純マトリクス型あるいは画素別分割型などが適用できる。なお、画素別分割型の場合には、片方の基板表面のみに設けられていればよい。
【0038】
また、体積変化を起こすために用いる刺激が、自然界の刺激や素子外部に設けられた熱(放射熱)、LEDやレーザ光などの光、電気的刺激や磁気的刺激を付与する手段から与えられる場合には、素子内部に刺激付与手段を設けなくてもよい。
【0039】
基板2a、2bの材料としては、ポリエステル、ポリイミド、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスルフォン、ポリカーボネート、ポリエーテル、セルロース誘導体などの高分子フィルムや板状体、またはガラス、金属、セラミックスなどの無機基板が使用可能である。また、これらの基板の大きさや厚さは特に限定するものではない。
【0040】
なお、光学素子として機能させる上では、対向する2枚の基板のうち、少なくとも一方は光学的に透明であることが必要である。また、透過型光学素子の場合には、双方の基板が透明であることが好ましい。
【0041】
一方、刺激付与手段としては、電気的刺激付与手段、発熱手段、光刺激付与手段、電磁波付与手段、あるいは磁場付与手段などが挙げられる。本発明においては、中でも特に電気的刺激付与手段と発熱手段が好ましく用いられる。
電気的刺激付与手段の場合は、銅、アルミニウム、銀、プラチナなどに代表される金属膜からなる電極、酸化スズ−酸化インジウム(ITO)に代表される金属酸化物、ポリピロール類、ポリチオフェン類、ポリアニリン類、ポリフェニレンビニレン類、ポリアセン類、ポリアセチレン類などに代表される導電性高分子からなる電極及び、高分子と前述の金属や金属酸化物の粒子との複合材料からなる電極などが好ましく用いられる。
またこれらの電極構成は、単純マトリクス駆動用に配線されていてもよいが、薄膜トランジスタ(TFT)素子あるいは、MIM素子やバリスタなどの二端子素子などのスイッチング素子を設けることもできる。
【0042】
また、発熱手段としては、銅および銅化合物などの前記電極およびNi−Cr化合物に代表される金属または、酸化タンタルやITOなどの金属酸化物や、硼化ハフニウム、窒化タンタル、カーボンなどの通電発熱抵抗体が好ましく用いられる。
【0043】
光刺激を付与する場合には、レーザー、LED、ELなどの発光素子層を用いることができ、磁界や電磁波の付与は電磁コイルや電極を設けることなどで実現できる。
【0044】
さらに、基板2a、2b表面には、保護層、防汚層、紫外線遮蔽層、帯電防止層などの他の構成層が形成されていても構わない。
【0045】
前記調光組成物層4の厚みの好ましい範囲は、1μm〜20mm、より好ましくは2μm〜5mmの範囲である。これは、1μmよりも小さいと、調光性能が低くなり所望の調光効果を得ることができず、20mm以上では応答特性が低下する恐れがあるためである。
【0046】
本発明に用いられる高分子ゲル粒子1は、2枚の基板2a、2bの間で、基板面と平行な方向への移動が制限されるように、少なくとも一方の基板表面に固定されていることが好ましい。具体的には、いずれか一方の基板表面、あるいは刺激付与部材7の表面に固定されているか、または支持体(不図示)の表面、内部あるいはその両方に固定されている。
本発明において、高分子ゲル粒子1は吸脱液体5に分散された状態であってもよいが、基板表面に固定されることにより、光学素子の面内での調光特性のバラツキや経時劣化等を抑えることができるため好ましい。
なお、本発明の光学素子は、図6に示すように基板2a及び2b双方の表面に高分子ゲル粒子1が固定された態様であってもよい。このとき、基板2aに固定された高分子ゲル粒子1は、膨潤して基板2bに固定された高分子ゲル1との接触を介して間接的に基板2bと接触し、変形することがある。このように、一の高分子ゲル粒子が他の高分子ゲル粒子を介して基板に間接的に接触する態様も本発明の範ちゅうに含まれる。
【0047】
ここで支持体は、高分子ゲル粒子1の刺激応答体積変化挙動を妨げない構成であれば特に限定されない。しかしながら、特に好ましくは繊維状の支持体が用いられる。また、支持体は出来る限り調光組成物を構成する吸脱液体5と屈折率の差が小さいことが好ましい。これは、両者の屈折率の差が大きいと、支持体による光の散乱が多くなり、調光特性を低下させるためである。
【0048】
本発明に用いる高分子ゲル粒子1の基板又は支持体への固定化方法としては、機械的固定化、接着などの物理的固定化、化学結合などの化学的固定化などが適用できる。
機械的固定化とは、主に繊維状の支持体を用いる場合において、その網目などの空間に保持することによるものである。本発明に用いる繊維状支持体としては、例えば、合成繊維としてナイロン系繊維、アクリル系繊維、ポリエステル系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリウレタン系繊維など、天然繊維として木材パルプ、綿、羊毛など、半合成繊維としてビスコースレーヨン、アセテート、キュプラなど、無機繊維としてカーボン繊維、チタン繊維などを適用することができる。繊維質支持体の形態としては、繊維状支持体は単なる繊維の集合体ではなく、織物状、不織布状、ウエブ状、シート状などの構造体となっていることが好ましい。なお、この場合の構造体は、高分子ゲル粒子1の保持効果を高めるために、1〜50μm程度の比較的細い繊維を、目付け量10g/m2以上の比較的高密度で構成したものがよい。
なお、支持体を用いて高分子ゲル粒子1を固定化する際、膨潤した高分子ゲル粒子1と基板との間に支持体が介在し、膨潤した高分子ゲル粒子1と基板とが支持体を介して間接的に接触し変形する場合も本発明の範ちゅうに含まれる。
【0049】
次に、物理的固定化に使用する接着剤としては、有機溶剤揮散型接着剤(クロロプレンゴム系、ウレタン系など)、熱硬化反応型接着剤(エポキシ系、レゾール系など)、湿気硬化反応型接着剤(2−シアノアクリル酸エステル系、シリコーン系など)、紫外線硬化反応型接着剤(アクリル系オリゴマーなど)、縮合反応型接着剤(ユリア樹脂系)、付加反応型接着剤(エポキシ系、イソシアネート系など)、熱溶融型接着剤などが挙げられる。
本発明においては、この中でも特に熱溶融型接着剤が好適であり、例えば、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリオレフィン誘導体(マレイン酸変性ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、マレイン酸変性ポリプロピレン、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−無水マレイン酸共重合体、プロピレン−アクリル酸共重合体、プロピレン−無水マレイン酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体、マレイン化ポリブタジエン、エチレン−酢酸ビニル共重合体およびそのマレイン化物など)、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカプロラクトン系樹脂、ポリスチレン樹脂およびその誘導体(ポリスチレン、スルホン化ポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体など)、熱可塑性ポリウレタン樹脂、高分子量ポリエチレングリコール、酢酸ビニル樹脂、ワックス類(パラフィンワックス、ミツロウ、牛脂など)、長鎖脂肪酸エステル樹脂およびこれら2種以上の混合物などが挙げられる。
【0050】
本発明において、使用する接着剤樹脂の割合は、通常、高分子ゲル粒子1の乾燥質量100質量部に対して接着剤樹脂の量が0.1〜50質量部、好ましくは1〜30質量部程度で十分ある。接着剤樹脂の量が50質量部を超えると基板や支持体への固着性は向上するものの、高分子ゲル粒子1の接着剤樹脂との接触割合が高くなり、膨潤・収縮挙動を阻害する可能性が高くなる。一方、0.1質量部未満では、基板や支持体への固着が不十分となる。
【0051】
接着剤樹脂を用いた高分子ゲル粒子1の固定化は、例えば、高分子ゲル粒子1の乾燥粒子と粒子状の接着剤樹脂の混合物を被接着面に散布した後、加熱処理を施して接着する方法が適用できる。この場合、混合に使用する装置は特に限定されず、通常の粉体混合装置でよく、例えば、コニカルブレンダー、ナウターミキサー、V型ブレンダー、タービュライザー、スクリュー式ラインブレンダーなどが挙げられる。
【0052】
その他、接着剤樹脂を溶媒に溶かした接着剤溶液を調製し、被接着面に該接着剤溶液を塗布した後、高分子ゲル粒子1の乾燥粒子を散布して加熱処理を施してもよい。この場合に使用される溶媒は、接着剤樹脂が可溶なものであれば特に限定されないが、溶媒の沸点は比較的低い方がよく、150℃以下、好ましくは100℃以下が適当である。
前記溶媒の具体例としては、例えば、アセトンなどのケトン類、エタノール、メタノールなどのアルコール類、酢酸エチルなどのカルボン酸エステル類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテルなどのエーテル類、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類および、これらの混合物などが挙げられる。また、接着剤溶液の被接着面への適用方法は、塗布、噴霧、浸漬などが挙げられる。
また、接着のための加熱処理は特に限定されないが、熱風加熱機、赤外線加熱機、高周波加熱機およびヒートローラなどの接触式加熱機などが適用でき、加熱温度は、接着剤の溶融温度に従いおよそ50℃〜200℃の間で適宜設定される。
【0053】
本発明における高分子ゲル粒子1の化学的固定化における化学結合は、イオン結合、水素結合、共有結合など各種考えられるが、その中でも安定性の面から共有結合が最も好ましい。前記共有結合の形成は、各種固定化剤を用いた反応により行う。被接着面への高分子ゲル粒子1および固定化剤の付与は、塗布、散布、含浸などの方法により行うことができる。塗布および含浸の場合、固定化剤と相溶性のある各種溶媒あるいはそれらの混合物中に、高分子ゲル粒子1の乾燥粒子および固定化剤を分散混合した溶液を使用する。溶媒は固定化剤に応じて選択され、アセトンなどのケトン類、エタノール、メタノールなどのアルコール類、酢酸エチルなどのカルボン酸エステル類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテルなどのエーテル類、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類および、これらの混合物などが適用できる。
高分子ゲル粒子1および固定化剤を被接着面に付与した後は、固定化剤に固有の反応温度に加熱して化学結合を形成し、高分子ゲル粒子1を被接着面に固定化するなどの方法が適用できる。また、被接着面を固定化剤で処理した後、形成された反応基に高分子ゲル粒子1を固定化するという段階的な反応なども適用できる。
【0054】
なお、本発明に用いる高分子ゲル粒子1の固定化剤は、重合性不飽和基又は反応性官能基などを2個以上有する化合物を挙げることができる。
上記重合性不飽和基を2個以上有する化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリンポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリグリセリンなどのポリオール類のジまたはトリ(メタ)アクリル酸エステル類、前記ポリオール類とマレイン酸、フマル酸などの不飽和酸類とを反応させて得られる不飽和ポリエステル類、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミドなどのビス(メタ)アクリルアミド類、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどのポリイソシアネートと(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルとを反応させて得られるジ(メタ)アクリル酸カルバミン酸エステル類、アリル化澱粉、アリル化セルロース、ジアリルフタレート、その他のテトラアリロキシエタン、ペンタンエリスリトールトリアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、ジエチレングリコールジアリルエーテル、トリアリルトリメチルエーテルなどの多価アリル系を挙げることができる。これらの中でも本発明には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、 N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミドなどが好ましく使用される。
【0055】
反応性官能基を2個以上有する化合物としては、ジグリシジルエーテル化合物、ハロエポキシ化合物、ジおよびトリイソシアネート化合物などを挙げることができる。ジグリシジルエーテル化合物の具体例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、ポリグリセリンジグリシジルエーテルなどを挙げることができる。その他、ハロエポキシ化合物の具体例としては、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、β−メチルエピクロロヒドリンなどを挙げることができる。また、ジイソシアネート化合物の具体例としては、2,4−トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどを挙げることができる。
また、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどのビニル系シランカップリング剤、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系シランカップリング剤、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ系シランカップリング剤など、各種反応性シランカップリング剤なども適用できる。
これらの中でも本発明には、特に3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランなどが好ましく使用される。なお、前記固定化剤は1種単独でも2種以上を併用して用いてもよい。
【0056】
高分子ゲル粒子1の固定化剤の使用量は、通常、高分子ゲル粒子1の乾燥質量に対して、0.001〜10質量%、好ましくは0.001〜5質量%である。これは、固定化剤の使用量が0.001質量%以下であると十分に高分子ゲル粒子1を固定化できない一方、10質量%以上であると高分子ゲル粒子1の固定化が強すぎて体積変化を阻害するためである。
【0057】
図4に示すように、2枚の基板2a、2bは、調光組成物を挟持するために十分に均一な間隙が確保されていることが好ましい。2枚の基板間に均一な間隙を確保するための方法としては、▲1▼所望の間隙となるような大きさのスペーサ粒子8を基板2aおよび/または基板2bに散布する、▲2▼フィルムスペーサを2枚の基板2a、2b間に挟み込む、▲3▼一方および/または双方の基板の表面に、2枚の基板2a、2bを貼り合わせた際に所望の間隙が生じるような形状の立体的な構造体を形成しておく、などが好ましい手段として挙げられる。
【0058】
この場合に用いられるスペーサ粒子8および前記立体的な構造体などの間隙保持部材は、安定して間隙を維持できる形状であれば特に限定されないが、例えば、球、立方体、柱状のものなどの独立した形状のものが好ましく用いられる。また、連続した形状を有する間隙保持部材を使用することも出来る。この場合、それらの形状は、安定して間隙を維持できる形状であれば特に限定されず、主に格子状、ハニカム状などの多角形を始めとして、様々な形状を適用することが出来る。これらの間隙保持部材は、吸脱液体5に安定な材料であれば特に限定されず、例えば、樹脂、金属、金属酸化物、ガラスなどが適用できる。
【0059】
また、封止材6としては、吸脱液体5の蒸発を抑制する能力を有し、基板2a、2bに対する接着性を有し、調光組成物の特性に悪影響を与えず、実使用条件においてこれらの条件を長期間満たすものであれば、どのような材料を用いてもよい。また複数の封止材を組み合わせて構成することも可能である。
封止材および封止方法は、光学素子の開口部面積の確保、工程簡略化による加工コスト等を考慮すると、1層の封止が好ましい。1層で封止を行うときの封止材としては、末端に反応基を有するイソブチレンオリゴマーを主体とした熱硬化型弾性シーリング材等の使用が例示できる。また、2層で封止するときには、調光組成物と接触する1次封止にポリイソブチレン系シーラント等が、2次封止としてアクリル樹脂等が例示できる。その他、ガラス、セラミックスなどの無機材料、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、およびこれらの共重合体などのポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォン、ポリサルフォン、ポリイミド、ポリアリレートなども適用できる。なお、本発明の封止材および封止方法は上記例示に限定されるものではなく、多種多様なものが選択でき、かつ、それらを組み合わせて使用してもよい。これらの封止材は、特にガスバリア性の高いものが好ましく用いられる。
【0060】
<調光組成物>
本発明の光学素子には、外部刺激により可逆的に液体を吸収・放出して体積変化を生ずる高分子ゲルと、前記高分子ゲルが吸収・放出し得る液体(吸脱液体)と、を有する調光組成物が用いられる。また、前記高分子ゲルには、色材や光散乱剤などの調光用材料が含有されていることが望ましい。
【0061】
本発明に係る調光組成物に使用可能な高分子ゲルとしては、pH変化、イオン濃度変化、化学物質の吸着・脱離、溶媒組成変化、および光、熱、電気、磁界などのエネルギーの付与など、各種の刺激によって液体を吸収・放出し、可逆的に体積変化(膨潤・収縮)する、刺激応答能を有する高分子ゲルが好ましい。ここで、「可逆的」といっても、膨潤状態と収縮状態とで同一刺激量に応じた体積変化量が異なる、いわゆるヒステリシスな性質を有するものであっても問題なく、本発明において、このような性質の場合も「可逆的」の概念に含まれる。
【0062】
このような高分子ゲルとして具体的には、次のようなものが適用できる。
まず、電極反応などによるpH変化によって刺激応答する高分子ゲルとしては、電解質系高分子ゲルが好ましく、ポリ(メタ)アクリル酸の架橋体やその塩;(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリルアミド、アルキル置換(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートなどから選択される1種又は2種以上の化合物との共重合体の架橋体やその4級化物や塩;マレイン酸と(メタ)アクリルアミド、アルキル置換(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートなどから選択される1種又は2種以上の化合物との共重合体の架橋体やその塩;ポリビニルスルホン酸の架橋体やその塩;ビニルスルホン酸と(メタ)アクリルアミド、アルキル置換(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートなどから選択される1種又は2種以上の化合物との共重合体の架橋体やその4級化物やその塩;ポリビニルベンゼンスルホン酸の架橋体やその塩;
【0063】
ビニルベンゼンスルホン酸と(メタ)アクリルアミド、アルキル置換(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートなどから選択される1種又は2種以上の化合物との共重合体の架橋体やその4級化物やその塩;ポリ(メタ)アクリルアミドアルキルスルホン酸の架橋体やその塩;(メタ)アクリルアミドアルキルスルホン酸と(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートなどから選択される1種又は2種以上の化合物との共重合体の架橋体やその4級化物やその塩;ポリジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドの架橋体やその4級化物;ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどから選択される1種又は2種以上の化合物との共重合体の架橋体やその塩や4級化物;
【0064】
ポリジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミドの架橋体やその4級化物;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどから選択される1種又は2種以上の化合物との共重合体の架橋体やその塩や4級化物;ポリジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの架橋体やその4級化物;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどから選択される1種又は2種以上の化合物との共重合体の架橋体やその塩や4級化物;ポリジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートの架橋体やその4級化物;ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどから選択される1種又は2種以上の化合物との共重合体の架橋体やその塩や4級化物;ポリジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドとポリビニルアルコールとの複合体の架橋体やその4級化物;ポリビニルアルコールとポリ(メタ)アクリル酸との複合体の架橋体やその塩;ポリ(メタ)アクリロニトリルの架橋体の部分加水分解物やその塩などが挙げられる。
【0065】
電界による界面活性剤などの化学物質の吸脱着によって刺激応答する高分子ゲルとしては強イオン性高分子ゲルが好ましく、ポリビニルスルホン酸の架橋物やビニルスルホン酸と(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどから選択される1種又は2種以上の化合物との共重合体の架橋物;ポリビニルベンゼンスルホン酸の架橋物やビニルベンゼンスルホン酸と(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどから選択される1種又は2種以上の化合物との共重合体の架橋物;ポリアクリルアミドアルキルスルホン酸の架橋物やアクリルアミドアルキルスルホン酸と(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどから選択される1種又は2種以上の化合物との共重合体の架橋物などが挙げられ、これらとn−ドデシルピリジニウムクロライドなどのアルキルピリジン塩;アルキルアンモニウム塩;フェニルアンモニウム塩;テトラフェニルホスフォニウムクロライドなどのホスホニウム塩などのカチオン性界面活性剤とを組み合わせることで使用される。
【0066】
電気による酸化・還元によって刺激応答する高分子ゲルとしては、カチオン性高分子ゲルが挙げられ、電子受容性化合物と組み合わせてCT錯体(電荷移動錯体)として好ましく使用される。 例えば、カチオン性高分子ゲルとしてポリジメチルアミノプロピルアクリルアミドなどポリアミノ置換(メタ)アクリルアミドの架橋物;ポリジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ポリジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートやポリジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレートなどのポリ(メタ)アクリル酸アミノ置換アルキルエステルの架橋物;ポリスチレンの架橋物;ポリビニルピリジンの架橋物;ポリビニルカルバゾールの架橋物;ポリジメチルアミノスチレンの架橋物などが挙げられる。また、電子受容性化合物としてベンゾキノン、7,7,8,8,−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、テトラシアノエチレン、クロラニル、トリニトロベンゼン、無水マレイン酸やヨウ素などが挙げられる。
【0067】
熱の付与によって刺激応答する高分子ゲルとしては、LCST(下限臨界溶液温度)やUCST(上限臨界溶液温度)をもつ高分子の架橋体(前者を「LCSTゲル」、後者を「UCSTゲル」と称する。)、互いに水素結合する二成分の高分子ゲルのIPN体(相互侵入網目構造体)や結晶性などの凝集性の側鎖をもつ高分子ゲル(前者を「IPNゲル」、後者を「結晶性ゲル」と称する。)などが好ましいものとして例示される。なお、LCSTゲルは高温において収縮し、UCSTゲル、IPNゲルおよび結晶性ゲルは逆に高温において膨潤する特性を持っている。
【0068】
LCSTゲルの具体例としては、ポリ[N−イソプロピルアクリルアミド]などのポリ[N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド]の架橋体;N−アルキル置換(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルなどから選択される1種又は2種以上の化合物との共重合体の架橋体やその塩;ポリビニルメチルエーテルの架橋体;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのアルキル置換セルロース誘導体の架橋体;などが挙げられる。
【0069】
UCSTゲルの具体例としては、ポリ[3−ジメチル(メタクリロイルオキシエチル)アンモニウムプロパンスルフォネート]などの、分子内にアニオンとカチオンの両成分を有する双性イオン高分子の架橋体が挙げられる。
【0070】
IPNゲルの代表的な例としては、ポリ(メタ)アクリルアミドの架橋体とポリ(メタ)アクリル酸の架橋体からなるIPN体およびその部分中和物(アクリル酸単位のカルボキシル基の一部を金属イオンなどの陽イオンで中和したもの)が挙げられる。その他、(メタ)アクリルアミドあるいはN,N−ジメチル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド誘導体を主成分とする共重合体の架橋体と(メタ)アクリル酸あるいはマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸などの不飽和カルボン酸を主成分とする共重合体の架橋体からなるIPN体およびそれらの部分中和物;少なくとも(メタ)アクリルアミドあるいはN,N−ジメチル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド誘導体と(メタ)アクリル酸あるいはマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸などの不飽和カルボン酸を含む共重合体の架橋体およびその部分中和物;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートを主成分とする共重合体の架橋体;少なくともステアリル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のアルキルエステルと(メタ)アクリル酸あるいはマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸などの不飽和カルボン酸を含む共重合体の架橋体およびその部分中和物;少なくともアクリロキシメチルウラシルなど側鎖に核酸塩基を導入した(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸あるいはマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸などの不飽和カルボン酸を含む共重合体の架橋体およびその部分中和物などが挙げられる。
【0071】
結晶性ゲルとしては、オクチル基、デシル基、ラウリル基、ステアリル基などの長鎖アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸との共重合体の架橋体やその塩;コレステリル系モノマーあるいは芳香族系モノマーと(メタ)アクリル酸との共重合体の架橋体やその塩が挙げられる。
さらに、温度変化に応じて複数の相転移温度を示す高分子ゲルも好ましく使用できる。このような高分子ゲルとしては、例えば、ポリ[N−イソプロピルアクリルアミド]などのポリ[N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド]の架橋体とポリ(メタ)アクリル酸の架橋体とのIPN体などが挙げられる。かかる高分子ゲルは、温度上昇に伴い、膨潤−収縮−膨潤という二つの相転移温度を示すことが知られている。
【0072】
光の付与によって刺激応答する高分子ゲルとしては、トリアリールメタン誘導体やスピロベンゾピラン誘導体などの光によってイオン解離する基を有する親水性高分子化合物の架橋物が好ましく、ビニル置換トリアリールメタンロイコ誘導体とアクリルアミドとの共重合体の架橋物などが挙げられる。より好ましくは、ビニル置換トリアリールメタンロイコ誘導体とアクリルアミドとの共重合体の架橋体などが挙げられる。
【0073】
磁場の付与によって刺激応答する高分子ゲルとしては、強磁性体粒子や磁性流体等を含有するポリビニルアルコールの架橋物等が挙げられる。ただし、含有される高分子ゲルは、高分子ゲルの範疇であるものであれば限定されることなく適用できる。
【0074】
溶液の組成変化やイオン強度の変化によって応答するものとしては、特に大きな体積変化が得られるものとして好ましいものには、前記した電解質系高分子ゲルが挙げられる。
【0075】
本発明において特に好ましく用いられる高分子ゲルは、電気および熱の付与によって刺激応答する高分子ゲルである。
なお、上記の括弧を用いた記述は、括弧内の接頭語を含まない化合物および含む化合物の両方を示しており、例えば「(メタ)アクリル」という記述は、「アクリル」および「メタクリル」のいずれをも意味するものである。
【0076】
本発明において使用される高分子ゲルの体積変化量は、少なくとも体積比が3以上、好ましくは5以上、より好ましくは7以上であることが望ましい。なお、体積比が5以上であれば、十分な調光コントラストを得ることができる。
【0077】
上記した高分子ゲルはそれ自身でも、体積変化に伴い光散乱性が変化するという調光能を示すが、より大きな調光特性や色変化を発現するために、調光用材料が高分子ゲル内部に含有されていることが好ましい。
使用可能な調光用材料としては、顔料および染料などの色材や光散乱材などが挙げられる。例えば、顔料としてはカーボンブラックなどの黒色顔料、ベンジジン系のイエロー顔料、キナクリドン系、ローダミン系のマゼンタ顔料、フタロシアニン系のシアン顔料などを挙げることができる。
【0078】
より詳しくは、黒色顔料としてはチャネルブラック、ファーネスブラックなどのカーボンブラックおよびチタンブラックなどが挙げられる。
【0079】
またイエロー顔料としては、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、アリルアミド化合物に代表される化合物が用いられる。具体的には、例えば顔料としては、C.I.ピグメントイエロー12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、109、110、111、128、129、147、168等が好適に用いられる。
【0080】
またマゼンタ顔料としては、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、ペリレン化合物が用いられる。具体的には、例えば顔料としては、C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、23、48;2、48;3、48;4、57;1、81;1、144、146、166、169、177、184、185、202、206、220、221、254が特に好ましい。
【0081】
シアン顔料としては、銅フタロシアニン化合物及びその誘導体、アントラキノン化合物、塩基染料レーキ化合物等が利用できる。具体的には、例えば顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、7、15、15:1、15:2、15;3、15:4、60、62、66等が特に好適に利用できる。
【0082】
染料としては、黒色染料のニグロシン系染料および各種カラー染料であるアゾ染料をはじめとし、その他アントラキノン系染料、インジゴ系染料、フタロシアニン系染料、カルボニウム系染料、キノンイミン染料、メチン染料、キノリン染料、ニトロ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料、ナフタルイミド染料、ベリノン染料などが挙げられ、特に光吸収係数が高いものが好ましい。
【0083】
染料の好適な具体例としては、例えば、C.I.ダイレクトイエロー1、8、11、12、24、26、27、28、33、39、44、50、58、85、86、87、88、89、98、157、C.I.アシッドイエロー1、3、7、11、17、19、23、25、29、38、44、79、127、144、245、C.I.ベイシックイエロー1、2、11、34、C.I.フードイエロー4、C.I.リアクティブイエロー37、C.I.ソルベントイエロー6、9、17、31、35、100、102、103、105、C.I.ダイレクトレッド1、2、4、9、11、13、17、20、23、24、28、31、33、37、39、44、46、62、63、75、79、80、81、83、84、89、95、99、113、197、201、218、220、224、225、226、227、228、229、230、231、C.I.アシッドレッド1、6、8、9、13、14、18、26、27、35、37、42、52、82、85、87、89、92、97、106、111、114、115、118、134、158、186、249、254、289、C.I.ベイシックレッド1、2、9、12、14、17、18、37、C.I.フードレッド14、;
【0084】
C.I.リアクティブレッド23、180、C.I.ソルベントレッド5、16、17、18、19、22、23、143、145、146、149、150、151、157、158、C.I.ダイレクトブルー1、2、6、15、22、25、41、71、76、78、86、87、90、98、163、165、199、202、C.I.アシッドブルー1、7、9、22、23、25、29、40、41、43、45、78、80、82、92、93、127、249、C.I.ベイシックブルー1、3、5、7、9、22、24、25、26、28、29、C.I.フードブルー2、C.I.ソルベントブルー22、63、78、83〜86、191、194、195、104、C.I.ダイレクトブラック2、7、19、22、24、32、38、51、56、63、71、74、75、77、108、154、168、171、C.I.アシッドブラック1、2、7、24、26、29、31、44、48、50、52、94、C.I.ベイシックブラック2、8、C.I.フードブラック1、2、C.I.リアクティブブラック31、C.I.フードバイオレット2、C.I.ソルベントバイオレット31、33、37、C.I.ソルベントグリーン24、25、C.I.ソルベントブラウン3、9等が挙げられる。
【0085】
これらの顔料及び染料は、単独で使用してもよく、さもなければ所望とする色を得るために混合して使用してもよい。ただし、耐候性の観点からは染料よりも顔料を用いるほうが好ましい。
【0086】
また、光散乱材としては、高分子ゲルの体積変化に用いられる吸脱液体の屈折率と異なる屈折率を有する材料が好ましいが、それ以外には特に制限はなく、各種の無機化合物および有機化合物が適用できる。
【0087】
無機材料の具体例としては、酸化亜鉛、塩基性炭酸鉛、塩基性硫酸鉛、硫酸鉛、リトボン、白雲母、硫化亜鉛、酸化チタン、酸化アンチモン、鉛白、酸化ジルコニウム、アルミナ、マイカナイト、マイカレックス、石英、炭酸カルシウム、石膏、クレー、シリカ、ケイ酸、珪素土、タルク、塩基性炭酸マグネシウム、アルミナホワイト、グロスホワイト、サチン白等の無機酸化物や、亜鉛、アルメル、アンチモン、アルミニウム、アルミニウム合金、イリジウム、インジウム、オスミウム、クロム、クロメル、コバルト、ジルコニウム、ステンレス鋼、金、銀、洋銀、銅、青銅、すず、タングステン、タングステン鋼、鉄、鉛、ニッケル、ニッケル合金、ニッケリン、白金、白金ロジウム、タンタル、ジュラルミン、ニクロム、チタン、クルップ・オーステナイト鋼、コンスタンタン、真鍮、白金イリジウム、パラジウム、パラジウム合金、モリブデン、モリブデン鋼、マンガン、マンガン合金、ロジウム、ロジウム金などの金属材料、ITO(インジウム・スズ酸化物)等の無機導電性材料などが挙げられる。
【0088】
また、有機材料の具体例としては、フェノール樹脂、フラン樹脂、キシレン・ホルムアルデヒド樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アニリン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ−p−キシリレン、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、フッ素系プラスチック、ポリアクリロニトリル、ポリビニルエーテル、ポリビニルケトン、ポリエーテル、ポリカーボネート、熱可塑性ポリエステル、ポリアミド、ジエン系プラスチック、ポリウレタン系プラスチック、ポリフェニレン、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、芳香族ヘテロ環ポリマー、シリコーン、天然ゴム系プラスチック、セルロース系プラスチック等やこれら2種類以上の高分子材料の混合材料(ポリマーブレンド)などの高分子材料が挙げられる。
【0089】
使用する顔料や光散乱材の好ましい大きさは、一次粒子の体積平均粒子径で0.001μm〜1μmの範囲、より好ましくは0.01μm〜0.5μmの範囲である。これは、体積平均粒子径で0.01μm以下または0.5μm以上になると、顔料および光散乱材に求められる発色および光散乱効果が低くなるためである。さらに、体積平均粒子径0.01μm以下では、高分子ゲル内部からの外部への流出が起こりやすい。
【0090】
顔料および光散乱材の流出を防止するためには、使用する高分子ゲルの架橋密度を最適化して顔料や光散乱材を前記高分子ゲルの網目内部に物理的に閉じ込めたり、前記高分子ゲルとの電気的、イオン的、その他物理的な相互作用が高い顔料および光散乱材を用いること、表面を化学修飾した顔料および光散乱材を用いることなどが挙げられる。
【0091】
例えば、表面を化学修飾した顔料および光散乱材として例えば、表面にビニル基などの不飽和基や不対電子(ラジカル)などの高分子ゲルとの化学結合する基を導入したものや、高分子材料をグラフト結合したものなどが挙げられる。
【0092】
高分子ゲル中に含有される顔料および光散乱材の濃度は、高分子ゲルが収縮した状態において、少なくとも高分子ゲルの一部分で飽和吸収濃度以上(あるいは飽和光散乱濃度以上)の濃度に達することが望ましい。ここで、飽和吸収濃度以上(あるいは飽和光散乱濃度以上)とは、ひとつの指標として各々の顔料および光散乱材同士の平均間隔が十分に短くなることで、顔料および光散乱材の可視光線吸収および散乱の働きが1次粒子的なものから集合体的なものに変化し、可視光線吸収および散乱の効率が減少する濃度である。このような顔料および光散乱材が集合体的な可視光線吸収および散乱特性を示す状態を、顔料および光散乱材の濃度が飽和吸収濃度以上(あるいは飽和光散乱濃度以上)にある状態と呼ぶ。また、飽和吸収濃度以上(あるいは飽和光散乱濃度以上)という定義を別な特性で表現すれば、特定の光路長のもとにおける顔料および光散乱材濃度と可視光線吸収および散乱量の関係が1次直線の関係から大きく乖離するような顔料および光散乱材濃度である。すなわち、顔料および光散乱材濃度が飽和吸収濃度以上(あるいは飽和光散乱濃度以上)になると、顔料および光散乱材の1粒子あたりの可視光線吸収および散乱効率が下がることで、可視光線吸収および散乱量がそれぞれ顔料および光散乱材濃度に比例しなくなり、1次直線の関係から予想される可視光線吸収および散乱量と比べて低くなる。一方、飽和吸収濃度以下(あるいは飽和光散乱濃度以下)では、可視光線吸収および散乱量がそれぞれ顔料および光散乱材濃度に比例しており、顔料および光散乱材1粒子あたりの可視光線吸収および散乱効率は殆ど一定になる。
【0093】
なお、高分子ゲル中に顔料および光散乱材を飽和吸収濃度以上(あるいは飽和光散乱濃度以上)に含有させる理由は、次に示すとおりである。
すなわち、高分子ゲル中に顔料および光散乱材を飽和吸収濃度以上(あるいは飽和光散乱濃度以上)に含有させた場合、膨潤状態のときに可視光線を効率よく吸収および散乱することができ、収縮状態のときと比べて可視光線吸収および散乱量をより大きくすることができる。つまりこの場合、高分子ゲルが収縮したときに顔料および光散乱材を飽和吸収濃度以上に含有できるので、この高分子ゲルが膨潤すると、顔料および光散乱材の濃度が下がり、顔料および光散乱材1粒子あたりの可視光線の吸収および散乱効率を収縮状態のときよりも上げることができる。その結果、膨潤状態のときに可視光線の吸収および散乱量を大きく上げ、収縮状態のときには可視光線の吸収および散乱量を大きく下げることができる。
【0094】
一方、高分子ゲルが収縮した状態において、含有させる顔料および光散乱材の濃度を飽和吸収濃度以下(あるいは飽和光散乱濃度以下)にすると、収縮状態の顔料および光散乱材1粒子あたりの可視光線および赤外線の吸収効率が膨潤状態のときの効率と同程度になる。その結果、膨潤状態のときに可視光線の吸収および散乱量を大きく上げ、収縮状態のときに可視光線の吸収および散乱量を大きく下げることができなくなる。
以上のことから、飽和吸収濃度(あるいは飽和光散乱濃度)とは膨潤・収縮による可視光線の吸収および散乱量変化をより大きくするために必要な濃度であり、顔料および光散乱材の濃度を飽和吸収濃度以上(あるいは飽和光散乱濃度以上)に設定することが好ましい。
【0095】
なお、高分子ゲルが収縮した状態において、高分子ゲル中に含有されるこれらの調光用材料の濃度が、飽和濃度(飽和吸収濃度および飽和光散乱濃度)以上になる濃度となるのは、該高分子ゲルのうち少なくとも一部であればよい。ここで、「高分子ゲルのうち少なくとも一部」とは、その高分子ゲルの内部において、調光用材料が飽和濃度以上に濃縮されているところが、部分的あるいは全体的である場合、および、調光用材料が飽和濃度以上に濃縮されている高分子ゲルが、全高分子ゲルのうちの一部あるいは全部である場合の双方を意味するものとする。「高分子ゲルのうち少なくとも一部」が飽和濃度以上になる濃度となっていれば、調光作用を発揮することができるが、その高分子ゲルの内部のより多くの部分が、あるいは、より多くの高分子ゲルが、前記飽和濃度以上になる濃度であることが好ましい。
【0096】
このような特性を有するために必要な高分子ゲルに含有させる顔料および光散乱材の濃度は、一般に3質量%〜95質量%の範囲が好ましく、より好ましくは5質量〜80質量%の範囲である。顔料および光散乱材の濃度が3質量%未満であると、飽和吸収濃度以上(あるいは飽和光散乱濃度以上)とはならず、高分子ゲルの体積変化による調光特性が不充分となる場合がある。一方、顔料および光散乱材の濃度が95質量%を超える場合、高分子ゲルの刺激応答速度や体積変化量が低下してしまう恐れがある。
【0097】
一方、高分子ゲル中に含有させる染料の好ましい濃度は、3質量%から50質量%の範囲であり、特に好ましくは5質量%から30質量%の範囲である。染料濃度としては、顔料と同様に、少なくとも高分子ゲルの乾燥あるいは収縮状態において飽和吸収濃度以上であることが望ましい。また、染料を高分子ゲルに固定化するためには、不飽和二重結合基などの重合可能な官能基を有する構造の染料や、高分子ゲルと反応可能ないわゆる反応性染料などが好ましく使用される。
【0098】
このような顔料や染料などの色材および光散乱材などの調光用材料を含む高分子ゲルは、架橋前の高分子に該調光用材料を均一に分散、混合した後に架橋する方法や、重合時に高分子前駆体組成物に該調光用材料を添加して重合する方法によって製造することができる。重合時において調光用材料を添加する場合には、前記したように重合性基や不対電子(ラジカル)をもつ調光用材料を使用し、高分子ゲルに化学結合させることも好ましく実施される。
また、調光用材料は高分子ゲル中に極力均一に分散されていることが望ましい。特に、架橋前の高分子への分散や、高分子前駆体モノマー組成物への添加に際して、機械的混練法、攪拌法やあるいは分散剤などを利用して均一に分散させることが望ましい。
【0099】
本発明で使用可能な高分子ゲルの形状としては、特に限定されるものではないが、応答速度や加工の容易性などの観点からは、粒子状であることが好ましい。また変形による調光作用の増大効果を効率よく発現するためには、ほぼ真球に近い形状であることがより好ましい。粒子状の高分子ゲルの具体的な形状としては、球体、楕円体、紡錘体、立方体、多面体、多孔質体、繊維状、星状、針状、中空状などが挙げられるが、その他不定形のものであってもよい。
粒子状の高分子ゲルの好ましい大きさは、吸脱液体を含まない状態において、体積平均粒子径で0.1μm〜1mmの範囲、より好ましくは1μm〜0.5mmの範囲である。体積平均粒子径が0.1μm未満であると、粒子の扱いが困難になる、優れた光学特性が得られないなどの問題を生じる場合がある。一方、体積平均粒子径が0.5mmよりも大きくなると、体積変化に要する応答時間が大幅に長くなってしまうなどの問題が生じる場合がある。
【0100】
粒子状の高分子ゲルは、バルク状の高分子ゲルを物理的粉砕方法によって粉砕する方法や、架橋前の高分子を物理的粉砕方法や化学的粉砕方法によって粒子化した後に架橋して高分子ゲルとする方法、あるいは乳化重合法、懸濁重合法、分散重合法などの粒子化重合法など、一般的な方法によって作製することができる。
【0101】
本発明に用いられる高分子ゲルを形成するために適用される架橋剤としては、例えば分子内に重合性不飽和基、反応性官能基などを2個以上有する化合物を挙げることができる。
上記重合性不飽和基を2個以上有する化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリンポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリグリセリンなどのポリオール類のジまたはトリ(メタ)アクリル酸エステル類、前記ポリオール類とマレイン酸、フマル酸などの不飽和酸類とを反応させて得られる不飽和ポリエステル類、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミドなどのビス(メタ)アクリルアミド類、トリレジンイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどのポリイソシアネートと(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルとを反応させて得られるジ(メタ)アクリル酸カルバミン酸エステル類、アリル化澱粉、アリル化セルロース、ジアリルフタレート、その他のテトラアリロキシエタン、ペンタンエリスリトールトリアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、ジエチレングリコールジアリルエーテル、トリアリルトリメチルエーテルなどの多価アリル系を挙げることができる。これらの中でも本発明には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、 N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミドなどが好ましく使用される。
【0102】
また、反応性官能基を2個以上有する化合物としては、ジグリシジルエーテル化合物、ハロエポキシ化合物、ジおよびトリイソシアネート化合物などを挙げることができる。ジグリシジルエーテル化合物の具体例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、ポリグリセリンジグリシジルエーテルなどを挙げることができる。その他、ハロエポキシ化合物の具体例としては、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、β−メチルエピクロロヒドリンなどを挙げることができる。また、ジイソシアネート化合物の具体例としては、2,4−トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどを挙げることができる。これらの中でも本発明には、特にエチレングリコールジグリシジルエーテル、ヘキサメチレンジイソシアネートなどが好ましく使用される。
【0103】
上記架橋剤のうち、特に好ましいのはN,N′−メチレンビス(メタ)アクリルアミドである。架橋剤の使用量は、前記モノマーの仕込み量に対して一般に0.001〜10質量%、好ましくは0.01〜5質量%である。上記架橋剤は、1種単独でも2種以上を併用してもよい。
【0104】
本発明で用いられる重合開始剤は、前記モノマー溶液に溶解し得るものであればよい。具体的には、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキシドやクメンハイドロパーオキシド等のパーオキシド類、アゾイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩等のアゾ化合物などが用いられる。これらの重合開始剤の中でも、特に、過硫酸塩、ハイドロパーオキシド類等の様な酸化性を示す開始剤は、例えば亜硫酸水素ナトリウム、L−アスコルビン酸、第一鉄塩等の様な還元性物質、あるいはN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンなどのアミン類との組合せによるレドックス開始剤としても用いることができる。これらの開始剤の使用量は、一般には主モノマーに対して0.0001〜10質量%、好ましくは0.001〜5質量%である。
【0105】
なおその他、高分子に電子線やガンマ線などの放射線を照射する方法や、高分子を加熱するなどの一般的な方法により高分子ゲルを作製することもできる。
また、高分子ゲルの刺激応答による体積変化速度をより高速にするために、高分子ゲルの従来技術と同様に材料を多孔質化して液体の出入り易さを向上させることも好ましい。一般的には膨潤した高分子ゲルを凍結乾燥する方法等で多孔質化することができる。
【0106】
本発明の調光組成物に用いられる吸脱液体としては、特に制限はないが、好ましくは水;電解質水溶液;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;酢酸エチルなどのエステル類;ジメチルエーテル、メチルエチルエーテルなどのエーテル類;その他ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホオキシド、アセトニトリル、プロピレンカーボネート、キシレン、トルエンなどの芳香族系有機溶媒、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族系有機溶媒、シクロヘキサンなどの脂環式有機溶媒、およびそれらの混合物が挙げられる。また、該液体には必要に応じて各種高分子、酸、アルカリ、塩、界面活性剤、分散安定剤、あるいは酸化防止や紫外線吸収などを目的とする安定剤、ならびに防腐剤などを添加しても構わない。
【0107】
なお、本発明の調光組成物においては、前記高分子ゲルと上記吸脱液体との好ましい混合比の範囲は、質量比で1:2000〜1:1(高分子ゲル:吸脱液体)であり、特に好ましくは1:200〜1:4である。
【0108】
【実施例】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0109】
[調光ゲル粒子(高分子ゲル粒子)Aの調製]
500mlのセパラブルフラスコ内で、アクリルアミド12質量部、色材として黒色顔料分散液(大成化工社製カーボンブラック分散液TBK−BC3:固形分15.1質量%含有)34.06質量部、架橋剤としてメチレンビスアクリルアミド0.048質量部、蒸留水19.08質量部を混合し十分に窒素置換した後、過硫酸アンモニウム0.41質量部を添加し十分に攪拌混合した。次に、界面活性剤としてSO−15R(ニッコーケミカルズ社製)を9.00質量部含有する234質量部の十分に窒素置換されたシクロヘキサン溶液を注入した。この混合液を15℃、1200rpmで30分間攪拌し懸濁した後、テトラメチルエチレンジアミン1.68質量部を添加し、300rpmで3時間攪拌保持することで重合反応を行い、ほぼ球形の粒子状の黒色アクリルアミドゲルを得た。得られた粒子はジメチルホルムアミドで洗浄した後、さらに蒸留水で洗浄し、水分散液として回収した。
【0110】
次に、アクリル酸42.9質量部、メチレンビスアクリルアミド0.0086質量部、蒸留水96.76質量部の混合溶液を十分に窒素置換した後、過硫酸アンモニウム0.022質量部を添加し十分に攪拌混合した。次に、この溶液に、先に得られた黒色アクリルアミドゲル粒子の水分散液(固形分3質量%)47.67質量部を添加し十分に混合した後、60℃の水浴に浸し3時間保持することで重合反応を行い、粒子状の黒色調光ゲル粒子を得た。得られた調光ゲル粒子は蒸留水で十分に洗浄した。このとき、得られた調光ゲル粒子の体積平均粒子径は、蒸留水中で20℃において約20μmであった。
また、この調光ゲル粒子を光学顕微鏡で観察した結果、蒸留水中で50℃では体積平均粒子径が約43μmであり、50℃においては体積が20℃と比較して約10倍に膨張していた。このように、得られた調光ゲル粒子は、温度に依存して体積が変化する感熱応答性を有することを確認した。なお、相転移点は30〜40℃の温度範囲にあった。つまり、相転移点よりも高温では膨潤し、低温では収縮する特性を有することが確認された。
【0111】
[調光ゲル粒子Bの調製]
架橋剤であるメチレンビスアクリルアミドを0.072質量部用いたこと以外は、すべて調光ゲル粒子Aの調製と同様な方法により、調光ゲル粒子Bを調製した。このとき、得られた調光ゲル粒子の体積平均粒子径は、蒸留水中で20℃において約20μmであった。
また、この調光ゲル粒子を光学顕微鏡で観察した結果、蒸留水中で50℃では体積平均粒子径が約37μmであり、50℃においては体積が20℃と比較して約6倍に膨張していた。このように、得られた調光ゲル粒子は、温度に依存して体積が変化する感熱応答性を有することを確認した。なお、相転移点は30〜40℃の温度範囲にあった。つまり、相転移点よりも高温では膨潤し、低温では収縮する特性を有することが確認された。
【0112】
<実施例1>
調光ゲル粒子Aを用いて、以下に示す方法により光学素子を作製した。
最初に、透明基板として10cm四方で厚さ0.7mmの7059ガラス板(コーニンググラスワークス社製)を準備した。この基板上に調光材料を固定するための固定化材層を形成するために、反応性シランカップリング剤(3−アミノプロピルトリメトキシシラン)の2%水溶液を塗布し、60℃で約1時間反応させ固定用官能基末端を導入した。この基板を、調光ゲル粒子Aが分散(固形分は約1質量%)された0.2質量%のポリアクリル酸(平均分子量25000)水溶液中に浸し、常温で1時間放置し粒子を固定した。その後、基板を蒸留水で洗浄することで基板上に結合していない調光ゲル粒子を取り除いた。基板上を光学顕微鏡で観察すると、調光ゲル粒子Aがほぼ均一に固定されていた。
次に、調光ゲル粒子が固定されていない上記と同様の基板を、スペーサとしてアクリル樹脂製の直径約21μmの球(積水ファインケミカル社製ミクロパールSP)を基板間隔が保持できるよう適当量(約0.5個/cm2)配置し、基板の一部を膨潤液注入口として残す以外は全てアクリル系紫外線硬化型樹脂(日本化薬社製KAYARAD FAD−R381I)により封止した。
次に、減圧注入法により膨潤液として0.2質量%のポリアクリル酸(平均分子量25000)水溶液を内部に注入した後、注入口をアクリル系紫外線硬化型樹脂(日本化薬社製KAYARAD FAD−R381I)により封止して光学素子を得た。
【0113】
この光学素子は、20℃において内部の調光ゲル粒子が収縮しておりほぼ透明な状態であった。このとき、波長400nm〜800nmの範囲の光の平均透過率は、ガラスの透過率を差し引いた値で約90%であった。
次に、この光学素子を50℃に加熱したところ、内部の調光ゲル粒子が膨潤し黒色を呈した。このとき、波長400nm〜800nmの範囲の光の平均透過率は、ガラスの透過率を差し引いた値で約25%であった。この状態を光学顕微鏡で観察したところ、調光ゲル粒子の表面基板に対する法線方向への正射影の直径が約54μmであった。これは、粒子単独で測定した50℃における体積平均粒子径(約43μm)よりも1.26倍大きな値であった。すなわち、膨潤による体積膨張のうち、法線方向が21μmの基板間隔により抑制され、その分面内方向に大きく広がっていた。このときの変形率は61%であった。
その後、再び20℃に戻したところ、調光ゲル粒子が収縮し、光学素子は透明な状態に戻った。
このような温度変化による光学素子の透過率変化(すなわち調光ゲル粒子の膨潤収縮挙動)は、可逆的に繰り返し10000回以上行うことができることを確認した。
さらに、スガ試験機製のサンシャインウエザメータ(WEL−SUN−HC型)を使用し、ブラックパネル温度63℃の条件下で1000時間の耐候性試験を行った。その結果、調光ゲル粒子の変性や褪色がなく、光学素子の調光特性の劣化も確認されなかった。
【0114】
<比較例1>
実施例1と同様に、調光ゲル粒子Aを用いて光学素子を作製した。ただし本比較例においては、粒子径300μmのスペーサを用いて2枚の基板間隔を保持することにより、基板間距離を調光ゲル粒子の膨潤状態の粒子径(約43μm)よりも広く設定した。
この光学素子は、20℃において内部の調光ゲル粒子が収縮しておりほぼ透明な状態であった。このとき、波長400nm〜800nmの範囲の光の平均透過率は、ガラスの透過率を差し引いた値で約90%であり、実施例1と同等であった。
次に、この光学素子を50℃に加熱したところ、内部の調光ゲル粒子が膨潤し黒色を呈した。このとき、波長400nm〜800nmの範囲の光の平均透過率は、ガラスの透過率を差し引いた値で約53%であった。この状態を光学顕微鏡で観察したところ、調光ゲル粒子の表面基板に対する法線方向への正射影の直径が約43μmであった。これは、粒子単独で測定した50℃における体積平均粒子径(約43μm)と同等な値であった。すなわち、膨潤による体積膨張は、十分に広い基板間隔により抑制されることなく、面内方向への大きな粒子径変化(すなわち面積変化)も得られなかった。このときの変形率は0%であった。
【0115】
以上の実施例1(本発明)と比較例1(従来技術)の結果から、本発明は同等の体積変化特性(体積変化量約10倍)を有するゲル粒子を用いて、従来技術(約90%〜約53%)よりも大きな調光特性(約90%〜約25%)を容易に得ることが出来ることが確認された。
【0116】
<実施例2>
調光ゲル粒子Bを用いて、実施例1と同様な方法により光学素子を作製した。
この光学素子は、20℃において内部の調光ゲル粒子が収縮しておりほぼ透明な状態であった。このとき、波長400nm〜800nmの範囲の光の平均透過率は、ガラスの透過率を差し引いた値で約90%であった。
次に、この光学素子を50℃に加熱したところ、内部の調光ゲル粒子が膨潤し黒色を呈した。このとき、波長400nm〜800nmの範囲の光の平均透過率は、ガラスの透過率を差し引いた値で約53%であった。この状態を光学顕微鏡で観察したところ、調光ゲル粒子の表面基板に対する法線方向への正射影の直径が約43μmであった。これは、粒子単独で測定した50℃における体積平均粒子径(約37μm)よりも1.16倍大きな値であった。すなわち、膨潤による体積膨張のうち、法線方向が21μmの基板間隔により抑制され、その分面内方向に大きく広がっていた。このとき変形率は51%であった。
その後、再び20℃に戻したところ、調光ゲル粒子が収縮し、光学素子は透明な状態に戻った。
このような温度変化による光学素子の透過率変化(すなわち調光ゲル粒子の膨潤収縮挙動)は、可逆的に繰り返し10000回以上行うことができることを確認した。
さらに、スガ試験機製のサンシャインウエザメータ(WEL−SUN−HC型)を使用し、ブラックパネル温度63℃の条件下で1000時間の耐候性試験を行った。その結果、調光ゲル粒子の変性や褪色がなく、光学素子の調光特性の劣化も確認されなかった。
【0117】
以上の実施例2(本発明)と比較例1(従来技術)の結果から、本発明は同等の調光特性(約90%〜約53%)を得るために必要な調光ゲル粒子の体積変化特性が、従来技術(体積変化量約10倍)と比較して小さくて良い(体積変化量約6倍)ことが確認された。
【0118】
【発明の効果】
本発明によれば、少ない体積変化量を有する高分子ゲルを用いても、大きな調光コントラスト有する光学素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 光学素子の調光機能の説明のための模式断面図であり、(a)は本発明の光学素子において、高分子ゲル粒子1が収縮した状態の一例を示し、(b)は従来の光学素子(d>r)において、高分子ゲル粒子1が膨潤した状態の一例を示し、(c)は本発明の光学素子(d<r)において、高分子ゲル粒子1が膨潤した状態の一例を示す。
【図2】 基板間距離に依存した本発明と従来技術の体積変化量の比の一例を示すグラフである。
【図3】 基板間距離に依存した本発明と従来技術の面積変化量の比の一例を示すグラフである。
【図4】 本発明の光学素子の構成の1例を示す模式断面図である。
【図5】 本発明の光学素子に用いる高分子ゲル粒子1の構成の1例を示す模式断面図である。
【図6】 本発明の光学素子の構成の他の1例を示す模式断面図である。
【符号の説明】
1高分子ゲル粒子
2a、2b 基板
3調光用材料
4調光組成物層
5吸脱液体
6封止材
7刺激付与部材
8スペーサ
10光学素子
Claims (4)
- 一対の基板間に、少なくとも、外部刺激により可逆的に液体を吸収・放出して体積変化を生ずる高分子ゲルと、前記高分子ゲルが吸収・放出し得る液体と、を有する光調組成物を備えた光学素子であって、前記高分子ゲルは、膨潤した状態において両方の基板と接触し変形することを特徴とする光学素子。
- 前記高分子ゲルは、少なくとも一方の基板表面に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
- 前記高分子ゲルは、収縮した状態において飽和吸収濃度以上となる量の調光用材料を含有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学素子。
- 前記高分子ゲルの変形率は、5%以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光学素子。
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