明細書 金属材料の分析方法 技術分野
本発明は、 金属試料中の析出物及び/又は介在物の組成や粒径分布等を正確に分析する ための分析方法に関するものである。 背景技術
金属試料中に存在する析出物及び 又は介在物は、 その形態、 大きさ、 ならびに分布に よっては材料の諸特性、 例えば、 疲労的性質、 熱間加工性及び冷間加工性、 深絞り性、 被 削性、 あるいは電磁気的性質などに著しい影響を及ぼす。 析出物及び/又は介在物を、 以 下、 析出物等と称する。 鉄鋼を例に説明すると、 特に近年は、 微細な析出物等を利用して 鉄鋼製品の特性を向上させる技術が著しく発展し、 それに伴って製造工程における析出物 等の制御が厳格化してきた。
析出物等の制御が重要視される鉄鋼製品の代表例としては、 析出強化型高張力銅があげ られる。 この析出強化型高張力鋼板に含有される析出物等としては、 様々な大きさや組成 のものがある。 その析出物等は、 銅板の特性を向上させるもの、 反対に特性を低下させる もの、 あるいは特性に寄与しないものに分類することができる。 そのため、 優れた鋼板を 製造するためには、 有益な析出物等を安定的に生成させ、 有害あるいは無関係な析出物等 の生成を抑制することが重要となる。
一般に、 鋼板の特性に対して析出物等がもたらす利害は析出物等の大きさと密接に関係 し、 微細な析出物等ほど鋼板の高強度化に寄与する。 最近では、 ナノ ·サブナノサイズの 析出物等で高強度化された銅板が開発されている。 そのため、 サブミクロンからナノサイ ズまでの領域で、 大きさ毎の析出物等の量やその組成を把握することが、 鋼板の成分設計 や製造条件の最適化において重要といえる。
これに対して、 鉄鋼材料中の析出物等を抽出して定量する技術は、 古くから析出物等を
総量評価することを基本として発展し開示されてきた。
非特許文献 1には、 酸分解法、 ハロゲン法、 電解法などを挙げ、 特に析出物等を対象と する場合には電解法が優れていることが示されている。 し力 し、 非特許文献 1に示されて いる電解法は、 液体中の析出物等を凝集させてろ過回収すること、 つまり析出物等の総量 を分析することを主眼としているため、 析出物等の大きさについての結果を得ることはで きない。 さらに、 非特許文献 1の方法では、 非常に小さな析出物等を含有する材料におい ては、 凝集効果が十分に作用せず一部の析出物等がフィルタの孔から漏れ落ちるために定 量性にも問題がある。
特許文献 1には、 鉄鋼材料中の非金属介在物を化学的に抽出して、 大きさ別に分析する 方法として、 電解液槽中の鉄鋼試料をポリテ'トラフルォロエチレン製の網に収納して特定 の大きさ以上の析出物等を分離回収する方法が開示されている。
また、 特許文献 2には、 液体中に抽出した析出物等に超音波を付与しながらろ過するこ とで、 析出物等の凝集を防止して分離する技術が開示されている。
基本的に粒径が小さくなるほど液体中で析出物等は凝集する傾向があるため、 特許文献 1に記載された方法では、 析出物等の粒径によっては液中で凝集が起こり、 フィルタの孔 径より小さい析出物等も捕集されることになる。 そのため、 大きさ別の分析結果が不正確 なものとなることは明らかである。 そして、 特許文献 1が対象としている大きさ 50 μ πιか ら ΙΟΟΟ μ ηιの介在物の場合は特に問題とならないが、 本発明において最も注目したいサブ ミクロンからナノサ ズの領域、 特に、 鋼の強度特性の制御の点からは大きさ l ju m以下、 より望ましくは大きさ 200nm以下での析出物等の場合は、 液体中で容易に凝集してしまう 場合がほとんどであり実用に適さない。
特許文献 2においても、特許文献 1と同様に、凝集乖離が容易な 以上の粗大析出物 等を対象としており、一般に篩い分けの下限が 0. 5 /x mと示されている(非特許文献 2参照) ように、 サブミクロンからナノサイズの領域の析出物等に適用するのは困難である。
特許文献 3には、 孔径 1 m 以下の有機質フィルタで超音波振動によるろ過によって Ι μ πι以下の析出物等を分離する技術が開示されている。 し力 し、 特許文献 1や 2と同様、 超音波による 1 μ m以下の微細析出物等の凝集乖離は不可能である。
非特許文献 3には、 銅合金中の析出物等を抽出して、 孔径の異なるフィルタによって 2 回ろ過して、 析出物等を大きさ別に分ける技術が開示されている。 し力 し、 前記凝集に関 する問題が解決されておらず、 フィルタの孔径より小さい析出物等が捕集されて、 大きさ 別分析結果に誤差を与えている。
特許文献 1 :特開昭 59-141035号公報
特許文献 2 :特公昭 56-10083号公報
特許文献 3 :特開昭 58-119383号公報
非特許文献 1 : 日本鉄鋼協会 「鉄鋼便覧第四版 (CD-ROM)」 第四卷 2編 3 . 5 非特許文献 2 :ァグネ 「最新の鉄鋼状態分析」 5 8頁 1 9 7 9
非特許文献 3 : 日本金属学会 「まてりあ」 第 4 5卷 第 1号 5 2頁 2 0 0 6 以上のように、 従来技術においては、 凝集等の問題があり、 サブミクロンからナノサイ ズの領域 (特に、 大きさ 1 m以下、 より望ましくは大きさ 200nm以下) での析出物等につ いて、 大きさ別の分析を実用的にかつ正確に行う技術はない。 発明の開示
本発明は、 金属試料中に存在する析出物及ぴ Z又は介在物、 特に、 大きさ l m 以下の 析出物及び 又は介在物を損失並びに凝集させること無く抽出し、 析出物及び 又は介在 物の大きさ別の分析を精度良く行う分析方法を提供することを目的とする。
図 9は、 非特許文献 1に開示されている電解法による抽出操作を示している。 この電解 抽出法は、 鉄マトリクスを溶解することで、 鋼中析出物等を安定的に抽出することができ る方法であり、析出物等を抽出分析する標準的な方法(以下、標準法) とみなされている。 前述した特許文献 1〜3と非特許文献 2〜 3は、 この標準法に基づいている。 しかし、 標 準法をはじめとする従来の方法では、 上述したようにさまざまな問題がある。
本発明者らは、 従来の標準法にとらわれない方法を発明すべく、 鋭意研究を行った。 以 下に、 得られた知見を示す。
まず、 上述の従来の方法の問題点を整理すると、 析出物等の分散媒として析出物等の分
散性の低いメタノールを用いるという根本的な問題点があげられる。そして、これにより、 特に微細な析出物の大きさ別分析を妨げていたものと推測される。 つまり、 特許文献 1〜 3と非特許文献 1〜 3は、 析出物等に対し分散性の低いメタノールを分散媒としているた め、超音波などの物理的作用を与えたとしても、大きさ 1 / m以下の析出物等は凝集してし まレ、、 一度凝集してしまうとその凝集体を完全に乖離させることは不可能になると考えら れる。
そこで、 凝集の問題を解決するために、 発明者らは析出物等の分散に着目したところ、 水溶液系分散媒 (以下、 分散性溶液と称する場合もある) による化学的作用によって、 大 きさ 1 μ m以下の析出物等も含めて析出物等に対して分散性を付与できることを見出した。 しかしながら、 ここで、 電解液の主成分は分散性の低いメタノールであるので、 析出物 等に分散性を付与するためには、 析出物等を分散性溶液へ移す必要がある。 そして、 その 為には、 析出物等と電解液とを分離させる固液分離操作が必要となる。 そこで、 標準法で 用いられている、 電解液中に分散した析出物等と分散媒中に抽出した析出物等とを回収す るために固液分離手段として行われている 「ろ過」 操作を行ったところ、 ろ過によって析 出物等の一部 (特に、 大きさ 200nm以下のナノ ·サブナノメートルの大きさの微細なもの) が失われる可能性があることがわかった。
この結果を踏まえて、 従来から行われている上記標準法以外の別の固液分離手段を得る ベく、 さらに検討した。 その結果、 電解中及び Z又は電解後は、 ほぼ全ての析出物等が鉄 鋼試料に付着したままの状態であることを知見した。 これは従来にない全く新しい知見で あり、 この知見を基とすることで、 電解中及び 又は電解後に鉄鋼試料の残部を電解液か ら取り出せば、 容易に固液分離を実現できることになる。 そして、 凝集の問題解決のため の上記知見を組み合わせることで、 電解液とは全く異なる分散性溶液中に、 析出物等を抽 出することが可能となる。 上記この付着現象は、 詳細については不明であるが、 電解時及 び Z又は電解後における鉄銅試料と析出物等間の電気的作用によるものと推測している。 以上のような知見の結果、 本発明では、 電解中又は電解後に金属試料の残部を電解液か ら取り出し、 その後、 取り出した金属試料を分散性溶液に直接浸漬して、 付着している析 出物等を水溶液系分散媒中に剥離することで、 高度に分散した析出物等を得ることが可能
となった。 本発明は、 以上の知見に基づきなされたもので、 その要旨は以下のとおりである。 、 [1] 電解液中で金属試料を電解する電解工程と、
前記電解後の金属試料を前記電解液から取り出す工程と、
前記電解液から取り出した金属試料を、 電解液とは異なり且つ分散性を有する分散 性溶液に浸漬し、 前記金属試料に付着した析出物と介在物と力 らなるグループから選択さ れた少なくとも一つを分離する分離工程と、 '
前記分散性溶液中に抽出された析出物と介在物とからなるグループから選択された 少なくとも一つを分析する分析工程と、
を有する金属材料の分析方法。
[2] 前記分散性溶液は、 溶媒が水である [1] に記載の金属材料の分析方法。
[3] 前記分散性溶液が、 分析対象の析出物と介在物とからなるグループから選択された 少なくとも一つに対して絶対値が 30 mV以上のゼータ電位を有する [ 1 ] に記載の金属材 料の分析方法。
[4] 前記ゼータ電位の絶対値が30 mV以上且つ40 mV以下である [3] に記載の金属材 料の分析方法。
[5] 前記分散性溶液は、 ゼータ電位の値を指標として種類と濃度とからなるグループか ら選択された少なくとも一つが決定される [1] に記載の金属材料の分析方法。
[6] 前記分散性溶液が、 酒石酸ナトリウム、 クェン酸ナトリウム、 ケィ酸ナトリウム、 正リン酸カリウム、 ポリリン酸チトリウム、 ポリメタリン酸ナトリウム、 へキサメタリン 酸ナトリゥム、 ピロリン酸ナトリゥムからなるグループから選択された一つを分散剤とし て含んでいる [1] に記載の金属材料の分析方法。
[7] 前記分散性溶液が、 へキサメタリン酸ナトリウムを分散剤として含んでいる [6] に記載の金属材料の分析方法。
[8] 前記分散性溶液が、 ピロリン酸ナトリウムを分散剤として含んでいる [6] に記載 の金属材料の分析方法。
5
ί
[9] 前記分離工程が、 前記金属試料に超音波振動を加えて、 前記金属試料に付着しだ析 出物と介在物と力 らなるグループから選択された少なくとも一つを剥離させることからな る [1] に記載の金属材料の分析方法。
[10] 前記分析工程が、 前記分散性溶液中に抽出された大きさが lpm以下の析出物と 介在物とからなるグループから選択された少なくとも一つを分析することからなる [1] に記載の金属材料の分析方法。
[1 1] さらに、 前記金属試料の残部に付着した析出物と介在物とからなるグループから 選択された少なくとも一つを分析する工程を有する [1] に記載の金属材料の分析方法。
[1 2] 前記分析工程が、
前記分散性溶液中に分離された析出物と介在物とからなるグループから選択された 少なくとも一つを少なくとも 1以上のフィルタにより少なくとも 1回以上ろ過するろ過ェ 程と、
前記各フィルタに捕集された析出物と介在物とからなるグループから選択された少 なくとも一つを分析する捕集物分析工程と、を有する [ 1 ]に記載の金属材料の分析方法。
[1 3] 前記分析工程が、
前記分散性溶液中に分離された析出物と介在物とからなるグループから選択され た少なくとも一つを少なくとも 1以上のフィルタにより少なくとも 1回以上ろ過するろ過 工程と、
ろ液中に回収された析出物と介在物とからなるグループから選択された少なくと も一つを分析するろ液分析工程と、 を有する [1] に記載の金属材料の分析方法。
[14] 前記分析工程が、
前記分散性溶液中に分離された析出物と介在物とからなるグループから選択され た少なくとも一つを少なくとも 1以上のフィルタにより少なくとも 1回以上ろ過するろ過 工程と、'
前記各フィルタに捕集された析出物と介在物と力 らなるグループから選択された 少なくとも一つを分析する捕集物分析工程と、
ろ液中に回収された析出物と介在物とからなるグループから選択された少なくと
も一つを分析するろ液分析工程と、 を有する [ 1 ] に記載の金属材料の分析方法。
[ 1 5 ] 前記ろ液分析工程が、 別途測定した電解液における標識元素に対する着目元素の 比率と、 前記ろ液中の標識元素とを乗算して得た値を、 前記ろ液中の着目元素量から差し 引きすることにより、 前記ろ液中の析出物と介在物とからなるグループから選択された少 なくとも一つを分析することからなる [ 1 3 ] または [ 1 4 ] に記載の金属材料の分析方 法。
[ 1 6 ] 前記分析工程が、別途測定した電解液における標識元素に対する着目元素の比率 と、 分散性を有する溶液中の標識元素とを乗算して得た値を、 前記分散性を有する溶液中 の着目元素量から差し引きすることにより、 分散性を有する溶液中の析出物と介在物とか らなるグループから選択された少なくとも一つを分析することからなる [ 1 ] に記載の金 属材料の分析方法。
なお、 本発明において、 介在物等のサイズを表す 「大きさ」 とは、 析出物等の断面が、 略円状の場合は長径と短径のうちの短径を、矩形の場合は長辺と短辺のうちの短辺を指し、 大きさ 1 μ m以下の析出物等とは、この短径又は短辺が 1 μ m以下の析出物等である。また、 析出物及び Z又は介在物を、 まとめて析出物等と称する。
本発明によれば、金属試料中に存在する析出物等(特に、大きさ Ι μ πι以下、 さらに望ま しくは大きさ 200nm以下) を損失並びに凝集させること無く抽出し、 析出物等の大きさ別 の分析を精度良く行うことができる。
そして、本発明の分析方法では、金属試料中の析出物等 (特に、 大きさ Ι μ πι以下、 さら に望ましくは大きさ 200mn以下) を、 分散性を有する溶液中に抽出するので、 抽出した溶 液中での析出物等の凝集を防ぎ、 析出物等を金属試料中そのままの状態で抽出することが できる。
また、 電解液とは異なる抽出用の分散性溶液を任意に選択することができるので、 析出 物等に適した分散性溶液を用いることができる。
これらにより、 析出物等の大きさ別の分析を精度良く行う事が可能となり、 従来不可 能であった大きさ別の定量や正確な粒径分布が得られるなど、 産業上有益な発明となりう る。
図面の簡単な説明
図 1は、本発明に係る一実施形態として分散性溶液最適化操作のフローを示す図である。 図 2は、 本発明に係る一実施形態として大きさ別の定量分析のフローを示す図である。 図 3は、 本発明の析出物等分析方法で用いる電解装置の構成を模式的に示す図である。 図 4は、 へキサメタリン酸ナトリゥム水溶液濃度と分散性溶液のゼータ電位との関係を 示す図である。
図 5は、 ゼータ電位と孔径 lOOnmのフィルタで捕集して分析したチタンの析出物等にお ける含有率との関係を示す図である。
図 6は、 実施例 2における、 チタン析出物等の大きさ別における定量結果を示す図であ る。
図 7は、 実施例 3における、 へキサメタリン酸ナトリウム水溶液濃度と分散性溶液のゼ ータ電位との関係を示す図である。
図 8は、 実施例 3における、 粒径分布の計測結果を示す図である。
図 9は、 非特許文献 1に開示されている標準法のフロー図。
発明を実施するための形態
本発明の金属材料の分析方法について、 詳細に説明する。
本発明の金属材料の分析方法は、 電解液中で金属試料を電解する電解工程と、 前記電解後 の金属試料を前記電解液から取り出す工程と、 前記電解液から取り出された金属試料を、 分散性を有する分散性溶液に浸漬し、 前記金属試料に付着した析出物と介在物.とからなる グループから選択された少なくとも一つを分離する分離工程と、 前記分散性溶液中に抽出 された析出物と介在物とからなるグループから選択された少なくとも一つを分析する分析 工程と、 を有する。
そこで、 上記操作手順を、 本発明の一実施形態として、 分散性溶液を最適化するまでと、 分散性溶液を用いて鉄鋼試料中の析出物等を大きさ別に分けて定量するまでに分けて説明 する。 分散性溶液を最適化する場合の操作フローを図 1に、 鉄鋼試料中の析出物等を大き さ別に分けて定量する場合の ¾作フローを図 2に、 それぞれ示す。
まず、 図 1において、 分散性溶液条件を最適化する操作手順として (1 ) から (6 ) ま でが示される。 図 1によれば、
( 1 ) 初めに、 銅材を適当な大きさに加工して、 電解用試料とする。
( 2 ) 一方、 電解液とは異なりかつ分散性を有する分散性溶液を、 析出物等の抽出用とし て当該電解液とは別に準備する。 ここで、 電解用試料の表面に付着した析出物等を分散性 溶液中に分散させるには、 電解液の半分以下の液量で充分である。 分散性溶液の分散剤に 付いては、 後述する。
( 3 ) 試料を所定量だけ電解する。 なお、 所定量とは、 適宜設定されるものであり、 その 一例として、 図 1においては、 ゼータ電位装置 (又は (9 ) にて後述する元素分析) に供 する場合に測定可能な程度とする。
図 3は、 電解法にて用いられる電解装置の一例である。 電解装置 7は、 電解用試料の固 定用治具 2、 電極 3、 電解液 6、 電解液 6を入れる為のビーカー 4、 及び電流を供給する 定電流電解装置 5を備えている。 固定用治具 2は定電流電解装置の陽極に、 電極 3は直流 定電流源の陰極に接続されている。 電解用試料 1は、 固定用治具 2に接続されて電解液 6 中に保持される。 電極 3は、 電解液 6に浸漬されると共に、 電解用試料の表面 (主として
電解液 6に浸漬している部分) を覆うように配置される。 固定用治具 2には、 永久磁石を 用いるのが、 最も簡便である。 但し、 そのままでは電解液 6に接触して溶解してしまうの で、 電解液 6と接触しやすい箇所、 図 3の場合は電解用試料 1との間にある 2 a、 に白金 板を使用しても良い。 電極 3も同様に、 電解液 6による溶解を防ぐために、 白金板を用い る。 電解用試料 1の電解は、 定電流電解装置 5より電極 3へ電荷を供給することで行う。 鋼の電解量はこの電荷量に比例するので、電流量を決めれば、電解量は時間で決定できる。
( 4 ) 電解 (溶解) されずに残った電解用試料片を電解装置から取り外し、 上記 (2 ) で 準備した分散性溶液中に浸潰して、 析出物等を分散性溶液中に抽出する。 ここで、 分散性 溶液中に浸漬したまま超音波を照射することが好ましい。 超音波を照射することで試料表 面に付着している析出物等を剥離して、 より効率よく分散性溶液中に抽出することができ る。 次に、 表面から析出物等を剥離した試料を分散性溶液から取り出す。 なお、 取り出し の際は、 分散性溶液と同一の溶液で試料を洗浄することが好ましい。
( 5 ) 上記 (4 ) で作製した、 析出物等を含んだ分散性溶液のゼータ電位を計測する。
( 6 ) 上記 (5 ) で計測したゼータ電位の絶対値が 30mVに満たない場合には、 分散剤の種 類及ぴ Z又は濃度をかえて上記(2 )から (6 ) までを繰り返す。一方、ゼータ電位が 30mV 以上に達した場合には、 その時の分散剤と濃度を、 対象析出物等に対する分散性溶液の最 適条件と決定し、 操作を終了する。 なお、 図 1においては、 ゼータ電位を測定し、 ゼータ 電位が 30mV以上に達した場合に、その時の分散剤と濃度を、対象析出物等に対する分散性 溶液の最適条件と決定したが、 本発明においては、 析出物及び Z又は介在物が分散性溶液 中に回収された際にほとんど凝集することなく十分に分散していればよく、 分散性溶液を 選択 '決定するための手段として、 ゼータ電位測定に限定されるものではない。 なお、 詳 細は後述する。
次いで、 図 2において、 分散性溶液を用いて鉄鋼試料中の析出物等を大きさ別に分けて 定量する操作手順として (7 ) から (9 ) までが示される。 図 2によれば、
( 7 ) 新たに図 1の上記(1 ) 力 ら (4 ) までと同様の操作を行い、 図 1の (1 ) から (6 ) で決定し最適化された分散性溶液に、 実際に分析対象とする析出物等を抽出する。
( 8 ) 析出物等を含む分散性溶液を 1つ以上のフィルタでろ過して、 フィルタ上に捕集さ
れた残渣とろ液をそれぞれ回収する。 析出物等を (n + 1 ) 区分の大きさに分別する場合 には、 孔径の大きいフィルタからろ過を行い、 孔径の大きいフィルタでのろ液を小さいフ ィルタでろ過する操作を順次 n回行なって、 それぞれのフィルタ上に捕集された残渣と n 回目のろ液を回収する。
( 9 )以上の操作で得られたフィルタ上の捕集残渣及びろ液をそれぞれ酸溶解し、次いで、 元素分析を行い、 析出物等の大きさ別における元素の含有率を計算する。
図 1及び図 2に示す以上の方法により、 析出物等の大きさ別の組成に関する分析結果が 得られる。 そして、 この得られた分析結果をもとに鋼材の諸性質に関する知見が得られ、 不良品発生の原因解明や新材料の開発等に有益な情報が得られる。
本発明は、 様々な種類の鋼中析出物等の分析に適用することができ、 特に、 大きさ 1 ;ζ πι 以下の析出物等を多く含んだ鉄鋼材料に対して好適であり、 大きさ 200nm以下の析出物等 を多く含んだ鉄鋼材料に対してさらに好適である。
なお、 ここで、 上記 (2 ) における分散性溶液について、 補足する。 大きさ Ι μ πι以下、 特に 200nm以下のオーダーの微細な析出物等については、 上述したように、 現在、 公知技 術として、 溶液中に凝集させずに抽出する明確な方法は無い。 そのため、 例えば粒径が 1 M m以上の粒子等に実際に使用されている分散剤を順番に試すことで分散性溶液について の知見を得ようと試みた。 その結果、 分散剤の種類と濃度については、 析出物等の組成や 粒径、 液中の析出物等の密度等との間に明確な相関は得られなかった。 例えば、 水溶液系 の分散剤としては、 酒石酸ナトリウム、 クェン酸ナトリウム、 ケィ酸ナトリウム、 正リン 酸力リゥム、 ポリリン酸ナトリゥム、 ポリメタリン酸ナトリゥム、 へキサメタリン酸ナト リゥム、 ピロリン酸ナトリゥムなどが好適であるが、 適切な濃度を超えた添加は析出物等 の分散に逆効果であるという知見が得られた。
以上より、 本発明において、 分散性溶液は、 析出物及び Z又は介在物が当該溶液中にあ るときに、 凝集することなく分散していればよく、 特に限定しない。 そして、 分散性溶液 を決定するにあたっては、 析出物等の性状や密度、 あるいはその後の分析手法に応じて分 散性溶液の種類や濃度を適宜最適化するのが好ましい。
ここで、 分散性溶液についてさらに検討する中で、 分散性溶液の溶媒が水の場合には、
析出物等の表面電荷と分散性には密接な相関があるため、 例えば、 ゼータ電位計などを利 用して析出物等表面の電荷状態を把握すると、 最適な分散性溶液の条件 (分散剤の種類や 適切な添加濃度等) を確定することができることがわかった。 つまり、 析出物等が小さく なるほど、 液中での凝集が起こりやすくなるため、 適切な分散剤を適切な濃度で添加する ことで、 析出物等表面に電荷が付与され互いに反発して凝集が防止されると考えられる。 この結果より、 分散性溶液の種類 '濃度の決定に際して、 ゼータ電位の値を指標として 用いることは、 簡便な方法でありながら、 確実に最適な分散性溶液の条件 (分散剤の種類 や適切な添加濃度等) を確定することができるという点から望ましいと思われる。
そして、 開発者らは検討を重ねた結果、 ゼータ電位の場合は、 析出物等を分散させる観 点からはその絶対値が大きければ大きいほど好ましいことが分かつた。 さらに析出物等の 分析においては、概ね絶対値で 30mV程度以上の値が得られれば、 凝集が防止でき、 正確な 分析が行なえることがわかった。
以上より、 析出物等の抽出用の分散性溶液の種類や濃度を決定するに際しては、 ゼータ 電位の値を指標として用いることが好ましく、 分散性を有する溶液は、 分析対象である析 出物及び 又は介在物に対するゼータ電位の絶対値が 30mV以上であることが好ましい。 また、 上記 (8 ) のフィルタによる分別に代えて、 電気泳動法や遠心分離法等の他の分 別方法を用いて、 析出物等を大きさ別に分けた後に、 それぞれの析出物等を分析すること もできる。 また、 上記 (7 ) で得られた析出物等を含んだ分散性溶液を、 直接分析に供し ても良い。 例えば、 上記 (7 ) で得られた分散性溶液に動的光散乱法や小角散乱法を用い ることにより、 析出物等の粒度分布が得られる。
また、 上記 (9 ) の元素分析及び定量分析に代えて、 各フィルタ上の捕集残渣を X線回 折法で測定する事により、 存在する析出物等種の同定 ·定性分析を粒度別に行なうことも 可能である。 また、 フィルタ上の捕集残渣をそのまま、 S E M (Scanning Electron Microscope)、 L M (Transmission Electron Microscope)、 E P MA (Electron Probe Micro Analyzer) , X P S (X-ray Photoelectron Micro Analyzer) などの機器分析装置に投入し て、 析出物等の形状の観察や表面分析などを行っても良い。 さらに、 フィルタを通過させ た後のろ液側を、 動的光散乱法や小角散乱法で測定し、 フィルタによる分別した後の大き
さを求めるこ、とも可能である。
一方、 金属材料中で着目元素が数 nm レベルの非常に微細な析出物等を形成している場 合には、 非特許文献 3で指摘されているように着目元素の固溶部分と析出部分を分けるこ とができず析出物等の分析値に誤差が生じる場合がある。 すなわち、 着目元素の固溶部分 は電解などの抽出操作によって電解液中に溶出するが、 その一部は試料表面に付着して析 出物等とともに上記 (4 ) の分散性を有する溶液中に持ち込まれ、 上記 (4 ) の分散性を 有する溶液あるいは該溶液をろ過した上記 (8 ) のろ液中の析出物等の分析結果に正の誤 差を与える。 そこで発明者らは、 この誤差が電解 ¾に由来することに着眼して、 その混入 量を定量化して、 析出物等の見掛け分析値から差引きすることで誤差の少ない分析結果が 得られることを見出した。
その方法を以下に示す。 電解終了後に電解液を適量採取して、 そこに含まれる着目元素 量 C iと標識元素量 C tを測定してその比 C i / C tを算出する。 上記 (4 ) の分散性を 有する溶液あるいは該溶液をろ過した上記 (8 ) のろ液中の標識元素量 X tを測定して、 前記比 C i / C tを乗算することによって、 上記 (4 ) の分散性を有する溶液あるいは該 溶液をろ過した上記 (8 ) のろ液中の着目元素のうちの電解液から持ち込まれた量を定量 化した。 この持ち込み量を上記 (4 ) の分散性を有する溶液あるいは該溶液をろ過した上 記 (8 ) のろ液中の着目元素量 X iから差引きすれば、 析出物に由来する正味の着目元素 の析出物分析値 W iを得ることが可能となる。
W i = (X i - X t X C i / C t ) x 1 0 0 /M · · ·①
W i :試料中の着目成分の析出物分析値 (質量%)
X i :析出物を分散させた液体、 又はそれをろ過したろ液中の着目元素の質量 X t :析出物を分散させた液体、 又はそれをろ過したろ液中の標識元素の質量 C i :採取した電解液中の着目元素の、 単位体積あたりの質量
C t :採取した電解液中の撂識元素の、 単位体積あたりの質量
M :試料の電解重量
標識元素としては、 次に示す 2通りがある。 まず、 試料中に含有する元素で析出物等を 形成しなレ、元素あるいはほとんど形成しなレ、元素を標識元素とする方法が挙げられる。 例
えば、 鉄鋼試料の場合には鉄やニッケルなどが好適である。 次に、 試料中にほとんど含有 しない元素を電解液中に添加して標識元素とする方法が挙げられる。 鉄鋼試料の場合は、 リチウム、 イットリウム、 ロジウムなどが好適である。 実施例 1
図 1に示す (1 ) から (6 ) の手順に従って、 析出物等中のチタン含有率とゼータ電位 の関係を調べた。 各操作の具体的な条件は、 以下に示す通りであるが、 本発明は下記の具 体的な条件に制限されるものではない。
金属試料としてチタンを添加した炭素銅を使用し、その化学成分は、 C: 0. 09mass%, Si: 0. 12mass%、 Mn: 1. 00mass%、 P: 0. 010mass%N S : 0. 003mass%、 Ti: 0. 18mass% N: 0. 0039mass% である。
電解操作は、図 3に示す装置構成にて行い、電解液としては約 300mlの 10%AA系電解液 (10vol%ァセチルァセトン- lmass 化テトラメチルアンモニゥム -メタノール) を使用し た。
分散性溶液としては、 へキサメタリン酸ナトリゥム (以下、 略して SH Pと称す) 水溶液 を用い、 SHMP濃度を 0〜2000mg/lの範囲で 7水準に変化させた。
以上の条件にて、 図 1に示す操作 (1 ) から (5 ) までを行い、 各条件でのゼータ電位 をゼータ電位計で測定した。
得られた結果を図 4に示す。 図 4より、 SHMP濃度の増加に従って、 ゼータ電位の絶対値 が増加しているのがわかる。 なお、 分散性溶液としてピロリン酸ナトリゥム水溶液を用い て上記と同様の実験を行ったところ、 図 4と同様の傾向が得られた。
次に、上記と同様に 7水準の SHMP水溶液を分散性溶液とし、析出物等中のチタンを分析 対象として、 図 2に示す操作 (7 ) から (9 ) までを行なった。 得られた結果を図 5に示 す。 図 5において、 チタンの含有率は、 試料の全組成を 100masS%とした場合に対する値で ある。 なお、 操作 (8 ) において、 使用したフィルタの孔径は lOOnmである。
図 5より、 ゼータ電位の絶対値が小さい場合には、 lOOnm以上の大きさの析出物等にお けるチタン含有率が高く、 析出物等の凝集のために、 見掛け上 lOOnm以上の大きさの析出
物等におけるチタン含有率が多くなつているのがわかる。 一方、 ゼータ電位の絶対値が約 30mV以上になると、 lOOnm以上の大きさの析出物等のチタン含有率は変化がなくなり、 析 出物等の大きさ別の分析結果として変動がなくなつている。 このことから、 実質的には絶 対値で 30mV以上のゼータ電位が得られれば分散性が良好であると判断された。 実施例 2
実施例 2では、 本発明の分析方法 (本発明例) と、 非特許文献 1並びに特許文献 3によ る方法 (比較例 1、 2 ) を用いて、 鋼中の析出物等におけるチタン含有率を分析した例を 具体的に説明する。
表 1に示す組成の鋼塊を 3つに切断し、 試料 A、 試料 B、 試料 Cとした。 試料 Aは 1250°C X 60分間加熱してから水冷し、 試料 B、 試料 Cは 1250°C X 60分間加熱してから、 仕上げ温度 950°Cで圧延したのち、 表 2に示す条件で熱処理した。 放冷後、 試料 A、 試料 B、 試料 Cいずれも、 適切な大きさに切断して表面を十分研削し、 それぞれの試料に対し て、 本発明の分析方法 (本発明例)、 非特許文献 1による方法 (比較例 1 )、 特許文献 3に よる方法(比較例 3 )の 3種類の方法を用いて、鋼中の析出物等におけるチタン含有率(表 1の全組成を 100maSS%とした場合に対する値) を分析した。 各分析方法の詳細は以下に示 す通りである。 また、 電子顕微鏡観察によって、 それぞれの試料で確認された析出物等の 大きさの概略を表 2に示す。
表 1
表 2より、 試料 Aは、 通常良く見られる大きさの析出物等が観察された。 試料 B, Cは、 ナノオーダーの微細な析出物等が観察された。 特に、 試料 Bは、 2nm前後と最も微細な析 出物等を有していた。 本発明例 (本発明の分析方法)
まず、 約 300mlの 10%M系電解液を用いて、 あらかじめ天秤で重量を測定した前記鉄鋼 試料を陽極として約 0. 5 gを定電位電解した。
次いで、 通電完了後、 試料を電解液中から静かに引き上げて取り出し、 約 100mlの SHMP 水溶液 (濃度 500mg/l) を入れた別の容器に移し変え、 超音波振動を与えて試料表面に付 着した析出物等を容器中で剥離し当該 SHMP水溶液中に抽出した。 試料表面が金属光沢を 呈したら超音波振動を停止し、試料を容器から取り出して 500mg/lの SHMP水溶液と純水で 洗浄してから乾燥した。 乾燥後、 天秤で試料重量を測定して、 電解前の試料重量から差し 引いて電解重量を計算した。
さらに、 容器中に析出物等を分散した溶液を孔径 lOOnmのフィルタで吸引ろ過して、 残 渣をフィルタ上に捕集した。 さらに、 残渣をフィルタとともに硝酸、 過塩素酸並びに硫酸 の混合溶液で加熱溶解して溶液化したのち、 ICP発光分光分析装置で分析して残渣中のチ タン絶対量を測定した。前記残渣中のチタン絶対量を前記電解重量で除して、大きさ lOOnm 以上の析出物等におけるチタン含有率を得た。
次に前記孔径 lOOranのフィルタを通過したろ液を、 80でのホットプレート上で加温した。 乾燥残留物を硝酸、過塩素酸並びに硫酸の混合溶液で加熱溶解して溶液化したのち、 ICP 発光分光分析装置で分析してろ液中のチタンの絶対量を測定した。 前記ろ液中のチタン絶 対量を前記電解重量で除して、大きさ lOOnm未満の析出物等におけるチタン含有率を得た。 比較例 1 (非特許文献 1による方法)
図 2の (7 ) から (9 ) の手順に従った。 まず、 約 300mlの 10%M系電解液を用いて、 あらかじめ天秤で重量を測定した前記鉄鋼試料を陽極として約 0. 5gを定電位電解した。 通電完了後、 試料を電解液中から静かに引き上げて取り出し、 約 100mlのメタノールを
入れた別の容器に移し変え、 超音波振動を与えて試料表面に付着した析出物等を容器中で 剥離し当該メタノール中に抽出した。 試料表面が金属光沢を呈したら超音波振動を停止し、 試料を容器から取り出してメタノールで洗浄してから乾燥した。 乾燥後、 天秤で試料重量 を測定して、 電解前の試料重量から差し引いて電解重量を計算した。
電解液ならびに容器中に析出物等を分散したメタノール溶液を、 孔径 lOOnmのフィルタ で吸引ろ過して、 残渣をフィルタ上に捕集した。 さらに、 残渣をフィルタとともに硝酸、 過塩素酸並びに硫酸の混合溶液で加熱溶解して溶液化したのち、 ICP発光分光分析装置で 分析して残渣中のチタンの絶対量を測定した。 前記残渣中のチタンの絶対量を前記電解重 量で除して、 大きさ lOOnm以上の析出物等におけるチタン含有率を得た。 比較例 3 (特許文献 3による方法)
約 300mlの 10%M系電解液を用いて、 あらかじめ天枰で重量を測定した前記鉄鋼試料を 陽極として約 0. 5gを定電位電解した。
通電完了後、 試料を電解液中から静かに引き上げて取り出し、 約 100mlのメタノールを 入れた別の容器に移し変え、 超音波振動を与えて試料表面に付着した析出物等を容器中で 剥離除去した。 試料表面が金属光沢を呈したら超音波振動を停止し、 試料を容器から取り 出してメタノールで洗浄してから乾燥した。 乾燥後、 天秤で試料重量を測定して、 電解前 の試料重量から差し引いて電解重量を計算した。
電解液ならびに容器中に析出物等を分散したメタノール溶液を、 超音波振動子を具備し たろ過器を用いて、 孔径 lOOnmのフィルタで超音波を付与しながら吸引ろ過して、 残渣を フィルタ上に捕集した。 さらに、 残渣をフィルタとともに硝酸、 過塩素酸並びに硫酸の混 合溶液で加熱溶解して溶液化したのち、 ICP発光分光分析装置で分析して残渣中のチタン の絶対量を測定した。前記残渣中のチタンの絶対量を前記電解重量で除して、大きさ lOOnm 以上の析出物等のチタン含有率を得た。
以上より、 本発明例、 比較例 1、 比較例 2でそれぞれ得られた析出物等におけるチタン 含有率の結果を図 6に示す。 図 6より、 以下のことがわかった。
まず、 各分析方法における大きさ lOOnm以上の析出物等のチタン含有率の結果を比較す
る。 試料 Aでは、 大きさ lOOnm以上の析出物等のチタン含有率はほぼ同等であるが、 これ は試料 Aに微細な析出物等が含まれていないためである。 一方、 試料 B、 試料 Cでは、 比 較例 1及び比較例 2では、 本発明例に比べて大きさ lOOnm以上の析出物等のチタン含有率 が非常に高い。 これは、 比較例 1と 2の条件では、 試料 B、 Cに含まれる微細な析出物等 が抽出後の溶液中で凝集し、 孔径 lOOnmのフィルタで捕集されたために分析値に正の誤差 が表れたためである。
次に、 本発明例での試料 A、 B、 Cにおける大きさ lOOnm以上の析出物等のチタン含有 率の結果を比較する。 本発明例による大きさ lOOnm以上の析出物等のチタン含有率の結果 は、 いずれの試料も同等である。 これは、 大型析出物等が溶銅の凝固時期に形成され、 今 回の実施例のような低温処理では変化しないためである。 すなわち、 本発明法で同一鋼塊 から作製した試料 A、 B、 Cの lOOnm以上の析出物等におけるチタン含有率が等しいのは、 非常に妥当な結果で、 微細な析出物等が混入することなく適切分析できているといえる。 最後に、 本発明例での大きさ lOOnm未満の析出物等のチタン含有率の結果について言及 する。 試料 Cにおいて、 本発明例での析出物等のチタン含有率の合計値 (大きさ lOOnm未 満と lOOnm以上) の結果は、 ほぼ銅中のチタン含有率 (0. 09mass%) に等しい。 つまり、 本発明例では、 ほぼすベてのチタンの析出物等を損失することなく分析できていると考え られる。よって、前記 lOOnm以上の析出物等のチタン含有率の妥当性と合わせて考えると、 本発明例の大きさ lOOnm未満の析出物等のチタン含有率も妥当な結果と言える。
また、試料 Cの孔径 lOOnmのフィルタを通過したろ液を、 さらに孔径 50nmのフィルタで ろ過した。 次いで、 孔径 50nmのフィルタ上に捕集された残渣と孔径 50nmのフィルタを通 過したろ液について、 上述の大きさ lOOnm以上の析出物等のチタン含有率を測定した場合 と同様の方法にてチタン含有率を調べた。その結果、大きさ 50nm未満の析出物等において は 0. 061mass¾、 大きさ 50nm以上 lOOnm未満の析出物等においては 0. 003mass¾であった。 実施例 3
図 2に示す (1 ) から (4 ) の手順に従って粒径分布測定を行なった。
金属試料として炭素鋼を使用し、 その化学成分は、 C: 0. 10mass%、 Si: 0. 2mass%、 Mn:
1. 0mass% P 0. 024mass% S 0. 009mass% Cr: 0. 03mass%, Ti 0. 05mass%である。 そし て、 これらの銅を 20 X 50 X lmmの大きさに切り したものを、 電解用試料として用い た。
電解操作は、 図 3の装置構成にて行い、 電解液として、 500mlの 10%M系電解液を使用 した。 電解量は 1回につき 0· lgずつ行い、 さらに (3 ) から (4 ) を 10回繰り返した。 表層の汚染を除去するための捨て電解を、 最初に 1度だけ電解操作の直前に行なった。 分散性溶液としては、 濃度 500mg/lのへキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用い、 これ を 50mlだけ電解装置とは別のビーカーに準備した。なお、最適なへキサメタリン酸ナトリ ゥム濃度については、事前にゼータ電位計を用いてゼータ電位を測定することで決定した。 事前に行ったへキサメタリン酸ナトリゥム濃度とゼータ電位の関係の例を図 7に示す。 図 7より、本実施例においては、 500mg/lのへキサメタリン酸ナトリゥム水溶液を分散媒とし て用いた場合に、 最もゼータ電位の絶対値が大きくなつたが、 2000mg/lの濃度でも最終的 に得られた粒径は変化がなくなったことから、実質的には絶対値で 30mV以上のゼータ電位 が得られれば分散性が良好であると判断された。
その後、 超音波を印加しながら、 分散性溶液中に磁石棒を入れて攪拌することでセメン タイ ト等を除去した。 さらに、 この除去後の分散性溶液を、超音波を印加レながら孔径 0. 4 m のフィルタでろ過することで分析対象外である析出物等を除去した。 こうして得られ たろ液 (析出物等を含んだ分散性溶液) から、 動的光散乱方式の粒径分布測定装置を用い て、 分散性溶液中の析出物等の粒径分布を測定した。 得られた結果を図 8に示す。
また、 比較例として、 析出物等をメタノール中及び純水中に回収した後、 粒径分布を計 測した結果を同じく図 8に示す。 メタノール中での析出物等のゼータ電位は、 設備の都合 上、 計測不能であったが、 純水の場合は- l lmVであった。
図 8より、 分散性溶液として 500mg/lのへキサメタリン酸ナトリゥム水溶液を用いた場 合の析出物等に対する粒径分布の結果'は、 電解後表面に付着した析出物等を電子顕微鏡で 直接観察した場合の結果とも一致した。 これより、 析出物等を凝集させることなく液中に 保持でき,ていることを示している。 すなわち、 本発明法によれば、 従来、 液中の凝集を回 避することが難しかつた微細な析出物等を、分散させた状態で抽出することができるため、
鋼中の析出物等の状態を正確に評価することが可能である 実施例 4
以下実施例に基づき表 3に示した鉄鋼材料中のチタン析出物等及びマンガン析出物等を 分析した例を挙げて具体的に説明する。
表 3
本発明例では、 試料中に含有する元素として鉄を、 試料中に含有せず意図的に添加する 元素としてロジウムを標識元素に用いた事例を示す。
電解液としては約 300mlの 10%M系電解液 (10vol%ァセチルァセトン- lmass%塩化テト ラメチルアンモニゥム-メタノール) を使用した。電解液中にロジウムァセチルァセトナー ト 2 0 m gを添加して十分攪拌し、 この電解液中で前記鉄鋼試料を約 0. 5 g定電位電解す る。電解終了後、表面に残渣の付着した試料を電解液から取り出してから、約 100mlの SHMP 水溶液 (濃度 500mg/l) を入れた別の容器に移し変え、 超音波振動を与えて試料表面に付 着した析出物等を容器中で剥離し当該 SHMP水溶液中に抽出した。試料表面が金属光沢を呈 したら超音波振動を停止し、試料を容器から取り出して 500mg/lの SHMP水溶液と純水で洗 浄してから乾燥した。 乾燥後、 天秤で試料重量を測定して、 電解前の試料重量から差し引 いて電解重量 Mを計算した。 さらに、 前記析出物等を剥離した SHMP 水溶液を孔径 lOOnm のフィルタに通液してろ液を回収した。前記ろ液を乾燥した後、硝酸等で加熱溶解して ICP 発光分光分析装置又は ICP質量分析装置で分析し、 着目元素としてのチタン量(XTi)とマ ンガン量(XMn)、 標識元素としての鉄量(XFe)及びロジウム量(XRh)をそれぞれ求めた。 また、 電解後の電解液から約 l mlを採取し乾固させてから、 残留物を硝酸で加熱溶解し たのち I C P質量分析装置で測定して、 溶液中のチタン量(C Ti)、 マンガン量(CMn)、 鉄 量(C Fe)及びロジウム量(C Rh)を求めた。
以上の結果を①式に代入して、 標識元素として鉄を用いた場合とロジウムを用いた場合 の lOOnm未満のチタン析出物等とマンガン析出物等の鋼中含有率 (WTi、WMn)を算出した。 比較例
電解液としては約 300mlの 10%AA系電解液 (10vol%ァセチルァセトン _lmass%塩化テト ラメチルアンモニゥム-メタノール) を使用した。 この電解液中で前記鉄銅試料を約 0. 5 g 定電位電解する。 電解終了後、 表面に残渣の付着した試料を電解液から取り出してから、 約 100mlの SHMP水溶液 (濃度 500mg/l) を入れた別の容器に移し変え、 超音波振動を与え て試料表面に付着した析出物等を容器中で剥離し当該 SHMP水溶液中に抽出した。試料表面 が金属光沢を呈したら超音波振動を停止し、 試料を容器から取り出して 500mg/l の SHMP 水溶液と純水で洗浄してから乾燥した。 乾燥後、 天秤で試料重量を測定して、 電解前の試 料重量から差し引いて電解重量 Mを計算した。 さらに、前記析出物等を剥離した SHMP水溶 液を孔径 lOOnmのフィルタに通してろ液を回収した。 前記ろ液を乾燥した後、 硝酸等で加 熱溶解して ICP発光分光分析装置又は ICP質量分析装置で分析し、 着目元素としてのチタ ン量(XTi)とマンガン量(XMn)を求めた。 以上の結果を次式に代入して lOOnm未満のチタ ン析出物等とマンガン析出物等の鋼中含有率 (WTi、 WMn)を算出した。
WTi = XTi/M
WMn= XMn/M
本発明例 (標識元素として鉄あるいはロジウム) と比較例それぞれ測定された lOOnm未 満のチタン析出物等とマンガン析出物等の含有率を表 4に示す。 チタン析出物等の結果で は各手法間で分析値にほとんど差が認められないのに対し、 マンガン析出物等の結果では 比較例の結果が発明例と比較して高い値を示している。 鋼中に含有するマンガンのほとん どがマトリクスの鉄中に固溶しているので、 電解後に電解液中に溶出するマンガン量が非 常に多くなる。 そのため、 試料に付着し持ち込まれた電解液中のマンガンは、 最終的にろ 液中に混入してマンガン析出物等の分析結果に正の誤差を与える。 比較例のマンガン析出 物等の分析結果が高値を示したのは前記正誤差が原因であり、 発明例では標識元素によつ て前記混入マンガンを控除補正しているため、 正誤差が取り除かれた正確な分析結果が導
かれた。 ただし、 試料中に含有する元素である鉄を標識元素とした場合には、 標識元素を 添加する必要がない点で簡便であるが、 セメンタイ トのような標識元素で形成された析出 物等がろ液中に存在することがあるため、 控除補正が過度になり分析結果がやや低値にな つた。 チタン析出物等の場合には、 いずれの手法でも分析結果に差が認められないのは、 鋼中に含有するチタンの多くが析出物等を形成つまり相対的に電解液中のチタンが少ない ので、 控除補正の効果が現れないためである。
以上から、 本発明法による分析結果の正確性が示された。 表 4