JP5223665B2 - 金属材料中の析出物及び/又は介在物の分析方法 - Google Patents

金属材料中の析出物及び/又は介在物の分析方法 Download PDF

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Description

本発明は、金属試料中の析出物及び/又は介在物の、例えば、組成や粒径分布等を、正確に分析するための分析方法に関するものである。
金属試料中に存在する析出物及び/又は介在物(以下、析出物等と称する場合がある)は、その形態、大きさ、ならびに分布によっては材料の諸特性、例えば、疲労的性質、熱間及び冷間加工性、深絞り性、被削性、耐熱性あるいは電磁気的性質などに著しい影響を及ぼす。鉄鋼を例に説明すると、特に近年は、微細な析出物等を利用して鉄鋼製品の特性を向上させる技術が著しく発展し、それに伴って製造工程における析出物等の制御が厳格化してきた。
鋼中に含まれる析出物については、様々な大きさや組成のものがあるが、鋼板の特性を向上させるもの、反対に特性を低下させるもの、あるいは特性に寄与しないものに分類することができる。そのため、優れた鋼板を製造するためには、有益な析出物等を安定的に生成させ、有害あるいは無関係な析出物等の生成を抑制することが重要となる。
一般に、鋼板の特性に対して析出物等がもたらす利害は析出物等の大きさと密接に関係し、同じ量であれば微細で数が多い析出物等ほど鋼板の特性に影響を与える。最近では、ナノ・サブナノサイズの析出物等で高強度化された鋼板も開発されている。そのため、サブミクロンからナノサイズまでの領域で、大きさ別の析出物等の量やその組成を把握することが、鋼板の成分設計や製造条件の最適化において重要といえる。
これに対して、鉄鋼材料中の析出物等を分離して定量する技術は、古くから析出物等を総量で評価することを基本として発展し開示されてきた。
非特許文献1には、酸分解法、ハロゲン法、電解法などを挙げ、特に析出物等を対象とする場合には電解法が優れていることが示されている。しかし、非特許文献1に示されている電解法は、液体中の析出物等を凝集させてろ過回収すること、つまり析出物等の総量を分析することを主眼としているため、析出物等の大きさについての情報を得ることはできない。すなわち、析出物の大きさとは無関係に、総量が等しい場合には同じ定量結果が得られることになる。さらに、非特許文献1の方法では、非常に小さな析出物等を含有する材料においては、凝集効果が十分に作用せず一部の析出物等がフィルタの孔から漏れ落ちるために、総量評価法としての定量値にも問題がある。
特許文献1には、鉄鋼材料中の非金属介在物を化学的に分離して、大きさ別に分析する方法として、電解液槽中の鉄鋼試料をポリテトラフルオロエチレン製の網に収納して特定の大きさ以上の析出物等を分離回収する方法が開示されている。
また、特許文献2には、液体中に分離した析出物等に超音波を付与しながらろ過することで、析出物等の凝集を防止して分離する技術が開示されている。
基本的に粒径が小さくなるほど液体中で析出物等は凝集する傾向があるため、特許文献1に記載された方法では、析出物等の粒径によっては液中で凝集が起こり、フィルタの孔径より小さい析出物等も捕集されることになる。そのため、大きさ別の分析結果が不正確なものとなることは明らかである。そして、特許文献1が対象としている大きさ50μmから1000μmの介在物の場合は特に問題とならないが、本発明において最も注目したいサブミクロンからナノサイズの領域(特に、鋼の特性制御の点からは大きさ1μm以下、より望ましくは大きさ200nm以下)での析出物等の場合は、液体中で容易に凝集してしまう場合がほとんどであり、微細な析出物量の評価という観点からは、特許文献1に示される方法は実用に適さない。
特許文献2においても、特許文献1と同様に、凝集乖離が容易な1μm以上の粗大析出物等を対象としており、一般に篩い分けの下限が0.5μmと示されている(非特許文献2参照)ように、サブミクロンからナノサイズの領域の析出物等に適用するのは困難である。
特許文献3には、孔径1μm以下の有機質フィルタで超音波振動によるろ過によって1μm以下の析出物等を分離する技術が開示されている。しかし、特許文献1や2と同様、超音波による1μm以下の微細析出物等の凝集乖離は不可能である。
非特許文献3には、銅合金中の析出物等を分離して、孔径の異なるフィルタによって2回ろ過して、析出物等を大きさ別に分ける技術が開示されている。しかし、前記凝集に関する問題が解決されておらず、フィルタの孔径より小さい析出物等が捕集されて、大きさ別分析結果に誤差を与えている。
特開昭59-141035号公報 特公昭56-10083号公報 特開昭58-119383号公報 日本鉄鋼協会 「鉄鋼便覧第四版(CD-ROM)」第四巻 2編 3.5 アグネ 「最新の鉄鋼状態分析」58頁 1979 日本金属学会 「まてりあ」第45巻 第1号 52頁 2006
以上のように、従来技術においては、凝集等の問題があり、サブミクロンからナノサイズの領域(特に、大きさ1μm以下、より望ましくは大きさ200nm以下)での析出物等について、大きさ別の分析を実用的にかつ正確に行う技術はない。
本発明は、かかる事情に鑑みなされたもので、金属試料中に存在する析出物等(特に、大きさ1μm以下)を損失すること無く分離し、析出物等の大きさ別の分析を精度良く行う分析方法を提供する。
以下に、本発明を完成するに至った経緯について説明する。なお、本発明において、析出物及び/又は介在物を、まとめて析出物等と称する場合がある。
図6に示した非特許文献1に開示される電解抽出法は、鉄マトリクスを溶解することで、鋼中析出物等を安定的に分離することができる方法であり、析出物等を分離分析する標準的な方法(以下、標準法と称す)とみなされている。そして、前述した特許文献1〜3と非特許文献2〜3は、この標準法に基づいている。しかし、標準法をはじめとする従来の方法では、上述したように粒子の凝集に基づくさまざまな問題がある。そこで、本発明者らは、従来の標準法にとらわれない方法を発明すべく、鋭意研究を行った。以下に、得られた知見を示す。
まず、上述の従来の方法の問題点を整理すると、析出物等の分散媒として析出物等の分散性の低いメタノールを用いるという根本的な問題点があげられる。そして、これにより、特に微細な析出物の大きさ別分析を妨げていたものと推測される。つまり、特許文献1〜3と非特許文献1〜3は、析出物等に対し分散性の低いメタノールを分散媒としているため、超音波などの物理的作用を与えたとしても、大きさ1μm以下の析出物等は比較的短時間で凝集してしまい、大きさ別に分別するのが極めて困難であったと考えられる。
そこで、凝集の問題を解決するために、液中における析出物等の凝集・分散制御に着目した。そうしたところ、水溶液系分散媒(以下、分散性溶液と称する場合もある)を適用し、粒子表面における電荷状態を制御することで、大きさ1μm以下の析出物等も含めて析出物等に対して分散性を付与できることを見出した。
しかしながら、ここで、電解液(特に鉄鋼分野で多用される、キレート剤と支持電解質と有機溶媒を混合した非水溶媒系電解液の場合)の主成分は分散性の低いメタノールであるので、析出物等に分散性を付与するためには、析出物等を分散性溶液へ移す必要がある。そして、その為には、析出物等と電解液とを分離させる固液分離操作が必要となる。
上記課題に対しては、既に、本発明者らは、電解後試料の表面にほぼ全ての析出物等が付着していることを見出し、例えば残試料をそのまま分散性溶液中に浸漬させることで析出物等を回収することが可能である知見を得ている。
しかしながら、更に研究を進めたところ、例えばステンレス鋼などの場合には、析出物等の一部が電解液中に脱落していることが判明した。従って、金属試料中に存在する析出物等(特に、大きさ1μm以下)を損失せずに分離し析出物等の大きさ別の分析を精度良く行うためには、電解後の試料残部に付着した析出物等を直接分散性溶液中に回収する以外に、電解液中に脱落した析出物を回収する必要がある。しかしながら、これらの析出物等が微細なものを含む場合には、回収するのが難しい。
さらに、電解後の試料残部を直接分散性溶液に浸漬した場合、試料残部に付着した電解液も分散性溶液に取り込まれることになり、その結果、電解液に含まれた金属試料中の固溶成分が、析出物等の分析結果に、正の誤差を与えることになる。
これらの課題を解決するために、さらなる研究の結果、多くの析出物等は液中で一度凝集しても、分散性溶液中に浸漬させることで分散性溶液中で凝集が解けて分散した状態になることを見出した。そして、この知見をもとに、電解液中に脱落した析出物を回収しさらに試料残部に付着した電解液を排除する手法として、以下の分析手順に想到した。
(あ)電解液中に脱落した析出物等や試料残部に付着した析出物等を、析出物等に対して分散性を持たない溶液を用いてある程度凝集させる。
(い)ある程度凝集した析出物等をろ過操作により固液分離して全量回収する、
(う)別途準備した分散性溶液を用いて、分散性溶液中に析出物等を分離・回収する
この分析手順は、本発明において、最も重要な要件であり、特徴である。
そして、上記分析を行うにあたっての基本的な技術思想は、以下の通りである。
まず微細な析出物等をある程度凝集させることで、捕集用フィルタで析出物等を確実に全量回収した後、改めて分散性溶液中に析出物等を分離し分散させた状態で回収する。さらに、捕集用フィルタで析出物等を回収する際には、電解液は液体のため分散性溶液中に残るので、電解液とも分離する。このような工程を経ることで、析出物等(特に、大きさ1μm以下)を損失なく回収し、大きさ別の分析を精度良く行うことが可能となる。
本発明は、以上の知見に基づきなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
[1]金属試料を電解する電解ステップと、前記電解後の金属試料の残部に付着した析出物及び/又は介在物、および前記電解後電解液中に含まれる析出物及び/又は介在物の両方をろ過捕集するろ過ステップと、前記ろ過捕集された析出物及び/又は介在物を、分散性を有する溶液に浸漬し、前記分散性溶液中に分離する分離ステップと、前記分散溶液中に分離した析出物及び/又は介在物を分析する分析ステップとを有することを特徴とする金属材料中の析出物及び/又は介在物の分析方法。
[2]前記[1]において、前記ろ過ステップは下記A)とB)の2つのステップを有し、前記分離ステップは、捕集用フィルタA及び捕集用フィルタBを分散性を有する溶液に浸漬し、捕集用フィルタA上及び捕集用フィルタB上に捕集された析出物及び/又は介在物を前記分散性溶液中に分離することを特徴とする金属材料中の析出物及び/又は介在物の分析方法。
A)前記電解後の金属試料の残部に付着した析出物及び/又は介在物を、捕集用溶液に浸漬して前記捕集用溶液中に分離し、次いで、前記析出物及び/又は介在物を含んだ前記捕集用溶液を捕集用フィルタAでろ過するろ過ステップA
B)前記電解後の電解液を捕集用フィルタBでろ過するろ過ステップB
ただし、捕集用フィルタAと捕集用フィルタBは、同一または非同一である。
[3]前記[1]または[2]において、分離ステップにおける前記分散性を有する溶液の、分析対象の析出物及び/又は介在物に対するゼータ電位の絶対値が、30mV以上であることを特徴とする金属材料中の析出物及び/又は介在物の分析方法。
[4]前記[1]〜[3]のいずれかにおいて、前記分析ステップでは、大きさが1μm以下の析出物及び/又は介在物を分析することを特徴とする金属材料中の析出物及び/又は介在物の分析方法。
[5]前記[1]〜[4]のいずれかにおいて、前記分析ステップは、分離ステップにおいて前記分散性を有する溶液中に分離された析出物及び/又は介在物を1以上の分別用フィルタにより1回以上ろ過する分別操作と、前記各分別用フィルタにより捕集された析出物及び/又は介在物、ろ液中に回収された析出物及び/又は介在物のうちの少なくとも1以上を分析する分析操作とを有することを特徴とする金属材料中の析出物及び/又は介在物の分析方法。
[6]前記[1]〜[5]のいずれかにおいて、分離ステップにおける前記分散性を有する溶液は、ゼータ電位の値を指標として種類及び/又は濃度が決定されることを特徴とする金属材料中の析出物及び/又は介在物の分析方法。
本発明によれば、金属試料中に存在する析出物等(特に、大きさ1μm以下、さらに望ましくは大きさ200nm以下)を損失すること無く分離し、析出物等の大きさ別の分析を精度良く行うことができる。
そして、本発明の分析方法では、金属試料中の析出物等(特に、大きさ1μm以下、さらに望ましくは大きさ200nm以下)を、分散性を有する溶液中に分離するので、分離した溶液中での析出物等の凝集を防ぎ、析出物等を金属試料中そのままの状態で分離することができる。
また、分離用の分散性溶液を任意に選択することができるので、析出物等に適した分散性溶液を用いることができる。
これらにより、析出物等の大きさ別の分析を精度良く行う事が可能となり、従来不可能であった大きさ別の定量や正確な粒径分布が得られるなど、産業上有益な発明となりうる。特に電解中に析出物等が電解液中に脱落する可能性がある材料を分析対象とした場合に、本発明は好適であり、最大限の効果が発揮される。
以下、本発明の金属材料中の析出物等分析方法について、詳細に説明する。
本発明の金属材料中の析出物等分析方法は、金属試料を電解する電解ステップと、前記電解後の金属試料の残部に付着した析出物及び/又は介在物、および前記電解後電解液中に含まれる析出物及び/又は介在物のいずれもろ過捕集するろ過ステップと、前記ろ過捕集された析出物及び/又は介在物を、分散性を有する溶液に浸漬し、前記分散性溶液中に分離する分離ステップと、前記分散溶液中に分離された析出物及び/又は介在物を分析する分析ステップとを有することを特徴とする。
そこで、上記操作手順を、本発明の一実施形態として、分散性溶液を最適化するまでと、分散性溶液を用いて鉄鋼試料中の析出物等を大きさ別に分けて定量するまでに分けて説明する。分散性溶液を最適化する場合の操作フローを図1に、鉄鋼試料中の析出物等を大きさ別に分けて定量する場合の操作フローを図2に、それぞれ示す。
まず、図1において、分散性溶液条件を最適化する操作手順として(1)から(9)までが示される。図1によれば、
(1)初めに、鋼材を適当な大きさに加工して、電解用試料とする。
(2)一方、電解液とは異なりかつ分散性を有する分散性溶液を、析出物等の分離用として当該電解液とは別に準備する。ここで、析出物等を分散性溶液中に分散させるには、電解液の半分以下の液量で充分である。分散性溶液の分散剤については、後述する。
(3)試料を所定量だけ電解する。なお、所定量とは、適宜設定されるものであり、その一例として、図1においては、ゼータ電位装置(又は(9)にて後述する元素分析)に供する場合に測定可能な程度とする。
図3は、電解法にて用いられる電解装置の一例である。電解装置7は、電解用試料の固定用治具2、電極3、電解液6、電解液6を入れる為のビーカー4、及び電流を供給する定電流電源5を備えている。固定用治具2は定電流電源5の陽極に、電極3は定電流電源5の陰極に接続されている。電解用試料1は、固定用治具2に接続されて電解液6中に保持される。電極3は、電解液6に浸漬されると共に、電解用試料の表面(主として電解液6に浸漬している部分)を覆うように配置される。固定用治具2には、永久磁石を用いるのが、最も簡便である。但し、そのままでは電解液6に接触して溶解してしまうので、電解液6と接触しやすい箇所、図3の場合は電解用試料1との間にある2aに白金板を使用しても良い。電極3も同様に、電解液6による溶解を防ぐために、白金板を用いる。電解用試料1の電解は、定電流電源5より電極3へ電荷を供給することで行う。鋼の電解量はこの電荷量に比例するので、電流量を決めれば、電解量は時間で決定できる。
電解液中に溶出した元素は電解液中のキレート剤と錯体を形成するため、溶媒であるメタノールの蒸発によって得られる物質は、容易に水溶液化が可能であるという利点がある。そのため、非水溶媒系電解液(キレート剤+支持電解質+有機溶媒)に用いるキレート剤としては、アセチルアセトン、無水マレイン酸、トリエタノールアミン、サリチル酸メチル及びサリチル酸が挙げられる。また、支持電解質としては、テトラメチルアンモニウムクロライドや塩化リチウムなどが好適である。なお、析出物等の種類によっては化学的に不安定で電解液に溶解する場合があるので、使用する電解液については注意が必要である。具体的には、析出物種の電解液に対する溶解性を確認したうえで、適切な電解液を選択する必要がある。今回の検討においては、従来、Ca系の析出物等を安定的に抽出分離できる非水溶媒系電解液として利用されているサリチル酸メチル系の電解液(4体積/体積%サリチル酸メチル-1質量/体積%サリチル酸-1質量/体積%テトラメチルアンモニウムクロライド-メタノール溶液)が好適に利用できた。但し、析出物等の溶解性について、電解液の種類との間に明確な関係は得られていないため着目する析出物等の種類に応じて調査をする必要がある。
なお、電解を行う際の諸条件については、特に限定されず、キレート剤の着目成分に対する錯形成能や着目成分を含む析出物等の安定性等によって、適宜設計される。
(4)電解(溶解)されずに残った電解用試料片を電解装置から取り外し、メタノール等の捕集用溶液の中に浸漬して析出物等を分離する。ここで、捕集用溶液に浸漬したまま超音波を照射することが好ましい。超音波を照射することで試料表面に付着している析出物等を剥離して、より効率よく溶媒中に分離することができる。
なお、ここで用いる捕集用溶液としては、析出物等が上記浸漬において溶解しないことに加えて、次工程であるろ過捕集時に適度に析出物等が凝集し、粘度が極端に大きくないものが適している。上記特性を満たせば捕集用溶液は種類は問わないが、特に問題がない場合には、メタノールを用いることが出来る。
ろ過捕集時に析出物等を適度に凝集させるのは、ろ過捕集時に微細な析出物等がろ過漏れするのを防ぐためである。一方、粘度が大きすぎる場合にはろ過操作に多大な時間を要するので好ましくない。また、強固な凝集をさせると後工程において分散性溶液中に析出物等を分離・回収する際に分散しない状態となるため、注意が必要である。用いる溶媒が水溶液であればゼータ電位を指標として分散性を制御することができる。有機溶媒の場合には、析出物等との相互作用を数値化することは難しいが、場合によっては親水性、疎水性の程度や、接触角を評価することで適切な凝集状態を判別することが可能となる。また、析出物等を含んだろ過操作前の溶液に、市販されているAuコロイド水溶液などをトレーサーとして入れておくことで、微細な粒子がろ過漏れしているかどうかを間接的に確認することが可能である。
次に、表面から析出物等を剥離した試料を溶液中から取り出す。なお、取り出しの際は、析出物等を分離した溶液と同一の溶液で試料を洗浄することが好ましい。
(5)一方、電解後の電解液については、このまま捕集用フィルタBでろ過操作を行う。この(5)のステップは、電解中に試料表面から脱落した析出物等を捕集するための操作であり、(5)のステップで脱落した析出物等を捕集することで損失を防ぎ正確な分析が行える。
通常、電解操作には数百mlの電解液を用いるので、全量をろ過するのは時間を要する。捕集用フィルタBとして、孔径の大きいフィルタを用いればろ過に要する時間は短くできるが、ろ過漏れの懸念が大きくなる。時間とろ過漏れ防止の両者を満足するには、孔径が小さく、且つ、開口率の大きいフィルタが好ましい。各種のフィルタを調査した結果、捕集用フィルタBとしては、アルミナフィルタが極めて高い透過特性を有しており、好適に利用できることが分かった。アルミナフィルタが好適に利用できる理由としては、孔径が小さいにも関わらず、高い空隙率を有しているためであると考えられる。すなわち、他のフィルタと比較して極めて短時間でろ過操作を行なえるため、化学的に不安定な析出物等を電解液に溶解させることなく捕集することができる。また、後の工程で析出物等を大きさ別に分別するため、捕集した析出物等は、分散性溶液中に分散させる必要がある。よって、析出物等が強固にフィルタに付着しないことも重要な要素である。アルミナフィルタはこの観点からも好ましい事が、実験の結果、確認された。
なお、今回のケースでは電解液の主成分であるメタノール中において析出物等が適度な凝集体を形成することが確認できたため、電解液をそのままろ過することで析出物等の全量回収ができ、次工程でも分散性溶液中で分散状態とすることが可能であった。
(6)続いて、(4)で捕集用溶液(メタノール)中に分離した析出物等を捕集用フィルタAでろ過捕集する。捕集用フィルタAについても、ろ過漏れせずに、ろ過に要する時間を短くできるものが好ましい。この点で、捕集用フィルタAとしては、捕集用フィルタBと同様に、アルミナフィルタが好適に利用できる。
操作や使用する器具については(5)と同様で構わないし、(5)のろ過捕集操作に続いて、同一のフィルタ(すなわち、捕集用フィルタAと捕集用フィルタBは同一)を用いてろ過することもできる。同一の捕集用フィルタを用いる場合、電解液と析出物等を含んだ捕集用溶液(メタノール)のどちらを先にろ過しても構わないが、一般的には試料に付着した析出物等の量が圧倒的に多いため、先にろ過すると目詰まり効果も加わり、大量の電解液をろ過するのに多大な時間を要するため、先に電解液を次いで析出物等を含んだ捕集用溶液(メタノール)をろ過するのが望ましい手順である。
以上の操作により、電解により鋼中から分離された析出物等の全量を捕集することができる。
なお、ろ過前の電解後電解液および捕集用溶液(メタノール)のそれぞれに一定量のAuコロイド溶液等をトレーサーとして添加し、捕集時に微細な粒子のろ過漏れが発生していないことを確認することもできる。
(7)(1)〜(6)の操作で得られた析出物等を、上記(2)で準備した分散性溶液中に浸漬して、分散性溶液中に分離する。すなわち、捕集用フィルタA及び捕集用フィルタBを分散性を有する溶液に浸漬し、捕集用フィルタA上及び捕集用フィルタB上に捕集された析出物及び/又は介在物を前記分散性溶液中に分離する。
ここで、捕集した析出物等を捕集用フィルタごと分散性溶液中に浸漬したまま超音波を照射することが好ましい。超音波を照射することで捕集用フィルタ(A及びB)上に捕集された析出物等を剥離して、分散性溶液中に分離することができる。本発明においては、分離した析出物等が分散性溶液中で凝集していないことが重要であることから、分散性溶液への回収については試料に応じて最適化することが望ましい。具体的には、分散性溶液の種類と濃度、回収する析出物等の量とのバランス、超音波照射の方法や時間などが挙げられる。
次に、析出物等を剥離した捕集用フィルタ(A及びB)を分散性溶液から取り出す。なお、取り出しの際は、分散性溶液と同一の溶液で捕集用フィルタ(A及びB)を洗浄することが好ましい。
(8)上記(7)で作製した、析出物等を含んだ分散性溶液のゼータ電位を計測する。
(9)上記(8)で計測したゼータ電位の絶対値が30mVに満たない場合には、分散剤の種類及び/又は濃度をかえて上記(2)から(6)までを繰り返す。一方、ゼータ電位が30mV以上に達した場合には、その時の分散剤と濃度を、対象析出物等に対する分散性溶液の最適条件と決定し、操作を終了する。なお、図1においては、ゼータ電位を測定し、ゼータ電位が30mV以上に達した場合に、その時の分散剤と濃度を、対象析出物等に対する分散性溶液の最適条件と決定したが、本発明においては、析出物及び/又は介在物が分散性溶液中に回収された際にほとんど凝集することなく十分に分散していればよく、分散性溶液を選択・決定するための手段として、ゼータ電位測定に限定されるものではない。なお、詳細は後述する。
次いで、図2において、分散性溶液を用いて鉄鋼試料中の析出物等を大きさ別に分けて定量する操作手順として(10)から(12)までが示される。図2によれば、
(10)新たに図1の上記(1)から(7)までと同様の操作を行い、図1の(1)から(9)で決定し最適化された分散性溶液に、実際に分析対象とする析出物等を分離する。
(11)析出物等を大きさ別に分ける事を目的として、析出物等を含む分散性溶液を1つ以上の分別用フィルタでろ過して、フィルタ上に捕集された残渣とろ液をそれぞれ回収する。析出物等を(n+1)区分の大きさに分別する場合には、孔径の大きいフィルタからろ過を行い、孔径の大きいフィルタでのろ液を小さいフィルタでろ過する操作を順次n回行なって、それぞれのフィルタ上に捕集された残渣とn回目のろ液を回収する。なお、分別用フィルタとしては、目詰まりせずに析出物等の大きさに応じた分別が行えればよく、特に限定しない。但し、確実に分別するためには、分別用フィルタの空隙率が4%以上であり、かつフィルタ孔には直孔を有するフィルタを分別用フィルタとして選ぶことが好ましい。これは、空隙率が4%未満だと、粗大粒子や凝集粒子による孔の閉塞が起こりやすくなり、フィルタ孔が直孔でないと、析出物等の大きさ別の分離分解能が低下しやすくなるためである。なおここで、直孔とは、一定の開口形状でフィルタ面を貫通しているフィルタ孔のことをいう。また、空隙率の算出方法としては、一例として次式(1)のようなものがある。
空隙率=(フィルタ体積-フィルタ重量/比重)/フィルタ体積×100(%)・・・式(1)
また、前記工程(5)、(6)における捕集用フィルタと、工程(11)における分別用フィルタは、それぞれの工程における目的を満足できるものであれば、同一種のフィルタで構わない。
(12)以上の操作で得られた分別用フィルタ上の捕集残渣及びろ液をそれぞれ酸溶解し、次いで、元素分析を行い、析出物等の大きさ別における元素の析出量を計算する。
図1及び図2に示す以上の方法により、析出物等の大きさ別の組成に関する分析結果が得られる。そして、この得られた分析結果をもとに鋼材の諸性質に関する知見が得られ、不良品発生の原因解明や新材料の開発等に有益な情報が得られる。
本発明は、様々な種類の鋼中析出物等の分析に適用することができ、特に、大きさ1μm以下の析出物等を多く含んだ鉄鋼材料に対して好適であり、大きさ200nm以下の析出物等を多く含んだ鉄鋼材料に対してさらに好適である。特に電解中に析出物等が電解液中に脱落する可能性がある材料(例えばステンレス鋼等)を分析対象とした場合に、金属試料中に存在する析出物等(特に、大きさ1μm以下)を損失すること無く分離し、析出物等の大きさ別の分析を精度良く行うことができる。
なお、ここで、上記(2)における分散性溶液について、補足する。大きさ1μm以下(特に200nm以下)のオーダーの微細な析出物等については、上述したように、現在、公知技術として、溶液中に凝集させずに分離する明確な方法は無い。そのため、例えば粒径が1μm以上の粒子等に実際に使用されている分散剤を水溶液化した物を順番に試すことで分散性溶液についての知見を得ようと試みた。その結果、分散剤の種類と濃度については、析出物等の組成や粒径、液中の析出物等の密度等との間に明確な相関は得られなかった。例えば、水溶液系の分散剤としては、酒石酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、正リン酸カリウム、ポリリン酸ナトリウム、ポリメタリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウムなどが好適であるが、適切な濃度を超えた添加は析出物等の分散に逆効果であるという知見が得られた。
以上より、本発明において、分散性溶液は、析出物及び/又は介在物が当該溶液中にあるときに、凝集することなく分散していればよく、特に限定しない。そして、分散性溶液を決定するにあたっては、析出物等の性状や密度、あるいはその後の分析手法に応じて分散性溶液の種類や濃度を適宜最適化することとする。
ここで、分散性溶液についてさらに検討する中で、分散性溶液の溶媒が水の場合には、析出物等の表面電荷と分散性には密接な相関があるため、例えば、ゼータ電位計などを利用して析出物等表面の電荷状態を把握すると、最適な分散性溶液の条件(分散剤の種類や適切な添加濃度等)を確定することができることがわかった。つまり、析出物等が小さくなるほど、液中での凝集が起こりやすくなるため、適切な分散剤を適切な濃度で添加することで、析出物等表面に電荷が付与され互いに反発して凝集が防止されると考えられる。
この結果より、分散性溶液の種類・濃度の決定に際して、ゼータ電位の値を指標として用いることは、簡便な方法でありながら、確実に最適な分散性溶液の条件(分散剤の種類や適切な添加濃度等)を確定することができるという点から望ましいと思われる。
そして、開発者らは検討を重ねた結果、ゼータ電位の場合は、析出物等を分散させる観点からはその絶対値が大きければ大きいほど好ましいことが分かった。さらに析出物等の分析においては、概ね絶対値で30mV程度以上の値が得られれば、凝集が防止でき、正確な分析が行なえることがわかった。
以上より、析出物等の分離用の分散性溶液の種類や濃度を決定するに際しては、ゼータ電位の値を指標として用いることが好ましく、分散性を有する溶液は、分析対象である析出物及び/又は介在物に対するゼータ電位の絶対値が30mV以上であることが好ましい。
また、上記(11)のフィルタによる分別に代えて、電気泳動法や遠心分離法等の他の分別方法を用いて、析出物等を大きさ別に分けた後に、それぞれの析出物等を分析することもできる。また、上記(10)で得られた析出物等を含んだ分散性溶液を、直接分析に供しても良い。例えば、上記(10)で得られた分散性溶液に動的光散乱法やX線小角散乱法を用いることにより、析出物等の粒度分布が得られる。
また、上記(12)の元素分析及び定量分析に代えて、各フィルタ上の捕集残渣をX線回折法で測定する事により、存在する析出物等種の同定・定性分析を粒度別に行なうことも可能である。また、フィルタ上の捕集残渣をそのまま、SEM、TEM、EPMA、XPSなどの機器分析装置に投入して、析出物等の形状の観察や表面分析などを行っても良い。さらに、フィルタを通過させた後のろ液側を、動的光散乱法や小角散乱法で測定し、フィルタにより分別した後の大きさを求めることも可能である。
なお、上記では、本発明の実施形態の一つとして、工程(7)において、電解液中から得られた析出物等と、電解後試料残部に付着した析出物等を同一の分散性溶液中に回収している。これは、以降の分析操作の効率を鑑みてのものであるが、同一の分散性溶液中に回収せず、それぞれを独立に分析した後、定量値を合計して分析結果としても構わない。それぞれを独立に分析する場合、電解液中に析出物等が脱落しているかどうかの確認ができる。また、ほとんど脱落が認められない試料の場合には、電解液の分析を省略することもできる。更に、電解後試料に付着した析出物等のみを分析対象とする場合には、電解後試料を直ちに分散性溶液中に浸漬させて、析出物等を回収する操作を行うことも可能である。
図1および図2に示す(1)から(12)の手順に従って、析出物等の大きさ別定量を行った。各操作の具体的な条件は、以下に示す通りであるが、本発明は下記の具体的な条件に制限されるものではない。
金属試料として、mass%で、C:0.05%、N:0.06、Si:0.3%、Al:0.003%、Mn:1.5%、Cr:12.2%、Nb:0.2%、V:0.2%、Ni:0.6%、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成のステンレス鋼を高周波溶解炉で溶製し、100kgの鋼塊とした。次いで、1150℃に加熱後、熱間圧延によって、板厚4mmの熱延鋼板とした。さらに、800〜850℃で10時間保持した後、200℃まで20℃/時間で徐冷し、その後空冷する焼鈍を施した。次いで、上記により得られた熱延焼鈍板を、1150℃で1分加熱し、空冷する焼入れ処理を施した後、700℃で焼戻し処理を行なった。なお、焼戻し時間は、1分、1時間、240時間の3パターンとした。
[本発明に係る分析方法の例]
電解操作は、図3に示す装置構成にて行い、電解液としては約300mlの4%MS系電解液(4体積/体積%サリチル酸メチル-1質量/体積%サリチル酸-1質量/体積%塩化テトラメチルアンモニウム-メタノール)を使用した。ここで、電解液として一般的な10%AA系電解液(10vol%アセチルアセトン-1mass%塩化テトラメチルアンモニウム-メタノール)は、上記のステンレス中に含まれる析出物等が化学的に不安定であり、同電解液に対して溶解するため、用いなかった。
あらかじめ天秤で重量を測定した前記鉄鋼試料を陽極として約0.5gを電流密度20mA/cm2で定電流電解した。通電完了後、試料は、別途準備した約100mlのメタノール中に浸漬させた後、超音波振動を与えて試料表面に付着した析出物等を容器中に剥離させた。試料表面が金属光沢を呈したら超音波振動を停止し、試料を容器から取り出してメタノールで洗浄してから乾燥させた。乾燥後、天秤で試料重量を測定して、電解前の試料重量から差し引いて電解重量を計算した。
次いで、電解後の電解液、試料表面に付着していた析出物等を含んだメタノール溶液の順で、孔径20nmのアルミナフィルタで吸引ろ過した。ろ過後、このアルミナフィルタに、更に少量のメタノールを注ぎ、ろ過することで洗浄した。
続いて、捕集された析出物等を前記アルミナフィルタごと、500mg/lのヘキサメタリン酸(以下、SHMPと称す)水溶液を入れたビーカーに移し、アルミナフィルタを浸漬させた状態で超音波振動を与えることで析出物等を容器中でアルミナフィルタから剥離し、SHMP水溶液中に析出物等を分離した。なお、最適SHMP濃度については、ゼータ電位計による評価の結果、決定した。
さらに、析出物等を分離・分散させたSHMP水溶液を孔径20nmの上記とは別の新たなアルミナフィルタで吸引ろ過た。孔径20nmのアルミナフィルタを通過したろ液は石英ビーカーに入れ、ホットプレート上で加熱、溶媒を蒸発させた。次いで硝酸および過酸化水素水を添加して加熱溶解させた後、ICP発光分光分析装置で分析してV、Cr、Nbの各絶対量を定量した。さらに、これらV、Cr、Nbの各絶対量を前記電解重量で除して、各元素の析出量(大きさが20nm未満の析出物を対象)を求めた。なお、ここでのV、Cr、Nbの析出量は、試料とした鋼の全組成を100mass%とした値である。
[非特許文献1による方法(比較例1)]
電解操作は、図3に示す装置構成にて行い、電解液としては約300mlの10%AA系電解液を用いて、あらかじめ天秤で重量を測定した前記鉄鋼試料を陽極として約0.5gを定電位電解した。
通電完了後、試料を電解液中から静かに引き上げて取り出し、別の容器に入れた約100mlのメタノール中に移し変え、超音波振動を与えて試料表面に付着した析出物等を剥離しメタノール中に分離した。試料表面が金属光沢を呈したら超音波振動を停止し、試料を容器から取り出してメタノールで洗浄してから乾燥した。乾燥後、天秤で試料重量を測定して、電解前の試料重量から差し引いて電解重量を計算した。
電解後の電解液ならびに析出物等を含んだ前記メタノール溶液を、孔径0.2μmのポリカーボネイトフィルタで吸引ろ過して、残渣をフィルタ上に捕集した。さらに、残渣をフィルタとともに硝酸、過塩素酸並びに硫酸の混合溶液で加熱溶解して溶液化したのち、ICP発光分光分析装置で分析して残渣中のV、Cr、Nbの各絶対量を測定した。さらに、このV、Cr、Nbの各絶対量を前記電解重量で除して、全ての析出物等を対象とした各元素の析出量を求めた。
なお、ここでのV、Cr、Nbの析出量は、試料とした鋼の全組成を100mass%とした値である。
以上より、図4に本発明例、図5に比較例1で、それぞれ得られた定量結果を示す。図4と図5より、以下のことがわかった。
まず、図5の比較例1に示す方法で求めた、析出物を大きさ別に分別しない全ての析出物等を対象とした場合の析出量は、焼戻し時間が長くなるほど増加している。これは同材料において、焼入れ処理後に鋼中に固溶していた成分が、焼戻し時間の増加とともに析出物等を形成する割合が増加していることを示すものと考えられる。
一方、図4の本発明例に示す方法で求めた、大きさが20nm未満の析出物等を対象とした場合の析出物等の析出量は、焼戻し処理=1分で最も大きく、焼戻し時間の増加に対して減少していることが分かる。この分析結果は、材料の硬さ特性や電子顕微鏡で観察される微細な析出物等の生成状況の傾向と一致するものである。すなわち、試料とした鋼は、V、Cr、Nbを微細な(大体20nm未満の大きさの)析出物として鋼中に析出させ、この微細な析出物の密度や大きさを制御することにより、硬さなどの各種機械特性を実現するものであると考察される。よって、本法を用いれば20nm未満の析出物を対象とした場合の析出物量を求めることができ、これらの定量結果から鋼試料の機械特性を予想することができると言える。
フェライト系ステンレスの材料を用いて、本発明例の適用性を検証した。図1および図2に示す(1)から(12)の手順に従って、析出物等の大きさ別定量を行った。各操作の具体的な条件は、以下に示す通りであるが、本発明は下記の具体的な条件に制限されるものではない。
金属試料として、mass%で、C:0.007%、N:0.042、Si:0.85%、Al:0.025%、Mn:0.36%、Cr:14.5%、Nb:0.15%、V:0.4%、Ni:0.30%、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成のステンレス鋼を高周波溶解炉で溶製し、50kgの鋼塊とした。次いで、Arガス雰囲気中で1170℃×3600秒均熱後、熱間圧延により5mm厚の熱延板とし、1020℃×60秒の焼鈍を行なった。次いで、得られた熱延焼鈍板に対して、スケール除去後2mm厚まで冷間圧延し、脱脂後、Ar雰囲気中にて1020℃×60秒で仕上げ焼鈍後、水冷し(冷却速度=約60℃/s)、冷延焼鈍板とした。得られた焼鈍板を、700℃で、それぞれ0分、15分、180分、4000分時効処理し、分析に供した。
[本発明に係る分析方法の例]
電解操作は、図3に示す装置構成にて行い、電解液としては約300mlの4%MS系電解液(4体積/体積%サリチル酸メチル-1質量/体積%サリチル酸-1質量/体積%塩化テトラメチルアンモニウム-メタノール)を使用した。ここで、10%AA系電解液(10vol%アセチルアセトン-1mass%塩化テトラメチルアンモニウム-メタノール)は、上記のステンレス中に含まれる析出物等が化学的に不安定であり、同電解液に対して溶解するため、用いなかった。
あらかじめ天秤で重量を測定した前記鉄鋼試料を陽極として約0.5gを電流密度20mA/cm2で定電流電解した。通電完了後、試料は、別途準備した約100mlのメタノール中に浸漬させた後、超音波振動を与えて試料表面に付着した析出物等を容器中に剥離させた。試料表面が金属光沢を呈したら超音波振動を停止し、試料を容器から取り出してメタノールで洗浄してから乾燥させた。乾燥後、天秤で試料重量を測定して、電解前の試料重量から差し引いて電解重量を計算した。
次いで、電解後の電解液、試料表面に付着していた析出物等を含んだメタノール溶液の順で、孔径20nmのアルミナフィルタで吸引ろ過した。ろ過後、このアルミナフィルタに、更に少量のメタノールを注ぎ、ろ過することで洗浄した。
続いて、捕集された析出物等を前記アルミナフィルタごと、500mg/lのヘキサメタリン酸(以下、SHMPと称す)水溶液を入れたビーカーに移し、アルミナフィルタを浸漬させた状態で超音波振動を与えることで析出物等を容器中でアルミナフィルタから剥離し、SHMP水溶液中に析出物等を分離した。なお、最適SHMP濃度については、ゼータ電位計による評価の結果、決定した。
さらに、析出物等を分離・分散させたSHMP水溶液を孔径20nmの上記とは別の新たなアルミナフィルタで吸引ろ過した。孔径20nmのアルミナフィルタを通過したろ液は石英ビーカーに入れ、ホットプレート上で加熱、溶媒を蒸発させた。次いで硝酸および過酸化水素水を添加して加熱溶解させた後、ICP発光分光分析装置で分析してV、Nbの各絶対量を定量した。さらに、これらV、Nbの各絶対量を前記電解重量で除して、各元素の析出量(大きさが20nm未満の析出物を対象)を求めた。なお、ここでのV、Nbの析出量は、試料とした鋼の全組成を100mass%とした値である。
[非特許文献1による方法(比較例1)]
電解操作は、図3に示す装置構成にて行い、電解液としては約300mlの10%AA系電解液を用いて、あらかじめ天秤で重量を測定した前記鉄鋼試料を陽極として約0.5gを定電位電解した。
通電完了後、試料を電解液中から静かに引き上げて取り出し、別の容器に入れた約100mlのメタノール中に移し変え、超音波振動を与えて試料表面に付着した析出物等を剥離しメタノール中に分離した。試料表面が金属光沢を呈したら超音波振動を停止し、試料を容器から取り出してメタノールで洗浄してから乾燥した。乾燥後、天秤で試料重量を測定して、電解前の試料重量から差し引いて電解重量を計算した。
電解後の電解液ならびに析出物等を含んだ前記メタノール溶液を、孔径0.2μmのポリカーボネイトフィルタで吸引ろ過して、残渣をフィルタ上に捕集した。さらに、残渣をフィルタとともに硝酸、過塩素酸並びに硫酸の混合溶液で加熱溶解して溶液化したのち、ICP発光分光分析装置で分析して残渣中のV、Nbの各絶対量を測定した。さらに、このV、Nbの各絶対量を前記電解重量で除して、全ての析出物等を対象とした各元素の析出量を求めた。
なお、ここでのV、Nbの析出量は、試料とした鋼の全組成を100mass%とした値である。
以上より、図7に本発明例、図8に比較例1で、それぞれ得られた定量結果を示す。図7と図8より、以下のことがわかった。
まず、図8の比較例1に示す方法で求めた、析出物を大きさ別に分別しない全ての析出物等を対象とした場合の析出量は、時効処理時間が長くなるほど増加している。これは同材料において、焼入れ処理後に鋼中に固溶していた成分が、時効処理時間の増加とともに析出物等を形成する割合が増加していることを示すものと考えられる。
一方、図7の本発明例に示す方法で求めた、大きさが20nm未満の析出物等を対象とした場合の析出物等の析出量は、時効処理時間=15分もしくは180分で最も大きくなっていることが分かる。この分析結果は、材料の硬さ特性や電子顕微鏡で観察される微細な析出物等の生成状況の傾向と一致するものである。すなわち、試料とした鋼は、V、 Nbを微細な(大体20nm未満の大きさの)析出物として鋼中に析出させ、この微細な析出物の密度や大きさを制御することにより、硬さなどの各種機械特性を実現するものであると考察される。よって、本法を用いれば20nm未満の析出物を対象とした場合の析出物量を求めることができ、これらの定量結果から鋼試料の機械特性を予想することができると言える。
本発明に係る一実施形態として分散性溶液最適化操作のフローを示す図である。 本発明に係る一実施形態として大きさ別の定量分析のフローを示す図である。 本発明の析出物等分析方法で用いる電解装置の構成を模式的に示す図である。 本発明例を用いて得られた、大きさが20nm未満の析出物を対象とした場合のV、Cr、Nb析出量の分析結果を示す図である。(実施例1) 比較例を用いて得られた、析出物を大きさ別に分別しない全ての析出物を対象とした場合のV、Cr、Nb析出量の分析結果を示す図である。(実施例1) 非特許文献1に開示されている標準法のフロー図である。 本発明例を用いて得られた、大きさが20nm未満の析出物を対象とした場合のV、Nb析出量の分析結果を示す図である。(実施例2) 比較例を用いて得られた、析出物を大きさ別に分別しない全ての析出物を対象とした場合のV、Nb析出量の分析結果を示す図である。(実施例2)
符号の説明
1 電解用試料
2 電解用試料の固定用治具
3 電極
4 ビーカー
5 定電流電源
6 電解液
7 電解装置

Claims (6)

  1. 金属試料を電解する電解ステップと、前記電解後の金属試料の残部に付着した析出物及び/又は介在物、および前記電解後電解液中に含まれる析出物及び/又は介在物の両方をろ過捕集するろ過ステップと、前記ろ過捕集された析出物及び/又は介在物を、分散性を有する溶液に浸漬し、前記分散性溶液中に分離する分離ステップと、前記分散溶液中に分離した析出物及び/又は介在物を分析する分析ステップとを有することを特徴とする金属材料中の析出物及び/又は介在物の分析方法。
  2. 前記ろ過ステップは下記A)とB)の2つのステップを有し、前記分離ステップは、捕集用フィルタA及び捕集用フィルタBを分散性を有する溶液に浸漬し、捕集用フィルタA上及び捕集用フィルタB上に捕集された析出物及び/又は介在物を前記分散性溶液中に分離することを特徴とする請求項1に記載の金属材料中の析出物及び/又は介在物の分析方法。
    A)前記電解後の金属試料の残部に付着した析出物及び/又は介在物を、捕集用溶液に浸漬して前記捕集用溶液中に分離し、次いで、前記析出物及び/又は介在物を含んだ前記捕集用溶液を捕集用フィルタAでろ過するろ過ステップA
    B)前記電解後の電解液を捕集用フィルタBでろ過するろ過ステップB
    ただし、捕集用フィルタAと捕集用フィルタBは、同一または非同一である。
  3. 分離ステップにおける前記分散性を有する溶液の、分析対象の析出物及び/又は介在物に対するゼータ電位の絶対値が、30mV以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の金属材料中の析出物及び/又は介在物の分析方法。
  4. 前記分析ステップでは、大きさが1μm以下の析出物及び/又は介在物を分析することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の金属材料中の析出物及び/又は介在物の分析方法。
  5. 前記分析ステップは、分離ステップにおいて前記分散性を有する溶液中に分離された析出物及び/又は介在物を1以上の分別用フィルタにより1回以上ろ過する分別操作と、前記各分別用フィルタにより捕集された析出物及び/又は介在物、ろ液中に回収された析出物及び/又は介在物のうちの少なくとも1以上を分析する分析操作とを有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の金属材料中の析出物及び/又は介在物の分析方法。
  6. 分離ステップにおける前記分散性を有する溶液は、ゼータ電位の値を指標として種類及び/又は濃度が決定されることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の金属材料中の析出物及び/又は介在物の分析方法。
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