弾性境界波装置
技術分野
[0001] 本発明は、複数の媒質間に電極が配置された弾性境界波装置に関し、より詳細に は、フィルタと、フィルタに接続された共振子及び静電容量を備える回路が構成され ている弾性境界波装置に関する。
背景技術
[0002] 弾性境界波装置では、異なる媒質間の界面に IDT (インターデジタルトランスデュ ーサ)が配置され、弾性境界波が上記界面を伝搬する。従って、弾性表面波装置に 比べて、弾性境界波装置では、複雑なパッケージを必要とせず、構造の簡略化及び 低背化を進めることができる。この種の弾性境界波装置の一例は、下記の特許文献 1に開示されている。
[0003] ところで、弾性境界波装置においても、弾性表面波装置と同様に、様々な電極を形 成することにより、様々な共振子、フィルタあるいは共振子やフィルタを含む複合回路 を構成することができる。
[0004] 弾性表面波装置では、フィルタに静電容量を接続するに際し、 IDTと同様の電極 構造を有するくし形容量電極が多用されている。弾性境界波装置においても、弾性 境界波フィルタにおける減衰量を改善するために、この種のくし形容量電極を上記 界面に配置し、フィルタに接続することにより減衰量を改善し得ると考えられる。 特許文献 1 :特開昭 58— 30217号公報
発明の開示
[0005] くし形容量電極は、 IDTと同様に、互いに間挿し合う複数本の電極指を有する。従 つて、単に静電容量を得たいためのくし形容量電極において、一方の電位に接続さ れるべき電極指と他方の電位に接続されるべき電極指との間に電位が加わると、弹 性境界波共振子として機能することがあった。すなわち、くし形容量電極において所 望でない弾性境界波が励振され、不要共振として周波数特性上に現れるおそれが めつに。
[0006] くし形容量電極が上記のように IDTとして機能し、所望でな!ヽ共振が生じると、弾性 境界波を利用したフィルタ装置ではフィルタ特性が損なわれる。特に、くし形容量電 極の周波数特性では、くし形容量電極における主たる共振よりも高い周波数帯にお いても、多数の応答が現れている。従って、くし形容量電極の励振による主たる共振 、並びに高周波側の多数の応答が、弾性境界波フィルタ装置における所望でないス プリアス応答として現れ、フィルタ特性を大きく損ねがちであった。
[0007] 本発明の目的は、上述した従来技術の欠点を解消し、フィルタにくし形容量電極に よる静電容量が接続されている弾性境界波装置であって、くし形容量電極の励振に よる所望でな 、応答によるフィルタ特性の劣化が生じ難 、、弾性境界波装置を提供 することにある。
[0008] 本発明の広い局面においては、媒質と、前記第 1の媒質に積層された第 2の媒質と 、前記第 1,第 2の媒質間の境界に配置された複数の電極とを備え、前記複数の電 極により、フィルタ及び Zまたは共振子と、該フィルタ及び Zまたは共振子に電気的 に接続されている静電容量とが構成されており、前記フィルタ及び Zまたは共振子が いずれも IDT電極を用いて構成されており、前記静電容量がくし形容量電極により 形成されており、前記 IDTの電極指の周期をえ mとし、該 IDTにおける弾性境界波 の音速を Vm、前記くし形容量電極の電極指の周期を c、くし形容量電極の電極指 法線方向における第 1,第 2の媒質のそれぞれの遅い横波の音速のうち、音速が遅 V、横波の音速を Vcとした場合、 Vm/ λ m<Vc/ λ cとされて 、ることを特徴とする 、弾性境界波装置が提供される。
[0009] 本発明のある特定の局面では、前記 IDTの電極子の周期 λ mとくし形容量電極の電 極指の周期え cの関係が、 c〉0. 5 X mとされている。
[0010] 本発明の他の特定の局面では、前記複数の電極により、前記フィルタと前記共振 子が構成されており、フィルタの端子と共振子とが直列に接続されており、前記フィル タと前記共振子とを接続する電極にくし形容量電極が並列に接続されている。
[0011] 本発明のさらに他の特定の局面では、前記フィルタ及び共振子として、第 1,第 2の 端子を有する第 1のフィルタと第 1の共振子との組と、第 1,第 2の端子を有する第 2の フィルタと第 2の共振子との組とが並列に 1対配置されており、前記第 1のフィルタの
第 1の端子と前記第 2のフィルタの第 1の端子とが接続されて入力端子とされており、 前記第 1のフィルタの第 2の端子力 出力される電気信号と、前記第 2のフィルタの第 2の端子から出力される電気信号との極性が反転しており、前記第 1のフィルタの第 2 の端子を前記第 1の共振子に直列に接続している第 1の接続電極と、前記第 2のフィ ルタの第 2の端子を前記第 2の共振子に直列に接続している第 2の接続電極とをさら に備え、前記第 1の接続電極と、前記第 2の接続電極とがくし形容量電極で並列に 接続されている。
[0012] 本発明の別の特定の局面では、前記くし形容量電極として、第 1,第 2のフィルタに それぞれ接続された第 1,第 2のくし形容量電極を有し、第 1,第 2のくし形容量電極 の一端同士が共通接続されており、かつ接地されている。
[0013] 本発明のさらに他の特定の局面では、前記くし形容量電極の主応答となる弾性境 界波伝搬モードの音速が、前記第 1の共振子及び第 2の共振子を構成している IDT における弾性境界波の伝搬モードの音速よりも速くされている。
[0014] 本発明のさらに別の特定の局面では、前記くし形容量電極の電極指の長さ方向と
、前記第 1の共振子及び第 2の共振子を構成している IDTの電極指の長さ方向とが 異ならされている。
(発明の効果)
[0015] 本発明に係る弾性境界波装置では、第 1の媒質と第 2の媒質とが積層されており、 第 1,第 2の媒質間の境界に複数の電極が配置されている。そして、この複数の電極 により、フィルタ及び Zまたは共振子と、静電容量とが少なくとも構成されており、フィ ルタ及び Zまたは共振子がそれぞれ IDTを用いて構成されており、静電容量がくし 形容量電極により形成されており、上記のように、 VmZ m<VcZ cとされている ため、くし形容量電極で励振される弾性境界波の周波数位置がフィルタ及び Zまた は共振子の通過帯域や共振点から離される。
[0016] し力も、単にくし形電極により励振された弾性境界波の位置を高周波側にシフトさ せた場合には、くし形容量電極の電極指ピッチが小さくなり過ぎ、現実に製造するこ とができなくなる。これに対して、本発明では、上記のように VmZ mく VcZ cと されているため、くし形容量電極で励振される弾性境界波がカットオフされる周波数
に比べて、弾性境界波装置の目的とする帯域が低くされるため、くし形容量電極との 電極指ピッチを製造可能な大きさとしつつ、フィルタ特性や共振特性の改善を図るこ とが可能とされる。
[0017] 前記複数の電極により、フィルタと共振子が構成されており、フィルタの端子と共振 子とが直列に接続されており、前記フィルタと前記共振子とを接続する電極にくし形 容量電極が並列に接続されている場合には、この様な回路構成にすることで、弾性 境界波の大きな電気機械結合係数を利用してフィルタと共振子の接続部のインピー ダンスをフィルタの通過帯域近傍で誘導性とし、これに並列に容量を接続することで 通過帯域にぉ ヽては接続部の整合をとることができる。また通過帯域外にお ヽては 整合点からずれることにより減衰量を良化することができる。
[0018] 本発明において、フィルタ及び共振子として、上記第 1のフィルタと第 1の共振子と の組と、第 2のフィルタと第 2の共振子組とが並列に一対配置されており、第 1,第 2の フィルタの第 1の端子が共通接続されて入力端子とされており、第 1のフィルタと第 2 の端子から出力される電気信号と、第 2のフィルタの第 2の端子から出力される電気 信号と、第 2のフィルタの第 2の端子力 出力される電気信号が極性が反転している 場合には、本発明に従って平衡ー不平衡変換機能を有する弾性境界波装置を提供 することができる。
[0019] また、前記くし形容量電極として、第 1,第 2のフィルタにそれぞれ接続された第 1, 第 2のくし形容量電極を有し、第 1,第 2のくし形容量電極の一端同士が共通接続さ れており、かつ接地されている場合には、平衡度を効果的に高めることが可能となる
[0020] くし形容量電極の主応答となる弾性境界波伝搬モードの音速が、第 1,第 2の共振 子を構成して 、る IDTにおける弾性境界波の伝搬モードの音速よりも速 、場合には 、くし形容量電極において励振された弾性境界波の応答が、上記フィルタ及びフィル タに接続されている第 2の共振子において伝搬される弾性境界波よりも高域側に位 置することとなる。従って、くし形容量電極の主応答となる弾性境界波伝搬モードによ る応答を、フィルタの帯域外に確実に配置することができ、フィルタ特性の改善を図る ことができる。
[0021] くし形容量電極の電極指の長さ方向と、第 1,第 2の共振子を構成している IDTの 電極指の長さ方向とが異なっている場合には、くし形容量電極において弾性境界波 が励振されたとしても、励振された弾性境界波の第 1,第 2の共振子を構成している I DTの電極指による受信が妨げられ、それによつてフィルタ特性の改善をより一層図 ることがでさる。
図面の簡単な説明
[0022] [図 1]図 1 (a)及び (b)は、本発明の一実施形態に係る弾性境界波装置の模式的平 面断面図及び部分切欠正面断面図、(c)は上記実施形態の変形例に係る弾性境界 波装置の模式的平面断面図である。
[図 2]図 2は、図 1に示した弾性境界波装置のくし形容量電極を拡大して示す模式的 平面図である。
[図 3]図 3は、 LiNbOのオイラー角の φと弾性境界波の音速との関係を示す図であ
3
る。
[図 4]図 4は、 LiNbOのオイラー角の φと弾性境界波の電気機械結合係数 K2との関
3
係を示す図である。
[図 5]図 5は、 IDTの電極指法線方向の、 LiNbOの A1軸に対する角度 φを説明す
3
るための模式的平面図である。
[図 6]図 6 (a)及び (b)は、図 1に示した弾性境界波装置の第 2の共振子として φ =0 ° としたときの弾性境界波共振子のインピーダンス特性及び位相特性を示す図であ る。
[図 7]図 7 (a)及び (b)は、図 1に示した弾性境界波装置に用いられ!/、るくし形容量電 極の φ = 90° 場合のインピーダンス特性及び位相特性を示す図である。
[図 8]図 8 (a) , (b)は、図 1に示した弾性境界波装置の主たるモード近傍のインピー ダンス特性及び位相特性を示す図である。
[図 9]図 9 (a)及び (b)は、本発明の一実施形態の弾性境界波装置のフィルタ特性を 示す各図である。
符号の説明
[0023] 1…弾性境界波装置
2…第 1の媒質
3…第 2の媒質
4, 5…縦結合共振子型弾性境界波フィルタ部
5a〜5c"'IDT
6, 7…弾性境界波共振子 (第 2の共振子)
6a, 7a- --IDT
6b, 6c…反射器
7b, 7c…反射器
8、 9 Α, 9Β· ··くし形容量電極
8a, 8b…電極指
11, 12…接続電極
21 - --IDT
21a…電極指
発明を実施するための最良の形態
[0024] 以下、図面を参照しつつ本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明 を明らかにする。
[0025] 図 1 (a)及び (b)は、本発明の一実施形態に係る弾性境界波装置の平面断面図及 び模式的部分切欠正面断面図である。
[0026] 弾性境界波装置 1は、第 1の媒質 2と、第 3の媒質 3とを積層してなる積層体を有す る。本実施形態では、第 1の媒質 2は、 LiNbOからなり、第 2の媒質 3は、 SiO力もな
3 2 る。
[0027] 第 1,第 2の媒質 2, 3間の界面には、複数の電極が形成されている。この複数の電 極は、図 1 (a)に示す縦結合共振子型弾性境界波フィルタ部 4, 5、 1ポート型弾性境 界波共振子 6, 7、及びくし形容量電極 8を含む。
[0028] 図 1 (b)では、縦結合共振子型弾性境界波フィルタ部 4が形成されて ヽる部分が示 されている。
[0029] 上記複数の電極は、本実施形態では、 Auを主たる電極層として有する。もっとも、 Auからなる電極層の上下に、媒質 2, 3との密着性を高めるために、薄い NiCr層が
積層されている。この NiCr層は密着層として機能する。
[0030] 図 1 (a)に示すように、縦結合共振子型弾性境界波フィルタ部 4, 5は、それぞれ、 弾性境界波伝搬方向に配置された 3個の IDT4a〜4c, 5a〜5cを有する。縦結合共 振子型弾性境界波フィルタ部 4, 5の中央の IDT4b, 5bの一端が入力端に接続され る。そして、両側の IDT4a, 4c, 5a, 5cが、それぞれ、第 2の共振子としての 1ポート 型弾性境界波共振子 6, 7に接続されている。
[0031] 弾性境界波共振子 6, 7は、 IDT6a, 7aと、 IDT6a, 7aの両側に配置される反射器
6b, 6c, 7b, 7cとを有する。縦結合共振子型弾性境界波フィルタ部 4, 5は、上記弹 性境界波共振子 6, 7を介して出力端子に接続されている。
[0032] すなわち、縦結合共振子型弾性境界波フィルタ部 4, 5は、それぞれ、 IDT4a〜4c
, 5a〜5cからなる第 1の共振子により構成されている。
[0033] そして、縦結合共振子型弾性境界波フィルタ部 4, 5に直列に、上記弾性境界波共 振子 6, 7が接続されている。
[0034] 本実施形態では、上記縦結合共振子型弾性境界波フィルタ部 4及び弾性境界波 共振子 6が第 1のフィルタ及び第 1の共振子の組を構成しており、縦結合共振子型弹 性境界波フィルタ部 5及び 1ポート型弾性境界波共振子 7が、第 2のフィルタと第 2の 共振子との組を構成しており、これらは並列に配置されている。
[0035] また、第 1の弾性境界波フィルタ部 4及び第 2の弾性境界波フィルタ部 5の一方の端 子が共通接続され、入力端子 INとされている。
[0036] 他方、弾性境界波フィルタ部 4, 5は、それぞれ、弾性境界波共振子 6, 7に、接続 電極 11 , 12により電気的に接続されている。
[0037] なお、図 1 (a)及び後述の図 1の(c)における Gを丸で囲んだ符号は、当該電極が グラウンド電位に接続されて 、ることを意味する。
[0038] なお、くし形容量電極 8は、縦結合共振子型弾性境界波フィルタ部 4, 5の出力端と グラウンド電位との間に接続されるように、すなわち縦結合共振子型弾性境界波フィ ルタ部 4, 5と並列に接続されている。
[0039] くし形容量電極 8を図 2に拡大して模式的平面図で示す。くし形容量電極 8は、互 ヽ【こ 挿し合う複数本の電極旨 8a, 8bを有し、 IDT4a〜4c, 5a〜5c, 6a, 7aと同
様の構造を有する。
[0040] くし形容量電極 8は、静電容量を縦結合共振子型弾性境界波フィルタ部 4, 5に並 列に接続するために設けられている。くし形容量電極 8は、 IDT4a〜4c, 5a〜5c, 6 a, 7aと同じ材料で同時に形成することができ、それによつて静電容量を接続するた めのコストを低減することができる。
[0041] もっとも、くし形容量電極 8は、 IDT4a〜4c, 5a〜5cなどと異なる材料で構成されて いてもよい。
[0042] 本実施形態の弾性境界波装置 1では、第 1の縦結合共振子型弾性境界波フィルタ 部 4から出力される電気信号の極性と、第 2の縦結合共振子型弾性境界波フィルタ 部 5から出力される電気信号の極性とが反転されており、両者の各一端が共通接続 されて入力端子 INとされているので、平衡一不平衡変 能を有するフィルタ装置 を提供することができる。
[0043] なお、本実施形態では、上記くし形容量電極 8の電極指の長さ方向は、 IDT4a〜4 c、 5a〜5cの電極指の長さ方向と異なっており、かつ第 2の共振子としての弾性境界 波共振子 6, 7の IDT6a, 7aの電極指の長さ方向とも異なっている。くし形容量電極 8 の電極指長さ方向が、 IDT4a〜4c, 5a〜5c, 6a, 7aの電極指長さ方向と異なって いる場合、くし形容量電極により弾性境界波が励振されたとしても、このような弾性境 界波の IDT4a〜4c, 5a〜5c, 6a, 7aによる受信効率が低くなる。従って、くし形容 量電極 8で励振された弾性境界波の影響を低めることができ、好ま 、。
[0044] 本実施形態の弾性境界波装置 1の特徴は、上記 IDT4a〜4c, 5a〜5c, 6a, 7aの 周期をえ mとし、各 IDTにおける弾性境界波の音速を Vm、くし形容量電極 8の周期 をえ c、くし形容量電極 8における電極指法線方向における第 1,第 2の媒質 2, 3を 伝搬する遅い横波のうち低音速の横波の音速を Vcとしたときに、 Vm/ λ m<Vc/ λ cとされていることにあり、それによつてくし形容量電極 8を設けたことによるスプリア スの影響を受け難 、、良好なフィルタ特性を実現することができる。
[0045] 上記くし形容量電極 8は、第 1,第 2の媒質 2, 3間に設けられているため、前述した ように、 IDT4a〜4cなどと同時に同じ材料で形成することができる。し力も、 LiNbO
3 の比誘電率は 44であり、比較的大きいため、小さなくし形容量電極 8により十分な大
きさの静電容量を得ることができる。
[0046] し力しながら、前述したように、圧電体である LiNbOに接するようにくし形容量電極
3
8が設けられている場合、くし形容量電極 8の異なる電位に接続される電極指間に電 位が印加されることになるため、くし形容量電極 8が IDT4a〜4cなどと同様に IDTと して機能し、弾性境界波を励振する。くし形容量電極 8で励振された弾性境界波は、 本来のフィルタとして用いる周波数特性にスプリアス応答として現れることとなる。
[0047] 図 7 (a)及び (b)は、 φ = 90° であるくし形容量電極 8のインピーダンス特性及び位 相特性をそれぞれ示す。
[0048] なお、本明細書において、 φ = 90° であるくし形容量電極とは、 LiNbO基板を用
3 いた弾性境界波装置におけるオイラー角表記に基づくものである。オイラー角表記 においては、 LiNbOの結晶方位軸を X、 Y、 Ζと定義したとき、 Ζ軸を中心として X軸
3
を Υ軸側へ φだけ回転させた軸を Al、 A1軸を中心軸として Ζ軸を反時計回りに Θだ け回転させた軸を Α2とし、この Α2軸を法線として A1軸を含む平面でカットされた基 板において、 Α2軸を中心として A1軸を反時計回りに φだけ回転させた方向を波の 伝搬方向として規定している。従って φ = 90° であるくし形容量電極とは、電極指法 線方向の A1軸に対する角度が 90° であるものをいうものとする。同様に、以下にお いても、 φ =0° である弾性境界波共振子とは、弾性境界波共振子の IDTの電極指 法線方向の A1軸に対する角度が 0° である弾性境界波共振子をいうものとする。
[0049] 図 7 (a)及び (b)から明らかなように、くし形容量電極 8の IDTの周期は、本実施形 態では 3. とされている。くし形容量電極 8は、位相が一 90° 付近となる周波数 帯では容量素子として機能する。
[0050] なお、図 8 (a)及び (b)は、 φ =0° である弾性境界波共振子のインピーダンス特性 及び位相特性をそれぞれ示す図である。図 8 (a) , (b)から明らかなように、位相が— 90° となる近傍の条件とは、以下の(1)〜(3)の条件を満たす部分である。
[0051] (1)周波数 F Xくし形容量電極 8の周期え cが少なくとも一方の媒質 2, 3を伝搬する 遅 、横波の音速以下である周波数帯
(2) SH型弾性境界波の基本モードの応答以外の周波数帯
(3) P + SV型弾性境界波の基本モードの応答以外の周波数帯
図 7 (a) , (b)及び図 8 (a) , (b)に示されているように、少なくとも一方の媒質 2, 3を 伝搬する遅い横波の音速のうち遅い方の音速を Vcとしたとき、 VcZ cと、 SH型弹 性境界波の基本モード応答周波数及び P + SV型弾性境界波の基本モードの応答 の周波数は比較的近接されることが多い。従って、例えば、くし型容量電極 8及び弹 性境界波フィルタ部 4, 5の φが同じである場合、すなわち例えば IDT4a〜4c、 5a〜 5cの電極指長さ方向とくし形容量電極 8の電極指長さ方向とが等しい場合には、弾 性境界波フィルタに接続されるくし形容量電極 8の電極指周期 λ cは、フィルタの ID Tの周期え mよりも短く設定されることとなり、高周波帯においては、電極指幅が細く なり好ましくない。
[0052] 他方、縦結合共振子型弾性境界波フィルタ部 4, 5の IDT4a〜4c, 5a〜5cとは異 なる φのくし形容量電極 8を用いることにより、高音速化した場合には、くし形容量電 極 8の周期 λ cを音速比分だけ長く設定することができる。
[0053] また、くし形容量電極 8において縦結合共振子型弾性境界波フィルタ部 4, 5と同じ モードの弾性境界波が励振されず、高音速の別のモードが強く励振される φのくし 形容量電極 8の縦結合共振子型弾性境界波フィルタ部 4, 5における主たるモードの 音速と、上記くし形容量電極 8で励振される別モードとの音速比分だけくし形容量電 極 8の周期 λ cを長く設定することができる。
[0054] 図 3及び図 4は、 IDTの伝搬角 φと、弾性境界波の音速及び電気機械結合係数 Κ2 との関係を示す図である。なお、伝搬角 φとは、図 5に示すように、 IDT21を例にとる と、 IDT21の複数本の電極指 21aに対する法線の LiNbOの A1軸となす角度をいう
3
ものとする。
[0055] なお、図 3及び図 4においては、弾性境界波装置 1における複数の電極が Auから なり、その厚みは 0. 05えとし、媒質 1は 15° Yカット X伝搬 (オイラー角で (0° , 105 。 , φ ) )の LiNbOであり、その厚みは無限大とし、 SiOの厚みは無限大として計算
3 2
により求めた結果である。
[0056] 図 3及び図 4から明らかなように、 φ =0° において SH型弾性境界波の電気機械 結合係数 K2は大きぐ音速は 2960mZ秒であった。また、 P + SV型弾性境界波の 電気機械結合係数 K2はほぼ 0となることがわかる。
[0057] 他方、 φ = 90° において、 SH型弾性境界波の電気機械結合係数 Κ2はほぼ 0とな り、 P + SV型弾性境界波の電気機械結合係数 Κ2は 5%程度と若干小さぐ音速は 3 180mZ秒であった。
[0058] SH型境界波の電気機械結合係数 K2は十分に小さくなるのに対し P + SV型境界 波の電気機械結合係数 K2はやや大きいため、 P + SV型境界波によるスプリアスが 発生する。しかし、 φ =0° のくし形容量電極の SH型境界波の音速に比べ、 P + SV 型境界波の音速が 7. 4%速いため、スプリアス応答周波数は 7. 4%高くなる。従つ て、くし形容量電極 8の電極指周期え cをわずかに小さくするだけで、 φ =0° の SH 型境界波による主応答に対して、スプリアスとなる P + SV型境界波の応答を高周波 側へシフトさせて、外すことができる。
[0059] くし形容量電極 8の電極指周期え cをわずかに小さくする程度としては、 c〉0. 5
X λ πιの範囲が好ましい。 がこの範囲内であると、 IDT電極並びにくし形容量電 極の電極指を精度よく製造しながら、スプリアス改善が可能となる。この点をさらに説 明すると次のようになる。
[0060] 前記くし形容量電極の電極指の周期 λ cとくし形容量電極の電極指の周期 λ mの 関係においては、一つの弾性境界波装置において大きくライン &スペースの異なるく し形電極が存在する場合、同じ線幅精度を得ようとするとフォトリソグラフィー工程の 露光時に細い線幅において焦点深度が十分でなくなり製造できなくなる。一般にライ ン&スペースが 2倍異なる場合、製造が困難となる。このことから c〉0. 5 X mとす ることにより一つの弾性境界波装置内のライン &スペースは 2倍以内になり製造可能 となり、フィルタ特性や共振特性の改善を図ることが可能とされる。
[0061] 本実施形態の弾性境界波装置 1のフィルタ特性を図 9 (a) , (b)に示す。なお、上記 フィルタ特性は、以下の条件で弾性境界波装置 1を作製した場合の特性である。
[0062] 第 1の媒質は、厚さ 370nmの LiNbO、オイラー角は〔0° , 105° , φ〕、ただし、
3
フィルタ部における φ =0° 、共振子部における φ = 30° 、くし形容量電極部にお ける φ = 90° とし、第 2の媒質は厚さ 6 μ mの SiOとした。 IDTは、 NiCr/Au/Ni
2
Crを 1 OZ 150Z 1 Onmの厚みで積層した構造とした。
[0063] 上記実施形態では、くし形容量電極 8が設けられていた力 くし形容量電極 8を 2分
割し、図 1 (c)に示す変形例のように、第 1,第 2のくし形容量電極 9A, 9Bを設けても ょ 、。この変形例ではくし形容量電極 9Aが弾性境界波フィルタ部 4及び 1ポート型弹 性境界波共振子 6からなる組に並列に静電容量を付加するように接続されて!ヽる。ま た、くし形容量電極 9Bが、弾性境界波フィルタ部 5及び 1ポート型弾性境界波共振 子 7からなる組に静電容量を付加するように接続されて!、る。
[0064] そして、くし形容量電極 9A, 9Bの各一端が共通接続され、グラウンド電位に接続さ れる端子電極 9Cに電気的に接続されている。ここでは、くし形容量電極 9A, 9Bの 各一端が上記第 1の組及び第 2の組側に配置され、各パターンがくし形容量電極 9A , 9Bが対向する側に配置されている。そして、このくし形容量電極 9A, 9Bが対向し ている部分において、すなわち両者の中間位置において、端子電極 9Cがくし形容 量電極 9A, 9Bに電気的に接続されている。よって、このようなくし形容量電極 9A, 9 B及び端子電極 9Cを形成することにより、平衡度をより一層高めることができる。
[0065] 上記実施形態では、第 1の媒質が(0° , 105°C, φ )の LiNbOで形成されていた
3
力 他の結晶方位の LiNbOで形成されていてもよぐあるいは LiTaOなどの圧電単
3 3
結晶などの圧電体により形成されて 、てもよ 、。
[0066] また、第 2の媒質についても、 SiO以外の非導電物質、すなわち様々な絶縁性材
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料や誘電性材料により第 2の媒質を構成してもよい。また、第 2の媒質上に、さらに第 3の媒質を積層してもよい。