以下、本発明に係る魚類及びカニ類を除く魚介類の軟らか煮付け品とその製造方法について説明する。
<予備実験−マイタケ絞り汁の調製−>
市販の生マイタケの各200gをサイレントカッターに掛けて約20秒間切断し、1mm角以下の切断物とし、その切断物を濾布で包んで圧搾機に掛けて絞り汁を回収する作業を生マイタケのロットを変えて2回行ったところ、いずれの検体からも約120gの絞り汁を回収することができた。絞り汁の回収率は、使用した生マイタケの質量に対し約60質量%の高率であった。また、得られた絞り汁のpHを測定したところ、pH5.51〜pH6.12の範囲に分布し、安定した物性値を備えていることが分かった。
一方、サイレントカッターに代えて、包丁を用いてみじん切りにして人力で3mm角の切断物を得た以外は上記と同様に処理したところ、約73〜75gの絞り汁が得られた。得られた絞り汁のpHを測定したところ、pH5.08〜pH5.15の範囲に分布し安定した物性値を備えてはいたが、絞り汁の回収率は、使用した生マイタケの質量に対し約37質量%〜38質量%にとどまり、使用したマイタケの量に比べて得られる絞り汁の量が十分なものとはいえなかった。
さらに、生マイタケ約35gを手でほぐして小分けしたものを、472gの水又は135gの水に2時間又は16時間浸漬後、濾過してマイタケを取り除いてマイタケの抽出液を得た。472gの水に2時間又は16時間浸漬したものからは、それぞれ455g及び449gの抽出液が、135gの水に2時間又は16時間浸漬したものからは、それぞれ123g及び116gの抽出液が得られたが、マイタケが水を吸収し、得られる抽出液の量が変化し不安定になることが避けられなかった。また、得られた抽出液のpHを測定したところ、pH4.97〜pH6.85と広範囲に分布し、安定した物性値が得られなかった。因みに、135gという水の量は、約35gの手でほぐしたマイタケがひたひたに浸かる量であり、472gという水の量は、約35gの手でほぐしたマイタケが十分な水に浸漬された状態になる量である。
以上の予備実験の結果から、マイタケを1mm角以下に切断した切断物を濾布で圧搾して得られる絞り汁は、原料マイタケに対して比較的高率で得られ、かつpHで示される物性値も安定しているので、これを軟化処理に用いるマイタケ抽出液として用いるのが良いとの結論に至った。以下、このマイタケ抽出液を用いて、各種魚介類の軟化試験を行った。
A:スルメイカ
<軟化試験A1(スルメイカの煮付け品)>
スルメイカの胴部を用い、通常の製造、流通、保管形態を想定し、以下のア〜スの工程でスルメイカの胴部の骨取り切り身の煮付け品を製造した。原料として用いるスルメイカは、事前に骨取りをし、輪切りにカットした胴部の切り身の冷凍品であっても良いし、スルメイカ全体の冷凍品であっても良い。なお、原料として用いるスルメイカがスルメイカ全体の冷凍品である場合には、下記イの解凍工程に続いて、解凍又は半解凍状態で、頭部及び足の切り離しと、骨取り、及び輪切りカットを行うことになる。なお、スルメイカの胴部の骨取り切り身は、約40gずつに小分けし、切り身約40gを1検体として用いた。
ア 原料搬入(スルメイカの冷凍品)
イ 解凍
ウ 事前加熱
エ 冷却
オ 軟化液浸漬(軟化処理)
カ 液切り
キ 煮付け液充填真空包装
ク 静置
ケ 加熱殺菌
コ 冷却
サ 凍結
シ 梱包
ス 保管
ウの事前加熱工程においては、スルメイカの骨採り切り身を芯温が10秒間75℃以上となるように加熱(ボイル)した。また、比較のため、事前加熱工程を省略し、事前加熱工程を経ない点以外は同様に処理して、事前加熱工程を経ないスルメイカの切り身も用意した。
オの軟化液浸漬工程においては、上記予備実験におけると同様の手順で、1mm角以下に切断した生マイタケの切断物を圧搾して得た絞り汁(pH6.04)を通常の水道水で25質量%(以下、本明細書においては、特段の断りがない限り、「質量%」を単に「%」と記載する)、又は40%に希釈した希釈液を軟化液として用い、これら軟化液のそれぞれを、約40g単位に小分けされたスルメイカの切り身の検体(事前加熱を経たもの及び事前加熱を経ないもの)のそれぞれに対し、固液比が1:1、1:1.2、1:1.3、1:1.4、1:1.5、1:1.6、又は1:2となるように秤り取り、これら秤り取られた軟化液のそれぞれに、各検体を24時間浸漬した。なお、軟化液の液温は22℃を保つようにコントロールしながら行った。
軟化液浸漬後、カの液切り工程では各検体から軟化液を液切りし、続いて、キの煮付け液充填真空包装工程では、液切りされた各検体を、検体ごとに煮付け液とともに包装容器内に充填し、真空包装した。
スの保管工程後、各検体を適宜のタイミングで解凍し、喫食時の温度に相当する常温まで戻した後に、梱包を開封して切り身を取り出し、市販の荷重測定器(アイコーエンジニアリング株式会社販売 デジタルフォースゲージ MODEL RZ−5)を用い、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重を測定した。測定は、各検体から無作為に一つの切り身を取り出し、輪切りになっている切り身の2箇所に包丁を入れ、短冊状の切り身二切れとし、その内の無作為に選んだ一方の切り身の左側、中央、右側の3箇所を表裏計6箇所測定した。それぞれの軟化液浸漬条件について、それぞれ3検体ずつ製造、測定し、計18個の測定値の中で最も大きな荷重をもって硬さの測定値(gf)とした。結果を表1に示す。
また、対照として、同じスルメイカを用い、オの軟化液浸漬(軟化処理)工程と、カの液切り工程を経ない以外は同様にして、イカの切り身の煮付け品を製造し、上記と同様にして、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重(硬さ)を測定した。結果を表2に示す。
表1に見られるとおり、マイタケの絞り汁を水で25%又は40%に希釈した軟化液を用いて軟化処理をした場合、22℃、24時間の浸漬では、事前加熱を施した場合、固液比が1:1、、1:1.2、1:1.3、1:1.4、1:1.5、1:1.6、及び1:2のいずれの場合であっても、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重は350gf以下となり、「弱い力で噛める」程度若しくはそれ以上の軟らかさを有するイカの切り身の煮付け品が得られた。この軟らかさは、軟化液浸漬を行わない点以外は同様にして製造されたイカの切り身の煮付け品の硬さが、表2に示すとおり、835gf(対照1:事前加熱あり)又は584gf(対照2:事前加熱なし)であったことに鑑みると、極めて軟らかいものである。
中でも、希釈率が40%の軟化液を用いて軟化処理をした場合には、22℃、24時間の浸漬では、事前加熱を施した場合、1:1.3以上の固液比において、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重は100gf以下となり、「舌で潰せる」程度という極めて軟らかいイカの切り身の煮付け品が得られた。
しかしながら、上記硬さの測定時に、測定対象となるイカの切り身の煮付け品を肉眼で観察したところ、軟化液の希釈率が25%又は40%のいずれの場合においても、固液比が1:1の条件下で軟化液に浸漬した場合には、イカの褐色の表皮の下にある二層目の薄皮までに剥離が認められ、イカの切り身の煮付け品本来の外観形状を保持しているとはいえないものであった。
同様に、固液比が1:1.6以上となると、軟化液の希釈率が25%又は40%のいずれの場合においても、身が部分的に粒状に溶ける現象が認められ、イカの切り身の煮付け品本来の外観形状を保持しているとはいえないものであった。
これに対し、固液比が1:1.2〜1:1.5の範囲にある場合には、軟化液の希釈率が25%又は40%のいずれの場合においても、薄皮の剥離や、身の溶解は認められず、イカの切り身の煮付け品本来の外観形状が保持されていた。
一例として、希釈率が40%の軟化液を用い、固液比が1:1、1:1.3、1:1.5、1:1.6、又は1:2の条件下で軟化液浸漬処理を行って得られたイカの煮付け品の外観写真を、それぞれ図1〜図5に示す。図1に示すとおり、1:1の固液比で軟化液浸漬を行って得られたイカの煮付け品には、褐色の表皮下にある二層目の薄皮までの剥離が認められる。また、図4及び図5に示すとおり、1:1.6又は1:2の固液比で軟化液浸漬を行って得られたイカの煮付け品においては、イカの身が部分的ではあるものの溶けて粒状に分断されている。これに対し、図2又は図3に示すとおり、1:1.3又は1:1.5の固液比で軟化液浸漬を行って得られた煮付け品には、薄皮の剥離はなく、身の粒状の溶解も認められず、イカの切り身の煮付け品本来の外観形状が保持されている。
また、上記硬さの測定時に、測定対象となるイカの切り身の煮付け品を試食したところ、希釈率が25%又は40%の軟化液を用いて軟化処理したイカの切り身の煮付け品はイカの煮付け品本来の味がし、軟化液浸漬による異味、異臭は全く感じられなかった。
一方、表1に「※」で示すとおり、事前加熱を行わないで軟化液浸漬を行って製造されたイカの切り身の煮付け品は、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重を測定することができないほどに身崩れがひどく、イカの煮付け品本来の外観形状を備えているとは到底いえないものであった。
以上の結果は、事前加熱をした上で、希釈率が25%〜40%の軟化液に、24時間、22℃で、固液比が1:1.2以上1:1.5以下の条件下で浸漬すると、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が350gf以下という軟らかさを備え、異味、異臭がなく、かつ、イカの煮付け品本来の外観形状が保持されたイカの軟らか煮付けを製造することができることを示している。また、中でも、希釈率が40%の軟化液に、24時間、22℃で、固液比が1:1.3〜1:1.5の条件下で浸漬すると、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が100gf以下という極めて軟らかいイカの軟らか煮付け品を製造することができることを示している。
<軟化試験A2(スルメイカの煮付け品)>
軟化試験A1において、24時間、22℃での浸漬条件下では、軟化液の希釈率に関しては25%及び40%で良い結果が得られ、中でも希釈率40%の場合には、固液比1:1.3〜1:1.5の範囲でより好適な100gf以下という軟らかさの煮付け品が得られたので、軟化液の希釈率を30%又は50%に変え、固液比を1:1.3又は1:1.5とした以外は、軟化試験A1と同様にしてスルメイカの切り身の煮付け品を製造し、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重(硬さ)を測定した。結果を表3に示す。
表3に示すとおり、希釈率が30%又は50%の軟化液を用いて軟化浸漬を行った場合にも、希釈率が40%の軟化液を用いた場合と同様に、事前加熱を施した場合には、24時間、22℃、固液比1:1.3又は1:1.5の軟化浸漬条件下で、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が100gf以下、具体的には85gf以下という極めて軟らかいイカの軟らか煮付け品を製造することができた。
また、上記硬さの測定時に、測定対象となるイカの切り身の煮付け品を肉眼で観察したところ、事前加熱を施して得られた煮付け品については、軟化液の希釈率が30%又は50%のいずれの場合においても、固液比1:1.3又は1:1.5の双方で、薄皮の剥離や、身の溶解は認められず、イカの切り身の煮付け品本来の外観形状が保持されていた。
これに対し、表3に「※」で示すとおり、事前加熱を行わないで軟化液浸漬を行って製造されたイカの切り身の煮付け品は、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重を測定することができないほどに身崩れがひどく、イカの煮付け品本来の外観形状を備えているとは到底いえないものであった。これらの結果から、少なくとも希釈率が25%〜50%の軟化液を用いる場合において、イカの煮付け品本来の外観形状を保持した煮付け品を製造するには事前加熱が不可欠であると判断された。
一例として、事前加熱処理を行わずに、希釈率30%の軟化液に、固液比1:1.3又は1:1.5の条件下で、24時間、22℃で浸漬して、製造されたイカの切り身の煮付け品の外観写真を、ぞれぞれ図6及び図7に示す。図6及び図7に示すとおり、事前加熱処理を行わずに軟化液に浸漬して得られたイカの切り身の煮付け品は、切り身のリングの形状を保つことができないほどに身崩れしている。
また、上記硬さの測定時に、測定対象となるイカの切り身の煮付け品を試食したところ、希釈率が30%の軟化液を用いて軟化処理したイカの切り身の煮付け品はイカの煮付け品本来の味がし、軟化液浸漬による異味、異臭は全く感じられなかった。しかしながら、希釈率が50%の軟化液を用いて軟化処理したイカの切り身の煮付け品は、これを喫食したところ、軟化液浸漬処理に用いた軟化液に起因すると思われる異味、異臭が感じられ、特に苦味が強く、イカの煮付け品本来の味であるとはいえないものであった。
<官能検査A1(スルメイカの煮付け品)>
健康な計6名の男女をパネラーとし、軟化試験A1又はA2で製造された下記のイカの切り身の煮付け品について、官能検査を行った。
(対象としたイカの煮付け品)
・スルメイカの煮付け品A(表3の#5の浸漬条件における固液比1:1.3のもの)
軟化液の希釈率:30%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.3
硬さ 85gf
・スルメイカの煮付け品B(表3の#5の浸漬条件における固液比1:1.5のもの)
軟化液の希釈率 30%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.5
硬さ 84gf
・スルメイカの煮付け品C(表1の#3の浸漬条件における固液比1:1.3のもの)
軟化液の希釈率 40%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.3
硬さ 77gf
・スルメイカの煮付け品D(表1の#3の浸漬条件における固液比1:1.5のもの)
軟化液の希釈率 40%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.5
硬さ 81gf
・スルメイカの煮付け品E(表3の#7の浸漬条件における固液比1:1.3のもの)
軟化液の希釈率 50%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.3
硬さ 53gf
・スルメイカの煮付け品F(表3の#7の浸漬条件における固液比1:1.5のもの)
軟化液の希釈率 50%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.5
硬さ 49gf
(検査項目)
・外観形状(肉眼による)
・外観色調(肉眼による)(身肉の色目)
・異味(苦味、えぐみ)
・味
・異臭
・マイタケ臭(軟化液に起因するマイタケ臭)
評価は、軟化処理をしない同じイカの切り身の煮付けの通常品と比較して、同等若しくはそれ以上に良い場合を「非常に良い=5」、ほぼ同等に良い場合を「良い=4」、やや悪いが許容できる場合を「普通=3」、悪い場合を「悪い=2」、非常に悪い場合を「非常に悪い=1」とする五段階で行い、各パネラーの評価点の平均値を評点とした。結果をスルメイカの煮付け品A〜Fの順に、それぞれ、表4〜表9に示す。
表4〜表7に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が30%又は40%の軟化液を用いて軟化処理をしたイカの切り身を煮付け液の存在下で加熱して得られた煮付け品A〜Dは、検査した「外観形状」、「外観色調」、「異味(苦味、えぐみ)」、「味」、「異臭」、「マイタケ臭」のいずれの項目においても、「良い=4」又は「非常に良い=5」と評価され、イカの切り身の煮付け品本来の外観形状、色調、味を有するとともに、異味、異臭がなく、マイタケ臭も感じられない優れた煮付け品であった。
これに対し、表8及び表9に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が50%の軟化液を用いて軟化処理をしたイカの切り身を煮付け液の存在下で加熱して得られた煮付け品E及びFは、外観形状や外観色調は、「良い=4」又は「普通=3」と評価され、イカの切り身の煮付け品本来の外観形状、色調をある程度は保持していたものの、「異味」、「異臭」、及び「マイタケ臭」に関しては評価点の平均値は「悪い=2」を下回り、異味、異臭が感じられるとともに、強いマイタケ臭がすると評価されるものであった。また、「味」に関しても、評価点の平均値は2.5又は1,0となり、軟化処理をしない同じイカの切り身の煮付けの通常品と比較して、「悪い」若しくは「非常に悪い」と評価されるものであった。
これら官能検査の結果は、軟化試験A1及びA2において、実施者が各煮付け品の硬さ測定の際にその都度行った肉眼観察及び試食の結果と一致しており、軟化試験A1及びA2の実施者による肉眼観察及び試食による評価が客観性を備えた妥当なものであることを裏付けるものである。
上記軟化試験A2及び官能検査A1の結果は、軟化試験A1の結果を裏付けるものであり、事前加熱をした上で、希釈率が25%〜40%の軟化液に、24時間、22℃で、固液比が1:1.1以上1:1.5以下の条件下で浸漬すると、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が350gf以下という軟らかさを備え、異味、異臭がなく、かつ、イカの煮付け品本来の外観形状が保持されたイカの軟らか煮付けを製造することができること、中でも、希釈率が30%〜40%の軟化液に、24時間、22℃で、固液比が1:1.3〜1:1.5の条件下で浸漬すると、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が100gf以下という極めて軟らかいイカの軟らか煮付け品を製造することができることを示している。
<味認識装置による評価A1>
本発明に係るイカの切り身の煮付け品が異味、異臭のないものであることをより客観的に確認すべく、味認識装置による味分析を外部の検査機関(厚生労働省登録検査機関 株式会社キューサイ分析研究所)に依頼した。その詳細は以下のとおりである。
(味分析対象試料)
以下の比較対照品と試料1についての味分析を依頼した。
・比較対照品:通常の(軟化処理を経ない)スルメイカの切り身の煮付け品(株式会社新東京フード製)
・試料1:スルメイカの切り身(約40g)を希釈率40%の軟化液に、固液比1:1.3で、24時間、22℃で浸漬したものを煮付け液の存在下で加熱して得られた切り身の煮付け品(表1における浸漬条件#3の固液比1:1.3のものに相当:硬さ77gf)
(使用機器)
インテリジェントセンサーテクノロジー株式会社販売 味認識装置「TS−5000Z」(人工脂質膜型味覚センサーを用いる味認識装置)
(味分析結果)
試料1についての「酸味」、「苦味雑味」、「渋味刺激」、「旨味」、「塩味」、「苦味」、「渋味」、「旨味コク」の8種類の味が、比較対照品である軟化処理をしていない通常のスルメイカの切り身の煮付け品の測定値を基準値=0とした相対値で求められた。結果を表10に示す。また、結果をレーダチャートとして表したものを図8に示す。
表10及び図8に示すとおり、本発明に係る軟らか煮付け品に該当する試料1の味の測定値は、比較対照品である軟化処理をしていない通常のスルメイカの切り身の煮付け品の各味を基準=0として、測定された8種類の全ての味において、±2未満(−2<測定値<+2)の範囲内に収まっていた。味認識装置を用いる味分析において、比較対照品を0としたときの味の測定値が±2未満の場合には、これをヒトが食しても比較対照品との味の差としては認識されないといわれている。したがって、ヒトが食したときに「異味」として認識されると考えられる「苦味雑味」「渋味刺激」「苦味」「渋味」の測定値がいずれも±2未満に収まっていたという上記分析結果は、ヒトが試料1を食したときにも通常品である比較対照品と比べて異味があるとは感じられず、本発明品が異味を有さない煮付け品であることを示している。特に異味として最も強く感じられるとされる「苦味雑味」についての試料1の測定値は、比較対照品と比べて±1以内にとどまっており、本発明のイカの切り身の軟らか煮付け品は、異味のない煮付け品であるといえる。
このように味認識装置による味分析においても、本発明に係るイカの切り身の軟らか煮付け品が、軟化処理をしていない通常のイカの切り身の煮付け品と比べて異味がなく、イカの切り身の煮付け品本来の味を備えたものであることが確認された。
B:マツイカ
<軟化試験B1(マツイカの煮付け品)>
スルメイカをマツイカに変え、軟化液の希釈率を25%、30%、40%、又は50%とし、全ての検体について事前加熱を行った以外は軟化試験A1と同様にして、マツイカの切り身の煮付け品を製造し、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重(硬さ)を測定した。結果を表11に示す。
また、対照として、同じマツイカを用い、オの軟化液浸漬(軟化処理)工程と、カの液切り工程を経ない以外は同様にして、イカの切り身の煮付け品を製造し、上記と同様にして、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重(硬さ)を測定した。結果を表12に示す。
表11に見られるとおり、マイタケの絞り汁を水で25%、30%、40%、又は50%に希釈した軟化液を用いて軟化処理をした場合、22℃、24時間の浸漬では、事前加熱を施した場合、固液比が1:1、1:1.2、1:1.3、1:1.4、1:1.5、1:1.6、及び1:2のいずれの場合であっても、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重は350gf以下となり、「弱い力で噛める」程度若しくはそれ以上の軟らかさを有するイカの切り身の煮付け品が得られた。この軟らかさは、軟化液浸漬を行わない点以外は同様にして製造されたマツイカの切り身の煮付け品の硬さが、表12に示すとおり、820gf(対照3:事前加熱あり)であったことに鑑みると、極めて軟らかいものである。
中でも、希釈率が30%、40%、又は50%の軟化液を用いて軟化処理をした場合には、22℃、24時間の浸漬では、事前加熱を施した場合、1:1.3以上の固液比において、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重は100gf以下となり、「舌で潰せる」程度という極めて軟らかいマツイカの切り身の煮付け品が得られた。
しかしながら、上記硬さの測定時に、測定対象となるマツイカの切り身の煮付け品を肉眼で観察したところ、軟化液の希釈率が25%又は30%の場合、固液比が1:1の条件下では、先に試験したスルメイカの場合と同様に、イカの褐色の表皮の下にある二層目の薄皮までに剥離が認められ、イカの切り身の煮付け品本来の外観形状を保持しているとはいえなかった。
また、軟化液の希釈率が40%又は50%の場合、固液比が1:1の条件下では、希釈率25%又は30%の軟化液を用いた場合と同様に、イカの褐色の表皮の下にある二層目の薄皮までに剥離が認められ、固液比が1:2の条件下では、切り身のリングが一部溶けて切れる現象が認められた。軟化液の希釈率が40%又は50%の場合には、固液比1:1又は1:2の条件下で得られた煮付け品は、イカの切り身の煮付け品本来の外観形状を保持しているとはいえないものであった。
これに対し、固液比が1:1.2〜1:1.6の範囲にある場合には、軟化液の希釈率が25%〜50%の全ての場合において、薄皮の剥離や、身の溶解による切れは認められず、イカの切り身の煮付け品本来の外観形状が保持されていた。
一例として、希釈率が30%の軟化液を用い、固液比が1:1、1:1.3、1:1.5、又は1:2の条件下で軟化液浸漬処理を行って得られたマツイカの煮付け品の外観写真を、それぞれ図9〜図12に、希釈率が40%の軟化液を用い、固液比が1:1、1:1.3、1:1.5、又は1:2の条件下で軟化液浸漬処理を行って得られたマツイカの煮付け品の外観写真を、それぞれ図13〜図16に示す。
希釈率30%の軟化液を用いた場合には、1:1の固液比で軟化液浸漬を行って得られたマツイカの煮付け品には、図9に示すとおり、褐色の表皮下にある二層目の薄皮までの剥離が認められるが、1:1.3、1:1.5、及び1:2の固液比で軟化液浸漬を行った得られたマツイカの煮付け品には、それぞれ図10〜図12に示すとおり、薄皮の剥離は認められず、また、身の崩れや溶けも認められず、イカの切り身の煮付け品本来の外観形状が保持されている。
一方、希釈率40%の軟化液を用いた場合には、1:1の固液比で軟化液浸漬を行って得られたマツイカの煮付け品には、図13に示すとおり、褐色の表皮下にある二層目の薄皮までの剥離が認められ、1:2の固液比で軟化液浸漬を行って得られたマツイカの煮付け品には、図16に示すとおり、溶解による切り身リングの切れが認められるが、1:1.3及び1:1.5の固液比で軟化液浸漬を行った得られたマツイカの煮付け品には、それぞれ図14及び図15に示すとおり、薄皮の剥離は認められず、また、身の崩れや溶けも認められず、イカの切り身の煮付け品本来の外観形状が保持されている。
また、上記硬さの測定時に、測定対象となるマツイカの切り身の煮付け品を試食したところ、希釈率が25%、30%、又は40%の軟化液を用いて軟化処理したマツイカの切り身の煮付け品は、イカの煮付け品本来の味がし、軟化液浸漬による異味、異臭は全く感じられなかったが、希釈率が50%の軟化液を用いて軟化処理したマツイカの切り身の煮付け品は、軟化液浸漬時の固液比にかかわらず、軟化液に起因すると思われる異味、異臭がし、苦味があり、マイタケ臭も感じられ、イカの煮付け品本来の味が保持されているとは到底いえないものであった。
<官能検査B1(マツイカの煮付け品)>
健康な計6名の男女をパネラーとし、軟化試験B1で製造された下記のマツイカの切り身の煮付け品G〜Lについて、官能検査A1におけると同様にして、官能検査を行った。結果をマツイカの煮付け品G〜Lの順に、それぞれ表13〜表18に示す。
(対象としたイカの煮付け品)
・マツイカの煮付け品G(表11の#10の浸漬条件における固液比1:1.3のもの)
軟化液の希釈率:30%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.3
硬さ 85gf
・マツイカの煮付け品H(表11の#10の浸漬条件における固液比1:1.5のもの)
軟化液の希釈率 30%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.5
硬さ 79gf
・マツイカの煮付け品I(表11の#11の浸漬条件における固液比1:1.3のもの)
軟化液の希釈率 40%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.3
硬さ 66gf
・マツイカの煮付け品J(表11の#11の浸漬条件における固液比1:1.5のもの)
軟化液の希釈率 40%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.5
硬さ 58gf
・マツイカの煮付け品K(表11の#12の浸漬条件における固液比1:1.3のもの)
軟化液の希釈率 50%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.3
硬さ 58gf
・マツイカの煮付け品L(表11の#12の浸漬条件における固液比1:1.5のもの)
軟化液の希釈率 50%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.5
硬さ 51gf
表13〜表16に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が30%又は40%の軟化液を用いて軟化処理をしたマツイカの切り身を煮付け液の存在下で加熱して得られた煮付け品G〜Jは、検査した「外観形状」、「外観色調」、「異味(苦味、えぐみ)」、「味」、「異臭」、「マイタケ臭」のいずれの項目においても、「良い=4」又は「非常に良い=5」と評価され、イカの切り身の煮付け品本来の外観形状、色調、味を有するとともに、異味、異臭がなく、マイタケ臭も感じられない優れた煮付け品であった。
これに対し、表17及び表18に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が50%の軟化液を用いて軟化処理をしたマツイカの切り身を煮付け液の存在下で加熱して得られた煮付け品K及びLは、外観形状や外観色調は、「良い=4」又は「普通=3」と評価され、イカの切り身の煮付け品本来の外観形状、色調を一応は保持していたものの、「異味」、「異臭」、及び「マイタケ臭」に関しては評価点の平均値は「悪い=2」以下と評価され、異味、異臭が感じられるとともに、強いマイタケ臭がするものであった。
これら官能検査の結果は、軟化試験B1において、実施者が各煮付け品の硬さ測定の際にその都度行った肉眼観察及び試食の結果と一致しており、軟化試験B1の実施者による肉眼観察及び試食による評価が客観性を備えた妥当なものであることを裏付けるものである。
マツイカの煮付け品について得られた以上の結果は、好適な固液比の範囲において若干のずれはあるものの、スルメイカの煮付け品について得られた結果と軌を一にするものであり、少なくともイカに関しては、事前加熱をした上で、希釈率が25%〜40%の軟化液に、24時間、22℃で、固液比が少なくとも1:1.2以上1:1.5以下の範囲内となる条件下で浸漬すると、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が350gf以下という軟らかさを備え、異味、異臭がなく、かつ、イカの煮付け品本来の外観形状が保持されたイカの軟らか煮付けを製造することができることを示している。また、中でも、希釈率が30%〜40%の軟化液に、24時間、22℃で、固液比が1:1.3〜1:1.5の条件下で浸漬すると、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が100gf以下という軟らかさを備え、異味、異臭がなく、かつ、イカの煮付け品本来の外観形状が保持された極めて軟らかいイカの軟らか煮付け品を製造することができることを示している。
<味認識装置による評価B1>
本発明に係るイカの切り身の煮付け品が異味、異臭のないものであることをより客観的に確認すべく、味認識装置による評価A1におけると同様にして、以下の比較対照品と試料2及び3について味認識装置による味分析を、外部の検査機関(厚生労働省登録検査機関 株式会社キューサイ分析研究所)に依頼した。その詳細は以下のとおりである。
(味分析対象試料)
・比較対照品:通常の(軟化処理を経ない)マツイカの切り身の煮付け品(株式会社新東京フード製)
・試料2:マツイカの切り身(約40g)を希釈率40%の軟化液に、固液比1:1.3で、24時間、22℃で浸漬したものを煮付け液の存在下で加熱して得られた切り身の煮付け品(表11における浸漬条件#11の固液比1:1.3のものに相当:硬さ66gf)
・試料3:マツイカの切り身(約40g)を希釈率40%の軟化液に、固液比1:1.5で、24時間、22℃で浸漬したものを煮付け液の存在下で加熱して得られた切り身の煮付け品(表11における浸漬条件#11の固液比1:1.5のものに相当:硬さ58gf)
(味分析結果)
試料2及び3についての「酸味」、「苦味雑味」、「渋味刺激」、「旨味」、「塩味」、「苦味」、「渋味」、「旨味コク」の8種類の味が、比較対照品である軟化処理をしていない通常のマツイカの切り身の煮付け品の測定値を基準値=0とした相対値で求められた。結果を表19に示す。また、結果をレーダチャートとして表したものを図17に示す。
表19及び図17に示すとおり、本発明に係る軟らか煮付け品に該当する試料2及び3の味の測定値は、比較対照品である軟化処理をしていない通常のマツイカの切り身の煮付け品の各味を基準=0として、「酸味」及び「塩味」の点では±2の範囲外となったが、「苦味雑味」、「渋味刺激」、「旨味」、「苦味」、「渋味」、及び「旨味コク」の点では±2未満(−2<測定値<+2)に収まっていた。味認識装置を用いる味分析において、比較対照品を0としたときの味の測定値が±2未満の場合には、これをヒトが食しても比較対照品との味の差としては認識されないといわれている。したがって、ヒトが食したときに「異味」として認識されると考えられる「苦味雑味」「渋味刺激」「苦味」「渋味」の測定値がいずれも±2未満に収まっていたという上記分析結果は、ヒトが試料2又は3を食したときにも通常品である比較対照品と比べて異味があるとは感じられず、本発明品が異味を有さない煮付け品であることを示している。特に異味として最も強く感じられるとされる「苦味雑味」についての試料2及び3の測定値は、比較対照品と比べて±1以内にとどまっており、本発明のイカの切り身の軟らか煮付け品は、異味のない煮付け品である。
<軟化試験B2(マツイカの煮付け品)>
軟化試験A2と軟化試験B1において、希釈率が50%の軟化液を用いる場合には、異味、異臭が感じられるという結果が得られたので、軟化液の希釈率を25%、30%、又は40%とし、浸漬時間を2時間、4時間、16時間、20時間、又は24時間、浸漬温度を4℃、6℃、10℃、又は22℃、固液比を1:1.3又は1:1.5とした以外は軟化試験B1と同様にして、マツイカの切り身の煮付け品を製造し、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重(硬さ)を測定した。(ただし、浸漬時間2時間、浸漬温度6℃の場合、及び浸漬時間4時間、浸漬温度4℃の場合については、固液比1:1.5の条件下でのみ試験を行い、固液比1:1.3での試験は行っていない。)なお、各検体には、軟化試験A1におけると同じ事前加熱を施した。結果を表20に示す。ただし、希釈率40%、24時間、22℃の浸漬条件での硬さの測定値は表11から転記したものである。また、350gfを超える硬さには下線を付してある。
表20に見られるとおり、希釈率が25%の軟化液を用いて軟化処理を行った場合、切り身の軟化液への浸漬時間が4時間、浸漬温度が6℃の場合には、固液比1:1.3又は1:1.5のいずれの場合においても、350gfを下回る軟らかさを備えたマツイカの切り身の煮付け品が得られた。得られた煮付け品を肉眼観察したところ、薄皮の剥離や、身表面の溶けや崩れは認められず、イカの切り身の煮付け品本来の外観形状を有していた。また、試食したところ、イカの切り身の煮付け品本来の味がし、軟化液浸漬による異味、異臭は全く感じられなかった。
ところが、浸漬時間が同じ4時間であっても、浸漬温度が4℃になると、これまで最も良い結果が得られている固液比1:1.5の場合でも、得られるイカの切り身の煮付け品の硬さは530gfとなり、350gfを大きく上回った。また、浸漬温度が6℃であっても、浸漬時間が2時間になると、得られるイカの切り身の煮付け品の硬さは623gfとなり、同様に、350gfを上回った。
希釈率が30%又は40%の軟化液を用いて軟化処理を行った場合にも同様の結果が得られた。すなわち、表20に示すとおり、希釈率が30%又は40%の軟化液を用いて軟化処理を行った場合においても、切り身の軟化液への浸漬時間が4時間、浸漬温度が6℃の場合には、固液比1:1.3又は1:1.5のいずれの場合においても、350gfを下回る軟らかさを備えたマツイカの切り身の煮付け品が得られた。これらのイカの煮付け品を肉眼観察したところ、薄皮の剥離や、身表面の溶けや崩れは認められず、イカの切り身の煮付け品本来の外観形状を有していた。また、試食したところ、イカの切り身の煮付け品本来の味がし、軟化液浸漬による異味、異臭は全く感じられなかった。
ところが、浸漬温度が4℃になると、浸漬時間が4時間、固液比が1:1.5でも、得られるイカの切り身の煮付け品の硬さは512gf(希釈率30%の場合)又は496gf(希釈率が40%の場合)となり、350gfを大きく上回った。また、浸漬時間が2時間になると、浸漬温度が6℃であっても、得られるイカの切り身の煮付け品の硬さは535gf(希釈率30%の場合)又は578gf(希釈率40%の場合)となり、やはり、350gfを上回った。
以上の結果から、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が350gf以下という軟らかさを有するイカの切り身の軟らか煮付け品を製造するには、イカの切り身の軟化液への浸漬時間は少なくとも4時間は必要で、軟化液の温度は6℃以上であることが必要であると判断された。
また、表20に示すとおり、希釈率が40%の軟化液を用いて軟化処理を行った場合、軟化液の温度が6℃以上になると、浸漬時間4時間、16時間、20時間、又は24時間のいずれの場合にも、得られるイカの切り身の煮付け品の硬さは350gf以下となり、「弱い力で噛める」程度若しくはそれ以上の軟らかさを備えたイカの煮付け品が得られた。中でも、軟化液の温度が10℃以上になると、浸漬時間24時間で、得られるイカの切り身の煮付け品の硬さは350gf以下となり、「舌で潰せる」程度に軟らかい煮付け品が得られた。
なお、硬さの測定時にこれら硬さが350gf以下となった煮付け品を肉眼観察したところ、薄皮の剥離や、身表面の溶けや崩れは認められず、イカの切り身の煮付け品本来の外観形状を有していた。また、試食したところ、イカの切り身の煮付け品本来の味がし、軟化液浸漬による異味、異臭は全く感じられなかった。
上記の結果と、軟化試験A1、A2、及び軟化試験B1の結果を総合すると、事前加熱をした上で、希釈率が25%〜40%の軟化液に、4時間〜24時間、6℃〜22℃で、固液比が少なくとも1:1.3以上1:1.5以下の範囲内となる条件下で浸漬すると、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が350gf以下という軟らかさを備え、異味、異臭がなく、かつ、イカの煮付け品本来の外観形状が保持されたイカの軟らか煮付けを製造することができることを示している。また、中でも、希釈率が30%〜40%の軟化液に、24時間、22℃で、固液比が1:1.3〜1:1.5の条件下で浸漬すると、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が100gf以下という軟らかさを備え、異味、異臭がなく、かつ、イカの煮付け品本来の外観形状が保持された極めて軟らかいイカの軟らか煮付け品を製造することができることを示している。なお、軟化液の温度の上限を22℃としたのは、軟化液の温度が23℃以上になると、微生物の繁殖が激しくなり、雑菌の増加、腐敗臭の発生が懸念されるためである。
C:タコ
<軟化試験C1(タコのトマト煮)>
マツイカに代えてタコを用い、煮付け液として通常の煮付け液に代えてトマト煮用の煮付け液を用いた以外は軟化試験B1と同様にして、上記ア〜スの工程でタコのトマト煮を製造し、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重(硬さ)を測定した。ただし、タコは、頭部及び足部をブツ切りにカットした切り身を約40gずつに小分けし、切り身約40gを1検体として用いた。原料として用いるタコは、ブツ切りにカットされた胴部及び足部の切り身の冷凍品であっても良いし、タコ全体の冷凍品であっても良い。原料として用いるタコがタコ全体の冷凍品である場合には、上記イの解凍工程に続いて、解凍又は半解凍状態で、頭部及び足部をブツ切りして、約40gずつに小分けして用いれば良い。
また、硬さの測定は、各検体から無作為に一つの切り身を取り出し、切り身のカットされた左側面及び右側面のそれぞれ3箇所、計6箇所を測定した。各軟化液浸漬条件について、それぞれ3検体ずつ製造して硬さを測定し、計18個の測定値の中で最も大きな荷重をもって硬さの測定値(gf)とした。なお、各検体には、軟化試験A1におけると同じ事前加熱を施した。結果を表21に示す。350gfを超える硬さには下線を付してある。
また、対照として、同じタコを用い、上記オの軟化液浸漬(軟化処理)工程と、カの液切り工程を経ない以外は同様にして、タコの切り身のトマト煮を製造し、同様にして、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重(硬さ)を測定した。結果を表22に示す。
表21に見られるとおり、マイタケの絞り汁を水で25%に希釈した軟化液を用いて軟化処理をした場合、22℃、24時間の浸漬では、固液比が1:1.3及び1:2の場合には、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重は350gf以下となったが、固液比が1:1、1:1.2、1:1.4、1:1.5、及び1:1.6の場合には、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重は350gfを超え、「弱い力で噛める」程度若しくはそれ以上の軟らかさを有するタコの切り身のトマト煮を安定して製造することができなかった。
一方、マイタケの絞り汁を水で30%、40%、又は50%に希釈した軟化液を用いて軟化処理をした場合、22℃、24時間の浸漬では、試験したいずれの固液比においても、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重は350gf以下となり、「弱い力で噛める」程度若しくはそれ以上の軟らかさを有するタコの切り身のトマト煮が安定して得られた。この軟らかさは、軟化液浸漬を行わない点以外は同様にして製造されたタコの切り身のトマト煮の硬さが、表22に示すとおり、555gf(対照4)であったことに鑑みると、極めて軟らかいものである。
中でも、希釈率が30%、40%、又は50%の軟化液を用いて軟化処理をした場合には、22℃、24時間の浸漬では、事前加熱を施した場合、1:1.3以上の固液比において、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重は100gf以下となり、「舌で潰せる」程度という極めて軟らかいタコの切り身のトマト煮が得られた。
しかしながら、上記硬さの測定時に、測定対象となるタコの切り身のトマト煮を肉眼で観察したところ、軟化液の希釈率が30%又は40%の場合、固液比が1:1.6及び1:2の条件下では、身崩れや、切り身表面の溶けが認められ、タコの切り身のトマト煮本来の外観形状を保持しているとはいえなかった。これに対し、固液比が1:1〜1:1.5の範囲にある場合には、身崩れや、切り身表面の溶けは認められず、タコの切り身のトマト煮本来の外観形状が保持されていた。一方、軟化液の希釈率が50%の場合には、試験した全固液比のトマト煮において、若干の身の崩れや切り身表面の溶けが認められ、タコの切り身のトマト煮本来の外観形状が保持されているとは言い難いものであった。
一例として、希釈率が40%の軟化液を用い、固液比が1:1、1:1.3、1:1.5、1:1.6、又は1:2の条件下で軟化液浸漬処理を行って得られたタコのトマト煮の外観写真を、それぞれ図18〜図22に示す。
図21に示すとおり、希釈率が40%の軟化液を用い、固液比が1:1.6の条件下で軟化液浸漬処理を行って得られたタコのトマト煮は、切り身が軟化しすぎて身崩れしており、身崩れによって生じた細かな断片が認められる。また、図22に示すとおり、固液比が1:2の条件下で軟化液浸漬処理を行って得られたタコのトマト煮は、切り身の表面が溶け、丸くなっており、タコの切り身のトマト煮本来の外観形状を保持しているとは言い難い。
これに対し、図18〜図20に見られるとおり、希釈率が40%の軟化液を用い、固液比が1:1〜1:1.5の条件下で軟化液浸漬処理を行って得られたタコのトマト煮は、切り身の崩れや、切り身表面の溶けは認められず、タコの切り身のトマト煮本来の外観形状が保持されている。
また、上記硬さの測定時に、測定対象となるタコの切り身のトマト煮を試食したところ、希釈率が25%、30%、又は40%の軟化液を用いて軟化処理したタコの切り身のトマト煮は、タコのトマト煮本来の味がし、軟化液浸漬による異味、異臭は全く感じられなかった。しかしながら、希釈率が50%の軟化液を用いて軟化処理したタコの切り身のトマト煮は、軟化液浸漬時の固液比にかかわらず、軟化液に起因すると思われる異味、異臭がし、苦味があり、マイタケ臭も感じられ、タコのトマト煮本来の味が保持されているとは到底いえないものであった。
<官能検査C1(タコのトマト煮)>
健康な計6名の男女をパネラーとし、軟化試験C1で製造された下記のタコの切り身のトマト煮M〜Oについて、官能検査A1におけると同様にして、官能検査を行った。結果をタコの切り身のトマト煮M〜Oの順に、それぞれ表23〜表25に示す。
(対象としたタコのトマト煮)
・タコのトマト煮M(表21の#33の浸漬条件における固液比1:1.3のもの)
軟化液の希釈率:30%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.3
硬さ 92gf
・タコのトマト煮N(表21の#34の浸漬条件における固液比1:1.3のもの)
軟化液の希釈率 40%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.3
硬さ 93gf
・タコのトマト煮O(表21の#35の浸漬条件における固液比1:1.3のもの)
軟化液の希釈率 50%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.3
硬さ 77gf
表23及び表24に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が30%又は40%の軟化液を用いて軟化処理をしたタコの切り身をトマト煮用の煮付け液の存在下で加熱して得られたトマト煮(煮付け品)M及びNは、検査した「外観形状」、「外観色調」、「異味(苦味、えぐみ)」、「味」、「異臭」、「マイタケ臭」のいずれの項目においても、「良い=4」又は「非常に良い=5」と評価され、タコの切り身のトマト煮本来の外観形状、色調、味を有するとともに、異味、異臭がなく、マイタケ臭も感じられない優れた煮付け品であった。
これに対し、表25に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が50%の軟化液を用いて軟化処理をしたタコの切り身をトマト煮用の煮付け液の存在下で加熱して得られたトマト煮(煮付け品)Oは、外観形状も含めて検査された全ての項目において評価点の平均値が「普通=3」未満となった。特に「異味」、「異臭」及び「マイタケ臭」に関しては評価点の平均値は「悪い=2」に近い2.3若しくは「悪い=2」を下回る1.8と評価され、異味、異臭が感じられるとともに、強いマイタケ臭がすると評価されるものであった。
タコのトマト煮について得られた以上の結果は、好適な固液比の範囲において若干のずれはあるものの、スルメイカやマツイカの煮付け品について得られた結果と軌を一にするものであり、少なくともイカやタコなどの頭足類に関しては、事前加熱をした上で、希釈率が30%〜40%の軟化液に、4時間〜24時間、6℃〜22℃で、固液比が少なくとも1:1.3以上1:1.5以下の範囲内となる条件下で浸漬すると、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が350gf以下という軟らかさを備え、異味、異臭がなく、かつ、イカ又はタコの煮付け品本来の外観形状が保持されたイカ又はタコの軟らか煮付け品を製造することができることを示している。また、中でも、希釈率が30%〜40%の軟化液に、24時間、22℃で、固液比が1:1.3〜1:1.5の条件下で浸漬すると、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が100gf以下という軟らかさを備え、異味、異臭がなく、かつ、イカ又はタコの煮付け品本来の外観形状が保持された極めて軟らかいイカ又はタコの軟らか煮付け品を製造することができることを示している。
<味認識装置による評価C1>
本発明に係るタコの切り身の煮付け品が異味、異臭のないものであることをより客観的に確認すべく、味認識装置による評価A1におけると同様にして、以下の比較対照品と試料4及び5について味認識装置による味分析を、外部の検査機関(厚生労働省登録検査機関 株式会社キューサイ分析研究所)に依頼した。その詳細は以下のとおりである。
(味分析対象試料)
・比較対照品:通常の(軟化処理を経ない)タコの切り身のトマト煮(株式会社新東京フード製)
・試料4:タコの切り身(約40g)を希釈率40%の軟化液に、固液比1:1.3で、24時間、22℃で浸漬したものをトマト煮用の煮付け液の存在下で加熱して得られた切り身のトマト煮(表21における浸漬条件#34の固液比1:1.3のものに相当:硬さ93gf)
・試料5:タコの切り身(約40g)を希釈率40%の軟化液に、固液比1:1.5で、24時間、22℃で浸漬したものをトマト煮用の煮付け液の存在下で加熱して得られた切り身の煮付け品(表21における浸漬条件#34の固液比1:1.5のものに相当:硬さ79gf)
(味分析結果)
試料4及び5についての「酸味」、「苦味雑味」、「渋味刺激」、「旨味」、「塩味」、「苦味」、「渋味」、「旨味コク」の8種類の味が、比較対照品である軟化処理をしていない通常のタコの切り身のトマト煮の測定値を基準値=0とした相対値で求められた。結果を表26に示す。また、結果をレーダチャートとして表したものを図23に示す。
表26及び図23に示すとおり、本発明に係る軟らか煮付け品に該当する試料4及び5の味の測定値は、比較対照品である軟化処理をしていない通常のタコの切り身のトマト煮の各味を基準=0として、「酸味」及び「塩味」の点では±2の範囲外となったが、「苦味雑味」、「渋味刺激」、「旨味」、「苦味」、「渋味」、及び「旨味コク」の点では±2未満(−2<測定値<+2)に収まっていた。味認識装置を用いる味分析において、比較対照品を0としたときの味の測定値が±2未満の場合には、これをヒトが食しても比較対照品との味の差としては認識されないといわれている。したがって、ヒトが食したときに「異味」として認識されると考えられる「苦味雑味」「渋味刺激」「苦味」「渋味」の測定値がいずれも±2未満に収まっていたという上記分析結果は、ヒトが試料4又は5を食したときにも通常品である比較対照品と比べて異味があるとは感じられず、本発明品が異味を有さない煮付け品であることを示している。特に異味として最も強く感じられるとされる「苦味雑味」についての試料4及び5の測定値は、比較対照品と比べて±1以内にとどまっており、本発明のタコの切り身の軟らか煮付け品は、異味のない煮付け品である。
D:スルメイカ−その2−
<軟化試験D1(スルメイカのトマト煮、柚子味噌煮、カレー煮)>
煮付け液を通常の煮付け液からトマト煮用、柚子味噌煮用、又はカレー煮用の煮付け液に代え、希釈率が30%、40%、又は50%の軟化液を用いた以外は、軟化試験A2と同様にして、スルメイカのトマト煮、柚子味噌煮、又はカレー煮を製造し、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重(硬さ)を測定した。(ただし、柚子味噌煮については「事前加熱なし」の検体は作成していない。)結果を表27に示す。
表27に示すとおり、トマト煮、柚子味噌煮、又はカレー煮のいずれにおいても、希釈率が30%、40%、又は50%の軟化液を用いて軟化浸漬を行った場合には、軟化試験A1及びA2に示したスルメイカの切り身の煮付け品と同様に、事前加熱を施した場合には、24時間、22℃、固液比1:1.3又は1:1.5の軟化浸漬条件下で、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が100gf以下という極めて軟らかいイカの軟らか煮付け品を製造することができた。
また、上記硬さの測定時に、測定対象となるイカの切り身のトマト煮、柚子味噌煮、又はカレー煮を肉眼で観察したところ、事前加熱を施して得られた煮付け品については、軟化液の希釈率が30%又は40%の場合には、固液比1:1.3又は1:1.5の双方で、薄皮の剥離や、身の溶解は認められず、イカの切り身の煮付け品本来の外観形状が保持されていた。しかし、軟化液の希釈率が50%になると、目立った身の崩れや溶けはないものの、若干の身の崩れが認められ、また、身肉の色調も悪く、イカの切り身の煮付け品本来の外観形状が保持されているとは言い難いものであった。
これに対し、表27に「※」で示すとおり、希釈率が30%の軟化液を用い、事前加熱を行わないで軟化液浸漬を行って製造されたスルメイカの切り身のトマト煮又はカレー煮は、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重を測定することができないほどに身崩れがひどく、イカの煮付け品本来の外観形状を備えているとは到底いえないものであった。これらの結果は、煮付け調理の種類の如何にかかわらず、イカの煮付け品本来の外観形状を保持した煮付け品を製造するには事前加熱が不可欠であることを示している。
一例として、事前加熱処理を行わずに、希釈率30%の軟化液に、固液比1:1.3の条件下で、24時間、22℃で浸漬して、製造されたスルメイカの切り身のトマト煮又はカレー煮の外観写真を、ぞれぞれ図24及び図25に示す。図24及び図25に示すとおり、事前加熱処理を行わずに軟化液に浸漬して得られたスルメイカの切り身のトマト煮及びカレー煮は、切り身のリング状の形状を保つことができないほどに身崩れしており、イカの切り身の煮付け品本来の外観形状を備えているとは到底いえないものであった。
また、上記硬さの測定時に、測定対象となるイカの切り身のトマト煮、柚子味噌煮、又はカレー煮を試食したところ、希釈率が30%又は40%の軟化液を用いて軟化処理したイカの切り身のトマト煮、柚子味噌煮、及びカレー煮はイカのトマト煮、柚子味噌煮、又はカレー煮本来の味がし、軟化液浸漬による異味、異臭は全く感じられなかった。しかしながら、希釈率が50%の軟化液を用いて軟化処理したイカの切り身の煮付け品は、トマト煮、柚子味噌煮、及びカレー煮のいずれにおいても、軟化液浸漬処理に用いた軟化液に起因すると思われる異味、異臭が感じられ、特に苦味が強く、イカの煮付け品本来の味であるとはいえないものであった。
<官能検査D1(スルメイカのトマト煮)>
健康な計6名の男女をパネラーとし、軟化試験D1で製造された下記のスルメイカの切り身のトマト煮P〜Rについて、官能検査A1におけると同様にして、官能検査を行った。結果をスルメイカの切り身のトマト煮P〜Rの順に、それぞれ表28〜表30に示す。
(対象としたスルメイカのトマト煮)
・スルメイカのトマト煮P(表27の#36の浸漬条件における固液比1:1.3のもの)
軟化液の希釈率:30%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.3
硬さ 95gf
・スルメイカのトマト煮Q(表27の#38の浸漬条件における固液比1:1.3のもの)
軟化液の希釈率 40%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.3
硬さ 68gf
・スルメイカのトマト煮R(表27の#39の浸漬条件における固液比1:1.3のもの)
軟化液の希釈率 50%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.3
硬さ 65gf
表28及び表29に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が30%又は40%の軟化液を用いて軟化処理をしたスルメイカの切り身をトマト煮用の煮付け液の存在下で加熱して得られたトマト煮(煮付け品)P及びQは、検査した「外観形状」、「外観色調」、「異味(苦味、えぐみ)」、「味」、「異臭」、「マイタケ臭」のいずれの項目においても、「良い=4」又は「非常に良い=5」と評価され、スルメイカの切り身のトマト煮本来の外観形状、色調、味を有するとともに、異味、異臭がなく、マイタケ臭も感じられない優れた煮付け品であった。
これに対し、表30に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が50%の軟化液を用いて軟化処理をしたスルメイカの切り身をトマト煮用の煮付け液の存在下で加熱して得られたトマト煮(煮付け品)Rは、外観形状も含めて検査された全ての項目において評価点の平均値は「普通=3」未満となった。特に「異味」、「異臭」及び「マイタケ臭」に関しては評価点の平均値は「悪い=2」を下回り、異味、異臭が感じられるとともに、強いマイタケ臭がすると評価されるものであった。
E:マツイカ−その2−
<軟化試験E1(マツイカのトマト煮、柚子味噌煮、カレー煮)>
煮付け液を通常の煮付け液からトマト煮用、柚子味噌煮用、又はカレー煮用の煮付け液に代え、希釈率が30%、40%、又は50%の軟化液を用い、固液比を1:1.3又は1:1.5にした以外は、軟化試験B1と同様にして、マツイカのトマト煮、柚子味噌煮、又はカレー煮を製造し、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重(硬さ)を測定した。結果を表31に示す。
表31に示すとおり、トマト煮、柚子味噌煮、又はカレー煮のいずれにおいても、希釈率が30%、40%、又は50%の軟化液を用いて軟化浸漬を行った場合には、軟化試験B1及びB2に示したマツイカの切り身の煮付け品と同様に、事前加熱を施した場合には、24時間、22℃、固液比1:1.3又は1:1.5の軟化浸漬条件下で、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が100gf以下という極めて軟らかいイカの軟らか煮付け品を製造することができた。
また、上記硬さの測定時に、測定対象となるマツイカの切り身のトマト煮、柚子味噌煮、又はカレー煮を肉眼で観察したところ、事前加熱を施して得られた煮付け品については、軟化液の希釈率が30%又は40%の場合には、固液比1:1.3又は1:1.5の双方で、薄皮の剥離や、身の溶解は認められず、イカの切り身の煮付け品本来の外観形状が保持されていた。しかし、軟化液の希釈率が50%の場合には、目立った身の崩れや溶けは認められないものの、切り身の色調が悪く、マツイカの切り身の煮付け品本来の外観形状が保持されているとはいえないものであった。
また、上記硬さの測定時に、測定対象となるマツイカの切り身のトマト煮、柚子味噌煮、又はカレー煮を試食したところ、希釈率が30%又は40%の軟化液を用いて軟化処理したマツイカの切り身のトマト煮、柚子味噌煮、及びカレー煮はイカのトマト煮、柚子味噌煮、又はカレー煮本来の味がし、軟化液浸漬による異味、異臭は全く感じられなかった。しかしながら、希釈率が50%の軟化液を用いて軟化処理したマツイカの切り身の煮付け品は、トマト煮、柚子味噌煮、及びカレー煮のいずれにおいても、軟化液浸漬処理に用いた軟化液に起因すると思われる異味、異臭が感じられ、特に苦味が強く、イカの煮付け品本来の味であるとはいえないものであった。
<官能検査E1(マツイカのトマト煮)>
健康な計6名の男女をパネラーとし、軟化試験E1で製造された下記のマツイカの切り身のトマト煮S〜Uについて、官能検査A1におけると同様にして、官能検査を行った。結果をマツイカの切り身のトマト煮S〜Uの順に、それぞれ表32〜表34に示す。
(対象としたマツイカのトマト煮)
・マツイカのトマト煮S(表31の#47の浸漬条件における固液比1:1.3のもの)
軟化液の希釈率:30%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.3
硬さ 88gf
・マツイカのトマト煮T(表31の#48の浸漬条件における固液比1:1.3のもの)
軟化液の希釈率 40%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.3
硬さ 63gf
・マツイカのトマト煮U(表31の#49の浸漬条件における固液比1:1.3のもの)
軟化液の希釈率 50%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.3
硬さ 60gf
表32及び表33に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が30%又は40%の軟化液を用いて軟化処理をしたマツイカの切り身をトマト煮用の煮付け液の存在下で加熱して得られたトマト煮(煮付け品)S及びTは、検査した「外観形状」、「外観色調」、「異味(苦味、えぐみ)」、「味」、「異臭」、「マイタケ臭」のいずれの項目においても、「良い=4」又は「非常に良い=5」と評価され、マツイカの切り身のトマト煮本来の外観形状、色調、味を有するとともに、異味、異臭がなく、マイタケ臭も感じられない優れた煮付け品であった。
これに対し、表34に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が50%の軟化液を用いて軟化処理をしたマツイカの切り身をトマト煮用の煮付け液の存在下で加熱して得られたトマト煮(煮付け品)Uは、外観形状も含めて検査された全ての項目において評価点の平均値は「普通=3」未満となり、異味、異臭が感じられるとともに、強いマイタケ臭がすると評価されるものであった。
F:タコ−その2−
<軟化試験F1(タコの柚子味噌煮、カレー煮)>
煮付け液を通常のトマト煮用の煮付け液から柚子味噌煮用、又はカレー煮用の煮付け液に代え、希釈率が30%、40%、又は50%の軟化液を用い、固液比を1:1.3又は1:1.5にした以外は、軟化試験C1と同様にして、タコの柚子味噌煮又はカレー煮を製造し、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重(硬さ)を測定した。結果を表35に示す。
表35に示すとおり、柚子味噌煮又はカレー煮のいずれにおいても、希釈率が30%、40%、又は50%の軟化液を用いて軟化浸漬を行った場合には、軟化試験C1に示したタコの切り身のトマト煮と同様に、事前加熱を施した場合には、24時間、22℃、固液比1:1.3又は1:1.5の軟化浸漬条件下で、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が100gf以下という極めて軟らかいタコの軟らか煮付け品を製造することができた。
また、上記硬さの測定時に、測定対象となるタコの切り身の柚子味噌煮又はカレー煮を肉眼で観察したところ、事前加熱を施して得られた煮付け品については、軟化液の希釈率が30%又は40%の場合には、固液比1:1.3又は1:1.5の双方で、身の崩れや、切り身表面の溶解は認められず、タコの切り身の煮付け品本来の外観形状が保持されていた。しかし、軟化液の希釈率が50%の場合には、やや身の崩れや溶けが認められ、切り身の角が溶けて丸くなり、タコの切り身の煮付け品本来の外観形状が保持されているとは言い難いものであった。
また、上記硬さの測定時に、測定対象となるタコの切り身の柚子味噌煮又はカレー煮を試食したところ、希釈率が30%又は40%の軟化液を用いて軟化処理したタコの切り身の柚子味噌煮及びカレー煮はタコの切り身の柚子味噌煮又はカレー煮本来の味がし、軟化液浸漬による異味、異臭は全く感じられなかった。しかしながら、希釈率が50%の軟化液を用いて軟化処理したタコの切り身の煮付け品は、柚子味噌煮及びカレー煮のいずれにおいても、軟化液浸漬処理に用いた軟化液に起因すると思われる異味、異臭が感じられ、特に苦味が強あり、タコの煮付け品本来の味であるとはいえないものであった。
上記のとおり、煮付けの調理法を通常の煮付け、トマト煮、柚子味噌煮、又はカレー煮と変えて得られた以上の結果は、いずれもほぼ一致しており、少なくともイカやタコなどの頭足類に関しては、煮付けの調理法にかかわらず、事前加熱をした上で、希釈率が30%〜40%の軟化液に、4時間〜24時間、6℃〜22℃で、固液比が少なくとも1:1.3以上1:1.5以下の範囲内となる条件下で浸漬すると、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が350gf以下という軟らかさを備え、異味、異臭がなく、かつ、イカ又はタコの煮付け品本来の外観形状が保持されたイカ又はタコの軟らか煮付けを製造することができると判断された。また、中でも、希釈率が30%〜40%の軟化液に、24時間、22℃で、固液比が1:1.3〜1:1.5の条件下で浸漬すると、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が100gf以下という軟らかさを備え、異味、異臭がなく、かつ、イカ又はタコの煮付け品本来の外観形状が保持された極めて軟らかいイカ又はタコの軟らか煮付け品を製造することができることが判明した。
G:エビ
<軟化試験G1(エビのコンソメ煮)>
スルメイカをエビ(ブラックタイガー)に代え、煮付け液をコンソメ煮用の煮付け液に代えた以外は、軟化試験A1におけると同様にして、上記ア〜スの工程を経て、エビの剥き身のコンソメ煮を製造した。なお、原料として搬入されたエビ(ブラックタイガー)の冷凍品は、解凍後、頭部、脚部、及び腸を取り除き、殻剥きして剥き身としたもの2尾(約30g)を1検体とした。
また、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重(硬さ)の測定は、各検体から無作為に一尾の剥き身を選択し、頭部を左にして、左側、中央、右側の3箇所を表裏計6箇所測定した。それぞれの軟化液浸漬条件について、それぞれ3検体ずつ製造、測定し、計18個の測定値の中で最も大きな荷重をもって硬さの測定値(gf)とした。結果を表36に示す。なお、350gfを超える硬さには下線を付してある。
また、対照として、同じエビの剥き身を用い、オの軟化液浸漬(軟化処理)工程と、カの液切り工程を経ない以外は同様にして、エビの剥き身のコンソメ煮を製造し、上記と同様にして、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重(硬さ)を測定した。結果を表37に示す。
表36に見られるとおり、対象がエビである場合、軟化液の希釈率が25%の場合には、22℃、24時間の浸漬では、事前加熱ありであっても、固液比に関わらず、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重は350gfを上回り、「弱い力で噛める」程度若しくはそれ以上の軟らかさを有するえびの剥き身のコンソメ煮は得られなかった。固液比を1:1.3又は1:1.5に限って試験された「事前加熱なし」の検体においても同様であった。
これに対し、軟化液の希釈率が30%で、「事前加熱あり」の場合、固液比1:1及び1:1.2では直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重は350gfを上回ったものの、固液比が1:1.3以上になると、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重は350gfを下回り、「弱い力で噛める」程度若しくはそれ以上の軟らかさを有するエビの剥き身のコンソメ煮が得られた。この軟らかさは、軟化液浸漬を行わない点以外は同様にして製造されたエビの剥き身のコンソメ煮の硬さが、表37に示すとおり、1116gf(対照5)であったことに鑑みると、極めて軟らかいものである。
一方、希釈率が40%又は50%の軟化液を用いて軟化処理をした場合には、22℃、24時間の浸漬では、「事前加熱あり」の場合、固液比に関わらず、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重は350gfを下回り、「弱い力で噛める」程度若しくはそれ以上の軟らかさを有するエビの剥き身のコンソメ煮が得られた。
ところが、希釈率30%、40%、又は50%、固液比1:1.3又は1:1.5という浸漬条件で軟化浸漬を行った場合であっても、「事前加熱なし」の場合には、表36に示すとおり、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重は350gfを上回り、「弱い力で噛める」程度若しくはそれ以上の軟らかさを有するエビの剥き身のコンソメ煮は得られなかった。この結果は、「事前加熱なし」では軟化浸漬処理によって荷重(硬さ)の測定ができない程に身が崩れてしまったイカ、タコの場合とは傾向を異にするものであるが、エビの場合には、イカ、タコなどの頭足類とは違って、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が350gfを下回る軟らかさを有するエビの剥き身の煮付け品を得るには、事前加熱が不可欠であることを示している。上記のような傾向の違いがもたらされる理由については定かではないが、イカ又はタコとエビとにおける身質(肉質)の違いが影響しているのではないかと推測される。
また、上記硬さの測定時に、測定対象となるエビの剥き身のコンソメ煮を肉眼で観察したところ、350gf以下の軟らかさが得られた検体中、軟化液の希釈率が30%の場合には固液比が1:1.3〜1:1.5のもの、軟化液の希釈率が40%の場合には固液比が1:1.5以下のもの、及び軟化液の希釈率が50%の固液比が1:1のものには、エビの剥き身の表面に軟化処理によるものと思われる溶けや崩れは認められず、エビの剥き身のコンソメ煮本来の外観形状が、色調も含めて保持されていた。
ところが、350gf以下の軟らかさが得られた検体中、希釈率が30%又は40%の軟化液を用いて軟化処理を行った場合には、固液比が1:1.6以上のもの、及び希釈率が50%の軟化液を用いて軟化処理を行った場合には、固液比が1:1.2以上のものは、エビの剥き身の表面に軟化処理によるものを思われる溶けやぬめりが認められ、エビの剥き身のコンソメ煮本来の外観形状が保持されているとはいえないものであった。
また、上記硬さの測定時に、測定対象となるエビの剥き身のコンソメ煮を試食したところ、350gf以下の軟らかさが得られた検体中、希釈率が30%又は40%の軟化液を用いて軟化処理して得られたコンソメ煮は、エビの剥き身のコンソメ煮本来の味がし、軟化液浸漬による異味、異臭は全く感じられなかった。ところが、350gf以下の軟らかさが得られた検体中、希釈率が50%の軟化液を用いて軟化処理して得られたコンソメ煮からは、軟化液浸漬に起因すると思われる異味、異臭が強く感じられ、苦味があるとともに、マイタケ臭が感じられた。これらの結果は、先行するイカやタコについての軟化試験の結果と軌を一にするものである。
<官能検査G1(エビのコンソメ煮)>
健康な計6名の男女をパネラーとし、軟化試験G1で製造された下記のエビの剥き身のコンソメ煮V〜AAについて、官能検査A1におけると同様にして、官能検査を行った。結果をエビのコンソメ煮V〜AAの順に、それぞれ表38〜表43に示す。
(対象としたエビのコンソメ煮)
・エビのコンソメ煮V(表36の#64の浸漬条件における固液比1:1.3のもの)
軟化液の希釈率:30%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.3
硬さ 241gf
・エビのコンソメ煮W(表36の#64の浸漬条件における固液比1:1.5のもの)
軟化液の希釈率 30%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.5
硬さ 236gf
・エビのコンソメ煮X(表36の#66の浸漬条件における固液比1:1.3のもの)
軟化液の希釈率 40%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.3
硬さ 247gf
・エビのコンソメ煮Y(表36の#66の浸漬条件における固液比1:1.5のもの)
軟化液の希釈率 40%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.5
硬さ 226gf
・エビのコンソメ煮Z(表36の#68の浸漬条件における固液比1:1.3のもの)
軟化液の希釈率 50%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.3
硬さ 240gf
・エビのコンソメ煮AA(表36の#68の浸漬条件における固液比1:1.5のもの)
軟化液の希釈率 50%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.5
硬さ 310gf
表38〜表41に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が30%又は40%の軟化液を用いて軟化処理をしたエビの剥き身を煮付け液の存在下で加熱して得られたコンソメ煮V〜Yは、検査した「外観形状」、「外観色調」、「異味(苦味、えぐみ)」、「味」、「異臭」、「マイタケ臭」のいずれの項目においても、評価点の平均値は「良い=4」以上となり、エビの剥き身のコンソメ煮本来の外観形状、色調、味を有するとともに、異味、異臭がなく、マイタケ臭も感じられない優れた煮付け品であると評価された。
これに対し、表42及び表43に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が50%の軟化液を用いて軟化処理をしたエビの剥き身を煮付け液の存在下で加熱して得られたコンソメ煮Z及びAAは、外観形状や外観色調は、「良い=4」又は「普通=3」と評価され、エビの剥き身のコンソメ煮本来の外観形状、色調を一応は保持していたものの、「異味」、「味」、「異臭」、及び「マイタケ臭」に関しては、評価点の平均値は2.5以下となり、「普通=3」よりはむしろ「悪い=2」に近く評価され、異味、異臭が感じられるとともに、マイタケ臭があると評価されるものであった。
これら官能検査の結果は、軟化試験G1において、実施者が各煮付け品の硬さ測定の際にその都度行った肉眼観察及び試食の結果と一致しており、軟化試験G1の実施者による肉眼観察及び試食による評価が客観性を備えた妥当なものであることを裏付けるものである。
<軟化試験G2(エビのコンソメ煮)>
軟化試験G1において、希釈率が50%の軟化液を用いる場合には、異味、異臭が感じられるという結果が得られたので、軟化液の希釈率を40%とし、浸漬時間を2時間又は4時間、浸漬温度を4℃、6℃、又は22℃、固液比を1:1.5とした以外は軟化試験G1と同様にして、エビの剥き身のコンソメ煮を製造し、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重(硬さ)を測定した。結果を表44に示す。
表44に見られるとおり、希釈率が40%の軟化液を用いて軟化処理を行った場合、切り身の軟化液への浸漬時間が4時間、浸漬温度が6℃又は22℃の場合には、固液比1:1.5において、350gfを下回る軟らかさを備えたエビの剥き身のコンソメ煮が得られた。得られたコンソメ煮を肉眼観察したところ、エビ表面の溶けや崩れは認められず、エビの剥き身のコンソメ煮本来の外観形状が保持されていた。また、試食したところ、エビの剥き身のコンソメ煮本来の味がし、軟化液浸漬による異味、異臭は全く感じられなかった。
ところが、浸漬時間が同じ4時間であっても、浸漬温度が4℃になると、これまで良い結果が得られている固液比1:1.5の場合でも、得られるエビの剥き身のコンソメ煮の硬さは829gfとなり、350gfを大きく上回った。
以上の結果から、煮付けの対象がエビの場合でも、イカ、タコなどの頭足類の場合と同様に、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が350gf以下という軟らかさを有するエビの剥き身の軟らか煮付け品を製造するには、エビの剥き身の軟化液への浸漬時間は少なくとも4時間、軟化液の温度は6℃以上であることが必要であると判断された。
<軟化試験G3(エビのチリソース煮)>
煮付け液をコンソメ煮用の煮付け液からチリソース煮用の煮付け液に変え、全ての検体について事前加熱を行った以外は軟化試験G1と同様にして、エビの剥き身のチリソース煮を製造し、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重(硬さ)を測定した。結果を表45に示す。
また、対照として、同じエビの剥き身を用い、オの軟化液浸漬(軟化処理)工程と、カの液切り工程を経ない以外は同様にして、エビの剥き身のチリソース煮を製造し、上記と同様にして、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重(硬さ)を測定した。結果を表46に示す。
表45に見られるとおり、マイタケの絞り汁を水で25%に希釈した軟化液を用いて軟化処理をした場合、事前加熱を施した場合であっても、22℃、24時間の浸漬では、固液比に関わらず、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重は350gfを上回り、「弱い力で噛める」程度若しくはそれ以上の軟らかさを有するエビの剥き身のチリソース煮は得られなかった。
これに対し、マイタケの絞り汁を水で30%に希釈した軟化液を用いて軟化処理をした場合には、固液比1:1及び1:1.2では、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重は350gfを上回ったものの、固液比が1:1.3以上になると、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重は350gfを下回り、「弱い力で噛める」程度若しくはそれ以上の軟らかさを有するエビの剥き身のチリソース煮が得られた。この軟らかさは、軟化液浸漬を行わない点以外は同様にして製造されたエビの剥き身のチリソース煮の硬さが、表46に示すとおり、1235gf(対照6)であったことに鑑みると、極めて軟らかいものである。
一方、表45に示すとおり、希釈率が40%又は50%の軟化液を用いて軟化処理をした場合には、22℃、24時間の浸漬では、固液比に関わらず、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重は350gfを下回り、「弱い力で噛める」程度若しくはそれ以上の軟らかさを有するエビの剥き身のチリソース煮が得られた。
また、上記硬さの測定時に、測定対象となるエビの剥き身のチリソース煮を肉眼で観察したところ、350gf以下の軟らかさが得られた検体中、軟化液の希釈率が30%の場合には固液比が1:1.3以上のもの、及び軟化液の希釈率が40%の場合には固液比が1:1.5以下のものには、エビの剥き身の表面に軟化処理によるものと思われる溶けや崩れは認められず、エビの剥き身のチリソース煮本来の外観形状が、色調も含めて保持されていた。
ところが、350gf以下の軟らかさが得られた検体中、軟化液の希釈率が40%の場合には、固液比が1:1.6以上のもの、及び軟化液の希釈率が50%の場合には、固液比が1:1〜1:2のものは、エビの剥き身の表面に軟化処理によるものを思われる溶けや割れが認められ、エビの剥き身のチリソース煮本来の外観形状が保持されているとはいえないものであった。
一例として、希釈率が40%の軟化液を用い、固液比が1:1.3、1:1.5、1:1.6、又は1:2の条件下で軟化液浸漬処理を行って得られたエビのチリソース煮の外観写真を、それぞれ図26〜図29に示す。
図28及び図29に示すとおり、希釈率が40%の軟化液を用い、固液比が1:1.6又は1:2の条件下で軟化液浸漬処理を行って得られたエビの剥き身のチリソース煮には、身の割れや崩れが認められ、身の表面もやや溶けて丸みを帯びており、エビの剥き身のチリソース煮本来の外観形状を保持しているとは言い難いものである。
これに対し、図26及び図27に示すとおり、希釈率が40%の軟化液を用い、固液比が1:1.3又は1:1.5の条件下で軟化液浸漬処理を行って得られたエビの剥き身のチリソース煮には、身の割れや崩れは認められず、エビの剥き身のチリソース煮本来の外観形状が保持されている。
また、上記硬さの測定時に、測定対象となるエビの剥き身のチリソース煮を試食したところ、350gf以下の軟らかさが得られた検体中、希釈率が30%又は40%の軟化液を用いて軟化処理して得られたチリソース煮は、エビの剥き身のチリソース煮本来の味がし、軟化液浸漬による異味、異臭は全く感じられなかった。ところが、350gf以下の軟らかさが得られた検体中、希釈率が50%の軟化液を用いて軟化処理して得られたチリソース煮からは、軟化液浸漬に起因すると思われる異味、異臭が強く感じられ、苦味があるとともに、マイタケ臭が感じられた。これらの結果は、先行する軟化試験の結果と軌を一にするものである。
<官能検査G2(エビのチリソース煮)>
健康な計6名の男女をパネラーとし、軟化試験G3で製造された下記のエビの剥き身のチリソース煮AB〜AGについて、官能検査A1におけると同様にして、官能検査を行った。結果をエビのチリソース煮AB〜AGの順に、それぞれ表47〜表52に示す。
(対象としたエビのチリソース煮)
・エビのチリソース煮AB(表45の#74の浸漬条件における固液比1:1.3のもの)
軟化液の希釈率:30%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.3
硬さ 318gf
・エビのチリソース煮AC(表45の#74の浸漬条件における固液比1:1.5のもの)
軟化液の希釈率 30%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.5
硬さ 318gf
・エビのチリソース煮AD(表45の#75の浸漬条件における固液比1:1.3のもの)
軟化液の希釈率 40%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.3
硬さ 327gf
・エビのチリソース煮AE(表45の#75の浸漬条件における固液比1:1.5のもの)
軟化液の希釈率 40%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.5
硬さ 303gf
・エビのチリソース煮AF(表45の#76の浸漬条件における固液比1:1.3のもの)
軟化液の希釈率 50%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.3
硬さ 347gf
・エビのチリソース煮AG(表45の#76の浸漬条件における固液比1:1.5のもの)
軟化液の希釈率 50%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.5
硬さ 347gf
表47〜表50に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が30%又は40%の軟化液を用いて軟化処理をしたエビの剥き身を煮付け液の存在下で加熱して得られたチリソース煮AB〜AGは、検査した「外観形状」、「外観色調」、「異味(苦味、えぐみ)」、「味」、「異臭」、「マイタケ臭」のいずれの項目においても、「非常に良い=5」又は「良い=4」と評価され、エビの剥き身のチリソース煮本来の外観形状、色調、味を有するとともに、異味、異臭がなく、マイタケ臭も感じられない優れた煮付け品であると評価されるものであった。
これに対し、表51及び表52に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が50%の軟化液を用いて軟化処理をしたエビの剥き身を煮付け液の存在下で加熱して得られたチリソース煮AF及びAGは、外観形状や外観色調は、「良い=4」又は「普通=3」と評価され、エビの剥き身のコンソメ煮本来の外観形状、色調を一応は保持していたものの、「異味」、「味」、「異臭」、及び「マイタケ臭」に関しては、評価点の平均値は「普通=3」を下回る2.7以下となり、異味、異臭が感じられるとともに、マイタケ臭があると評価されるものであった。
これら官能検査の結果は、軟化試験G3において、実施者が各煮付け品の硬さ測定の際にその都度行った肉眼観察及び試食の結果と一致しており、軟化試験G3の実施者による肉眼観察及び試食による評価が客観性を備えた妥当なものであることを裏付けるものである。
上記の結果と、軟化試験G1、G2、G3、及び官能検査G1の結果を総合すると、事前加熱をした上で、希釈率が30%〜40%の軟化液に、4時間〜24時間、6℃〜22℃で、固液比が少なくとも1:1.3以上1:1.5以下の範囲内となる条件下で浸漬すると、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が350gf以下という軟らかさを備え、異味、異臭がなく、かつ、エビの剥き身の煮付け品本来の外観形状が保持されたエビの剥き身の軟らか煮付けを製造することができると判断される。なお、軟化液の温度の上限を22℃としたのは、軟化液の温度が23℃以上になると、微生物の繁殖が激しくなり、雑菌の増加、腐敗臭の発生が懸念されるためである。
H:アサリ
<軟化試験H1(アサリのクリーム煮)>
エビをアサリに代え、固液比を1:1.3又は1:1.5に固定し、全て事前加熱を施し、かつ、煮付け液としてコンソメ煮用の煮付け液に代えてクリーム煮用の煮付け液を用いた以外は軟化試験G1と同様にして、アサリの剥き身のクリーム煮を製造し、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重(硬さ)を測定した。なお、アサリは、原料として搬入した殻付きアサリの冷凍品を解凍後、貝殻を外して剥き身としたもの20個(約30g)を1検体として試験した。
上記荷重(硬さ)の測定は、上記スの保管工程後、各検体を適宜のタイミングで解凍し、喫食時の温度に相当する常温まで戻した後に、梱包を開封して、各検体から無作為に6個の剥き身を選択し、各剥き身の片面、中央部1箇所を測定した。それぞれの軟化液浸漬条件について、それぞれ3検体ずつ製造、測定し、計18個の測定値の中で最も大きな荷重をもって硬さの測定値(gf)とした。結果を表53に示す。なお、350gfを超える硬さには下線を付してある。
また、対照として、同じアサリの剥き身を用い、上記オの軟化液浸漬(軟化処理)工程と、カの液切り工程を経ない以外は同様にして、アサリの剥き身のクリーム煮を製造し、上記と同様にして、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重(硬さ)を測定した。結果を表54に示す。
表53に見られるとおり、マイタケの絞り汁を水で25%に希釈した軟化液を用いて軟化処理をした場合、「事前加熱あり」であっても、22℃、24時間の浸漬では、固液比1:1.3及び1:1.5のいずれにおいても、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重は350gfを上回り、「弱い力で噛める」程度若しくはそれ以上の軟らかさを有するアサリの剥き身のクリーム煮は得られなかった。
これに対し、マイタケの絞り汁を水で30%、40%、又は50%に希釈した軟化液を用いて軟化処理をした場合には、固液比が1:1.3及び1:1.5のいずれにおいても、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重は350gfを下回り、「弱い力で噛める」程度若しくはそれ以上の軟らかさを有するアサリの剥き身のクリーム煮が得られた。この軟らかさは、軟化液浸漬を行わない点以外は同様にして製造されたアサリの剥き身のクリーム煮の硬さが、表54に示すとおり、682gf(対照7)であったことに鑑みると、極めて軟らかいものである。
また、上記硬さの測定時に、測定対象となるアサリの剥き身のクリーム煮を肉眼で観察したところ、350gf以下の軟らかさが得られた検体中、軟化液の希釈率が30%又は40%の場合には、固液比が1:1.3及び1:1.5のいずれの条件下で得られたものにおいても、アサリの剥き身の表面に軟化処理によるものと思われる溶けや崩れは認められず、アサリの剥き身のクリーム煮本来の外観形状が保持されていた。
ところが、軟化液の希釈率が50%の場合には、固液比が1:1.3及び1:1.5のいずれの条件下で得られたものにおいても、アサリの剥き身の表面に軟化処理によるものを思われる溶けが認められ、アサリの剥き身のクリーム煮本来の外観形状が保持されているとはいえないものであった。
また、上記硬さの測定時に、測定対象となるアサリの剥き身のクリーム煮を試食したところ、希釈率が30%又は40%の軟化液を用いて軟化処理して得られたクリーム煮は、アサリの剥き身のクリーム煮本来の味がし、軟化液浸漬による異味、異臭は全く感じられなかった。ところが、希釈率が50%の軟化液を用いて軟化処理して得られたクリーム煮からは、軟化液浸漬に起因すると思われる異味、異臭が強く感じられ、苦味があるとともに、マイタケ臭が感じられた。これらの結果は、先行する軟化試験の結果と軌を一にするものであった。
<官能検査H1(アサリのクリーム煮)>
健康な計6名の男女をパネラーとし、軟化試験H1で製造された下記のアサリの剥き身のクリーム煮AH〜AMについて、官能検査A1におけると同様にして、官能検査を行った。結果をアサリのクリーム煮AH〜AMの順に、それぞれ表55〜表60に示す。
(対象としたアサリのクリーム煮)
・アサリのクリーム煮AH(表53の#78の浸漬条件における固液比1:1.3のもの)
軟化液の希釈率:30%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.3
硬さ 264gf
・アサリのクリーム煮AI(表53の#78の浸漬条件における固液比1:1.5のもの)
軟化液の希釈率 30%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.5
硬さ 333gf
・アサリのクリーム煮AJ(表53の#79の浸漬条件における固液比1:1.3のもの)
軟化液の希釈率 40%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.3
硬さ 148gf
・アサリのクリーム煮AK(表53の#79の浸漬条件における固液比1:1.5のもの)
軟化液の希釈率 40%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.5
硬さ 246gf
・アサリのクリーム煮AL(表53の#80の浸漬条件における固液比1:1.3のもの)
軟化液の希釈率 50%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.3
硬さ 119gf
・アサリのクリーム煮AM(表53の#80の浸漬条件における固液比1:1.5のもの)
軟化液の希釈率 50%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.5
硬さ 204gf
表55〜表58に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が30%又は40%の軟化液を用いて軟化処理をしたアサリの剥き身を煮付け液の存在下で加熱して得られたクリーム煮AH〜AKは、検査した「外観形状」、「外観色調」、「異味(苦味、えぐみ)」、「味」、「異臭」、「マイタケ臭」のいずれの項目においても、「非常に良い=5」又は「良い=4」と評価され、アサリの剥き身のクリーム煮本来の外観形状、色調、味を有するとともに、異味、異臭がなく、マイタケ臭も感じられない優れた煮付け品であると評価されるものであった。
これに対し、表59及び表60に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が50%の軟化液を用いて軟化処理をしたアサリの剥き身を煮付け液の存在下で加熱して得られたクリーム煮AL及びAMは、外観形状や外観色調は「普通=3」と評価され、アサリの剥き身のクリーム煮本来の外観形状、色調を一応は保持していたものの、「異味」、「味」、「異臭」、及び「マイタケ臭」に関しては、評価点の平均値は「普通=3」を下回る2.7以下となり、異味、異臭が感じられるとともに、マイタケ臭があると評価されるものであった。
これら官能検査の結果は、軟化試験H1において、実施者が各煮付け品の硬さ測定の際にその都度行った肉眼観察及び試食の結果と一致しており、軟化試験H1の実施者による肉眼観察及び試食による評価が客観性を備えた妥当なものであることを裏付けるものである。
上記の軟化試験H1及び官能検査H1の結果を総合すると、イカ、タコなどの頭足類やエビと同様に、貝類、特に試験をしたアサリにおいても、事前加熱をした上で、希釈率が30%〜40%の軟化液に、4時間〜24時間、6℃〜22℃で、固液比が少なくとも1:1.3以上1:1.5以下の範囲内となる条件下で浸漬すると、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が350gf以下という軟らかさを備え、異味、異臭がなく、かつ、貝の剥き身の煮付け品本来の外観形状が保持された貝の剥き身の軟らか煮付けを製造することができると判断される。
J:その他の魚介類
<軟化試験J1(カニ、カキ、ホタテ、ムール貝のトマト煮)>
タコに代えてカニ、カキ、ホタテ、又はムール貝を用い、軟化液の希釈率をこれまで最も良い結果が得られている40%、固液比を1:1.3に固定した以外は、軟化試験C1と同様にして、上記ア〜スの工程で、カニ、カキ、ホタテ、又はムール貝のトマト煮を製造し、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重(硬さ)を測定した。
ただし、カニは殻からとりだした足の身を用い、カキ、ホタテ、ムール貝は、いずれも貝殻を外したむき身として用いた。また、硬さの測定は、エビに関しては左側面及び右側面をそれぞれ3箇所、貝に関しては上下面をそれぞれ3箇所、いずれも計6箇所を測定した。なお、カニは後述するとおり、軟化液浸漬によって溶けてしまい、硬さを測定することができなかった。各魚介毎に、それぞれ3検体ずつ製造して硬さを測定し、計18個の測定値の中で最も大きな荷重をもって硬さの測定値(gf)とした。なお、各検体には、軟化試験A1におけると同じ事前加熱を施した。結果を表61に示す。
表61に示すとおり、事前加熱を行い、希釈率40%の軟化液に24時間、22℃で浸漬する軟化処理を経て製造されたカキ、ホタテ、及びムール貝のトマト煮は、いずれも、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が100gf以下となり、極めて軟らかい煮付け品が得られた。
また、硬さの測定時にこれらの煮付け品を肉眼で観察したところ、カキ、ホタテ、及びムール貝のトマト煮のいずれにおいても、原料素材本来の外観形状が保持されていた。さらに、これらのトマト煮を試食したところ、いずれのトマト煮からも異味、異臭は感じられず。各素材のトマト煮本来の味を楽しむことができた。
一方、カニに関しては、表61に「※」として示すとおり、希釈率40%の軟化液に24時間、22℃で浸漬することによって、全く形状が残らないほどに身が溶けてしまい、硬さの測定をすることも不可能であった。
<官能検査J1(その他の魚介のトマト煮)>
健康な計6名の男女をパネラーとし、軟化試験J1で製造された下記のトマト煮について、官能検査A1におけると同様にして、官能検査を行った。結果をカキ、ホタテ、ムール貝の順に、それぞれ表62〜表64に示す。
(対象としたトマト煮)
・カキのトマト煮AN(表61の#82の浸漬条件のもの)
軟化液の希釈率 40%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.3
硬さ 70gf
・ホタテのトマト煮AO(表61の#83の浸漬条件のもの)
軟化液の希釈率 40%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.3
硬さ 43gf
・ムール貝のトマト煮AP(表61の#84の浸漬条件のもの)
軟化液の希釈率 40%
浸漬時間 24時間
浸漬温度 22℃
固液比 1:1.3
硬さ 73gf
表62〜表64に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が40%の軟化液を用いて軟化処理をしたカキ、ホタテ、及びムール貝を、トマト煮用の煮付け液の存在下で加熱して得られたトマト煮(煮付け品)AN〜APは、検査した「外観形状」、「外観色調」、「異味(苦味、えぐみ)」、「味」、「異臭」、「マイタケ臭」のいずれの項目においても、「良い=4」又は「非常に良い=5」と評価され、魚介のトマト煮本来の外観形状、色調、味を有するとともに、異味、異臭がなく、マイタケ臭も感じられない優れた煮付け品であった。
魚介の種類を変えて行った軟化試験J1及び官能検査J1の上記の結果は、先にイカ、タコなどの頭足類やエビ、アサリについて得られた軟化処理条件が、カニを除いて、広くアサリ以外の貝類にも妥当することを示している。したがって、イカやタコなどの頭足類やエビ、貝類を含め、魚類とカニ類を除く魚介類に関しては、魚介の種類や煮付けの調理法にかかわらず、事前加熱をした上で、希釈率が30%〜40%の軟化液に、4時間〜24時間、6℃〜22℃で、固液比が少なくとも1:1.3以上1:1.5以下の範囲内となる条件下で浸漬すると、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が350gf以下という軟らかさを備え、異味、異臭がなく、かつ、素材として用いた魚介の煮付け品本来の外観形状並びに味が保持された魚介類の軟らか煮付け品を製造することができると判断された。
また、魚介の種類にもよるが、少なくともイカ、タコなどの頭足類に関しては、希釈率が30%〜40%の軟化液に、24時間、22℃で、固液比が1:1.3〜1:1.5の条件下で浸漬すると、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が100gf以下という軟らかさを備え、異味、異臭がなく、かつ、素材として用いた魚介の煮付け品本来の外観形状及び味が保持された極めて軟らかい魚介類の軟らか煮付け品を製造することができると判断された。
<比較試験1(マツイカの煮付け品)>
上述したとおり、マイタケが複数の蛋白質分解酵素を含んでいることは本願出願前から知られている。そこで、マイタケを従来から知られているやり方で使用して、本発明と同様に軟らかい魚介類の煮付け品が得られるかどうかをマツイカの切り身の煮付け品について試験した。
マイタケを用いた食品素材の軟化処理に際し、従来から知られているやり方を想定して、以下の4つの軟化液を調製した。
・軟化液A:市販のマイタケを手で細かくほぐして小分けしたものを、22℃の水70質量部に対しマイタケ30質量部の割合(マイタケ質量:30%)で30分浸漬した後、マイタケを取り出し、軟化液Aとした。
・軟化液B:市販のマイタケをほぐすことなく、22℃の水70質量部に対しマイタケ30質量部の割合(マイタケ質量:30%)で30分浸漬した後、マイタケを取り出し、軟化液Bとした。
・軟化液C:軟化液Aの調製工程において、水に30分浸漬後、マイタケを取り出さずにそのままにして、軟化液Cとした。
・軟化液D:軟化液Bの調製工程において、水に30分浸漬後、マイタケを取り出さずにそのままにして、軟化液Dとした。
軟化液A〜Dを22℃に維持しつつ、そのそれぞれに軟化試験B1で使用したのと同じマツイカの切り身(切り身合計質量約40g)を、事前加熱することなく、24時間浸漬し、その後、軟化試験B1におけると同様に処理して、軟化液が異なる4種類のマツイカの切り身の煮付け品(各軟化液ごとにそれぞれ3検体)を製造した。製造された煮付け品を軟化試験B1におけると同様に硬さ測定に供し、直径15mmの金属球を3mm押し込むに必要な荷重を測定した。結果を表65に示す。
表65に示すとおり、マツイカの切り身を軟化液A〜Dのいずれに浸漬した場合でも、24時間、22℃の軟化処理では、得られたマツイカの切り身の煮付け品の硬さは最少でも403gfにとどまり、軟化処理を施さない通常のマツイカの煮付け品(先に表12に示したとおり、その硬さは820gf)よりは軟らかくなったものの、本発明の煮付け品が示す350gf以下という軟らかさには到底及ばないものであった。この結果は、従来から知られているやり方でマイタケを使用したのでは、「弱い力で噛める」程度若しくはそれ以上の軟らかさに相当する硬さ350gf以下という軟らかさを備えたマツイカ、更には、魚類及びカニ類を除く魚介類の煮付け品を得ることはできないことを示している。
<比較試験2(エビのコンソメ煮)>
マツイカの切り身を軟化試験G1で用いたと同じエビ(ブラックタイガー)の剥き身に代え、煮付け液を通常の煮付け液からコンソメ煮用の煮付け液に代えるとともに、軟化試験G1におけると同様の事前加熱を施した以外は比較試験1と同様にして、22℃に維持された軟化液A〜Dに、エビの剥き身を固液比1:1.3で24時間浸漬し、その後、軟化試験G1におけると同様に処理して、軟化液が異なる4種類のエビの剥き身のコンソメ煮(各軟化液ごとにそれぞれ3検体)を製造した。製造された煮付け品を軟化試験G1におけると同様に硬さ測定に供し、直径15mmの金属球を3mm押し込むに必要な荷重を測定した。結果を表66に示す。
表66に示すとおり、エビの剥き身を軟化液A〜Dのいずれに浸漬した場合でも、24時間、22℃の軟化処理では、得られたエビの剥き身のコンソメ煮の硬さは最少でも914gfにとどまり、軟化処理を施さない通常のエビのコンソメ煮付け品(先に表37に示したとおり、その硬さは1116gf)よりは軟らかくなったものの、本発明の煮付け品が示す350gf以下という軟らかさには到底及ばないものであった。この結果は、従来から知られているやり方でマイタケを使用したのでは、「弱い力で噛める」程度若しくはそれ以上の軟らかさに相当する硬さ350gf以下という軟らかさを備えたエビ、更には、魚類及びカニ類を除く魚介類の煮付け品を得ることはできないことを示している。