JP7221054B2 - 魚の切り身の軟らか煮付け品とその製造方法 - Google Patents

魚の切り身の軟らか煮付け品とその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、魚の切り身の軟らか煮付け品とその製造方法に関し、詳細には、高齢者などの咀嚼力が低下した人であっても容易に咀嚼できる程度に軟らかく、かつ、魚の切り身の煮付け品本来の味を保持している魚の切り身の軟らか煮付け品とその製造方法に関する。
近年、高齢者の数が急速に増加する中、適切な医療や介護の提供に加えて、高齢者の生活の質の維持向上が重要な課題として注目されつつある。中でも、毎日の食事は、それ自体が楽しみであるばかりでなく、食事によって自らの口から各種栄養を摂取することは高齢者の体力や免疫力の維持、認知機能の低下防止、骨折防止などにも有効であるといわれており、高齢者の生活の質を考える上で、毎日の食事を如何に美味しく楽しめるものとするかは極めて重要である。
ところが、加齢とともに咀嚼力や嚥下力が低下していくことも事実であり、十分な咀嚼力や嚥下力のある人には喫食に何らの支障のない食品であっても、高齢者にとっては食しづらいことがあり、咀嚼や嚥下に困難を感じる機会が増えると、一日に摂取する食事の量も次第に少なくなり、食の楽しみが失われ、その結果、低栄養状態を招いてしまうことになりかねない。
このような不都合を解決するために、食品素材や食品原料に様々な処理を施すことによって、咀嚼力や嚥下力が低下した高齢者でも咀嚼かつ嚥下が可能な軟らかさや流動性を備えた食品や食品素材に加工することが種々提案されている。例えば、特許文献1には、魚介類や肉、野菜などの食品素材をペースト状に加工後、元の食品素材の形状に成型することによって、咀嚼困難者や嚥下障害者でも容易に喫食することができるようにした加工食品が提案されており、また、特許文献2には、ペースト状の食品原材料にマンナン等のゲル化剤を混合することでゼリー状に加工した介護食用の加工食品材料が提案されている。
しかし、これらの介護食用加工食品又は加工食品材料は、基本的に食品素材をペースト状又はゼリー状に加工したものであり、軟らかさや流動性の点では十分であるものの、その形状や色調などの外観は食品素材本来のものとは大きく掛け離れており、視覚を通じての食欲の喚起や、食品素材そのものを食べているという実感に欠け、食事を楽しむという点からは十分なものではない。
一方、本来の外観形状を保持したまま、食品素材を軟らかくする技術も提案されている。例えば、特許文献3及び特許文献4には、肉類や魚介類、穀物類などの食品素材を酵素処理することによって、食品素材固有の形状、外観等を保持した状態で軟らかくした咀嚼・嚥下困難者用の軟化食品が開示されており、これらの軟化食品は、軟らかい上に食品素材固有の形状、外観等が保持されているので、視覚を通じて十分に食欲を喚起できるとされている。
しかしながら、本発明者らが独自に得た知見によれば、食品素材が魚介類、中でもカレイやサバ、金目鯛などである場合には、その切り身を酵素処理して軟化させると、それを煮付け液の存在下で加熱して得られる煮付け品には、往々にして、本来の魚の煮付け品にはない異味、異臭が感じられることがあり、軟らかさや形状、外観等の見た目はともかく、魚の切り身の煮付け品本来の味という観点からは、必ずしも満足のできるものではないという問題点がある。
特開2012-175934号公報 特開2014-18129号公報 特開2015-23800号公報 特開2015-159753号公報
本発明は、従来の軟化食品が有する上記の問題点を解決するために為されたもので、咀嚼困難者であっても十分に咀嚼できる軟らかさを有するとともに、異味、異臭のない魚の切り身の軟らか煮付け品と、その製造方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究努力を重ねた結果、魚の切り身を酵素処理した後に煮付け液の存在下で加熱して得られる魚の切り身の煮付け品に、往々にして、異味、異臭が感じられることがあるのは、魚の切り身を酵素処理するに際し市販の酵素製剤を使用することに原因があるのではないかとの仮定の下、市販の酵素製剤に依らない酵素処理として、マイタケを用いる酵素処理に思い至った。マイタケは、サルノコシカケ科に属する茸の一種であり、複数の蛋白質分解酵素を含んでいることが知られており、マイタケ又はその抽出液を魚の切り身を軟化させるための酵素処理に用いることには合理性がある。しかし、例えば特開2003-250481号公報に記載されているとおり、マイタケに含まれる蛋白質分解酵素は強力であり、人工栽培法が確立されているとはいえ自然の産物であるマイタケ又はその抽出液に、安定した一定の蛋白質分解酵素活性値を期待することは難しく、果たして、商品として大量に製造される魚の切り身の煮付け品の軟化処理にマイタケ又はその抽出液を安定的に使用することができるのか否かは全く不明であった。
斯かる状況下、本発明者は多数の試行錯誤を繰り返し、数々の工夫を加えた結果、比較的安定した物性のマイタケ抽出液を安定的に得ることができるマイタケ抽出液の調製方法、軟化処理に最適なマイタケ抽出液の濃度、マイタケ抽出液への魚の切り身の最適な浸漬時間及び浸漬温度を見出し、さらに、斯かる軟化処理によって得られる魚の切り身を煮付け液の存在下で加熱することによって得られる煮付け品が、咀嚼力の低下した人でも十分に咀嚼可能な軟らかさを有するとともに、異味、異臭がなく、加えて、魚の切り身の煮付け品本来の外観、形状を保持していることを確認して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、魚の切り身の煮付け品であって、喫食時の温度条件下において、直径15mmの金属球を3mm押し込むに必要な荷重が350gf以下という軟らかさを有するとともに、異味、異臭のない魚の切り身の軟らか煮付け品を提供することによって、上記課題を解決するものである。
また、好適な一態様例において、本発明の魚の切り身の軟らか煮付け品は、直径15mmの金属球を3mm押し込むに必要な荷重が100gf以下という軟らかさを有するとともに、異味、異臭のない魚の切り身の軟らか煮付け品である。
本発明者らの知見によれば、直径15mmの金属球を3mm押し込むに必要な荷重が350gf以下という軟らかさは、通常、「弱い力で噛める」程度の軟らかさであり、例えば、焼き豆腐又はそれ以上の軟らかさに相当する。また、直径15mmの金属球を3mm押し込むに必要な荷重が100gf以下という軟らかさは、通常「舌でつぶせる」程度の硬さであり、例えば、絹ごし豆腐又はそれ以上の軟らかさに相当する。いずれにしても、本発明に係る魚の切り身の軟らか煮付け品は、軟化処理を経ない通常の魚の切り身の煮付け品に比べて極めて軟らかく、高齢者などの咀嚼力が低下した人でも、十分に咀嚼することができる軟らかさを備えた軟らか煮付け品である。
なお、「喫食時の温度条件下において」とは、本発明に係る魚の切り身の軟らか煮付け品は、通常、冷凍状態で流通、保存されることが想定されるところ、本発明に係る魚の切り身の軟らか煮付け品が、冷凍又は半解凍状態ではなく、実際の喫食時の温度、例えば、通常、常温以上100℃以下、より好ましくは常温以上80℃以下、さらに好ましくは常温以上60℃以下に加温された状態にあることを意味している。因みに、本明細書において、常温とは15℃をいうものとする。すなわち、上述した350gf以下及び100gf以下という硬さは、いずれも、本発明に係る魚の切り身の軟らか煮付け品が、例えば解凍又は加温されるなどして、その温度が喫食時の温度まで高められた状態での硬さであって、冷凍又は半解凍状態にあるときの硬さを意味しているのではない。
本発明に係る魚の切り身の軟らか煮付け品は、マイタケ抽出液に浸漬する軟化処理を経ても尚、異味、異臭がなく、魚の切り身の煮付け品本来の味を有している。なお、異味、異臭がないことは、パネラーを用いた官能試験によって容易に確認することが可能であり、特に、異味に関していえば、例えば、人工脂質膜型味覚センサーを用いる味認識装置(株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー製 味認識装置「TS-5000Z」)を用いて、対照品に対する相対値として定量的に確認することが可能である。
因みに、本発明に係る魚の切り身の軟らか煮付け品は、その好適な一例において、人工脂質膜型味覚センサーを用いる味認識装置によって測定される苦味雑味が、同装置で測定される対応する魚の切り身の煮付けの通常品の苦味雑味の値を基準値=0としたときの相対値として±2未満(すなわち、-2超+2未満)であり、より好適な一例においては±1未満(すなわち、-1超+1未満)である。対応する魚の切り身の煮付けの通常品とは、同種の魚の切り身を用いて、同じ煮付け液の存在下で加熱処理することによって得られる煮付け品であって、軟化処理を施していないものを意味している。
なお、上記味認識装置によって測定される味の相対値が-2以下又は+2以上である場合には、多くの人が対照品と比べて味に差を感じるといわれており、苦味雑味の相対値が±2未満ということは、対照品と比べて苦味雑味において差がないことを意味している。上記味認識装置によって測定される苦味雑味は一般に不快な苦味に相当する味とされており、その苦味雑味の相対値が±2未満、より好適には±1未満であるということは、本発明に係る魚の切り身の軟らか煮付け品は、対照品である対応する魚の切り身の煮付けの通常品と比べて苦味雑味において差がなく、異味がないということを意味している。
さらに、本発明に係る魚の切り身の軟らか煮付け品は、異味、異臭がなく、魚の切り身の煮付け品本来の味を保持していることに加えて、より好適には魚の切り身の煮付け品本来の外観形状も保持している。このため、本発明に係る魚の切り身の軟らか煮付け品は、外観上、軟化処理を経ない通常の魚の切り身の煮付け品と変わるところがなく、食卓に並んだときに、喫食者の食欲を十分に喚起することができるという利点を備えている。因みに、魚の切り身の煮付け品本来の外観形状を保持しているとは、身崩れや身割れがなく、切り身の煮付け品本来の形状を保持していることを意味している。
なお、本発明が対象とする魚の切り身は、皮付き又は皮なしのいずれであっても良いが、魚の切り身の煮付け品らしさという点からは皮付きの切り身であるのが好ましい。魚の切り身が皮付き切り身である場合、本発明に係る魚の切り身の軟らか煮付け品は、好適には、皮の身からの剥がれや浮き上がり、或いは脱落がなく、皮が身に付着している状態にあり、皮も含めて、魚の切り身の煮付け品本来の外観形状を保持している。なお、例えばカレイなどの皮が弱い魚の場合には、前処理の鱗落としの工程で皮がダメージを受け、煮付け液の存在下での加熱工程を経ると皮表面が部分的に剥げることは避けられない。このため、皮の部分的な剥げがあっても、その程度が軟化処理を施さない通常品と同程度である場合には、皮の身からの剥がれや浮き上がり、或いは脱落がなく身崩れや身割れがない限り、軟化処理をせずに調理した通常の魚の皮付き切り身の煮付け品と実質的に変わるところがないので、魚の切り身の煮付け品本来の外観形状を保持していると判断される。
また、本発明が対象とする魚の切り身の軟らか煮付け品は、咀嚼力が低下した人が喫食することを想定しているので、骨を取り除いた骨取り切り身を処理して得られる軟らか煮付け品であるのが望ましい。
本発明に係る魚の切り身の軟らか煮付け品は、煮付け液の存在下で加熱処理して得られる煮付け品であれば良く、その煮付けの味や調理法に特段の制限はない。代表的な煮付け品としては、例えば、日本酒又は味醂、醤油、砂糖などを混合した煮付け液の存在下で加熱調理される通常の煮付け品はもとより、味噌煮、トマト煮、カレー煮などが挙げられるが、本発明に係る魚の切り身の軟らか煮付け品はこれらに限られるものではない。
また、本発明が対象とする魚とは、通常、我々が煮付け品として喫食する種類の魚全般を指し、例えば、カレイ、サバ、金目鯛、ブリ、鮭、タラ、マグロ、メカジキ、鰹、赤魚、銀ダラ、サンマなどが挙げられるが、これらに限られるものではない。
本発明は、また、魚の切り身に針を刺して、切り身表面の1cmあたり、5~7個の孔をあける穿孔工程、前記穿孔工程を経た前記切り身を、生のマイタケの切断物の絞り汁を水で25~35質量%に希釈した軟化浸漬液に6~22℃で4~24時間浸漬する浸漬工程、及び、前記浸漬工程を経た前記切り身を煮付け液の存在下で加熱する工程を含む魚の切り身の軟らか煮付け品の製造方法を提供することによって、上記課題を解決するものである。
上記製造方法によれば、喫食時の温度条件下において、直径15mmの金属球を3mm押し込むに必要な荷重が350gf以下という軟らかさを有するとともに、魚の切り身の煮付け品本来の外観形状を保持し、かつ、異味、異臭のない本発明に係る魚の切り身の軟らか煮付け品を安定して製造することができる。
また、本発明の製造方法は、その好適な一例において、前記浸漬工程が、生のマイタケの切断物の絞り汁を水で35質量%に希釈した軟化浸漬液に6~22℃で20~24時間浸漬する工程である。本発明の製造方法がこのような浸漬工程を含む場合には、さらに軟らかい魚の切り身の軟らか煮付け品を得ることができ、魚種にもよるが、喫食時の温度条件下において、直径15mmの金属球を3mm押し込むに必要な荷重が100gf以下という軟らかさを有するとともに、魚の切り身の煮付け品本来の外観形状を保持し、かつ、異味、異臭のない魚の切り身の軟らか煮付け品を安定して製造することができる。
好適な一態様において、前記マイタケの絞り汁は、生のマイタケを1mm角以下に切断した切断物を圧搾して得られる絞り汁である。生のマイタケには水分が含まれているので、これを適当な大きさに切断して絞ることによって、マイタケ切断物の絞り汁を得ることができ、この絞り汁を軟化処理用の浸漬液として用いることができる。圧搾して絞り汁を得るマイタケ切断物の大きさは特に1mm角以下に限られる訳ではないが、1mm角以下に切断した切断物からは、例えば3mm角程度にみじん切りにした切断物からよりも、比較的大量の絞り汁を安定的に得ることができるので好ましい。因みに、マイタケの1mm角以下の切断物は、例えば、サイレントカッターなどの市販の電動切断機を用いることによって容易に得ることができる。
本発明の魚の切り身の軟らか煮付け品は、弱い力で噛むことができる程度、好適には舌でつぶすことができる程度に軟らかいだけでなく、魚の切り身の煮付け品本来の外観形状を保持しており、かつ、異味、異臭がないので、見た目に美味しく食欲をそそり、咀嚼力の弱い人であっても、これを喫食して、魚の煮付け品本来の味を楽しむことができるという優れた利点を有している。また、本発明に係る魚の切り身の軟らか煮付け品の製造方法は、薬剤等によるのではなく、自然の産物であるマイタケの抽出液を軟化液として用いているにもかかわらず、魚の切り身の軟らか煮付け品を大量かつ安定的に製造することができるという利点を有している。本発明に係る魚の切り身の軟らか煮付け品及びその製造方法によれば、高齢者などの咀嚼力が低下した人に、見た目も味も良く、かつ、十分に軟らかい魚の切り身の煮付け品を提供し喫食してもらうことができ、高齢者の生活の質の維持向上を図ることができるという利点が得られる。
穿孔個数が1cmあたり0個の切り身を希釈率25質量%の軟化液を用いて軟化処理して得られたカレイの切り身の煮付け品の外観写真である。 穿孔個数が1cmあたり3個の切り身を希釈率25質量%の軟化液を用いて軟化処理して得られたカレイの切り身の煮付け品の外観写真である。 穿孔個数が1cmあたり5個の切り身を希釈率25質量%の軟化液を用いて軟化処理して得られたカレイの切り身の煮付け品の外観写真である。 穿孔個数が1cmあたり7個の切り身を希釈率25質量%の軟化液を用いて軟化処理して得られたカレイの切り身の煮付け品の外観写真である。 穿孔個数が1cmあたり9個の切り身を希釈率25質量%の軟化液を用いて軟化処理して得られたカレイの切り身の煮付け品の外観写真である。 穿孔個数が1cmあたり0個の切り身を希釈率35質量%の軟化液を用いて軟化処理して得られたカレイの切り身の煮付け品の外観写真である。 穿孔個数が1cmあたり3個の切り身を希釈率35質量%の軟化液を用いて軟化処理して得られたカレイの切り身の煮付け品の外観写真である。 穿孔個数が1cmあたり5個の切り身を希釈率35質量%の軟化液を用いて軟化処理して得られたカレイの切り身の煮付け品の外観写真である。 穿孔個数が1cmあたり7個の切り身を希釈率35質量%の軟化液を用いて軟化処理して得られたカレイの切り身の煮付け品の外観写真である。 穿孔個数が1cmあたり9個の切り身を希釈率35質量%の軟化液を用いて軟化処理して得られたカレイの切り身の煮付け品の外観写真である。 カレイの煮付け品について味認識装置を用いて測定された各種の味の相対値を示すレーダチャートである。 穿孔個数が1cmあたり0個の切り身を希釈率35質量%の軟化液を用いて軟化処理して得られたサバの切り身の味噌煮品の外観写真である。 穿孔個数が1cmあたり3個の切り身を希釈率35質量%の軟化液を用いて軟化処理して得られたサバの切り身の味噌煮品の外観写真である。 穿孔個数が1cmあたり5個の切り身を希釈率35質量%の軟化液を用いて軟化処理して得られたサバの切り身の味噌煮品の外観写真である。 穿孔個数が1cmあたり7個の切り身を希釈率35質量%の軟化液を用いて軟化処理して得られたサバの切り身の味噌煮品の外観写真である。 穿孔個数が1cmあたり9個の切り身を希釈率35質量%の軟化液を用いて軟化処理して得られたサバの切り身の味噌煮品の外観写真である。 サバの煮付け品について味認識装置を用いて測定された各種の味の相対値を示すレーダチャートである。 穿孔個数が1cmあたり0個の切り身を希釈率35質量%の軟化液を用いて軟化処理して得られた金目鯛の切り身の煮付け品の外観写真である。 穿孔個数が1cmあたり5個の切り身を希釈率35質量%の軟化液を用いて軟化処理して得られた金目鯛の切り身の味噌煮品の外観写真である。 穿孔個数が1cmあたり9個の切り身を希釈率35質量%の軟化液を用いて軟化処理して得られた金目鯛の切り身の味噌煮品の外観写真である。 金目鯛の煮付け品について味認識装置を用いて測定された各種の味の相対値を示すレーダチャートである。
以下、本発明に係る魚の切り身の軟らか煮付け品とその製造方法について説明する。
<1.予備実験-マイタケ絞り汁の調製->
市販の生マイタケの各200gをサイレントカッターに掛けて約20秒間切断し、1mm角以下の切断物とし、その切断物を濾布で包んで圧搾機に掛けて絞り汁を回収する作業を生マイタケのロットを変えて2回行ったところ、いずれの検体からも約120gの絞り汁を回収することができた。絞り汁の回収率は、使用した生マイタケの質量に対し約60質量%の高率であった。また、得られた絞り汁のpHを測定したところ、pH5.51~pH6.12の範囲に分布し、安定した物性値を備えていることが分かった。
一方、サイレントカッターに代えて、包丁を用いてみじん切りにして人力で3mm角の切断物を得た以外は上記と同様に処理したところ、約73~75gの絞り汁が得られた。得られた絞り汁のpHを測定したところ、pH5.08~pH5.15の範囲に分布し安定した物性値を備えてはいたが、絞り汁の回収率は、使用した生マイタケの質量に対し約37質量%~38質量%にとどまり、使用したマイタケの量に比べて得られる絞り汁の量が十分なものとはいえなかった。
さらに、生マイタケ約35gを手でほぐして小分けしたものを、472gの水又は135gの水に2時間又は16時間浸漬後、濾過してマイタケを取り除いてマイタケの抽出液を得た。472gの水に2時間又は16時間浸漬したものからは、それぞれ455g及び449gの抽出液が、135gの水に2時間又は16時間浸漬したものからは、それぞれ123g及び116gの抽出液が得られたが、マイタケが水を吸収し、得られる抽出液の量が変化し不安定になることが避けられなかった。また、得られた抽出液のpHを測定したところ、pH4.97~pH6.85と広範囲に分布し、安定した物性値が得られなかった。因みに、135gという水の量は、約35gの手でほぐしたマイタケがひたひたに浸かる量であり、472gという水の量は、約35gの手でほぐしたマイタケが十分な水に浸漬された状態になる量である。
以上の予備実験の結果から、マイタケを1mm角以下に切断した切断物を濾布で圧搾して得られる絞り汁は、原料マイタケに対して比較的高率で得られ、かつpHで示される物性値も安定しているので、これを軟化処理に用いるマイタケ抽出液として用いるのが良いとの結論に至った。
<2.軟化試験1(カレイの煮付け品)>
カレイ(カラスガレイ)の皮付きで骨を全て取り除いた切り身の冷凍品(切り身質量約55g)を用い、通常の製造、流通、保管形態を想定し、以下のア~シの工程でカレイの皮付き骨取り切り身の煮付け品を製造した。
ア 原料搬入(カラスガレイ、皮付き骨取り切り身冷凍品)
イ 解凍
ウ 穿孔
エ 軟化液浸漬(軟化処理)
オ 液切り
カ 煮付け液充填真空包装
キ 静置
ク 加熱殺菌
ケ 冷却
コ 凍結
サ 梱包
シ 保管
なお、ウの穿孔工程においては、縦横長さが、それぞれ2mm、1mm、50mmの針を1cmあたり3、5、7、又は9本有する穿孔器具を用い、各切り身の芯温が-3℃~+5℃の範囲内の温度になるまで解凍されるのを待って各切り身に突き刺して、切り身表面1cmあたり3、5、7、又は9個の貫通孔を有する切り身を作成した。併せて穿孔工程を施さず、切り身表面1cmあたりの貫通孔が0個である切り身も用意した。
また、エの軟化液浸漬工程においては、上記予備実験におけると同様の手順で、1mm角以下に切断した生マイタケの切断物を圧搾して得た絞り汁(pH6.04)を通常の水道水で20質量%(以下、本明細書においては、特段の断りがない限り、「質量%」を単に「%」と記載する)、25%、35%、又は40%に希釈した希釈液を軟化液とし、この軟化液の液温を22℃に保つようにコントロールしながら、これら軟化液のそれぞれに、解凍し、適宜穿孔工程を経たカレイの切り身を24時間浸漬した。
シの保管工程後、適宜のタイミングで解凍し、喫食時の温度に相当する常温まで戻した後に、梱包を開封して切り身を取り出し、市販の荷重測定器(アイコーエンジニアリング株式会社販売 デジタルフォースゲージ MODEL RZ-5)を用い、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重を測定した。測定は、各切り身の左側、中央、右側の3箇所を表裏計6箇所測定した。なお、切り身が軟らかすぎて表裏反転できない場合には、片面についてのみ6箇所測定した。それぞれの軟化液浸漬条件について3検体ずつ製造、測定し、計18個の測定値の中で最も大きな荷重をもって硬さの測定値(gf)とした。結果を表1に示す。なお、表中、350gfを超える数値には下線を付してある。
また、対照として、同じカレイの切り身の冷凍品を用い、ウの穿孔工程、エの軟化液浸漬(軟化処理)工程、及びオの液切り工程を経ない以外は同様にして、カレイの切り身の煮付け品(対照1)を製造し、上記と同様にして、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重を測定した。結果を表2に示す。
Figure 0007221054000001
Figure 0007221054000002
表1に見られるとおり、マイタケの絞り汁を水で20%に希釈した軟化液を用いて軟化処理を施した場合、22℃、24時間の浸漬では、穿孔個数が1cmあたり0個、3個、5個、7個、及び9個のいずれの場合であっても、硬さが350gfを超え、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が350gf以下という軟らかさを有するカレイの切り身の煮付け品を製造することができなかった。
これに対し、マイタケの絞り汁を水で25%又は35%に希釈した軟化液を用いて軟化処理を施した場合には、22℃、24時間の浸漬で、穿孔個数が1cmあたり0個、3個、5個、7個、及び9個のいずれの場合であっても、硬さが350gf以下となった。中でも、穿孔個数が1cmあたり3個、5個、7個、又は9個の切り身の場合には、希釈率25%又は35%いずれの場合においても、得られる煮付け品の硬さは100gf以下となった。この350gf以下、或いは100gf以下という硬さは、軟化処理を施さないで製造されたカレイの切り身の通常の煮付け品である対照1の硬さが、表2に見られるとおり、445gfであったことに鑑みると、極めて軟らかいものである。
しかしながら、上記硬さの測定時に、測定対象となるカレイの切り身の煮付け品を肉眼で観察したところ、軟化液の希釈率が25%又は35%のいずれの場合においても、穿孔個数が1cmあたり0個の煮付け品には皮の身からの浮き上がり、穿孔個数が1cmあたり3個の煮付け品には、身割れや皮の浮き上がり、穿孔個数が1cmあたり9個の煮付け品には、身割れや身崩れが認められ、いずれも、カレイの切り身の煮付け品本来の外観形状を有しているとはいえないものであった。一例として、希釈率が25%又は35%の軟化液を用いて軟化処理を行ったときの穿孔個数が1cmあたり0個、3個、又は9個の切り身の煮付け品の外観写真をそれぞれ図1、図2、図5(希釈率25%)及び図6、図7、図10(希釈率35%)に示す。これらの図に見られるとおり、穿孔個数が1cmあたり0個、3個、又は9個の煮付け品には、皮の身からの浮き上がりや剥がれ、身割れや身崩れが認められる。
これに対し、穿孔個数が1cmあたり5個又は7個の場合には、軟化液の希釈率が25%又は35%のいずれの場合においても、皮の身からの浮き上がりや剥がれはなく、身の崩れや割れも認められず、カレイの切り身の煮付け品本来の外観形状を保持していた。特に、穿孔個数が1cmあたり5個の場合には、カレイの切り身の煮付け品本来の外観形状が最も良く保持されていた。一例として、希釈率が25%又は35%の軟化液を用いて軟化処理を行ったときの穿孔個数が1cmあたり5個又は7個の切り身の煮付け品の外観写真を、それぞれ図3、図4、及び図8、図9に示す。これらの図に見られるとおり、穿孔個数が1cmあたり5個又は7個の煮付け品には、皮の部分的な剥げは多少認められるものの、皮の身からの浮き上がりや剥がれはなく、身の崩れや身割れも認められない。
また、上記硬さの測定時に、測定対象となるカレイの切り身の煮付け品を試食したところ、希釈率が25%又は35%の軟化液を用いて軟化処理したカレイの切り身の煮付け品はカレイの煮付け品本来の味がし、軟化液浸漬による異味、異臭は全く感じられなかった。
一方、マイタケの絞り汁を水で40%に希釈した軟化液を用いて軟化処理を施した場合には、22℃、24時間の浸漬で、穿孔個数が1cmあたり0個、3個、5個、7個、及び9個のいずれの場合であっても、硬さが100gf以下となり、極めて軟らかい煮付け品が得られた。また、硬さの測定時に、測定対象となるカレイの切り身の煮付け品を肉眼で観察したところ、穿孔個数が1cmあたり0個、3個、又は9個の煮付け品は、皮の身からの浮き上がりや剥がれ、又は身の崩れや割れが認められ、カレイの切り身の煮付け品本来の外観形状を有しているとは到底いえないものであったが、穿孔個数が1cmあたり5個又は7個の煮付け品は、皮の身からの浮き上がりや、身崩れもなく、カレイの切り身の煮付け品本来の外観形状が保持されており、煮付け品の外観形状としては、希釈率が25%又は35%の軟化液を用いて軟化処理した切り身の煮付け品と同様の結果となった。
しかしながら、硬さの測定時に、測定対象となるカレイの切り身の煮付け品を試食したところ、希釈率が40%の軟化液を用いて軟化処理した切り身の煮付け品は、穿孔個数が1cmあたり0個、3個、5個、7個、及び9個のいずれの煮付け品からも、軟化処理に用いた軟化液に起因すると思われるマイタケ臭や苦味が感じられ、カレイの煮付け品本来の味が保持されているとは到底いえないものであった。
以上の結果から、切り身を軟化液に22℃で24時間に浸漬するという軟化液浸漬条件下では、希釈率が25%~35%の軟化液を用い、軟化処理前に切り身に1cmあたり5個~7個の孔をあけておくことによって、「弱い力で噛める」程度若しくはそれ以上の軟らかさに相当する硬さ350gf以下という軟らかさを備え、かつ、カレイの切り身の煮付け品本来の外観形状を有し、異味、異臭がない煮付け品が安定して得られることがわかった。また、特に、カレイの切り身の煮付け品本来の外観形状をより良く保持しているという観点からは、軟化処理前に切り身に1cmあたり5個の孔をあけておくのが好ましいということがわかった。
なお、適度の個数の孔をあける穿孔工程を経ることによって、350gf以下の軟らかさを備え、かつ、カレイの切り身の煮付け品本来の外観形状を有するとともに、異味、異臭がない煮付け品が安定して得られる理由は定かではないが、通常、魚の皮は身よりも蛋白質分解酵素の作用を受けやすいと言われていることからみて、軟化液に浸漬する前に、適度な密度で切り身に穿孔を施しておくことによって、軟化液の身への浸透が促進され、皮と身の軟化がほぼ同様に進行するとともに、身と皮の間から軟化液が浸透して皮を身から分離し浮き上がらせるのが防止されるのではないかと推測される。逆に、穿孔の密度が必要以上に高くなると、軟化液が身の内部に浸透する割合が増えるため、身が軟らかくなり過ぎて、身崩れや身割れが生じるのではないかと推測される。
<3.軟化試験2(カレイの煮付け品)>
軟化試験1の結果を踏まえ、浸漬温度及び浸漬時間の下限を求めるべく、以下の軟化試験を行った。すなわち、軟化試験1で用いた希釈率25%の軟化液を用い、穿孔個数を切り身1cmあたり5個又は7個とし、浸漬条件を2時間で6℃、4時間で4℃又は6℃とした以外は、軟化試験1と同様にして、カレイの切り身の煮付け品を製造し、その硬さを測定した。結果を表3に示す。
Figure 0007221054000003
表3に見られるとおり、希釈率が25%の軟化液を用いて軟化処理を行った場合、切り身の軟化液への浸漬時間が4時間、浸漬温度が6℃の場合には、穿孔個数が切り身1cmあたり5個又は7個のいずれの場合においても、350gfを下回る軟らかさを備えた切り身の煮付け品が得られた。得られた煮付け品を肉眼観察したところ、皮の浮き上がり、身の崩れや割れ認められず、カレイの切り身の煮付け品本来の外観形状を有していた。また、試食したところ、カレイの煮付け品本来の味がし、軟化液浸漬による異味、異臭は全く感じられなかった。
ところが、表3に示すとおり、浸漬時間が同じ4時間であっても、浸漬温度が4℃になると、得られる切り身の煮付け品の硬さは350gfを上回り、また、浸漬温度が6℃であっても、浸漬時間が2時間になると、同様に、得られる切り身の煮付け品の硬さは350gfを上回った。
以上の結果から、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が350gf以下という軟らかさを有するカレイの切り身の煮付け品を製造するには、切り身の軟化液への浸漬時間は少なくとも4時間は必要で、軟化液の温度は6℃以上であることが必要であると判断された。
<4.軟化試験3(カレイの煮付け品)>
希釈率25%の軟化液を用いて行われた軟化試験2の結果が、希釈率35%の軟化液を用いる場合にも妥当するか否かを検証すべく、以下の軟化試験を行った。すなわち、軟化試験1で用いた希釈率35%の軟化液を用い、穿孔個数を切り身1cmあたり5個又は7個とし、浸漬時間を2時間、4時間、16時間、20時間、又は24時間、浸漬温度を4℃、6℃、10℃、又は22℃とした以外は、軟化試験1と同様にして、カレイの切り身の煮付け品を製造し、その硬さを測定した。結果を表4に示す。ただし、浸漬条件が24時間、22℃の結果は表1から転記した。
Figure 0007221054000004
表4に示されるとおり、軟化液の希釈率が35%の場合にも、4時間、6℃の浸漬条件下では、350gf以下の軟らかさを備えたカレイの切り身の煮付け品が得られたものの、2時間、6℃、又は4時間、4℃では、350gf以下の軟らかさを備えたカレイの切り身の煮付け品は得られなかった。これらの結果から、希釈率が35%の場合にも、希釈率が25%の場合と同様に、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が350gf以下という軟らかさを有するカレイの切り身の煮付け品を製造するには、切り身の軟化液への浸漬時間は少なくとも4時間は必要で、軟化液の温度は6℃以上が必要であると判断された。
また、浸漬時間が4時間~24時間で、浸漬温度が6℃~22℃である場合には、350gfという「弱い力で噛める」程度若しくはそれ以上の軟らかさを備えたカレイの切り身の煮付け品が安定して得られ、中でも、浸漬時間が16時間~24時間で、浸漬温度が6℃~22℃である場合には、硬さは100gf以下となり、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が100gfという「舌でつぶせる」程度若しくはそれ以上の軟らかさを備えたカレイの切り身の煮付け品が安定して得られた。
なお、硬さの測定時に、測定対象としたカレイの切り身の煮付け品を肉眼観察したところ、硬さの測定値が350gf以下であった煮付け品は、いずれも、皮の浮き上がりや身からの剥がれや脱落、身の崩れや割れ認められず、カレイの切り身の煮付け品本来の外観形状を有していた。中でも、穿孔個数が1cmあたり5個の切り身を用いて製造された煮付け品は、穿孔個数が1cmあたり7個の切り身を用いて製造された煮付け品よりも、カレイの切り身の煮付け品本来の外観形状をより良く保持していた。また、これらの煮付け品を試食したところ、カレイの煮付け品本来の味がし、いずれの煮付け品からも異味、異臭は全く感じられなかった。
表1~表4に示した軟化試験1~3の結果から、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が350gf以下という軟らかさを有するとともに、異味、異臭がなく、かつ、カレイの切り身の煮付け品本来の外観形状を保持している煮付け品を安定的に製造するには、切り身表面の1cmあたり5個~7個、より好ましくは1cmあたり5個の孔をあける穿孔工程を経た切り身を、マイタケの切断物の絞り汁を25%~35%に希釈した軟化液に、6℃~22℃で、4時間~24時間浸漬した後に煮付け液の存在下で加熱するのが良く、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が100gf以下という軟らかさを有するとともに、異味、異臭がなく、かつ、カレイの切り身の煮付け品本来の外観形状を保持している煮付け品を安定的に製造するには、切り身表面の1cmあたり5個又は7個、より好ましくは1cmあたり5個の孔をあける穿孔工程を経た切り身を、マイタケの切断物の絞り汁を35%に希釈した軟化液に、6℃~22℃で、16時間~24時間浸漬した後に煮付け液の存在下で加熱するのが良いという結論が得られた。なお、浸漬温度の上限を22℃としたのは、浸漬温度が23℃以上になると、微生物の繁殖が激しくなり、雑菌の増加、腐敗臭の発生が懸念されるためである。
なお、軟化試験1~軟化試験3では、縦横長さが、それぞれ2mm、1mm、50mmの針を備えた穿孔器具を用いたが、針の縦横の長さは必ずしも2mm×1mmに限られるわけではなく、皮が存在する場合には皮を突き通って、身の内部にまで軟化液が浸透する孔をあけることができる限り、縦横の長さはいくらであっても良い。また、針の断面形状も四角形に限らず、円形、楕円形、三角形等であっても良い。さらに、軟化液の浸透を十分なものとするためには、切り身を貫通する孔をあけるのが好ましいが、切り身を貫通しない途中までの孔であっても良い。これらについては以下に述べる魚種及び調理法を変えた軟化試験においても同様である。
<5.官能検査1(カレイの煮付け品)>
健康な計7名の男女をパネラーとし、軟化試験1で製造された下記のカレイの皮付き骨取り切り身の煮付け品A~Fについて、官能検査を行った。
(対象とした切り身の煮付け品)
・カレイの煮付け品A(表1の#2の浸漬条件における穿孔個数5個のもの)
軟化液の希釈率:25%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり5個
硬さ:40gf
・カレイの煮付け品B(表1の#2の浸漬条件における穿孔個数7個のもの)
軟化液の希釈率:25%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり7個
硬さ:40gf
・カレイの煮付け品C(表1の#3の浸漬条件における穿孔個数5個のもの)
軟化液の希釈率:35%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり5個
硬さ:38gf
・カレイの煮付け品D(表1の#3の浸漬条件における穿孔個数7個のもの)
軟化液の希釈率:35%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり7個
硬さ:37gf
・カレイの煮付け品E(表1の#4の浸漬条件における穿孔個数5個のもの)
軟化液の希釈率:40%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり5個
硬さ:36gf
・カレイの煮付け品F(表1の#4の浸漬条件における穿孔個数7個のもの)
軟化液の希釈率:40%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり7個
硬さ:34gf
(検査項目)
・外観形状(肉眼による)
・外観色調(肉眼による)(身肉の色目)
・異味(苦味、えぐみ)
・味
・異臭
・マイタケ臭(軟化液に起因するマイタケ臭)
評価は、軟化処理をしないカレイの切り身の煮付けの通常品と比較して、同等若しくはそれ以上に良い場合を「非常に良い=5」、ほぼ同等に良い場合を「良い=4」、やや悪いが許容できる場合を「普通=3」、悪い場合を「悪い=2」、非常に悪い場合を「非常に悪い=1」とする五段階で行い、各パネラーの評価点の平均値を評点とした。結果を表5~表10に示す。
Figure 0007221054000005
Figure 0007221054000006
Figure 0007221054000007
Figure 0007221054000008
Figure 0007221054000009
Figure 0007221054000010
表5~表8に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が25%及び35%の軟化液を用いて軟化処理をした切り身を煮付け液の存在下で加熱して得られた煮付け品A~Dは、検査した「外観形状」、「外観色調」、「異味(苦味、えぐみ)」、「味」、「異臭」、「マイタケ臭」のいずれの項目においても、「良い=4」又は「非常に良い=5」と評価され、カレイの切り身の煮付け品本来の外観形状、色調、味を有するとともに、異味、異臭がなく、マイタケ臭も感じられない優れた煮付け品であった。
これに対し、表9及び表10に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が40%の軟化液を用いて軟化処理をした切り身を煮付け液の存在下で加熱して得られた煮付け品E及びFは、外観形状や外観色調は、「良い=4」又は「非常に良い=5」と評価され、カレイの切り身の煮付け品本来の外観形状、色調を保持していたものの、「異味」、「異臭」、及び「マイタケ臭」に関しては評価点の平均値は「普通=3」を下回り、異味、異臭が感じられるとともに、マイタケ臭がすると評価されるものであった。
これら官能検査の結果は、軟化試験1~3において、実施者が各煮付け品の硬さ測定の際にその都度行った肉眼観察及び試食の結果と一致しており、軟化試験1~3の実施者による肉眼観察及び試食による評価が客観性を備えた妥当なものであることを裏付けるものである。
<6.味認識装置による評価1>
本発明に係るカレイの切り身の煮付け品が異味、異臭のないものであることをより客観的に確認すべく、味認識装置による味分析を外部の検査機関(厚生労働省登録検査機関 株式会社キューサイ分析研究所)に依頼した。その詳細は以下のとおりである。
(味分析対象試料)
以下の比較対照品と試料1~4についての味分析を依頼した。
・比較対照品:対照1と同様にして製造された通常の(軟化処理を経ない)カレイの切り身の煮付け品(株式会社新東京フード製)
・試料1:穿孔個数が1cmあたり5個のカレイの切り身を希釈率35%の軟化液に22℃で24時間浸漬したものを煮付け液の存在下で加熱して得られた切り身の煮付け品(表1における浸漬条件#3の穿孔個数5個のものに相当:硬さ38gf)
・試料2:穿孔個数が1cmあたり7個のカレイの切り身を希釈率35%の軟化液に22℃で24時間浸漬したものを煮付け液の存在下で加熱して得られた切り身の煮付け品(表1における浸漬条件#3の穿孔個数7個のものに相当:硬さ37gf)
・試料3:穿孔個数が1cmあたり5個のカレイの切り身を希釈率40%の軟化液に22℃で24時間浸漬したものを煮付け液の存在下で加熱して得られた切り身の煮付け品(表1における浸漬条件#4の穿孔個数5個のものに相当:硬さ36gf)
・試料4:穿孔個数が1cmあたり7個のカレイの切り身を希釈率40%の軟化液に22℃で24時間浸漬したものを煮付け液の存在下で加熱して得られた切り身の煮付け品(表1における浸漬条件#4の穿孔個数7個のものに相当:硬さ34gf)
(使用機器)
インテリジェントセンサーテクノロジー株式会社販売 味認識装置「TS-5000Z」(人工脂質膜型味覚センサーを用いる味認識装置)
(味分析結果)
「酸味」、「苦味雑味」、「渋味刺激」、「旨味」、「塩味」、「苦味」、「渋味」、「旨味コク」の8種類の味が、比較対照品である軟化処理をしていない通常のカレイの切り身の煮付け品の測定値を基準値=0とした相対値で求められた。結果を表11に示す。また、結果をレーダチャートとして表したものを図11に示す。
Figure 0007221054000011
表11及び図11に示すとおり、本発明に係る軟らか煮付け品に該当する試料1及び2の味の測定値は、比較対照品である軟化処理をしていない通常のカレイの切り身の煮付け品の各味を基準=0として、「酸味」、「旨味」、及び「塩味」の点では±2の範囲外となったが、「苦味雑味」、「渋味刺激」、「苦味」、「渋味」、及び「旨味コク」の点では±2未満(-2<測定値<+2)に収まっていた。味認識装置を用いる味分析において、比較対照品を0としたときの味の測定値が±2未満の場合には、これをヒトが食しても比較対照品との味の差としては認識されないといわれている。したがって、ヒトが食したときに「異味」として認識されると考えられる「苦味雑味」「渋味刺激」「苦味」「渋味」の測定値がいずれも±2未満に収まっていたという上記分析結果は、ヒトが試料1及び2を食したときにも通常品である比較対照品と比べて異味があるとは感じられず、本発明品が異味を有さない煮付け品であることを示している。特に異味として最も強く感じられるとされる「苦味雑味」についての試料1及び2の測定値は、比較対照品と比べて±1以内にとどまっており、本発明のカレイの切り身の軟らか煮付け品は、異味のない煮付け品であるといえる。
このように味認識装置による味分析においても、本発明に係るカレイの切り身の軟らか煮付け品が、軟化処理をしていない通常のカレイの切り身の煮付け品と比べて異味がなく、カレイの切り身の煮付け品本来の味を備えたものであることが確認された。
なお、試料3及び4は、希釈率40%の軟化液を用いて軟化処理された煮付け品であり、上記官能検査1においては異味、異臭が感じられるとともにマイタケ臭がすると評価されたものであるが、今回、味認識装置を用いて味分析を行った限りでは、希釈率35%の軟化液を用いて軟化処理された煮付け品である試料1及び2と測定値において有意な差は検出されなかった。この分析結果は、味認識装置を用いる味分析よりも、ヒトの味覚による官能検査の方がより鋭敏であることを示唆している。
<7.軟化試験4(サバ味噌煮品)>
カレイの切り身の冷凍品(切り身質量約55g)をサバの皮付きで骨を全て取り除いた切り身の冷凍品(切り身質量約40g)に変えるとともに、煮付け液を味噌煮用の煮付け液に変えた以外は軟化試験1と同様にして、サバの味噌煮を製造し、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重を測定した。結果を表12に示す。なお、表中、350gfを超える数値には下線を付してある。
また、対照として、同じサバの切り身の冷凍品を用い、ウの穿孔工程、エの軟化液浸漬(軟化処理)工程、及びオの液切り工程を経ない以外は同様にして、サバの切り身の味噌煮品(対照2)を製造し、上記と同様にして、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重を測定した。結果を表13に示す。
Figure 0007221054000012
Figure 0007221054000013
表12に見られるとおり、マイタケの絞り汁を水で20%に希釈した軟化液を用いて軟化処理を施した場合、22℃、24時間の浸漬では、穿孔個数が1cmあたり0個、3個、5個、7個、及び9個のいずれの場合であっても、硬さが350gfを超え、サバの味噌煮品においても、カレイの煮付け品の場合と同様に、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が350gf以下という軟らかさを有するサバの切り身の味噌煮を製造することができなかった。
これに対し、マイタケの絞り汁を水で25%又は35%に希釈した軟化液を用いて軟化処理を施した場合には、22℃、24時間の浸漬で、穿孔個数が1cmあたり3個、5個、7個、及び9個のいずれの場合であっても、硬さが350gf以下となった。中でも、希釈率が35%の軟化液を用いた場合には、穿孔個数が1cmあたり0個、3個、5個、7個、又は9個の切り身において、得られる味噌煮の硬さは100gf以下となり、極めて軟らかい味噌煮品を得ることができた。この350gf以下、或いは100gf以下という硬さは、軟化処理を施さないで製造されたサバの切り身の通常の味噌煮品である対照2の硬さが、表13に見られるとおり、579gfであったことに鑑みると、極めて軟らかいものである。
また、上記硬さの測定時に、測定対象となるサバの切り身の味噌煮品を肉眼で観察したところ、軟化液の希釈率が25%又は35%のいずれの場合においても、穿孔個数が1cmあたり0個の味噌煮品には皮の身からの浮き上がりや剥がれが認められ、穿孔個数が1cmあたり9個の味噌煮品には、身全体の表面の溶けや崩れが認められた。一方、穿孔個数が1cmあたり3個~7個の味噌煮品には、皮の浮き上がりや身の崩れは認められず、サバの味噌煮本来の外観形状が保たれていた。
一例として、希釈率が35%の軟化液を用いて軟化処理を行ったときの穿孔個数が1cmあたり0個、3個、5個、7個、又は9個のサバ切り身の味噌煮品の外観写真をそれぞれ図12~図16に示す。図12及び図16に見られるとおり、穿孔個数が1cmあたり0個又は9個の煮付け品には、皮の身からの浮き上がりや剥がれ、身全体の表面の溶けや崩れが認められ、サバの切り身の味噌煮品本来の外観形状を有しているとはいえない。
これに対し、図13~図15に見られるとおり、穿孔個数が1cmあたり3個~7個の場合には、皮の部分的な剥げは多少認められるものの、皮の身からの浮き上がりや剥がれはなく、身表面の溶けや崩れも認められず、サバの切り身の味噌煮品本来の外観形状が保持されている。
また、上記硬さの測定時に、測定対象となるサバの切り身の味噌煮品を試食したところ、希釈率が25%又は35%の軟化液を用いて軟化処理したサバの切り身の味噌煮品はサバの味噌煮本来の味がし、軟化液浸漬による異味、異臭は全く感じられなかった。
一方、マイタケの絞り汁を水で40%に希釈した軟化液を用いて軟化処理を施した場合には、22℃、24時間の浸漬で、穿孔個数が1cmあたり0個、3個、5個、7個、及び9個のいずれの場合であっても、硬さが100gf以下となり、極めて軟らかい味噌煮品が得られた。
また、硬さの測定時に、測定対象となるサバの切り身の味噌煮品を肉眼で観察したところ、穿孔個数が1cmあたり0個又は9個の煮付け品は、皮の身からの浮き上がりや剥がれ、又は身の表面の溶解や崩れが認められ、サバの切り身の味噌煮品本来の外観形状を有しているとは到底いえないものであったが、穿孔個数が1cmあたり3個~7個の味噌煮品は、皮の身からの浮き上がりや、身表面の溶けや崩れもなく、サバの切り身の味噌煮品本来の外観形状を保持しており、外観形状に関しては、希釈率が25%又は35%の軟化液を用いて軟化処理した切り身の煮付け品と同様の結果が得られた。
しかしながら、硬さの測定時に、測定対象となるサバの切り身の味噌煮品を試食したところ、希釈率が40%の軟化液を用いて軟化処理した切り身の味噌煮品は、穿孔個数が1cmあたり0個、3個、5個、7個、及び9個のいずれの味噌煮品からも、軟化処理に用いた軟化液に起因すると思われるマイタケ臭や苦味が感じられ、サバの味噌煮本来の味が保持されているとはいえないものであった。
以上の結果は、サバの味噌煮の場合、22℃、24時間の軟化液浸漬条件下では、希釈率が25%~35%の軟化液を用い、軟化処理前に切り身に1cmあたり3個~7個の孔をあけておくことにより、「弱い力で噛める」程度若しくはそれ以上の軟らかさに相当する350gf以下という軟らかさを備え、かつ、サバの切り身の味噌煮本来の外観形状を有し、異味、異臭がない味噌煮品が安定して得られることを示している。また、特に、希釈率が35%の軟化液を用い、軟化処理前に切り身に1cmあたり3個~7個の孔をあけておくことにより、「舌でつぶせる」程度若しくはそれ以上の軟らかさに相当する硬さ100gf以下という軟らかさを備え、かつ、サバの切り身の味噌煮品本来の外観形状を有し、異味、異臭がない味噌煮品が安定して得られることを示している。
<8.軟化試験5<サバの味噌煮品)>
軟化試験4の結果を踏まえ、サバの味噌煮品においても、浸漬温度及び浸漬時間の下限を求めるべく、以下の軟化試験を行った。すなわち、軟化試験4で用いた希釈率25%の軟化液を用い、穿孔個数を切り身1cmあたり5個又は7個とし、浸漬条件を2時間で6℃、4時間で4℃又は6℃とした以外は、軟化試験4と同様にして、サバの切り身の味噌煮品を製造し、その硬さを測定した。結果を表14に示す。
Figure 0007221054000014
表14に見られるとおり、希釈率が25%の軟化液を用いて軟化処理を行った場合、切り身の軟化液への浸漬時間が4時間、浸漬温度が6℃の場合には、穿孔個数が切り身1cmあたり5個又は7個のいずれの場合においても、350gfを下回る軟らかさを備えた切り身の味噌煮品が得られた。得られた味噌煮品を肉眼観察したところ、皮の浮き上がり、身表面の溶けや崩れは認められず、サバの切り身の味噌煮品本来の外観形状を有していた。また、試食したところ、サバの味噌煮本来の味がし、軟化液浸漬による異味、異臭は全く感じられなかった。
ところが、浸漬時間が同じ4時間であっても、浸漬温度が4℃になると、得られる切り身の味噌煮品の硬さは350gfを大きく上回り、また、浸漬温度が6℃であっても、浸漬時間が2時間になると、同様に、得られる切り身の味噌煮品の硬さは350gfを上回った。
以上の結果から、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が350gf以下という軟らかさを有するサバの切り身の味噌煮品を製造するには、カレイの切り身の煮付け品の場合と同様に、切り身の軟化液への浸漬時間は少なくとも4時間は必要で、軟化液の温度は6℃以上であることが必要であると判断された。
<9.軟化試験6(サバの味噌煮品)>
希釈率25%の軟化液を用いて行われた軟化試験5の結果が、希釈率35%の軟化液を用いる場合にも妥当するか否かを検証すべく、以下の軟化試験を行った。すなわち、軟化試験1で用いた希釈率35%の軟化液を用い、穿孔個数を切り身1cmあたり5個又は7個とし、浸漬時間を2時間、4時間、16時間、20時間、又は24時間、浸漬温度を4℃、6℃、10℃、又は22℃とした以外は、軟化試験4と同様にして、サバの切り身の味噌煮品を製造し、その硬さを測定した。結果を表15に示す。ただし、浸漬条件が24時間、22℃の結果は表12から転記した。
Figure 0007221054000015
表15に示されるとおり、軟化液の希釈率が35%の場合にも、4時間、6℃の浸漬条件下では、350gf以下の軟らかさを備えたサバの切り身の味噌煮品が得られたものの、2時間、6℃、又は4時間、4℃では、350gf以下の軟らかさを備えたサバの切り身の味噌煮品は得られなかった。これらの結果から、希釈率が35%の場合にも、希釈率が25%の場合と同様に、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が350gf以下という軟らかさを有するサバの切り身の味噌煮品を製造するには、切り身の軟化液への浸漬時間は少なくとも4時間は必要で、軟化液の温度は6℃以上が必要であると判断された。
また、浸漬時間が4時間~24時間で、浸漬温度が6℃~22℃である場合には、硬さの測定値は350gf以下となり、「弱い力で噛める」程度若しくはそれ以上の軟らかさを備えたサバの切り身の味噌煮品が安定して得られ、中でも、浸漬時間が20時間~24時間で、浸漬温度が6℃~22℃である場合には、硬さの測定値は100gf以下となり、「舌でつぶせる」程度若しくはそれ以上の軟らかさを備えたサバの切り身の味噌煮品が安定して得られた。
なお、硬さの測定時に、測定対象としたサバの切り身の味噌煮品を肉眼観察したところ、硬さの測定値が350gf以下であった味噌煮品には、いずれも、皮の浮き上がりや身からの剥がれは認められず、身表面の溶けや崩れもなく、サバの切り身の味噌煮品本来の外観形状を有していた。中でも、穿孔個数が1cmあたり5個の切り身を用いて製造された味噌煮品は、サバの切り身の味噌煮品本来の外観形状をより良く保持していた。また、これらの味噌煮品を試食したところ、サバの味噌煮品本来の味がし、軟化液浸漬による異味、異臭は全く感じられなかった。
以上の表12~表15に示した軟化試験4~6の結果から、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が350gf以下という軟らかさを有するとともに、異味、異臭がなく、かつ、サバの切り身の味噌煮品本来の外観形状を保持している味噌煮品を安定的に製造するには、切り身表面の1cmあたり3個~7個、好ましくは1cmあたり5個の孔をあける穿孔工程を経た切り身を、マイタケの切断物の絞り汁を25%~35%に希釈した軟化液に、4時間~24時間、6℃~22℃浸漬した後に味噌煮用の煮付け液の存在下で加熱するのが良く、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が100gf以下という軟らかさを有するサバの切り身の軟らか味噌煮品を安定的に製造するには、切り身表面の1cmあたり3個~7個、好ましくは1cmあたり5個~7個、さらに好ましくは1cmあたり5個の孔をあける穿孔工程を経た切り身を、マイタケの切断物の絞り汁を35%に希釈した軟化液に、20時間~24時間、6℃~22℃で浸漬した後に味噌煮用の煮付け液の存在下で加熱するのが良いという結論が得られた。なお、浸漬温度の上限を22℃としたのは、前述したとおり、浸漬温度が23℃以上になると、微生物の繁殖が激しくなり、雑菌の増加、腐敗臭の発生が懸念されるためである。
先に軟化試験1~3でカレイの煮付け品について得られた結果と、上記軟化試験4~6でサバの味噌煮品について得られた結果とを比較すると、カレイの煮付け品の場合には、好適な穿孔個数が1cmあたり5個~7個であるのに対し、サバの味噌煮品の場合には、好適な穿孔個数が1cmあたり3個~7個である点で異なっているが、穿孔個数が1cmあたり5個~7個の範囲では重複している。したがって、カレイの煮付け品及びサバの味噌煮品を問わず、350gf以下という軟らかさを有するとともに、異味、異臭がなく、かつ、煮付け品本来の外観形状を保持している煮付け品を安定的に製造するには、切り身表面の1cmあたり5個~7個の孔をあける穿孔工程を経た切り身を、マイタケの切断物の絞り汁を25%~35%に希釈した軟化液に、4時間~24時間、6℃~22℃浸漬した後に煮付け液の存在下で加熱するのが良いということができる。
<10.官能検査2(サバの味噌煮品)>
健康な計7名の男女をパネラーとし、軟化試験4で製造された下記のサバの皮付き骨取り切り身の味噌煮品G~Iについて、官能検査1と同様にして官能検査を行った。ただし、比較対照となる基準品としては、上記対照2と同様にして製造された軟化処理をしない通常のサバの切り身の味噌煮品を用いた。結果を表16~表18に示す。
(対象とした切り身の味噌煮品)
・サバの味噌煮品G(表12の#22の浸漬条件における穿孔個数5個のもの)
軟化液の希釈率:25%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり5個
硬さ:284gf
・サバの味噌煮品H(表12の#23の浸漬条件における穿孔個数5個のもの)
軟化液の希釈率:35%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり5個
硬さ:73gf
・サバの味噌煮品I(表12の#24の浸漬条件における穿孔個数5個のもの)
軟化液の希釈率:40%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり5個
硬さ:70gf
Figure 0007221054000016
Figure 0007221054000017
Figure 0007221054000018
表16及び表17に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が25%及び35%の軟化液を用いて軟化処理をした切り身を煮付け液の存在下で加熱して得られた味噌煮品G及びHは、検査した「外観形状」、「外観色調」、「異味(苦味、えぐみ)」、「味」、「異臭」、「マイタケ臭」のいずれの項目においても、「良い=4」又は「非常に良い=5」と評価され、サバの切り身の味噌煮品本来の外観形状、色調、味を有するとともに、異味、異臭がなく、マイタケ臭も感じられない優れた煮付け品であると評価された。
これに対し、表18に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が40%の軟化液を用いて軟化処理をした切り身を煮付け液の存在下で加熱して得られた味噌煮品Iは、外観形状や外観色調は、「良い=4」又は「非常に良い=5」と評価されたものの、「異味」についての評価点は「普通=3」を下回り、「異臭」及び「マイタケ臭」については「悪い=2」に近く、異味、異臭が感じられ、マイタケ臭が残る味噌煮品であると評価されるものであった。
これら官能検査の結果は、軟化試験4~6において、実施者が各味噌煮品の硬さ測定の際にその都度行った肉眼観察及び試食の結果と一致しており、軟化試験4~6の実施者による肉眼観察及び試食による評価が客観性を備えた妥当なものであることを裏付けるものである。
<11.味認識装置による評価2>
本発明に係るサバの切り身の味噌煮品が異味、異臭のないものであることをより客観的に確認すべく、下記の比較対照品と試料5及び6について、味認識装置による評価1におけると同様にして、味認識装置による味分析を外部の検査機関に依頼した。結果を表19に示す。
(味分析対象試料)
・比較対照品:対照2と同様にして製造された通常の(軟化処理を経ない)サバの切り身の味噌煮品(株式会社新東京フード製)
・試料5:穿孔個数が1cmあたり5個のサバの切り身を希釈率35%の軟化液に22℃で24時間浸漬したものを煮付け液の存在下で加熱して得られた切り身の煮付け品(表12における浸漬条件#23の穿孔個数5個のものに相当:硬さ73gf)
・試料6:市販の「さばの味噌煮」(酵素処理した軟化品)
Figure 0007221054000019
表19に示すとおり、本発明に係る軟らか煮付け品に該当する試料5の味の測定値は、比較対照品である軟化処理をしていない通常のサバの切り身の味噌煮品の各味を基準=0として、「酸味」、及び「塩味」の点では±2の範囲外となったが、「苦味雑味」、「渋味刺激」、「旨味」、「苦味」、「渋味」、及び「旨味コク」の点では±2未満(-2<測定値<+2)に収まっていた。味認識装置を用いる味分析において、比較対照品を0としたときの味の測定値が±2未満の場合には、これをヒトが食しても比較対照品との味の差としては認識されないといわれている。したがって、ヒトが食したときに「異味」として認識されると考えられる「苦味雑味」「渋味刺激」「苦味」「渋味」の測定値がいずれも±2未満に収まっていたという上記分析結果は、ヒトが試料5の味噌煮を食したときにも通常の味噌煮品である比較対照品と比べて異味があるとは感じられず、本発明品が異味を有さない味噌煮品であることを示している。特に異味として最も強く感じられるとされる「苦味雑味」についての試料5の測定値は、比較対照品と比べて±1以内にとどまっており、本発明のサバの切り身の軟らか味噌煮品は、異味のない煮付け品である。
これに対し、市販されている酵素処理した軟化食品である試料6の「さばの味噌煮」は、「渋味刺激」、「苦味」、「渋味」の測定値は±2未満に収まっていたものの、異味として最も強く感じられるとされる「苦味雑味」の測定値は7.89であり、2を大きく上回っており、比較対照品に比べて明らかに「苦味雑味」が強く、異味があると評価されるものであった。なお、味認識装置による味分析に先立ち、味分析に供した試料6と同じ「さばの味噌煮」の市販品を試食したところ、軟らかいことは軟らかいものの、苦味が比較的強く感じられた。味認識装置による味分析の結果は、上記試食結果を数値的に追認するものであった。
このように味認識装置による味分析においても、本発明に係るサバの切り身の軟らか味噌煮品が、軟化処理をしていない通常のサバの切り身の味噌煮品と比べて異味がなく、サバの切り身の煮付け品本来の味を備えたものであることが確認された。
<12.軟化試験7(サバの煮付け品)>
煮付け液を味噌煮用の煮付け液から通常の煮付け液に変えるとともに、軟化試験4で用いたと同じ希釈率35%の軟化液を用い、穿孔個数を切り身1cmあたり0個、3個、5個、7個、又は9個とし、浸漬時間24時間、浸漬温度22℃で、サバの切り身の煮付け品を製造し、軟化試験4におけると同様に、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重を測定した。結果を表20に示す。
また、対照として、同じサバの切り身の冷凍品を用い、ウの穿孔工程、エの軟化液浸漬(軟化処理)工程、及びオの液切り工程を経ない以外は同様にして、サバの切り身の煮付け品(対照3)を製造し、上記と同様にして、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重を測定した。結果を表21に示す。
Figure 0007221054000020
Figure 0007221054000021
表20に示すとおり、希釈率が35%の軟化液を用いた場合には、24時間、22℃の浸漬で、穿孔個数が切り身1cmあたり0個、3個、5個、7個、又は9個のいずれも場合でも、硬さが350gf以下という柔らかさを備えたサバの煮付け品を得ることができた。特に、穿孔個数が5個又は7個の場合には、100gf以下という軟らかさを備えた煮付け品が得られた。この軟らかさは、穿孔工程を施さず、かつ、軟化処理をしない以外は上記と同様にして製造された通常のサバの煮付け品(対照3)の硬さが、表21に示すとおり、682gfであったことに鑑みると、極めて軟らかい。
しかし、硬さの測定時に上記軟化処理を経て製造される煮付け品を肉眼観察したところ、穿孔個数が0個の切り身の煮付け品には、皮の身からの浮き上がりが認められ、穿孔個数が9個の切り身の煮付け品には、身表面の溶けや崩れが認められ、双方とも、サバの切り身の煮付け品本来の外観形状を保持しているとはいえないものであった。一方、穿孔個数が3個~7個の切り身の煮付け品には、皮の身からの浮き上がりは認められず、身表面の溶けや崩れもなく、サバの切り身の煮付け品本来の外観形状を保持していた。特に、穿孔個数が5個の切り身の煮付け品は、穿孔工程や軟化浸漬処理を経ない通常の煮付け品と変わらぬ外観形状を保持しており、より好ましいと判断された。さらに、これら穿孔個数が3個~7個の切り身の煮付け品を試食してみたところ、異味、異臭は感じられず、マイタケ臭もなく、異味、異臭のないサバの煮付け品であった。
<13.軟化試験8(サバの煮付け品)>
サバの切り身の煮付け品について、希釈率が35%の軟化液を用いて軟化処理を行った場合に、サバの切り身の味噌煮品についての軟化試験4におけると同様の結果が得られたので、穿孔個数を切り身の1cmあたり5個又は7個にして、希釈率が25%又は40%の軟化液を用いて、軟化試験7におけると同様にサバの煮付け品を製造し、その硬さを測定した。結果を表22に示す。ただし、希釈率35%の場合の結果は、表20から転記したものである。
Figure 0007221054000022
表22に示されるとおり、軟化液の希釈率が25%の場合にも、24時間、22℃の浸漬では、穿孔個数が5個~7個の場合には、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重は350gf以下となり、希釈率が35%の軟化液に浸漬する場合と同様に、極めて軟らかいサバの切り身の煮付け品を得ることができた。
また、硬さの測定時に、これら希釈率25%の軟化液に浸漬して得られた煮付け品を肉眼観察したところ、皮の身からの浮き上がりや剥がれは認められず、身表面の溶けや崩れもなく、サバの切り身の煮付け品本来の外観形状を保持していた。さらに、これら煮付け品を試食してみたところ、異味、異臭は感じられず、マイタケ臭もなく、異味、異臭のないサバの煮付け品であった。
一方、希釈率が40%の軟化液を用いて軟化処理して得られた切り身の煮付け品は、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重は100gf以下となり、極めて軟らかい煮付け品であったが、試食してみたところ、軟化液に起因すると思われる苦味やマイタケ臭が強く感じられ、到底、サバの煮付け品本来の味を備えているとはいえないものであった。
これら軟化試験7及び8における結果は、サバの切り身の味噌煮品における結果と軌を一にするものであり、サバの煮付けにおいても、穿孔個数は切り身の1cmあたり3個~7個が好ましく、5個がより好ましいと判断された。
<14.官能検査3(サバの煮付け品)>
健康な計7名の男女をパネラーとし、軟化試験7及び8で製造された下記のサバの皮付き骨取り切り身の煮付け品J~Oについて、官能検査1と同様にして官能検査を行った。ただし、比較対照となる基準品としては、上記対照3と同様にして製造された軟化処理をしない通常のサバの切り身の煮付け品を用いた。結果を表23~表28に示す。
(対象とした切り身の煮付け品)
・サバの煮付け品J(表22の#42の浸漬条件における穿孔個数5個のもの)
軟化液の希釈率:25%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり5個
硬さ:106gf
・サバの煮付け品K(表22の#42の浸漬条件における穿孔個数7個のもの)
軟化液の希釈率:25%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり7個
硬さ:104gf
・サバの煮付け品L(表22の#41の浸漬条件における穿孔個数5個のもの)
軟化液の希釈率:35%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり5個
硬さ:73gf
・サバの煮付け品M(表22の#41の浸漬条件における穿孔個数7個のもの)
軟化液の希釈率:35%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり7個
硬さ:56gf
・サバの煮付け品N(表22の#43の浸漬条件における穿孔個数5個のもの)
軟化液の希釈率:40%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり5個
硬さ:71gf
・サバの煮付け品O(表22の#43の浸漬条件における穿孔個数7個のもの)
軟化液の希釈率:40%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり7個
硬さ:38gf
Figure 0007221054000023
Figure 0007221054000024
Figure 0007221054000025
Figure 0007221054000026
Figure 0007221054000027
Figure 0007221054000028
表23~表26に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が25%及び35%の軟化液を用いて軟化処理をした切り身を煮付け液の存在下で加熱して得られた煮付け品J~Mは、検査した「外観形状」、「外観色調」、「異味(苦味、えぐみ)」、「味」、「異臭」、「マイタケ臭」のいずれの項目においても、「良い=4」又は「非常に良い=5」と評価され、サバの切り身の煮付け品本来の外観形状、色調、味を有するとともに、異味、異臭がなく、マイタケ臭も感じられない優れた煮付け品であった。
これに対し、表27及び表28に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が40%の軟化液を用いて軟化処理をした切り身を煮付け液の存在下で加熱して得られた煮付け品N及びOは、外観形状や外観色調は、「良い=4」又は「非常に良い=5」と評価され、サバの切り身の煮付け品本来の外観形状、色調を保持していたが、「異味」、「異臭」、及び「マイタケ臭」に関しては評価点の平均値は「普通=3」を下回り、異味、異臭が感じられるとともに、マイタケ臭がすると評価されるものであった。
これら官能検査の結果は、軟化試験7及び8において、実施者が各煮付け品の硬さ測定の際にその都度行った肉眼観察及び試食の結果と一致しており、軟化試験7及び8の実施者による肉眼観察及び試食による評価が客観性を備えた妥当なものであることを裏付けるものである。
<15.味認識装置による評価3>
本発明に係るサバの切り身の煮付け品が異味、異臭のないものであることをより客観的に確認すべく、下記の比較対照品と試料7~10について、味認識装置による評価1におけると同様にして、味認識装置による味分析を外部の検査機関に依頼した。結果を表29に示す。また、結果をレーダチャートとして表したものを図17に示す。
(味分析対象試料)
・比較対照品:対照3と同様にして製造された通常の(軟化処理を経ない)サバの切り身の煮付け品(株式会社新東京フード製)
・試料7:穿孔個数が1cmあたり5個のサバの切り身を希釈率35%の軟化液に22℃で24時間浸漬したものを煮付け液の存在下で加熱して得られた切り身の煮付け品(表22における浸漬条件#41の穿孔個数5個のものに相当:硬さ73gf)
・試料8:穿孔個数が1cmあたり7個のサバの切り身を希釈率35%の軟化液に22℃で24時間浸漬したものを煮付け液の存在下で加熱して得られた切り身の煮付け品(表22における浸漬条件#41の穿孔個数7個のものに相当:硬さ56gf)
・試料9:穿孔個数が1cmあたり5個のサバの切り身を希釈率40%の軟化液に22℃で24時間浸漬したものを煮付け液の存在下で加熱して得られた切り身の煮付け品(表22における浸漬条件#43の穿孔個数5個のものに相当:硬さ71gf)
・試料10:穿孔個数が1cmあたり7個のサバの切り身を希釈率40%の軟化液に22℃で24時間浸漬したものを煮付け液の存在下で加熱して得られた切り身の煮付け品(表22における浸漬条件#43の穿孔個数7個のものに相当:硬さ38gf)
Figure 0007221054000029
表29及び図17に示すとおり、本発明に係る軟らか煮付け品に該当する試料7及び8の味の測定値は、比較対照品である軟化処理をしていない通常のサバの切り身の煮付け品の各味を基準=0として、「酸味」の点では±2の範囲外となり、「塩味」の点では一部±2の範囲外となったが、「苦味雑味」、「渋味刺激」、「旨味」、「苦味」、「渋味」、及び「旨味コク」の点では±2未満(-2<測定値<+2)に収まっていた。味認識装置を用いる味分析において、比較対照品を0としたときの味の測定値が±2未満の場合には、これをヒトが食しても比較対照品との味の差としては認識されないといわれている。したがって、ヒトが食したときに「異味」として認識されると考えられる「苦味雑味」「渋味刺激」「苦味」「渋味」の測定値がいずれも±2未満に収まっていたという上記分析結果は、ヒトが試料7及び8を食したときにも通常品である比較対照品と比べて異味があるとは感じられず、本発明品が異味を有さない煮付け品であることを示している。特に異味として最も強く感じられるとされる「苦味雑味」についての試料7及び8の測定値は、比較対照品と比べて±1以内にとどまっており、本発明のサバの切り身の軟らか煮付け品は、異味のない煮付け品である。
このように味認識装置による味分析においても、本発明に係るサバの切り身の軟らか煮付け品が、軟化処理をしていない通常のサバの切り身の煮付け品と比べて異味がなく、サバの切り身の煮付け品本来の味を備えたものであることが確認された。
なお、試料9及び10は、希釈率40%の軟化液を用いて軟化処理された煮付け品であり、上記官能検査3においては異味、異臭が感じられるとともにマイタケ臭がすると評価されたものであるが、今回、味認識装置を用いて味分析を行った限りでは、希釈率35%の軟化液を用いて軟化処理された煮付け品である試料7及び8と測定値において有意な差は検出されなかった。この分析結果は、味認識装置を用いる味分析よりも、ヒトの味覚による官能検査の方がより鋭敏であることを示唆している。
<16.軟化試験9(金目鯛の煮付け品)>
サバの切り身の冷凍品(切り身質量約40g)を金目鯛の皮付きで骨を全て取り除いた切り身の冷凍品(切り身質量約40g)に変えるとともに、軟化試験7で用いたのと同じ希釈率35%の軟化液を用い、穿孔個数を切り身1cmあたり0個、3個、5個、7個、又は9個とし、浸漬時間24時間、浸漬温度22℃で、金目鯛の切り身の煮付け品を製造し、軟化試験7におけると同様に、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重を測定した。結果を表30に示す。
また、対照として、同じ金目鯛の切り身の冷凍品を用い、ウの穿孔工程、エの軟化液浸漬(軟化処理)工程、及びオの液切り工程を経ない以外は同様にして、金目鯛の切り身の煮付け品(対照4)を製造し、上記と同様にして、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重を測定した。結果を表31に示す。
Figure 0007221054000030
Figure 0007221054000031
表30に示すとおり、希釈率が35%の軟化液を用いた場合には、24時間、22℃の浸漬で、穿孔個数が切り身1cmあたり0個、3個、5個、7個、又は9個のいずれも場合でも、硬さが350gf以下という柔らかさを備えた金目鯛の切り身の煮付け品を得ることができた。特に、穿孔個数が5個又は7個の場合には、100gf以下という軟らかさを備えた煮付け品が得られた。
この軟らかさは、穿孔工程を施さず、かつ、軟化処理をしない以外は上記と同様にして製造された通常の金目鯛の煮付け品(対照4)の硬さが、表31に示すとおり、772gfであったことに鑑みると、極めて軟らかい。
しかし、硬さの測定時に上記軟化処理を経て製造された金目鯛の煮付け品を肉眼観察したところ、穿孔個数が0個及び3個の切り身の煮付け品には、皮の身からの浮き上がりが認められ、穿孔個数が9個の切り身の煮付け品には、身の崩れが認められ、いずれも金目鯛の切り身の煮付け品本来の外観形状を保持しているとはいえないものであった。一方、穿孔個数が5個又は7個の切り身の煮付け品には、皮の身からの浮き上がりは認められず、身の崩れもなく、金目鯛の切り身の煮付け品本来の外観形状を保持していた。特に、穿孔個数が5個の切り身の煮付け品は、穿孔工程や軟化浸漬処理を経ない通常の煮付け品と変わらぬ外観形状を保持しており、より好ましいと判断された。さらに、これら穿孔個数が5個又は7個の切り身の煮付け品を試食してみたところ、異味、異臭は感じられず、マイタケ臭もなく、異味、異臭のない金目鯛の切り身の煮付け品であった。
一例として、希釈率が35%の軟化液を用いて軟化処理を行ったときの穿孔個数が1cmあたり0個、5個、又は9個の金目鯛の切り身の煮付け品の外観写真をそれぞれ図18~図20に示す。図18及び図20に見られるとおり、穿孔個数が1cmあたり0個又は9個の煮付け品には、皮の身からの浮き上がりや剥がれ、身の崩れが認められ、金目鯛の切り身の煮付け品本来の外観形状を有しているとはいえない。これに対し、図19に見られるとおり、穿孔個数が1cmあたり5個の煮付け品には皮の浮き上がりや身の崩れは認められず、金目鯛の切り身の煮付け品本来の外観形状が保たれている。
<17.軟化試験10(金目鯛の煮付け品)>
金目鯛の切り身の煮付け品について、希釈率が35%の軟化液を用いて軟化処理を行った場合に、カレイの切り身の煮付け品についての軟化試験1におけると同様の結果が得られたので、穿孔個数を切り身の1cmあたり5個又は7個にして、希釈率が25%又は40%の軟化液を用いて、軟化試験9におけると同様に金目鯛の煮付け品を製造し、その硬さを測定した。結果を表32に示す。ただし、希釈率35%の場合の結果は、表30から転記したものである。
Figure 0007221054000032
表32に示されるとおり、軟化液の希釈率が25%の場合にも、24時間、22℃の浸漬では、穿孔個数が5個~7個の場合には、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重は350gf以下となり、希釈率が35%の軟化液に浸漬する場合と同様に、極めて軟らかい金目鯛の切り身の煮付け品を得ることができた。
また、硬さの測定時に、これら希釈率25%の軟化液に浸漬して得られた煮付け品を肉眼観察したところ、皮の身からの浮き上がりや剥がれは認められず、身の溶けや崩れもなく、金目鯛の切り身の煮付け品本来の外観形状を保持していた。さらに、これら煮付け品を試食してみたところ、異味、異臭は感じられず、マイタケ臭もなく、異味、異臭のない金目鯛の煮付け品であった。
一方、希釈率が40%の軟化液を用いて軟化処理して得られた切り身の煮付け品は、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重は100gf以下となり、極めて軟らかい煮付け品であったが、試食してみたところ、軟化液に起因すると思われる苦味やマイタケ臭が強く感じられ、到底、金目鯛の煮付け品本来の味を備えているとはいえないものであった。
これら軟化試験9及び10における結果は、カレイの切り身の煮付け品における結果と軌を一にするものであり、金目鯛の煮付けにおいても、穿孔個数は切り身の1cmあたり5個~7個が好ましく、5個がより好ましいと判断された。
<18.官能検査4(金目鯛の煮付け品)>
健康な計7名の男女をパネラーとし、軟化試験9及び10で製造された下記の金目鯛の皮付き骨取り切り身の煮付け品P~Uについて、官能検査1と同様にして官能検査を行った。ただし、比較対照となる基準品としては、上記対照4と同様にして製造された軟化処理をしない通常の金目鯛の切り身の煮付け品を用いた。結果を表33~表38に示す。
(対象とした切り身の煮付け品)
・金目鯛の煮付け品P(表32の#45の浸漬条件における穿孔個数5個のもの)
軟化液の希釈率:25%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり5個
硬さ:131gf
・金目鯛の煮付け品Q(表32の#45の浸漬条件における穿孔個数7個のもの)
軟化液の希釈率:25%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり7個
硬さ:110gf
・金目鯛の煮付け品R(表32の#44の浸漬条件における穿孔個数5個のもの)
軟化液の希釈率:35%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり5個
硬さ:80gf
・金目鯛の煮付け品S(表32の#44の浸漬条件における穿孔個数7個のもの)
軟化液の希釈率:35%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり7個
硬さ:69gf
・金目鯛の煮付け品T(表32の#46の浸漬条件における穿孔個数5個のもの)
軟化液の希釈率:40%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり5個
硬さ:64gf
・金目鯛の煮付け品U(表32の#46の浸漬条件における穿孔個数7個のもの)
軟化液の希釈率:40%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり7個
硬さ:67gf
Figure 0007221054000033
Figure 0007221054000034
Figure 0007221054000035
Figure 0007221054000036
Figure 0007221054000037
Figure 0007221054000038
表33~表36に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が25%及び35%の軟化液を用いて軟化処理をした切り身を煮付け液の存在下で加熱して得られた煮付け品P~Sは、検査した「外観形状」、「外観色調」、「異味(苦味、えぐみ)」、「味」、「異臭」、「マイタケ臭」のいずれの項目においても、「良い=4」又は「非常に良い=5」と評価され、金目鯛の切り身の煮付け品本来の外観形状、色調、味を有するとともに、異味、異臭がなく、マイタケ臭も感じられない優れた煮付け品であった。
これに対し、表37及び表38に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が40%の軟化液を用いて軟化処理をした切り身を煮付け液の存在下で加熱して得られた煮付け品T及びUは、外観形状や外観色調は、「良い=4」又は「非常に良い=5」と評価され、金目鯛の切り身の煮付け品本来の外観形状、色調を保持していたが、「異味」、「異臭」、及び「マイタケ臭」に関しては評価点の平均値は「普通=3」を下回り、特に、穿孔個数が7個の場合には、「異臭」と「マイタケ臭」の評価点が「悪い=2」に近いものとなり、異味、異臭が感じられるとともに、マイタケ臭がすると評価されるものであった。
これら官能検査の結果は、軟化試験9及び10において、実施者が各煮付け品の硬さ測定の際にその都度行った肉眼観察及び試食の結果と一致しており、軟化試験9及び10の実施者による肉眼観察及び試食による評価が客観性を備えた妥当なものであることを裏付けるものである。
<19.味認識装置による評価4>
本発明に係る金目鯛の切り身の煮付け品が異味、異臭のないものであることをより客観的に確認すべく、下記の比較対照品と試料11~14について、味認識装置による評価1におけると同様にして、味認識装置による味分析を外部の検査機関に依頼した。結果を表39に示す。また、結果をレーダチャートとして表したものを図21に示す。
(味分析対象試料)
・比較対照品:対照4と同様にして製造された通常の(軟化処理を経ない)金目鯛の切り身の煮付け品(株式会社新東京フード製)
・試料11:穿孔個数が1cmあたり5個の金目鯛の切り身を希釈率35%の軟化液に22℃で24時間浸漬したものを煮付け液の存在下で加熱して得られた切り身の煮付け品(表32における浸漬条件#44の穿孔個数5個のものに相当:硬さ80gf)
・試料12:穿孔個数が1cmあたり7個の金目鯛の切り身を希釈率35%の軟化液に22℃で24時間浸漬したものを煮付け液の存在下で加熱して得られた切り身の煮付け品(表32における浸漬条件#44の穿孔個数7個のものに相当:硬さ69gf)
・試料13:穿孔個数が1cmあたり5個の金目鯛の切り身を希釈率40%の軟化液に22℃で24時間浸漬したものを煮付け液の存在下で加熱して得られた切り身の煮付け品(表32における浸漬条件#46の穿孔個数5個のものに相当:硬さ64gf)
・試料14:穿孔個数が1cmあたり7個の金目鯛の切り身を希釈率40%の軟化液に22℃で24時間浸漬したものを煮付け液の存在下で加熱して得られた切り身の煮付け品(表32における浸漬条件#46の穿孔個数7個のものに相当:硬さ67gf)
Figure 0007221054000039
表39及び図21に示すとおり、本発明に係る軟らか煮付け品に該当する試料11及び12の味の測定値は、比較対照品である軟化処理をしていない通常の金目鯛の切り身の煮付け品の各味を基準=0として、「酸味」、「旨味」、及び「塩味」の点では±2の範囲外となったが、「苦味雑味」、「渋味刺激」、「苦味」、「渋味」、及び「旨味コク」の点では±2未満(-2<測定値<+2)に収まっていた。味認識装置を用いる味分析において、比較対照品を0としたときの味の測定値が±2未満の場合には、これをヒトが食しても比較対照品との味の差としては認識されないといわれている。したがって、ヒトが食したときに「異味」として認識されると考えられる「苦味雑味」「渋味刺激」「苦味」「渋味」の測定値がいずれも±2未満に収まっていたという上記分析結果は、ヒトが試料11及び12を食したときにも通常品である比較対照品と比べて異味があるとは感じられず、本発明品が異味を有さない煮付け品であることを物語っている。特に異味として最も強く感じられるとされる「苦味雑味」についての試料11及び12の測定値は、比較対照品と比べて±1以内にとどまっており、本発明の金目鯛の切り身の軟らか煮付け品は、異味のない煮付け品である。
このように味認識装置による味分析においても、本発明に係る金目鯛の切り身の軟らか煮付け品が、軟化処理をしていない通常の金目鯛の切り身の煮付け品と比べて異味がなく、金目鯛の切り身の煮付け品本来の味を備えたものであることが確認された。
なお、試料13及び14は、希釈率40%の軟化液を用いて軟化処理された煮付け品であり、上記官能検査4においては異味、異臭が感じられるとともにマイタケ臭がすると評価されたものであるが、今回、味認識装置を用いて味分析を行った限りでは、希釈率35%の軟化液を用いて軟化処理された煮付け品である試料7及び8と測定値において有意な差は検出されなかった。この分析結果は、味認識装置を用いる味分析よりも、ヒトの味覚による官能検査の方がより鋭敏であることを示唆している。
<20.軟化試験11(メカジキ煮付け品)>
カレイの切り身の冷凍品(切り身質量約55g)をメカジキの骨を全て取り除いた切り身の冷凍品(切り身質量約50g)に変えた以外は軟化試験1と同様にして、メカジキの切り身の煮付け品を製造し、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重を測定した。結果を表40に示す。なお、表中、350gfを超える数値には下線を付してある。
また、対照として、同じメカジキの切り身の冷凍品を用い、ウの穿孔工程、エの軟化液浸漬(軟化処理)工程、及びオの液切り工程を経ない以外は同様にして、メカジキの切り身の煮付け品(対照5)を製造し、上記と同様にして、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重を測定した。結果を表41に示す。
Figure 0007221054000040
Figure 0007221054000041
表40に見られるとおり、マイタケの絞り汁を水で20%に希釈した軟化液を用いて軟化処理を施した場合、22℃、24時間の浸漬では、穿孔個数が1cmあたり0個、3個、5個、7個、及び9個のいずれの場合であっても、硬さが350gfを超え、メカジキの煮付け品においても、カレイの煮付け品の場合と同様に、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が350gf以下という軟らかさを有する煮付け品を製造することができなかった。
これに対し、マイタケの絞り汁を水で25%又は35%に希釈した軟化液を用いて軟化処理を施した場合には、22℃、24時間の浸漬で、穿孔個数が1cmあたり5個以上の場合、硬さが350gf以下となった。この350gf以下という硬さは、軟化処理を施さないで製造されたメカジキの切り身の通常の煮付け品である対照5の硬さが、表41に見られるとおり、963gfであったことに鑑みると、極めて軟らかいものである。
また、上記硬さの測定時に、測定対象となるメカジキの切り身の煮付け品を肉眼で観察したところ、軟化液の希釈率が25%又は35%のいずれの場合においても、350gf以下の硬さとなった穿孔個数が1cmあたり5個~7個の煮付け品には、皮の浮き上がりや身の崩れは認められず、メカジキの煮付け品本来の外観形状が保たれていた。一方、硬さが350gf以下であっても、穿孔個数が1cmあたり9個の煮付け品には、細かな身の崩れに起因すると思われる調味液の濁りが認められ、メカジキの煮付け品本来の外観形状がやや失われる傾向がみられた。
また、上記硬さの測定時に、測定対象となるメカジキの切り身の煮付け品を試食したところ、希釈率が25%又は35%の軟化液を用いて軟化処理したメカジキの切り身の煮付け品はメカジキの煮付け品本来の味がし、軟化液浸漬による異味、異臭は全く感じられなかった。
一方、マイタケの絞り汁を水で40%に希釈した軟化液を用いて軟化処理を施した場合には、22℃、24時間の浸漬で、穿孔個数が1cmあたり0個、3個、5個、7個、及び9個のいずれの場合であっても、硬さが350gf以下となり、軟らかい煮付け品が得られた。
しかしながら、硬さの測定時に、測定対象となるメカジキの切り身の煮付け品を肉眼で観察したところ、いずれの穿孔個数の煮付け品においても、表面に若干の身の溶けが認められ、また、試食したところ、希釈率が40%の軟化液を用いて軟化処理した切り身の煮付け品は、穿孔個数が1cmあたり0個、3個、5個、7個、及び9個のいずれの煮付け品からも、軟化処理に用いた軟化液に起因すると思われるマイタケ臭や苦味が感じられ、メカジキの煮付け品本来の味が保持されているとはいえないものであった。
以上の結果は、メカジキの煮付け品の場合、22℃、24時間の軟化液浸漬条件下では、希釈率が25%~35%の軟化液を用い、軟化処理前に切り身に1cmあたり5個~7個の孔をあけておくことにより、「弱い力で噛める」程度若しくはそれ以上の軟らかさに相当する350gf以下という軟らかさを備え、かつ、メカジキの切り身の煮付け品本来の外観形状を有し、異味、異臭がない煮付け品が安定して得られることを示している。
<21.軟化試験12<メカジキ煮付け品)>
軟化試験11の結果を踏まえ、メカジキの煮付け品においても、浸漬温度及び浸漬時間の下限を求めるべく、以下の軟化試験を行った。すなわち、軟化試験11で用いた希釈率25%の軟化液を用い、穿孔個数を切り身1cmあたり5個又は7個とし、浸漬条件を2時間で6℃、4時間で4℃又は6℃とした以外は、軟化試験11と同様にして、メカジキの切り身の煮付け品を製造し、その硬さを測定した。結果を表42に示す。ただし、24時間、22℃の結果は表40から転記した。
Figure 0007221054000042
表42に見られるとおり、希釈率が25%の軟化液を用いて軟化処理を行った場合、切り身の軟化液への浸漬時間が4時間、浸漬温度が6℃の場合には、穿孔個数が切り身1cmあたり5個又は7個のいずれの場合においても、350gfを下回る軟らかさを備えた切り身の煮付け品が得られた。浸漬時間が24時間、浸漬温度が6℃の場合にも、同様の結果が得られた。得られた煮付け品を肉眼観察したところ、身表面の溶けや崩れは認められず、メカジキの切り身の煮付け品本来の外観形状を有していた。また、試食したところ、メカジキの煮付け品本来の味がし、軟化液浸漬による異味、異臭は全く感じられなかった。
ところが、浸漬時間が同じ4時間であっても、浸漬温度が4℃になると、得られる切り身の煮付け品の硬さは350gfを大きく上回り、また、浸漬温度が6℃であっても、浸漬時間が2時間になると、同様に、得られる切り身の煮付け品の硬さは350gfを上回った。
以上の結果から、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が350gf以下という軟らかさを有するメカジキの切り身の煮付け品を製造するには、カレイの切り身の煮付け品の場合と同様に、切り身の軟化液への浸漬時間は少なくとも4時間は必要で、軟化液の温度は6℃以上であることが必要であると判断された。なお、表42をみると、4時間、6℃の浸漬条件で得られた切り身の硬さよりも、24時間、22℃の浸漬条件で得られた切り身の硬さの方が数値的に大きくなっているが、これは、軟化試験に用いたメカジキの切り身の魚体における部位の違いが影響しているのではないかと推測される。
<22.軟化試験13(メカジキ煮付け品)>
希釈率25%の軟化液を用いて行われた軟化試験12の結果が、希釈率35%の軟化液を用いる場合にも妥当するか否かを検証すべく、以下の軟化試験を行った。すなわち、軟化試験11で用いた希釈率35%の軟化液を用い、穿孔個数を切り身1cmあたり5個又は7個とし、浸漬条件を2時間で6℃、4時間で4℃、6℃、10℃、又は22℃、及び24時間で6℃又は10℃とした以外は、軟化試験11と同様にして、メカジキの切り身の煮付け品を製造し、その硬さを測定した。結果を表43に示す。ただし、浸漬条件が24時間で22℃の結果は表40から転記した。
Figure 0007221054000043
表43に示されるとおり、軟化液の希釈率が35%の場合にも、4時間、6℃の浸漬条件下では、350gf以下の軟らかさを備えたメカジキの切り身の煮付け品が得られ、4時間、10℃及び22℃、さらに24時間、6℃、10℃、及び22℃の場合にも、350gf以下の軟らかさを備えたメカジキの切り身の煮付け品が得られた。これに対し、浸漬条件が2時間、6℃、又は4時間、4℃になると、350gf以下の軟らかさを備えたメカジキの切り身の煮付け品は得られなかった。これらの結果から、希釈率が35%の場合にも、希釈率が25%の場合と同様に、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が350gf以下という軟らかさを有するメカジキの切り身の煮付け品を製造するには、切り身の軟化液への浸漬時間は少なくとも4時間は必要で、軟化液の温度は6℃以上が必要であると判断された。なお、表43をみると、例えば、4時間、6℃の浸漬条件で得られた切り身の硬さよりも、4時間、22℃の浸漬条件で得られた切り身の硬さの方が数値的に大きくなっているが、これは、上記軟化試験12で述べたと同様に、軟化試験に用いたメカジキの切り身の魚体における部位の違いが影響しているのではないかと推測される。
なお、硬さの測定時に、測定対象としたメカジキの切り身の煮付け品を肉眼観察したところ、硬さの測定値が350gf以下であった煮付け品は、いずれも、身表面の溶けや崩れもなく、メカジキの切り身の煮付け品本来の外観形状を有していた。また、これらの煮付け品を試食したところ、メカジキの煮付け品本来の味がし、軟化液浸漬による異味、異臭は全く感じられなかった。
以上の表40~表43に示した軟化試験11~13の結果から、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が350gf以下という軟らかさを有するとともに、異味、異臭がなく、かつ、メカジキの切り身の煮付け品本来の外観形状を保持している煮付け品を安定的に製造するには、切り身表面の1cmあたり5個~7個の孔をあける穿孔工程を経た切り身を、マイタケの切断物の絞り汁を25%~35%に希釈した軟化液に、4時間~24時間、6℃~22℃浸漬した後に煮付け用の煮付け液の存在下で加熱するのが良いという結論が得られた。なお、浸漬温度の上限を22℃としたのは、前述したとおり、浸漬温度が23℃以上になると、微生物の繁殖が激しくなり、雑菌の増加、腐敗臭の発生が懸念されるためである。
<23.官能検査5(メカジキ煮付け品)>
健康な計6名の男女をパネラーとし、軟化試験11で製造された下記のメカジキの切り身の煮付け品V~AAについて、官能検査1と同様にして官能検査を行った。ただし、比較対照となる基準品としては、上記対照5と同様にして製造された軟化処理をしない通常のメカジキの切り身の煮付け品を用いた。結果を表44~表49に示す。
(対象とした切り身の煮付け品)
・メカジキの煮付け品V(表40の#48の浸漬条件における穿孔個数5個のもの)
軟化液の希釈率:25%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり5個
硬さ:292gf
・メカジキの煮付け品W(表40の#48の浸漬条件における穿孔個数7個のもの)
軟化液の希釈率:25%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり7個
硬さ:285gf
・メカジキの煮付け品X(表40の#49の浸漬条件における穿孔個数5個のもの)
軟化液の希釈率:35%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり5個
硬さ:217gf
・メカジキの煮付け品Y(表40の#49の浸漬条件における穿孔個数7個のもの)
軟化液の希釈率:35%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり7個
硬さ:131gf
・メカジキの煮付け品Z(表40の#50の浸漬条件における穿孔個数5個のもの)
軟化液の希釈率:40%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり5個
硬さ:292gf
・メカジキの煮付け品AA(表40の#50の浸漬条件における穿孔個数7個のもの)
軟化液の希釈率:40%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり7個
硬さ:333gf
Figure 0007221054000044
Figure 0007221054000045
Figure 0007221054000046
Figure 0007221054000047
Figure 0007221054000048
Figure 0007221054000049
表44~表47に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が25%及び35%の軟化液を用いて軟化処理をしたメカジキの切り身を煮付け液の存在下で加熱して得られた煮付け品V~Yは、検査した「外観形状」、「外観色調」、「異味(苦味、えぐみ)」、「味」、「異臭」、「マイタケ臭」のいずれの項目においても、「良い=4」又は「非常に良い=5」と評価され、メカジキの切り身の煮付け品本来の外観形状、色調、味を有するとともに、異味、異臭がなく、マイタケ臭も感じられない優れた煮付け品であった。
これに対し、表48及び表49に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が40%の軟化液を用いて軟化処理をしたメカジキの切り身を煮付け液の存在下で加熱して得られた煮付け品Z及びAAは、外観形状や外観色調は、「良い=4」又は「普通=3」と評価され、一応は、メカジキの切り身の煮付け品本来の外観形状、色調を保持していたが、「異味」、「味」、及び「異臭」に関しては評価点の平均値は「悪い=2」に近いものとなり、「マイタケ臭」に関しても、評価点の平均値は「普通=3」を下回り、異味、異臭が感じられるとともに、マイタケ臭がすると評価されるものであった。
これら官能検査の結果は、軟化試験11~13において、実施者が各煮付け品の硬さ測定の際にその都度行った肉眼観察及び試食の結果と一致しており、軟化試験11~13の実施者による肉眼観察及び試食による評価が客観性を備えた妥当なものであることを裏付けるものである。
<24.味認識装置による評価5>
本発明に係るメカジキの切り身の煮付け品が異味、異臭のないものであることをより客観的に確認すべく、下記の比較対照品と試料15及び16について、味認識装置による評価1におけると同様にして、味認識装置による味分析を外部の検査機関に依頼した。結果を表50に示す。
(味分析対象試料)
・比較対照品:対照5と同様にして製造された通常の(軟化処理を経ない)メカジキの切り身の煮付け品(株式会社新東京フード製)
・試料15:穿孔個数が1cmあたり5個のメカジキの切り身を希釈率35%の軟化液に22℃で24時間浸漬したものを煮付け液の存在下で加熱して得られた切り身の煮付け品(表40における浸漬条件#49の穿孔個数5個のものに相当:硬さ217gf)
・試料16:希釈率35%の軟化液を、市販の酵素製剤(「やわらかアップ お肉・お魚用」、味の素株式会社販売)を濃度3%となるように水道水に溶解した酵素製剤水溶液に代え、浸漬温度を10℃とした以外は、上記試料15と同様にして製造されたメカジキの切り身の煮付け品(なお、3%という酵素製剤の濃度、及び10℃という浸漬温度は、当該酵素製剤に添付されている案内資料に記載された使用方法に準じたものである)。
Figure 0007221054000050
表50に示すとおり、本発明に係る軟らか煮付け品に該当する試料15の味の測定値は、比較対照品である軟化処理をしていない通常のメカジキの切り身の煮付け品の各味を基準=0として、「苦味雑味」、「渋味刺激」、「苦味」、及び「渋味」を含め、試験された全ての味において、±2未満(-2<測定値<+2)に収まっていた。味認識装置を用いる味分析において、比較対照品を0としたときの味の測定値が±2未満の場合には、これをヒトが食しても比較対照品との味の差としては認識されないといわれている。したがって、ヒトが食したときに「異味」として認識されると考えられる「苦味雑味」「渋味刺激」「苦味」「渋味」の測定値がいずれも±2未満に収まっていたという上記分析結果は、ヒトが試料15を食したときにも通常品である比較対照品と比べて異味があるとは感じられず、本発明品が異味を有さない煮付け品であることを物語っている。特に異味として最も強く感じられるとされる「苦味雑味」についての試料15の測定値は、比較対照品と比べて±1以内にとどまっており、本発明のメカジキの切り身の軟らか煮付け品は、異味のない煮付け品である。
これに対し、市販の酵素製剤を用いて軟化処理して得られた試料16は、「渋味刺激」、「苦味」、「渋味」の測定値は±2未満に収まっていたものの、異味として最も強く感じられるとされる「苦味雑味」の測定値は4.38となり、2を大きく上回り、比較対照品に比べて明らかに「苦味雑味」が強く、異味があると評価されるものであった。なお、味認識装置による味分析に先立ち、味分析に供した試料16と同様にして製造されたメカジキの切り身の煮付け品を試食したところ、苦味が強く感じられた。味認識装置による味分析の結果は、上記試食結果を数値的に追認するものであった。また、味分析に供した試料16と同様にして製造されたメカジキの切り身の煮付け品について、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重を測定したところ771gfという結果となり、10℃という浸漬温度では、24時間浸漬しても、350gf以下という軟らかさを備えたメカジキの切り身の煮付け品は得ることができなかった。
<25.軟化試験14(メカジキクリーム煮)>
煮付け液をクリーム煮用の煮付け液に変えた以外は軟化試験11と同様にして、メカジキの切り身のクリーム煮を製造し、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重を測定した。結果を表51に示す。なお、表中、350gfを超える数値には下線を付してある。
Figure 0007221054000051
表51に見られるとおり、マイタケの絞り汁を水で20%に希釈した軟化液を用いて軟化処理を施した場合、22℃、24時間の浸漬では、穿孔個数が1cmあたり0個、3個、5個、7個、及び9個のいずれの場合であっても、硬さが350gfを超え、メカジキのクリーム煮においても煮付け品の場合と同様に、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が350gf以下という軟らかさを有する煮付け品を製造することができなかった。
これに対し、マイタケの絞り汁を水で25%に希釈した軟化液を用いて軟化処理を施した場合には、22℃、24時間の浸漬で、穿孔個数が1cmあたり5個以上の場合に、又はマイタケの絞り汁を水で35%に希釈した軟化液を用いて軟化処理を施した場合には、穿孔個数が1cmあたり0個以上の場合に、硬さが350gf以下となった。この350gf以下という硬さは、調理方法は若干異なるものの、先に表41に示したとおり、軟化処理を施さないで製造されたメカジキの切り身の通常の煮付け品である対照5の硬さが963gfであったことに鑑みると、極めて軟らかいものである。
また、上記硬さの測定時に、測定対象となるメカジキの切り身のクリーム煮を肉眼で観察したところ、軟化液の希釈率が25%の場合には穿孔個数が1cmあたり5個~7個の煮付け品、及び軟化液の希釈率が35%の場合には穿孔個数が1cmあたり0個~7個の煮付け品には、いずれも、皮の浮き上がりや身の崩れは認められず、メカジキのクリーム煮本来の外観形状が保たれていた。一方、穿孔個数が1cmあたり9個の煮付け品には、軟化液の希釈率が25%及び35%のいずれの場合にも、細かな身の崩れに起因すると思われる調味液の濁りが認められ、メカジキのクリーム煮本来の外観形状がやや失われる傾向がみられた。
また、上記硬さの測定時に、測定対象となるメカジキの切り身のクリーム煮を試食したところ、希釈率が25%又は35%の軟化液を用いて軟化処理したメカジキの切り身のクリーム煮はメカジキのクリーム煮本来の味がし、軟化液浸漬による異味、異臭は全く感じられなかった。
一方、マイタケの絞り汁を水で40%に希釈した軟化液を用いて軟化処理を施した場合には、22℃、24時間の浸漬で、穿孔個数が1cmあたり3個以上の場合に、硬さが350gf以下となり、軟らかいクリーム煮が得られた。
しかしながら、硬さの測定時に、測定対象となるメカジキの切り身のクリーム煮を肉眼で観察したところ、いずれの穿孔個数の煮付け品においても、表面に若干の身の溶けが認められ、また、試食したところ、希釈率が40%の軟化液を用いて軟化処理した切り身のクリーム煮は、穿孔個数が1cmあたり0個、3個、5個、7個、及び9個のいずれのクリーム煮からも、軟化処理に用いた軟化液に起因すると思われるマイタケ臭や苦味が感じられ、メカジキのクリーム煮本来の味が保持されているとはいえないものであった。
以上の結果は、メカジキのクリーム煮の場合、メカジキの煮付け品の場合と同様に、22℃、24時間の軟化液浸漬条件下では、希釈率が25%~35%の軟化液を用い、軟化処理前に切り身に1cmあたり5個~7個の孔をあけておくことにより、「弱い力で噛める」程度若しくはそれ以上の軟らかさに相当する350gf以下という軟らかさを備え、かつ、メカジキの切り身のクリーム煮本来の外観形状を有し、異味、異臭がないクリーム煮が安定して得られることを示している。
以上のとおり、メカジキは、調理法が煮付けからクリーム煮に変わっても、軟化処理に対し同様の傾向を示すので、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が350gf以下という軟らかさを有するとともに、異味、異臭がなく、かつ、メカジキの切り身の煮付け品本来の外観形状を保持している煮付け品を安定的に製造するには、煮付け液の種類にかかわらず、切り身表面の1cmあたり5個~7個の孔をあける穿孔工程を経た切り身を、マイタケの切断物の絞り汁を25%~35%に希釈した軟化液に、4時間~24時間、6℃~22℃浸漬した後に通常の煮付け用、又はクリーム煮用、或いはその他の煮付け用の煮付け液の存在下で加熱するのが良いという結論される。
<26.官能検査6(メカジキクリーム煮)>
健康な計6名の男女をパネラーとし、軟化試験14で製造された下記のメカジキの切り身の煮付け品AB~AGについて、官能検査1と同様にして官能検査を行った。ただし、比較対照となる基準品としては、穿孔処理や軟化処理をしない以外は同様にして製造された通常のメカジキの切り身のクリーム煮を用いた。結果を表52~表57に示す。
(対象とした切り身のクリーム煮)
・メカジキのクリーム煮AB(表51の#62の浸漬条件における穿孔個数5個のもの)
軟化液の希釈率:25%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり5個
硬さ:223gf
・メカジキのクリーム煮AC(表51の#62の浸漬条件における穿孔個数7個のもの)
軟化液の希釈率:25%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり7個
硬さ:217gf
・メカジキのクリーム煮AD(表51の#63の浸漬条件における穿孔個数5個のもの)
軟化液の希釈率:35%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり5個
硬さ:102gf
・メカジキのクリーム煮AE(表51の#63の浸漬条件における穿孔個数7個のもの)
軟化液の希釈率:35%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり7個
硬さ:199gf
・メカジキのクリーム煮AF(表51の#64の浸漬条件における穿孔個数5個のもの)
軟化液の希釈率:40%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり5個
硬さ:182gf
・メカジキのクリーム煮AG(表51の#64の浸漬条件における穿孔個数7個のもの)
軟化液の希釈率:40%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり7個
硬さ:159gf
Figure 0007221054000052
Figure 0007221054000053
Figure 0007221054000054
Figure 0007221054000055
Figure 0007221054000056
Figure 0007221054000057
表52~表55に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が25%及び35%の軟化液を用いて軟化処理をしたメカジキの切り身をクリーム煮用の煮付け液の存在下で加熱して得られたクリーム煮AB~AEは、検査した「外観形状」、「外観色調」、「異味(苦味、えぐみ)」、「味」、「異臭」、「マイタケ臭」のいずれの項目においても、「良い=4」又は「非常に良い=5」と評価され、メカジキの切り身のクリーム煮本来の外観形状、色調、味を有するとともに、異味、異臭がなく、マイタケ臭も感じられない優れたクリーム煮であった。
これに対し、表56及び表57に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が40%の軟化液を用いて軟化処理をしたメカジキの切り身をクリーム煮用の煮付け液の存在下で加熱して得られた煮付け品AF及びAGは、外観形状や外観色調は、「良い=4」又は「普通=3」と評価され、一応は、メカジキの切り身のクリーム煮本来の外観形状、色調を保持していたが、「異味」、「味」、「異臭」、及び「マイタケ臭」に関しては評価点の平均値は「普通=3」を下回り、特に「味」と「異臭」に関しては評価点の平均値は「悪い=2」に近く、味が変であるとともに、異臭が感じられると評価されるものであった。
これら官能検査の結果は、軟化試験14において、実施者が各クリーム煮の硬さ測定の際にその都度行った肉眼観察及び試食の結果と一致しており、軟化試験14の実施者による肉眼観察及び試食による評価が客観性を備えた妥当なものであることを裏付けるものである。
<27.軟化試験15(カレイの味噌煮品、トマト煮品、カレー煮品)>
軟化試験1~3においてカレイの煮付け品について得られた結果が、煮付けの調理法に依らずに妥当するものであるか否かを検証すべく、煮付け液を味噌煮用の煮付け液、トマト煮用の煮付け液、又はカレー煮用の煮付け液に変え、穿孔個数を切り身表面の1cmあたり5個又は7個とした以外は軟化試験1と同様にして、カレイの味噌煮、トマト煮、及びカレー煮を製造し、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重を測定した。結果を表58に示す。
Figure 0007221054000058
表58に示すとおり、調理法が味噌煮、トマト煮、又はカレー煮のいずれの場合にも、希釈率が25%又は35%の軟化液を用いる場合には、切り身の表面1cmあたり5個又は7個の孔をあけておくことにより、24時間、22℃の浸漬で、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が350gf以下という軟らかさを備えたカレイの切り身の煮付け品が得られ、特に、希釈率が35%の軟化液を用いる場合には、前記荷重が100gf以下という極めて軟らかい煮付け品を得ることができた。
なお、対照として、穿孔工程を施さず、かつ、軟化処理をしない以外は上記と同様にして通常のカレイの切り身の味噌煮品を製造し、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重を測定したところ、461gfであった。これと比較すると、上記軟化処理を経て製造される350gf以下、若しくは100gf以下という軟らかさを備えたカレイの煮付け品は極めて軟らかいといえる。
また、硬さの測定時に測定対象とした切り身を肉眼観察したところ、いずれの切り身にも皮の身からの浮き上がりや剥がれはなく、身の崩れや割れも認められず、カレイの切り身の煮付け品本来の外観形状が保持されていた。さらに、これらの切り身を試食したところ、異味、異臭はなく、マイタケ臭も感じられず、カレイの味噌煮、トマト煮、又はカレー煮本来の味を備えた普通に美味しい煮付け品であった。
これに対し、希釈率が40%の軟化液を用いた場合には、味噌煮、トマト煮、カレー煮のいずれの場合でも、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が100gf以下という極めて軟らかい煮付け品を得ることができたが、それらの煮付け品を試食したところ、使用した軟化液に起因すると思われる異味、異臭が感じられ、苦味が残るとともに、マイタケ臭も強く、カレイの切り身の味噌煮、トマト煮、又はカレー煮本来の味を備えた煮付け品であるとは到底いえないものであった。
以上の結果は、軟化試験1~3において、カレイの煮付け品について得られた結果と同じであり、調理法が通常の煮付けから味噌煮、トマト煮、又はカレー煮と変化しても、軟化試験1~3においてカレイの煮付け品について得られた結果が妥当することが確認された。
<28.官能検査7(カレイの味噌煮品)>
健康な計7名の男女をパネラーとし、軟化試験15で製造された下記のカレイの皮付き骨取り切り身の味噌煮品について、官能検査1と同様にして官能検査を行った。ただし、比較対照となる基準品としては、軟化処理をしない通常のカレイの切り身の味噌煮品を用いた。結果を表59~表61に示す。
(対象とした切り身の味噌煮品)
・カレイの味噌煮品AH(表58の#65の浸漬条件における穿孔個数5個のもの)
軟化液の希釈率:25%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり5個
硬さ:120gf
・カレイの味噌煮品AI(表58の#66の浸漬条件における穿孔個数5個のもの)
軟化液の希釈率:35%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり5個
硬さ:62gf
・カレイの味噌煮品AJ(表58の#67の浸漬条件における穿孔個数5個のもの)
軟化液の希釈率:40%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり5個
硬さ:50gf
Figure 0007221054000059
Figure 0007221054000060
Figure 0007221054000061
表59及び表60に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が25%及び35%の軟化液を用いて軟化処理をした切り身を味噌煮用の煮付け液の存在下で加熱して得られた煮付け品AH及びAIは、検査した「外観形状」、「外観色調」、「異味(苦味、えぐみ)」、「味」、「異臭」、「マイタケ臭」のいずれの項目においても、「良い=4」又は「非常に良い=5」と評価され、カレイの切り身の味噌煮品本来の外観形状、色調、味を有するとともに、異味、異臭がなく、マイタケ臭も感じられない優れた煮付け品であった。
これに対し、表61に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が40%の軟化液を用いて軟化処理をした切り身を味噌煮用の煮付け液の存在下で加熱して得られた煮付け品AJは、外観形状や外観色調は、「良い=4」又は「非常に良い=5」と評価され、カレイの切り身の味噌煮品本来の外観形状、色調を保持していたが、「異味」、「異臭」、及び「マイタケ臭」に関しては評価点は「普通=3」を下回り、特に、「異臭」と「マイタケ臭」についての評価点は「悪い=2」に近いものであり、苦く、異味、異臭が感じられるとともに、マイタケ臭がすると評価されるものであった。
これら官能検査の結果は、軟化試験15において、実施者が各煮付け品の硬さ測定の際にその都度行った肉眼観察及び試食の結果と一致しており、軟化試験15の実施者による肉眼観察及び試食による評価が客観性を備えた妥当なものであることを裏付けるものである。
<29.軟化試験16(金目鯛の味噌煮品、トマト煮品、カレー煮品)>
軟化試験9及び10において金目鯛の煮付け品について得られた結果が、煮付けの調理法に依らずに妥当するものであるか否かを検証すべく、煮付け液を味噌煮用の煮付け液、トマト煮用の煮付け液、又はカレー煮用の煮付け液に変え、穿孔個数を切り身表面の1cmあたり5個又は7個とした以外は軟化試験9及び10と同様にして、金目鯛の味噌煮、トマト煮、及びカレー煮を製造し、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重を測定した。結果を表62に示す。
Figure 0007221054000062
表62に示すとおり、調理法が味噌煮、トマト煮、又はカレー煮のいずれの場合にも、希釈率が25%又は35%の軟化液を用いる場合には、切り身の表面1cmあたり5個又は7個の孔をあけておくことにより、24時間、22℃の浸漬で、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が350gf以下という軟らかさを備えた金目鯛の切り身の煮付け品が得られ、特に、希釈率が35%の軟化液を用いる場合には、前記荷重が100gf以下という極めて軟らかい煮付け品を得ることができた。
なお、対照として、穿孔工程を施さず、かつ、軟化処理をしない以外は上記と同様にして通常の金目鯛の切り身の味噌煮品を製造し、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重を測定したところ、694gfであった。これと比較すると、上記軟化処理を経て製造される350gf以下、若しくは100gf以下という軟らかさを備えた金目鯛の煮付け品は極めて軟らかいといえる。
また、硬さの測定時に測定対象とした切り身の煮付け品を肉眼観察したところ、いずれの切り身にも皮の身からの浮き上がりや剥がれはなく、身の崩れや割れも認められず、金目鯛の切り身の煮付け品本来の外観形状が保持されていた。さらに、これらの切り身を試食したところ、異味、異臭はなく、マイタケ臭も感じられず、金目鯛の味噌煮、トマト煮、又はカレー煮本来の味を備えた普通に美味しい煮付け品であった。
これに対し、希釈率が40%の軟化液を用いた場合には、味噌煮、トマト煮、カレー煮のいずれの場合でも、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が100gf以下という極めて軟らかい煮付け品を得ることができたものの、それらの煮付け品を試食したところ、使用した軟化液に起因すると思われる異味、異臭が感じられ、苦味が残るとともに、マイタケ臭も強く、金目鯛の切り身の味噌煮、トマト煮、又はカレー煮本来の味を備えた煮付け品であるとは到底いえないものであった。
以上の結果は、軟化試験9及び10において、金目鯛の煮付け品について得られた結果と同じであり、調理法が通常の煮付けから味噌煮、トマト煮、又はカレー煮に変化しても、軟化試験9及び10において金目鯛の煮付け品について得られた結果が妥当することが確認された。
<30.官能検査8(金目鯛の味噌煮品)>
健康な計7名の男女をパネラーとし、軟化試験16で製造された下記の金目鯛の皮付き骨取り切り身の味噌煮品AK~AMについて、官能検査1と同様にして官能検査を行った。ただし、比較対照となる基準品としては、軟化処理をしない通常の金目鯛の切り身の味噌煮品を用いた。結果を表63~表65に示す。
(対象とした切り身の味噌煮品)
・金目鯛の味噌煮品AK(表62の#74の浸漬条件における穿孔個数5個のもの)
軟化液の希釈率:25%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり5個
硬さ:311gf
・金目鯛の味噌煮品AL(表62の#75の浸漬条件における穿孔個数5個のもの)
軟化液の希釈率:35%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり5個
硬さ:92gf
・金目鯛の味噌煮品AM(表62の#76の浸漬条件における穿孔個数5個のもの)
軟化液の希釈率:40%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり5個
硬さ:84gf
Figure 0007221054000063
Figure 0007221054000064
Figure 0007221054000065
表63及び表64に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が25%及び35%の軟化液を用いて軟化処理をした切り身を味噌煮用の煮付け液の存在下で加熱して得られた煮付け品AK及びALは、検査した「外観形状」、「外観色調」、「異味(苦味、えぐみ)」、「味」、「異臭」、「マイタケ臭」のいずれの項目においても、「良い=4」又は「非常に良い=5」と評価され、金目鯛の切り身の味噌煮品本来の外観形状、色調、味を有するとともに、異味、異臭がなく、マイタケ臭も感じられない優れた煮付け品であった。
これに対し、表65に示すとおり、マイタケ絞り汁の希釈率が40%の軟化液を用いて軟化処理をした切り身を味噌煮用の煮付け液の存在下で加熱して得られた煮付け品AMは、外観形状や外観色調は、「良い=4」又は「非常に良い=5」と評価され、金目鯛の切り身の味噌煮品本来の外観形状、色調を保持していたが、「異臭」及び「マイタケ臭」に関しての評価点は「悪い=2」に近いものであり、やや苦く、異臭が感じられるとともに、マイタケ臭がすると評価されるものであった。
これら官能検査の結果は、軟化試験16において、実施者が各煮付け品の硬さ測定の際にその都度行った肉眼観察及び試食の結果と一致しており、軟化試験16の実施者による肉眼観察及び試食による評価が客観性を備えた妥当なものであることを裏付けるものである。
<31.軟化試験17(サバのトマト煮品、カレー煮品)>
軟化試験4~8においてサバの煮付け品及び味噌煮品について得られた結果が、他の調理法の煮付けにも妥当するものであるか否かを検証すべく、煮付け液をトマト煮用の煮付け液、又はカレー煮用の煮付け液に変え、穿孔個数を切り身表面の1cmあたり5個又は7個とした以外は軟化試験4~8と同様にして、サバのトマト煮、及びカレー煮を製造し、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重を測定した。結果を表66に示す。
Figure 0007221054000066
表66に示すとおり、調理法がトマト煮、又はカレー煮のいずれの場合にも、希釈率が25%又は35%の軟化液を用いる場合には、切り身の表面1cmあたり5個又は7個の孔をあけておくことにより、24時間、22℃の浸漬で、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が350gf以下という軟らかさを備えたサバの切り身の煮付け品が得られ、特に、希釈率が35%の軟化液を用いる場合には、前記荷重が100gf以下という極めて軟らかい煮付け品を得ることができた。
また、硬さの測定時に測定対象とした切り身の煮付け品を肉眼観察したところ、いずれの切り身にも皮の身からの浮き上がりや剥がれはなく、身表面の溶けや崩れも認められず、サバの切り身の煮付け品本来の外観形状が保持されていた。さらに、これらの切り身を試食したところ、異味、異臭はなく、マイタケ臭も感じられず、サバのトマト煮、又はカレー煮本来の味を備えた普通に美味しい煮付け品であった。
これに対し、希釈率が40%の軟化液を用いた場合にはトマト煮、カレー煮のいずれの場合でも、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が100gf以下という極めて軟らかい煮付け品を得ることができたが、それらの煮付け品を試食したところ、使用した軟化液に起因すると思われる異味、異臭が感じられ、苦味が残るとともに、マイタケ臭も強く、サバの切り身のトマト煮、又はカレー煮本来の味を備えた煮付け品であるとは到底いえないものであった。
以上の結果は、軟化試験4~8において、サバの通常の煮付け品及び味噌煮品について得られた結果と同じであり、調理法が通常の煮付け又は味噌煮からトマト煮又はカレー煮に変化しても、軟化試験4~8においてサバの煮付け品について得られた結果が妥当することが確認された。
<32.軟化試験18(他の魚の煮付け品)>
軟化試験1~17において、カレイ、サバ、金目鯛、及びメカジキの煮付け品について得られた結果が、他の種類の魚の煮付け品にも妥当するものであるか否かを検証すべく、魚の種類をブリ、秋鮭、タラ、マグロ、鰹、赤魚、銀ダラ、又はサンマ(いずれも皮付き、骨取り切り身。切り身質量約55g。)に変え、希釈率が35%の軟化液を用い、穿孔個数を切り身の表面1cmあたり5個とした以外は軟化試験1におけると同様にして、上記各種魚の切り身の煮付け品を製造し、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重を測定した。結果を表67に示す。
Figure 0007221054000067
表67に示すとおり、希釈率35%の軟化液を用い、穿孔個数を切り身の表面1cmあたり5個とする場合には、24時間、22℃の浸漬で、試験したブリ、秋鮭、タラ、マグロ、鰹、赤魚、銀ダラ、及びサンマのいずれについても、直径15mmの金属球を3mm押し込むのに必要な荷重が100gf以下という極めて軟らかい切り身の煮付け品を得ることができた。
また、硬さの測定時にこれら切り身の煮付け品を肉眼観察したところ、いずれの切り身においても、皮の身からの浮き上がりや剥がれ、脱落は認められず、身表面の溶けや身の崩れもなく、それぞれの魚の切り身の煮付け品本来の外観形状が保持されていた。さらに、これら各種魚の切り身の煮付け品を試食したところ、いずれの魚種の煮付け品においても、異味、異臭は感じられず、マイタケ臭もなく、普通に美味しい煮付け品であった。
<33.官能検査9(各種魚の煮付け品)>
健康な計5名の男女をパネラーとし、軟化試験18で製造された下記の魚の皮付き骨取り切り身の煮付け品AN~AUについて、官能検査1と同様にして官能検査を行った。ただし、比較対照となる基準品としては、対応する各種魚の軟化処理をしない通常の煮付け品を用いた。結果を表68~表75に示す。
(対象とした切り身の煮付け品)
・ブリの煮付け品AN(表67の#89の浸漬条件のもの)
軟化液の希釈率:35%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり5個
硬さ:95gf
・秋鮭の煮付け品AO(表67の#90の浸漬条件のもの)
軟化液の希釈率:35%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり5個
硬さ:97gf
・タラの煮付け品AP(表67の#91の浸漬条件のもの)
軟化液の希釈率:35%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり5個
硬さ:89gf
・マグロの煮付け品AQ(表67の#92の浸漬条件のもの)
軟化液の希釈率:35%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり5個
硬さ:97gf
・鰹の煮付け品AR(表67の#93の浸漬条件のもの)
軟化液の希釈率:35%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり5個
硬さ:95gf
・赤魚の煮付け品AS(表67の#94の浸漬条件のもの)
軟化液の希釈率:35%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり5個
硬さ:94gf
・銀ダラの煮付け品AT(表67の#95の浸漬条件のもの)
軟化液の希釈率:35%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり5個
硬さ:81gf
・サンマの煮付け品AU(表67の#96の浸漬条件のもの)
軟化液の希釈率:35%
浸漬時間:24時間
浸漬温度:22℃
穿孔個数:1cmあたり5個
硬さ:69gf
Figure 0007221054000068
Figure 0007221054000069
Figure 0007221054000070
Figure 0007221054000071
Figure 0007221054000072
Figure 0007221054000073
Figure 0007221054000074
Figure 0007221054000075
表68~表75に示すとおり、切り身表面に1cmあたり5個の孔をあけ、マイタケ絞り汁の希釈率が35%の軟化液を用いて軟化処理をした切り身を煮付け液の存在下で加熱して得られた各種魚の煮付け品AN~AUは、検査した「外観形状」、「外観色調」、「異味(苦味、えぐみ)」、「味」、「異臭」、「マイタケ臭」のいずれの項目においても、「良い=4」又は「非常に良い=5」と評価され、それぞれの魚の切り身の煮付け品本来の外観形状、色調、味を有するとともに、異味、異臭がなく、マイタケ臭も感じられない優れた煮付け品であった。
軟化試験18における上記の結果は、魚の種類が変わっても、先に軟化試験1~17で得られた結果が妥当することを物語っており、軟化試験1~18の結果を総合すると、切り身表面の1cmあたり5~7個の孔をあけた切り身を、生のマイタケの切断物の絞り汁を水で25~35%に希釈した軟化浸漬液に6~22℃で4~24時間浸漬した後、煮付け液の存在下で加熱することによって、魚の種類や煮付けの調理法に依存することなく、直径15mmの金属球を3mm押し込むに必要な荷重が350gf以下という軟らかさを有するとともに、魚の切り身の煮付け品本来の外観形状を保持し、かつ、異味、異臭のない魚の切り身の軟らか煮付け品を製造することができると判断される。
特に、メカジキを除く他の魚に関していえば、生のマイタケの切断物の絞り汁を水で35%に希釈した軟化浸漬液を用い、切り身表面の1cmあたり5~7個の孔をあけた切り身を、当該軟化浸漬液に6~22℃で20~24時間浸漬した後、煮付け液の存在下で加熱することによって、魚の種類や煮付けの調理法に依存することなく、少なくとも、カレイ、サバ、金目鯛につてはもとより、ブリ、秋鮭、タラ、マグロ、鰹、赤魚、銀ダラ、及びサンマに関しても、直径15mmの金属球を3mm押し込むに必要な荷重が100gf以下という極めて顕著な軟らかさを有するとともに、魚の切り身の煮付け品本来の外観形状を保持し、かつ、異味、異臭のない魚の切り身の軟らか煮付け品を製造することができると判断される。
<34.比較試験1>
上述したとおり、マイタケが複数の蛋白質分解酵素を含んでいることは本願出願前から知られている。そこで、マイタケを従来から知られているやり方で使用して、本発明と同様に軟らかい魚の切り身の煮付け品が得られるかどうかをカレイの煮付け品について試験した。
マイタケを用いた食品素材の軟化処理に際し、従来から知られているやり方を想定して、以下の4つの軟化液を調製した。
・軟化液A:市販のマイタケを手で細かくほぐして小分けしたものを、22℃の水65質量部に対しマイタケ35質量部の割合(マイタケ質量:35%)で30分浸漬した後、マイタケを取り出し、軟化液Aとした。
・軟化液B:市販のマイタケをほぐすことなく、22℃の水65質量部に対しマイタケ35質量部の割合(マイタケ質量:35%)で30分浸漬した後、マイタケを取り出し、軟化液Bとした。
・軟化液C:軟化液Aの調製工程において、水に30分浸漬後、マイタケを取り出さずにそのままにして、軟化液Cとした。
・軟化液D:軟化液Bの調製工程において、水に30分浸漬後、マイタケを取り出さずにそのままにして、軟化液Dとした。
軟化液A~Dを22℃に維持しつつ、そのそれぞれに軟化試験1で使用したのと同じカレイの皮付き骨なし切り身(切り身質量約40g)を24時間浸漬し、その後、軟化試験1におけると同様に処理して、軟化液が異なる4種類のカレイの切り身の煮付け品(各軟化液ごとにそれぞれ3検体)を製造した。製造された煮付け品を軟化試験1におけると同様の硬さ測定に供し、直径15mmの金属球を3mm押し込むに必要な荷重を測定した。併せて、対照として、軟化液に浸漬しない以外は同様に処理して、軟化処理を経ない通常のカレイの煮付け品を製造し、同様に硬さ測定に供した。結果を表76に示す。
Figure 0007221054000076
表76に示すとおり、カレイの切り身を軟化液A~Dのいずれに浸漬した場合でも、24時間、22℃の軟化処理では、得られたカレイの切り身の煮付け品の硬さは最少でも387gfにとどまり、対照とした通常のカレイの煮付け品よりは軟らかくなったものの、本発明の煮付け品が示す350gf以下という軟らかさには到底及ばないものであった。この結果は、従来から知られているやり方でマイタケを使用したのでは、「弱い力で噛める」程度若しくはそれ以上の軟らかさに相当する硬さ350gf以下という軟らかさを備えたカレイの切り身の煮付け品を得ることはできないことを示している。
<35.比較試験2>
カレイの切り身を軟化試験4で用いたと同じサバの切り身に変え、調味液を通常の煮付け用の調味液から味噌煮用の調味液に変えた以外は比較試験1と同様にして、軟化液が異なる4種類のサバの切り身の味噌煮品(各軟化液ごとにそれぞれ3検体)を製造し、軟化試験1におけると同様の硬さ測定に供した。併せて、対照として、軟化液に浸漬しない以外は同様に処理して、軟化処理を経ない通常のサバの味噌煮品を製造し、同様に硬さ測定に供した。結果を表77に示す。
Figure 0007221054000077
表77に示すとおり、サバの切り身を軟化液A~Dのいずれに浸漬した場合でも、24時間、22℃の軟化処理では、得られたサバの切り身の味噌煮品の硬さは最少でも407gfにとどまり、対照とした通常のサバの煮付け品よりは軟らかくなったものの、本発明の煮付け品が示す350gf以下という軟らかさには到底及ばないものであった。この結果は、従来から知られているやり方でマイタケを使用したのでは、「弱い力で噛める」程度若しくはそれ以上の軟らかさに相当する硬さ350gf以下という軟らかさを備えたサバの切り身の味噌煮品を得ることはできないことを示している。
<36.比較試験3>
カレイの切り身をメカジキの切り身(軟化試験11で用いたと同様のメカジキの切り身)に変えた以外は比較試験1と同様にして、軟化液が異なる4種類のメカジキの切り身の煮付け品(各軟化液ごとにそれぞれ3検体)を製造し、軟化試験1におけると同様の硬さ測定に供した。結果を表78に示す。なお、対照の硬さは表41から転記した。
Figure 0007221054000078
表78に示すとおり、メカジキの切り身を軟化液A~Dのいずれに浸漬した場合でも、24時間、22℃の軟化処理では、得られたメカジキの切り身の煮付け品の硬さは最少でも475gfにとどまり、対照とした通常のメカジキの煮付け品よりは軟らかくなったものの、本発明の煮付け品が示す350gf以下という軟らかさには到底及ばないものであった。この結果は、従来から知られているやり方でマイタケを使用したのでは、「弱い力で噛める」程度若しくはそれ以上の軟らかさに相当する硬さ350gf以下という軟らかさを備えたサバの切り身の味噌煮品を得ることはできないことを示している。
以上説明したとおり、本発明の魚の切り身の軟らか煮付け品は、咀嚼力が低下した人でも容易に咀嚼できる軟らかさを有するとともに、魚の切り身の煮付け品本来の外観形状を保持し、かつ、異味、異臭のない煮付け品であり、見た目に食欲をそそり、加えて、実際に喫食しても美味な煮付け品である。本発明に係る魚の切り身の軟らか煮付け品及びその製造方法は、高齢者などの咀嚼力が低下した人にも、十分な咀嚼力を有する人と同様に、毎日の食事を楽しみ、自らの口を通じて栄養を摂取することを可能にするものであり、高齢者の生活の質の維持向上に貢献し、その産業上の利用可能性は多大である。

Claims (3)

  1. 魚の切り身に針を刺して、切り身表面の1cmあたり、5~7個の孔をあける穿孔工程、前記穿孔工程を経た前記切り身を、生のマイタケの切断物の絞り汁を水で25~35質量%に希釈した軟化浸漬液に6~22℃で4~24時間浸漬する浸漬工程、及び、前記浸漬工程を経た前記切り身を煮付け液の存在下で加熱する工程を含む、魚の切り身の軟らか煮付け品の製造方法。
  2. 前記浸漬工程が、生のマイタケの切断物の絞り汁を水で35質量%に希釈した軟化浸漬液に6~22℃で20~24時間浸漬する工程である請求項記載の魚の切り身の軟らか煮付け品の製造方法。
  3. マイタケの前記切断物が1mm角以下に切断された切断物である請求項1又は2記載の魚の切り身の軟らか煮付け品の製造方法。
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