JPWO2009093530A1 - 顕微鏡授精観察方法および顕微授精用の顕微鏡システム - Google Patents
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Abstract
顕微鏡システムは、光源(11)と、コンデンサレンズ(13)とを有する透過照明光学系と、微分干渉観察法および変調コントラスト観察法の少なくともいずれか一方による観察が可能である20倍以上40倍以下の第1の乾燥系対物レンズ(15a)と、微分干渉観察法による観察が可能である60倍以上100倍以下の第2の乾燥系対物レンズ(15b)とを備え、第1の対物レンズ(15a)と第2の対物レンズ(15b)とは切り替え使用可能であることを特徴とする。
Description
本発明は、微分干渉観察法および変調コントラスト観察法による観察を可能にした顕微授精用の顕微鏡システムに関する。
現在、顕微授精法の一つとして、ICSI(Intra-cytoplasmic Sperm Injection:卵細胞質内精子注入法)が普及している。これは、変調コントラスト観察法(例えば、特許文献1を参照)を用いて精子の選別を行い、良好な運動性と形態とを持ちあわせた精子を卵子に注入する顕微授精法である。しかしながら、近年、IVF(In Vitro Fertilization:体外受精)研究の進歩により、精子頭部内の空胞の有無、大きさや数等がIVF成功率に大きく関係していることが統計的に分かってきたが、この精子頭部内の空胞は従来のICSIを行うための変調コントラスト観察法では観察が困難である。そこで、従来のICSIに加えて、精子頭部内を詳細に観察して選別した上で顕微授精を行うIMSI(Intra-cytoplasmic Morphologically Selected Sperm Injection:高倍率下で精子を選んで顕微授精を行う方法)を行える顕微鏡システムが提案されており、例えば、ICSIに用いる変調コントラスト観察法と、IMSIに用いる高倍対物レンズによる微分干渉観察法(例えば、特許文献2および3を参照)を併用して構成されている。
ところで、上記のような顕微授精など、生物顕微鏡分野における微分干渉観察法では、できるだけ微細な構造が観察できることが求められてきたため、一般に高倍レンズでは開口数(NA)の高い、液浸系の対物レンズが用いられてきた。その結果、従来の顕微鏡システムでは、高倍対物レンズには液浸系が、中低倍対物レンズには乾燥系が用いられることとなり、液浸系の高倍対物レンズでIMSI観察を行った後、ICSI観察を行う乾燥系の中低倍対物レンズに切り換える際に、浸液が妨げとなってしまい、IVFの作業性を著しく損なうという問題があった。そこで、この問題を解決するため、ICSI観察を行う中低倍対物レンズにも、高倍対物レンズと同様に、液浸系対物レンズを用いるシステムが提案されている。しかしながら、このシステムでは、液浸系対物レンズ同士を切り替えて使用する際に浸液の粘度に起因してサンプル(一般にはディッシュ)が移動してしまい、高倍対物レンズで選別した精子を見失ったり、浸液中に気泡等が混入したりしやすいため、対物レンズの切り替え後のICSI観察に著しく困難をきたすおそれがあった。
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、乾燥系の高倍対物レンズによる微分干渉観察法で精子の観察および選別を行った後、切り替えた同じく乾燥系の低倍対物レンズによる微分干渉観察法もしくは変調コントラスト観察法で卵子内への前記選別した精子の注入を行うことにより、分解能を確保しつつ顕微授精の一連の作業を的確かつ迅速に行うことができる、IMSI/ICSIに好適な顕微鏡システムを提供することを目的とする。
このような目的を達成するため、本発明は、顕微授精用に好適な顕微鏡システムであり、光源と、コンデンサレンズとを有する透過照明光学系と、微分干渉観察法および変調コントラスト観察法の少なくともいずれか一方による観察が可能である20倍以上40倍以下の第1の乾燥系対物レンズと、微分干渉観察法による観察が可能である60倍以上100倍以下の第2の乾燥系対物レンズとを備え、前記第1の対物レンズと前記第2の対物レンズとは切り替え使用可能であることを特徴とする。
以上説明したように、本発明によれば、適切な分解能を確保しつつ、顕微受精における一連の作業を迅速かつ的確に、作業性良く行うことができる、顕微授精用に好適な顕微鏡システムを提供することができる。
11 光源(透過照明光学系)
12 コレクタレンズ
13 コンデンサレンズ(透過照明光学系)
14 試料
15 対物レンズ
15a (微分干渉観察法による観察が可能な)中倍対物レンズ(第1の対物レンズ)
15b 高倍対物レンズ(第2の対物レンズ)
16 ターレット
BP1 照明側複屈折光学部材
BP2 結像側複屈折光学部材
P 偏光子
A 検光子
22 (変調コントラスト観察法による観察が可能な)中倍対物レンズ(第1の対物レンズ)
23 開口板
23a 矩形状開口
24 変調器
12 コレクタレンズ
13 コンデンサレンズ(透過照明光学系)
14 試料
15 対物レンズ
15a (微分干渉観察法による観察が可能な)中倍対物レンズ(第1の対物レンズ)
15b 高倍対物レンズ(第2の対物レンズ)
16 ターレット
BP1 照明側複屈折光学部材
BP2 結像側複屈折光学部材
P 偏光子
A 検光子
22 (変調コントラスト観察法による観察が可能な)中倍対物レンズ(第1の対物レンズ)
23 開口板
23a 矩形状開口
24 変調器
以下、好ましい実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係る、主として顕微授精用に好適な顕微鏡システムの概略断面図を示す。本実施形態に係る顕微鏡システムは、IMSI(Intra-cytoplasmic Morphologically Selected Sperm Injection:高倍率下で精子を選んで顕微授精を行う方法)およびICSI(Intra-cytoplasmic Sperm Injection:卵細胞質内精子注入法)に好適であり、図1に示すように、光源11およびコンデンサレンズ13とからなる透過照明光学系と、コレクタレンズ12と、試料14と、対物レンズ15と、ターレット16と、照明側複屈折光学部材BP1と、結像側複屈折光学部材BP2と、偏光子Pと、検光子Aとを有する。
図1において、光源11からの照明光はコレクタレンズ12によって集光された後、偏光子Pに入射して直線偏光に変換される。偏光子Pと試料14との間の光路中には光源11側から順に、照明側複屈折光学部材BP1と、試料14に照明光を照射するコンデンサレンズ13とが配置されており、偏光子Pを射出された直線偏光は照明側複屈折光学部材BP1に入射して複屈折作用により振動方向が互いに直交する2つの直線偏光成分に分離され、コンデンサレンズ13に入射する。照明側複屈折光学部材BP1で分離された2光線はわずかな分離角αを持って進行し、コンデンサレンズ13の集光作用によって互いにわずかなシア量Sだけ離れた平行光線となって試料14を照明する。試料14上のわずかに離れた位置を透過した2光線は、対物レンズ15を介して結像側複屈折光学部材BP2に入射し、結像側複屈折光学部材BP2の複屈折作用により合成されて同一光路上を進行する。合成された光線は検光子Aに入射し、検光子Aによって互いに直交する直線偏光中の同一方向振動成分だけが取り出されて干渉する。その結果、試料14内のわずかに異なる位置を透過する際に2光線間に付与された位相差に応じた干渉縞が、像面上で拡大像(干渉像)17を形成する。観察者は図示しない接眼光学系を介して、この拡大像17を観察することができる。
試料14が平面で均質の場合には、(分離した2光線の間には位相の差がないため、)拡大像17は強度分布が一様なコントラストのない像になる。一方、試料14が不均質で、かつ勾配や段差がある場合、(分離した2光線の間に位相差が生じるため、)拡大像17には屈折率変化のある部分や勾配、段差に相当する部分にコントラストが生じる。よって、屈折率の変化や勾配、段差が可視化され、試料14を拡大観察することが可能となる。
なお、対物レンズ15は、20倍以上40倍以下の第1の対物レンズ(以下、乾燥系中倍対物レンズや中倍対物レンズと称することもある)15aと、微分干渉観察法によるコントラスト観察が可能である60倍以上100倍以下の第2の対物レンズ(以下、乾燥系高倍対物レンズや高倍対物レンズと称することもある)15bとからなり、これら中倍対物レンズ15aと高倍対物レンズ15bとはターレット16等により切り替え使用可能に構成されている。
また、第1の対物レンズ15aは、上記の微分干渉観察法、もしくは変調コントラスト観察法の少なくともいずれか一方による観察が可能であることが好ましい。ここで、変調コントラスト観察法について、図2〜図4を用いてその原理を簡単に説明する。図中、21はコンデンサレンズ、Sは試料、22は対物レンズ、23は開口板、24は円盤状の変調器である。なお、開口板23は、コンデンサレンズ21の光源側焦点位置で、中心部から離れた位置に矩形状開口23aを有している。また、変調器24は、開口板23と略共役な位置に配置され、開口23aの像を含み得る透過率100%の領域24aと、例えば透過率15%の領域24bと、透過率0%の領域24cとが順に隣接して配置形成されている。
この光学系では、矩形状開口23aが光軸から偏心した位置に配置されているので、コンデンサレンズ21に入射した光は試料Sを斜め方向から照明するように射出する。このとき、透明な試料Sが図2(a)に示すように扁平であると、試料Sを透過した光束は対物レンズ22により変調器24の領域24b内に結像し、図3(a)に示すように領域24b内に開口像23a´が形成される。また、試料Sの表面が図2(b)に示すように右肩上がりの斜面となっていると、試料Sを透過するとき光束は右方へ屈折して変調器24の領域24c内に結像し、図3(b)に示すように領域14c内に開口像23a´が形成される。また、試料Sの表面が図2(c)に示すように左肩上がりの斜面となっていると、試料Sを透過するとき光束は左方へ屈折して変調器24の領域24a内に結像し、図3(c)に示すように領域24a内に開口像23a´が形成される。
この説明で明らかなように、試料Sが図4(a)に示すような平坦面と斜面とを有する無色透明体である場合、その観察像は図4(b)に示すように平坦面部分は灰色に、斜面部分は黒または白く見える。このように、変調コントラスト観察法では、変調器24に設けた異なる透過率領域と偏斜照明の効果とにより、無色透明な試料でも陰影を持つ立体感のある像として観察することが可能となる。
なお、本顕微鏡システムにおいて、変調コントラスト観察法によるコントラスト観察が可能な中倍対物レンズ15aを採用する場合は、上記した微分干渉観察法による観察のために用いた部材である、照明側複屈折光学部材BP1、結像側複屈折光学部材BP2、偏光子Pおよび検光子Aに換えて、光源11とコンデンサレンズ13との間に(光源11側から順に)開口板23と変調器24を配置すればよい。
本実施形態に係る顕微鏡システムにおいて、乾燥系の第2の対物レンズ(高倍対物レンズ)の開口数をNAとし、焦点距離をfとし、作動距離をWDとしたとき、次式(1)および(2)の条件式を満足することが好ましい。
0.78≦NA<1.0 …(1)
f/3 ≦WD<2f …(2)
f/3 ≦WD<2f …(2)
また、前記第2の対物レンズを用いて微分干渉観察法による観察を行う場合に、物体面におけるシア量をSとし、前記第2の対物レンズの開口数をNAとし、観察する光の波長をλとしたとき、次式(3)の条件式を満足することが好ましい。
0.3≦S≦0.61λ/NA …(3)
従来、生物顕微鏡の分野における、高倍(60倍以上100倍以下)で高開口数の液浸対物レンズによる微分干渉観察法による観察では、重要視されるのは分解性能の良さについてであり、ビデオエハンス等の画像処理手法を介在することが前提となっていた。ところが、IMSI等の顕微授精を行う際には、精子を高倍観察して広範囲の(多くの)精子からより良好なものを選別した後に、この選別した精子を中倍観察下で卵子に注入するという一連の作業を迅速かつ的確に行うため、あくまで目視観察が基本である。このため、目視において十分なコントラストが得られることが望まれていたが、これを満足するような微分干渉観察法による観察可能な対物レンズの最適条件の提示は今までなかった。そこで、本顕微鏡システムでは、微分干渉観察法による観察が可能な第2の対物レンズ(高倍対物レンズ)の最適な条件式(1)〜(3)を導き出した。以下、これら条件式(1)〜(3)について順に説明する。
まず、高倍対物レンズの適切な開口数NAの範囲を規定する、条件式(1)について説明する。本顕微鏡システムにおいて、観察対象である精子の頭部の大きさは4〜5μm程度であり、一つのピント面に頭部の空胞は1個乃至10個程度の大小様々な大きさのものが散らばっていることが確認されている。従って、0.4〜0.5μm程度の大きさがコントラスト良く可視化・識別できれば、IMSI用途として十分使えるレベルであることが分かる。
図5に、顕微鏡光学系で一般に用いられるインコヒーレント光学系のMTFカーブ(すなわち、縦軸に示すコントラストと横軸に示す光学系の分解能との関係)を示す。なお、図5の横軸f/f0は、空間周波数をfとし、対物レンズの開口数をNAとし、観察する光の波長をλとしたとき、空間周波数fをf0=NA/λで規格化したものである。顕微鏡光学系の横分解能をRESとすると、前記空間周波数fに対応する横分解能RESとの関係は次式(4)で示される。
RES=1/f={1/(f/f0)}×{λ/NA} …(4)
ここで、図5に示す横軸f/f0の最大値=2.0が、顕微鏡光学系における限界分解能RES(max)と対応している。そこで、上記の式(4)にf/f0=2.0を代入することにより、顕微鏡光学系における限界分解能RES(max)を示す、次式(5)が得られる。この条件式(5)で規定される限界分解能RES(max)に相当する開口数NAよりもさらに余裕を持たないと、目視で像を視認することが難しい。
RES(max)={1/2.0}×{λ/NA}=0.5λ/NA …(5)
また、一般に、人間の眼は、コントラストの値が0.1以下であれば見分けることが困難であることと、コントラストの値が0.2以上であれば視感度が良いことが知られている。図5において、コントラストの値が0.1となる空間周波数f/f0は1.6付近であることから、横分解能RESが0.4μm(観察対象である精子頭部の空胞の大きさ)となるためには、式(4)にこれらの値を代入して、次式(6)を満足する必要がある。
RES={1/1.6}×{λ/NA}=0.4 …(6)
なお、本顕微鏡システムの使用目的であるIMSIやICSIでは目視観察が前提となるため、眼の視感度を考えると、観察時の中心波長λは500nm〜550nm近傍であることが望ましい。これは、500nmは暗所、550nmは明所における眼の視感度のピークだからである。よって、観察の中心波長λ=500nm=0.5μmとして式(6)に代入すると、高倍対物レンズに必要な開口数NAの最下限値として、次式(7)が得られる。
NA={1/1.6}×0.5[μm]/0.4[μm]=0.78 …(7)
また、視感度が良いとされるコントラストの値が0.2となる空間周波数f/f0は図5より1.4付近であることから、上記と同様に式(6)に代入すると、より好ましい開口数NAの最下限値として、次式(8)が得られる。
NA={1/1.4}×0.5[μm]/0.4[μm]=0.89 …(8)
また、開口数NAは、対物レンズと試料間の媒質の屈折率nと対物レンズの開口角φを用いるとNA=n・sin(φ/2)で表され、本実施形態においては媒質が空気(屈折率n=1)である。ゆえに、開口数NAの上限値は1となる。
以上まとめると、本実施形態の顕微鏡システムにおいて、コントラスト良く目視観察可能に構成するための好ましい高倍対物レンズの開口数NAの範囲は、条件式(1)すなわち0.78≦NA<1.0となる。さらに、より好ましくは、条件式(8)より、高倍対物レンズの開口数NAの範囲は、0.89≦NA<1.0となる。
次に、高倍対物レンズにおける作動距離WDの適切な範囲を規定する、上記条件式(2)について説明する。従来の顕微鏡システムにおいて、高倍対物レンズとして用いられていた高開口数の液浸系対物レンズは、一般に作動距離が大きく取ることが難しかった。このため、操作時のサンプルを保温装置等により37℃に保温することが絶対条件であるICSI観察やIMSI観察で用いようとすると、高倍から中倍への対物レンズ切り替え時に対物レンズの先端部と保温装置が干渉しやすいという問題があった。また、作動距離が大きく取れないことから、高開口数の液浸系対物レンズではカバーガラス直下近傍しか観察することができず、カバーガラスから離れた位置にある精子を選別対象にすることができないという問題があった。そこで、本顕微鏡システムは、高倍の対物レンズを乾燥系レンズで構成することで、条件式(1)で示される開口数NAの条件に加えて、条件式(2)で示される作動距離WDが大きいという条件も兼ね備える。
作動距離を決定する一つの要素として、対物レンズの倍率がある。対物レンズの倍率は、無限遠補正光学系の場合、結像レンズと対物レンズの焦点距離との比によって決定されるものであり(本実施形態のように60倍以上100倍以下の高倍対物レンズでは、例えば、結像レンズの焦点距離を200mmとすると、対物レンズの焦点距離は2.00〜3.33mとなる)、高倍になるほど焦点距離は短くなる。一般に、作動距離は対物レンズの焦点距離に比例するため、対物レンズの倍率が高倍になるほど作動距離は減少する。また、作動距離を決定する他の要素として、開口数がある。開口数の大きさが同じであれば、作動距離が長くなるほど、対物レンズの第1レンズ面(物体側レンズ面)における光線高さが高くなり、収差補正をより困難にする。
つまり、対物レンズの長作動距離化と高倍率化・高開口数化とは相反する関係にあるため、従来の顕微鏡システムにおける高倍対物レンズでは、作動距離を重視したものと、倍率・開口数を重視したものとに二極化していた。具体的には、前者では倍率60倍/開口数0.7/作動距離2mm前後が、後者では倍率100倍/開口数1.4/作動距離0.1mm前後が、代表的なスペックである。しかしながら、IMSIの観察を用途とするならば、上記条件式(1)に示すように必ずしも開口数NAが1を超える必要はなく、その分作動距離を長くするほうが作業効率の向上につながる。
そこで、高倍対物レンズ(第2の対物レンズ)の開口数をNAとし、焦点距離をfとし、作動距離をWDとしたとき、本実施形態では条件式(2)すなわちf/3≦WD<2fを満足することが好ましい。この条件式(2)が下限値を下回ると、対物レンズの切り替え時に対物レンズの先端部が保温装置と干渉する等の不具合を引き起こす可能性が高くなる。一方、条件式(2)が上限値を上回ると、対物レンズの第1レンズ面における光線高さが高くなり過ぎて、条件式(1)で規定された開口数NAを確保するのが困難となる。
続いて、微分干渉観察法におけるシア量Sの最適な範囲を規定する、上記条件式(3)について説明する。図6に、シア量Sを1.5λ/NAから0.15λ/NAまで変化させたときの位相コントラストMTFカーブを示す(なお、微分干渉観察法における位相コントラストMTFの算出方法については、特許文献3に詳しい)。図6において、横軸f/f0は空間周波数fを対物レンズの開口数NAで規定される基準周波数f0=NA/λで規格化したものを、縦軸は各周波数における位相物体のコントラストMTFを示す。
図6から、微分干渉観察法における位相コントラストMTFは、インコヒーレントMTFカーブよりも大きなコントラストの値を取らないことが分かる。また、図6から、(例えば1.5λ/NAのように)シア量Sが大きいと位相コントラストMTFが負値を取ることが分かるが、これは偽解像と呼ばれる白黒が反転した状態である。一般に、微分干渉観察法による観察では、上記のような偽解像が起こらない、すなわち位相コントラストMTFが負値を取らない状態が好ましいとされている。
そこで、位相コントラストMTFが負値を取らない条件を満たす、低空間周波数帯域(横軸f/f0の値が小さい領域)の限界についてまず考える。図6より、低空間周波数帯域の最大のシア量Sは、約0.61λ/NA乃至0.5λ/NAであることが分かり、これらの値はちょうど顕微鏡光学系の点分解能や線分解能に相当している。図6においてシア量Sが0.61λ/NAのカーブを見ると、低空間周波数帯域のコントラストの値は高いが、高空間周波数帯域の横軸f/f0=1.4付近でのコントラストの値が0.1程度となり、ちょうど視認度の限界に当たることが分かる。よって、本実施形態における対物レンズのシア量Sの上限値は、点分解能を維持できる0.61λ/NAとなる。また、より好ましいシア量Sの上限値は、(前記0.61λ/NAのカーブよりインコヒーレントMTFカーブにより近くであり、)線分解能を維持できる0.5λ/NAとなる。
次に、位相コントラストMTFが負値を取らない条件を満たす、高空間周波数帯域(横軸f/f0の値が大きい領域)の限界を考える。図6より、高空間周波数帯域の最大のシア量Sは、横軸f/f0=1.6付近で最大コントラストを取るカーブ、すなわち0.3λ/NAのカーブであることが分かる。このとき、低空間周波数帯域のコントラストをある程度犠牲にする代わりに、高空間周波数帯域での視認度を、インコヒーレントMTFのコントラストの値とほぼ同等の0.1に保つことができる。また、これによりもシア量Sを小さくすると、低空間周波数帯域でも高空間周波数帯域でもそれぞれコントラストが低下するため、本実施形態の使途には好ましくない。よって、本実施形態における対物レンズのシア量Sの下限値は0.3λ/NAとなる。
以上まとめると、上記条件式(3)すなわち0.3λ/NA≦S≦0.61λ/NAを満足する、より好ましくは0.3λ/NA≦S≦0.5λ/NAを満足するシア量Sを設定することにより、微分干渉観察法において対物レンズの分解能を殆ど損なわず、且つ目視にて精子頭部内の空胞を高いコントラストで観察することが可能となる。
なお、本実施形態に係る第2の対物レンズ(高倍対物レンズ)は、カバーガラスの厚さや温度等の変化による収差変動を補正する補正環を有することが好ましい。これは、補正環を用いることによって、カバーガラスの厚み誤差や温度等により発生した収差を打ち消し、対物レンズの解像度およびコントラストを共に最良となるところで調整をすることができるからである。
以下、本実施形態に係る第2の対物レンズ(乾燥系高倍対物レンズ)の実施例について説明する。
(第1実施例)
第1実施例について、図7、図8及び表1を用いて説明する。図7は、本実施例に係る第2の対物レンズ(乾燥系高倍レンズ)のレンズ構成を示す断面図である。図7に示すように、本実施例に係る顕微鏡用対物レンズは、物体側より順に並んだ、物体側に凹面を向けた正メニスカスレンズL1と、物体側に凹面を向けた正メニスカスレンズL2と、両凹レンズL3と両凸レンズL4とからなる接合レンズと、両凹レンズL5と両凸レンズL6とからなる接合レンズと、平凹レンズL7と両凸レンズL8とからなる接合レンズと、両凸レンズL9と、像側に凹面を向けた負メニスカスレンズL10と両凸レンズL11と物体側に凹面を向けた負メニスカスレンズL12とからなる接合レンズと、両凸レンズL13と両凹レンズL14とからなる接合レンズと、両凹レンズL15と両凸レンズL16とからなる接合レンズとを有して構成されている。なお、正メニスカスレンズL1の物体側には、カバーガラスCが配置されている。
第1実施例について、図7、図8及び表1を用いて説明する。図7は、本実施例に係る第2の対物レンズ(乾燥系高倍レンズ)のレンズ構成を示す断面図である。図7に示すように、本実施例に係る顕微鏡用対物レンズは、物体側より順に並んだ、物体側に凹面を向けた正メニスカスレンズL1と、物体側に凹面を向けた正メニスカスレンズL2と、両凹レンズL3と両凸レンズL4とからなる接合レンズと、両凹レンズL5と両凸レンズL6とからなる接合レンズと、平凹レンズL7と両凸レンズL8とからなる接合レンズと、両凸レンズL9と、像側に凹面を向けた負メニスカスレンズL10と両凸レンズL11と物体側に凹面を向けた負メニスカスレンズL12とからなる接合レンズと、両凸レンズL13と両凹レンズL14とからなる接合レンズと、両凹レンズL15と両凸レンズL16とからなる接合レンズとを有して構成されている。なお、正メニスカスレンズL1の物体側には、カバーガラスCが配置されている。
表1は、本実施例に係る第2の対物レンズを構成する各レンズの諸元値を示している。表1に示す諸元の表において、mは光線の進行する方向に沿った物体側からのレンズ面の順序(以下、面番号と称する)を、rは各レンズの曲率半径を、dは各光学面から次の光学面(又は像面)までの光軸上の距離を、ndはd線(波長587.6nm)に対する屈折率を、νdはd線を基準としたアッベ数を示している。なお、表1における面番号1〜25は、図7に示す面1〜25に対応している。また、表中において、βは倍率を、WDは作動距離を、NAは開口数を表している。
なお、表中において、曲率半径r、面間隔d、その他の長さの単位は、一般に「mm」が使われている。但し、光学系は、比例拡大または比例縮小しても同等の光学性能が得られるので、単位は「mm」に限定されることなく、他の適当な単位を用いることが可能である。また、表中において、曲率半径の「∞」は平面を示し、空気の屈折率「1.00000」の記載は省略している。
(表1)
[レンズ諸元]
β=100、WD=1.4、NA=0.85
m r d nd νd
∞ 0.17000 1.52216 58.80 (カバーガラスC)
∞ 2.50462
1 -6.47161 2.37000 1.81600 46.621
2 -4.72849 0.10000
3 -83.0402 2.83000 1.49782 82.557
4 -10.6607 0.15000
5 -46.5266 1.00000 1.61340 44.266
6 24.27074 4.95000 1.43385 95.247
7 -14.7782 0.20000
8 -174.834 1.00000 1.61340 44.266
9 24.11495 4.95000 1.43385 95.247
10 -14.5394 0.20000
11 ∞ 1.00000 1.61340 44.266
12 28.67355 4.20000 1.43385 95.247
13 -23.0153 0.20000
14 48.93548 3.00000 1.49782 82.557
15 -65.8669 1.52002
16 21.78198 1.00000 1.72916 54.660
17 11.99437 6.30000 1.49782 82.557
18 -12.5334 1.20000 1.75500 52.318
19 -59.9845 7.75003
20 27.89895 3.35000 1.59240 68.328
21 -7.03528 8.40000 1.65412 39.682
22 5.87805 1.40000
23 -4.44814 1.00000 1.80440 39.567
24 11.0118 1.90000 1.92286 18.896
25 -11.4804
[レンズ諸元]
β=100、WD=1.4、NA=0.85
m r d nd νd
∞ 0.17000 1.52216 58.80 (カバーガラスC)
∞ 2.50462
1 -6.47161 2.37000 1.81600 46.621
2 -4.72849 0.10000
3 -83.0402 2.83000 1.49782 82.557
4 -10.6607 0.15000
5 -46.5266 1.00000 1.61340 44.266
6 24.27074 4.95000 1.43385 95.247
7 -14.7782 0.20000
8 -174.834 1.00000 1.61340 44.266
9 24.11495 4.95000 1.43385 95.247
10 -14.5394 0.20000
11 ∞ 1.00000 1.61340 44.266
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24 11.0118 1.90000 1.92286 18.896
25 -11.4804
図8は、本実施例に係る顕微鏡用対物レンズの諸収差図であり、(a)は球面収差図、(b)は非点収差図、(c)は歪曲収差図を示す。また、図8において、NAは開口数を、yは像高(mm)を、実線はd線(波長587.6nm)を、破線はC線(波長656.3nm)を、一点鎖線はF線(波長486.1nm)を、二点鎖線はg線(波長435.8nm)をそれぞれ示している。また、非点収差図において、実線はサジタル像面、破線はメリディオナル像面をそれぞれ示している。
図8に示す各収差図から明らかであるように、本実施例に係る第2の対物レンズ(乾燥系高倍対物レンズ)は、諸収差が良好に補正され、優れた結像性能が確保されていることが分かる。
以上説明したように、本発明によれば、乾燥系の高倍(60倍以上100倍以下)対物レンズによる微分干渉観察法により、精子頭部内の空胞の有無など精子の観察および選別を行った後、ターレット16等により対物レンズの切り替えを行い、選別した精子を同じく乾燥系の中倍(20倍以上40倍以下)対物レンズによる微分干渉観察法もしくは変調コントラスト観察法で卵子に注入するという一連の作業を、的確かつ迅速に作業性良く行うことができる、IMSI/ICSIに好適な顕微鏡システムを提供することができる。
なお、本発明を分かりやすくするために、実施形態の構成要件を付して説明したが、本発明がこれに限定されるものではないことは言うまでもない。
Claims (4)
- 光源と、コンデンサレンズとを有する透過照明光学系と、
微分干渉観察法および変調コントラスト観察法の少なくともいずれか一方による観察が可能である20倍以上40倍以下の第1の乾燥系対物レンズと、
微分干渉観察法による観察が可能である60倍以上100倍以下の第2の乾燥系対物レンズとを備え、
前記第1の対物レンズと前記第2の対物レンズとは切り替え使用可能であることを特徴とする顕微授精用の顕微鏡システム。 - 前記第2の対物レンズの開口数をNAとし、焦点距離をfとし、作動距離をWDとしたとき、次式
0.78≦NA<1.0
f/3 ≦WD<2f
の条件を満足することを特徴とする請求項1に記載の顕微授精用の顕微鏡システム。 - 前記第2の対物レンズを用いて微分干渉観察法による観察を行う場合に、物体面におけるシア量をSとし、前記第2の対物レンズの開口数をNAとし、観察する光の波長をλとしたとき、次式
0.3≦S≦0.61λ/NA
の条件を満足することを特徴とする請求項1または2に記載の顕微授精用の顕微鏡システム。 - 前記第2の対物レンズは、カバーガラスの厚さや温度等の変化による収差変動を補正する補正環を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の顕微授精用の顕微鏡システム。
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