本発明は、炭化珪素半導体基板を有する半導体装置に関し、特に、オーミック電極およびゲート電極が設けられた炭化珪素半導体基板を備えた半導体装置およびその製造方法に関する。
パワーエレクトロニクス用のデバイスとして、シリコン(Si)半導体を用いたパワーデバイスが従来用いられている。パワーエレクトロニクス用のデバイスは、より高周波かつ大電流で動作することが求められており、さまざまな研究開発により、シリコンパワーデバイスの性能の向上が図られてきた。
しかし、近年、シリコンパワーデバイスの性能は理論的な限界に近づきつつある。また、パワーデバイスは高温や放射線等の悪環境下における動作が求められる場合があるが、シリコン半導体はこのような悪環境下には適していないこともある。このため、シリコンに替わる半導体を用いたデバイスの研究がなされている。
種々の半導体のなかで、炭化珪素(SiC)半導体は、広い禁制帯幅(4H型の場合、3.26eV)を持ち、高温での電気伝導制御や耐放射線性に優れる。また、炭化珪素半導体は、シリコンより約1桁高い絶縁破壊電界およびシリコンの約2倍の電子の飽和ドリフト速度を有しているため、高耐圧に優れ、高周波大電力制御を可能とする。これらの半導体としての物性から、炭化珪素はより高周波かつ大電流で動作するパワーデバイス用の半導体材料として期待されている。
炭化珪素を用いてMISFET等の素子を形成する場合、n型炭化珪素へのオーム性電極材料として、ニッケル(Ni)が広く用いられる。しかしながら、真空蒸着等でニッケルをn型炭化珪素上に堆積しただけでは、金属と半導体の界面にショットキー障壁が形成されるため、ニッケル−n型炭化珪素界面は整流性を示し、オーム性を示さない。通常、ニッケルを堆積した後、高温で熱処理を行い、ニッケルの炭化珪素中への拡散と炭化珪素中のシリコンのニッケル中への拡散を促すことによって、はじめてオーム性電極を得ることができる。n型炭化珪素半導体上に形成されたニッケルからなるオーム性電極を備えた半導体装置は例えば特許文献1や特許文献2に開示されている。
特開平7−99169号公報
特開2003−243323号公報
図13はオーミック電極を有する従来の炭化珪素半導体装置の構造の一部を模式的に示している。図13に示すように、従来の炭化珪素半導体装置は、n型不純物を含む低抵抗の炭化珪素基板101と、炭化珪素基板の主面上に設けられ、不純物がドープされた高抵抗炭化珪素層102とを備えている。高抵抗炭化珪素層102の表面部の一部にはn型不純物がドープされた高濃度不純物領域104が形成されており、高濃度不純物領域104上には、ニッケルシリサイドからなるオーミック電極109が形成されている。オーミック電極109の表面には層間絶縁膜110が設けられており、層間絶縁膜110上にはパッド用電極111が設けられている。パッド用電極111は、層間絶縁膜110に設けられたコンタクトホールによってオーミック電極109と接触している。
高濃度不純物領域104上にオーミック電極109を形成するためには、上述したように炭化珪素からなる高濃度不純物領域104上にニッケル層を形成し、約1000℃で熱処理を行う必要がある。熱処理により、Niと炭化珪素中のSiとは相互に拡散し、ニッケルシリサイドからなるオーミック電極109を形成する。
しかし、このとき、炭化珪素中の炭素はオーミック電極109の表面に拡散してグラファイトとして析出し、グラファイト析出層113が形成されてしまう。このグラファイトにより、オーミック電極109のコンタクト抵抗(ρc)が増大したり、オーミック電極109とパッド用電極111との密着性や信頼性が劣化するという課題がある。
また、炭化珪素半導体装置は、上述したように高周波かつ大電流で動作する高性能なパワーデバイスとなることが期待されている。しかし、炭化珪素半導体を用いた従来のMISFETを高周波(約100kHz)で動作させると、ゲート容量およびゲート抵抗に起因する遅延が増大し、スイッチング特性が劣化するという課題がある。
遅延を低減するためには、ゲート容量およびゲート抵抗を低減することが有効である。ゲート容量の大部分は、ゲート絶縁膜による容量で占められるため、ゲート絶縁膜を厚くすることによりゲート容量を低減することが考えられる。しかし、この場合、MISFETの駆動能力が低下してしまう。このため、高性能な炭化珪素半導体装置を実現するためには、ゲート抵抗を低減することが重要である。
本発明は、上記従来技術の上述した種々の課題の少なくとも1つを解決し、優れた特性を有する半導体装置を実現することを目的とする。
本発明の半導体装置は、炭化珪素層を有する炭化珪素半導体基板と、前記炭化珪素層に設けられた高濃度不純物領域と、前記高濃度不純物領域に電気的に接続されたオーミック電極と、前記高濃度不純物領域に電気的に接続されたチャネル領域と、前記チャネル領域の上に設けられたゲート絶縁層と、前記ゲート絶縁層の上に設けられたゲート電極とを備え、前記オーミック電極は、チタン、シリコンおよび炭素の合金を含み、前記ゲート電極はチタンシリサイドを含む。
ある好ましい実施形態において、前記高濃度不純物領域はn型の不純物が高濃度にドープされている。
ある好ましい実施形態において、前記オーミック電極は、前記チタン、シリコンおよび炭素の合金からなる反応層を含み、前記ゲート電極は、チタンシリサイド層をそれぞれ含む。
ある好ましい実施形態において、前記オーミック電極の反応層と前記ゲート電極のチタンシリサイド層とは互いに異なる厚さを有する。
ある好ましい実施形態において、前記オーミック電極の反応層の厚さは、前記ゲート電極のチタンシリサイド層の厚さよりも小さい。
ある好ましい実施形態において、前記オーミック電極は窒化チタン層をさらに含む。
ある好ましい実施形態において、前記オーミック電極における前記窒化チタン層の厚さは前記反応層の厚さよりも大きい。
ある好ましい実施形態において、前記オーミック電極の前記反応層は前記高濃度不純物領域と接している。
ある好ましい実施形態において、前記ゲート電極はポリシリコン層をさらに含む。
ある好ましい実施形態において、前記ゲート電極における前記ポリシリコン層の厚さは前記チタンシリサイド層の厚さよりも小さい。
ある好ましい実施形態において、前記ゲート電極の前記ポリシリコン層は前記ゲート絶縁層と接している。
ある好ましい実施形態において、前記オーミック電極における前記炭素の濃度は、前記高濃度不純物領域側において高く、前記オーミック電極の表面側において低い。
ある好ましい実施形態において、前記炭素の濃度は、前記オーミック電極の表面に最も近い側において5atom%以下である。
ある好ましい実施形態において、半導体装置は、前記高濃度不純物領域に接するように前記炭化珪素層の表面の一部に設けられたチャネル層をさらに備え、前記チャネル領域は前記チャネル層内に位置している。
ある好ましい実施形態において、前記炭化珪素層は、p型不純物がドープされ、前記高濃度不純物領域を包囲するように設けられたウェル領域を含み、前記チャネル領域は、前記炭化珪素層の表面の一部に接するように前記ウェル領域内の表面部分において、前記高濃度不純物領域と、前記ウェル領域が形成されていない前記炭化珪素層とを接続するように位置している。
ある好ましい実施形態において、半導体装置は、前記半導体基板の前記炭化珪素層と反対側の面に設けられた他のオーミック電極をさらに備え、縦型構造を備える。
本発明の半導体装置の製造方法は、高濃度不純物領域が設けられた炭化珪素層およびチャネル領域を含む半導体領域を覆うゲート絶縁層を有する炭化珪素半導体基板を用意する工程(a)と、前記ゲート絶縁層上にポリシリコン層を形成する工程(b)と、前記高濃度不純物領域上および前記ポリシリコン層上にそれぞれチタン層を形成する工程(c)と、前記チタン層を熱処理することにより、前記ポリシリコン層のシリコン、ならびに前記高濃度不純物領域中のシリコンおよび炭素と前記チタン層とを反応させ、チタン、シリコンおよび炭素の合金を含むオーミック電極を前記高濃度不純物領域上に形成し、チタンシリサイドを含むゲート電極を前記ゲート絶縁層上に形成する工程(d)とを包含する。
ある好ましい実施形態において、前記工程(d)における熱処理を850℃以上1050℃以下の温度で行う。
ある好ましい実施形態において、前記工程(d)の熱処理を窒素ガスまたはアルゴンガスを含む雰囲気中で行う。
ある好ましい実施形態において、前記工程(c)は、前記高濃度不純物領域および前記ポリシリコン層を覆うように前記炭化珪素層の表面全体にチタン層を形成する工程(c1)と、前記高濃度不純物領域上および前記ポリシリコン層上にのみ前記チタン層が設けられるように、不用な部分を除去することによって、前記チタン層をパターニングする工程(c2)とを含む。
ある好ましい実施形態において、前記工程(c2)は、不用な部分の除去をウェットエッチングによって行う。
ある好ましい実施形態において、前記工程(c2)は、不用な部分の除去をドライエッチングによって行う。
ある好ましい実施形態において、前記工程(c)は、前記絶縁膜、露出した前記高濃度不純物領域および前記ポリシリコン層を覆うように、前記チタン層を形成する工程(c1)とを含み、前記工程(d)は、前記チタン層を熱処理することにより、前記ポリシリコン層中のシリコン、ならびに、前記高濃度不純物領域中のシリコンおよび炭素と前記チタン層の一部とを反応させ、チタンシリサイド、ならびに、チタン、シリコンおよび炭素の合金を形成する工程(d1)と、前記チタン層のうち、反応しなかった部分を除去することにより、前記チタンシリサイドを含むゲート電極を前記ゲート絶縁層上に形成し、前記合金を含むオーミック電極を前記高濃度不純物領域上に形成する工程(d2)とを含む。
ある好ましい実施形態において、前記工程(d2)は、前記チタン層のうち、反応しなかった部分をウェットエッチングにより除去する。
本発明の半導体装置によれば、オーミック電極はチタン、シリコンおよび炭素の合金を含み、ゲート電極はチタンシリサイドを含む。このため、オーミック電極においては、オーミック接触形成時にグラファイトが析出することを防止でき、コンタクト抵抗が増大したり、オーミック電極とパッド用電極との密着性や信頼性が劣化するのを防止できる。また、ゲート電極においては、チタンシリサイドの形成によってゲート電極の抵抗を低くすることができる。したがって、半導体装置の特性を向上させることができる。また、ゲート電極およびオーミック電極は同一工程において形成することが可能であり、これにより、製造コストの低減、製造に要する時間の短縮、歩留まりの向上などを達成することもできる。
(a)は本発明による半導体装置の一実施形態の構成を示す模式的断面図であり、(b)および(c)はそれぞれゲート電極近傍およびオーミック電極近傍を拡大して示す図である。
(a)および(c)は、図1に示す半導体装置のゲート電極の製造工程を示す模式的断面図であり、(b)および(d)は、図1に示す半導体装置のオーミック電極の製造工程を示す模式的断面図である。
シリコン基板上にチタンを堆積し、高温で熱処理した場合に生成するチタンシリサイド層の厚さの温度依存性を示すグラフである。
炭化珪素基板上にチタンを堆積し、高温で熱処理した場合に生成するチタン、シリコンおよび炭素の合金層の厚さの温度依存性を示すグラフである。
n型炭化珪素基板上にチタン膜を堆積後、熱処理することにより形成された炭化珪素/チタン界面の電流電圧特性を示す図である。
ポリシリコン上にチタン膜を堆積後熱処理することにより形成された電極のシート抵抗を示す図である。
炭化珪素基板上にチタン膜を形成し、900℃で熱処理することによって得られたオーミック電極のAES分析結果を示す図である。
炭化珪素基板上にチタン膜を形成し、950℃で熱処理することによって得られたオーミック電極のAES分析結果を示す図である。
炭化珪素基板上にチタン膜を形成し、1000℃で熱処理することによって得られたオーミック電極のAES分析結果を示す図である。
炭化珪素基板上にチタン膜を形成し、1050℃で熱処理することによって得られたオーミック電極のAES分析結果を示す図である。
(a)〜(i)は、図1に示す半導体装置の製造途中の構造を示す断面図である。
(a)〜(i)は、図1に示す半導体装置を他の製造方法で製造した場合における半導体装置製造途中の構造を示す断面図である。
従来の半導体装置の構造を示す断面図である。
符号の説明
1、101 炭化珪素基板
2、102 炭化珪素層
3 pウェル領域
4、104 高濃度不純物領域
5 p+コンタクト領域
6 チャネル層
7 ゲート電極
8 第1の層間絶縁膜
9、109 オーミック電極(ソース電極)
10、110 第2の層間絶縁膜
11、111 パッド用電極
12 オーミック電極(ドレイン電極)
14 ゲート絶縁層
15 チタン層
16、17 マスク
113 グラファイト析出層
以下本発明による半導体装置の実施形態を説明する。本発明は、グラファイトの析出がないオーミック電極、および、抵抗の低いゲート電極を備えた炭化珪素半導体装置を実現し、MISFETやMOSFETなど絶縁ゲート型のトランジスタに好適に用いることができる。以下の実施形態では、縦型の二重注入MISFETを例として本発明の実施形態を説明する。
図1(a)は、本発明による半導体装置の一実施形態を示す模式的断面図である。まず、この半導体装置の構造を概略的に説明する。
図1(a)に示す半導体装置は、炭化珪素層2を有する炭化珪素半導体基板1を備える。炭化珪素半導体基板1は、たとえば、4H−SiCの(0001)面から8度のオフ角を持つオフ基板である。炭化珪素半導体基板1は、窒素、リン、砒素などのn型不純物が、たとえば、1×1018cm-3以上の濃度でドープされており、低抵抗である。炭化珪素層2は、炭化珪素半導体基板1上にエピタキシャル成長によって設けられている。半導体装置が、たとえば、1400Vの耐圧を有するMISFETである場合には、炭化珪素層2は、窒素などのn型不純物が1×1015cm-3〜1×1016cm-3程度にドープされ、高抵抗であることが好ましい。
炭化珪素層2には、炭化珪素層2の表面から内部に向かってpウェル領域3が設けられ、さらに、pウェル領域3内に、高濃度不純物領域4が炭化珪素層2の表面から内部にかけて形成されている。これにより高濃度不純物領域4は残ったpウェル領域3に包囲される。高濃度不純物領域4は、n型不純物が高濃度でドープされており、ソース領域として機能する。また、高濃度不純物領域4内に、p+コンタクト領域5が炭化珪素層2の表面から内部に向かい、pウェル領域3に達するように設けられている。たとえば、pウェル領域3、高濃度不純物領域4およびp+コンタクト領域5の不純物濃度は、それぞれ、1×1016cm-3〜1×1018cm-3、約1×1019cm-3、約5×1019cm-3である。高濃度不純物領域4上にはオーミック電極9が設けられている。以下において説明するように、オーミック電極9はオーミック接触により高濃度不純物領域4と電気的に接続しており、チタン、シリコンおよび炭素の合金を含む。
pウェル領域3が設けられていない炭化珪素層2の表面、炭化珪素層2の表面において露出したpウェル領域3の一部および高濃度不純物領域4の一部を覆うようにチャネル層6が設けられている。チャネル層6は多重δドープ層を含み、エピタキシャル成長により形成されている。多重δドープ層は、急峻な濃度勾配を示す高濃度ドープ層(δドープ層)と低濃度ドープ層(アンドープ層)とが交互に複数積層された構造を備える。チャネル層6の上にゲート絶縁層14が設けられ、ゲート絶縁層14上にゲート電極7が設けられている。以下において説明するようにゲート電極7はチタンシリサイドを含む。第1の層間絶縁膜8はゲート電極7およびオーミック電極9を除く炭化珪素層2の表面を覆っており、第1の層間絶縁膜8を覆うように第2の層間絶縁膜10が設けられている。
第2の層間絶縁膜10上にはパッド用電極11が設けられている。パッド用電極11は第2の層間絶縁膜に設けられたコンタクトホールを介してオーミック電極9に電気的に接続している。コンタクトホールのサイズが大きい場合には、パッド用電極11は、コンタクトホール内では、オーミック電極9上およびコンタクトホールの側面に設けられ、孔11hが生じている。コンタクトホールのサイズが小さい場合には、孔11hの上部は塞がっていてもよい。
炭化珪素半導体基板1の炭化珪素層2が設けられていない主面にはドレイン電極として機能する他のオーミック電極12が設けられている。オーミック電極12は複数の層によって形成されていてもよい。
以上の構造を有する半導体装置は、ゲート電極7に印加する電圧を変化させることにより、チャネル層6内に形成されるチャネル領域を通過する電流を制御することができる。これにより、オーミック電極12、炭化珪素半導体基板1、炭化珪素層2、チャネル層6、高濃度不純物領域4およびオーミック電極9によって形成される経路を流れる電流を調節することができる。
次に、ゲート電極7およびオーミック電極9の構造を詳細に説明する。図1(b)は、ゲート電極7近傍の構造を拡大して示す断面図である。図1(b)に示すように、ゲート電極7は、ポリシリコン層7a、チタンシリサイド層7bおよび窒化チタン層7cを含む。ポリシリコン層7aは、主として不純物がドープされたポリシリコンからなり、チタンシリサイド層7bは主としてチタンシリサイド(TiSi2)からなる。チタンシリサイドには不純物も含まれている。ポリシリコン層7aはゲート絶縁層14に接している。ここで「主として」とはもっとも多い構成成分であることを意味する。
図1(c)は、オーミック電極9近傍の構造を拡大して示す断面図である。図1(c)に示すように、オーミック電極9は、反応層9aおよび窒化チタン層9bを含む。反応層9aは、主としてチタン、シリコンおよび炭素の合金からなり、窒化チタン層9bは主として窒化チタンからなる。窒化チタン層9b上にはパッド用電極11が位置しており、窒化チタン層9bとパッド用電極11との間にはグラファイトは析出していない。また、反応層9aは高濃度不純物領域4およびp+コンタクト領域9に接している。
ゲート電極7およびオーミック電極9はそれぞれチタンシリサイド層7bおよび反応層9aを含んでいる。これら層は、いずれもシリコンを含んでいる。しかし、ゲート電極7のチタンシリサイド層7bのシリコンは、ゲート電極7用に形成したポリシリコンに由来するのに対して、オーミック電極9の反応層9aのシリコンは高濃度不純物領域4を構成する炭化珪素のシリコンに由来する。
図2(a)から図2(d)は、ゲート電極7およびオーミック電極9の形成工程を示す断面図である。これらの図において、図2(a)および図2(c)は、ゲート電極7の形成工程に関しており、図2(b)および図2(d)はオーミック電極9の形成工程に関している。これらゲート電極7およびオーミック電極9は好ましくは同じ熱処理工程において形成される。まず、図2(a)に示すように、ゲート電極を形成するために、パターニングされたポリシリコン層20上にチタン層15を形成する。また、図2(b)に示すように、オーミック電極を形成するために、高濃度不純物領域4上にチタン層15を形成する。これらのチタン層15は、別々に形成することもできるが、同一工程によって形成されたチタン膜を利用することによって、製造工程数を減らし、製造コストを低減することができる。
熱処理を行うと、チタン層15とポリシリコン層20との界面において、チタンおよびシリコンが相互に拡散し、チタンシリサイドが形成される。また、チタン層15と高濃度不純物領域4との界面において、チタンと、シリコンおよび炭素とが相互に拡散し、チタン、シリコンおよび炭素の合金が形成される。また、窒素雰囲気下で熱処理する場合、チタン層15の表面は窒化される。これにより、図2(c)に示すように、ポリシリコン層7a、チタンシリサイド層7bおよび窒化チタン層7cからなるゲート電極7が形成される。また、図2(d)に示すように、反応層9aおよび窒化チタン層9bからなるオーミック電極9が形成される。
図3は、シリコン基板上にチタンを堆積し、高温で熱処理した場合に生成するチタンシリサイド層の厚さの温度依存性を示すグラフである。熱処理は、チタンおよびシリコンが酸化しないよう、不活性雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスとして窒素を選択する場合、チタンは窒素と反応し、窒化チタンを形成する。図3に示すように、チタンと窒素との反応は比較的低温でも進行する。このため、熱処理温度が650℃程度であれば、チタン層15のうち1/2程度が窒化チタンになり、1/2がチタンシリサイドになっている。熱処理温度を高くすると、より多くの窒化チタンのチタンがシリコンと反応し、チタンシリサイドとなる。このため、温度が上昇するにつれて窒化チタンは薄くなり、チタンシリサイドが厚くなる。図3から明らかなように、熱処理温度が約750℃以上であれば、チタンシリサイドの形成はほぼ完了し、熱処理温度を750℃以上にしても、生成するチタンシリサイドはほとんど増加しない。850℃以上ではチタンシリサイド層の厚さほぼ一定である。
図4は、炭化珪素上にチタン層を堆積し、高温で熱処理した場合に生成する、チタン、シリコンおよび炭素の合金からなる反応層の厚さの温度依存性を示すグラフである。ゲート電極と同様、窒素雰囲気下で熱処理を行うと、チタン層のチタンは窒素と反応し、窒化チタンを形成する。しかし、炭化珪素は比較的高温でも安定な化合物であるため、800℃程度まで炭化珪素中のシリコンおよび炭素とチタンとは反応しない。800℃を超える温度で熱処理を行うと、炭化珪素中のシリコンおよび炭素とチタンとが反応し、チタン、シリコンおよび炭素の合金からなる反応層が生成し始める。熱処理温度が800℃から1000℃ぐらいの範囲では、熱処理温度が高くなるにつれて生成する反応層も厚くなる。熱処理温度が1000℃である場合、およそ1/3が反応層となり、2/3が窒化チタン層として残っている。
なお、図3及び図4の分析のための試料は、シリコン基板または炭化珪素基板上にチタン層を形成し、窒素雰囲気下において、各温度で熱処理を行い、熱処理によって形成された窒化チタン層をウェットエッチングにより除去し、用意した。これらの試料のシリコンと反応したチタン、ならびに、シリコンおよび炭素と反応したチタンからの特性X線を分析することにより、反応に寄与したチタン層の膜厚を検量し、形成したチタン層と、チタンシリサイド層または反応層との膜厚比を算出した。
熱処理温度を1050℃にしても、炭化珪素上に堆積したチタンの全体はチタン、シリコンおよび炭素の合金層とはならない。しかし、半導体と金属との接触がショットキー性を有するかオーミック性を有するかは、主として界面の特性に依存するため、形成する合金層が厚くなくても良好なオーミック性の接合を得ることが可能である。
図4には図示できないが、熱処理温度を高めてもチタン、シリコンおよび炭素の合金の形成に伴うグラファイトの析出は生じない。これは、チタンと炭化珪素との組み合わせでは、チタン、シリコンおよび炭素の安定な合金が形成可能であり、グラファイトとして炭素が遊離することが防止されるからであると考えられる。これが従来のニッケルを用いたオーミック電極と大きく異なる点である。ニッケルは、炭素と安定な化合物を形成しないため、シリサイドの形成により生じた炭素はニッケルと化合物を形成することなく遊離し、これによりグラファイトの析出が生じるものと考えられる。
図5は、n型炭化珪素基板上(不純物濃度:約5×1019cm-3)にチタンを150nm堆積後、窒素雰囲気中で750℃、850℃および950℃で1分間、熱処理した場合のチタン/炭化珪素コンタクトの電流電圧特性である。図5に示すように、750℃で処理したものではチタン−炭化珪素界面の反応が不十分であるため、オーム性電極が得られてない。これに対し、850℃で処理したものでは、ほぼオーム性の電流−電圧特性が得られている。また、コンタクト抵抗も約5×10-5Ωcm2であり、グラファイトの析出による抵抗の増大も生じていない。950℃で処理したものは、図5から明らかなように、電圧に対して電流がほぼ直線的に変化しており、優れたオーム性の電極が得られていることが分かる。コンタクト抵抗も約2×10-5Ωcm2であった。
図6は、リン(P)がドープされたポリシリコン上にチタンを100nmしたものを窒素雰囲気中、950℃で1分間、熱処理した場合のシート抵抗を、チタンを形成しない場合を基準として示している。熱処理により、堆積したTiの大部分がシリコンと反応して、シリサイドが形成されることにより、ポリシリコンのみの場合に比べ、シート抵抗が約1/10に低減している。
これらのことから、炭化珪素上にチタン層を形成し、熱処理することによって、炭化珪素とチタン層との界面にチタン、シリコンおよび炭素の合金からなる反応層が形成され、低抵抗であり、かつ、グラファイトの析出がないオーミック電極を形成することができる。また、ポリシリコンにチタン層を形成し、熱処理することによって、ポリシリコンの大部分をシリサイド化し、低抵抗なゲート電極を形成することができる。
これら2つの電極は、同一の工程内において同時に形成する必要はない。しかし、同一の工程でオーミック電極およびゲート電極を形成すれば、半導体装置の製造工程数を減らし、製造コストの低減や製造に要する時間の短縮を図ることが可能となる。また、工程数を減らすことにより、歩留まりの向上も図ることができるなど、種々のメリットがある。
オーミック電極およびゲート電極を同一の工程内において形成するためには、シリサイド化のための熱処理温度を850℃以上で行うことが好ましい。850℃に満たない温度で熱処理を行う場合、ゲート電極においてシリサイド化は進行するが、オーミック電極におけるシリサイド化反応が十分ではない可能性がある。
熱処理温度は、高いほど、それぞれの電極におけるシリサイド化が促進されるため、好ましい。しかし、熱処理温度が1050℃を超える場合、層間膜として用いる窒化シリコンや酸化シリコンなどの材料の変質や変形を生じる可能性がある。したがって、ゲート電極およびオーミック電極を同時に形成する場合には、850℃以上1050℃以下の温度で熱処理を行うことが好ましい。より好ましくは、熱処理温度は、900℃以上1000℃以下である。
オーミック電極およびゲート電極を同時に形成する場合、図2(a)および(b)を参照して説明したように、チタン層15は、同一のチタン膜から形成することが好ましい。このため、オーミック電極9を形成する高濃度不純物領域4上およびゲート電極7を形成するポリシリコン層20上において、熱処理前のチタン層15の厚さを変えることは困難である。
しかし、ゲート電極7において、チタン層15の大部分はポリシリコン層20と反応してチタンシリサイド層7bとなるのに対し、オーミック電極9において生成する反応層9aは薄く、チタン層15の大部分はチタンあるいは窒化チタンとして残る。このため、ゲート電極7に求められる抵抗値に応じたチタンシリサイド層7bがゲート電極7において形成されるようにチタン層15の厚さを決定すればよい。このとき、図1(b)および(c)に示すように、熱処理後のゲート電極7におけるチタンシリサイド層7bの厚さL1とオーミック電極9における反応層9aの厚さL4との比は、概ね4:1となり、つねに、オーミック電極9における反応層9aの厚さのほうが、ゲート電極7のチタンシリサイド層7bの厚さよりも小さくなる。
チタンシリサイド層7bおよび反応層9aの好ましい厚さは、半導体装置の用途によって定まる半導体装置の最大動作周波数や動作電流に依存する。たとえば、図1(b)に示すようにポリシリコン層7aの厚さL2は、200nm〜1000nmであり、チタンシリサイド層7bの厚さL1は、150nm〜900nmである。窒化チタン層7cの厚さL3は10nm〜50nmである。ゲート電極7の抵抗を下げるためには、ポリシリコン層7aの厚さL2はチタンシリサイド層7bの厚さL1よりも小さいことが好ましい。また、図1(c)に示すように反応層9aの厚さL4は、30nm〜250nmであり、窒化チタン層9bの厚さL5は、50nm〜300nmである。
次に、炭化珪素基板上にチタン膜を形成し、種々の温度で熱処理することによって得られたオーミック電極について深さ方向の組成を分析した結果を示す。
分析のための試料は、炭化珪素基板上に厚さ150nmのチタン層を形成し、窒素雰囲気下において、900℃、950℃、100℃および1050℃で2分間熱処理を行い、熱処理後、生成したオーミック電極の表面に厚さ100nmのアルミニウムからなるカバー膜を形成することによって用意した。これらの試料をオージェ電子分光分析法(AES)によって深さ方向に分析した。図7から図10は、900℃、950℃、100℃および1050℃で熱処理した試料の分析結果を示す図である。これらの図において、Al、Si、C、O1、Si、C、で示す曲線は、それぞれの元素の分布を示している。また、Ti+Nで示す曲線は、窒素と結合したチタンの分布を示し、Tiは窒素以外の元素と結合したチタンの分布を示している。各元素の検出感度が異なるため、強度は各元素の存在比を正確には表していない。
これらの図に示すように、いずれの試料においても、オーミック電極とアルミニウム膜との界面には炭素はほとんど存在しておらず、熱処理を行っても、グラファイトは析出しないことがわかる。また、これらの試料では、アルミニウム層との界面からSiO2スパッタレート換算で、約200nmの深さまでは、窒化チタンが主要な成分になっており、オーミック電極の表面側には窒化チタン層が形成されていることが分かる。一方、炭化珪素基板との界面からアルミニウム膜側の約200nmまでの領域にはチタン、シリコンおよび炭素が存在し、これらの元素の合金からなる反応層が形成されていることが分かる。
オーミック電極中、炭化珪素基板側ほど炭素の濃度は高く、アルミニウム膜との界面側、つまり、オーミック電極の表面側ほど炭素濃度が低くなっている。図7から図10に示す分析結果について、チタンシリサイドや炭化珪素等の検量用試料を用いて、各元素とチタンとの結合状態をピーク分離して検出感度を補正することによって、オーミック電極の各元素の組成比を求めたところ、いずれの試料においても、オーミック電極のアルミニウム膜と接する最表面における炭素濃度は5atom%以下であることが分かった。
熱処理温度が高くなるにつれて、炭化珪素基板との界面近傍の炭素の濃度が少し高くなり、シリコンがわずかに窒化チタン層へ拡散する傾向がみられる。しかし、チタン、シリコンおよび炭素の分布はほとんど変わっていない。このため、チタン、シリコンおよび炭素の合金からなる反応層は熱的に安定であり、反応層から炭素が遊離し、グラフィイトがオーミック電極の表面に析出することはないと考えられる。
熱処理温度が1000℃および1050℃の試料を、460℃で30分間熱処理し、同様に、オージェ電子分光分析法によって深さ方向に分析したところ、ほとんど各元素の分布は変化していないことが分かった。
これらの結果から、本発明の半導体装置を長期間動作させても、グラファイトがオーミック電極の表面に析出することが抑制され、コンタクト抵抗の上昇や、オーミック電極とパッド用電極との接合強度の低下は生じないと考えられる。したがって、本発明の半導体装置におけるオーミック電極は、信頼性にも優れると言える。
このように本発明の半導体装置によれば、オーミック電極は、チタン、シリコンおよび炭素の合金を含み、ゲート電極は、チタンシリサイドを含む。このため、オーミック電極においては、合金を形成することによってオーミック接触形成時にグラファイトが析出することを防止でき、コンタクト抵抗が増大したり、オーミック電極とパッド用電極との密着性や信頼性が劣化するのを防止できる。また、ゲート電極においては、チタンシリサイドの形成によってゲート電極の抵抗を低くすることができる。したがって、半導体装置の特性を向上させることができる。特に、ゲート抵抗を低減することによるスイッチングの遅延を防止することができる。また、ゲート電極およびオーミック電極は同一工程において形成することが可能であり、これにより、製造コストの低減、製造に要する時間の短縮、歩留まりの向上などを達成することもできる。
以下、本発明による半導体装置の製造方法の一例を説明する。図11(a)〜(i)は、半導体装置の製造途中の構造を示す断面図である。
まず、図11(a)に示すように、4H−SiCの(0001)面から8度のオフ角を持つ炭化珪素基板1を用意する。炭化珪素基板1にはn型の不純物が1×1018cm-3程度ドープされている。熱CVD法等により、炭化珪素基板1の主面上に炭化珪素基板1よりも低濃度のn型不純物を含む高抵抗の炭化珪素層2をエピタキシャル成長させる。エピタキシャル成長は、たとえば、原料ガスとしてシラン(SiH4)とプロパン(C3H8)を用い、キャリアガスとして水素(H2)を、また、ドーパントガスとして窒素(N2)をそれぞれ用いる。たとえば、1400Vの耐圧を備えたMISFETを製造する場合には、炭化珪素層2の不純物濃度は1×1015cm-3〜1×1016cm-3であることが好ましく、厚さは10μm以上であることが好ましい。
次に炭化珪素層2の一部に、p型不純物(アルミニウム、ホウ素など)をイオン注入によりドープして、炭化珪素層2の表面から内部にpウェル領域3を形成する。pウェル領域3の形成の際には、まず、注入マスクとなる厚さ3μm程度のシリコン酸化膜(図示せず)を炭化珪素層2の上面上に堆積し、フォトリソグラフィーおよびドライエッチングによって、シリコン酸化膜のうちpウェル領域3を形成する部分のみに開口を設ける。注入欠陥を低減するために、基板温度を500℃以上の高温に保ってアルミニウムまたはボロンのイオン注入を行ない、イオン注入の後、マスクとして用いたシリコン酸化膜をふっ酸によって除去する。pウェル領域3のp型不純物の濃度は、通常約1×1017cm-3〜1×1018cm-3であり、pウェル領域3の深さはピンチオフしないように1μm前後とする。
次に、炭化珪素層2に、厚さ1μm程度のシリコン酸化膜を堆積し、フォトリソグラフィーおよびドライエッチングによって、シリコン酸化膜のうち高濃度不純物領域4を形成する部分のみに開口を設け、マスク16を形成する。炭化珪素層2の表面に露出するpウェル領域3を正確に形成するために、マスク16にサイドウォール16aを形成してもよい。マスク16を用いて、pウェル領域3の表面部の一部に高濃度のn型不純物をイオン注入によってドープして、高濃度不純物領域4を形成する。このとき、注入欠陥を低減するために、基板温度を500℃以上の高温に保ったまま、窒素またはリンのイオン注入を行ない、イオン注入の後、マスクとして用いたシリコン酸化膜16をふっ酸によって除去する。高濃度不純物領域4における不純物の濃度は1×1019cm-3程度であり、後に形成するp+コンタクト領域5の不純物濃度よりは低い。なお、高濃度不純物領域4における不純物濃度がp+コンタクト領域5の不純物濃度と同程度の場合には、高濃度不純物領域4を形成するためのマスク16がp+コンタクト領域5を覆っている必要がある。また、高濃度不純物領域4の深さは、p+コンタクト領域5の深さよりは浅く、例えば300nm程度である。
次に、図11(b)に示すように、マスク17を用いて、pウェル領域3と後に形成されるオーミック電極とのコンタクトをとるために、pウェル領域3の表面部の一部にp型不純物をイオン注入によって高濃度でドープし、p+コンタクト領域5を形成する。p+コンタクト領域5の厚さは約300nmであり、不純物の濃度は約5×1019cm-3以上である。イオン注入の方法は、pウェル領域3の形成と同じである。その後、マスク17を除去する。
次に注入された不純物を活性化するために、アルゴンなどの不活性ガスの雰囲気中で、1700℃、30分の活性化アニールを施す。このとき、炭化珪素層2、pウェル領域3、p+コンタクト領域5および高濃度不純物領域4の露出している表面には、高さ10nm〜100nm程度のマクロステップや、ヒロックと呼ばれる突起物が生じ、表面粗さが大きくなり、表面の平滑性が悪化する。
次に、図11(c)に示すように、たとえば熱CVD法により、炭化珪素層2、pウェル領域3、高濃度不純物領域4及びp+コンタクト領域5の上にチャネル層6をエピタキシャル成長させる。チャネル層6の形成の際には、例えば、原料ガスとしてシラン(SiH4)とプロパン(C3H8)を、キャリアガスとして水素(H2)を、ドーパントガスとして窒素(N2)をそれぞれ用いる。その後、チャネル層6のうち高濃度不純物領域4、p+コンタクト領域5の上方に位置する部分を、たとえばRIEなどによって除去して、コンタクトホールを設ける。このとき、p+コンタクト領域5およびソース領域4の表面から例えば50nm以上の深さまでオーバーエッチングする。
次に、図11(d)に示すように、チャネル層6、高濃度不純物領域4およびp+コンタクト領域5の露出している表面を熱酸化して、シリコン酸化膜からなるゲート絶縁層14を形成する。たとえば、石英管中で炭化珪素基板1を保持し、酸素を流量2.5(l/min)で石英管中に導入し、石英管内の温度を1180℃に保って2.5時間、熱酸化することにより、厚み約70nmのゲート絶縁層14を形成できる。
次に、減圧CVD法により、厚さ500nmのポリシリコン膜を堆積し、例えば、RIEなどにより、ポリシリコン膜のうちコンタクトホール内及びその周囲に位置する部分を除去することにより、ゲート絶縁層14上にポリシリコン層20を形成する。ポリシリコン層20は後にゲート電極となる。
図11(e)に示すように、その後、減圧CVD法により、炭化珪素層2の表面およびポリシリコン層20を覆う窒化シリコン(SiN)からなる第1の層間絶縁層8を100nm前後成長させる。通常のフォトリソグラフィー、ウェットエッチングにより、第1の層間絶縁層8のうち、コンタクトホール内及びその周囲に位置する部分およびポリシリコン層20の上面に位置する部分を除去する。これにより、コンタクトホール内においては、高濃度不純物領域4の一部およびp+コンタクト領域5が露出する。
次に、図11(f)に示すように、チタン層15を真空蒸着などによって、第1の層間絶縁層8上、および、第1の層間絶縁層8が除去されている領域(オーミック電極が形成される部分およびポリシリコン層20の上面)に堆積する。チタン層15の厚さは、後に形成されるオーミック電極9中のチタン、シリコンおよび炭素の合金層の厚さを10nm以上にするため、50nm以上であることが好ましい。
次に、図11(g)に示すように、第1の層間絶縁膜8上のチタン層15を除去することにより、オーミック電極となる部分およびゲート電極となる部分以外のチタン層15をRIEなどのドライエッチングまたはウェットエッチングにより除去する。
次に、図11(h)に示すように、窒素、アルゴンなどの不活性ガス中で1分以上の熱処理を施す。この熱処理によって、チタン層8と炭化珪素2中のシリコンおよび炭素とが反応し、チタン層8とポリシリコン層20の珪素とが反応する。熱処理温度は、チタンと炭化珪素とが反応層を形成し、かつ、層間膜材料として使用する窒化チタンや酸化シリコン等の材料の変質や変形を防止するため、850℃以上1050℃以下であることが好ましい。
熱処理の結果、図1(b)に示すように、ポリシリコン層20の大部分がシリサイド化し、低抵抗なゲート電極7が形成される。また、図1(c)に示すように、高濃度不純物領域4とオーミック接触するオーミック電極9が形成される。前述したようにゲート電極7におけるチタンシリサイド層の厚さはオーミック電極におけるチタン、シリコンおよび炭素の合金からなる反応層よりも厚くなっている。
次に、図11(i)に示すように、オーミック電極9およびゲート電極7を覆う第2の層間絶縁層10として厚さ1μm程度のシリコン酸化膜を堆積し、RIE等により、第2の層間絶縁層10を貫通してオーミック電極9に達するコンタクトホールを形成する。その後、厚さ3μm程度のアルミニウム膜を真空蒸着等で第2の層間絶縁層10上およびコンタクトホール内に堆積し、通常のフォトリソグラフィー、エッチングによってパタ−ニングすることにより、オーミック電極9に電気的に接続されたパッド用電極11を形成する。その後、ドレイン電極として機能するオーミック電極12として、チタン、ニッケル、金、銀、白金等のいずれか1つまたは複数からなる積層膜を真空蒸着等で堆積し、オーミック電極12を形成する。
以上の工程により、二重注入型MISFETが完成する。作製したMISFETの特性は以下の通りであった。
チャネル移動度:30cm2/Vsec以上(VDS=1V)
オフ耐圧:1400V
オン抵抗:10mΩ・cm2以下
オーミック電極(ソース)のコンタクト抵抗:5×10-5Ωcm2
ゲート電極の抵抗:8Ω/□
測定条件: ゲート電圧20V、ドレイン電圧1V
このように、チタン、シリコンおよび炭素の合金からなる反応層を含むオーミック電極を形成することにより、オーミック接触形成時のグラファイトの析出を防止し、これにより、10-5Ωcm2台のコンタクト抵抗を実現し、オン抵抗を改善することができた。また、チタンシリサイド層を含むゲート電極を形成することにより、ゲート抵抗を低減することができ、ゲート遅延を改善することができた。
なお、上記実施形態ではチタン層15のパターニングを行い、オーミック電極9とゲート電極7となる部分に選択的にチタン層15を形成しているが、熱処理により生成したチタン、シリコンおよび炭素の合金およびチタンシリサイドとチタンとの反応性の差異を利用することにより、このパターニング工程を省略してもよい。
次に、図12(a)〜(i)を参照しながら、チタン層15のパターニングを行わないで、オーミック電極9とゲート電極7を形成する工程を含む半導体装置の製造方法を説明する。
まず、図11(a)〜(f)を参照して説明した工程と同様の工程を用いて、図12(a)〜(f)に示す構造を作製し、図12(f)に示す構造を得る。以上の工程により、図12(f)に示すように、第1の層間絶縁層8および第1の層間絶縁層8が除去されているオーミック電極が形成される部分およびポリシリコン層20の上面にチタン層15が堆積されたものが得られる。
図12(g)に示すように、窒素、アルゴンなどの不活性ガス中で850℃、1分以上の熱処理を施す。この熱処理によって、第1の層間絶縁層8が除去されているオーミック電極が形成される部分およびポリシリコン層20の上面において、チタン層15と高濃度不純物領域4の炭化珪素およびポリシリコン層20とが選択的に反応し、チタン、シリコンおよび炭素の合金層が生成する。この時、第1の層間絶縁層8を構成している酸化シリコン中のシリコンは酸素と強く結合しているため、第1の層間絶縁層8のシリコンとチタン層15とは実質的にほとんど反応しない。
熱処理により、図1(b)に示すように、ポリシリコン層20の大部分がシリサイド化し、低抵抗なゲート電極7が形成される。また、図1(c)に示すように、高濃度不純物領域4とオーミック接触するオーミック電極9が形成される。前述したようにゲート電極7におけるチタンシリサイド層の厚さはオーミック電極における反応層よりも厚くなっている。一方、第1の層間絶縁層8上では、チタン層15がそのまま残っている。
次に、図12(h)に示すように、第1の層間絶縁膜8の上のシリサイドを形成せずそのまま残っているチタン層15を過酸化水素水が含まれるリン酸系エッチング液を用いて、ウェットエッチングにより、選択的に除去する。これにより、不用なチタン層15が除去され、ゲート電極7とオーミック電極9とが形成される。
以下、図11(i)を参照して説明した工程と同様の工程を用いて、MISFETの構造を完成させる(図12(i))。
このように図12(a)〜(i)の製造方法によれば、チタン層15をパターニングする必要がないため、半導体装置の製造工程の数を減らし、製造コストの低減や製造に要する時間の短縮を図ることができる。
なお本実施形態ではゲート絶縁層は熱酸化膜であったが、他の方法により形成されたゲート絶縁層を用いてもよい。たとえば、CVD等によって堆積されたシリコン酸化膜をゲート絶縁層に用いてもよい。あるいは、ゲート絶縁層は熱酸化膜と堆積膜との積層構造を有していてもよい。また、ゲート絶縁層がシリコン酸化膜である必要はなく、窒化シリコン膜、シリコン酸窒化膜や酸化タンタル膜、酸化ハフニウム膜などの金属酸化物膜でもよい。
また、本実施形態では、エピタキシャル成長によるチャネル層を備えているが、上述の説明から明らかなように、本発明の効果はチャネル領域の位置や構造に依存しない。このため、種々のチャネル構造と上述したオーミック電極およびゲート電極とを組み合わせた半導体装置として本発明を実現してもよい。たとえば、図1(b)に示すチャネル層6の替わりに、ゲート電極7に印加する電圧によって、pウェル領域3の炭化珪素層2の表面部分に形成される反転層をチャネル領域として用いるMISFETにも本発明は好適に用いることができる。
また、上記実施形態では、n型オーミック電極にチタン、シリコンおよび炭素の合金層を備えたオーミック電極を採用しているが、チタンシリサイド層を備えたオーミック電極をp型オーミック電極に用いてもグラファイトの析出を防止することができるという効果を得ることができる。上記実施形態において、炭化珪素基板や各半導体層、半導体領域の導電型を入れ替えた半導体装置にも本発明は好適に用いることができる。
本発明は、炭化珪素半導体装置に好適に用いられ、特に、パワーデバイス用の炭化珪素半導体装置に好適に用いられる。
本発明は、炭化珪素半導体基板を有する半導体装置に関し、特に、オーミック電極およびゲート電極が設けられた炭化珪素半導体基板を備えた半導体装置およびその製造方法に関する。
パワーエレクトロニクス用のデバイスとして、シリコン(Si)半導体を用いたパワーデバイスが従来用いられている。パワーエレクトロニクス用のデバイスは、より高周波かつ大電流で動作することが求められており、さまざまな研究開発により、シリコンパワーデバイスの性能の向上が図られてきた。
しかし、近年、シリコンパワーデバイスの性能は理論的な限界に近づきつつある。また、パワーデバイスは高温や放射線等の悪環境下における動作が求められる場合があるが、シリコン半導体はこのような悪環境下には適していないこともある。このため、シリコンに替わる半導体を用いたデバイスの研究がなされている。
種々の半導体のなかで、炭化珪素(SiC)半導体は、広い禁制帯幅(4H型の場合、3.26eV)を持ち、高温での電気伝導制御や耐放射線性に優れる。また、炭化珪素半導体は、シリコンより約1桁高い絶縁破壊電界およびシリコンの約2倍の電子の飽和ドリフト速度を有しているため、高耐圧に優れ、高周波大電力制御を可能とする。これらの半導体としての物性から、炭化珪素はより高周波かつ大電流で動作するパワーデバイス用の半導体材料として期待されている。
炭化珪素を用いてMISFET等の素子を形成する場合、n型炭化珪素へのオーム性電極材料として、ニッケル(Ni)が広く用いられる。しかしながら、真空蒸着等でニッケルをn型炭化珪素上に堆積しただけでは、金属と半導体の界面にショットキー障壁が形成されるため、ニッケル−n型炭化珪素界面は整流性を示し、オーム性を示さない。通常、ニッケルを堆積した後、高温で熱処理を行い、ニッケルの炭化珪素中への拡散と炭化珪素中のシリコンのニッケル中への拡散を促すことによって、はじめてオーム性電極を得ることができる。n型炭化珪素半導体上に形成されたニッケルからなるオーム性電極を備えた半導体装置は例えば特許文献1や特許文献2に開示されている。
特開平7−99169号公報
特開2003−243323号公報
図13はオーミック電極を有する従来の炭化珪素半導体装置の構造の一部を模式的に示している。図13に示すように、従来の炭化珪素半導体装置は、n型不純物を含む低抵抗の炭化珪素基板101と、炭化珪素基板の主面上に設けられ、不純物がドープされた高抵抗炭化珪素層102とを備えている。高抵抗炭化珪素層102の表面部の一部にはn型不純物がドープされた高濃度不純物領域104が形成されており、高濃度不純物領域104上には、ニッケルシリサイドからなるオーミック電極109が形成されている。オーミック電極109の表面には層間絶縁膜110が設けられており、層間絶縁膜110上にはパッド用電極111が設けられている。パッド用電極111は、層間絶縁膜110に設けられたコンタクトホールによってオーミック電極109と接触している。
高濃度不純物領域104上にオーミック電極109を形成するためには、上述したように炭化珪素からなる高濃度不純物領域104上にニッケル層を形成し、約1000℃で熱処理を行う必要がある。熱処理により、Niと炭化珪素中のSiとは相互に拡散し、ニッケルシリサイドからなるオーミック電極109を形成する。
しかし、このとき、炭化珪素中の炭素はオーミック電極109の表面に拡散してグラファイトとして析出し、グラファイト析出層113が形成されてしまう。このグラファイトにより、オーミック電極109のコンタクト抵抗(ρc)が増大したり、オーミック電極109とパッド用電極111との密着性や信頼性が劣化するという課題がある。
また、炭化珪素半導体装置は、上述したように高周波かつ大電流で動作する高性能なパワーデバイスとなることが期待されている。しかし、炭化珪素半導体を用いた従来のMISFETを高周波(約100kHz)で動作させると、ゲート容量およびゲート抵抗に起因する遅延が増大し、スイッチング特性が劣化するという課題がある。
遅延を低減するためには、ゲート容量およびゲート抵抗を低減することが有効である。ゲート容量の大部分は、ゲート絶縁膜による容量で占められるため、ゲート絶縁膜を厚くすることによりゲート容量を低減することが考えられる。しかし、この場合、MISFETの駆動能力が低下してしまう。このため、高性能な炭化珪素半導体装置を実現するためには、ゲート抵抗を低減することが重要である。
本発明は、上記従来技術の上述した種々の課題の少なくとも1つを解決し、優れた特性を有する半導体装置を実現することを目的とする。
本発明の半導体装置は、炭化珪素層を有する炭化珪素半導体基板と、前記炭化珪素層に設けられた高濃度不純物領域と、前記高濃度不純物領域に電気的に接続されたオーミック電極と、前記高濃度不純物領域に電気的に接続されたチャネル領域と、前記チャネル領域の上に設けられたゲート絶縁層と、前記ゲート絶縁層の上に設けられたゲート電極とを備え、前記オーミック電極は、チタン、シリコンおよび炭素の合金を含み、前記ゲート電極はチタンシリサイドを含む。
ある好ましい実施形態において、前記高濃度不純物領域はn型の不純物が高濃度にドープされている。
ある好ましい実施形態において、前記オーミック電極は、前記チタン、シリコンおよび炭素の合金からなる反応層を含み、前記ゲート電極は、チタンシリサイド層をそれぞれ含む。
ある好ましい実施形態において、前記オーミック電極の反応層と前記ゲート電極のチタンシリサイド層とは互いに異なる厚さを有する。
ある好ましい実施形態において、前記オーミック電極の反応層の厚さは、前記ゲート電極のチタンシリサイド層の厚さよりも小さい。
ある好ましい実施形態において、前記オーミック電極は窒化チタン層をさらに含む。
ある好ましい実施形態において、前記オーミック電極における前記窒化チタン層の厚さは前記反応層の厚さよりも大きい。
ある好ましい実施形態において、前記オーミック電極の前記反応層は前記高濃度不純物領域と接している。
ある好ましい実施形態において、前記ゲート電極はポリシリコン層をさらに含む。
ある好ましい実施形態において、前記ゲート電極における前記ポリシリコン層の厚さは前記チタンシリサイド層の厚さよりも小さい。
ある好ましい実施形態において、前記ゲート電極の前記ポリシリコン層は前記ゲート絶縁層と接している。
ある好ましい実施形態において、前記オーミック電極における前記炭素の濃度は、前記高濃度不純物領域側において高く、前記オーミック電極の表面側において低い。
ある好ましい実施形態において、前記炭素の濃度は、前記オーミック電極の表面に最も近い側において5atom%以下である。
ある好ましい実施形態において、半導体装置は、前記高濃度不純物領域に接するように前記炭化珪素層の表面の一部に設けられたチャネル層をさらに備え、前記チャネル領域は前記チャネル層内に位置している。
ある好ましい実施形態において、前記炭化珪素層は、p型不純物がドープされ、前記高濃度不純物領域を包囲するように設けられたウェル領域を含み、前記チャネル領域は、前記炭化珪素層の表面の一部に接するように前記ウェル領域内の表面部分において、前記高濃度不純物領域と、前記ウェル領域が形成されていない前記炭化珪素層とを接続するように位置している。
ある好ましい実施形態において、半導体装置は、前記半導体基板の前記炭化珪素層と反対側の面に設けられた他のオーミック電極をさらに備え、縦型構造を備える。
本発明の半導体装置の製造方法は、高濃度不純物領域が設けられた炭化珪素層およびチャネル領域を含む半導体領域を覆うゲート絶縁層を有する炭化珪素半導体基板を用意する工程(a)と、前記ゲート絶縁層上にポリシリコン層を形成する工程(b)と、前記高濃度不純物領域上および前記ポリシリコン層上にそれぞれチタン層を形成する工程(c)と、前記チタン層を熱処理することにより、前記ポリシリコン層のシリコン、ならびに前記高濃度不純物領域中のシリコンおよび炭素と前記チタン層とを反応させ、チタン、シリコンおよび炭素の合金を含むオーミック電極を前記高濃度不純物領域上に形成し、チタンシリサイドを含むゲート電極を前記ゲート絶縁層上に形成する工程(d)とを包含する。
ある好ましい実施形態において、前記工程(d)における熱処理を850℃以上1050℃以下の温度で行う。
ある好ましい実施形態において、前記工程(d)の熱処理を窒素ガスまたはアルゴンガスを含む雰囲気中で行う。
ある好ましい実施形態において、前記工程(c)は、前記高濃度不純物領域および前記ポリシリコン層を覆うように前記炭化珪素層の表面全体にチタン層を形成する工程(c1)と、前記高濃度不純物領域上および前記ポリシリコン層上にのみ前記チタン層が設けられるように、不用な部分を除去することによって、前記チタン層をパターニングする工程(c2)とを含む。
ある好ましい実施形態において、前記工程(c2)は、不用な部分の除去をウェットエッチングによって行う。
ある好ましい実施形態において、前記工程(c2)は、不用な部分の除去をドライエッチングによって行う。
ある好ましい実施形態において、前記工程(c)は、前記絶縁膜、露出した前記高濃度不純物領域および前記ポリシリコン層を覆うように、前記チタン層を形成する工程(c1)とを含み、前記工程(d)は、前記チタン層を熱処理することにより、前記ポリシリコン層中のシリコン、ならびに、前記高濃度不純物領域中のシリコンおよび炭素と前記チタン層の一部とを反応させ、チタンシリサイド、ならびに、チタン、シリコンおよび炭素の合金を形成する工程(d1)と、前記チタン層のうち、反応しなかった部分を除去することにより、前記チタンシリサイドを含むゲート電極を前記ゲート絶縁層上に形成し、前記合金を含むオーミック電極を前記高濃度不純物領域上に形成する工程(d2)とを含む。
ある好ましい実施形態において、前記工程(d2)は、前記チタン層のうち、反応しなかった部分をウェットエッチングにより除去する。
本発明の半導体装置によれば、オーミック電極はチタン、シリコンおよび炭素の合金を含み、ゲート電極はチタンシリサイドを含む。このため、オーミック電極においては、オーミック接触形成時にグラファイトが析出することを防止でき、コンタクト抵抗が増大したり、オーミック電極とパッド用電極との密着性や信頼性が劣化するのを防止できる。また、ゲート電極においては、チタンシリサイドの形成によってゲート電極の抵抗を低くすることができる。したがって、半導体装置の特性を向上させることができる。また、ゲート電極およびオーミック電極は同一工程において形成することが可能であり、これにより、製造コストの低減、製造に要する時間の短縮、歩留まりの向上などを達成することもできる。
以下本発明による半導体装置の実施形態を説明する。本発明は、グラファイトの析出がないオーミック電極、および、抵抗の低いゲート電極を備えた炭化珪素半導体装置を実現し、MISFETやMOSFETなど絶縁ゲート型のトランジスタに好適に用いることができる。以下の実施形態では、縦型の二重注入MISFETを例として本発明の実施形態を説明する。
図1(a)は、本発明による半導体装置の一実施形態を示す模式的断面図である。まず、この半導体装置の構造を概略的に説明する。
図1(a)に示す半導体装置は、炭化珪素層2を有する炭化珪素半導体基板1を備える。炭化珪素半導体基板1は、たとえば、4H−SiCの(0001)面から8度のオフ角を持つオフ基板である。炭化珪素半導体基板1は、窒素、リン、砒素などのn型不純物が、たとえば、1×1018cm-3以上の濃度でドープされており、低抵抗である。炭化珪素層2は、炭化珪素半導体基板1上にエピタキシャル成長によって設けられている。半導体装置が、たとえば、1400Vの耐圧を有するMISFETである場合には、炭化珪素層2は、窒素などのn型不純物が1×1015cm-3〜1×1016cm-3程度にドープされ、高抵抗であることが好ましい。
炭化珪素層2には、炭化珪素層2の表面から内部に向かってpウェル領域3が設けられ、さらに、pウェル領域3内に、高濃度不純物領域4が炭化珪素層2の表面から内部にかけて形成されている。これにより高濃度不純物領域4は残ったpウェル領域3に包囲される。高濃度不純物領域4は、n型不純物が高濃度でドープされており、ソース領域として機能する。また、高濃度不純物領域4内に、p+コンタクト領域5が炭化珪素層2の表面から内部に向かい、pウェル領域3に達するように設けられている。たとえば、pウェル領域3、高濃度不純物領域4およびp+コンタクト領域5の不純物濃度は、それぞれ、1×1016cm-3〜1×1018cm-3、約1×1019cm-3、約5×1019cm-3である。高濃度不純物領域4上にはオーミック電極9が設けられている。以下において説明するように、オーミック電極9はオーミック接触により高濃度不純物領域4と電気的に接続しており、チタン、シリコンおよび炭素の合金を含む。
pウェル領域3が設けられていない炭化珪素層2の表面、炭化珪素層2の表面において露出したpウェル領域3の一部および高濃度不純物領域4の一部を覆うようにチャネル層6が設けられている。チャネル層6は多重δドープ層を含み、エピタキシャル成長により形成されている。多重δドープ層は、急峻な濃度勾配を示す高濃度ドープ層(δドープ層)と低濃度ドープ層(アンドープ層)とが交互に複数積層された構造を備える。チャネル層6の上にゲート絶縁層14が設けられ、ゲート絶縁層14上にゲート電極7が設けられている。以下において説明するようにゲート電極7はチタンシリサイドを含む。第1の層間絶縁膜8はゲート電極7およびオーミック電極9を除く炭化珪素層2の表面を覆っており、第1の層間絶縁膜8を覆うように第2の層間絶縁膜10が設けられている。
第2の層間絶縁膜10上にはパッド用電極11が設けられている。パッド用電極11は第2の層間絶縁膜に設けられたコンタクトホールを介してオーミック電極9に電気的に接続している。コンタクトホールのサイズが大きい場合には、パッド用電極11は、コンタクトホール内では、オーミック電極9上およびコンタクトホールの側面に設けられ、孔11hが生じている。コンタクトホールのサイズが小さい場合には、孔11hの上部は塞がっていてもよい。
炭化珪素半導体基板1の炭化珪素層2が設けられていない主面にはドレイン電極として機能する他のオーミック電極12が設けられている。オーミック電極12は複数の層によって形成されていてもよい。
以上の構造を有する半導体装置は、ゲート電極7に印加する電圧を変化させることにより、チャネル層6内に形成されるチャネル領域を通過する電流を制御することができる。これにより、オーミック電極12、炭化珪素半導体基板1、炭化珪素層2、チャネル層6、高濃度不純物領域4およびオーミック電極9によって形成される経路を流れる電流を調節することができる。
次に、ゲート電極7およびオーミック電極9の構造を詳細に説明する。図1(b)は、ゲート電極7近傍の構造を拡大して示す断面図である。図1(b)に示すように、ゲート電極7は、ポリシリコン層7a、チタンシリサイド層7bおよび窒化チタン層7cを含む。ポリシリコン層7aは、主として不純物がドープされたポリシリコンからなり、チタンシリサイド層7bは主としてチタンシリサイド(TiSi2)からなる。チタンシリサイドには不純物も含まれている。ポリシリコン層7aはゲート絶縁層14に接している。ここで「主として」とはもっとも多い構成成分であることを意味する。
図1(c)は、オーミック電極9近傍の構造を拡大して示す断面図である。図1(c)に示すように、オーミック電極9は、反応層9aおよび窒化チタン層9bを含む。反応層9aは、主としてチタン、シリコンおよび炭素の合金からなり、窒化チタン層9bは主として窒化チタンからなる。窒化チタン層9b上にはパッド用電極11が位置しており、窒化チタン層9bとパッド用電極11との間にはグラファイトは析出していない。また、反応層9aは高濃度不純物領域4およびp+コンタクト領域9に接している。
ゲート電極7およびオーミック電極9はそれぞれチタンシリサイド層7bおよび反応層9aを含んでいる。これら層は、いずれもシリコンを含んでいる。しかし、ゲート電極7のチタンシリサイド層7bのシリコンは、ゲート電極7用に形成したポリシリコンに由来するのに対して、オーミック電極9の反応層9aのシリコンは高濃度不純物領域4を構成する炭化珪素のシリコンに由来する。
図2(a)から図2(d)は、ゲート電極7およびオーミック電極9の形成工程を示す断面図である。これらの図において、図2(a)および図2(c)は、ゲート電極7の形成工程に関しており、図2(b)および図2(d)はオーミック電極9の形成工程に関している。これらゲート電極7およびオーミック電極9は好ましくは同じ熱処理工程において形成される。まず、図2(a)に示すように、ゲート電極を形成するために、パターニングされたポリシリコン層20上にチタン層15を形成する。また、図2(b)に示すように、オーミック電極を形成するために、高濃度不純物領域4上にチタン層15を形成する。これらのチタン層15は、別々に形成することもできるが、同一工程によって形成されたチタン膜を利用することによって、製造工程数を減らし、製造コストを低減することができる。
熱処理を行うと、チタン層15とポリシリコン層20との界面において、チタンおよびシリコンが相互に拡散し、チタンシリサイドが形成される。また、チタン層15と高濃度不純物領域4との界面において、チタンと、シリコンおよび炭素とが相互に拡散し、チタン、シリコンおよび炭素の合金が形成される。また、窒素雰囲気下で熱処理する場合、チタン層15の表面は窒化される。これにより、図2(c)に示すように、ポリシリコン層7a、チタンシリサイド層7bおよび窒化チタン層7cからなるゲート電極7が形成される。また、図2(d)に示すように、反応層9aおよび窒化チタン層9bからなるオーミック電極9が形成される。
図3は、シリコン基板上にチタンを堆積し、高温で熱処理した場合に生成するチタンシリサイド層の厚さの温度依存性を示すグラフである。熱処理は、チタンおよびシリコンが酸化しないよう、不活性雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスとして窒素を選択する場合、チタンは窒素と反応し、窒化チタンを形成する。図3に示すように、チタンと窒素との反応は比較的低温でも進行する。このため、熱処理温度が650℃程度であれば、チタン層15のうち1/2程度が窒化チタンになり、1/2がチタンシリサイドになっている。熱処理温度を高くすると、より多くの窒化チタンのチタンがシリコンと反応し、チタンシリサイドとなる。このため、温度が上昇するにつれて窒化チタンは薄くなり、チタンシリサイドが厚くなる。図3から明らかなように、熱処理温度が約750℃以上であれば、チタンシリサイドの形成はほぼ完了し、熱処理温度を750℃以上にしても、生成するチタンシリサイドはほとんど増加しない。850℃以上ではチタンシリサイド層の厚さほぼ一定である。
図4は、炭化珪素上にチタン層を堆積し、高温で熱処理した場合に生成する、チタン、シリコンおよび炭素の合金からなる反応層の厚さの温度依存性を示すグラフである。ゲート電極と同様、窒素雰囲気下で熱処理を行うと、チタン層のチタンは窒素と反応し、窒化チタンを形成する。しかし、炭化珪素は比較的高温でも安定な化合物であるため、800℃程度まで炭化珪素中のシリコンおよび炭素とチタンとは反応しない。800℃を超える温度で熱処理を行うと、炭化珪素中のシリコンおよび炭素とチタンとが反応し、チタン、シリコンおよび炭素の合金からなる反応層が生成し始める。熱処理温度が800℃から1000℃ぐらいの範囲では、熱処理温度が高くなるにつれて生成する反応層も厚くなる。熱処理温度が1000℃である場合、およそ1/3が反応層となり、2/3が窒化チタン層として残っている。
なお、図3及び図4の分析のための試料は、シリコン基板または炭化珪素基板上にチタン層を形成し、窒素雰囲気下において、各温度で熱処理を行い、熱処理によって形成された窒化チタン層をウェットエッチングにより除去し、用意した。これらの試料のシリコンと反応したチタン、ならびに、シリコンおよび炭素と反応したチタンからの特性X線を分析することにより、反応に寄与したチタン層の膜厚を検量し、形成したチタン層と、チタンシリサイド層または反応層との膜厚比を算出した。
熱処理温度を1050℃にしても、炭化珪素上に堆積したチタンの全体はチタン、シリコンおよび炭素の合金層とはならない。しかし、半導体と金属との接触がショットキー性を有するかオーミック性を有するかは、主として界面の特性に依存するため、形成する合金層が厚くなくても良好なオーミック性の接合を得ることが可能である。
図4には図示できないが、熱処理温度を高めてもチタン、シリコンおよび炭素の合金の形成に伴うグラファイトの析出は生じない。これは、チタンと炭化珪素との組み合わせでは、チタン、シリコンおよび炭素の安定な合金が形成可能であり、グラファイトとして炭素が遊離することが防止されるからであると考えられる。これが従来のニッケルを用いたオーミック電極と大きく異なる点である。ニッケルは、炭素と安定な化合物を形成しないため、シリサイドの形成により生じた炭素はニッケルと化合物を形成することなく遊離し、これによりグラファイトの析出が生じるものと考えられる。
図5は、n型炭化珪素基板上(不純物濃度:約5×1019cm-3)にチタンを150nm堆積後、窒素雰囲気中で750℃、850℃および950℃で1分間、熱処理した場合のチタン/炭化珪素コンタクトの電流電圧特性である。図5に示すように、750℃で処理したものではチタン−炭化珪素界面の反応が不十分であるため、オーム性電極が得られてない。これに対し、850℃で処理したものでは、ほぼオーム性の電流−電圧特性が得られている。また、コンタクト抵抗も約5×10-5Ωcm2であり、グラファイトの析出による抵抗の増大も生じていない。950℃で処理したものは、図5から明らかなように、電圧に対して電流がほぼ直線的に変化しており、優れたオーム性の電極が得られていることが分かる。コンタクト抵抗も約2×10-5Ωcm2であった。
図6は、リン(P)がドープされたポリシリコン上にチタンを100nmしたものを窒素雰囲気中、950℃で1分間、熱処理した場合のシート抵抗を、チタンを形成しない場合を基準として示している。熱処理により、堆積したTiの大部分がシリコンと反応して、シリサイドが形成されることにより、ポリシリコンのみの場合に比べ、シート抵抗が約1/10に低減している。
これらのことから、炭化珪素上にチタン層を形成し、熱処理することによって、炭化珪素とチタン層との界面にチタン、シリコンおよび炭素の合金からなる反応層が形成され、低抵抗であり、かつ、グラファイトの析出がないオーミック電極を形成することができる。また、ポリシリコンにチタン層を形成し、熱処理することによって、ポリシリコンの大部分をシリサイド化し、低抵抗なゲート電極を形成することができる。
これら2つの電極は、同一の工程内において同時に形成する必要はない。しかし、同一の工程でオーミック電極およびゲート電極を形成すれば、半導体装置の製造工程数を減らし、製造コストの低減や製造に要する時間の短縮を図ることが可能となる。また、工程数を減らすことにより、歩留まりの向上も図ることができるなど、種々のメリットがある。
オーミック電極およびゲート電極を同一の工程内において形成するためには、シリサイド化のための熱処理温度を850℃以上で行うことが好ましい。850℃に満たない温度で熱処理を行う場合、ゲート電極においてシリサイド化は進行するが、オーミック電極におけるシリサイド化反応が十分ではない可能性がある。
熱処理温度は、高いほど、それぞれの電極におけるシリサイド化が促進されるため、好ましい。しかし、熱処理温度が1050℃を超える場合、層間膜として用いる窒化シリコンや酸化シリコンなどの材料の変質や変形を生じる可能性がある。したがって、ゲート電極およびオーミック電極を同時に形成する場合には、850℃以上1050℃以下の温度で熱処理を行うことが好ましい。より好ましくは、熱処理温度は、900℃以上1000℃以下である。
オーミック電極およびゲート電極を同時に形成する場合、図2(a)および(b)を参照して説明したように、チタン層15は、同一のチタン膜から形成することが好ましい。このため、オーミック電極9を形成する高濃度不純物領域4上およびゲート電極7を形成するポリシリコン層20上において、熱処理前のチタン層15の厚さを変えることは困難である。
しかし、ゲート電極7において、チタン層15の大部分はポリシリコン層20と反応してチタンシリサイド層7bとなるのに対し、オーミック電極9において生成する反応層9aは薄く、チタン層15の大部分はチタンあるいは窒化チタンとして残る。このため、ゲート電極7に求められる抵抗値に応じたチタンシリサイド層7bがゲート電極7において形成されるようにチタン層15の厚さを決定すればよい。このとき、図1(b)および(c)に示すように、熱処理後のゲート電極7におけるチタンシリサイド層7bの厚さL1とオーミック電極9における反応層9aの厚さL4との比は、概ね4:1となり、つねに、オーミック電極9における反応層9aの厚さのほうが、ゲート電極7のチタンシリサイド層7bの厚さよりも小さくなる。
チタンシリサイド層7bおよび反応層9aの好ましい厚さは、半導体装置の用途によって定まる半導体装置の最大動作周波数や動作電流に依存する。たとえば、図1(b)に示すようにポリシリコン層7aの厚さL2は、200nm〜1000nmであり、チタンシリサイド層7bの厚さL1は、150nm〜900nmである。窒化チタン層7cの厚さL3は10nm〜50nmである。ゲート電極7の抵抗を下げるためには、ポリシリコン層7aの厚さL2はチタンシリサイド層7bの厚さL1よりも小さいことが好ましい。また、図1(c)に示すように反応層9aの厚さL4は、30nm〜250nmであり、窒化チタン層9bの厚さL5は、50nm〜300nmである。
次に、炭化珪素基板上にチタン膜を形成し、種々の温度で熱処理することによって得られたオーミック電極について深さ方向の組成を分析した結果を示す。
分析のための試料は、炭化珪素基板上に厚さ150nmのチタン層を形成し、窒素雰囲気下において、900℃、950℃、100℃および1050℃で2分間熱処理を行い、熱処理後、生成したオーミック電極の表面に厚さ100nmのアルミニウムからなるカバー膜を形成することによって用意した。これらの試料をオージェ電子分光分析法(AES)によって深さ方向に分析した。図7から図10は、900℃、950℃、100℃および1050℃で熱処理した試料の分析結果を示す図である。これらの図において、Al、Si、C、O1、Si、C、で示す曲線は、それぞれの元素の分布を示している。また、Ti+Nで示す曲線は、窒素と結合したチタンの分布を示し、Tiは窒素以外の元素と結合したチタンの分布を示している。各元素の検出感度が異なるため、強度は各元素の存在比を正確には表していない。
これらの図に示すように、いずれの試料においても、オーミック電極とアルミニウム膜との界面には炭素はほとんど存在しておらず、熱処理を行っても、グラファイトは析出しないことがわかる。また、これらの試料では、アルミニウム層との界面からSiO2スパッタレート換算で、約200nmの深さまでは、窒化チタンが主要な成分になっており、オーミック電極の表面側には窒化チタン層が形成されていることが分かる。一方、炭化珪素基板との界面からアルミニウム膜側の約200nmまでの領域にはチタン、シリコンおよび炭素が存在し、これらの元素の合金からなる反応層が形成されていることが分かる。
オーミック電極中、炭化珪素基板側ほど炭素の濃度は高く、アルミニウム膜との界面側、つまり、オーミック電極の表面側ほど炭素濃度が低くなっている。図7から図10に示す分析結果について、チタンシリサイドや炭化珪素等の検量用試料を用いて、各元素とチタンとの結合状態をピーク分離して検出感度を補正することによって、オーミック電極の各元素の組成比を求めたところ、いずれの試料においても、オーミック電極のアルミニウム膜と接する最表面における炭素濃度は5atom%以下であることが分かった。
熱処理温度が高くなるにつれて、炭化珪素基板との界面近傍の炭素の濃度が少し高くなり、シリコンがわずかに窒化チタン層へ拡散する傾向がみられる。しかし、チタン、シリコンおよび炭素の分布はほとんど変わっていない。このため、チタン、シリコンおよび炭素の合金からなる反応層は熱的に安定であり、反応層から炭素が遊離し、グラフィイトがオーミック電極の表面に析出することはないと考えられる。
熱処理温度が1000℃および1050℃の試料を、460℃で30分間熱処理し、同様に、オージェ電子分光分析法によって深さ方向に分析したところ、ほとんど各元素の分布は変化していないことが分かった。
これらの結果から、本発明の半導体装置を長期間動作させても、グラファイトがオーミック電極の表面に析出することが抑制され、コンタクト抵抗の上昇や、オーミック電極とパッド用電極との接合強度の低下は生じないと考えられる。したがって、本発明の半導体装置におけるオーミック電極は、信頼性にも優れると言える。
このように本発明の半導体装置によれば、オーミック電極は、チタン、シリコンおよび炭素の合金を含み、ゲート電極は、チタンシリサイドを含む。このため、オーミック電極においては、合金を形成することによってオーミック接触形成時にグラファイトが析出することを防止でき、コンタクト抵抗が増大したり、オーミック電極とパッド用電極との密着性や信頼性が劣化するのを防止できる。また、ゲート電極においては、チタンシリサイドの形成によってゲート電極の抵抗を低くすることができる。したがって、半導体装置の特性を向上させることができる。特に、ゲート抵抗を低減することによるスイッチングの遅延を防止することができる。また、ゲート電極およびオーミック電極は同一工程において形成することが可能であり、これにより、製造コストの低減、製造に要する時間の短縮、歩留まりの向上などを達成することもできる。
以下、本発明による半導体装置の製造方法の一例を説明する。図11(a)〜(i)は、半導体装置の製造途中の構造を示す断面図である。
まず、図11(a)に示すように、4H−SiCの(0001)面から8度のオフ角を持つ炭化珪素基板1を用意する。炭化珪素基板1にはn型の不純物が1×1018cm-3程度ドープされている。熱CVD法等により、炭化珪素基板1の主面上に炭化珪素基板1よりも低濃度のn型不純物を含む高抵抗の炭化珪素層2をエピタキシャル成長させる。エピタキシャル成長は、たとえば、原料ガスとしてシラン(SiH4)とプロパン(C3H8)を用い、キャリアガスとして水素(H2)を、また、ドーパントガスとして窒素(N2)をそれぞれ用いる。たとえば、1400Vの耐圧を備えたMISFETを製造する場合には、炭化珪素層2の不純物濃度は1×1015cm-3〜1×1016cm-3であることが好ましく、厚さは10μm以上であることが好ましい。
次に炭化珪素層2の一部に、p型不純物(アルミニウム、ホウ素など)をイオン注入によりドープして、炭化珪素層2の表面から内部にpウェル領域3を形成する。pウェル領域3の形成の際には、まず、注入マスクとなる厚さ3μm程度のシリコン酸化膜(図示せず)を炭化珪素層2の上面上に堆積し、フォトリソグラフィーおよびドライエッチングによって、シリコン酸化膜のうちpウェル領域3を形成する部分のみに開口を設ける。注入欠陥を低減するために、基板温度を500℃以上の高温に保ってアルミニウムまたはボロンのイオン注入を行ない、イオン注入の後、マスクとして用いたシリコン酸化膜をふっ酸によって除去する。pウェル領域3のp型不純物の濃度は、通常約1×1017cm-3〜1×1018cm-3であり、pウェル領域3の深さはピンチオフしないように1μm前後とする。
次に、炭化珪素層2に、厚さ1μm程度のシリコン酸化膜を堆積し、フォトリソグラフィーおよびドライエッチングによって、シリコン酸化膜のうち高濃度不純物領域4を形成する部分のみに開口を設け、マスク16を形成する。炭化珪素層2の表面に露出するpウェル領域3を正確に形成するために、マスク16にサイドウォール16aを形成してもよい。マスク16を用いて、pウェル領域3の表面部の一部に高濃度のn型不純物をイオン注入によってドープして、高濃度不純物領域4を形成する。このとき、注入欠陥を低減するために、基板温度を500℃以上の高温に保ったまま、窒素またはリンのイオン注入を行ない、イオン注入の後、マスクとして用いたシリコン酸化膜16をふっ酸によって除去する。高濃度不純物領域4における不純物の濃度は1×1019cm-3程度であり、後に形成するp+コンタクト領域5の不純物濃度よりは低い。なお、高濃度不純物領域4における不純物濃度がp+コンタクト領域5の不純物濃度と同程度の場合には、高濃度不純物領域4を形成するためのマスク16がp+コンタクト領域5を覆っている必要がある。また、高濃度不純物領域4の深さは、p+コンタクト領域5の深さよりは浅く、例えば300nm程度である。
次に、図11(b)に示すように、マスク17を用いて、pウェル領域3と後に形成されるオーミック電極とのコンタクトをとるために、pウェル領域3の表面部の一部にp型不純物をイオン注入によって高濃度でドープし、p+コンタクト領域5を形成する。p+コンタクト領域5の厚さは約300nmであり、不純物の濃度は約5×1019cm-3以上である。イオン注入の方法は、pウェル領域3の形成と同じである。その後、マスク17を除去する。
次に注入された不純物を活性化するために、アルゴンなどの不活性ガスの雰囲気中で、1700℃、30分の活性化アニールを施す。このとき、炭化珪素層2、pウェル領域3、p+コンタクト領域5および高濃度不純物領域4の露出している表面には、高さ10nm〜100nm程度のマクロステップや、ヒロックと呼ばれる突起物が生じ、表面粗さが大きくなり、表面の平滑性が悪化する。
次に、図11(c)に示すように、たとえば熱CVD法により、炭化珪素層2、pウェル領域3、高濃度不純物領域4及びp+コンタクト領域5の上にチャネル層6をエピタキシャル成長させる。チャネル層6の形成の際には、例えば、原料ガスとしてシラン(SiH4)とプロパン(C3H8)を、キャリアガスとして水素(H2)を、ドーパントガスとして窒素(N2)をそれぞれ用いる。その後、チャネル層6のうち高濃度不純物領域4、p+コンタクト領域5の上方に位置する部分を、たとえばRIEなどによって除去して、コンタクトホールを設ける。このとき、p+コンタクト領域5およびソース領域4の表面から例えば50nm以上の深さまでオーバーエッチングする。
次に、図11(d)に示すように、チャネル層6、高濃度不純物領域4およびp+コンタクト領域5の露出している表面を熱酸化して、シリコン酸化膜からなるゲート絶縁層14を形成する。たとえば、石英管中で炭化珪素基板1を保持し、酸素を流量2.5(l/min)で石英管中に導入し、石英管内の温度を1180℃に保って2.5時間、熱酸化することにより、厚み約70nmのゲート絶縁層14を形成できる。
次に、減圧CVD法により、厚さ500nmのポリシリコン膜を堆積し、例えば、RIEなどにより、ポリシリコン膜のうちコンタクトホール内及びその周囲に位置する部分を除去することにより、ゲート絶縁層14上にポリシリコン層20を形成する。ポリシリコン層20は後にゲート電極となる。
図11(e)に示すように、その後、減圧CVD法により、炭化珪素層2の表面およびポリシリコン層20を覆う窒化シリコン(SiN)からなる第1の層間絶縁層8を100nm前後成長させる。通常のフォトリソグラフィー、ウェットエッチングにより、第1の層間絶縁層8のうち、コンタクトホール内及びその周囲に位置する部分およびポリシリコン層20の上面に位置する部分を除去する。これにより、コンタクトホール内においては、高濃度不純物領域4の一部およびp+コンタクト領域5が露出する。
次に、図11(f)に示すように、チタン層15を真空蒸着などによって、第1の層間絶縁層8上、および、第1の層間絶縁層8が除去されている領域(オーミック電極が形成される部分およびポリシリコン層20の上面)に堆積する。チタン層15の厚さは、後に形成されるオーミック電極9中のチタン、シリコンおよび炭素の合金層の厚さを10nm以上にするため、50nm以上であることが好ましい。
次に、図11(g)に示すように、第1の層間絶縁膜8上のチタン層15を除去することにより、オーミック電極となる部分およびゲート電極となる部分以外のチタン層15をRIEなどのドライエッチングまたはウェットエッチングにより除去する。
次に、図11(h)に示すように、窒素、アルゴンなどの不活性ガス中で1分以上の熱処理を施す。この熱処理によって、チタン層8と炭化珪素2中のシリコンおよび炭素とが反応し、チタン層8とポリシリコン層20の珪素とが反応する。熱処理温度は、チタンと炭化珪素とが反応層を形成し、かつ、層間膜材料として使用する窒化チタンや酸化シリコン等の材料の変質や変形を防止するため、850℃以上1050℃以下であることが好ましい。
熱処理の結果、図1(b)に示すように、ポリシリコン層20の大部分がシリサイド化し、低抵抗なゲート電極7が形成される。また、図1(c)に示すように、高濃度不純物領域4とオーミック接触するオーミック電極9が形成される。前述したようにゲート電極7におけるチタンシリサイド層の厚さはオーミック電極におけるチタン、シリコンおよび炭素の合金からなる反応層よりも厚くなっている。
次に、図11(i)に示すように、オーミック電極9およびゲート電極7を覆う第2の層間絶縁層10として厚さ1μm程度のシリコン酸化膜を堆積し、RIE等により、第2の層間絶縁層10を貫通してオーミック電極9に達するコンタクトホールを形成する。その後、厚さ3μm程度のアルミニウム膜を真空蒸着等で第2の層間絶縁層10上およびコンタクトホール内に堆積し、通常のフォトリソグラフィー、エッチングによってパタ−ニングすることにより、オーミック電極9に電気的に接続されたパッド用電極11を形成する。その後、ドレイン電極として機能するオーミック電極12として、チタン、ニッケル、金、銀、白金等のいずれか1つまたは複数からなる積層膜を真空蒸着等で堆積し、オーミック電極12を形成する。
以上の工程により、二重注入型MISFETが完成する。作製したMISFETの特性は以下の通りであった。
チャネル移動度:30cm2/Vsec以上(VDS=1V)
オフ耐圧:1400V
オン抵抗:10mΩ・cm2以下
オーミック電極(ソース)のコンタクト抵抗:5×10-5Ωcm2
ゲート電極の抵抗:8Ω/□
測定条件: ゲート電圧20V、ドレイン電圧1V
このように、チタン、シリコンおよび炭素の合金からなる反応層を含むオーミック電極を形成することにより、オーミック接触形成時のグラファイトの析出を防止し、これにより、10-5Ωcm2台のコンタクト抵抗を実現し、オン抵抗を改善することができた。また、チタンシリサイド層を含むゲート電極を形成することにより、ゲート抵抗を低減することができ、ゲート遅延を改善することができた。
なお、上記実施形態ではチタン層15のパターニングを行い、オーミック電極9とゲート電極7となる部分に選択的にチタン層15を形成しているが、熱処理により生成したチタン、シリコンおよび炭素の合金およびチタンシリサイドとチタンとの反応性の差異を利用することにより、このパターニング工程を省略してもよい。
次に、図12(a)〜(i)を参照しながら、チタン層15のパターニングを行わないで、オーミック電極9とゲート電極7を形成する工程を含む半導体装置の製造方法を説明する。
まず、図11(a)〜(f)を参照して説明した工程と同様の工程を用いて、図12(a)〜(f)に示す構造を作製し、図12(f)に示す構造を得る。以上の工程により、図12(f)に示すように、第1の層間絶縁層8および第1の層間絶縁層8が除去されているオーミック電極が形成される部分およびポリシリコン層20の上面にチタン層15が堆積されたものが得られる。
図12(g)に示すように、窒素、アルゴンなどの不活性ガス中で850℃、1分以上の熱処理を施す。この熱処理によって、第1の層間絶縁層8が除去されているオーミック電極が形成される部分およびポリシリコン層20の上面において、チタン層15と高濃度不純物領域4の炭化珪素およびポリシリコン層20とが選択的に反応し、チタン、シリコンおよび炭素の合金層が生成する。この時、第1の層間絶縁層8を構成している酸化シリコン中のシリコンは酸素と強く結合しているため、第1の層間絶縁層8のシリコンとチタン層15とは実質的にほとんど反応しない。
熱処理により、図1(b)に示すように、ポリシリコン層20の大部分がシリサイド化し、低抵抗なゲート電極7が形成される。また、図1(c)に示すように、高濃度不純物領域4とオーミック接触するオーミック電極9が形成される。前述したようにゲート電極7におけるチタンシリサイド層の厚さはオーミック電極における反応層よりも厚くなっている。一方、第1の層間絶縁層8上では、チタン層15がそのまま残っている。
次に、図12(h)に示すように、第1の層間絶縁膜8の上のシリサイドを形成せずそのまま残っているチタン層15を過酸化水素水が含まれるリン酸系エッチング液を用いて、ウェットエッチングにより、選択的に除去する。これにより、不用なチタン層15が除去され、ゲート電極7とオーミック電極9とが形成される。
以下、図11(i)を参照して説明した工程と同様の工程を用いて、MISFETの構造を完成させる(図12(i))。
このように図12(a)〜(i)の製造方法によれば、チタン層15をパターニングする必要がないため、半導体装置の製造工程の数を減らし、製造コストの低減や製造に要する時間の短縮を図ることができる。
なお本実施形態ではゲート絶縁層は熱酸化膜であったが、他の方法により形成されたゲート絶縁層を用いてもよい。たとえば、CVD等によって堆積されたシリコン酸化膜をゲート絶縁層に用いてもよい。あるいは、ゲート絶縁層は熱酸化膜と堆積膜との積層構造を有していてもよい。また、ゲート絶縁層がシリコン酸化膜である必要はなく、窒化シリコン膜、シリコン酸窒化膜や酸化タンタル膜、酸化ハフニウム膜などの金属酸化物膜でもよい。
また、本実施形態では、エピタキシャル成長によるチャネル層を備えているが、上述の説明から明らかなように、本発明の効果はチャネル領域の位置や構造に依存しない。このため、種々のチャネル構造と上述したオーミック電極およびゲート電極とを組み合わせた半導体装置として本発明を実現してもよい。たとえば、図1(b)に示すチャネル層6の替わりに、ゲート電極7に印加する電圧によって、pウェル領域3の炭化珪素層2の表面部分に形成される反転層をチャネル領域として用いるMISFETにも本発明は好適に用いることができる。
また、上記実施形態では、n型オーミック電極にチタン、シリコンおよび炭素の合金層を備えたオーミック電極を採用しているが、チタンシリサイド層を備えたオーミック電極をp型オーミック電極に用いてもグラファイトの析出を防止することができるという効果を得ることができる。上記実施形態において、炭化珪素基板や各半導体層、半導体領域の導電型を入れ替えた半導体装置にも本発明は好適に用いることができる。
本発明は、炭化珪素半導体装置に好適に用いられ、特に、パワーデバイス用の炭化珪素半導体装置に好適に用いられる。
(a)は本発明による半導体装置の一実施形態の構成を示す模式的断面図であり、(b)および(c)はそれぞれゲート電極近傍およびオーミック電極近傍を拡大して示す図である。
(a)および(c)は、図1に示す半導体装置のゲート電極の製造工程を示す模式的断面図であり、(b)および(d)は、図1に示す半導体装置のオーミック電極の製造工程を示す模式的断面図である。
シリコン基板上にチタンを堆積し、高温で熱処理した場合に生成するチタンシリサイド層の厚さの温度依存性を示すグラフである。
炭化珪素基板上にチタンを堆積し、高温で熱処理した場合に生成するチタン、シリコンおよび炭素の合金層の厚さの温度依存性を示すグラフである。
n型炭化珪素基板上にチタン膜を堆積後、熱処理することにより形成された炭化珪素/チタン界面の電流電圧特性を示す図である。
ポリシリコン上にチタン膜を堆積後熱処理することにより形成された電極のシート抵抗を示す図である。
炭化珪素基板上にチタン膜を形成し、900℃で熱処理することによって得られたオーミック電極のAES分析結果を示す図である。
炭化珪素基板上にチタン膜を形成し、950℃で熱処理することによって得られたオーミック電極のAES分析結果を示す図である。
炭化珪素基板上にチタン膜を形成し、1000℃で熱処理することによって得られたオーミック電極のAES分析結果を示す図である。
炭化珪素基板上にチタン膜を形成し、1050℃で熱処理することによって得られたオーミック電極のAES分析結果を示す図である。
(a)〜(i)は、図1に示す半導体装置の製造途中の構造を示す断面図である。
(a)〜(i)は、図1に示す半導体装置を他の製造方法で製造した場合における半導体装置製造途中の構造を示す断面図である。
従来の半導体装置の構造を示す断面図である。
符号の説明
1、101 炭化珪素基板
2、102 炭化珪素層
3 pウェル領域
4、104 高濃度不純物領域
5 p+コンタクト領域
6 チャネル層
7 ゲート電極
8 第1の層間絶縁膜
9、109 オーミック電極(ソース電極)
10、110 第2の層間絶縁膜
11、111 パッド用電極
12 オーミック電極(ドレイン電極)
14 ゲート絶縁層
15 チタン層
16、17 マスク
113 グラファイト析出層