以下、実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では電動機としての回転電機を具体化しており、その回転電機は、例えば車両動力源として用いられる。ただし、回転電機は、産業用、車両用、家電用、OA機器用、遊技機用などとして広く用いられることが可能となっている。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一又は均等である部分には、図中、同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
(第1実施形態)
本実施形態に係る回転電機1は、車両用モータとして使用されるインナロータ式(内転式)の埋込磁石型回転電機(IPMモータ)であり、その概要を図1及び図2を用いて説明する。図1は、回転電機1の回転軸2に沿う方向での縦断面図であり、図2は、回転軸2に直交する方向での回転子10及び固定子30の横断面図である。以下の記載では、回転軸2の延びる方向を軸方向とし、回転軸2を中心として放射状に延びる方向を径方向とし、回転軸2を中心として円周状に延びる方向を周方向としている。
回転電機1は、回転軸2に固定された回転子10と、回転子10を包囲する位置に設けられた円環状の固定子30と、これら回転子10及び固定子30を収容するハウジング4とを備えている。回転子10及び固定子30は同軸に配置されている。回転子10は、固定子30の径方向内側に対向配置されており、固定子30の内周面と回転子10の外周面との間には所定のエアギャップが形成されている。ハウジング4は、有底筒状の一対のハウジング部材4a,4bを有し、ハウジング部材4a,4bが開口部同士で接合された状態でボルト5の締結により一体化されている。ハウジング4には軸受け6,7が設けられ、この軸受け6,7により回転軸2及び回転子10が回転自在に支持されている。
図2に示すように、回転子10は、回転軸2に内周面が固定される中空円筒状の回転子コア11を有している。回転子コア11には、周方向に配列された複数の磁石収容孔12が形成されており、各磁石収容孔12には、それぞれ複数の磁石13(永久磁石)が埋設されている。ただしその詳細は後述する。
固定子30は、多数の電磁鋼板が積層されてなる略円筒状の固定子コア31を有している。固定子コア31には、軸方向に貫通し、かつ周方向に等間隔に配列された複数のスロット32が設けられている。スロット32には、例えば3相の固定子巻線33が巻装されている。本実施形態では、回転子10の磁極数に対応して3相の固定子巻線33が収容されるように、48個のスロット32が周方向に等間隔に配置されている。
次に、回転子コア11の磁石収容孔12と磁石13とを図3及び図4を参照して詳しく説明する。なお、図3及び図4には、回転電機1の複数の磁極(例えば全8極)のうち1極分が示されている。
回転子コア11は、多数の電磁鋼板が積層されることで略円筒状に形成されており、その中央部には貫通孔14が形成されている。貫通孔14内に回転軸2が嵌合されることにより、回転子コア11が回転軸2に固定されている。なお、回転子コア11の多数の電磁鋼板は、カシメ、溶接等の固定手段を用いて軸方向に固定される。回転子コア11は、図3に示すように、d軸及びq軸を有しており、その固定手段は、回転子コア11のq軸磁路に当たる部分に設けられるとよい。また、回転子10と回転軸2との固定手法として、例えば接着剤による固定や、キー及びキー溝、又はスプライン等の凹凸構造による固定、圧入による固定などを用いることが可能である。なお、d軸とは、起磁力(磁束)の中心軸を表し、q軸とは、このd軸に磁気的に直交する軸を意味する。言い換えれば、q軸では、一般的にN極とS極のどちらも磁束を持たない。
また、貫通孔14の内周面14bにおいてd軸上となる位置には、径方向内側に突出して回転軸2の外周面に当接する凸部14aが形成されている。凸部14aの形状は、矩形状や台形状、三角山形状等のいずれであってもよく、いずれにしろ貫通孔14の内周面14bにおいて周方向に形成された凸部14a及びこの凸部14a間における凹部を備え、凸部14aにより、局部的に回転軸2の外周面に当接する構成であればよい。なお、貫通孔14の内周面に凸部14aを設けることに代えて、回転軸2の外周面に凸部を設ける構成であってもよい。
回転子コア11において固定子30の内周面と対向する外周面の付近には、軸方向に貫通する複数(本実施形態では16個)の磁石収容孔12が周方向に所定距離を隔てて設けられている。各磁石収容孔12は、2個で一対をなし、その一対の磁石収容孔12により、径方向外側に向かうにつれて磁石収容孔12同士の対向間距離が大きくなる略V字状に形成されている。また、各磁石収容孔12と固定子30との離間距離で言えば、各磁石収容孔12は、d軸に向かうにつれて固定子30との離間距離が大きくなるように設けられている。一対の磁石収容孔12は、d軸(磁極中心軸)を対称の軸とする対称形となっている。本実施形態では、回転子コア11に、合計8対の磁石収容孔12が周方向に等間隔に設けられている。
本実施形態では、一対の磁石収容孔12には、それぞれ複数の磁石13が組み合わされた磁石アセンブリ(以下、磁石アセンブリ13ともいう)により1つの磁極が形成されている。この場合、8対の磁石アセンブリ13によって、周方向に極性が交互に異なる複数の磁極(本実施形態では8極)が形成されている。1つの磁極を形成する一対の磁石13は、d軸に対して線対称となる状態で配置されている。
磁石収容孔12の形状をより詳しく説明する。図4には、磁石収容孔12に磁石アセンブリ13を収容していない状態での回転子コア11が示されている。図4では、一対の磁石収容孔12の間において径方向に延びる軸がd軸、一対の磁石収容孔12の両外側であり、d軸の磁気的に直交し、かつ径方向に延びる軸がq軸となっている。
図4に示すように、磁石収容孔12は、回転子コア11外周面に近接し、かつq軸に近接する第1孔部12aと、この第1孔部12aよりも回転子コア11内面及びd軸それぞれに近接する第2孔部12bと、この第1孔部12a及び第2孔部12bを接続する第3孔部12cと、を備えている。第1孔部12aは、回転子コア11の外周面に沿って延びるように設けられ、第2孔部12bは、d軸に沿って延びるように設けられている。また、第3孔部12cは、第1孔部12aと第2孔部12bとを直線的に繋ぐように設けられている。
各第1、第2及び第3の孔部12a,12b,12cは、回転子コア11の軸方向に直交する横断面が略長方形の形状を有しており、その長方形の横断面の長手方向の長さは、第3孔部12cが一番長くなっている。なお、以下、特に断らない限り、磁石及び磁石収容孔の長手方向とは、上記横断面における長手方向(長さ方向)を言うものとする。
図4に示すように、一対の磁石収容孔12では、第2孔部12b同士がd軸を挟んで近接しており、その中間部分に、径方向に延びる中央ブリッジ15が形成されている。中央ブリッジ15が幅狭に形成されることにより、d軸上において磁束飽和が生じ、磁気回路の形成が阻害されるようになっている。このため、中央ブリッジ15を介して発生する漏れ磁束の量を低減することができる。
また、磁石収容孔12の第1孔部12aでは、その径方向外側壁面が回転子コア11の外周面に接近しており、第1孔部12aと回転子コア11の外周面との間に外側ブリッジ16が形成されている。
図3に示すように、各磁石収容孔12には、磁石アセンブリ13として、第3孔部12cに主磁石21が配置されるとともに、第1孔部12a及び第2孔部12bにそれぞれ補助磁石22,23が配置されている。つまり、各磁石収容孔12には、主磁石21の長手方向の両端側に補助磁石22,23がそれぞれ配置されている。主磁石21は、回転子コア11の軸方向に直交する横断面形状が四角形状をなしており、対向する磁束作用面(主面)21a,21bを有し、磁束作用面21aは磁束作用面21bよりも固定子30に近接する。なお、磁束作用面とは、磁束の流入及び流出面を意味する。
主磁石21は、磁石内部の磁化容易軸あるいは磁化方向、すなわち、磁石磁路である内部磁力線の向きが、d軸に対して傾斜し、かつ磁石収容孔12よりも固定子30側及び反固定子側のうち固定子30側で交差する向きで定められている。主磁石21が第1磁石部に相当する。
ここで、各実施形態において、磁石は、その対象体における磁化容易軸が配向された後で、所定の着磁方向で対象体に対して着磁が行われた結果、着磁後の対象体(すなわち、磁石)の磁束が向く方向が各実施形態における磁化方向を意味する。
なお、各実施形態において、磁石における磁路(磁力線)の向きとは、磁束が向いている方向を示すものであり、プローブ等で計測することもでき、また計算で算出することも可能である。
また、主磁石21は、長手方向における互いに対向する第1の端部21c及び第2の端部21c,21dを有し、第1及び第2の端部21c,21dは、それぞれq軸及びd軸に近接している。
補助磁石22,23は、それぞれ第1及び第2の孔部12a,12bに配置されることにより、主磁石21における第1の端部21c及び第2の端部21dにそれぞれ当接又は近接した状態で設けられている。補助磁石22,23では、それぞれ、磁石内部の磁化容易軸(矢印で示す)が、主磁石21の磁化容易軸に交差する向きで定められている。補助磁石22,23が第2磁石部に相当する。主磁石21及び補助磁石22,23は、例えば焼結ネオジム磁石等の希土類磁石である。
これら各磁石21~23は、それぞれ磁石収容孔12の内壁面に接触した状態で配置されることが好ましいが、回転子コア11との線膨張率の差を考慮して、微小な隙間が敢えて付与されていてもよい。なお、各磁石21~23と磁石収容孔12の内壁面との間に樹脂材や接着剤等を充填させて、各磁石21~23を固定する構成であってもよい。樹脂材や接着剤等により各磁石21~23を固定することにより、微振動による騒音などを抑制できる。また、回転子10に対する固定子30の通電位相のばらつきを抑制できる。
主磁石21は、各磁石21~23のうちで最も大きく、磁極ごとの極性に応じて設けられる主たる磁石であり、横断面の形状が長方形状をなしている。
上述したように、1つの磁極(例えば図3においてはN極)を構成する一対の主磁石21(例えば、図3においては、N極)は、それぞれの磁化容易軸が、対応するd軸に向かい、かつd軸に対して傾斜するように配置されている。
特に、各主磁石21は、磁化容易軸、すなわち該主磁石21において磁化され易い結晶方位を有しており、この磁化容易軸が該主磁石21の第1及び第2の磁束作用面21a,21bに直交する向き(換言すれば、第1及び第2の端部21c,21dの端面に平行な向き)となっており、磁石収容孔12に収容された状態では磁化容易軸がd軸に対して傾いている。図1には、図3には、N極の磁極が示されており、一対の主磁石21の磁化容易軸は、d軸に近づき、かつ回転子コア11の外周側に向かう方向となっている。図3には、N極の磁極が示されており、一対の主磁石21の磁化容易軸は、d軸に近づき、かつ回転子コア11の外周側に向かう方向となっている。
なお、各実施形態において、磁石における磁化容易軸、磁路の長さ及び向きを考える(例えば、測定する)場合、この磁石の周囲に、該磁石の保磁力よりも大きい磁界を発生させる磁束発生ユニット(例えば、通電された電機子巻線)が無い状態で、磁化容易軸、磁路の長さ及び向きを考えることとする。
なお、磁石における磁化容易軸の向きとは、磁化容易軸の方向が揃っている程度を示す配向率が50%以上となる方向、又は、その磁石の配向の平均となる方向である。
ここで、磁石の配向率とは、例えばある磁石において、磁化容易軸が6つあり、その内の5つが同じ第1の方向を向き、残りの1つが第1の方向に対して90度傾いた第2の方向を向いている場合に、配向率は、5/6である。また、残りの1つが第1の方向に対して45度傾いた第3の方向を向いている場合には、cos45°=0.707であるため、配向率は、(5+0.707)/6となる。
なお、ある磁石において、全ての磁化容易軸(磁路)の配向方向において、平均的な方向、あるいは最も多い数の方向(上記配向率が50パーセント以上の方向)を、この磁石における1つの代表的な磁化容易軸(磁路)方向として記載する場合もある。
主磁石21は、横断面で長辺部を形成する磁束作用面21a,21bに対する配向率が高く、その磁束作用面21a,21bに垂直となる向きで配向方向が設定されている。ただし、主磁石21は、磁束作用面21a,21bに垂直する方向の配向成分が少しでもあれば、垂直方向に磁束を流出させ、その機能を果たすものとなっている。
補助磁石22,23は、磁石収容孔12において主磁石21が設けられていないスペースに、主磁石21の長手方向の第1及び第2の端部21c,21dの両端面にそれぞれ当接又は近接した状態で設けられている。補助磁石22,23では、その磁化容易軸が主磁石21と異なっており、主磁石21の長手方向の第1及び第2の端部21c,21dの端面に対して交差する向きで、磁化容易軸(磁化方向、配向方向)が定められている。図1の構成では、補助磁石22,23の磁化容易軸が主磁石21の第1及び第2の端部21c,21dの端面に向かう向きとなっており、その向きで磁化容易軸が定められている。
主磁石21の第1の端部21cにおいて、主磁石21の磁化容易軸と補助磁石22の磁化容易軸とのなす角度、すなわち主磁石21の磁石磁路の進行方向と補助磁石22の磁石磁路の進行方向とにより形成される角度は鋭角(90度未満)である。また、主磁石21の第2の端部21dにおいて、主磁石21の磁化容易軸と補助磁石23の磁化容易軸とのなす角度、すなわち主磁石21の磁石磁路の進行方向と補助磁石23の磁石磁路の進行方向とにより形成される角度は鋭角(90度未満)である。
本実施形態では、主磁石21の長手方向の両端側に補助磁石22,23がそれぞれ設けられることにより、補助磁石22,23により支えられた状態で主磁石21の位置が定められる。そのため、磁石収容孔12を囲む周囲壁に、主磁石21を固定する位置決め突起を設けることが不要となり、回転子コア11側の位置決め突起と主磁石21との線膨張率の差異を考慮して構造設計することの省略が可能となっている。
ここで、上述したとおり回転子コア11において磁石収容孔12の第1孔部12aの径方向外側壁面が回転子コア11の外周面に接近しており、第1孔部12aと回転子コア11の外周面との間に外側ブリッジ16が形成されている。この場合、外側ブリッジ16が幅狭に形成されることにより、回転子コア11の外周面付近において、補助磁石22による磁束の自己短絡が抑制されるものとなっている。
本実施形態では、磁石収容孔12に配置される磁石アセンブリ13として、主磁石21に加えて補助磁石22,23を用いたことにより、主磁石21の長手方向両端、すなわち第1及び第2の端部21c,21dにおいて耐減磁能力の向上を図ることができる。つまり、補助磁石22,23によれば、磁石収容孔12内において疑似的に磁石磁路が延ばされることで、磁石パーミアンスが増え、反磁界等の対向磁界に対する耐力が増強される。以下には、その点について詳しく説明する。ここでは、比較例として一般的な磁石V字配置の回転子を図5(a),(b)及び図6に示しつつ、本実施形態の回転子10の特徴点を説明する。図5(a),(b)及び図6に示す回転子では、回転子コア201に、d軸を挟んで両側で対称形をなす長方形状の磁石収容孔202がV字状に形成されており、その磁石収容孔202内に、磁化容易軸が、d軸に対して傾斜する向きで一対の永久磁石203が配置されている。
図5(a),(b)には、固定子巻線の導体204の通電に伴い、回転子コア201の外周面に、反磁界として固定子による回転磁界が生じる状態が示されている。より具体的には、図5(a)には、q軸上の導体204が通電される状態が示され、図5(b)には、d軸上の導体204が通電される状態が示されており、これら各状態では、図示のとおり固定子の回転磁界が反磁界として作用する。この場合、その反磁界により、永久磁石203のq軸側端部の角部P1において減磁が生じることが懸念される。
こうした不都合に対して、主磁石21の第1の端部21cに近接又は当接するように設けられた補助磁石22は以下の役割を果たす。図3に示すように、補助磁石22は、磁化容易軸が、主磁石21よりもq軸に直交する向きになっており、補助磁石22の磁束により主磁石21のq軸側端部の磁束が補強される。この場合、補助磁石22から、固定子30側からの反磁束に対抗する磁束が送り込まれ、q軸付近の減磁耐力の向上が図られている。
また、補助磁石22は、主磁石21の第1の端部21cの端面に対向して設けられており、主磁石21の第1の端部21cの端面を向く磁石磁路のうち固定子30に近い側となる角部P1を通る磁石磁路の磁路長が、他の部位の磁石磁路長よりも長くなっている。これにより、主磁石21の第1の端部21cにおいて減磁の可能性が最も高い角部P1での減磁が好適に抑制される。ただし、補助磁石22の磁路長がいずれの部位でも同一長さとなる構成であってもよい。
また、図6に示すように、各永久磁石203では、磁化容易軸が、d軸に対して傾斜し、かつその延長方向がd軸に交差する向きとなっている。そのため、N磁極においては、図の左右の永久磁石203の磁束が互いにd軸側を向き、その各磁束が相互に干渉することに起因して相互に減磁が生じることが懸念される。より詳しくは、左右の永久磁石203の磁束には、d軸に直交する磁束ベクトルV1とd軸に平行な磁束ベクトルV2とが含まれており、そのうちd軸に直交する磁束ベクトルV1による相互干渉に起因して、永久磁石203のd軸側端部の角部P2において減磁が生じることが懸念される。
こうした不都合に対して、主磁石21のd軸側端部の側に設けられた補助磁石23は以下の役割を果たす。図3に示すように、補助磁石23は、磁化容易軸がd軸に平行となる向きになっており、補助磁石23の磁束により主磁石21の第2の端部21dの磁束が補強される。この場合、補助磁石23から、左右一対の主磁石21の対向磁束分を補う磁束が送り込まれ、d軸付近の減磁耐力の向上が図られている。
なお、回転電機1のトルク設計に際しては、磁石の実効磁束密度に磁石の磁束流出面の表面積を掛けることで、磁石磁力が計算される。また、d軸に直交する向きの磁力は、磁石磁力とd軸に対する傾斜角度に応じて決まるため、磁石収容孔12のV字角度が小さいほど、すなわちd軸に対する主磁石21の長手方向の傾斜角度が小さいほど、補助磁石23の効力が最大限に発揮される。
また、補助磁石23は、主磁石21の第2の端部21dの端面に対向して設けられており、主磁石21の第2の端部21dの端面を向く磁石磁路のうち固定子30に近い側となる角部P2を通る磁石磁路の磁路長が、他の部位の磁石磁路長よりも長くなっている。これにより、主磁石21のd軸側端部において減磁の可能性が高い角部P2での減磁が好適に抑制される。ただし、補助磁石23の磁路長がいずれの部位でも同一長さとなる構成であってもよい。
ちなみに、従来技術では、磁石収容孔12において主磁石21が設けられていないスペースが空隙とされるか、又は当該スペースに回転子コア11よりも磁性の低い固定接着剤等、又は非磁性体が挿入配置されており、いわばデッドスペースとなっている。この点、本実施形態では、これまでデッドスペースとなっていた部分に補助磁石22,23を配置することで、体格の増加を招くことなく、上記のとおりの磁束補強が可能となっている。
図示は省略するが、S極を形成する磁石アセンブリ13においては、主磁石21及び補助磁石22,23の磁化容易軸が、N極の磁石アセンブリ13における主磁石21及び補助磁石22,23の磁化容易軸と逆向きになっている。
磁石収容孔12において磁石アセンブリ13が配置されていない部分は、回転子10内での磁石磁束の自己短絡を抑制するフラックスバリアとして機能する。図3の構成では、磁石収容孔12の第1孔部12aにおいて、補助磁石22の外周側に外側フラックスバリア24が設けられている。外側フラックスバリア24によれば、回転子コア11の外周面側(すなわち固定子30との対向面側)において補助磁石22の端部付近で生じる磁束の自己短絡を抑制することができる。また、補助磁石22における固定子30からの反磁界による減磁を抑えることができる。外側フラックスバリア24は、空隙とされるか、又は非磁性体が収容されているとよい。
また、磁石収容孔12の第2孔部12bにおいて、補助磁石23のd軸側に内側フラックスバリア25が設けられている。つまり、磁石収容孔12の第2孔部12bがd軸側拡張部分に相当し、その第2孔部12bには、補助磁石23が設けられるとともに、その補助磁石23よりもd軸側に内側フラックスバリア25が設けられている。内側フラックスバリア25によれば、d軸を挟んで両側に配置された補助磁石22,23においてd軸に直交する向きの磁束を抑えることができる。また、d軸でのインダクタンスが低くなり、リラクタンストルクを好適に生じさせることができる。内側フラックスバリア25は、空隙とされるか、又は非磁性体が収容されているとよい。
各補助磁石22,23が減磁することは、基本的に構わないと考えられる。これは、磁石アセンブリ13では、主磁石21における回転子コア11との接触面が主な磁束流出を担っているからであり、補助磁石22,23はそのパーミアンスを向上させる役割を担っているからである。このため、本実施形態では、補助磁石22,23として、主磁石21より残留磁束密度Brが高く、より固有保磁力iHcの小さい組成のネオジム磁石を選定している。当然、ネオジム磁石と、フェライト磁石など、異なる材料の組み合わせを選定しても構わない。
ネオジム磁石よりも保磁力が小さい磁石としては、保磁力が大きい順に、サマリウム磁石、フェライト磁石、FCC磁石、アルニコ磁石、などが挙げられる。すなわち、サマリウム磁石を主磁石21として選定した場合に、フェライト磁石等を補助磁石22,23とすることでも、本実施形態における所望の効果を十分に得られるものとなっている。
ちなみに、従来技術では、大きな反磁界のかかる部位に対して、磁石厚みを厚くしたり、保磁力を高めるべく重希土類の含有量を多くしたり、微細化したりすることを施した磁石を採用することで、減磁を避けてきた。これに対して、本実施形態の回転電機1では、反磁界を略半減することができたため、重希土類を完全にフリーとして構成することができる。このため、例えば現状の車両用製品において貴重な重希土類をフリーとすることにより、磁束密度の高いネオジムの成分割合を増やすことができ、従来と同じ磁石量において、3割以上のトルク上昇を果たしつつ、コスト維持、またはコストダウンを果たすことができる。
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
回転子10の磁石アセンブリ13として、極性に応じた磁束を生じさせる主磁石21に加えて、主磁石21における第1の端部21c(すなわち磁極境界側の端部)に近接または当接する位置に、磁石内部の磁化容易軸が、主磁石21における磁化容易軸に交差する向きとなっている補助磁石22を設ける構成とした。この場合、補助磁石22により主磁石21の第1の端部21cの磁束を補強することが可能になる。そのため、固定子30側からの反磁界に対する耐減磁能力が高められ、磁極磁石である主磁石21の減磁を適正に抑制できる。
また、主磁石21(一対の磁石)の第2の端部21dに当接または近接する位置に、磁化容易軸が、主磁石21の磁化容易軸に交差する向きとなっている補助磁石23を設ける構成としたため、主磁石21のd軸側端部の磁束を補強することが可能になる。つまり、d軸付近において磁束の相互干渉に対する耐減磁能力を高めることにより、主磁石21の減磁を適正に抑制できる。
主磁石21の第1の端部21cでは、q軸に対向する端面において固定子30に近い側となる角部P1にて減磁の可能性が高くなると考えられる。この点、補助磁石22は、主磁石21の第1の端部21cの端面に対向して設けられており、主磁石21の第1の端部21cの端面において角部P1を通る磁石磁路長が、他の部位の磁石磁路長よりも長くなっている。つまり、角部P1を磁束補強点とし、その磁束補強点に対して補助磁石22による磁束強化を行わせるようにした。これにより、主磁石21の第1の端部21cにおける減磁を好適に抑制できる。
また、主磁石21の第2の端部21dでは、d軸に対向する端面において固定子30に近い側となる角部P2にて減磁の可能性が高くなると考えられる。この点、補助磁石23は、主磁石21の第2の端部21dの端面に対向して設けられており、主磁石21の第2の端部21dの端面において角部P2を通る磁石磁路長が、他の部位の磁石磁路長よりも長くなっている。つまり、角部P2を磁束補強点とし、その磁束補強点に対して補助磁石23による磁束強化を行わせるようにした。これにより、主磁石21の第2の端部21dにおける減磁を好適に抑制できる。
磁石収容孔12の第2孔部12b(d軸側拡張部分)に、補助磁石23と内側フラックスバリア25とを設ける構成としたため、主磁石21のd軸側端部における補助磁石23の磁石量を必要最小限に削減しつつ、所望の効果を得ることができる。これにより、コスト低減を図ることができる。
補助磁石22,23が、主磁石21の固有保磁力iHcよりも小さい固有保磁力iHcを有する構成とした。これにより、補助磁石22,23として安価な磁石を用いつつも、所望とする主磁石21の磁束補強を実現できる。
なお、主磁石21が、補助磁石22,23の固有保磁力iHcよりも小さい固有保磁力iHcを有する構成としてもよい。この場合、主磁石21として安価な磁石を用い、磁石コストを低減することができる。磁石磁束の大半は、主磁石21の表面積により決まるため、本構成がコスト面で好適となる。
補助磁石22,23の固有保磁力が主磁石21よりも大きい構成では、減磁に対する耐力が高められる。したがって、回転子10が固定子30側からの強い反磁界に曝される場合において好適な構成を実現できる。
また、主磁石21の両端の補助磁石22,23について固有保磁力が互いに異なっている構成としてもよい。この場合、仮に主磁石21のd軸側端部及びq軸側端部で、反磁界の影響度合いが互いに相違していても、その反磁界の影響度合いに応じて補助磁石22,23を適宜設定することができる。
回転子コア11の貫通孔14の内周面においてd軸上となる位置に、径方向内側に突出して回転軸40の外周面に当接する凸部14aを形成した。これにより、回転子コア11を回転軸40に組み付けた状態において、回転子コア11における貫通孔14の内周面から径方向外側に伝わる応力を磁石アセンブリ13にて受けることができる。これにより、磁石アセンブリ13の位置ずれを抑制でき、磁石アセンブリ13の磁気特性が意図せず変化する等の不都合を抑制できる。
以下に、第1実施形態における回転子10の一部を変更した変形例を説明する。ここでは、図1に示す構成との相違点を中心に、各変形例を説明する。なお、以下において回転子10を説明するための各図面では、回転子10以外の構成の図示を省略するが、いずれも上記同様、回転子10が固定子30に対して径方向内側に対向配置されている。
(変形例1)
図7に示す変形例1の回転子10では、主磁石21の第1の端部21c及び第2の端部21dのうち、第1の端部21cのみに補助磁石22を設ける構成としている。例えば、左右一対の主磁石21において互いに減磁し合う磁力が比較的小さい場合において、d軸側の補助磁石23を無くすことが可能である。
(変形例2)
図8に示す変形例2の回転子10では、回転子コア11において固定子30の内周面と対向する外周面の付近には、軸方向に貫通する8個の磁石収容孔120が周方向に所定距離を隔てて設けられている。
本変形例2では、各磁石収容孔120に収容された磁石アセンブリ135により1つの磁極が形成されている。8個の磁石アセンブリ135によって、周方向に極性が交互に異なる複数の磁極(本実施形態では8極)が形成されている。1つの磁極(図8ではN極)を形成する磁石アセンブリ135は、d軸に対して線対称となる状態で配置されている。
すなわち、各磁石収容孔120は、磁極中心である対応するd軸を跨ぎ、かつd軸に直交する向きに位置する第1孔部120aと、この第1孔部120aの両端部から、それぞれ回転軸2に向かって所定角度で曲げられて延びる第2孔部120bとを備えている。この第1孔部120a内に、横断面矩形状の主磁石210が収容され、また、第2孔部120b内に一対の補助磁石220がそれぞれ収容されている。この場合、図7と同様に、主磁石210の第1の端部210cにのみ補助磁石220が設けられている。
(変形例3)
図9に示す変形例3の回転子10では、主磁石21の第1の端部21cおよび第2の端部21dのうち、第2の端部21dのみに近接または当接するように補助磁石23を設ける構成としている。例えば、固定子30側からの反磁束が比較的小さい場合において、q軸側の補助磁石22を無くすことが可能である。
(変形例4)
図10に示す変形例4の回転子10では、一対の磁石収容孔12の第2孔部12bが接続されており、この結果、磁石収容孔12は、磁極中心であるd軸を跨いで周方向に連続するように設けられている。そして、一体化された磁石収容孔12における第2孔部12b内において、左右一対の主磁石21の間に、補助磁石41が設けられている。補助磁石41は、それぞれの主磁石21の第2の端部21dに当接又は近接した状態で設けられ、磁化容易軸がd軸に平行となる向きになっている。この場合、補助磁石41の磁束により主磁石21の第2の端部21dの磁束が補強される。つまり、図1等で説明した補助磁石23と同様に、補助磁石41から、左右一対の主磁石21の対向磁束分を補う磁束が送り込まれ、d軸付近の減磁耐力の向上が図られている。
(変形例5)
図11に示す変形例5の回転子10では、主磁石21は、その長手方向、すなわちq軸側からd軸側に向かう方向において分割され、かつ互いに磁化容易軸が異なる複数の分割磁石(magnet segments)27a,27bを有している。これら各分割磁石27a,27bは、いずれも横断面が長方形状をなす永久磁石である。そして、複数の分割磁石27a,27bのうちq軸に近接して配置された分割磁石27aは、d軸に近接して配置された分割磁石27bよりも、磁化容易軸が、q軸に対して平行な方向に近い向きになっている。
上記構成によれば、主磁石21を構成する複数の分割磁石27a,27bは、互いに磁化容易軸が異なっており、q軸側となる分割磁石27aは、磁化容易軸がq軸に対して平行な方向に近い向きになっている。これにより、主磁石21の自身にあっても、d軸側端部付近において固定子30側からの反磁界に対する耐減磁能力を高めることが可能となる。
また、複数の分割磁石27a,27bは、その分割磁石27a,27bの端部同士が対向する部位で固定子30側に凸となるように配置されている。つまり、分割磁石27a,27bは、1本の直線状でなく、折れ曲がった2本の直線状で、かつ固定子30側に凸となるように並べて配置されている。これにより、主磁石21(すなわち分割磁石27a,27b)を回転子コア11の外周面に近づけることができ、固定子30と主磁石21との距離を縮めることでトルクを増大させることができる。この場合、固定子30と主磁石21との距離を縮めることで、その背反として反磁界が増大するが、その反磁界増大の影響を補助磁石22,23により解決することができる。
また、回転子コア11において、磁石アセンブリ13(すなわち磁石収容孔12)よりも固定子30側であって、かつ固定子30と磁石アセンブリ13との両磁束の総和を受ける部分の割合を小さくすることができる。そのため、固定子30と磁石アセンブリ13との両磁束による磁束飽和が生じ得る飽和領域を減少させ、磁石アセンブリ13の能力をより効果的に引き出すことが可能となる。
(変形例6)
図12に示す変形例6の回転子10では、磁石アセンブリ13として主磁石21と第1の端部21cに近接又は当接する補助磁石22とが設けられている。これら主磁石21及び補助磁石22は、横断面が矩形状をなし、かつ対向する一対の磁束作用面21a,21b,22a,22bに対して磁化容易軸が直交する向きとなっている。そして、主磁石21及び補助磁石22は、d軸又はq軸に対する磁化容易軸の角度を互いに異ならせた状態で回転子コア11の磁石収容孔12に配置されている。
主磁石21及び補助磁石22は互いに離間した位置に配置されており、詳しくは、補助磁石22が、主磁石21のq軸側の磁石端面に対して鉄心を挟んで対向する位置に配置されている。主磁石21の磁化容易軸は、d軸に対して平行か又は傾斜する向きとなっており、補助磁石22の磁化容易軸は、主磁石21よりもd軸に直交する向きとなっている。この場合、補助磁石22の磁化容易軸の延長線上に、主磁石21の角部P1(すなわち、主磁石21のq軸側端部において固定子30に最も近い磁束補強点)が位置しており、補助磁石22からの磁束により主磁石21の角部P1での磁束補強が行われる。
横断面が矩形状をなし、かつ対向する一対の磁束作用面に対して磁化容易軸が直交する向きとなっている磁石は、最も汎用性があり、製造面やコスト面に優れると考えられる。そして、この磁石を主磁石21及び補助磁石22として用い、回転子コア11に、d軸又はq軸に対する磁化容易軸の角度を互いに異ならせて配置する構成とした。これにより、構成の簡易化を図りつつ、主磁石21におけるq軸側端部の磁束補強を好適に実現できる。
なお、上記構成によれば、主磁石21及び補助磁石22として寸法及び性能が全く同じ磁石、すなわち同じ品番の磁石を用いても、所望とする耐減磁性能を実現できる。ただし、主磁石21及び補助磁石22は、横幅寸法(磁化容易軸に直交する方向の幅寸法)が相違していてもよい。また、主磁石21及び補助磁石22は、縦幅寸法(磁化容易軸と同じ方向の幅寸法)が相違していてもよい。
(変形例7)
図13(a)に示す変形例7の回転子10では、回転子コア11において、その外周面(すなわち固定子30との対向面)に軸方向に延びる溝42が形成されている。溝42は、回転子コア11の外周面において補助磁石22の径方向外側となる位置に設けられている。補助磁石22と溝42との間が外側ブリッジ16となっている。
また、図13(b)に示す回転子10では、回転子コア11においてその外周面に軸方向に延びる溝43が形成されている。溝43は、回転子コア11の外周面においてd軸上となる位置に設けられている。これ以外に、溝43を、回転子コア11の外周面においてq軸上となる位置に設けることも可能である。
回転子コア11において固定子30との対向面側の領域は、固定子30から受ける回転磁束と磁石の磁束とにより磁気飽和する可能性が高くなると考えられる。この点、回転子コア11における固定子30との対向面に軸方向に延びる溝42,43を形成することで、回転子コア11における固定子近傍領域での磁束の向き及び磁束量を調整することができ、磁石アセンブリ13の能力をより効果的に引き出すことができる。
(第2実施形態)
次に、第2実施形態を、第1実施形態との相違点を中心に説明する。第2実施形態では、磁石の磁化容易軸が、磁石の磁束作用面のうち少なくともいずれかに対して非垂直の角度で交差する向きとなるものとしており、特に、磁石において、当該磁石における固定子30側の磁束作用面とその反対側の磁束作用面とで異なる向きとなるように、磁化容易軸が変化するものとなっている。図14に、本実施形態における回転子10の構成を示す。
図14に示すように、回転子コア11には、円弧状(弓なりの形状)をなす一対の磁石収容孔12が形成されている。図14の回転子コア11においても、図3等の構成と同様に、一対の磁石収容孔12が、外周側に向かうにつれて対向間距離が大きくなるように略V字状に形成されており、一対の磁石収容孔12は、d軸(磁極中心軸)を対称の軸とする線対称となっている。また、各磁石収容孔12と固定子30との離間距離で言えば、各磁石収容孔12は、d軸に向かうにつれて固定子30との離間距離が大きくなるように設けられている。
磁石収容孔12は、互いに等距離で隔てられた円弧状の曲面52a,52bと、その曲面52a,52bの両端位置を互いに連結する平坦状の連結面52c,52dとにより囲まれて形成されている。連結面52c,52dのうちq軸に近い連結面52cは、q軸に平行になるように設けられている。また、d軸に近い連結面52dは、d軸に垂直になるように設けられている。
そして、磁石収容孔12内に、その孔形状と同じ形状の磁石51が挿入配置されている。この場合、一対の磁石収容孔12に収容された一対の磁石51により1つの磁極が形成されている。図14に示すように、磁石51は、長手方向において対向する端部51aおよび51bを有しており、磁石51の磁化容易軸(すなわち、磁石磁路である内部磁力線の向き)が矢印で示されている。磁石51は、両端51aおよび51bにおけるq軸に近い端部51bからd軸に近い端部51aに向かうに従って、磁化容易軸が、q軸に対して垂直な方向に近い向きからd軸に対して平行な方向に近い向きに、反固定子側に凸の非直線状に切り替わるように設けられている。つまり、磁石51における磁石磁路は、磁石51を短手方向に横切る方向に定められており、かつその向きが回転子コア11の中心軸側に凸となる円弧状をなしている。
このように磁石51の磁化容易軸が定められていることにより、磁石51において、固定子30側の回転磁束による反磁界に対する耐減磁能力が高められることになり、磁石51の減磁を適正に抑制できる。つまり、磁化容易軸が、磁石51におけるq軸に近い端部51bではq軸に対して垂直な方向に近い向きとなり、かつd軸に近い端部51bではd軸に対して平行な方向に近い向きとなるように、反固定子側に凸の非直線状に切り替わることにより、磁石磁路長を長くして磁石磁束を強化するとともに、固定子30側からの反磁界に対抗する磁束を好適に生じさせることができる。
また、磁石51のd軸側端部51aにおいては、磁化容易軸が、d軸に対して平行な方向に近い向きになっているため、d軸付近における磁束の相互干渉に起因する減磁を抑制することができる。
また、回転子コア11において、磁石51は、q軸側端部51bが径方向においてd軸側端部51aよりも固定子30に近い部位に位置し、かつq軸側端部51bとd軸側端部51aとの間において固定子30側に凸となるように設けられている。つまり、d軸を挟んで一対となる磁石51は、これらの両方の磁石51により略V字状をなし、かつそれぞれが固定子30側(図の上側)を凸とする円弧状をなしている。磁石収容孔12の形状も同様である。
さらに換言すれば、磁石収容孔12は、曲面52aおよび52bにおける固定子30に近い磁束流出面である曲面52aが、磁石収容孔12の両端よりなる線分(すなわち曲面52aの両端を結ぶ直線)より、固定子30側に凸状となるように迫り出す形状となっている。
上記構成によれば、磁石51を回転子コア11の外周面に近づけることができ、固定子30と磁石51との距離を縮めることでトルクを増大させることができる。この場合、固定子30と磁石51との距離を縮めることで、その背反として反磁界が増大するが、その反磁界増大の影響を、磁石51において上記のとおり非直線状とした磁化容易軸により解決することができる。
また、回転子コア11において、磁石51(すなわち磁石収容孔12)よりも固定子30側であって、かつ固定子30と磁石51との両磁束の総和を受ける部分の割合を小さくすることができる。そのため、固定子30と磁石51との両磁束による磁束飽和が生じ得る飽和領域を小さくし、磁石51の能力をより効果的に引き出すことが可能となる。
また、磁石51が径方向外側に向けて凸となっているため、回転子コア11において磁石収容孔12よりも径方向外側となる部分が小さくなる。したがって、遠心力に対する応力集中係数が減少し、その機械的強度を増加させることができる。
本実施形態の回転子10を、第1実施形態における図3の構成、すなわち主磁石21の両側端部に補助磁石22,23を設けた構成と対比すれば、本実施形態の磁石51は、補助磁石22,23の役割を1つの磁石51で構成したものであると言える。
なお、図14には、N極を形成する磁石51を示すが、S極を形成する場合には、磁石51の磁化容易軸が、図14に示す磁化容易軸と逆向きになっている。
なお、図14に示す磁石51を、複数の磁石に分割して構成してもよい。つまり、磁石51を、長手方向に複数に分割し、各磁石の端面同士を当接させて配置してもよい。この場合、磁石収容孔12内に、分割された複数の磁石を並べて配置するとよい。これにより、回転電機1の動作時において、磁石51に鎖交する磁束変化による渦電流損失等を防ぐことができる。
図14の構成において、図13(a),(b)のように、回転子コア11の外周面(固定子30との対向面)に軸方向に延びる溝42,43を形成してもよい。これにより、回転子コア11における固定子近傍領域での磁束の向き及び磁束量を調整することができ、磁石の能力をより効果的に引き出すことができる。
ここで、本実施形態で用いる磁石51の製造方法について説明する。図15は、磁場配向により磁石51の磁化を行う手法を説明するための説明図である。
図15に示すように、配向装置60は、磁場コイル61と、磁場コイル61内に配置される配向鉄心62及び金型63(磁石作成型)とを備えている。磁場コイル61は、通電に伴いコイル内部を通過する磁場を生成する。配向鉄心62は、磁場コイル61にて生成される磁場を所定方向に湾曲させる役割を有しており、配向鉄心62により湾曲された磁場が金型63を通過する。磁場コイル61によれば直線磁場が形成され、配向鉄心62によれば湾曲磁場が生成される。金型63は、非磁性体により形成されており、磁石51の形状に合わせて形成された金型室63aを有している。
磁石51の製造に際しては、金型63の金型室63a内に、磁石原料を粉砕した磁石粉末が充填され、その金型室63a内において磁石粉末が所定形状に圧縮成形される。そして、磁場コイル61内において、配向鉄心62により図示のとおり湾曲した磁場が形成され、金型室63a内の磁石粉末に対して磁場配向が行われる。このとき、磁石粉末はそれぞれの磁化容易方向を揃えるようにして整列され、圧縮により固定される。その後、磁石粉末の成形体が焼結され、さらに磁石の着磁が行われる。この一連の工程により、磁石51が製造される。
上記により、磁石51の磁化容易軸が非直線状(すなわち円弧状)に切り替わるものとなる。そして、この磁石51を磁石収容孔12に収容することで、図14に示すとおり磁石51の磁化容易軸を、q軸側端部51bからd軸側端部51aに向かうに従って、q軸に対して垂直な方向に近い向きからd軸に対して平行な方向に近い向きに、反固定子側に凸の非直線状に切り替わるようにすることができる。
以下に、第2実施形態における回転子10の一部を変更した変形例を説明する。ここでは、図14に示す構成との相違点を中心に、各変形例を説明する。
(変形例1)
図16に示す変形例1の回転子10では、磁石51におけるd軸側端部の端面及びq軸側端部の端面が、磁石51の磁化容易軸に合わせた向きに形成されている。また、磁石収容孔12内には、磁石51において磁化容易軸に合わせた向きに形成された各端面の外側に、フラックスバリア53,54が設けられている。フラックスバリア53,54は、磁石51の長手方向両端の一部を欠落させることで形成されている。つまり、磁石51において、磁束作用面に交差する磁石端面が、磁化容易軸に平行となる向きで形成されており、磁石収容孔12内には、磁石51のd軸側端部51a及びq軸側端部51bの外側に、フラックスバリア53,54が設けられている。
詳しくは、図16の回転子10では、図14に示す磁石51のq軸側端部における固定子側角部分を部分的に欠落させることで、フラックスバリア53が形成されている。また、図14に示す磁石51のd軸側端部におけるd軸側角部分を部分的に欠落させることで、フラックスバリア54が形成されている。なお、磁石端部51a及び51bの端面は、曲面状、平面状のいずれであってもよい。
上記のとおり磁石51の磁化容易軸がq軸側端部51bとd軸側端部51aとで非直線状に切り替わるようになっている構成では、磁化容易軸が直線状でありかつ磁石長手方向に直交する向きになっている構成に比べて磁石磁路長(すなわち、内部磁力線の長さ)を長くすることが可能になっているが、磁石51の端部においては、磁石磁路長が短い部分が局部的に存在することが考えられる。この場合、磁石磁路長はパーミアンスに比例するため、磁石端部において短縮されることは望ましくない。
この点、磁石51のd軸側端部51a及びq軸側端部51bの各端面(すなわち、磁束作用面に交差する磁石端面)を、磁石51の磁化容易軸に合わせた向きに形成したことにより、磁石51において磁石磁路長が短い部分が局部的に存在することを抑制できる。また、磁石51のd軸側端部51a、q軸側端部51bにフラックスバリア53,54を設けることで、磁石51の両端部における減磁を抑制することができる。
なお、磁石51において、d軸側端部51a及びq軸側端部51bのうち一方の端面が、磁化容易軸に合わせた向きに形成されている構成であってもよい。
(変形例2)
図17に示す変形例2の回転子10では、d軸側のフラックスバリア54が、d軸に沿って、磁石51の径方向内側の端部よりも軸中心側に延びるように形成されている。d軸を挟んで両方のフラックスバリア54の間はd軸コア部55となっている。つまり、磁石51は、回転子コア11においてd軸コア部55を挟んで一方側及び他方側となる一対の磁石51として配置されており、回転子コア11には、d軸コア部55を挟み、かつ一対の磁石51の反固定子側の端部から反固定子側に延びるようにフラックスバリア54が設けられている。フラックスバリア54は、磁石収容孔12の一部として構成されており、空隙、あるいは合成樹脂やセラミック等の非磁性材料が収容されることで構成されている。フラックスバリア54が非磁性体部に相当する。
また、フラックスバリア54は、磁石51において最も径方向内側となる点P11と、回転子コア11の回転中心P10とを結ぶ仮想線L1よりもq軸側に張り出している。なお、q軸の磁束量を考慮して、磁石51の周方向に位置するq軸コア部56の幅に応じてフラックスバリア54の周方向の大きさを定めるとよく、磁石収容孔12のq軸側端部P12と回転子コア11の回転中心P10とを結ぶ仮想線L2と同じ位置まで、又はその仮想線L2よりも所定量だけq軸側となる位置まで、フラックスバリア54を張り出させることも可能である。
上記構成によれば、フラックスバリア54によりd軸コア部55の磁気抵抗を上げることができる。これにより、一対の磁石51間での短絡を抑制し、磁力をより一層有効に活用できる。
また、d軸コア部55は、d軸上においてd軸に沿って細長く延びる鉄心部分であり、このd軸コア部55により、遠心力により磁石51が脱落することのないように強度補強されている。ただし、d軸コア部55は、磁気回路的には邪魔なものであり、d軸コア部55の軸方向長さを大きくすることにより、d軸コア部55の磁気抵抗を増大させることが可能となる。これにより、一対の磁石51においてd軸側へ向かう磁束ベクトルを小さくすることが可能となり、減磁に対して好適な形状となるばかりか、トルク向上が可能となっている。
また、磁石収容孔12により回転子コア11がq軸側とd軸側とに分断された状態で、反固定子側に延びるフラックスバリア54(非磁性体部)が設けられているため、一対の磁石51にそれぞれ生じる磁束の相互的な作用を減らしつつ、それぞれの磁束を好適に設計することができる。
また、フラックスバリア54を、上記仮想線L1よりもq軸側に張り出させる構成としたため、回転子10のイナーシャを極力下げることができる。
(変形例3)
図18に示す変形例3の回転子10では、上記構成との相違点として、磁石収容孔12とその内部に収容される磁石51との横断面(回転子コア11の軸方向に直交する断面)が、それぞれ円弧状でなく長方形状となっている。また、d軸を挟んで左右一対の磁石収容孔12及び磁石51がV字状に配置されている。ただし、磁石51では、上記同様、磁化容易軸がq軸側端部51bとd軸側端部51aとで非直線状に切り替わるようになっている。
(変形例4)
図19に示す変形例4の回転子10では、上記構成との相違点として、磁石収容孔12とその内部に収容される磁石51との横断面(回転子コア11の軸方向に直交する断面)が、それぞれ円弧状でなく長方形状となっている。また、d軸を挟んで左右一対の磁石収容孔12及び磁石51が、d軸に直交する方向の同一直線上に一列に並ぶように配置されている。ただし、磁石51では、上記同様、磁化容易軸がq軸側端部51bとd軸側端部51aとで非直線状に切り替わるようになっている。
なお、図19の構成において、左右一対の磁石収容孔12は同一直線上に並んでいるが、各磁石収容孔12と固定子30との離間距離で言えば、各磁石収容孔12は、d軸に向かうにつれて固定子30との離間距離が大きくなるように設けられている。
(第3実施形態)
次に、第3実施形態を、第1実施形態等との相違点を中心に説明する。第3実施形態では、第2実施形態と同様に、磁石において、当該磁石における固定子30側の磁束作用面とその反対側の磁束作用面とで異なる向きとなるように、磁化容易軸が変化するものとなっている。図20に、本実施形態における回転子10の構成を示す。
図20に示すように、回転子コア11には、円弧状(弓なりの形状)をなす一対の磁石収容孔12が形成されている。磁石収容孔12の形状については既述の図14と同様であり、ここでは説明を省略する。そして、磁石収容孔12内に、その孔形状と同じ形状の磁石71が挿入配置されている。この場合、一対の磁石収容孔12に収容された一対の磁石71により1つの磁極が形成されている。図20には、磁石71の磁化容易軸(すなわち、磁石磁路である磁石磁力線の向き)が矢印で示されている。磁石71は、両端71aおよび71bにおけるd軸に近い端部71aからq軸に近い端部71bに向かうに従って、磁化容易軸が、d軸に対して垂直な方向に近い向きからq軸に対して平行な方向に近い向きに、反固定子側に凸の非直線状に切り替わるように設けられている。つまり、磁石71における磁石磁路は、その向きが回転子コア11の中心軸側に凸となる円弧状をなしている。
このように磁石71の磁化容易軸が定められていることにより、磁石71において、固定子30側の回転磁束による反磁界に対する耐減磁能力が高められることになり、磁石71の減磁を適正に抑制できる。つまり、磁化容易軸が、d軸に近い端部71aではd軸に対して垂直な方向に近い向きとなり、かつq軸に近い端部71bではq軸に対して平行な方向に近い向きとなるように、反固定子側に凸の非直線状に切り替わることにより、磁石磁路長を長くして磁石磁束を強化するとともに、固定子30側からの反磁界に対抗する磁束を好適に生じさせることができる。
また、磁石71のd軸側端部71aにおいては、磁化容易軸が互いに向き合う方向になっていないため、d軸付近における磁束の相互干渉に起因する減磁が生じないものとなっている。
また、回転子コア11において、磁石71は、q軸側端部71bが径方向においてd軸側端部71aよりも固定子30に近い部位に位置し、かつq軸側端部71bとd軸側端部71aとの間において固定子30側に凸となるように設けられている。つまり、d軸を挟んで一対となる磁石71は、これらの両方の磁石71により略V字状をなし、かつそれぞれが固定子30側(図の上側)を凸とする円弧状をなしている。磁石収容孔12の形状も同様である。
さらに換言すれば、磁石収容孔12は、曲面52aおよび52bにおける固定子30に近い磁束流出面である曲面52aが、磁石収容孔12の両端よりなる線分(すなわち曲面52aの両端を結ぶ直線)より、固定子30側に凸状となるように迫り出す形状となっている。
上記構成によれば、磁石71を回転子コア11の外周面に近づけることができ、固定子30と磁石71との距離を縮めることでトルクを増大させることができる。この場合、固定子30と磁石71との距離を縮めることで、その背反として反磁界が増大するが、その反磁界増大の影響を、磁石71において上記のとおり非直線状とした磁化容易軸により解決することができる。
また、回転子コア11において、磁石71(すなわち磁石収容孔12)よりも固定子30側であって、かつ固定子30と磁石71との両磁束の総和を受ける部分の割合を小さくすることができる。そのため、固定子30と磁石71との両磁束による磁束飽和が生じ得る飽和領域を小さくし、磁石71の能力をより効果的に引き出すことが可能となる。
また、磁石71が径方向外側に向けて凸となっているため、回転子コア11において磁石収容孔12よりも径方向外側となる部分が小さくなる。したがって、遠心力に対する応力集中係数が減少し、その機械的強度を増加させることができる。
なお、図20には、N極を形成する磁石71を示すが、S極を形成する場合には、磁石71の磁化容易軸が、図20に示す磁化容易軸と逆向きになっている。
図20に示す磁石71を用いる場合には、一対の磁石71の間に、フラックスバリアを設けた磁石収容孔12が設けられているとよい。これにより、d軸を跨ぐ方向での磁束の通過を抑制できる。
なお、図20に示す磁石71を、複数の磁石に分割して構成してもよい。つまり、磁石71を、長手方向に複数に分割し、各磁石の端面同士を当接させて配置してもよい。この場合、磁石収容孔12内に、分割された複数の磁石を並べて配置するとよい。これにより、回転電機1の動作時において、磁石71に鎖交する磁束変化による渦電流損失等を防ぐことができる。
ここで、本実施形態で用いる磁石71の製造方法について説明する。図21は、磁場配向により磁石71の磁化を行う手法を説明するための説明図である。
図21に示すように、配向装置60は、磁場コイル61と、磁場コイル61内に配置される配向鉄心62及び金型63(磁石作成型)とを備えている。これら各々の構成は図15で説明したとおりである。
磁石71の製造に際しては、金型63の金型室63a内に、磁石原料を粉砕した磁石粉末が充填され、その金型室63a内において磁石粉末が所定形状に圧縮成形される。そして、磁場コイル61内において、配向鉄心62により図示のとおり湾曲した磁場が形成され、金型室63a内の磁石粉末に対して磁場配向が行われる。このとき、磁石粉末はそれぞれの磁化容易方向を揃えるようにして整列され、圧縮により固定される。その後、磁石粉末の成形体が焼結され、さらに磁石の着磁が行われる。この一連の工程により、磁石71が製造される。
上記により、磁石71の磁化容易軸が非直線状(すなわち円弧状)に切り替わるものとなる。そして、この磁石71を磁石収容孔12に収容することで、図20に示すとおり磁石71の磁化容易軸を、d軸側端部71aからq軸側端部71bに向かうに従って、d軸に対して垂直な方向に近い向きからq軸に対して平行な方向に近い向きに、反固定子側に凸の非直線状に切り替わるようにすることができる。
(磁石製造方法の変形例)
円弧状の磁化容易軸が定められる磁石の製造方法として以下を用いることも可能である。図22(a),(b)において、配向装置80は、磁場コイル81と、磁場コイル81内に配置される配向鉄心82及び金型83(磁石作成型)とを備えている。配向装置80の構成は、配向鉄心82の形状が異なる以外、基本的に既述の配向装置60と同じである。配向鉄心82は、磁場コイル81内において径方向の中心位置に設けられている。本例では、配向鉄心82が断面円形状をなすことから、配向磁場が配向鉄心82の中心に向けて集約されるようになっている。図中、磁力線S1は配向鉄心82に向けて直線状に延びており、これを配向中心としている。
図22(a)では、湾曲磁場内において配向中心S1に対して片側となる領域で磁石配向が行われる。また、図22(b)では、湾曲磁場内において配向中心S1を跨ぐ領域で磁石配向が行われる。
磁石Mgの製造に際しては、磁場コイル81内に配置される金型83に磁石粉末が充填され、磁場コイル81により生成される磁場を配向鉄心82により湾曲させた状態で、金型83内の磁石粉末に対して磁場配向が行われる。そして、金型83内の磁石粉末が焼結される。
なお、回転子に多角形の永久磁石を装着する構成では、多角形の永久磁石群を、直線配向方向の中で異なる角度に配置し、配向を行うとよい。
(第4実施形態)
次に、第4実施形態を、第1実施形態等との相違点を説明する。第4実施形態では、磁石の磁化容易軸が、磁石の磁束作用面のうち少なくともいずれかに対して非垂直の角度で交差する向きとなるものとしており、特に、磁石において、磁化容易軸が、d軸に対して傾斜し、かつ磁束作用面に対して非垂直の角度で交差する向きとなっている。図23に、本実施形態における回転子10の構成を示す。
図23に示すように、各磁石収容孔12は、2個で一対をなし、d軸に対して垂直な向きに延びるように直線状に形成されている。ただし、各磁石収容孔12と固定子30との離間距離で言えば、各磁石収容孔12は、d軸に向かうにつれて固定子30との離間距離が大きくなるように設けられていると言える。一対の磁石収容孔12は、d軸(磁極中心軸)を対称の軸とする対称形となっている。本実施形態では、回転子コア11に、合計8対の磁石収容孔12が周方向に等間隔に設けられている。
本実施形態では、一対の磁石収容孔12に収容された一対の磁石101により1つの磁極が形成されている。この場合、8対の磁石101によって、周方向に極性が交互に異なる複数の磁極(本実施形態では8極)が形成されている。1つの磁極を形成する一対の磁石101は、d軸に対して線対称となる状態で配置されている。
磁石101は、軸方向に直交する横断面形状が四角形状をなしており、磁化容易軸(すなわち、磁石磁路である磁石磁力線の向き)が、d軸に対して傾斜し、かつ磁束を生じさせる対向する磁束作用面101a及び101bに対して非垂直の角度で交差する向きで定められている。この場合特に、磁石101の磁化容易軸が、互いに対向しかつ各々が磁束作用面となる二辺の磁石側面(固定子30側の側面及び反固定子側の側面)に対して非垂直の角度で交差する向きとなっている。また、一対の磁石101からすると、その一対の磁石101におけるそれぞれの磁化容易軸が、各磁束作用面101aおよび101bに対して傾斜し、かつ磁石収容孔12よりも固定子30側となる位置で互いに交差するように定められている。磁石101は、例えば焼結ネオジム磁石等の希土類磁石である。
d軸を挟んで一方側及び他方側の各磁石101では、互いに逆向きの磁化容易軸が定められている。また、各磁石101の磁化容易軸は、平行かつ直線状に定められている。この場合、各磁石101では、磁化容易軸が、磁束作用面101aおよび101bに対して非垂直の角度で交差する向きとなっているため、磁化容易軸が磁束作用面101aおよび101bに直交する構成に比べて、磁石磁路長(すなわち、内部磁力線の長さ)が長くなる。そのため、磁石101の磁束が強化され、固定子30側の回転磁束による反磁界に対する耐減磁能力が高められるようになっている。
なお、図23には、N極を形成する磁石101を示すが、S極を形成する場合には、磁石101の磁化容易軸が、図23に示す磁化容易軸と逆向きになっている。
磁石収容孔12において磁石101が配置されていない部分、すなわち、磁石収容孔12の横断面長手方向におけるq軸に近い第1の端部およびd軸に近い第2の端部には、それぞれ回転子10内での磁石磁束の自己短絡を抑制するフラックスバリア102,103が設けられている。この場合、磁石101のq軸側端部に設けられた外側フラックスバリア102によれば、磁石101のq軸側端部付近で生じる磁束の自己短絡を抑制できる。
特に、磁石収容孔12におけるd軸に近い第2の端部は、d軸に沿って固定子30に向かう方向および回転軸2に向かう方向それぞれに延びており、この結果、磁石101のd軸側端部に設けられた内側フラックスバリア103も、d軸に沿って延びるように設けられている。この内側フラックスバリア103によれば、d軸を挟んで両側に配置された一対の磁石101においてd軸に直交する向きの磁束を抑えることができる。さらに、d軸でのインダクタンスが低くなり、リラクタンストルクを好適に生じさせることができる。各フラックスバリア102,103は、空隙とされるか、又は樹脂材料やセラミック材料等の非磁性材料が収容されているとよい。一対のフラックスバリア102,103の間は、d軸に沿って延びる中央ブリッジ104となっている。
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
埋込磁石型回転電機の回転子10では、固定子30側からの回転磁界が反磁界として作用することに起因して、回転子コア11の固定子30との対向面側において磁石101の減磁が生じることが懸念される。この点、本実施形態では、回転子10の磁石101の磁化容易軸が、d軸に対して傾斜し、かつ磁束を生じさせる磁束作用面に対して非垂直の角度で交差する向きとなっているため、磁化容易軸が磁束作用面に直交する構成に比べて、磁石磁路長(すなわち、内部磁力線の長さ)が長くなり、磁石磁束が強化される。これにより、固定子30側の回転磁束による反磁界に対する耐減磁能力が高められ、磁石101の減磁を適正に抑制できる。
磁石101を、回転子コア11においてd軸を挟んで一方側及び他方側の両側に配置し、d軸の両側における磁石101のそれぞれの磁化容易軸を、磁石101の磁束作用面に対して傾斜し、かつ磁石収容孔12よりも固定子30側となる位置で互いに交差するようにした。これにより、回転子コア11において、反磁界に対する耐減磁能力を高めつつ、d軸における磁束強化を好適に実施できる。
磁石101の横断面形状が四角形状をなしている場合において、磁石101の磁化容易軸を、互いに対向しかつ各々が磁束作用面となる二辺の磁石側面101aおよび101bに対して非垂直の角度で交差する向きとなるようにすることにより、磁石磁路長(すなわち、内部磁力線の長さ)を、磁石101の二辺の間の距離よりも長くすることができる。これにより、磁石磁束を強化し、反磁界に対する耐減磁能力を高めることができる。
従来技術では、大きな反磁界のかかる部位に対して、磁石厚みを厚くしたり、保磁力を高めるべく重希土類の含有量を多くしたり、微細化したりすることにより対策を施し、その対策を施した磁石により減磁を抑制するようにしていた。これに対して、本実施形態の回転電機1では、磁石101の磁化容易軸の工夫により反磁界に起因する減磁を抑制することができるため、磁石101のサイズアップが不要であり、また重希土類を完全にフリーとして構成することが可能となる。このため、例えば現状の車両用製品において貴重な重希土類をフリーとすることにより、磁束密度の高いネオジムの成分割合を増やすことができ、磁石量を増やすことなくトルク上昇を実現でき、コスト維持、又はコストダウンを果たすことができる。
一般に、磁石は、その配向方向を切削面と平行とすることで作られる。これは、磁石作成時の配向磁場と切削面とが平行となることで、磁石作成数が、一度の配向磁場励磁に対して、最大となるためである。これに対して、本実施形態では断面四角形の磁石101の配向方向を斜めにしている。つまり、最も減磁しやすい端部に、四角形の1辺よりも長い磁路を有する、磁束作用面101aおよび101bの垂直方向よりも角度のついた配向を施している。これにより、磁石101の減磁しやすい部分の減磁耐力が向上する。したがって、磁石作成数は減るものの、磁石そのものの重量が小さくなり、結果的に多数の磁石を一度の配向から入手できるばかりか、ネオジム等磁石材料の投入量を減らすことにより、相乗的にコストダウンをすることができる。
また、発明者の試算によれば、同じ磁力を出す磁石を作る場合において、磁石重量を3割程度減らすことができ、レアアースの使用量、また搭載する回転電機の重量、イナーシャを減らすことができる。そのため、回転電機において機械追従性、機械的信頼性が向上し、エネルギ消費の低減や安全性向上にも貢献することができる。
以下に、第4実施形態における回転子10の一部を変更した変形例を説明する。ここでは、図23に示す構成との相違点を中心に、各変形例を説明する。なお、以下に示す各変形例においても、d軸を中心にして示す1極分の部分平面図を用いて、回転子10の構成を説明する。
(変形例1)
図24に示す変形例1では、磁石101において、q軸側端部101cの端面及びd軸側端部101dの端面が、それぞれ磁束作用面101aおよび101bに対する磁化容易軸の角度に合わせた向きに形成されている。つまり、磁石101では、q軸側端部101c及びd軸側端部101dの各端面の向きが磁化容易軸と同じ(すなわち、平面視において磁化容易軸と平行な向き)になっている。そして、磁石101のq軸側端部101c及びd軸側端部101dの各端面の外側に、フラックスバリア102,103が設けられている。
なお、図24では、磁石101におけるq軸側端部101c及びd軸側端部101dの各端面を、それぞれ磁束作用面101aおよび101bに対する磁化容易軸の角度に合わせた向きに形成しているが、これに代えて、磁石101のq軸側端部101c及びd軸側端部101dのうちq軸側端部101cの端面のみを、磁束作用面101aおよび101bに対する磁化容易軸の角度に合わせた向きに形成してもよい。d軸側端部101dについては、図23のようにd軸に平行のままとする。要するに、磁石101の横断面形状は、矩形状(長方形状)である以外に、図24に示す平行四辺形状や、その他、台形状であってもよい。
上記のとおり磁石101の磁化容易軸が、磁束作用面101aおよび101bに対して非垂直の角度で交差する向きとなっている構成では、磁石101の磁化容易軸が、磁束作用面101aおよび101bに対して垂直に交差する向きとなっている場合に比べて、磁石磁路長を長くすることが可能になっているが、磁石101の端部においては、部分的に磁石磁路長が短くなることが考えられる。この点、磁石101のq軸側端部101cの端面を、磁束作用面101aおよび101bに対する磁化容易軸の角度に合わせた向きにすることで、磁石101において磁石磁路長が短い部分が局部的に存在することを抑制できる。
なお、図24の構成では、磁束増加に寄与しない磁石端部が斜めに排除されており、図23の構成と比べて磁石量が削減されている。そのため、磁石作成型内の取り数増加や、材料投入量の削減が可能となる。
(変形例2)
図25に示す変形例2では、磁石101は、q軸側端部101c及びd軸側端部101dにおける磁化容易軸の磁石長さが、他の部位における磁化容易軸の磁石長さよりも長くなっている。つまり、磁石101における第2磁束作用面101bに凹溝が形成され、この結果、磁石101のq軸側端部101c及びd軸側端部101dにはそれぞれ延長部101eが設けられており、その延長部101eにより局部的に磁石磁束が延長されている。延長部101eは、磁束延長部として機能する。延長部101eは、磁束作用面101aおよび101bの内、回転軸2に近い磁束作用面101bに設けられている。
なお、図25では、磁石101のq軸側端部101c及びd軸側端部101dにそれぞれ延長部101eを設けているが、これに代えて、磁石101のq軸側端部101c及びd軸側端部101dのうちq軸側端部101cだけに延長部101eを設けてもよい。
本変形例2によれば、磁石101の磁化容易軸を磁束作用面101aおよび101bに対して非垂直の角度で交差させることで磁石磁路長を長くした構成において、q軸側端部101cおよびd軸側端部101dにおける磁石磁路長を局部的にさらに延長することができる。これにより、耐減磁能力のより一層の向上を図ることができる。
(変形例3)
回転子コア11において磁石101を図26(a),(b)のように配置してもよい。
図26(a)に示す回転子10では、回転子コア11において固定子30の内周面と対向する外周面の付近には、軸方向に貫通する8個の磁石収容孔125が周方向に所定距離を隔てて設けられている。各磁石収容孔125は、磁極中心である対応するd軸を跨ぎ、かつd軸に直交する向きに配置されている。
本変形例3では、各磁石収容孔125内に収容される磁石101において、d軸よりも図の左側では、磁化容易軸が右斜め上方に向き、d軸よりも図の右側では、磁化容易軸が左斜め上方に向くようになっている。これにより、d軸を挟んで両側のいずれにおいても、磁石101の磁化容易軸が、d軸上であってかつ磁石101(磁石収容孔125)よりも固定子30側を通る向きになっている。この場合、d軸を挟んで両側の磁石101では、磁化容易軸を直線状に延ばした線が、d軸上であってかつ磁石101よりも固定子30側(すなわち磁石101の端部以外)に集合する。
また、図26(a)に示す回転子10では、磁石101においてd軸上で磁石磁束の相互干渉による減磁が生じるおそれがある。そこで、図26(b)に示すように、磁石101における第2磁束作用面101bにおいてd軸上に配置された凹溝101fを設けてもよい。この場合、磁石101の凹溝101fのd軸を挟んで対向する側面における図の左側の側面は、対応する右斜め上方を向いている磁化容易軸に沿っており、また、図の右側の側面は、左斜め上方を向いている対応する磁化容易軸に沿っている。本構成では、磁石量を減らせる分、コスト低減が可能になる。
(変形例4)
図27に示す変形例4では、磁石101は、d軸側端部101dおよびq軸側端部101cの一方に近い位置における磁化容易軸が他方に近い位置における磁化容易軸と相違している。この場合特に、d軸側端部101dにおいて磁化容易軸がd軸に対して平行な方向に近い方向になっており、そのd軸側端部101dからq軸側端部101cに向けて、磁化容易軸のd軸に平行な方向に対する傾斜角度が増大していく(すなわち、d軸に対する非平行度が高くなっていく)ように構成されている。換言すると、磁石101は、d軸寄りの部分とq軸寄りの部分とで磁化方向が相違しており、d軸寄りの部分とq軸寄りの部分とのうちd軸寄りの部分では、q軸寄りの部分よりも磁化方向がd軸に平行になっている。
詳しくは、図28に示すように、磁石101におけるq軸側端部101cよりもd軸側端部101dに近い所定位置における磁化容易軸をX1、d軸側端部101dよりもq軸側端部101cに近い所定位置における磁化容易軸をX2とすると、d軸側端部101dに近い位置の磁化容易軸X1が、q軸側端部101cに近い位置の磁化容易軸X2よりもd軸に平行に近くなっている。また、磁石101において、磁束作用面101aおよび101bに垂直な方向、すなわち、d軸に平行な方向、に対する磁化容易軸X2の傾斜角度(θ2)が、磁束作用面101aおよび101bに垂直な方向に対する磁化容易軸X1の傾斜角度(θ1)よりも大きくなっている。
磁石101では、q軸側端部101cからd軸側端部101dに向かうのに伴い、磁化容易軸の磁石長さ、すなわち磁化容易軸における始点から終点までの磁石磁路長が徐々に短くなっている。なお、各磁石101では、磁化容易軸として、磁束を生じさせる磁束作用面101aおよび101bに対して非垂直の角度で交差する向きとなる磁化容易軸以外に、磁束を生じさせる磁束作用面101aおよび101bに対して垂直に交差する向きとなる磁化容易軸が含まれていてもよい。
ちなみに、図28では、磁石101の磁束作用面101aおよび101bとd軸とが直交する関係となっているため、磁束作用面101aおよび101bに垂直な方向とd軸方向とが一致する。これに対し、磁石101の磁束作用面101aおよび101bがd軸に直交しない場合には、磁束作用面101aおよび101bに垂直な方向とd軸方向とが一致しない。ただし、かかる場合においても、磁石101において、q軸側端部に近い位置における磁化容易軸X2の磁束作用面101aおよび101bに垂直な方向に対する傾き(傾斜角度、θ2)が、d軸側端部101dに近い位置における磁化容易軸X1の磁束作用面101aおよび101bに垂直な方向に対する傾き(傾斜角度、θ1)よりも大きくなっていればよい。
なお、磁化容易軸X1,X2の向きを示す傾きθ1,θ2は、磁石における磁化容易軸の向き(配向方向)に相当するものであり、その磁化容易軸の向きとは、前述のとおり配向率が50%以上となる方向、又は、その磁石の配向の平均となる方向である。より具体的には、図28では、例えば磁化容易軸をX1とする部位において、傾きをθ1とする配向率が50%以上であるとよい。又は、同じく磁化容易軸をX1とする部位において、配向の平均となる方向が傾きθ1であるとよい。
本変形例4によれば、磁石101において、d軸側端部101dに近い位置における磁化容易軸がq軸側端部101cに近い位置における磁化容易軸と相違している。すなわち、磁石101において、d軸側端部101dに近い位置における磁化容易軸のd軸に対する傾きが、q軸側端部101cに近い位置における磁化容易軸のd軸に対する傾きと相違している。これにより、磁石101よりも固定子30側において、d軸からq軸までの間における特定箇所で磁束を集めることができ、磁石磁束の強化を図ることができる。
また、磁石101において、d軸側端部101dに近い位置における磁化容易軸は、q軸側端部101cに近い位置における磁化容易軸よりも、d軸に対して平行に近くなっており、この結果、q軸側端部101cに近い位置における磁石磁路長がd軸側端部101dに近い位置における磁石磁路長よりも長くなる。
このため、q軸における磁石磁束を強化し、磁石のq軸側端部101cにおける反磁界に対する減磁対策を適正に図ることができる。また、d軸側端部101dにおける磁石磁路長を最短にすることができるため、d軸を挟んで両側の一対の磁石101においてd軸側端部101dの磁化容易軸が互いに向き合う側に傾いている場合に、その磁束の相互干渉を抑制できる。これにより、d軸での減磁抑制も可能となる。
さらに、磁石101において、q軸側端部101cに近い位置における磁化容易軸の磁束作用面101aおよび101bに垂直な方向に対する傾きが、d軸側端部101dに近い位置における磁化容易軸の磁束作用面101aおよび101bに垂直な方向に対する傾きよりも大きいこと(すなわち、図28においてθ2>θ1であること)により、q軸側端部101cにおいて磁石磁路長を最も長くして、磁石101のq軸側端部101cにおける反磁界に対する減磁耐性を強くすることができる。その結果、磁石101のq軸側端部101cにおける減磁抑制と磁石トルクの増加とを共に実現できることとなる。
なお、図27に示す構成では、磁石収容孔12がd軸に対して垂直な向きに延びるように直線状に形成されている。そのため、かかる構成によれば、磁石101におけるd軸側端部101dおよびq軸側端部101cのうち、d軸側端部101dに近い位置の磁化容易軸を、q軸側端部101cに近い位置における磁化容易軸よりもd軸に対して平行にすることにより、q軸側端部101cに近い位置における磁化容易軸の磁束作用面101aおよび101bに垂直な方向に対する傾きが、d軸側端部101dに近い位置における磁化容易軸の磁束作用面101aおよび101bに垂直な方向に対する傾きよりも大きくなる構成(すなわち、θ2>θ1となる構成)を実現することができる。
(変形例5)
図29に示す変形例5では、変形例4と同様に、磁石101において、d軸側端部101dおよびq軸側端部101cの一方に近い位置における磁化容易軸が他方に近い位置における磁化容易軸と相違している。すなわち磁石101において、d軸寄りの部分とq軸寄りの部分とで磁化方向が相違している。ただし、本変形例5では、磁石101の磁化容易軸が変形例4とは異なっており、磁石101において、d軸側端部101dおよびq軸側端部101cのうち、q軸側端部101cに近い位置における磁化容易軸がd軸側端部101dに近い位置よりも磁化容易軸よりもq軸に対して平行に近くなっている。磁石101では、d軸側端部101dからq軸側端部101cに向かうのに伴い、磁化容易軸の磁石長さ、すなわち磁化容易軸における始点から終点までの磁石磁路長が徐々に短くなっている。
この場合、磁石101におけるq軸側端部101cでは、磁化容易軸がq軸に平行になっていることで、q軸において、回転子コア11の固定子対向面に直交する向きの磁石磁束、すなわち反磁界に対抗する向きの磁石磁束を強化することができ、磁石101のq軸側端部101cにおける反磁界に対する減磁対策を適正に図ることができる。
(変形例6)
図30に示す変形例6では、磁石101の磁化容易軸が円弧状、すなわち非直線状をなしている。これにより、磁石磁路長を一層長くすることができる。そのため、磁石磁束の一層の強化を図ることができる。
(変形例7)
図31(a),(b)に示すように、回転子コア11における磁石収容孔12を、d軸を挟んで両側で一対とし、径方向外側に向かうにつれて磁石収容孔12同士の対向間距離が大きくなる略V字状に形成してもよい。すなわち、各磁石収容孔12は、回転子コア11の軸方向に直交する横断面が矩形状であり、その対向する第1および第2の主面における固定子30に近い第1の主面の外側角部12R1が内側角部12R2よりも固定子30に近くなるように傾斜することにより、一対の磁石収容孔12全体で略V字形状を構成している。
図31(a)では、上述の図23と同様に、磁石101の磁化容易軸が、d軸に対して傾斜し、かつ磁束を生じさせる磁束作用面101aおよび101bに対して非垂直の角度で交差する向きで定められている。
また、図31(b)では、上述の図27と同様に、磁石101において、d軸側端部101dに近い位置における磁化容易軸とq軸側端部101cに近い位置における磁化容易軸とを相違させている。すなわち、磁石101において、d軸寄りの部分とq軸寄りの部分とで磁化方向を相違させている。この場合特に、磁石101において、d軸側端部101dに近い位置およびq軸側端部101cに近い位置におけるd軸側端部101dに近い位置における磁化容易軸は、q軸側端部101cに近い位置における磁化容易軸よりも、d軸に対して平行に近くなっている。なお、上述の図29と同様に、磁石101において、d軸側端部101dに近い位置およびq軸側端部101cに近い位置におけるq軸側端部101cに近い位置における磁化容易軸を、d軸側端部101dに近い位置における磁化容易軸よりも、q軸に対して平行に近くなるように構成してもよい。
(変形例8)
図32(a),(b)に変形例8を示す。図32(a)では、回転子コア11の磁石収容孔125においてd軸の両側に、磁化容易軸(磁石磁路の向き)が非対称となる状態で磁石101が収容されている。この場合、磁石101の磁化容易軸が、d軸に対して傾斜し、かつ磁束を生じさせる磁束作用面に対して非垂直の角度で交差する向きとなっており、さらにd軸に対して一方側及び他方側の両側でいずれも同じ向きとなっている。図32(a)の構成においても、磁石磁路長を長くすることにより、反磁界に対する磁束強化が可能となる。なお、磁石101の磁石磁路は、直線状以外であってもよく、例えば反固定子側(図の下側)に凸となる円弧状であってもよい。
図32(b)は、回転子10と固定子30とを示す構成例である。図32(b)において、中央の磁極はN極であり、その左右両側の磁極はS極である。この場合、磁石101は、磁極ごとにd軸を挟んで両側となる部分を有し、その両側の部分において、d軸に対して斜めとなり、かつ周方向に対する傾きが同じ方向となる磁石磁路が形成されたものとなっている。
回転子コア11において、磁化容易軸がd軸の両側に非対称となる状態で磁石101を配置することにより、磁化容易軸がd軸に対して対称となる状態で磁石を配置する場合に比べて、正回転時に発生するトルクのピーク値を高めることができる。このため、d軸の両側に磁化容易軸が非対称となる磁石101は、一方向のみに回転する回転電機、又は主に一方向に回転する回転電機に好適である。
(変形例9)
図33に示す変形例9では、d軸を挟んで両側の各磁石101を、横断面が台形状をなす2つの磁石111,112を用いて構成している。すなわち、各磁石101は、2つの磁石111,112から構成された磁石アセンブリである。各磁石111,112は、2つの底角が同じ角度となる等脚台形状をなしており、脚同士を当接させた状態で、固定子30側に凸となる向きで配置されている。各磁石111,112では、一対の脚のうち一方に平行となる向きで磁化容易軸(磁石磁路の向き)が定められており、これにより各底辺(上底及び下底)である磁束作用面に対して磁化容易軸が非垂直の角度で交差するものとなっている。また、各磁石111,112は、磁化容易軸に平行となる脚同士を当接させているため、d軸の両側では、それぞれ各磁石111,112の磁化容易軸が同じ向きとなっている。
換言すれば、磁石101は、磁極のd軸からq軸までの範囲に、d軸に近い側の磁石111(第1磁石に相当)とq軸に近い側の磁石112(第2磁石に相当)とを有し、それら各磁石111,112が回転子コア11の磁石収容孔12に収容されている。この場合、各磁石111,112は、それら各磁石111,112が互いに繋がる位置で固定子巻線の側に凸となる向きで折れ曲がるように配置されている。また、各磁石111,112は、互いに対向し磁束の流入流出面となる一対の作用面(磁石111の作用面111a,111b、磁石112の作用面112a,112b)を有し、各作用面の間における磁石厚さ寸法よりも長い長さの磁石磁路を有している。各磁石111,112は、それぞれ直線でかつ平行な磁石磁路を有している。各磁石111,112は、横断面が共に等脚台形状をなし、かつ底辺及び脚の寸法が互いに同じであり、さらに磁石磁路の向きが同じである。
図33の回転子10では、各磁石111,112を直線状に繋げた構成に比べて、これら各磁石111,112を固定子巻線に近づけることができ、トルクの増加を図ることができる。この場合、固定子巻線と磁石との距離を縮めることで、その背反として反磁界が増大することが懸念されるが、その反磁界増大の影響を、各磁石111,112の磁石磁路長を長くすること、具体的には一対の磁束作用面の間における磁石磁路を長くすることで解決することができる。
また、回転子コア11において、磁石101(すなわち磁石収容孔12)よりも固定子巻線側であって、かつ固定子巻線と磁石との両磁束の総和を受ける部分の割合を小さくすることができる。そのため、固定子巻線と磁石との両磁束による磁束飽和が生じ得る飽和領域を小さくし、磁石の能力をより効果的に引き出すことが可能となる。
内転式回転電機の回転子10では、回転子コア11において磁石収容孔12よりも径方向外側となる部分が小さくなる。したがって、遠心力に対する応力集中係数が減少し、その機械的強度を増加させることができる。
各磁石111,112は、形状、寸法、磁化容易軸を同一とする同じ品番の磁石である。この場合、図34(a)に示すように、同じ品番の磁石111,112を用意するとともに、図34(b),(c)に示すように、一方の磁石112の向きを逆にして、両者を接合するようにしている。ただし、磁石111,112として、底辺長さが互いに異なる磁石を用いることも可能である。
各磁石111,112は、横断面が互いに同じ形状であり、かつ隣り合う2面として非垂直の角度で交差する2面を有しており、組み付けの向きを互いに反転させて回転子コア11に組み付けられるものであるとよい。各磁石111,112は、例えば図34(d)に示すように、磁石磁路が斜めになるように配向された板状の磁石ブロックMBを、底辺の長短が互い違いになるようにして複数の等脚台形状に分断して形成されるとよい。この場合、分断された各磁石は同形状となり、組み付けの向きを互いに反転させて回転子コア11に組み付けられる。
図34(e),(f)に示すように複数の磁石が分断されてもよい。図34(e)では、各磁石は、一対の脚の傾きが互いに異なっている。また、図34(f)では、各磁石は、平行四辺形となっている。いずれにおいても、分断された各磁石は、同じ形状となり、組み付けの向きを互いに反転させて回転子コア11に組み付けられる。
(変形例10)
図35に示す変形例10においても、各磁石101は、2つの磁石111,112から構成された磁石アセンブリである。d軸両側の各磁石101は、2つの底角が異なる角度となる台形状の磁石115,116を用いて構成されている。この場合、一方の底角は直角であり、他方の底角は鋭角である。そして、底角が直角となる側の脚同士を当接させた状態で、各磁石115,116が配置されている。
各磁石115,116では、台形における一対の脚のうち底角が鋭角となる側の脚に平行となる向きで磁化容易軸(磁石磁路の向き)が定められており、これにより各底辺(上底及び下底)である磁束作用面に対して磁化容易軸が非垂直の角度で交差するものとなっている。また、q軸側の磁石116は、磁化容易軸がq軸に垂直又は垂直に近い角度となり、d軸側の磁石115は、磁化容易軸がd軸に平行又は平行に近い角度となっている。
換言すれば、磁石101は、磁極のd軸からq軸までの範囲に、d軸に近い側の磁石115(第1磁石に相当)とq軸に近い側の磁石116(第2磁石に相当)とを有し、それら各磁石115,116が回転子コア11の磁石収容孔12に収容されている。この場合、各磁石115,116は、それぞれ直線でかつ平行な磁石磁路を有しており、各磁石115,116において磁石磁路の向きを互いに異なる方向にして回転子コア11に固定されている。
より詳細には、磁石収容孔12は、d軸に対して傾斜し、かつd軸側でq軸側よりも固定子巻線(外周面である巻線対向面)から離れるように設けられている。そして、磁石116の磁石磁路の向きが、磁石115の磁石磁路の向きに比べてd軸に垂直な向きとなっている。また、磁石115は、互いに対向し磁束の流入流出面となる一対の作用面115a,115bを有するとともに、一対の作用面115a,115bの間における磁石厚さ寸法よりも長い長さの磁石磁路を有し、かつ磁化容易軸が磁石磁路に沿う向きとなるように配向がなされている。さらに、磁石116は、互いに対向し磁束の流入流出面となる一対の作用面116a,116bを有するとともに、一対の作用面116a,116bの間における磁石厚さ寸法よりも長い長さの磁石磁路を有し、かつ磁化容易軸が磁石磁路に沿う向きとなるように配向がなされている。なお、磁石厚さ寸法は、作用面115a,115bに直交する向きの厚さ、作用面116a,116bに直交する向きの厚さ(いずれも両作用面間の最短距離)と定義できる。
図35の回転子10では、磁極のd軸からq軸までの範囲において、特定の場所の磁石磁束を意図的に強めることで、固定子巻線からの反磁界に対する減磁耐性を高めることができる。つまり、仮に磁石115のみであれば反磁界による減磁の懸念が生じる場合であっても、磁石磁路の向きが異なる磁石116が設けられていることで、磁石115における反磁界による減磁を抑制することが可能となる。これにより、磁石101の減磁抑制を実現することが可能となる。上記構成では特に、各磁石115,116として、比較的安価なパラレル異方性磁石を用いつつ、所望の減磁抑制効果を実現することができる。
図36、図37では、図35の構成の一部を変更している。すなわち、これら各構成では、磁石115,116のうちq軸側の磁石116として、磁化容易軸が磁束作用面に垂直となる磁石を用いている。またこのうち、図37では、d軸側の磁石115を平行四辺形としており、磁化容易軸が左右両側の辺に平行となっている。磁石115,116の間には、フラックスバリアが設けられている。ただし、磁石115,116の間が、フラックスバリアでなく鉄心であってもよい。図37の構成では、磁石115において、一対の作用面115a,115bに交差するq軸側端面115cが、磁石磁路に平行となる向きで形成されている。
(第5実施形態)
次に、第5実施形態を、第1実施形態等との相違点を説明する。図38に、本実施形態における回転子10の構成を示す。
図38では、磁石収容孔12は、横断面における長手方向に沿ってq軸側端部およびd軸側端部を有しており、回転子コア11における径方向において、q軸側端部がd軸側端部よりも固定子30に近い部位に位置しており、かつq軸側端部とd軸側端部との間において固定子30側に凸となるように形成されている。
この磁石収容孔12に収容されている磁石121は、磁束作用面121aおよび121bと、q軸側端部121cおよびd軸側端部121dとを有しており、磁石収容孔12と同様に、回転子コア11における径方向において、q軸側端部121cがd軸側端部121dよりも固定子30に近い部位に位置しており、かつq軸側端部121cとd軸側端部121dとの間において固定子30側に凸となるように設けられている。
より具体的には、磁石121の横断面形状が、固定子30側に凸の円弧状であり、特に三日月形状となっている。なお、磁石121は、円弧状に湾曲して固定子30側に凸になっている以外に、磁束作用面121aおよび121bが1カ所又は複数箇所で折れ曲がることにより固定子30側に凸になっていてもよい。
磁石121においては、磁化容易軸が、d軸に対して傾斜し、かつ磁束を生じさせる磁束作用面121aおよび121bに対して非垂直の角度で交差する向きとなっている。ただし、磁束作用面121aおよび121bに垂直となる向きの磁化容易軸が含まれていてもよい。磁化容易軸は、直線状であってもよいし、非直線状(すなわち円弧状)であってもよい。
また本実施形態では、磁石121において、q軸側端部121cおよびd軸側端部121dにおけるd軸側端部121dに近接する部分とq軸側端部121cに近接する部分とで磁化容易軸を相違させており、特に、d軸側端部121dに近接する部分とq軸側端部121cに近接する部分とのうちd軸側端部121dに近接する部分では、q軸側端部121cに近接するよりも磁化容易軸をd軸に対して平行に近くなるようにしている。この結果、磁石121の磁路長を長くすることができる。
なお、磁石121において、q軸側端部121cに近接する部分における磁化容易軸の磁束作用面121aおよび121bに垂直な方向に対する傾きが、d軸側端部121dに近接する部分における磁化容易軸の磁束作用面121aおよび121bに垂直な方向に対する傾きよりも大きくなっていてもよい。
上記構成によれば、磁石121を回転子コア11の外周面(すなわち固定子対向面)に近づかせることができるため、d軸の磁気抵抗が下がり、トルクを増大させることができる。この場合、固定子30と磁石121との距離を縮めることで、その背反として反磁界が増大するが、その反磁界増大の影響を、磁石121において上記のとおり磁路長を長くすることにより解消できる。
また、本実施形態の構成によれば、回転子コア11において、磁石121(すなわち磁石収容孔12)よりも固定子30に近い位置であって、かつ固定子30と磁石121との両磁束の総和を受ける部分の割合を小さくすることができる。そのため、固定子30と磁石121との両磁束による磁束飽和が生じ得る飽和領域を小さくし、磁石121の能力をより効果的に引き出すことが可能となる。
特に、磁石収容孔12の横断面長手方向の両端部におけるd軸に近い方の端部には、磁石121が収容されず、この端部は、d軸に沿って延びてフラックスバリア122を構成している。
ここで、本実施形態で用いる磁石121の製造方法について説明する。図39は、磁場配向により磁石121の磁化を行う手法を説明するための説明図である。図39によれば、図38における左側の磁石121の着磁が行われる。
図39に示すように、配向装置130は、磁場コイル131と、磁場コイル131内に配置される配向鉄心132及び金型133とを備えている。磁場コイル131は、通電に伴いコイル内部を通過する磁場を生成する。配向鉄心132は、磁場コイル131にて生成される磁場を所定方向に湾曲させる役割を有しており、配向鉄心132により湾曲された磁場が金型133を通過する。磁場コイル131によれば直線磁場が生成され、配向鉄心132によれば湾曲磁場が生成される。金型133は、非磁性体により形成されており、磁石121の形状に合わせて形成された金型室133aを有している。
磁石121の製造に際しては、金型133の金型室133a内に、磁石原料を粉砕した磁石粉末が充填され、その金型室133a内において磁石粉末が所定形状に圧縮成形される。そして、磁場コイル131内において、配向鉄心132により図示のとおり湾曲した磁場が形成され、金型室133a内の磁石粉末に対して磁場配向が行われる。このとき、磁石粉末はそれぞれの磁化容易方向を揃えるようにして整列され、圧縮により固定される。この場合特に、配向鉄心132は、磁石121の長手方向において片側にオフセットした位置に配置されているとよい。その後、磁石粉末の成形体が焼結され、さらに磁石の着磁が行われる。この一連の工程により、磁石121が製造される。なお、図38における右側の磁石121を製造する場合には、配向鉄心132の位置が変更されればよい。上記により、図38で用いられる磁石121が製造される。
また、図40に示す構成では、磁石121は、回転子コア11において、q軸側端部121cが、径方向においてd軸側端部121dよりも固定子30に近い部位に位置しており、かつq軸側端部121cとd軸側端部121dとの間において反固定子側に凸となるように設けられている。より具体的には、磁石121の横断面形状が、反固定子側(回転軸2側)に凸の円弧状であり、特に三日月形状となっている。なお、磁石121は、円弧状に湾曲して反固定子側に凸になっている以外に、複数の直線部分が1カ所又は複数箇所で折れ曲がることにより反固定子側に凸になっていてもよい。
磁石121においては、磁化容易軸が、d軸に対して傾斜し、かつ磁束を生じさせる磁束作用面121aおよび121bに対して非垂直の角度で交差する向きとなっている。ただし、磁束作用面121aおよび121bに垂直となる向きの磁化容易軸が含まれていてもよい。磁化容易軸は、直線状であってもよいし、非直線状(すなわち円弧状)であってもよい。
上記手段によれば、回転子コア11において磁石121よりも固定子30側となる領域が広くなるため、その領域における磁石配置により磁石磁力の増加を図ることができる。
(他の実施形態)
・回転子10として、図41~図44に示す構成のものを用いることも可能である。
図41に示す回転子10では、d軸を挟んで両側に設けられ、かつ略V字状をなす一対の磁石収容孔12に、それぞれ磁石141が収容されている。すなわち、磁石141がV字配置されている。磁石141は、d軸に対して傾斜する向きで設けられており、その磁化容易軸はd軸に水平又は平行に近い向きとなっている。この場合、磁石141の磁化容易軸は、磁石141の磁束作用面141aおよび141bに対して非垂直の角度で交差している。また、一対の磁石収容孔12の間であって、かつd軸上となる位置に中央開口部142が設けられている。この構成によれば、磁石141の磁化容易軸はd軸に平行又は平行に近い向きとなっているため、得られる磁束におけるd軸に対向する成分を減少させることができ、d軸減磁を抑制することができる。なお、中央開口部142は、空間であるか、又は非磁性材料が充填された非磁性体部であるとよい。
図42に示す回転子10では、d軸を挟んで両側に設けられ、かつ略V字状をなす一対の磁石収容孔12に、それぞれ磁石143が収容されている。すなわち、磁石143がV字配置されている。磁石143は、d軸に対して傾斜する向きで設けられており、その磁化容易軸はq軸に垂直又は垂直に近い向きとなっている。この場合、磁石143の磁化容易軸は、磁石143の磁束作用面143aおよび143bに対して非垂直の角度で交差している。また、各磁石収容孔12のd軸側端部には、d軸に沿ってフラックスバリア144がそれぞれ設けられている。
図42の構成では、q軸の磁石磁束が強められている。この場合、図示のようにq軸コア部に直接磁力を向けることで、q軸コア部の飽和による弱め界磁効果の促進が期待できる。また、d軸の同極間距離(例えば、隣接する磁石143間のd軸を挟んだ最短距離)を大きくすることで、隣接する磁石143の磁束によるd軸減磁(自己減磁)を抑えることが可能である。
図43に示す回転子10では、d軸を挟んで両側に設けられ、かつ略V字状をなす一対の磁石収容孔12に、d軸を挟んで両側に、それぞれ2個ずつの磁石145が設けられている。磁石145は、d軸を挟んで両側にV字配置されている。磁石145は、q軸側端部及びd軸側端部(すなわち磁石端面側)において磁化容易軸の磁石長さが、中央側の部位における磁化容易軸の磁石長さよりも長いものとなっている。
具体的には、各磁石145は、ベース部、およびこのベース部から互いに直交する方向に延びる第1および第2の端部を有している。ペアの磁石145は、それぞれの第1の端部を突き合わせるように接続された状態で各磁石収容孔12に収容されることにより一体化されている。この一体化されたペアの磁石145は、固定子側の磁束作用面145aが磁化容易軸に垂直な平坦面とされ、反固定子側の磁束作用面145bには、その中央部に凹溝が形成されている。
また、図44に示す回転子10では、d軸を挟んで両側に設けられ、かつ略V字状をなす一対の磁石収容孔12に、d軸を挟んで両側に、それぞれ2個ずつの磁石146が設けられている。磁石146は、d軸を挟んで両側にV字配置されている。
具体的には、各磁石146は、横断面が略台形状を有している。すなわち、各磁石146は、上底を構成する第1の端面と、下底を構成し、第1の端面よりも長い第2の端面とを有している。ペアの磁石146は、それぞれの第1の端面を突き合わせるように接続された状態で各磁石収容孔12に収容されることにより一体化されている。この一体化されたペアの磁石146は、固定子側の磁束作用面146aが磁化容易軸に垂直な平坦面とされ、反固定子側の磁束作用面146bには、その中央部に凹溝が形成されている。
・上記各構成の磁石(磁石13等)を、複数に分割された分割磁石により実現してもよい。この場合、d軸を挟んで両側それぞれにおいて、磁石長手方向に沿って複数に分割磁石を並べて配置するとよい。これにより、導電体である磁石13の渦損を下げることができる。例えば断面正方形状をなし、かつ磁化容易軸の異なる複数の磁石(分割磁石)を用い、それらを一列に並べて断面長尺状の磁石13を構成するとよい。これにより、断面長尺状の磁石において可変配向により磁化容易軸を定めるよりも、磁石の配向率を高めることができる。
・上述した各構成の回転子10では、磁石のq軸側端部及びd軸側端部に、フラックスバリアを任意に設定することが可能である。
・回転子10において、回転子コア11を軸方向に複数に分割するとともに、その各分割コアを所定角度ずつ周方向にずらすことで、回転子10をスキュー構造としてもよい。これにより、トルクリプルを低減することができる。
・回転電機として、回転子10側に磁石(磁石13等)を設けるとともに、固定子30側に固定子巻線33を設ける構成としたものに代えて、固定子30側に磁石(磁石13等)を設けるとともに、回転子10側に固定子巻線33を設ける構成としたものを用いてもよい。この場合、軟磁性体コアとしての固定子コアに、上述した各種形態の磁石収容孔が形成されるとともに、その磁石収容孔内に、上述した各種形態の磁石が収容される。
(第6実施形態)
以下には、第6実施形態としての回転電機500を説明する。回転電機500が電磁機械に相当する。図45は、回転電機500の縦断面図である。図45に示すように、回転電機500は、端盤ハウジング501、円筒ハウジング502、ベアリング503,504、ベアリングホルダ505、与圧ばね507、回転子600、シャフト601等を備えている。端盤ハウジング501は、円筒ハウジング502に対して所定のはめあい公差を用いて精度よく取り付けられている。
端盤ハウジング501は、回転子600を回転自在に保持するためベアリング504を所定のはめあい公差で保持している。端盤ハウジング501は3次元的な意匠をしており、アルミダイカスト等で作られる。なお、ベアリング保持部には、ベアリング504と膨張係数差の少ない鉄鋼材料を使うことが望ましい。そのため、鍛造で作られた鉄製のベアリングホルダ505内にベアリング504が配置されている。端盤ハウジング501は、自身を軸方向に貫通する任意の個数のねじ穴に通されたねじ506により、円筒ハウジング502に対して締結されている。円筒ハウジング502には、端盤ハウジング501を締結するためのねじ穴508が設けられている。
また、円筒ハウジング502は、回転子600を回転自在に保持するベアリング503を所定のはめあい公差で保持する保持穴509を有している。回転子600には、ベアリング503,504により所定のはめあい公差で回転自在な状態でシャフト601が組み付けられている。ベアリング503,504とシャフト601乃至ハウジング501,502は、圧入ではなく、すきまばめとして抜け止めリングなどを用いて締結されてもよい。
ベアリング503は、その外輪が、皿ばねである与圧ばね507により所定の力で押されており、ベアリング503内の外輪と内輪は、その中間に位置する玉により常時所定の力で接触を促されるように構成されている。これにより、外輪と内輪は、玉との接触荷重、接触位置が一定に保たれ、静粛な回転を寿命期間に渡って行うことができる。ベアリング503には、与圧ばね507の力がシャフト601を通して与えられ、ベアリング503,504のそれぞれの内輪が、外輪よりも回転子600からみて遠い距離にそれぞれ配置されることとなる。これにより軸力が相殺され、回転子600の位置が、安定して、固定子700(すなわち、電機子)との好適な位置となるように設定されている。
前記好適な位置とは、例えば回転子600と固定子700との軸方向長さの中央が一致することである。ベアリング503は、与圧ばね507と接触している。ベアリング503と与圧ばね507との接触面は摩擦係数が0.4以上に設定されており、摩擦力によりその周方向の回転が抑止されている。当然、与圧力を出すために、永久磁石を備える回転子600と固定子700との中心位置をずらして磁力による恒久的な与圧を掛けてもよい。磁気的に与圧を与える構成は、軸方向片側にディスクプレートを持つハードディスクドライブ用モータや、軸方向片側に羽根車を持つファンモータ等で特に有効である。
回転子600は、シャフト601に圧入などで締結された回転子鉄心610(固定子コア)を備えている。回転子鉄心610には永久磁石(磁石400)が収容されている。回転子600は、任意の磁極と隣の磁極とがN,S交互に構成される永久磁石型回転子として構成されている。回転子600は、永久磁石を軸方向に堅牢に支えるべくシャフト601に対して圧入固定された端板604を有している。
回転子600は、シャフト601に圧入などで締結された回転子の角度検出を行うレゾルバ回転子602を備えている。レゾルバ回転子602と組となるレゾルバ固定子603は、ベアリング504と同軸となるよう精度よく、端盤ハウジング501に対して圧入により固定されている。本実施形態では、レゾルバ回転子602と、回転子鉄心610に対する、シャフト601との締結にも圧入が用いられている。レゾルバ回転子602の原理は詳しく説明しないが、レゾルバ回転子602とレゾルバ固定子603との空間に磁気抵抗の大小を持ち、その大小関係により起こるレゾルバ固定子巻線の電圧変動から回転子位置を検出し、検出した回転子位置を制御装置(コントローラ)930に図示されないAD変換機を通して知らせるものである。
本構成を持つ回転角度センサにおいては、ホール素子等と異なり、レゾルバ回転子とレゾルバ固定子が精度よく同じ線膨張係数の材料で作られていれば、温度によりその特性を変えることもほぼなく正確な角度を出力する。そのため、回転数制御範囲が広がった本実施形態の回転電機構成においてより有効である。当然、各相に対応した複数ホールセンサ、または代表の相の位置を読み取る1ホールセンサ方式をとっても良い。ホールセンサ方式の場合は、モータがφ50以下と小型で、前記レゾルバの構成が困難となる場合、更には80℃以上の高温にならないといった条件下では、安価で望ましい手法である。
また、回転子600とシャフト601の圧入公差は、最大回転数の際に、圧入公差が数ミクロン望ましくは限りなくゼロとなる寸法を狙って設計されている。このようにすることで、如何なる回転数においても、回転子600がシャフト601に固定されていることとなる。
図46に圧入の説明図を示す。回転子鉄心610には、磁石部の回転子内周側の磁極角に内包される角度範囲内に接触部分605が設けられており、それ以外の部分ではすきま606を設けるべく寸法設定がなされている。これにより、回転子鉄心610の圧入時に起こる変形が、回転子外形まで伝わらず、精度の高いエアギャップ距離設計をなすことができる。図46に一点鎖線で表す磁石部607とシャフト601との間にフラックスバリア608を設けることにより、磁石部607に圧入応力が伝わらなくなることも言うまでもない。
また、シャフト601と回転子鉄心610との間の公差をすきまばめとし、回転方向の周り止めとしてキーやピンを用いることも考えられる。このようにすることで、生産性が良く、かつ脱着が容易な構成が得られる。前記キーは、脱着性を若干失うが中間ばめか軽圧入程度の圧入であることが望ましい。キーまでもがすきまばめであると、前記キーとキー溝との隙間で回転子600が周方向に回転中に移動し、前記レゾルバが出力した角度位置に対して回転子600が違う応答を返すことがあり、制御困難となることが考えられるためである。
または、シャフト601をスプライン勘合、またはローレット加工を施したシャフト表面とし、回転子鉄心610を圧入しつつ挿入してもよい。当然、スプライン構造において、シャフト601に刻んだ歯と回転子鉄心610に刻んだ歯とが、前記制御の問題を看過できるのであれば、すきまばめであってもよい。固定子700を通して前記電圧変動が制御装置930に伝えられる。
次に、固定子700について図47(a),(b)を用いて説明する。固定子700は、固定子鉄心710と、多相の相巻線を有してなる固定子巻線720とを備えている。本実施形態の回転電機500は、倍スロットの3相永久磁石型回転電機の構成となっており、固定子鉄心710は、固定子巻線720を構成する導線721を収容するスロット711として、周方向に48個のスロット、すなわち回転子600の極数8に対して3相×2倍の数のスロットを有している。本実施形態では、横断面が矩形状をなす角形の導線721(角線)が3相分布巻きとなるように巻装されている。
導線721は、横断面が4角形のものに限られず6角形などであるものでもよい。導線721として角線を用いることにより、断面が丸形の導線(丸線)と比べて高い占積率を実現できる。ここでいう占積率とは、スロット面積内部における銅の占有面積の割合である。角形(多角形)の導線721を使い、導線間をすきまなく面接触で構成することにより、同じスロット面積において低い直流抵抗値の固定子巻線を設定することが可能となり、固定子700の径方向の厚みを薄くすることができる。
なお、導線721として、断面が楕円形状の導線を用いることも可能である。導線721は、スロット711に収容された状態において、周方向の幅寸法に対して径方向の厚さ寸法が小さい扁平形状であるとよい。
固定子700を薄くする効果として、同じ外形のモータにおいては、回転子600と固定子700のエアギャップの径方向の長さの増加が考えられる。トルクは、回転子半径と導体に鎖交する磁束と導体に流れる電流を掛けたものであるから、前記占積率の増加によりトルク増加が実現されるのである。
従来技術では、回転子半径の増加によりイナーシャが増加する場合に、背反として不都合が生じることがある。例えば、過剰に径の大きい回転子を車両用エンジンと同期して回転するトラクションモータとして採用した場合、モータの回転数同期が困難となることが考えられる。
本実施形態では、後述するように回転子600のパーミアンスPcが高いため、磁石の有効磁束量を増加させることができる。そのため、同等の大きさの磁石と比較して、磁石の体積当たりのトルク寄与率が大きく、大きな磁束を生じさせることができる。この上で固定子巻線720のインピーダンス設定を低くすれば、具体的には導線721の本数を従来よりも少なく設定すれば、電気・機械総合時定数Tkを小さくし、機械的制御性を改善することができる。つまり、下式(1)に示される電気・機械総合時定数Tkは分子にインダクタンスLを持つため、磁石磁束Ψの増加分の逆数だけ巻数を低下させる設定とすることで、電気・機械総合時定数Ktを小さくし、機械的制御性を改善することができる。
Tk=(J・L)÷(Kt・Ke) …(1)
なお、Jはイナーシャ、Lはインダクタンス、Ktはトルク定数、Keは逆起電力定数である。
更に、インダクタンスの低下によるサージ電圧の低下の効果も奏する。なお、導線721は導体であればよく、例えばカーボンナノチューブを利用した導体、またはアルミ、銀、金などでも好適な性能を発揮できる。
導線721は、導体部722と、その外周を覆うポリイミド、アミドイミド、ポリアミドイミドなどからなる、一般的にエナメル被膜と呼ばれる被膜723とを有する。また、被膜723の外に外層被膜724を有する。外層被膜724は、被膜723よりも高い絶縁耐圧を持つことが特徴である。当然、撚り線、リッツ線などでもよい。本実施形態においては、PEEK材よりなる外層被膜724を有しており、スロット711内に、ワニス713を介してスロット711の鋼材と接している。スロット711とワニス713、ワニス713と外層被膜724により、スロット内構成部材を固定することが望ましい。
これにより、固定子巻線720の振動を好適に、例えば弊社調べでは3~5dB程度に抑えることができる。なお、ワニス713はシリカなどを多く含まないエポキシ樹脂やシリコーン接着材等であることが望ましい。この構成にすることで、被膜723、外層被膜724、ワニス713の順番に、線膨張係数を徐々に高くすることができる。
外層被膜724をPPS材とする場合は、PPS材の線膨張係数は状態によって大きな幅を持つため、エナメル被膜よりも線膨張係数を高く設定するように配合が必要である。上記のとおり線膨張係数を設定することにより、線膨張係数の差により生じる絶縁部材への応力を、効果的に抑制することが可能となる。つまり、電車や自動車のような環境で空冷、水冷、または油冷などにより固定子巻線720がワニス713より順次導線の内層へ向かい冷やされると、それに伴い線膨張係数の差による絶縁部材への応力が生じると考えられるが、その絶縁部材への応力を効果的に抑制することができる。
また、ワニス713と外層被膜724との間の接着力は、外層被膜724と被膜723の接着力よりも低くなるように設定されている。これにより、ワニス713が線膨張係数差による応力で割れても、被膜723まで割れが及ばない構成を得ることができる。また、被膜723と導体部722との接着力が、外層被膜724と被膜723との接着力よりも低くなるように設定しており、万が一に外層被膜724が割れた場合においても、被膜723により、固定子巻線720の固定子コアに対する絶縁が担保されるのである。本構成は、スロット711内よりも、直接外気や冷却油に接触するスロット711外に突出する導体部分にてより強い効果を発する。
回転子600は、中空円筒状の回転子鉄心610を有しており、その回転子鉄心610の内周面がシャフト601の外周面に固定されている。
図48に回転子600の構成を具体的に示す。なお、図48では、回転子600における複数の磁極のうち1極分だけを抽出して示している。中央が磁極中心となるd軸であり、左右両端が磁極境界部となるq軸である。
回転子鉄心610には、d軸を挟んで両側に磁石収容孔611が形成されている、ペアの磁石収容孔611は、対応するd軸に対して対象に配置されており、d軸上で離間した状態で、d軸の両側に略直線状となるように設けられている。そして、各磁石収容孔611内に、例えば焼結ネオジム磁石等の永久磁石よりなる磁石400が収容されている。
ここで、本実施形態における磁石400について図49を用いて説明する。図49には、磁石400における回転子鉄心610の軸方向に直交する横断面を示すとともに、磁石400の配向方向を矢印にて示している。なお、図49に限らず後述の各図においても磁石の配向方向を矢印にて示すこととしている。配向方向は、磁石400の磁化容易軸が揃えられた方向であり、その磁化容易軸の向きに沿って磁石磁路が形成されている。磁石400の配向方向は、磁石内部の磁力線の向き(磁化容易軸の向き)でもある。
図49に示すように、磁石(磁石本体)400は横断面が平行四辺形状をなしており、互いに対向し、かつ固定子700およびシャフト601それぞれに対向する第1および第2の主面401aおよび401bが、磁束が流出又は流入する作用面401a,401bとなっている。つまり、図示の構成では、互いに平行に対向する2組の対向面のうち長辺側となる各対向面がそれぞれ作用面401a,401bとなっている。磁石400において、長手側となる一対の長手側磁石面と短手側となる一対の短手側磁石面とのうち、一対の長手側磁石面が一対の作用面401a,401bである。回転子鉄心610においては、左右2つの磁石400がd軸に対して線対称に設けられている(図48参照)。
磁石400では、配向により結晶方位の向きが揃えられている。配向方向が完全に任意の方向に向いている場合に、異方性磁石は理想的にその特性を発揮するものとなっている。磁石400の配向方向は、磁石製造時における配向磁場により揃えられる。
磁石400では、2組の対向面のうち一方の組の対向面が、それぞれ磁束が流出又は流入する作用面401a,401bとなり、他方の組の対向面401cおよび401dが、それぞれ磁束が流出又は流入しない非作用面となっている。磁石400は、一対の作用面401a,401bの間における磁石厚さ寸法よりも長い長さの磁石磁路を有し、かつ磁化容易軸が磁石磁路に沿う向きとなるように配向がなされている。言い換えれば、磁石400は、一対の作用面401a,401bの間における磁化容易軸に沿った線分の長さは、磁石厚さ寸法よりも長くなっている。
換言すると、磁石400の配向方向は、作用面401bから作用面401aに向かう向きであり、かつ作用面401a,401bに対して直交以外の角度で交わっており、その向きは、例えば非作用面と同じ向き(平行な向き)となっている。
図50(a)は、本実施形態の磁石400を示す図であり、(b)は、比較例としての磁石402を示す図である。なお、図50(a),(b)の各磁石の断面積は同じであり、各作用面の幅寸法Wと幾何学的な厚み寸法Tは同一である。幅寸法Wは、いずれも長辺側の長さと同じ寸法であり、厚み寸法Tは、いずれも長辺同士(作用面同士)の間を直交線で繋ぐ離間距離である。比較例としての磁石402は横断面が矩形状をなしており、その配向方向(磁化容易軸)は、互いに対向する2辺の作用面403a,403bに対して直交している。
本実施形態の磁石400では、配向方向が作用面401a,401bに対して直交以外の角度で交わっているのに対し、比較例の磁石402では、配向方向が作用面403a,403bに対して直交している。つまり、比較例の磁石402では、その厚み寸法Tと磁石内部の磁気回路の長さ(すなわち、磁石磁路長)とが等しくなっている。これに対し、本実施形態の磁石400では、配向方向が作用面に対して任意の角度θで傾いているため、厚み寸法Tよりも磁石磁路長が長くなっている。そのため、本実施形態の磁石400では、比較例の磁石402と同等の重量と総磁力でありながら、実効磁束密度Bdを増大させることが可能となっている。なお、実効磁束密度Bd[T]は、以下の式(2)により得られる。
Bd=Br÷{1+1/Pc} …(2)
Br[T]は残留磁束密度であり、Pcは、磁石の磁束の通りやすさを表すパーミアンス係数である。式(2)によれば、パーミアンスが無限大となると、BdとBrとが等しくなることが読み取れる。
磁石磁路長Lとパーミアンス係数Pcの関係を図51に示す。図51に示されるように、配向方向の磁石磁路長Lが長いほど、パーミアンス係数Pcが上昇することが見て取れる。本実施形態では、同等の体積の磁石容量において、磁化容易軸(配向方向)の工夫により磁石磁路長Lを延長し、実効磁束密度Bdを増加させることを実現している。磁石400の磁石磁路長Lは、磁石402のそれに比べて「1/cosθ」倍だけ大きくなっている。
言い換えれば、磁石400における一対の作用面401a,401bの間における磁化容易軸に沿った線分の長さLが、磁石厚さ寸法Tよりも「1/cosθ」倍だけ大きくなっている。
次に、磁石400を組み付けた状態の回転子600の詳細を説明する。図48に示すように、磁石400は、作用面401a,401bがd軸に直交する向きとなり、非作用面であるq軸側端部の端面401c及びd軸側端部の端面401dが、d軸に非平行な向きとなっている。この場合、q軸側及びd軸側の各端面401c,401dは、それぞれ作用面401a,401bに対する配向方向の角度に合わせた向きに形成されている。換言すれば、各端面401c,401dの向きが配向方向と同じすなわち、平面視において磁化容易軸と平行な向きになっている。
そして、磁石収容孔611におけるq軸に対向する端部には、磁石400のq軸側端部を構成する端面401cに隣接してフラックスバリア613が設けられる。同様に、磁石収容孔611におけるd軸に対向する端部には、磁石400のd軸側端部を構成する端面401dに隣接してフラックスバリア614が設けられる。このフラックスバリア614は、d軸方向に沿って、特に、シャフト601に向かって延びている。
なお、図48では、磁石400におけるq軸側及びd軸側の各端面401c,401dが、それぞれ作用面401a,401bに対する配向方向の角度に合わせた向きに形成されているが、これを変更してもよい。図示はしないが、例えば磁石400のq軸側及びd軸側のうちq軸側の端面401cのみが、作用面401a,401bに対する配向方向の角度に合わせた向きに形成されてもよい。d軸側の端面401dについては、d軸に平行のままとする。要するに、磁石400の横断面形状は、矩形状(長方形状)や、平行四辺形状、台形状等、任意の四角形状とすることが可能である。
磁石400の横断面形状を矩形状とし、その上で配向方向を磁束作用面401aおよび401bに対して非垂直の角度で交差する向きとすることも可能である。ただしかかる場合には、磁石磁路長の延長化が可能になるものの、磁石400の端部においては、部分的に磁石磁路長が短くなることが考えられる。この点、図48に示す構成では、磁石400のq軸側端部の端面401cが、磁束作用面401aおよび401bに対する配向方向の角度に合わせた向きになっているため、磁石400において磁石磁路長が短い部分が局部的に存在することを抑制できる。
なお、図48の構成では、磁束増加に寄与しない磁石端部が斜めに排除されており、長辺と短辺が直角である長方形の構成と比べて磁石量が削減されている。そのため、磁石作成型内の取り数増加や、材料投入量の削減が可能となる。
回転子600に組み込む永久磁石として、図52に示す磁石404を用いることも可能である。磁石404は、横断面形状が矩形状をなし、かつ配向方向が直線状でなく曲線状になっている。つまり、磁石404では、磁束の作用面405a,405bに対して、配向方向が直線状ではなく曲線状に定められている。図51に示されるとおり、磁石磁路長Lが大きいほどパーミアンス係数Pcが高くなるため、配向方向を曲線にすることで磁石磁路長Lがより一層延長され、パーミアンス係数Pcをより一層高めることが可能となる。
図53に示すN極に対応するペアの磁石収容孔611は、回転子鉄心610に対し、対応するd軸に対して対称に配置されており、かつd軸に対して垂直な向きに延びるように直線状に形成されている。
図53は、磁石収容孔611が形成された回転子鉄心610に、図52に示した磁石404を組み付けた状態を示す図である。図53では、回転子鉄心610において、左右2つの磁石404がd軸に対して線対称に設けられている。すなわち、一対の磁石404の磁化容易軸は、作用面405bから作用面405aに向かう方向であり、かつd軸に向かって曲がるように配向されている。
磁石収容孔611において磁石404が配置されていない部分、すなわち、磁石収容孔611の横断面長手方向におけるd軸に近い端部には、回転子鉄心610内での磁石磁束の自己短絡を抑制するフラックスバリア614が設けられている。このフラックスバリア614d軸に沿って延びるようになっている。
次に、上記実施形態における永久磁石の製造方法を説明する。ここでは特に、永久磁石の一連の製造工程のうち配向工程について詳しく説明する。まずは、磁石製造工程の一連の流れを簡単に説明する。
まずネオジム磁石等の磁石原料の配合が行われ、次に、磁石原料が溶解炉で溶解された後、インゴットが生成される。その後、インゴットの粉砕により数ミクロン程度の微粉末が生成され(粉砕工程)、磁石粉末よりなる成形体を磁場中にセットした状態で磁石の結晶方位、すなわち磁化容易軸を揃える配向が行われる(配向工程)。このとき、例えば微粉末がプレス金型に充填された状態で、微粉末の結晶方位が配向磁場(配向磁界)の方向に揃えられ、配向方向における高い磁気特性が付与される。その後、配向が付与された磁石(プレス成形された圧粉体)、すなわち磁化容易軸が揃った状態となっている磁石に対して真空中で焼結及び熱処理が行われる(焼結工程)。その後、着磁磁場中に磁石を配置した状態で着磁が行われる(着磁工程)。以上により、永久磁石の製造が完了する。
図54(a),(b)を用いて、配向工程に関わる具体的な構成を説明する。図54(a)は、配向工程(磁場中成形)で用いられる配向装置300の概略構成を示す図であり、図54(b)は、配向工程により配向された複数の磁石MGを示す図である。なお、図54(a)では、磁石MGの作成に用いる磁石作成型である金型250が示されており、その金型250は、磁石MGにおいて一対の磁束作用面が形成される外面が配向磁界に対して斜めに交差する向きとなるようにセットされるようになっている。
配向装置300は、金型250を内包可能な大きさの磁場発生装置301を備えている。磁場発生装置301は、通電により内部に所定方向の配向磁界を生成するコイル301aを有しており、そのコイル301aの軸方向に対して、配向対象である金型250内の磁石粉末成形体の外面となる任意の面に直交する法線N(例えば金型250内の磁石粉末成形体の任意の面直交する法線)が非平行の所定角度となるようにして、コイル301a内に金型250が配置される。これにより、磁石の外面となる磁石粉末成形体の任意の面に対して垂直でない向きで配向磁界をかけた状態で配向が行われる。なお、金型250は、磁石粉末が充填された状態で、コイル301a内の空間に配置される。
この場合、磁場発生装置301(コイル301a)への通電により発生する配向磁場302を金型250に与え、その状態で、金型250の磁石粉末に対する配向を実施する。これにより、配向率を高めつつ、磁石MGを好適に作成することができる。配向率は、磁石MGの飽和磁束密度に対する残留磁束密度Brの比率でもある。
本実施形態においては、コイル301aを用いた磁場発生装置301により強力な磁場を生み出すことができるため、配向率が90%以上と良好な状態になる。図54(b)において、斜めの実線は磁石MGの配向方向を示す。上記構成の配向工程によれば、例えば上述の磁石400を、高い配向率で好適に得ることができる。またこの場合、磁石MGにおいて直線でかつ平行な向きとなる配向を好適に実施できる。
配向及び焼結が行われた後の磁石MGを複数に切断し、その切断した各磁石MGに対して着磁を行うようにしてもよい。図55(a)は、金型250とその内部の磁石MGとを示す断面図である。
図55(a)に示すように、金型250には、複数個分(図では4つ分)の磁石MG1~MG4を切出し可能とする大きさを有する磁石MG(磁石ブロック)が収容され、その状態で、磁石MGの配向及び焼結が行われる。そして、焼結後において、切断作業により、磁石MGが複数の磁石MG1~MG4に分割される。なお、焼結工程では磁石MGの収縮が生じるため、配向工程(磁場中成形)では、その収縮分を想定しつつ金型250により磁石MGが成形される。配向工程では、磁石MGの所定の外面に対して斜めとなる向きで配向が行われる。そのため、磁石MG(磁石ブロック)が直方体状をなしている場合において、切断作業では、磁石MGにおける所定の外面(図では縦向きの外面)に対して平行に切断が行われるとよい。
これにより、磁石MG1~MG4として、互いに対向しかつ磁束の流入流出面となる一対の作用面の間における磁石厚さ寸法よりも長い長さの磁石磁路を有し、かつ磁化容易軸が磁石磁路に沿う向きとなるように配向がなされている磁石(例えば図49の磁石400)を好適に作製することができる。
図55(b)に示すように、金型250は、その内部空間を区画する内壁として、配向磁界(図の矢印方向)に対して傾斜する第1壁251と、配向磁界に対して平行となる第2壁252とを有する構成であるとよい。これにより、各磁石MG1~MG4において磁石厚さ寸法よりも長い長さの磁石磁路を好適に形成しつつ、磁石磁路が部分的に短くなる箇所を、配向工程の段階で好適に排除することができる。したがって、磁石材料の削減や切削工程の削減等を図ることができる。
図56(a),(b)を用いて、配向工程に関わる別の構成を説明する。図56(a)は、配向装置310の構成を側方視で示す概略図であり、図56(b)は、配向装置310の構成を断面視で示す概略図である。図56(b)には、配向磁場316と金型260との位置関係が示されている。
本実施形態の配向装置310は、所定距離を隔てて同軸に配置される磁場発生用の一対のコイル311,312と、それら一対のコイル311,312の間においてコイル中心軸から外方に離れた位置に配置される配向ヨークとしての複数の鉄心313とを備えている。これらコイル311,312及び鉄心313が磁場発生装置に相当する。コイル311,312は、通電に伴い内向き、すなわち配向装置310の中心側に向けて磁界を生じさせる。また、複数の鉄心313は、円状に分散配置されている。複数の鉄心313が配置される径方向の位置は、コイル311,312よりも径方向外側であってもよい。なお、複数の鉄心313は、断面が円環状をなす以外に、断面が矩形状又は円弧状の形状をなしていてもよい。磁石MGを成形するための金型260は、複数の鉄心313が並ぶ仮想円よりも内側に配置される。
すなわち、コイル311,312は、通電に伴い内向き、すなわち配向装置310の中心側に向けて不均等な磁界を生じさせる。具体的には、コイル311、312から生じる磁界は、複数の鉄心313の数および間隔に応じて、不均等に配向されている。
2つのコイル311,312により、互いに逆の極性を持った磁場314,315が、磁石粉末が充填された金型260に向けて生成される。そしてこの状況において、2つの磁場の反発(磁界の衝突)により、各鉄心313に向かって径方向外側に拡がっていく配向磁場316が生成される。この場合、逆極性の磁場の反発により放射状に一様に拡がるように生じる磁場が、周方向に分散配置された鉄心313に集まることで、磁場に分布を持たせることができる。つまり、曲率を持った配向磁場316(円弧を描く向きの配向磁界)を生成することができる。この配向磁場316を利用することにより、上述の磁石400,404を高い配向率で好適に得ることができる。
図57(a)は、磁石MGに対する配向の向きを具体的に示す図である。図57(a)では、磁場の反発が領域K1で生じ、その磁場の反発により領域K1から鉄心313に向けて配向磁場316が生成されている。配向磁場316は、磁束が鉄心313に集まることで円弧を描くように生成される。この場合において、配向磁場中に所定の向き(例えば一対の作用面が形成される磁石外面が配向磁界に対して斜めに交差する向き)で金型260を配置することで、金型260内の磁石MGに対して所望の向きで配向を行うことができる。これにより、磁石MGとして、互いに対向しかつ磁束の流入流出面となる一対の作用面の間における磁石厚さ寸法よりも長い長さの磁石磁路を有し、かつ磁化容易軸が磁石磁路に沿う向きとなるように配向がなされている磁石(例えば図53の磁石404)を好適に作製することができる。本構成は、磁石MGにおいて円弧状となる配向を好適に実施できる。
図57(b)のように金型260を構成することも可能である。この場合、金型260は環状なし、周方向に8つの収容部261を有している。収容部261は、棒状の鉄心313に応じて設けられ、その数は鉄心数の2倍であるとよい。各収容部261の間には、配向磁場316の向きに応じた角度で仕切り壁262,263が設けられている。
図58(a),(b)を用いて、配向工程に関わる別の構成を説明する。図58(a)は、配向装置320の構成を側方視で示す概略図であり、図58(b)は、配向装置320の構成を断面視で示す概略図である。図58(b)には、配向磁場322と金型270との位置関係が示されている。
本実施形態の配向装置320は、磁場発生装置321を構成する直線状の導体321aを有しており、導体321aへの通電に伴い、その導体321aを中心とする周方向に配向磁場322が生成される。磁石粉末が充填された金型270は、導体321aの周囲に所定の向きで配置される。この配向磁場322を利用することにより、上述の磁石400,404を高い配向率で好適に得ることができる。この場合、射出成形の金型に磁石粉体を充填し成形することで、無切削で磁石の製作が可能となり、効率向上が可能となる。
導体321aの周囲において、複数の金型270を円環状に配置することが可能である。また、所望とする配向方向に応じて、金型270の向きを適宜設定するとよい。
上記によれば、磁石として、互いに対向しかつ磁束の流入流出面となる一対の作用面を有するとともに、その一対の作用面の間における磁石厚さ寸法よりも長い長さの磁石磁路を有し、かつ磁化容易軸が磁石磁路に沿う向きとなるように配向がなされている磁石(例えば図53の磁石404)を好適に作製することができる。本構成は、磁石MGにおいて円弧状となる配向を好適に実施できる。
(第7実施形態)
本実施形態では、回転子600における永久磁石の構成を変更している。図59に、本実施形態における回転子600の具体的な構成を示す。図59に示すように、回転子鉄心610の磁石収容孔611には、d軸を挟んで両側に磁石410が収容されている。左右2つの磁石410は、d軸に対して線対称に設けられている。
磁石410は、横断面が矩形状をなしており、径方向の内外に並び、かつ互いに対向する2辺の面が、磁束が流出又は流入する作用面411a,411bとなっている。また、磁石410では、d軸に近い部分412aとq軸に近い部分412bとで配向方向(磁化容易軸)が相違している。つまり、磁石410では、磁石長手方向における一方の端部と他方の端部とで、磁石磁路の向きが相違している。特にd軸に近い部分412aとq軸に近い部分412bとのうちd軸に近い部分412aでは、q軸に近い部分412bよりも配向方向がd軸に平行に近くなっている。換言すれば、磁石410では、d軸寄りの部分とq軸寄りの部分とで配向方向(磁化容易軸)が相違しており、d軸寄りの部分では、q軸寄りの部分よりも配向方向がd軸に平行に近くなっている。
また、磁石410は、横断面長手方向におけるq軸およびd軸それぞれに近接するq軸側端部411cおよびd軸側端部411dを有している。つまり、作用面411a,411bに沿った長手方向における両端部がq軸側端部411cおよびd軸側端部411dである。この場合、d軸側端部411dおよびq軸側端部411cの一方に近い位置における配向方向(磁化容易軸)が他方に近い位置における磁化容易軸と相違している。つまり、磁石410において、d軸側端部411dおよびq軸側端部411cのうち、d軸側端部411dに近い部分412aでは、q軸側端部411cに近い部分412bよりも配向方向がd軸に平行に近くなっている。
詳しくは、図60に示すように、磁石410におけるq軸側端部411cよりもd軸側端部411dに近い所定位置における配向方向をX1、d軸側端部411dよりもq軸側端部411cに近い所定位置における配向方向をX2とすると、d軸側端部411dに近い位置の配向方向X1が、q軸側端部411cに近い位置の配向方向X2よりもd軸に平行に近くなっている。つまり、磁石410において、作用面411aおよび411bに垂直な方向、すなわち、d軸、に対する配向方向X2の傾斜角(θ2)が、配向方向X1のd軸に対する傾斜角(θ1)よりも大きくなっている。本実施形態の磁石410では、q軸側端部101cからd軸側端部101dに向かうのに伴い、配向方向の磁石長さ、すなわち配向方向における始点から終点までの磁石磁路が徐々に短くなっている。
図59のように配向方向(配向角度)を設定することにより、d軸付近では、d軸を挟んで両側の磁石410において互いに向き合う方向での磁石磁束が減じられる。これにより、d軸を挟んで両側の磁石410の磁束が互いに反発することで生じる減磁を抑制することができる。
d軸付近における配向方向設定の効果を、図86(a),(b)を用いて説明する。なお、図86(a),(b)では、回転子鉄心650に、磁石415が略V字状に配置された構成が示されている。図86(a)が従来の構成に相当し、図86(b)が本実施形態の構成に相当する。
ここで、図59に示す磁石410のd軸側端部411dにおける磁束作用面411aに直交する方向に対して傾斜し、かつd軸に向かう方向に延びるように磁化容易軸(図60におけるX1方向)に配向した構成の効果を図86(a)および(b)を用いて説明する。
図86(a)および(b)では、回転子鉄心650に、一対の磁石415が略V字状に配置された構成が示されている。このとき、図86(a)が従来の構成に相当、すなわち、磁石415におけるd軸側端部の磁化容易軸が磁束作用面に直交する方向であるのに対し、図86(b)は、磁石自体の構成は、図59に示す構成と異なるが、本実施形態の構成に相当、すなわち、磁石415におけるd軸側端部の磁化容易軸が磁束作用面に直交する方向に対して傾斜し、かつd軸に向かう点で、図59に示す構成と同一である。
図86(a)では、磁石415において磁束作用面に対して垂直に磁束Φ10が生じており、その磁束Φ10は、d軸に平行な成分Φ11と、d軸に垂直な成分Φ12とを含む。この場合、d軸に垂直な成分Φ12が、d軸を挟んで互いに対向し合う磁束、すなわち互いに反発し合う磁束となっている。
一方で、図86(b)では、磁石415のd軸付近において磁束作用面に対して垂直以外の角度で交差するように磁束Φ20が生じており、その磁束Φ20は、d軸に平行な成分Φ21と、d軸に垂直な成分Φ22とを含む。この場合、図86(b)に示す磁束Φ20は、図86(a)に示す磁束Φ10に比べてd軸に平行に近い向きとなっている。これにより、d軸に垂直な成分Φ22がΦ12よりも小さくなっている。そのため、d軸を挟んで互いに対向し合う磁束、すなわち互いに反発しあう磁束を弱めることができ、ひいては減磁の抑制が可能となっている。
なお、図59に示す磁石410の配向方向は、全てが磁束作用面411a,411bに対して非垂直の角度で交差する向きとなっている以外に、その配向方向として、磁束作用面411a,411bに対して垂直に交差する向きとなるものが含まれている構成であってもよい。
また、図59に示す構成では、磁石410において、径方向の内外に並ぶ一対の対向面が、磁束が流出又は流入する作用面411a,411bとなっていることに加え、q軸側の端面も磁束が流出又は流入する作用面411cとなっている。つまり、磁石410のq軸側端部では、d軸側端部よりも配向方向がq軸に直交する向きとなっていることから、q軸側端面411cにおいても磁束の流出又は流入が可能となっている。以下には説明の便宜上、磁石410において、径方向の内外に並ぶ一対の対向面を第1作用面411a,411b、q軸側端面411cを第2作用面411cとも称する。なお、磁石410では、固定子側(図の上側)の第1作用面411aに直交する方向に対して配向方向が傾いていることにより、第2作用面411cが形成されることになる。
この場合、一対の第1作用面411a,411bのうち固定子側となる作用面411aと第2作用面411cとの間においてその一方から他方に延びる磁石磁路が形成されている。また、磁石410は、第2作用面411cが磁石収容孔611の内壁面(鉄心側面)に接触した状態、すなわちその内壁面に対して極力隙間が生じないような状態で設けられている。
N磁極であれば、固定子側の第1作用面411aが磁束の流出面であり、反固定子側の第1作用面411bと第2作用面411cとが磁束流入面である。S磁極であればその逆である。換言すれば、例えばN磁極では、3つの磁束作用面のうち、固定子側となる第1作用面411aが磁石410の磁束流出面となるとともに、残り2つの第1作用面411b及び第2作用面411cが共に磁束流入面となっている。
ここで、第2作用面411cが磁束流入面である場合には、2つの作用面(反固定子側の第1作用面411b、及び第2作用面411c)から流入した磁束が、1つの作用面(固定子側の第1作用面411a)から流出する。また、第2作用面411cが磁束流出面である場合には、1つの作用面(固定子側の第1作用面411a)から流入した磁束が、2つの作用面(反固定子側の第1作用面411b、及び第2作用面411c)から流出する。この場合、磁石410のq軸側端部の付近の鉄心において、磁束の集約や分散が可能となる。
第1作用面411a,411bは、磁極中心で生じる磁束(磁極磁束)を生成する作用面であり、第2作用面411cは、q軸を通る磁石磁束を生成する作用面である。本実施形態の磁石410では、第1作用面411a,411b及び第2作用面411cのいずれにおいても、作用面に対して配向方向が非垂直の角度で交差する向きとなっている。
本実施形態の磁石410では、一対の第1作用面411a,411bのうち固定子側となる作用面411aと第2作用面411cとの間に磁石磁路が形成されている。本構成では、第2作用面411cが磁石410のq軸端面に設けられていることから、隣り合う逆極性の各磁極においては、各磁極の磁石410の第2作用面411c(q軸端面)を通じて磁石磁束が流れる。そのため、q軸側の鉄心において磁気飽和の状態を調整することが可能となる。本構成は、埋込磁石型の回転子鉄心610において、従来用いられてないq軸鉄心を磁石410の磁気回路磁路として積極的に用いることとした構成である。
また、磁石410は、第2作用面411cが磁石収容孔611の内壁面に接触するようにして設けられているため、q軸を挟んで両側となる隣り合う磁極の磁石410において、各磁石410の第2作用面411cとその間の鉄心とを介して磁気回路磁路を好適に形成することができる。それにより、q軸側の鉄心部分において、磁気飽和の状態を好適に調整することができる。
(第8実施形態)
本実施形態では、回転子600における永久磁石の構成を変更している。図61に、本実施形態における回転子600の具体的な構成を示す。
図61に示すように、回転子鉄心610には、d軸を挟んで両側に磁石収容孔611が形成され、その磁石収容孔611内にそれぞれ磁石420が収容されている。磁石収容孔611及び磁石420は、q軸側端部とd軸側端部とで径方向の位置が互いに異なっており、q軸側端部はd軸側端部よりも径方向外側に配置されている。また、磁石収容孔611及び磁石420は、いずれも横断面が回転子600の径方向外側に向けて凸となる凸形状をなしている。図61の構成では、磁石収容孔611及び磁石420は、回転子600の径方向外側及びd軸側に向けて凸となる円弧状をなしている。左右の磁石収容孔611及び磁石420は、d軸に対して線対称に設けられており、磁極ごとに言えば、略V字状に配置されている。
ここで、本実施形態の回転子600について、平板状の永久磁石を用いた従来構成との相違及び本実施形態の利点を図87~図90を用いて説明する。図87~図90では、回転子鉄心650に、磁石415が略V字状に配置された構成が示されている。図87では、図示しない固定子からの回転磁界としてd軸を横切る励磁磁界661が生じており、図88では、図示しない固定子からの回転磁界としてq軸を横切る励磁磁界662が生じている。また、図89は、図90に示す埋込磁石型回転子の等価磁気回路図である。
図87及び図88に示す構成において、図示しない固定子から生じる励磁磁界661,662が回転子に付与される状態では、回転子外径側から磁束が適応されるため、回転子鉄心650の外径側部分651が、内径側部分652より低い励磁磁界で磁気飽和することが容易に想定できる。特に、鉄量の少ないq軸側部分653で磁気飽和が発生することが、当該部位付近における減磁を考えると対策すべき課題となる。q軸側部分653の磁気飽和により、略V字状に配置された磁石415に囲まれた回転子鉄心650の外径側部分651が飽和する。そして、透磁率が低下し、図89に示される磁気抵抗R1の抵抗値の増加が発生する。この状態では、磁石415が磁気飽和した鉄心の中に存在することになり、空気中に存在する磁石のように低いパーミアンスとなる。そのため、減磁や磁束低下の状態に晒されることとなる。
これに対して、図61の回転子鉄心610では、磁石420を径方向外側に凸となる凸形状としたため、略V字状に配置された磁石420に囲まれた回転子鉄心610の外径側部分651、すなわち、磁気飽和しやすい部分の鉄を減らし、図89に示される磁気抵抗R1の低減を図ることができる。これにより、減磁耐性を高めることができる。また、磁石420を径方向外側に凸となる凸形状として、d軸付近における外周側の鉄心を減らすことにより、鉄損の低減にも効果が期待できる。
また、図61に示す構成では、磁石420において、径方向の内外に並ぶ一対の対向面が、磁束が流出又は流入する第1作用面421a,421bとなっていることに加え、q軸側の端面が、磁束が流出又は流入する第2作用面421cとなっている。
つまり、磁石420では、配向方向が直線状ではなく、d軸側に凸となる曲線状となっている。これにより、q軸端部では、q軸に対向するq軸端面が磁束作用面(第2作用面421c)となっている。この場合、第2作用面421cと回転子外径側の第1作用面421aとの間に磁石磁路が形成されるようになっており、その磁石磁路の長さは、磁石420における物理的厚み、すなわち2つの第1作用面421a,421bの間の距離よりも長くなっている。なお、第2作用面421cと回転子外径側の第1作用面421aとの間の物理的な距離、すなわち、第2作用面421cと回転子外径側の第1作用面421a間の磁化容易軸に沿った曲線の最短距離、が磁石厚さ寸法よりも長くなっているとよい。
N磁極であれば、固定子側(図の上側)の第1作用面421aが磁束の流出面であり、反固定子側(図の下側)の第1作用面421bと第2作用面421cとが磁束流入面である。S磁極であればその逆である。
また、磁石420には、q軸側端面において固定子側の第1作用面421aと第2作用面421cとの間に、磁束の流入及び流出が生じない非作用面422が設けられている。この非作用面422は、磁石420のq軸端面を内側に円弧状に凹ませて形成されており、それは磁石配向に沿う向き(概ね合致する向き)となっている。そして、その非作用面422と鉄心(磁石収容孔611の内壁面)との間は、磁石収容孔611内において磁石420が存在していない非磁性部621(例えば空間)となっている。この場合、磁石420のq軸側端面において、その一部でありかつ磁束作用面である第2作用面421cで磁石420が鉄心と接し、他の部分である非作用面422では磁石420が鉄心に接しない構成となっている。
これにより、埋込磁石型の回転子鉄心において従来使われないq軸鉄心を、磁石磁束が通る磁気回路磁路として使うことができる。つまり、磁石420のq軸側端部に第2作用面421cが設けられていることにより、回転子鉄心610のq軸側部分622に磁束が通り易くなるようになっている。この場合、磁石420のq軸側端部の外側に非磁性部621が設けられていることにより、q軸側部分622により一層集中的に磁束が流れるようになっている。また、磁石420の磁束を、第2作用面421cを含む各作用面で分散させることが可能となり、磁気飽和を必要最小限にして減磁耐力をより一層良好にすることができる。この場合、q軸付近において回転子鉄心610内で磁石磁束がループすることを抑制しつつ、第2作用面421cを用いて磁気飽和の状態を適正に調整することができる。
磁束の分散による効果を補足説明する。インナ回転側の回転子では、回転子鉄心において磁石より内径側に固定子からの磁束が届きにくいため、磁石よりも内径側では磁束として主に磁石磁束が存在することとなる。故に、磁石内径側の鉄心量は、磁石の発生磁束量を許容するように適宜設計されている。本実施形態によれば、q軸上の鉄心を磁石420の第2作用面421cを通る磁束の通り道として構成できることから、効果的に磁束を分散させることができる。第2作用面421cによれば、例えば回転子裏側の鉄量の減少による軽量化や、磁気飽和の緩和による高効率化が期待できる。
また、図61の磁石420のq軸端部では、q軸端面における非作用面422が内側に凹んだ円弧状に形成され、その円弧状の端面に沿って磁石配向がなされている。そして、2つの作用面421a,421c間に、磁石420のd軸端部の弧状に沿って磁石磁路が形成されている。これにより、磁石量の削減を図り、かつ減磁耐力を一層高くすることができる。
なお、図61に示す回転子鉄心610において、d軸を挟んで両側の各磁石420よりもd軸側の部分には、左右一対のフラックスバリア623が設けられ、それら各フラックスバリア623の間には、d軸中央の鉄心リブ624が設けられている。鉄心リブ624により、d軸上での強度補強が図られている。
(第9実施形態)
本実施形態では、回転子600における永久磁石の構成を変更している。図62に、本実施形態における回転子600の具体的な構成を示す。図62に示すように、回転子鉄心610の磁石収容孔611には磁石430が収容されている。磁石収容孔611及び磁石430は、d軸に直交する向きに直線状に配置されている。つまり、磁石430は、d軸を跨いでd軸に対して垂直方向に延在している。
磁石430では、径方向の内外に並ぶ一対の対向面が、磁束が流出又は流入する第1作用面431a,431bとなっていることに加え、q軸側の端面が、磁束が流出又は流入する第2作用面431cとなっている。つまり、磁石430では、q軸寄りの部分において、径方向内側に凸となる曲線状の配向方向が定められており、これにより、q軸端部では、q軸に対向するq軸端面が磁束作用面(第2作用面431c)となっている。本構成では、第2作用面431cと固定子側の第1作用面431aとの間においてその一方から他方に延びる磁石磁路が形成されている。磁石磁路の長さ(第2作用面431cと固定子側の第1作用面431aとの間の最短距離)は、磁石420における物理的厚み、すなわち2つの第1作用面431a,431bの間の最短距離よりも長くなっている。
磁石430のq軸側端部に第2作用面631cが設けられていることにより、回転子鉄心610のq軸側部分625において磁束が通り易くなっている。この場合、磁石430のq軸側端部において高いパーミアンスを得られるようになっている。また、磁石430には、q軸側端面において固定子側の第1作用面431aと第2作用面431cとの間に、磁束の流入及び流出が生じない非作用面432が設けられている。この非作用面432は、磁石430のq軸端面を内側に円弧状に凹ませて形成されており、それは磁石配向に沿う向き(概ね合致する向き)となっている。そして、その非作用面432と鉄心(磁石収容孔611の内壁面)との間は、磁石収容孔611内において磁石430が存在していない非磁性部626(例えば空間)となっている。この場合、磁石430のq軸側端部の外側に非磁性部626が設けられていることにより、q軸側部分625においてより一層集中的に磁束が流れるようになっている。
なお、図59や図61、図62に示されるように、各磁石410,420,430にそれぞれ第2作用面が設けられる場合において、その磁石形状は任意である。すなわち、磁石形状にかかわらず所望の効果が得られるものとなっている。
また、磁石430のd軸付近では、その配向方向がq軸側端部に近い部分の配向方向とは異なっており、d軸での配向方向はd軸に平行となっている。これにより、磁石430のd軸部分においてd軸に垂直な成分による減磁を抑えることが可能になっている。
図62に示す磁石構造では、磁石430がd軸に直交する向きに延びるように設けられているため、図89における磁気抵抗R1が小さくなり、略V字型の配置と比べて磁石量を抑えることができる。この回転子600の構成は、例えば車両においてエンジン軸直結のモータジェネレータに好適に用いられる構成である。つまり、減速を行い、出力軸においてエンジンと同等のトルクを減速機を介して出力するモータジェネレータシステムでは、回転数が高く、遠心力に対する強度が不足するためである。理由としては、図61に示す構成では、d軸中央の鉄心リブ624が強度補強の役割を果たしているのに対して、d軸中央の鉄心リブがない本実施形態の図62の構成では強度が低いためである。
しかし、減速機を介しないシステムでは、モータジェネレータが0~9000rpm程度のエンジン回転数で動作するため、d軸中央の鉄心リブを不要にすることができる。本実施形態の構成を採用することにより、磁石体積当たりの出力トルクを、図61におけるd軸鉄心が許容可能な磁束量の分だけ、磁石磁束を改善することができる。
d軸中央の鉄心リブは強度補強とはなるが、磁石の磁束を回転子内で完結させる磁路となることが考えられる。そのため、エンジン回転数程度のモータや、Φ100(外径100mm)未満の小型で遠心力が小さいモータにおいては、図62に示す構成の方が優れた構成となる。
図63には、磁石430の構成の一部を変更した磁石433を示している。図63に示す磁石433は、複数の磁石の集合体として構成されており、d軸を跨ぐ位置に設けられる中央磁石434aと、その中央磁石434aの両端に接合される2つの端部磁石434b,434cとからなる。中央磁石434aは、横断面が矩形状をなしているのに対し、端部磁石434b,434cは、回転子鉄心610の外周側でかつd軸側となる角部が一部切り欠かれた形状をなしている。図63に示す磁石433において、配向方向や磁束作用面の設定は、図62に示す磁石430と同じである。
図63に示す磁石433では、上記同様、q軸側端部において高いパーミアンスを得ることができるとともに、磁石中央部において左右両側からの磁束集中による減磁を抑えることができる。
(第10実施形態)
図64(a),(b)に示す磁石440,450を回転子600に用いることも可能である。図64(a),(b)に示す各磁石440,450は、例えば上述した図48の回転子600に適用される。この場合、回転子600において、磁石400に代えて磁石440及び磁石450のいずれかが用いられ、その磁石440及び磁石450のいずれかが、d軸を挟んで両側に線対称でそれぞれ配置される。なお、永久磁石を変更する際には、磁石外周側と内周側の作用面間の距離が再設定されて適応される。
図64(a)では、磁石440において、図の上下(回転子600の径方向の内外)に並ぶ一対の対向面が第1作用面441a,441bであり、図の左端面(q軸側端面)が第2作用面441cである。なお、磁石440の左端面においては一部のみが第2作用面441cとなり、それ以外は非作用面となっている。
また、図64(b)では、磁石450において、図の上下(回転子600の径方向の内外)に並ぶ一対の対向面が第1作用面451a,451bであり、図の左端面(q軸側端面)が第2作用面451cである。なお、磁石450の左端面においては一部のみが第2作用面451cとなり、それ以外は非作用面となっている。
各磁石440,450には、矢印にて円弧状の配向方向が示されている。各磁石440,450は、それぞれ第2作用面441c,451cの側をq軸側として、回転子鉄心610においてd軸の両側に設けられた磁石収容孔611にそれぞれ収容配置される。
各磁石440,450を比べると、その両者は、一対の第1作用面441a,441bの間の最短距離、すなわち物理的な磁石厚さが相違しており、磁石440の方が磁石450よりも厚さ寸法が小さいものとなっている。この場合、各磁石440,450では、配向の曲率(配向円の半径)が相違しており、磁石440の方が磁石450よりも配向円の曲率半径が小さいものとなっている。配向円の曲率半径に応じて配向を適宜設定することにより、配向率の向上を図ることができる。配向円の曲率半径が小さい磁石440では、例えば上述した図58(b)に記載の配向磁場322により配向されることが好適である。
配向磁場は、ネオジム磁石では2T程度であることが知られているため、飽和磁束密度が2T程度の鉄系の鉄心では、急激な曲率変更がしにくいことが想像に足る。このため、既述の図58(a),(b)の手法で発生される配向磁場が、最も小さい曲率半径のものとして考えても相違ない。
ここで、上述した図54(a)の如く、旋回した長尺のコイル301aにより配向磁場302が生成される場合には、配向方向の曲率が大きくなることが容易に想定される。また、図54(a)に記載の配向磁場302は、図58(a),(b)に記載の少ない本数の導体で生成される配向磁場322に比べ、旋回するコイル301aの軸寸法内で一様に2T以上を保つことが容易に可能である。このため、高い配向率を実現するには、図54(a)の手法により配向されることが好ましい。
各磁石440,450における配向方向を、図65(a),(b)を用いて補足説明する。図65(a)には、磁石440の配向方向を定める配向円332を一点鎖線で示している。これは一般的に極異方配向と呼ばれる配向である。この場合、回転子外周面から固定子内径までのエアギャップ空間におけるq軸上の中心点331により配向円332を定め、その配向円332により配向方向設定を行うことで、回転子の固定子との磁束授受を行うエアギャップ面での磁束密度波形を、正弦波とすることが可能となる。
また、図65(b)には、磁石450の配向方向を定める配向円334を一点鎖線で示している。この場合、配向方向設定を行う配向円334の中心点333を、q軸位置から隣接極側に離し、かつ前記エアギャップ空間から固定子側に離れた位置に設定している。これによる効果は、配向率の向上である。
配向円の曲率半径が小さい磁石440は、図58(b)に記載の配向磁場322により配向されることが好適であるが、図58(a),(b)の手法では、図54(a)の手法と比べて導体本数を多く取ることができず、高い配向率を出しにくいと考えられる。そのため、図65(b)に示されるように配向円の曲率半径を大きくし、図54(a)の手法により高い配向磁場を適応可能とすることが望ましい。
(第11実施形態)
第11実施形態として、永久磁石の着磁工程で用いる着磁装置について説明する。着磁工程では、配向及び焼結が終了した磁石について着磁装置による着磁が行われる。本実施形態の着磁装置は、一対の磁束作用面の間に円弧状をなす磁石磁路を有する磁石を製作する上で好適に用いることができるものとなっている。例えば、図52の磁石404、図61の磁石420、図62の磁石430、図63の端部磁石434b,434c、図64の磁石440,450の製造時において、本実施形態の着磁装置が用いられるとよい。この着磁は、例えば図56~図58で説明した配向工程の後に実施される。図66(a),(b)及び図67にはそれぞれ、略円筒形状を有する着磁装置について、その軸方向に直交する横断面方向の概略構成を示している。
着磁装置について横断面方向の概略構成を示している。
図66(a)に示すように、着磁装置340は、上記横断面において略円形状をなす内側着磁鉄心341と、その内側着磁鉄心341の外周側に配置される円環状の外側着磁鉄心342とを備えている。内側着磁鉄心341が第2着磁鉄心に相当し、外側着磁鉄心342が第1着磁鉄心に相当する。内側着磁鉄心341の外周面および外側着磁鉄心342の内周面の間には隙間が形成されており、その隙間が磁石挿入空間343となっている。つまり、各着磁鉄心341,342は、所定間隔を隔てて互いに対向する状態で配置されている。各着磁鉄心341,342は、飽和磁束密度Bsが2T程度の軟磁性体により作成されている。
内側着磁鉄心341には、外周面において、外側着磁鉄心342の内周面に向かって開口する導体収容凹部としての複数のスロット344が周方向に所定ピッチで形成されている。各スロット344には、着磁導体としての着磁コイル345が巻装されている。例えば、内側着磁鉄心341における、隣り合うスロット344内の部分(以下、保持部とする)に着磁コイル345が取り付けられており、この結果、隣り合うスロット344間では、着磁コイル345の導体に対する通電の向きが互いに逆になっている。
例えば、図66(a)では、6個の保持部があり、それぞれに着磁コイル345が巻きつけられている。なお、1つの着磁コイル345をそれぞれスロット間に巻きつけてもよい。
そして、着磁工程においては、磁石挿入空間343の所定位置に着磁対象の磁石MG10がセットされ、その状態で、通電装置により着磁コイル345への通電により着磁が行われる。この場合、各スロット344における着磁コイル345の導体を中心にして、内側着磁鉄心341と外側着磁鉄心342との両方を跨ぐようにして磁石挿入空間343に着磁磁場346が生成され、その着磁磁場346の磁束により、磁石挿入空間343にセットされた磁石MG10に対して着磁が行われる。
外側着磁鉄心342は、その内周面および外周面間の最短距離を外側着磁鉄心342の厚さ寸法T11として有している。外側着磁鉄心342は、着磁コイル345への通電により着磁磁場が生じる場合において、磁石挿入空間343にセットされた磁石MG10に対して所望の方向の強力な磁界を発生させる磁束誘導ヨーク(着磁ヨーク)である。外側着磁鉄心342は、その特徴として、径方向の厚さ寸法T11が、内側着磁鉄心341の極ピッチ(内側着磁鉄心341の外周面に沿う円上において、隣り合うスロット344のスロット中心位置での距離ピッチ、又は隣り合うスロット344の間の鉄心幅寸法)よりも小さい寸法となっている。このように設定することで、着磁磁場346は外側着磁鉄心342まで完全に通り切らず、エアギャップ面の任意の点から同心円に近い磁束を設定することが可能となる。つまり、外側着磁鉄心342では、周方向よりも先に径方向に磁気飽和が生じることになり、磁石挿入空間343において比較的大きい曲率で円弧状の着磁磁場346が生成される。
なお、外側着磁鉄心342の径方向の厚さ寸法T11は、内側着磁鉄心341の極ピッチの1/2よりも小さい寸法であることが望ましい。着磁コイル345は、外側着磁鉄心342での磁気飽和を生じさせることを可能とする大きさの電流で通電されるとよい。
本手法によれば、図64(a)に記載した配向磁石、すなわち配向円の曲率半径が比較的小さい磁石440において、所望とする着磁を容易に実施でき、97%以上の高い着磁率を実現することができる。
なお、図66(b)に示すように、内側着磁鉄心341およびスロットを用いず、外側着磁鉄心342に対向するように、着磁コイル345を設けることも可能であり、着磁コイル345に対する通電により、図中符号346で示す着磁磁場を生成することも可能である。また、内側着磁鉄心341を非磁性体により製造された円弧状の保持部として構成することも可能である。
いずれにしろ、所定厚さを有する着磁鉄心(外側着磁鉄心342)を用い、その着磁鉄心において厚さ方向の一方の側に導体(着磁コイル345)と磁石MG10とを配置した状態で、導体の通電により着磁磁界を生成して、磁石MG10において互いに対向する一対の対向面の間に円弧状をなす磁石磁路を形成するものであればよい。なおこの場合には、着磁鉄心(外側着磁鉄心342)から離間した位置に導体(着磁コイル345)を配置するとともに、周方向において導体中心位置から離れ、かつ導体よりも着磁鉄心に近い位置に磁石MG10を配置するとよい。
また、図67に示す着磁装置350は、図66(a)の着磁装置340と基本構造は同じであり、一部を変更したものである。図67に示すように、略円筒形状を有する着磁装置350は、その軸方向に直交する横断面において略円形状をなす内側着磁鉄心351と、その内側着磁鉄心351の外周側に配置される上記横断面において円環状の外側着磁鉄心352とを備えている。内側着磁鉄心351が第2着磁鉄心に相当し、外側着磁鉄心352が第1着磁鉄心に相当する。内側着磁鉄心351の外周面および外側着磁鉄心352の内周面の間には隙間が形成されており、その隙間が磁石挿入空間353となっている。各着磁鉄心351,352は、飽和磁束密度Bsが2T程度の軟磁性体により作成されている。内側着磁鉄心351の外周面には、導体収容凹部としての複数のスロット354が周方向に所定ピッチで形成されており、各スロット354には、着磁導体としての着磁コイル355が巻装されている。隣り合うスロット354では、着磁コイル355の導体に対する通電の向きが互いに逆になっている。
例えば、図67では、6個の保持部があり、それぞれに着磁コイル355が巻きつけられている。なお、1つの着磁コイル355をそれぞれスロット間に巻きつけてもよい。
着磁工程においては、磁石挿入空間353の所定位置に着磁対象の磁石MG10がセットされ、その状態で、通電装置(図66(a)参照)により着磁コイル355への通電により着磁が行われる。この場合、各スロット354における着磁コイル355の導体を中心にして、内側着磁鉄心351と外側着磁鉄心352との両方を跨ぐようにして磁石挿入空間353に着磁磁場356が生成され、その着磁磁場356の磁束により、磁石挿入空間353にセットされた磁石MG10に対して着磁が行われる。
外側着磁鉄心352は、着磁コイル355への通電により着磁磁場が生じる場合において、磁石挿入空間353にセットされた磁石MG10に対して所望の方向の強力な磁界を発生させる磁束誘導ヨーク(着磁ヨーク)である。外側着磁鉄心352は、その特徴として、その内周面および外周面間の最短距離を外側着磁鉄心352の厚さ寸法T12として有している。外側着磁鉄心352の径方向の厚さ寸法T12は、内側着磁鉄心351の極ピッチ(内側着磁鉄心351の外周面に沿う円上において、隣り合うスロット354のスロット中心位置での距離ピッチ、又は隣り合うスロット354の間の鉄心幅寸法)よりも大きい寸法となっている。このように設定することで、磁石挿入空間353に2T以上の強大な磁界が適応されても外側着磁鉄心352が磁気飽和しないことになり、その外側着磁鉄心352によって、曲率が小さい状態で着磁磁場356を発生させることができる。
本手法によれば、図64(b)に記載した配向磁石、すなわち配向円の曲率半径が比較的大きい磁石450において、所望とする着磁を容易に実施でき、97%以上の高い着磁率を実現することができる。
なお、図67においても、内側着磁鉄心351およびスロットを用いずに、外側着磁鉄心352に対向するように、着磁コイル355を設けることも可能であり、着磁コイル355に対する通電により、図中符号356で示す着磁磁場を生成することも可能である。また、内側着磁鉄心351を非磁性体により製造された円弧状の保持部として構成することも可能である。すなわち、所定厚さを有する着磁鉄心(外側着磁鉄心352)を用い、その着磁鉄心において厚さ方向の一方の側に導体(着磁コイル355)と磁石MG10とを配置した状態で、導体の通電により着磁磁界を生成して、磁石MG10において互いに対向する一対の対向面の間に円弧状をなす磁石磁路を形成するものであればよい。
上記着磁工程では、常温下で行われることが望ましい。温度を上げて常温下で行われることにより、着磁対象の磁石の保持力を下げることができ、磁石の着磁をより容易に行うことを可能にする。
なお、上記の各着磁装置340,350を用いた磁石製造過程では、着磁工程の前に、着磁後にNS極が交互に現れる任意の形状に磁石を集合させて磁石集合体とする工程が設定されていてもよい。
図66(a),(b)及び図67で説明した着磁装置340,350では、円形状の内側着磁鉄心341,351において複数のスロット344,354を円周状に所定ピッチで配置したが、これを変更し、複数のスロット344,354を直線状に所定ピッチで配置する構成であってもよい。すなわち、各着磁装置において、互いに対向する一対の着磁鉄心の対向面を直線状に配置し、一方の着磁鉄心に、所定間隔でスロットを設けるとともに、そのスロットに着磁コイルを巻装する構成とする。また、一対の着磁鉄心間の隙間を磁石挿入空間とし、その磁石挿入空間に、着磁対象となる磁石をセットするとよい。
この場合、配向円の曲率半径が比較的大きい磁石440の着磁を行う着磁装置と、配向円の曲率半径が比較的大きい磁石450の着磁を行う着磁装置とでは、着磁コイルを巻装していない側の着磁鉄心(第1着磁鉄心)について、その厚み寸法(一対の着磁鉄心が並ぶ方向の厚さ寸法)を相違させる。すなわち、磁石440の着磁を行う着磁装置では、第1着磁鉄心の厚さ寸法が、着磁コイルの距離ピッチよりも小さい寸法となっているのに対し、磁石450の着磁を行う着磁装置では、第1着磁鉄心の厚さ寸法が、着磁コイルの距離ピッチよりも大きい寸法となっている。
(第12実施形態)
次に、第12実施形態における回転子600を説明する。図68に示すように、回転子鉄心610には、d軸を跨ぎ、かつその両側に円弧状に延びるようにして磁石収容孔611が形成され、その磁石収容孔611内に磁石460が収容されている。磁石収容孔611及び磁石460は、その横断面が円弧状をなしており、回転子鉄心610の外径から見て磁石640までの距離が、q軸からd軸に向かうにつれ徐々に遠ざかるように設定されている。要するに、磁石640は、d軸上で回転子鉄心610の外周面から最も離れ、かつq軸に向かうにつれて回転子鉄心610の外周面に近づくような、径方向内側に向かって凸となる凸形状をなしている。磁石収容孔611及び磁石460は、d軸に対して線対称に設けられている。
磁石460は、径方向の内外に並ぶ一対の対向面が、磁束が流出又は流入する作用面461a,461bとなっており、その作用面461a,461bは、d軸を中心に描いた円弧状をなしている。
また、磁石460は、d軸を含むd軸近傍領域462aと、そのd軸近傍領域462aを挟んで両側の外側領域462bとで配向方向が相違している。具体的には、d軸近傍領域462aでは、d軸に平行な方向に配向方向が定められているのに対し、外側領域462では、回転子鉄心610の外周面側でd軸に近づくような向きで、d軸に対して傾く方向に配向方向が定められている。
この場合、d軸近傍領域462aの範囲は、d軸を中心として周方向の両側に所定角度で定められている。具体的には、d軸近傍領域462aの範囲は、回転子鉄心610の中心を通るd軸を中心とする角度θcで定められる範囲であり、角度θcは電気角で32.7度であることが望ましい。3相巻線を有する固定子700において例えば多く流通している8極48スロット、すなわち1極に対し6スロットを備え、かつ固定子巻線720を分布巻とする回転電機の場合には、1極に対して6回、すなわち1極対に対しては12回のスロットを跨ぐために11次乃至13次の高調波が生じる。この点、d軸近傍領域462aを電気角32.7度(すなわち、360度を次数11で割った角度)の範囲で定める構成とすれば、11次の高調波成分を、磁石460と固定子巻線720とにより起こる逆起電力成分から無くすことができる。
d軸近傍領域462aを32.7度より大きい角度で設定する場合、多量な磁束量により高調波成分の振幅が大きくなる。これに対して、d軸近傍領域462aを32.7度より小さい角度で設定する場合、その角度よりも大きく設定された場合の高調波成分よりも矮小な磁束量により、高調波成分の振幅が小さくなる。
なお、d軸近傍領域462aの範囲(角度θc)を、電気角で32.7度以下かつ1.0度以上のいずれかの角度で設定してもよい。例えば、角度θを電気角で27.7度(すなわち、360度を次数13で割った角度)としてもよい。この場合、13次の成分を好適に排除できる。また、d軸近傍領域462aの範囲(角度θc)を、電気角で32.7度以下かつ27.7度以上のいずれかの角度としてもよい。
(第13実施形態)
次に、回転電機500の通電制御について説明する。まずは図69の電圧ベクトル図を用いて、本実施形態における空間ベクトル制御に関して説明する。図69には、d軸上に磁石磁束Ψが任意に設定されており、q軸上に、磁石磁束Ψに対してフレミングの法則によりトルクを無駄なく出力でき、電気角でd軸に直交するq軸電流Iqが記載されている。この状態を、回転子1極分で図70に示す。図70では、回転子鉄心610において2つの磁石470が略V字状に配置されている。なお、2つの磁石470は、略V字状でなく、d軸に直交する方向に一直線状に配置されていてもよい。磁石470では、図59に示す磁石410、図61に示す磁石420、図62に示す磁石430、図63に示す磁石433、図64(a),(b)に示す磁石440,450と同様に、径方向の内外に並ぶ一対の対向面が、磁束が流出又は流入する磁束作用面(第1作用面471a,471b)となり、q軸側の端面も同様に磁束が流出又は流入する磁束作用面(第2作用面471c)となっている。
図70では、2つの磁石470の中央であるd軸がN極である場合において、そのd軸線上における固定子巻線720の導線721に、紙面手前側に向かって電流を流すことにより、d軸に直交する磁界Φaが回転子600に供給され、回転子600が半時計回りに回転する。
一方、図71(a)には、q軸の成分による磁界Φb,Φcが描かれている。この磁界Φb,Φcによって、回転子鉄心610の表面近くでありかつq軸付近の部分628が磁気飽和する。この状態を図72に示す。図72において、電流位相を磁石磁束Ψに対してβとすると、βが90度から270度の状態で、磁気飽和を促すd軸電流Id(すなわち、負の方向のd軸電流Id)による磁界が生じることとなる。
ここで、第2作用面471cは、第1作用面471a,471bよりも回転子鉄心610の外周に近い位置に、磁気飽和領域に面するように設定される。図71(a)において、第2作用面471cを通る磁気回路では、磁気飽和がコントロールされることにより磁気抵抗値が変化する。そのため、磁気回路を図71(b)の等価回路図で表現すると、磁気飽和領域が可変抵抗器R3として機能する。つまり、第2作用面471cを通る磁石磁束を、可変抵抗器R3の磁気抵抗を上下させることにより可変磁束とすることができる。この場合、磁石としてはパーミアンスが可変されたことと同義となるから、結果的に、電磁石のように可変磁束を行えることとなる。
q軸上の磁気飽和領域を可変抵抗器R3として機能させることにより、q軸上のLd・Idの磁束による弱め界磁制御が可能となり、力行動作の回転数範囲を拡張することが可能となる。また、力行動作の回転数範囲を広げる制御範囲を拡張することができる。図72には、q軸上に、通例埋め込み磁石型で生じる磁石磁束Ψを示すとともに、説明の便宜上、重ならないようにしてLd・Idの磁束を示している。この制御は、電流通電位相のコントロール機構を備えるインバータ900(図73(a)参照)や制御装置930(図74参照)により実施される。
このとき、前述した磁石磁束Ψの増加分の逆数だけ、固定子巻線720の巻数を少なくする設定と組み合わせると、高速化による電流制御性が、電気的時定数の低下により改善するので、一層好適である。
回転電機駆動システムの概要を示す図73(a)を用いて、インバータ900の構成を説明する。インバータ900は、相巻線の相数と同数の上下アームを有する電力調整部としてのインバータブリッジ910を備えている。インバータ900は、インバータブリッジ910における上下アームの各スイッチSp,Snのオンオフにより、固定子巻線720の各相巻線における通電電流を調整する。インバータブリッジ910には、直流電源950と平滑コンデンサ955とが並列に接続されている。直流電源950は、例えば複数の単電池が直列接続された組電池により構成されている。
制御部としての制御装置930は、CPUや各種メモリからなるマイコンを備えており、回転電機500における各種の検出情報や、力行駆動及び発電の要求に基づいて、インバータ900における各スイッチSp,Snのオンオフにより各相の通電制御を実施する。回転電機500の検出情報には、前記レゾルバ(602,603)の角度検出器により検出される回転子600の回転角度や、電圧センサにより検出される電圧、電流センサにより検出される各相の通電電流が含まれる。
なお、回転子角度センサとしてレゾルバが用いられることにより、従来よりも広い制御範囲を持つ本実施形態の回転電機500を、高温条件下でより高精度に制御することが可能となる。
インバータブリッジ910は、U相、V相及びW相からなる3相において上アームスイッチSpと下アームスイッチSnとの直列接続体をそれぞれ備えている。各相の上アームスイッチSpの高電位側端子は直流電源の正極端子911に接続され、各相の下アームスイッチSnの低電位側端子は直流電源の負極端子912に接続されている。各相の上アームスイッチSpと下アームスイッチSnとの間の中間接続点には、それぞれU相巻線、V相巻線、W相巻線の一端が接続されている。これら各相巻線は星形結線(Y結線)されており、各相巻線の他端は中性点にて互いに接続されている。制御装置930は、インバータブリッジ910の各スイッチSp,Snを操作する操作信号を生成して出力する。より具体的には、制御装置930は、インバータブリッジ910における各相電圧の指令電圧及び三角波等の周期的搬送波に基づく、搬送波の周期毎の両者の大小比較により、pulse-width modulation (PWM)信号を生成し、そのPWM信号により各スイッチSp,Snをオンオフして各相巻線の通電電流を制御する。
固定子巻線720では、各相に設けられたスイッチSp,Snによりその通電位相が制御され、特にこの場合、d軸に直交する磁束を発生させる第1の位相を有する各相電流(すなわち、q軸電流Iqを生じさせる電流)に加えて、その第1の位相とは異なる第2の位相を有する各相電流(すなわち、d軸電流Idを生じさせる電流)が流れるように位相制御が実施される。これにより、図71(a)に示す、第2作用面471cの磁石磁路でありかつ回転子鉄心610のq軸付近の部分628において、d軸電流Idにより磁気飽和の状態が可変制御される。この場合、進角制御によりd軸電流Idが与えられ、そのd軸電流Idにより生じる磁束により磁気飽和状態と非磁気飽和状態とが可変に制御されるとよい。
制御装置930は、d軸に直交する磁束を発生させる電流位相の電流(図70参照)と、d軸に直交する磁束を発生させる電流位相とは異なる電流(図71(a)参照)とを適切に制御することにより、隣り合う各磁極ペアにおける第2作用面471cの間の鉄心部分が磁気飽和する状態と磁気飽和しない状態とを可変に制御するとよい。この場合、トルク指令値や回転電機500の回転速度に基づいて、磁気飽和状態と非磁気飽和状態とを可変に制御するとよい。
例えば低トルクかつ高回転域において磁気飽和状態とし、それ以外で非磁気飽和状態とする。より具体的には、図73(b)に示すトルク特性において、制御切替線A1を定めておき、その制御切替線A1よりも高回転側の領域A2において磁気飽和を生じさせる制御を実施するとよい。
例えば、d軸電流Idの位相(第2位相)を、q軸電流Iqの位相(第1位相)に対して進み位相とし、位相差角度が50°以下にすることが望ましい。
図74には、U,V,W相の各相電流を制御する制御処理が示されている。ここではU,V,W相側の制御処理について説明する。
電流指令値設定部931はトルク-dq変換マップを用い、回転電機500に対する力行トルク指令値又は発電トルク指令値や、回転子600の回転電気角θを時間微分して得られる電気角速度ωに基づいて、d軸の電流指令値とq軸の電流指令値とを設定する。dq変換部932は、相ごとに設けられた電流センサによる3相(U、V、W相)それぞれの電流検出値(各相電流)を、界磁方向をd軸とする直交2次元回転座標系の成分であるd軸電流とq軸電流とに変換する。詳細は公知なので省略する。
フィードバック制御部933は、d軸電流をd軸の電流指令値にフィードバック制御するための操作量として、上記d軸電流とd軸電流指令値との偏差量にPI(Proportional-Integral)ゲインを施して補正指令量、すなわち、d軸の指令電圧を算出する。また、q軸電流フィードバック制御部934は、q軸電流をq軸の電流指令値にフィードバック制御するための操作量として、上記q軸電流とq軸電流指令値との偏差量にPIゲインを施して補正指令量、すなわち、q軸の指令電圧を算出する。
2相⇒3相変換部935は、d軸及びq軸の指令電圧を、U相、V相及びW相の指令電圧に変換する。なお、上記の各部931~935が、dq変換理論による基本波電流のフィードバック制御を実施するフィードバック制御部であり、U相、V相及びW相の指令電圧がフィードバック制御値である。
そして、操作信号生成部936は、周知の三角波キャリア比較方式を用い、3相の指令電圧に基づいて、インバータの操作信号を生成する。具体的には、操作信号生成部936は、3相の指令電圧を電源電圧で規格化した信号と、三角波信号等のキャリア信号(搬送波)との大小比較に基づくPWM制御により、各相における上下アームのスイッチ操作信号(デューティ信号)を生成する。ドライバ937は、操作信号生成部936で生成されたスイッチ操作信号に基づいて、インバータブリッジ910における各3相のスイッチSp,Snをオンオフさせる。
本実施形態の回転電機500では、強力な磁石を採用することと、その磁束増分の逆数倍の固定子巻線720の調整を行うことにより、インダクタンスが所定値より低くなることが考えられる。かかる場合には、図73(a)のインバータブリッジ910と固定子巻線720との間に、インダクタンスの低下分(前記所定値までの差分)を埋めるインダクタンスを有する電流センサを設けるとよい。この構成によれば、電流フィードバック構成部品である電流センサをインダクタとしても機能させることができ、一層効果的である。
本実施形態では、周期的搬送波の周波数、すなわち、インバータ900における各スイッチのスイッチング周波数を定めるキャリア周波数が15kHzを超える周波数に設定されている。これにより、可聴域範囲から外れる領域でPWM制御が行われることになり、キャリア音が耳障りとならない回転電機駆動システムを提供できる。本実施形態の回転電機500では、上記構成の回転子600を採用したことにより、従来の回転電機に比べてインダクタンスが低くなり、高いキャリア周波数での制御が実現可能となっている。
また、本実施形態の回転電機500では、従来と比べて磁石磁束が高く、かつ低インダクタンスであるため、その回転電機500を用いた回転電機駆動システムでは、電流制御マップが、磁石トルクとリラクタンストルクとのうち磁石トルク寄り(つまりIq寄り)に設定されている。
埋め込み磁石型回転電機のトルクTは、一般的にd軸電流Id、q軸電流Iq、d軸インダクタンスLd、q軸インダクタンスLq、磁石磁束Ψを用いて、以下式で示される。
T=Id・Iq・(Ld-Lq)+Ψ・Iq …(3)
式(3)の右辺において、第1項はリラクタンストルクに相当し、第2項は磁石トルクに相当する。
図75には、d軸を基準とする回転子600の回転電気角θが90~180度となる範囲において、リラクタンストルクと磁石トルクと総トルクとの推移がそれぞれ示されている。なお、d軸上の位相角度を0度としている。図75には、リラクタンストルクが破線で示され、磁石トルクが一点鎖線で示され、総トルクが実線で示されており、太線で示される各トルクが、式(3)で示される従来のトルクである。
図75において、従来の総トルクは、後述する電流位相が135度付近で最大となることが伺える。これに対し、本実施形態では、図75中の細線で示されるように、従来よりもq軸電流Iqの項(式(3)の右辺第2項)に偏って総トルクが発現するものとなっている。こうした特性が得られるため、特に弱め界磁制御を積極的に行わない高速回転領域や、例えば-20℃といった極低温であるためにベアリングオイルの粘性が高く瞬間的に大トルクを必要とする場合、すなわちId成分が小さい領域において、積極的にIq成分を使うことで効果的な制御が可能となる。
本実施形態の磁石(例えば磁石470)を利用した場合、電流ベクトル、すなわちd-q座標におけるd軸電流ベクトルとq軸電流ベクトルとから構成される電流ベクトルの位相である電流位相βを135°(図74参照)とする通電よりも、電流位相βを90~135°の範囲内とする通電の方がトルクが大きいことになる。β90より大きい電流位相角度の力行範囲では、力率がインダクタンスによるインピーダンスにより低下することが一般的に課題となっており、インバータ900や回転電機500よりも前段である直流電源950側の負担が大きくなっている。本実施形態においては、電流位相βを135°未満としてトルク最大値を設定することができ、電流位相βを135°より90°近くに設定する範囲を大幅に増やすことができる。そして、回転電機駆動システムにおいて、トルク最大値における回転電機500とインバータ900とが成す力率によって決まる回転電機以前の電流容量を小さくすることができる。
本実施形態では、およその場合に好適な影響を与えるものとなっているが、用途によっては、インダクタンスの低下が悪影響を与えることも考えられる。例えば、4kHz程度のキャリア周波数で制御しなければならない場合である。このような場合に備えて、PWMフィードバック制御以外の制御が可能になっているとよい。
つまり、制御装置930は、インバータブリッジ910における指令電圧及び搬送波に基づいてPWM信号を生成し、そのPWM信号により各スイッチSp,Snをオンオフして巻線通電電流を制御する第1通電制御部930A(図73(a)参照)と、回転子600の回転電気角θ(あるいは電気角速度ω)と各スイッチの複数のオンオフパターンとが関係付けられたパターン情報に基づいて、現在の回転子600の回転電気角θに基づいて、対応するオンオフスイッチングパターンを読み出し、そのオンオフスイッチングパターンにより各スイッチSp,Snをオンオフして巻線通電電流を制御する第2通電制御部930Bと、を有しているとよい。
具体的には、制御装置930のメモリに、低電流制御域のオンオフスイッチングパターンを記憶しておく。これにより、オームの法則から計算される電流値とかけ離れた数アンペアの制御、またはゼロアンペアの制御を、安定して行うことができるようになる。本実施形態の構成によれば、状況に応じた適宜の駆動方式の切り替えが可能となっている。
オンオフスイッチングパターンにより各スイッチSp,Snをオンオフして巻線通電電流を制御する第2通電制御として、120度矩形波通電制御、150度矩形波通電制御、180度矩形波通電制御などの矩形波通電(図85参照)を実施することも可能である。
また、本実施形態における回転子600では、磁石の配向工夫による減磁耐力の向上に加え、回転子表面の表面磁束密度をコントロールすることによるトルク増加の実現が可能となっている。これについて以下に詳述する。
ここでの説明では、回転子600として例えば図77の構成を想定する。この場合、図77に示す回転子600は、回転子鉄心610に、図64(b)で説明した磁石450が埋め込まれた構成となっている。ただし、既述した特異な磁石配向を有するものであれば、他の磁石を用いる構成であってもよい。また、図76には、磁石450により生じる回転子600の表面磁束密度波形を示す。なお、実線は磁石450による磁束波形であり、破線が1次磁束波形(基本波磁束の波形)であり、一点鎖線が3次磁束波形(3次高調波磁束の波形)である。
磁石450は、固定子700(すなわち、電機子)に対する鎖交磁束として、d軸において同じ極性の1次波形と3次波形とが合成された磁石磁束を生じさせるものとなっており、例えば図76では電気角90度となるd軸上において1次波形と3次波形とが共に正極性となっている。この場合、磁石450の磁束密度波形は、1次磁束波形に対して、位相を60度ずらした3次高調波磁束が重ね合わされてなる磁束密度波形となっている。つまり、磁石450の磁束密度波形は、d軸上の磁束密度が、破線で示す1次波形の磁束密度よりも高くなり、また1次波形に比べてd軸側に集約されている。
この磁束波形を実現することにより、回転電機500におけるトルク増加が可能となる。この場合、通例用いられる正弦波の極異方配向、またはそれを目的としたハルバッハ配列等の磁石配置よりも、大きなトルクを出すことができる。回転電機500では、120度矩形波通電モード、150度矩形波通電モード、180度矩形波通電モードなどが可能である。これらの矩形波通電が行われる場合には、3次高調波電流を含んだ電流により回転電機が制御されることが考えられるが、上記構成の磁石を用いることにより、良好なトルク出力を出すことができる。
図76の表面磁束密度波形を生じさせるための磁石450の構成を、図77を用いて説明する。磁石450では、図77に示す配向円336に沿った円弧状に磁化容易軸が揃えられ、これにより配向方向が定められている。この場合、配向円336は、回転子のq軸上となり、かつ回転子鉄心610の外周面(固定子側の周面)よりも遠方に離れた位置を、中心点335とする円である。このような配向円336に基づいて配向が行われることにより、磁石450の存在する領域では、配向円336の中心点335が回転子鉄心610の外周面上に定められる場合又はその外周面付近に定められる場合に比べて円弧が大径となる。そのため、磁石450のq軸側端面(第2作用面451c側)からd軸方向に向かう向き、すなわちq軸に直角又は直角に近い角度で交差する向きで、磁石配向を行わせることが可能になっている。磁石450では、固定子側の第1作用面451aにおいてd軸側に偏るようにして磁束が発生する。
磁石450における磁束分布を、横軸を回転子表面角度位置にして表すと、正弦波状よりもd軸上での波高部が盛り上がり、かつ波高ピーク部分の両脇が凹んだような分布、すなわち図76に示す磁束分布となる。これを周波数分析すると、基本波の3倍調波が混在していることは明らかである。
配向円336の中心点335の位置を調整することで、3次高調波の割合を調整することが可能となる。この場合、中心点335を遠くすること(すなわち回転子表面から離すこと)により、3次成分が増加する。
配向円336の中心点335を、q軸線上以外の位置にすることも可能である。つまり、配向円336の中心点335を、図77のq軸よりも右側又は左側とする。この場合、d軸上の位置を中心点335とする配向円336と、d軸からずれた位置を中心点335とする配向円336とを混在させた配向磁場中で配向を行うとよい。これにより、3次以外の成分を含んだ配向磁石を作り込むことが可能になる。なお、3次高調波の位相は60度に限定するものではなく、前後に変位していてもよい。例えば50度から70度の間の任意の角度とすることが可能である。
磁石450の具体的な構成として、1磁極内において、回転子鉄心610の中心を通るd軸を中心とし、かつ電気角で120度以下かつ72度以上の角度範囲に磁束作用面を集中させることが望ましい。この場合、多相モータとして一般的な電気角で120度に固定子巻線720が配列された構成に対して、固定子巻線720の1相内で磁束作用面を完結させることにより、余計な高調波が出なくなる。そのため、d軸磁束を使う電流制御において、d軸部の磁束最大値により良好にフレミングの法則により力を出せるようになる。なお、相手となる固定子700は、例えばリラクタンス差の少ないスロットレス構造、コアレス構造であることが、より一層望ましい。
(第14実施形態)
図78に、本実施形態の回転子600の構成を示す。図78において、回転子鉄心610には、d軸を跨ぎ、かつd軸を挟んで線対称な形状を有する磁石収容孔611が形成されており、この磁石収容孔611は、回転子鉄心610の軸方向に直交する横断面が、略矩形かつ固定子700に向けて凸状となる形状を有している。
この磁石収容孔611には、d軸において回転子鉄心610の外周面(固定子700とのエアギャップ面)に突出する凸形状をなす磁石480が設けられている。磁石480は、回転子鉄心610の外周面から磁石480までの径方向距離が、d軸からq軸に向かうにつれ徐々に大きくなるように設定されており、d軸のエアギャップ面に向けて凸形状となっている。つまり、磁石480は、d軸側の部分が最も固定子巻線に近く、かつq軸に近づくほど固定子巻線から遠ざかるように配置されている。この場合、磁石480は、横断面が逆U字状をなすものとなっており、磁石480の径方向外側面及び径方向内側面の両面はいずれも、d軸から離れるほど、鉄心外周面からの径方向距離が次第に大きくなる構成となっている。なお、磁石480は、横断面が逆V字状をなすものであってもよい。
また、磁石480では、配向方向が、磁石480のd軸の頂点に向かうように定められており、回転子鉄心610の内径側から磁束を集めるように配向されていることが特徴である。磁石480の配向方向は、円弧状をなし、概ね磁石480の長手方向に沿うように定められている。この場合特に、磁石480は、固定子700に対向する方向の寸法(すなわち径方向における最長磁石長さLa)よりも長い磁石磁路を有するものとなっている。これにより、d軸における磁石磁束の強化が可能となる。
磁石480においては、長手方向の両方の端面481と磁石中央の頂部482とが、磁束が流出又は流入する磁束作用面となっている。つまり、磁石480では、固定子巻線に最も近い磁石外面(頂部482)と、固定子巻線から最も遠い磁石外面(481)とが、それぞれ磁束の流入流出面となる一対の作用面となっている。d軸付近(頂部482付近)においては、配向方向がd軸に平行又は平行に近い向きとなっていることが好ましい。この場合、磁石中央部が高いパーミアンスとなるように構成されている。本構成においては、磁石480の厚肉となる方向に長い磁石磁路を形成することで、減磁耐力の向上を図ることができる。
また、図78において、符号631,632は、磁石収容孔611と磁石480の外周面および内周面との空間、又は該空間内に非磁性材料が充填された非磁性部(フラックスバリア)である。つまり、磁石480の内側面と、頂部482を除く部位である外側面とは、磁束の流出及び流入のない非作用面となっており、その非作用面に隣り合わせとなる位置に非磁性部631,632が設けられている。
図78の構成によれば、磁石480は、回転子鉄心610の内径に広がるスペースに対してその磁石磁路を長く持つことができる。この場合、磁石480は、回転子鉄心610における配置可能スペースを大きく用いて配置される。回転子鉄心610では、q軸近傍の部分633が磁石減磁の可能性が高い領域となっているが、磁石480は、部分633から離間させた位置に設けられ、その上で磁石磁路が確保されている。これにより、減磁耐力を強くすることができる。
また、磁石480は、その径方向内側を円弧状に凹ませて横断面を逆U字状にしたため、例えば径方向内側を凹ませていない形状(かまぼこ状)にするよりも磁石重量を少なくすることができ、高いパーミアンスの磁石を提供することができる。
なお、図78の構成では、磁石480のd軸方向の外径および内径を、d軸に直交する方向の外径および内径よりも大きくした半楕円形状としたが、これを変更し、磁石480のd軸方向の外径および内径を、d軸に直交する方向の外径および内径よりも小さくした半楕円形状としたり、磁石480のd軸方向の外径および内径とd軸に直交する方向の外径および内径とを同じにする半円形状としたりしてもよい。
図79(a),(b)には、磁石480の端部におけるd軸に直交する方向の外径寸法(すなわち、楕円形状の磁石480における長径を一定にした場合の長径と短径との比率)を互いに異ならせた構成を、磁石480A、磁石480Bとしてそれぞれ示す。なお、図79(a)~(c)において図の左右方向の中央がd軸である。磁石480Bでは、その端部の短径t2が磁石480Aの端部の短径t1よりも短くなっている。この場合、d軸に直交する方向の径(d軸直交寸法)に対する磁石480のd軸方向の径(d軸寸法)の比率(d軸寸法/d軸直交寸法)は、磁石480Bの方が大きい。そのため、磁石480A,480Bを比べると、磁石480Bの方がd軸に対する傾きがより急峻になっている。
また、図79(c)は、直線配向の複数の磁石484a,484b,484c(すなわち配向方向が直線である磁石)を用いて磁石アセンブリ480Cを構成している。磁石アセンブリ480Cは、複数の磁石484a,484b,484cを一体化させた磁石集合体として構成されており、図78に示す磁石480に類するものとなっている。すなわち、磁石アセンブリ480Cは、d軸を跨ぐ位置に設けられ、d軸に直交する向きに延びる中央磁石484aと、その中央磁石484aの長手方向両端に接合される2つの端部磁石484b,484cとからなる。2つの端部磁石484b,484cは、d軸に対して斜めとなり、かつ回転子鉄心610の外周側ほど(図の上側ほど)d軸に近づくようになる向きで中央磁石484aの両端に接合されている。
すなわち、中央磁石484aおよび端部磁石484b,484cは、固定子700(電機子)に向けて凸形状を有している。
中央磁石484aの配向方向は、中央磁石484aの長手方向に直交しており、d軸に平行となる向きである。また、2つの端部磁石484b,484cの配向方向は、端部磁石484b,484cの長手方向と同じ向きであり、d軸に対して斜めとなる向きである。中央磁石484aでは、長辺側の一対の対向面が磁束作用面となっているのに対し、端部磁石484b,484cでは、長手方向の両端面が磁束作用面となっている。
つまり、磁石アセンブリ480Cでは、第1磁石である中央磁石484aが、第2磁石である端部磁石484b,484cよりも固定子巻線に近い位置にd軸に対して垂直に交差する向きで配置されるとともに、端部磁石484b,484cが、q軸に近づくほど固定子巻線から遠ざかるように配置され、固定子巻線に最も近い磁石端面485aと、固定子巻線から最も遠い磁石端面485bとが、それぞれ磁束の流入流出面となる一対の作用面となっている。
磁石アセンブリ480Cにおいても、上記同様、d軸での磁石磁束を強化し、パーミアンスを向上させることが可能となる。
(第15実施形態)
図80に、本実施形態の回転子600の構成を示す。図80において、回転子鉄心610には、周方向に隣り合う2つのd軸(磁極中心)の間に、回転子鉄心610の軸に直交する横断面において、径方向中心側に凸となる円弧状の磁石収容孔641が形成されている。磁石収容孔641は、磁極と同じ数だけ設けられている。本実施形態では、8つの磁石収容孔641が設けられている。各磁石収容孔641は、その両端がd軸付近に位置しており、隣り合う各磁石収容孔641はd軸鉄心642を挟んでそれぞれ設けられている。
各磁石収容孔641に、その磁石収容孔641と同じ形状の磁石490が収容されている。つまり、磁石490は、磁石収容孔641と同様に、径方向中心側に凸となる円弧状をなしている。磁石490は、d軸付近で回転子鉄心610の外周面に最も近づき、q軸で回転子鉄心610の外周面から最も離れるように設けられている。この場合、磁石490は、q軸上を中心とし、かつ固定子巻線とは反対側(反固定子巻線側)、すなわち回転子鉄心610に向かう側に凸となる円弧形状を有しており、その両端が、それぞれd軸付近に配置されている。本実施形態の回転子600では、周方向に隣り合う各d軸間に、それぞれ1つずつの磁石収容孔641及び磁石490が設けられている。
磁石490では、配向方向が、磁石490の長手方向に沿う向きで円弧状に定められており、長手方向の両方の端面491が、磁束が流出又は流入する磁束作用面となっている。つまり、磁石490では、両側の磁石端面であるd軸側端面が磁束作用面となっている。磁石490における磁石磁路長は、その長手方向の長さ(円弧長)と略同じ長さとなっている。磁石490は、磁石端部がd軸に位置し、そのd軸端部に向けて配向方向が定められていることが特徴である。この場合特に、磁石490は、固定子700に対向する方向の寸法(すなわち径方向における最長磁石長さLb)よりも長い磁石磁路を有するものとなっている。これにより、d軸における磁石磁束の強化が可能となる。また、磁石490の厚肉となる方向に長い磁石磁路を形成することで、減磁耐力の向上を図ることができる。なお、図80の構成によれば、表面磁石型に近い回転子特性が得られるものとなっている。
また、回転子鉄心610において、磁石収容孔641(磁石490)の径方向外側には空間又は非磁性材料が充填された非磁性部643(フラックスバリア)が設けられている。つまり、磁石490の外側面は、磁束の流出及び流入のない非作用面となっており、その非作用面に隣り合わせとなる位置に非磁性部643が設けられている。回転子鉄心610において、磁石収容孔641とその外側の非磁性部643との間には、それら両者を隔てるブリッジ644が設けられている。
上記構成の回転子600では、磁石490のd軸に沿って配向がなされているため、極ピッチ円弧と磁極ごとの磁石磁路長とを略同一とすることができ、減磁に対して最も強い構成が得られる。
(他の実施形態)
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更することが可能である。
・回転電機500の回転子600における磁石配置として以下の構成を採用することも可能である。図81に示される回転子鉄心610では、d軸上の所定点を中心にして、その所定点からの距離が相違するn個の層(A層、B層、C層、…n層)が定められている。これら各層は、例えば同心円状に定められるとよい。この場合、層ごとに、永久磁石が配置される。各層の永久磁石は、同じ形状及び性能のものが配置されてもよいし、異なる形状又は性能のものが組み合わされて配置されてもよい。
図82にその一例を示す。図82には、回転子鉄心610に、図62で説明した磁石430と、図64で説明した磁石440とを組み付けた構成が示されている。すなわち、回転子鉄心610のA層内に磁石430が配置され、B層からC層にかけての領域に磁石440が配置されている。この構成では、A層内の磁石430による端部減磁の抑制と、B-C層配置の磁石440による最も外周側での減磁の抑制との効果が得られることとなる。なお、各層における永久磁石の組み合わせは任意である。
・配向工程に関わる具体的な構成を以下のように変更してもよい。図83(a),(b)を用いて、配向工程に関わる具体的な構成を説明する。図83(a)は、配向工程(磁場中成形)で用いられる配向装置360の概略構成を示す図であり、図83(b)は、配向工程により作成される複数の磁石MGを示す図である。
配向装置360は、磁石MGの作成に用いる金型280を内包可能な大きさの磁場発生装置361を備えている。磁場発生装置361は、通電により内部に所定方向の磁束を生成するコイル361aを有しており、そのコイル361aの軸方向に対して、配向対象である磁石MGの任意の平面に直交する法線Nが平行となるようにして、コイル361a内に金型280が配置される。この場合、磁場発生装置361(コイル361a)への通電により発生する配向磁場362を金型280に与え、その状態で、金型280の磁石粉末に対する配向を実施することにより、配向率を高めつつ磁石MGを作成することができる。
本実施形態においては、コイル361aを用いた磁場発生装置361により強力な磁場を生み出すことができるため、磁石MGの配向率が90%以上と良好な状態になる。磁石MGを、複数の磁石片を切り出し可能な大きさの磁石ブロックとして用い、その磁石ブロックに対する配向工程後に、任意の形状に切り出す工程を経て磁石を得るようにしてもよい。本構成の配向工程では、磁場発生装置361において、コイル361aの軸方向に対して、磁石MGの任意の平面に直交する法線Nが平行となるようにして金型280が配置されるため、配向後の磁石MGを、磁束作用面に対して角度を付けて切り出していくとよい。これにより、磁束作用面に対して角度が付いた配向方向を持つ永久磁石を得ることができる。図83(b)に示される斜めの実線は磁石MGの配向方向を示す。上記構成の配向工程によれば、例えば図49に示す磁石400を、高い配向率で好適に得ることができる。
図83(a)の構成では、磁場発生装置361において、コイル361aの軸方向に対して、磁石MGの法線Nが平行となるようにして金型280が配置されるため、磁場発生装置361を小型化が可能である。
・別の実施形態の回転電機駆動システムを図84に示す。図84の回転電機駆動システムでは、直流電圧を供給する直流電源950とインバータブリッジ910との間に、インバータブリッジ910における入力電圧を制御可能とする電圧変換部を設け、制御装置930が、矩形波電圧制御により固定子巻線の各相巻線の通電電流を制御することを特徴としている。電圧変換部は、電圧コンバータ960と、電圧コンバータ960への電圧入力ラインに設けられたスイッチング素子964と、そのスイッチング素子964を制御する電圧コントローラ963とを有している。
電圧コンバータ960は、1次コイル961と2次コイル962とを有している。2次コイル962では、コイル巻数が1次コイル961のコイル巻数よりも多く設定されている。ただし、本実施形態では昇圧が目的でないため、2次コイル962のコイル巻数は1次コイル961に比べて同等以上であればよい。1次コイル961により発生された磁束が2次コイル962に鎖交することにより、直流電源950の電圧が2次コイル962を通してインバータブリッジ910に供給される。また、インダクタンスが所定以上に設定されており、直流電源950側に挿入されたスイッチング素子964のオンオフによる電圧変動が少なくなるように設定されている。この構成により、1次コイル961により磁束が安定して送り込まれ、その磁束により2次コイル962で二次側電圧が生成される(直流電圧が発電される)。これにより、インバータブリッジ910は、スイッチング素子964と1次コイル961により作られる可変電圧により動作する。
電圧コントローラ963は、例えば、固定子巻線720の各相の相電流を読み込み、その相電流に基づいてスイッチング素子964をデューティ制御する。これにより、インバータブリッジ910への入力電圧が可変に制御される。この場合、高い電圧をキャリア周波数で投入するよりも1パルス当たりの電圧振幅が低く抑えられ、電圧振動による鉄損発生を大きく抑えることができる。
低インダクタンスとなる回転電機500では、所定のキャリア周波数により通電制御が実施される場合において制御が発散することが懸念される。この点、本実施形態の構成では、直流電源950とインバータブリッジ910との間において、インバータブリッジ910への入力電圧が制御されることにより、電流変化が抑えられ、制御の発散を抑制できる。
制御装置930は、矩形波電圧制御モードとして、例えば120度矩形波電圧制御モードを実施する。ただし、矩形波電圧制御はそれに限られず、矩形波の導通幅は120度以外に、180度以下で120度以上の任意の導通幅とすることが可能である。
本実施形態では、インバータブリッジ910に入力される電圧が可変であり、各スイッチSp,Snは、キャリア周波数に同期させず、前記レゾルバの信号に基づいて矩形波の操作信号に基づいてオンオフされる。例えば、図85(a)~(c)に示す120度矩形波電圧制御モードを実施する場合には、各相のスイッチを、電気角で120°のオン期間を有する矩形波パルスでオンするとともに、電気角で60°の期間でオフすることを繰り返すことにより、全てのスイッチにおいて、1電気角周期につき3相の電圧を出力する際に合計12回(相毎に4回)のオンオフが行われる。これにより、数kHz以上が通例であるキャリア周波数に対して、インバータブリッジ910でのスイッチング回数が格段に少なくなり、回転電機駆動システムにおけるスイッチング損失を大幅に低減することができる。また、固定子巻線のインダクタンスが小さくても電流リップルの発生が抑えられる。なお、上述したように、オン期間が電気角で150°なら150度矩形波電圧制御モードであり、オン期間が電気角で180°なら180度矩形波電圧制御モードである。
本実施形態の回転電機500では、例えば図61に示されるように、磁石420においてq軸からd軸に向かうように磁石配向がなされているため、1磁極内で磁極中央部(d軸)に向かう磁束が多くなる。そのため、180°矩形波通電ではなく、120°矩形波通電との相性が良好である。
図84の回転電機駆動システムは、第1~第5実施形態にて説明した回転電機1(図1~図44で説明した構成)についても適宜の適用が可能である。
・表面磁石型回転電機への適用も可能である。図91(a),(b)は、表面磁石型の回転子1010の構成を示す図である。この回転子1010は、例えば図1及び図2示す回転電機1に用いることが可能である。
図91(a)に示すように、回転子1010は、回転子コア1011と、回転子コア1011の外周面(すなわち固定子巻線の対向面)に固定された磁石1012とを有している。磁石1012は、互いに対向しかつ磁束の流入流出面となる一対の作用面1012a,1012bを有するとともに、その一対の作用面1012a,1012bの間における磁石厚さ寸法よりも長い長さの磁石磁路を有し、かつ磁化容易軸が磁石磁路に沿う向きとなるように配向がなされているものである。
また、図91(b)に示す回転子1010では、回転子コア1011の外周面に凹部1013が形成され、その凹部1013に一部が入り込む状態で磁石1012が固定されている。
また、図92には、回転子コア1011においてd軸の両側に、磁石磁路の向きが非対称となる状態で磁石1012が固定された構成を示す。すなわち、磁石1012は、磁極ごとにd軸を挟んで両側となる部分を有し、その両側の部分において、d軸に対して斜めとなり、かつ周方向に対する傾きが同じ方向となる磁石磁路が形成されたものとなっている。
・上記実施形態では、磁石において互いに平行な一対の対向面を、一対の磁束作用面(一対の第1作用面)として設定したが、これを変更し、磁石において互いに非平行な一対の対向面を、一対の磁束作用面(一対の第1作用面)として設定することも可能である。この場合、磁石磁路が、一対の作用面のうち一方の作用面に対して非垂直の向きで交差し、かつ他方の作用面に対して垂直の向きで交差するようになっていてもよい。
・回転電機を、回転界磁形の回転電機に代えて、回転電機子形の回転電機とすることも可能である。この場合、回転軸には電機子としての回転子が固定され、その回転子の径方向外側に、界磁子としての固定子が設けられる。回転子は、回転子コアとその外周部に固定された多相の電機子巻線とを有し、固定子は、固定子コアと、その固定子コアに固定された磁石とを有するものとなる。
・本発明は、さらには発電機と電動機を選択的に使用し得る回転電機にも本発明を適用することができる。
・回転電機に代えて、他の電動機又は電磁機械に本発明を適用することも可能である。例えば、移動体の直線移動を可能とするリニアモータに本発明を適用することが可能である。いずれにしろ、電動機又は電磁機械として、巻線に対向する位置に設けられ、巻線の通電により当該巻線に対する相対動作が可能である磁石を備え、複数の磁石が、相対動作の動作方向に極性を交互にして配置されている構成を有するものであればよい。
この明細書における開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。例えば、開示は、実施形態において示された部品および/または要素の組み合わせに限定されない。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品および/または要素が省略されたものを包含する。開示は、ひとつの実施形態と他の実施形態との間における部品および/または要素の置き換え、または組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示されるいくつかの技術的範囲は、請求の範囲の記載によって示され、さらに請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものと解されるべきである。