以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
<回転機用磁石>
本実施形態に係る回転機用磁石の実施形態について説明する。本実施形態に係る回転機用磁石は、R2T14B(RはNd、Prの何れか一方又は両方を主成分として含む1種以上の希土類元素であり、TはFe又はFe及びCoを含む1種以上の遷移金属元素を表す)相の組成を含む希土類焼結磁石体を有する希土類焼結磁石である。希土類焼結磁石体は、回転機の周方向に配置された複数のコイルを有するステータと対向する端面と該端面に対向する端面とが略平行である。希土類焼結磁石体のステータと対向する端面の両端部分及び両端部分に接する側面部分を含む両端部における残留磁束密度は、前記希土類焼結磁石体のステータと対向する端面の中央部分及び中央部分に接する側面部分を含む中央部における残留磁束密度より低く、希土類焼結磁石体のステータと対向する端面の両端部の残留磁束密度と中央部の残留磁束密度との比が0.4%以上である。
図1は、本発明の好適な一実施形態である回転機用磁石を示す図である。図1に示すように、本実施形態に係る回転機用磁石10は、希土類焼結磁石体11と、希土類焼結磁石体11の角部(端面(上面)の両端部分11a、11bとその側面の側面部分11cに含まれる領域)の希土類焼結磁石体11内に拡散された希土類元素HR(Dy、Tbの何れか一方又は両方を少なくとも含む希土類元素)の希土類化合物とを有する。なお、図1中、ハッチング部分は、HRの希土類化合物が含まれている領域を示す。また、図1では、両端部分11a、11bは、希土類元素HRが希土類焼結磁石体11内に拡散した塗布幅Pwに対応し、側面部分11cが塗布高さPdに対応する。
本実施形態においては、端面とは、回転機の周方向に配置された複数のコイルを有するステータと対向する面と、その面の対向面とをいう。特に、ステータの対向面は、上面といい、その上面との対向面を下面という。この端面に接する面を側面という。また、両端部とは、希土類焼結磁石体の端面の両端部分及びその両端部分に接する側面の一部又は全部を含む領域部分をいい、中央部とは、希土類焼結磁石体の端面の中央部分及び中央部分に接する側面部分を含む領域部分をいう。また、希土類焼結磁石体の端面の両端部が設けられる方向が回転機の回転方向となる。
本実施形態に係る回転機用磁石10は、HRの希土類化合物を含有させた希土類化合物含有液を希土類焼結磁石体11に塗布して乾燥し、希土類焼結磁石体11にHRの希土類化合物を付着させた後、熱処理することにより希土類焼結磁石体11の両端部分11a、11bとその側面の側面部分11c内にHRの希土類化合物を粒界拡散させたものである。
希土類焼結磁石体11は、R−T−B系合金からなる希土類焼結磁石である。Rは、Nd、Prの何れか一方又は両方を主成分として含む1種以上の希土類元素を表す。希土類元素とは、長周期型周期表の第3族に属するSc、Yおよびランタノイド元素のことをいう。ランタノイド元素には、例えば、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等が含まれる。希土類元素は、軽希土類及び重希土類に分類され、重希土類元素とは、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luをいい、軽希土類元素はそれ以外の希土類元素である。製造コスト及び磁気特性の観点から、RはNd、Prの何れか一方又は両方を主成分として含まれるものであることが好ましい。
Tは、Fe又はFe及びCoを含む1種以上の遷移金属元素を示すものである。Tは、Fe単独であってもよく、Feの一部がCoで置換されていてもよい。Feの一部をCoに置換する場合、磁気特性を低下させることなく温度特性を向上させることができる。また、Coの含有量は、Feの含有量の20質量%以下に抑えることが望ましい。これは、Coの含有量がFeの含有量の20質量%より大きくなるようにFeの一部をCoに置換すると、磁気特性を低下させる虞がある。また、希土類焼結磁石体11が高価となってしまうからである。Tは、Fe、Co以外に、例えば、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wなどの遷移元素の少なくとも1種の元素を更に含んでいてもよい。
本実施形態に係る回転機用磁石10の主相には、結晶粒の組成がR2T14Bという組成式で表されるR2T14B相とR2T14B相よりRが多いRリッチ相が含まれる。主相は、R2T14B型の正方晶からなる結晶構造を有するものである。粒界相には、希土類元素の配合割合が高いRリッチ相が含まれる。粒界相は、Rリッチ相の他に、ホウ素(B)原子の配合割合が高いホウ素リッチ相が含まれていてもよい。また、結晶粒の粒径は、通常1μmから30μm程度である。また、希土類焼結磁石には、当該磁石を加工して着磁した磁石製品と、当該磁石を着磁していないものとの両方を含む。
上記希土類焼結磁石体11において、Bの一部を炭素(C)に置換することができる。この場合、磁石の製造が容易となるほか、製造コストの低減も図れるようになる。また、Cは耐蝕性を有するため、Bの一部をCに置換することで、耐蝕性を向上させることができる。また、Cの置換量は、磁気特性に実質的に影響しない量とする。
本実施形態に係る回転機用磁石10は、保磁力の向上や製造コストの低減等を図る観点から、上記構成に加え、Al、Cu、Bi、Sb、Ge、Sn、Si、Ga、Zr等の元素をさらに含んでいてもよい。これらの含有量も磁気特性に影響を及ぼさない範囲とすることが好ましく、それぞれ5質量%以下とすることが好ましい。また、その他、不可避的に混入する成分としては、酸素(O)、窒素(N)、C、Ca等が考えられる。これらはそれぞれ0.5質量%程度以下の量で含有されていてもよい。
本実施形態に係る回転機用磁石10における希土類元素の含有量は25質量%以上35質量%以下であり、好ましくは28質量%以上33質量%以下であり、Bの含有量は0.5質量%以上1.5質量%以下であり、好ましくは0.8質量%以上1.2質量%以下であることが好ましい。また、Feの一部をCoに置換してCoを含める場合、Coの含有量は4質量%以下の範囲が好ましく、0.1質量%以上2質量%以下とすることがより好ましく、0.3質量%以上1.5質量%以下とすることが更に好ましい。
Al、Cuの何れか一方又は両方を0.02質量%以上0.6質量%以下の範囲で含有することができる。この範囲でAl及びCuの1種又は2種を含有させることにより、得られる磁石の高保磁力化、高耐蝕性化、温度特性の改善が可能となる。Alの含有量は0.03質量%以上0.4質量%以下であるのが好ましく、0.05質量%以上0.25質量%以下がより好ましい。また、Cuの含有量は0.3質量%以下が好ましく(但し、0を含まず)、0.2質量%以下(ただし、0を含まない)とすることがより好ましく、0.03質量%以上0.15質量%以下とすることが更に好ましい。
本実施形態に係る回転機用磁石10においては、磁気特性の観点から、酸素量を6000ppm以下とすることが好ましく、より好ましくは3000ppm以下、特に好ましくは2000ppm以下とする。また、炭素量を2000ppm以下とすることが好ましく、より好ましくは1500ppm以下、特に好ましくは1200ppm以下とする。さらに、窒素量を1000ppm以下とすることが好ましく、より好ましくは800ppm以下、特に好ましくは600ppm以下とする。
希土類焼結磁石体11は、原料粉末の成形体を焼結することにより製造された磁石体である。希土類焼結磁石体は、例えば金型を用いてプレス成形などにより任意の形状に成形される。本実施形態では、希土類焼結磁石体11の形状は、直方体としている。希土類焼結磁石体11の形状は、回転機の周方向に配置された複数のコイルを有するステータと対向する端面と、この端面に対向する端面とは略平行である。
希土類焼結磁石体の形状は、直方体に限定されるものではなく、用いる金型の形状に応じて、例えば、6面体、平板状、四角柱などの柱状、希土類焼結磁石体の断面形状がC型の円筒状等、任意の形状とすることができる。四角柱としては、例えば、底面が長方形の四角柱、底面が正方形の四角柱であってもよい。
直方体を構成する6面のうち一つの面を選択し、選択した面の両端に少なくとも希土類化合物含有液21を付着させる。6面のうち、選択する面はコイルに対向する面とする。
希土類焼結磁石体11は、以下の方法で製造される。まず、所望の組成の希土類焼結磁石を得ることができる合金を作製する。次いで、得られた合金を粉砕して微粉末とし、原料粉末とする。磁石の主相を形成する主相系合金と、主に粒界を形成する粒界系合金とを作製した場合には、主相系合金及び粒界系合金をそれぞれ粉砕して微粉末とし、これらを所望の割合で混合して原料粉末とする。本実施形態では、主相系合金と粒界系合金との2合金をも混合して原料粉末を作製しているが、本実施形態は、これに限定されるものではなく、1合金でもよい。
得られた原料粉末を、磁場を印加しながら成型して、成型体を得る。次いで得られた成型体を加熱して焼結を行い、得られた焼結体を酸洗浄して表面処理を行って、希土類焼結磁石体を得る。なお、焼結体は必ずしも酸洗浄しなくてもよい。
本実施形態に係る回転機用磁石10は、希土類焼結磁石体11の上面にHRの希土類化合物を含む希土類化合物含有液(ペースト)を塗布し、HRの希土類化合物を存在させた状態で希土類焼結磁石体を熱処理することで、HRの希土類化合物を希土類焼結磁石体の内部に吸収させた希土類焼結磁石である。
また、本実施形態においては、塗布幅Pwは磁石体長さの40%以下が好ましく、より好ましくは30%以下であり、更に好ましくは2.5%以上20%以下である。また、塗布高さPdは、塗布しなくてもよく、20%以上である。
また、本実施形態においては、希土類焼結磁石体への希土類化合物含有液(ペースト)の塗布率は、5mg/cm2以上35mg/cm2以下が好ましく、より好ましくは10mg/cm2以上30mg/cm2以下であり、更に好ましくは15mg/cm2以上25以下mg/cm2であり、20mg/cm2程度が最も好ましい。
希土類化合物含有液に含有させる希土類化合物としては、希土類化合物:希土類元素HR(Dy、Tbの何れか一方又は両方を少なくとも含む希土類元素)、HR水素化物、HR酸化物、HRフッ化物、HRT合金(Tは遷移金属元素)、HRT水素化物、HRT酸化物、HRTB合金(Bはボロン)、HRTB水素化物、HRTB酸化物を用いることができる。また、HRは、Hoを更に含んでもよい。この場合、重希土類元素は、希土類焼結磁石の異方性磁界を大きくする作用があり、磁石の保磁力を向上させることが可能である。また希土類化合物含有液中には樹脂を含むことが好ましい。これにより、希土類化合物の焼結体への密着性を上げることができる。使用する樹脂は特に限定はなく、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂等が用いられる。また使用される溶剤としては、樹脂を溶解できれば特に規定はない。
希土類焼結磁石体11の端面にHRの希土類化合物を付着させた後、高温で熱処理することで、希土類焼結磁石体11の内部にHRの希土類化合物を吸収させ、拡散させる方法が用いられる。これにより、HRの希土類化合物を付着させ、熱処理することにより得られる希土類焼結磁石は、残留磁束密度Brを制御することができる。そのため、このようにして得られる本実施形態に係る回転機用磁石10を回転機用の磁石に用いた場合、高出力でコギングトルクが低減され、トルク性能に優れた回転機になる。
(希土類焼結磁石体11への希土類化合物含有液の塗布方法)
希土類焼結磁石体11の表面に希土類化合物含有液を塗布させる方法として、希土類焼結磁石体の表面に希土類化合物含有液を塗布する方法、HRの希土類化合物を含む合金粉末を塗布する方法、希土類焼結磁石体の表面にHRの希土類化合物を含む合金をスパッタリング法により塗布させる方法などが用いられる。
本実施形態では、希土類焼結磁石体11の端面(上面)の両端部分、両端部分とその側面、または端面(上面)の両端部分およびその両端部分に接する側面部分を含む両端部を含む角部のいずれかにHRの希土類化合物を吸収させ、拡散させることから、希土類化合物含有液を塗布する方法を用いることが好ましい。
希土類焼結磁石体11の表面の両端部に希土類化合物含有液を塗布して、希土類焼結磁石体11の端面(上面)の両端部の一部にのみ希土類化合物含有液を塗布させる場合、図2に示すような希土類化合物塗布装置を用いて行うことが好ましい。図2は、希土類化合物塗布装置の構成を簡略に示す図であり、図3は、希土類焼結磁石体11を示す図である。図2に示すように、希土類化合物塗布装置20は、希土類化合物含有液21を貯留する浸漬槽22と、希土類焼結磁石体11を移動させ、浸漬槽22に貯留された希土類化合物含有液21に、希土類焼結磁石体11を所定の深さで浸漬した後引き上げる焼結磁石体移動機構24と、希土類焼結磁石体11の端面及び側面に塗布した希土類化合物含有液21の一部又は全部を掻き取る第1ブレード25と、希土類焼結磁石体11の端面に塗布した希土類化合物含有液21の一部又は全部を掻き取る第2ブレード26と、を含む。
浸漬槽22は、希土類化合物含有液21を貯留する。浸漬槽22には、希土類化合物含有液21を手動で供給してもよいし、希土類化合物含有液21を自動給送する装置を接続してもよい。浸漬槽22の大きさは、希土類化合物含有液21を塗布させる希土類焼結磁石体11の大きさ、希土類焼結磁石体11を浸漬する深さなどによって適宜変更することができる。
焼結磁石体移動機構24は、希土類焼結磁石体11を把持する把持具27Aと、シリンダ28とを含む。アクチュエータであるシリンダ28には把持具27Aが接続されている。シリンダ28は、把持具27Aを上下に移動させる。なお、シリンダ28の代わりに、各種アクチュエータ、例えばボールねじとサーボモータとの組み合わせを使用することもできる。
第1ブレード25は、希土類焼結磁石体11の側面に塗布した希土類化合物含有液21の一部を掻き取る。第2ブレード26は、希土類焼結磁石体11の端面に塗布した希土類化合物含有液21の一部を掻き取る。第1ブレード25及び第2ブレード26を構成する材料に特に限定はなく、例えば、靱性のある鋼板、各種樹脂が用いられる。第1ブレード25及び第2ブレード26の厚みは、希土類化合物含有液21の粘度と、第1ブレード25及び第2ブレード26を構成する材料の特性との組み合わせによって適宜設定できるが、例えば0.2mm以上であることが好ましい。0.2mm以上であると、第1ブレード25及び第2ブレード26が希土類化合物含有液21の抵抗に負けることなく、希土類化合物含有液21を掻き取ることができる。また、第1ブレード25及び第2ブレード26の厚みの上限に特に制限はないが、2mm程度あれば十分である。
第1ブレード25及び第2ブレード26の形状は、特に限定はなく、例えば、平板状のもの、刃先が丸いもの、刃先が鋭角のものであってよい。希土類焼結磁石体11の形状に合わせて、刃先は直線ではなく曲線であってもよい。また、希土類化合物塗布装置20は、第1ブレードを2個備えているが、2個より多く希土類化合物塗布装置に備えられていてもよい。また、第2ブレードも1個ではなく複数が希土類化合物塗布装置に備えられてもよい。
第1ブレード25には、それぞれアクチュエータとしてシリンダ29が接続されており、第1ブレード25を所定の位置に移動させる。第2ブレード26には、アクチュエータとしてシリンダ30が接続されており、第2ブレード26を所定の位置に移動させる。
また、希土類焼結磁石体11から第1ブレード25及び第2ブレード26が希土類化合物含有液21を掻き取った後の状態、すなわちせん断速度が小さいときは、希土類焼結磁石体11上の希土類化合物含有液21の形状が維持されるように、希土類化合物含有液21は高い粘度であることが好ましい。したがって、希土類化合物含有液21は、希土類化合物含有液21を希土類焼結磁石体11に塗布させる温度(通常は室温)において、せん断速度1s-1において測定された第1の粘度が40Pa・s以上であり、せん断速度100s-1において測定された第2の粘度が60Pa・s以下であり、第1の粘度/第2の粘度が2.5以上であることが好ましい。
また、希土類焼結磁石体11の端面の両端部に希土類化合物含有液21を塗布するため、希土類焼結磁石体11の希土類化合物含有液21を塗布する端面側の中央部分に溶液接触保護部材31が設けられている。溶液接触保護部材31としては、希土類焼結磁石体11が希土類化合物含有液21が接触しないものであればよく、例えば、マスキングテープ等が用いられる。
次に、希土類化合物塗布装置20の動作を説明する。図4は、希土類化合物含有液の浸漬動作前における希土類化合物塗布装置を示す図である。図4に示すように、把持具27Aは、希土類焼結磁石体11を把持して、希土類化合物含有液21の満たされた浸漬槽22の上方(重力が作用する方向、すなわち鉛直方向とは逆方向)に待機している。把持具27Aは、希土類焼結磁石体11の、希土類化合物含有液21を塗布させる端面とは反対側にある端部を把持している。希土類化合物含有液21を塗布させる希土類焼結磁石体11の端面は、浸漬槽22に満たされた希土類化合物含有液21の液面(表面)と対向するように配置される。
続いて、希土類化合物塗布装置20のシリンダ28は、把持具27Aを下降させる。図5は、希土類化合物含有液に希土類焼結磁石体11の端面にのみ接触させている希土類化合物塗布装置を示す図である。図5に示すように、把持具27Aにより把持された希土類焼結磁石体11は、浸漬槽22に接触された希土類化合物含有液21に所定の時間接触される。これにより、希土類焼結磁石体11の端面には、全面に希土類化合物含有液21が付着する。
本実施形態では、浸漬槽22に希土類化合物含有液21の表面のみが接触されているので、希土類焼結磁石体11の端面にのみ希土類化合物含有液21を塗布させることができる。また、希土類焼結磁石体11を浸漬槽22内へ進入させる場合、希土類化合物含有液21を満たした浸漬槽22の表面に、希土類焼結磁石体11の端面を接触させることで、希土類焼結磁石体11の端面にのみ希土類化合物含有液21を塗布させることができる。
図6は、希土類化合物含有液から焼結磁石体が引き上げられた状態の希土類化合物塗布装置を示す図である。図6に示すように、希土類焼結磁石体11の端面のみを浸漬槽22の希土類化合物含有液21と接触させた後、焼結磁石体移動機構24は、希土類焼結磁石体11を浸漬槽22から引き上げる。具体的には、シリンダ28が把持具27Aを上昇させる。ここで、希土類化合物塗布装置20は、希土類焼結磁石体11に塗布した余分な希土類化合物含有液21が下に垂れ落ちるまで所定の時間待機する。塗布した希土類化合物含有液21の厚みは、この段階では、希土類化合物含有液21の粘度に依存しており、制御がされていない。
図7は、端面に塗布した希土類化合物含有液を掻き取っている希土類化合物塗布装置を示す図であり、図8は、図7の部分拡大図である。図7、8に示すように、希土類焼結磁石体11に塗布した余分な希土類化合物含有液21が下方(重力が作用する方向、すなわち鉛直方向側)に垂れ落ちるのを待った後、希土類化合物塗布装置20は、希土類焼結磁石体11の端面に塗布した希土類化合物含有液21を所定の厚みA1を残して掻き取る。
具体的には、第1ブレード25の刃先が希土類焼結磁石体11の端面に接近し、希土類焼結磁石体11の端面から所定の厚みA1となる間隔を空けたまま、希土類焼結磁石体11の端面に沿って第2ブレード26の刃先が位置aから位置bに所定距離移動し、希土類化合物塗布装置20は、端面から希土類化合物含有液21を所定の厚みA1を残して掻き取る。
第2ブレード26が希土類化合物含有液21を掻き取ることで、必要のない希土類化合物含有液21を希土類焼結磁石体11から取り除くことができる。そして、取り除いた、すなわち、第2ブレード26の刃先に掻き取られた希土類化合物を回収して再利用することができる。必要以上に塗布している希土類化合物の量を削減することができるので、希土類焼結磁石の製造コストの増加を抑制することができる。また、第2ブレード26の刃先が、希土類焼結磁石体11の端面から所定の厚みA1となる間隔を空けたまま、希土類焼結磁石体11の端面に沿って移動することで、希土類焼結磁石体11の端面に塗布して残る希土類化合物含有液21の量を制御することができ、希土類化合物が希土類焼結磁石体11に塗布する量を制御することができる。
また、第2ブレード26は、希土類化合物含有液21を掻き取られた希土類焼結磁石体11の端面と第2ブレード26の刃面とのなす角度θ1が90度以下となるように、希土類化合物含有液21を希土類焼結磁石体11の端面から掻き取る。角度θ1が90度以下であれば、掻き取り後の端面に希土類化合物含有液21が溜まりにくくなり、目標とする希土類化合物含有液21の厚みを確保することが容易となる。角度θ1は、15度以上が好ましい。15度以上であると、第2ブレード26の取り付けが容易となる。
所定の厚みA1となる間隔は、調整することができる。例えば、希土類焼結磁石体11に対する第2ブレード26及びシリンダ28の位置を移動させることによって所定の厚みA1となる間隔を調整できる。
第1ブレード25及び第2ブレード26が希土類化合物含有液21を希土類焼結磁石体11から掻き取る動作を1回行うだけで、希土類焼結磁石体11の端面に塗布して残る希土類化合物含有液21の量を制御することができる。なお、掻き取り動作は複数回行われてもよい。また、第1ブレード25及び第2ブレード26が、希土類化合物含有液21を掻き取るために希土類焼結磁石体11の表面に沿って移動する速度には特に限定がなく、希土類化合物含有液21の粘度によって適宜設定することができる。掻き取りの際に、希土類化合物含有液21が周囲に飛散する速度よりも遅い速度であることが好ましい。これにより、希土類化合物含有液21の回収を容易にすることができる。
図9は、希土類化合物含有液を掻き取った後における希土類化合物塗布装置を示す図である。図9に示すように、第1ブレード25及び第2ブレード26が、希土類焼結磁石体11から希土類化合物含有液21の一部を掻き取った後、希土類焼結磁石体11から離れるように移動する。希土類化合物含有液21は、第2ブレード26によって掻き取られ、一方の第1ブレード25(図9の左側)に集められ、これにより一括して回収することが可能となる。
希土類化合物塗布装置20が希土類化合物含有液21を希土類焼結磁石体11から掻き取り、第1ブレード25及び第2ブレード26が希土類焼結磁石体11から離れた後、希土類化合物含有液21が塗布された、すなわち希土類化合物が付着した希土類焼結磁石体11が把持具27Aから取り外されて、希土類焼結磁石体11に塗布した希土類化合物含有液21が乾燥される。希土類化合物を付着させた後の焼結磁石体を図10に示す。図10に示すように、乾燥後、希土類焼結磁石体11の端面の中央部に塗布していた溶液接触保護部材31を取り外すと、希土類焼結磁石体11の端面の両端部にのみ希土類化合物が付着された希土類焼結磁石体11が得られる。この希土類焼結磁石体11は所定の熱処理が行われ、希土類化合物を付着させた両端部の磁気特性が変化した希土類焼結磁石が得られる。
希土類焼結磁石体の端面の表面にのみ希土類化合物含有液を塗布させて希土類化合物を付着させる場合について説明したが、これに限定されるものではなく、シリンダ28により希土類焼結磁石体11の浸漬槽22の希土類化合物含有液21への浸漬深さを調整することにより、希土類焼結磁石体の端面および側面への希土類化合物含有液の塗布量を調整するようにしてもよい。
希土類焼結磁石体の端面の一部とその側面に希土類化合物含有液を塗布して、希土類化合物を付着させる場合、例えば、図11に示すような把持具27Bを用いることができる。図11は、希土類焼結磁石体を把持する他の把持具の構成の一例を示す図である。図11に示すように、把持具27Bは、希土類焼結磁石体11の両端面の一部を把持して希土類焼結磁石体11を固定し、希土類焼結磁石体11の希土類化合物含有液21と接触させる側面と反対側の側面は把持具27Bと接触しないように空間を有するように形成されている。
次に、把持具27Bを用いた希土類化合物塗布装置20の動作を説明する。把持具27Bは、希土類焼結磁石体11を把持して、希土類化合物含有液21の満たされた浸漬槽22の上方(重力が作用する方向、すなわち鉛直方向とは逆方向)に待機させる。希土類化合物含有液21を塗布させる希土類焼結磁石体11の側面は、浸漬槽22に満たされた希土類化合物含有液21の液面(表面)と対向するように配置される。
続いて、希土類化合物塗布装置20のシリンダ28は、把持具27Bを下降させる。図12は、希土類焼結磁石体11を希土類化合物含有液21に浸漬した状態を示す図である。図12に示すように、把持具27Bにより把持された希土類焼結磁石体11は、所定の深さD1で、浸漬槽22に満たされた希土類化合物含有液21に所定の時間浸漬される。これにより、希土類焼結磁石体11の端面が接する面、すなわち側面には、全面に希土類化合物含有液21が塗布される。また、希土類焼結磁石体11の端面は、希土類化合物含有液21が全面に塗布した側面側の一部分に、浸漬槽22に浸漬された深さD1まで希土類化合物含有液21が塗布される。これにより、希土類焼結磁石体11の端面における希土類化合物含有液21の付着箇所を制御することができる。
本実施形態では、浸漬槽22の上端22Hまで希土類化合物含有液21が満たされているので、希土類焼結磁石体11の端面が浸漬槽22の上端22Hから浸漬槽22内へ進入する距離を上記の深さD1に設定しておくことにより、希土類焼結磁石体11の端面から深さD1まで希土類化合物含有液21を塗布させることができる。また、希土類焼結磁石体11を浸漬槽22内へ進入させる場合、希土類化合物含有液21を満たした浸漬槽22の底面22Bに、希土類焼結磁石体11の端面を接触させてもよい。このようにすると、希土類焼結磁石体11の端面から浸漬槽22の深さHに相当する位置まで、希土類焼結磁石体11に希土類化合物含有液21を塗布させることができる。なお、深さHは、浸漬槽22の上端22Hから浸漬槽22の底面22Bまでの距離であり、この場合、所定の深さD1は深さHに等しい。
図13は、希土類化合物含有液から希土類焼結磁石体11が引き上げられた状態の希土類化合物塗布装置を示す図である。図13に示すように、希土類焼結磁石体11が浸漬槽22の希土類化合物含有液21に所定の深さD1で浸漬された後、焼結磁石体移動機構24は、希土類焼結磁石体11を浸漬槽22から引き上げる。具体的には、シリンダ28が把持具27Bを上昇させる。ここで、希土類化合物塗布装置20は、希土類焼結磁石体11に塗布した余分な希土類化合物含有液21が下に垂れ落ちるまで所定の時間待機する。塗布した希土類化合物含有液21の厚みは、この段階では、上述のように、希土類化合物含有液21の粘度に依存しており、制御がされていない。
図14は、端面に塗布した希土類化合物含有液を掻き取っている希土類化合物塗布装置を示す図である。図15は、図14の一部拡大図である。希土類焼結磁石体11に塗布した余分な希土類化合物含有液21が下方(重力が作用する方向、すなわち鉛直方向側)に垂れ落ちるのを待った後、希土類化合物塗布装置20は、希土類焼結磁石体11の端面に塗布した希土類化合物含有液21を、所定の厚みA2を残して掻き取る。
具体的には、第1ブレード25の刃先が希土類焼結磁石体11の端面に接近し、希土類焼結磁石体11の側面から所定の厚みA2となる間隔を空けたまま、希土類焼結磁石体11の端面に沿って位置aから位置b、すなわち重力の作用する方向(鉛直方向)に下降させる。
第1ブレード25を下げる他に、第1ブレード25の刃先の位置を固定し、焼結磁石体移動機構24のシリンダ28により、希土類焼結磁石体11を上昇させる。または、その双方の組み合わせでもよい。
第1ブレード25が希土類化合物含有液21を掻き取ることで、必要のない希土類化合物含有液21を希土類焼結磁石体11から取り除くことができる。そして、第1ブレード25の刃先に掻き取られた希土類化合物を回収して再利用することができる。これにより、必要以上に塗布している希土類化合物の量を削減することができるので、希土類焼結磁石の製造コストの増加を抑制することができる。また、一方の第1ブレード25の刃先が、希土類焼結磁石体11の端面から所定の厚みA2となる間隔を空けたまま、希土類焼結磁石体11の端面に沿って位置aから位置bに移動することで、希土類焼結磁石体11の端面に塗布して残る希土類化合物含有液21の量を制御することができ、希土類化合物が希土類焼結磁石体11に塗布する量を制御することができる。
所定の厚みA2となる間隔は、調整することができる。例えば第1ブレード25が接続されるシリンダ29の移動量を規制することによって所定の厚みA2となる間隔を調整できる。
また、第1ブレード25は、希土類化合物含有液21が掻き取られた希土類焼結磁石体11の端面と第1ブレード25の刃面とのなす角度θ2が、90度以下となるように、希土類化合物含有液21を希土類焼結磁石体11の端面から掻き取る。角度θ2が90度以下であれば、掻き取り後の端面に希土類化合物含有液21が溜まりにくくなり、目標とする希土類化合物含有液21の厚みを確保することが容易となる。角度θ2は、15度以上が好ましい。15度以上であると、第1ブレード25の取り付けが容易となる。
なお、希土類化合物塗布装置20は、希土類焼結磁石体11を希土類化合物含有液21に浸漬し、希土類化合物含有液21を希土類焼結磁石体11の端面及び側面に塗布させた後、希土類化合物含有液21が塗布されうる材料で形成された被転写部材に希土類焼結磁石体11の側面に塗布させた希土類化合物含有液21の一部を転写させ、希土類化合物含有液21を掻き取る効率を向上させてもよい。
図16は、希土類化合物塗布装置が被転写部材に希土類化合物含有液を転写している状態を示す図である。図16に示すように、希土類化合物塗布装置20は、希土類焼結磁石体11を希土類化合物含有液21に浸漬し、希土類焼結磁石体11を引き上げた後に、第1ブレード25および第2ブレード26が、希土類焼結磁石体11から離れている状態で、希土類焼結磁石体11を希土類化合物含有液21が塗布されうる材料で形成された被転写部材33に希土類焼結磁石体11の側面を押し付けて、希土類焼結磁石体11の側面に塗布させた希土類化合物含有液21の一部を被転写部材33に転写する。なお、「希土類焼結磁石体11の側面を被転写部材33に押し付ける」ことには、希土類化合物含有液21を介して希土類焼結磁石体11の側面を被転写部材33に押し付けることが含まれる。
希土類化合物含有液21が塗布されうる材料として、特に制限はなく、例えばアルミニウム、セラミックス、プラスチック、各種のステンレス鋼が挙げられる。被転写部材33は、希土類焼結磁石体11の端面に適合するような形状と大きさであり、例えば板状である。
希土類化合物塗布装置20が、希土類焼結磁石体11を浸漬槽22の希土類化合物含有液21から引き上げ、所定の時間待機した後に、希土類焼結磁石体11の下方に位置する浸漬槽22を、手動で又は自動で被転写部材33に取り替える。次いで、被転写部材33の板面と希土類焼結磁石体11の希土類化合物含有液21が塗布された端面との間隔が、所定の間隔A3となるように、希土類化合物塗布装置20は焼結磁石体移動機構24により希土類焼結磁石体11を下降させる。これにより、希土類焼結磁石体11の希土類化合物含有液21は、被転写部材33の板面にその一部が転写され、希土類焼結磁石体11からその一部が取り除かれる。
転写にあたって、浸漬槽22を被転写部材33に取り替えるのではなく、焼結磁石体移動機構24が、浸漬槽22とは別の場所に置かれた被転写部材33の上方に希土類焼結磁石体11を移動させ、被転写部材33に希土類焼結磁石体11の端面を押し付ける機能を有するようにしてもよい。
転写は、希土類焼結磁石体11の端面から希土類化合物含有液21が掻き取られる前に行うことが好ましい。さらに、転写は、希土類焼結磁石体11の側面から希土類化合物含有液21が掻き取られた後に行われることが好ましい。また、転写は、複数回行われてもよい。
図17は、端面に塗布した希土類化合物含有液を掻き取っている希土類化合物塗布装置の図である。図18は、図17の一部拡大図である。図17、18に示すように、希土類焼結磁石体11の端面に塗布した希土類化合物含有液21が掻き取られた後、希土類化合物塗布装置20は、全面に希土類化合物含有液21が塗布した側面から希土類化合物含有液21を所定の厚みA4を残して掻き取る。
具体的には、第2ブレード26の刃先が、希土類焼結磁石体11の側面から所定の厚みA4となる間隔を空けたまま、希土類焼結磁石体11の側面に沿って位置cから位置dに向かって移動する。
第2ブレード26が希土類化合物含有液21を掻き取ることで、必要のない希土類化合物含有液21を希土類焼結磁石体11から取り除くことができる。そして、取り除いた、すなわち、第2ブレード26の刃先に掻き取られた希土類化合物を回収して再利用することができる。必要以上に塗布している希土類化合物の量を削減することができるので、希土類焼結磁石の製造コストの増加を抑制することができる。また、第2ブレード26の刃先が、希土類焼結磁石体11の端面から所定の厚みA4となる間隔を空けたまま、希土類焼結磁石体11の側面に沿って位置cから位置dに向かって移動することで、希土類焼結磁石体11の側面に塗布して残る希土類化合物含有液21の量を制御することができ、希土類化合物が希土類焼結磁石体11に付着される量を制御することができる。
また、第2ブレード26は、希土類化合物含有液21を掻き取られた希土類焼結磁石体11の側面と第2ブレード26の刃面とのなす角度θ3が90度以下となるように、希土類化合物含有液21を希土類焼結磁石体11の側面から掻き取る。角度θ3が90度以下であれば、掻き取り後の側面に希土類化合物含有液21が溜まりにくくなり、目標とする希土類化合物含有液21の厚みを確保することが容易となる。角度θ3は、15度以上が好ましい。15度以上であると、第2ブレード26の取り付けが容易となる。
所定の厚みA4となる間隔は、調整することができる。例えば、希土類焼結磁石体11に対する第2ブレード26及びシリンダ30の位置を移動させることによって所定の厚みA4となる間隔を調整できる。
第1ブレード25及び第2ブレード26が希土類化合物含有液21を希土類焼結磁石体11から掻き取る動作を1回行うだけで、希土類焼結磁石体11の端面及び側面に塗布して残る希土類化合物含有液21の量を制御することができる。なお、掻き取り動作は複数回行われてもよい。また、第1ブレード25及び第2ブレード26が、希土類化合物含有液21を掻き取るために希土類焼結磁石体11の表面に沿って移動する速度には特に限定がなく、希土類化合物含有液21の粘度によって適宜設定することができる。掻き取りの際に、希土類化合物含有液21が周囲に飛散する速度よりも遅い速度であることが好ましい。これにより、希土類化合物含有液21の回収を容易にすることができる。
図19は、希土類化合物含有液を掻き取った後における希土類化合物塗布装置を示す図である。図19に示すように、第1ブレード25及び第2ブレード26が、希土類焼結磁石体11から希土類化合物含有液21の一部を掻き取った後、希土類焼結磁石体11から離れるように移動する。希土類化合物含有液21は、第2ブレード26によって掻き取られ、一方の第1ブレード25(図19の左側)に集められ、これにより一括して回収することが可能となる。
希土類化合物塗布装置20が希土類化合物含有液21を希土類焼結磁石体11から掻き取り、第1ブレード25及び第2ブレード26が希土類焼結磁石体11から離れた後、希土類化合物含有液21が塗布された、すなわち希土類化合物が付着した希土類焼結磁石体11が把持具27Bから取り外されて、希土類焼結磁石体11に塗布した希土類化合物含有液21が乾燥される。
また、希土類焼結磁石体11の希土類化合物含有液21と接触させた側面と反対側の側面は把持具27Bと接触しないように空間を設けて形成されている。そのため、乾燥後、希土類焼結磁石体11の希土類化合物含有液21と接触させた側面とは反対側の側面についても同様にして、希土類焼結磁石体11の反対側の側面に希土類化合物含有液21を塗布して希土類化合物を付着させ、乾燥させる。
図20は、希土類化合物を付着させた後の焼結磁石体を示す図である。図20に示すように、希土類焼結磁石体11に塗布させた希土類化合物含有液21を乾燥させた後、所定の熱処理が行われることで、希土類化合物を付着させた端部の磁気特性が変化した希土類焼結磁石が得られる。
また、焼結磁石体の端面の一部とその側面の一部(以下、角部という)に希土類化合物含有液21を塗布させる場合について説明する。希土類焼結磁石体の角部に希土類化合物含有液を塗布して、希土類化合物を付着させる場合、例えば、図21に示すような把持具27Cを用いることができる。図21は、希土類焼結磁石体を把持する他の把持具の構成の一例を示す図である。図21に示すように、把持具27Cは、希土類焼結磁石体11の両端面の一部を把持して希土類焼結磁石体11を固定し、希土類焼結磁石体11の一方の端面と液面とが所定の角度αとなるように形成されている。また、把持具27Cは、希土類焼結磁石体11の希土類化合物含有液21と接触させる側面と反対側の側面は把持具27Cと接触しないように空間を有するように形成されている。角度αは希土類焼結磁石体角部の端面および側面への希土類化合物含有液21の塗布面積に応じて所定の角度とする。
把持具27Cを用いた希土類焼結磁石体の角部に希土類化合物含有液を塗布する方法は、上述のように、把持具27Bを用いた場合と同様にして行う。
すなわち、把持具27Cは希土類焼結磁石体11を把持して、希土類化合物含有液21の満たされた浸漬槽22の上方(重力が作用する方向、すなわち鉛直方向とは逆方向)に待機させる。希土類化合物含有液21を塗布させる希土類焼結磁石体11の角部は、浸漬槽22に満たされた希土類化合物含有液21の液面(表面)と対向するように配置される。
図22は、希土類焼結磁石体11を希土類化合物含有液21に浸漬した状態を示す図である。図22に示すように、希土類化合物塗布装置20のシリンダ28は、把持具27Cを下降させる。把持具27Cにより把持された希土類焼結磁石体11の角が、所定の深さD2で、浸漬槽22内の希土類化合物含有液21に所定の時間浸漬される。これにより、希土類焼結磁石体11の角部(端面の一部とその側面の一部)には、希土類化合物含有液21が塗布される。これにより、希土類焼結磁石体11の端面における希土類化合物含有液21の塗布箇所を制御することができる。
本実施形態では、浸漬槽22の上端22Hまで希土類化合物含有液21が満たされているので、希土類焼結磁石体11の角が浸漬槽22の上端22Hから浸漬槽22内へ進入する距離を上記の深さD2に設定しておくことにより、希土類焼結磁石体11の角から深さD2まで希土類化合物含有液21を塗布させることができる。
図23は、希土類化合物含有液から焼結磁石体が引き上げられた状態の希土類化合物塗布装置を示す図である。図23に示すように、希土類焼結磁石体11に塗布した余分な希土類化合物含有液21が下方(重力が作用する方向、すなわち鉛直方向側)に垂れ落ちるのを待った後、希土類化合物塗布装置20は、希土類焼結磁石体11の角部に塗布した希土類化合物含有液21を、上述の把持具27Bを用いた場合と同様に、焼結磁石体移動機構24のシリンダ28を用いて希土類焼結磁石体11の位置を上下に移動させながら、第1ブレード25および第2ブレード26を用いて所定の厚みを残して掻き取る。
第1ブレード25が希土類化合物含有液21を掻き取ることで、必要のない希土類化合物含有液21を希土類焼結磁石体11から取り除くことができると共に、第1ブレード25の刃先に掻き取られた希土類化合物を回収することで、再利用することができる。また、希土類焼結磁石体11に必要以上に付着している希土類化合物の量を削減することができるので、希土類焼結磁石の製造コストの増加を抑制することができる。
また、希土類焼結磁石体11の角部に塗布した希土類化合物含有液21を乾燥させた後、希土類焼結磁石体11の希土類化合物含有液21と接触させた角部とは反対側の角部についても同様にして、希土類焼結磁石体11の反対側の角部に希土類化合物含有液21を塗布して希土類化合物を付着させ、乾燥させる。
図24は、希土類化合物を付着させた後の焼結磁石体を示す図である。図24に示すように、希土類焼結磁石体11の両方の角部に塗布させた希土類化合物含有液21を乾燥させた後、所定の熱処理が行われることで、希土類化合物を付着させた希土類焼結磁石体11の両方の端部の磁気特性が変化した希土類焼結磁石が得られる。
上記のように、希土類焼結磁石体11の端面(上面)の両端部、側面、角部のいずれかに希土類化合物含有液を塗布した後、熱処理する。これにより、希土類焼結磁石体の表面に存在するHRの希土類化合物は結晶粒界を通じて希土類焼結磁石体の内部に取り込まれ、主に結晶粒界を経由して主相の各結晶粒の内部に拡散する。希土類焼結磁石体の表面の一部からHRの希土類化合物を結晶粒界を通じて希土類焼結磁石体の内部に取り込み、結晶粒界から各結晶粒の内部に拡散させ、結晶粒の粒界近傍にHRを拡散させている。
希土類化合物含有液に含まれるHRの希土類化合物を希土類焼結磁石体に吸収させる際、真空又はAr(アルゴン)、ヘリウム(He)等の不活性ガス雰囲気として熱処理が行なわれる。処理室内が大気圧に近い雰囲気では、希土類化合物含有液に含まれていたHRの希土類化合物が焼結磁石体の内部に供給されにくくなる。希土類化合物含有液に含まれるHRの希土類化合物を希土類焼結磁石体に吸収させる際、処理室内を真空又は不活性ガス雰囲気とし大気よりも低い圧力に減圧することで、HRの希土類化合物は焼結磁石体の表面から内部に供給され易くなる。これにより、希土類焼結磁石の保磁力HcJを向上させることができる。
熱処理する際の熱処理温度は希土類焼結磁石体の焼結温度以下の温度で熱処理を施すことが好ましい。希土類焼結磁石体の焼結温度以上の温度で熱処理すると、希土類焼結磁石の組織が変成する虞があるからである。また、HRの希土類化合物が希土類焼結磁石体の結晶粒界だけでなく結晶粒の内部にまで拡散し、希土類焼結磁石体の表面における残留磁束密度Brが低下する虞があるからである。
希土類化合物含有液を、上述の通り、直方体形状の希土類焼結磁石体11の対向面の両端部分11a、11bとその側面の側面部分11cに、希土類化合物含有液21を塗布した後、希土類焼結磁石体11の中央部分11dに希土類化合物含有液21を塗布しないで熱処理し、希土類焼結磁石体11の両端部にのみHRの希土類化合物を粒界拡散させている。このようにして得られる回転機用磁石10は、希土類焼結磁石体の両端部における残留磁束密度Brを希土類焼結磁石体の中央部における残留磁束密度Brより相対的に低くすることができる。
2つの希土類焼結磁石の周方向位置とそのときの磁束との関係を模式的に図25に示す。図25に示すように、このようにして得られる希土類焼結磁石では、希土類焼結磁石体の両端部における残留磁束密度Brは希土類焼結磁石体の中央部における残留磁束密度Brより相対的に低くなる(図25中、太い実線、参照)。そのため、得られる希土類焼結磁石は、希土類焼結磁石体の両端部における残留磁束密度Brを希土類焼結磁石体の中央部における残留磁束密度Brより低い。
よって、希土類焼結磁石の表面における残留磁束密度Brの分布を制御して、相対的に希土類焼結磁石体の両端部の残留磁束密度Brを下げることで、正弦波に近い磁束波形(図25中、破線、参照)を得ることができるため、希土類焼結磁石の表面の磁束の波形を滑らかにすることができる。
従来のように、希土類焼結磁石体の1つの端面全面に希土類化合物含有液を塗布し、HRの希土類化合物を希土類焼結磁石体の内部に粒界拡散させた希土類焼結磁石を用いた場合、希土類焼結磁石の両端部における磁束は低減できなかった(図25中、細い実線、参照)。また、HRの希土類化合物を希土類焼結磁石体の内部に粒界拡散させた後、両端部を切削し、希土類焼結磁石体の磁石体積を低減した希土類焼結磁石を用いても、希土類焼結磁石の表面の磁束を低減するようにしていたが、希土類焼結磁石の両端部における磁束は十分低減できなかった。また、希土類焼結磁石体が直方体の場合、希土類焼結磁石体の両端部の切削により、希土類焼結磁石体の原料となる原材料の質量歩留が低下していた。
これに対し、本実施形態に係る希土類焼結磁石は、希土類焼結磁石体の形状が直方体の場合、希土類焼結磁石体の両端部を切削することなく、そのままで希土類焼結磁石の両端部の磁気特性を低減し、磁束を低減することができる(図25中、太い実線、参照)。また、図23、24に示す希土類焼結磁石体11の対向面をモータなど回転機の周方向に配置された複数のコイルを有するステータに対する対向面とする。これにより、本実施形態に係る希土類焼結磁石を回転機用磁石として用いた際、モータのコギングトルクを低減し、騒音、振動を低減することができる。
すなわち、希土類焼結磁石を回転機の回転機用磁石として用いた際、希土類焼結磁石の両端部における磁束密度がコギングトルクの発生要因となる。しかし、本実施形態に係る希土類焼結磁石の希土類焼結磁石体の両端部の磁束を中央部より相対的に低減し、正弦波に近い磁束波形として希土類焼結磁石の表面の磁束の波形を滑らかにしている。このため、本実施形態に係る希土類焼結磁石を回転機用磁石として用いた際には、モータのコギングトルクが低減し、騒音、振動は低減する。また、希土類焼結磁石体の両端部の切削する必要がないため、希土類焼結磁石体の原料となる原材料の質量歩留の向上を図ることができる。
本実施形態に係る希土類焼結磁石は、希土類焼結磁石体の表面に塗布する希土類化合物含有液の領域を制御することで、希土類焼結磁石体の両端部の残留磁束密度Brと中央部の残留磁束密度Brとの残留磁束密度比(Br比)を制御することができる。
本実施形態に係る希土類焼結磁石の希土類焼結磁石体の両端部の残留磁束密度Brと中央部の残留磁束密度Brとの残留磁束密度比(Br比)は、0.4%以上1.5%以下であり、好ましくは0.60%以上であり、更に好ましくは0.75%以上である。希土類焼結磁石体のBr比を上記範囲内とし、希土類焼結磁石体の両端部の残留磁束密度Brの下げ幅を調整することで、本実施形態に係る希土類焼結磁石は、より正弦波に近い磁束波形を有することができる。
このように、本実施形態に係る回転機用磁石によれば、直方体形状の希土類焼結磁石体の両端部を切削することなく希土類焼結磁石体の両端部の磁束を相対的に低減させ、希土類焼結磁石の表面の磁束の波形を滑らかにすることができる。このため、本実施形態に係る回転機用磁石を回転機に用いた際、希土類焼結磁石体の原料となる原材料の質量歩留の向上を図りつつ、モータのコギングトルクを低減し、騒音、振動の低減を図ることが可能となる。
また、本実施形態においては、希土類化合物含有液を、図1に示すように、希土類焼結磁石体の角部にのみ塗布するようにしているが、本実施形態はこれに限定されるものではなく、図26に示すように、希土類焼結磁石体11の端面の両端部分11a、11bにのみ希土類化合物含有液を塗布し、希土類化合物を含めるようにしてもよい。また、このとき、図26では、両端部分11a、11bは、希土類元素HRが希土類焼結磁石体11内に拡散した塗布幅Pwに対応する。
また、図27に示すように、希土類焼結磁石体11の端面の両端部分11a、11bとその側面11e、11fに希土類化合物含有液を塗布し、希土類化合物を含めるようにしてもよい。また、このとき、図27では、両端部分11a、11bは、希土類元素HRが希土類焼結磁石体11内に拡散した塗布幅Pwに対応し、側面11e、11fが塗布高さPdに対応する。
<回転機用磁石の製造方法>
上述したような図1に示すような構成を有する回転機用磁石の好適な製造方法について図面を用いて説明する。図28は、本発明の実施形態に係る回転機用磁石の製造方法を示すフローチャートである。図28に示すように、本実施形態に係る回転機用磁石の製造方法は、以下の工程を含んでなる。
(a)主相系合金と粒界相系合金とを準備する合金準備工程(ステップS11)
(b)主相系合金と粒界相系合金とを粉砕する粉砕工程(ステップS12)
(c)主相系合金粉末と粒界相系合金粉末とを混合する混合工程(ステップS13)
(d)混合した混合粉末を成形する成形工程(ステップS14)
(e)成形体を焼結する焼結工程(ステップS15)
(f)焼結体を時効処理する時効処理工程(ステップS16)
(g)焼結体を冷却する冷却工程(ステップS17)
(h)希土類焼結磁石を加工する加工工程(ステップS18)
(i)希土類焼結磁石を研磨する研磨工程(ステップS19)
(j)焼結体の表面を酸洗浄する酸洗浄工程(ステップS20)
(k)希土類焼結磁石体の端面の両端部に希土類化合物含有液を塗布する塗布工程(ステップS21)
(l)希土類焼結磁石体を熱処理する熱処理工程(ステップS22)
(m)希土類焼結磁石の表面に表面処理する表面処理工程(ステップS23)
<合金準備工程:ステップS11>
希土類磁石における主に主相を構成する組成の合金(主相系合金)と主に粒界相を構成する組成の合金(粒界相系合金)とを準備する(合金準備工程(ステップS11))。合金準備工程(ステップS11)では、希土類磁石の組成に対応する原料金属を、真空又はArガスなどの不活性ガスの不活性ガス雰囲気中で鋳造下で溶解した後、これを用いて鋳造を行うことによって所望の組成を有する主相系合金及び粒界相系合金を作製する。
原料金属としては、例えば、希土類金属あるいは希土類合金、純鉄、フェロボロン、さらにはこれらの合金や化合物等を使用することができる。原料金属を鋳造する鋳造方法は、例えばインゴット鋳造法やストリップキャスト法やブックモールド法や遠心鋳造法などである。得られた原料合金は、凝固偏析がある場合は必要に応じて均質化処理を行う。原料合金の均質化処理を行う際は、真空又は不活性ガス雰囲気の下、700℃以上1500℃以下の温度で1時間以上保持して行う。これにより、希土類磁石用合金は融解されて均質化される。
<粉砕工程:ステップS12>
主相系合金及び粒界相系合金が作製された後、主相系合金及び粒界相系合金を粉砕する(粉砕工程(ステップS12))。粉砕工程(ステップS12)では、主相系合金及び粒界相系合金が作製された後、これらの主相系合金及び粒界相系合金を別々に粉砕して粉末とする。なお、主相系合金及び粒界相系合金を共に粉砕してもよいが、組成ずれを抑える観点などから別々に粉砕することがより好ましい。
粉砕工程(ステップS12)は、粒径が数百μm程度になるまで粉砕する粗粉砕工程(ステップS12−1)と、粒径が数μm程度になるまで微粉砕する微粉砕工程(ステップS12−2)とがある。
(粗粉砕工程:ステップS12−1)
主相系合金及び粒界相系合金を各々粒径が数百μm程度になるまで粗粉砕する(粗粉砕工程(ステップS12−1))。これにより、主相系合金及び粒界相系合金の粗粉砕粉末を得る。粗粉砕は、主相系合金及び粒界相系合金に水素を吸蔵させた後、異なる相間の水素吸蔵量の相違に基づいて水素を放出させ、脱水素を行なうことで自己崩壊的な粉砕を生じさせる(水素吸蔵粉砕)ことによって行うことができる。また、不活性ガス雰囲気中にて、スタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル等の粗粉砕機を用いて行うようにしてもよい。
また、高い磁気特性を得るために、粉砕工程(ステップS12)から焼結工程(ステップS15)までの各工程の雰囲気は低酸素濃度とすることが好ましい。酸素含有量は、各製造工程における雰囲気の制御、原料に含有される酸素量の制御等により調節される。各工程での酸素濃度は3000ppm以下とすることが好ましい。
(微粉砕工程:ステップS12−2)
主相系合金及び粒界相系合金を粗粉砕した後、得られた主相系合金及び粒界相系合金の粗粉砕粉末を平均粒子径が数μm程度になるまで微粉砕する(微粉砕工程(ステップS12−2))。これにより、主相系合金及び粒界相系合金の微粉砕粉末を得る。粗粉砕した粉末を更に微粉砕することで、好ましくは1μm以上10μm以下、より好ましくは3μm以上5μm以下の粒径を有する希土類磁石体の混合粉末(以下、単に「混合粉末」という)を得ることができる。
微粉砕は、粉砕時間等の条件を適宜調整しながら、ジェットミル、ボールミル、振動ミル、湿式アトライター等の微粉砕機を用いて粗粉砕した粉末の更なる粉砕を行なうことで実施される。ジェットミルは、高圧の不活性ガス(例えば、N2ガス)を狭いノズルより開放して高速のガス流を発生させ、この高速のガス流により主相系合金及び粒界相系合金の粗粉砕粉末を加速して主相系合金及び粒界相系合金の粗粉砕粉末同士の衝突やターゲット又は容器壁との衝突を発生させて粉砕する方法である。
主相系合金及び粒界相系合金の粗粉砕粉末を微粉砕する際、ステアリン酸亜鉛、オレイン酸アミド等の粉砕助剤を添加することにより、成形時に配向性の高い微粉砕粉末を得ることができる。
<混合工程:ステップS13>
主相系合金及び粒界相系合金を微粉砕した後、各々の微粉砕粉末を低酸素雰囲気で混合する(混合工程(ステップS13))。これにより、混合粉末が得られる。低酸素雰囲気は、例えば、N2ガス、Arガス雰囲気など不活性ガス雰囲気として形成する。主相系合金粉末及び粒界相系合金粉末の配合比率は、質量比で80対20以上97対3以下とするのが好ましく、より好ましくは質量比で90対10以上97対3以下である。
また、粉砕工程(ステップS12)において、主相系合金及び粒界相系合金を一緒に粉砕する場合の配合比率も、主相系合金及び粒界相系合金を別々に粉砕する場合と同様に、主相系合金粉末及び粒界相系合金粉末の配合比率は、質量比で80対20以上97対3以下とするのが好ましく、より好ましくは質量比で90対10以上97対3以下である。
<成形工程:ステップS14>
主相系合金粉末と粒界相系合金粉末とを混合した後、混合粉末を目的の形状に成形する(成形工程(ステップS14))。成形工程(ステップS14)では、主相系合金粉末及び粒界相系合金粉末の混合粉末を、電磁石に抱かれた金型内に充填して加圧することによって、混合粉末を任意の形状に成形する。このとき、磁場を印加しながら行い、磁場印加によって原料粉末に所定の配向を生じさせ、結晶軸を配向させた状態で磁場中成形する。これにより成形体が得られる。得られる成形体は特定方向に配向するので、より磁性の強い異方性を有する希土類焼結磁石が得られる。
成形時の加圧は、0.5ton/cm2以上1.4ton/cm2以下で行うことが好ましい。印加する磁場は、0.7Tesla以上1.5Tesla以下の圧力で行なうことが好ましい。印加する磁場は静磁場に限定されず、パルス状磁場とすることもできる。また、静磁場とパルス状磁場を併用することもできる。
なお、成形方法としては、上記のように混合粉末をそのまま成形する乾式成形のほか、原料粉末を油等の溶媒に分散させたスラリーを成形する湿式成形を適用することもできる。
混合粉末を成形して得られる成形体の形状は特に限定されるものではなく、用いる金型の形状に応じて、例えば直方体、平板状、柱状、リング状等、所望とする希土類磁石体の形状に応じて任意の形状とすることができる。本実施形態では、直方体の成形体とする。
<焼結工程:ステップS15>
磁場中で成形し、目的の形状に成形して得られた成形体を真空又は不活性ガス雰囲気中で焼結する(焼結工程(ステップS15))。焼結温度は、組成、粉砕方法、粒度と粒度分布の違い等、諸条件により調整する必要があるが、成形体に対して、例えば、真空中又は不活性ガスの存在下、1000℃以上1200℃以下で1時間以上10時間以下で加熱する処理を行うことにより焼成する。これにより、混合粉末が液相焼結を生じ、主相の体積比率が向上した焼結体(希土類磁石体の焼結体)が得られる。
<時効処理工程:ステップS16>
成形体を焼結した後、焼結体を時効処理する(時効処理工程(ステップS16))。焼成後、得られた焼結体を焼成時よりも低い温度で保持することなどによって、焼結体に時効処理を施す。時効処理は、例えば、700℃以上900℃以下の温度で1時間から3時間、更に500℃から700℃の温度で1時間から3時間加熱する2段階加熱や、600℃付近の温度で1時間から3時間加熱する1段階加熱等、時効処理を施す回数に応じて適宜処理条件を調整する。このような時効処理によって、焼結体の磁気特性を向上させることができる。
<冷却工程:ステップS17>
焼結体に時効処理を施した後、焼結体はArガスで加圧した状態で急冷を行う(冷却工程(ステップS17))。これにより、本実施形態に係る希土類焼結磁石を得ることができる。冷却速度は、特に限定されるものではなく、30℃/min以上とするのが好ましい。
<加工工程:ステップS18>
得られた希土類焼結磁石体は、例えばプレス成形、打ち抜き、切削などにより、所望のサイズに切断したり表面を平滑化して、更に任意の形状の希土類焼結磁石に加工する(加工工程:ステップS18)。
<研磨工程:ステップS19>
得られた希土類焼結磁石はボールミルを用いて2時間程度バレル研磨を行い、角取りを行なう(研磨工程(ステップS19))。
<酸洗浄工程:ステップS20>
得られた焼結体に対しては、適宜所望の大きさや形状に加工した後、焼結体の表面を例えば酸溶液によって処理する(酸洗浄工程(ステップS20))。焼結体の酸洗浄に用いる酸溶液としては、硝酸、塩酸等の水溶液と、アルコールとの混合溶液が好適である。この酸洗浄は、例えば、焼結体を酸溶液に浸漬したり、焼結体に酸溶液を噴霧したりすることによって行うことができる。
かかる表面処理によって、焼結体に付着していた汚れや酸化層等を除去して清浄な表面を得ることができ、後述するHRの希土類化合物の付着及び拡散が有利となる。汚れや酸化層等の除去を更に良好に行う観点からは、酸溶液に超音波を印加しながら表面処理を行ってもよい。
このようにして得られた希土類焼結磁石体は、R2T14B(RはDy、Tbの何れか一方又は両方を少なくとも含む希土類元素であり、TはFe又はFe及びCoを含む1種以上の遷移金属元素を表す)相の組成を含む。
なお、本実施形態では、時効処理工程(ステップS16)、加工工程(ステップS18)、研磨工程(ステップS19)、酸洗浄工程(ステップS20)を行っているが、これらの各工程は必ずしも行う必要はない。
<塗布工程:ステップS21>
焼結体の表面処理を行い、得られた希土類焼結磁石体の端面に対して、回転機の周方向に配置された複数のコイルを有するステータに対する前記希土類焼結磁石体の端面(対向面)の両端部分とその側面の側面部分を含む両端部に、予め作製したHRの希土類化合物を含む希土類化合物含有液を塗布する(ステップS21)。
図29は、希土類化合物含有液の製造方法を示すフローチャートである。図29に示すように、希土類化合物含有液の製造方法は、以下の工程を含んでなる。
HRの希土類化合物を含むHR原料を準備する重希土類原料準備工程(ステップS31)
HR原料を粉砕する粉砕工程(ステップS32)
HR原料微粉砕粉末を塗料化する塗料化工程(ステップS33)
<重希土類原料準備工程(ステップS31)>
重希土類原料準備工程(ステップS31)は、HRの希土類化合物を含むHR原料を、上述の合金準備工程(ステップS11)と同様にして作製して準備するため、説明は省略する。HRとしては、Dy、Tbの何れか一方又は両方を少なくとも含む重希土類元素が用いられる。
<粉砕工程(ステップS32)>
粉砕工程(ステップS32)は、上述の粉砕工程(ステップS12)と同様にして作製して準備するため、説明は省略する。
<塗料化工程(ステップS33)>
微粉砕したHR原料微粉砕粉末はアルコール溶媒に混合し、アルコール溶媒中に分散させて、塗料化し、HRの希土類化合物を含む希土類化合物含有液を作製する(塗料化工程(ステップS33))。また、アルコール溶媒には、分散剤、増粘剤などの少なくとも1つ以上の添加剤を含んでもよく、微粉砕したHR原料微粉砕粉末は、分散剤、増粘剤などの少なくとも1つ以上の添加剤を含んだアルコール溶媒に中に分散させるようにしてもよい。
増粘剤としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂等が挙げられる。また、樹脂を溶解させるために使用される溶剤としては、樹脂を溶解できるものであれば特に限定されるものはない。
このようにして得られた希土類化合物含有液は、表面処理工程(ステップS20)において焼結体の表面処理を行って得られた希土類焼結磁石体に塗布する(ステップS21))。
図30は、希土類化合物含有液の塗布方法を示すフローチャートである。図30に示すように、希土類化合物含有液の塗布方法は、以下の工程を含んでなる。
希土類焼結磁石体11を把持具27Cに固定する工程(ステップS41)
希土類化合物含有液21に、希土類焼結磁石体11を塗布させる塗布工程(ステップS42)
希土類焼結磁石体11を希土類化合物含有液21から引き上げる工程(ステップS43)
希土類焼結磁石体11を待機する工程(ステップS44)
希土類焼結磁石体11に塗布させた希土類化合物含有液21の一部を第1ブレード25および第2ブレード26により掻き取る側面掻き取り工程(ステップS45)
第1ブレード25および第2ブレード26を希土類焼結磁石体11から離脱する工程(ステップS46)
希土類化合物含有液21を塗布させた希土類焼結磁石体11を取りはずす工程(ステップS47)
まず、希土類焼結磁石体11を把持具27Cに固定する(ステップS41、図21参照)。次いで、シリンダ28が把持具27Cを下降させて、希土類焼結磁石体11を浸漬槽22に満たされた希土類化合物含有液21に所定の深さD2で浸漬する塗布工程を行う(ステップS42、図22参照)。これにより、希土類化合物含有液21を希土類焼結磁石体11の角部に塗布させる。
次いで、希土類焼結磁石体11を、浸漬槽22から引き上げる(ステップS43、図23参照)。そして、掻き取りを行わずに所定の時間待機する(ステップS44、図23参照)。次いで、第1ブレード25が、希土類焼結磁石体11の端面および側面に塗布させた希土類化合物含有液21の一部を掻き取る(ステップS45)。この希土類化合物含有液21の掻き取りは、第1ブレード25で希土類焼結磁石体11の端面に塗布させた希土類化合物含有液21の一部を掻き取った後、第2ブレード26で、希土類焼結磁石体11の側面に塗布させた希土類化合物含有液21の一部を掻き取る。この希土類化合物含有液21の掻き取りは複数回繰り返されてもよい。
次いで、第1ブレード25と第2ブレード26とが、希土類焼結磁石体11から離れる(ステップS46)。次いで、希土類化合物含有液21の塗布した希土類焼結磁石体11が、把持具27Cから取り外される(ステップS47)。
<熱処理工程(ステップS22)>
希土類化合物含有液を希土類焼結磁石体の端面の角部に塗布した後、希土類焼結磁石体を所定の時間、所定の温度で熱処理する(熱処理工程(ステップS22))。熱処理を施すことにより、希土類焼結磁石体の端面の角部に存在するHRの希土類化合物は結晶粒界を通じて希土類焼結磁石体の内部に取り込まれ、主に結晶粒界を経由して主相の各結晶粒の内部に拡散し、結晶粒の粒界近傍にHRは拡散する。
また、熱処理を施して、希土類化合物含有液に含まれていたHRの希土類化合物を希土類焼結磁石体に吸収させる際、真空又は不活性ガス雰囲気として減圧して熱処理を行なうようにする。不活性ガスとしては、Ar、He等が用いられる。真空又は不活性ガス雰囲気として減圧して熱処理することでHRの希土類化合物は焼結磁石体の表面から内部に供給し易くなる。
熱処理温度は、希土類焼結磁石体の焼結温度以下の温度とする。希土類焼結磁石体の焼結温度以上の温度で熱処理すると、希土類焼結磁石の組織が変成する虞があるからである。また、HRの希土類化合物が希土類焼結磁石体の結晶粒界だけでなく結晶粒の内部にまで拡散し、希土類焼結磁石体の表面における残留磁束密度Brが低下する虞があるからである。
熱処理温度は、具体的には600℃以上1000℃以下、好ましくは800℃以上950℃以下である。また、熱処理の後に時効処理を施すことができる。時効処理を施すことで保磁力が向上する。時効処理温度としては、400℃以上650℃以下、より好ましくは450℃以上600℃以下である。
<表面処理工程:ステップS23>
希土類焼結磁石体を熱処理した後、硝酸を用いて所定時間、実施形態に係る希土類焼結磁石の表面をエッチングする。その後、Niめっきを行い、実施形態に係る希土類焼結磁石の表面にNiめっき膜を形成する(表面処理工程(ステップS23))。また、本実施形態においては、希土類焼結磁石の表面にNiめっき膜を形成し、表面処理するようにしているが、これに限定されるものではなく、Niめっきの他に、酸化、窒化、化成処理による表面改質法、樹脂コートなどを施し、耐蝕性を向上させるようにしてもよい。
このように、希土類焼結磁石体の端面の両角部に希土類化合物含有液を塗布して熱処理を施し、希土類焼結磁石体の端面の両角部にHRの希土類化合物を拡散させて、図1に示すような回転機用磁石を製造し、処理を終了する。
得られる回転機用磁石の表面における回転機用磁石は、希土類焼結磁石体の両端部における残留磁束密度Brは希土類焼結磁石体の中央部における残留磁束密度Brより相対的に低くなる。よって、希土類焼結磁石の表面における残留磁束密度Brの分布を制御して、相対的に希土類焼結磁石体の両端部の残留磁束密度Brを下げることで、正弦波に近い磁束波形を得ることができるため、回転機用磁石の表面の磁束の波形を滑らかにすることができる。そのため、このようにして得られる希土類焼結磁石を回転機用の磁石に用いた場合、回転機のコギングトルクの低減を図ることができる。
以上のようにして希土類焼結磁石体の端面の両角部に希土類化合物含有液を塗布し、乾燥させることで回転機用磁石を得ることができる。また、着磁させることで、磁石製品が得られる。
このようにして得られる本実施形態に係る回転機用磁石10は、例えばロータ表面に磁石を取り付けた表面磁石型(Surface Permanent Magnet:SPM)モータ、インナーロータ型のブラシレスモータのような内部磁石埋込型(Interior Permanent Magnet;IPM)モータ、PRM(Permanent magnet Reluctance Motor)などの磁石として好適に用いられる。特に、IPMモータは、コギングトルクが小さい等の利点を有することから、ハードディスクドライブのハードディスク回転駆動用スピンドルモータやボイスコイルモータ、電気自動車やハイブリッドカー用モータ、自動車の電動パワーステアリング用モータ、工作機械のサーボモータ、携帯電話のバイブレータ用モータ、プリンタ用モータ等の用途として好適に用いられる。
以上、本実施形態に係る回転機用磁石の好適な実施形態について説明したが、本実施形態に係る回転機用磁石はこれに制限されるものではない。本実施形態に係る回転機用磁石は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形、種々の組み合わせが可能であり、永久磁石以外についても同様に適用することができる。
<モータ>
本実施形態に係る回転機用磁石をモータに用いた好適な実施形態について説明する。ここでは、本実施形態に係る希土類焼結磁石をSPMモータに適用した一例について説明する。図31は、SPMモータの一実施形態の構成を簡略に示す断面図であり、図31に示すように、SPMモータ40は、ハウジング41内に、円柱状のロータ42と、円筒状のステータ43と、回転軸44とを有する。回転軸44はロータ42の横断面の中心を貫通している。ロータ42は、鉄材等からなる円柱状のロータコア(鉄芯)45と、そのロータコア45の外周面に所定間隔で設けられた複数の永久磁石46と、永久磁石46を収容する複数の磁石挿入スロット47とを有する。永久磁石46には本実施形態に係る希土類焼結磁石が用いられる。この永久磁石46は、ロータ42の円周方向に沿って各々の磁石挿入スロット47内にN極とS極が交互に並ぶように複数設けられている。これによって、円周方向に沿って隣り合う永久磁石46は、ロータ42の径方向に沿って互いに逆の方向の磁力線を発生する。ステータ43は、その筒壁(周壁)の内部の周方向にロータ42の外周面に沿って所定間隔で設けられた複数のステータコア48とスロットル49とを有している。この複数のステータコア48はステータ43の中心に向けてロータ42に対向するように設けられる。また、各々のスロットル49内にはコイル50が巻装されている。永久磁石46とステータコア48とは互いに対向するように設けられている。ロータ42は、回転軸44とともにステータ43内の空間内で回動可能に設けられている。ステータ43は電磁気的作用によってロータ42にトルクを与え、ロータ42は円周方向に回転する。
SPMモータ40は、永久磁石46として本実施形態に係る回転機用磁石を用いており、回転機用磁石の表面の磁束の波形を滑らかにすることができる。そのため、SPMモータ40は、SPMモータ40の回転中、コギングトルクなどの発生の低減を図ることができるので、モータのトルク特性などモータの性能を向上させることができ、長期間に亘って高出力を維持することができ、信頼性に優れる。
以下、本発明を実施例及び比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
まず、次のようにして希土類化合物含有液が塗布した焼結磁石体を作成した。
[希土類焼結磁石体の製造]
以下に示す方法で希土類焼結磁石体(焼結体磁石)を製造した。まず、主に磁石の主相を形成する主相系合金と、主に粒界を形成する粒界系合金を、ストリップキャスト(SC)法で鋳造した。主相系合金の組成は23.0wt%Nd−2.6wt%Dy−5.9wt%Pr−0.5wt%Co−0.18wt%Al−1.1wt%B−bal.Feで、粒界系合金の組成は30.0wt%Dy−0.18wt%Al−0.6wt%Cu−bal.Feであった。
次いで、これらの原料合金をそれぞれ水素粉砕により粗粉砕した後、高圧N2ガスによるジェットミル粉砕を行い、それぞれ平均粒径Dが4μmの微粉末とした。得られた主相系合金の微粉末と、粒界系合金の微粉末とを、主相系合金:粒界系合金=9:1の割合で混合して、希土類焼結磁石体の原料粉末である磁性粉末を調製した。次いで、この磁性粉末を用い、成型圧1.2t/cm2、配向磁場15kOeの条件で磁場中成型を行い、成型体を得た。成型体は直方体の形状とし、端面が配向方向と垂直である。次いで、得られた成型体を、1060℃、4時間の条件で焼成することで、上記の組成を有する希土類焼結磁石の希土類焼結磁石体を製造した。その後、製造した希土類焼結磁石体を、3wt%HNO3/C2H5OHの混合溶液に3分間浸漬させた後、C2H5OHで洗浄する処理を2回行い、希土類焼結磁石体11の表面処理を行った。また、これらの処理は、いずれも超音波を印加しながら行った。
[希土類化合物含有液の製造]
次に、希土類焼結磁石体に塗布させる希土類化合物含有液は、以下のようにして製造した。まず、テルピネオール20質量部中にアクリル樹脂6質量部を溶解し、樹脂溶液を作製した。次にこの樹脂溶液とDyH2(平均粒径D=5μm)100質量部をハイブリッドミキサー(キーエンス製 HM−500)で5分間混合し、希土類化合物含有液(ペースト)を作製した。なお、使用したDyH2は、Dy粉末を水素雰囲気下350℃に1時間おいてDy粉末に水素を吸蔵させ、これに続いて水素吸蔵Dy粉末をAr雰囲気下、600℃で1時間処理することにより調整したものである。このようにして得られたDyH2は、X線回折測定を行い、JCPDSカード(旧ASTMカード) 47−978のErH2からの類推により、DyH2であると同定された。
また、得られた希土類化合物含有液の粘度はせん断速度1s-1(以下、V1とする)で145Pa・s、せん断速度100s-1(以下、V100とする)で31Pa・s、V1粘度/V100粘度=4.7であった。粘度測定は、コーンプレートタイプの粘度計(HAKKE社製 Rheo Stress 600)を用いて行った。測定条件であるが、温度20℃にてせん断速度を0s-1〜100s-1まで連続的に30秒かけて上げ、その時のV1およびV100の粘度値をデータとした。なお、V1における粘度の値は、希土類化合物含有液に配合する樹脂の分子量を大きくすると高くなり、分子量を小さくすると低くなる。したがって、V1における粘度/V100における粘度は、樹脂の分子量を選択することによって変更することができる。また、溶剤の量を変更して濃度を調整することにより、V100における粘度、また全体の粘度を調整することができる。
[希土類化合物含有液の塗布]
出来上がった希土類化合物含有液(ペースト)を本実施形態の浸漬槽22に投入し、スクイジーにて浸漬槽22の壁の高さと同じになるように調整した。続いて、磁石基材(サイズ:35mm×16mm×5mm)(焼結磁石体)の希土類化合物含有液21を塗布する端面側の中央部分にマスキングマテープを張り付けた。その後、磁石基材を把持具27Aのチャック部分(図2に示す希土類化合物塗布装置20の把持具27A)に固定し、磁石基材の表面の塗布幅Pw(図10参照)が所定値となるように、磁石基材を浸漬槽22に5秒間接触させた後、引き上げた。次いで、第1のブレード25(掻き取り機構)の刃先が希土類焼結磁石体11の端面(表面)に接近し、希土類焼結磁石体11の端面(表面)の余分な希土類化合物含有液(ペースト)を第2のブレード26(掻き取り機構)により掻き落とし、所定の厚みを得た。磁石基材への希土類化合物含有液(ペースト)の塗布面積は、10mm2程度とした。また、必要な膜厚は70μm以上であり、またDyH2の使用量をできるだけ削減するという観点から磁石基材の表面にDyH2を10mg/cm2〜30mg/cm2程度塗布させることを目標とする。本実施例では、20mg/cm2程度塗布させた。
[希土類焼結磁石の製造]
希土類化合物含有液(ペースト)を塗布した希土類焼結磁石体を乾燥させた後、乾燥後の希土類焼結磁石体111に対し、900℃、5時間の熱処理を行った後、540℃、1時間の時効処理を更に行うことにより、図26に示すような希土類焼結磁石を製造した。なお、得られた希土類焼結磁石の大きさは、2mm(厚み:磁気異方化方向)×45mm×30mmであった。
[実施例2〜5]
磁石基材の端面(上面)の塗布幅Pw(図10参照)を変更し、塗布面積を変更したこと以外は、実施例1と同様の条件で行い、図26に示すような希土類焼結磁石を作製した。
[実施例6〜20]
磁石基材を把持具27Cのチャック部分(図21に示す希土類化合物塗布装置20の把持具27C)に固定し、磁石基材の端面の一部とその側面の一部(角部)に、各実施例において、磁石基材の表面の塗布高さPd(図24参照)、塗布幅Pw(図24参照)が所定値となるように、磁石基材を浸漬槽22に5秒間浸漬した後、引き上げた。次いで、第1のブレード25(掻き取り機構)により端面(表面)の余分な希土類化合物含有液(ペースト)を完全にかき取り(2面のみ)、側面(底面)の余分な希土類化合物含有液(ペースト)を第2のブレード26(掻き取り機構)により掻き落とし、所定の厚みを得た。また残りの側面2面に関しても希土類化合物含有液(ペースト)を完全に掻き落とした。その後、実施例1と同様の条件で行い、図1に示すような希土類焼結磁石を作製した。
[実施例21〜25]
磁石基材を把持具27Bのチャック部分(図11に示す希土類化合物塗布装置20の把持具27B)に固定し、磁石基材の端面の一部に、各実施例において、磁石基材の表面の塗布幅Pw(図20参照)が所定値となるように、磁石基材を浸漬槽22に5秒間浸漬後、引き上げた。次いで、第1のブレード25(掻き取り機構)により端面(表面)の余分な希土類化合物含有液(ペースト)を完全にかき取り(2面のみ)、側面(底面)の余分な希土類化合物含有液(ペースト)を第2のブレード26(掻き取り機構)により掻き落とし、所定の厚みを得た。また残りの側面2面に関しても希土類化合物含有液(ペースト)を完全に掻き落とした。その後、実施例1と同様の条件で行い、図27に示すような希土類焼結磁石を作製した。
[実施例26〜31]
実施例23と同様の条件で、磁石基材の側面に、希土類化合物含有液(ペースト)を塗布し、磁石基材への希土類化合物含有液(ペースト)の塗布率を変更したこと以外は、実施例1と同様の条件で行い、図27に示すような希土類焼結磁石を作製した。
[実施例32〜36]
拡散源としてDyH2に代えてTbH2を用い、実施例21と同様の条件で、磁石基材の側面に、希土類化合物含有液(ペースト)を塗布し、磁石基材への希土類化合物含有液(ペースト)の塗布高さPd(図20参照)、端面(上面)の塗布幅Pw(図20参照)を変更し、塗布面積を変更したこと以外は、実施例1と同様の条件で行い、図27に示すような希土類焼結磁石を作製した。
[比較例1〜9]
拡散源としてDyかTbを用い、磁石基材への希土類化合物含有液(ペースト)の塗布範囲(塗布高さPd、塗布幅Pw、塗布面積、塗布率)、磁石基材の形状(直方体型か部分円弧状の断面形状を有する磁石基材)、切削の有無の何れか1つ以上を変更し、実施例1と同様の条件で行い、希土類焼結磁石を作製した。
以上の各実施例、比較例において、用いた拡散源、磁石基材への希土類化合物含有液(ペースト)の塗布範囲(塗布高さPd、塗布幅Pw、塗布面積、塗布率)、切削の有無、磁石基材の形状を表1に示す。なお、表1に示す磁石基材の形状の表示として、W型とは、直方体を表し、C型とは、断面形状が円弧状の磁石基材を表す。
<磁石特性の評価>
製造した希土類焼結磁石の磁石特性を以下の方法で測定し、評価した。なお、磁石特性として、希土類焼結磁石の希土類焼結磁石体の両端部の残留磁束密度Brと中央部の残留磁束密度Brとの残留磁束密度比(Br比)、ピーク数、質量歩留り、コギングを測定した。コギングは、各実施例および比較例で得られた希土類焼結磁石を用いて磁場解析シミュレーションを行い、コギングトルクを測定した。
[Br比]
(サンプルの取り出し)
Br比の計測は、図32に示すように、直方体の希土類焼結磁石の磁石端部から一辺1mmの立方体(1×1×1mm)の磁気特性試料K1を取り出した。また、直方体の希土類焼結磁石の磁石中心部から一辺1mmの立方体(1×1×1mm)の磁気特性試料C1を取り出した。
(BH測定)
取り出した磁気特性試料K1、C1の一部は、アクリル棒に固定し、振動試料型磁力計(VSM:Vibrating Sample Magnetometer)を用いて測定して残留磁束密度Brを測定した。得られた各磁気特性試料K1、C1の残留磁束密度Brを、各々、Br(K1)、Br(C1)とした。
(Br比の算出)
得られたBr(K1)、Br(C1)の値から、下記式(1)のように、Br(C1)に対するBr(K1)の低下率を算出し、Br比を求めた。
Br比=[1−Br(K1)]/Br(C1)(%)・・・(1)
[ピーク数]
各希土類焼結磁石の残留磁束密度Brから周方向における磁束を求め、このとき得られる波形からピーク数を求めた。
[質量歩留り]
各希土類焼結磁石体を焼結・時効工程後から各工程完了後における希土類焼結磁石体の質量留とする。
[コギングトルク]
各実施例および比較例により作製した希土類焼結磁石を図31に示すようなSPMモータ用の永久磁石として適用して磁場解析シミュレーションを行なった。ロータコアの外部
に永久磁石を配置した後、磁場を印加して無負荷の状態で、10rpmで回転させたときのトルクの変動(コギングトルク)を測定した。
各実施例および比較例の磁石特性の測定結果を表1に示す。
表1より、希土類焼結磁石体に希土類化合物含有液を塗布しないか、塗布しても希土類焼結磁石体の全面、または希土類焼結磁石体の側面に希土類化合物含有液を塗布すると、Br比は0.25以下であり、磁束のピーク数も2つ確認され、コギングトルクも3.0N・m以上であり、回転用磁石として用いることは好ましくないといえる(比較例1〜7参照)。また、段面を半円形状に切削して希土類焼結磁石体を用い、希土類化合物含有液を塗布しなかった希土類焼結磁石を用いた場合、Br比は0.25以上であったが、磁束のピーク数も1つ確認され、コギングトルクも2.50N・m以下であったため、回転用磁石として用いることはできるが、質量歩留りが悪いことから、高価な希土類金属を用いる回転用磁石として用いると費用が高額となるといえるため、好ましくない(比較例8、9参照)。
これに対し、希土類焼結磁石体の端面(上面)の一部や、希土類焼結磁石体の角部、または希土類焼結磁石体の端面(上面)の一部とその側面に希土類化合物含有液を塗布すると、Br比は0.25よりも大きく1.5以下であり、磁束のピーク数も1つか2つ確認され、コギングトルクも2.80N・m以下となったことが確認された。
よって、希土類焼結磁石体の端面の一部のみ希土類化合物含有液を所定量塗布し焼成して得られる希土類焼結磁石は、周方向における回転機用磁石の表面の磁束の波形を滑らかにし正弦波に近い形状とすることができる。このため、本実施形態に係る希土類焼結磁石をモータなど回転機用の永久磁石として用いることで、SPMモータなど回転機は、モータの回転中、コギングトルクなどの発生を低減することができ、モータのトルク特性などモータの性能を向上させることができ、長期間に亘って高出力を維持することができ、信頼性に優れる。このことから希土類焼結磁石体の端面の一部のみ希土類化合物含有液を所定量塗布し焼成して得られる希土類焼結磁石は、モータなど回転機用の永久磁石として好適に用いることができる。