以下、図1〜図7を用いて、本発明の一実施形態に係る燃料噴射装置及びその駆動装置の構成と動作について説明する。
最初に、図1を用いて、燃料噴射装置及びその駆動装置の構成と基本的な動作を説明する。図1は、エンジン筒内に燃料を噴射するための燃料噴射装置の縦断面図と、その燃料噴射装置を駆動するためのEDU(駆動回路:エンジンドライブユニット)121、ECU(エンジンコントロールユニット)120の構成の一例を示す図である。本実施の形態ではECU120とEDU121とは別体の部品として構成されているが、ECU120とEDU121は一体の部品として構成されてもよい。また、本実施の形態では車載用エンジン、特にエンジン筒内に燃料を噴射する筒内直噴エンジンについて説明を行うが、これに限られない。
ECU120では、エンジンの状態を示す信号を吸入空気量センサなどの各種センサから取り込み、エンジンの運転条件に応じて適切な噴射パルスの幅や噴射タイミングの演算を行う。ECU120より出力された噴射パルスは、信号線123を通して燃料噴射装置の駆動回路121に入力される。駆動回路121は、ソレノイド105に印加する電圧を制御し、駆動電流を供給する。ECU120は、通信ライン122を通して、駆動回路121と通信を行っており、燃料噴射装置に供給する燃料の圧力やエンジンの運転条件に基づき、駆動回路121が生成する駆動電流を切替えることが可能である。駆動回路121は、ECU120との通信によって制御定数を変化できるようになっており、制御定数に応じて電流波形が変化する。
燃料噴射装置の縦断面を用いて構成と動作について説明する。
図1に示した燃料噴射装置は通常時閉型の電磁弁(電磁式燃料噴射装置)であり、ソレノイド(コイル)105に通電されていない状態では、弁体114は第1のばねであるスプリング110によって弁座118に向けて付勢され、弁座118に密着して閉状態となっている。この閉状態においては、可動子102は第2のばねであるゼロ位置ばね112によって固定コア107側(開弁方向)に付勢されており、弁体114の固定コア側の端部に設けられた規制部114aに密着している。この状態では、可動子102と固定コア107との間には隙間がある状態となっている。弁体114のロッド部114bをガイドするロッドガイド113は、ハウジングを成すノズルホルダ101に固定されている。弁体114と可動子102とは弁体114の可動方向(開閉弁方向)に相対変位可能に構成されており、ノズルホルダ101に内包されている。また、ロッドガイド113はゼロ位置ばね112のばね座を構成している。スプリング110による力は、固定コア107の内径に固定されるバネ押さえ124の押し込み量によって組み立て時に調整されている。なお、ゼロ位置ばね112の付勢力はスプリング110の付勢力よりも小さく設定されている。
燃料噴射装置は、固定コア107、可動子102、ヨーク103とで磁気回路を構成しており、可動子102と固定コア107との間に空隙を有している。ノズルホルダ101の可動子102と固定コア107との間の空隙に対応する部分には磁気絞り111が形成されている。ソレノイド105はボビン104に巻き付けられた状態でノズルホルダ101の外周側に取り付けられている。
弁体114の規制部114aとは反対側の端部の近傍にはロッドガイド115がノズルホルダ101に固定されるようにして設けられている。このロッドガイド115はオリフィスカップ116と同一の部品として構成されても良い。弁体114は第1のロッドガイド113と第2のロッドガイド115との2つのロッドガイドにより、弁軸方向の動きをガイドされている。
ノズルホルダ101の先端部には、弁座118と燃料噴射孔119とが形成されたオリフィスカップ116が固定され、可動子102と弁体114とが設けられた内部空間(燃料通路)を封止している。燃料噴射孔119は、本実施形態では複数設けられているが、一つのみ設けられていてもよい。
燃料は燃料噴射装置の紙面上方より供給され、弁体114の規制部114aとは反対側の端部に形成されたシール部と弁座118とで燃料をシールしている。閉弁時には、燃料圧力によって弁座位置におけるシート内径に応じた力で弁体が閉方向に押されている。
ソレノイド105に電流が通電されると、可動子102と固定コア107との間に磁束が発生し、磁気吸引力が発生する。可動子102に作用する磁気吸引力がスプリング110による荷重と、燃料圧力による力の和を超えると、可動子102が上方へ動く。このとき可動子102は弁体114の規制部114aと係合した状態で弁体114と一緒に上方へ移動し、可動子102の上端面が固定コア107の下面に衝突するまで移動する。
その結果、弁体114が弁座118より離間し、供給された燃料が、複数の燃料噴射孔119から噴射される。
ソレノイド105への通電が断たれると、磁気回路中に生じていた磁束が消滅し、磁気吸引力も消滅する。可動子102に作用する磁気吸引力が消滅することによって、弁体114はスプリング110の荷重と、燃料圧力による力によって、弁座118に接触する閉位置に押し戻される。
弁体114が目標リフト位置で静止している状態すなわち、開弁状態において、可動子102と固定コア107が相対する環状端面には、可動子102か固定コア107のどちらか一方もしくは両方に衝突部役割を果たす突起部が設けられている。また、突起部によって、開弁状態において、可動子102もしくは固定コア107の突起部以外の可動子102もしくは、固定コア107側との面との間には、空隙を有しており、開弁状態で突起の外径方向と内径方向に流体が移動可能な燃料通路が一つ以上設けられている。一般的に、磁気特性が良いマルテンサイト系もしくは、フェライト系のステンレス鋼では、材料の硬度および強度が低く、マルテンサイト系ステンレス鋼においては、硬度を大きくするために熱処理を行うと磁気特性が低下する場合がある。したがって、可動子102と固定コア107の衝突による突起部の摩耗を防ぐため、突起部を設けた端面に硬質クロムメッキなどのメッキ処理を行う場合がある。弁体114が閉位置に押し戻される動作では、可動子102は弁体114の規制部114aと係合した状態で一緒に移動する。
本実施の形態の燃料噴射装置では、弁体114と可動子102とは、開弁時に可動子102が固定コア107と衝突した瞬間と、閉弁時に弁体114が弁座118と衝突した瞬間の非常に短い時間、相対的な変位を生じることにより、開弁時の可動子102の固定コア107に対するバウンドや、閉弁時の弁体114の弁座118に対するバウンドを抑制する効果を奏する。
ここで、スプリング110は磁気吸引力による駆動力の向きとは逆向きに弁体114を付勢しており、ゼロ位置ばね112はスプリング110の付勢力とは逆向きに可動子102を付勢している。
次に、燃料噴射装置を駆動する一般的な噴射パルスと駆動電圧と駆動電流(励磁電流)と弁体変位量(弁体挙動)との関係(図2)、及び噴射パルスと燃料噴射量との関係(図3)について説明する。
ECU120から駆動回路121に噴射パルスが入力されると、駆動回路121はバッテリ電圧VBよりも高い電圧VHに昇圧された高電圧源からソレノイド105に高電圧201を印加し、ソレノイド105に電流の供給が開始される。電流値が、予め定められたピーク電流値Ipeakに到達すると、高電圧201の印加を停止する。なお、高電圧201
の印加停止の条件は、昇圧電圧印加時間Tpをあらかじめ決めておくなどして設定してもよい。その後、印加する電圧値を0V以下にし、電流202のように電流値を低下させる。電流値が所定の電流値204より小さくなると、駆動回路121はバッテリ電圧VBの印加をスイッチングによって行い、所定の電流203になるように制御する。なお、バッテリ電圧VBの印加の条件も、経過時間などで設定してもよい。
このような供給電流のプロファイルにより、燃料噴射装置は駆動される。高電圧201の印加からピーク電流値Ipeakもしくは、電流203に到達するまでの間に、弁体114
のリフトが開始され、弁体114はやがて目標リフト位置に到達する。目標リフト位置到達後は、可動子102と固定コア107との衝突により、弁体114がスプリング110の付勢力と燃料圧力とに逆らってバウンド動作を行い、やがて電流203が生成する磁気吸引力とゼロ位置ばね112の開弁方向の力とつり合うことによって、弁体114は所定の目標リフト位置に静止し、安定した開弁状態となる。つまり、弁体114は可動子102に対して相対変位可能に構成されているため、目標リフト位置を越えて変位している。一方で、弁体114と可動子102が一体となっている可動弁を持つ燃料噴射装置の場合、弁体114の変位量は、目標リフト位置よりも大きくならず、目標リフト到達後の可動子102と弁体114の変位量は同等となる。可動子102と弁体114が一体の燃料噴射装置の場合、一体部品(以降、可動弁と称する)が磁気回路の構成部品となって吸引力を発生させ、弁座117との開・閉弁を行う2つの機能を有する。
次に、噴射パルス幅Tiと燃料噴射量との関係について説明する。噴射パルス幅Tiが一定の時間に達しない時には、可動子102に作用する磁気吸引力が、弁体114に作用する閉弁方向の力を上回らないため、弁体114は開弁せず、燃料は噴射されない。上記の閉弁方向の力とは、弁体114に働くスプリング110からの付勢力と閉弁状態での弁体114および弁座118の接触径(以降、シート径と称する)と燃料圧力の積で示される燃料圧力による力である。噴射パルス幅Tiが短い、例えば301のような条件では、弁体114は弁座118から離間し、リフトを開始するが、弁体114が目標リフト位置に達する前に閉弁を開始するため、直線領域320から外挿される一点鎖線330に対して噴射量は少なくなる。また、点302のパルス幅では、目標リフト位置に達する直後で閉弁を開始し、弁体114の軌跡が放物運動となる。この条件においては、弁体114が有する開弁方向の運動エネルギーが大きく、また、可動子102に作用する磁気吸引力が大きいため、閉弁に要する時間の割合が大きくなり、一点鎖線330に対して噴射量が多くなる。点303の噴射パルス幅では、弁体114のバウンド量が最大となるタイミングt23において閉弁を開始するため、可動子102と固定コア107が衝突する際の反発力が可動子102に働き、噴射パルスをOFFしてから閉弁するまでの閉弁遅れ時間が小さくなり、その結果噴射量は一点鎖線330に対して少なくなっている。点304は、弁体のバウンドが収束した直後のタイミングt24に閉弁を開始するような状態であり、点304より大きい噴射パルス幅Tiでは、噴射パルス幅Tiの増加に応じて燃料の噴射量が線形的に増加する。燃料の噴射が開始されてから、点304で示すパルス幅Tiまでの領域では、弁体114が目標リフトに到達しない、もしくは、弁体114が目標リフトに到達したとしても弁体のバウンドが安定しないため噴射量が変動し、ECU120からの出力通りに噴射量の制御を行うことができない。ECU120からの制御が可能な最小噴射量を小さくするためには、噴射パルス幅Tiの増加に応じて燃料の噴射量が線形的に増加する領域を増やすか、もしくは、噴射パルス幅Tiが304より小さい噴射パルス幅Tiと噴射量の関係が線形とならない非線形領域の噴射量を補正する必要がある。
図2で説明したような一般的な駆電流波形では、可動子102と固定コア107の衝突によって発生する弁体114のバウンドが大きく、弁体114のバウンド途中で閉弁を開始することにより、点304までの短い噴射パルス幅Tiの領域に非線形性が発生し、この非線形性が最小噴射量悪化の原因の一つとなっている。従って、弁体114が目標リフトに到達する条件での噴射量特性の非線形性を改善するためには、目標リフト位置到達後に発生する弁体114のバウンドを低減する必要がある。また、寸法公差に伴う弁体114の挙動の変動があるため、燃料噴射装置ごとに可動子102と固定コア107が接触するタイミングが異なり、可動子102と固定コア107の衝突速度にばらつきが生じるため、弁体114のバウンドは燃料噴射装置の個体ごとにばらつき、噴射量の個体ばらつきが大きくなる。
図4〜図12を用いて本発明における実施例1を説明する。図4は、噴射パルス幅Tiと燃料噴射装置の部品公差によって生じる噴射量の個体ばらつきの関係を示した図である。図5は、図4における噴射量の個体ばらつきでの弁体114の変位量の関係、各噴射パルス幅での弁体114の変位量と時間の関係を示した図である。図6は、燃料噴射装置の駆動装置121およびECU(エンジンコントロールユニット)120の詳細を示した図である。また、図7は、本発明の実施例1における噴射パルス、燃料噴射装置に供給する駆動電流、燃料噴射装置のスイッチング素子605、606、607、ソレノイドの端子間電圧、弁体114および可動子102の挙動と時間の関係を示した図である。図8は、本発明の実施例1における寸法公差の変動の影響によって弁体挙動が変動している3つの燃料噴射装置の噴射パルス幅Tiを停止後の弁体変位量、端子間電圧、端子間電圧の1階微分値、端子間電圧の2階微分値と噴射パルス停止後の時間との関係を示した図である。図9は、本発明の実施例1における閉弁完了タイミングの検知原理である噴射パルス停止後の可動子102と固定コア107との間の変位(ギャップ)と可動子102と固定コア107との間の吸引面を通過する磁束φと、電圧Vの対応関係を示した表である。図10は、本発明の実施例1における中間リフト条件で、同一の燃料噴射装置において噴射パルス幅Tiを変更した時の噴射パルス、駆動電流、弁体変位量、端子間電圧、端子間電圧の2階微分値と噴射パルスをONにしてからの時間の関係を示した図である。図11は、本発明の実施例1における寸法公差が異なる燃料噴射装置を駆動した場合に、弁体114が目標リフトに到達する閉弁完了タイミングを検知する条件でのソレノイドの端子間電圧、駆動電流、電流1階微分値、弁体変位量と噴射パルスをONにしてからの時間の関係を示した図である。図12は、一般的な磁性材料の磁化曲線(BHカーブ)の初期磁化曲線と戻り曲線を示した図である。
最初に、図4、図5を用いて、各噴射パルス幅Tiでの噴射量と弁体114の変位量の関係および、噴射量の個体ばらつきと弁体114の変位量の関係について説明する。噴射量の個体ばらつきは、燃料噴射装置の部品公差の影響や、環境条件の変動すなわち、燃料噴射装置に供給される燃料圧力、駆動装置のバッテリ電圧源、昇圧電圧源の電圧値の個体ばらつきによって生じるソレノイド105へ供給される電流値の変動によって生じる。燃料噴射装置の噴孔119より噴射される燃料の噴射量は、噴孔119の直径によって決まる複数の噴孔の総断面積が同じであった場合、弁体114の変位量できまる燃料シート部の燃料が流れる流路の断面積で噴射量が決まる。図4は、燃料噴射装置に一定の燃料圧力を供給した場合の噴射パルス幅が小さい領域で噴射量が設計の中央値となる個体Qcに対して、噴射量が大きい個体Quと噴射量が小さい個体Qlを記載した図である。
図4、図5を用いて、噴射量がある噴射パルス幅t41の条件において、設計の中央値となる個体Qcの各噴射パルス幅Tiでの噴射量と弁体114の変位量の関係について説明する。噴射パルス幅Tiが小さい点401の条件での弁体114の変位量は実線501となり、弁体114が目標リフトに到達する前に、噴射パルス幅TiがOFFとなり、弁体114が閉弁し、弁体114は放物運動の軌跡となる。次に、噴射パルス幅Tiと噴射量の関係が略線形となる直線領域から外挿される一点鎖線430より、噴射量が大きくなる点402では、実線501よりも弁体114の変位量は大きくなり、弁体114が目標リフト位置に到達しきらずに、一点鎖線502に示すように閉弁を開始し、実線501と同様に放物運動の軌跡となる。次に、一点鎖線430より、噴射量が小さくなる点403では、可動子102が固定コア107と衝突した後に、弁体114が閉弁を開始し、2点鎖線503に示すような軌跡となり、噴射パルス幅TiをOFFにしてから弁体114が弁座118と接触するまでの閉弁遅れ時間は、1点鎖線502の条件と比べて小さくなり、その結果、点402と比べて点403の噴射量が小さくなる。また、図のt41の噴射パルス幅Tiでの各Qu、Qc、Qlの点432、401、431での弁体114の変位量を、506、505、504に示す。タイミングt41での噴射パルス幅500を駆動回路に入力した場合、燃料噴射装置640の寸法公差の個体差の影響によって噴射パルス幅をONにしてからの弁体114の開弁開始タイミングがt51、t52、t53のように変動する。気筒毎に備えられた各固体に同一の噴射パルス幅を与えた場合、開弁開始タイミングが早い個体Quが、噴射パルス幅をOFFにするタイミングt54での弁体114の変位量504が最も大きくなる。噴射パルス幅をOFFにした後も、可動子102は運動エネルギーおよび渦電流の影響による残留磁束に伴う残留磁気吸引力によって、弁体114は変位を継続し、可動子102の運動エネルギーと磁気吸引力による開弁方向の力が、閉弁方向の力を下回ったタイミングt57で弁体114が閉弁を開始する。弁体の変位量504、505、506に示す通り、開弁開始タイミングが早い個体のほうが、弁体114のリフト量が大きく、噴射パルス幅をOFFにしてから弁体114が閉弁完了するまでの閉弁遅れ時間が増加する。したがって、各気筒の燃料噴射装置の開弁開始タイミングもしくは、閉弁完了タイミングの個体ばらつきを駆動回路121やECU120で検知もしくは推定できれば、中間リフトでのリフト量の制御が可能となり、噴射量の個体ばらつきを低減して、中間リフトの領域でも噴射量を安定的に制御することができる。
図6、図7、図8を用いて実施例1における燃料噴射装置の駆動回路の構成と噴射量の個体ばらつきの要因である弁体114の変位量の個体ばらつきの検出方法について説明する。図6は燃料噴射装置を駆動する回路構成を示した図である。CPU601は例えばECU120に内蔵され、内燃機関の運転条件、例えば吸入空気量や回転数等に応じて適切な噴射パルス幅Tiのパルス幅(すなわち噴射量)や噴射タイミングの演算を行い、通信ライン604を通して燃料噴射装置の駆動IC602に噴射パルス幅Tiを出力する。その後駆動IC602によって、スイッチング素子605、606、607のON、OFFを切替えて、燃料噴射装置のソレノイド105へ駆動電流を供給する。
スイッチング素子605は駆動回路に入力された電圧源VBよりも高い高電圧源とソレノイド105の高電圧側の端子間に接続されている。スイッチング素子605、606、607は、例えばFET等のトランジスタによって構成される。高電圧源の電圧値である昇圧電圧VHは例えば60Vであり、バッテリ電圧を昇圧回路614によって昇圧することで生成される。昇圧回路614は例えばDC/DCコンバータ等により構成されるが、コイル630とトランジスタ631、ダイオード632およびコンデンサ633で構成してもよい。後者の昇圧回路の場合、トランジスタ631をONにすると、バッテリ電圧VBは接地電位634側へ流れるが、トランジスタ631をOFFにすると、コイル630に発生する高い電圧がダイオード632を通して静流されコンデンサ633に電荷が蓄積される。昇圧電圧VHとなるまで、このトランジスタのON・OFFを繰り返し、コンデンサ633の電圧を増加させる。スイッチング素子607は、低電圧源VBと燃料噴射装置の高圧端子間に接続されている。低電圧源VBは例えばバッテリ電圧であり、その電圧値は12から14V程度である。スイッチング素子606は、ソレノイド105の低電圧側の端子と接地電位615の間に接続されている。駆動IC602は、電流検出用の抵抗608、612、613により、ソレノイド105に流れている電流値を検出し、検出した電流値によって、スイッチング素子605、606、607のON、OFFを切替え、所望の駆動電流を生成している。なお、電流検出用の抵抗608、612、613は、電流の検出精度の向上とコストおよび信頼性の観点から、抵抗値が小さく、高精度な抵抗器であるシャント抵抗を用いると良い。特に、燃料噴射装置の場合では、ソレノイド105の抵抗値に比べて、抵抗608、612、613の抵抗値は十分に小さいため、抵抗608、612、613で発生する損失による影響は小さい。ダイオード609と610は電流を遮断するために備え付けられている。CPU601は駆動IC602と通信ライン603を通して、通信を行っており、燃料噴射装置に供給する燃料の圧力や運転条件によって駆動IC602によって生成する駆動電流を切替えることが可能である。
図6、図7を用いて、実施例1における駆動回路の構成と燃料噴射装置に流れる励磁電流を生成するための、スイッチング素子の切替えタイミングおよび燃料噴射装置の端子間電圧、弁体114の変位量の関係について説明する。
図7は、CPU601より出力される噴射パルス幅Tiと駆動電流(励磁電流)、駆動回路121およびECU120に内包されているスイッチング素子605、スイッチング素子606、スイッチング素子606のON、OFFのタイミングとソレノイド105の端子間電圧および弁体114の変位量を示した図である。
タイミングt71において、CPU601より噴射パルス幅Tiが通信ライン604を通して駆動IC602に入力されると、スイッチング素子605とスイッチング素子606がONとなり、バッテリ電圧よりも高い昇圧電圧VHを印加し、駆動電流がソレノイド105に供給され、電流が急速に立ち上がる。電流がピーク電流値Ipeakに達すると、スイッチング素子605とスイッチング素子606、スイッチング素子が共にOFFになり、ソレノイド105のインダクタンスによる逆起電力によって、ダイオード609とダイオード610が通電し、電流が電圧源VH側へ帰還され、ソレノイド105に供給されていた電流は、電流702のようにピーク電流値Ipeakから急速に低下する。なお、ピーク電流値Ipeakから電流703への移行期間にスイッチング素子606をONにすると、逆起電力エネルギーによる電流は接地電位側に流れ、電流は緩やかに低下する。その後タイミングt73に到達すると、再びスイッチング素子606をONにし、スイッチング素子607のON、OFFの切替えを行い、電流値704或いはその近傍で電流値を保持するように電流703を制御する。電流703を一定時間保持した後、噴射パルスがOFFになるとスイッチング素子606とスイッチング素子607を共にOFFにする。スイッチング素子606、607が共にOFFになると、これまで接地電位(GND)側へ電流が流れられなくなるため、ソレノイド105のインダクタンスによる逆起電力によって、電圧源側の端子の電圧が増大し、接地電位(GND)側からダイオード609とソレノイド105、ダイオード610を介して高電圧源へ帰還され、コンデンサ633に電荷が蓄積される。このとき、ソレノイド105に供給されていた電流は、電流703から急速に低下するが、固定コア107、可動子102、ヨーク103とで構成される磁気回路の内部に発生する渦電流の影響によって、磁気回路内の磁束が消滅するまでの間、燃料噴射装置640には磁気吸引力が残留する。渦電流に起因する残留磁束の影響により、ソレノイド105の端子間電圧には、テール電圧705が生じ、渦電流が消滅して磁気吸引力が低下する過程をソレノイド105の端子間電圧Vinjとして測定することができる。
次に、噴射パルス幅Tiの印加を停止してからの弁体114と可動子102の挙動について説明する。噴射パルス幅TiがOFFになると、可動子102に生じていた磁気吸引力が減少し、磁気吸引力が弁体114と可動子102に働く閉弁方向の力(燃料圧力による力とスプリング110の荷重の合力)よりも小さくなったタイミングで弁体114と可動子102は連動して閉弁を開始する。弁体114と可動子102は弁座118と接触するまでは同一の挙動となるが、弁体114が弁座118と接触するタイミングt76になると、可動子102は弁体114から離間し、閉弁方向に放物運動する。その後、可動子102を開弁方向に付勢しているゼロ位置ばね112によって、可動子102がタイミングt77に到達したときに再び弁体114と接触し、変位量0の位置で可動子102の運動が停止する。
また、弁体114および可動子102が開弁状態から閉弁する際に、ソレノイド105の端子間電圧VinjをCPU601もしくは、IC602で検出するため、ソレノイド105の電圧源VH、VB側の端子と接地電位615との間の電位差を検出し、CPU601もしくは、IC602に搭載したA/Dコンバーターを介して、CPU601もしくは、IC602で検知すると良い。なお、A/DコンバーターはIC602、CPU612とは別の素子としてECU120内に実装してもよい。また、端子間電圧Vinjはソレノイド105の電圧源VH、VB側の端子と接地電位615側の端子との間の電位差により検出してもよい。このように構成することで、弁体114が開弁状態から閉弁を開始し、弁座117と接触した瞬間に、可動子102が弁体114から離間することによる可動子102の加速度の変化を、端子間電圧Vinjに発生する誘導起電力の変化として検出し、端子間電圧VinjをIC602もしくは、CPU612に搭載されたA/Dコンバーターを介することで、デジタル信号として検知することができる。また、図7に示すとおり、端子間電圧Vinjには、最大で負の方向の昇圧電圧−VHからVHまでの高電圧が生じ、昇圧電圧VHを60Vとすると120Vの電位差が発生することになる。ここで、A/Dコンバーターには測定可能なレンジの限界があるため、CPU601およびIC602のA/Dコンバーターに入力可能な電圧値にまで電圧を小さくする必要がある。そこで、測定端子641および642との間に抵抗器を直列に2つ配置し、端子間電圧Vinjを分圧して、抵抗器の1つの両端電圧をCPU601もしくは、IC602に入力すると良い。これにより、検出電圧がA/Dコンバーターで測定可能なレンジを超えることがなく、また分解能の低いA/Dコンバーターを採用することも可能となり、コストを抑えることもできる。このとき、電圧分圧に用いた抵抗器の発熱を抑制するため、燃料噴射装置のソレノイド105の抵抗値に比べて、分圧に用いる抵抗器の抵抗値を十分大きくすると良い。
次に、図6、図8、図9を用いて、実施例1における駆動回路の説明と噴射量の個体ばらつきの要因の1つである噴射パルスをOFFにしてから弁体114が弁座118と接触するまでの閉弁遅れ時間の検知原理について説明する。
図8は、燃料噴射装置の寸法公差のばらつきによって閉弁挙動が異なる3つの個体1、2、3の弁体114の変位量と図7における端子間電圧Vinjの拡大図706と端子間電圧の1階微分値および端子間電圧Vinjの2階微分値の関係を示した図である。また、図9は可動子102と固定コア107間の変位(ギャップxと称する)と可動子102の固定コア107との間の吸引面を通過する磁束φおよび電圧の対応関係を示した図である。
図8より、噴射パルス幅TiがOFFとなると、可動子102に発生していた磁気吸引力が低下し、磁気吸引力が弁体114と可動子102に作用する閉弁方向の力を下回ったタイミングで弁体114が閉弁を開始する。磁気回路の磁気抵抗の大きさは、各経路での断面積と透磁率に反比例し、磁束が通る磁路長さに比例する。磁性特性の良い磁性材の金属に比べて、可動子102と固定コア107との間のギャップの透磁率は真空の透磁率μ0=4π×10−7[H/m]であり、磁性材の金属の透磁率に比べて、非常に小さいため、磁気抵抗が大きくなる。磁性材の透磁率μは、B=μHの関係により、磁性材のBHカーブ(磁化曲線)の特性によって決まり、磁気回路の内部磁場の大きさによって変化するが、一般的に低い磁場では、低い透磁率となり、磁場の増加に伴って透磁率が増加し、ある磁場を越えた時点で透磁率が減少するプロファイルとなる。弁体114が開弁位置から変位すると、可動子102と固定コア107の間にギャップxが生じるため、磁気回路の磁気抵抗が増加し、磁気回路に発生可能な磁束が減少し、可動子102の固定コア107側端面の吸引面を通過する磁束も減少する。ソレノイド105の磁気回路内部に発生している磁束が変化すると、レンツの法則による誘導起電力が発生する。一般的に、磁気回路における誘導起電力の大きさは、磁気回路に流れる磁束の変化率(磁束の1階微分値)に比例する。ソレノイド105の巻き数をN、磁気回路に発生している磁束をφとすると、燃料噴射装置の端子間電圧Vは、式(1)に示すように、誘導起電力の項−Ndφ/dtとオームの法則によって生じるソレノイド105の抵抗Rとソレノイド105に流れる電流iの積との和で示される。
弁体114が弁座118と接触すると、可動子102は弁体114から離間するが、これまで弁体114を通して可動子102に作用していたスプリング110による荷重と弁体に働く燃料圧力による力の閉弁方向の力が作用しなくなり、可動子102は、開弁方向の力であるゼロ位置ばね112の荷重を受ける。つまり、弁体114が弁座118と接触したタイミングで、可動子102の加速度に変化が生じる。
可動子102と固定コア107の間に生じるギャップxと、吸引面を通過する磁束φの関係は、微小時間においては、1次近似の関係とみなすことができる。つまり、可動子102と固定コア107との間のギャップxと可動子102と固定コア107間の磁気抵抗Rxとの関係は、磁気回路を等価回路のモデルで表すパーミアンス法によれば、Rx=x/(μ0・Sx){ただし、μ0:真空の透磁率、Sx:可動子の吸引面積}の関係で表すことができるため、ギャップxが大きくなると、可動子102と固定コア107の距離が大きくなり、磁気抵抗が増加して、可動子102の固定コア107側端面を通過可能な磁束が減少し、磁気吸引力も低下する。
可動子102に働く吸引力は、一般的に式(2)で導出することができる。式(2)より、可動子102に働く吸引力は、可動子102の吸引面の磁束密度Bの二乗に比例し、可動子102の吸引面積Sに比例する。
式(1)と図9より、ソレノイド105の端子間電圧Vinjと可動子102の吸引面を通過する磁束φの1階微分値には対応関係がある。また、可動子102の固定コア107側端面と固定コア107の可動子102側端面の距離であるギャップxが変化することで可動子102と固定コア107との間の空間の面積が増加するため、磁気回路の磁気抵抗が変化し、その結果として可動子102の吸引面を通過可能な磁束が変化するため、ギャップxと磁束φが微小時間においては1次近似の関係にあると考えることができる。ギャップxと磁束φが、微小時間において1次近似の関係となる理由は、固定コア107、可動子102、ノズルホルダ101、ヨーク103で構成される磁気回路全体の磁気抵抗をRtotal、磁気回路全体に発生する磁束をφtotalとすると、アンペールの法則およびパーミアンス法により、φtotal=U/Rtotal{ただし、U:起磁力}と表すことができ、磁気抵抗Rtotalの中に、可動子102と固定コア107との間の磁気抵抗Rxが含まれるためである。また、磁気回路の全体の磁束φtotalは、可動子102と固定コア107との間を通過する磁束φとノズルホルダ101の磁気絞り部に漏れる磁束φmdに大別できるが、ノズルホルダ101に設けた磁気絞り111によって、ノズルホルダの断面積が制限されており、磁気絞り111の磁束密度が飽和し易く磁気絞り111を通過可能な漏れ磁束φmdが制限されるために、漏れ磁束φmdに比べてφの方が十分大きい。したがって、φtotal≒φの関係が成り立つために、微小時間においては、ギャップxと磁束φの関係を1次近似と考えることが可能である。また、ギャップxが小さい条件では、可動子102と固定コア107との間の空間の面積が小さいため、磁気回路の磁気抵抗が小さく、可動子102の吸引面を通過できる磁束が増える。一方で、ギャップxが大きい条件では、可動子102と固定コア107との間の空間の面積が大きいため、磁気回路の磁気抵抗が大きく、可動子102の吸引面を通過可能な磁束が減少する。また、図9より、磁束の1階微分値は、ギャップxの1階微分値と対応関係にある。さらに、端子間電圧の1階微分値は、磁束φの2階微分値と対応し、磁束φの2階微分値は、ギャップxの2階微分値すなわち可動子102の加速度に相当する。したがって、可動子102の加速度の変化を検出するためには、端子間電圧の2階微分値を検出する必要がある。
図8より、噴射パルス幅Tiを停止してから、弁体114が目標リフト位置から変位すると端子間電圧Vinjのプロファイルに変化が生じる。例えば、タイミングt81では、弁体114に連動して動く可動子102の変位量に応じて端子間電圧Vinjが変化し、可動子102と固定コア107ギャップxが大きいほど端子間電圧Vinjは0に漸近していく。
タイミングt81での個体1、2、3の弁体114の変位量と弁体114が弁座118と接触するタイミングt82、t83、t84には、相関関係があるため、タイミングt81から弁体114が弁座118と接触する閉弁完了タイミングを推定し、個体1、2、3の噴射パルス幅Tiを停止してから弁体114が弁座118と接触するまでの閉弁遅れ時間を検知することができ、閉弁遅れ時間の変化に伴う噴射量の個体ばらつきをECU120によって推定することができる。
なお、燃料噴射装置640の構成が、可動子102と弁体114が一体構造で有る場合、弁体114が弁座118と接触した瞬間に可動子102が静止するため、端子間電圧Vinjに閾値を設けて弁体114の変位量を推定するか、もしくは、図9に示す速度の変化として電圧の1階微分値で閉弁完了タイミングを検知することができる。
また、弁体114が弁座118と接触した瞬間に可動子102が弁体114から離間することで可動子102に働く力の変化を加速度の変化として、端子間電圧Vinjの2階微分値で検出することができる。噴射パルス幅Tiが停止された後、弁体114と連動して可動子102が目標リフト位置から変位し、このときの端子間電圧Vinjは負の値から緩やかに0に漸近していく。弁体114が閉弁後に、可動子102が弁体114から離間すると、これまで弁体114を介して可動子102に働いていた閉弁方向の力すなわちスプリング110による荷重と燃料圧力による力がなくなり、可動子102には、ゼロ位置ばね112の荷重が開弁方向の力として働く。弁体114が閉弁位置に到達して可動子102に作用する力の向きが閉弁方向から開弁方向へ変化すると、これまで緩やかに増加していた端子間電圧Vinjの2階微分値が減少に転ずる。この端子間電圧Vinjの2階微分値の最大値を駆動回路で検出することで、弁体114の変位量の個体ばらつきを精度よく検出することが可能である。特に、可動子102が開弁位置から変位することによる端子間電圧Vinjの値は、ソレノイド105の巻き線の線径および巻き数によって決まる抵抗値、磁気回路の仕様、磁性材の材質(電気低効率とBHカーブ)によって決まるインダクタンスや、弁体114の目標リフトの設定値、噴射パルス幅Tiが停止されるタイミングでの電流値によって変化し、以上で説明した寸法や設定値の公差変動による影響を大きく受けるため、閉弁遅れ時間を精度良く推定するためには、予め測定誤差の影響による補正値を駆動回路121またはECU120において設定しておくことがのぞましい。例えば、式(1)より、例えば、ソレノイド105の抵抗値ならびに電流値を測定するためのシャント抵抗の抵抗値の設計中央値からの乖離値を初期情報として各気筒の燃料噴射装置640ごとに駆動装置に入力することで、電流値の変化による誤差を小さくできるため、測定誤差による端子間電圧Vinjの変化を低減することができる。これは、電流検出用のシャント抵抗の抵抗値が変動した場合、その両端電圧もばらつきの影響を受けるため、電流制御する際の真の電流値が各気筒ごと乃至各駆動装置ごとに変動するためである。このとき、ソレノイド105の抵抗値を初期情報として、燃料噴射装置640ごとにマーキングしておき、駆動装置でその初期情報を読み込めるように構成するとよい。また、端子間電圧Vinjの値の検知による閉弁遅れ時間の推定方法に対して、端子間電圧Vinjの2階微分値による閉弁遅れ時間の検知方法では、物理量として可動子102の加速度の変化点を検出しているため、設計値や公差の変動および環境条件(電流値)の影響を受けず、精度良く閉弁完了タイミングおよび閉弁遅れ時間の検出が可能である。
また、噴射パルス幅Tiを停止してから弁体114が閉弁完了するまでの閉弁遅れ時間を検知するため、IC602もしくは、CPU601に入力された端子間電圧Vinjを2階微分し、2階微分値が最大となるタイミングを弁体114が閉弁完了するタイミングとして検知することで、正確な閉弁完了タイミングを検出することができる。また、燃料噴射装置640の端子間電圧Vinjの測定端子641と電圧入力端子612との間にオペアンプ620と抵抗619と618とコンデンサ617とで構成されるアクティブローパスフィルタを構成すると良い。可動子102が弁体114から離間することによる加速度の変化として検知する端子間電圧Vinjの変化は、電圧の信号に発生するノイズに比べて周波数が低い。したがって、端子間電圧Vinjの電圧と測定端子641とCPU601もしくはIC602との間にローパスフィルタを介することで、ソレノイド105の端子間電圧Vinjに発生する高周波なノイズを低減することができ、閉弁完了タイミングの検知精度を高めることができる。また、アクティブローパスフィルタのカットオフ周波数fcは、抵抗618とコンデンサ618を用いて下記の式(3)を用いて設定することができる。燃料噴射装置と駆動装置の構成によって、スイッチング素子605、606、607、614や第2の電圧源を構成するためのスイッチング素子631のスイッチングタイミングおよび第2の電圧源の値が異なり、その結果として、電圧に発生するノイズの周波数は異なる。したがって、ソレノイド105と駆動回路の仕様ごとに抵抗618とコンデンサ618の設計値を変更して設定すると良い。また、アナログ回路でローパスフィルタを構成した場合、CPU601でデジタル的にフィルタリング処理を行う必要がないため、CPU601の計算負荷を低減できる。また、端子間電圧Vinjの測定端子641、642からの信号をCPU601もしくは、IC602に直接入力し、デジタル的にフィルタリング処理しても良い。この場合、アナログのローパスフィルタの構成部品である抵抗618、619とコンデンサ617およびオペアンプ620を使用する必要がないため、駆動装置のコストを低減できる。また、以上で説明したローパスフィルタは、測定端子641に直列に配置する抵抗器と並列に配置するコンデンサからなる1次ローパスフィルタを用いても良い。1次ローパスフィルタを用いる場合、アクティブローパスフィルタを用いた構成に対して、抵抗とオペアンプの2つの部品を減らすことができるため、駆動装置のコストを低減することが可能である。また、1次ローパスフィルタのカットオフ周波数の算出方法は、アクティブローパスフィルタを用いた場合の式(3)で算出できる。また、ローパスフィルタの構成としては、コイルとコンデンサを用いて次数が2次以上のローパスフィルタを構成することが可能である。この場合、抵抗器なしにローパフィルタを構成できるため、アクティブローパスフィルタおよび1次ローパスフィルタを使用する場合に比べて、電力消費が少ないメリットがある。
また、CPU601もしくは、IC602に入力された信号は、噴射パルス幅Tiをトリガーとし、噴射パルス幅Tiが停止されてからから一定時間経過後に予め設定しておいた時間の間、端子間電圧Vinjの信号を取り込むとよい。このような構成とすることで、CPU601もしくは、IC602に入力される端子間電圧Vinjのデータを閉弁完了タイミングの検知に必要最低限のデータ点列とすることができるため、CPU601およびIC602のメモリの記憶容量を低減できる効果がある。また、昇圧電圧VHからバッテリ電圧VBへ切り替えるタイミングや、スイッチング素子605、606、607のON、OFFを繰り返すタイミングすなわち、電圧の変化が急峻となるタイミングで電圧の微分処理を行うと、処理後のデータに高周波の信号が発生するため、弁体114が弁座118と接触する閉弁完了タイミングを電圧の2階微分値で検出する際に、閉弁完了タイミングを誤検知する可能性があるが、電圧を検出する期間をCPU601もしくはIC602で決定することで、開弁完了タイミングの誤検知を防止することができる。なお、電圧検出用の抵抗は、抵抗値の精度が高いシャント抵抗を用いると良い。燃料噴射装置の駆動装置では、電流もしくは電圧を測定するため、駆動回路に設けた電圧検出用抵抗612、613、608の両端電圧をIC602で診断しているが、予めIC602に設定しておいた抵抗値に対して個体ごとに抵抗値が異なると、IC602で推定する電圧値に誤差が生じて、燃料噴射装置のソレノイド105に供給される駆動電流が各気筒の燃料噴射装置ごとに変動し、噴射量ばらつきが大きくなる。
また、弁体114と弁座118が接触する閉弁位置においてソレノイド105の端子間電圧Vinjが小さいと、可動子102の加速度の変化による電圧値の変化が相対的に小さくなるため、ソレノイド105の端子間電圧Vinjが高い条件で閉弁位置に到達するように、スプリング110の荷重を大きくして、閉弁遅れ時間を短縮する方法が有効である。また、燃料噴射装置に供給する燃料圧力が大きいほど、弁体114および可動子102に働く燃料圧力による力が増加するため、閉弁遅れ時間が小さくなる。例えば、弁体114が弁座118と接触する閉弁完了タイミングの各気筒の個体ばらつきの検知は、燃料圧力が高い条件、各気筒で燃料噴射装置に供給する燃料圧力が同じ運転条件で行うと良い。この効果によって、燃料圧力が低い条件に比べて、閉弁完了タイミングでの磁気回路に発生している残留磁束が大きくなり、また、弁体114が弁座118に衝突する際の速度が増加し、弁体114が弁座118と接触した瞬間に可動子102が弁体114から離間することによる可動子102の加速度の変化が増加し、誘導起電力の変化も大きくなるため、端子間電圧Vinjもしくは、端子間電圧Vinjの2階微分値で閉弁完了タイミングを検出し易くなる。また、燃料噴射装置640に供給される燃料圧力が高くエンジンの負荷が大きい条件では、1吸気行程中に噴射する噴射量が大きくなり、燃料噴射装置の上流に取り付けられた配管の圧力脈動の影響によって、燃料噴射装置に供給する燃料圧力が変動することがある。この場合、閉弁完了タイミングの検知は、エンジン負荷が小さく各気筒の噴射量が同じアイドル運転などの条件で行うと良い。
また、端子間電圧Vinjを検出してデータ処理をするためのマイコンをCPU601、IC602の他にECU120内に設けてもよい。CPU601で端子間電圧Vinjを検出してデータ処理を行う場合には、高いサンプリングレートでデータ処理を行う必要があり、他のセンサからの信号を取り込む時の割り込み処理が発生する場合やCPU601の計算負荷が高いような条件では、端子間電圧Vinjを検出することが難しい場合がある。したがって、CPU601の他に設けたマイコンで端子間電圧Vinjを検出して、マスキング処理と微分処理を行うことで、端子間電圧Vinjの2階微分値を算出し、電圧の2階微分値が最大となるタイミングを閉弁完了タイミングとして検知して、記憶させる機能をマイコンに持たせることで、CPU601とIC602の計算負荷の低減と、開弁完了タイミングの確実な検知を行うことができるため、噴射量の精度を向上させることができる。このマイコンは、CPU601もしくはIC602との相互に通信できる通信ラインを設けており、CPU601で圧力センサから取り込んだ燃料圧力の情報と、マイコンから送信されてきた閉弁完了タイミングの検知情報をCPU601に記憶させるように構成するとよい。このような構成とすることで、閉弁完了タイミングの検知をより確実に行うことができるため、各気筒の噴射量をより正確に制御することが可能となる。
通常エンジンでは、A/Fセンサ(空燃比センサ)からの指令値をCPU601で検出し、同じ運転条件においても各気筒の燃料噴射装置ごとに噴射パルス幅を微調整している。閉弁完了タイミングを検知する条件では、A/Fセンサからの指令値に基づいた噴射パルス幅の微調整を停止し、同じ噴射パルス幅が供給される条件で、閉弁完了タイミングを検知すると良い。このようにすることで、閉弁完了タイミングを検知する際の流入空気のばらつき等、燃料噴射装置640の弁動作に伴う個体ばらつき以外の変動の影響小さくすることができ、燃料噴射装置640の閉弁完了タイミングの個体ばらつきを精度良く検知できる。
また、噴射パルス幅Tiを停止し、弁体114が開弁状態から閉弁する際に、弁体114または可動子102が閉弁を開始してから、弁体114が弁座118と接触して、閉弁完了するまでは、駆動装置のスイッチング素子605、606、607のON・OFFの切替をしないように駆動装置のスイッチングを制御すると良い。以上のように構成することで、端子間電圧Vinjにスイッチング素子605、606、607をスイッチングすることによる高周波の測定ノイズが、燃料噴射装置640の端子間電圧Vinjに表れることで、開弁完了の検知の測定精度に悪影響を与える影響を小さくすることができる。
次に、図6、図7、図11を用いて、噴射パルス幅Tiを供給してから弁体114が目標リフトに到達するまでの開弁遅れ時間の検知方法について説明する。なお、上述した閉弁遅れ時間の検知方法と共に実施してもよいし、いずれか一方のみを実施してもよい。図11は、開弁遅れ時間を検知するための印加電圧の制御方法を示した図であり、燃料噴射装置の公差が異なる3つの個体の端子間電圧とソレノイド105へ供給する駆動電流と駆動電流の1階微分値および弁体変位量の関係を示した図である。
図7より、駆動電流がピーク電流Ipeakに到達するまでは、昇圧電圧VHが燃料噴射装置のソレノイド105に印加される。その後、電流702のように、負の方向の昇圧電圧VHが供給されるか、もしくは、スイッチ606がONとなり、0Vの電圧が供給されることによって、電流702の傾きが小さくなり、電流704に到達する。
駆動電流と弁体114および可動子102の弁変位を比較すると、駆動電流が電流値704に到達するまでに、弁体114が目標リフトに到達している。弁体114が目標リフトに到達するまでの端子間電圧Vinjには、正方向の昇圧電圧VH、電圧0Vまたは、負方向の昇圧電圧VHが印加されるが、電圧値が0Vとなる条件では、可動子102と固定コア107のギャップが縮小することによって、磁気抵抗が変化し、インダクタンスおよび磁束の変化を電圧で検出することができない。また、正方向の昇圧電圧VHが印加される条件では、昇圧電圧VHを使用することによって、これまでコンデンサ633に蓄積した電荷が減少し、昇圧電圧VHの電圧値が下がる。このとき昇圧電圧VHの電圧をECU120に予め設定しておいた初期の電圧値に回帰させるために、昇圧電圧VHが設定電圧の閾値を下回ると、コンデンサへの電荷蓄積のため、昇圧回路のスイッチをONにして、昇圧電圧VHの電圧値を復帰させる動作を行う場合があるが、この電圧値の変化に対して、磁気ギャップが縮小したことによる変化が電圧値に与える影響が小さいため、弁体114が目標リフトに到達したことによる磁束の変化を昇圧電圧VHの電圧値で検出することは難しい。また、昇圧電圧VHの電圧値を復帰させるための動作を行う場合、昇圧回路のスイッチング素子631のON・OFFを高速な周期で繰り返す必要があるため、スイッチングによる高周波なノイズが発生して、開弁完了タイミングの検知精度に悪影響を与える場合がある。
図7、図11より、噴射パルス幅Tiを供給してから昇圧電圧VHをソレノイド105に印加し、ピーク電流値Ipeakに到達後に負方向の昇圧電圧VHの印加を一定時間行い、電流値を1101のように急峻に立ち下げた後、バッテリ電圧源からバッテリ電圧VBとなる一定電圧を印加し、バッテリ電圧VBから一定の電圧が供給されているタイミングで弁体114が目標リフトに到達する印加電圧の構成にすると良い。
バッテリ電圧VBの印加を続けて一定の電圧値1102が供給されている条件では、ソレノイド105への印加電圧の変化がないため、可動子102が閉弁位置からリフトを開始し、可動子102と固定コア107との間のギャップの縮小に伴う磁気抵抗の変化を誘導起電力の変化として検出することができる。弁体114および可動子102がリフトを開始すると、可動子102と固定コア107との間のギャップが縮小するため、誘導起電力が大きくなり、ソレノイド105に供給される電流が1102のように緩やかに減少する。可動子102が固定コア107に到達するタイミングすなわち、弁体114が目標リフトに到達したタイミング(以降、開弁完了タイミングと称する)でギャップの変化に伴う誘導起電力の変化が小さくなるため、電流値は1104のように緩やかに増加する。誘導起電力の大きさは、ギャップの他に電流値の影響を受けるが、バッテリ電圧VBのように昇圧電圧VHに比べて低い電圧が印加されている条件では、電流の変化が小さいため、ギャップが変化することによる誘導起電力の変化を電流で検出し易い。以上で説明した燃料装置の各気筒の個体1、個体2、個体3について、弁体114が目標リフトに到達したタイミングを駆動電流が減少から増加へ転ずる点として検出するために、電流の1階微分を行い、電流の1階微分値が0となるタイミングt113、t114、t115を開弁完了のタイミングとして検知するとよい。
また、ギャップの変化によって生じる誘導起電力が小さいような磁気回路では、必ずしもギャップの変化によって、電流が減少しない場合があるが、開弁完了タイミングに到達することで、電流傾きが変化するため、駆動装置で検出した電流の1階微分値に閾値を設定できるように構成することで、電流の1階微分がその閾値を上回ったタイミングを開弁完了タイミングとして検知でき、磁気回路やインダクタンス、抵抗値、電流の制約を受けずに、開弁完了タイミングを安定して検知することができる。
また、開弁完了タイミングの検知は、弁体114と可動子102が一体となった可動弁の構成においても、弁体114と可動子102の別体構造で説明した開弁完了タイミングの検知と同様の原理で検出することができる。
ここで、一般的な磁気回路に使用される磁性材のBH特性を図12に示す。図12より、磁性材のBHカーブは、入力値である磁場と磁束密度の関係は非線形であり、磁化されていない磁性材に増加していく磁場を加えると、磁性材は磁化され始めて磁束密度が飽和磁束密度Bsに達するまで増加する。この過程で、磁場と磁束密度の傾きが大きい領域H1と、磁場と磁束密度の傾きが小さい領域H2が存在する。また、飽和磁束密度Bsに到達してから磁場を減少させていくと、磁性材が磁化する現象が時間的に遅れることによって、初期磁化曲線と異なる曲線を描く。燃料噴射装置では、正方向の磁場を繰り返して与えることが多いため、初期磁化曲線と戻り曲線との間でヒステリシスのマイナーループを描く場合が多い。また、開弁完了タイミングを検知する条件では、ピーク電流Ipeakに到達するまで電流を増加させ、弁体114が変位するために必要な磁気吸引力を可動子102に発生させえた後、開弁完了タイミングの前に1101のように駆動電流を急速に小さくすることで、可動子102に働く磁気吸引力を低下させると良い。燃料噴射装置に供給される駆動電流がピーク電流値Ipeakのように開弁状態で弁体114を保持するのに必要な電流値と比べて高い条件では、ソレノイド105に供給される電流値が大きくなり、図12に示す通りに、磁場と磁束密度の傾きが小さい領域H2に位置することが多い。本発明における実施例1においては、可動子102に開弁に必要な磁気吸引力を発生させた後に、負の方向の昇圧電圧VHを印加し、1101に示すように急速に電流を低下させることで、開弁完了タイミングでの駆動電流を小さくし、ピーク電流値Ipeakの条件での磁場と磁束密度の傾きに比べて、磁場と磁束密度の傾きを大きくすることができ、弁体114が変位を開始し、可動子102と固定コア107のギャップの縮小に伴う磁気抵抗の変化を誘導起電力の変化として顕著に検出し易くできる効果がある。
また、開弁完了タイミングを検知するに当たり、ピーク電流値Ipeakに到達した時刻、もしくは、負の方向の昇圧電圧VHの印加が終了した時刻から駆動装置へ与えておいた一定時間経過後からのある期間における電流値のみを検出して、電流値の1階微分処理によって行うと良い。このような構成とすることで、昇圧電圧VHのON・OFFを行うタイミングにおいては、電流値が急速に変化するため、開弁完了タイミングではない時刻に駆動装置に予め与えておく閾値を電流の1階微分値が越えてしまう誤検知を抑制することができ、開弁完了タイミングの検知精度を向上させることができる。
なお、負の方向の昇圧電圧VHの印加が停止するt112の後に、バッテリ電圧源VBから一定の電圧値1102が供給されている期間に、IC602に予め設定しておく目標の電流値Ih1に到達しないようにピーク電流値Ipeakと負方向の昇圧電圧VHを印加する期間Thbを調整すると良い。この効果によって、弁体114が目標リフトに到達する前に駆動電流が目標の電流値Ih1に到達すると、駆動装置では、電流Ih1を一定に保つように制御されるため、電流の1階微分値が0点を繰り返し通過するため、誘導起電力の変化を駆動電流で検知できなくなる問題を解決できる。
また、一定の電圧値1102を印加している状態から、負方向の昇圧電圧VH印加もしくは、電圧の印加を停止(0Vの印加)して、電流値を図7の電流704に到達させ、その後バッテリ電圧VBのON・OFFを繰り返すことで、電流703となるようにスイッチング素子605、606、607を制御する。噴射パルス幅TiをONにしてから電流値Ih1に到達するまでの時間は、弁体114の個体差および燃料圧力の変化に伴う開弁完了タイミングのばらつきによって異なる。噴射パルス幅Tiを停止した時の磁気吸引力は、噴射パルス幅TiをOFFにしたときの駆動電流の値に大きく依存し、駆動電流が大きいと磁気吸引力が大きくなり、閉弁遅れ時間が増加する。逆に、噴射パルス幅TiをOFFにした時の、駆動電流が小さいと、磁気吸引力が小さくなり、閉弁遅れ時間が減少する。以上で説明した通り、開弁完了を検知する条件において、噴射パルス幅TiをOFFにするタイミングでの電流値は、個体ごとに同じ電流703となることが望ましいため、一定の電圧値1102から負の方向の昇圧電圧VHを印加するもしくは、電圧の印加を停止するタイミングは、噴射パルス幅TiをONにしてからの時間もしくは、ピーク電流値Ipeakに到達してからの時間で制御すると良い。
噴射パルス幅Tiを供給してから開弁完了するまでの時間を開弁遅れ時間として、各気筒の燃料噴射装置ごとに記憶させ、予めCPU601に与えておいた開弁遅れ時間の中央値からの乖離値を算出し、乖離値に応じて次回噴射以降の噴射パルス幅Tiの補正値を算出して、開弁遅れ時間の検知情報に基づいて噴射パルス幅Tiを各気筒の燃料噴射装置ごとに補正するとよい。開弁遅れ時間の検知情報に基づいて噴射パルス幅Tiを補正することで、公差のばらつきに伴う開弁遅れ時間のばらつきによって生じる噴射量の個体ばらつきを低減することができる。
以上で説明した電圧の印加方法と開弁遅れ時間の検知については、アイドル運転時や、エンジン停止時など特定の運転負荷条件で検知モードを設けて実施するとよい。同じ運転条件で開弁完了を検知し、開弁遅れ時間を算出することで、個体ばらつきによって生じる開弁遅れ時間の変動を精度良く検出できる。なお、閉弁遅れ時間についても、同様に燃料噴射装置ごとに噴射パルス幅Tiの補正を行うとよい。
ソレノイド105での駆動電流を停止して燃料噴射装置が閉弁するに際して、可動子102と固定コア107の対向面の間には、可動子102もしくは、固定コア107に設けた突起部によって、空隙を有する。可動子102が閉弁を開始すると、可動子102の固定コア107との間に介在する燃料により、可動子102が固定コア107側から離れようとする動作を妨げようとする流体抵抗力(スクイーズ効果による力)が生じる。このスクイーズ効果による力は、可動子102の速度に比例し、可動子102と固定コア107とのギャップの高さの3乗に比例して大きくなる。可動子102もしくは、固定コア107に設けられた突起部は、開弁に伴う衝突を繰り返すため、劣化による摩耗もしくは変形によって、突起部の高さが小さくなり、スクイーズ効果による力が増加し、開・閉弁遅れ時間が増加することがある。したがって、例えばエンジン回転数が予めCPU601に設定しておく一定回転数を経過するごとに開弁完了・閉弁完了タイミングの検知を再実施することによって、可動子102の突起部の劣化などによる開・閉弁完了タイミングの変動によって生じる噴射量ばらつきを低減することができる。
また、開弁遅れ時間の検知と閉弁遅れ時間の検知については、同時に行うことも可能である。各気筒の運転条件が同じアイドル回転などの検知モードで開弁遅れ時間と閉弁遅れ時間を同時に検知することで、検知に必要な噴射回数を半減できるため、測定誤差などによる検知精度へ与える影響を小さくすることができる。
また、燃料噴射装置に供給される燃料圧力が増加した場合、弁体114の上下差圧によって生じる差圧力の増加と燃料シートを流れる燃料の流速が増加することで、ベルヌーイの定理に基づく静圧低下によって生じる圧力降下による力が増加によって、開弁開始・開弁完了タイミングが遅くなり、閉弁開始・閉弁完了タイミングが早くなる。燃料圧力が変化した場合であっても、燃料噴射装置の個体ばらつきの検知方法と同様に、電流の微分値が0となるタイミングを検出することで、開弁完了タイミングが検知可能であり、端子間電圧Vinjの2階微分値が最大となるタイミングを検出することで、閉弁完了タイミングを検知することができる。また、噴射パルスを停止してから弁体114が弁座118と接触する瞬間での端子間電圧Vinjが大きい方が、閉弁完了タイミングを精度良く検知することができる。これは、噴射パルス幅をOFFにしてから、渦電流の影響によって、可動子102の磁気吸引力を決める可動子102の吸引面を追加する磁束が緩やかに減少するが、閉弁完了タイミングで磁束が限りなく小さいと、可動子102の加速度が変化したことによって変化する誘導起電力の変化が相対的に小さくなるためである。したがって、燃料噴射装置に供給される燃料圧力が高いほど、弁体114がうける燃料圧力による力が増加するため、噴射パルス幅TiをOFFにしてから、弁体114が閉弁するまでの閉弁遅れ時間を短縮することができ、閉弁完了タイミングでの端子間電圧Vinjが大きくなり、精度良く閉弁完了タイミングを検知することができる。また、燃料噴射装置640の燃料圧力と閉弁遅れ時間との関係には、相関関係があるため、高い燃料圧力で検知した閉弁完了タイミングから、低い燃料圧力での閉弁完了タイミングを推定することが可能である。燃料噴射装置640に供給される燃料圧力が変化すると、弁体114に作用する差圧力が変化するが、燃料圧力の増加に伴う差圧力の変化は略線形的に変化し、閉弁完了タイミングも略線形的に変化する。一般的に弁体114に作用する差圧力が大きくなると閉弁方向の力が増加するため、閉弁完了タイミングが早くなり、差圧力が小さくなると閉弁完了タイミングが遅くなる。したがい、予め駆動装置に燃料圧力の変化に対応する補正係数を設定しておくことで、ある燃料圧力で検知した閉弁完了タイミングから、異なる燃料圧力での閉弁完了タイミングを推定することができるため、噴射量を補正するために必要な閉弁完了タイミングの検知の頻度を低減することが可能となり、駆動装置の処理負荷を低減できる。
また、弁体114が弁座118と接触している状態では、弁体114には弁体114と弁座118との接触径の断面積と燃料圧力を乗じた力が閉弁方向に弁体114に働く。弁体114に働く力は、燃料圧力の増加に伴って大きくなるため、弁体114が開弁開始するのに必要な可動子102に発生させる磁気吸引力が増加し、必要な駆動電流の値も大きくなる。CPU601で検知している燃料配管に取り付けられた圧力センサからの情報を用いて、通信ライン603を通して、駆動IC602の電流値の設定を変更することで、燃料圧力の増加に応じて、ピーク電流値Ipeakを増加させ、弁体114が目標リフトするときの電流の変化を検出するために必要な一定電圧1102の供給期間を、燃料圧力に依存せずに設定できる。また、弁体114の変位量の増加に伴って誘導起電力が大きくなり、駆動電流が減少していく1102と弁体114が目標リフトに到達することで、誘導起電力が小さくなり、駆動電流が増加するときの傾きの燃料圧力による変化を小さくすることができるため、開弁完了タイミングの検知精度を向上できる。
また、燃料噴射装置では、寸法変動による噴射量の個体ばらつきを低減するため、ある燃料圧力と噴射パルスの条件で、スプリング110の荷重を調整することで噴射量の管理を行うことがある。この場合、同じスプリング110の荷重である燃料噴射装置の個体群において、噴射量が大きい個体については、スプリング110の荷重を大きくすることで、弁体114に働く閉弁方向の力を大きくすることで、閉弁遅れ時間を小さくして噴射量が小さくなるように調整すると良い。また、噴射量が小さい個体については、スプリング110の荷重を小さくすることで、閉弁遅れ時間を大きくし、噴射量が大きくなるように調整すると良い。セットスプリング荷重110を燃料噴射装置の個体ごとに調整することで、開弁開始、開弁完了、閉弁開始、閉弁完了の4つのタイミングが個体ごとに変動するが、セットスプリング荷重110が弁体114の挙動に及ぼす影響は、線形的な変化となるため、上記で説明した4つのタイミングが平行移動でずれる変動となる。従って、閉弁完了タイミングと閉弁開始タイミングには、強い相関があり、検知した閉弁完了タイミングにECU120に予め設定する補正係数を乗じて、閉弁開始タイミングを算出することができる。同様に、検知した開弁完了のタイミングから補正係数を乗じて開弁開始タイミングを推定することが可能である。また、検知された閉弁完了のタイミングを用いて異なる複数の補正係数を用いて、閉弁開始、開弁完了、開弁開始を推定することができる。
次に、図10を用いて、噴射パルス幅が小さく弁体114が目標リフトに到達しない中間リフトの条件での閉弁タイミングの検知方法について説明する。図10は、中間リフトの領域で噴射パルス幅Tiを変化させた場合の噴射パルス幅Ti、弁体114の変位量、ソレノイド105の端子間電圧と端子間電圧の2階微分値の関係を示した図である。図10より、噴射パルス幅TiをTi1、Ti2、Ti3のように変化させると、噴射パルス幅Tiの増加に応じて、弁体114の変位量が増加する。噴射パルス幅Tiを停止するときの電流値が高いほうが、磁気回路の内部に発生する磁界が大きくなり、電流遮断後に可動子102に作用する磁気吸引力が大きくなる。中間リフトでの閉弁完了の検知は、あるタイミングt102での端子間電圧Vinjを検出することで、検出した電圧値に応じてECU120に予め設定しておいた補正係数を乗じて、各気筒の燃料噴射装置ごとの閉弁完了タイミングを推定し、ECU120に記憶させると良い。または、中間リフトの条件であっても、弁体114がリフトを開始し、目標リフト方向の運動から閉弁方向の運動となるタイミング後の期間において、端子間電圧Vinjの2階微分値が最大となるタイミングを検知することで、閉弁タイミングを精度良く検知できる。特に、ソレノイド105に供給される電流値、ソレノイド105の抵抗、インダクタンス、昇圧電圧源VHの電圧値の公差変動によって、端子間電圧Vinjの電圧値が影響をうけ、弁体114と連動して動く可動子102の変位量の検出精度が低下する可能性がある。閉弁完了タイミングを端子間電圧の2階微分値が最大となるタイミングとして検知することで、以上で説明した公差変動の影響を受けずに、噴射パルス幅Ti1、Ti2、Ti3での弁体114の閉弁完了タイミングを検知することが可能である。
最初に、弁体114が目標リフトに到達する条件で得られた開弁完了タイミングの個体ばらつきの情報に基づいて、開弁開始タイミングを推定し、予めECU120に設定する開弁開始タイミングの中央値からの乖離値を噴射パルス幅Tiの補正値として算出して、中間リフトでの噴射を行い、中間リフトの条件での閉弁完了タイミングを検知する。中間リフトで検知した閉弁完了タイミングと中間リフトでの弁体114の変位量の最大値には、強い相関があるため、各気筒での閉弁完了タイミングの変動量から、補正係数を乗じることで、変位量の最大値を計算して、変位量によって決まる燃料シート部の通路断面積から噴射量を算出できる。算出された噴射量とECU120に設定する各噴射パルス幅Ti、燃料圧力の条件での噴射量の乖離値を計算し、次回噴射以降の噴射パルス幅Tiを補正することで、噴射量の個体ばらつきを低減することができる。
また、中間リフト駆動を行う場合、弁体114が目標リフトに到達する条件で検知した閉弁遅れ時間の中央値乖離値からの偏差に補正係数を乗じることで、中間リフトでの閉弁完了タイミングを推定することができる。この場合、開弁完了タイミングの検知によって得られた開弁遅れ時間と推定した閉弁完了タイミングから中間リフトでの噴射パルス幅Tiの条件における弁体114の変位量を推定することができるため、1回目の中間リフト駆動における噴射量を正確に制御することができる。
また、図7に記載の変位量において、弁体114が開弁状態から閉弁完了した後、可動子102は閉弁方向に運動を継続する。弁体114が開弁状態から閉弁完了するときの弁体114と弁座118と衝突速度と比べて、中間リフトの条件のように、弁体114の変位量が小さく、噴射パルスを停止し、弁体114が閉弁を開始する際の助走期間が短い方が弁体114と弁座118の衝突速度は相対的に小さくなる。たとえば、一吸排気行程中で燃料噴射装置からの燃料噴射を複数回に分割する条件で、弁体114が閉弁完了した後、可動子102が閉弁方向に運動している最中に次の噴射パルス幅Tiを供給すると、可動子の位置によって、弁体114の開弁開始および開弁完了のタイミングが異なり、同じ噴射パルスを与えても噴射量が変動する場合がある。これは、弁体114が閉弁完了後に、可動子102が閉弁方向もしくは開弁方向に運動中に可動子102に磁気吸引力が発生することで、可動子102が弁体114に衝突して開弁開始してしまい、噴射パルスを供給してから開弁開始するまでのタイミングが分割噴射中の1回目の噴射時に比べて早くなることに起因している。中間リフト条件においては、目標リフトから閉弁する場合と比べて、弁体114と弁座118の衝突速度が小さいため、閉弁完了後の可動子102の運動エネルギーが小さくなり、閉弁完了後に可動子102が静止するタイミングt77を短縮することができる。この効果によって、分割噴射の条件で、弁体114が閉弁完了してから次回の噴射パルス幅Tiを供給するまでの時間を短縮することができるため、分割噴射の回数を増加させることができる。特に、ダウンサイジングエンジンなどエンジンのボア径が小さい場合、噴射した燃料がピストン上部およびボア壁面に付着して気化がしにくい状態になり、PM(粒子状物質)の増加が問題となる。このような条件の場合、分割噴射を行って1回で噴射する流量を小さくし、燃料噴射装置640から噴射される燃料の貫徹力を低減することで、噴霧の到達距離を小さくて、燃料の壁面付着を低減する手法が有効である。
また、弁体114が開弁している状態での単位時間当たりの流量(以降静流と称する)は、燃料噴射孔119の総断面積と、弁体114の燃料シート部の流路断面積によって決まる。一般的に、燃料噴射孔119の総断面積とシート部の流路断面積が大きいほうが流路を燃料が流れる際の圧力損失が小さくなるため、静流が大きくなる。シート部の流路断面積は、幾何学上、弁体114の目標リフトによって決まり、式(4)で導出することができる。
式(4)より、目標リフトが変化するとシート断面積が変化するため、その結果、静流も変化し、噴射量が変化する。各気筒の燃料噴射装置ごとに行う開弁遅れ時間の検知を一定間隔に実施することで、燃料噴射装置に予め与えておく静流を補正できるように構成すると良い。劣化による開弁遅れ時間の変化は、開弁力および閉弁力の変動よりも、目標リフトの変動の影響の方が大きい。これは、可動子102と固定コア107の衝突によって、可動子102と固定コア107のメッキが摩耗するか、もしくは、衝撃力は、衝突面よりも深い箇所で最も大きくなるために、可動子102と固定コア107の磁性材料が変形し、その結果として目標リフトが変動するためである。よって、開弁遅れ時間の検知を一定期間ごとに実施して開弁遅れ時間の変動時間に駆動装置で与えておいた補正係数をかけて、静流の変化量に換算し、静流の算出式を補正することで、噴射量の精度を向上させることが可能となる。
また、弁体114が目標リフトに到達後に発生する弁体バウンドが収束してから閉弁開始する条件では、噴射パルス幅Tiのパルス幅の増加に伴い、噴射量が増加し、噴射パルス幅Tiのパルス幅を制御することで噴射量を制御する。この条件においては、弁体114が目標リフトの位置に静止した状態から噴射パルス幅の増加分だけ、開弁開始タイミングが増加し、開弁完了タイミングも増加する。従って、噴射量の増加分は、噴射パルス幅が異なる条件での閉弁完了タイミングの時間差分と、その条件での燃料圧力での単位時間当たりの静的流量を乗じて算出できる。例えば、弁体114が目標リフトに到達後に発生する弁体バウンドが小さい条件であっても、弁体114が開弁開始してから開弁完了するまでの期間と、開弁状態から閉弁完了するまでの期間の間は、燃料が噴射されるため、弁体114の目標リフトや、燃料噴射孔119の断面積といった燃料噴射装置640のノズル構造によって、制御可能な最小噴射量に制約が生じる。
一方で、中間リフトの条件においては、開・閉弁遅れ時間の検知情報を用いることで、弁体114のリフト量を噴射パルス幅を用いて制御することが可能であるため、燃料噴射装置の仕様によらず、最小噴射量を小さくすることができる。したがって、一吸気行程中の噴射を複数回に分割して噴射する分割噴射を行う場合、1回目の噴射量と2回目の噴射量の分割比率を変えたい場合、1回目と2回目の分割比率を例えば8:2のように大幅に変更した時、分割比率が小さい条件では、分割噴射をしない場合に必要な最小噴射量を1とすると、1/5まで最小噴射量を小さくする必要がある。中間リフトの条件においては、分割噴射間隔の低減と最小噴射量の低減の観点から分割噴射比率を自由に変更することが可能となる。したがって、燃費向上の観点から、分割噴射を行うことで、噴射した燃料と空気との接触面積を増やし、エンジンシリンダ内の空気流動を用いて噴射燃料と流入空気との混合を促進させる方法などにも分割噴射や分割噴射比率を変える手法が効果的である。
また、図10より、中間リフトの条件においては、駆動電流がIpeakに到達する前に、電流が打ち切られる場合が多いため、弁体114を目標リフトに到達させて使用する場合に比べて、第2の電圧源の昇圧電圧VHが初期の駆動回路の設定値に復帰するまで時間を短縮できるため、分割噴射を行う場合に2回目の噴射における昇圧電圧VHの電圧値の変動を小さくすることができるため、分割噴射時における1回目と2回目の噴射の噴射量を等しくできる効果がある。
続いて本発明の実施例1による効果について説明する。従来、燃料噴射パルスの幅が短い領域では、可動子が個体コアなどに衝突した際に生じる跳ね返り現象(可動子のバウンド挙動)により、噴射パルスを停止してから可動子が閉弁位置に到達するまでに時間が変動してしまい、噴射パルス幅に対して噴射量が直線的に変化せず、このために燃料噴射装置の制御可能な最小噴射量が増加してしまうという問題があった。また、前述の可動子の跳ね返り現象のために噴射量が燃料噴射装置の個体ごとに安定しない場合があり、複数気筒の中で噴射量が最も大きくなる個体を制御可能な最小噴射量として設定せざるを得ないため、最小噴射量を増大させる要因となることがあった。また、噴射パルスと噴射量の関係が直線とならない非線形領域での噴射パルスからさらに噴射パルス幅を短くすると、可動子と固定コアが衝突しない、すなわち弁体がフルリフトしない中間リフトの領域となる。この中間リフトの領域では、各気筒の燃料噴射装置に同じ噴射パルスを供給しても、燃料噴射装置の寸法公差の影響によって生じる個体差によって、燃料噴射装置のリフト量が異なるため、噴射量の個体ばらつきが大きくなり、燃焼の安定性の観点からこの中間リフト領域を使用することは困難であった。
また、可動子と弁体が一体の構成である燃料噴射装置の場合、燃料が噴射される弁体が開弁している状態からソレノイドへの電流供給を停止して弁体を閉弁動作させる際に、弁体が弁座と接触した瞬間に可動子も弁体に連動して動く。この場合、閉弁状態に到達した瞬間に弁体が弁座との間で反発するため、閉弁動作中には閉弁方向に動いていた可動子が、開弁方向の加速度および速度になる。すなわち、弁体が弁座と接触する閉弁完了タイミングで可動子の速度の向きが反転し、インダクタンスの変化が大きくなるため、誘導起電力の変化も大きくなり、可動子の速度に対応する電圧の1階微分値で閉弁完了タイミングが検出できるが、閉弁完了タイミングで弁体と可動子を合わせた質量が弁座と衝突するため、弁体と可動子が別体で構成されている燃料噴射装置に比べて、衝突エネルギーが大きくなり、弁体の閉弁完了タイミング後も弁体が弁座との間でバウンドし、意図しない燃料噴射を行う場合がある。この場合、意図しない噴射量分だけ、駆動装置で計算される目標の噴射量から乖離するため、空燃費がリッチとなるため、無駄な燃料消費が発生して燃費性能が悪化し、また、すすを含む未燃焼粒子PM(Particulate Matter)やPMの数(Paticulate Number)の発生量が大きくなることで排気性能の悪化を招く場合がある。また、本実施例のように、可動子と弁体が別部品で構成されている場合においては、弁体の閉弁完了タイミングで、可動子が弁体から離間して、閉弁方向に運動を行い、その後ゼロ位置ばねの荷重によって初期位置まで可動子が戻される。すなわち、本実施例における燃料噴射装置の構成では、弁体が弁座と接触する閉弁完了タイミングにおいて、可動子102が静止しないため、弁体の閉弁に伴う可動子の速度および加速度の変化が小さく、その速度および加速度の変化を電流の1階微分値で検出することはできない。本実施例における端子間電圧Vinjもしくは電圧VLの2階微分値の最大値および最小値を用いた検出方法によれば、物理量として可動子の加速度の変化を検出しているため、可動子が弁体から離間することによって、これまで弁体を介して受けていた閉弁方向の力であるスプリング110による荷重と弁体114に作用する差圧力が可動子に作用しなくなり、開弁方向の力であるゼロ位置ばねの荷重が可動子に作用することで、可動子の加速度が閉弁方向から開弁方向へ変化するタイミングを検出することができるため、弁体の閉弁完了タイミングを安定的に検知することができる。また、弁体と可動子が別体で構成された燃料噴射装置の場合、弁体が閉弁状態から開弁動作を行う際に、可動子が固定コアと衝突したタイミングで弁体が可動子から離間して目標リフト位置をオーバーシュートする。すなわち、固定子に衝突する際に、弁体の質量だけ可動子が固定コアに衝突する際の衝撃力を低減することができるため、可動子が固定コアに衝突することによって生じる固定コアとの間のバウンドを低減することができ、燃料の噴射精度を高めることが可能となる。
以上説明した通り、本実施例によれば、燃料噴射装置毎の実際の弁挙動をECUにより検知することができるので、ECUにより制御可能な最小噴射量を低減しつつ、燃料噴射量のばらつきを抑制することができる。
図13、図14を用いて本発明の実施例2における燃料噴射装置の駆動回路の構成と閉弁完了タイミングを検知するための電圧の測定方法について説明する。
最初に、図13を用いて実施例2における駆動回路の構成について説明する。図13は、実施例2における燃料噴射装置を駆動する回路構成を示した図である。なお、図13において、実施例1における駆動装置の図6と同様の部品については、同じ符号を用いて記載した。図13の駆動装置において、実施例1との差異は、閉弁完了タイミングを検知するための電圧の測定箇所を端子間電圧Vinjではなく、燃料噴射装置640の接地電位(GND)側の端子と接地電位615との間の電圧VLに変更した点である。このように構成することで、IC602もしくは、CPU601のA/Dコンバーターに入力する接続端子およびA/Dコンバーターをそれぞれ1つ低減できるため、ECU120のコストを低減することができる。また、燃料噴射装置640よりも接地電位(GND)側の端子641を用いて電圧VLを測定するため、昇圧回路614とは、ソレノイド105が有しているコイルを介することになり、ソレノイド105の電源側の電源ノイズや、昇圧回路614内のコンデンサ633に電荷を蓄積するためのスイッチング素子631のスイッチングノイズの影響を低減でき、閉弁完了タイミングを精度よく測定できる。
次に、図14を用いて実施例2における噴射パルス幅Ti、電圧VL、電圧VLの2階微分値と噴射パルスOFF後の時間の関係について説明する。電圧VLはソレノイド105の接地電位(GND)側の端子と接地電位(GND)との電位差を測定するため、実施例1における端子間電圧Vinjと比べて、電圧の正負が逆転する。端子間電圧Vinjでは、負の方向の電圧が検出されるが、電圧VLでは正方向の電圧が検出される。従って、個体1、2、3の閉弁完了の個体ばらつきを電圧VLの2階微分値で検知するためには、電圧VLの2階微分値が最小となる値を検出することで、閉弁完了タイミングを検知することができる。
本発明の実施例3における燃料噴射装置の駆動回路の構成と閉弁完了タイミングを検知するための電圧の測定方法について説明する。
最初に、図15を用いて、実施例3における駆動回路の構成について説明する。図15は、実施例3における燃料噴射装置を駆動する駆動装置の構成を示した図である。なお、図15において、実施例2における駆動装置の図13と同様の部品については、同じ符号を用いて記載した。図15において、実施例2との差異は、閉弁完了タイミングを検知するため、ソレノイド105の接地電位(GND)側の端子と接地電位1415との間の電圧VLと測定端子とCPU601との間に抵抗器R1、R2、コンデンサC1、C2、オペアンプ620で構成されるアナログの微分回路1501を構成している点である。電圧VLでは、ソレノイド105の接地電位(GND)側端子と接地電位(GND)との間の電位差を検出しているため、電圧値の最大値は、昇圧電圧VHから印加を行う場合の高い電圧値となる。電圧VLを検出するための測定端子641とオペアンプ620との間にコンデンサC1を配置することで、オペアンプ620に入力される電圧を小さくすることができるため、オペアンプ620とCPU601のA/Dコンバーターに必要な耐電圧を低減することができるため、オペアンプ620とCPU601のコストを低減することができる。また、アナログ回路で微分処理を行うことで、駆動装置の高周波なノイズを低減することができ、また、微分処理後の電圧値をCPU601に入力させることで、A/Dコンバーターに必要な時間分解能を低減することができる。また、検出する電圧VLとCPU601に入力される電圧値V0の関係を式(5)に示す。式(5)より、アナログの微分回路1501では、抵抗器R1、R2とコンデンサC1とC2の値を適切に調整することで、電圧V0の値を調整することができる。
また、図16に本実施例3におけるアナログの微分回路1501の周波数ゲイン特性を示す。図16より、アナログの微分回路1501では、低い周波数でのゲインが小さく、高い周波数でのゲインが小さくなるバンドパスフィルタである。アナログの微分回路では、周波数と原因の関係が正比例の関係となるため、ステップ的な高い周波数の信号が入力された場合、アナログ回路で無限に増幅され、回路が発振を起こす問題がある。したがって、閉弁完了タイミングを検知するために必要な周波数帯域を予め決めておくことで、必要な周波数の電圧のみを安定的に検出することが可能となる。周波数ωとゲインGについては、図16に記載した算出式を用いて設定することが可能であり、抵抗器R1、R2およびコンデンサC1、C2の値を変更することで任意に調整することが可能である。予め、噴射パルス幅Tiが停止してから弁体114が閉弁完了するまでの電圧の周波数分析を実施し、抵抗器R1、R2およびコンデンサC1、C2を設定すると良い。
また、オペアンプ620と測定端子641との間にマルチプレクサを設け、CPUもしくは、IC602からの信号に基づいてマルチプレクサのON・OFFを切り替えることで、閉弁完了の検知が必要なタイミングで電圧を検知することができるため、ノイズによる影響を最小限に抑えることができ、閉弁完了タイミングの検知精度を高めることが可能である。
なお、本実施例3におけるアナログの微分回路1501は、他の実施例における駆動回路に設けてもよい。
本発明における実施例4による噴射量補正のための制御手法を図17から図20を用いて説明する。
図17は、実施例4の手法によって燃料噴射装置を駆動する場合のうち、弁体114を一定時間目標リフト位置で保持させて使用する時の燃料噴射装置の端子間電圧、駆動電流、弁体駆動力、弁体変位量と時間の関係を示した図である。また、図中の駆動電流には、一般的に用いられていた従来の電流波形を一点鎖線で記載している。図18は、弁体114を目標リフトに到達させる中で、最小の噴射量を実施する時の動作状態における端子間電圧、駆動電流、弁体駆動力、弁体変位量と時間の関係を示した図である。図19は、図18に示した動作による噴射量よりも少ない噴射量を実現する中間リフトでの動作する場合の噴射パルス幅Ti、駆動電流、弁体駆動力、弁体変位量と時間の関係を示した図である。図20は、図17〜図19の制御方式の電流波形を使用した場合の噴射パルス幅Tiと燃料噴射量qの関係を示した図である。
時刻T1で噴射パルス幅Tiを供給し、開弁信号がONになると、ソレノイド105に昇圧電圧VHが印加される。これに伴い、ソレノイド105に流れる電流が徐々に上昇し、それによって可動子102に働く磁気吸引力が立ち上がっていく。時刻T2で磁気吸引力が閉弁力を上回ることで弁体114が動き始め、その動きが徐々に加速していく。次に、ソレノイド105に流れる電流がピーク電流値Ipeakに達した時点で昇圧電圧VHの印加を停止し、同時に、負の方向の昇圧電圧VHを印加する。時刻T3に行われるこの動作のトリガーとしては、前述のようにピーク電流値Ipeakに達したことを利用することの他に、昇圧電圧印加時間Tpをあらかじめ決めておく方法もある。回路構成によっては、昇圧電圧VHがばらつくケースがある他、燃料噴射装置640の配線抵抗やインダクタンス等にばらつきがあるため、昇圧電圧印加時間Tpを固定した場合は、ピーク電流値Ipeakがばらつくことになる。各気筒の燃料噴射装置の弁動作のばらつきを考慮した上で、開弁動作時に、安定した開弁力を与えるには、ピーク電流値Ipeakを固定する制御方法の方がよい。一方、開弁力を与える時間のばらつきを減らすには、昇圧電圧印加時間Tpを固定するのがよい。時刻T3以降、ソレノイド105に対して逆電圧を印加している間に電流が0に達すると、電流低下によって発生する誘導起電力はなくなるが、その時点で磁気回路の内部に磁束が残っていると、磁束の消滅は続き、それによって発生する電圧分は、ソレノイド105に対して逆向きに電圧が印加される形になる。ソレノイド105に流れる電流が低下するのと同時に可動子102に働く磁気吸引力も低下し、時刻T4で磁気吸引力が閉弁力をクロスし、弁体114の動きは、リフト方向の動きを続けながらも加速度としてはマイナスに反転する。
また、一旦ピーク電流値Ipeakに到達後に、電流を急速に遮断し、保持電流値Ih以下まで低下させる(遮断波形と称する)ことで、弁体114が目標リフトに到達した時点の磁気吸引力を、図17の駆動電流に記載した従来のピーク電流値Ipeakから保持電流値Ihへ移行する電流波形(従来波形と称する)の場合と比べて小さくできる。また、磁気吸引力を小さくすることで、弁体114と固定コア107の衝突速度を低減できるため、図20に示すように、遮断波形を用いた場合は、従来波形と比べて、噴射量特性に生じる非線形性を改善でき、噴射パルス幅Tiと燃料噴射量qの関係が線形となる領域を噴射量が小さい方向へ拡大することができ、弁体114が目標リフトに到達する場合の制御可能な最小噴射量を従来波形の最小噴射量2002から遮断波形の最小噴射量2003まで低減することができる。
また、時刻T3以降の駆動方向の電圧を遮断している時間をTcとして設定しておくことで、その時間に達した時刻T5にバッテリ電圧VBを駆動方向に印加することを始める。この電圧の印加により再びソレノイド105に電流が供給され、磁気吸引力も発生する。ただし、時刻T5の直後は、磁気吸引力が立ち上がっていくフェーズであるため、その力が閉弁力を上回るまでは、弁体114に対しては減速方向の力が作用している。時刻T6で磁気吸引力と閉弁力がクロスすることになるが、この時刻T6の前後で、弁体114が目標リフトに達するように設定すると、弁体114のオーバーシュートを低減するのに有効である。すなわち、弁体114がフルリフトする時刻T7と、磁気吸引力が閉弁力とクロス時刻T6が近い時刻になるように、各気筒の燃料噴射装置ごとに記憶した開弁遅れ時間を用いて、各気筒ごとにピーク電流値Ipeakもしくは昇圧電圧印加時間Tp、駆動電圧遮断時間Tcを調整するのがよい。
また、電流遮断波形を用いた場合、駆動電圧遮断時間Tcの期間において噴射パルス幅TiがOFFとなる場合、噴射パルス幅の大きさに関わらず常に一定の電流波形が燃料噴射装置に供給されるため、噴射パルス幅Tiを増加させても燃料噴射量qが変化しない不感帯Tnが生じる。図20に示した遮断波形の噴射量特性において、弁体114が目標リフトに到達しない中間リフト領域Tharfと弁体114が目標リフトに到達して駆動される2003以降の噴射パルス幅の領域では、噴射パルス幅Tiと燃料噴射量qの傾きが異なるが、従来波形の噴射量特性で生じていた噴射量特性の非線形性が改善されているため、噴射パルス幅と燃料噴射量qの関係が常に正の関係となり、噴射パルス幅の増加に伴って燃料噴射量qも増加する。エンジンでは、エンジンの回転数の増加に伴って、噴射量を連続的に増加させる必要があるため、燃料噴射装置640では、噴射パルス幅の増加に伴って、燃料噴射量qが増加していく必要がある。このようなエンジンにおいて、本実施例4における制御手法を用いることで、エンジン回転数の増加に伴う要求される燃料噴射量qを適切に制御することができ、噴射量の制御が容易となる効果がある。従来波形を用いた場合では、要求噴射量から求めた理想直線2001と燃料噴射量qの乖離値が正と負の方向に変動するため、噴射量特性が非線形となる領域においては、各噴射パルス幅と燃料噴射量の関係をECU120で把握するため、各噴射パルス幅Tiごとに閉弁完了タイミングの検知を実施し、閉弁遅れ時間として各気筒の燃料噴射装置毎の特性をECU120に記憶させる必要があった。一方で、遮断波形を用いた方法では、中間リフト領域Tharfと目標リフトに到達する領域において、噴射パルス幅Tiと燃料噴射量qの関係が線形的な関係となるため、中間リフト領域Tharfと目標リフトに到達する領域それぞれで2点の閉弁タイミングの検知情報と、目標リフトに到達する領域の1点の開弁完了タイミングの検知情報に基づいて、要求噴射量からの乖離値を算出することが可能となり、弁動作を検知するために必要なCPU601もしくは、IC602の計算負荷を低減することが可能になり、CPU601もしくは、IC602に与える噴射量の個体ばらつきを補正するためのアルゴリズムを簡素化できるメリットがある。また、弁体114が目標リフトに到達する条件での制御可能な最小噴射量1903よりも小さい噴射量の要求があった場合、不感帯Tnの期間よりも小さい噴射パルス幅Tiを使用するように予め駆動装置に不感帯Tnを設定しておくと良い。
具体的には、ピーク電流値Ipeakもしくは昇圧電圧印加時間Tp、駆動電圧遮断時間Tcを調整するとき、各気筒の開弁完了遅れ時間Taを検知することで、フィードバック的に調整可能になり、燃料噴射装置の動作特性の個体バラツキや、劣化などに対応することが可能となり、安定した動作を実現することが可能になる。燃料噴射装置640では、寸法公差の変動の影響により、開弁完了タイミングにばらつきが生じている。開弁完了タイミングが遅い個体と早い個体に対して、同一の遮断波形を燃料噴射装置に供給した場合、開弁完了タイミングが早い個体では、ピーク電流値Ipeakの遮断タイミングである昇圧電圧打切り時刻T3で電流を遮断しても、可動子102の減速が間に合わず、可動子102と固定コア107の衝突速度が大きくなり、噴射量特性に非線形性が生じる場合がある。また、開弁完了タイミングが遅い個体では、昇圧電圧打切り時刻T3で電流を遮断すると、弁体114が目標リフトに到達するのに必要な磁気吸引力が確保できなくなり、弁体が目標リフト位置に到達しない。したがって、駆動装置に記憶させた開弁遅れ時間の情報を用いて、各気筒の燃料噴射装置640ごとに弁体114が開弁開始してからある変位量に到達した段階で昇圧電圧VHが遮断され、開弁完了タイミングから見て減速を始めるタイミングが同等になるように、昇圧電圧印加時間Tpと駆動電流遮断時間Tcを調整すると良い。また、昇圧電圧印加時間Tpを変化させることで、自動的にピーク電流値Ipeakの値が変化するが、ピーク電流値Ipeakの設定を燃料噴射装置ごとに変更し、昇圧電圧印時間Tpを調整しても良い。ピーク電流値Ipeakを個体ごとに調整することで、昇圧電圧印加時間Tpを調整する場合に比べて、駆動装置の昇圧電圧VHが変動することによって生じる弁動作のばらつきを最小限に抑えることができるため、各気筒の燃料噴射装置ごとに適切な減速タイミングを調整することができる。ピーク電流値Ipeakと駆動電圧遮断時間Tcを各気筒の燃料噴射装置ごとに適正に補正することで、可動子102と固定コア107が衝突する際の速度の個体ばらつきを低減することができるため、衝突によって生じる開弁時の駆動音を低減することができ、エンジンを静音化できる効果がある。また、可動子102と固定コア107の衝突速度を小さくすることで、可動子102と固定コア107の衝突面に働く衝撃力を小さくすることができ、衝突面の変形や摩耗を防ぐことができるため、劣化による目標リフト量の変化を抑制することができる。また、本実施例における効果によれば、各気筒の燃料噴射装置の個体によらず可動子102と固定コア107の衝突速度を低減して、一定に保つことが可能となるため、衝突面の変形や摩耗を防ぐために必要な材料の硬度を小さくすることができ、可動子102の固定コア107側端面や、固定コア107の可動子102側端面に形成しているメッキ処理が不要となるため、大幅なコスト低減を図ることが可能となる。メッキ処理を行わないことで、メッキの厚さのばらつきによって生じる目標リフトばらつきに伴う単位時間当たりの流量のばらつきや、開弁状態での可動子102と固定コア107との間の流体隙間のばらつきに伴うスクイーズ力のばらつきを抑制することができるため、噴射量の精度を高めることができる。
また、弁体114が目標リフトに到達する時刻T7と、磁気吸引力が閉弁力とクロス時刻T6が、近い時刻になるように調整できると、弁体114が目標リフト位置を越えて上昇するオーバーシュートを小さくでき、オーバーシュートが小さくなると、弁体114のバウンドも小さくなり、時刻T7の直後に弁体114を静止させることが可能になる。弁体114が目標リフト位置で静止すると、燃料噴射装置から噴射される燃料は一定流量になり、時間に比例して噴射量を増やせる状態になり、噴射量を精度よく制御することが可能な状態になる。また、弁体114のオーバーシュートを低減することで、弁体114がオーバーシュート後に再び可動子102と衝突する際の衝突速度を低減でき、弁体114と可動子102に働く衝撃力を小さくすることができるため、衝突面の摩耗を防ぐことができ、劣化による目標リフトの変化を抑制することが可能である。
また、各気筒の燃料噴射装置で噴射量が同等となるようにピーク電流値Ipeakまたは、昇圧電圧印加時間Tpのどちらか一方の値と駆動電流遮断時間Tcが補正されることで、電流遮断波形を用いた場合に生じる噴射量特性の不感帯Tnの値が各気筒の燃料噴射装置で異なる。検知情報を用いてピーク電流値Ipeakまたは、昇圧電圧印加時間Tpのどちらか一方の値と駆動電流遮断時間Tcが決まると、不感帯Tnが決まる。したがって、不感帯Tnを各気筒の燃料噴射装置640ごとに異なる値を設定できるように、CPU601もしくはIC602を構成することで、噴射パルス幅Tiが小さく弁体114が目標リフトに到達しない中間リフト領域Tharfから弁体が目標リフトに到達した後の最小噴射量2003以降の噴射量まで連続的に変化させて制御することが可能となるため、エンジン運転条件に合わせた噴射量制御を行うことができる。
閉弁動作は、開弁信号時間である噴射パルス幅Tiが停止された時刻T9に、バッテリ電圧VBの印加を遮断することで、自動的に負の方向の昇圧電圧VH印加されるようになり、それによってソレノイド105に流れる電流が急激に低下し、磁気吸引力が低下していく。磁気吸引力が閉弁力とクロスした時刻T11に弁体114の閉弁方向の動きが始まり、時刻T12に閉弁が完了する。この間の閉弁完了遅れ時間Tbを計測し、標準の遅れ時間に対してズレがある場合には、目標リフト位置での保持電流値Ihの設定を増減させ、標準の遅れ時間に合わせることが可能である。その他、閉弁完了遅れ時間のバラツキを大きく補正する場合は、噴射パルス幅Tiを補正し、閉弁完了遅れ時間が大きなものはその分、噴射パルス幅Tiを小さくし、閉弁完了遅れ時間が小さいものはその分、噴射パルス幅Tiを大きくすることで、実際に開弁されている時間を、要求噴射量を実現するのに必要な時間に制御することも可能である。
本手法の動作手順によって、弁体114を目標リフトに到達させる中で、最小の噴射量を実施する時の動作状態を図18に示す。時刻T1に開弁信号がONになり、ピーク電流Ipeakに達した時点、もしくは設定時間Tpに達した時点で、昇圧電圧VHの印加を終了する。それによって自動的に負の方向の昇圧電圧VHが印加されるようになり、ソレノイド105に流れる電流が急速に低下する。これにより磁気吸引力が低下していくことで、時刻T4で開弁力に比べ、閉弁力が上回るようになり、時刻T4以降は弁体114の動きは、開弁方向に対してマイナスの加速度をもった動きに替わる。駆動方向の電圧を遮断する時間Tcの設定時間になった後、バッテリ電圧Vhを印加するタイミングで開弁信号時間である噴射パルス幅Tiが来ると、その前後で目標リフト位置に達した弁体114は、マイナスの加速度のまま閉弁方向の動作に移行し、目標リフト位置で静止することなく、閉弁動作を行う。このフルリフトでの最小噴射量の動作を行うには、この時の動作にして、噴射パルス幅Tiが増えた時に、その分だけ、弁体114が目標リフト位置で静止している時間が長くなる必要がある。すなわち、理想的には、最小噴射量時は、目標リフト位置での静止時間が0秒で、それより開弁信号時間すなわち噴射パルス幅Tiを増加させた場合、増加した時間だけ、弁体が目標リフトの位置で静止する時間が長くなり、その静止時間の増加に応じて閉弁完了タイミングが増加して噴射量が大きくなることで、噴射パルス幅Tiと燃料噴射量qが線形的な関係となるようにするとよい。
また、燃料噴射装置に供給される燃料圧力が変化すると、弁体114が目標リフトに到達するために必要なピーク電流値Ipeakと、弁体114を開弁状態で保持可能な保持電流値Ihが変わる。燃料圧力が増加すると、弁体114が閉弁している状態では、シート径の受圧面積と燃料圧力を乗じた力が弁体に作用するため、弁体114が開弁を開始するのに必要な吸引力が大きくなる。また、弁体114が変位を開始すると、弁体114の燃料シート部を流れる燃料の流速が早くなり、ベルヌーイの定理に基づく静圧降下の影響によって、圧力が急激に小さくなることで、弁体114の配管側と先端部の圧力差が大きくなり、弁体114に働く差圧力が増加する。この差圧力の増加に応じて、必要なピーク電流値Ipeakと駆動電圧遮断時間Tcと保持電流値Ihを調整すると良い。エンジンの負荷が異なる広い範囲の燃料圧力の条件において、駆動電流の保持電流値Ihを一定にして使用する場合、高い燃料圧力で弁体114を開弁状態で保持可能なように、可動子102に働く磁気吸引力を発生できる高い保持電流値Ihを設定する必要がある。高い保持電流値Ihを用いて、低い燃料圧力で燃料噴射装置640を駆動した場合、噴射パルス幅Tiを停止する時に、可動子102に発生している磁気吸引力が大きくなり、閉弁遅れ時間が増加し、噴射量も増加する。したがって、ECU120から駆動回路121に指令信号を送る構成とし、ECUで燃料噴射装置の上流部の燃料配管に取り付けられた圧力センサからの信号を用いて、燃料圧力に応じて適切な保持電流値Ihを設定すると良い。
また、各気筒での燃料噴射装置の個体ばらつきも燃料圧力の変化と同様に、スプリング110の荷重のばらつきによって、弁体114を開弁状態で保持に必要な保持電流値Ihも変わる。スプリングが大きい個体では、弁体114を開弁状態で保持するのに必要な磁気吸引力が大きくなるため、保持電流値Ihを大きく設定する必要がある。このスプリング110の荷重は、燃料噴射装置640の噴射量を調整する過程で調整される。したがって、開弁遅れ時間、閉弁遅れ時間とスプリング110の荷重には強い相関があるため、開・閉弁遅れ時間からスプリング110の荷重を推定することができる。
各気筒の燃料噴射装置640の個体ばらつきを低減するためのピーク電流値Ipeakと昇圧電圧印時間Tpと駆動電圧遮断時間Tcの調整に加えて、燃料圧力による電流波形の調整を行うと効果的である。燃料圧力が増加すると、弁体114に働く差圧力が増加するため、ピーク電流値Ipeakを遮断してから弁体114が減速するタイミングも早くなり、弁体114が目標リフト位置に到達してからのバウンドも小さくなる。従って、燃料圧力の増加に応じて、ピーク電流値Ipeakを増加させることで、弁体114が目標リフトに到達するのに必要なピーク電流値Ipeakを確保しつつ、可動子102と固定コア107の衝突速度も低減でき、噴射量特性の非線形性を低減することができ、噴射量ばらつきを低減できる。また、ピーク電流値Ipeakを増加させると、駆動電圧打切り時刻T3が遅くなり、駆動電圧遮断時間Tcも連動して遅くなる。この昇圧電圧遮断時間Tcは燃料圧力の増加に応じて小さくなるように構成するとよい。このような構成とすることで、燃料圧力の増加に伴って弁体114に働く差圧力が増加すると、可動子102と固定コア107の衝突速度が小さくなるため、減速に必要なタイミングも遅くなるため、適切な減速タイミングを設定することが可能である。燃料圧力と弁体に働く差圧力は、線形的な関係となるため、燃料圧力に応じて、ピーク電流値Ipeakと保持電流値Ihを決定するための補正係数を予め、ECUもしくはEDUに与えておくと良い。また、以上で説明したピーク電流値Ipeakと保持電流値Ihを各気筒の燃料噴射装置640ごとおよび、燃料噴射装置640に供給される燃料圧力ごとに調整することで、使用する電流を小さくできるため、燃料噴射装置のソレノイド105の発熱とECUの発熱を低減でき、消費エネルギーを低減できる効果がある。また、昇圧電圧VHを印加している時間が低減されるため、昇圧回路の負荷が低減でき、多段噴射時において次の噴射パルス幅が要求された時点での昇圧電圧VHを一定に保つことができるため、噴射量を正確に制御することが可能となる。
次に、本手法の動作手順によって、弁体114を目標リフトに到達させない領域(中間リフト領域と称する)を使用するための動作を図19に示す。本動作では、目標リフトに到達させる場合の最小噴射量よりもさらに小さな噴射量を実現するために、噴射量を減らす分に応じて、ピーク電流値Ipeakを標準の設定値より下げていくことで、噴射量を低減していく。すなわち、図18示した動作による噴射量よりも少ない噴射量を実現する時は、開弁信号時間Tiを変化させるのではなく、昇圧電圧を印加する時間を決めるピーク電流値Ipeakの設定値自身を変化させる。もしくは、昇圧電圧印加Tpの設定値自身を変化させる。図18に示す通り、標準のピーク電流値Ipeakより、小さな設定値Ip′に設定することにより、ソレノイド105に流れる電流がIp′に達した時刻T3で、昇圧電圧VHの印加を停止する。これにより、昇圧電圧VHが逆向きに印加され、ソレノイド105に流れる電流は急速に低下し、それにより、磁気吸引力が低下する。これにより、時刻T2にリフト動作を開始した弁体114は時刻T4の時点でマイナス加速度に反転し、目標リフトに達しない高さまでを放物運動し、時刻T12に閉弁する。この動作では、弁体114が目標リフトに到達しないため、弁体114の変位量が機構で規定されず、噴射量の個体ばらつきが生じやすい。したがって、閉弁完了タイミングT12を計測することで、要求噴射量を実現するための閉弁完了タイミングと一致しているかどうかをECU120もしくは、EDU121でチェックし、ずれているようであれば、次回の噴射時は、ピーク電流の設定値Ip′を増減させて調整することで、要求噴射量に対する実噴射量の精度を高めることが可能になる。同様に、昇圧電圧印加時間を設定する方式の場合は、閉弁完了タイミングT12を計測して、要求噴射量を実現するための閉弁完了タイミングに合うように、昇圧電圧印加時間を調整することで、要求噴射量に対する実噴射量の精度を高めることが可能になる。
図21〜図25は、本発明を利用して燃料噴射装置を制御する手法の実施例5を示すものである。
図21は、本発明の実施例5における手法の中で、弁体114が目標リフトに到達して駆動される場合の端子間電圧と駆動電流、弁体114に働く作用力である開弁方向の力(開弁力)と閉弁方向の力(閉弁)、弁体114の変位量と時間の関係を示した図である。図中に示した4つのグラフの横軸は全て時間であり、縦位置が同じ場所は同じ時刻を示している。図中の一番上の図は、燃料噴射装置のソレノイド105の端子間電圧、2番目の図は燃料噴射装置650のソレノイド105に流れる駆動電流である。3番目の図は、燃料噴射装置640の弁体114にかかる弁体駆動力であり、4番目の図は弁体114のリフト方向の変位量である。図22は、図21の動作の延長で噴射量を絞っていく場合の、最小量噴射の動作である端子間電圧、駆動電流、弁体駆動力、弁体変量の関係を示した図である。
図21において、時刻T1に噴射パルス幅Tiが供給され、開弁信号がスタートする。このタイミングで昇圧電圧VHを燃料噴射装置のソレノイド105に印加する。この電圧の印加によってソレノイド105に電流が流れ始めるが、電流に伴って磁気回路の内部に磁束が発生し、その磁束の増加によって逆起電力が生じるため、ソレノイド105に流れる電流はステップ的に立ち上がるのではなく、時間とともに上昇する特性となる。ソレノイド105に電流が流れ始めると、わずかな時間遅れをもって磁束が発生し、その磁束により磁気吸引力が発生する。磁気吸引力は、弁を開く方向の力になるが、弁体114には弁を閉じる方向の力もかかっているため、開弁方向の力が閉弁方向の力を上回った瞬間(=時刻T2)に弁体114がリフトする動作が開始する。閉弁方向の力にはバネ力と流体力がある。ここで使用するスプリング110は、スプリング110をセットする際の変形量が、弁体114の変位量に比べてはるかに大きいため、開弁時と閉弁時のバネ荷重がほとんど同じになる。流体力によって閉弁方向の力が生じるのは、弁体114が閉弁によって着座するシート部より下流側の圧力が、上流側の燃料圧力より低いことで主に発生する
。弁体114がリフトを開始して、シート部に流れが生じると、燃料の静圧が動圧に変換されることで、一部の領域の静圧が下がり、流体力は変化する。また、弁体114の動作に伴い、流体が排除されたり流入されたりする空間で流れの抵抗による発生する圧力変化によっても弁体114に働く流体力は変化する。よって、バネ力と流体力を合計した閉弁方向の力は正確には一定にならないものの、その変化はあまり大きくないものとして、図では一定の線で示した。
ソレノイド105に昇圧電圧VHを印加する時間は、設定した時間Tpに達した時点で打ち切る方法と、ソレノイド105に流れる電流が予めCPU601もしくは、IC602に設定されたピーク電流値Ipeakに達した時点で打ち切る方法があり。すなわち、昇圧電圧印加時間Tpを設定する場合は、ピーク電流値Ipeakは従属的に決まり、ピーク電流値Ipeakを設定する場合は、それによって昇圧電圧印加時間Tpが従属的に決まる。昇圧電圧印加時間Tpもしくは、ピーク電流値Ipeakの設定は、燃料噴射装置の特性や、燃料圧力に応じて設定することで、環境条件の変化や、燃料噴射装置の個体バラツキがあっても、燃料噴射装置の動作バラツキを減らすことが可能になる。例えば、ピーク電流値Ipeakの値を固定した場合、駆昇圧電圧VHの個体ばらつきやソレノイド105の発熱等によって、電流値のプロファイルに変動が生じたとしても、弁体114の開弁開始タイミングと開弁完了タイミングは変動するが、この効果は弁体変位量が平行移動する変化となるため、開弁遅れ時間の情報を用いて補正することが可能である。次に、時刻T3で昇圧電圧VHの印加を打ち切ると、自動的にその逆向きの電圧が印加されるようになる。ソレノイド105に流れる電流は、正方向の電圧の印加を終了するとともに、電流が消滅しようとするが、電流が低下すると、磁気回路の内部の磁束が減少し、磁束が減少すると、その変化を打ち消す方向に誘導起電力が発生する。この誘導起電力によって、ソレノイド105には正方向の電流が流れるため、時刻T3の直後に電流がすぐに0になることはなく、徐々に低下していく。ソレノイド105に対して、逆方向の昇圧電圧が印加された状態になると、正方向の電流の低下速度が速まる。ソレノイド105に流れる電流が低下すると、磁束が減り、磁気吸引力が低下することで、開弁方向の力が低下していく。開弁方向の力が閉弁方向の力を上回っている時は、弁体114の動きはリフト方向に加速する動作をしているが、開弁力と閉弁力が釣り合った瞬間の時刻T4に弁体114はその時の速度で、加速度が0になる。時刻T4の後も、負の方向の昇圧電圧VHの印加を続け、ソレノイド105に流れる電流を低下させ続けることで、磁気吸引力が低下し、閉弁力が開弁力を上回り、弁体114の動きは減速に転じる。弁体114の動きが減速しつつも、リフト方向に移動している間の時刻T5にソレノイド105に逆電流を印加することを終了し、同時に、ソレノイド105に対してバッテリ電圧VBを印加する。ソレノイド105に逆電圧が印加されてから終了するまでの時間Tcは燃料噴射装置の特性や、燃料圧力に応じて設定することで、環境条件の変化や、燃料噴射装置の個体バラツキがあっても動作バラツキを減らすことが可能になる。
時刻T5以降は昇圧電圧VHよりは低い電圧であるバッテリ電圧VBを印加することで、ソレノイド105に流れる電流が、やや緩やかに上昇する。電流が増加することで、磁気吸引力も緩やかに増加し、時刻T6で磁気吸引力が再び閉弁力を上回ることで、弁体114の動きが減速から加速に切り替わる。
バッテリ電圧VBを印加している間は、ソレノイド105に流れる電流を監視し、設定した保持電流値Ihになった時点で一旦電圧の印加を切り、設定した微小な時間の後、バッテリ電圧VBを印加することを続ける。このような動作を続けることで、ソレノイド105に流れる電流値を設定した保持電流値Ihの近くに維持することができ、磁気吸引力を制御することができるようになる。
また、時刻T7の時点で弁体114は目標リフト位置に到達する。開弁信号を開始した時刻T1から、フルリフト完了の時刻T7までの時間が開弁完了遅れ時間Taとなる。燃料噴射装置の構造として、磁気吸引力を受ける部分と弁体114を分離し、前者を可動子102とし、可動子102は弁体114に開弁方向の力のみを伝える構造にし、かつ、可動子102の目標リフト位置に達しても弁体114の側はさらに移動できるような遊びがある場合、可動子102と弁体114がともに目標リフト位置に達した後、可動子102は固定コア107と衝突することで、リフト方向への運動は終了するが、弁体114のみは、さらに上昇が続き、弁体114の動きにオーバーシュートが生じる。このオーバーシュートが生じる前後では、開弁信号時間に比例した噴射量制御ができなくなるので、オーバーシュートは小さいほど良く、そのため、弁体114がフルリフトする時刻T7での弁体114の速度が極力小さくなるように、ソレノイド105に流れる電流を調整するのがよい。その際の調整方法として、昇圧電圧印加時間Tpもしくはピーク電流Ipeakや、逆電圧印加時間Tc、弁体114リフト保持電流Ihの設定値を、個々の燃料噴射装置640の特性や、燃料圧力に応じて変更すると良い。
オーバーシュートが落ち着いた後は、弁体114にかかる閉弁力より、可動子102にかかる磁気吸引力の方が強い状態を保つが、可動子102が目標リフト位置で固定コア107と接触していることで動きが止まり、弁体114も目標リフト位置で静止を続ける。
時刻T9に噴射パルス幅Tiの停止時間に達することで、ソレノイド105にバッテリ電圧VBの印加を終了すると、自動的に、昇圧電圧VHが逆方向に印加されることになる。時刻T9の時点でソレノイド105の周りの磁気回路には磁気吸引力を発生させていた磁束が存在するため、電流の低下速度に応じて誘導起電力が生じ、時刻T9の後も緩やかにしか電流は低下していかない。電流の低下が遅いと、磁気吸引力の消滅も遅く、閉弁の動き出しも遅くなるため、バッテリ電圧VBより大きい昇圧電圧VHを逆方向に印加することで、電流消滅を早め、閉弁動作を早めること良い。時刻T10でソレノイド105に供給される電流値が0になった後も、渦電流の影響によって、磁気回路の内部に磁束が残留しており、その磁束が消滅を続けていると、それによって誘導起電力が生じるため、ソレノイド105の端子間電圧も負方向の電圧となるが、磁気回路の内部の磁束が減少することによって、渦電流が小さくなり、磁束が消滅する速度も低下するため、発生する誘導起電力も徐々に低下し、ソレノイド105の端子間電圧も徐々に低下していく。また、電圧の測定端子をソレノイド105の端子間電圧ではなく、実施例2におけるソレノイド105の接地電位(GND)側の端子と接地電位(GND)との電位差でみた場合、電圧は正の方向となり、渦電流が消滅していく過程で電圧が減少する。
ソレノイド105に流れる電流の低下によって、磁気吸引力が低下していき、時刻T11で磁気吸引力が閉弁力を下回った時点で、弁体114の閉弁方向の動作が始まる。弁体114と可動子102の位置関係としては、リフト方向すなわち正方向の変位として、弁体114≧可動子102となり、弁体114の方が可動子102より上になることはあっても、その逆はない。同様に、可動子102の方が弁体114より下になることはあっても、弁体114の方が可動子102より下に行くことはない。よって、弁体114が閉弁方向に動く際は、必ず可動子102も閉弁方向に動く。弁体114が目標リフト位置に保持されている時は、可動子102は固定コア107と接触し、接触端面の吸引面に引き付けられており、可動子102がそこから離れる際は、可動子102と固定コア107の間の空間に燃料が流れ込む必要がある。磁気吸引面にはわずかなすき間しかないため、その空間に燃料が流れ込むには燃料の流動抵抗が大きく、可動子102が速く動こうとするほど、その抵抗が大きくなる。流動抵抗(スクイーズ力と称する)が大きくなると、その空間の圧力が低下し、その空間に接する面の流体力が低下することで、流体力による閉弁力が低下する。一般的に、スクイーズ力は、可動子102の速度に比例し、可動子102と固定コア107との距離の3乗に反比例するため、可動子102と固定コア107のギャップが拡大することで、スクイーズ力は急速に低下する。このスクイーズ力の正確な記載は図21の弁体駆動力の図になされていないが、流体力によって閉弁動作を鈍くなる要素があるため、時刻T11を過ぎても、弁体114の動きとしては、緩やかな閉弁動作にとどまる。弁体114が目標リフト位置から離れるほど、磁気吸引力も低下し、スクイーズ力も低下することで、閉弁力が開弁力を上回っていくことから、閉弁動作は徐々に加速していき、時刻T12に弁体114が閉弁位置に到達することで、閉弁動作が完了する。よって、時刻T12とT9の差が閉弁完了遅れ時間Tbとなる。
燃料噴射装置の寸法公差の影響によって生じる個体ばらつきや、燃料圧力の変化、温度などの環境条件の変化、劣化等による動作特性の変化などにより、閉弁完了遅れ時間Tbは変化する。この時間が変化すると、噴射量が変化するため、噴射量の精度が必要な場合、閉弁完了遅れ時間Tbを計測し、標準の閉弁完了遅れ時間よりずれる分だけ、次回の噴射時に、開弁信号時間を増減させて調整すると、噴射量ばらつきを抑え、噴射量の精度を高めることが可能になる。その他、閉弁完了遅れ時間Tbが大きい時には、保持電流Ihを下げ、フルリフトで維持している時の磁気吸引力と下げることで、開弁力と閉弁力との差を小さくし、磁気吸引力が閉弁力とクロスするポイントである時刻T11を早めることで、噴射量が小さくなるように調整することも可能である。逆に、標準の閉弁完了遅れ時間よりも検知した遅れ時間Tbが小さい時は、保持電流Ihを大きくすることで、標準の閉弁完了遅れ時間に合うように調整することもできる。
上記の手順で燃料噴射装置を動作させる場合、1回の噴射によって噴射される燃料の量を幅広く制御するには、開弁信号時間Tiをそれに応じて変化させればよい。開弁信号時間Tiを増やすと、それに比例して弁体114がフルリフトの位置で静止している時間のみが増加し、その前後の動作は同じになる。よって、フルリフトで静止している時の単位時間あたりの噴射量に、開弁時間を増加させた時間を掛ければ、増加する噴射量が決まる。この関係から、必要な噴射量を実現するために必要な開弁信号時間を逆算することができるので、開弁信号時間Tiで噴射量を制御することが可能になる。
上記の動作の延長で噴射量を絞っていく場合の、最小量噴射の動作を図22に示す。図22を示すにあたり、図21と同じ意味の変数は変数名を同じにした。
図22においては、弁体114のフルリフトが完了した時刻T7の直後に開弁信号時間Tiの終了がきて、閉弁動作が始まる。よって、開弁動作と、閉弁動作は図20のケースとまったく同じになり、弁体114が目標リフト位置で静止している時間のみが最小になるように動作させる手順が図22の動きなる。また、弁体114が目標リフト位置に静止している時間を最小化する上では、弁体114のオーバーシュートを極力小さくするのが良く、そのためには開弁完了時間Taを計測し、燃料噴射装置640の個体ごとのこの時間のバラツキを把握した上で、昇圧電圧印加時間Tpもしくはピーク電流Ipeakや、逆電圧印加時間Tc、保持電流Ihなどの設定値を調整するのがよい。
図22の動作により噴射される量よりもさらに少ない噴射量を実現するための動作方法を図23に示す。図23においては、ソレノイド105に昇圧電圧VHを印加し、その後、負の方向に昇圧電圧VHを印加する所までは、図21、図22と同じであり、その後のバッテリ電圧VBを印加して保持電流Ihを流す時間のみが短縮されている。噴射パルス幅Tiが停止されて、保持電流Ihが打ち切られる時刻T9の時点では弁体114はまだ目標リフトに到達していないため、時刻T9の後も開弁動作は続く。しかし、時刻T10でソレノイド105に供給される電流がなくなることで、磁気吸引力は低下していき、それに伴って閉弁力と開弁力の差が広がり、弁体114を押し戻す力が強まっていく。それらのプロセスの間に、時刻T9の時点では、弁体114は開弁方向に動いていたのが、速度が減速し、そのまま速度がマイナスになって、閉弁方向に弁体114が移動するようになる。それによって時刻T12に閉弁完了するようになり、弁体114の動作の中で一度も目標リフトに到達することなく動作が終了するようになる。
本手法の動作によって、ごく微小な噴射量を制御可能にすることができるのは、弁体114が目標リフトに到達する場合の開弁完了時刻T7より、保持電流動作に入る時刻T5が、有意な時間差でもって前にしてあることによる。すなわち、保持電流開始時刻T5と、開弁完了時刻T7の間に時間差があると、開弁完了時刻T7よりも前に、保持電流終了時刻T9をもってくることが可能になる。よって、図22のようなフルリフトさせる場合の最小噴射量動作の噴射パルス幅Tiよりもさらに短い開弁信号時間をとることが可能になり、その場合でも開弁信号時間Tiの短縮に比例して、噴射量を減らすことが可能になる。その際、目標リフトに到達させる場合の開弁信号時間の増加量に対する噴射量の増加量の割合と、目標リフトに到達させない場合の開弁信号時間の増加量に対する噴射量の増加量の割合が異なる場合もあるが、その場合は、その特性に応じて開弁信号時間を逆算して、開弁信号時間を決めれば、要求通りの噴射量を制御によって実現することが可能になる。これにより、目標リフトに到達させる場合の最小噴射量よりさらに少ない噴射量を、要求通りに噴射する制御が可能になる。
弁体114の動きとして目標リフトに到達させない動作では、動作の前半のみに制御可能な調整パラメータが存在し、動作の後半に制御を加えることはできない。このため、各気筒の燃料噴射装置ごとの特性バラツキや、環境条件の変化、劣化などによる動作特性の変化等の影響を受け、同じ開弁信号時間であっても、噴射量がバラツキやすい。その際、開弁完了遅れ時間や、閉弁完了遅れ時間を計測しておき、特性が変化した場合に、そのことを把握できるようにしておくと、弁体動作前半の制御可能な調整パラメータを変化させることで、ごく微小な噴射量であっても、要求噴射量に対する実噴射量の精度を保つことができるようになる。
図24に、本手法による一連の動作をまとめて示す。昇圧電圧VHを印加する時間Tpと負の方向に昇圧電圧VHを印加する時間Tcは弁体114の動作を計測した結果によって決めるため、要求噴射量に関わらず一定であり、その後の保持電流の維持時間のみを、要求噴射量に応じて変化させる。このため、開弁信号時間がTi_1の時は、閉弁完了時間がT12_1になり、開弁信号時間がTi_2の時は、閉弁完了時間がT12_2に、同様に変化していき、開弁信号時間がTi_4の時は、閉弁完了時間がT12_4になる。弁体114の変位量の時間変化によって描かれるカーブの面積に応じて、燃料噴射装置640から噴射される噴射量が決まるため、開弁信号時間の変化により、ごく微量の噴射量から、大量の噴射までを一律に制御できる。
次に、実施例5の制御手法で燃料噴射装置を駆動した場合の噴射パルス幅Tiと燃料噴射量qの関係を図25に示す。図25には、実施例5の電流波形による噴射量特性を実線で示し、実施例4における制御手法で説明した図17の電流遮断波形での噴射量特性を一点鎖線、従来波形での噴射量特性を破線で記載している。図25より、実施例4で説明した遮断波形の噴射量特性に比べて、噴射パルス幅Tiが同じ条件での燃料噴射量qが小さくなっており、線形領域での噴射量が下側にシフトした特性となっている。また、遮断波形では、弁体114が目標リフトに到達する条件での最小噴射量が2502であるのに対して、実施例5の波形では、最小噴射量が2501となり、実施例4における制御手法と比べて弁体114が目標リフト位置に到達する条件での最小噴射量は大きくなる。しかしながら、実施例4による制御手法よりもピーク電流値Ipeakを低下させて、
保持電流値Ihで弁体114が目標リフトに到達するように制御することで、中間リフト領域での噴射パルス幅の増加に対する燃料噴射量の増加qと弁体114が目標リフトに到達して以降の領域での噴射パルス幅の増加に対する燃料噴射量qの増加の傾きを限りなく近づけることができるため、中間リフト領域から噴射パルス幅Tiを増減させることで、燃料噴射量qを一律に制御することができる。このような構成とすることで、各気筒の燃料噴射装置640の個体ばらつきについては、ピーク電流値Ipeakもしくは昇圧電圧印時間Tpと昇圧電圧遮断時間Tcと保持電流値Ihの設定値をそれぞれ開・閉弁タイミングの検知情報に基づいて補正することで、噴射量特性に生じる個体ばらつきは、噴射パルス幅Tiと燃料噴射量qが略線形となる領域から引いた理想直線2503の切片qbのみのばらつきとなるため、噴射パルス幅Tiを個体ごとに補正することで、ECUまたは、駆動装置で要求される噴射量を正確に制御することができる。また、電流波形の設定値を調整した後に、噴射量特性に生じる切片qbの補正を噴射パルス幅のみで実施することで、開・閉弁完了タイミングの検知を1吸排気行程毎に実施する必要がなくなるため、CPU601もしくは、IC602の計算負荷を低減でき、CPU601もしくは、IC602に記憶させるデータ点数を低減することができるため、開・閉弁タイミングの検知情報を記憶されるメモリ容量を小さくすることがでる。また、実施例4に比べて、ピーク電流値Ipeakが小さく設定されるため、実施例4で噴射量特性に生じる不感帯Tnを実施例5における制御手法では、不感帯Tn1まで低減でき、噴射量パルス幅Tiと燃料噴射量qの関係が線形となる領域を拡大することができるため、噴射量の制御が容易になるメリットがある。
本発明における実施例6における手法によって弁体114を動作させ場合の動きを、図26、図27、図28を用いて説明する。図26において、時刻T1に噴射パルス幅Tiが印加され、開弁信号がONになり、昇圧電圧VHの印加を始める。これによりソレノイド105に流れる電流が立ち上がるが、本発明における実施例6の手法においては、実施例5における手法よりも低いピーク電流値Ipeakを設定し、その電流値に達した時点で、一旦昇圧電圧VHの印加を打ち切る。本手法において、電流値がピーク電流値Ipeakに達して電圧の印加を切る際は、ソレノイド105の誘導起電力による電流を急速に消滅させないために、負の方向の昇圧電圧VHが印加されないようにスイッチ操作を行う。昇圧電圧VHの印加を切った後は、設定時間が経過すると再び昇圧電圧VHが印加されるようにスイッチングを行う。このように動作させることで、ソレノイド105に流れる電流を設定したピーク電流値Ipeakの近くで維持することが可能になる。このような操作を行うと、低めのピーク電流値Ipeakの設定値で電流を維持することで、磁気吸引力も、実施例5における手法の時よりは、低い磁気吸引力を維持することが可能になる。
この後、昇圧電圧印加時間の設定時間Tpに達した時点である時刻T3に、電圧の印加を終了し、自動的に負の方向の昇圧電圧VHが印加されるようにスイッチを操作する。これにより磁気吸引力が低下し、時刻T4で磁気吸引力が閉弁力をクロスすることで、弁体114の動きにマイナスの加速度がかかるようになり、駆動電圧遮断時間Tcに達した時刻T5のすぐ後で、弁体114がフルリフト時刻T7に来るように調整する。また、燃料噴射装置640の仕様によっては、時刻T4で磁気吸引力が閉弁力をクロスしない場合もあるが、高い電流値で弁体が目標リフトに到達する場合に比べて、可動子102と弁体114の加速度を小さくすることができる。
本手法では、昇圧電圧VHを印加している途中に印加電圧の切断が入るように、ソレノイド105に流す電流の設定値を低めに設定することで、磁気吸引力を低めの力で維持することになる。これにより、昇圧電圧VHの印加を打ち切った時刻T3から、磁気吸引力が閉弁力をクロスする時刻T4までの時間を短くすることができる。これにより、弁体114の動きが加速状態から減速状態に移行するまでの時間が短くなり、その後、弁体114の動きに減速をかける時間も短くて済むようになる。その場合、弁体114にかける減速が大きくなり過ぎたり、不足したりする量を少なくすることが可能になり、弁体114が目標リフト位置に到達した後に生じるオーバーシュートを極力小さくするための調整がし易くなる。
また、圧電圧VHの印加を打ち切った時刻T3から、磁気吸引力が閉弁力をクロスする時刻T4までの時間を短くすることができる効果により、弁体114の動きが加速状態から減速状態に移行するまでの時間が短くなり、可動子102と固定コア107の衝突速度を低減できるため、弁体114が目標リフトに到達した後に発生する弁体バウンド117を抑制することが可能となる。
時刻T5の後は、バッテリ電圧VBを印加して、ソレノイド105に流れる電流をIh付近に維持し、弁体114を目標リフト位置に静止させる。開弁信号時間Tiに達すると、これまでの手法と同様に閉弁動作を行う。
図27に、実施例6における手法により、弁体114を目標リフトさせた上で、最小噴射量を実施する時の動作を示す。時刻T5でバッテリ電圧VBを印加する時刻になると同時に開弁信号時間の噴射パルス幅Tiが打ち切られて弁体114が閉弁動作を行う。弁体114が目標リフトに到達するタイミングは時刻T5のすぐ後に起きるように調整されているため、時刻T5と同時に生じる閉弁操作に応じて、閉弁動作が連続して起きるようになる。この際、昇圧電圧を印加している時の磁気吸引力が、低めに調整されていたことで、弁体114にかかる力が加速方向からマイナスの加速に切り替わる時間が短くなり、弁体114を操作する際の、時間的な精度を高めることができるようになる。この精度が高まると、弁体114を目標リフトに到達させた上での最小噴射量を十分に絞ることができるようになり、さらに、目標リフトに到達させない時の噴射量との間が連続的につながり、連続的な噴射量制御が可能になる。従って、目標リフトに到達させない領域から目標リフトに到達させる領域で、噴射パルス幅と噴射量の関係が常に正の相関関係となるため、要求噴射量が連続して増加していく場合の制御ロジックを簡素化できるメリットがある。
図28に、実施例6の手法により、フルリフトさせない場合の動作方法を示す。図26から図27にかけては開弁信号時間Tiにより噴射量を制御するが、図27よりさらに噴射量を絞る場合は、開弁信号時間である噴射パルス幅Tiを変化させるのではなく、昇圧電圧印加時間Tpを変化させる。昇圧電圧印加時間Tpを変化させると、磁気吸引力で弁体114に開弁方向の力を付加する時間が短くなり、それに応じて、昇圧電圧VHの印加を終了した後の弁体114の放物運動も小さくなる。よって、弁体114は目標リフト位置に到達しない動作を行い、時刻T12に閉弁が完了する。これまでの手法と同様に、目標リフト位置に到達させない弁体114の動作は、個別の燃料噴射装置640ごとのバラツキが大きくなり易い。よって、各気筒の燃料噴射装置640ごとに閉弁完了タイミングT12を計測することで、要求噴射量を実現するための動作からのズレを把握し、昇圧電圧印加時間Tpを調整すると、要求噴射量に対する実噴射量の精度を高めることが可能になる。
本発明における実施例7の手法によって弁体114を動作させ場合の動きを、図29、図30、図31を用いて説明する。図29において、時刻T1に先立つ時刻T0にバッテリ電圧VBの印加を始める。これによりソレノイド105に電流が流れ始めるが、電流がプリチャージ電流値Icに達するとバッテリ電圧VBの印加を切り、それ以上は電流が流れないように制御する。この際、電圧の印加が打ち切られても、負の方向の電圧は印加されないようにスイッチ操作を組合せる。電流がプリチャージ電流値Icに達したことで電圧を切った後は、一定時間後に再びバッテリ電圧VBを印加することを繰り返し、設定したプリチャージ電流値Ic付近の電流が維持されるように制御する。このプリチャージ電流Icを供給する時間はプリチャージ時間Tdとしてあらかじめ決めておき、この時間が過ぎると、開弁信号がONとなり、噴射パルス幅Tiが供給されるように動作させる。また、プリチャージ電流値Icをソレノイド105に流すことで、磁気回路の内部に予め磁束が形成され、磁気吸引力が発生するが、この磁気吸引力は閉弁力を上回ることがないようにプリチャージ電流Icを設定するとよい。また、燃料圧力が増加すると、弁体114にかかる燃料圧力による閉弁力が増加し、弁体114が開弁開始するのに必要な磁気吸引力も増加するため、圧力センサで検出した燃料噴射装置640に供給される燃料圧力ごとにプリチャージ電流値Icを設定できるように構成するとよい。このような構成とすることで、燃料圧力の変化に応じて適切なプリチャージ電流値Icを設定することができる。また、燃料噴射装置640の寸法公差とくに、スプリング110の荷重の個体ばらつきによっても、弁体114が開弁開始するのに必要な磁気吸引力が異なる。スプリング110の荷重が大きいと、開弁開始に必要な磁気吸引力が大きくなるため、プリチャージ電流Icを増加させ、一方でスプリング110の荷重が小さいと、開弁開始に必要な磁気吸引力が小さくなるため、プリチャージ電流Icを減少させるように構成すると良い。以上の構成を用いることで、燃料噴射装置640に供給される燃料圧力が変化した場合でも、燃料噴射装置のスプリング110の荷重が異なる場合であっても適切なプリチャージ電流Icを設定することが可能になるため、噴射量を精度良く制御することが可能となる。
時刻T1に開弁信号すなわち噴射パルス幅TiがONになると、その後は図21に示した実施例5の制御手法と同じ動作手順を行う。ただし、プリチャージ電流値Icによって磁気吸引力がある程度発生した状態で昇圧電圧VHの印加が始まるので、磁気吸引力が閉弁力を上回るタイミングT2が早くなり、昇圧電圧VHの印加から開弁動作開始までの時間が短縮される。この時間が短縮されると、燃料噴射装置の個体バラツキによる開弁開始時間のバラツキを小さくすることが可能になる。一般的にソレノイド105に電流を供給すると、渦電流の影響によって磁気回路を構成する磁性材の磁化の進行は、ソレノイド105の内側近傍から外周側へ向けて磁化が進行する。一方でコイルへの電流供給を停止するとソレノイド105から遠い固定コア107の内周側から消磁されていく。プリチャージ電流Icによって予め磁気回路の内部に磁束を発生させておくことで、磁束が発生していない状態からソレノイド105に電流を供給する場合に比べて、渦電流によって発生する逆起電力を小さくすることができるため、ソレノイド105に供給される電流値の立ち上がりの傾きを大きくすることができ、磁気吸引力の立ち上がりを早めることができる。この効果によって、プリチャージ電流Icがない場合に比べて昇圧電圧VHを印加してから弁体114が目標リフトに到達するために必要な磁気吸引力を早いタイミングで確保することができるため、ピーク電流値Ipeakを実施例5の場合と比べて小さく設定することができ、電流値の2乗に比例して決まる消費電力を抑制することができる。
また、時刻T2で開弁開始した後は、ソレノイド105に流れる電流がピーク電流Ipeakに達した時点T3で、昇圧電圧VHの印加を打切り、それによって自動的に昇圧電圧が逆向きに印加されるようになる。逆向きの電圧の印加によりソレノイド105を流れる電流は急速に低下し、それに合わせて磁気吸引力も低下し、時刻T4で磁気吸引力が閉弁力をクロスすると、弁体114の動きはリフト方法に加速する動きからリフトを続けながらも、速度が減速する状態に変わっていく。駆動電圧を打ち切っておく時間Tcはあらかじめ決めておき、その時間になった時刻T5にバッテリ電圧VBの印加を始める。これにより磁気吸引力が再び増え始め、弁体114のリフト方向の動きが維持される。バッテリ電圧VBを印加している間は、電流が保持電流Ihに維持されるようにスイッチングを行う。この動作を行っていることで、時刻T7に弁体114が目標リフトに達し、わずかなオーバーシュートでおさめた上で、目標リフト位置で静止するようになる。噴射パルス幅Tiの停止時間に達すると、負の方向に昇圧電圧VHを印加し、ソレノイド105に流れる電流を急速に低下させ、それによって磁気吸引力が低下し、時刻T11で磁気吸引力が閉弁力とクロスすると、閉弁動作が開始され、時刻T12に閉弁動作が完了する。また、一般的に弁体114が静止している状態では、弁体114のシート径の面積と燃料圧力を乗じた値で閉弁力の一部である燃料圧力による力が決まる。一方で弁体114がリフトを開始すると、弁体114のシート部に燃料が流れ始めるが、弁体114のリフト量が小さい条件では、シート部の流路断面積が小さいため、シート部を流れる燃料の流速が増加し、ベルヌーイの定理に基づく静圧低下の影響によって、弁体114シート部近傍の圧力が低下する。このとき、弁体に働く差圧力は、弁体114の上部の圧力と弁体114の先端部の圧力を差分し、径方向の受圧面積で積分した値となる。したがって、弁体114の先端部の圧力が低いと、弁体114に作用する差圧力が大きくなり、閉弁している状態に比べて、弁体114に働く差圧力が増加する。また、弁体114の変位量が増加していくと、シート部の流路断面積も増加するため、シート部を流れる燃料の流速が遅くなり、静圧低下の影響が小さくなることで、弁体114に働く差圧力は減少していく。燃料噴射装置640では、弁体114に働く差圧力の最大値を、開弁力である磁気吸引力が素早く超えることによって、高い燃料圧力でも安定した開弁動作が可能となり、噴射量の制御も容易となる。プリチャージ電流値Icによって、磁気吸引力の立ち上がりが早くなるため、差圧力の最大値を乗り越えるタイミングを早めることができるため、ピーク電流値Ipeakに達してから弁体114が減速するまでの時間を早めることができるため、可動子102と固定コア107の衝突速度を低減することができ、可動子102と固定コア107の衝突に伴う弁体バウンドに起因する噴射量特性の非線形性を改善することができ、弁体114が目標リフトに到達するタイミングでの噴射量の制御が容易になる。
本手法の特徴であるプリチャージ電流値Icの供給を行わない場合は、燃料噴射装置640の個体ばらつきによる開弁開始時間のバラツキがある程度存在しているが、プリチャージ電流値Icの供給行うことで、絶対的な開弁開始遅れ時間が短縮されることで、相対的に噴射量のばらつきも低下する。開弁開始遅れ時間にばらつきがある場合は、ピーク電流の設定値Ipeak、もしくは昇圧電圧印加時間Tpをその分、調整する必要があるが、プリチャージ電流値Icの供給によってバラツキが低減されると、調整幅も小さくてすみ、それだけ制御動作の精度を高められることができ、噴射量の制御精度を向上できる。開弁開始時点での動作が各気筒の燃料噴射装置640ごとに安定すると、弁体114が目標リフトに到達する時点での弁体114の動作が安定するようになり、それによってオーバーシュートを小さくすることが可能になって、噴射量制御の精度を高められるようになる。
図30は、実施例7における手法によって制御する中で、弁体114を目標リフトさせる中での最小噴射量の動作を示している。この動作がオーバーシュートの影響を最も受けやすく、弁体114が目標リフトに到達した直後の時刻T9に閉弁操作を始めた場合、オーバーシュートが大きいと、直ちには閉弁動作に切り替わることができなくなり、開弁信号時間Tiに応じた噴射量にならなくなってしまう。プリチャージによってオーバーシュートが小さくなると、時刻T9で閉弁手順に入った後は、目標リフトで静止した状態から閉弁手順に入った時と同じ動作になり、開弁信号時間Tiが図4−1のケースより短くなったことに比例して、噴射量が低減することになる。
図31は、弁体114を目標リフトに到達させる場合の最小噴射量よりもさらに少ない噴射量を制御的に実現する動作であり、噴射量の低下に応じて開弁信号時間Tiをさらに短縮した動作を示している。前半のプリチャージ電流値Icを供給する期間の動作は、図29、図30と同様であり、電流遮断時間Tcに達した直後に噴射パルス幅Tiが終了するケースがこの動作で、最も噴射量を減らす動作方法になる。時刻T9で逆向きの電圧の印加が行われ、それによって磁気吸引力が低下していくと、弁体114はフルリフトすることなく、放物運動を行い、時刻T12に閉弁動作が完了する。
本実施例では、プリチャージ電流値Icを供給する場合の制御手法と、実施例5の制御手法によって噴射量を絞るやりかたの組合せを説明したが、この他に、プリチャージ電流値Icを供給する制御手法と、実施例4、6の制御手法によって噴射量を絞るやりかたを組合せることも可能である。
本発明における実施例8による制御手法を用いて燃料噴射装置を駆動場合の端子間電圧、駆動電流、可動子に働く駆動力(可動子駆動力と称する)、弁体変位量の関係を図32に示す。また、噴射パルス幅Ti停止後の端子間電圧、駆動電流、可動子駆動力、可動子の変位量と噴射パルス停止後時間の関係を図33に示す。
図32において、図21の実施例5における制御手法との差異は、時刻T13に電圧を印加する動作が加わっている。時刻T13に昇圧電圧VHの印加を開始し、その後設定時間Teに達した時点で、昇圧電圧VHの印加を打ち切ると、弁体114に開弁方向の力が加えられることになり、それまで閉弁方向に加速していた弁体114の動きに減速が加えられることになる。閉弁の動きが減速されると、弁体114が弁座118と接触する瞬間の速度が低下する。弁体114が弁座118と衝突する時の速度が速過ぎると、弁体114がバウンドし、わずかながら弁体114が開弁して、それによってわずかな噴射がなされる場合がある。最小噴射量の低減を図る時は、弁体114のバウンドはない方がよいため、バックパルスの印加により、弁体114のバウンドをなくすことができる場合では、これによって最小噴射量を低減させることが可能になる。
また、バックパルスの印加は、昇圧電圧VHとバッテリ電圧VBを切り替えられるように設定すると良い。バックパルスの印加にバッテリ電圧VBを用いた場合、昇圧電圧VHを用いた場合に比べて、弁体114と弁座118の衝突速度の低減効果は小さくなるが、昇圧電圧VHを用いないため、昇圧回路のスイッチング素子のON・OFF動作による負荷の低減、駆動装置の消費電力を低減とソレノイド105の発熱を低減できる効果がある。
バックパルスを打つ時刻は、閉弁完了時刻T12に合わせて効果的に打つ必要があり、タイミングが早過ぎると閉弁完了時間が間延びして、噴射量が増えてしまう。バックパルスの印加タイミングが遅いと、磁気吸引力による閉弁速度の減速が間に合わず、減速する前に閉弁完了に達してしまう。よって、各気筒の燃料噴射装置640ごとに閉弁完了タイミングを検知し、閉弁完了遅れ時間の個体バラツキを把握すると、各気筒の燃料噴射装置640の個体に応じた最適なタイミングでバックパルスを打つことが可能になり、弁体114の着座時に生じるバウンドを確実になくした上で、閉弁完了時間が増加することがない制御を実現することが可能になる。また、各気筒の開弁遅れ時間の検知情報を用いたバックパルスの印加によって、燃料噴射装置640の個体ごとの弁体114と弁座118が衝突する際の閉弁衝突速度を低減できるため、弁体114と弁座118の金属同士が接触することによって生じる衝突音を小さくすることができる。また、閉弁衝突速度の低減によって、弁体114と弁座117との衝突によって発生するオリフィスカップ116のシート部の摩耗を低減することができるため、耐久劣化でシート部が摩耗し、弁体114が閉弁状態の燃料の漏れ量の増加を抑制できる。耐久劣化による燃料の漏れを小さくすることで、エンジンシリンダ内で漏れた燃料が粗大液滴となり、燃料が気化されにくい状態となり、燃費性能の悪化や、CO(一酸化炭素)、NOx(窒素酸化物)やPM(粒子状物質)またはPN(PMの粒子個数濃度)の増加による排気性能の悪化を抑制することができる。また、燃料の漏れを小さくすることで、エンジン筒内に介在している未燃焼の燃料を低減できるため、次回噴射時の噴射量ばらつきを低減でき、正確な噴射量制御を行うことができる。また、閉弁衝突速度を低減することで、弁体114と弁座118の金属同士の衝突によって生じる閉弁時の駆動音を低減することができるため、燃料噴射装置640で発生する駆動音を低減でき、エンジンの静音化を図ることが可能となる。なお、本実施例によれば、閉弁時の衝突音低減効果と合わせて、閉弁ピーク電流Ipeakに到達後に負方向の昇圧電圧VHを供給することで、目標リフト位置に到達する手前で弁体114を急減速させる効果によって、可動子102と固定コア107の衝突速度を低減でき、開弁時の衝突音を低減できる効果との相乗効果によって、燃料噴射装置640の駆動音を大幅に低減可能である。
次に、図33を用いて、噴射パルス幅Tiを停止してからの端子間電圧、駆動電流、可動子駆動力、可動子変位量と噴射パルス幅Ti停止後の時間の関係を示す。また、図33の可動子変位量に、バックパルスの供給がない場合の可動子102の変位量を破線で記載する。
図33より、可動子102が固定コア107と接触している状態から、噴射パルス幅Tiを停止すると、第2の電圧源から負の方向の昇圧電圧VHが印加され、駆動電流が急峻に立ち下がる。その後、可動子102に働く開弁力が、閉弁力を下回った時刻T11で可動子102が固定コア107から離れ、閉弁動作を開始する。その後、各気筒の燃料噴射装置640ごとに駆動装置に記憶させておいた開弁完了タイミングの情報を用いて、弁体114が弁座118と接触するより前の時刻T14で第2の電圧源から昇圧電圧VHを印加する。このバックパルスを供給するための昇圧電圧VHの印加を終了する時刻15は、弁体114が弁座118と接触した後かつ、可動子102の変位量が最小となる時刻T17の前となるように設定すると良い。このように構成することで、弁体114が閉弁した後も可動子102は運動を継続するが、弁体114が閉弁してから可動子102が下向き方向の運動中の下降運動期間Tuの間に閉弁力を上回る磁気吸引力を適切に与えることができ、可動子102の運動が停止する時刻T18を早めることができる。また、バックパルスを与える期間は、バックパルス印加時間Teで行う場合と、予め駆動装置に与えるバックパルス電流値Ipdに到達した時刻で、パックパルスの印加を停止する方法がある。バックパルスの停止タイミングをバックパルス電流値Ipdで決めることで、昇圧電圧VHの電圧値が変動した場合であっても、可動子102の運動を停止するために必要なエネルギーをソレノイド105に供給することが可能となるため、各気筒の燃料噴射装置640ごとに適切な電流を与えることができる。また、弁体114の閉弁完了時刻T12に到達すると、これまで弁体114を介して可動子に働いていた閉弁力を受けなくなるため、可動子102に働く閉弁力が小さくなる。したがって、開弁力と閉弁力の差分を大きくすることができるため、可動子102のアンダーシュートを抑制することができる。開弁力が、時刻T17を超えて可動子102に働く場合には、バックパルス電流値Ipdを小さくするか、バックパルス電流Ipdを小さくした上で、バックパルス電流Ipdが一定となるように、昇圧電圧VHのスイッチングを行うと良い。1吸排気行程中に複数の噴射を行う多段噴射時においては、バックパルスによる可動子102の運動が停止する時刻T18を早める効果により、2回目の噴射を行うまでの間隔を小さくすることができるため、多段噴射の回数を増加させることができる。また、エンジンでは、吸気行程・排気行程でのピストン位置の制約条件から、燃料を噴射できる期間が限られてくる場合があるが、本実施例における分割噴射間隔を低減できる効果により、1吸気行程中に多段噴射を行う場合において、1回目の噴射量と2回目の噴射量の分割比率を変えたい場合、1回目と2回目の分割比率を例えば8:2のように大幅に変更した時などに有利となり、複雑な噴射量の制御方法の要求に対応できる。また、図33の可動子変位量の破線で記載した通り、バックパルスなしの条件では、弁体114と弁座118の衝突速度が大きいため、閉弁後の可動子102のアンダーシュートが大きくなり、本実施例における可動子102の運動継続期間Tduに比べて、バックパルスなしの運動継続期間Tdu′のほうが大きいため、分割噴射の回数などの性能に制約が生じる。
また、各気筒の閉弁遅れ時間の検知情報に基づいて、バックパルスを印加することで、弁体114が閉弁する際の閉弁衝突速度を低減できるため、閉弁した瞬間の可動子102の運動エネルギーを小さくすることができ、閉弁後の可動子102が弁体114から離間してする時の変位量を小さくできる。この効果により、閉弁後に可動子102が弁体114から離間してから再び弁体114に接触するまでの時間を短縮でき、分割噴射間隔を低減することができるため、一吸排気行程中に複数階の燃料噴射を要求されるような多段噴射を行う場合に有利である。なお、バックパルスの印加は、弁体114が目標リフトに到達しない中間リフトの状態でも弁体114と弁座118の衝突速度を低減できる効果があり、中間リフトによる分割噴射間隔の低減効果と合わせて、多段噴射を行う場合に有利である。中間リフトで駆動する場合、目標リフト位置から閉弁する場合に比べて、弁体114と弁座118との衝突速度が小さいため、弁体114を減速させるために必要な磁気吸引力が小さくなるため、中間リフトの条件では、バックパルスの印加を昇圧電圧VHより低いバッテリ電圧VBから行い、目標リフトから閉弁する際には、バックパルスの印加を昇圧電圧VHから印加できるように構成すると良い。中間リフトの条件でバックパルスの印加をバッテリ電圧VBで行うことで、昇圧回路の負荷を低減することができ、次の噴射要求時の昇圧電圧VHの電圧値を初期の設定値まで復帰させることができるため、ショットごとの噴射量ばらつきを低減することができる。また、弁体114が目標リフトに到達する各気筒の燃料噴射装置の開弁完了タイミングの検知情報を用いて、バックパルスの印加する電圧源を切り替えるように構成すると良い。この効果によって、燃料噴射装置ごとに適切なバックパルスの電圧印加を行うことができるため、分割噴射間隔の低減効果と、噴射量の精度を高めることができる。また、バックパルスを印加すると閉弁完了タイミングの検知感度が低下するので、閉弁完了遅れ時間Tbを検知して、燃料噴射装置640の特性を把握する時は、検知モードとして運転し、バックパルスは打たない動作で噴射を行い、それで閉弁完了遅れ時間を学習した上で、バックパルスを打つ運転モードに切り替えると、より制御精度の高い運用が可能になる。
本実施例における手法で燃料噴射装置を駆動する場合、弁体114が弁座117と接触する際の衝突速度を低減することができるため、弁体114と可動子102が一体となった可動弁の構造を用いる場合に有利である。可動弁を用いた構造では、可動弁が弁座117と接触する際に、可動子102と弁体114が別体の構造と比べて可動子102の質量分大きくなるため、衝突によって可動弁がバウンドしてしまい、意図しない噴射を行う場合があり、このような条件においては、噴射した燃料の粒子形状が大きいために、燃料が気化しにくく排気性能を悪化させる要因となっていた。本実施例の制御手法を用いることで、可動弁を用いた場合であっても、衝突速度を低減する効果によって、意図せぬ燃料の噴射を抑制することができる。可動弁を用いることで、部品点数を低減することができ、燃料噴射装置の構造の簡素化やコスト低減を図ることが可能である。
本実施例の手法によって、噴射量を絞っていくやり方は、実施例5の制御手法と同じになるが、実施例4による制御手法や、実施例6、7における制御手法とバックパルスを打つ実施例8の制御手法を組合せても良い。制御手法を組み合わせる効果により、バックパルスによる閉弁時の駆動音低減と、電流遮断による開弁時の駆動音低減の相乗効果を得ることができる。したがって、燃料噴射装置640の静音化を図ることができ、エンジンの静音性能を向上させることができるため、エンジンに不必要な遮音材や防音材を使用する必要がなくなるため、エンジンのコストを低減することができる。
本発明における実施例9における制御手法ついて、図34を用いて説明する。図17から図20の実施例4における制御手法との違いで述べると、時刻T5のタイミングでソレノイド105に昇圧電圧VHを印加する際、時間Tfの間だけ、昇圧電圧VHを印加することである。時刻T5に至る前までは、ソレノイド105に対する駆動電圧の印加が打ち切られており、それによって磁気吸引力が低下し、閉弁力が磁気吸引力を上回って弁体114が減速状態にあるか、閉弁力と開弁力の差分が小さくなり、弁体114の挙動が不安定な状態になる場合がある。弁体114が目標リフトに到達した時点で弁体114の速度が0でかつ、減速がかかっていると、弁体114は閉弁方向に移動することになるため、弁体114のリフト量が不安定になる可能性がある。よって、弁体114が目標リフトに到達するタイミングでは磁気吸引力と閉弁力はある程度近い状態もしくは磁気吸引力が閉弁力を上回っている状態になっている必要があり、そのためにバッテリ電圧VBを印加して磁気吸引力を発生させる場合に比べ、昇圧電圧VHを印加して磁気吸引力を発生させると、磁気吸引力の立ち上がりが早まり、その分、電圧の印加タイミングが遅くて済み、弁体114が目標リフトに達するタイミングに近付く。これにより、弁体114を目標リフトの状態に滑らかに着地してオーバーシュートを小さくする制御の時間精度が高まり、オーバーシュートをより小さくすることが可能になり、また、可動子102と固定コア107の衝突速度の低減と開弁後の弁体114の安定性向上を両立させることが可能となる。
実施例9における手法は実施例4の制御手法と組合せて使える他、実施例5から8の制御手法と組合せて使うことも可能である。
本発明における実施例10の制御手法によって燃料噴射装置640を駆動した場合の端子間電圧、駆動電流、弁体駆動力、弁体変位量と時間の関係を図35に示す。図35において、実施例4の制御手法との差異は、昇圧電圧VHの印加を打ち切った時刻T3で同時に逆向きの電圧が印加されるようにスイッチ操作をするのではなく、一旦印加電圧が0になるよう時間Tgを設ける。この設定時間Tgが過ぎた後で、負の方向の昇圧電圧VHが印加されることを特徴とする。駆動方向に昇圧電圧VHを印加することは弁体114の動きを加速する操作であり、逆向きに電圧を印加することは弁体114の動きを減速させるための操作である。その間に、印加電圧を0にする時間帯を設けることは、弁体114を等速運動させるための操作に近く、一定速度で弁体114をリフトさせるのに効果的である。この操作によって弁体114の動きが安定すると、弁体114が目標リフトに達する時に生じるオーバーシュートを低減するための制御がやり易くなる。本発明の実施例10における制御手法は実施例4の制御手法と組合せて使える他、実施例5から9の制御手法と組合せて使うことも可能である。
本発明における実施例11は、実施例1乃至10に記載した燃料噴射装置及びその制御方法をエンジンに搭載した例を示す実施例である。
図36は、筒内直接噴射式のガソリンエンジンであり、燃料噴射装置A01A乃至A01Dはその噴射孔からの燃料噴霧が燃焼室A02に直接噴射されるように設置されている。燃料は燃料ポンプA03によって昇圧されて燃料配管A07に送出され、燃料噴射装置A01に配送される。燃料圧力は燃料ポンプA03によって吐出された燃料量と、エンジンの各気筒に供えられた燃料噴射装置によって各燃焼室内に噴射された燃料量のバランスによって変動するが、圧力センサA04による情報に基づいて所定の圧力を目標値として、燃料ポンプA03からの吐出量が制御されるようになっている。
燃料の噴射はECUエンジンコントロールユニット(ECU)A05から送出される噴射パルス幅によって制御されており、この噴射パルスは燃料噴射装置の駆動回路A06に入力され、駆動回路A06はECUA05からの指令に基づいて駆動電流波形を決定し、前記噴射パルスに基づく時間だけ燃料噴射装置A01に前記駆動電流波形を供給するようになっている。
なお、駆動回路A06は、ECUA05と一体の部品や基板として実装される場合もある。
ECUA05および駆動回路A06は、燃料圧力や運転条件によって駆動電流波形を変更できる能力を備えている。
このようなエンジンにおいて、ECUA05が実施例1乃至9記載のように、燃料噴射装置A01の開弁および閉弁の動作を検知する能力を有する場合に、エンジンの制御を容易に行ったり、燃費や排気を低減したり、あるいは気筒間の燃焼圧のばらつきを低減してエンジンの振動を抑えたりする方法について述べる。
図36に記載したエンジンに用いるECUA05では、燃料噴射装置A01A乃至A01Dから噴射される燃料量が、ECUA05が要求する値に近づくように、燃料噴射装置A01の噴射パルス幅が補正されるようになっている。すなわち、多気筒エンジンにおいては、気筒毎にそれぞれ補正された異なる幅の駆動パルスが、それぞれの燃料噴射装置に与えられる。
例えば、同じ指令パルス幅を与えた時に燃料を多く噴いてしまう燃料噴射装置に対しては短いパルス幅を与えて駆動し、同じパルス幅を与えた時に燃料を少なめに噴射する燃料噴射装置に対しては長いパルス幅で駆動する。このような補正を、各気筒毎に行う運転モードを持つことによって、気筒間の燃料噴射量のばらつきを抑制することができる。
更に、図36に記載したECUA05では、各気筒の燃料噴射装置A01A乃至A01Dに供給される駆動電流は、各燃料噴射装置ごとに調整された波形として供給されるようになっている。
それぞれの電流波形は、それぞれの燃料噴射装置A01A乃至A01Dの弁の挙動が、開弁時の跳ね返り挙動が減殺されるように設定されており、この結果、噴射パルス幅と噴射量の関係が直線に近づくパルス幅の範囲が広くなるように設定できる。
例えば、開弁時の跳ね返り挙動の減殺のために、駆動波形のうち昇圧電圧源から通電される時間を、それぞれの燃料噴射装置の開弁タイミングに合わせて調整し、開弁の途中で昇圧電源からの通電が打ち切られ、弁が減速するように設定する。例えば、ある電流波形を与えた時に早く開弁する燃料噴射装置に対しては昇圧電源からの通電打ち切りタイミングを早めて、遅く開弁する燃料噴射装置640に対しては昇圧電源からの通電打ち切りタイミングを遅く設定する。
このように、昇圧電源からの通電を打ち切って開弁動作を減速させるような駆動波形を用いることで、微小噴射量の領域での噴射パルス幅Tiの変化に対する噴射量の変化を小さくすることができ、噴射パルス幅Tiによる噴射量の補正を行い易くなる効果もある。
このように弁体114が減速する駆動電流波形を、気筒の燃料噴射装置の開弁タイミングの変動に合わせて与えることで、各気筒の燃料噴射装置に適する電流波形を与えられるようになり、噴射パルスと噴射量の関係が直線的になる範囲を増大させることができる。
また、駆動波形のうち開弁状態を保持するための通電電流値(保持電流値)を各燃料噴射装置の閉弁タイミングに応じて調整するとよい。燃料噴射装置をある駆動電流波形で駆動した場合に得られる閉弁タイミングが遅い場合には、前記保持電流値を小さく設定し、閉弁タイミングが早い場合には前記保持電流値を相対的に大きく設定する。このように、駆動電流波形のうち保持電流値を燃料噴射装置の状態に合わせて設定することで、余剰な電流値を与えることを防ぐことができる。余剰な電流値を与えないようにすることで、噴射パルス幅が小さい時に閉弁の応答遅れ時間を小さくすることができ、噴射パルス幅と噴射量の関係が直線となる噴射量の範囲を、小さい側に拡大することができる。
このように、ECUによって駆動電流波形や駆動パルス幅を各燃料噴射装置に対して調整して与えるようなエンジンにおいては、各燃料噴射装置の製造ばらつきや状態に応じて駆動電流波形や駆動パルスを与える必要があり、そのために各燃料噴射装置の状態として、開弁および閉弁のタイミングをECU05Aが読み取る。
各燃料噴射装置の開弁および閉弁のタイミングを読み取る場合には、開閉弁のタイミングを検知し易い駆動電流波形で各燃料噴射装置を運転すると良い。しかしながら、検知を行い易い駆動電流波形では、噴射パルス幅と噴射量の直線的な関係を、必ずしも広くすることができない場合がある。
このため、燃料噴射装置の状態を読み取るための駆動電流波形を設定する動力を、ECU05Aが有しているとよい。例えば、エンジンが始動後の暖気中など、噴射量が必ずしも最小でなくてもよいシチュエーションで、弁体114の挙動を読み取るための駆動電流波形を用いて、接続されている各気筒の燃料噴射装置の開・閉弁完了タイミングを検知し、ECU05A内のメモリに記録しておく。
この記録情報に基づいて、ECU05Aは各気筒に与える駆動電流波形や駆動パルス幅を調整することで、より少ない噴射量まで制御して噴射することが可能になる。
このように、燃料噴射装置の状態を読み取るための駆動波形を設定し、特定のエンジン運転状態で燃料噴射装置の状態を記録しておくことで、噴射量の補正を可能にして、制御可能な最小噴射量を低減することができる。また、このような学習を行う方法では、燃料噴射装置の経時劣化の状態もモニタすることができるようになり、したがって燃料噴射装置の動作が経時劣化によって変化したとしても、制御可能な噴射量の最小値を小さく保つことができるようになる。
なお、特定のエンジン運転状態としては、エンジン始動後の暖気中の他に、アイドリング中、エンジン始動プロセスの間や、エンジンキーオフ後の数サイクルなど、ECU05Aからの指令で回転数や負荷を調節でき、噴射量が著しく小さくない状態が、実施容易な期間である。
また、このように燃料噴射装置の開弁および閉弁のタイミングをECU内のメモリに記録して、噴射パルス幅や駆動電流波形の補正を各気筒の燃料噴射装置ごとに行う方式の場合であっても、更に各噴射毎に弁動作のタイミングを検知して、ECUからのパルス幅指令値に反映させるとよい。特に、閉弁動作である閉弁完了タイミングの検知を燃料噴射装置のソレノイド105の端子間電圧や、ソレノイド105の接地電位(GND)側端子と接地電位との電位差を検出して行う場合には、検知専用の波形を用いなくともこれを検知することができるので、毎回の燃料噴射ごとに閉弁完了タイミングの検知を行うことができる。この検知結果を次回の噴射時の噴射パルス幅Tiにフィードバックすることにより、燃料噴射量の制御精度をより向上させることができるとともに、エンジンの温度や振動などによる燃料噴射装置の動作の変化を補正できるようになる。
このようにして、より小さい噴射量まで制御して内燃機関で用いることができるようになる結果、より小さい噴射量まで制御して燃料噴射を行わせることができるようになり、例えば、アイドルストップなどの燃料カットからのリカバリなどの低負荷時における燃焼を可能にして、エンジンとしては低燃費にし易くなる。また、A/Fを目標値に近づけられるようになるので、排気中に含まれるHCやNOxなどのガスを抑制することができる。更に、燃料噴射量が小さくなることで、低負荷域において、エンジンの1行程中に噴射する燃料を、複数回に分割して噴射することができるようになり、この結果噴霧の貫徹力を減殺したり、混合気を形成する制御を行い易くして、燃焼室壁面に付着する燃料が抑制され、PM(粒子状物質)やPN(PMの粒子個数濃度)の一部であるすすの排出低減に繋げることができる。
本発明における実施例12について説明する。本実施例における手法においては、燃料噴射装置の出荷段階で、2次元バーコードまたは記憶メモリを持ったチップに燃料噴射装置640の個体情報を初期情報として与え、駆動装置で燃料噴射装置ごとの個体情報を読み取り、要求噴射量に対する噴射量の乖離値を算出式し、駆動電流と噴射パルス幅を各気筒の燃料噴射装置ごとに補正することで、噴射量の個体ばらつきを低減することができる。
本発明における実施例12において、燃料噴射装置640の初期情報としては、燃料噴射装置640を製造するための量産ラインで測定した開・閉弁完了のタイミングおよび、弁体114の変位量とオリフィスカップ116の部品単体で測定した単位時間当たりの流量と燃料噴射装置640を組み立てた段階での単位時間当たりの流量を与えると良い。
駆動装置で読み取った開弁完了タイミングの情報を用いて、ピーク電流値Ipeakと、電流遮断期間T2を調整する。開弁完了タイミングは、燃料噴射装置の個体ごとに異なるが、開弁完了タイミングから予め駆動装置に設定する電流遮断タイミングの時間が一定となるように、各気筒の燃料噴射装置ごとにピーク電流値Ipeakを設定すると良い。また、本実施例における手法は、実施例4から10における手法と組み合わせて用いることができる。初期情報として燃料噴射装置の個体情報を把握しておくことで、初期の検知を行う必要がなく、燃料噴射装置の個体ごとに適切な電流波形と噴射パルス幅を与えることができ、劣化による弁動作の変化を開・閉弁完了タイミングの検知情報を利用して補正することで、噴射量の時系列変化を抑制することができる。また、中間リフトでは、開弁完了タイミングの検知を実施して、次の噴射以降の噴射パルス幅もしくは、ピーク電流値Ipeakを補正することで、精度良く噴射量を制御することができる。
また、初期情報を利用する場合に当たっては、セットスプリング110の荷重の調整による噴射量の補正は行わない場合もある。セットスプリング荷重110によって噴射量の補正を行わないことで、スプリング110の荷重が一定となり、弁体114の開弁開始タイミングの個体ばらつきは小さくなる。一方で、可動子102に設けた突起の高さの寸法公差の変動によって、弁体114が目標リフト位置から閉弁する際のスクイーズ力が燃料噴射装置640の個体ごとにばらつき、噴射パルス幅Tiを停止してから弁体114が閉弁するまでの閉弁完了タイミングが大きく変動する。このような構成とすることで、弁体114を中間リフトの条件で駆動する際の開弁開始タイミングの変動を抑制することができるため、各気筒の燃料噴射装置ごとの燃料が噴射開始されて噴射が完了するまでのタイミングのずれを小さくすることができるため、燃焼安定性や、噴霧の到達距離が関係するような多段噴射時における排気性能を向上させることができる。一方で、弁体114が目標リフトに静止状態から噴射パルス幅Tiを停止して、弁体114を閉弁する際の閉弁完了タイミングは、大きくことなるため、初期情報として与えておいた閉弁完了タイミングの情報を用いて、ピーク電流値Ipeak、駆動電圧遮断時間Tc、保持電流Ihを個体ごとに調整すると良い。保持電流Ihで弁体114が目標リフトに到達する条件では、保持電流Ihを増加させると磁気吸引力が大きくなるため、閉弁に要する時間が増加し、閉弁完了タイミングが遅くなって、閉弁遅れ時間を増加させることができる。また、保持電流Ihを減少させると磁気吸引力が小さくなるため、閉弁に要する時間が減少し、閉弁完了タイミングが早くなって、閉弁遅れ時間を減少させることができる。
本実施例13は、実施例1から11に記載した制御方法を、図37に示すように、燃料噴射装置の弁体3702と磁気吸引力によって作動する可動子3705および3704が分離している燃料噴射装置に適用した場合を示す実施例である。図37に示す燃料噴射装置において、可動子3705および3704と弁体3702がともに静止している閉弁状態での駆動部の拡大図を図38に示し、可動子3705および3704と弁体3702が目標リフト位置で静止している開弁状態での駆動部の拡大図を図39に示す。図38、図39において、図37と同様の部品については、図37と同じ記号で記載する。また、実施例1に記載の一般的な燃料噴射装置を用いた場合の弁体変位量と本実施例の燃料噴射装置を用いた場合の弁体変位量と時間の関係を図40に示す。図40の弁体変位量には、実施例1の燃料噴射装置の弁体変位量を点線で示し、本実施例における燃料噴射装置の弁体変位量を実線で示している。
図37に示した燃料噴射装置では、弁体3702が閉弁状態から開動作を開始するより前のタイミングで、可動子3705が開弁方向の運動を予備的に行い、また弁体3702が開弁状態から閉じ動作を開始するより前のタイミングで、可動子3704が閉弁方向の運動を予備的に行えるようになっている。
すなわち、閉弁状態においては、可動子3704はばね3706によって閉弁方向に付勢されており、この可動子3704が弁体3702と可動子3705を閉弁方向に付勢して静止している。ここで、可動子3704は第二のばね3712によって開弁方向に付勢されており、弁体3702と可動子3704は離間した状態で静止している。このため、ソレノイド105に電流が供給され、可動子3704が磁気吸引力によって運動を開始しても、弁体3702は静止したままである。弁体3702は、可動子3704と接触した後に、開動作を開始する。
また、図39に示した開弁状態においては、可動子3704と可動子3705の双方が固定コア107に吸引された状態にあり、弁体3702は可動子3704との接触によって開弁状態を維持するようになっているが、可動子3704と可動子3705は離間した状態にあり、隙間3901を有している。この状態でソレノイド105への電流の供給が打ち切られると、磁気吸引力が減少することによって可動子3705が閉弁方向に運動を開始する。しかし、より広い面積で固定コア107と対面している可動子3704は、残留する磁気吸引力やスクイーズ効果などの流体抵抗力によって、即座には閉弁動作を行うことができない。また、スプリング110による荷重は、開弁状態においては、可動子3705のみに働くため、可動子3704よりも先に可動子3705が閉弁動作を開始する。可動子3705が予備的に先行して閉弁方向の運動を開始し、可動子3704に衝突することによって、可動子3704は素早く閉弁を行えるようになる。
このような機構を有する燃料噴射弁において、実施例1乃至11に記載の駆動装置および制御方法によって、弁体3702の動作を駆動電流波形やソレノイド105の端子間電圧もしくは、ソレノイド105の接地電位(GND)側端子と接地電位(GND)との間の電位差より検出する閉弁完了タイミングの検知情報を用いて行うと、より精密な噴射量の制御が可能になる。
可動子3704が開弁時に予備的動作を行うことによって、弁体3702が実際に動き始める前に可動子3704が速度を有することができ、したがって弁体3702と可動子3704が開弁動作時に衝突すると、可動子3704の動作は急激に減速し、加速度が変化する。この加速度の変化は、ソレノイド105に供給される電流の変化として読み取ることができ、燃料噴射装置に接続されるECUは、弁動作の開始時期を検知することができるようになる。このように、開弁動作時に可動子が予備的動作を行える燃料噴射装置では、弁動作の開始時期を検知できるため、1回の噴射行程の中で検知した弁動作の開始時期の情報をフィードバックして弁動作を制御できるようになる。このようにして制御した燃料噴射装置では、燃料圧力や噴射量などの条件が変わった場合や、その過渡的な状態の中にあって、弁動作に機械的にばらつきを有している燃料噴射弁を用いた場合においても、所望の開・閉弁遅れ時間で動作させることができる。
また、図40より、可動子3704が開弁時に予備的動作を行うことによって、弁体3702が可動子3704の運動エネルギーを受けて、4003に示すように急峻に開弁することで、可動子3704と固定コア107の間のギャップが急峻に変化し、磁気回路に発生する誘導起電力も大きく変化する。したがって、実施例1、2、3に記載の燃料噴射装置の開弁完了タイミングの検知時において、開弁完了したときの電流の変化が顕著となるため、開弁完了タイミングも検知し易い。
また、閉弁動作時においても、弁体3701が閉弁動作を開始する前に可動子3704が予備的に動作を開始し、可動子3705は可動子3704の衝突によって閉弁動作を開始するため、その瞬間の加速度が大きい。このため、可動子3704の動作開始の瞬間は、燃料噴射弁のソレノイド105の端子間の電圧か、もしくはグラウンドを基準とした端子のいずれかの電位の変化として読み取ることができる。また、実施例1の燃料噴射装置に比べて、可動子3705が可動子3704の衝突によって閉弁動作を開始するため、閉弁完了タイミングも相対的に早くなる。したがって、実施例1の燃料噴射装置に比べて、開弁完了タイミングでの磁気回路の内部に残留している磁気吸引力が大きくなり、その結果として端子間電圧に発生する誘導起電力も大きくなるため、可動子3704が可動子3705から離間することによる可動子3704の加速度の変化を端子間電圧の2階微分値の最大値もしくは、電圧VLの2階微分値の最小値で検知しやすくなり、検知誤差が相対的に小さくなるため、精度良く噴射量を制御することが可能となる。
このように、本実施例13における予備的動作を行う可動子の構成の燃料噴射装置に、実施例1、2、3の駆動装と制御方法および、実施例4から11の制御方法を用いることで、弁体3702の開閉弁動作の開始タイミングを検知し易くなる。これらの、動作の開始タイミングをフィードバックすることで、よりばらつきを抑えた弁動作を行わせることができるようになり、また1回の噴射の中でのフィードバックを行わせることもできるようになる。
本発明における実施例14について、図41から図43を用いて説明する。図41は、実施例14における駆動装置の構成を示した図である。図41において、図6および図15と同じ部品については同様の記号を用いる。また、図42は、噴射パルスをOFFしてからの駆動電流、弁体変位量、燃料噴射装置640のHiサイド基準の端子間電圧VHL、燃料噴射装置640のHiサイド端子間と接地電位(GND)の間の電圧VHと燃料噴射装置640の接地電位(GND側端子と接地電位(GND)との間の電圧VLと時間の関係を示した図である。図42のVHL、VH、VLには、コンデンサ4150、4151の容量を現大きくしたときの電圧を破線で示す。また、図43は、図41の駆動装置のマルチプレクサ4101の詳細を示した図である。実施例14における図14の駆動装置と実施例3との差異は、燃料噴射装置640のHiサイド側(電圧側)、接地電位(GND)側にそれぞれ入力電圧および出力電圧の信号を、サージ電圧や、ノイズから保護するためのコンデンサ4150、4151を設け、燃料噴射装置640の下流にコンデンサ4150と並列に抵抗器4152を設け、燃料噴射装置640の接地電位(GND)側の端子とアナログの微分回路1501との間にマルチプレクサ4101を設ける点である。
最初に、図41を用いて実施例14における駆動装置の構成について説明する。実施例14における方法では、燃料噴射装置640のHiサイド側(電圧源側)、接地電位(GND)側それぞれにコンデンサ4150、4151を設けることで、燃料噴射装置640のソレノイド105の入力電圧および出力電圧の信号に、サージ電圧に伴う電流やノイズが発生した場合、ソレノイド105ではなく、コンデンサ4150、4151に電荷が蓄積されるため、サージ電圧に伴うサージ電流やノイズの影響からソレノイド105を保護することが可能となる。また、抵抗器4152をコンデンサ4150と並列に配置することで、噴射パルスTiをOFFにして、電流が0Aとなった後に、燃料噴射装置640の接地電位(GND)側の経路で、抵抗4152にリーク電流が流れることができるため、弁体114が弁座118と接触した瞬間に、可動子102が弁体114から離間することによる可動子102の加速度の変化を、電圧VLで安定して検出することができ、閉弁完了タイミングの検知精度を向上させて、噴射量の精度を向上させることが可能である。
次に、図42を用いて、実施例14における駆動電流、弁体変位量、電圧VHL、電圧VH、電圧VHと噴射パルス停止後の時間の関係について説明する。噴射パルスがOFFになると、燃料噴射装置640のソレノイド105に誘導起電力が発生し、負の方向の昇圧電圧VHまで、燃料噴射装置640のHiサイド基準の端子間電圧VHLの電圧値が急激に立ち上がり、この電圧は、コンデンサ4152に蓄積される。ソレノイド105に供給される駆動電流の電流値が0となるタイミングt421以降に、コンデンサ4151、4152に蓄積された電荷が放電され、電圧VHにわずかに電圧4201が生じ、電圧VLは、4202に示すように急峻に立ち下がる。その後、電圧VHLが0となるタイミングt422に到達すると、それ以降は、電圧VHL、電圧VLともに緩やかに減少し、弁体114が弁座118に衝突して可動子102が弁体114から離間する閉弁完了タイミングt423で電圧VHL、電圧VLのそれぞれに可動子102の加速度の変化に伴う折れ曲がり4203、4204が生じる。以上で説明した条件においては、電圧VHL、電圧VLで閉弁完了タイミングを検知することが可能である。一方で、図中に破線で示したように、コンデンサ4150、コンデンサ4151の容量が大幅に大きいと、閉弁完了タイミングt423で電圧VHが残留しているために、電圧VLで閉弁完了タイミングを検知することはできないが、その一方で弁体114が弁座117と接触して可動子102が弁体114から離間したときの可動子102の加速度の変化を電圧VHの折れ曲がり4205を検出することで、閉弁完了タイミングt423として検知できる。また、電圧VHと電圧VLの和が電圧VHLとなるため、ソレノイド105の両端電圧である電圧VHLを検出していれば、コンデンサ4150、4151の容量に依存せずに閉弁完了タイミングの検知ができるため、回路の設計が容易になるメリットがある。
また、電圧4201のプロファイルは、コンデンサ4501からのリーク電流とソレノイド105の誘導起電力の大小関係によって決まる。誘導起電力の大きさは、磁気回路のインダクタンス、抵抗や、磁気ギャップの変化の仕方によっても変化するため、燃料噴射装置640の仕様ごとに、コンデンサ4150、4151、抵抗4152の値を調整することで、開・閉弁完了タイミングの検知精度を向上させることができ、噴射量の正確な制御が可能となる。
噴射パルスTiをOFFしてからソレノイド105に流れる駆動電流の電流値が0Aとなるタイミングt421までの時間T421と、噴射パルスTiをOFFしてから電圧VHLが0となるタイミングt422までの時間T422の2つのパラメータによって、回路の磁定数t(T421-T422)=C・Rが決まる。閉弁完了タイミングをVL電圧で検知するため、回路の磁定数tが、噴射パルスTiをOFFにしてから閉弁完了タイミングt423までの時間T423よりも小さくなるように、コンデンサ4150、4151の容量と抵抗4152の値を調整すると良い。
次に、本発明の実施例14における開弁完了タイミングの検出方法について説明する。開弁完了タイミングでは、駆動装置のスイッチ607およびスイッチ606がONとなり、スイッチ605がOFFとなっているため、電流検出用に設けた抵抗613および抵抗608の両端の電圧をIC602で検出することができる。
また、開弁完了タイミングを検知するための電圧の検出をアナログ回路で行う場合には、燃料噴射装置640の接地電位(GND)側の端子とアナログの微分回路1501との間にマルチプレクサ4101を設けるとよい。マルチプレクサ4101は、CPU601の端子A0、A1、A2、ENに接続されており、CPU601からの信号で入力X1とX2を切り替えることが可能である。開弁完了タイミングを検知する際には、抵抗608の両端電圧を測定する必要があるため、CPU601からの信号A0、A1、A2を用いて、マルチプレクサ4101の入力X1をOFFとし、入力X2をONにする。また、閉弁完了タイミングを検知する場合には、スイッチ606がOFFとなっているため、燃料噴射装置640の接地電位(GND)側端子と接地電位(GND)との電位差を見る必要があり、CPU601からの信号A0、A1、A2を用いて、マルチプレクサ4101の入力X2をOFFとし、入力X1をONにする。マルチプレクサ4101を用いることで、1つのアナログの微分回路1501で開・閉弁完了タイミングを検知することができ、燃料噴射装置のコストを低減し、回路の大きさをコンパクトにすることが可能となる。
次に、図43を用いて図41の駆動装置におけるマルチプレクサ4101の詳細について説明する。4気筒エンジンの場合、マルチプレクサ4101には、開・閉弁完了タイミングを検知するためのX1、X2が各気筒の燃料噴射装置640ごとに入力される8入力1出力の構成となる。マルチプレクサ4101では、CPU601の端子ENからの信号によって、マルチプレクサ4101をイネーブルまたはディスエーブルにすることができ、ディスエーブルの状態では、すべての入力チャンネルがOFFに切り替わる構成とするとよい。CPU601に端子ENを設けることで、開・閉弁完了タイミングを検知しない条件においては、マルチプレクサ4101を使用する必要がないため、CPU601のEN端子をディスエーブルにして回路の消費電力を低減することが可能となる。
また、マルチプレクサ4101には、マルチプレクサ4101の各スイッチを制御するためのA0、A1、A2の3ビットの2進数のデータを、各スイッチS1からS8を選択するための10進数の信号に変換するDECORDERを設けると良い。マルチプレクサ4101を制御するための信号A0、A1、A2の3ビットの信号では、8つのデータパターンを構築することができ、例えば、4気筒エンジンにおいては、第1気筒から第4気筒の燃料噴射装置640の噴射タイミングが重ならないために、第1気筒から第4気筒の燃料噴射装置640の開・閉弁完了タイミングが異なることで、入力X1、X2それぞれを1つのマルチプレクサ4101でデータ処理することが可能である。本実施例における方法によれば、1つのマルチプレクサ4101と1つのアナログの微分回路1501で各気筒の開・閉弁完了タイミングを検知することができるため、駆動装置のコストの低減と回路の大きさをコンパクトにできるメリットがある。
また、マルチプレクサ4101からの出力信号は、アナログの微分回路1501を2つとコンパレータを通して、CPU601もしくはIC602のI/Oポートに入力すると良い。コンパレータを介してCPU601もしくはIC602に入力された電圧は、噴射パルス幅のON、OFFをトリガーとしてある一定期間の信号のみを開・閉弁完了タイミングの判定に使用すると良い。このような構成とすることで、スイッチS1からS8がONになった瞬間に電圧の微分値が大きくなり、開・閉弁完了タイミングを誤検知してしまう可能性を低減することができ、開・閉弁完了タイミングをより正確に検知し、検知のロバスト性を向上させることができ、噴射量の正確な制御が可能となる。
また、弁体114が弁座117と接触し、可動子102が弁体114から離間するときの可動子102の加速度の変化を検知するために、端子間電圧Vinjの2階微分値が最大値もしくは燃料噴射装置640の接地電位(GND)側の端子と接地電位(GND)との間の電圧VLの2階微分値が最小値となる時間を検知する必要がある。端子間電圧Vinjの2階微分値の最大値もしくは、電圧VLの2階微分値の最小値は、3階微分が0を超えるもしくは0を下回るタイミングと一致するため、開弁完了タイミングを検知するための電圧の3階微分値と微分の階数が一致する。このような構成においては、開・閉弁完了タイミングを検知するために必要なアナログの微分回路1501を同様の構成で使用することができ、駆動装置のコストを低減することが可能である。
また、開弁完了タイミングと閉弁完了タイミングを検知するための電圧の微分の階数が異なる場合には、開弁完了タイミングと閉弁完了タイミングを検知するためにそれぞれ2つのマルチプレクサを設け、微分の階数が同一の部分を併用して使用することで、部品点数の増加を最小限に抑制することが可能となる。なお、電圧の微分の階数がことなる場合であっても、電圧の1階微分処理を行うアナログの微分回路1501は共通に使用することができる。
また、可動子102の変位に伴う誘導起電力の大きさや、ソレノイド105の仕様、磁気回路の寸法によって、一定電圧を供給する区間における電流のプロファイルが変化し、可動子102のギャップ縮小に伴って電流は減少するが、可動子102がフルリフト後の電流の増加が小さいために、電流の1回微分値が0を超える閾値で判定することが難しい場合がある。この場合、アナログの微分回路1501の出力端子とCPU601もしくはIC602との間に、アナログの微分回路1501の構成の微分器を2つ配置し、この出力電圧とCPU601もしくはIC602との間にコンパレータを設けて、電流の3階微分がコンパレータの参照電圧を越えたタイミングを開弁完了タイミングとして判定することで、燃料噴射装置640の構成や仕様によらず、安定して開弁完了タイミングを検知することができ、噴射量の制御がより容易になる。
また、CPU601、IC602には、センサー信号からの電圧を入力するためのA/DコンバータとI/Oポート(インターフェース)を複数有している。一般的に、A/Dコンバーターに比べて、電圧を0か5Vかを判別し、その状態を読み取るI/Oポートの方が原理的に時間分解能が高い。したがって、本発明における実施例14における駆動装置において、コンパレータから出力された信号が0Vか5VかをIC602もしくは、CPU601で検出することで、精度良く開・閉弁完了タイミングを検知することができ、噴射量の正確な制御がより容易になる。また、検出した電圧信号をアナログの微分回路1501を介することで、アナログの微分回路1501の入力信号に対する出力信号は、アナログの微分回路の時定数τ1だけ時間遅れが発生する。時定数τ1は、アナログの微分回路1501の回路定数によって決まり、コンデンサC1、C2、抵抗R1、R2の値を変更して調整することができる。したがって、アナログ回路1501のコンデンサC1、C2、抵抗R1、R2の値がきまった段階で、時定数τ1を予めCPU601もしくは、IC602に与いて、検出電圧によって検知した開・閉弁完了タイミングを時定数τ1による遅れ分だけ補正することで、開・閉弁完了タイミングの検出精度を高めることができる。
また、検知した開弁完了タイミングに基づいて各気筒の燃料噴射装置640ごとにピーク電流値Ipeakや駆動電圧遮断時間Tcを決めることで、可動子102と固定コア107の衝突速度を大幅に抑制することができる。また、可動子102が目標リフトに達するタイミングと、可動子102が減速するタイミングとの間の期間を一定に保つことができ、可動子102と固定コア107の衝突速度の個体ばらつきを低減することができるため、可動子102と固定コア107の衝突部にかかる応力の変動幅を低減できる。その結果、耐久劣化による可動子102と固定コア107の衝突面に設けることがあるクロムメッキの摩耗や、磁性材の変形を抑制することができ、目標リフトの耐久変化や、開弁状態での可動子102と固定コア107の流体隙間の変化に伴うスクイーズ力の耐久変化を最小限に抑えることができるため、噴射量の劣化によるばらつきを低減でき、噴射量の精度を高めることが可能である。また、可動子102と固定コア107の衝突による応力は、衝突面ではなく、衝突面から拡散した応力波が集中する金属の内部で最大値となるため、可動子102と固定コア107の衝突速度が大きいと、メッキ層ではなく、メッキ層と母材の境界面が剥がれる場合や、可動子102と固定コア107の母材が変形する場合がある。本実施例における手法によれば、メッキ層と母材の境界面の剥がれや母材の変形、摩耗を低減することができるため、燃料噴射装置640の信頼性を高めることができる。
また、可動子102と固定コア107の衝突面の摩耗および変形を抑制することで、耐久劣化による開・閉弁完了タイミングの変化が小さくなるため、開・閉弁完了タイミングを検知する頻度を少なくでき、駆動装置の計算負荷を低減することができる。また本実施例によれば、可動子102と固定コア107の衝突速度を実質的にかぎりなく0m/sに近い値まで抑制できるため、衝突の際の衝撃力が減少し、衝突部にかかる応力が大幅に低減できる。この効果によれば、可動子102と固定コア107の衝突面に処理することがあるメッキの形成をする必要がないため、燃料噴射装置640のコストの低減を図ることができる。また、メッキ処理では、メッキを形成したい面に電極を用いて正電し、メッキの層を形成する場合が多く、可動子102の衝突面に設けることのある突起や、可動子102の外径などの鋭い角部には、メッキの膜が厚くなり、バリが出やすい。従って、可動子102の上部に突起を設けるような複雑な形状では、メッキの膜厚がばらつき易く、可動子102と固定コア107の流体隙間の管理が困難になる場合がある。本発明の実施例14における方法によれば、可動子102と固定コア107に設けることがあるメッキ処理を無くすことができ、流体隙間の公差幅を小さくすることが可能となるため、噴射量の精度を高めることが可能になる。
衝突面に施すことが多い硬質クロムメッキでは、磁気を帯びないため、透磁率は真空の透磁率4π×10-7[H/m]に近い値となり、クロムメッキの厚さだけ磁気回路の磁気抵抗が大きくなり、磁気回路に発生可能な磁束数が減少し、その結果、磁気吸引力が減少する。したがって、クロムメッキを無くすことにより、メッキの厚さ分だけ可動子102の磁性材と固定子107の磁性材の間の距離を縮小することができ、磁気吸引力を高めることが可能となり、燃料噴射装置640の駆動可能な燃料圧力を向上させることができる。また、この効果によって、ソレノイド107に電流を供給してから可動子102に磁気吸引力が作用して、可動子102と共動する弁体114が目標リフトに到達するまでの時間が短縮でき、目標リフトに到達するまでに噴射する燃料の噴射量を低減することができるため、制御可能な最小噴射量を小さくすることができる。
また、1回の噴射量を複数回に分割する分割噴射では、エンジンの回転数によって決まるある一定の時間内に複数回の噴射を行う必要性がある。磁気吸引力が大きくなる効果によって、開弁開始タイミングが早くなり、分割噴射間隔を低減でき、分割噴射の回数を増やすことができるため、噴射燃料と空気との均質度向上と燃料のピストン壁面への付着を抑制し、PMおよびPNを低減することが可能となる。とくに本実施例における手法は、実施例13の燃料噴射装置と組み合わせる相乗効果によって、分割噴射間隔の低減および、分割噴射回数を増加効果が高まる。
また、本発明における実施例14における手法によれば、各気筒の燃料噴射装置640もしくは図37における燃料噴射装置の開弁完了タイミングの検知情報を用いて、各気筒の燃料噴射装置ごとに適切な減速タイミングを制御することが可能となり、その結果として、可動子102が固定コア107に衝突する際の速度の絶対値とその変動を小さくすることができるため、衝突によって生じる燃料噴射装置640の駆動音と駆動音の変動幅を抑制することができ、燃料噴射装置640の静音性を高めることができる。また、可動子102と固定コア107の衝突によって発生する駆動音は周波数帯が高いため、Weber-Fechnerの法則により聴感で大きく聞こえやすい。一般的に可動子102が固定コア107に衝突する際の速度が大きい場合には、駆動音が大きく、音の周波数帯域が高い。本実施例における手法によれば、 可動子102が固定コア107に衝突する際の速度を低減する効果によって、駆動音の低減と周波数帯の低減の効果が得られるため、聴感での静音性を高めることができる。また、燃料噴射装置640の聴感での静音性を高めることによって、エンジンの防音材(静音材)を低減でき、エンジンシステムとしてのコストを低減することが可能である。
なお、本発明の実施例14における駆動装置は、実施例5の制御手法、実施例4による制御手法や、実施例6、7における制御手法とバックパルスを打つ実施例8の制御手法を組合せても良い。実施例14における駆動装置と制御手法を組み合わせる効果により、閉弁完了タイミングの検知精度を高めることができ、噴射量の精度を向上させることが可能である。
以上の実施例で述べたように、本発明は、弁体を駆動して開弁状態と閉弁状態とを切替える燃料噴射装置に弁体の駆動電流を供給する制御装置であって、該燃料噴射装置の制御装置は、燃料噴射装置に対する第1の電圧源と第1の電圧源よりも高い電圧を生じる第2の電圧源との電気的な接続をオンオフする手段を備え、閉弁状態から開弁状態に弁体を動作させる開弁時に第2の電圧源の電圧を燃料噴射装置に印加して弁体の駆動電流を第2の電圧源から供給し、その後、第2の電圧源の電圧の印加を停止して第1の電圧源の電圧を燃料噴射装置に印加することにより弁体を開弁状態に保持する保持電流を第1の電圧源から供給する機能を備え、第1の電圧源をスイッチングすることによって、前記保持を供給する開弁状態からソレノイドへの電流供給を遮断し、弁体が弁座に到達する閉弁完了タイミングの後に、可動子が弁体から離間し、これまで弁体を介して可動子が受けていた閉弁方向の力がなくなることで可動子の加速度が変化するタイミングすなわち、可動子に働く力の向きが反転するタイミングをソレノイドの両端電圧もしくは、ソレノイドの接地電位側の端子と接地電位との電位差を制御装置で検出することで、制御装置で検出した電圧値を2階微分することで、電圧の2階微分値が最大となるタイミングを閉弁完了タイミングとして検知し、噴射パルスを停止してから電圧の2階微分値が最大なるまでの閉弁遅れ時間を制御装置に記憶させる。
また、閉弁状態から第2の電圧源を用いてソレノイドへの電流供給を行い、電流値が目標値になった後に、第2の電圧源の印加を停止し、一定時間経過後に第1の電圧源から一定の電圧を供給して電圧の変化がない期間を設け、この期間で弁体を可動子と磁気コアが衝突する目標リフトに到達させることで、可動子と固定子との間のギャップが縮小することによる磁気抵抗の変化を、誘導起電力の変化として電流値で検出する。
前記第1の電圧源を供給する区間において、可動子が変位して可動子と固定子の間の磁気ギャップが変化すると、誘導起電力が発生するため、電流値は減少していくが、可動子が目標リフトに到達すると、可動子と固定子の間のギャップが変化しなくなるため、電流値が減少から増加に転ずる。電流値が減少から増加に転ずるタイミングを電流の微分値が0となるタイミングとして検出することで、各気筒の前記弁体が目標リフトに到達するタイミングを検知することができる。
また、噴射パルスを供給してから電流の微分値が0となるまでの時間である開弁遅れ時間を制御装置に記憶させる。制御装置に記憶させた、開弁遅れ時間と閉弁遅れ時間の情報から予め制御装置に与えておいた開弁遅れ時間と閉弁遅れ時間の中央値からの乖離値を各気筒で算出し、予め制御装置に与えておく弁体が目標リフトに位置するときの各燃料圧力での単位時間当たりの静的流量を乗じて各気筒の噴射量を推定し、次回噴射以降の噴射パルス幅を補正することで各気筒の噴射量ばらつきを低減する。
また、噴射パルスを印加してから電流が目標値に到達し、その後、第2の電圧源から負の方向の電圧を供給することで、電流を急速に低下させ、可動子に働く磁気吸引力を小さくすることで、弁体が目標リフトに到達する前に、弁体を急減速させ、減速による開弁遅れ時間の増加を最小限に抑制しつつ、目標リフト到達後の弁体バウンドを低減できるため、噴射量特性に生じる非線形性を改善することができ、噴射量の微小な制御が可能となる。また、可動子と固定コアが衝突することによって生じる弁体が目標リフトに到達した後の弁体のバウンド量は、燃料噴射装置の寸法公差の変動よって燃料噴射装置ごとに異なり、噴射量に生じる非線形性も個体ごとに異なる。噴射パルスを供給してから弁体が開弁開始するタイミングと目標リフトに到達する開弁完了タイミングが早い個体と遅い個体に対して同一の電流波形を与えた場合、開弁完了タイミングが早い個体では、電流を急速に低下させることによる弁体の減速が間に合わず、可動子と固定コアが早い速度で衝突し、目標リフトへ到達後の弁体バウンドが大きくなる。したがって、各気筒の燃料噴射装置で検知した開弁遅れ時間に基づいて、第2の電圧源の印加を停止し、燃料噴射装置のソレノイドの両端に負の方向の電圧を供給して電流を急速に遮断させるタイミングを補正することで、各気筒の燃料噴射装置で適切な電流波形を供給することができ、目標リフト到達後の弁体バウンドを抑制できるため、噴射量特性の非線形性を改善することができる。
具体的には、以下のように構成すると良い。
弁体を駆動して開弁状態と閉弁状態とを切替える燃料噴射装置に弁体の駆動電流を供給する制御装置であって、ソレノイドへの電流供給を行うための指令噴射パルスを停止して後に、弁体と弁座が接触し、可動子が弁体から離間もしくは、停止することによる可動子に働く力の方向の変化を、加速度の変化として電圧で検出する。
このとき、指令噴射パルスを停止してから電圧の2階微分値が最大となるまでの時間を検知すると良い。