以下、図面を用いて、本発明の第1〜第9の実施形態に係る燃料噴射装置を含む燃料噴射システムの構成及び動作を説明する。なお、各図において、同一符号は、同一部分を示す。
(基本構成)
最初に、図1〜図5を用いて、本発明の第1実施形態に係る燃料噴射システムの構成について説明する。
図2に示すように、燃料噴射システムは、主として、燃料噴射装置101と、燃料噴射装置101を制御する制御装置150とで構成される。図3に示すように、燃料噴射装置101は、弁体214とソレノイド205と弁体214を開弁させる可動子202とを有し、弁体214が閉弁している状態で弁体214と可動子202とは軸方向に隙間G2を介して配置される。
図1に示すように、燃料噴射装置101(101A〜101D)はその噴射孔からの燃料噴霧が燃焼室107に直接噴射されるように各気筒に設置されている。燃料は燃料ポンプ106によって昇圧されて燃料配管105に送出され、燃料噴射装置101(101A〜101D)に配送される。燃料圧力は燃料ポンプ106によって吐出された燃料の流量と、エンジン(内燃機関)の各気筒に供えられた燃料噴射装置によって各燃焼室内に噴射された燃料の噴射量のバランスによって変動するが、圧力センサ102による情報に基づいて所定の圧力を目標値として、燃料ポンプ106からの吐出量が制御されるようになっている。
燃料噴射装置101(101A〜101D)の燃料の噴射はエンジンコントロールユニット104(ECU)から送出される噴射パルス幅によって制御されており、この噴射パルスは燃料噴射装置の駆動回路103に入力され、駆動回路103はECU104からの指令に基づいて駆動電流波形を決定し、前記噴射パルス幅に基づく時間だけ燃料噴射装置101(101A〜101D)に前記駆動電流波形を供給するようになっている。
なお、駆動回路103は、ECU104と一体の部品や基板として実装されている場合もある。駆動回路103とECU104が一体となった装置を制御装置150と称する。制御装置150は、燃料噴射装置101に駆動電流を流し、駆動電流を制御する。
次に、図2を用いて、燃料噴射装置101及びその制御装置150の構成と基本的な動作を説明する。図2は、燃料噴射装置101の縦断面図とその燃料噴射装置を駆動するための駆動回路103、ECU104の構成の一例を示す図である。
ECU104では、エンジンの状態を示す信号を各種センサから取り込み、エンジンの運転条件に応じて燃料噴射装置101から噴射する噴射量を制御するための噴射パルスの幅や噴射タイミングの演算を行う。また、ECU104には、各種センサからの信号を取り込むためのA/D変換器とI/Oポートが備えられている。ECU104より出力された噴射パルスは、信号線110(通信ライン)を通して燃料噴射装置の駆動回路103に入力される。駆動回路103は、ソレノイド205に印加する電圧を制御し、電流を供給する。ECU104は、信号線111を通して、駆動回路103と通信を行っており、燃料噴射装置に供給する燃料の圧力や運転条件によって駆動回路103によって生成する駆動電流を切替えることや、電流および時間の設定値を変更することが可能である。
次に、図2及び図3を用いて、燃料噴射装置の構成と動作について説明する。図2および図3に示した燃料噴射装置は通常時閉型の電磁弁(電磁式燃料噴射装置)であり、ソレノイド205(コイル)に通電されていない状態では、第1のばね210によって弁体214が閉弁方向(図2の下方向)に付勢され、弁体214はオリフィス216に設けた弁座218と接触して閉弁している。
ここで、制御装置150は、図2に示すように、弁体214と、弁体214が着座する座面を有する弁座218(弁座部)と、弁体214を駆動させる可動子202と、駆動電流が流れることで可動子202を駆動するコイル205と、を備えた燃料噴射装置101を制御する。
図3に示すように、可動子202の上端面302Aには下端面302B側に向けて凹部302Cが形成されている。この凹部302Cの内側に、中間部材220(間隙形成部材)が設けられている。中間部材220の下面側には上方に向けて凹部333Aが形成されており、この凹部333Aは頭部214A(図2参照)のつば部329(段付き部)が収まる直径(内径)と深さを有している。
すなわち、凹部333Aの直径(内径)はつば部329の直径(外径)よりも大きく、凹部333Aの深さ寸法はつば部329の上端面と下端面との間の寸法よりも大きい。凹部333Aの底部には頭部214Aの突起部331が貫通する貫通孔333Bが形成されている。中間部材220とキャップ232との間には第3のばね234が保持されており、中間部材220の上端面320Cは第3のばね234の一端部が当接するばね座を構成する。第3のばね234は、可動子202を固定コア207側から閉弁方向に付勢する。
中間部材220の上方に位置するキャップ232の上端部には径方向に張り出した鍔部332Aが形成されており、鍔部332Aの下端面に第3のばね234の他端部が当接するばね座が構成されている。キャップ232の鍔部332Aの下端面から下方に筒状部332Cが形成されており、筒状部332Cに弁体214の上部が圧入固定されている。
キャップ232と中間部材220とがそれぞれ第3のばね234のばね座を構成するため、中間部材220の貫通孔333Bの直径(内径)はキャップ232の鍔部332Aの直径(外径)よりも小さい。
キャップ232は上方から第1のばね210の付勢力を受け、下方から第3のばね234の付勢力(セット荷重)を受ける。第1のばね210の付勢力は第3のばね234の付勢力よりも大きく、結果的に、キャップ232は第1のばね210の付勢力と第3のばね234の付勢力との差分の付勢力によって弁体214の突起部331に押し付けられている。キャップ232には突起部331から抜ける方向の力が加わらないので、キャップ232は突起部331に圧入固定するだけで十分であり、溶接する必要はない。
また、第3のばね234を配置するために、キャップ232の下端面と中間部材220の上端面320Cとの間には、ある程度の間隔を設ける必要がある。このため、キャップ232の筒状部332Cの長さを確保することが容易である。
再び、中間部材220について説明する。図2に示す状態は、弁体214が第1のばね210による付勢力を受け、なお且つ可動子202に磁気吸引力は作用していない状態である。この状態では、弁体214が弁座218に当接して燃料噴射装置が閉弁して安定した状態にある。
この状態では、図3に示すように、中間部材220は第3のばね234の付勢力を受けて、凹部333Aの底面333Eが弁体214のつば部329の上端面(基準位置)に当接している。すなわち、凹部333Aの底面333Eとつば部329の上端面との間隙G3の大きさ(寸法)がゼロである。中間部材220の底面333Eとつば部329の上端面とはそれぞれ中間部材220と弁体214のつば部329とが当接する当接面を構成する。
一方、可動子202は第2のばね212(ゼロスプリング)の付勢力を受けて固定コア207側に向けて付勢される。このため、可動子202が中間部材220の下端面に当接する。第2のばね212の付勢力は第3のばね234の付勢力より小さいため、可動子202は第3のばね234により付勢された中間部材220を押し返すことはできず、中間部材220と第3のばね234とにより上方(開弁方向)への動きを止められる。
中間部材220の凹部333Aの深さ寸法はつば部329の上端面と下端面との間の寸法よりも大きいため、図3に示す状態では、可動子202と弁体214のつば部の下端面とは当接しておらず、可動子202と弁体214のつば部の下端面との間隙G2はD2の大きさ(寸法)を有している。この隙間G2は、可動子202の上端面302A(固定コア207との対向面)と固定コア207の下端面307B(可動子202との対向面)との隙間G1の大きさ(寸法)D1よりも小さい(D2<D1)。
本発明の実施形態における弁体214では、つば部329の直径より可動子202に形成された貫通孔202Aの直径の方が小さいので、閉弁状態から開弁状態に移行する開弁動作時或いは開弁状態から閉弁状態に移行する閉弁動作時においては、弁体214のつば部329の下端面が可動子202と係合し、可動子202と弁体214とが協働して動く。しかし、弁体214を上方へ動かす力、あるいは可動子202を下方へ動かす力が独立して作用した場合、弁体214と可動子202とは別々の方向に動くことができる。可動子202および弁体214の動作については、後で詳細に説明する。
本実施形態では、可動子202は、その外周面がノズルホルダ201の内周面と接することによって、上下方向(開閉弁方向)の動きを案内されている。さらに、弁体214は、その外周面が可動子202の貫通孔の内周面に接することによって、上下方向(開閉弁方向)の動きを案内されている。弁体214は、ガイド215とノズルホルダ201及び可動子202の貫通孔とによってまっすぐに往復動するようガイドされている。
なお、本実施形態では、可動子202の上端面302Aと固定コア207(固定子)の下端面307Bとが当接するものとして説明しているが、可動子202の上端面302A又は固定コア207の下端面307Bのいずれか一方、或いは可動子202の上端面302A又は固定コア207の下端面307Bの両方に突起部が設けられ、突起部と端面とが、或いは突起部同士が当接するように構成される場合もある。この場合、上述した隙間G1は、可動子202側の当接部と固定コア207側の当接部との間の間隙になる。
再び図2に戻って説明する。ノズルホルダ201の大径筒状部240の内周部には固定コア207が圧入され、圧入接触位置で溶接接合されている。固定コア207は、可動子202に対して磁気吸引力を作用させて、可動子202を開弁方向に吸引する部品である。固定コア207の溶接接合によりノズルホルダ201の大径筒状部240の内部と外気との間に形成される隙間が密閉される。固定コア207は中心に中間部材220の直径よりわずかに大きい直径の貫通孔が燃料通路として設けられている。貫通孔の下端部内周には弁体214の頭部214A及びキャップ232が非接触状態で挿通されている。
弁体214の頭部214Aに設けられたキャップ232の上端面に形成されたスプリング受け面には初期荷重設定用の第1のばね210の下端が当接しており、第1のばね210の他端が固定コア207の貫通孔の内部に圧入される調整ピン224で受け止められることで、第1のばね210がキャップ232と調整ピン224の間に固定されている。調整ピン224の固定位置を調整することで第1のばね210が弁体214を弁座218に押付ける初期荷重を調整できる。
ノズルホルダ201の大径筒状部240の外周にはカップ状のハウジング203が固定されている。ハウジング203の底部には中央に貫通孔が設けられており、貫通孔にはノズルホルダ201の大径筒状部240が挿通されている。ハウジング203の外周壁の部分はノズルホルダ201の大径筒状部240の外周面に対面する外周ヨーク部を形成している。ハウジング203によって形成される筒状空間内には環状若しくは筒状のソレノイド205が配置されている。ソレノイド205は半径方向外側に向かって開口する断面がU字状の溝を持つ環状のボビン204と、この溝の中に巻きつけられた銅線で形成される。ソレノイド205を囲むようにして、固定コア207、可動子202、ノズルホルダ201の大径筒状部240及びハウジング203(外周ヨーク部)の部分に環状の磁気通路が形成される。
燃料噴射装置に供給される燃料は、燃料噴射装置の上流に設けられた燃料配管から供給され、第1の燃料通路孔231を通って弁体214の先端まで流れ、弁体214の弁座218側の端部に形成されたシート部と弁座218とで燃料をシールしている。閉弁時には、燃料圧力によって弁体214の上部と下部の差圧が生じ、燃料圧力と弁座位置におけるシート内径の受圧面とを乗じた力で弁体214が閉弁方向に押されている。
ソレノイド205に電流が供給されると、磁気回路によって発生する磁界により、固定コア207と可動子202との間に磁束が通過し、可動子202に磁気吸引力が作用する。可動子202に作用する磁気吸引力が、第3のばね234による荷重を越えるタイミングで、可動子202は、固定コア207の方向に変位を開始する。このとき、弁体214と弁座218が接触しているため、可動子202の運動は、燃料の流れが無い状態で行われ、燃料圧力による差圧力を受けている弁体214とは分離して行われる空走運動であるため、燃料の圧力などの影響を受けることがなく、高速に移動することが可能である。
また、第1のばね210の荷重は、エンジン筒内の燃焼圧が増加した場合であっても燃料の噴射を抑制するため、ばね荷重を強く設定する必要がある。
可動子202の変位量が、隙間G2の大きさに達すると、可動子202が弁体214に当接面302Eを通じて力を伝達し、弁体214を開弁方向に引き上げる。このとき、可動子202は、空走運動を行って、運動エネルギーを有した状態で弁体214と衝突するため、弁体214は、可動子202の運動エネルギーを受取り、高速に開弁方向に変位を開始する。
弁体214に作用する差圧力は、弁体214のシート部近傍の流路断面積が小さい範囲において、シート部の燃料の流速が増加し、ベルヌーイ効果による静圧低下に伴って生じる圧力降下によって弁体214先端部の圧力が低下することで生じる。この差圧力は、シート部の流路断面積の影響を大きく受けるため、弁体214の変位量が小さい条件では、差圧力が大きくなり、変位量が大きい条件では、差圧力が小さくなる。
本実施形態では、弁体214が閉弁状態から開弁開始されて変位が小さく、差圧力が大きくなる開弁動作がし難くなるタイミングで、弁体214の開弁が可動子202の空走運動によって衝撃的に行われるため、より高い燃料圧力が作用している状態でも開弁動作を行うことができる。あるいは、動作できることが必要な燃料圧力範囲に対して、より強い力に第1のばね210を設定することができる。第1のばね210をより強い力に設定することで、後述する閉弁動作に要する時間を短縮することができ、微小噴射量の制御に有効である。
弁体214が開弁動作を開始した後、可動子202は固定コア207に衝突する。この可動子202が固定コア207に衝突する時には、可動子202は跳ね返る動作をするが、可動子202に作用する磁気吸引力によって可動子202は固定コア207に吸引され、やがて停止する。このとき、可動子202には第2のばね212によって固定コア207の方向に力が作用しているため、跳ね返りの変位量を小さくでき、また、跳ね返りが収束するまでの時間を短縮することができる。跳ね返り動作が小さいことで、可動子202と固定コア207の間のギャップが大きくなってしまう時間が短くなり、より小さい噴射パルス幅に対しても安定した動作が行えるようになる。
このようにして開弁動作を終えた可動子202および弁体214は、開弁状態で静止する。開弁状態では、弁体214と弁座218との間には隙間が生じており、燃料が噴射されている。燃料は固定コア207に設けられた貫通孔と、可動子202に設けられた燃料通路孔と、ガイド215に設けられた燃料通路孔を通過して下流方向へ流れる。ソレノイド205への通電が断たれると、磁気回路中に生じていた磁束が消滅し、磁気吸引力も消滅する。可動子202に作用する磁気吸引力が消滅することによって、弁体214は第1のばね210の荷重と、燃料圧力による力によって、弁座218に接触する閉位置に押し戻される。
次に、図5を用いて、本発明の実施形態における燃料噴射装置の制御装置150の構成について説明する。図5は、燃料噴射装置の駆動回路103およびECU104の詳細を示した図である。
CPU501は例えばECU104に内蔵され、燃料噴射装置の上流の燃料配管に取り付けられた圧力センサや、エンジンシリンダへの流入空気量を測定するA/Fセンサ、エンジンシリンダから排出された排気ガスの酸素濃度を検出するための酸素センサ、クランク角センサ等のエンジンの状態を示す信号を、前述で説明した各種センサから取り込み、エンジンの運転条件に応じて燃料噴射装置から噴射する噴射量を制御するための噴射パルスの幅や噴射タイミングの演算を行う。また、CPU501は、エンジンの運転条件に応じて適切な噴射パルス幅Ti(すなわち噴射量)や噴射タイミングの演算を行い、信号線110を通して燃料噴射装置の駆動IC502に噴射パルス幅Tiを出力する。その後、駆動IC502によって、スイッチング素子505、506、507の通電、非通電を切替えて燃料噴射装置101へ駆動電流を供給する。
スイッチング素子505は駆動回路に入力された電圧源VBよりも高い高電圧源と燃料噴射装置101の電源側端子590と間に接続されている。スイッチング素子505、506、507は、例えばFETやトランジスタ等によって構成され、燃料噴射装置101への通電・非通電を切り替えることができる。高電圧源の初期電圧値である昇圧電圧VHは例えば60Vであり、バッテリ電圧を昇圧回路514によって昇圧することで生成する。
昇圧回路514は例えばDC/DCコンバータ等により構成されるかコイル530とトランジスタ531、ダイオード532およびコンデンサ533で構成する方法がある。後者の昇圧回路514の場合、トランジスタ531をONにすると、バッテリ電圧VBは接地電位534側へ流れるが、トランジスタ531をOFFにすると、コイル530に発生する高い電圧がダイオード532を通して静流されコンデンサ533に電荷が蓄積される。昇圧電圧VHとなるまで、このトランジスタのON・OFFを繰り返し、コンデンサ533の電圧を増加させる。トランジスタ531は、IC502もしくはCPU501と接続され、昇圧回路514から出力される昇圧電圧VHはIC502もしくはCPU501で検出するよう構成する。
また、ソレノイド205の電源側端子590とスイッチング素子505との間には、昇圧回路514から、ソレノイド205、接地電位515の方向に電流が流れるようにダイオード535が設けられている。また、ソレノイド205の電源側端子590とスイッチング素子507との間にも、バッテリ電圧源から、ソレノイド205、接地電位515の方向に電流が流れるようにダイオード511が設けられている。
そのため、スイッチング素子505又は507を通電している間は、接地電位515から、ソレノイド205、バッテリ電圧源および昇圧回路514へ向けては電流が流れられない構成となっている。また、ECU104には、噴射パルス幅の演算等のエンジンの制御に必要な数値データを記憶させるために、レジスタおよびメモリが搭載されている。レジスタおよびメモリは制御装置150もしくは制御装置150内のCPU501に内包されている。
また、スイッチング素子507は、低電圧源VBと燃料噴射装置101の電源側端子590間に接続されている。低電圧源VBは例えばバッテリ電圧であり、その電圧値は12から14V程度である。スイッチング素子506は、燃料噴射装置101の低電圧側の端子と接地電位515の間に接続されている。駆動IC502は、電流検出用の抵抗508、512、513により、燃料噴射装置101に流れている電流値を検出し、検出した電流値によって、スイッチング素子505、506、507の通電・非通電を切替え、所望の駆動電流を生成している。
ダイオード509と510は、燃料噴射装置のソレノイド205に逆電圧を印加し、ソレノイド205に供給されている電流を急速に低減するために備え付けられている。CPU501は、信号線111を通して、駆動IC502と通信を行っており、燃料噴射装置101に供給する燃料の圧力や運転条件によって駆動IC502によって生成する駆動電流を切替えることが可能である。また、抵抗508、512、513の両端は、IC502のA/D変換ポートに接続されており、抵抗508、512、513の両端にかかる電圧をIC502で検出できるように構成されている。
次に、比較例として、ECU104から出力される噴射パルスと燃料噴射装置のソレノイド205の端子両端の駆動電圧と、駆動電流(励磁電流)と燃料噴射装置の弁体214の変位量(弁体挙動)との関係(図4)、及び噴射パルスと燃料噴射量との関係(図7)について説明する。
駆動回路103に噴射パルスが入力されると、駆動回路103はスイッチング素子505、506を通電して昇圧回路514からソレノイド205に高電圧401(図4参照)を印加し、ソレノイド205に電流の供給を開始する。電流値が予めECU104に定められた最大駆動電流Ipeak(以降、最大駆動電流値と称する。)に到達すると、高電圧401の印加を停止する。
最大駆動電流値Ipeakから電流403への移行期間にスイッチング素子506をONにし、スイッチング素子505、507を非通電にすると、ソレノイド205には電圧0Vが印加され、電流が燃料噴射装置101、スイッチング素子506、抵抗508、接地電位515の経路を流れて、電流は緩やかに減少する。電流を緩やかに減少することで、ソレノイド205へ供給する電流を確保し、燃料噴射装置101に供給される燃料圧力が増加した場合であっても、可動子202および弁体214が安定的に開弁動作できる。
なお、最大駆動電流値Ipeakから電流403への移行期間にスイッチング素子505、506、507をOFFにすると、燃料噴射装置101のインダクタンスによる逆起電力によって、ダイオード509とダイオード510が通電し、電流が電圧源VH側へ帰還され、燃料噴射装置101に供給されていた電流は、最大駆動電流値Ipeakから急速に低下する。結果、電流403に到達するまでの時間が早くなり、電流403に到達してから一定の遅れ時間の後、磁気吸引力が一定となるまでの時間を早める効果がある。
電流値が所定の電流値404より小さくなると、駆動回路103はスイッチング素子506を通電し、バッテリ電圧VBの印加をスイッチング素子507の通電・非通電によって行い、所定の電流403が保たれるように制御するスイッチング期間を設ける。
燃料噴射装置101に供給される燃料圧力が大きくなると、弁体214に作用する流体力が増加し、弁体214が目標開度(目標リフト)に到達するまでの時間が長くなる。この結果、最大駆動電流Ipeakの到達時間に対して目標開度への到達タイミングが遅れる場合がある。駆動電流I4を急速に低減すると、可動子202に働く磁気吸引力も急速に低下するため、弁体214の挙動が不安定となり、場合によっては通電中にも関わらず閉弁を開始してしまう場合がある。
最大駆動電流Ipeakから電流403の移行中にスイッチング素子506を通電にして電流を緩やかに減少させる場合、磁気吸引力の低下を抑制でき高燃料圧力での弁体214の安定性を確保でき、噴射量ばらつきを抑制できる。
このような供給電流のプロファイルにより、燃料噴射装置101は駆動される。高電圧401の印加から最大駆動電流値Ipeakに達するまでの間に、可動子202がタイミングt41で変位を開始し、弁体214がタイミングt42で変位を開始する。その後、可動子202および弁体214が最大開度(最大高さ位置Lf)に到達する。なお、可動子202が固定コア207と接触する変位量を最大高さ位置とする。
なお、本実施形態では可動子202が固定コア207と接触する変位量を可動子の最大高さ位置としているが、実際に燃料噴射装置がエンジンに取り付けられた状態で弁体214が上下方向に動くことに本発明は限定されない。したがって、可動子202の最大高さ位置を可動子202の最大変位位置と呼んでもよい。
可動子202が最大高さ位置Lfに到達したタイミングt43で、可動子202が固定コア207に衝突し、可動子202が固定コア207との間でバウンド動作を行う。弁体214は可動子202に対して相対変位が可能に構成されているため、弁体214は可動子202から離間し、弁体214の変位は、最大高さ位置Lfを越えてオーバーシュートする。
その後、電流403(保持電流)によって生成される磁気吸引力と第2のばね212の開弁方向の力によって、可動子202は、所定の最大高さ位置Lfの位置に静止し、また、弁体214は可動子202に着座して最大高さ位置Lfで静止し、開弁状態となる。
弁体214と可動子202が一体となっている可動弁を持つ燃料噴射装置の場合、弁体214の変位量は、最大高さ位置Lfよりも大きくならず、最大高さ位置Lfに到達後の可動子202と弁体214の変位量は同等となる。
次に、図7を用いて図4に示す電流波形を用いた場合の噴射量特性Q701について説明する。噴射パルス幅Tiが一定の時間T0に達しない時には、可動子202に作用する磁気吸引力および第2のばね212の合力の開弁方向の力が、第3のばね234の荷重である閉弁方向の力を上回らないか、または可動子202が変位を開始したとしても隙間G2を滑走するのに必要な磁気吸引力が確保できず、可動子202が弁体214に接触しない条件では、弁体214は開弁を開始せず、燃料は噴射されない。
また、噴射パルス幅Tiが短い、例えば701のような条件では、可動子202が弁体214に衝突して、弁体214は弁座218から離間し、リフトを開始するが、弁体214が最大高さ位置Lfに達する前に閉弁を開始するため、噴射パルス幅と噴射量の関係が直線となる直線領域730から外挿される一点鎖線720に対して噴射量は少なくなる。
また、点702のパルス幅では、弁体214が最大高さ位置Lfに達する直後で閉弁を開始し、弁体214の軌跡が放物運動となる。この条件においては、弁体214が有する開弁方向の運動エネルギーが大きく、また、可動子202に作用する磁気吸引力が大きいため、閉弁に要する時間の割合が大きくなり、一点鎖線720に対して噴射量が多くなる。
弁体214が固定コア207と接触せず、弁体214の軌跡が放物運動となる領域740をハーフリフト領域と称し、弁体214が固定コア207と接触する領域741をフルリフト領域と称する。
点703の噴射パルス幅では、可動子202が固定コア207に衝突することで生じる弁体214のバウンド量が最大となるタイミングにおいて閉弁を開始するため、可動子202と固定コア207が衝突する際の反発力が可動子202に働き、噴射パルスをOFFにしてから弁体214が閉弁するまでの閉弁遅れ時間が小さくなり、その結果噴射量は一点鎖線720に対して少なくなる。
点704は、弁体のバウンドが収束した直後のタイミングt45(図4参照)に閉弁を開始するような状態であり、点704より大きい噴射パルス幅Tiでは、噴射パルス幅Tiの増加に応じて燃料の噴射量が略線形的に増加する。
燃料の噴射が開始されてから、点704で示すパルス幅Tiまでの領域では、弁体214が最大高さ位置Lfに到達しないかもしくは、弁体214が最大高さ位置Lfに到達したとしても弁体214のバウンドが安定しないため、噴射量が変動する。制御可能な最小噴射量を小さくするためには、噴射パルス幅Tiの増加に応じて燃料の噴射量が線形的に増加する領域を増やすか、もしくは、噴射パルス幅Tiが704より小さい噴射パルス幅Tiと噴射量の関係が線形とならない非線形領域の噴射量ばらつきを抑制する必要がある。
図4で説明したような駆動電流波形では、可動子202と固定コア207の衝突によって発生する弁体214のバウンドが大きく、弁体214のバウンド途中で閉弁を開始することにより、点704までの短い噴射パルス幅Tiの領域に非線形性が発生し、この非線形性が最小噴射量悪化の原因となっている。
従って、弁体214が目標リフトに到達する条件での噴射量特性の非線形性を改善するためには、最大高さ位置Lfに到達後に生じる弁体214のバウンドを低減する必要がある。また、寸法公差に伴う弁体214の挙動の変動があるため、燃料噴射装置ごとに可動子202と固定コア207が接触するタイミングが異なり、可動子202と固定コア207の衝突速度にばらつきが生じるため、弁体214のバウンドは燃料噴射装置の個体ごとにばらつき、噴射量の個体ばらつきが大きくなる。
一方で、弁体214が最大高さ位置Lfよりも低い高さ位置Lhまでしか到達しない駆動(以降、ハーフリフトと称する)を行う領域では、弁体214がストッパである固定コア207に接触しない不安定な挙動であることから、噴射量を正確に制御するためには、可動子202が弁体214に衝突する際の速度を決める可動子202に作用する磁気吸引力と、弁体214が開弁開始した後に、可動子202に作用する磁気吸引力を正確に制御する必要がある。
(第1実施形態による燃料噴射装置の制御方法)
次に、図6、7を用いて本発明の第1実施形態における燃料噴射装置の制御方法について説明する。図6は、本発明の第1実施形態における噴射パルス、燃料噴射装置に供給する駆動電流、燃料噴射装置のスイッチング素子505、506、507、ソレノイド205の端子間電圧Vinj、弁体214および可動子202の挙動と時間の関係を示した図である。
なお、図中に図4の電流波形を用いた場合の駆動電流I4、弁体214の変位量622を破線で記載する。図7は、図6の駆動電流波形で燃料噴射装置101を制御した場合の噴射パルス幅と噴射量の関係を示した図である。なお、図7には、駆動電流I6で燃料噴射装置101を制御した場合の噴射量特性を噴射量Q702に示す。
最初に、タイミングt61(図6参照)において、CPU501より噴射パルス幅Tiが信号線110を通して駆動IC502に入力されると、スイッチング素子505とスイッチング素子506がONとなり、バッテリ電圧VBよりも高い昇圧電圧VHをソレノイド205に印加し、駆動電流I6が燃料噴射装置101に供給され、電流が急速に立ち上がる。
電流が最大駆動電流値Ipeakに達すると、スイッチング素子505とスイッチング素子506、スイッチング素子507を共に非通電とすることで、燃料噴射装置101のインダクタンスによる逆起電力によって、ダイオード509とダイオード510が通電し、電流が電圧源VH側へ帰還され、燃料噴射装置101に供給されていた電流は、電流602のように最大駆動電流値Ipeakから急速に低下する。なお、最大駆動電流値Ipeakから第1駆動電流610への移行期間にスイッチング素子506をONにすると、逆起電力エネルギーによる電流は接地電位側に流れ、電流は緩やかに低下する。
その後、タイミングt63に到達すると、再びスイッチング素子506を通電し、スイッチング素子507の通電・非通電の切替えを行い、電流値604或いはその近傍で電流値を保持するように第1駆動電流610を制御する。なお、第1駆動電流610を制御する期間を第1の電流保持期間P1と称する。
また、第1駆動電流610を一定時間保持した後、弁体214の変位量が最大高さ位置Lfに到達した直後もしくは、到達する前のタイミングt64でスイッチング素子505、スイッチング素子507を非通電、スイッチング素子506を通電し、電流を603のように緩やかに減少させ、第1駆動電流610よりも電流値が小さい電流値605に到達したタイミングt65で再びスイッチング素子507の通電・非通電の切替えを行い、電流値605或いはその近傍で電流値を保持するように第2駆動電流611を制御する。なお、第2駆動電流611を制御する期間を第2の電流保持期間P2と称する。
次に、ハーフリフト(中間開度)の条件での電流波形651と弁体214の関係について説明する。なお、電流波形651を用いた場合の弁体214の変位を図中の一点鎖線(変位652)で示す。
弁体214が開弁を開始した後、第1駆動電流610のタイミングt69で噴射パルスTiを停止すると、ソレノイド205には負の方向の昇圧電圧VHが印加され、電流が低下し、0Aに到達する。電流の供給を停止すると、可動子202に作用する磁気吸引力が低下して、磁気吸引力、第2のばね212、可動子202の慣性力の合力である開弁方向の力が、第1のばね210と弁体214に作用する差圧力の閉弁方向の力を下回ったタイミングで弁体214は高さ位置Lhから、閉弁を開始し、タイミングt66で弁座218と接触し、燃料の噴射を停止する。
本発明の第1実施形態における電流波形I6では、可動子202が開弁方向に滑走して、開弁動作に必要な運動エネルギーを確保した後、最大駆動電流IPeakを早いタイミングで停止することで、弁体214の開弁開始から最大高さ位置に到達するまでの弁体214の変位量の傾きを小さくできる。つまり本実施形態のECU104のCPU501は、弁体214が最大高さ位置に到達する前にソレノイド205に流す駆動電流を最大駆動電流IPeakから最大駆動電流IPeakよりも低い第1駆動電流610に低下させ、第1駆動電流610の通電時間を変えることで、最大高さ位置Lfよりも低い高さ位置領域(ハーフリフト領域742)における弁体214の高さ位置を制御する。
つまり、第1駆動電流610を流す通電時間を長くするほど、ハーフリフト領域742において、弁体214の高さ位置が高くなるように制御する。あるいはCPU501は、可動子202が固定コア207にぶつかる前にソレノイド205に流す駆動電流を最大駆動電流IPeakから第1駆動電流610に低下させ、可動子202が固定コア207の対向面よりも低い高さ位置まで到達するように制御する。そして、第1駆動電流610を流す通電時間を変えることで、固定コア207の対向面よりも低い高さ位置領域における可動子202の高さ位置を制御してもよい。
またCPU501は、第1駆動電流610よりもさらに低い第2駆動電流611に駆動電流を低下させることで可動子202が固定コア207にぶつかるように制御する。また第2駆動電流611を流す通電時間を変えることで、可動子202が固定コア207に接触する時間を制御する。また、第1駆動電流610に低下させた後、遮断することで可動子202が固定コア207の対向面よりも低い高さ位置まで到達するように制御する。
換言すると、本実施形態のCPU501は、ハーフリフト領域742において燃料を噴射する場合に、可動子202が固定コア207にぶつかる前にソレノイド205に流す駆動電流を最大駆動電流IPeakから第1駆動電流610に低下させ、可動子202が固定コア207の対向面よりも低い高さ位置まで到達するように制御するものである。
結果、ハーフリフト領域742での噴射パルスTiに対する弁体214の開弁期間の傾きを小さくできる。これは、噴射パルスTiを変化させた場合の噴射量の変化量を小さくすることに相当する(図7のQ702参照)。ECU104で制御できる噴射パルス幅の分解能には制約があるため、噴射パルス幅Tiが変化した場合の噴射量の変化量を小さくすることで、噴射量の制御分解能を高めることができ、噴射量の精度を向上できる。噴射量の精度向上により、PN抑制効果が高まるとともに、エンジン回転数に応じて適切な燃料を噴射することができ、ドライバビリティが向上する効果が得られる。
可動子202が滑走して弁体214に衝突して開弁する機構を有する燃料噴射装置101の場合、可動子202が加速して、開弁するのに十分な運動エネルギーを確保できる条件では、最大駆動電流IPeakの遮断タイミングは弁体214が開弁開始する前に設定すると良い。すなわち、制御装置150は、弁体214が開弁を開始するよりも前に最大駆動電流IPeakを遮断すると良い。結果、第1の電流保持期間P1に移行するタイミングを早めることができ、ハーフリフト領域742のより小さい噴射量を制御し易くなる。効果の詳細な説明については後述する。
この場合、燃料噴射システムは、弁体214が開弁を開始するよりも前に最大駆動電流IPeakを遮断して、最大駆動電流IPeakよりも小さい第1駆動電流610を燃料噴射装置に流すように制御し、第1駆動電流610の電流値を変更することで、弁体214の開弁期間を補正する。制御装置150は、例えば、設定時間Tp(昇圧電圧VHを印加する期間)で最大駆動電流IPeakとなるように駆動電流を制御し、第1駆動電流610の電流値を変更することで、弁体214の開弁期間を補正する。
また、弁体214が開弁開始するより前に最大駆動電流Ipaekを遮断すると、可動子202に作用する磁気吸引力が低下して、可動子202が僅かに減速して、可動子202が弁体214に衝突する際の運動エネルギーを小さくできる。したがって、弁体214の開弁開始した後のハーフリフト条件での噴射量の傾きを小さくでき、噴射パルス幅の変化に対する噴射量の感度を小さくできる。結果、ハーフリフトの条件とフルリフトの条件での噴射量特性の傾きの差が小さくなり、噴射量を連続的に制御できることで、ドライバビリティが高まる。
また、最大駆動電流IPeakを停止するタイミングを弁体214が開弁開始した直後に設定する場合、弁体214が開弁開始するまでにソレノイド205に供給するエネルギー(電流波形の積分値)が大きいため、可動子202が弁体214に衝突する際の運動エネルギーを確保し易い。結果、燃料噴射装置101に供給される燃料圧力が大きい場合であっても弁体214を安定的に開弁状態まで制御可能である。
また、最大駆動電流Ipeak到達の条件は時間で設定するか、時間と電流値を用いて設定しても良い。最大駆動電流Ipeakを電流値で設定する場合には、抵抗512、513、508の精度で電流分解能が決まるため、分解能を細かくするほど部品のコストが増加するが、最大駆動電流Ipeakの到達条件を時間で設定する場合、電流値で設定する場合に比べて時間方向の分解能を細かくできるため、燃料圧力の条件や燃料噴射装置101の個体に応じて適切な値を調整できる。結果、噴射量の精度が向上し、PN抑制が可能となる。
また、最大駆動電流Ipeak到達の条件は時間と電流値を用いて設定する場合、予めCPU501もしくはIC502に設定した時間を経過後、電流値がある閾値を越えるタイミングを最大駆動電流Ipeakとするか、電流値がある閾値を超えたタイミングから予めCPU501もしくはIC502に設定した時間を経過後のタイミングを最大駆動電流Ipeakとすると良い。この結果、時間分解能を細かく設定できる効果が得られるとともに、ソレノイド205の抵抗や昇圧電圧VHが変化した場合であっても最大駆動電流値Ipeakに到達するまでの供給エネルギーを確保することができるため、弁体214の安定性を確保することができる。
最大駆動電流Ipeakに到達したタイミングt62からタイミングt63までの期間631は、予めCPU501乃至IC502に時間として設定しておくと良い。期間631を時間で設定することで、電流に比べて設定できる分解能が高く(細かく)なるため、最大駆動電流値Ipeakからタイミングt63に移行するまでの時間を正確に設定することができ、第1駆動電流610に到達するまでの可動子202の挙動を安定化させることができる。結果、弁体214が開弁開始した後の変位量の傾きを精度よく制御できる。
また、最大駆動電流値Ipeak到達後、電流値が予めCPU501乃至IC502に設定する閾値を下回ったタイミングでタイミングt63に移行しても良い。この効果により、負の方向の昇圧電圧VHが低下するか、またはソレノイド205の抵抗が発熱によって変化した場合であってもタイミングt63での電流値を保つことができる。
タイミングt63において、電流値が閾値を下回った場合、タイミングt63から第1駆動電流610に到達するまでの時間が長くなり、バッテリ電圧VBが印加されつづける期間が長くなることで、ハーフリフトで弁体214を制御できる範囲が小さくなる場合がある。タイミングt63への移行に電流値の閾値を用いた電流制御によって、ハーフリフトで弁体214を制御できる範囲を弁体214の変位量が小さい側に拡大でき、微小な噴射量まで制御することが可能となる。
また、電流の閾値は、第1駆動電流610よりも大きく設定してもよい。この場合、電流が閾値に到達すると、スイッチング素子505、507が非通電、スイッチング素子506が通電となり、ソレノイド205にはほぼ0Vの電圧が印加される。一定時間経過の後、バッテリ電圧VBが印加されることで、第1駆動電流610に到達する。これによって、タイミングt63に到達してから第1駆動電流610に到達するまでの時間を僅かに短縮でき、噴射量の制御範囲を微小噴射量側へ拡大することができる。
また、冷機始動の条件や、高回転/高負荷で条件では、多段噴射の必要性が高く、より微小な噴射量が要求される。高回転/高負荷の条件では、エンジン筒内の火炎が伝播中に未燃焼ガスが高温/高圧化することにより、筒内に取り付けられた点火プラグで点火する前に自着火に至ることで生じるノックが発生し易いため、多段噴射の必要性が高く、より微小な噴射量が要求される。したがって、上記の運転条件では、本発明の第1実施形態における電流波形I6を用いて、ハーフリフト領域742の噴射量が要求されない条件では、電流波形I4を用いるようにECU104で切替る制御を行うと良い。
燃料噴射装置101に供給される燃料圧力が増加した場合、可動子202が弁体214に衝突するまでの可動子202の変位量は変化しないが、弁体214に作用する差圧力が増加するため、可動子202が同じ速度で弁体214に衝突したとしても弁体214の変位量の傾きが小さくなる。したがって、開弁動作に必要な磁気吸引力が増加するため、燃料圧力の増加に応じて、最大駆動電流値IPeakを大きくするか、第1の電流保持期間P1の第1駆動電流610の電流値を大きくするか、またはその両方を補正するように電流波形の切替えを行うと良い。
電流波形の切換えによって、燃料圧力が変化した場合であっても最大高さ位置に至るまでの弁体214の変位の軌跡の変化を抑制することができ、安定的に弁体214の変位量を制御することができる。その結果、噴射量の精度を高めることができ、混合気の均質度を向上することで、PN抑制効果が高まる。
また、多段噴射が求められるエンジン条件で弁体214の変位が過渡的な状態で駆動されるハーフリフト領域742の燃料噴射の回数が多い場合には、噴射量の精度を向上したことによるPN抑制効果が得やすい。上記で説明した電流波形の切換えを行うことで、ハーフリフト領域742での噴射パルスに対する噴射量の傾きを小さくできる。
噴射パルス幅の変化に対して、噴射量の感度を小さくすることで、ECU104で生成する噴射パルスの制御分解能が大きい場合であっても噴射量を精度良く制御することが可能となる。噴射量の傾きを小さくすることで、電流波形I4を用いた場合のハーフリフト領域740は、ハーフリフト領域742となる。
電流波形I4において、ハーフリフト領域740からフルリフト領域741移行後に噴射量特性に生じるうねりは、可動子202が固定コア207に衝突することで生じる。したがって、弁体214が最大高さ位置Lfに到達する前に第1の電流保持期間P1を停止し、電流603のように電流値を低下させると良い。
電流値を低下させることで、可動子202の速度を低減または、加速を抑制することができ、可動子202が固定コア207に衝突するタイミングでの可動子202の衝突速度が低減できる。可動子202のバウンドの抑制に伴って、弁体214のバウンドを低減できる。結果、ハーフリフト領域742からフルリフト領域743に到達した後に生じる噴射量特性に生じるうねりを抑制でき、噴射量を正確に制御することができる。
電流が第2駆動電流611となる第2の電流保持期間P2において、噴射パルスTiを変えることで、弁体214が最大高さ位置Lfに位置する時間を変えることができる。つまり、本実施形態のCPU501は、前記したハーフリフト領域742よりも噴射量の多いフルリフト領域743において燃料を噴射する場合に、可動子202が固定コア207にぶつかる前にソレノイド205に流す駆動電流を最大駆動電流IPeakから第1駆動電流610に低下させた後、第2駆動電流611に低下させることで可動子202が固定コア207にぶつかるように制御する。
噴射パルスTiを長くすると、最大高さ位置Lfに位置する時間が長くなり、噴射パルスTiを停止してから弁体214が弁座218と接触するまでの時間(閉弁遅れ時間)が変化する。フルリフト領域743においては、弁体214のバウンドが生じる範囲を除いて噴射量は閉弁遅れ時間に同期して決まり、閉弁遅れ時間が長くなると噴射量が増加する。したがって、第2駆動電流611を流す通電時間を変えることで、弁体214が最大高さ位置Lfに位置する時間を制御することで、噴射量を精密に制御できる。
また、第2の電流保持期間P2の第2駆動電流611の電流値よりも第1の電流保持期間P1の第1駆動電流610の電流値を大きくすると良い。弁体214が開弁して最大高さ位置Lfで静止している開弁状態では、弁体214が弁座218と接触している閉弁状態に比べて、可動子202と固定コア207との間のギャップ(磁気ギャップ)が小さいために磁気吸引力を確保し易く、弁体214のシート部断面積が大きいことから弁体214に作用する差圧力も小さくなる。
したがって、弁体214を開弁状態で保持できる最低限の電流値606以上の電流をソレノイド205に供給すればよい。一方で、第1の電流保持期間P1では、可動子202および弁体214が変位している状態にある。したがって、開弁状態に比べて、可動子202と固定コア207との間のギャップ(磁気ギャップ)が大きいために磁気吸引力を確保しにくく、弁体214のシート部断面積が小さいことから弁体214に作用する差圧力も大きくなる。
したがって、開弁状態に比べて開弁に必要な磁気吸引力が大きくなることから、ハーフリフト領域742での弁体214の安定性を確保するためには、第2の電流保持期間P2の第2駆動電流611の電流値よりも第1の電流保持期間P1の第1駆動電流610の電流値を大きくする必要がある。
ハーフリフト領域742では、可動子202が弁体214に衝突することによる運動エネルギーと第1の電流保持期間P1における第1駆動電流610が生成する磁気吸引力によってハーフリフト領域742での弁体214の変位量および弁体214が開弁開始してから閉弁終了するまでの開弁期間を精密に決定することができ、微小な噴射量を正確に制御できる。第1の電流保持期間P1の第1駆動電流610の電流値よりも第2の電流保持期間P2の第2駆動電流611の電流値を小さくすることで、第2の電流保持期間P2における消費電力を低減でき、ソレノイド205の発熱を抑制できる。
最大駆動電流値Ipeakから第1の電流保持期間P1の第1駆動電流610の電流値への移行において、ソレノイド205に負の方向の昇圧電圧VHを印加して、電流602のように最大駆動電流値Ipeakから電流を急速に低下させる場合、可動子202が弁体214に衝突するタイミングである開弁開始直前まで開弁開始に必要な磁気吸引力を増加させて、運動エネルギーを確保しつつ、素早く第1の電流保持期間P1に移行することで、弁体214の変位量が小さい条件で第1の電流保持期間P1に到達することが可能となる。
これにより、第1駆動電流610での弁体214の変位量の制御する範囲を変位量の小さい側に拡大できる。結果、ハーフリフト領域742で第1の電流保持期間P1で制御可能な噴射量の範囲が小さい側に拡大でき、より微小な噴射量まで制御できる効果がある。
なお、最大駆動電流値Ipeakから第1駆動電流610への移行期間にスイッチング素子506を通電し、スイッチング素子505、507をOFFにすると、ソレノイド205にはほぼ0Vの電圧が印加され、電流は緩やかに低下する。この場合、ソレノイド205に供給される電流値が増加するため、弁体214の変位量が小さいタイミングでの磁気吸引力が増加して、弁体214が安定的に開弁動作を行える効果がある。
とくに燃料噴射装置101に供給される燃料圧力が大きい場合、弁体214に作用する差圧力が増加するため、ソレノイド205に0Vの電圧を印加する電流波形を用いると良い。また、燃料噴射装置101のインダクタンスが小さい場合は、ソレノイド205への印加電圧が0Vであっても電流が素早く低下するため、0Vの電圧印加を用いて電流制御を行ってもよい。最大駆動電流値Ipeakから第1駆動電流610への移行期間する際の印加電圧は、燃料噴射装置101の仕様もしくは、燃料噴射装置101に供給される燃料圧力に応じて切替える制御を行うと良い。
また、第1の電流保持期間P1から第2の電流保持期間P2への移行は、ソレノイド205に0V以下の電圧を印加して、電流値を急速に低減しても良い。スイッチング素子505、506、507を非通電とすることで、ソレノイド205に負の方向の昇圧電圧VHを印加することで、電流603の低下速度を高めることができる。可動子202の減速効果を高めることで、弁体214のバウンドに伴う噴射量特性のうねりを低減でき、噴射量の噴射精度を高める効果がある。
第1の電流保持期間P1から第2の電流保持期間P2へ移行する期間630において、噴射パルスTiが停止された場合には、噴射パルスTiが変化したとしてもソレノイド205に供給される電流波形は変化しない。
したがって、噴射パルスTiを変化させた場合であっても噴射量が変化しない不感帯が生じる場合がある。この場合、期間630の開始すなわち第1の電流保持期間P1が終了するタイミングで噴射パルスが停止される条件と、期間630の終了すなわち、第2の電流保持期間P2が開始されるタイミングで噴射パルスが停止される条件での噴射量が等しくなる。
したがって、第1の電流保持期間P1が終了するタイミングでの噴射量より大きな噴射量を噴射する場合、この不感帯を飛ばして噴射パルス幅を設定することで、噴射量を連続的に制御することができる。
また、スイッチング素子505、507を非通電とし、スイッチング素子506を通電させてソレノイド205にほぼ0Vの電圧を印加する場合、期間630において、噴射パルスTiが停止した場合、噴射パルスTiの停止後にソレノイド205には負の方向の昇圧電圧VHが印加される。したがって、期間630に噴射パルスTiを停止したとしても電流波形の通電時間の幅を制御でき、噴射パルスTiで噴射量が変化しない不感帯を低減でき、噴射量の連続性を確保できる。その結果、運転条件の回転数に応じて噴射量を適切に変化させることができ、ドバイバビリティが向上する。
また、エンジンが冷却された状態では、ピストン壁面およびシリンダ壁面に付着した燃料が気化しにくいため、冷機始動の条件で、未燃焼粒子が増加する傾向にある。冷機始動時の未燃焼発生を抑制する手段(装置又は機能、以下同じ)として、エンジンの冷機始動時において、エンジン回転数が一定するファストアイドルに到達するまで、燃料噴射を分割することで、ピストンやシリンダ壁への燃料付着による始動の低排気と触媒の早期活性化を同時に図る方法が有効である。
この場合、電流波形I4のようにハーフリフト領域740からフルリフト領域741に到達した後に噴射量特性うねりが生じると、噴射量を連続的に制御できず、燃料を噴射できない範囲が発生する。噴射量うねりが生じる範囲の流量を噴射したい場合、1吸排気工程中の燃料の分割噴射回数を変えて、燃料を噴射する方法が考えられる。
しかしながら、冷機始動中に分割噴射の回数を増やすと、分割噴射回数を切り替えるタイミングでのECU104で演算する目標の噴射量と、実際に噴射される燃料との間に誤差が生じ、燃焼が不安定になり、PNが増加する場合がある。本発明の第1実施形態では、電流波形I6を用いることで、ハーフリフト領域742からフルリフト領域743以降に至るまでの噴射量の連続性を確保でき、噴射量の精度が要求される条件で、分割噴射の回数切替えを抑制でき、燃焼の安定性を向上させることができ、PNを抑制効果が高まる。
また、最大駆動電流Ipeakの遮断タイミングを弁体214の開弁開始よりも早めた場合、可動子202が弁体214に衝突する際の衝突速度に影響を与える。この結果、最大駆動電流Ipeakの遮断タイミングを早くすれば、可動子202に作用する磁気吸引力が小さくなり、弁体214の開弁開始タイミングが遅くなる。結果、第1駆動電流610で噴射パルスTiを停止し、弁体214をハーフリフトで制御する場合に、噴射パルスを停止してから弁体214が閉弁するまでの閉弁遅れ時間が短くなる。
したがって、弁体214の開弁期間が小さくなり、噴射量も小さくなる。したがって、最大駆動電流Ipeakの遮断タイミングを制御することで、開弁期間を制御することが可能となる。また、最大駆動電流Ipeakの遮断タイミングを用いて、可動子202から弁体214に受け渡す運動エネルギーを制御できる。結果として、最大駆動電流Ipeakを遮断するタイミングt62を変えて、弁体214が開弁開始した後の弁体214の変位量の傾きを制御できる。
具体的には、最大駆動電流Ipeakを遮断するタイミングt62を早くすると、可動子202が弁体214に衝突する際の速度が低下し、弁体214に受け渡される運動エネルギーが小さくなるため、弁変位量の傾きが小さくなり、ハーフリフト領域742での噴射量特性の傾きが小さくなる。その結果、噴射量を精密に制御できるため、PN抑制効果が高まる。
また、燃料噴射装置101に供給される燃料圧力が大きいと、弁体214に作用する差圧力が大きくなり、ハーフリフトでの弁体214の変位量の傾きが小さくなる。燃料圧力が大きくなった場合、弁体214を最大高さ位置Lfに到達させるのに必要な磁気吸引力が大きくなる。よって、燃料圧力に応じて、第1駆動電流610を決定するとよい。
燃料圧力が増加して設定値以上となった場合、第1駆動電流610を大きくする、又は通電時間を長くすることで、開弁に必要な磁気吸引力を確保し、弁体214の挙動の安定性を高められる。結果として、最大位置高さおよび弁体214の開弁している開弁期間を正確に制御することができ、噴射量の精度を高められる。
燃料圧力が低下した場合については、第1駆動電流610を小さく補正することで、上述した噴射量の精度を高める効果がある。上記の補正を行うことで、ハーフリフトの条件すなわち弁体214が高さ位置Lhまでしか到達しないように制御する範囲において、燃料圧力が変化した場合であっても開弁開始から弁体214が高さ位置Lhに到達するまでの弁体変位量の傾きの変化を抑制でき、弁体214の挙動の安定性を高められる。
燃料圧力が大きくなると、弁体214に作用する差圧力が増加するため、噴射パルスTiを停止してから弁体214が閉弁するまでの閉弁遅れ時間が短くなる。差圧力は、弁体214が開弁開始してから影響を受けるため、最大高さ位置Lfよりも高さ位置Lhに到達した後の方が弁体214の挙動に与える影響が大きい。
燃料圧力が大きくなった場合、第1駆動電流610を大きくすることで、閉弁遅れ時間を大きくすることができ、燃料圧力が増加したことによる差圧力の増加が弁体214に与える影響と相殺できる。結果、燃料圧力の増加による弁体214の開弁時間および高さ位置Lhの変化を抑制でき、燃料圧力の変化に対して安定した動作が可能となる。
燃料圧力が増加する条件において、第1駆動電流610の補正を実施した場合の噴射量特性を図7のQ710に示す。弁体214の開弁期間と高さ位置Lhが同等である場合であっても、燃料圧力が変化すると、噴孔219を流れる燃料の流速が増加するため、噴射量が増加する。一般的に噴孔219のようなオリフィスでは、噴射量は燃圧の平方根に比例することが知られている。
燃料圧力が増加した場合に、弁体214の開弁期間の変化を抑制することで、ECU104で噴射量の変化を正確に演算することができ、噴射量の精度を高められる。結果、微小な噴射量を制御できることができ、多段噴射回数を増加させてPN抑制が可能となる。
また、燃料圧力が増加した場合、弁体214に働く差圧力が増加するため、弁体214を開弁状態で保持するのに必要な磁気吸引力が変化する。したがって、燃料圧力に応じて、第2駆動電流611を決定すると良い。具体的には、燃料圧力が増加すると、第2駆動電流611を増やして磁気吸引力を増加させると良い。
また、弁体214に作用する差圧力が増加することで、閉弁遅れ時間が短くなる。第2駆動電流611を増加させることで、閉弁遅れ時間が長くなるため、差圧力の増加による閉弁遅れ時間が短くなる影響を抑制する効果が得られる。結果、燃料圧力増加に伴う弁体214の閉弁遅れ時間と開弁期間の変化を抑制でき、噴射量の変化を抑制できるため、PN抑制効果を高められる。
なお、第1駆動電流610と第2駆動電流611の補正はハーフリフト領域742とフルリフト領域743の流量精度をそれぞれ高められるため、単独で補正しても対象とする領域において噴射量の精度を高める効果が得られる。
燃料圧力が増加した場合に、第1駆動電流610と第2駆動電流611を補正するときには、第2駆動電流611の電流の増加に比べて、第1駆動電流610の電流の増加が大きくなるように補正すると良い。第2駆動電流611の電流値を第1駆動電流610よりも小さくすることで、ソレノイド205に供給される電流を抑制でき、消費電力を抑制できる。
また、電流値の低下に伴いソレノイド205の発熱を抑制できるため、ソレノイド205の発熱に伴う温度変化を抑制でき、ソレノイド205の抵抗値の変化を抑制できる。ソレノイド205に供給される電流は、オームの法則より、ソレノイド205の抵抗値に依存するため、抵抗値の変化を抑制することで、電流の変化を抑制でき、噴射量の精度を向上する効果が高まる。なお、燃料圧力は、燃料配管105に取り付けた圧力センサ102の信号をECU104で検出できる。
また、弁体214を高さ位置Lhまでしか到達しないハーフリフトで駆動する条件においては、第1の電流保持期間P1で噴射パルスの幅を制御して、噴射量を制御すると良い。第1の電流保持期間P1では、第1駆動電流610の電流値が一定に保持されているため、バッテリ電圧VBが変動の影響を受けず、磁気吸引力を正確に制御することができる。その結果、弁体214の開弁期間を正確に制御でき、噴射量の精度を高められる。
また、弁体214が最大高さ位置に到達する前に、第1駆動電流610を停止すると良い。第1駆動電流610を停止することで、可動子202に作用する磁気吸引力が減少し、可動子202が固定コア207と衝突する前に、可動子202が減速する。この効果によって、可動子202が固定コア207と衝突することで生じる弁体214のバウンドを低減できる。結果、ハーフリフト領域742からフルリフト領域743に至るまでの流量の連続性を確保できる。
ハーフリフトからフルリフトに移行する区間に噴射量のうねりが生じると、エンジンの燃焼が不安定になる場合がある。第1実施形態における制御方法を用いることで、微小流量から大流量に至るまでの噴射量を正確に制御でき、エンジンの燃焼ロバスト性を高める効果が得られる。また、噴射量の連続性を確保することで、運転条件の変化に応じて噴射量を正確に制御できるため、ドライバビリティが高まる。
また、電流波形I4では、昇圧電圧VHの印加時間が長いために、昇圧電圧VHの低下が大きい。1吸排気行程中の燃料を分割して噴射する場合(分割噴射)、分割噴射の回数が多く、噴射と噴射のインターバルが小さい場合に、昇圧回路514でのコンデンサ533への蓄電が間に合わず、昇圧電圧VHが初期値に復帰しないため、昇圧電圧VHが小さい条件で、次の噴射を行う場合がある。
この結果、分割噴射で1回目に比べて、2回目の噴射において、ソレノイド205に流れる電流が小さくなり、昇圧電圧VHを印加してから最大駆動電流Ipeakに到達するまでの時間が長くなる。したがい、可動子202に作用する磁気吸引力の立ち上がりも遅れるため、弁体214の開弁開始タイミングも遅くなる。結果、分割噴射で1回目の噴射量に比べて、2回目の噴射量が小さくなり、混合気の均質度が悪化することで、PNが増加する場合がある。
本発明の第1実施形態における電流波形I6では、昇圧電圧VHを印加している期間が、電流波形I4に対して短いため、昇圧電圧VHの低下を抑制できる。この効果により、分割噴射の1回目と2回目の開弁開始タイミングが同等となり、燃料の噴射タイミングが一致し、弁体214の変位量を正確に制御することができるため、分割噴射における噴射量の精度を高められる。また、昇圧電圧VHの印加時間を短くすることで、昇圧回路514の発熱とECU104の消費電力を抑制でき、燃費を向上できる。
なお、第2駆動電流611において、噴射パルスがOFFになるとスイッチング素子505、506、507を非通電にする。スイッチング素子506、507が共に非通電となると、接地電位(GND)側へ電流が流れられなくなるため、燃料噴射装置101のインダクタンスによる逆起電力によって、電圧源側の端子の電圧が増大し、接地電位(GND)側からダイオード509と燃料噴射装置101、ダイオード510を介して高電圧源へ帰還され、コンデンサ533に電荷が蓄積される。
以上説明したように、本実施形態によれば、ハーフリフトからフルリフトにわたって噴射量精度を向上することができる。詳細には、ハーフリフトでの弁体の挙動を安定化させて噴射パルス幅に対する噴射量の傾きを小さくし、かつ弁体の開弁期間のばらつきを低減する。これにより、ハーフリフトでの噴射量精度を向上する。
(第2実施形態)
以下、図8〜図13を用いて、第2実施形態における燃料噴射装置の電流制御方法について説明する。図8は、本発明の第2実施形態における噴射パルス、燃料噴射装置に供給する駆動電流、弁体214および可動子202の挙動と時間の関係を示した図である。図中に各気筒の燃料噴射装置の個体1、個体2、個体3の弁体214および可動子202の変位801、802、803を記載する。
また、第2実施形態における制御装置は第1実施形態と同等とする。図9は、各気筒の燃料噴射装置における個体1、個体2、個体3の噴射パルス幅と噴射量の関係を示した図である。なお、図9には、各気筒の燃料噴射装置の噴射量特性の個体1を破線Q901、個体2を実線Q902、個体3を点線Q903で記載する。図8における噴射パルス820すなわち電流波形811を供給した場合の個体1、2、3の噴射量をそれぞれ点903、点902、点901に示す。
図10は、図8の開弁期間が異なる個体に対して、第1駆動電流を補正した場合の噴射パルス、駆動電流、変位量の関係を示した図である。
図11は、図10の駆動電流制御を用いた場合の個体1、2、3の噴射量特性を示した図である。個体1(変位801)の噴射量をQ1103、個体2(変位802)の噴射量をQ1102、個体3(変位803)の噴射量をQ1101に示す。
図12は、噴射パルス幅、駆動電流、ソレノイド205の端子間電圧Vinj、端子間電圧Vinjの2階微分値、変位量と時間の関係を示した図である。
図13は、ソレノイド205の端子間電圧Vinj、駆動電流、電流の1階微分値、電流の2階微分値、弁体変位量および時間の関係を示した図である。また、図中には、弁体変位のプロファイルが異なる個体1、2、3の駆動電流、電流1階微分値、電流2階微分値、弁変位量を記載する。
第2実施形態における第1実施形態との差異は、各気筒の燃料噴射装置に同じ電流波形を供給した場合に、各気筒の燃料噴射装置の寸法公差に伴う個体差によって、弁体214の変位量が異なる点である。
図8において、隙間G2が小さい順に個体1、個体2、個体3とし、個体1の可動子202の変位量を801a、弁体214の変位量を801、個体2の可動子202の変位量を802a、弁体214の変位量を802、個体3の可動子202の変位量を803a、弁体214の変位量を803とする。
隙間G2が最も小さい個体1では、可動子202と固定コア207との間の隙間G1が小さくなるため、可動子202に作用する磁気吸引力が大きくなる。結果、個体2に対して、開弁開始タイミングt82が早くなり、可動子202が弁体214に衝突する速度が大きくなる。速度増加に伴い弁体214が可動子202から受け取る運動エネルギーが増加するため、弁体214の変位が大きくなり、閉弁完了タイミングt88が遅くなる。その結果、弁体214の開弁期間および変位量の最大値が大きくなるため、個体2の噴射量すなわち点902に対して、点903に示すように噴射量が大きくなる。
一方で、隙間G2が最も小さい個体3では、隙間G1が大きくなるため、可動子202に作用する磁気吸引力が小さくなる。結果、個体2に対して、開弁開始タイミングt84が遅くなり、可動子202が弁体214に衝突する速度が小さくなる。速度の減少に伴い弁体214が可動子202から受け取る運動エネルギーが減少するため、弁体214の変位が小さくなり、個体2に対して閉弁完了タイミングt86が早くなる。その結果、弁体214の開弁期間および変位量の最大値が小さくなるため、個体2の噴射量すなわち点902に対して、点901に示すように噴射量が小さくなる。
以上で説明した通り、同じ駆動電流I6を供給した場合であっても燃料噴射装置の寸法公差の個体差によって、噴射量に個体ばらつきが生じる場合がある。Q903は、弁体214が開弁開始する際に、弁体214が可動子202から受け取る運動エネルギーが大きいことから、個体2に比べて可動子202が固定コア207に衝突するタイミングが早く、可動子202が固定コア207に衝突する速度が大きくなる。結果、可動子202が固定コアとの間でバウンドすることで、弁体214もバウンドし、910に示すように噴射パルスと噴射量の関係が非線形となる場合がある。
一方で、Q901は、弁体214が開弁開始する際に、弁体214が可動子202から受け取る運動エネルギーが小さいことから、個体2に比べて可動子202が固定コア207に衝突するタイミングが遅い。したがって、個体2に比べてハーフリフトの条件での弁体214の速度が小さいことから、可動子202に作用する磁気吸引力が小さい場合や、燃料圧力等が瞬間的に大きくなることで弁体214に作用する流体力が大きくなる場合、弁体214の挙動が不安定になる場合がある。
次に、図10、図11を用いて、上記の燃料噴射装置の個体差による噴射量の個体ばらつきを抑制するための駆動電流制御方法について説明する。個体1および個体3の噴射量を個体2に一致させる場合には、個体1の第1駆動電流の電流値を小さくし、個体3の第1駆動電流の電流値を大きく補正するとよい。
個体1の第1駆動電流を小さくすることで(610L)、可動子202に作用する磁気吸引力が小さくなる。その結果、閉弁遅れ時間が小さくなり、弁体214の開弁期間が短くなる。また、個体3の第1駆動電流を大きくすることで(610H)、可動子202に作用する磁気吸引力が大きくなり、弁体214の開弁期間が長くなる。
噴射量は、弁体214の変位量の積分値に比例するため、開弁期間が一致するように第1駆動電流の値を補正することで、1101に示すように各気筒間の噴射量のばらつきを抑制し、噴射量精度を向上できる。
換言すれば、制御装置150は、図10に示すように、駆動電流I10が最大駆動電流Ipeakになった後、最大駆動電流Ipeakよりも小さい第1駆動電流610を燃料噴射装置101に流すように制御し、第1駆動電流610の電流値を変更することで燃料噴射装置101の噴射量(開弁期間)を補正する。
詳細には、制御装置150は、少なくとも2つ以上の燃料噴射装置101に流す駆動電流I10を制御し、第1の燃料噴射装置101の噴射量が第2の燃料噴射装置101の噴射量よりも小さい場合に、第1の燃料噴射装置101の第1駆動電流610の電流値を大きくするように変更する(610H)。また、制御装置150は、少なくとも2つ以上の燃料噴射装置101に流す駆動電流I10を制御し、第1の燃料噴射装置101の噴射量が第2の燃料噴射装置101の噴射量よりも大きい場合に、第1の燃料噴射装置101の第1駆動電流610の電流値を小さくするよう変更する(610L)。
本実施形態では、特に、制御装置150は、第1駆動電流610の値を変更することで、弁体214の最大高さ位置Lfよりも低い高さ位置領域(ハーフリフト領域)における開弁期間を補正する。
なお、開弁期間の検出方法については、後述に詳細を記載する。上記は、各気筒の燃料噴射装置における噴射量の補正方法を示したが、1つの燃料噴射装置101において制御装置で演算する噴射量乃至噴射量から推定した開弁期間が目標値から乖離していた場合であっても上述する補正方法によって、噴射量ばらつきを低減する効果が得られる。
以上の方法によって制御装置で設定した噴射量乃至開弁期間の目標値に対する乖離値を小さくすることで、混合気の均質度を向上でき、PNを抑制することができる。また、気筒間の燃料噴射装置における噴射量のばらつきを小さくすることで、気筒間の混合気のばらつきを低減でき、PNの抑制効果が得られる。
また、吸気ポートの上流に取り付けたA/Fセンサを用いて各気筒の燃料噴射装置ごとの空燃費のズレを検出し、空燃費が一致するように第1駆動電流の値を補正するとよい。具体的には、A/Fが大きくリッチ、すなわち空気量に対して噴射量が大きい場合には、第1駆動電流の値を小さくし、噴射量が小さい場合には第1駆動電流の値を大きく補正するとよい。
燃料噴射装置101の個体差や、経年劣化等によって、オリフィス216にデポジットが付着することで、噴孔の断面積が変化して噴射量が変化する場合であっても、A/Fセンサを用いた方法では噴射量を推定することが可能であるため、個体差や経年劣化に対しての噴射量補正を精度よく行うことができる。
また、経年劣化等によってデポジットが付着し、噴孔219の内径が変化したか検出する手段として、各気筒の燃料噴射装置ごとに開弁期間を一致させるよう第1駆動電流を補正した後、A/Fセンサを用いて噴射量を推定し、各気筒間で噴射量がECU104で演算された目標に対して乖離しているか判定するよう噴射量の診断モードを設けるとよい。
なお、A/Fセンサを用いた補正を行う場合は、エンジン回転数が安定し、流入空気量の変動が少ない暖機後アイドルで行うとよい。流入空気量の変動が小さいことで、A/Fセンサで噴射量の変化を精度良く検出することができる。なお、診断はハーフリフトの状態で実施することで、弁体214の最大開度の個体差によらず、噴孔219の孔径の個体差を検出することができる。
この診断は、定期的すなわち車両の走行距離や、エンジン始動の回数などに応じて実施して、デポジットの付着を検出した場合、燃料噴射装置に供給する燃料圧力を増加させて、燃料の噴射速度を大きくすることで、デポジットを剥がすように噴射する制御を行うとよい。上記によれば、噴孔へのデポジット付着を抑制できるため、噴射量を正確に制御することができ、混合気の均質度を向上させて、PNを抑制できる。
また、噴射量は、各噴孔219の内径から求めた噴孔219の総断面積Aoと、弁体214の変位量から決まるシート部のシート断面積Asの比率に依存して決まるため、目標となる噴孔219の孔径の変化分から弁体214の変位量の目標値を計算し、各気筒の燃料噴射装置ごとに開弁期間の目標値を変えるよう補正してもよい。なお、弁体214の変位量と開弁期間の関係は予めECU104に設定しておくとよい。
また、冷機始動(ファストアイドル)や、暖機後アイドル以降のエンジン回転数が大きく変化する過渡的な条件で、弁体214の開弁期間を用いた補正に切替える制御を行うと良い。過渡的な条件で流入空気量が変化する場合であっても、弁体214に作用する力の変化が小さいため、弁体214の開弁期間は影響を受けにくい。したがって、上記の制御を用いることで、過渡的な条件であっても噴射量の精度を向上させることができ、PN低減が可能となる。
また、A/Fセンサを用いた噴射量診断モードは、第1駆動電流から第2駆動電流に以降した後のフルリフトの条件で行ってもよい。この場合、弁体214の開弁期間を検出した後、開弁期間が一致するように第2駆動電流の電流値を変更するとよい。
具体的には、開弁期間が短い個体に対しては第2駆動電流の電流値を大きく補正して、可動子202に作用する磁気吸引力を増加させることで、閉弁完了タイミングを遅くするとよい。フルリフト条件での噴射量診断では、噴孔219の内径の変化に加えて、最大開度の変化を検出することが可能となる。なお、最大開度を検出することで、フルリフトの条件での噴射量の変化を検出することができ、エンジンの回転数が大きく、噴射量が大きい条件での噴射量の補正精度を高めることができる。
また、ハーフリフトとフルリフトでの噴射量診断モードを複合して設けた場合、噴孔と最大開度の変化を独立して検出することができるため、噴射量の補正精度を向上し、PN低減効果が高まる。
なお、燃料噴射装置101の噴射量は、弁体214の変位量の積分値(開口面積)に依存して決まる。これは、上記で述べたとおりに、噴射量がシート部の圧力損失に伴って決まるため、断面積Asの影響を受けるためである。
なお、ハーフリフトの条件において、弁体214の変位量が大きい燃料噴射装置では、可動子202と固定コア207の間の磁気ギャップが小さいため、可動子202に作用する磁気吸引力が大きくなり、閉弁完了タイミングが遅れることで、開弁期間が大きくなる。
また、弁体214の変位量が小さい燃料噴射装置では、可動子202と固定コア207の間の磁気ギャップが大きいため、可動子202に作用する磁気吸引力が小さくなり、閉弁完了タイミングが早くなることで、開弁期間が小さくなる。したがって、弁体214の変位量と開弁期間は相関関係が成立するため、開弁期間を一致させることで、開口面積を一致させることが可能となる。
弁体214の開弁期間を目標として駆動電流を補正する方法を記載しているが、変位センサ等を燃料噴射装置に内蔵することで、開口面積が直接検出できる場合には、開口面積が一致するように駆動電流制御を行ってもよい。
なお、弁体214がフルリフトに到達してから以降に噴射量乃至開弁期間が各気筒の燃料噴射装置ごとにばらつく場合には、開弁期間が一致するように第2駆動電流611の電流値を変更するよう補正するとよい。
具体的には、開弁期間が短い個体に対しては、第2駆動電流611を大きく補正し、開弁期間が長い個体に対しては、第2駆動電流を小さく補正する。なお、各燃料噴射装置の開弁期間は、ハーフリフトの条件とはばらつきが異なる可能性があるため、フルリフトの開弁期間の補正を行う場合には、フルリフトの条件で開弁期間乃至噴射量を取得するとよい。
また、フルリフトの条件で開弁期間乃至噴射量の補正を行う場合には、第2駆動電流のほかに噴射パルス幅Tiを各気筒の燃料噴射装置ごとに補正してもよい。この場合、噴射パルス幅Tiと開弁期間乃至噴射量の関係を予めECU104に与えておくか、エンジンの運転モードの中に、検知モードを設けて噴射パルス幅を変化させた場合の開弁期間乃至噴射量を取得し、得られた取得情報から近似式を用いて算出するとよい。
噴射パルス幅Tiに対する開弁期間乃至噴射量の変化をECU104で演算することで、要求された開弁期間乃至噴射量に応じた噴射パルス幅Tiを算出でき、各気筒の燃料噴射装置ごとの噴射量ばらつきを抑制して、PNを抑制することが可能となる。なお、上記の検知モードは、例えばエンジンの運転開始(キーオン)からファストアイドルまでの区間に行ってもよい。この条件では、エンジン回転数がアイドル回転まで連続的に増加するため、燃料噴射装置101から噴射される噴射量も連続的に増加するため、噴射パルス幅と開弁期間乃至噴射量の関係を確実に取得することができる。
また、フルリフトの条件において、開弁期間乃至噴射量の補正を噴射パルスで行う場合には、電流値で補正する場合に比べて、開弁期間乃至噴射量の補正分解能を小さくできる。これは、電流値の分解能が、ソレノイド205に流れる電流を検出している抵抗508、512、513の素子の抵抗の精度で決まるのに対して、一般的に噴射パルス幅Tiは、抵抗の影響を受けずCPU501のクロック周波数に依存するためである。
ハーフリフトの条件での開弁期間の補正を第1駆動電流610で行い、フルリフトの条件での開弁期間の補正を噴射パルスで行うように、駆動電流と噴射パルスの補正を組合せて用いてもよい。
<開弁期間の検出方法>
次に、図5、12、13を用いて開弁期間の検出方法について説明する。弁体214の開弁期間は、弁体214が開弁を開始すなわち弁座218から離間してから弁体214が弁座218と接触するまでの時間である。したがって、閉弁を完了するタイミングt1205(閉弁完了タイミング)と、弁体214が開弁を開始する開弁開始タイミングt1202を検出することで、それらの差分から開弁期間を算出できる。
図12を用いて閉弁完了検知手段で行う閉弁完了タイミングを検知する原理とその検知方法について説明する。
ECU104もしくは駆動回路103は、可動子202の動作に伴って生じる誘導起電圧の変化を、ソレノイド205の端子間電圧の変化として検出することで、閉弁完了タイミングを検知する閉弁完了検知手段を備え、閉弁完了検知手段で得られた検知情報から開弁開始タイミングを推定する開弁開始推定手段を備える。
図12は、弁体214が高さ位置Lhまでしか到達しないハーフリフトで駆動される条件での弁体214の変位量とソレノイド205の端子間電圧Vinjおよび端子間電圧Vinjの2階微分値の関係を示した図である。図中には、ハーフリフトで駆動される場合の駆動電流、端子間電圧、端子間電圧の2階微分値、弁体214の変位量を実線で記載する。
図12より、タイミングt1203で噴射パルス幅TiがOFFになると、可動子202に発生していた磁気吸引力が低下し、磁気吸引力が弁体214と可動子202に作用する閉弁方向の力および可動子202が有する慣性力の合力を下回ったタイミングで可動子202とともに弁体214が閉弁を開始する。磁気回路の磁気抵抗の大きさは、各経路での磁路断面積と透磁率に反比例し、磁束が通る磁路長さに比例する。
可動子202と固定コア207との間のギャップの透磁率は真空の透磁率μ0=4π×10-7[H/m]であり、磁性材の透磁率に比べて非常に小さいため、磁気抵抗が大きくなる。磁性材の透磁率μは、B=μHの関係により、磁性材の磁化曲線の特性によって決まり、磁気回路の内部磁場の大きさによって変化する。一般的に低い磁場では、低い透磁率となり、磁場の増加に伴って透磁率が増加し、ある磁場を越えた時点で透磁率が減少するプロファイルとなる。
弁体214がタイミングt1204において、ハーフリフトでの変位の最大値から閉弁を開始すると、可動子202と固定コア207の間の磁気ギャップxが大きくなり、磁気回路の磁気抵抗が増加する。その結果、磁気回路に発生可能な磁束が減少し、可動子202と固定コア207の間を通過する磁束も減少する。ソレノイド205の磁気回路内部に発生している磁束が変化すると、レンツの法則による誘導起電力が発生する。一般的に、磁気回路における誘導起電力の大きさは、磁気回路に流れる磁束の変化率(磁束の1階微分値)に比例する。
ソレノイド205の巻き数をN、磁気回路に発生している磁束をφとすると、燃料噴射装置の端子間電圧Vは、式(1)に示すように、誘導起電力の項-Ndφ/dtとオームの法則によって生じるソレノイド205の抵抗Rとソレノイド205に流れる電流iの積との和で示される。
弁体214が弁座218と接触すると、可動子202は弁体214から離間するが、これまで弁体214を介して可動子202に作用していた第1のばね210による荷重と弁体214に働く燃料圧力による力の閉弁方向の力が作用しなくなり、可動子202は、開弁方向の力である第2のばね212の荷重を受ける。
可動子202に働く吸引力は、一般的に式(2)で導出することができる。式(2)より、可動子202に働く吸引力は、可動子202の吸引面の磁束密度Bの二乗に比例し、可動子202の吸引面積Sに比例する。
式(1)より、ソレノイド205の端子間電圧Vinjと可動子202の吸引面を通過する磁束φの1階微分値には対応関係がある。また、磁気ギャップxが大きくなると、可動子202と固定コア207との間の空間の面積が増加するため、磁気回路の磁気抵抗が増加し、可動子202と固定コア207の間を通過可能な磁束が減少するため、微小時間においては磁気ギャップと磁束φが1次近似の関係にあると考えることができる。
磁気ギャップxが小さい条件では、可動子202と固定コア207との間の空間の面積が小さいため、磁気回路の磁気抵抗が小さく、可動子202の吸引面を通過できる磁束が増える。一方で、磁気ギャップxが大きい条件では、可動子202と固定コア207との間の空間の面積が大きいため、磁気回路の磁気抵抗が大きく、可動子202の吸引面を通過可能な磁束が減少する。
また、磁束の1階微分値は、磁気ギャップxの1階微分値と対応関係にある。さらに、端子間電圧Vinjの1階微分値は、磁束φの2階微分値と対応し、磁束φの2階微分値は、ギャップxの2階微分値すなわち可動子202の加速度に相当する。したがって、可動子202の加速度の変化を検出するためには、端子間電圧Vinjの2階微分値を検出する必要がある。
噴射パルス幅TiをOFFにすると、ソレノイド205に負の方向の昇圧電圧VHが印加され、電流は1210のように急速に減少する。タイミングt13aで電流が0Aに達すると、負の方向の昇圧電圧VHの印加が停止されるが、磁気回路に残留する磁束の影響によって端子間電圧にテール電圧1211が生じる。
弁体214が弁座218と接触した瞬間に可動子202が弁体214から離間することで可動子202に働く力の変化を加速度の変化として、端子間電圧Vinjの2階微分値で検出できる。
ハーフリフトの動作において、噴射パルス幅Tiが停止された後、弁体214と連動して可動子202が閉弁動作を開始し、端子間電圧Vinjは負の値から緩やかに0Vに漸近していく。弁体214が閉弁後に、可動子202が弁体214から離間すると、これまで弁体214を介して可動子202に働いていた閉弁方向の力すなわち第1のばね210による荷重と燃料圧力による力が作用しなくなり、可動子202には、ゼロ位置ばね212の荷重が開弁方向の力として働く。
弁体214が閉弁位置に到達して可動子202に作用する力の向きが閉弁方向から開弁方向へ変化すると、これまで緩やかに増加していた端子間電圧Vinjの2階微分値が減少に転ずる。この端子間電圧Vinjの2階微分値の最大値を検出する閉弁完了検知手段をECU104もしくは駆動回路103が有することで、弁体214の閉弁完了タイミングを精度よく検出できる。
また、端子間電圧Vinjの2階微分値による閉弁完了タイミングの検知方法では、物理量として可動子202の加速度の変化を検出しているため、設計値や公差の変動および電流値等の環境条件の影響を受けず、精度良く閉弁完了タイミングを検出できる。なお、図12ではハーフリフトで弁体214が駆動される場合について説明したが、弁体214が最大開度に到達してから閉弁する場合であっても図12の方法と同様に閉弁完了タイミングを検知することができる。閉弁完了タイミングから開弁開始タイミングを推定する場合、予めエンジンの運転条件が比較的安定しているアイドルの条件等で、検知情報を取得しておくと良い。
次に、図13を用いて開弁開始タイミングの検出方法について説明する。図13は、端子間電圧Vinj、駆動電流、電流1階微分値、電流2階微分値、弁体214の変位量と噴射パルスON後の時間の関係を示した図である。なお、図13の駆動電流、電流の1階微分値、電流2階微分値および弁体214の変位量には、噴射量および弁体214の動作タイミングが異なる燃料噴射装置101の各個体3つのプロファイルを記載している。
図13より、最初に、ソレノイド205に昇圧電圧VHを印加することで、急速に電流を増加させて、可動子202に作用する磁気吸引力を増加させる。その後、駆動電流が最大駆動電流Ipeakに到達し、昇圧電圧VHを遮断する電圧遮断期間T2が終了するタイミングt1303までに、各気筒の燃料噴射装置である個体1、個体2、個体3の弁体214の開弁開始タイミングがくるように、最大駆動電流Ipeak、もしくは設定時間Tpと電圧遮断期間T2を設定するとよい。
バッテリ電圧VBの印加を続けて一定の電圧値1301が供給されている条件では、ソレノイド205への印加電圧の変化が小さいため、可動子202と固定コア207との間のギャップの縮小に伴う磁気抵抗の変化を誘導起電力の変化として検出することができる。
可動子202が移動を開始すると、可動子202と固定コア207との間のギャップが縮小するため、誘導起電力が大きくなり、ソレノイド205に供給される電流が1303のように緩やかに減少する。可動子202が固定コア207に到達するタイミングすなわち、弁体214が目標開度に到達した開弁完了タイミングでギャップの変化に伴う誘導起電力の変化が小さくなるため、電流値は1304のように緩やかに増加に転ずる。
誘導起電力の大きさは、ギャップの他に電流値の影響を受けるが、バッテリ電圧VBのように昇圧電圧VHに比べて低い電圧が印加されている条件では、電流の変化が小さいため、ギャップが変化することによる誘導起電力の変化を電流で検出し易い。
以上で説明した燃料噴射装置101の各気筒の個体1、個体2、個体3について、弁体214が目標開度に到達したタイミングを駆動電流が減少から増加へ転ずる点として検出するために、電流の1階微分を行い、電流の1階微分値が0となるタイミングt1304、t1305、t1306を開弁完了のタイミングとして検知するとよい。
また、ギャップの変化によって生じる誘導起電力が小さいような駆動部および磁気回路の構成では、必ずしもギャップの変化によって、電流が減少しない場合がある。しかし、開弁完了タイミングに到達することで、電流の傾きすなわち電流の微分値が変化するため、制御装置で検出した電流の2階微分値の最大値を検出することで、開弁完了タイミングを検知することができる。
その結果、磁気回路やインダクタンス、抵抗値、電流の制約を受けずに、開弁完了タイミングを安定して検知することができ、噴射量の補正精度を高められる。
また、開弁完了タイミングの検知は、弁体214と可動子202が一体となった可動弁の構成においても、弁体214と可動子202の別体構造で説明した開弁完了タイミングの検知を同様の原理で検出することができる。
開弁開始タイミングが早い個体については、可動子202に作用する磁気吸引力が大きく、可動子202が弁体214に衝突する際の速度が大きいため、弁体214の開弁速度が大きくなり、開弁完了タイミングも早くなる。
ECU104は、開弁完了タイミングを各気筒の燃料噴射装置ごとに検出することで、開弁完了タイミングから開弁開始タイミングを推定する開弁開始タイミングを推定する開弁開始推定手段を備えると良い。開弁完了タイミングから開弁開始タイミングを算出するための係数については予めECU104に与えておくとよい。
また、ECU104は、閉弁完了検知手段で得られた閉弁完了タイミングから開弁開始推定手段で得られた開弁開始タイミングを引くことで、弁体214の開弁期間を求める開弁期間検出手段を備える。換言すれば、制御装置150は、弁体214が弁座218と離間してから着座するまでの開弁期間を検出する開弁期間検出手段(装置又は機能)を備える。
(第3実施形態)
以下、図8、14を用いて、第3実施形態における燃料噴射装置の電流制御方法について説明する。図14は、本発明の第3実施形態における噴射パルス、燃料噴射装置に供給する駆動電流I14、弁体214および可動子202の挙動と時間の関係を示した図である。図中に各気筒の燃料噴射装置の個体1、個体2、個体3の弁体214および可動子202の変位を記載する。また、第3実施形態における制御装置は第1実施形態と同等とする。なお、図14では、図8で示した噴射量乃至開弁期間に個体差のある燃料噴射装置に対して、噴射量乃至開弁期間の個体差が小さくなるように最大駆動電流Ipeakの設定時間を補正している。
第3実施形態における第2実施形態との差異は、噴射量乃至開弁期間の補正に最大駆動電流Ipeakの設定時間または電流値を用いる点である。
図8より、同じ駆動電流I6を各気筒の燃料噴射装置に供給した場合、燃料噴射装置の個体差によって開弁期間がばらつき、噴射量に個体差が生じる。本第3実施形態における方法によれば、個体2(変位802)に対し、開弁期間が大きい個体1(変位801)に対しては、最大駆動電流の設定時間を1401にように短く補正し、開弁期間が小さい個体3(変位803)に対しては、最大駆動電流の設定時間を1403のように長く補正すると良い。結果、燃料噴射装置の個体差に伴う開弁期間のばらつきを低減し、噴射量の個体ばらつきが抑制されることで、混合気の均質度を向上させてPNを抑制できる。
換言すれば、制御装置150は、図14に示すように、設定時間(1401〜1403)で最大駆動電流Ipeakとなるように駆動電流I14を制御し、設定時間(1401〜1403)を変更することで、燃料噴射装置101の噴射量を補正する。
すなわち、制御装置150は、設定時間を変更することで、燃料噴射装置101の開弁期間を補正する。詳細には、制御装置150は、少なくとも2つ以上の燃料噴射装置101に流す駆動電流I14を制御し、第1の燃料噴射装置101の噴射量が第2の燃料噴射装置101の噴射量よりも小さい場合に、第1の燃料噴射装置101の設定時間を長くするように変更する(1403)。また、制御装置150は、少なくとも2つ以上の燃料噴射装置101に流す駆動電流I14を制御し、第1の燃料噴射装置101の噴射量が第2の燃料噴射装置101の噴射量よりも大きい場合に、第1の燃料噴射装置101の設定時間を短くするように変更する(1401)。
なお、最大駆動電流の設定時間については、噴射パルス幅TiがONとなるタイミングt1401から最大駆動電流を停止するまでの時間で設定するとよい。噴射パルス幅Tiは駆動回路103に入力されるため、ECU104からの信号に基づいて、最大駆動電流の停止時間を設定でき、精度良く噴射量の補正が可能となる。また、最大駆動電流の設定時間については、昇圧電圧VHがONとなるタイミングから最大駆動電流を停止するまでの時間で設定してもよい。噴射パルスTiがONとなってから昇圧電圧VHがONとなるまでには、IC502の制御遅れによって時間遅れが生じる場合があるが、昇圧電圧VHをトリガーとすることで、時間遅れの影響なく、最大駆動電流の設定時間を制御できる。結果、精度良く噴射量の補正が可能となる。
最大駆動電流の設定時間で噴射量を補正する場合、最大駆動電流の設定時間の設定分解能は、制御装置150の抵抗508、512、513の制約を受けず、CPU801のクロック周波数に応じて設定できるため、最大駆動電流の電流値(ピーク電流Ipeak)で設定する場合に比べて、開弁期間および噴射量を補正する際の分解能を小さくできる。その結果、高精度にソレノイド205の通電停止タイミングを決定することができ、各気筒の燃料噴射装置の開弁期間および噴射量の補正精度を高められる。また、開弁期間と噴射量の関係および開弁期間と噴射パルス幅Tiの関係を関数として予めECUのレジスタに設定しておくことで、目標の噴射量の要求値から各気筒の燃料噴射装置ごとに開弁期間および噴射パルス幅Tiを決定できる。
また、第1実施形態で説明した弁体214が開弁開始するよりも前に可動子202が滑走し、可動子202が弁体214に衝突することで、弁体214が開弁開始する燃料噴射装置においては、各気筒の燃料噴射装置101に対して、最大駆動電流の停止タイミングが弁体214の開弁開始タイミングと同時乃至早くなるように最大駆動電流の設定時間を設定すると良い。これによって、第1駆動電流に移行するタイミングを早められるため、ハーフリフトで噴射量を制御する範囲を微小噴射量側へ拡大できる。結果、多段噴射の回数を増加でき、混合気の均質度を向上させることで、PNを抑制できる。
また、最大駆動電流Ipeakの設定時間の終期を開弁開始タイミングよりも前に設定することで、最大駆動電流Ipeakの電流値を変化させて開弁開始タイミングを補正することができる。具体的には、開弁開始タイミングが早い燃料噴射装置の個体1(変位801)については図14に示す電流よりも最大駆動電流Ipeakを小さくし、開弁開始タイミングが遅い燃料噴射装置の個体3(変位803)については、図14に示す電流よりも最大駆動電流Ipeakを大きく補正すると良い。
例えば、個体1(変位801)において、最大駆動電流Ipeakを小さくすると、可動子202に作用する磁気吸引力が小さくなり、開弁開始タイミングを遅く補正できる。以上のように、最大駆動電流Ipeakの電流値および設定時間を調整することで、弁体214の開弁開始タイミングのばらつきを抑制できる。ECU104で演算される噴射パルス幅の通電タイミングに対して、各気筒の燃料噴射装置における弁体214の開弁タイミングの個体ばらつきを抑制することで、エンジンの燃焼室内のピストン壁面位置に対する燃料の噴射タイミングを揃えることができる。結果、エンジン筒内のピストン壁面への噴射燃料の付着を抑制でき、PNを抑制する効果が得られる。
以上で説明したとおり、開弁開始タイミングを各気筒の燃料噴射装置101ごとに揃えるために、最大駆動電流Ipeakの電流値乃至設定時間を用いる場合には、第1駆動電流の電流値を用いて開弁期間を補正すると良い。第1駆動電流の電流値で開弁期間を揃えることで、閉弁完了タイミングが各気筒の燃料噴射装置ごとに揃うため、エンジンのピストン位置に対する燃料噴射終了のタイミングのばらつきを抑制でき、混合気の均質度を向上できる。
また、ピストンの圧縮行程中に燃料を噴射する場合に上記で説明した駆動電流の制御手法を用いると良い。圧縮行程で燃料を噴射する場合には、噴射燃料がピストン壁面に付着しやすいため、本第3実施形態における駆動電流の制御手法の効果が高まる。
また、燃料圧力が高い場合には、弁体214に作用する差圧による力が増加する。したがって、最大開度に到達するまでに必要な磁気吸引力を大きくする必要があるため、最大駆動電流Ipeakを停止するタイミングを、弁体214の開弁開始タイミング以降としても良い。弁体214が開弁開始するまでに可動子202に大きな磁気吸引力を発生させることで、可動子202が弁体214に衝突する際の速度を大きくでき、燃料圧力が高い場合であっても弁体214を安定的に最大開度まで到達させることができる。
また、個体2(変位802)に対し、開弁期間が大きい個体1(変位801)に対しては、最大駆動電流Ipeakの電流値を小さく補正し、開弁期間が小さい個体3(変位803)に対しては、最大駆動電流Ipeakの電流値を大きく補正してもよい。換言すれば、制御装置150は、最大駆動電流Ipeakの電流値を変更することで、燃料噴射装置101の噴射量又は開弁期間を補正してもよい。
エンジンの回転数が高い条件や、1燃焼サイクル中の噴射を複数回に分割する条件では、ソレノイド205を高周波で駆動するため、ソレノイド205が発熱してソレノイド205の抵抗値が増加する場合がある。抵抗値が増加すると、ソレノイド205に流れられる電流が小さくなる。
開弁期間を個体ごとに調整する手段として最大駆動電流Ipeakを用いる場合、その消費電力は、最大駆動電流IPeakの電流値に依存して決まるため、開弁動作時に安定した磁気吸引力を与えるには、最大駆動電流IPeakを用いると良い。上述したように、最大駆動電流IPeakによる噴射量乃至開弁期間の補正は、エンジンが高回転または多段噴射の回数が大きい条件で行うと効果的である。
(第4実施形態)
以下、図15を用いて、第4実施形態における燃料噴射装置の電流制御方法について説明する。図15は、本発明の第4実施形態における噴射パルス、燃料噴射装置に供給する駆動電流I15、燃料噴射装置101のスイッチング素子505、506、507、ソレノイド205の端子間電圧Vinj、弁体214および可動子202の挙動と時間の関係を示した図である。図中に図6の電流波形を用いた場合の駆動第1駆動電流610を点線で記載する。また、第4実施形態における制御装置は第1実施形態と同等とする。第1実施形態の電流波形との差異は、第1の電流保持期間P1の電流値1501が電流値604よりも高く、最大駆動電流Ipeakを停止した後、ソレノイド205に昇圧電圧VHを印加して電流値1501に到達させ、さらに第1の電流保持期間P1から第2の電流保持期間P2への移行中に、ソレノイド205に負の方向の昇圧電圧VHを印加する点である。
本実施形態における電流波形では最大駆動電流Ipeak到達後に、スイッチング素子505、506、507を共に非通電とし、ソレノイド205に負の方向の昇圧電圧VHを印加して電流値を電流1521のように急速に低減する。なお、駆動電流I15が最大駆動電流値Ipeakに到達してから負の方向の昇圧電圧VHを印加する期間1520についてはCPU501もしくはIC501に予め時間として設定するか、電流値が閾値を下回るタイミングとして設定すると良い。
負の方向の昇圧電圧VHを時間で設定した場合、電流値に比べて時間分解能が高く、昇圧電圧VHの印加時間を正確に制御でき、第1駆動電流に到達する時間の精度が向上する。結果、ハーフリフトで噴射量を制御できる最小範囲を正確に決定できる。また、負の方向の昇圧電圧VHを印加する時間の終期を、最大駆動電流値Ipeakに到達してから電流値が閾値を下回ったタイミングとする場合、ソレノイド205の抵抗値の変化や、昇圧電圧VHの電圧値が変化した場合であってもタイミングt153での電流値を一定に保つことができ、電流値が減少することで生じる磁気吸引力の低下を抑制することが可能となる。
なお、負の方向の昇圧電圧VHの印加時間は、以上で述べた時間で設定する方法と、電流の閾値で設定する方法を組合せてもよい。具体的には、期間1520を時間で設定した後、その期間1520が経過後に電流が予めCPU501乃至IC502に設定した閾値を下回ったタイミングで昇圧電圧VHを印加して電流値を第1駆動電流1510に到達させると良い。結果、時間分解能を細かく設定できかつバッテリ電圧VBやソレノイド205の抵抗値の変化に対しても電流値を保つことができるため、噴射量の精度が向上できる。
期間1520が終了するタイミングt153で、スイッチング素子505、506を通電させて、ソレノイド205に昇圧電圧VHを印加させて電流を電流値1501にまで到達させる。昇圧電圧VHを印加して、電流値1501まで到達させることで、バッテリ電圧VBの変動を受けず、確実に電流値1501に到達させることができる。また、オームの法則により、バッテリ電圧VBに比べて、昇圧電圧VHの方がソレノイド205に供給できる電流値が大きいことから、タイミングt153から第1駆動電流1510に到達するまでの時間を短くでき、弁体214の変位量が小さい方向に制御範囲を拡大できる。
したがって、微小な噴射量を制御することが可能となる。その結果、多段噴射の条件において、吸気行程と圧縮行程とで噴射量の分割比が9:1のように、圧縮行程で極端に分割比の小さい噴射が要求される場合であっても要求噴射量を実現できる。そのため、均質度の向上や、点火プラグ周りに希薄な混合気を局所的に形成するような弱成層燃焼を実現でき、低燃費とPN抑制を両立できる。
電流値が第1駆動電流1510に到達すると、スイッチング素子505を非通電にして、スイッチング素子506、507を通電させて、ソレノイド205にバッテリ電圧VBを印加する。
第1の電流保持期間P1の電流値1501が電流値604よりも大きい場合、または、可動子202の開弁動作に伴って磁束の変化が大きくなり、誘導起電力が大きくなる条件では、第1の電流保持期間P1に到達した後にソレノイド205にバッテリ電圧VBを印加したとしてもソレノイド205に流れられる電流が小さくなり、電流値1501に到達しない場合がある。
この場合、第1の電流保持期間P1において、電流のスイッチング制御すなわちスイッチング素子507の通電・非通電が行われなくなり、ソレノイド205にはバッテリ電圧VBが印加されつづける。可動子202が最大高さ位置に到達すると、可動子202の開弁方向への移動に伴う誘導起電力の変化がなくなるため、電流1504のように電流値の傾きが変化する。
電流波形I15のように、バッテリ電圧VBが印加されつづける条件でハーフリフト領域742での噴射量を制御する場合、バッテリ電圧VBの変化に伴ってソレノイド205に供給される電流値が変化するため、可動子202に作用する磁気吸引力が変動する場合がある。例えば、第1の電流保持期間P1において、バッテリ電圧VBに接続されている車載機器が通電された場合、バッテリ電圧VBの電圧値が低下し、ソレノイド205に供給される電流値が減少して、磁気吸引力が低下する。結果、第1の電流保持期間P1で噴射パルス幅が停止された場合に、弁体214の最大変位および開弁期間が小さくなり、噴射量が小さくなる場合がある。
タイミングt153以降のバッテリ電圧VBの印加されている時間もしくは、スイッチング素子507の通電・非通電の状態をCPU501もしくはIC502で検出し、バッテリ電圧VBが印加され続ける場合には、第1の電流保持期間P1における目標の電流値1501を小さくすると良い。
バッテリ電圧VBの低下によって第1の電流保持期間P1での電流のスイッチング制御が行われなくなった状態を検出し、電流のスイッチング制御を行えるように目標の電流値1501を変化させることで、バッテリ電圧VBの通電/非通電が正常に行えるようにすると良い。結果、バッテリ電圧VBが変動した場合であっても可動子202に作用する磁気吸引力を保つことができ、ハーフリフト領域742での弁体214の変位量を正確に制御できる。結果、ハーフリフト領域742での微小な噴射量を精密に制御することができ、混合気の均質度を向上し、PNを抑制できる。具体的には、バッテリ電圧VBが印加され続ける場合、目標の電流値1501を下げるように制御すると良い。
また、タイミングt153後、電流が電流値1501に到達してからバッテリ電圧VBが印加され続ける場合には、スイッチング素子507を非通電、スイッチング素子506を通電にして、スイッチング素子505を通電・非通電することで、昇圧電圧VHの印加・停止を繰返すように制御しても良い。
昇圧電圧VHはバッテリ電圧VBの変動の影響を受けにくいため、電流値1501を維持しようとする第1の電流保持期間P1において、電流値のスイッチング制御を確実に行うことができるため、ハーフリフトの条件での弁体214を安定的に動作させることができる。
また、式(1)より、ソレノイド205に流れられる電流iは、印加電圧Vに依存するため、第1駆動電流を生成するためにバッテリ電圧VBよりも電圧値が高い昇圧電圧VHを用いることで、電流値1501が高い条件や可動子202の移動に伴う誘導起電力が大きい条件であっても第1駆動電流の電流値を保持することができ、開弁に必要な磁気吸引力を大きくできる。結果、ハーフリフトの条件での弁体214の安定性を確保できるため、噴射量の精度が向上することで混合気の均質度が向上し、PNを低減できる。また、燃料圧力が高い条件で第1駆動電流の生成に昇圧電圧VHを用いると良い。
昇圧電圧VHを用いる場合、電流をスイッチング制御する際の通電/非通電の時間幅が小さく、第1駆動電流の電流値1501と電流値の下限の差分が小さい。したがって、電流のスイッチングに伴う磁気吸引力の変動が小さくなるため、可動子202に作用する磁気吸引力の精度を高められる。結果、噴射量の精度が高まり、混合気の均質度が向上してPNを低減できる。
また、電流値1501(目標電流)を小さくしてもバッテリ電圧VBが印加されつづける場合には、昇圧電圧VHを通電・非通電する制御に切り替えを行うとよい。この結果、通常の駆動の場合は、昇圧電圧VHを使用する頻度を小さくして消費電力や昇圧回路514の発熱を抑制し、突発的にバッテリ電圧VBが大幅に低下した場合には、昇圧電圧VHで確実に弁体214の変位および開弁期間を制御することで、消費電力、発熱抑制と、ロバスト性を両立することができる。
また、第1駆動電流の生成には、昇圧電圧VHとバッテリ電圧VBを組合せてもよい。具体的には、タイミングt153以降に電流値が電流値1501に到達すると、バッテリ電圧VBを印加して電流を緩やかに低下させ、電流値が予め設定した閾値を下回るか、一定時間経過した後に昇圧電圧VHを印加して電流値を再び電流値1501に到達させるように電流制御を行う。
昇圧電圧VHを用いて電流値を確実に電流値1501に到達せて、バッテリ電圧VBの印加で電流を緩やかに低下させることで、第1駆動電流における電流のスイッチング幅を大きくして、電圧のスイッチング回数を低減することができる。結果、電流の変化の周期が緩やかになり、電圧のスイッチングに伴う磁気吸引力の変化を小さくでき、噴射量の精度が向上する。
また、可動子202および弁体214が最大開度に到達する前後で第1駆動電流から第2駆動電流に移行させた後は、バッテリ電圧VBの通電・非通電を行って第2駆動電流を生成すると良い。
可動子202が最大開度に到達した後は、ハーフリフトの条件に比べて弁体214に作用する差圧力が低下するため、昇圧電圧VHの印加からバッテリ電圧VBに切替えたとしても可動子202および弁体214を開弁状態で保持することができる。また、第1駆動電流に昇圧電圧VHを用いる場合であっても、第2駆動電流にバッテリ電圧VBを用いることで、昇圧電圧VHを使用する頻度を抑制でき、昇圧電圧VHの低下を抑制することができる。結果、多段噴射の条件において、次の噴射を行う場合に昇圧電圧VHの低下幅を抑制できるため、1回目の噴射と2回目の噴射の噴射量の変化を抑制でき、混合気の均質度を向上させてPN抑制が可能となる。
(第5実施形態)
以下、図8、16、17、18を用いて、第5実施形態における燃料噴射装置の電流制御方法について説明する。図16は、本発明の第5実施形態における噴射パルス、燃料噴射装置に供給する駆動電流I16、弁体214および可動子202の挙動と時間の関係を示した図である。図中に各気筒の燃料噴射装置の個体1、個体2、個体3の弁体214および可動子202の変位を記載する。図17は、第1駆動電流610の電流値および最大駆動電流値IPeakと噴射量の関係を示した図である。また、図18は、噴射量並びに第1駆動電流値および最大駆動電流Ipeakの電流値との関係を示した図である。なお、第5実施形態における制御装置は第1実施形態と同等し、噴射量および開弁期間の検出方法については第2実施形態に記載した方法と同様の手段を用いる。
第5実施形態における第2〜第3実施形態との差異は、噴射量乃至開弁期間の補正に最大駆動電流IPeakの設定時間または電流値および第1駆動電流の電流値を用いる点である。
図16より、図6で示した各気筒の燃料噴射装置に同一の駆動電流を供給した場合に、開弁期間が変動する個体に対して、最大駆動電流Ipeakの電流値乃至設定時間と第1駆動電流を用いて開弁期間が一致するように駆動電流を制御するとよい。すなわち、制御装置150は、最大駆動電流Ipeakの電流値、設定時間、又は第1駆動電流610の電流値を変更することで、燃料噴射装置101の開弁期間を補正するとよい。なお、図16には、最大駆動電流Ipeakの設定時間と第1駆動電流を用いた場合の駆動制御を示す。
ここで、燃料噴射システムにおいて、制御装置150は、例えば、設定時間で最大駆動電流Ipeakとなるように駆動電流I16を制御し、最大駆動電流Ipeakの電流値、又は設定時間で弁体214の開弁期間を補正すればよい。
図17より、第1駆動電流の電流値を用いて噴射量乃至開弁期間を補正する場合、噴射量の制御分解能は、駆動回路103の電流検出用の抵抗508、512、513の精度の影響を受ける。したがって、設定可能な第1駆動電流の分解能の制約により、噴射量を補正する調整精度が粗くなる場合がある。また、最大駆動電流Ipeakの設定時間乃至電流値を用いた場合にも同様である。
一般的に、電流の設定分解能が同じ場合、最大駆動電流Ipeakの設定時間乃至電流値に対する開弁期間および噴射量の傾きよりも、第1駆動電流の電流値に対する開弁期間および噴射量の傾きの方が小さくなる。例えば、最大駆動電流Ipeakの電流値を大きくした場合、弁体214の開弁開始直前もしくは直後からの可動子202に作用する磁気吸引力が大きくなり、弁体214の開弁期間及び噴射量が大きくなる。一方で、第1駆動電流の電流値を大きくした場合は、電流が第1駆動電流に移行した後の磁気吸引力が大きくなる。最大駆動電流Ipeakに比べて第1駆動電流の電流値の方が磁気吸引力に影響を与える範囲およびタイミングが遅いため、噴射量に与える感度が小さくなる。
図18に示した噴射量と第1駆動電流および最大駆動電流値Ipeakの関係より、噴射量1803よりも大きい噴射量1804を噴射するよう駆動電流を制御する場合には、最大駆動電流Ipeakを減少させ、第1駆動電流を大きく補正し、噴射量1805を噴射する場合には、最大駆動電流を大きくして、第1駆動電流を維持するように段階的に第1駆動電流と最大駆動電流Ipeakの電流値を組合せるとよい。
上記の制御方法によれば、噴射量の制御分解能を高められる。結果、各気筒の燃料噴射装置101ごとの噴射量のばらつきを抑制し、燃料と空気との混合気の均質度を向上させることでPN抑制が可能となる。また、最大駆動電流Ipeakの補正を電流値ではなく最大駆動電流Ipeakの設定時間を用いる場合であっても上述した駆動電流の制御方法で噴射量の精度を高めることができる。
(第6実施形態)
以下、図8、19を用いて、第6実施形態における燃料噴射装置の電流制御方法について説明する。図19は、本発明の第6実施形態における噴射パルス、燃料噴射装置に供給する駆動電流I19、弁体214および可動子202の挙動と時間の関係を示した図である。図中に各気筒の燃料噴射装置の個体1、個体2、個体3の弁体214および可動子202の変位を記載する。
なお、第6実施形態における制御装置は第1実施形態と同等し、噴射量および開弁期間の検出方法については第2実施形態に記載した方法と同様の手段を用いる。
第6実施形態における第3実施形態との差異は、駆動電流I19に最大駆動電流を保持する最大駆動電流保持期間Tmを設ける点にある。図8の駆動電流I6を補正する前において、開弁期間乃至噴射量が大きい個体1(変位801)については、最大駆動電流Ipeakの電流値乃至設定時間を短く補正し、最大駆動電流Ipeakに到達後、一定の電流が保持されるように電流制御を行う最大駆動電流Ipeak の保持期間(最大駆動電流保持期間Tmと称する)を設けるとよい。最大駆動電流保持期間Tmを設けることで、最大駆動電流Ipeakを小さくした場合であっても弁体214が目標開度に到達するのに必要な磁気吸引力を確保でき、ソレノイド205の発熱および消費電力を抑制する効果が得られる。
なお、最大駆動電流保持期間Tmでは、スイッチング素子505、506を通電させて、ソレノイド205に昇圧電圧VHの印加し、電流が最大駆動電流Ipeakに到達した後、スイッチング素子506を通電、スイッチング素子507を非通電にして実質的に0Vを一定時間または電流がECUで設定する電流下限の閾値を下回ったタイミングで再び昇圧電圧VHを印加するよう電流のスイッチング制御を行うとよい。第1及び第2の電流保持期間(P1、P2)に比べて、最大駆動電流保持期間Tmでは電流値が大きいため、バッテリ電圧VBでは印加電圧が不足して電流値が減少してしまう場合がある。最大駆動電流保持期間Tmに昇圧電圧VHを用いることで、電流値を確実に増加させることができ、安定的に電流値を維持することができる。
また、エンジンの回転数が高い条件や、多段噴射の回数が多い場合に、ソレノイド205の発熱によってソレノイド205の抵抗値が増加し、電流値の立上り(時定数)が遅くなる場合がある。この結果、弁体214の開弁開始タイミングが遅くなり、同じ噴射パルス幅Tiを供給した条件であっても噴射量が小さくなる場合がある。
最大駆動電流保持期間Tmを設けることで、ソレノイド205の抵抗の変化や、多段噴射時における昇圧電圧VHの低下等の要因によって、電流値の立上りが変化した場合であっても電流値を一定に保つことで、開弁に必要な磁気吸引力を確保できる。その結果、開弁開始タイミングの変化を抑制し、噴射量の補正精度を高めることができ、PN抑制効果が高まる。
図19に示した駆動電流I19の制御方法は、最大駆動電流Ipeakの設定時間を変化させた場合の一例であるが、最大駆動電流Ipeakの設定時間に加えて最大駆動電流保持期間Tmおよび第1駆動電流を変化させて開弁期間および噴射量を制御しても良い。
また、最大駆動電流保持期間Tmを各気筒の燃料噴射装置ごとに変化させることで、最大駆動電流Ipeakの電流値乃至設定時間および第1駆動電流で噴射量を補正する場合に比べて、電流の調整パラメータが1つ増加するため、噴射量の制御分解能が高く(細かく)なり、噴射量の補正精度を高められる。結果、混合気の均質度を向上させ、PNを抑制する効果が得られる。
また、最大駆動電流保持期間Tmでは、スイッチング素子505、506を通電させて、ソレノイド205に昇圧電圧VHを印加し、電流が最大駆動電流Ipeakに到達した後、スイッチング素子506、507を通電させてソレノイド205にバッテリ電圧VBを印加するよう電流のスイッチング制御を行ってもよい。
バッテリ電圧VBを用いることで、実質的に0Vを印加する場合に比べて、電流が減少する傾きを小さくすることができ、最大駆動電流保持期間Tmにおける電圧のスイッチング回数を抑制できる。この結果、磁気吸引力の時間変化を抑制することができるため、噴射量の補正精度を高めることができる。さらに、素子のスイッチングにより生じるECU104の発熱を抑制でき、ECU104に用いる放熱材を低減できるため、コスト抑制の効果が得られる。
また、燃料圧力が増加すると、弁体214および可動子202に作用する流体力が増加し、開弁に必要な磁気吸引力が大きくなる。燃料圧力の増加に応じて、最大駆動電流保持期間Tmを大きくするよう補正すると良い。この結果、燃料圧力が増加する場合であっても弁体214をフルリフトに確実に到達させることができ、かつハーフリフトでの弁体214のロバスト性を高める効果が得られる。
(第7実施形態)
以下、図20、21を用いて、第7実施形態における燃料噴射装置の構成および動作と燃料噴射装置の制御方法について説明する。図20は、第7実施形態における燃料噴射装置の可動子202および弁体214の近傍を拡大した断面図である。なお、図21は、本発明の7実施形態における噴射パルス、燃料噴射装置に供給する駆動電流、燃料噴射装置のスイッチング素子505、506、507、ソレノイド205の端子間電圧Vinj、弁体214および可動子202の挙動と時間の関係を示した図である。
第7実施形態における第1実施形態の燃料噴射装置との差異は、第3のばね234および中間部材220がなく、弁体214と弁座218と接触している状態で可動子202側の当接部と弁体214の当接部との間の隙間が0となる点である。
図20に示した燃料噴射装置は通常時閉型の電磁弁(電磁式燃料噴射装置)であり、ソレノイド205に通電されていない状態では、第1のばね210Aによって弁体214が閉弁方向に付勢され、弁体214は弁座218に密着して閉弁状態となっている。
閉弁状態においては、可動子202には、開弁方向にかかる第2のばね212による力が作用する。このとき、弁体214に作用する第1のばね210Aによる力のほうが、第2のばね212による力に比べて大きいため、可動子202の当接面302E(端面)が弁体214の端面に接触し、可動子202は静止している。
また、弁体214と可動子202とは相対変位可能に構成されており、ノズルホルダ201に内包されている。また、ノズルホルダ201は、第2のばね212のばね座となる端面303を有している。
なお、弁体214が開弁状態から閉弁する際に、弁体214が弁座218と接触した後、可動子202が弁体214から分離して閉弁方向に移動して、一定時間運動した後に、第2のばね212によって、閉弁状態の初期位置まで戻される。弁体214が閉弁完了する瞬間に可動子202が、弁体214から離間することで、弁体214が弁座218と衝突する瞬間の可動部材の質量を可動子202の質量分だけ低減することができるため、弁座218と衝突する際の衝突エネルギーを小さくすることができ、弁体214が弁座218に衝突することによって生じる弁体214のバウンドを抑制できる。
本実施形態の燃料噴射装置では、弁体214と可動子202とは、開弁時に可動子202が固定コア207と衝突した瞬間と、閉弁時に弁体214が弁座218と衝突した瞬間の短い時間、相対的な変位を生じることにより、可動子202の固定コア207に対するバウンドや弁体214の弁座218に対するバウンドを抑制する効果を奏する。
次に図21を用いて第7実施形態における燃料噴射装置の駆動方法について説明する。図21は、本発明の第7実施形態における噴射パルス、燃料噴射装置に供給する駆動電流I21、燃料噴射装置のスイッチング素子505、506、507、ソレノイド205の端子間電圧Vinj、弁体214および可動子202の挙動と時間の関係を示した図である。図21において、図6との差異は弁体214が開弁を開始した以降に、最大駆動電流Ipeakを停止して第1駆動電流を保持する第1の電流保持期間P1に移行する点である。
本第7実施形態における弁体214の駆動方法について説明する。最初に、タイミングt21において、CPU501より噴射パルス幅Tiが信号線110を通して駆動IC502に入力されると、スイッチング素子505とスイッチング素子506がONとなり、バッテリ電圧VBよりも高い昇圧電圧VHをソレノイド205に印加し、駆動電流I21が燃料噴射装置に供給され、電流が急速に立ち上がる。ソレノイド205に電流が供給されると可動子202と固定コア207との間に磁気吸引力が作用する。開弁方向の力である磁気吸引力と第2のばね212の荷重との合力が閉弁方向の力である第1のばね210Aと燃料圧力による差圧力の荷重の和を超えたタイミングで可動子202および弁体214が変位を開始し、燃料噴射装置から燃料が噴射される。
可動子202が弁体214に空走運動によって衝突しない第7実施形態の燃料噴射装置の構成では、弁体214が閉弁状態から開弁開始されて変位が小さく、差圧力が大きくなる開弁動作がし難くなるタイミングで磁気吸引力を大きくする必要性がある。最大駆動電流値Ipeakを停止するタイミングt33を弁体214が開弁開始するタイミングt32よりも遅くすることで、差圧力が大きくなるタイミングでの磁気吸引力を確保し、開弁時の弁体214の安定性を向上できる。結果、ハーフリフトの領域の弁体214の変位量および噴射期間を正確に制御することができ、噴射量の精度が高まるため、PN抑制の効果が大きくなる。
電流が最大駆動電流値Ipeakに達すると、スイッチング素子505、507を非通電とし、スイッチング素子506を通電することで、ソレノイド205には実質的に0Vが印加され、電流は電流2102のように最大駆動電流値Ipeakから緩やかに低下する。
図21における電流波形I21では、弁体214および可動子202が開弁方向に変位して、必要な磁気吸引力を確保した後、最大駆動電流IPeakを早いタイミングで停止することで、開弁の安定性を確保しつつ、弁体214の変位量の傾きを小さくできる。また、最大駆動電流IPeakを停止するタイミングt33を弁体214が開弁開始した後に設定することで、可動子202に発生する磁気吸引力が大きくなり、燃料圧力が大きい場合であっても弁体214を安定的に開弁状態まで制御可能である。結果として、弁体214の変位量が安定した状態でハーフリフト領域742での弁変位を制御でき、噴射量の精度を高められる。
第7実施形態における燃料噴射装置では、弁体214の開弁開始タイミングが燃料噴射装置に供給される燃料圧力に大きく依存する。燃料圧力が大きくなると、弁体214に作用する差圧力が増加するため開弁開始タイミングが遅くなる。したがって、燃料圧力が弁体214の変位量に与える影響が大きいことから、第1〜第6実施形態で説明した制御方法を第7実施形態の燃料噴射装置に適用することで、開弁期間のばらつきを抑制して、噴射量の精度向上の効果が高まり、PN抑制が可能となる。
また、第7実施形態における燃料噴射装置では、開弁開始タイミングが燃料圧力に依存して変化することから、開弁期間乃至噴射量を補正するため、燃料圧力に応じて、最大駆動電流Ipeakの電流値乃至設定時間、第1駆動電流の電流値、最大駆動電流保持期間Tmを変化させると良い。
(第8実施形態)
以下、図22を用いて、第8実施形態における燃料噴射装置の構成および動作について説明する。図22は、第8実施形態における燃料噴射装置の可動子202および弁体214の近傍を拡大した断面図である。
図22における第1実施形態の燃料噴射装置との差異は、第3のばね234および中間部材220がなく、ストッパ部材2251および薄板部材2252を有する点である。
弁体214には、ストッパ部材2251が圧入または溶接によって固定されている。また、可動子202には、薄板部材2252が可動子202の下端面2253で溶接によって固定されている。第2のばね212Aは、ストッパ部材2251と薄板部材2252との間に配置され、可動子202を閉弁方向に付勢している。
弁体214と可動子202との間には、隙間G5が設けられており、可動子202と固定コア207との間の隙間G6から隙間G5を差分した値が弁体214の最大位置高さとなる。なお、薄板部材2252には燃料通路孔2256が円周方向に複数設けられており、燃料噴射装置の上流から流れてきた燃料は、可動子202の燃料通路孔2255、燃料通路孔2256を通って下流に流れる。
次に燃料噴射装置の動作について説明する。なお、駆動回路の構成および電流を生成する手段については第1実施形態と同等とする。ソレノイド205に電流が供給されると、可動子202に磁気吸引力が作用する。磁気吸引力が第2のばね212Aの荷重を超えたタイミングで可動子202は開弁方向に変位を開始する。可動子202が隙間G5を変位すると、可動子202が弁体214のつば部329の下側端面に衝突し、弁体214が開弁を開始して、噴孔219より燃料が噴射される。
可動子202が隙間G6を変位すると、可動子202が固定コア207に衝突し、可動子202と弁体214は最大高さ位置に到達する。可動子202が弁体214に衝突して開弁する効果は、第1実施形態で説明した通りであるが、第8実施形態に示す構成では、第3のばね234と中間部材220の部品がないため、部品点数が少なく、コストを低減できる効果がある。
しかしながら、可動子202が固定コア207と衝突した際には、第2のばね212Aが可動子202のバウンドを抑制する開弁方向に作用せず、可動子202を閉弁方向に付勢するため、弁体214との間でバウンドが収束しにくい。したがって、可動子202が開弁位置に到達した後のフルリフト領域743において、噴射量と噴射パルスの関係が非線形となり、噴射量ばらつきが生じる場合がある。
図22における燃料噴射装置では、ソレノイド205に電流を供給して、第1駆動電流に到達した後、可動子202が最大高さ位置に到達するよりも前に、ソレノイド205に負の方向の昇圧電圧VHを印加すると良い。結果、可動子202に働く磁気吸引力が急速に低下し、第1のばね210と、弁体214に作用する差圧力によって可動子202を減速させることで、可動子202が固定コア207に衝突する際の速度を低減し、可動子202のバウンドを抑制できる。その結果、弁体214のバウンドを低減し、弁体214が最大高さ位置に到達した後の噴射量の精度を向上できる。
また、可動子202の固定コア207と対向する面がほぼ平坦である場合、可動子202の燃料通路孔2255が固定コア207で遮られて、かつ弁体214のつば部329と固定コア207の内径との隙間が小さくなるため、有効な燃料通路の断面積を確保しにくい。
この場合、固定コア207の内径にテーパ面2260を設けて、固定コア207と弁体214との間の燃料通路を確保すると良い。また、可動子202の燃料通路の径方向の位置は、弁体214のつば部329の外径よりも外径側にあるとよい。この効果によって、可動子202の燃料通路の断面積がつば部329によって縮小するのを抑制できる。また、弁体214と可動子202の接触面積を増やせるため、可動子202が弁体214に衝突する際の衝突荷重を低減する効果が得られる。結果、弁体214および可動子202の衝突面の摩耗を抑制し、噴射量変化を抑制でき、噴射量の精度を高められる。
また、固定コア207の可動子202と対向する面におけるテーパ面2260の終端部2261が可動子202の燃料通路孔2255の外径よりも内径側に位置すると良い。可動子202と固定コア207との間の隙間が小さくなると、スクイーズ効果によって、可動子202と固定コア207間の燃料の圧力が上昇し、可動子202の運動を妨げる方向に差圧力が生じる。
可動子202の燃料通路孔2255の外径が、テーパ面2260の終端部2261よりも外径に位置することで、可動子202の移動に伴う可動子202と固定コア207との間の排除流量が、燃料通路断面積が拡大する燃料通路孔2255側に流れやすくなり、可動子202に作用する差圧力を低減する効果がある。
また、弁体214と固定コア207との間および可動子202の燃料通路の断面積を大きくすることで、燃料が燃料通路を通過したことによる圧力損失を抑制でき、弁体214および可動子202の上下差圧を小さくすることができ、弁体214および可動子202に作用する差圧力を小さくできる。結果、可動子202に作用する非線形な差圧力の影響を抑制することで、可動子202および弁体214の挙動の安定性が高まり、噴射量の精度を向上できる。
また、燃料圧力の増加にともなって、可動子202および弁体214に作用する差圧力が大きくなるため、差圧力を低減することで、高い燃料圧力の条件でも可動子202および弁体214を動作させることができる。燃料圧力が増加することで、噴孔219より噴射される燃料の粒子径を小さくできるため、混合気の均質度が向上し、PNを抑制できる。
また、第8実施形態で説明した燃料噴射装置は、第1〜第6実施形態で説明した駆動電流波形の制御方法を用いて制御するとよい。
(第9実施形態)
以下、図23、24を用いて、第9実施形態における燃料噴射装置の電流制御方法について説明する。図23は、本発明の第9実施形態における噴射パルス、燃料噴射装置に供給する駆動電流I23、弁体214および可動子202の挙動と時間の関係を示した図である。図中に各気筒の燃料噴射装置の第1のばね210の荷重が異なる個体2301、個体2302の弁体214および可動子202の変位を記載する。図24は、第9実施形態における駆動電流I23の制御を行った場合の噴射量特性を示した図である。
なお、第9実施形態における制御装置および燃料噴射装置は第1実施形態と同等し、噴射量および開弁期間の検出方法については第2実施形態に記載した方法と同様の手段を用いる。また、第9実施形態における制御方法は、第7〜第8実施形態の燃料噴射装置と組合せて使用してもよい。
第9実施形態における第2実施形態との差異は、ハーフリフトの補正に駆動電流I23と噴射パルスを用いる点である。
図23の弁変位には、第1のばね210が弱い個体2301と第1のばね210が強い個体2302の挙動を示す。弁体214の開弁期間を個体2301に一致させるよう、2303に示すように個体2302の第1駆動電流の電流値を大きく補正する場合に、開弁期間の乖離値が大きいと、電流値が飽和する場合がある。
式(1)で示したとおり、ソレノイド205の抵抗Rおよび印加する電圧Vが一定とすると、ソレノイド205に流れられる電流の上限が決まる。さらにハーフリフトの条件おいては、弁体214の変位量の変化によって、誘導起電圧に伴う電圧低下が生じることで、ソレノイド205に流れられる電流が低下する。
電流値を大きく補正した場合であっても開弁期間が一致させられない場合、噴射パルスに対する開弁期間の増加すなわち、閉弁完了タイミングの増加が一致するように第1駆動電流の電流値を補正するとよい。
図24には、図23における個体2301の噴射量特性をQ2301と個体2302の噴射量特性をQ2302に示す。ハーフリフトで、噴射パルスに対する開弁期間の増加量を一致させることで、同一の噴射量2401で比較した場合に、Q2301とQ2302の噴射パルス幅Tiの差分は、平行成分2402のように噴射パルス幅Ti方向の平行成分となる。
駆動電流I23を補正した後、噴射パルス幅と、開弁期間乃至噴射量の関係を各気筒の燃料噴射装置ごとに取得し、噴射パルス幅Ti方向の平行成分2402を算出することで、ECU104で要求の噴射量に応じた噴射パルス幅を適切に決定することができる。結果、噴射量の精度が向上し、PNの低減が可能となる。
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
また、上記の各構成、機能等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。