以下、本発明の実施の形態及びその参照例について図を用いて説明する。
[参照例1]
以下、図1〜図7を用いて、本発明に係る燃料噴射装置と駆動装置とを備えた燃料噴射システムの動作について説明する。
最初に、図1を用いて、燃料噴射装置及びその駆動装置の構成と基本的な動作を説明する。図1は、燃料噴射装置の縦断面図とその燃料噴射装置を駆動するための駆動回路121、ECU(エンジンコントロールユニット)120の構成の一例を示す図である。本実施例ではECU120と駆動回路121とは別体の装置として構成されているが、ECU120と駆動回路121は一体の装置として構成されてもよい。なお、ECU120と駆動回路121とで構成される装置を以下、駆動装置として説明する。
ECU120では、エンジンの状態を示す信号を各種センサから取り込み、内燃機関の運転条件に応じて燃料噴射装置から噴射する噴射量を制御するための噴射パルスの幅や噴射タイミングの演算を行う。ECU120より出力された噴射パルスは、信号線123を通して燃料噴射装置の駆動回路121に入力される。駆動回路121は、ソレノイド105に印加する電圧を制御し、電流を供給する。ECU120は、通信ライン122を通して、駆動回路121と通信を行っており、燃料噴射装置に供給する燃料の圧力や運転条件によって駆動回路121によって生成する駆動電流を切替えることや、電流および時間の設定値を変更することが可能である。駆動回路121は、ECU120との通信によって制御定数を変化できるようになっており、制御定数に応じて電流波形の設定値を変化させることができる。
次に、図1の燃料噴射装置の縦断面と図2の可動子102a、102bおよび可動部材114の近傍を拡大した断面図を用いて、燃料噴射装置の構成と動作について説明する。なお。可動子102aと可動子102bは、一体の部品として構成されていても良い。可動子102aと可動子102bで構成される部品を可動子102と称する。図1および図2に示した燃料噴射装置は通常時閉型の電磁弁(電磁式燃料噴射装置)であり、ソレノイド(コイル)105に通電されていない状態では、第1のばねであるスプリング110によって可動子102bが閉弁方向に付勢され、可動子102bの弁体114側の端面207と弁体114の上部端面が接触している。このとき、弁体114には、可動子102bを介して、セットスプリング110による荷重が作用するため、弁体114は、弁座118に向けて付勢され、弁座118に密着して閉弁状態となっている。閉弁状態においては、可動子102には、閉弁方向にかかるスプリング110による力と、開弁方向にかかる第2のばねの戻しばね112による力が作用する。このとき、スプリング110による力のほうが、戻しばね112による力に比べて大きいため、可動子102bの端面207が弁体114に接触し、可動子102は静止している。また、閉弁状態においては、弁体114の可動子102aとの当接面205と可動子102aとの間には、空隙201を有している。また、この状態では、可動子102と固定コア107との間には隙間がある状態となっている。また、弁体114と可動子102とは相対変位可能に構成されており、ノズルホルダ101に内包されている。また、ノズルホルダ101は、戻しばね112のばね座となる端面208を有している。スプリング110による力は、固定コア107の内径に固定されるバネ押さえ124の押し込み量によって組み立て時に調整されている。なお、ゼロ位置ばね112の付勢力はスプリング110の付勢力よりも小さく設定されている。
また、燃料噴射装置は、固定コア107、可動子102、ノズルホルダ101、ハウジング103とで磁気回路を構成しており、可動子102と固定コア107との間に空隙を有している。ノズルホルダ101の可動子102と固定コア107との間の空隙に対応する部分には磁気絞り111が形成されている。ソレノイド105はボビン104に巻き付けられた状態でノズルホルダ101の外周側に取り付けられている。弁体114の弁座118側の先端部の近傍にはロッドガイド115がノズルホルダ101に固定されるようにして設けられている。このロッドガイド115はオリフィスカップ116と同一の部品として構成されても良い。弁体114はロッドガイド115により、弁軸方向の動きをガイドされている。ノズルホルダ101の先端部には、弁座118と燃料噴射孔119とが形成されたオリフィスカップ116が固定され、可動子102と弁体114とが設けられた内部空間(燃料通路)を外部から封止している。
燃料噴射装置に供給される燃料は、燃料噴射装置の上流に設けられたレール配管から供給され、第一の燃料通路孔131を通って弁体114の先端まで流れ、弁体114の弁座118側の端部に形成されたシート部と弁座118とで燃料をシールしている。閉弁時には、燃料圧力によって弁体114の上部と下部の差圧が生じ、燃料圧力と弁座位置におけるシート内径の受圧面とを乗じた力で弁体114が閉弁方向に押されている。閉弁状態においては、弁体114の可動子102aとの当接面205と可動子102aとの間には、空隙201を有している。ソレノイド105に電流が供給されると、磁気回路によって発生する磁界により、固定コア107と可動子102との間に磁束が通過し、可動子102に磁気吸引力が作用する。可動子102に作用する磁気吸引力が、セットスプリング110による荷重を超えるタイミングで、可動子102は、固定コア107の方向に変位を開始する。このとき、弁体114と弁座118が接触しているため、可動子102の運動は、燃料の流れが無い状態で行われ、燃料圧力による差圧力を受けている弁体114とは分離して行われる空走運動であるため、燃料の圧力などの影響を受けることがなく、高速に移動することが可能である。
可動子102の変位量が、空隙201の大きさに達すると、可動子102が弁体114に当接面205を通じて力を伝達し、弁体114を開弁方向に引き上げる。このとき、可動子102は、空走運動を行って、運動エネルギーを有した状態で弁体114と衝突するため、弁体114は、可動子102の運動エネルギーを受取り、高速に開弁方向に変位を開始する。弁体114には燃料の圧力に伴って生じる差圧力が作用しており、弁体114に作用する差圧力は、弁体114のシート部近傍の流路断面積が小さい範囲において、シート部の燃料の流速が増加し、ベルヌーイ効果による静圧低下に伴って生じる圧力降下によって弁体114先端部の圧力が低下することで生じる。この差圧力は、シート部の流路断面積の影響を大きく受けるため、弁体114変位量が小さい条件では、差圧力が大きくなり、変位量が大きい条件では、差圧力が小さくなる。したがって、弁体114が閉弁状態から開弁開始されて変位が小さく、差圧力が大きくなる開弁動作がし難くなるタイミングで、弁体114の開弁が可動子102の空走運動によって衝撃的に行われるため、より高い燃料圧力が作用している状態でも開弁動作を行うことができるようになる。あるいは、動作できることが必要な燃料圧力範囲に対して、より強い力にスプリング110を設定することができる。スプリング110をより強い力に設定することで、後述する閉弁動作に要する時間を短縮することができ、微小噴射量の制御に有効である。
弁体114が開弁動作を開始した後、可動子102は固定コア107に衝突する。この可動子102が固定コア107に衝突する時には、可動子102は跳ね返る動作をするが、可動子102に作用する磁気吸引力によって可動子102は磁気コアに吸引され、やがて停止する。このとき、可動子102には戻しばね112によって固定コア107の方向に力が作用しているため、跳ね返りの変位量を小さくでき、また、跳ね返りが収束するまでの時間を短縮することができる。跳ね返り動作が小さいことで、可動子102と固定コア107の間のギャップが大きくなってしまう時間が短くなり、より小さい噴射パルス幅に対しても安定した動作が行えるようになる。
このようにして開弁動作を終えた可動子102および弁体114は、開弁状態で静止する。開弁状態では、弁体114と弁座118の間には隙間が生じており、燃料が噴射されている。燃料は固定コア107に設けられた中心孔と、可動子102に設けられた上部燃料通路孔と、可動子102に設けられた下部燃料通路孔を通過して下流方向へ流れるようになっている。
ソレノイド105への通電が断たれると、磁気回路中に生じていた磁束が消滅し、磁気吸引力も消滅する。可動子102に作用する磁気吸引力が消滅することによって、弁体114はスプリング110の荷重と、燃料圧力による力によって、弁座118に接触する閉位置に押し戻される。
また、可動子102が、可動子102aと可動子102bに分かれている場合、弁体114が弁座118と接触している閉弁状態において、可動子102bは、その外径に設けられたつば部211で可動子102aと接触しており、可動子102bは、接触面207で弁体114の上部端面と接触している。可動子102aが初期位置から開弁動作する際には、可動子102bも協働して開弁動作を行うように構成されている。
また、可動子102aと可動子102bは、摺動面206で摺動できるよう構成されており、弁体114が開弁状態から閉弁する際に、弁体114が弁座118と接触した後、可動子102aが弁体114、可動子102bから分離して閉弁方向に移動して、一定時間運動した後に、戻しばね112によって、閉弁状態の初期位置まで戻される。
弁体114が閉弁完了する瞬間に可動子102aが、可動子102bおよび弁体114から離間することで、可動子102の質量を低減することができるため、弁座118と衝突する際の衝突エネルギーを小さくすことができ、弁体114が弁座118に衝突することによって生じる、弁体114のバウンドを抑制することができる。
弁体114が目標リフト位置で静止している状態すなわち、開弁状態において、可動子102と固定コア107が相対する環状端面には、可動子102か固定コア107のどちらか一方もしくは両方に衝突部の突起部が設けられている。また、突起部によって、開弁状態において、可動子102もしくは固定コア107の突起部以外の可動子102もしくは、固定コア107側との面との間には、空隙を有しており、開弁状態で突起の外径方向と内径方向に流体が移動可能な燃料通路が一つ以上設けられている。以上の突起と燃料通路の効果によって、可動子102と固定コア107間の微少隙間の圧力変化によって可動子102の移動を妨げる方向に生じるスクイーズカを低減できるため、噴射パルスを停止してから弁体114が閉弁するまでの閉弁遅れ時間を低減できる効果がある。一般的に、磁気特性が良いマルテンサイト系もしくは、フェライト系のステンレス鋼では、材料の硬度および強度が低く、マルテンサイト系ステンレス鋼においては、硬度を大きくするために熱処理を行うと磁気特性が低下する場合がある。可動子102と固定コア107の衝突による突起部の摩耗を防ぐため、突起部を設けた端面に硬質クロムメッキなどのメッキ処理を行う場合がある。弁体114が閉位置に押し戻される動作では、可動子102は弁体114の規制部114aと係合した状態で一緒に移動する。
本実施例の燃料噴射装置では、弁体114と可動子102とは、開弁時に可動子102が固定コア107と衝突した瞬間と、閉弁時に弁体114が弁座118と衝突した瞬間の非常に短い時間、相対的な変位を生じることにより、可動子102の固定コア107に対するバウンドや弁体114の弁座118に対するバウンドを抑制する効果を奏する。
なお、上記のように構成されることにより、スプリング110は磁気吸引力による駆動力の向きとは逆向きに弁体114を付勢しており、戻しばね112はスプリング110の付勢力とは逆向きに可動子102を付勢している。
次に、本発明における燃料噴射装置を駆動する駆動装置121から出力される噴射パルスと燃料噴射装置のソレノイド105の端子両端にかかる駆動電圧と、駆動電流(励磁電流)と燃料噴射装置の弁体114の変位量(弁体挙動)との関係(図3)、及び噴射パルスと燃料噴射量との関係(図4)について説明する。
駆動回路121に噴射パルスが入力されると、駆動回路121はバッテリ電圧よりも高い電圧に昇圧された高電圧源からソレノイド105に高電圧301を印加し、ソレノイド105に電流の供給が開始される。電流値が予めECU120に設定されたピーク電流値Ipeakに到達すると、高電圧301の印加を停止する。その後、印加する電圧値を0V以下にし、電流302のように電流値を低下させる。電流値が所定の電流値304より小さくなると、駆動回路121はバッテリ電圧VBの印加をスイッチングによって行い、所定の電流303が保たれるように制御する。
このような供給電流のプロファイルにより、燃料噴射装置は駆動される。高電圧301の印加からピーク電流値Ipeakに達するまでの間に、可動子102がタイミングt31で変位を開始し、その変位が空隙201を移動するタイミングt32で可動子102が弁体114に衝突し、その衝撃を利用して弁体114の変位が急峻に大きくなり、その後、保持電流303に移行するより前に弁体114が目標リフトの位置に到達する。目標リフト位置到達後は、可動子102と固定コア107との衝突により、可動子102がバウンド動作を行い、弁体114は可動子102に対して相対変位可能に構成されているため、弁体114はアンカー102から離間し、弁体114の変位は、目標リフト位置を越えて変位する。その後、保持電流303が生成する磁気吸引力と戻しばね112の開弁方向の力によって、可動子102は、所定の目標リフト位置に静止し、また、弁体114も目標リフト位置で静止するため、安定した開弁状態となる。
弁体114と可動子102が一体となっている可動弁を持つ燃料噴射装置の場合、弁体114の変位量は、目標リフト位置よりも大きくならず、目標リフト到達後の可動子102と弁体114の変位量は同等となる。可動子102と弁体114が一体の燃料噴射装置の場合、一体部品(以降、可動弁と称する)が磁気回路の構成部品となって磁気吸引力を発生させ、弁座118との開・閉弁を行う2つの機能を有する。なお、可動子102が、可動子102aと可動子102bに分かれている場合、弁体114が閉弁位置に到達した後に、可動子102bは弁体114の上部端面と接触して静止するが、可動子102aは、弁体114から離間して閉弁方向に移動する。可動子102aが一定時間運動した後に、戻しばね112によって、閉弁状態の初期位置まで戻される。弁体114が開弁完了する瞬間に可動子102aが、可動子102bおよび弁体114から離間することで、可動子102の質量を低減することができるため、弁座118と衝突する際の衝突エネルギーを小さくすることができ、弁体114が弁座118に衝突することによって生じる弁体114のバウンドを抑制することができる。また、可動子102aの質量よりも、可動子102bの質量の方が小さくなるように構成されていると良い。この効果により、弁体114が弁座118と衝突することによる衝撃力を小さくできるため、弁体114が弁座118に衝突することにより生じる弁体114のバウンドを抑制でき、弁体114と弁座118が接触した後の意図しない噴射を抑制できる。次に、図4を用いて噴射パルス幅Tiと燃料噴射量との関係について説明する。噴射パルス幅Tiが一定の時間に達しない条件では、可動子102に作用する磁気吸引力が、可動子102に作用するセットスプリング110による力を上回らないため、弁体114は開弁せず、燃料は噴射されない。また、可動子102に作用する磁気吸引力が、セットスプリング荷重を上回った場合であっても、可動子102が助走区間である空隙201を移動しきれずに、噴射パルスが停止され、可動子102に作用する磁気吸引力と可動子102の持つ開弁方向の慣性力が、セットスプリング110による力より小さくなった場合であっても燃料は噴射されない。噴射パルス幅Tiが短い、例えば401のような条件では、弁体114は弁座118から離間し、リフトを開始するが、弁体114が目標リフト位置に達する前に閉弁を開始するため、直線領域420から外挿される一点鎖線330に対して噴射量は少なくなる。また、点402のパルス幅では、目標リフト位置に達する直後で閉弁を開始し、弁体114の軌跡が放物運動となる。この条件においては、弁体114が有する開弁方向の運動エネルギーが大きく、また、可動子102に作用する磁気吸引力が大きいため、閉弁に要する時間の割合が大きくなり、一点鎖線330に対して噴射量が多くなる。点403の噴射パルス幅では、目標リフト到達後の可動子102のバウンド量が最大となるタイミングt343において閉弁を開始する。このとき、可動子102と固定コア107が衝突する際の反発力が可動子102に働き、噴射パルスをOFFしてから弁体114が閉弁するまでの閉弁遅れ時間が小さくなり、その結果噴射量は一点鎖線330に対して少なくなっている。点404は、可動子102のバウンドおよび弁体114のバウンドが収束した直後のタイミングt35に閉弁を開始する状態であり、噴射パルスTiが点404より大きくなる条件では、噴射パルス幅Tiの増加に応じて、閉弁遅れ時間が略線形的に増加するため、燃料の噴射量が線形的に増加する。燃料の噴射が開始されてから、点404で示すパルス幅Tiまでの領域では、弁体114が目標リフトに到達しないかもしくは、弁体114が目標リフトに到達したとしても弁体114のバウンドが安定しないため、噴射量が変動する。
ECU120で制御可能な最小噴射量を小さくするためには、噴射パルス幅Tiの増加に応じて燃料の噴射量が線形的に増加する領域を増やすか、もしくは、噴射パルス幅Tiが404より小さい噴射パルス幅Tiと噴射量の関係が線形とならない非線形領域の噴射量を補正する必要がある。図3で説明したような一般的な駆電流波形では、可動子102と固定コア107の衝突によって発生する弁体114のバウンドが大きく、弁体114のバウンド途中で閉弁を開始することにより、点404までの短い噴射パルス幅Tiの領域に非線形性が発生し、この非線形性が最小噴射量悪化の原因となっている。従って、弁体114が目標リフトに到達する条件での噴射量特性の非線形性を改善するためには、目標リフト位置到達後に発生する弁体114のバウンドを低減する必要がある。また。寸法公差に伴う弁体114の挙動の変動があるため、燃料噴射装置ごとに可動子102と固定コア107が接触するタイミングが異なり、可動子102と固定コア107の衝突速度にばらつきが生じるため、弁体114のバウンドは燃料噴射装置の個体ごとにばらつき、噴射量の個体ばらつきが大きくなる。
続いて、図5〜13について説明する。図5は、噴射パルス幅Tiと燃料噴射装置の部品公差によって生じる噴射量の個体ばらつきの関係を示した図である。図6は、図5における噴射量の個体ばらつきに対する弁体114の変位量の関係、各噴射パルス幅での弁体114の変位量と時間の関係を示した図である。図7は、駆動装置から出力される噴射パルス幅と、駆動電流と、弁体114の変位量と、可動子変位量との関係を、時間の変化に合わせて示した図である。図7の弁体変位量の図中には、開弁開始タイミングが同じで閉弁完了タイミングが異なる個体と、予備的動作を行わない従来構造の燃料噴射装置での弁体変位量を記載する。また、図8は、燃料噴射装置の駆動装置121およびECU120の詳細を示した図である。図9は、本発明の一実施例における寸法公差の変動の影響によって弁体114の動作タイミングが異なる3つの燃料噴射装置の噴射パルス幅Ti、駆動電流、電流微分値、電流2階微分値、弁体変位量、可動子変位量と時間の関係を示した図である。また、図10は、本発明の一実施例における噴射パルス、燃料噴射装置に供給する駆動電流、駆動装置のスイッチング素子805,806,807の動作タイミング、ソレノイド105の端子間電圧、弁体114および可動子102の変位量、可動子加速度と時間の関係を示した図である。図11は、ソレノイド105に供給する駆動電流、燃料噴射装置840の寸法公差のばらつきによって閉弁挙動が異なる3つの個体1、2、3の弁体の変位量、電圧VL1の拡大図と電圧VL1の2階微分値の関係を示した図である。図12は、本実施例における可動子102と固定コア107との間の変位(ギャップxと称する)と、可動子102の固定コア107との間の吸引面を通過する磁束φと、ソレノイド105の端子間電圧Vinjとの対応関係を示した図である。図13は、本実施例における弁体が目標リフトに至り達する条件で、開弁開始および開弁完了タイミングが異なる3つの燃料噴射装置での端子間電圧Vinj、駆動電流、電流の1階微分値、電流の2階微分値、弁体変位量および時間の関係を示した図である。図14は、第一実施例で磁気回路に使用する磁性材料の磁化曲線(BHカーブ)の初期磁化曲線と戻り曲線を示した図である。図15は、弁体が目標リフトに到達しない中間リフト域となる噴射パルス幅Tiが小さい領域での各気筒の噴射量補正方法のフローチャートを記載した図である。図16は、ある燃料圧力の条件で噴射パルス幅Tiを変更した場合の、各気筒の噴射量と閉弁完了タイミングTb、開弁開始タイミングTa’と燃料噴射装置840から噴射される単位時間当たりの流量Qst(以降、静流と称する)から求めた検知情報(Tb−Ta’)・Qstの関係を示したグラフである。図17は、各気筒の燃料噴射装置の個体1、個体2、個体3の検知情報と噴射パルス幅Tiの関係を示した図である。図18は、1吸排気行程中に行う噴射を分割する条件での噴射パルス幅Ti、駆動電流、端子間電圧Vinj、電圧VL1の2階微分値、電流すなわち電圧VL2の2階微分値および弁体114の変位量と時間の関係を示したグラフである。
最初に、図5,6を用いて、各噴射パルス幅Tiでの噴射量と弁体114の変位量の関係および、噴射量の個体ばらつきと弁体114の変位量の関係について説明する。噴射量の個体ばらつきは、燃料噴射装置の部品公差による寸法変動の影響や経年劣化、環境条件の変動すなわち、燃料噴射装置に供給される燃料圧力、駆動装置のバッテリ電圧源、昇圧電圧源の電圧値の個体ばらつきによって生じるソレノイド105へ供給される電流値の変動、温度変化に伴うソレノイド105の抵抗値の変化等によって生じる。燃料噴射装置の噴孔119より噴射される燃料の噴射量は、噴孔119の直径によって決まる複数の噴孔の総断面積と弁体114のシート部から噴孔入ロまでの圧力損失が同等である場合、弁体114の変位量で決まる燃料シート部の燃料が流れる弁体114と弁座118との間の流路の断面積で噴射量が決まる。図5は、燃料噴射装置に一定の燃料圧力を供給した場合の噴射パルス幅が小さい領域で噴射量が設計の中央値となる個体Qcに対して、噴射量が大きい個体Quと噴射量が小さい個体Qlを記載した図である。
図5、図6を用いて、噴射量がある噴射パルス幅t51の条件において、設計の中央値となる個体Qcの各噴射パルス幅Tiでの噴射量と弁体114の変位量の関係について説明する。噴射パルス幅Tiが小さい点501の条件での弁体114の変位量は実線601となり、弁体114が目標リフトに到達する前に、噴射パルス幅TiがOFFとなり、弁体114が閉弁を開始し、弁体114の軌跡は、放物運動となる。次に、噴射パルス幅Tiと噴射量の関係が略線形となる直線領域から外挿される一点鎖線530より、噴射量が大きくなる点502では、実線601よりも弁体114の変位量は大きくなり、弁体114が目標リフト位置に到達しきらずに、一点鎖線602に示すように閉弁を開始し、実線601と同様に放物運動の軌跡となる。なお、一点鎖線602では、実線601と比べて、ソレノイド105に供給するエネルギーが大きいため、閉弁遅れ時間が増加し、その結果、噴射量も増加する。次に、一点鎖線530より、噴射量が小さくなる点503では、可動子102が固定コア107と衝突した後、可動子のバウンドが最大となるタイミングで弁体114が閉弁を開始するため、二点鎖線603に示すような軌跡となり、閉弁遅れ時間は、一点鎖線602の条件と比べて小さくなり、その結果、点502と比べて点503の噴射量が小さくなる。また、図のt51の噴射パルス幅Tiでの各Qu、Qc、Qlの点532、501、531での弁体114の変位量を、606、605、604に示す。タイミングt1での噴射パルス幅601を駆動回路に入力した場合、燃料噴射装置640の寸法公差の個体差の影響によって、噴射パルスをONにしてから可動子102が弁体114に衝突するタイミングすなわち、弁体114の開弁開始タイミングがt61、t62、t63のように変動する。各気筒に同一の噴射パルス幅を与えた場合、開弁開始タイミングが早い個体604が、噴射パルス幅をOFFにするタイミングt64での弁体114の変位量が最も大きくなる。噴射パルス幅をOFFにした後も、可動子102は運動エネルギーおよび渦電流の影響による残留磁束に伴う残留磁気吸引力によって、弁体114は変位を継続し、可動子102の運動エネルギーと磁気吸引力による開弁方向の力が、閉弁方向の力を下回ったタイミングt67で弁体114が閉弁を開始する。弁体の変位604、605、606に示す通り、開弁開始タイミングが早い個体のほうが、弁体114のリフト量が大きく、噴射パルス幅をOFFにしてから弁体114が閉弁完了するまでの閉弁遅れ時間が増加する。したがって、弁体114が目標リフトに到達しない中間リフト域では、弁体114の開弁開始タイミングと弁体114の閉弁完了タイミングで噴射量が決まるため、各気筒の燃料噴射装置の開弁開始タイミングと、閉弁完了タイミングの個体ばらつきを駆動装置で検知もしくは推定できれば、中間リフトでのリフト量の制御が可能となり、噴射量の個体ばらつきを低減して、中間リフトの領域でも噴射量を安定的に制御することができる。
次に、図7を用いて開弁開始タイミングが同等で、閉弁完了タイミングが異なる燃料噴射装置の各個体の弁動作について説明する。なお、上述したように、図7の弁体変位量には、開弁開始タイミングが同じで閉弁完了タイミングが異なる個体を記載している。
図7より、弁体変位量の個体1、個体2、個体3に示す通り、燃料噴射装置の個体ばらつきによって、開弁開始タイミングt72が同じであった場合でも、部品公差の影響により、弁体114に作用する差圧力、セットスプリング110による荷重が個体ごとに変化し、弁体114の変位量の最大値と閉弁完了タイミングが個体ごとに変動する。弁体114に作用する差圧力が小さい個体3では、差圧力が中央値の個体2に対し、閉弁方向の力が小さいため、弁体114の変位量が大きくなる。その結果、可動子102と固定コア107との磁気ギャップが小さくなるため、同じ電流値を供給した場合であっても、開弁方向の力である磁気吸引力が増加し、閉弁完了タイミングは、個体2のt75に比べてt76のように遅れる。一方で、個体2に比べて差圧力が大きい個体1では、弁体114の変位量が小さくなり、可動子102と固定コア107との磁気ギャップが大きくなるため、可動子102に作用する磁気吸引力が減少し、閉弁完了タイミングは、個体2のt75に比べてt74のように早くなる。差圧力および磁気吸引力の個体ばらつきによる影響は、閉弁完了タイミングに表れてくるため、開弁開始タイミングに加えて、閉弁完了タイミングを各気筒の燃料噴射装置ごとに駆動装置で検知することで、噴射量の個体ばらつきを検出することが可能となる。
また、弁体114が開弁開始するよりも前に可動子102が予備的動作を行わない燃料噴射装置では、可動子に作用する開弁方向の力である磁気吸引力と、スプリング110による荷重と弁体114に作用する燃料圧力による差圧力の和である閉弁方向の力との差が小さい状態で弁体114がタイミングt77で開弁を開始して、その後、701のように弁体114の変位量が緩やかに増加して行く。弁体114の変位量が小さい領域では、弁体114のシート部の流路断面積が小さいため、シート部を流れる燃料の流速が速くなり、シート部を通過することによる燃料の圧力損失が大きい。シート部近傍での燃料の圧力損失が大きいと、噴射孔119から噴射される燃料の流速が遅くなるため、噴射した燃料と空気とのせん断抵抗が小さくなり、噴射燃料の液滴の微粒化が促進されにくくなり、また、粒子径の大きな液滴(粗大粒径の液滴)が発生し易くなる。本実施例における燃料噴射装置によれば、可動子102が弁体114に衝突して弁体114が開弁開始することで、弁体114の変位量が小さい領域を低減することができるため、噴射する燃料の粒子径を小さくでき、また、粗大粒径の液滴が発生しにくい。その結果、噴射した燃料と空気との混合が促進され易く、また、粗大粒径の液滴が少ないことから点火タイミングでの混合気の均質度が向上し、さらに燃料のピストンおよびシリンダ壁面への付着が抑制されることで、排気性能の向上、とくに未燃焼粒子(PM:Particulate Matter)やその数(PN:Particulate Number)を抑制できる。また、均質度が良い混合気を形成できることで、燃費を向上させることが可能となる。
次に、図8、図9、図10を用いて、本実施例における燃料噴射装置の駆動装置の構成と、噴射量の個体ばらつきの要因となる弁体114の動作のばらつきを各気筒の燃料噴射装置ごとに駆動装置で検知する方法について説明する。
CPU801は例えばECU120に内蔵され、燃料噴射装置の上流の燃料配管に取り付けられた圧力センサや、エンジンシリンダへの流入空気量を測定するA/Fセンサ、エンジンシリンダから排出された排気ガスの酸素濃度を検出するための酸素センサ、クランク角センサ等のエンジンの状態を示す信号を、前述した各種センサから取り込み、内燃機関の運転条件に応じて燃料噴射装置から噴射する噴射量を制御するための噴射パルスの幅や噴射タイミングの演算を行う。
また、CPU801は、内燃機関の運転条件に応じて適切な噴射パルス幅Tiのパルス幅(すなわち噴射量)や噴射タイミングの演算を行い、通信ライン804を通して燃料噴射装置の駆動IC802に噴射パルス幅Tiを出力する。その後駆動IC802によって、スイッチング素子805、806、807の通電、非通電を切替えて、燃料噴射装置840へ駆動電流を供給する。
スイッチング素子805は駆動回路に入力された電圧源VBよりも高い高電圧源と燃料噴射装置840の高電圧側の端子間に接続されている。スイッチング素子805、806、807は、例えばFETやトランジスタ等によって構成され、燃料噴射装置840への通電・非通電を切り替えることができる。高電圧源の電圧値である昇圧電圧VHは例えば60Vであり、バッテリ電圧を昇圧回路814によって昇圧することで生成される。昇圧回路814は例えばDC/DCコンバータ等により構成されるかコイル830とスイッチ素子831、ダイオード832およびコンデンサ833で構成する方法がある。スイッチ素子831は、例えばトランジスタである。また、ソレノイド105の電源側端子890とスイッチング素子805との間には、第二の電圧源から、ソレノイド105、接地電位815の方向に電流が流れるようにダイオード835が設けられており、また、ソレノイド105の電源側端子890とスイッチング素子807との間にも、バッテリ電圧源から、ソレノイド105、接地電位815の方向に電流が流れるようにダイオード811が設けられており、スイッチ素子807を通電している間は、接地電位815から、ソレノイド105、バッテリ電圧源および第二の電圧源へ向けては電流が流れない構成となっている。
昇圧回路814が、コイル830とスイッチ素子831、ダイオード832およびコンデンサ833で構成される場合、トランジスタ831を通電にすると、バッテリ電圧VBは接地電位834側へ流れるが、トランジスタ831を非通電にすると、コイル830に発生する高い電圧がダイオード832を通して整流され、コンデンサ833に電荷が蓄積される。昇圧電圧VHとなるまで、このスイッチ素子831の通電・非通電を繰り返し、コンデンサ833の電圧を増加させる。スイッチ素子831の通電・非通電は、IC802もしくは、CPU801で制御するように構成されていると良い。
また、スイッチング素子807は、低電圧源VBと燃料噴射装置の高圧端子間に接続されている。低電圧源VBは例えばバッテリ電圧であり、その電圧値は12から14V程度である。スイッチング素子806は、燃料噴射装置840の低電圧側の端子と接地電位815の間に接続されている。駆動IC802は、電流検出用の抵抗808、812、813により、燃料噴射装置840に流れている電流値を検出し、検出した電流値によって、スイッチング素子805、806、807の通電・非通電を切替え、所望の駆動電流を生成している。なお、電流検出用の抵抗808、812、813には、電流の検出精度の向上と信頼性および発熱抑制の観点から、抵抗値が小さく、抵抗値の個体ばらつきが小さい高精度な抵抗器であるシャント抵抗を用いると良い。とくに、燃料噴射装置840のソレノイド105の抵抗値に比べて、抵抗808、812、813の抵抗値は十分に小さいため、抵抗808、812、813で発生する損失によるソレノイド105の電流に与える影響は小さい。ダイオード809と810は、燃料噴射装置のソレノイド105に逆電圧を印加し、ソレノイド105に供給されている電流を急速に低減するために備え付けられている。CPU801は駆動IC802と通信ライン803を通して、通信を行っており、燃料噴射装置840に供給する燃料の圧力や運転条件によって駆動IC802によって生成する駆動電流を切替えることが可能である。また、抵抗808、812、813の両端は、IC802のA/D変換ポートに接続されており、抵抗808、812、813の両端にかかる電圧をIC802で検出できるように構成されている。また、燃料噴射装置840のHiサイド側(電圧側)、接地電位(GND)側のそれぞれに、入力電圧および出力電圧の信号をサージ電圧やノイズから保護するためのコンデンサ851、850を設け、燃料噴射装置840の下流にコンデンサ850と並列に抵抗器852および抵抗器853を設けると良い。
また、スイッチング素子806と抵抗808との間の端子880と、CPU801またはIC802との間には、オペアンプ821と抵抗R83とR84とコンデンサC82とで構成されるアクティブローパスフィルタ861が設けられている。燃料噴射装置840の接地電位(GND)側に設けられた抵抗器852と抵抗器853との間の端子881と、CPU801またはIC802との間には、オペアンプ820と抵抗R81とR82とコンデンサC81とで構成されるアクティブローパスフィルタ860が設けられている。また、CPU801またはIC802には、接地電位815と接続される端子871が設けられており、端子881と接地電位815との間の電位差VL1を、アクティブローパスフィルタ860を通してCPU801またはIC802で検出できるように、端子y80を設けている。また、抵抗器852および抵抗器853は、燃料噴射装置840のソレノイド105の抵抗値よりも大きく設定することで、燃料噴射装置840に電圧を印加する時に、ソレノイド105に電流が効率よく供給される。また、抵抗器853に比べて抵抗器852の抵抗値を大きく設定することで、燃料噴射装置840の接地電位(GND)側端子と接地電位との間の電圧VLを分圧することができる。その結果、検出する電圧をVL1とすることができ、オペアンプ821とCPU801のA/D変換ポートの耐電圧を低減することができるため、高電圧を入力するために必要な回路を必要とせずに、端子間電圧Vinjおよび電圧VLに生じる電圧の時間を検出することができる。
また、抵抗808の燃料噴射装置840側の端子880と接地電位815との間の電位差VL2をアクティブローパスフィルタ861を通して、CPU801またはIC802で検出できるように端子y81を設けるとよい。CPU801には、バッテリ電圧VBと接続される端子y82が設けられており、バッテリ電圧VBをCPU801でモニタリングすることができるように構成されている。
次に、図9を用いて本発明の第一参照例における弁体114の開弁開始タイミングの検出方法について説明する。図9では、動作タイミングの異なる3つの個体について示しているが、動作タイミングとして重要なものに開弁開始タイミングと閉弁完了タイミングとがある。また、ソレノイド105に流れる電流に生じる変化は、電圧VL2を検出することで、駆動装置で検出することができる。
図9より、ソレノイド105に供給する電流がピーク電流Ipeakに到達するまでは、昇圧電圧VHがソレノイド105に印加される。その後、負の方向の昇圧電圧VHが印加されるか、もしくは、0Vの電圧を印加することで、電流値が901のように減少し、一定の時間電流が減少する電圧遮断期間T2を設ける。可動子102は、ソレノイド105に昇圧電圧VHが印加された後、可動子102に作用する開弁方向の力である磁気吸引力が、可動子102に作用する閉弁方向の力であるスプリング110による力を超えると、可動子102が開弁方向に変位し、空走動作を行う。その後、燃料噴射装置840の各個体の可動子102が弁体114に接触するタイミングt92、t93、t94で弁体114が変位を開始し、噴孔119より燃料が噴射される。この弁体114が開弁開始するより前に、バッテリ電圧源から一定電圧が供給されるタイミングt91となるようにピーク電流Ipeakもしくは、昇圧電圧印加時間tpと、電圧遮断期間T2を調整するとよい。
本参照例の燃料噴射装置840では、可動子102が空走動作の後に弁体114に衝突することで、これまで弁体114のみに作用していた燃料圧力による力が弁体114を介して、可動子102に作用するため、弁体114の開弁開始タイミングで可動子102の加速度が大きく変化する。可動子102と固定コア107の間は、固定コア107、可動子102、ノズルホルダ101、ハウジング103およびソレノイド105で構成される磁気回路の磁束が通る主経路となっているため、可動子102の加速度が変化することで、可動子102と固定コア107の間を通過している磁束が変化し、誘導起電力に変化が生じ、電流値の傾きに変化が生じる。この電流の傾きすなわち電流微分値が変化するタイミングを検出するために、電流の2階微分値が最大値となるタイミングをECUで検出する。これにより、各気筒の燃料噴射装置840ごとに開弁開始タイミングを検知することができる。また、バッテリ電圧源から一定電圧が供給されるタイミングt91以降から弁体114の開弁開始タイミングまでの区間においては、スイッチング素子805、806、807の通電・非通電の切換えを行わないことで、駆動電流の電気的な変化をなくして、電流の時間変化を小さくすることで、可動子102が弁体114に衝突することで生じる加速度の変化を検出し易くする効果が得られ、開弁開始タイミングの検知精度を向上できる。
ここで、駆動装置でソレノイド105に流れている電流の時間変化を検出するために、電圧VL2を測定するための端子y81をCPU801に設けるとよい。抵抗器808の抵抗値は既知であるため、オームの法則V=R・I(電圧Vは、抵抗Rと電流Iの積)の関係より、電圧VL2を検出することで、ソレノイド105に流れる電流を検出することができる。また、個体ばらつきや抵抗温度の変化によって、抵抗器808の抵抗値が変動した場合であっても、電流の2階微分値が最大となるタイミングを検知する方法によれば、電圧VL2の2階微分値の最大値の値が変動したとしても、電圧VL2の2階微分値が最大となる時間は変化しないため、より精度よく開弁開始タイミングを検知することができ、検知のロバスト性が高い。また、電圧VL2は、アクティブローパスフィルタ861を介して、CPU801のA/D変換ポートに接続されている。電圧VL2をA/D変換したデジタル信号をCPU801でデジタル微分処理やデジタルフィルタ処理によって、電流の2階微分値が最大値となる時間を検出することで、弁体114の開弁開始タイミングを検出することができる。また、噴射パルスがONになってから開弁開始タイミングに達するまでの開弁開始遅れ時間として駆動装置に記憶させると良い。なお、開弁開始タイミングにおいて、これまで減少に転じていた電流が増加に転じる場合、電流微分値がある闘値を超えるタイミングとして開弁開始タイミングを検出することができる。しかしながら、燃料噴射装置840と駆動装置の構成により、開弁開始タイミングで電流が減少から増加に転じない場合であっても、噴射パルスがONとなってから電流の2階微分値が最大値となるまでの開弁開始遅れ時間を検出することで、精度良く開弁開始タイミングを検出することが可能となる。
なお、電圧遮断期間T2は必ずしも必須ではないが、負の方向の昇圧電圧VHまたは0Vの電圧を印加することで、後述する理由により、ソレノイド105に流れる電流変化を検知し易くなる。
また、噴射パルスがONとなっている期間中の電圧VL2を全て駆動装置で検出した場合、電流スイッチング素子805、806、807の通電・非通電によって電流に生じる変曲点を電圧VL2の2階微分値として誤検知する場合がある。この場合、電圧VL2の取得期間をスイッチング素子805、806、807の通電・非通電の切換え動作が行われない期間903に設定することで、可動子102が弁体114に衝突する開弁開始タイミングを精度良く検出することができる。期間903のデータ取得を開始する時刻t98aは、電圧遮断期間T2の終了タイミングである時刻t91よりも遅く設定され、かつ期間903のデータ取得を停止する時刻98bは、噴射パルスをOFFにする時刻t98cよりも早く設定されると良い。また、時刻t98aを開始するためのトリガーは、噴射パルスの開始、スイッチング素子805、806の通電・非通電のタイミングを使用すると良い。スイッチング素子805、806の通電・非通電のタイミングを時刻t98aのトリガーとして使用する場合、通信ライン803を通して、スイッチング素子805、806の通電・非通電の情報をCPU801に送信すると良い。
噴射パルスの開始をトリガーとして使用した場合、噴射パルスはCPU801の内部で生成されているため、t98aの時間を正確に制御することが可能である。一方で、スイッチング素子805、806の非通電にするタイミングを時刻t98aを開始するためのトリガーとして使用した場合、ソレノイド105の温度変化に伴う抵抗変化や昇圧電圧VHの変動によって、ピーク電流値Ipeakに到達するまでの昇圧電圧印加時間Tpが変動した場合であっても、確実に開弁開始タイミングの期間を取得することができるため、開弁開始タイミングの検知精度を高めることができる。
以上で説明した通り、弁体114の開弁開始タイミングを検知するためには、ソレノイド105に流れる電流を検出するための電圧VL2の2階微分値を駆動装置で検出することが望ましい。微分処理の次数が高い2階微分処理を行う場合において、処理を行う前の電圧VL2にノイズ等が重畳していると、微分処理を行った際に微分値が発散する可能性があり、2階微分処理後の最大値のタイミングを誤検知してしまう可能性がある。この問題に対処するため、燃料噴射装置840の端子880とCPU801の端子y81との間にオペアンプ821と抵抗R83と抵抗R84とコンデンサC82とで構成されるアクティブローパスフィルタ861を構成すると良い。本実施例では、可動子102aが弁体114に衝突することによって可動子102aの加速度が変化してソレノイド105の電流および電圧VL2に変化が生じることを利用して、開弁開始タイミングを検出している。このときのソレノイド105の電流および電圧VL2に生じる変化は、電流および電圧VL2の信号に重畳するノイズに比べて周波数が低い。したがって、電圧VL2を測定するための端子880とCPU801との間に、アクティブローパスフィルタ861を介することで、電流および電圧VL2に発生する高周波なノイズを低減することができ、開弁開始タイミングの検知精度を高めることができる。
また、アクティブローパスフィルタ861のカットオフ周波数fc1は、抵抗R84とコンデンサC82の値を用いて下記の式(1)のように表すことができる。燃料噴射装置と駆動装置の構成によって、スイッチング素子805、806、807や第2の電圧源を構成するためのスイッチング素子831のスイッチングタイミングおよび第2の電圧源の値が異なり、その結果として、電圧に発生するノイズの周波数は異なる。したがって、燃料噴射装置840と駆動回路の仕様ごとに抵抗R84とコンデンサC82の設計値を変更すると良い。また、アナログ回路でローパスフィルタを構成した場合、CPU801でデジタル的に高周波なノイズを除去するためのフィルタリング処理を行う必要がないため、CPU801の計算負荷を低減できる。また、電圧VL1の信号をCPU801もしくは、IC802に直接入力し、デジタル的にフィルタリング処理しても良い。この場合、アナログのローパスフィルタの構成部品であるオペアンプ820と抵抗R81と抵抗R82とコンデンサC81を使用する必要がないため、駆動装置のコストを低減できる。また、以上で説明したローパスフィルタは、端子880に接続される抵抗器とその抵抗器に並列に配置するコンデンサからなる1次ローパスフィルタを用いても良い。1次ローパスフィルタを用いる場合、アクティブローパスフィルタを用いた構成に対して、抵抗とオペアンプの2つの部品を減らすことができるため、駆動装置のコストを低減することが可能である。また、1次ローパスフィルタのカットオフ周波数の算出方法は、アクティブローパスフィルタを用いた場合の式(1)で算出できる。また、ローパスフィルタの構成としては、コイルとコンデンサを用いて時数が2次以上のローパスフィルタを構成することが可能である。この場合、抵抗器なしにローパフィルタを構成できるため、アクティブローパスフィルタおよび1次ローパスフィルタを使用する場合に比べて、電力消費が少ないメリットがある。
fc1=1/(2・π・R84・C82) (1)
なお、開弁開始タイミングを検知するためのソレノイド105の電流の検出は、抵抗813の両端電圧を測定しても良い。ただし、抵抗813の両端電圧を測定する場合、接地電位815との電位差を測定する電圧VL2に比べて、電圧を測定するための端子が増加し、必要なA/D変換ポートも増加するため、駆動装置のコストアップに繋がり、電圧信号をA/D変換するためのCPU801もしくは、IC802の処理負荷が高まる。また、電圧VL2では、昇圧回路814の出力である昇圧電圧VHの電圧値を復帰させるためのコンデンサ833への電荷蓄積のために、スイッチング素子831の通電・非通電の動作を高速で繰り返して行う場合、燃料噴射装置840の電源側の経路である抵抗813の両端電圧には高周波なノイズ成分が重畳する場合がある。電流の測定点を燃料噴射装置840のソレノイド105の接地電位側に位置する電圧VL2とすることで、燃料噴射装置840の上流に生じる高周波なノイズがソレノイド105のコイルによって減衰されるため、電圧VL2の2階微分値の最大を用いて開弁開始タイミングを精度良く検知することができる。
次に、図2、図8、図10を用いて、第一参照例における駆動回路の構成と開弁開始タイミングを検出する条件での燃料噴射装置に流れる駆動電流を生成するためのスイッチング素子の切換えタイミングについて説明する。
最初に、タイミングt101において、CPU801より、噴射パルス幅Tiが通信ライン804を通して駆動IC802に入力されると、スイッチング素子805、806が通電となり、ソレノイド105の両端に、昇圧電圧VHが印加され、駆動電流がソレノイド105に供給されて、電流が急速に増加する。その後、磁気回路の内部に発生する渦電流の消滅に伴って磁気回路の内部に磁束が形成され、固定コア107と可動子102との間に磁束が通過することで、可動子102に作用する磁気吸引力が増加していく。開弁方向の力である可動子102に作用する磁気吸引力と戻しばね112の力の和が、閉弁方向の力であるスプリング110による荷重を超えるタイミングt102で可動子102がリフトを開始する。このとき可動子102が開弁方向に動くことで、可動子102とノズルホルダ101との間でせん断抵抗(粘性抵抗)が発生し、運動方向とは逆の閉弁方向にせん断抵抗力が可動子102に作用する。ただし、可動子102とノズルホルダ101との間の通路断面積を確保することで、可動子102に作用するせん断抵抗力を下げることができる。また、可動子102に作用する開弁方向の力である磁気吸引力に比べて、可動子102に作用するせん断抵抗力は十分小さいため、可動子102がリフトを開始してから、可動子の加速度は増加していく。駆動電流が予めECUに与えておくピーク電流値Ipeakに達するタイミングt103において、通電していたスイッチング素子805と806を非通電にすると、これまで電流が流れていた昇圧電圧VHからソレノイド105、接地電位815へ向かう経路に、電流が流れなくなるため、燃料噴射装置840のインダクタンスによる逆起電力によって、燃料噴射装置840の接地電位(GND)側端子の電圧が大きくなり、駆動装置の接地電位815、ダイオード809、燃料噴射装置840、ダイオード810、抵抗812、昇圧電圧VHの電流の経路が形成されて、電流が昇圧回路814の昇圧電圧VH側へ帰還し、ソレノイド105の両端電圧には、負の方向の昇圧電圧VHが印加されて、ソレノイド105に供給されている駆動電流は、1002のように急速に低減される。
スイッチング素子805と806が非通電となるタイミングt103を駆動電流がピーク電流値Ipeakを越えるタイミングとして設定することで、ソレノイド105の温度変化による抵抗値の変化や、昇圧電圧VHの電圧値の変化が生じた場合であっても、弁体114を開弁させるのに必要なエネルギーを安定的に確保し、また、環境条件の変化に伴うピーク電流Ipeakに達するまでの時間変動によって生じる開弁開始タイミングの変化を平行移動の成分とすることができ、電流波形と弁動作のタイミングの変化を抑制することができる。
また、スイッチング素子805と806を非通電にするタイミングt103は、噴射パルスTiをONにしてからの昇圧電圧印加時間Tpで設定しても良い。ピーク電流Ipeakの設定分解能は、電流検出用に使用する抵抗808、813の抵抗値および精度で決まるため、駆動装置で設定出来るIpeakの分解能の最小値は、駆動装置の抵抗の制約を受ける。これに対して、昇圧電圧印加時間Tpでスイッチング素子805と806を非通電にするタイミングt103を制御する場合、昇圧電圧印加時間Tpの設定分解能は、駆動装置の抵抗の制約を受けず、CPU801のクロック周波数に応じて設定することができるため、ピーク電流Ipeakで設定する場合に比べて、時間分解能を小さくすることができ、より高精度に昇圧電圧印加時間Tpまたは、ピーク電流値Ipeakを停止するタイミングを補正することができるため、各気筒の燃料噴射装置の噴射量の補正精度を高めることが可能となる。
また、スイッチング素子805と806を非通電にしている電圧遮断期間T2の時間は、予め駆動装置に記憶させておき、燃料圧力等の運転条件に応じて変更してもよい。電圧遮断期間T2が終了すると、スイッチング素子806、807を通電し、バッテリ電圧VBをソレノイド105に印加する。このとき、駆動電流の目標値Ih1の電流値を1004のように、電圧遮断期間T2の終了時の電流よりも高い値に設定しておくことで、目標電流に到達するまで、スイッチング素子806がONされ続ける。このとき、スイッチング素子806、807が通電されるタイミングt104の後に、コンデンサ850、851に蓄積された電荷が放電されることで、駆動電流が1003のように増加する。その後、バッテリ電圧の印加によって、ソレノイド105に電流が供給され、可動子102の変位量が増加し、磁気ギャップの縮小に伴って生じる誘導起電力によって、タイミングt105で電流が減少に転じ、タイミングt106において、可動子102が弁体114と衝突する。このとき。可動子102が弁体114に衝突することで、弁体114に作用している燃料圧力による差圧力が弁体114を介して可動子102に働くため、可動子102の加速度が大きく変化する。可動子102の加速度の変化に伴って、誘導起電力が変化するため、駆動電流の傾きが変化する。可動子102と弁体114が衝突し、弁体114の開弁開始タイミングにおいては、このスイッチング素子806と807が通電されているため、端子間電圧値Vinjの変化が小さく、また、昇圧電圧VHよりも低いバッテリ電圧VBが印加されることから、電圧の印加に伴う電流の変化がなだらかになるため、可動子102が弁体114に衝突することによる誘導起電力の僅かな変化を駆動電流の変化として、駆動装置で検出することができる。また、ピーク電流値Ipeakから電流を急速に低減し、弁体114の開弁開始タイミングでの電流値を小さくすることで、磁気回路内部に生じる磁界が減少し、それに伴い磁束密度が減少するため、可動子102の固定コア107側端面の磁束密度が飽和しづらくなり、その結果、可動子102が弁体114に衝突して、弁体114が開弁開始することによる可動子102の加速度の変化を、電流時間変化すなわち電流の傾きの変化としてより検出し易くなる。スイッチング素子806と807が通電され、バッテリ電圧VBがソレノイド105に印加されている期間中に、弁体114が開弁開始するように、ピーク電流Ipeakおよび電圧遮断期間T2の値を設定することで、弁体114の開弁開始タイミングを精度良く検出することができる。
また、図10に示す弁体114の変位量には、燃料噴射装置840に供給されている燃料圧力が、小、中、大の場合の弁体114の変位のプロファイルを記載している。実施例1における燃料噴射装置840では、弁体114が開弁開始するまで、可動子102は弁体114に作用している燃料圧力による力を受けないため、燃料圧力が異なる条件であっても、可動子102が弁体114に衝突するまでの可動子102のプロファイルは変化せず、また、弁体114の開弁開始タイミングt106も変わらない。したがって、弁体114の開弁開始タイミングt106の検知は、エンジン始動時、アイドル運転等のある運転条件で検知して、駆動装置に記憶させておくことで、燃料圧力等の運転条件が変わった場合であっても駆動装置に記憶した各気筒の検知情報を使用することができる。したがって、開弁開始タイミングを検知するための駆動電流検出用の抵抗813の両端電圧または抵抗808の接地電位815との間の電位差VL2のアナログ電圧信号をデジタル信号に変換するための駆動装置のA/D変換のポートを使用する頻度を低減することができるため、CPU801及びIC802の処理負荷を低減することができる。以上のように、各気筒の燃料噴射装置840ごとのある運転条件で開弁開始タイミングを検知すれば、燃料圧力等の運転条件が変化した場合であっても検知精度を確保することができる。
また、CPU801では、バッテリ電圧源のバッテリ電圧VBの電圧値をモニタリングするために、電圧をA/D変換してデジタル信号として駆動装置で検出するためのA/D変換ポートである端子y82を設けている。バッテリ電圧VBは、バッテリ電圧源に接続された車載機器の動作によって電圧が降下し、その変動が大きい。車載機器とは、例えば、エンジンを始動する時に使用するセルモーター、エアコンなどの空調機、ライト類(ヘッドライト、ブレーキランプ)、電動パワーステアリングである。また、電圧降下に伴ってオルタネータを始動させて、バッテリ電圧源を充電する構成となっている。したがって、CPU801でモニタリングしているバッテリ電圧VBが、駆動装置に設定してある電圧値のある変動幅以下となった時の電圧VL2もしくは抵抗器813の両端電圧を検出して、開弁開始タイミングを検知するように構成するとよい。以上の構成によって、開弁開始タイミングを検知する条件において、バッテリ電圧VBが車載機器の動作によって変化し、そのバッテリ電圧の変化するタイミングが開弁開始タイミングに近接している場合に、電流が影響を受けて変動し、開弁開始タイミングを検知するための電流2階微分値が最大値となる時間がずれる可能性を抑制することができ、安定的に開弁開始タイミングを検知できる。
また、開弁開始タイミングを検知する条件での電圧値の中央値は、バッテリ電圧源の劣化によっても変化するため、CPU801で任意に設定できるように構成されているとよい。これにより、バッテリ電圧源を使用していない場合のバッテリ電圧VBの中央値が経年変化した場合であっても精度良く開弁開始タイミングを検知することができる。
また、本実施例における燃料噴射装置840の磁気回路の部材に用いる飽和磁束密度が高いフェライト系の磁性材は、オーステナイト系の金属に比べて材料の硬度が低いため、可動子102の弁体114との衝突面および固定コア107との衝突面に、メッキ処理を行う場合がある。可動子102は、燃料圧力による力を受けずに高速に開弁動作を行って、弁体114に衝突するため、エンジンの総回転数が増加して、燃料噴射装置840の駆動回数が増加すると、可動子102の弁体114との衝突面210が摩耗劣化する場合がある。とくに、すすを含む未燃焼粒子PMの総量とその数PNを抑制するために、燃料と空気との混合気の均質度を向上させたい場合、1回の吸排気行程中の燃料噴射を複数回に分割する方法が有効であるが、分割噴射を行う分、分割噴射を行わない場合と比べて走行距離が同じ場合であっても噴射回数が増加するため、衝突面210の摩耗劣化が発生し易い。摩耗劣化が起こった場合、閉弁状態における弁体114の可動子102aとの当接面205と可動子102aの衝突面210との間の空隙201が増加し、可動子102が弁体114に衝突するのに必要な移動距離が増加し、弁体114の開弁開始タイミングが遅くなる。燃料噴射装置840の駆動回数、時間または車に取り付けられた走行距離計測器の値に応じて、所定期間毎に開弁開始タイミングを再検知し、駆動装置に記憶させる気筒ごとの燃料噴射装置840の開弁開始タイミングの情報を更新していくことで、分割噴射を行って燃料噴射装置840の駆動回数が増加する場合であっても、衝突面の劣化摩耗による開弁開始タイミングの変化に対応することができ、精度よく噴射量を制御することが可能となる。
また、スイッチング素子805、806を通電にして、ソレノイド105に正方向の昇圧電圧VHが印加される条件では、昇圧電圧VHを使用することによって、これまでコンデンサ833に蓄積した電荷が減少し、昇圧電圧VHの電圧値が減少する。このとき昇圧電圧VHの電圧をCPU801もしくはIC802に予め設定しておいた初期の電圧値に復帰させるために、昇圧電圧VHの電圧値が設定した閥値電圧を下回ると、コンデンサ833への電荷蓄積のため、昇圧回路814のスイッチング素子831を通電・非通電を高周波で繰り返して行い、昇圧電圧VHの電圧値を復帰させる動作を行う場合があるが、この電圧値の変化に比べて、可動子102が弁体114に衝突して、弁体114が開弁開始したことによる可動子102の加速度変化によって生じる誘導起電力の変化が、電圧VL2および抵抗器812の両端電圧に与える影響が小さいため、弁体114の開弁開始に伴う可動子102の加速度の変化を昇圧電圧VHを印加している条件において電圧VL2もしくは抵抗器812の両端電圧で検出することは難しい。また、昇圧電圧VHの電圧値を復帰させるための動作を行う場合、昇圧回路814のスイッチング素子831の通電・非通電を高速な周期で繰り返す必要があるため、スイッチングによる高周波なノイズが発生して、弁体114の開弁開始タイミングを検出するための電圧VL2もしくは抵抗器812の両端電圧にノイズが重畳し、開弁開始タイミングの検知精度に悪影響を与える場合がある。
図9より、噴射パルス幅Tiを供給してからスイッチング素子805、806を通電させて、昇圧電圧VHをソレノイド105に印加し、ピーク電流値Ipeakに到達後に負方向の昇圧電圧VHの印加を一定時間行い、電流値を901のように急峻に立ち下げた後、バッテリ電圧源からバッテリ電圧VBとなる一定電圧を印加し、バッテリ電圧VBから一定の電圧を供給するタイミングで弁体114が目標リフトに到達する印加電圧の構成にすると良い。
次に、噴射パルスをOFFにしてから弁体114が閉弁するまでの時間である閉弁遅れ時間の検出方法について説明する。
また、弁体114および可動子102が開弁状態から閉弁する際に、燃料噴射装置840の接地電位(GND)側端子と接地電位815との間の電位差である電圧VLに生じる電圧の時間変化をCPU801もしくは、IC802で検出するため、燃料噴射装置840の接地電位(GND)側端子と接地電位815との間に、抵抗器852と853を設けている。抵抗器852、853の抵抗値は、ソレノイド105の抵抗値よりも大きく設定することで、バッテリ電圧VBおよび昇圧電圧VHを印加時に効率良くソレノイド105に電流が流れることができる。また、抵抗器852の抵抗値を抵抗器853の抵抗値よりも大きく設定することで、抵抗853の接地電位815との間の電位差であるVL1の電圧を小さくすることができ、オペアンプ820とCPU801のA/D変換ポートに必要な耐電圧の電圧値を低減することができるため、高電圧を入力するために必要な回路や素子を必要とせずに、端子間電圧Vinjおよび電圧VLに生じる電圧を検出することができる。電圧VLを分圧した電圧VL1を、アクティブローパスフィルタ860を介してCPU801もしくは、IC802に搭載したA/D変換ポートに入力する。電圧VL1の信号をアクティブローパスフィルタ860を介することで、電圧VL1に生じる高周波なノイズ成分を低減することができ、弁体114が開弁状態から閉弁を開始し、弁座118と接触した瞬間に生じる可動子102の加速度の変化を、誘導起電力の変化として電圧VL1で検出し、IC802もしくは、CPU801でデジタル信号として検出することができる。その結果、微分処理を容易に行うことが可能となる。このとき。アクティブローパスフィルタ860を通過してCPU801のA/D変換ポートに入力される端子y80と接地電位815との間の電位差を電圧VL3と称する。
次に、図2、図8、図11、図12を用いて、第一参照例における駆動回路の動作説明と、弁体の開弁開始タイミングの個体ばらつきと共に燃料噴射装置840の噴射量の個体ばらつきの要因となる、噴射パルスをOFFにしてから弁体114が弁座118と接触するまでの時間である閉弁遅れ時間を算出するための閉弁完了タイミングの検知原理について説明する。なお、端子間電圧Vinjの時間変化は、電圧VLおよび電圧VL1にも生じるため、図11の電圧の変化は、CPU801で検出する電圧VL1の電圧の時間変化と同等である。また、可動子102bは、可動子102aに設けられた端面204で可動子102aと接触しており、可動子102aと可動子102bは相対的に変位することが可能である。
また、図11より、噴射パルス幅TiがOFFとなると、磁気回路の磁性材内部に生じる渦電流の影響によって、ソレノイド105近傍から磁束の消滅が開始され、可動子102aおよび可動子102bに発生していた磁気吸引力が低下し、磁気吸引力が弁体114と可動子102aおよび可動子102bに作用する閉弁方向の力を下回ったタイミングで弁体114が閉弁を開始する。磁気回路の磁気抵抗の大きさは、磁束が通過する各経路での断面積と材料の透磁率に反比例し、磁束が通る磁路長さに比例する。飽和磁束密度が高い磁性材の金属に比べて、可動子102と固定コア107との間のギャップの透磁率は真空の透磁率μ0=4π×10-7[H/m]であり、磁性材の金属の透磁率に比べて、非常に小さいため、磁気抵抗が大きくなる。磁性材の透磁率μは、B=μ・Hの関係により、磁性材のBHカーブ(磁化曲線)の特性によって決まり、磁気回路の内部磁界の大きさによって変化するが、一般的に低い磁界では、低い透磁率となり、磁場の増加に伴って透磁率が増加し、ある磁場を超えた時点で透磁率が減少するプロファイルとなる。弁体114が開弁位置から変位すると、可動子102と固定コア107の間にギャップxが生じるため、磁気回路の磁気抵抗が増加し、磁気回路に発生可能な磁束が減少し、可動子102の固定コア107側端面の吸引面を通過する磁束も減少する。ソレノイド105の磁気回路内部に発生している磁束が変化すると、レンツの法則による誘導起電力が発生する。一般的に、磁気回路における誘導起電力の大きさは、磁気回路に流れる磁束の変化率(磁束の1階微分値)に比例する。ソレノイド105の巻き数をN、磁気回路に発生している磁束をφとすると、燃料噴射装置の端子間電圧Vinjは、式(2)に示すように、誘導起電力の項−N・(dφ/dt)とオームの法則によって生じるソレノイド105の抵抗成分Rとソレノイド105に流れる電流iの積との和で示される。
Vinj=−N・(dφ/dt)+R・i (2)
弁体114が弁座118と接触すると、可動子102aは可動子102bと弁体114から離間するが、これまで弁体114および可動子102bを介して可動子102aに作用していたスプリング110による荷重と弁体114に作用する燃料圧力による力である閉弁方向の力が作用しなくなり、可動子102aは、戻しばね112の力によって開弁方向に付勢される。すなわち、弁体114が閉弁を完了した瞬間に可動子102aに作用していた力の向きが閉弁方向から開弁方向へ変わるため、可動子102aの加速度が変化する。
可動子102と固定コア107の間に生じるギャップxと、吸引面を通過する磁束φの関係は、微小時間においては、1次近似の関係とみなすことができる。ギャップxが大きくなると、可動子102と固定コア107の距離が大きくなり、磁気抵抗が増加して、可動子102の固定コア107側端面を通過可能な磁束が減少し、磁気吸引力も低下する。可動子102に働く吸引力は、理論的に式(3)で導出することができる。式(3)より、可動子102に働く吸引力は、可動子102の吸引面の磁束密度Bの二乗に比例し、可動子102の吸引面積Sに比例する。
Fmag=(B2・S)/(2・μ0) (3)
式(2)と図12より、ソレノイド105の端子間電圧Vinjと可動子102の吸引面を通過する磁束φの1階微分値には対応関係がある。また、可動子102の固定コア107側端面と固定コア107の可動子102側端面の距離であるギャップxが変化することで可動子102と固定コア107との間の空間の面積が増加するため、磁気回路の磁気抵抗が変化し、その結果として可動子102の吸引面を通過可能な磁束が変化するため、ギャップxと磁束φが微小時間においては1次近似の関係にあると考えることができる。ギャップxが小さい条件では、可動子102と固定コア107との間の空間の面積が小さいため、磁気回路の磁気抵抗が小さく、可動子102の吸引面を通過できる磁束が増える。一方で、ギャップxが大きい条件では、可動子102と固定コア107との間の空間領域の面積が大きいため、磁気回路の磁気抵抗が大きく、可動子102の吸引面を通過可能な磁束が減少する。また、図12より、磁束の1階微分値は、ギャップxの1階微分値と対応関係にある。さらに、端子間電圧Vinj、電圧VL2の1階微分値は、磁束φの2階微分値と対応し、磁束φの2階微分値は、ギャップxの2階微分値すなわち可動子102の加速度に相当する。したがって、可動子102の加速度の変化を検出するためには、端子間電圧Vinjもしくは電圧VLの2階微分値を検出する必要があり、そのために電圧VLを分圧して、電圧VL2をCPU801のA/D変換ポートに入力するとよい。
図11より、噴射パルス幅Tiを停止、すなわちソレノイド105への通電を停止して、弁体114が最大変位位置から変位を開始すると電圧VL2のプロファイルに変化が生じる。また、弁体114に連動して動く可動子102の変位量に応じて電圧VL2が変化する。可動子102と固定コア107との間のギャップxが大きいほど磁気抵抗が大きくなるため、残留磁束が小さくなり、その結果、電圧VL2は0Vに漸近していく。
また、弁体114が弁座118と接触した瞬間に可動子102aが可動子102bと弁体114から離間することで、これまで可動子102bと弁体114を介して可動子102aに作用していた閉弁方向の力が作用しなくなり、可動子102aは戻しばね112の開弁方向の力を受けて、可動子102aに作用する力の向きが閉弁方向から開弁方向へ転ずる。したがって、可動子102aの加速度の変化を電圧VL2の2階微分値の最小値で検出することができる。なお、電圧の検出する箇所は、端子間電圧Vinj,電圧VL2もしくは、端子890と接地電位との間の電圧VHから電圧VLを減じた電圧VHLを用いてもよい。電圧VLで弁体114の閉弁完了タイミングを検出する場合、噴射パルスTiを停止した後の電圧VLにコンデンサ851の電荷放電が終わるタイミングで変曲点が生じる場合がある。この変局点が生じるタイミングと閉弁完了タイミングの時間差が小さい場合、コンデンサ851によって生じる変曲点が閉弁完了タイミングでの電圧VLに干渉し、検知誤差が生じる場合がある。電圧VHLもしくは端子間電圧Vinjを検出することで、コンデンサ851により生じる変局点をキャンセルすることができるため、閉弁完了タイミングの検出精度を向上できる。
噴射パルス幅Tiが停止された後、弁体114と連動して可動子102aと可動子102bが目標リフト位置から変位し、このときの電圧VLは正の昇圧電圧VHの値から緩やかに0Vに漸近していく。弁体114が閉弁後に、可動子102aが弁体114および可動子102bから離間すると、これまで弁体114、可動子102bを介して可動子102aに働いていた閉弁方向の力、すなわちスプリング110による荷重と燃料圧力による力がなくなり、可動子102aには、戻しばね112の荷重が開弁方向の力として働く。弁体114が閉弁位置に到達して可動子102aに作用する力の向きが閉弁方向から開弁方向へ変化すると、これまで緩やかに減少していた電圧VLの2階微分値が増力に転ずる。この電圧VLの2階微分値の最小値を駆動回路で検出することで、弁体114の変位量の個体ばらつきを精度よく検出することが可能である。また、可動子102aおよび可動子102bが開弁位置から変位することによる電圧VLの値は、ソレノイド105の巻き線の線径および巻き数によって決まる抵抗値、磁気回路の仕様、磁性材の材質(電気低効率とBHカーブ)によって決まるインダクタンスや、弁体114の目標リフトの設計値、噴射パルス幅Tiが停止されるタイミングでの電流値によって変化し、以上で説明した寸法や設定値の公差変動による影響を大きく受ける。電圧VLの2階微分値による閉弁遅れ時間の検知方法では、物理量として可動子102aおよび可動子102bの加速度の変化点を検出しているため、設計値や公差の変動および環境条件(電流値)の影響を受けず、精度良く閉弁完了タイミングを検知することができ、噴射パルスをOFFにしてから弁体114が閉弁するまでの時間である閉弁遅れ時間を検出することができる。
噴射パルス幅Tを停止してから弁体114が閉弁完了するまでの時間を検知するため、IC802もしくは、CPU801に入力する端子間電圧Vinjをもしくは電圧VLを分圧した電圧VL1を2階微分し、2階微分値が最小となるタイミングを弁体114が閉弁完了するタイミングとして検知することで、正確な閉弁完了タイミングを検出することができる。また、端子間電圧Vinjをもしくは電圧VLを分圧した電圧VLIを検出する前処理において、燃料噴射装置840の端子881とCPU801の端子y80との間にオペアンプ820と抵抗R81と抵抗R82とコンデンサC81とで構成されるアクティブローパスフィルタ860を構成すると良い。弁体114が閉弁完了することに伴う可動子102aの加速度の変化によって生じる端子間電圧Vinjおよび電圧VL、電圧VL1の変化は、電圧の信号に重畳するノイズに比べて周波数が低い。したがって、電圧VL1を測定するための端子881とCPU801との間に、アクティブローパスフィルタを介することで、端子間電圧Vinj、電圧VL、電圧VL1に発生する高周波なノイズを低減することができ、閉弁完了タイミングの検知精度を高めることができる。
また、アクティブローパスフィルタ860のカットオフ周波数fc2は、抵抗R82とコンデンサC81の値を用いて、下記の式(4)のように表すことができる。燃料噴射装置と駆動装置の構成によって、スイッチング素子805、806、807や第2の電圧源を構成するためのスイッチング素子831のスイッチングタイミングおよび第2の電圧源の値が異なり、その結果として、電圧に発生するノイズの周波数は異なる。したがって、燃料噴射装置840と駆動回路の仕様ごとに抵抗R82とコンデンサC81の設計値を変更すると良い。また、アナログ回路でローパスフィルタを構成した場合、CPU801でデジタル的にフィルタリング処理を行う必要がないため、CPU801の計算負荷を低減できる。また、電圧VL1の信号をCPU801もしくは、IC802に直接入力し、デジタル的にフィルタリング処理しても良い。この場合、アナログのローパスフィルタの構成部品であるオペアンプ820と抵抗R81と抵抗R82とコンデンサC81を使用する必要がないため、駆動装置のコストを低減できる。また、以上で説明したローパスフィルタは、端子853に直列に配置する抵抗器と並列に配置するコンデンサからなる1次ローパスフィルタを用いても良い。1次ローパスフィルタを用いる場合、アクティブローパスフィルタを用いた構成に対して、抵抗とオペアンプの2つの部品を減らすことができるため、駆動装置のコストを低減することが可能である。また、1次口−パスフィルタのカットオフ周波数の算出方法は、アクティブローパスフィルタ860を用いた場合の式(4)で算出できる。このカットオフ周波数fc2は、開弁開始タイミングを検知するためのアクティブローパスフィルタfc1の値と異なるように構成されていても良い。
また、ローパスフィルタの構成としては、コイルとコンデンサを用いて時数が2次以上のローパスフィルタを構成することが可能である。この場合、抵抗器なしにローパスフィルタを構成できるため、アクティブローパスフィルタおよび1次ローパスフィルタを使用する場合に比べて、電力消費が少ないメリットがある。
fc2=1/(2・π・R82・C81) (4)
閉弁完了タイミングを検出するための電圧の測定点は、端子間電圧Vinjを用いることも可能であるが、端子間電圧Vinjには、燃料噴射装置840の昇圧回路のスイッチング素子831によって生じる高周波なノイズが発生する。端子間電圧Vinjでは、噴射パルスTi停止後の電圧のプロファイルが電圧VLと比べて正負が逆転し、負の方向の昇圧電圧VHから電圧0Vに向かって漸近して行く。したがって、閉弁完了タイミングを検出するためには、端子間電圧Vinjの2階微分値の最大値を検知する必要があるが、精度良く検出するためには、スイッチングノイズを低減するために、ローパスフィルタの時定数を大きく設定する必要があるため、弁体114と弁座118と接触するタイミングと検知した端子間電圧Vinjの2階微分値で検知した閉弁完了タイミングには誤差が生じることがある。この誤差は、検出ばらつきとなり、微小噴射量制御を行う制約となりうるため、閉弁完了タイミングを測定する箇所は、端子間電圧Vinjではなく、燃料噴射装置840の接地電位側端子と接地電位(GND)との電位差である電圧VLを測定することが望ましい。
また、CPU801もしくは、IC802に入力された信号は、噴射パルス幅Tiをトリガーとし、噴射パルス幅Tiが停止されてから一定時間経過後に予め設定しておいた時間の間、電圧VL2の信号を取り込むとよい。このような構成とすることで、CPU801もしくは、IC802に入力される電圧VL2のデータ点列を閉弁完了タイミングの検知に必要最低限に抑制することができるため、CPU801およびIC802のメモリの記憶容量と計算負荷を低減できる。また、昇圧電圧VHからバッテリ電圧VBへ切り替えるタイミングや、スイッチング素子805、806、807の通電・非通電を繰り返すタイミングすなわち、電圧の変化が急峻となるタイミングで電圧の微分処理を行うと、処理後のデータに高周波の信号が発生するため、弁体114が弁座118と接触する閉弁完了タイミングを電圧VL2の2階微分値で検出する際に、閉弁完了タイミングを誤検知する可能性があるが、電圧を検出する期間をCPU801もしくはIC802で決定することで、開弁完了タイミングの誤検知を防止することができる。
燃料噴射装置840の駆動装置では、電流もしくは電圧を測定するため、駆動回路に設けた電圧検出用抵抗812、813、808の両端電圧をIC802もしくは、CPU801で診断しているが、予めIC802、CPU801に設定しておいた抵抗値に対して個体ごとに抵抗値が異なると、IC802で推定する電圧値に誤差が生じて、燃料噴射装置840のソレノイド105に供給される駆動電流が各気筒の燃料噴射装置840ごとに変動し、噴射量ばらつきが大きくなる。
また、弁体114と弁座118が接触する閉弁位置において、燃料噴射装置840の端子間電圧Vinjが小さいと、可動子102の加速度の変化による電圧値の変化が相対的に小さくなるため、ソレノイド105の端子間電圧Vinjが高い条件で閉弁位置に到達するように、スプリング110の荷重を大きくして、閉弁遅れ時間を短縮する方法が有効である。また、燃料噴射装置840に供給する燃料圧力が大きいほど、弁体114および可動子102に働く燃料圧力による力が増加するため、閉弁遅れ時間が小さくなる。例えば、弁体114が弁座118と接触する閉弁完了タイミングの各気筒の個体ばらつきの検知は、燃料圧力が高い条件、各気筒で燃料噴射装置840に供給する燃料圧力が同じ運転条件で行うと良い。この効果によって、燃料圧力が低い条件に比べて、閉弁完了タイミングでの磁気回路に発生している残留磁束が大きくなり、また、弁体114が弁座118に衝突する際の速度が増加し、弁体114が弁座118と接触した瞬間に可動子102が弁体114から離間することによる可動子102の加速度の変化が増加し、誘導起電力の変化も大きくなるため、端子間電圧Vinjもしくは電圧Vl2階微分値で閉弁完了タイミングを検出し易くなる。また、燃料噴射装置840に供給される燃料圧力が高くエンジンの負荷が大きい条件では、1吸気行程中に噴射する噴射量が大きくなり、燃料噴射装置840の上流に取り付けられた配管の圧力脈動の影響によって、燃料噴射装置840に供給する燃料圧力が変動することがある。この場合、閉弁完了タイミングの検知は、エンジン負荷が小さく各気筒の噴射量が同じアイドル運転などの条件で行うと良い。
また、電圧VL2を検出してデータ処理をするためのマイコンをCPU801、IC802の他に設けてもよい。CPU801で電圧VL1、電圧VL2を検出してデータ処理を行う場合には、高いサンプリングレートでデータをA/D変換して、微分処理を行う必要があり、他のセンサからの信号を取り込む時の割り込み処理が発生する場合やCPU801の計算負荷が高いような条件では、電圧VL1、電圧VL2を検出して微分処理することが難しい場合がある。したがって、CPU801の他に設けたマイコンで電圧VL1、電圧VL2を検出して、マスキング処理と微分処理を行い、電圧VL1、電圧VL2の2階微分値を算出し、電圧の2階微分値が最小、最大となるタイミングを閉弁完了タイミング、開弁開始タイミングとして検出して、記憶させる機能をマイコンに持たせることで、CPU801とIC802の計算負荷の低減と、開弁完了タイミングの確実な検知を行うことができるため、噴射量の補正精度を向上させることができる。このマイコンは、CPU801もしくはIC802との相互に通信できる通信ラインを設けており、CPU801で圧力センサから取り込んだ燃料圧力の情報と、マイコンから送信されてきた閉弁完了タイミングの検知情報をCPU801に記憶させるように構成するとよい。このような構成とすることで、開弁開始・閉弁完了タイミングの検知をより確実に行うことができるため、各気筒の噴射量をより正確に制御することが可能となる。
なお、閉弁完了タイミングを検知するための1つ目の代替手段として、噴射パルスTiの停止後にコイル105に流れるリーク電流の変曲点を検出する方法が考えられる。駆動電流がコイル105に供給されている状態から噴射パルスTiを停止すると、スイッチング素子805、806、807が非通電となり、マイナス方向の昇圧電圧VHがコイル105に印加され、駆動電流は急速に低減される。駆動電流が0A近傍に到達したタイミングで、これまで逆起電圧により生じていた電圧が消滅し、昇圧電圧VH側へ帰還していた経路に電流が流れなくなることで、自動的にマイナス方向の昇圧電圧の印加は停止されるが、コイル105には僅かなリーク電流が流れる。このとき、スイッチング素子805、806、807はともにOFFとなっているため、リーク電流はコイル105から、抵抗852、抵抗853を介して接地電位815側へ流れる。したがって、このリーク電流を検出するためには、抵抗852もしくは、853の両端電圧を測定するか、コイル105から接地電位815との間の経路にシャント抵抗を設けて、その両端電圧を測定する方法が考えられる。または、電流が0A近傍に到達して、マイナス方向の昇圧電圧VHの印加が停止されたタイミングでスイッチング素子806をONにして、リーク電流を抵抗808から接地電位815側に流すことで、抵抗値の精度が高いシャント抵抗である抵抗808の両端電圧を測定し、その電圧を微分処理することで、リーク電流の変曲点を検出することができ、弁体114の閉弁完了タイミングを検出できる。
また、弁体114が弁座118と接触した瞬間である閉弁完了タイミングを検知するための2つ目の代替手段として、各気筒のインジェクタもしくは、インジェクタを固定しているエンジン側に、加速度ピックアップを取り付け、弁体114が弁座118に衝突する際の衝撃もしくは、急激に燃料の噴射が停止されることで生じる水撃による振動を検出することで、閉弁完了タイミングを検知する方法も考えられる。この場合、各気筒の閉弁完了タイミングを精度良く検出するため、加速度ピックアップの取付位置は、インジェクタのハウジング側面円筒部に平面となる部分を設け、そこに固定し、加速度ピックアップを取付ネジ等を用いてハウジングに押しつけて固定することで、インジェクタの閉弁完了タイミングに伴う振動を検出し易くできる。また、この加速度ピックアップを用いた方法では、可動子102が、固定コア107と衝突する際の開弁完了タイミングも同時に検知することができる反面で、各インジェクタそれぞれに加速度ピックアップと、その出力電圧を増幅するためのアンプおよび、電圧信号とGND線の2つの配線が必要になる。また、精度良く検知を行うためには、加速度ピックアップで得られた高周波な振動波形を正確にデータ処理するためのサンプリングレートを高くする必要があるため、高性能なA/D変換器が必要となる。
また、弁体114が弁座118と接触した瞬間である閉弁完了タイミングを検知するための3つ目の代替手段として、ノッキング検出用にインジェクタ上流のレール配管に設けられた圧力センサもしくは、エンジンに取り付けられたノッキング検出用のセンサを用いる方法が考えられる。インジェクタから燃料が噴射されている状態では、レール配管の圧力が減少し、上流に取り付けられたポンプによって目標の燃料圧力となるように圧力減少分だけポンプが加圧動作を行う。弁体114が開弁状態から弁座118に衝突し、閉弁完了タイミングに到達すると、インジェクタ上流の燃料配管の圧力減少が停止するため、その圧力の変曲点を検出することで閉弁完了タイミングを検出する方法が考えられる。また、ノッキング検出用に用いられるセンサは一般的に振動を検出する振動ピックアップであるため、インジェクタの閉弁完了タイミングに伴う弁体114が弁座118に衝突することによって生じる閉弁時の振動と可動子102が固定コア107に衝突することで生じる開弁時の振動を検出することができ、開・閉弁完了タイミングを検知することができる。これを用いる場合、別気筒の開・閉弁完了タイミングおよび燃焼時の振動と検知している開弁完了タイミングと閉弁完了タイミングが一致しないように、アイドル運転などエンジンが低回転で負荷が小さい条件で開弁完了タイミングと閉弁完了タイミングを検知するとよい。
通常エンジンでは、A/Fセンサ(空燃比センサ)からの指令値をCPU801で検出し、同じ運転条件においても各気筒の燃料噴射装置ごとに噴射パルス幅を微調整している。閉弁完了タイミングを検知する条件では、A/Fセンサからの指令値に基づいた噴射パルス幅の微調整を停止し、同じ噴射パルス幅が供給される条件で、開弁開始および閉弁完了タイミングを検知すると良い。このようにすることで、開弁開始タイミングおよび閉弁完了タイミングを検知する際の流入空気のばらつき等、燃料噴射装置840の弁動作に伴う個体ばらつき以外の変動の影響を小さくすることができ、燃料噴射装置840の開弁開始タイミングおよび閉弁完了タイミングの各気筒の燃料噴射装置ごとのばらつきを精度良く検知できる。
また、噴射パルス幅Tiを停止し、弁体114が開弁状態から閉弁する際に、弁体114または可動子102が閉弁を開始してから、弁体114が弁座118と接触して、閉弁完了するまでは、駆動装置のスイッチング素子805、806、807の通電・非通電の切替を行わないように駆動装置のスイッチング動作を制御すると良い。以上のように構成することで、端子間電圧VinjまたはVL電圧に、スイッチング素子805、806、807をスイッチングすることによる高周波の測定ノイズが重畳することがなくなるため、閉弁完了タイミングの検知の精度を向上させることができる。
次に、図13を用いて弁体114が目標リフトに到達するタイミングである開弁完了タイミングの検出方法について説明する。図13の駆動電流、電流の1階微分値、電流2階微分値および弁体114の変位量には、寸法公差によって生じる可動子102と弁体114に作用する力の変動によって、弁体の動作タイミングが異なる燃料噴射装置840の各個体3つのプロファイルを記載している。図13より、最初にソレノイド105に昇圧電圧VHを印加することで、急速に電流を増加させて、可動子102に作用する磁気吸引力を増加させる。その後、駆動電流がピーク電流値Ipeakに到達し、電圧遮断期間T2が終了するタイミングt1303までに、各気筒の燃料噴射装置である個体1、個体2、個体3の弁体114の開弁開始タイミングがくるように、ピーク電流値Ipeak、もしくはピーク電流到達時間Tpと電圧遮断期間T2を設定するとよい。バッテリ電圧VBの印加を続けて一定の電圧値1301が供給されている条件では、ソレノイド105への印加電圧の変化が小さいため、可動子102が閉弁位置からリフトを開始し、可動子102と固定コア107との間のギャップの縮小に伴う磁気抵抗の変化を誘導起電力の変化として検出することができる。弁体114および可動子102がリフトを開始すると、可動子102と固定コア107との間のギャップが縮小するため、誘導起電力が大きくなり、ソレノイド105に供給される電流が1303のように緩やかに減少する。可動子102が固定コア107に到達するタイミングすなわち、弁体114が目標リフトに到達したタイミング(以降、開弁完了タイミングと称する)でギャップの変化に伴う誘導起電力の変化が小さくなるため、電流値は1304のように緩やかに増加する。誘導起電力の大きさは、ギャップの他に電流値の影響を受けるが、バッテリ電圧VBのように昇圧電圧VHに比べて低い電圧が印加されている条件では、電流の変化が小さいため、ギャップが変化することによる誘導起電力の変化を電流で検出し易い。
以上で説明した燃料噴射装置840の各気筒の個体1、個体2、個体3について、弁体114が目標リフトに到達したタイミングを駆動電流が減少から増加へ転ずる点として検出するために、電流の1階微分を行い、電流の1階微分値が0となるタイミングt1304、t1305、t1306を開弁完了のタイミングとして検知するとよい。
また、ギャップの変化によって生じる誘導起電力が小さいような駆動部および磁気回路の構成では、必ずしもギャップの変化によって、電流が減少しない場合があるが、開弁完了タイミングに到達することで、電流の傾きすなわち電流の微分値が変化するため、駆動装置で検出した電流の2階微分値の最大値を検出することで、開弁完了タイミングを検知でき、磁気回路やインダクタンス、抵抗値、電流の制約を受けずに、開弁完了タイミングを安定して検知することができ、噴射量の補正精度を高めることができる。
また、開弁完了タイミングの検知は、弁体114と可動子102が一体となった可動弁の構成においても、弁体114と可動子102の別体構造で説明した開弁完了タイミングの検知を同様の原理で検出することができる。
ここで、第一参照例で燃料噴射装置840の磁気回路に使用する磁性材のBH特性を図14に示す。図14より、磁性材のBHカーブは、入力値である磁場と磁束密度の関係は非線形であり、磁化されていない磁性材に増加していく磁場を加えると、磁性材は磁化され始めて磁束密度が飽和磁束密度Bsに達するまで増加する。この過程で、磁場と磁束密度の傾きが大きい領域H1と、磁界と磁束密度の傾きが小さい領域H2が存在する。また、飽和磁束密度Bsに到達してから磁場を減少させていくと、磁性材が磁化する現象が時間的に遅れることによって、初期磁化曲線と異なる曲線を描く。燃料噴射装置840では、正方向の磁場を繰り返して与えることが多いため、初期磁化曲線と戻り曲線との間でヒステリシスのマイナーループを描く場合が多い。そこで、開弁開始および開弁完了タイミングを検知する条件では、ピーク電流Ipeakに到達するまで電流を増加させ、弁体114が変位するために必要な磁気吸引力を可動子102に発生させた後、開弁開始タイミングおよび開弁完了タイミングの前に駆動電流を急速に小さくする期間T2を設けることで、可動子102に働く磁気吸引力を低下させると良い。燃料噴射装置840のソレノイド105に供給される駆動電流がピーク電流値Ipeakのように開弁状態で弁体114を保持するのに必要な電流値と比べて高い条件では、ソレノイド105に供給される電流値が大きくなり、図14に示す通りに、磁界と磁束密度の傾きが小さい領域H2に位置することが多く、磁束密度が飽和に近い状態にある。本第一参照例においては、可動子102に開弁に必要な磁気吸引力を発生させた後に、負の方向の昇圧電圧VHを期間T2の間印加し、急速に電流を低下させることで、開弁開始タイミングおよび開弁完了タイミングでの駆動電流を小さくし、ピーク電流値Ipeakの条件での磁界と磁束密度の傾きに比べて、磁界と磁束密度の傾きを大きくすることができ、弁体114が開弁開始するタイミングでの可動子102の加速度の変化を電圧VL2の2階微分値の最大値としてより顕著に検出し易くできる。また、開弁完了タイミングも同様に、弁体114が変位を開始し、可動子102と固定コア107のギャップの縮小に伴う磁気抵抗の変化を誘導起電力の変化としてより顕著に検出し易くできる効果がある。
このように、開弁開始または完了タイミングを検出するときに、ピーク電流Ipeakに到達するまで電流を増加させた後に負の方向の昇圧電圧VHまたは0Vを印加することは必ずしも必須ではないが、このようにすることで開弁開始または完了タイミングをより精度良く検出することが可能となる。
また、開弁完了タイミングを検知するに当たり、ピーク電流値Ipeakに到達した時刻、もしくは、負の方向の昇圧電圧VHの印加が終了した時刻から駆動装置へ与えておいた一定時間経過後からのある期間における電流値のみを検出して、電流値の1階微分処理によって行うと良い。このような構成とすることで、昇圧電圧VHのON・OFFを行うタイミングにおいては、電流値が急速に変化するため、開弁完了タイミングではない時刻に駆動装置に予め与えておく閥値を電流の1階微分値が超えてしまう誤検知を抑制することができ、開弁完了タイミングの検知精度を向上させることができる。なお、負方向の昇圧電圧VHの印加が停止した後に、バッテリ電圧源VBから電圧値1301が供給されている期間に、IC802に予め設定しておく目標の電流値Ih1に到達しないようにピーク電流値Ipeakと負方向の昇圧電圧VHを印加する期間T2を調整すると良い。この効果によって、弁体114が目標リフトに到達する前に駆動電流が目標の電流値Ih1に到達すると、駆動装置では、電流Ih1を一定に保つように制御されるため、電流の1階微分値が0点を繰り返し通過するため、誘導起電力の変化を駆動電流で検知できなくなる問題を解決できる。
また、一定の電圧値VHを印加している状態から、負方向の昇圧電圧VHを印加してもしくは、電圧の印加を停止(0Vの印加)して、電流値を図7の電流Ih2に到達させ、その後バッテリ電圧VBを印加して、電流1303、1304となるようにスイッチング素子605、606、607を制御する。噴射パルス幅TiをONにしてから、バッテリ電圧VBの印加後に電流値Ih1に到達するまでの時間は、弁体114の個体差および燃料圧力の変化に伴う開弁完了タイミングのばらつきによって異なる。噴射パルス幅Tiを停止した時の磁気吸引力は、噴射パルス幅TiをOFFにしたときの駆動電流の値に大きく依存し、駆動電流が大きいと磁気吸引力が大きくなり、閉弁遅れ時間が増加する。逆に、噴射パルス幅TiをOFFにした時の駆動電流が小さいと、磁気吸引力が小さくなり、閉弁遅れ時間が減少する。以上で説明した通り、開弁完了を検知する条件において、噴射パルス幅TiをOFFにするタイミングでの電流値は、個体ごとに同じ電流となることが望ましいため、一定の電圧値VHから負の方向の昇圧電圧VHを印加するもしくは、電圧の印加を停止するタイミングは、噴射パルス幅TiをONにしてからの時間もしくは、ピーク電流値Ipeakに到達してからの時間で制御すると良い。
第一参照例における各気筒の噴射量ばらつきの検知および推定方法では、噴射パルス幅Tiを供給してから開弁完了するまでの時間を開弁遅れ時間として、各気筒の燃料噴射装置840ごとに記憶させ、予めCPU801に与えておいた開弁遅れ時間の中央値からの乖離値を算出し、乖離値に応じて次回噴射以降の噴射パルス幅Tiの補正値を算出して、開弁遅れ時間の検知情報に基づいて噴射パルス幅Tiを各気筒の燃料噴射装置840ごとに補正するとよい。開弁遅れ時間の検知情報に基づいて噴射パルス幅Tiを補正することで、公差のばらつきに伴う開弁遅れ時間のばらつきによって生じる噴射量の個体ばらつきを低減することができる。
続いて、本参照例において検知した燃料噴射装置840の開弁完了タイミングの情報を用いて、中間リフト動作を行う場合の制御方法について説明する。弁体114が目標リフトに到達せずに、中間リフト動作を行う条件では、噴射量の個体ばらつきは、開弁開始・閉弁完了タイミングのばらつきで決まる。しかしながら、駆動装置と燃料噴射装置を接続した状態で燃料噴射装置が駆動されていない段階では、開弁開始タイミングと閉弁完了タイミングを検知するための中間リフト動作を行っていないため、駆動装置で演算される噴射量を得るための噴射パルス幅を出力して、中間リフト動作させた場合、各気筒の燃料噴射装置によっては想定していた噴射量に対しての噴射量ばらつきが大きくなり、混合気の燃料がリッチもしくはリーンな状態となり、場合によっては失火する可能性がある。したがって、最初に中間リフト動作させる前に、弁体114が目標リフトに到達する条件で、開弁完了タイミングを検知して、開弁開始タイミングを推定する必要がある。この場合、開弁完了タイミングの検知用波形を用いて検知して、駆動装置に記憶させた各気筒の燃料噴射装置ごとの開弁遅れ時間に補正係数を乗じて、開弁開始タイミングを推定すると良い。また、開弁開始タイミングを精度良く推定するためには、開弁完了タイミングと開弁開始タイミングとの相関係数が高い必要があるため、開弁完了タイミングに影響する弁体114に作用する燃料圧力による差圧力が小さくなる低燃圧の条件での開弁遅れ時間の情報から開弁開始タイミングを推定すると良い。
次に、図4、図15、図16、図17を用いて中間リフトでの噴射量の補正方法についで説明する。なお、図15は、図4おける点402より小さい噴射パルス幅の領域での噴射量補正のフローチャートである。
最初に中間リフト動作を行う場合においては、各気筒の中間リフト動作中の開弁開始および開弁完了タイミングの検知情報を駆動装置が得ていないため、弁体114が目標リフトに到達する条件で各気筒の燃料噴射装置840ごとに検知した開弁遅れ時間と閉弁遅れ時間に、予めCPU801に与えておく補正係数を乗じて、閉弁完了タイミングおよび開弁開始タイミングを推定し、推定した開弁開始タイミングTa’と閉弁完了タイミングTbから算出される中間リフトでの実噴射期間(Tb−Ta’)を算出し、予めCPU801に与えておく設定値と実噴射期間(Tb−Ta’)の乖離値だけ、噴射パルス幅Tiを補正して中間リフト動作を行うと良い。また、図15より、検知情報である実噴射期間(Tb−Ta’)と弁体114が目標リフト位置で静止している条件で、燃料噴射装置840から噴射される単位時間当たりの流量Qst(以降、静流と称する)を乗じた値、(Tb−Ta’)・Qstと噴射量の関係を関数化して、駆動装置のCPU801に予め設定しておく。図16より、例えば、噴射量と(Tb−Ta’)・Qstの関係は、1次近似の関係で求めることができる。図17より、各噴射パルス幅での検知情報(Tb−Ta’)・Qstを取得し、噴射パルス幅Tiと検知情報(Tb−Ta’)・Qstの関係より、検知情報から各気筒の係数を決定する。検知情報(Tb−Ta’)・Qstと噴射パルス幅Tiの関係は、例えば、1次近似の関係で表すことができ、各個体1、2、3の関数の係数、a1、b1、a2、b2、a3、b3の係数を検知情報から算出することができる。噴射パルス幅Tiが異なる2点の検知情報をCPU801で検知し、係数を算出することができる。以上で説明したフローチャートによって、CPU801で要求噴射量が決定した場合に、気筒ごとに噴射パルス幅Tiを補正することで、中間リフトでの噴射量を補正することができ、精密かつ微少な噴射量制御が可能となる。
次に、図18を用いて、中間リフトでの検知情報を得るための燃料噴射装置840の制御方法について説明する。
本参照例における燃料噴射装置と駆動装置とで構成される燃料噴射システムでは、中間リフト条件での開弁開始タイミングと閉弁完了タイミングを、燃料噴射装置に供給する燃料圧力および噴射パルスTiが異なる条件で複数回取得する必要がある。しかしながら、中間リフトでの検知情報を得ていない場合、弁体114が目標リフトに到達する条件での開弁開始タイミングと閉弁完了タイミングから中間リフトでの噴射量を推定し、中間リフト動作を行う必要がある。この場合、目標の噴射量からの乖離値が大きくなり、吸入する空気と燃料の比率(空燃比)が、リッチ、およびリーンな状態となり、不安定な燃焼によって未燃焼物質が多く排出され、排気性能が悪化し、場合によっては失火を起こす可能性がある。
図18より、1吸排気行程中の噴射を複数回に分割して、各気筒の噴射量のばらつきが既知である弁体114が目標リフトに達する条件で一定量の噴射を行い、その後またはその前に、中間リフトでの噴射を行うことで、中間リフト動作時における開弁開始タイミングおよび閉弁完了タイミングを検知することができる。このとき、弁体114の変位量の積分値が噴射量に相当し、弁体114が目標リフトに到達する条件での噴射量に比べて、中間リフトでの噴射量の方が小さいように設定するとよい。これにより、1吸排気行程中の噴射量の多くは、目標リフトに到達する条件での噴射量で決まるため、中間リフトでの噴射量が目標値と乖離していたとしても、失火を抑制できる効果がある。
中間リフトの条件で、閉弁完了タイミングの検知情報を得るための噴射は、1吸排気行程中で1回乃至複数回行っても良い。1吸排気行程中で中間リフトの動作を複数回行い、1回目の中間リフト動作と2回目の中間リフト動作で異なる噴射パルス幅Tiを用いることで、噴射量を補正するための閉弁完了タイミングの検知情報を複数同時に得ることができる。また、開弁開始タイミングの検知情報が既に得られている場合、中間リフトでの駆動波形は、図15に示す、2回目の噴射の波形を用いる必要はなく、実際に中間リフト動作の噴射を行う場合に適した電流波形を用いれば良い。以上の方法によれば、燃焼安定性を維持しつつ、中間リフトでの閉弁完了タイミングの検知情報を得ることが可能となるため、短時間で中間リフト条件での各気筒の燃料噴射装置の個体ばらつきを補正できかつ微少な燃料噴射を行うことが可能となる。
また、本参照例における手法によれば、中間リフトでの個体ばらつきのみではなく、弁
体114が目標リフトに達する条件で駆動される場合においても、閉弁完了タイミングの
個体ばらつきによって生じる各気筒のインジェタクの噴射量ばらつきを低減することがで
きる。これは、開弁完了タイミングの個体ばらつきは、セットスプリング荷重や磁気吸引力を決める寸法の公差変動によって生じる。よって、閉弁完了タイミングが早い個体については、可動子102が固定コア107から離間して、弁体114が閉弁を開始する閉弁開始タイミングも早くなる。したがって、閉弁完了タイミングの変動時間に、フルリフトでの単位時間当たりの流量を積算した値が、閉弁完了タイミングの個体ばらつきによる噴射量の変動量に相当するため、閉弁完了タイミングを検知することで、弁体114が開弁状態から閉弁完了タイミングに達するまでの噴射量ばらつきをECUで導出することができる。また、ECUで検知した各気筒のインジェクタの開弁開始タイミングと開弁完了タイミングの情報から推定できる弁体114の傾きから、弁体114が目標リフトに達するまでに噴射した噴射量を導出することができるため、閉弁完了タイミングから推定した噴射量ばらつきと合わせて、各気筒のインジェクタの噴射量ばらつきをECUで検出することができ、噴射パルス幅Tiの補正と電流設定値の補正によって、弁体114が目標リフトに達する条件における噴射量を補正することが可能となる。
さらに図18記載のように、中間リフト動作での開弁開始タイミングおよび閉弁完了タイミングの情報を取得した後には、1吸気行程中に行う分割噴射を中間リフトの動作で行うと良い。中間リフトで動作する場合、弁体114が目標リフトに達して動作する場合に比べて、噴射パルスTiを停止してから弁体114および可動子102a、可動子102bが閉弁方向に加速する時間が短い。したがって、弁体114が弁座118と接触するタイミングでの弁体114、可動子102a、可動子102bの速度を低減することができるため、弁体114が閉弁後に可動子102aが閉弁方向に放物運動して、戻しばね112によって再び弁体114と接触する位置まで戻ってくるまでの時間が短くできる。可動子102aが運動している最中に、分割噴射における次の噴射の噴射パルスを印加すると、可動子102aに作用する磁気吸引力に加えて可動子102aが有する運動エネルギーによって、噴射パルスをONにしてから可動子102aが弁体114に衝突するまでの時間が短くなることで、弁体114の開弁開始タイミングが早くなり、1回目の噴射と2回目の噴射で噴射量がばらつく要因となる。本実施例においては、開弁開始遅れ時間および閉弁完了遅れ時間を各気筒の燃料噴射装置ごとに駆動装置に記憶させることで、1吸排気行程中における分割噴射を、中間リフト動作で行うことができ、その結果、弁体114が閉弁してから次の噴射を行う噴射間隔を低減することができるため、分割噴射の回数を増加させることができ、より精密な噴射量制御と、噴射タイミングの制御が可能となることで、混合気の均質度を向上させることができる。また、中間リフトでは、弁体114が目標リフトに到達して駆動される場合に比べて、噴射量が小さいため、噴射した燃料の噴霧の貫徹力を弱めることができるため、燃料のピストン付着やシリンダ壁面付着を抑制することができ、すすを含む未燃焼粒子PMや未燃焼粒子の数PNを低減でき、排気ガスをよりクリーンにすることができる。
[参照例2]
図19乃至図24を用いて、本発明の第2参照例における燃料噴射装置および駆動装置の構成について説明する。図19は、本参照例における燃料噴射装置について、弁体が弁座と接触している閉弁状態での駆動部断面を示す拡大図である。図20は、燃料噴射装置の弁体先端部の縦断面を拡大した図である。図21は、本参照例における燃料噴射装置について、開弁状態での駆動部断面を示す拡大図である。図22は、弁体が開弁状態から閉弁を開始し、弁座118と接触した瞬間の駆動部断面の拡大図である。図23は、本参照例における駆動装置の構成を示した図である。図24は、中間リフト状態で最大リフトから閉弁する際の第二の弁体1907および第二の可動子1902の変位量、電圧VLをCPU801で検出するための端子2306と接地電位815との電位差である電圧VL5、電圧VL5の1階微分値と噴射パルスOFF後の時間の関係を示した図である。なお、図19、図20、図21、22において、図1、図2と同等の部品については、同じ記号を用いる。また、図21、図22において、図19と同一の部品については、同じ記号を用いる。また、図23において、図8と同等の部品については、同じ記号を用いる。
最初に、図19、図20を用いて、本参照例における弁体と弁座118が接触している閉弁状態での燃料噴射装置の駆動部構造および構成について説明する。図19より、第二の弁体1907には、上部に第一の規制部1910を備えており、また、第二の弁体1907には、第二の規制部1908が結合されている。第二の可動子1902には、初期位置ばね1909を支持するための第一の部材1903が、接合部1904で第二の可動子1902に接合されている。第二の可動子1902は、第一の規制部1910と第二の規制部1908との間を相対移動することが可能である。第二の弁体1907と弁座118が接触している閉弁状態において、第二の弁体1907には、スプリング110による荷重と第二の弁体1907と弁座118の接触位置のシート径d2の面積と燃料圧力の積となる流体力(以降、差圧力と称する)が閉弁方向に作用している。また、第二の可動子1902は、初期位置ばね1909の荷重で閉弁方向に付勢され、第二の規制部1908と接触して静止している。この閉弁状態において、第二の規制部1910と第二の可動子1902との間には、隙間1901を有している。また、第二の弁体1907が弁座118と接触している状態では、第二の可動子の上部と下部の圧力差がないため、第二の可動子には差圧力が作用しない。また、第二の弁体1907の中心には、縦孔燃料通路1905が形成されており、横孔燃料通路1906を抜けて燃料が下流へ流れられる構成となっている。
図23を用いて第二参照例における駆動装置の構成について説明する。第二参照例の駆動装置における第一参照例の駆動装置との差異は、閉弁完了タイミングを検知するための電圧の測定箇所を、電圧VL1から電圧VLに変更し、アクティブローパスフィルタ860と燃料噴射装置840の接地電位(GND)側端子2301と抵抗R81との間にコンデンサC83を設けることで、コンデンサC81、C83、抵抗器R81、R82、オペアンプ820で構成されるアナログ微分回路2303を設け、電圧VLの1階微分処理をアナログ的に駆動装置で行い、VLの1階微分値の信号をCPU801のA/D変換ポートに入力する点である。このアナログ微分回路2303においては、VL電圧を分圧しない構成においては、ソレノイド105の接地電位(GND)側端子と接地電位(GND)との間の電位差を検出しているため、VL電圧の電圧値の最大値は、ソレノイド105に負の方向の電圧を印加する条件での高い電圧値、例えば60Vとなる。電圧VLを検出するための測定端子2301とオペアンプ820との間にコンデンサC1を配置することで、オペアンプ820に入力される電圧を小さくすることができるため、オペアンプ820とCPU801のA/Dコンバーターに必要な耐電圧を低減することができ、オペアンプ820とCPU801のコストを低減することができる。また、この構成によれば、第一参照例で用いた電圧VLを分圧するために必要な抵抗器853を無くすことができるため、駆動装置のコスト低減に繋がる。また、アナログ微分回路2203で微分処理を行うことで、駆動装置のVL電圧に重畳する高周波なノイズを低減することができ、1階微分処理後の電圧値をCPU801に入力する構成とすることで、CPU801のA/D変換ポートに必要な時間分解能を低減することができ、CPU801のフィルタリング処理や、デジタル微分演算処理の負荷を低減することができる。
また、開弁開始および開弁完了タイミングを検知するための電圧VL2を、アクティブ
ローパスフィルタ861を通過させて、高周波なノイズ成分を除去した端子843と接地
電位815との間の電位差を電圧VL4と称する。電圧VL4をCPU801のA/D変
換ポートに入力することで、オームの法則によって電圧VL4を抵抗器808の抵抗値で
除した値がソレノイド105に流れる電流となるため、CPU801でソレノイド105
に流れる電流を検出することができる。また、本参照例における方法によれば、ソレノイ
ド105に流れる電流の傾きの変化、すなわち電流微分値の値を駆動装置で検出できれば
良いため、電圧VL4を微分処理して、開弁開始および開弁完了タイミングを検知することができる。
次に、図19、図20、図21を用いて、第二参照例における燃料噴射装置2305の開弁動作について説明する。ソレノイド105に電流が供給されて、第二の可動子1902に作用する磁気吸引力が初期位置ばね1909の荷重を超えると、第二の可動子1902は開弁方向に移動し、隙間1901が0になったタイミングで第二の可動子1902は第二の弁体1907に衝突し、第二の弁体1907は弁座118から離間する。第二の可動子1902が開弁方向に動くことによって、第二の可動子1902には、第二の可動子1902の外径とノズルホルダ101との間にせん断抵抗が生じ、第二の可動子1902には閉弁方向にせん断抵抗力が作用する。ただし、第二の可動子1902の外径とノズルホルダ101との間の隙間を大きくすることでせん断抵抗は低減できる。また、第二の可動子1902に作用するせん断抵抗力は、開弁方向の力である磁気吸引力に比べて小さいため、第二の可動子1902は、スイッチング素子805、806を通電することで、ソレノイド105に昇圧電圧VHが印加されてソレノイドへ電流が供給されることで生じる磁気吸引力によって、第二の可動子1902は開弁方向に加速されていく。その後、スイッチング素子805、806を非通電にして、ソレノイド105の端子間電圧Vinjに負の方向の昇圧電圧VHを印加して、ソレノイドに流れる電流を急速に低減する。その後、スイッチング素子807、806を通電して、ソレノイド105にバッテリ電圧VBを印加し、このスイッチング素子807、806が通電されている期間中に、第二の可動子1902を第二の弁体1907に衝突させて、第二の弁体1907を開弁開始させる。第二の弁体1907が開弁開始後も一定時間または、ソレノイド105に流れる電流値が所定の電流値に達するまで、スイッチング素子807、806を通電することで、電流の2階微分値の最大値として開弁開始タイミングを検出することができる。また、第一参照例における方法と比べて、スプリング110による荷重が、可動子102ではなく、第二の弁体1907に作用するため、第二の弁体1907の開弁開始タイミングでの第二の可動子1902の加速度変化が大く、開弁開始タイミングを検知するための電流の傾きの変化が大きい。この電流の傾きの変化は、ソレノイド105に流れる電流を検出するための電圧VL2にも生じるため、電圧VL2を2階微分処理した後の電圧VL2の最大値もしくは最小値を検出し易く、結果として開弁開始タイミングの検知精度を高めることができる。
次に、図19、図20、図21を用いて第二参照例における弁体114が閉弁状態から開弁する際の第二の可動子1902および第二の弁体1907の動作の説明および開弁完了タイミングの検知方法について説明する。
第二の弁体1907が弁座118と接触している状態では、第二の可動子1902に差
圧力が働かないため、ソレノイド105に電流が供給されると、第二の可動子1902は
加速動作を行って、第二の弁体1907に衝突した後に、短時間で目標リフトまで到達し、第二の可動子1902が固定コア107に衝突する。第一参照例における燃料噴射装置840とは異なり、第二参照例における燃料噴射装置2305では、第二の可動子1902に作用する初期位置ばね1909による荷重が閉弁方向に働くため、第二の弁体1907が目標リフトに到達した後の第二の可動子1902が固定コア107に衝突することによって生じる第二の可動子1902のバウンドが複数回発生し、第二の可動子1902のバウンドが収束するまでには長い時間を要する。その結果、開弁完了タイミングを検知するための電圧VL3には、第二の可動子1902が固定コア107に衝突することによる変曲点が生じ、電圧VL3の2階微分値が正方向へ突となる山(ピーク)が複数生じる場合がある。この場合であっても電圧VL3の2階微分値が最大となるタイミングを各気筒の燃料噴射装置ごとに駆動装置で検出することで、開弁完了タイミングを検知することができる。また、開弁完了タイミングを検知するための電圧VL3の取得期間のトリガーとなるタイミングは、噴射パルスの通電タイミングまたは、スイッチング素子805、806、807の通電・非通電のタイミングを用いて設定し、上記の動作が通電・非通電となってからある一定の期間経過後となるように構成すると良い。とくに、CPU801から出力される噴射パルスは、CPU801の内部で生成しているため、前記一定の期間を決めるためのトリガーとして使用し易い。前記取得期間は、各気筒の燃料噴射装置の開弁完了タイミングの個体ばらつきを検知できる時間を持たせ、かつCPU801に入力する電圧VL3のデータ点数を減らすために、予め前記一定の期間および前記取得期間の設定値を駆動装置に設定しておくと良い。また、燃料噴射装置2305に供給される燃料圧力が変化すると、第二の弁体1907に作用する差圧力が変化するため、開弁完了タイミングも変化する。したがって、前記一定の期間と前記取得期間は、駆動装置のCPU801で設定する目標の燃料圧力か、燃料噴射装置2305の上流の配管に設置した圧力センサの出力信号を駆動装置で検出した値を元に決定すると良い。これにより、運転条件が変化した場合であっても開弁完了タイミングを精度良く検知でき、かつ検知のために必要な電圧VL3をCPU801に取り込むデータ点列を低減することができ、CPU801の処理負荷を低減することができる。また、取得期間2505において、電圧VL3の2階微分値が正方向へ突となる山が複数存在し、かつ1つめのピークの値よりも2つめ、3つめのピークの値の方が大きい場合、最初のピークを開弁完了タイミングとして駆動装置に記憶させると良い。このような構成とすることで、各気筒の燃料噴射装置2305の開弁完了タイミングの個体ばらつきを検知するのに必要な前記取得期間を確保しつつ、開弁完了タイミングの誤検知を抑制することが可能となるため、開弁完了タイミングの検知精度および噴射量の補正精度を高めることができる。また、図21より、第二の可動子1902が固定コアと接触して静止した状態では、第二の可動子1902の下側端面と第二の規制部1908との間には、第二の隙間2101を有している。
次に、図20、図22、図24を用いて第二参照例における第二の弁体1907が中間リフトの変位量が最大となる状態から閉弁する際の第二の可動子1902および第二の弁体1907の動作の説明および閉弁完了タイミングの検知方法について説明する。図22、図24より、第二の弁体1907が開弁状態から閉弁する際には、閉弁方向の力としてスプリング110による荷重、燃料の流れによる差圧力が第二の弁体1907に作用し、第二の弁体1907を介して第二の可動子1902が閉弁方向の力を受け、また、第二の可動子1902には初期位置ばね1909の荷重が閉弁方向に作用している。噴射パルスを停止し、スイッチング素子805、806を非通電にして、負の方向の昇圧電圧VHをソレノイド105に印加し、ソレノイド105に流れる電流を低減させると、第二の可動子1902に作用する磁気吸引力が磁気回路の内部に生じる渦電流の消滅に伴って減少していく。第二の可動子1902に作用する開弁方向の力である磁気吸引力が、第二の弁体1907と第二の可動子1902に作用する閉弁方向の力を下回ると、第二の可動子1902と第二の弁体1907は閉弁動作を開始する。第二の弁体1907が弁座118と接触する開弁完了タイミングt2602で第二の可動子1902は第二の弁体1907から離間し、閉弁方向に運動を継続する。その後、第二の可動子1902は、第二の弁体1907と弁座118が接触した瞬間の第二の可動子の下側端面2202と第二の規制部1908との端面間の第三の隙間2201が0になったタイミングt2604で、第二の可動子1902が第二の規制部1908にタイミングt2604で衝突し、静止する。本実施例において、噴射パルスTiがOFFとなるタイミングt2601をCPU801で電圧VL5を取り込むためのトリガーとし、噴射パルスTiがOFFとなってから一定時間2606経過後に電圧VL5のデータ取得を開始し、期間2607の間だけ電圧VLの1階微分値に相当する電圧VL5をCPU801のA/D変換ポートへ入力させるとよい。その後、CPU801で取り込んだ電圧VL5をデジタル微分処理し、電圧VL5の1階微分値を算出する。このとき電圧VL4の1階微分値は、電圧VLの2階微分値に相当する。
駆動装置で電圧VL5の1階微分値(電圧VLの2階微分値に相当)を検出することで、第二の弁体1907が弁座118と接触し、第二の可動子1902が第二の弁体1907から離間する瞬間の閉弁完了タイミングで、これまで第二の弁体1907を介して作用していた第二の可動子1902に働く閉弁方向の力を第二の可動子1902が受けなくなるため、第二の可動子1902の加速度が変化し、電圧VL5の1階微分値に負の方向の第一の山P2608が生じる。その後、第二の可動子1902が第二の規制部1908に衝突する瞬間に、第二の可動子1902は、第二の規制部1908に接触することによる反力を受けて、加速度が大きく変化し、電圧VL5の1階微分値が負の方向の第二の山P2609が生じる。第一の山P2608と第二の山P2609の電圧VL5の1階微分値の値は、隙間1901の隙間、磁気回路の形状に依存し、スプリング荷重や燃料圧力による差圧力によって変化する閉弁完了タイミングでの第二の可動子1902の速度に大きく依存する。閉弁完了タイミングでの速度が小さい場合、閉弁完了タイミングでの第二の可動子1902が有する運動エネルギーが小さくなるため、閉弁完了タイミングから第二の可動子1902が静止するまでの時間が長くなり、電圧VL5の1階微分値において第一の山P2608の値と比べて第二の山P2609の値の方が小さくなる場合もある。以上で説明した通り、期間2607における電圧VL5の1階微分値の最小値を探索する場合には、第一の山P2608か第二の山P2609のどちらか一方を検出することになる。このような場合、期間2607を、第一の期間2608と第二の期間2609に分割し、第一の期間2608の電圧VL5の1階微分値の最小値を、第二の弁体1907が弁座118と接触する閉弁完了タイミングとして判定し、第二の期間における電圧VL5の1階微分値の最小値を、第二の可動子1902が第二の弁体1907の第二の規制部1908と接触する可動子静止タイミングとして、各気筒の燃料噴射装置ごとに検知し判定することで、精度良く閉弁完了タイミングを検出することができる。また、閉弁動作中において、第二の弁体1907が弁座118と接触してから第二の可動子1902は第二の規制部1908に衝突するまで閉弁方向に運動を継続する。第二の可動子が閉弁方向に運動している途中で、分割噴射のための次の第二の噴射パルスTiが供給された場合、前回の噴射パルス(第一の噴射パルスと称する)と同等の第二の噴射パルスを供給しても、第二の噴射パルスが供給されたタイミングでの第二の可動子1902の位置や第二の可動子1902が有する運動エネルギーの変化によって、第二の噴射パルスTi供給時の噴射量が、第一の噴射パルス幅Ti供給時に比べて変化する。したがって、駆動装置で検知した各気筒の燃料噴射装置2305が静止するタイミングt2604を検知し、第二の噴射パルスTiの供給タイミングを制御すると良い。また、第二の噴射パルスTiの供給タイミングは、タイミングt2604が最も長くなる燃料噴射装置2305の個体に合わせて調整すると良い。本実施例によれば、1回の吸排気行程中に複数回の燃料噴射を行う分割噴射の条件において、第一の噴射パルスと第2の噴射パルスの間隔を低減することが可能となり、また、第一の噴射パルスと第二の噴射パルスの噴射量を正確に制御することができるため、要求される分割噴射の回数が多い場合に有効である。また、電圧VL5を取り込むためのトリガーは、噴射パルスTiがONとなるタイミングや、スイッチング素子805、806、807の通電・非通電のタイミングを使用しても良い。
なお、第二参照例における燃料噴射装置2305と駆動装置は、第一参照例における燃料噴射装置840と駆動装置と組み合わせて使用しても良い。
[参照例3]
本発明における第3参照例による第一、第二参照例の燃料噴射装置840および燃料噴射装置2305の噴射量補正のための制御手法を図25から図28を用いて説明する。
図25は、第3参照例の手法によって燃料噴射装置840または燃料噴射装置2305を駆動する場合のうち、弁体114もしくは第二の弁体1907を一定時間目標リフト位置で保持させて使用する時の燃料噴射装置840または燃料噴射装置2305の端子間電圧Vinj、駆動電流、可動子102または第二の可動子1902に作用する磁気吸引力、弁体114もしくは第二の弁体1907に作用する弁体駆動力、弁体114もしくは第二の弁体1907の変位量、可動子102もしくは第二の可動子1902の変位量と時間の関係を示した図である。また、弁体駆動力の図中には、開弁方向の駆動力を正方向に、閉弁方向の駆動力を負の方向に示す。また、図中の駆動電流には、一般的に用いられていた従来の電流波形を一点鎖線で記載している。図26は、弁体114もしくは第二の弁体1907を目標リフトに到達させる中で、最小の噴射量を実施する時の動作状態における端子間電圧Vinj、駆動電流、可動子102もしくは第二の可動子1902に作用する磁気吸引力、弁体114もしくは第二の弁体1907に作用する弁体駆動力、弁体114もしくは第二の弁体1907の変位量、可動子102もしくは第二の可動子1902の変位量と時間の関係を示した図である。また、弁体駆動力の図中には、開弁方向の駆動力を正方向に、閉弁方向の駆動力を負の方向に示す。図27は、図26に示した動作による噴射量よりも少ない噴射量を実現する中間リフトでの動作する場合の端子間電圧Vinj、駆動電流、可動子102または第二の可動子1902に作用する磁気吸引力、弁体114もしくは第二の弁体1907に作用する弁体駆動力、弁体114もしくは第二の弁体1907の変位量、可動子102もしくは第二の可動子1902の変位量と時間の関係を示した図である。また、弁体駆動力の図中には、開弁方向の駆動力を正方向に、閉弁方向の駆動力を負の方向に示す。図28は、図25〜図27の制御方式の電流波形を使用した場合の噴射パルス幅Tiと燃料噴射量qの関係を示した図である。
最初に、図25を用いて弁体114もしくは第二の弁体1907を目標リフト位置で保持させて使用する場合の動作について説明する。図25より、時刻t2701で噴射パルス幅Tiを供給し、スイッチング素子805、806を通電させて、開弁信号がONになると、ソレノイド105に昇圧電圧VHが印加される。これに伴い、ソレノイド105に流れる電流が徐々に上昇し、磁気回路の内部に生じる渦電流の消滅に伴って一定の遅れ時間経過後に可動子102もしくは第二の可動子1902に作用する磁気吸引力が増加していく。磁気吸引力が可動子102または第二の可動子1902に作用している閉弁力を上回ることで可動子102または第二の可動子1902が動き始め、その動きが徐々に加速されていく。ただし、第二実施例における燃料噴射装置2305では、閉弁状態でセットスプリング110による荷重は、第二の弁体1907に作用し、第二の可動子1902は、初期位置ばね1909による荷重によって閉弁方向に押されている。次に、ソレノイド105に流れる電流がピーク電流値Ipeakに達した時刻2702で、スイッチング素子805、806を非通電とすることで、昇圧電圧VHの印加を停止し、同時に、負の方向の昇圧電圧VHが印加される。タイミングt2702に行われるこの動作のトリガーとしては、前述のようにピーク電流値Ipeakに達したことを利用することの他に、昇圧電圧印加時間Tpをあらかじめ決めておく方法と、ピーク電流Ipeakに到達してから一定時間経過後に設定する方法がある。回路構成によっては、昇圧電圧VHが変動する場合がある他、燃料噴射装置840もしくは燃料噴射装置2305のソレノイド105の抵抗値、配線抵抗やインダクタンス等にばらつきがあるため、昇圧電圧印加時間Tpを固定した場合は、ピーク電流値Ipeakがばらつくことになる。各気筒の燃料噴射装置840もしくは、燃料噴射装置2305の弁動作のばらつきを考慮した上で、開弁動作時に、安定した開弁力を与えるには、ピーク電流値Ipeakを固定する制御方法の方がよい。一方、開弁力を与える時間のばらつきを減らすには、印加時間Tpを固定する方法がよい。また、ピーク電流値Ipeakに到達してから一定時間経過後に昇圧電圧VHの印加を停止する方法では、ピーク電流値Ipeakを設定する効果をえつつ、ピーク電流Ipeakの設定分解能に依存せず、電流遮断時間を制御することが可能となるため、より精密な電流値の調整が可能となり、噴射量の補正精度を向上することができる。
また、可動子102または可動子1907が弁体114または第二の弁体1907に衝突するタイミングt2702において、弁体114または第二の弁体1907に可動子102または第二の可動子1907が衝突することにより、可動子102または第二の可動子1907の運動エネルギーおよび可動子が弁体に衝突することによる力積を弁体114または第二の弁体1907が受けて、弁体114または第二の弁体1907が開弁動作を行う。このとき、期間1701中にソレノイド105に投入されたエネルギーが、可動子102もしくは第二の可動子1907の運動エネルギーに変換される。その後、可動子102または第二の可動子1902に作用する磁気吸引力によって弁体114または第二の弁体1907が目標リフトまで達するが、弁体114または第二の弁体1907には、変位位置に応じた差圧力(流体力)が閉弁方向に作用する。弁体114もしくは第二の弁体1907が目標リフト位置に到達する際には、可動子102もしくは第二の可動子1902が固定コア107と衝突することで、反力が生じる場合があるが、昇圧電圧遮断期間T2で弁体114もしくは第二の弁体1907の開弁速度を抑制しつつ、ピーク電流値Ipeakよりも低い保持電流値lIhで目標リフトに到達するため、その反力は小さく、可動子102もしくは第二の可動子1902は固定コア107との間でバウンドしない。また、燃料噴射装置840の構成によれば、戻しばね112の荷重が可動子102のバウンドを抑制する開弁方向に働くため、可動子102が固定コア107に衝突することによって生じる可能性がある可動子102のバウンドを抑制できる効果がある。
また、時刻t2702以降、ソレノイド105に負の方向の昇圧電圧VHを印加している間に電流が0Aに達すると、電流の変化によって発生する誘導起電力の変化は減少するが、その時点で磁気回路の内部に磁束が残っていると、磁気吸引力および磁束の消滅は継続され、誘導起電力によって発生する電圧分は、負の方向の電圧として2710のようにソレノイド105に印加される。ソレノイド105に流れる電流が低下するのと同時に可動子102もしくは第二の可動子1902に働く磁気吸引力が低下して、弁体114もしくは第二の弁体1907の運動エネルギーは低下するが、その後、保持電流値lhが供給されることで再び磁気吸引力が増加に転じ、弁体114もしくは第二の弁体1907が目標リフト位置に到達する。
また、一旦ピーク電流値Ipeakに到達した後に、電流を急速に遮断し、保持電流値lh以下まで低下させる(遮断波形と称する)ことで、弁体114もしくは第二の弁体1907が目標リフトに到達した時点の磁気吸引力を、図25の駆動電流に記載した従来のピーク電流値Ipeakから保持電流値lhへ移行する電流波形(従来波形と称する)の場合と比べて小さくできる。また、磁気吸引力を小さくすることで、弁体114もしくは第二の弁体1907と固定コア107の衝突速度を低減できるため、図28に示すように、遮断波形を用いた場合は、従来波形と比べて、噴射量特性に生じる非線形性を改善でき、噴射パルス幅Tiと燃料噴射量qの関係が線形となる領域を噴射量が小さい方向へ拡大することができ、弁体114もしくは第二の弁体1907が目標リフトに到達する場合の制御可能な最小噴射量を従来波形の最小噴射量3002から遮断波形の最小噴射量3003まで低減することができる。
また、各気筒の燃料噴射装置ごとに記憶した噴射パルスTiを供給してから弁体114もしくは第二の弁体1907が目標リフトに到達する開弁完了タイミングまでの時間である開弁遅れ時間を用いて、各気筒の燃料噴射装置ごとにピーク電流値Ipeakもしくは昇圧電圧印加時間Tp、電圧遮断時間T2を調整するのがよい。例えば、開弁遅れ時間が早い個体に対しては、開弁速度が大きいため、昇圧電圧印加時間Tpを短く設定して、可動子102もしくは第二の可動子1902が減速を開始する時間を早くすると良い。一方で、開弁遅れ時間が遅い個体に対しては、昇圧電圧印加時間Tpを長く設定して、可動子102もしくは第二の可動子1902が減速を開始する時間を遅くするとよい。
また、電流遮断波形を用いた場合、昇圧電圧遮断時間T2の期間において噴射パルス幅TiがOFFとなる場合、噴射パルス幅Tiの大きさに関わらず同じ電流波形が燃料噴射装置840もしくは燃料噴射装置2305のソレノイド105に供給される期間が生じるため、噴射パルス幅Tiを増加させても燃料噴射量qが変化しない不感帯Tnが生じる。図28に示した遮断波形の噴射量特性において、弁体114が目標リフトに到達しない中間リフト領域Tharfと弁体114が目標リフトに到達して駆動される3003以降の噴射パルス幅Tiの領域とでは、噴射パルス幅Tiに対する燃料噴射量qの傾きが異なるが、従来波形の噴射量特性で生じていた噴射量特性の非線形性が改善されているため、噴射パルス幅と燃料噴射量qの関係が常に正の関係となり、噴射パルス幅の増加に伴って燃料噴射量qも増加する。駆動装置のCPU801に搭載する噴射量の制御アルゴリズムを簡素化するためには、エンジン回転数もしくはエンジン負荷の増加に伴って、連続的に噴射量を増加させる必要があるため、燃料噴射装置840では、噴射パルス幅Tiの増加に伴って、燃料噴射量qが増加していく必要がある。このようなエンジンにおいて、参照例3における制御手法を用いることで、エンジン回転数もしくはエンジン負荷の増加に伴って要求される燃料噴射量qを適切に制御することができ、噴射量の制御が容易となる。また、従来波形を用いた場合では、噴射パルス幅と噴射量の関係が略線形となる領域の噴射量から求めた理想直線3001と燃料噴射量qとの乖離値が正と負の方向に変動し、この噴射量特性が非線形となる領域においては、各噴射パルス幅Tiと燃料噴射量qとの関係を駆動装置で把握する必要があるため、噴射パルス幅Tiごとに閉弁完了タイミングの検知を実施し、閉弁遅れ時間として各気筒の燃料噴射装置で駆動装置に記憶させる必要がある。一方で、第三参照例における遮断波形を用いた制御方法では、中間リフト領域Tharfと目標リフトに到達した以降の領域において、噴射パルス幅Tiと燃料噴射量qとの関係が正の相関となるため、中間リフト領域Tharfと目標リフトに到達する領域それぞれで2点の閉弁完了タイミングの検知情報と、目標リフトに到達する領域の1点の開弁完了タイミング、開弁開始タイミングの検知情報に基づいて、要求噴射量からの乖離値を算出することが可能となり、弁動作を検知するために必要なCPU801もしくは、IC802の計算負荷および個体情報を記憶させるために必要なメモリ容量を低減することができ、CPU801もしくは、IC802に与える噴射量の個体ばらつきを補正するためのアルゴリズムを簡素化できる。また、弁体114もしくは第二の弁体1907が目標リフトに到達する条件での制御可能な最小噴射量3003よりも小さい噴射量の要求があった場合、不感帯Tnの期間よりも小さい噴射パルス幅Tiを使用するように予め駆動装置に不感帯Tnを、各気筒の燃料噴射装置840もしくは燃料噴射装置2305ごとに設定しておくと良い。
具体的には、ピーク電流値Ipeakもしくは昇圧電圧印加時間Tp、電圧遮断時間T2を調整するとき、駆動装置で各気筒の開弁遅れ時間Taを記憶しておくことで、フィードバック的にパラメータを調整可能となり、燃料噴射装置840もしくは燃料噴射装置2305の動作特性の個体ばらつきや、劣化による変化などに対応することが可能となり、安定した動作を実現することが可能になる。燃料噴射装置840もしくは燃料噴射装置2305では、寸法公差の変動の影響により、開弁完了タイミングにばらつきが生じている。開弁完了タイミングが遅い個体と早い個体に対して、同一の遮断波形をソレノイド105に供給した場合、開弁完了タイミングが早い個体では、ピーク電流値Ipeakを遮断するタイミングである昇圧電圧打切りタイミングt2702で電流を遮断しても、可動子102もしくは第二の可動子1902の減速が間に合わず、可動子102もしくは第二の可動子1902と固定コア107との衝突速度が大きくなり、噴射量特性に非線形性が生じる場合がある。また、開弁完了タイミングが遅い個体では、昇圧電圧遮断時間T2の終了タイミングで、スイッチング素子805、806を非通電にして、ソレノイド105に流れる電流を低減すると、弁体114もしくは第二の弁体1907が目標リフトに到達するのに必要な可動子102もしくは第二の可動子1902に作用する磁気吸引力が確保できなくなり、弁体114もしくは弁体1907が目標リフト位置に到達しない。したがって、駆動装置に記憶させた開弁遅れ時間の情報を用いて、各気筒の燃料噴射装置840もしくは燃料噴射装置2305ごとに弁体114もしくは第二の弁体1907が開弁開始してから、ある変位量に到達した段階で、スイッチング素子805、806を非通電にして、負の方向の昇圧電圧VHをソレノイド105に印加し、開弁完了タイミングから見て減速を始めるタイミングが同等になるように、昇圧電圧印加時間Tpと電圧遮断時間T2を調整すると良い。また、昇圧電圧印加時間Tpを変化させることで、自動的にピーク電流値Ipeakの値が変化するが、ピーク電流値Ipeakの設定を燃料噴射装置840もしくは燃料噴射装置2305ごとに変更し、昇圧電圧印時間Tpを調整しても良い。ピーク電流値Ipeakを個体ごとに調整することで、昇圧電圧印加時間Tpを調整する場合に比べて、駆動装置の昇圧電圧VHの電圧値が変動することによってソレノイド105に流れる電流とそれに起因する弁動作のばらつきを最小限に抑えることができるため、各気筒の燃料噴射装置840もしくは燃料噴射装置2305ごとに適切な減速タイミングを調整することができる。ピーク電流値Ipeakと駆動電圧遮断時間T2を各気筒の燃料噴射装置ごとに適正に補正することで、可動子102もしくは第二の可動子1902と固定コア107とが衝突する際の速度の個体ばらつきを低減することができるため、衝突によって生じる開弁時の駆動音を低減することができ、エンジンを静音化できる効果がある。また、可動子102もしくは第二の可動子1902と固定コア107との衝突速度を小さくすることで、可動子102もしくは第二の可動子1902と固定コア107との衝突面に働く衝撃力を小さくすることができ、衝突面の変形や摩耗を防ぐことができるため、劣化による目標リフト量の変化を抑制することができる。また、本実施例における効果によれば、各気筒の燃料噴射装置の個体によらず可動子102もしくは第二の可動子1902と固定コア107との衝突速度を低減して、一定に保つことが可能となるため、衝突面の変形や摩耗を防ぐために必要な材料の硬度を小さくすることができ、可動子102もしくは第二の可動子1902の固定コア107側端面や、固定コア107の可動子102側端面に形成しているメッキ処理が不要となるため、大幅なコスト低減を図ることが可能となる。メッキ処理を行わないことで、メッキの厚さ個体ばらつきによって生じる目標リフトの個体ばらつきに伴う単位時間当たりの流量のばらつきや、開弁状態での可動子102と固定コア107との間の流体隙間のばらつきに伴うスクイーズカのばらつきを抑制することができるため、噴射量の精度を高めることができる。
また、弁体114もしくは第二の弁体1907が目標リフトに到達して、可動子102もしくは第二の可動子1902と固定コア107が接触して、弁体114もしくは第二の弁体1907が目標リフト位置で静止すると、燃料噴射装置840もしくは燃料噴射装置2305から噴射される燃料は一定流量となり、噴射パルス幅Tiの増加に比例して噴射量を増やせる状態になり、噴射量を精度よく制御することが可能な状態になる。
また、各気筒の燃料噴射装置で噴射量が同等となるようにピーク電流値Ipeakまたは、昇圧電圧印加時間Tpのどちらか一方の値と電圧遮断時間T2が補正されることで、電流遮断波形を用いた場合に生じる噴射量特性の不感帯Tnの値が各気筒の燃料噴射装置ごとに異なる。検知情報を用いてピーク電流値Ipeakまたは、昇圧電圧印加時間Tpのどちらか一方の値と電圧遮断時間T2が決まると、不感帯Tnが決まる。したがって、不感帯Tn を各気筒の燃料噴射装置840もしくは燃料噴射装置2305ごとに異なる値を設定できるように、CPU801もしくはIC802を構成することで、噴射パルス幅Tiが小さく弁体114が目標リフトに到達しない中間リフト領域Tharfから弁体が目標リフトに到達した後の最小噴射量3003以降の噴射量まで連続的に変化させて制御することが可能となるため、エンジン運転条件に合わせた噴射量制御を行うことができる。
閉弁動作は、開弁信号時間である噴射パルス幅Tiが停止された時刻t2704に、スイッチング素子807、806を非通電にすることで、ソレノイド105に負の方向の昇圧電圧VHが印加され、ソレノイド105に流れる電流を急速に低下させて、磁気吸引力が減少していく。磁気吸引力が閉弁方向の力を下回った時刻t2705に弁体114もしくは第二の弁体1907の閉弁方向の動作が開始され、時刻t2706に閉弁が完了する。ただし、燃料噴射装置2305では、第二の弁体1907が閉弁完了後に、第二の弁体1907の弁体駆動力の閉弁方向には、セットスプリング110による荷重が作用し続ける。図25に示す開弁開始前および閉弁完了後の弁体駆動力の閉弁方向の力には、燃料噴射装置2305を使用した場合の弁体駆動力を示す。また、噴射パルス幅TiをONにしてから弁体114もしくは第二の弁体1907が閉弁完了タイミングまでの時間である閉弁完了遅れ時間Tbを駆動装置で検知して記憶させて、目標設定値の遅れ時間に対してズレがある場合には、目標リフト位置での保持電流値lhの設定を増減させ、標準の遅れ時間に合わせるとよい。その他、各気筒の燃料噴射装置での駆動電流、駆動電圧を補正した後、閉弁完了遅れ時間の個体ばらつき補正する場合は、噴射パルス幅Tiを補正し、閉弁完了遅れ時間が大きなものはその分、噴射パルス幅Tiを小さくし、閉弁完了遅れ時間が小さいものはその分、噴射パルス幅Tiを大きくすることで、実際に弁体114もしくは第二の弁体1907が開弁されている実噴射期間(Tb−Ta’)を、要求噴射量を実現するのに必要な実噴射期間に制御することができ、噴射量の補正精度を高めることができる。
本手法の動作手順によって、弁体114もしくは第二の弁体1907を目標リフトに到達させる中で、最小の噴射量を実施する時の動作状態を図26に示す。時刻t2801に開弁信号すなわち噴射パルスがONとなり、スイッチング素子805、806を通電にし、ソレノイド105に第二の電圧源から昇圧電圧VHを印加し、可動子102もしくは、第二の可動子1902に磁気吸引力を発生させる。その後、ピーク電流Ipeakに達した時点、もしくは昇圧電圧印加時間Tpに達した時点で、スイッチング素子805、806の通電を停止することで、昇圧電圧VHの印加を停止させ、負の方向の昇圧電圧VHを印加し、ソレノイド105に流れる電流を急速に低下させ、可動子102もしくは第二の可動子1902に作用していた磁気吸引力が低下していく。駆動方向の電圧すなわち正の方向の電圧を遮断する電圧遮断時間T2の設定時間が終了した後に、スイッチング素子806、807を通電させて、バッテリ電圧VBからソレノイド105に電圧を印加するタイミングで開弁信号時間である噴射パルス幅TiがONになると、その前後で目標リフト位置に達した弁体114もしくは第二の弁体1907は、磁気吸引力が、弁体駆動力の閉弁方向の力を下回ったタイミング以降において閉弁方向の動作に移行し、目標リフト位置で静止することなく、閉弁動作を行う。このフルリフトでの最小噴射量の動作を行うには、この時の動作にして、噴射パルス幅Tiが増えた時に、その分だけ、弁体114が目標リフト位置で静止している時間が長くなる必要がある。すなわち、理想的には、最小噴射量時は、目標リフト位置での静止時間が限りなく0秒に近く、それより開弁信号時間すなわち噴射パルス幅Tiを増加させた場合、増加した時間だけ、弁体が目標リフトの位置で静止する時間が長くなり、その静止時間の増加に応じて閉弁完了タイミングが増加して噴射量が大きくなることで、噴射パルス幅Tiと燃料噴射量qが線形的な関係となるように制御するとよい。
また、燃料噴射装置840もしくは燃料噴射装置2305に供給される燃料圧力が変化すると、弁体114もしくは第二の弁体1907が目標リフトに到達するために必要なピーク電流値Ipeakと、弁体114もしくは第二の弁体1907を開弁状態で保持可能な保持電流値lhが変わる。燃料圧力が増加すると、弁体114もしくは第二の弁体1907が閉弁している状態では、シート径の受圧面積と燃料圧力を乗じた力が弁体114もしくは第二の弁体1907に作用するため、弁体114もしくは第二の弁体1907が開弁を開始するのに必要な可動子102もしくは、可動子1902の運動エネルギーが変化する。また、可動子102もしくは可動子1907が弁体114もしくは第二の弁体1907に衝突することで、弁体114もしくは第二の弁体1907の変位が開始されると、弁体114もしくは第二の弁体1907の燃料シート部を流れる燃料の流速が早くなり、ベルヌーイの定理に基づく圧力降下(静圧低下)の影響によって、シート部近傍を流れる燃料の圧力が急激に減少し、弁体114もしくは第二の弁体1907の配管側と先端部の圧力差が大きくなり、弁体114もしくは第二の弁体1907に作用する差圧力が増加する。この差圧力の増減に応じて、必要なピーク電流値Ipeakと電圧遮断時間T2と保持電流値lhを調整すると良い。エンジンの負荷が異なる広い範囲の燃料圧力の条件において、駆動電流の保持電流値lhを一定にして使用する場合、高い燃料圧力で弁体114もしくは第二の弁体1907を開弁状態で保持可能なように、可動子102もしくは、第二の可動子1902に働く磁気吸引力を発生できる高い保持電流値lhを設定する必要がある。高い保持電流値lhを用いて、低い燃料圧力で弁体114もしくは、第二の弁体1907が目標リフトに到達する条件で駆動した場合、噴射パルス幅Tiを停止する時に、可動子102もしくは第二の可動子1902に発生している磁気吸引力が大きくなり、閉弁遅れ時間が増加し、噴射量も増加する。したがって、ECU120から駆動回路121に指令信号を送る構成として、ECUで検出する燃料噴射装置840もしくは燃料噴射装置2305の上流部の燃料配管に取り付けられた圧力センサからの信号を用いて、燃料圧力に応じて適切な保持電流値lhを設定すると良い。
また、各気筒での燃料噴射装置840および燃料噴射装置2305の個体ばらつきも燃料圧力の変化と同様に、スプリング110の荷重のばらつきによって、弁体114もしくは第二の弁体1907を開弁状態で保持に必要な保持電流値Ihも変わる。スプリング110による荷重が大きい個体では、弁体114もしくは第二の弁体1907を開弁状態で保持するのに必要な磁気吸引力が大きくなるため、保持電流値Ihを大きく設定する必要がある。このスプリング110の荷重は、燃料噴射装置840もしくは燃料噴射装置2305の噴射量を調整する過程で調整される。したがって、開弁遅れ時間、閉弁遅れ時間とスプリング110の荷重には強い相関があるため、開・閉弁遅れ時間からスプリング110の荷重を推定することができる。気筒ごとに推定したスプリング110による荷重の情報を駆動装置に記憶させることで、スプリング110による荷重と開弁遅れ時間の情報を元に、可動子102もしくは第二の可動子1907を減速させるタイミングを、ピーク電流値Ipeakもしくは昇圧電圧印加時間Tpと電圧遮断時間T2を各気筒の燃料噴射装置840もしくは燃料噴射装置2305ごとに補正することで、可動子102もしくは第二の可動子1902の固定コアとのバウンドを抑制することができるため、中間リフトからフルリフトで駆動させるまでの噴射量特性の連続性を確保することが可能となるため、噴射量の制御が容易となる。
各気筒の燃料噴射装置804および燃料噴射装置2305の個体ばらつきを低減するためのピーク電流値Ipeakと昇圧電圧印時間Tpと電圧遮断時間T2の調整に加えて、燃料圧力による電流波形の調整を行うと効果的である。燃料圧力が増加すると、第二の弁体1907に作用する燃料圧力による差圧力が増加するため、ピーク電流値Ipeakを遮断してから第二の弁体1907が減速するタイミングも早くなり、第二の弁体1907が目標リフト位置に到達してからの第二の可動子1902が固定コア107に衝突することによって生じる第二の弁体1907のバウンドも小さくなる。したがって、燃料圧力の増加に応じて、ピーク電流値Ipeakを増加させることで、第二の弁体1907が目標リフトに到達するのに必要なピーク電流値Ipeakを確保しつつ、第二の可動子1902と固定コア107との衝突速度も低減でき、噴射量特性の非線形性を低減することができ、噴射量ばらつきを低減できる。また、ピーク電流値Ipeakを増加させると、スイッチング素子805、806を非通電にするタイミングすなわち、昇圧電圧VHの印加を停止するタイミングが遅くなり、電圧遮断時間T2が開始されるタイミングも連動して遅くなる。この電圧遮断時間T2は燃料圧力の増加に応じて小さくなるように構成するとよい。このような構成とすることで、燃料圧力の増加に伴って弁体114もしくは、第二の弁体1907に作用する差圧力が増加すると、可動子102もしくは、第二の可動子1902と固定コア107の衝突速度が小さくなり、減速に必要なタイミングも遅くなるため、適切な減速タイミングを設定することが可能である。燃料圧力と弁体114もしくは、第二の弁体1907に作用する差圧力は、線形的な関係となるため、燃料圧力に応じて、ピーク電流値Ipeakもしくは昇圧電圧印時間Tpと保持電流値lhを決定するための補正係数を予め、ECUもしくは駆動回路に与えておくと良い。また、以上で説明したピーク電流値Ipeakと保持電流値lhを各気筒の燃料噴射装置840もしくは燃料噴射装置2305ごとにおよび、燃料噴射装置840もしくは燃料噴射装置2305に供給される燃料圧力ごとに調整することで、使用する電流を小さくできるため、燃料噴射装置840もしくは燃料噴射装置2305のソレノイド105の発熱とECUの発熱を低減でき、消費エネルギーを低減できる効果がある。また、昇圧電圧VHを印加している時間が低減されるため、昇圧回路の負荷が低減でき、分割噴射時において次の噴射パルス幅が要求された時点での昇圧電圧VHを一定に保つことができるため、噴射量を正確に制御することが可能となる。
次に、第三参照例の制御手法によって、弁体114を目標リフトに到達させない領域(中間リフト領域と称する)を使用するための動作を図27に示す。本動作では、目標リフトに到達させる場合の最小噴射量よりもさらに小さな噴射量を実現するために、噴射量を減らす分に応じて、ピーク電流値Ipeakを標準の設定値より下げていくことで、噴射量を低減していく。すなわち、図26に示した動作による噴射量よりも少ない噴射量を実現する時は、開弁信号時間である噴射パルス幅Ti、昇圧電圧を印加する時間を決めるピーク電流値Ipeakの設定値、昇圧電圧印加時間Tpの設定値を変化させるとよい。図27に示す通り、標準のピーク電流値Ipeakより小さな設定値Ip’に設定することにより、ソレノイド105に流れる電流がIp’に達した時刻t2902で、昇圧電圧VHの印加を停止する。これにより、負の方向の昇圧電圧VHがソレノイド105に印加され、ソレノイド105に流れる電流は急速に低下し、それにより、磁気吸引力が低下する。ただし、噴射する燃料が小さく弁体114の変位量が小さい領域では、可動子102もしくは第二の可動子1902が弁体114もしくは第二の弁体1907に衝突することで、弁体114もしくは第二の弁体1907が受取る力積および運動エネルギーにより、弁体114もしくは第二の弁体1907が開弁開始するため、弁体114が開弁開始する時刻t2904より前に、ソレノイド105への正の方向の電圧印加を停止すると良い。この正の方向の電圧の停止は、噴射パルスがONとなりスイッチング素子805、スイッチング素子806が通電されて、ソレノイド105に昇圧電圧VHが印加されてからスイッチング素子805、スイッチング素子806を非通電にして、負の方向の昇圧電圧VHをソレノイド105に印加するまでの昇圧電圧印加時間Tpか、設定値Ip’で制御するとよい。昇圧電圧印加時間Tpもしくは、設定値Ip’によって、弁体114が開弁開始するより前のタイミングに可動子102に発生する運動エネルギーを制御することができ、弁体114の変位量の制御が可能となる。また、この中間リフトの動作では、弁体114が目標リフトに到達しないため、弁体114の変位量が機構で規定されず、燃料圧力等の僅かな変化によって噴射量の個体ばらつきが生じやすい。したがって、噴射パルスがONとなってから電圧VL5の1階微分値が最小値となる時間もしくは、電圧VLの2階微分値が最小値となる時間である閉弁完了タイミングt2905を各気筒の燃料噴射装置ごとに検知し、駆動装置に記憶させることで、要求噴射量を実現するための閉弁完了タイミングもしくは噴射期間と一致しているかどうかをECU120もしくは、EDU121でチェックし、目標値から乖離しているようであれば、次回の噴射時は、ピーク電流の設定値Ip’を増減させて調整することで、要求噴射量に対する実噴射量の精度を高めることが可能になる。同様に、昇圧電圧印加時間Tpを設定する方式の場合は、閉弁完了タイミングt2904を駆動装置で検知して、要求噴射量を実現するための閉弁完了タイミングもしくは噴射期間に合うように、昇圧電圧印加時間Tpを調整することで、要求噴射量に対する実噴射量の精度を高めることが可能になる。
[参照例4]
本発明に係る第四参照例における噴射量補正のための制御手法を図29から図31を用いて説明する。
図29は、各気筒の燃料噴射装置の個体1、個体2、個体3で同じ噴射パルス幅Tiを供給した条件で弁体114もしくは第二の弁体1907の開弁開始タイミングTa’と閉弁完了タイミングTbが異なる個体に対して、噴射期間(Tb−Ta’)が一致するように、噴射パルス、駆動電圧、駆動電流を補正した結果の各個体の駆動電圧、駆動電流、弁体変位量と時間の関係を示した図である。また、図29の弁体変位量には、個体2と同じ噴射パルス幅、駆動電圧、駆動電流を供給した場合の個体1と個体3の弁体変位量を記載する。
第一参照例の図6で述べた通り、同じ噴射パルス幅を供給しても寸法公差等の変動の影響によって、各気筒の燃料噴射装置ごとに弁動作のタイミングすなわち、弁体114もしくは第二の弁体1907の開弁開始タイミングTa’および閉弁完了タイミングTbが異なり、弁体1907が弁座118から離間し、燃料を噴射している実噴射期間(Tb−Ta’)が各個体ごとに変動することで、噴射量の個体ばらつきが生じる。第4参照例における制御方法では、第一参照例および第二参照例で述べた開弁開始タイミング、開弁完了タイミング、閉弁完了タイミングの駆動装置に記憶させた検知情報を用いて、噴射量の個体ばらつきを抑制する燃料噴射の制御方法について説明する。図29より、ある燃料圧力で最も噴射量が小さい最小噴射量での噴射量の個体ばらつきの補正方法について説明する。開弁開始タイミングTa’が早い個体1(補正前)では、個体2と同じ噴射パルス幅、駆動電圧、駆動電流を供給すると、個体2に比べて電流供給を停止するタイミングでの弁体変位量の最大値が大きいため、閉弁完了タイミングTbが遅くなり、その結果、個体2に比べて噴射期間が長くなり、噴射量も多くなる。また、開弁開始タイミングTa’が遅い個体1(補正前)では、個体2と同じ噴射パルス幅、駆動電圧、駆動電流を供給すると、電流供給を停止するタイミングでの弁体変位量が、個体2に比べて小さくなるため、閉弁完了タイミングTbが早くなり、その結果、個体2に比べて噴射期間が短くなり、噴射量も少なくなる。噴射期間が長い個体1(補正前)に対しては、噴射パルスTiを短くするか、昇圧電圧VHを印加する期間をTp1のように短くするか、駆動電流のピーク電流値IpeakをIp1’のように小さくして、個体2の噴射期間2702と一致するように上記のパラメータを補正すると良い。一方で、噴射期間が短い個体3(補正前)に対しては、噴射パルスTiを長くするか、昇圧電圧VHを印加する期間をTp3のように長くするか、駆動電流のピーク電流値IpeakをIp3’のように大きくして、個体2の噴射期間2702と一致するように上記のパラメータを補正すると良い。駆動電流のピーク電流Ip1’、Ip2’、Ip3’を使用して噴射期間を補正した場合、ソレノイド105の温度変化に伴う抵抗の変化や、昇圧電圧VHの電圧値の変動があった場合であっても弁体114もしくは第二の弁体1907の変位量の変動を最小限に抑えることができ、環境変化に伴う意図しない噴射期間の変動を抑制することができる。また、昇圧電圧の印加時間Tp1、Tp2、Tp3を使用して噴射期間を補正した場合、駆動電流のピーク電流を使用する方法と比べて、時間分解能を小さくすることが可能となるため噴射期間の補正精度を高められる効果がある。これは、ピーク電流値の設定分解能は、電流値を検出するための抵抗器808もしくは、812の抵抗値に依存するためである。抵抗値を小さくするほどピーク電流値の設定分解能は向上するが、電流値が小さくなりすぎると、IC802での検出が困難になる。また、噴射期間を調整するための駆動電圧の停止タイミングは、目標の電流値に到達してから一定の時間経過後となるように設定しても良い。この効果によって、ソレノイド105の抵抗の変化があった場合であっても意図しない噴射期間の変動を抑制することができ、かつ駆動電圧の停止タイミングの時間分解能を向上させることが可能となるため、噴射期間の補正精度および噴射量の個体ばらつきの補正精度を高めることができる。
次に、図30、図31を用いて最小噴射量での噴射期間調整後の噴射量の制御方法について説明する。図30は、最小噴射量での噴射期間を調整後の噴射量の調整方法を記載した図である。また、図31は、最小噴射量での噴射期間を調整後の噴射パルスと噴射量の関係を示した図である。
図30より、最小噴射量でのTpは、前述で説明した通り、噴射期間が合うように、各気筒の燃料噴射装置840または燃料噴射装置2305ごとに調整される。その後、中間リフトでの噴射量を制御するため、T2終了タイミングt2804後に、スイッチング素子805、806を通電して、ソレノイド105に昇圧電圧VHを印加し、保持電流lhまで移行させる。その後、噴射パルスTiの通電時間を増加させて、弁体114または第二の弁体1907を固定コア107と接触する目標リフト位置まで到達させる。最小噴射量での噴射パルス幅Ti1以降の中間リフト動作を行うTi2、Ti3以降において、各気筒の燃料噴射装置840もしくは燃料噴射装置2305で、噴射パルスTiを増加させることによる閉弁完了タイミングの変化量が個体ごとに異なる場合、閉弁完了タイミングの変化量が小さい個体については、保持電流値lh2を大きくし、磁気吸引力を増加させて、噴射期間があうように学習制御を行う。一方で、閉弁完了タイミングの変化量が大きい個体については、保持電流値Ih1を小さくして、磁気吸引力を減少させて、噴射期間が合うように学習制御を行うと良い。このように保持電流lhの電流値を各気筒の個体ごとに調整することで、安定的に目標リフトまで到達させることができ、噴射量の補正精度を高めることが可能となる。
以上で説明した方法で弁体114または第二の弁体1907の変位量を制御することで、図31に示す噴射量特性は、中間リフト領域での従来波形の区間3401における噴射パルス幅Tiと噴射量の傾きに対して、区間Tharf2における噴射パルス幅Tiと燃料噴射量との傾きが小さくなり、目標リフトに到達するまでの中間リフト領域がTharf1からTharf2まで拡大される。従来波形の中間リフトのある区間3401では、噴射パルス幅の変化に対して、噴射量が大きく変わるため、微小噴射量制御を行う際には、噴射パルス幅Tiもしくは、昇圧電圧印加時間Tpの時間分解能を細かく設定せざるを得ず、CPU801のクロック数が高い駆動装置を使用せざるを得ないため、駆動装置のコストアップに繋がる。また、中間リフトのある区間3401と目標リフト領域との間で噴射パルス幅Tiに対する燃料噴射量が非線形となるため、噴射量を制御するためには、各点の噴射パルス幅Tiでの噴射期間の情報を検知する必要があり、駆動装置の記憶容量の圧迫を招き、さらには、区間3401終了後の噴射量が、環境条件等の変化で大きく変化する可能性があるため、噴射量の補正精度とロバスト性を高めることが困難である。第4実施例における制御手法によれば、中間リフト領域での噴射パルス幅Tiと燃料噴射量qの傾きと、目標リフト到達後の噴射パルス幅Tiと燃料噴射量qの傾きの差を、従来波形を使用した制御手法と比べて小さくすることができ、また、中間リフト領域から目標リフト以降も噴射パルス幅Tiと燃料噴射量qの関係が線形となることから、噴射量を補正および制御しやすいメリットがある。以上のように、駆動電圧、電流波形を各気筒の燃料噴射装置840もしくは燃料噴射装置2305で個体調整した結果、噴射量特性が噴射パルス幅Ti方向に平行移動した特性となり、ある燃料噴射装置において、平行移動分のずれ3401を有する。しかしながら、燃料噴射量qを決める噴射期間を気筒ごとに駆動装置で検知できているため、平行移動分のずれ3401分を各気筒ごとに噴射パルス幅Tiで補正することにより、噴射量の個体ばらつきを補正制御することが可能となる。また、中間リフト領域での噴射パルス幅と燃料噴射量の関係が1次近似な関係となる場合、その傾きを検出するための噴射期間の情報が2点あれば、その補正式の傾きと切片を導出することが可能となる。また、目標リフト領域においては、噴射パルス幅Tiの増加に伴って燃料噴射量qが線形的に増加していくため、噴射パルス幅Tiと燃料噴射量qの関係は1次近似の関数で近似することができ、その関数の傾きと切片は、2点以上の噴射期間の情報で導出することができる。また、中間リフトから目標リフトへ切り替わる噴射パルス幅Tiは、中間リフトでの1次関数とフルリフトでの1次関数の燃料噴射量qが重なる点として算出することができ、中間リフト域での噴射量の補正式と目標リフト以降の噴射量の補正式を切り替えられるように構成すると良い。
[参照例5]
本発明における第5参照例は、参照例1乃至4に記載した燃料噴射装置及びその制御方法をエンジンに搭載した例を示す実施形態である。
図32は、筒内直接噴射式のガソリンエンジンの構成図であり、燃料噴射装置A01A乃至A01Dはその噴射孔からの燃料噴霧が燃焼室A02に直接噴射されるように設置されている。燃料は燃料ポンプA03によって昇圧されて燃料配管A07に送出され、燃料噴射装置A01に配送される。燃料圧力は燃料ポンプA03によって吐出された燃料量と、エンジンの各気筒に供えられた燃料噴射装置によって各燃焼室内に噴射された燃料量のバランスによって変動するが、圧力センサA04による情報に基づいて所定の圧力を目標値として、燃料ポンプA03からの吐出量が制御されるようになっている。
燃料の噴射はECUエンジンコントロールユニット(ECU)A05から送出される噴射パルス幅によって制御されており、この噴射パルスは燃料噴射装置の駆動回路A06に入力され、駆動回路A06はECUA05からの指令に基づいて駆動電流波形を決定し、前記噴射パルスに基づく時間だけ燃料噴射装置A01に前記駆動電流波形を供給するようになっている。
なお、駆動回路A06は、ECUA05と一体の部品や基板として実装される場合もある。
ECUA05および駆動回路A06は、燃料圧力や運転条件によって駆動電流波形を変更できる能力を備えている。
このようなエンジンにおいて、ECUA05が実施例1乃至7記載のように、燃料噴射装置A01の開弁および閉弁の動作を検知する能力を有する場合に、エンジンの制御を容易に行ったり、燃費や排気を低減したり、あるいは気筒間の燃焼圧のばらつきを低減してエンジンの振動を抑えたりする方法について述べる。
図32に記載したエンジンに用いるECUA05では、燃料噴射装置A01A乃至A01Dから噴射される燃料量が、ECUA05が要求する値に近づくように、燃料噴射装置A01の噴射パルス幅が補正されるようになっている。すなわち、多気筒エンジンにおいては、気筒毎にそれぞれ補正された異なる幅の駆動パルスが、それぞれの燃料噴射装置に与えられる。
例えば、同じ指令パルス幅を与えた時に燃料を多く噴いてしまう燃料噴射装置に対しては短いパルス幅を与えて駆動し、同じパルス幅を与えた時に燃料を少なめに噴射する燃料噴射装置に対しては長いパルス幅で駆動する。このような補正を、気筒毎に行う運転モードを持つことによって、気筒間の燃料噴射量のばらつきを抑制することができる。
更に、図32に記載したECUA05では、各気筒の燃料噴射装置A01A乃至A01Dに供給される駆動電流は、燃料噴射装置ごとに調整された波形として供給されるようになっている。
それぞれの電流波形は、それぞれの燃料噴射装置A01A乃至A01Dの弁の挙動が、開弁時の跳ね返り挙動が減殺されるように設定されており、この結果、噴射パルス幅と噴射量の関係が直線に近づくパルス幅の範囲が広くなるように設定できる。
例えば、開弁時の跳ね返り挙動の減殺のために、駆動波形のうち昇圧電圧源から昇圧電圧VHをソレノイド105に供給する時間もしくは、ピーク電流値Ipeakを、スイッチング素子805、806、807の通電・非通電を制御することで、各気筒の燃料噴射装置の開弁タイミングに合わせて調整し、開弁の途中で昇圧電源からの通電が打ち切られ、弁が減速するように設定する。例えば、ある電流波形を与えた時に早く開弁する燃料噴射装置に対しては昇圧電源からの通電打ち切りタイミングを早めて、遅く開弁する燃料噴射装置840もしくは燃料噴射装置2305に対しては昇圧電源からの通電打ち切りタイミングを遅く設定する。このように、昇圧電源からの通電を打ち切って開弁動作を減速させるような駆動波形を用いることで、微小噴射量の領域での噴射パルス幅Tiの変化に対する噴射量の変化を小さくすることができ、噴射パルス幅Tiによる噴射量の補正を行い易くなる効果もある。
このように弁体114が減速する駆動電流波形を、気筒の燃料噴射装置840もしくは2305の開弁完了タイミングの変動に合わせて与えることで、各気筒の燃料噴射装置に適する電流波形を与えられるようになり、噴射パルスと噴射量の関係が直線的になる範囲を増大させることができる。
また、駆動波形のうち開弁状態を保持するための通電電流値(保持電流値)を各燃料噴射装置の閉弁タイミングに応じて調整するとよい。燃料噴射装置をある駆動電流波形で駆動した場合に得られる閉弁タイミングが遅い場合には、前記保持電流値を小さく設定し、閉弁タイミングが早い場合には前記保持電流値を相対的に大きく設定する。このように、駆動電流波形のうち保持電流値を燃料噴射装置の状態に合わせて設定することで、余剰な電流値を与えることを防ぐことができる。余剰な電流値を与えないようにすることで、噴射パルス幅が小さい時に閉弁の応答遅れ時間を小さくすることができ、噴射パルス幅と噴射量の関係が直線となる噴射量の範囲を、小さい側に拡大することができる。
また、中間リフト動作での各気筒の燃料噴射装置840もしくは燃料噴射装置2305の噴射量の個体ばらつきを抑制するため、駆動装置で検知した個体ごとの開弁開始タイミングTa’と開弁完了タイミングTbの情報を元に、実噴射期間(TB−Ta’)が一致するように、昇圧電圧印加時間Tpもしくはピーク電流値Ipeakを制御する方法が有効である。この場合、中間リフト動作での最小噴射量は、昇圧電圧印加時間Tpすなわち、スイッチング素子805と806を通電している時間に、ソレノイド105に供給される電流によって可動子102もしくは、可動子1902に蓄えられる運動エネルギーで決定される。その後、可動子を減速するための電圧遮断時間T2を設け、駆動装置に記憶させておく開弁完了タイミングTaと閉弁完了タイミングTbの情報を元に、電圧遮断時間T2と保持電流値lhを決定し、弁体114もしくは弁体1907が目標リフトに到達するまで、噴射パルスの増加に伴って、閉弁完了タイミングTbと弁体114もしくは弁体1907の変位量が大きくなるように制御する。また、電圧遮断時間T2と保持電流値lhを検知情報に基づいて調整することで、弁体114もしくは弁体1907が目標リフトに到達した時に、弁体114もしくは弁体1907の速度を減速させて、可動子102もしくは可動子1902が固定コア107に衝突することで生じる可動子102もしくは可動子1902のバウンドを低減できるため、中間リフトの領域から目標リフトに達したタイミング以降の噴射量が正の相関となり、噴射パルス幅Tを増減させることで噴射量を連続的に制御することができる。
このように、ECUによって駆動電流波形や駆動パルス幅Tiを各燃料噴射装置に対して調整して与えるようなエンジンにおいては、各燃料噴射装置の製造ばらつきや状態に応じて駆動電流波形や駆動パルスを与える必要があり、そのために各燃料噴射装置の状態として、開弁開始タイミング、開弁完了タイミングおよび閉弁完了のタイミングをECU05Aが読み取る。
各燃料噴射装置の開弁開始タイミング、開弁完了タイミングおよび閉弁のタイミングを読み取る場合には、開閉弁のタイミングを検知し易い駆動電流波形で各燃料噴射装置を運転すると良い。しかしながら、検知を行い易い駆動電流波形では、噴射パルス幅と噴射量の直線的な関係を、必ずしも広くすることができない場合がある。
このため、燃料噴射装置の状態を読み取るための駆動電流波形を設定する動力を、ECU05Aが有しているとよい。例えば、エンジンが始動後の暖機中など、噴射量が必ずしも最小でなくてもよいシチュエーションで、弁体114の挙動を読み取るための駆動電流波形を用いて、接続されている各気筒の燃料噴射装置の開弁開始タイミング、開弁完了タイミングおよび閉弁完了タイミングを検知し、ECU05A内のメモリに記録しておく。または、1吸排気行程中の燃料噴射を分割する分割噴射の条件において、弁体114もしくは弁体1907を目標リフトに到達させる条件と、中間リフト動作を行う条件で噴射し、中間リフト動作での各気筒の燃料噴射装置の噴射量の個体ばらつきを補正するのに必要な開弁開始タイミングと閉弁完了タイミングの検知情報を複数回取得できるようにすると効果的である。
この駆動装置の記録情報に基づいて、ECU05Aは各気筒に与える駆動電流波形や駆動パルス幅を調整することで、より少ない噴射量まで制御して噴射することが可能になる。
このように、燃料噴射装置の状態を読み取るための駆動波形を設定し、特定のエンジン運転状態で燃料噴射装置の状態を記録しておくことで、噴射量の補正を可能にして、制御可能な最小噴射量を低減することができる。また、このような学習を行う方法では、燃料噴射装置の経時劣化の状態もモニタすることができるようになり、したがって燃料噴射装置の動作が経時劣化によって変化したとしても、制御可能な噴射量の最小値を小さく保つことができるようになる。
なお、特定のエンジン運転状態としては、エンジン始動後の暖機中の他に、アイドリング中、エンジン始動プロセスの間や、エンジンキーオフ後の吸排気行程の数サイクルなど、ECU05Aからの指令で運転者のアクセルペダル操作に依らず回転数や負荷を調節でき、噴射量が著しく小さくない状態が、特に実施容易な期間である。
また、このように燃料噴射装置の開弁開始タイミング、開弁完了タイミングおよび閉弁のタイミングをECU内のメモリに記録して、噴射パルス幅Tiや駆動電流波形の補正を各気筒の燃料噴射装置ごとに行う方式の場合であっても、更に各噴射毎に弁動作のタイミングを検知して、ECUからのパルス幅指令値に反映させるとよい。特に、閉弁動作である閉弁完了タイミングの検知を燃料噴射装置のソレノイド105の端子間電圧や、ソレノイド105の接地電位(GND)側端子と接地電位との電位差を検出して行う場合には、検知専用の波形を用いなくともこれを検知することができるので、毎回の燃料噴射ごとに閉弁完了タイミングの検知を行うことができる。この検知結果を次回の噴射時の噴射パルス幅にフィードバックすることにより、燃料噴射量の制御精度をより向上させることができるとともに、エンジンの温度や振動などによる燃料噴射装置の動作の変化を補正できるようになる。
このようにして、より小さい噴射量まで制御して内燃機関で用いることができるようになる結果、より小さい噴射量まで制御して燃料噴射を行わせることができるようになり、例えば、アイドルストップなどの燃料カットからのリカバリなどの低負荷時における燃焼を可能にして、エンジンとしては低燃費にし易くなる。また、A/Fを目標値に近づけられるようになるので、排気中に含まれるHCやNOxなどのガスを抑制することができる。更に、燃料噴射量が小さくなることで、低負荷域において、エンジンの1行程中に噴射する燃料を、複数回に分割して噴射することができるようになり。この結果噴霧の貫徹力を減殺したり、混合気を形成する制御を行い易くして、燃焼室壁面に付着する燃料が抑制され、かつ混合気の均質度を均一にして、燃料が濃い領域を低減できることから、PM(粒子状物質)やPN(PMの粒子個数濃度)の一部であるすすの排出量低減に繋げることができる。
[参照例6]
次に、図33、図34を用いて、第六参照例における燃料噴射装置の構成および動作と噴射量の個体ばらつきの要因である開弁開始タイミングの他の検出方法について説明する。なお、図33において、図1と同等の部品には同じ記号を用いる。
最初に、図33を用いて、第六参照例における燃料噴射装置の構成と基本的な動作を説明する。図33は、燃料噴射装置の縦断面図の構成を示す図である。図33に示した燃料噴射装置は通常時閉型の電磁弁(電磁式燃料噴射装置)であり、ソレノイド105に通電されていない状態では、弁体3614は第1のばねであるスプリング110によって弁座118に向けて付勢され、弁座118に密着して閉状態となっている。この閉弁状態においては、可動子3602は第2のばねであるゼロ位置ばね3612によって固定コア107側(開弁方向)に付勢されており、弁体3614の固定コア側の端部に設けられた規制部3614aに密着している。この状態では、可動子3602と固定コア107との間には隙間がある状態となっている。弁体3614のロッド部3614bをガイドするロッドガイド3613がハウジングを成すノズルホルダ3601に固定されている。弁体3614と可動子3602とは相対変位可能に構成されており、ノズルホルダ3601に内包されている。また、ロッドガイド3613はゼロ位置ばね3612のばね座を構成している。スプリング110による力は、固定コア107の内径に固定されるバネ押さえ3624の押し込み量によって組み立て時に調整されている。なお、ゼロ位置ばね3612の付勢力はスプリング110の付勢力よりも小さく設定されている。
燃料噴射装置は、固定コア107、可動子3602、ハウジング3603とで磁気回路を構成しており、可動子3602と固定コア107との間に空隙を有している。ノズルホルダ3601の可動子3602と固定コア3606との間の空隙に対応する部分には磁気絞り3611が形成されている。ソレノイド105はボビン3604に巻き付けられた状態でノズルホルダ3601の外周側に取り付けられている。
弁体3614の規制部3614aとは反対側の端部の近傍にはロッドガイド3615がノズルホルダ3601に固定されるようにして設けられている。このロッドガイド3615はオリフィスカップ3616と同一の部品として構成されても良い。弁体114は第1のロッドガイド3613と第2のロッドガイド3615との2つのロッドガイドにより、弁軸方向の動きをガイドされている。
ノズルホルダ3601の先端部には、弁座118と燃料噴射孔3619とが形成されたオリフィスカップ3616が固定され、可動子3602と弁体3614とが設けられた内部空間(燃料通路)を外部から封止している。
燃料は燃料噴射装置の上部より供給され、弁体3614の規制部3614aとは反対側の端部に形成されたシール部と弁座118とで燃料をシールしている。閉弁時には、燃料圧力によって弁座位置におけるシート内径に応じた力で弁体が閉方向に押されている。
ソレノイド105に電流が通電されると、可動子3602と固定コア107との間に磁束が発生し、磁気吸引力が発生する。可動子3602に作用する磁気吸引力がスプリング110による荷重と、燃料圧力による力の和を超えると、可動子3602が上方へ動く。このとき可動子3602は弁体3614の規制部3614aと係合した状態で弁体3614と一緒に上方へ移動し、可動子3602の上端面が固定コア107の下面に衝突するまで移動する。このとき、弁体3614が変位を開始してから弁体3614が目標リフトに達するよりも前にソレノイド105への電流供給を停止すると、中間リフト動作を行う。
その結果、弁体3614が弁座118より離間し、供給された燃料が、複数の燃料噴射孔3619から噴射される。
ソレノイド105への通電が断たれると、磁気回路中に生じていた磁束が消滅し、磁気吸引力も消滅する。可動子3602に作用する磁気吸引力が消滅することによって、弁体3614はスプリング110の荷重と、燃料圧力による力によって、弁座118に接触する閉位置に押し戻される。
弁体3614が目標リフト位置で静止している状態すなわち、開弁状態において、可動子3602と固定コア107が相対する環状端面には、可動子3602か固定コア107のどちらか一方もしくは両方に衝突部の突起部が設けられている。また、突起部によって、開弁状態において、可動子3602と固定コア107との相対する端面間には、突起部を除いて空隙が形成され、開弁状態で突起の外径方向と内径方向に流体が移動可能な燃料通路が一つ以上設けられている。弁体3614が閉位置に押し戻される動作では、可動子3602は弁体3614の規制部3614aと係合した状態で一緒に移動する。
本実施例の燃料噴射装置では、弁体3614と可動子3602とは、開弁時に可動子3602が固定コア107と衝突した瞬間と、閉弁時に弁体3614が弁座118と衝突した瞬間の非常に短い時間、相対的な変位を生じることにより、可動子3602の固定コア107に対するバウンドや弁体3614の弁座118に対するバウンドを抑制する効果を奏する。
なお、上記のように構成されることにより、スプリング110は磁気吸引力による駆動力の向きとは逆向きに弁体3614を付勢しており、ゼロ位置ばね3612はスプリング110の付勢力とは逆向きに可動子3602を付勢している。
次に、図34を用いて図33の燃料噴射装置を使用した場合の開弁開始タイミングを検知するための方法について説明する。図34は、ソレノイド105の端子間電圧Vinj、ソレノイド105に供給する駆動電流、弁体が開弁しない条件での電流値、各個体の電流値の差分および弁変位と噴射パルスON後の時間の関係を示した図である。なお、駆動電流と弁変位の図中には、開弁開始タイミングが異なる個体1、個体2、個体3のプロファイルと弁体が開弁開始しない条件でのプロファイルをそれぞれ記載する。図33、図34より、昇圧電圧VHを印加し、高電流で弁体が開弁開始する条件では、吸引面の磁束が飽和に近い状態にあることから、弁体3614の開弁開始に伴う誘導起電力の変化が小さく、結果として、駆動電流の変化も小さい。また、図33の燃料噴射装置では、可動子3602が静止している状態から、開弁方向の力が閉弁方向の力を上回った段階で緩やかに開弁開始することから、開弁開始タイミングでの加速度の変化が小さいため、開弁開始タイミングが変化した場合であっても駆動電流の変化が小さい。このような燃料噴射装置の構成においては、弁体3614が開弁開始しない条件での駆動電流をCPU801もしくはIC802に記憶させておき、記憶させた駆動電流と、弁体3614が開弁開始する条件での各気筒の燃料噴射装置の駆動電流との差分をとるもしくは比較することで、開弁開始に伴う僅かな駆動電流の変化を検出することができる。このとき、弁体3614の開弁開始に伴う電流差分の変化も緩やかに立ち上がることから、電流差分にある闘値を設定することで、その闘値を超えたタイミングを開弁開始タイミングとして検出し、噴射パルスがONになってから開弁開始タイミングまでの開弁開始遅れ時間をCPU801もしくはIC802に記憶させると良い。なお、弁体3614が開弁開始しない条件での駆動電流(以降、参照電流)の取得は、燃料噴射装置に供給される燃料圧力が高く、弁体3614に作用する差圧力が大きい条件で取得し、各気筒の燃料噴射装置ごとに検出しておくと良い。ソレノイド105に流れる駆動電流のプロファイルは、ソレノイド105の抵抗値や、磁気回路のインダクタンス等の個体ばらつきの影響を受ける。したがって、各気筒の燃料噴射装置ごとに開弁開始しない条件での駆動電流を記憶させ、各燃料噴射装置の駆動電流との差分をとることで、精度良く開弁開始タイミングを検出することができ、噴射量の補正精度を高めることができる。また、CPU801乃至IC802に搭載している記憶メモリの容量が小さい場合、記憶可能なメモリ領域が制約されるため、参照電流と駆動電流の記憶は、ある気筒の開弁開始タイミングの検知が終了した段階で一度消去し、つぎの気筒の燃料噴射装置の開弁開始タイミングを検出するための参照電流と駆動電流を記憶させるように構成するとよい。これにより、CPU801乃至IC802のメモリ使用容量を低減することができ、かつ記憶させるデータ点列のサンプリングレートを細かくすることができるため、開弁開始タイミングの検出精度を高めることができる。また、第六実施例における手法によれば、大きい駆動電流を用いて弁体3614を目標リフトに到達させる制御が可能となるため、燃料圧力が高い条件で燃料噴射装置を作動させる場合に有効である。
また、弁体3614が弁座118と接触している閉弁状態では、弁体3614には、そのシート面積と燃料圧力との積となる差圧力が、弁体3614に作用している。したがって、燃料圧力が増加すると、弁体3614に作用する差圧力も増加するため、弁体3614の開弁開始タイミングが遅くなる。差圧力は、シート面積と燃料圧力の積で算出できることから、燃料圧力と開弁開始タイミングの関係は、略線形的な関係となるため、燃料圧力が違う条件で、2点以上開弁開始タイミングをCPU801乃至IC802に記憶させておき、燃料圧力と開弁開始タイミングとの関係を関数化しておくことで、各気筒の燃料噴射装置ごとの開弁開始タイミングと、燃料圧力が変化した場合の開弁開始タイミングをECU120で算出することが可能となる。この開弁開始タイミング乃至開弁開始遅れ時間の情報と、閉弁完了タイミングの情報から、中間リフトの条件で、弁体3614が変位している噴射期間を求めることができ、噴射期間が一致するように、駆動電流を制御することで、中間リフトでの噴射量を制御することができるため、微小な噴射量制御が可能となる。
[参照例7]
次に、図35を用いて参照例7における燃料の噴射タイミングの補正方法について説明する。なお、参照例7は、参照例1から4に記載の噴射量の制御方法と組み合わせて使用することができる噴射タイミングの制御方法である。なお、図35の横軸は、吸気行程中から圧縮行程に移行するまでのエンジンのピストンの上死点(TDC)から、下死点(BDC)のタイミングを示している。また、図35は、2回の分割噴射を行う場合において、開弁開始タイミングTa’が異なる個体1、個体2、個体3に対して、ECUで検知した各個体の開弁開始遅れ時間の情報を元に、噴射タイミングを制御した場合の噴射パルスと燃料を噴射している噴射期間Tqrの関係を示したグラフである。図35より、噴射燃料と空気との流動を良くして混合気の均質度を向上させかつ、ピストン付着を低減する観点から、TDCからBDCに移行する間の吸気行程に燃料を噴射するとよい。開弁開始タイミングTa’が異なる個体において、TDCを基準に同じタイミングで噴射パルスTiを駆動回路に入力すると、燃料が噴射開始されるタイミングが個体ごとに変動し、混合気の均質度の分布に変動が生じ、また、噴射開始タイミングが遅くなることで、燃料のピストン付着が増加して。すす等を含む未燃焼粒子が増加する場合がある。燃料が噴射されるタイミングを気筒ごとに一致させることで、燃料が噴射されてから空気と混合されて、混合気を形成するまでの変動要因が抑制されるため、気筒ごとの混合気の均質度の変動を抑制することができ、排気性能と燃費を向上させることができる。個体1、個体2、個体3ごとに開弁開始タイミングTa’の変動に伴って開弁開始遅れ時間が変動するが、開弁開始遅れ時間が長い個体2については、開弁開始遅れ時間が標準の個体1に対して、噴射パルスTiをタイミングt3901で出力し、開弁開始遅れ時間が短い個体2については、噴射パルスTiをタイミングt3903で出力することで、燃料の噴射開始タイミングt3904を個体ごとに一致させることができる。とくにー吸排気行程中に複数回の燃料噴射を行う分割噴射時においては、一回噴射の場合と比べて、弁体114乃至弁体1907が目標リフト位置に到達して駆動される時間が短くなるため、中間リフトでの過渡的な弁体114乃至弁体1907の挙動が燃料噴射量を決める支配要因になる。また、分割噴射時では、気筒ごとの噴射開始タイミングのずれが分割噴射の回数分発生するため、噴射タイミングの変動に伴う燃料の壁面付着の増加や、混合気の燃料がリッチな領域が生じることで、すすを含む未燃焼粒子が増加し、排気性能が悪化する場合がある。
本参照例における手法によれば、噴射開始タイミングを気筒ごとに噴射パルス幅Tiが供給されるタイミングを調整することで、気筒ごとの混合気の均質度を同様の状態に近づけることができ、未燃焼粒子を抑制できるため、排気性能の向上が可能となる。さらに実施例1、3、4の制御手法を用いて駆動電流の設定および噴射パルスTiの幅を各気筒ごとに補正することにより、燃料を噴射している噴射期間Tqrを合わせることができる。以上で説明した方法により、噴射開始タイミングおよび噴射終了タイミングt3904を個体(各気筒)ごとに一致させることができるため、混合気の気筒ごとのばらつきを抑制でき、排出ガスに含まれるPN及びPMを大幅に抑制できる。
[実施例1]
上述した参照例1乃至7において、1燃焼サイクル中の燃料噴射を複数回に分割して行う実施例について、図36及び図37を参照して、説明する。図36は、1燃焼サイクル中の燃料噴射を複数回に分割して行う場合について、噴射パルスと噴射期間と弁リフトとの関係を示している。図37は、クランキングからファストアイドル区間までのエンジン回転数の変化を示している。
図36に示すように、本実施例においては、上述した燃料噴射装置840および2305とCPU801とIC802とを用いて、1燃焼サイクル中に燃料を複数回に分割して噴射する分割噴射を実行する。図36では、特に、ピストンの上死点(TDC)から下死点(BDC)までの間の吸気行程に、4回に分けて燃料を噴射している。下死点(BDC)を過ぎると圧縮行程に移行する。4回の燃料噴射は、噴射パルス4001pに基づく弁リフト4001vと、噴射パルス4002pに基づく弁リフト4002vと、噴射パルス4003pに基づく弁リフト4003vと、噴射パルス4004pに基づく弁リフト4004vとを含んでいる。
本実施例においては、弁リフト4001vで噴射される燃料量は4回の燃料噴射で噴射される総量の15%(分割比:0.15)である。弁リフト4002vで噴射される燃料量は総量の70%(分割比:0.70)である。弁リフト4003vで噴射される燃料量は総量の10%(分割比:0.10)である。弁リフト4004vで噴射される燃料量は総量の5%(分割比:0.05)である。弁リフト4001v〜4004vで噴射される燃料を合わせると、1燃焼サイクル中に必要とされる目標噴射量に対して100%(分割比:1)となるように、噴射パルス幅が設定される。
4回の燃料噴射のうち、弁リフト4002vはフルリフトであり、その他の弁リフト4001v、4003v、4004vはハーフリフトである。ここで、フルリフトとは、弁体の変位量を規制する規制部によって弁体の変位が規制される状態まで弁体を変位(開弁)させた状態であり、弁体が規制部に到達したときの開弁状態をいう。この状態では、弁体が目標開度となるリフト位置に到達した状態で燃料噴射が行われる。また、ハーフリフトとは、弁体が規制部に到達しない中間開度での開弁状態をいう。この状態では、弁体が目標開度となるリフト位置に到達しない状態で燃料噴射が行われる。1燃焼サイクル中に行う複数回の分割噴射の中に、噴射量の制御精度の低いハーフリフトによる燃料噴射と、噴射量を高精度に制御できるフルリフトによる燃料噴射とを含むことにより、複数の分割噴射によって噴射される燃料の総量を、全ての燃料噴射をハーフリフトによる燃料噴射で構成した場合と比べて、目標噴射量に近付けることができる。これにより、噴射される燃料噴射量の精度を高めることができる燃料噴射装置の駆動装置を提供することができる。
ところで、図4及び図5で説明したように、ハーフリフトによる燃料噴射では、噴射パルス幅の変化に対して燃料噴射量の変化が線形とならず、非線形に変化する。図4及び図5では、点401及び点501のような条件に相当する。特に、図5で説明したように、点501のようなハーフリフトの条件では、燃料噴射装置の個体ばらつきが燃料噴射量に大きく影響する。燃料噴射装置の個体ばらつきは弁体の開弁開始タイミング及び閉弁完了タイミングのばらつきに顕著に現れる。また、弁体の開弁開始タイミングは閉弁完了タイミングに影響し、開弁開始タイミングの早いものほど、閉弁完了タイミングは遅くなる。すなわち、開弁開始タイミングの早いものほど、燃料噴射量が増える傾向にある。
図4及び図5での説明から分かるように、図36で説明した弁リフト4001v〜4004vに対する噴射パルス4001p〜4004pのパルス幅の比は、弁リフト4001v〜4004vにおける燃料噴射量の分割比に一致しない。すなわち、弁リフト4001v〜4004vにおける燃料噴射量が図36に示す分割比となるように、噴射パルス4001p〜4004pのパルス幅(弁体の開弁開始タイミング及び閉弁完了タイミング)を補正する必要がある。この補正については、上述した各実施例で説明したように、燃料噴射装置の構造に適した補正方法を用いることにより、補正することができる。
本実施例では、フルリフトである弁リフト4002vの燃料噴射量を70%にしたが、これに限られる訳ではない。また、分割数も本実施例の4回に限定される訳ではない。要は、1燃焼サイクル中の燃料噴射を複数回に分割することと、その複数回の内の少なくとも1回がフルリフトによる燃料噴射であることが必要であり、かつ分割された各回の燃料噴射量の総和が1燃焼サイクル中に必要とされる目標噴射量になることである。この条件を満たすように、分割数と分割された各回の燃料噴射量が決められれば良い。
また、図36では、全ての分割噴射が、吸気行程においてピストンが上死点(TDC)から下死点(BDC)まで移動する間に行われるものとしたが、分割噴射を吸気行程に続く圧縮行程中に行ってもよい。圧縮行程中に行う分割噴射は、ハーフリフトによる中間開度での噴射であることが望ましい。圧縮行程では吸気行程において下死点まで移動したピストンが上死点に向けて移動する。このため、上死点に向けて上昇するピストンによって燃料を噴射する空間がどんどん狭くなってくる。フルリフトによる燃料噴射では噴射される燃料噴霧の到達距離(ペネトレーション)が長くなる傾向にある。この状況でフルリフトによる燃料噴射を行うと、噴射された燃料噴霧に向かってピストンが近付いてゆく形となり、燃料噴霧が直接ピストンに付着し易くなる。燃料噴霧のこれは内燃機関における燃焼としては好ましくない。
したがって、フルリフトによる目標開度での燃料噴射を行うためのソレノイド105への通電は1燃料サイクル中の吸気行程中に行い、ハーフリフトによる中間開度での燃料噴射を行うためのソレノイド105への通電は目標開度で燃料噴射を行う前後のタイミングで行うとよい。特に、フルリフトによる目標開度での燃料噴射は、ピストンが下死点近傍にある場合、更にはピストンが下死点近傍にあって下死点に向かって下降している場合に、行われることが望ましい。
また、吸気行程の早い時期には、より少ない量の燃料噴射を実施することが好ましい。また、圧縮行程にも燃料噴射を行う場合は、圧縮行程の遅い時期に噴射する場合には、より少ない量の燃料噴射を実施することが好ましい。これにより、ピストンが上死点近くに位置していても、噴射される燃料噴霧の到達距離が短いので、ピストンへの噴霧の付着を避けることができると共に、燃料の噴射できる期間をより長く確保することができる。目標開度での燃料噴射に比べて中間開度での燃料噴射の方がペネトレーションが短くなる理由は、噴射される燃料が必然的に小さくなるために、噴射によって形成される空気流動の流速が大きくなり、相対速度が低下して噴射燃料が空気抵抗を受けやすくなるためである。この効果を利用することで、中間開度での燃料噴射においては、ソレノイドへの通電時間(噴射パルス幅)およびその噴射間隔によって変化する実噴射期間を変化させることで、ペネトレーションを任意に制御できる。
ハーフリフトによる中間開度での燃料噴射を1燃焼サイクル中に複数回行い、これら中間開度による複数回の燃料噴射において、ソレノイドへの通電時間すなわち噴射パルス幅を変えるようにすると良い。これにより、1燃焼サイクル中に複数の通電時間に対するデータを取得できるので、短時間でデータの取得と学習を実行することが可能になる。ソレノイドへの通電時間は、高電圧印加時間Tpおよびピーク電流値で設定しても良い。
上述した分割噴射を行うに当たり、中間開度の条件で弁体が弁座と接触する閉弁完了時期と、ソレノイドに電圧を印加して弁体が弁座から離間する開弁開始時期のどちらか一方またはその両方を、ソレノイドの電流もしくは端子電圧の変化を用いて検知し、各気筒の燃料噴射装置ごとにソレノイドの通電時間を変化させる機能を、燃料噴射装置の駆動装置に備えるとよい。ソレノイドの通電時間を変化させることにより、燃料噴射装置の個体ばらつきに基づく弁体の閉弁完了時期と開弁開始時期とのうちいずれか一方のばらつき、或いはその両方のばらつきを補正することができ、正確な燃料量を噴射して高精度な燃料噴射を実現できる。
或いは、上述した分割噴射を行うに当たり、中間開度の条件で弁体が弁座と接触する閉弁完了タイミングと、ソレノイドに電圧を印加して弁体が弁座から離間する開弁開始タイミングのどちらか一方またはその両方を、ソレノイドの電流もしくは端子電圧の変化を用いて検知し、各気筒の燃料噴射装置ごとにソレノイドへ供給する電流波形の設定値を変化させる機能を、燃料噴射装置の駆動装置に備えるとよい。ソレノイドへ供給する電流波形の設定値を変化させることにより、燃料噴射装置の個体ばらつきに基づく弁体の閉弁完了タイミングと開弁開始タイミングとのうちいずれか一方のばらつき、或いはその両方のばらつきを補正することができ、正確な燃料量を噴射して高精度な燃料噴射を実現できる。
更に具体的には、燃料噴射装置の駆動装置に、バッテリ電圧源とバッテリ電圧を昇圧する昇圧回路と、昇圧回路から燃料噴射装置のソレノイドへの通電・非通電を制御する第一のスイッチ素子、バッテリからソレノイドへの通電・非通電を制御する第二のスイッチ素子及びソレノイドの接地電位側端子と接地電位との間の通電・非通電を制御する第三のスイッチ素子を含むスイッチ素子と、ソレノイドの接地電位側端子と第一のスイッチ素子の昇圧回路側の端子との間に設けられ、昇圧回路側へ電流を供給するための第一のダイオードと、ソレノイドの電圧源側端子と接地電位との間に設けられ、接地電位側から電圧源側に電流を供給するための第二のダイオードと、開弁開始時期に基づいてソレノイドの通電時間または通電電流を可変することにより燃料噴射装置のばらつきを補正する手段と、弁体が弁座から離間する開弁開始時期を検出する開弁開始時期検出部と、スイッチ素子を駆動する駆動信号を生成する駆動信号生成部と、を備えるとよい。また、対象とする燃料噴射装置は、ソレノイドからの磁気吸引力により駆動され、弁体へ接触したときに弁体を開弁方向へ付勢する可動子と、弁体と可動子との接触面の間に設けられ、可動子がソレノイドからの磁気吸引力により空走動作した後に弁体に接触するための空隙と、を備えるとよい。そして、開弁開始時期検出部は、目標開度または中間開度での燃料噴射時に、駆動信号生成部が第一のスイッチ素子と第三のスイッチ素子を通電して可動子を開弁方向に駆動し、第一のスイッチと第三のスイッチとを非通電にしてソレノイドの通電電流を減衰させた後に、第二のスイッチと第三のスイッチとを通電にする期間において、可動子が空隙を空走動作して弁体と接触することによる可動子の速度または加速度の変化を、ソレノイドに流れる電流値に基づき検出して開弁開始時期を検出するようにするとよい。
このとき、弁体が中間開度で駆動され、かつ第二のスイッチと第三のスイッチ素子とを通電する期間において、可動子が開弁方法に加速した後もしくは弁体が開弁した後にソレノイドへの駆動電流の供給を停止するようにするとよい。可動子が空走動作を行う機能を備えた燃料噴射装置で弁体を中間開度で動作させる場合、可動子がもつ運動エネルギーを利用し、弁体を開弁させる。このとき、要求される噴射量を噴射するための目標開度が小さい場合、弁体が開弁開始するよりも前にソレノイドへの駆動電流の供給を停止したとしても可動子が持つ運動エネルギーによって弁体は開弁運動を行うことができる。一方で、可動子が空走動作を行わない燃料噴射装置では、弁体が開弁した後にソレノイドへの駆動電流の供給を停止するようにするとよい。
1燃焼サイクルの中で、目標開度で噴射を行う条件においては、第一のスイッチ素子と第三のスイッチ素子とを通電にしてソレノイドに駆動電流を流して弁体を開弁開始させた後に、第三のスイッチを非通電もしくは第三のスイッチ素子と第一のスイッチ素子とを非通電にして駆動電流を減衰させ、その後、第二のスイッチ素子と第三のスイッチ素子とを通電にしてソレノイドにバッテリ電圧を印加し、バッテリ電圧を印加する期間に可動子または弁体を目標開度に到達させることで、目標開度に到達したことによる可動子の加速度の変化を、駆動電流の時間変化で検出することで、弁体が目標開度に到達した開弁完了時期を検知すると共に、開弁完了時期を各気筒の燃料噴射装置ごとに検知する検出部を備え、開弁完了時期に補正係数を乗じることで開弁開始を推定するようにしてもよい。これにより、フルリフトの条件で開弁完了を検知し、この検知した情報から開弁開始タイミングを推定することができる。開弁開始タイミングをセンサで検知することが困難な構造の燃料噴射装置でも、開弁開始タイミング情報を得ることができる。
また、閉弁完了時期および開弁開始時期に関する情報の取得時期と学習時期については、以下のようにすることが好ましい。すなわち、運転中に各気筒の燃料噴射装置の中間開度での閉弁完了時期および開弁開始時期のどちらか一方またはその両方を検知して記憶し、運転を終了した後の次回の運転時の、エンジン始動からエンジン回転数がある一定回転に到達するアイドル運転までの期間に、各気筒の燃料噴射装置の閉弁完了時期および開弁開始時期のどちらか一方またはその両方を検知し、予め記憶しておいた閉弁完了時期および開弁開始時期のどちらか一方またはその両方と検知した閉弁完了時期および開弁開始時期のどちらか一方またはその両方とを比較し、その偏差が予め駆動装置に与える閾値を超えた場合、検知した閉弁完了時期および開弁開始時期のどちらか一方またはその両方をECUに記憶させ、前記アイドル運転前と運転後とで各気筒の燃料噴射装置の通電時間または電流波形を変化させるとよい。このように、前回の運転時と次回運転時の閉弁完了時期および開弁開始時期のどちらか一方またはその両方を比較することで、エンジンのメンテナンス時等に燃料噴射装置が交換された場合であっても、ECUで燃料噴射装置が変わったことによる変化を自動的に検出することが可能となる。これによって、前回運転時の閉弁完了時期または開弁開始時期を用いることで生じる誤った噴射量の補正を抑制することができ、噴射量補償のロバスト性を高められる。
或いは、エンジン始動からエンジン回転数がある一定回転に到達するアイドル運転までの期間に、各気筒の燃料噴射装置の閉弁完了時期および開弁開始時期のどちらか一方またはその両方を検知し、アイドル運転後に各気筒の燃料噴射装置の通電時間と電流波形のどちらか一方またはその両方を変化させるようにしてもよい。
図37に示すように、内燃機関が冷えた状態から始動する場合(冷気始動の場合)、エンジン回転数がクランキングからファストアイドル区間に至って一定回転数となるまでの間に、回転数の増加する期間がある。ファストアイドル区間では、噴射した燃料が壁面に付着した場合、燃料が気化しにくくPMおよびPNが増加する傾向にある。よって、ファストアイドル区間では、燃料のピストンおよびシリンダ壁面への付着を低減するために、ペネトレーションを抑制する必要がある。ペネトレーション抑制のためには、燃料を分割して噴射することが必要となるため、微少な燃料を精度よく噴くことが必要である。ファストアイドル区間に至る前の回転数の増加期間に、閉弁完了時期および開弁開始時期に関する情報の取得と学習を行うことが望ましい。これにより、安定したファストアイドル運転が可能となり、また燃費も向上する。
閉弁完了時期および閉弁完了から開弁開始までの実開弁期間を調整(補正)する方法としては、バッテリ電圧を昇圧する昇圧回路を備え、閉弁完了時期が各気筒で一致するように昇圧回路から高電圧を印加する時間を複数の燃料噴射装置に対して燃料噴射装置ごとに調整するようにすることができる。また、バッテリ電圧を昇圧する昇圧回路を有し、閉弁完了時期から開弁開始時期を減算した弁体の開弁期間が各気筒で一致するように、昇圧回路から高電圧を印加する時間を複数の燃料噴射装置に対して燃料噴射装置ごとに調整するようにしてもよい。また、昇圧回路から高電圧を印加後に、バッテリ電圧源の通電時間を制御することによってソレノイドに流れる電流値が駆動装置に設定される所定の範囲に収まるように制御する機能を備え、バッテリ電圧源のソレノイドへの通電時間を制御することで、中間開度での燃料噴射を制御するようにしてもよい。開弁開始時期を調整する方法としては、各気筒で取得した開弁開始時期の検知情報を元に、各気筒での開弁開始時期が一致するように噴射パルスを通電するタイミングを各気筒ごとに調整する方法がよい。
[実施例2]
上述した参照例1乃至7において、1燃焼サイクル中の燃料噴射を複数回に分割して行う場合について、各気筒の燃料噴射装置の開弁開始時期および閉弁開始時期を検知するタイミングについて図38を参照して、説明する。図38には、実施例2におけるクランキングからファストアイドル区間までのエンジン回転数の変化を実線で記載し、燃料噴射装置の上流の燃料配管の圧力(以降、レール圧力と称する)を破線で記載している。
実施例2における実施例1との差異は、エンジンの運転状態が異なる場合での対応方法の差である。本実施例では、エンジンのクランキングによる最初の燃焼から、通常の燃焼に移行した後、回転数がある一定値に収束するまでには、エンジンの吹け上がりによるエンジン回転数の上昇によって、アイドル運転での回転数をオーバーシュートする区間3801がある運転状態での対応方法を記載する。エンジンの吹け上がりは、排気管に取り付けた触媒の温度を上昇させるために行い、Nox、HCといった排ガスの排出量を低減することができる。この区間3801が生じる場合は、ファストアイドル開始の条件を3801の区間もしくは、区間3801が終了後に設定することがある。エンジン回転数がオーバーシュートし、減少に転じてからファストアイドルを開始することで、回転数の増減に伴う燃焼安定性を抑制でき、安定したエンジン燃焼が可能となる。
最初の燃焼からファストアイドルの回転数に到達するまでには、各気筒の燃料噴射装置の上流の配管圧力がECUで任意に設定する目標圧力3802に向って増加する。このとき、配管圧力すなわち燃料装置の上流のレール配管の燃料圧力は、燃料噴射装置の上流の燃料配管に設置した圧力センサの出力値をECUに取り込み検出できる。高圧ポンプでは、圧力を加圧するための加圧室が設けられており、エンジンのカムシャフトに取り付けられた加圧ピストンが圧縮を行うことで燃料を加圧し、高圧な燃料をレール配管に供給する。高圧ポンプには、燃料タンクに設けられた低圧ポンプ(以降、フィードポンプと称する)から加圧室にいれる流量を、吸入弁で制御している。例えば、吸入弁は、燃料噴射装置と同様に、コイルと磁気回路および可動子で構成される電磁弁であり、コイルへの通電と非通電を行うことで、加圧室に入れる流量を制御する。エンジンが始動されると、レール圧力は、増加と一定値を繰り返しながら、加圧ピストンの動作または、吸入弁の動作に同期して増加する。燃料噴射装置の開弁開始時期と閉弁終了時期および開弁完了時期は、燃料圧力によって弁体または可動子が受ける流体力が変化するため、燃料圧力の影響を大きく受ける。また、燃料の噴射量は、燃料噴射装置に供給される燃料の圧力と、各気筒の燃料噴射装置の閉弁終了時期から開弁開始時期を減じた弁体の実開弁期間で決まる。開弁開始時期または閉弁終了時期の検出は、高圧ポンプの吸入弁の動作に同期させると良い。吸入弁の指令信号が出てから一定時間経過後の開弁開始時期または閉弁終了時期を検出することで、圧力変動が小さい条件で各気筒の燃料噴射装置の個体情報を検出することができ、噴射量の補正精度を高められる。レール圧力は、高圧ポンプの加圧と各気筒の燃料噴射装置の燃料噴射による圧力低下によって決まるため、現在の圧力センサとエンジン回転数から吸入弁の通電タイミングおよび高圧ポンプの加圧動作による圧力上昇を推定して、ある目標のレール圧力となる条件で各気筒の開弁開始時期または閉弁終了時期を検出するとよい。この効果により、圧力センサからの出力値をECUに取り込む周期が、中間開度の通電時間に比べて長い場合であっても1燃焼サイクル中での次回の燃料噴射の際の圧力情報を正確に求めることができ、ECUで計算する任意の圧力条件での開弁開始時期または閉弁終了時期の検知情報を正確に得ることができる。
また、ファストアイドル開始の時間においては、各気筒の燃料噴射装置の中間開度での噴射量の個体ばらつきを補正するための閉弁完了時期および開弁開始時期のどちらか一方またはその両方の検知または学習が完了している。よって、ファストアイドル開始以降は、1燃焼サイクル中の燃料噴射を、目標開度での燃料噴射と中間開度での燃料噴射の組合せに限定されず、全ての燃料噴射を中間開度で行うことができる。1燃焼サイクル中の燃料噴射を全て中間開度で行うことで、1噴射当たりの燃料噴射量を小さくできる。したがって、空気との接触面積が増加して噴射燃料のペネトレーションを低減できるため、ピストンおよびシリンダ壁面への燃料付着を抑制することができ、PMおよびPN等の排出ガスを低減できる。また、1噴射当たりの噴射量が小さいために、中間開度での燃料噴射の噴射間隔を低減したとしても空気と燃料の混合が促進され、混合気の均質度を向上させる効果が得られる。
ここで、エンジンのピストンの上死点(TDC)が近づく最初と最後の燃料噴射の通電パルス幅を小さくするとよい。例えば、1燃焼サイクル中の燃料噴射を全て中間開度で行う場合の通電パルス幅は、1燃焼サイクル中に必要な通電パルス幅を1とすると、1つめの燃料噴射から順番に0.15: 、0.2:0.2:0.2 :0.15のように設定する。このような設定にすることで、吸入行程初期や圧縮行程後期での燃料のピストンおよびシリンダ壁面への付着を抑制でき、流入空気量が多いタイミングで燃料と空気との混合を促進させて混合気の均質度を向上できる。
また、ファストアイドルが終了した後も中間開度での燃料噴射を行い、一定時間もしくは一定の燃料噴射を経過した後に中間開度での各気筒の開弁開始時期および閉弁終了時期を再検知し、ECUに記憶させる学習値を更新するとよい。このように、学習値を更新していくことで、燃料噴射装置の噴射量が経年劣化により変化した場合で合っても正確に噴射量を補正することができ、各気筒の噴射量ばらつきを抑制できる。