JP6737864B2 - 化学修飾セルロース繊維およびその製造方法 - Google Patents
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〔1〕 セルロースI型結晶を有し、セルロースの水酸基の一部が、下記構造式(1):
本実施形態に係る化学修飾セルロース繊維は、セルロースI型結晶を有し、セルロースを構成するグルコースユニット中の水酸基の一部が下記式(1)で表される置換基によって置換されたものである。
化学修飾セルロース繊維は、セルロースI型結晶構造を有するものであり、その結晶化度が50%以上であることが好ましい。結晶化度が50%以上であることにより、セルロース結晶構造に由来する特性を発現することができ、増粘性や機械的強度を向上させることができる。結晶化度は、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは65%以上であり、70%以上でもよい。結晶化度の上限は特に限定されないが、硫酸エステル化反応の反応効率を向上させる観点から、98%以下が好ましく、より好ましくは95%以下であり、更に好ましくは90%以下であり、85%以下でもよい。
セルロースI型結晶化度(%)=〔(I22.6−I18.5)/I22.6〕×100
式中、I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、I18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。なお、セルロースI型とは天然セルロースの結晶形のことであり、セルロースI型結晶化度とは、セルロース全体のうち結晶領域量の占める割合のことを意味する。
上記の式(1)で表される置換基は硫酸基であり、下記式で表されるように、波線部分をセルロース分子として、セルロース中の水酸基の酸素原子に対して水素原子の代わりに−SO3 −Mが結合した構造を持ち、セルロース繊維に硫酸基が導入されている。
化学修飾セルロース繊維において、化学修飾セルロース繊維1gあたりにおける前記式(1)で表される置換基の導入量は、0.1〜3.0mmolであることが好ましい。導入量が3.0mmol/g以下であることにより、セルロース結晶構造の保持効果を高めることができる。導入量はより好ましくは2.8mmol/g以下であり、さらに好ましくは2.5mmol/g以下である。また、セルロース繊維の構成要素であるセルロース微細繊維の表面全体を置換基で覆うという観点から、0.1mmol以上/gであることが好ましく、より好ましくは0.15mmol/g以上、さらに好ましくは0.2mmol/g以上である。
化学修飾セルロース繊維の平均重合度(即ち、グルコースユニットの繰り返し数)は、350以上であることが好ましい。平均重合度が350以上であることにより、増粘性を向上することができる。平均重合度は、より好ましくは380以上であり、更に好ましくは400以上である。平均重合度の上限は、特に限定されず、例えば5000以下でもよく、4000以下でもよく、3000以下でもよく、2000以下でもよい。
本実施形態に係る化学修飾セルロース繊維としては、解繊処理(微細化処理)がなされていないマイクロオーダーの化学修飾セルロース繊維(形態1)と、解繊処理されたナノオーダーの化学修飾セルロース繊維(形態2)が例示される。
一実施形態に係る化学修飾セルロース繊維の製造方法は、セルロース繊維とスルファミン酸を反応させて化学修飾セルロース繊維を製造する方法であり、セルロース繊維形状を保ったままセルロース繊維をスルファミン酸で処理することにより、スルファミン酸と当該セルロース繊維の構成要素であるセルロース微細繊維を反応させ、これによりセルロース微細繊維を硫酸エステル化する工程(化学修飾工程)を含む。
上記化学修飾工程で用いるセルロース繊維(セルロース原料)の具体例としては、植物(例えば木材、綿、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ、再生パルプ、古紙)、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌)、微生物産生物等を起源とするものが挙げられる。これらの中で、植物由来パルプが好ましい原材料として挙げられる。
嵩密度が10kg/m3以上のセルロース原料を用いる場合は、化学修飾工程の反応に先立ち、前処理を行い、嵩密度を0.1〜5kg/m3にしてもよい。この前処理を予め行うことにより、化学修飾をより効率的に行うことができる。前処理方法としては、特に限定されないが、機械処理を行い、セルロース原料を適度な嵩密度にすることができる。機械処理としては、使用する機械や処理条件に制限はなく、例えばシュレッダー、ボールミル、振動ミル、石臼、グラインダー、ブレンダー、高速回転ミキサーなどがあげられる。嵩密度は好ましくは、0.1〜5.0kg/m3、より好ましくは0.1〜3.0kg/m3、さらにより好ましくは0.1〜1.0kg/m3である。
化学修飾工程において、セルロース繊維とスルファミン酸との反応(即ち、硫酸エステル化反応)は、スルファミン酸を含む薬液にセルロース原料(セルロース繊維)を浸漬することにより行うことができる。
本実施形態では、必要に応じて、硫酸エステル塩を中和する工程を設けてもよい。硫酸エステル塩は、得られた粗製物のpHが低下し酸性を示した場合、粗製物の保存安定性が低い。そのため、この硫酸エステル塩に塩基性化合物を添加して中和させることにより、pH値を中性もしくはアルカリ性に調整することが好ましい。中和に用いる塩基性化合物としては、特に限定するものではないが、例えばアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、その他の無機塩、アミン類などが挙げられる。具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウム、塩基性乳酸アルミニウム、塩基性塩化アルミニウム、アンモニア,メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン,ジエタノールアミン,トリエタノールアミンが挙げられる。なお、本実施形態において、一種以上の塩基性化合物を使用して中和することができる。
以上の工程により上記形態1に係るマイクロオーダーの化学修飾セルロース繊維が得られる。得られる化学修飾セルロース繊維においては、セルロース中の水酸基の一部が式(1)で表される硫酸基により置換されることで硫酸エステル化されている。すなわち、この段階で得られる化学修飾セルロース繊維において、セルロース繊維の構成要素であるセルロース微細繊維は式(1)の硫酸基により硫酸エステル化されており、かかる硫酸エステル化されたセルロース微細繊維により化学修飾セルロース繊維が構成されている。硫酸基は、セルロース繊維を構成するセルロース微細繊維の表面に導入されており、セルロース繊維の表面に存在するセルロース微細繊維だけでなく、セルロース繊維の内部に存在するセルロース微細繊維についても、それらセルロース微細繊維の表面に硫酸基が導入されていることが好ましい。
上記形態1の化学修飾セルロース繊維は、機械的解繊による微細化処理を行うことで、上記形態2に係るナノオーダーの化学修飾セルロース繊維を得ることができる。化学修飾セルロース繊維の微細化処理を行う装置としては、例えば、リファイナー、二軸混錬機(二軸押出機)、高圧ホモジナイザー、媒体撹拌ミル(例えば、ロッキングミル、ボールミル、ビーズミルなど)、石臼、グラインダー、振動ミル、サンドグラインダー等が挙げられる。なお、本微細化工程を行わずに製品化してもよい。
本実施形態に係る化学修飾セルロース繊維は、セルロース表面が硫酸エステル化されていることから、増粘剤や吸水性材料として利用することができ、例えば、食品、化粧品、機能紙、樹脂補強材等の工業原料の他、様々な用途に用いることができる。また、重合度が高く、セルロースI型結晶構造を有し繊維長を保持した化学修飾セルロース繊維であるため、高い増粘性を有している。特に、形態2に係る解繊後の化学修飾セルロース繊維であると、この効果に優れる。
。なお、下記実施例1,2,6は参考例である。各実施例及び各比較例における測定・評価方法は以下の通りである。
セルロース原料および化学修飾セルロース繊維のX線回折強度をX線回折法にて測定し、その測定結果からSegal法を用いて下記式により算出した。
セルロースI型結晶化度(%)=〔(I22.6−I18.5)/I22.6〕×100
式中、I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、I18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。また、サンプルのX線回折強度の測定を、株式会社リガク製の「RINT2200」を用いて以下の条件にて実施した:
X線源:Cu/Kα−radiation
管電圧:40Kv
管電流:30mA
測定範囲:回折角2θ=5〜35°
X線のスキャンスピード:10°/min
化学修飾セルロース繊維において導入基(置換基)の同定は、フーリエ赤外分光光度計(FT−IR、ATR法)で行った。
置換基(硫酸基)の導入量は電位差測定により算出した。詳細には、乾燥重量を精秤した化学修飾セルロース繊維試料から固形分率0.5質量%に調製した化学修飾セルロース繊維の水分散体を60ml調製し、0.1Mの塩酸水溶液によってpHを約1.5とした後、ろ過、水洗浄し、繊維を再び60mLの水に再分散させ、0.1Mの水酸化カリウム水溶液を滴下してpHを約11にした。このスラリーに対して0.1Mの塩酸水溶液を滴下して電位差滴定を行った。終点までに滴下した0.1Mの塩酸水溶液の滴下量から化学修飾セルロース繊維の硫酸基導入量を算出した。
化学修飾セルロース繊維の平均重合度は粘度法により算出した。JIS−P8215に準じて極限粘度数[η]を測定し、下記式より平均重合度(DP)を求めた。
DP=(1/Km)×[η]
(Kmは係数でセルロース固有の値。1/Km=156)
解繊前の化学修飾セルロース繊維において、化学修飾セルロース繊維の形状評価は、光学顕微鏡観察で行い、下記の基準で評価した。
◎:繊維形状を保持している。
○:繊維形状を保持しており、所々フィブリル化している。
△:繊維形状を保持しているが、所々繊維が切断している。
×:繊維形状が保持されず、繊維が溶解または短繊維化している。
化学修飾後(即ち、解繊前)の化学修飾セルロース繊維の平均繊維幅および平均繊維長の測定は、光学顕微鏡観察で行い、倍率100〜400倍で観察した繊維50本の繊維幅、繊維長の各平均値を算出し、平均繊維幅および平均繊維長とした。
解繊前後の化学修飾セルロース繊維のそれぞれについて、固形分率0.2質量%に調製した化学修飾セルロース繊維の水分散体を一晩静置した後、繊維状態を目視で観察し、下記の基準で評価した。
○:繊維が水中で分散している。
△:繊維が水中で膨潤している。
×:繊維が水中で凝集している。
固形分率0.5質量%に調製した化学修飾セルロース繊維の水分散体の粘度を、B型粘度計を用いて回転数6.0rpm、25℃、3分の条件で測定した。
(化学修飾工程)
セパラブルフラスコにスルファミン酸3.0g、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)50gを投入し、10分間攪拌を行った。その後、室温下、セルロース原料として綿状の針葉樹クラフトパルプ(NBKP、セルロースI型結晶化度:85%)1.0gを投入した。ここで、硫酸化試薬であるスルファミン酸の使用量は、セルロース分子中のアンヒドログルコース単位1モル当たり5.2モルとした。50℃で3時間反応させた後、室温まで冷却した。次に化学修飾セルロース繊維を取り出し、中和剤として2N水酸化ナトリウム水溶液に投入してpHを7.6にし、反応を停止した。得られた化学修飾セルロース繊維を水で2〜3回洗浄した後、遠心分離することで化学修飾セルロース繊維を得た(固形量:1.24g、固形分濃度:6.4質量%)。
上記で得られた化学修飾セルロース繊維を固形分濃度5.0質量%になるよう希釈した。得られた化学修飾セルロース繊維水分散液を、ジルコニア製ビーズ(直径20mm:30個、直径10mm:100個)を充填したジルコニア製容器(容量:1L、直径:10cm)に入れ、室温下で60rpmにて回転(自転)、2時間ボールミル処理を行った。その後、固形分濃度0.5質量%になるように水で希釈し、マイクロフルイダイザーによる処理(150MPa、1パス)を行うことで、化学修飾セルロース微細繊維の水分散体を得た(固形量:1.12g、固形分率0.5質量%)。
実施例1において、化学修飾工程でのスルファミン酸の仕込量を0.7gとし、DMFの投入量を14gとし、反応条件を25℃、24時間とし、かつ、中和剤を使用せず、その他は実施例1と同様にして、反応、洗浄、脱溶媒処理、微細化処理を行った。
実施例1において、化学修飾工程でのスルファミン酸の仕込量を3.8gとし、反応条件を50℃、3時間とし、かつ、微細化工程を実施例1と同条件のボールミル処理のみとし、その他は実施例1と同様にして、反応、洗浄、脱溶媒処理、微細化処理を行った。
実施例1において、化学修飾工程でのスルファミン酸の仕込量を3.8gとし、反応条件を50℃、5時間とし、微細化工程を実施例1と同条件のマイクロフルイタイザー処理のみとし、その他は実施例1と同様にして、反応、洗浄、脱溶媒処理、微細化処理を行った。
実施例1において、化学修飾工程でのスルファミン酸の仕込量を1.1gとし、触媒として尿素1.1gを添加し、DMFの投入量を14gとし、中和剤としてモノエタノールアミンを用い、かつ、微細化工程を実施例1と同条件のボールミル処理のみとし、その他は実施例1と同様にして、反応、洗浄、脱溶媒処理、微細化処理を行った。
実施例1において、化学修飾工程でのスルファミン酸の仕込量を0.35gとし、DMFの投入量を14gとし、触媒としてピリジン1.5gを添加し、中和剤としてピリジンを用い(陽イオンはピリジニウムイオンとなる)、かつ、微細化工程を実施例1と同条件のボールミル処理のみとし、その他は実施例1と同様にして、反応、洗浄、脱溶媒処理、微細化処理を行った。
実施例1において、化学修飾工程でスルファミン酸の代わりに三酸化硫黄1.5gを用い、DMFの投入量を20gとし、反応条件を40℃、5時間とし、その他は実施例1と同様にして、反応、洗浄、脱溶媒処理、微細化処理を行った。
実施例1において、化学修飾工程での反応条件を60℃、5時間とし、その他は実施例1と同様にして、反応、中和処理を行った。得られた化学修飾セルロース繊維は水に溶解するものであったため、微細化処理は行わなかった。
セルロース原料として綿状の針葉樹クラフトパルプ(NBKP、セルロースI型結晶化度:85%)1.0gを水に分散させ、固形分濃度5.0質量%になるよう希釈した。得られたセルロース繊維水分散液に対して実施例1と同条件のボールミル処理を行った。その後、水洗浄を行い、遠心分離することで、セルロース繊維の水分散体を得た。
・NBKP:針葉樹クラフトパルプ
・DMF:ジメチルホルムアミド
・NaOH:水酸化ナトリウム
・MEA:モノエタノールアミン
Claims (3)
- セルロースI型結晶構造を有し、その結晶化度が50%以上であり、セルロースの水酸基の一部が、下記構造式(1):
で表される置換基によって置換された化学修飾セルロース繊維であって、置換基の導入量が化学修飾セルロース繊維1gあたり0.8〜3.0mmolであり、平均重合度が350以上である、化学修飾セルロース繊維を製造する方法であって、
セルロース繊維形状を保ったままセルロース繊維をスルファミン酸で処理することにより、スルファミン酸と当該セルロース繊維の構成要素であるセルロース微細繊維を反応させてセルロース微細繊維を硫酸エステル化する化学修飾工程を含み、
前記化学修飾工程において極性有機溶媒を含む溶媒を用いて前記セルロース繊維をスルファミン酸で処理する、化学修飾セルロース繊維の製造方法。 - 前記溶媒が、ジオキサン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、及びピリジンからなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項1に記載の化学修飾セルロース繊維の製造方法。
- 前記化学修飾工程により得られた化学修飾セルロース繊維を機械的に解繊し、平均繊維幅が3nm〜5μmかつ平均繊維長が0.1〜500μmの化学修飾セルロース繊維を得る、請求項1又は2に記載の化学修飾セルロース繊維の製造方法。
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