JP2020124680A - タンパク質吸着剤及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】吸着させたタンパク質の構造を保持させることに優れたタンパク質吸着剤、及び、該タンパク質吸着剤の製造方法を提供することを課題とする。【解決手段】微細繊維状セルロースからなるタンパク質吸着剤であって、前記微細繊維状セルロースは、セルロースI型結晶構造を有し、セルロースの水酸基の一部が硫酸基によって置換された化学修飾微細繊維状セルロースであり、該硫酸基の導入量が微細繊維状セルロース1gあたり0.1〜3.0mmolであり、平均重合度が350以上である、タンパク質吸着剤。【選択図】図1

Description

本発明は、タンパク質吸着剤、より詳細には、微細繊維状セルロースからなるタンパク質吸着剤、及びその製造方法に関する。
セルロースは、生分解性を有する天然由来の材料であり、また、化学的、熱的安定性が比較的高いため、各種用途に用いられている。例えば、セルロースは、タンパク質のような生体物質を吸着及び脱着させて分離・精製するためのカラム用充填剤の材料として用いられている。
水酸基が化学修飾されたセルロースも各種用途に用いられている。例えば、特許文献1には、タンパク質吸着剤の材料として、硫酸化試薬である無水硫酸によってセルロースの水酸基が硫酸基に置換された球状硫酸化セルロースが記載されている。また、特許文献2には、セルロースが硫酸水溶液により処理されることによって得られた、セルロースII型結晶構造を有し、重合度が60以下である硫酸化セルロースが記載されている。
この他、非特許文献1には、木材等のセルロース繊維を解繊処理することによって得られた平均繊維幅がナノオーダーの微細繊維状セルロースからなるタンパク質吸着剤が記載されている。ナノオーダーに解繊された微細繊維状セルロースは、セルロースナノファイバーとも呼ばれている。さらに、非特許文献1には、化学修飾された微細繊維状セルロースからなるタンパク質吸着剤として、セルロースの水酸基がTEMPO酸化によってカルボキシル基に酸化されたものも記載されている。
上記のような硫酸化セルロース又はカルボキシル基を有する微細繊維状セルロースからなるタンパク質吸着剤は、硫酸基やカルボキシル基のようなアニオン性基を有するため、タンパク質を吸着させ易くなっている。このようなタンパク質吸着剤は、通常、水又は水を含む溶媒に懸濁させた状態で用いられ、緩衝液等に溶解させたタンパク質と接触させることによって、タンパク質を吸着し得る。
特開2007−92034号公報 特表2012−526156号公報
Biomacromolecules 2015, 16, 3640-3650
しかしながら、硫酸化セルロースを調製する際、酸性度の高い無水硫酸や硫酸水溶液を用いると、硫酸化セルロースの重合度の低下が懸念される。このように重合度が低下した硫酸化セルロースからなるタンパク質吸着剤は、水又は水を含む溶媒に溶解し易くなり、タンパク質吸着剤としての使用に好適でないという問題点を有する。
また、タンパク質吸着剤には、タンパク質の構造が変化しないようにタンパク質の構造を保持させて吸着させることが求められている。しかしながら、特許文献1に記載された球状硫酸化セルロースからなるタンパク質吸着剤、又は、非特許文献1に記載されたカルボキシル基を有する微細繊維状セルロースは、吸着させたタンパク質の構造を保持させることが不十分であるという問題点を有している。
本発明は、上記問題点に鑑み、吸着させたタンパク質の構造を保持させることに優れたタンパク質吸着剤、及び、該タンパク質吸着剤の製造方法を提供することを課題とする。
本発明に係るタンパク質吸着剤は、微細繊維状セルロースからなり、
前記微細繊維状セルロースは、セルロースI型結晶構造を有し、セルロースの水酸基の一部が下記構造式(1)で表される置換基によって置換された化学修飾微細繊維状セルロースであり、該置換基の導入量が微細繊維状セルロース1gあたり0.1〜3.0mmolであり、平均重合度が350以上である。
斯かる構成によれば、セルロースI型結晶構造を有し、セルロースの水酸基の一部が硫酸基によって置換されており、該硫酸基の導入量が微細繊維状セルロース1gあたり0.1〜3.0mmolであり、平均重合度が350以上であるため、タンパク質吸着剤としての使用に適している。さらに、セルロースが微細繊維状であるため、吸着させたタンパク質の構造を保持させることに優れている。
また、本発明に係るタンパク質吸着剤は、
前記微細繊維状セルロースの平均繊維幅が3nm〜100nmであり、平均繊維長が0.1μm〜500μmであってもよい。
斯かる構成によれば、微細繊維状セルロースの平均繊維幅が3nm〜100nmであり、平均繊維長が0.1μm〜500μmであるため、タンパク質吸着剤としての使用により適しており、且つ、吸着させたタンパク質の構造を保持させることにより優れる。
また、本発明に係るタンパク質吸着剤は、
前記微細繊維状セルロースのpH3〜11におけるゼータ電位が、−40mV〜−1mVであってもよい。
斯かる構成によれば、微細繊維状セルロースのpH3〜11におけるゼータ電位が、−40mV〜−1mVであるため、等電点の異なる種々のタンパク質を吸着させ得る。
本発明に係るタンパク質吸着剤の製造方法は、
上記いずれかのタンパク質吸着剤を製造する方法であって、
セルロース繊維をスルファミン酸で処理することによって、セルロースの水酸基の一部を硫酸基に置換し、化学修飾セルロースを得る化学修飾工程を備えている。
斯かる構成によれば、比較的穏和な試薬であるスルファミン酸を用いるため、セルロースの重合度の低下を抑制することができる。
また、本発明に係るタンパク質吸着剤の製造方法は、
前記化学修飾工程で得られた化学修飾セルロースを機械的に解繊し、平均繊維幅が3nm〜100nmであり且つ平均繊維長が0.1μm〜500μmである微細繊維状セルロースを得る微細化工程をさらに備えていてもよい。
斯かる構成によれば、セルロース繊維に硫酸基が導入されているため、その電気的反発により微細繊維状セルロースが凝集しにくくなり、平均繊維幅が3nm〜100nm及び平均繊維長が0.1μm〜500μmに維持され得る。
以上の通り、本発明によれば、吸着させたタンパク質の構造を保持させることに優れたタンパク質吸着剤、及び、該タンパク質吸着剤の製造方法を提供することができる。
図1は、実施例におけるタンパク質吸着剤のpH変化に対するゼータ電位変化を示す図である。
以下、本発明の一実施形態に係るタンパク質吸着剤について説明する。
本実施形態に係るタンパク質吸着剤は、微細繊維状セルロースからなり、該微細繊維状セルロースは、セルロースI型結晶構造を有している。微細繊維状セルロースのセルロースI型結晶化度は、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、65%以上であることがさらに好ましく、70%以上であることがより一層好ましい。結晶化度の下限が上記値以上であることによって、微細繊維状セルロースの機械的強度が向上し、タンパク質吸着剤としての使用に適したものとなり得る。
結晶化度の上限は特に限定されないが、98%以下であってもよく、95%以下であってもよく、90%以下であってもよく、85%以下であってもよい。
尚、セルロースI型結晶構造とは、天然セルロースの結晶形を意味し、セルロースI型結晶化度とは、微細繊維状セルロース全体のうちセルロースI型結晶構造により形成される領域の占める割合を意味する。
より具体的には、セルロースI型結晶化度は、X線回折法による回折強度値からSegal法によって算出される値であり、下記式によって定義される。式中、I22.6は、X線回折における、格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)における回折強度を表し、I18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)における回折強度を表す。
セルロースI型結晶化度(%)=[(I22.6−I18.5)/I22.6]×100
微細繊維状セルロースは、セルロースの水酸基の一部が下記式で表される置換基である硫酸基によって置換された化学修飾微細繊維状セルロースである。下記式において、波線部分に結合している酸素原子がセルロースの水酸基における酸素原子であり、該酸素原子には水素原子の代わりに−SO Mが結合している。Mは、1〜3価の陽イオンを表す。
Mで表される1〜3価の陽イオンとしては、水素イオン、金属イオン、アンモニウムイオンが挙げられる。2価又は3価の陽イオンである場合、それぞれの陽イオンは、2つ又は3つの−SO とイオン結合を形成する。
金属イオンとしては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン、その他の金属イオンが挙げられる。
アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、又はセシウム等が挙げられる。
アルカリ土類金属としては、カルシウム、ストロンチウムが挙げられる。
遷移金属としては、鉄、ニッケル、パラジウム、銅、銀が挙げられる。
その他の金属としては、ベリリウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウム等が挙げられる。
アンモニウムイオンは、NH だけでなく、NH の1つ以上の水素原子が有機基に置換された各種アミン由来のアンモニウムイオンであってもよく、例えば、第四級アンモニウムカチオン、アルカノールアミンイオン、ピリジニウムイオン等が挙げられる。
Mで表される陽イオンが、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、又は第四級アンモニウムカチオンである場合、タンパク質吸着剤の保存安定性が向上する。
尚、Mで表される陽イオンは、上記のうちのいずれか1種であってもよく、2種以上が組み合わされてもよい。
本実施形態では、硫酸基の導入量は、微細繊維状セルロース1gあたり0.1〜3.0mmolである。硫酸基の導入量は、2.8mmol以下であることが好ましく、2.5mmol以下であることがより好ましい。また、硫酸基の導入量は、0.1mmol以上であることが好ましく、0.15mmol以上であることがより好ましく、0.2mmol以上であることがより一層好ましい。
硫酸基の導入量の上限が上記値以下であることによって、セルロースの結晶構造が十分に保持され得る。また、硫酸基の導入量の下限が上記値以上であることによって、微細繊維状セルロースの表面が硫酸基によって十分に覆われ得る。
尚、硫酸基の導入量は、電位差測定によって求められる。具体的には、硫酸基を導入するために用いた硫酸化試薬や副生成物を洗浄により除去した後、乾燥させた微細繊維状セルロースの質量を精秤し、0.5質量%の微細繊維状セルロース水分散体を60mL調製し、1.0M塩酸水溶液によってpHを約1.0に調整した後、ろ過、水洗浄し、再び60mLの水に再分散させ、0.1M水酸化カリウム水溶液を滴下して終点までに滴下された0.1M水酸化カリウム水溶液の滴下量から硫酸基の導入量が算出される。
本実施形態に係る微細繊維状セルロースは、グルコースユニットの繰り返し数を示す平均重合度が350以上である。平均重合度は、380以上であることが好ましく、400以上であることがより好ましい。平均重合度の下限が上記値以上であることによって、微細繊維状セルロースが水に溶けにくくなり、タンパク質吸着剤としての使用に適したものとなり得る。
平均重合度の上限は特に限定されないが、例えば、5000以下であってもよく、4000以下であってもよく、3000以下であってもよく、2000以下であってもよい。
尚、平均重合度(DP)は、粘度法によって測定される。具体的には、JIS−P8215に準拠して極限粘度数[η]を測定した後、下記式によって算出される。
DP=(1/Km)×[η]
(Kmは係数でありセルロース固有の値である。1/Km=156)
本実施形態では、微細繊維状セルロースは、平均繊維幅が3nm〜100nmであり、平均繊維長が0.1μm〜500μmである。
平均繊維幅は、1nm以上であってもよく、2nm以上であってもよく、5nm以上であってもよい。平均繊維幅の下限が上記値以上に設定されることによって、セルロースI型結晶構造が十分に保持され得る。また、平均繊維幅の上限は、1μm以下であってもよく、0.5μm以下であってもよく、0.2μm以下であってもよい。平均繊維幅の上限が上記値以下に設定されることによって、微細繊維状セルロースを製造する段階において、パルプの他の構成要素(有縁壁孔、導管要素など)が除去され得るため、微細繊維状セルロースの純度が高くなり得る。
平均繊維長は、1μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。平均繊維長の上限は上記範囲内であれば特に限定されないが、300μm以下であることがより好ましく、200μm以下であることがより一層好ましい。
尚、平均繊維幅及び平均繊維長は、顕微鏡観察により任意の50本の繊維について測定される繊維幅及び繊維長の算術平均値として求められる。具体的には、湿潤させた微細繊維状セルロースをろ過、脱溶媒することによって繊維シートを取得し、液体窒素にて凍結乾燥させたものについて、走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行い、構成する繊維幅に応じて、倍率100〜100000倍にて任意の繊維50本の繊維幅及び繊維長を測定し、それぞれの算術平均値を平均繊維幅及び平均繊維長とする。
本実施形態では、微細繊維状セルロースは硫酸基を含有するため、負のゼータ電位を示し、pH3〜11におけるゼータ電位が−40mV〜−1mVを示す。ゼータ電位は、−35mV〜−1mVであってもよく、−35mV〜−5mVであってもよい。
尚、ゼータ電位は、微細繊維状セルロースの水分散体を、pH3〜11に調整したBritton−Robinson緩衝液などを用いて、微細繊維状セルロースが0.9mg/mLとなるように希釈した調製液を調製し、ゼータ電位測定装置(株式会社堀場製作所製、ナノ粒子解析装置、SZ−100)の電極付きセル内に該調製液を入れ、レーザードップラー法により測定される。また、ゼータ電位は次の式から計算される。ここで、分散媒の粘度を水の粘度とするが、前記調製液は微細繊維状セルロースの含有量により粘度が変化し、それによってゼータ電位が変動する可能性がある。よって、前記調製液の微細繊維状セルロースの濃度は、上記のように0.9mg/mLとする。
ζ=U・η/ε/f(kr)
ζ:ゼータ電位、U:電気移動度、η:分散媒の粘度、ε:分散媒の誘電率、
f(kr):ヘンリー係数
次に、本実施形態の微細繊維状セルロースからなるタンパク質吸着剤の製造方法について説明する。
本実施形態に係るタンパク質吸着剤の製造方法は、硫酸基を導入する反応を効率的に進行させるために、セルロース原料を適度な嵩密度を有するセルロース繊維になるように処理する前処理工程と、セルロース繊維をスルファミン酸で処理することによって、繊維形状を保ちつつセルロースの水酸基の一部を硫酸基に置換し、化学修飾セルロースを得る化学修飾工程と、化学修飾セルロースを解繊し、平均繊維幅が3nm〜100nmであり且つ平均繊維長が0.1μm〜500μmである化学修飾微細繊維状セルロースたる微細繊維状セルロースを得る微細化工程とを備えている。
前処理工程は、化学修飾工程における反応を効率的に進行させるために、セルロース原料を適度な嵩密度を有するセルロース繊維にするための工程であり、セルロース原料の嵩密度が10kg/m以上の場合に実施することが好ましい。前処理後に得られるセルロース繊維の嵩密度は、0.1〜5.0kg/mであることが好ましく、0.1〜3.0kg/mであることがより好ましく、0.1〜1.0kg/mであることがさらに好ましい。
尚、嵩密度は、例えば、ホソカワミクロン社製の「パウダーテスター」を用いて測定される。嵩密度は、サンプルをシュートに通しつつ振動させたふるいに落下させ、規定の容器(容量100mL)に受け、該容器中のサンプルの重量を測定することにより算出される。ただし、ふるいを通過しにくい(より具体的には、ふるいを通して規定の容器にサンプルを充填する場合に、充填時間が3分を超えるような)例えば綿状化したようなサンプルの嵩密度については、ふるいを通さずにシュートを通しつつ落下させ、規定の容器(容量100mL)に受け、規定の容器に十分充填させた後、該容器中のサンプルの重量を測定することにより算出される。
セルロース原料としては、例えば、植物(例えば、木材、綿、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ、再生パルプ又は古紙)、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌)、微生物産生物等に由来するものが挙げられる。これらの中でも、植物由来のパルプが好ましい。
前記パルプとしては、植物原料を化学的若しくは機械的に、又は両者を併用してパルプ化することで得られる、ケミカルパルプ(クラフトパルプ(KP)、亜硫酸パルプ(SP))、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドパルプ(CGP)、ケミメカニカルパルプ(CMP)、砕木パルプ(GP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)が好ましいものとして挙げられる。
セルロース原料は、本発明の目的を阻害しない範囲内で化学修飾されていてもよく、すなわち、化学変性パルプを用いてもよい。例えば、化学変性パルプは、セルロース繊維表面に存在する一部又は大部分の水酸基が酢酸エステル、硝酸エステルを含むエステルにエステル化されたもの、メチルエーテル、ヒドロキシエチルエーテル、ヒドロキシプロピルエーテル、ヒドロキシブチルエーテル、カルボキシメチルエーテル、又はシアノエチルエーテルを含むエーテルにエーテル化されたもの、一級水酸基を酸化させたTEMPO酸化処理パルプを含み得る。これらの置換基の置換度の上限値は、本発明の目的を阻害しない範囲内であれば特に限定されないが、例えば、2.0mmol以下であってもよく、0.5mmol以下であってもよく、0.1mmol以下であってもよい。ここで、置換度は、アンヒドログルコース単位1molあたりの置換基のモル数を意味する。
セルロース原料は、セルロースI型結晶構造を有し、セルロースI型結晶化度が50%以上であることが好ましい。セルロース原料のセルロースI型結晶化度は、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。セルロースI型結晶化度の上限は、特に限定されないが、例えば、98%以下であってもよく、95%以下であってもよく、90%以下であってもよい。
セルロース原料の形状は、以下に限定されないが、取り扱い易さの観点から、繊維状、シート状、綿状、粉末状、チップ状、フレーク状であることが好ましい。
前処理方法としては、以下に限定されないが、機械処理が挙げられ、機械処理としては、例えば、シュレッダー、ボールミル、振動ミル、石臼、グラインダー、ブレンダー、高速回転ミキサー等を用いる方法が挙げられる。
化学修飾工程は、前処理工程で得られたセルロース繊維をスルファミン酸で処理することによって、繊維形状を保ちつつセルロースの水酸基の一部を硫酸基に置換し、化学修飾セルロースを得る工程である。化学修飾工程は、セルロース繊維とスルファミン酸とを反応させる反応工程と、反応終了後にpHを調整し、反応を停止させるpH調整工程と、余分なスルファミン酸や副生成物等を除去するための洗浄を行う洗浄工程とを備えている。
反応工程は、スルファミン酸を含む薬液に、前処理工程で得られたセルロース繊維を浸漬させることによって硫酸化反応を行う工程である。
スルファミン酸は、強酸性であり且つ高腐食性である無水硫酸や硫酸水溶液と比較して、取り扱いに制限がなく、大気汚染防止法の特定物質にも指定されていないため、環境に対する負荷が小さいという利点を有する。
また、スルファミン酸は、無水硫酸と比較して、水に対する安定性が高いため、乾燥等によってセルロース繊維から水分を除去する操作を行わなくても、セルロース繊維を硫酸化することができる。
本実施形態では、セルロース繊維の繊維形状を保ちつつ、セルロース繊維の構成要素であるセルロース微細繊維の表面をスルファミン酸で硫酸化する。すなわち、セルロース繊維は、セルロース微細繊維(セルロースナノファイバーとも称される)を構成要素として、これが束になったものであり、かかるセルロース微細繊維の束であるセルロース繊維の繊維形状を保ちつつ(即ち、解繊させることなく)、セルロース微細繊維の表面をスルファミン酸で硫酸化することが好ましい。このように、セルロース繊維を解繊させることなく硫酸化することによって、セルロース繊維分散液の粘性上昇が抑制され、製造の効率性及び生産性を向上させることができる。
尚、セルロース繊維の一部が微細繊維化されたとしても、セルロース微細繊維を束ねた状態が実質的に維持されていれば、解繊されておらず、セルロース繊維の繊維形状が保たれているといえる。
スルファミン酸の使用量は、セルロース繊維への硫酸基の導入量を考慮して適宜調整することができる。スルファミン酸の使用量は、例えば、セルロース分子中のアンヒドログルコース単位1molあたり、0.01〜50molであり、0.1〜30molであることが好ましい。
本実施形態では、スルファミン酸は、溶媒に混合させた薬液として用いられる。また、反応を促進させるために、薬液には触媒が混合されてもよい。
溶媒としては、以下に限定されないが、水を用いてもよく、有機溶媒を用いてもよい。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、オクタノール、ドデカノール等の炭素数1〜12の直鎖又は分岐のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の炭素数3〜6のケトン;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;炭素数2〜5の低級アルキルエーテル;ジオキサン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ピリジン等の極性有機溶媒を用いてもよく、直鎖状又は分岐状の炭素数1〜6の飽和炭化水素又は不飽和炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素等の非極性有機溶媒を用いてもよい。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。上記溶媒は、セルロース原料の膨潤を促進させる観点から、例えば、水又は極性有機溶媒を使用することが好ましい。
溶媒の使用量は、以下に限定されないが、例えば、セルロース原料の乾燥質量に対して、10質量%以上であり、10〜10000質量%であることが好ましく、20〜5000質量%であることがより好ましく、50〜2000質量%であることがさらに好ましい。溶媒の使用量が少ないほど、洗浄工程が効率的になる。
触媒としては、尿素、アミド類、第三級アミン類等が挙げられるが、工業的観点から尿素を用いることが好ましい。
触媒の使用量は、特に限定されないが、例えば、セルロース分子中のアンヒドログルコース単位1molあたり0.001〜5molであることが好ましく、0.005〜2.5molであることがより好ましく、0.01〜2.0molであることがさらに好ましい。
触媒は、高濃度のものをそのまま薬液に混合してもよく、又は、事前に溶媒で希釈して薬液に混合してもよい。触媒の添加方法は、以下に限定されないが、一括添加、分割添加、連続的添加、又はこれらの組合せによる方法であってもよい。
硫酸化反応の温度は、通常0〜100℃に設定され、10〜80℃に設定されることが好ましく、20〜70℃に設定されることがより好ましい。反応温度の下限が上記値以上に設定されることによって、反応完結に要する時間を短縮させることができ、反応温度の上限が上記値以下に設定されることによって、セルロース分子内におけるグリコシド結合の切断、すなわち、平均重合度の低下が抑制され得る。また、硫酸化反応の時間は、通常30分〜5時間である。
反応工程では、着色の少ない化学修飾セルロースを得るために、窒素ガス、ネオンガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスや炭酸ガスを導入してもよい。不活性ガスの導入方法としては、不活性ガスをセルロース繊維分散液に吹き込む方法であってもよく、セルロース繊維分散液を導入した反応槽内を反応前に不活性ガスで置換した後、反応槽を密閉する方法であってもよい。
pH調整工程は、反応工程における反応終了後に、塩基性化合物を用いてpHを中性又は塩基性に調整し、反応を停止させる工程である。pHを調整することによって、化学修飾セルロースの保存安定性を向上させ得る。
塩基性化合物としては、以下に限定されないが、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、その他の無機塩、アミン類などが挙げられる。具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウム、塩基性乳酸アルミニウム、塩基性塩化アルミニウム、アンモニア,メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン,ジエタノールアミン,トリエタノールアミンが挙げられる。これらの塩基性化合物は、単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
洗浄工程は、余分なスルファミン酸、溶媒等を除去するために、水及び/又は有機溶媒によって洗浄する工程である。
洗浄用の有機溶媒としては、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ピリジンが好ましい。
洗浄工程は、さらに、洗浄用の水及び/又は有機溶媒を除去するための脱液工程を備えていてもよい。
脱液するための方法は、以下に限定されないが、遠心沈降法、濾過、プレス処理等が挙げられる。
尚、水及び/又は有機溶媒を完全に除去せず、化学修飾セルロースを湿潤状態にしておいてもよい。この場合、化学修飾セルロースの水及び/又は有機溶媒含有量(化学修飾セルロースの乾燥質量に対する水及び/又は有機溶媒の質量の比率、すなわち、固形分濃度)は、該セルロースの乾燥質量に対して、1〜500質量%であることが好ましく、10〜100質量%であることがより好ましく、10〜50質量%であることがさらに好ましい。
このようにして得られた化学修飾セルロースは、硫酸基を含有する微細繊維状セルロースによって構成されている。化学修飾セルロースは、表面側の微細繊維状セルロースだけでなく、内側の微細繊維状セルロースにも硫酸基が導入されていることが好ましい。また、硫酸基は、微細繊維状セルロースの表面に導入されている。
微細化工程は、化学修飾工程で得られた化学修飾セルロースを、機械的に解繊することによる微細化処理を行い、平均繊維幅が3nm〜100nmであり且つ平均繊維長が0.1μm〜500μmである微細繊維状セルロースを得る工程である。
微細化工程では、化学修飾セルロースを有機溶媒に分散させて用いてもよい。有機溶媒に分散させるために、スターラー、ブレンダー、ホモミキサー等の撹拌装置を用いてもよい。
この場合、化学修飾セルロースの濃度は、撹拌可能な状態であれば特に限定されないが、0.01〜5質量%であることが好ましい。
微細化処理を行う装置としては、例えば、リファイナー、二軸混錬機(二軸押出機)、高圧ホモジナイザー、媒体撹拌ミル(例えば、ロッキングミル、ボールミル、ビーズミルなど)、石臼、グラインダー、振動ミル、サンドグラインダー等が挙げられる。
次に、本実施形態のタンパク質吸着剤の使用方法について説明する。
本実施形態のタンパク質吸着剤を用いてタンパク質を吸着させる方法としては、タンパク質を溶解させた溶液にタンパク質吸着剤を浸漬させることによって、タンパク質をタンパク質吸着剤に吸着させることができ、必要に応じて撹拌、震とう等を行ってもよい。あるいは、タンパク質吸着剤をカラム等に充填し、タンパク質を溶解させた溶液を流し、タンパク質を吸着させてもよい。
タンパク質を溶解させる溶媒は、以下に限定されないが、各種緩衝液(リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、Tris、HEPES等)が好適に用いられる。
等電点(pI)が生理的pHよりも塩基性側にある、又は、複数のカルボキシル基を有するアミノ酸よりも複数のアミノ基を有するアミノ酸を多く含む塩基性タンパク質を吸着させる場合、タンパク質吸着剤のゼータ電位を下げて−40mVに近づけることが好ましい。また、生理的pHよりも酸性側にある、又は、複数のアミノ基を有するアミノ酸よりも複数のカルボキシル基を有するアミノ酸を多く含む酸性タンパク質を吸着させる場合、タンパク質吸着剤のゼータ電位を上げて−1mVに近づけることが好ましい。
ここで、本実施形態に係る生理的pHとは、ヒト体液内で通常生ずる比較的狭い範囲、一般的には、7.0〜7.5の範囲にあるpHを言う。
吸着させるタンパク質は、以下に限定されないが、塩基性タンパク質としては、例えば、卵白由来リゾチーム(pI10.5〜11.0)、リゾヌクレアーゼA(pI9.7)、パパイヤリゾチーム(pI10.5)、ヘモグロビン(pI7.6)が挙げられる。
また、酸性タンパク質としては、例えば、ウシ血清アルブミン(pI4.7)、ペプシノーゲン(pI3.9)、インスリン(pI5.5)、膵臓デオキシリボヌクレアーゼ(pI4.7)が挙げられる。
また、本実施形態では、吸着させるタンパク質は、タンパク質に類する吸着剤への挙動を示すペプチドを含み、例えば、天然ペプチド、改質ペプチドなどを含み得る。
さらに、吸着させたタンパク質を脱着させて、取り出すこともできる。このような方法としては、例えば、液中でタンパク質を吸着させたタンパク質吸着剤を加熱することによって、タンパク質吸着剤からタンパク質を脱着させ、タンパク質を取り出す方法が挙げられる。また、界面活性剤を用いてタンパク質吸着剤からタンパク質を剥離する方法等もある。さらに、タンパク質吸着剤の表面に、吸着させたタンパク質との結合を妨げるようなpHの緩衝液、又は多量のアミノ酸等を含む溶液を通すことによって、タンパク質を取り出す方法がある。
このように、本実施形態のタンパク質吸着剤は、例えば、食品、医薬品、診断薬、検査薬、水質浄化材等、種々の用途に用いることができる。
以上の通り、本実施形態に係るタンパク質吸着剤を構成する微細繊維状セルロースは、比較的穏和で酸性度の低い硫酸化試薬であるスルファミン酸によって硫酸基が導入されているため、重合度の低下が抑制されている。
また、セルロースのスルファミン酸に対する溶解性が比較的低いため、スルファミン酸は、セルロースI型結晶構造乃至はセルロースの繊維形状を保ったままセルロースを硫酸化するのに適している。よって、微細繊維状セルロースは、セルロースI型結晶構造及び繊維長が十分に保持されている。このため、タンパク質吸着剤としての使用に十分適したものとなり得る。
また、セルロースが微細繊維状であるため、例えば、球状のセルロースやシリカ微粒子からなる吸着剤と比較して、吸着させたタンパク質の構造を保持させることに優れている。この要因としては、繊維状のセルロースは、球状や微粒子のものと比較して、タンパク質を吸着するとき、タンパク質のセルロースに接触する部分が小さくなるため、吸着させたタンパク質の構造が変化しにくくなると考えられている。
さらに、セルロースが微細繊維状であることによって、比表面積が大きくなっているため、タンパク質を効率的に吸着させることができる。
尚、本発明に係るタンパク質吸着剤及びその製造方法は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。また、本発明に係るタンパク質吸着剤及びその製造方法は、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明に係るタンパク質吸着剤及びその製造方法は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
<使用試薬>
・カルボキシル基を有する微細繊維状セルロースの水分散体:
セルロースI型結晶構造を有する、TEMPO酸化セルロースナノファイバー(TOCN)の2.0質量%水分散体(第一工業製薬株式会社製「レオクリスタI−2SX」)
平均繊維径=4nm、数平均アスペクト比=280、カルボキシル基含有量=1.9mmol/g
・シリカ微粒子:(Nyacol Nano Technologies,Inc.製のNexSil 5)、15質量%のコロイダルシリカ、表面電荷=負
・フルオレセインイソチオイソシアネート(FITC):株式会社同仁化学研究所製Fluorescein−4−isothiocyanate(FITC−I)
・リゾチーム(Lyz、卵白由来):分子量=14,300Da、和光純薬工業株式会社製リゾチーム、卵白由来(Lysozyme,from Egg White)、等電点=11
・ウシ血清アルブミン(BSA):SIGMA−ALDRICH製アルブミン、ウシ血清由来(Albumin from bovine serum)、等電点=4.7
・リン酸:ナカライテスク株式会社製
・ホウ酸:和光純薬工業株式会社製
・酢酸:和光純薬工業株式会社製
・水酸化ナトリウム:和光純薬工業株式会社製
・リン酸水素二ナトリウム:和光純薬工業株式会社製
・リン酸二水素カリウム:和光純薬工業株式会社製
尚、上記試薬は、特に精製せずに使用した。
<使用機器>
・微量高速冷却遠心機MX−307(株式会社トミー精工)
<製造例1>
[化学修飾工程]
セパラブルフラスコにスルファミン酸3.0g、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)50gを投入し、10分間攪拌した。その後、室温下、セルロース原料として綿状の針葉樹クラフトパルプ(NBKP、セルロースI型結晶化度:85%、平均重合度:1000)1.0gを投入した。ここで、スルファミン酸の使用量は、セルロース分子中のアンヒドログルコース単位1molあたり5.2molとした。50℃で3時間反応させた後、室温まで冷却した。次に硫酸化処理されたセルロース繊維を取り出し、中和剤として2N水酸化ナトリウム水溶液に投入してpHを7.6に調整し、反応を停止させた。硫酸化処理されたセルロース繊維を水で2〜3回洗浄した後、遠心分離することによって化学修飾セルロースを得た(固形量:1.24g、固形分濃度:6.4質量%)。
[微細化工程]
上記で得られた化学修飾セルロースを固形分濃度5.0質量%になるように水で希釈し、化学修飾セルロース水分散体を調製した。得られた化学修飾セルロース水分散体を、ジルコニア製ビーズ(直径20mm:30個、直径10mm:100個)を充填したジルコニア製容器(容量:1L、直径:10cm)に入れ、室温下60rpmにて回転(自転)させて、2時間ボールミル処理を行った。その後、固形分濃度0.5質量%になるように水で希釈し、マイクロフルイダイザーによる処理(150MPa、1パス)を行うことによって、微細繊維状セルロースを得た(乾燥質量:1.12g、固形分濃度:0.5質量%)。
[各物性の測定]
上記で得られた微細繊維状セルロースについて、下記項目の分析及び測定を行った。
(1)セルロースI型結晶化度
微細繊維状セルロースのX線回折強度を、RINT2200(株式会社リガク製)を用いて、以下の条件にて測定した。
X線源:Cu/Kα−radiation
管電圧:40Kv
管電流:30mA
測定範囲:回折角2θ=5〜35°
X線のスキャンスピード:10°/min
上記式を用いて、セルロースI型結晶化度を算出した。微細繊維状セルロースのセルロースI型結晶化度は86%であった。
(2)硫酸基の同定
フーリエ赤外分光光度計(FT−IR、ATR法)を用い、微細繊維状セルロースの分析を行った。800、1222cm−1に硫酸基特有のピークを確認した。
(3)硫酸基の導入量の測定
硫酸基の導入量を上記方法により算出した。微細繊維状セルロースの硫酸基の導入量は、1.3mmol/gであった。
(4)平均重合度の測定
セルロース原料及び得られた微細繊維状セルロースの平均重合度を上記方法により求めた。セルロース原料の平均重合度は1000であり、微細繊維状セルロースの平均重合度は950であった。このように、スルファミン酸によってセルロースに硫酸基を導入する方法によれば、それぞれの平均重合度の変化量が50のみであり、硫酸化処理による平均重合度の低下がわずかであることが示された。
(5)平均繊維幅及び平均繊維長の測定
平均繊維幅及び平均繊維長を上記方法により測定した。微細繊維状セルロースの平均繊維幅は5nmであり、平均繊維長は1μmであった。
<実験例1>
上記の微細繊維状セルロース(実施例)及びTOCN(比較例)についてタンパク質の吸着評価を行った。
(1)各種濃度の微細繊維状セルロース水分散体の調製
容器に、0.5質量%微細繊維状セルロース水分散体5gと水23mLとを加えて密栓し、卓上型超音波洗浄機(W−113、本多電子株式会社製)を用いて28Hzの超音波処理を2時間行うことによって混合し、0.09質量%の微細繊維状セルロース水分散体を調製した。以下、同様の方法にて、0.045、0.018、0.0072、0.0036、0.0018質量%の微細繊維状セルロース水分散体を調製した。
(2)各種濃度のTOCN水分散体の調製
容器に、2質量%TOCN水分散体5gと水106mLとを加えて密栓し、卓上型超音波洗浄機(W−113、本多電子株式会社製)を用いて28Hzの超音波処理を2時間行うことによって混合し、0.09質量%のTOCN水分散体を調製した。以下、同様の方法にて、0.045、0.018、0.0072、0.0036、0.0018質量%のTOCN水分散体を調製した。
(3)FITCで標識されたタンパク質(FITC標識タンパク質)の調製
・リゾチーム(Lyz、卵白由来)の標識
[100mMホウ酸緩衝液(pH9.2)の調製]
100mMHBO水溶液を100mL、100mMNa・10HO水溶液を300mL調製し、pH計を用いて、pHが9.2になるまで、HBO水溶液にNa・10HO水溶液を添加することによって、100mMホウ酸緩衝液(pH9.2)を調製した。得られたホウ酸緩衝液を4℃で保存した。
[FITC−リゾチーム(Lyz、卵白由来)溶液の調製]
得られたホウ酸緩衝液50mLに、リゾチーム(Lyz、卵白由来)を100mg、FITCを1mg加え、50mLのスクリュー管瓶内で、0℃で12時間撹拌することによって、FITC−リゾチーム溶液を調製した。
[透析]
FITC−リゾチーム溶液をディスポーザブル透析カセットに入れ、1Lのイオン交換水中にて0℃で冷却しながら撹拌した。イオン交換水は2時間おきに3回交換し、一晩透析した。
[凍結乾燥]
得られたFITC−リゾチーム溶液をディスポーザブル透析カセットから回収し、2つに分けてそれぞれ50mLのナスフラスコに入れ、−78℃で5時間冷凍した後、遮光して凍結乾燥を行った。その後、得られた粉末状のFITC−リゾチームを回収することによって、FITC標識タンパク質を得た。
・ウシ血清アルブミン(BSA)の標識
[ウシ血清アルブミン(BSA)溶液の調製]
500mM炭酸緩衝液40mLに、ウシ血清アルブミン800mgを加え、溶解させることによって、20mg/mLのウシ血清アルブミン溶液を調製した。得られた溶液を4℃で保存した。
[FITC−ウシ血清アルブミン溶液の調製]
500mM炭酸緩衝液12mLに、FITCを24mg加え、溶解させることによって、2mg/mLのFITC−ウシ血清アルブミン溶液を調製した。得られた溶液を4℃で保存した。
[透析]
FITC−ウシ血清アルブミン溶液をディスポーザブル透析カセットに入れ、1Lのリン酸緩衝液中にて0℃で冷却しながら撹拌した。リン酸緩衝液は2時間おきに3回交換し、一晩透析した。その後、さらにイオン交換水を用いて透析を行った。具体的には、1Lのイオン交換水中にて0℃で冷却しながら撹拌した。イオン交換水は2時間おきに3回交換し、1日透析した。
[凍結乾燥]
FITC−ウシ血清アルブミン溶液をディスポーザブル透析カセットから回収し、2つに分けてそれぞれ50mLのナスフラスコに入れ、12時間冷凍保存した。翌日、遮光した状態で12時間凍結乾燥を行い、粉末状のFITC−ウシ血清アルブミンを回収することによって、FITC標識タンパク質を得た。
(4)40mMのBritton−Robinson緩衝液の調製
40mMリン酸水溶液、40mMホウ酸水溶液、40mM酢酸水溶液、200mM水酸化ナトリウム水溶液を下記に示すように調製し、これらを混合することによって、40mMのBritton−Robinson緩衝液を調製した。
リン酸0.14mLを計量し、50mLメスフラスコを用いてイオン交換水によりメスアップすることによって、40mMリン酸水溶液を調製した。
ホウ酸0.123gを計量し、50mLメスフラスコを用いてイオン交換水によりメスアップすることによって、40mMホウ酸水溶液を調製した。
酢酸0.12mLを計量し、50mLメスフラスコを用いてイオン交換水によりメスアップすることによって、40mM酢酸水溶液を調製した。
水酸化ナトリウム0.4gを計量し、50mLメスフラスコを用いて超純粋によりメスアップすることによって、200mM水酸化ナトリウム水溶液を調製した。
40mMリン酸水溶液を50mLと、40mMホウ酸水溶液を50mLと、40mM酢酸水溶液を50mLとを混合して混合液を得た後、得られた混合液に、200mM水酸化ナトリウム水溶液を少量ずつ滴下し、pHを3、4、5、7.4、11に調整することによって、各pHに調整されたBritton−Robinson緩衝液を得た。
(5)50mMリン酸緩衝液(pH7.4)の調製
50mMリン酸二水素ナトリウム・二水和物水溶液を200mL、50mMリン酸水素二ナトリウム水溶液を600mL調製し、pH計を用いて、pHが7.4になるまで、リン酸二水素ナトリウム・二水和物水溶液に、リン酸水素二ナトリウム水溶液を添加することによって、50mMリン酸緩衝液(pH7.4)を調製した。得られた緩衝液を4℃で保存した。
(6)タンパク質の吸着評価
[タンパク質の吸着]
各濃度の微細繊維状セルロース分散体300μLと、各FITC標識タンパク質を溶解した0.1mg/mLのBritton−Robinson緩衝液1mLとを、1.5mLのマイクロチューブに入れ、混合した後、室温で12時間静置することによって、溶液中で微細繊維状セルロースにFITC標識タンパク質を吸着させた。
[タンパク質の吸着率の測定]
得られた溶液の蛍光値を蛍光光度計(Bio−Rad製)で測定した。測定後、9000gにて20分間遠心分離を行い、上澄み液を別のマイクロチューブに移した。上澄み液を、さらに、9000gにて60分間遠心分離を行い、上澄み液の蛍光値を上記蛍光光度計で測定した。そして、下記計算式により、遠心前後の蛍光値から、微細繊維状セルロースに吸着したFITC標識タンパク質の吸着率を算出した。
吸着率(%)=(Ca−Cb)/Ca×100
Ca:遠心分離前の上澄み液の蛍光値
Cb:遠心分離後の上澄み液の蛍光値
表1に示すように、リゾチームは、緩衝液のpHが5以下であるとき、75%以上の吸着率を示した。また、緩衝液のpHが4以下であり、微細繊維状セルロースの濃度が0.0036質量%以上であるとき、65%以上の吸着率を示した。
さらに、等電点が酸性側であるBSAであっても、緩衝液のpHが4以下であり、微細繊維状セルロースの濃度が0.0036質量%以上である場合、80%以上の吸着率を示した。
この結果から、セルロース分子中のグルコースユニットに硫酸基が導入された微細繊維状セルロースは、アニオン性であり負の電荷を有するため、タンパク質のアミノ基との静電的相互作用によって物理的な結合を形成し、タンパク質を吸着することが示された。
<実験例2>
微細繊維状セルロース(実施例)、シリカ微粒子(比較例1)及びTOCN(比較例2)に吸着させたタンパク質の構造安定性(α−ヘリックス構造の比率)評価を行った。
(1)CDスペクトル測定用試料の調製
1.5mLマイクロチューブに、実験例1にて調製した0.09質量%微細繊維状セルロース水分散体を300μL加え、続いて、0.1mg/mLタンパク質溶液を1mL加え、室温で振とうした後、室温で一晩静置したものを、微細繊維状セルロースに吸着させた後のタンパク質のCDスペクトル測定用試料とした。また、実験例1にて調製した0.045、0.018、0.0072質量%の微細繊維状セルロース水分散体についても、上記と同様にしてタンパク質を吸着させたものを、吸着させた後のタンパク質のCDスペクトル測定用試料とした。
上記タンパク質溶液には、溶質であるタンパク質として、リゾチーム(卵白由来)、ウシ血清アルブミン(BSA)を用い、溶媒として、pH4又はpH5の40mMのBritton−Robinson緩衝液を用いた。
次に、0.09質量%微細繊維状セルロース水分散体に代えて、0.09質量%TOCN水分散体、及び0.18質量%となるようにシリカ微粒子を水に分散させた水分散体(0.18質量%シリカ微粒子水分散体)を用いること以外は、0.09質量%微細繊維状セルロース水分散体を用いた場合と同様にして、TOCNにタンパク質を吸着させ、吸着させた後のタンパク質のCDスペクトル測定用試料を調製した。
また、0.09質量%微細繊維状セルロース水分散体に代えて、0.18質量%となるようにシリカ微粒子を水に分散させたシリカ微粒子水分散体(0.18質量%シリカ微粒子水分散体)を用いること以外は、0.09質量%微細繊維状セルロース水分散体を用いた場合と同様にして、シリカ微粒子にタンパク質を吸着させ、吸着させた後のタンパク質のCDスペクトル測定用試料を調製した。
また、吸着剤に吸着させる前のタンパク質の構造を評価するために、タンパク質溶液そのものをCDスペクトル測定用試料とした。
(2)CDスペクトルの測定
吸着剤に吸着させる前のタンパク質のα−ヘリックス(2次構造)の比率、並びに、微細繊維状セルロース、TOCN及びシリカ微粒子のそれぞれに吸着させたタンパク質のα−ヘリックスの比率を測定した。
具体的には、円二色性分散計J−765(日本分光株式会社製)を用い、各CDスペクトル測定用試料について、α−ヘリックス構造が負の極大ピークを示す波長222nmにおける楕円率を測定し、α−ヘリックス構造の比率(含有率)を、下記計算式(i)及び(ii)によって算出した。結果を表2に示した。
・計算式(i)
[θ]222=(θobs/l/C/n×100]
θobs:楕円率の測定値(deg)、
l:光路長(cm)、
C:タンパク質のモル濃度(mol/dm)、
n:タンパク質のアミノ酸残基数、
[θ]222:222nmにおける平均残基モル楕円率(deg・cm/dmol)
・計算式(ii)
[%]=−{([θ]222+2340)/30300}×100
:α−ヘリックス構造の含有率
表2に示すように、微細繊維状セルロースに吸着させたタンパク質のα−ヘリックス構造の比率は、シリカ微粒子やTOCNに吸着させたタンパク質と比較して、タンパク質の二次構造の変化が少ないことが示された。よって、微細繊維状セルロースからなるタンパク質吸着材は、吸着させたタンパク質の構造を保持させることに優れていることがわかった。
これによって、タンパク質を微細繊維状セルロースに吸着させた後においても、タンパク質の構造が安定に保持され得るため、吸着後においてもタンパク質の活性や特性が損なわれることなく保持され得ることが示された。
<実験例3>
微細繊維状セルロースのゼータ電位を上記の方法により測定した。
微細繊維状セルロースは、図1に示すようなゼータ電位を示した。
これによって、微細繊維状セルロースからなるタンパク質吸着剤は、等電点の異なる種々のタンパク質を吸着させ得ることが示された。

Claims (5)

  1. 微細繊維状セルロースからなるタンパク質吸着剤であって、
    前記微細繊維状セルロースは、セルロースI型結晶構造を有し、セルロースの水酸基の一部が下記構造式(1)で表される置換基によって置換された化学修飾微細繊維状セルロースであり、該置換基の導入量が微細繊維状セルロース1gあたり0.1〜3.0mmolであり、平均重合度が350以上である、タンパク質吸着剤。
  2. 前記微細繊維状セルロースの平均繊維幅が3nm〜100nmであり、平均繊維長が0.1μm〜500μmである、請求項1に記載のタンパク質吸着剤。
  3. 前記微細繊維状セルロースのpH3〜11におけるゼータ電位が、−40mV〜−1mVである、請求項1又は2に記載のタンパク質吸着剤。
  4. 請求項1乃至3のいずれか1項に記載のタンパク質吸着剤を製造する方法であって、
    セルロース繊維をスルファミン酸で処理することによって、セルロースの水酸基の一部を硫酸基に置換し、化学修飾セルロースを得る化学修飾工程を備えている、タンパク質吸着剤の製造方法。
  5. 前記化学修飾工程で得られた化学修飾セルロースを機械的に解繊し、平均繊維幅が3nm〜100nmであり且つ平均繊維長が0.1μm〜500μmである微細繊維状セルロースを得る微細化工程をさらに備えている、請求項4に記載のタンパク質吸着剤の製造方法。
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