JP2019006893A - セルロースザンテート微細繊維のカチオン凝集物、及びその分散液 - Google Patents

セルロースザンテート微細繊維のカチオン凝集物、及びその分散液 Download PDF

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美歩 辻村
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Abstract

【課題】ナノファイバーに相当する、又はそれに近い微細繊維を取り扱うにあたり、より保管及び輸送を行いやすくする。【解決手段】セルロースザンテート微細繊維のスラリーに多価カチオンを加えて凝集体として濃縮する。【選択図】なし

Description

この発明は、セルロース材料から製造する微細繊維の凝集及び濃縮、保存、再分散に関する。
植物由来のセルロース材料を構成する繊維を繊維径1μm未満程度にまで細分化させたナノセルロースと呼ばれる新たな材料が注目されている。このナノセルロースと呼ばれる材料の中で、さらに大きさやアスペクト比によって異なる材料が提案されている。そのうち、セルロースナノファイバー、セルロースナノフィブリル、フィブリレーティドセルロースなどと呼ばれる、主として繊維径3〜100nm程度の材料は、比表面積が大きく、補強用繊維として優れた性質を持つため、製造、研究が進められている。この材料には様々な名称が提案されているが、本出願ではこの材料をセルロースナノファイバーと呼ぶ。また、セルロースの化学変性物でセルロースナノファイバーに類似するサイズ及びアスペクト比を有するものをまとめてナノファイバーと呼ぶ。
このセルロースナノファイバーを製造するには、セルロースを細かく解繊する必要があり、セルロース自体をそのまま解繊しようとしても強固な材料であるため、多量なエネルギーを必要とする。
一方、解繊処理前に原料を酸で処理する、またはカルボキシル基又はカルボキシメチル基、又はリン酸基を導入して解繊させやすくする手法が報告されている。
セルロースナノファイバー(CNF)は、乾燥させると諸特性が変化するため、水に分散している状態(湿潤状態)で製造され、そのまま使用されている。
ただし、この湿潤状態CNFの分散性を安定させるためには、CNFに対して数倍〜数百倍の重量の水が必要であり、保存及び輸送コストの増大等、種々の問題点があった。この問題を解決する手段として、凍結乾燥法や臨界点乾燥法、また、有機溶剤で置換処理した後に乾燥する方法(特許文献1)や、水溶性高分子を添加後に乾燥する方法(特許文献2)などが提案されている。
特開平6−233691号公報 WO2015107995 A1
しかしながら、CNFを凍結乾燥した場合、膨大なエネルギーが必要となる。また、CNFの微細繊維の間の空隙は非常に小さい上に、微細なセルロース繊維の表面には多量の水が水和しているため、溶剤置換によって乾燥させるには、多量の溶剤と時間が必要となる。さらに、溶剤に置換することができない水分が内在してしまうために、溶剤の乾燥過程でCNFの微細なセルロース繊維の表面同士が水素結合によって強固に結合してしまう。このため、再分散の際に、元のCNFの状態へと復元させることが困難となる。また、水溶性高分子を添加して乾燥する場合は、再分散時にCNFスラリー中に水溶性高分子が混入してしまい、CNFスラリーと水溶性高分子を分離することが困難である。
そこでこの発明は、ナノファイバーに相当する、又はそれに近い微細繊維を取り扱うにあたり、より保管及び輸送を行いやすくすることを目的とする。
この発明は、セルロースザンテート微細繊維のスラリーに多価カチオンを加えて凝集体として濃縮することで、上記の課題を解決したのである。セルロースザンテートとは、セルロースの2、3、6位の水酸基のいずれかにザンテート基(−OCSS)が導入された化合物である。なお、MはNaをはじめとする一価のイオンである。
セルロースザンテート微細繊維は導入されたザンテート基によりイオン解離している。これにアルカリ土類金属イオンや亜鉛イオン、遷移金属イオンなどの多価カチオンを添加してイオン交換することで、ザンテート基と多価金属イオンの相互作用により錯体を形成し凝集させることができる。この凝集物にアルカリ金属イオンやアンモニウムイオンを添加して再度イオン交換を行い、再分散させることで、凝集前の分散液と比較して濃度を向上させたうえで、諸特性が変化しない分散液(濃縮物)を得ることが可能である。このとき、凝集物にアルカリ金属イオンを用いてイオン交換を行い、再分散させることで、セルロースザンテート微細繊維の濃度が向上しても分散液の粘度上昇を抑えることが可能である。
この発明により、高濃度、低粘度のセルロースザンテート微細繊維スラリーを調製することが可能となり、輸送コストの削減や保存スペースの削減が可能となる。さらに低粘度であるために、スラリーの加工や取扱いが容易になる。
(a)実施例におけるセルロースザンテートナノファイバーの10万倍TEM写真、(b)(a)の40万倍TEM写真 実施例における未解繊物の着色した顕微鏡写真 実施例における再分散液の顕微鏡写真 実施例における再分散後のスラリー粘度の変遷を示すグラフ (a)実施例13における凝集後再分散させたスラリーのSEM写真、(b)実施例1で用いる凝集前スラリーのSEM写真
以下、この発明について詳細に説明する。この発明は、セルロースザンテート微細繊維を凝集させ、濃縮する方法であり、また、それを安定化させる方法、さらに、それを再分散させる方法である。また、それにより得られる凝集物、濃縮物、及び再分散させた分散液である。
ここで濃縮物は、セルロースザンテート微細繊維の分散液(スラリー)に多価カチオンを添加して凝集させた後に、遠心分離、ろ過等により固液分離して得られるものである。この濃縮物における固形分濃度は1重量%以上である。
この発明において材料として用いるセルロースザンテート微細繊維とは、セルロース材料をアルカリ処理して得られるアルカリセルロースに、二硫化炭素を反応させてセルロースザンテートを調製し、これを解繊することにより得られる微細な繊維である。この発明にかかる方法が適用可能な範囲が厳密に限定されるわけではないが、繊維径が1μm未満のナノファイバーと言われる状態の繊維が固形分中の80質量%以上を占めていると好ましく、固形分中の90質量%以上を占めているとより好ましい。
上記のセルロース材料とは、結晶状態であるセルロースI型のα−セルロースを含む材料をいう。α−セルロースであっても結晶状態を失って完全にセルロースII型になった材料は好適には使用できない。具体的な材料としては、例えば、木材を加工したクラフトパルプやサルファイトパルプ、木粉、稲わらなどのバイオマス由来の材料、古紙、ろ紙、紙粉などの紙由来の材料、粉末セルロースや、マイクロメートルサイズの微結晶セルロースなどの結晶性を保持したセルロース加工物などが挙げられる。ただし、これらの例に限定されるものではない。また、これらのセルロース材料は、純粋なα−セルロースである必要はなく、β−セルロースやヘミセルロース、リグニンなどのその他の有機物や無機物などを、除去可能な範囲で含んでいても良い。なお、以下の説明において単に「セルロース」と呼ぶ場合には「α−セルロース」を指す。これらのセルロース材料の中でも、元のセルロース繊維の長さが維持されやすいため木材パルプを用いるのが好ましい。
上記セルロース材料を水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの水酸化アルカリ金属水溶液で処理するアルカリ処理を行ってアルカリセルロースを得ることができる。中でも、水酸化ナトリウムが好適に用いられる。この水酸化アルカリ金属水溶液の濃度は4質量%以上であることが必要であり、5質量%以上であると好ましい。4質量%未満であると、セルロースのマーセル化が十分に進行せず、その後のザンテート化の際に生じる副生成物の量が無視できなくなり、収率も下がってしまう。また、後述する解繊処理を容易にする効果が不十分なものとなってしまう。一方で、上記の水酸化アルカリ金属水溶液の濃度は、9質量%以下であると好ましい。9質量%を超えると、マーセル化の進行に留まらず、セルロースの結晶領域にまで水酸化アルカリ金属溶液が浸透してしまってセルロースI型の結晶構造が維持できなくなり、最終的にナノファイバーに分類される微細繊維が得られにくくなってしまう。
上記アルカリ処理の時間は、30分間以上であると好ましく、1時間以上であるとより好ましい。30分間未満ではマーセル化が十分に進行せずに、最終的な収率が低下しすぎるおそれがある。一方で6時間以下であると好ましく、5時間以下であるとより好ましい。6時間を超えてマーセル化を行った場合においては、時間の延長によるアルカリセルロースの生成量が増加することはなく、生産性が低下するおそれがある。
上記アルカリ処理の温度は、常温前後か、常温からの発熱により加熱される程度の温度であるとよい。ただし、処理温度が冷蔵条件下のような極端な低温であると、アルカリ溶液のセルロースへの浸透性が増加しやすくなり、上記範囲のアルカリ濃度であってもセルロースの結晶領域にまで水酸化アルカリ金属溶液が浸透してしまってセルロースI型の結晶構造が維持しにくくなるおそれがある。このため、上記アルカリ処理を行う温度が凍結温度以上10℃未満の場合は、水酸化アルカリ金属溶液濃度が4質量%以上7質量%以下の範囲であると特に好ましくなる。10℃以上では特にこのような傾向は見られず、上記の通り4質量%以上9質量%以下の水酸化アルカリ金属水溶液が好ましい濃度となる。一方、加熱しすぎるとセルロースの重合度が低下するおそれがある。
上記アルカリ処理で得られたアルカリセルロースは、その後に固液分離して水溶液分をできるだけ除去しておくと好ましい。次のザンテート化処理にあたって、水分が少ない方が反応を進行させ易くなるからである。固液分離の方法としては、例えば遠心分離や濾別などの一般的な脱水方法を用いることができる。固液分離後のアルカリセルロースに含まれる水酸化アルカリ金属の濃度が3質量%以上8質量%程度となるとよい。薄すぎても濃すぎても作業効率が悪くなる。
上記アルカリ処理の次に、上記のアルカリセルロースに二硫化炭素(CS)を反応させて、(−ONa)基を(−OCSSNa)基にしてセルロースザンテートを得るザンテート化処理を行う。なお、アルカリ金属を代表してNaで記述するが、Na以外のアルカリ金属を用いる場合も同様の処理を行う。
このザンテート化処理におけるグルコース単位当たりの平均ザンテート置換度は、0.1以上であると好ましい。すなわち、元のセルロースのグルコース単位100個のうち、平均すると少なくとも10個以上が、(−OCSSNa)基を有するように置換されていることが好ましい。ザンテート化が十分でなく含有する(−OCSSNa)基が少なすぎると、この後に行う解繊処理における促進効果が十分に得られないからである。一方、平均ザンテート置換度は0.33、すなわち元のセルロースのグルコース単位100個のうち、平均すると少なくとも33個に(−OCSSNa)基が導入されていると、収率及び効率の点から好ましい。ザンテート置換度が0.4を超えると、ザンテート基により個々のセルロースザンテート高分子の親水性が大きくなりすぎて解繊処理の際にセルロースザンテート高分子が溶解する方向へ進むと考えられるので、ザンテート置換度は0.4以下であるとよい。すなわちザンテート置換度が0.1以上であると好ましく、0.4以下であると好ましく、0.33以下であるとより好ましいということになる。
上記の平均ザンテート置換度を上げるには、十分な量の二硫化炭素を供給することが望ましい。具体的には、アルカリセルロース中に含有するセルロースの質量に対して、10質量%以上に対応する二硫化炭素を供給しておくことが望ましい。少なすぎるとザンテート置換度が下がりすぎて、解繊処理後のセルロースザンテート微細繊維の分散性が十分に得られなくなってしまう。一方、平均ザンテート置換度が0.4以下となる量の二硫化炭素を添加するのが好ましいが、過剰量の二硫化炭素を供給しても、アルカリセルロースと反応できずに無駄となってしまい、二硫化炭素の供給に余分なコストがかかりすぎてしまう。
また、上記の平均ザンテート置換度を上げるには、二硫化炭素とアルカリセルロースとが接触する時間を30分間以上とすると好ましく、1時間以上だとより好ましい。二硫化炭素の接触によるザンテート化は速やかに進行するが、アルカリセルロースの内部にまで二硫化炭素が浸透するには時間がかかるためである。一方で、6時間もあれば脱水後のアルカリセルロースの塊に対しても十分に浸透が進んで、反応可能なザンテート化がほぼ完了するため、6時間以下であるとよい。
このザンテート化処理にあたっては、脱水したアルカリセルロースに二硫化炭素を供給し、温度46℃以下にて気体の二硫化炭素とアルカリセルロースとを反応させるのが好ましい。46℃を超えるとアルカリセルロースの分解による重合度の低下が起きるおそれがあり、また、均一に反応しにくくなることで、副生成物の量が増加したり、生成したザンテート基の脱離が起きるなどの問題が生じるおそれがある。
このザンテート化処理によって、結晶性を残したセルロース繊維(セルロースザンテート分子)の極性が大きくなり、親水性が増大するとともに、ザンテート基の静電的な反発によって分散性が向上すると考えられる。このため、上記のセルロースザンテートは、従来の方法よりも軽微な負荷での機械的な解繊処理で、元のセルロース材料が含んでいた結晶性であるセルロースI型の結晶構造を保持しながら、セルロースザンテート微細繊維とすることができる。
上記のザンテート化処理したセルロースザンテートは、そのままでもザンテート基による反発作用によって解繊処理がしやすくなっている。ここで、ザンテート化処理を行った後で、一旦洗浄して不純物、アルカリ、二硫化炭素等を除去しておくと、解繊処理に必要な負荷や回数を軽減させることができる。洗浄にあたって用いる液体は水を用いると、アルカリによるpHを低減させつつ、セルロースザンテートの繊維そのものを傷めるおそれがほとんどないので好ましい。洗浄にあたっては、流水による洗浄でも、加水と脱水の繰り返しによる洗浄でもよいが、繊維長への影響が少ないものである必要がある。洗浄の程度としては、水酸化アルカリ金属として水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムなどを用いる場合、洗浄後に解繊に用いるスラリーのpHが10.5以下であると好ましく、9.5以下であるとより好ましい。また、水酸化ナトリウムを用いる場合、前記スラリーにおける水酸化ナトリウムの濃度が40ppm以下であると好ましく、8ppm以下であるとより好ましい。
ただし、後述するように、アンモニアや、脂肪族または芳香族アミン等の水溶液を使用して洗浄し、溶液置換したものについては、pHが10.5を超えた場合でも、解繊することができる。アンモニアやアミンにより洗浄すると、ザンテート基に対応するカチオンであるNaやKなどのアルカリ金属イオンをアンモニウムイオンに置換することができる。アルカリ金属イオンを十分に除去すると、ある程度pHが高くても解繊が容易に進行する。
セルロースザンテートを解繊処理するにあたっては、水中へ分散させた上で行うことが好ましい。なお、水中には他の成分、例えば無機物、界面活性剤、水溶性高分子、高分子ラテックス、樹脂モノマー等を共存させても良い。解繊処理の手法としては、繊維長の著しい低下を起こすものでないかぎり、一般的な手法を用いることができる。例えば、水中に分散させて回転式ホモジナイザーやビーズミル、超音波分散機や高圧ホモジナイザー、ディスクリファイナーなどにより解繊させる方法が挙げられる。ただし、いずれの方法でも必要とするエネルギーは、従来の手法で必要とするエネルギーに比べて著しく小さくなる。このため、圧力や回転数などの負荷を従来の手法よりも低減したり、処理に掛ける時間を従来の手法よりも短縮したりすることができる。また、繊維長をできるだけ維持するためにも、低負荷で行うことが望ましい。
また解繊処理の前に、一旦セルロースザンテートのザンテート基が有するNaなどのアルカリ金属イオンを、他の陽イオンに一部または全てイオン交換してもよい。陽イオンとしては、水素イオン、カリウム、リチウムなどの他のアルカリ金属イオン、銀等の1価金属イオン、アンモニウムイオン、脂肪族または芳香族アンモニウムなどが挙げられ、1種または2種以上組み合わせても良い。
さらに別の解繊処理の手法として、一旦セルロースザンテートのザンテート基が有するアルカリ金属イオンを4級アンモニウムカチオンに置換する塩交換を行い、アンモニウム塩としてから、水中で解繊処理を行ってもよい。4級アンモニウムカチオンによってイオン解離がしやすくなっており、解繊が進行しやすくなる効果を発揮させるとともに、解繊後に水系での処理を行いたい場合に有効となる。
いずれの手順であっても、得られたセルロースザンテート微細繊維にマグネシウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属、亜鉛、その他遷移金属などの2価以上の多価カチオンを添加すると、水中に分散していたセルロースザンテート微細繊維のザンテート基と金属イオンが錯体を形成し凝集物となる。多価カチオンとしては、ジアンモニウム化合物などの1価以上のカチオン性基を多数有する有機化合物を用いても凝集が可能であるが、処理上は多価金属イオンを用いると扱いやすい。多価金属イオンを添加する具体的な手法としては、これらの金属イオンの水溶液中での解離性が高いこれら多価金属の化合物を添加する。これはセルロースザンテート微細繊維の分散液に対して凝集剤として作用する。この発明では、セルロースザンテート微細繊維に対して凝集作用を起こす多価金属化合物を含む凝集剤を無機系凝集剤とよぶ。
上記のセルロースザンテート微細繊維に多価カチオンを添加する際にセルロースザンテート微細繊維のスラリー濃度は特に限定されない。少なくとも2質量%程度まで高くても十分に可能である。ただし、濃度が高すぎると粘度が高いため、十分に撹拌もしくはせん断混合することが必要となる。特に濃度が高い場合には、添加後にホモジナイザーなどを用いて機械的に十分な力を掛けて撹拌混合することが望ましい。なお、撹拌が進み凝集の効果が現れていくと、凝集物の形成によりスラリー粘度は低下していくため、撹拌時間を長くしていくことで凝集物が形成可能なスラリー濃度の範囲は広がっていくと考えられる。
上記の多価金属イオンとして亜鉛イオンを解離する亜鉛化合物を添加した場合、凝集物として回収される上記セルロースザンテート微細繊維の割合は、亜鉛イオンの添加量に応じて増加する。上記セルロースザンテート微細繊維に含まれるザンテート基に対して、亜鉛イオンを等倍モル量以上50倍モル量以下添加すればよく、5倍添加するとほぼ100%回収出来る。等倍モル量以下であると錯体を十分に形成できず、凝集物として得られるセルロースザンテート微細繊維の量が少なくなる。また、50倍モル量以上であると、凝集物として回収されるセルロースザンテート微細繊維はほぼ100%で変わらず、また過剰な亜鉛が残留していることにより再分散時に残留する亜鉛塩が析出するおそれがある。
添加する亜鉛塩は固体でも水溶液でも構わないが、水溶液として添加すると好ましい。このような亜鉛塩としては例えば硫酸亜鉛を好適に用いることができる。硫酸亜鉛水溶液を用いる場合、濃度が薄すぎると大量の溶液を添加することになり、凝集物の分離操作が煩雑となるため、1.0質量%以上程度であると好ましい。一方、飽和溶液(約28質量%)でも好適に凝集を進めることができる。セルロースザンテート微細繊維のザンテート基に対して等倍モル量以上添加されていれば、硫酸亜鉛の濃度による影響はほぼないと思われる。
添加後のスラリーと溶液との混合液における硫酸亜鉛濃度は、特に限定されず、添加後の全体の硫酸亜鉛濃度が約0.03%〜1.5%の範囲では特に凝集に問題は生じない。
また、他の2価の金属イオンである、カルシウムイオンやマグネシウムイオンはセルロースザンテート微細繊維を凝集させるためには、亜鉛に比べ多量に添加する必要がある。カルシウムやマグネシウムの場合はセルロースザンテート微細繊維に含まれるザンテート基の50倍モル量添加すると、凝集物として回収されるセルロースザンテート微細繊維は約8割となる。
なお、3価金属イオンのうち、アルミニウムを添加した場合は、アルミニウム塩の溶液が酸性(pH2程度)であるため、セルロースザンテート微細繊維中のザンテート基が脱離してしまい、セルロースザンテート微細繊維として回収することは出来ない。他の多価金属イオンを有する多価金属化合物でも、ザンテート基を脱離させるほどの酸性を示すものは上記無機系凝集剤として望ましくない。
このため、添加する金属化合物は中性付近又は塩基性となるものが望ましい。また、解離させる必要があることから、添加する金属化合物としては水溶性のものが良い。このような金属化合物としては、塩化亜鉛、臭化亜鉛、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、塩化カルシウム、臭化カルシウム、酢酸カルシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。
凝集により得られたセルロースザンテート微細繊維の凝集物は、スラリーとしてそのまま保存するだけでなく、遠心分離やろ過、その他の手法により、凝集物の濃度を高めた濃縮物として保存することができ、固形分含有量が1質量%以上の状態のものが容易に得られる。なお、分離手法によっては5質量%以上にすることも可能であり、さらに、乾燥によって水分を除去した凝集物のみからなる乾燥濃縮物として扱うこともできる。水分を完全にゼロにすることは難しいが、セルロースザンテート微細繊維が事実上100質量%となる塊としてもよい。なお、上記凝集物中に含有する多価金属イオンの量は、固形分含有量により異なるが、0.005質量%から0.5質量%となる。
また、上記金属イオンにより凝集したセルロースザンテート微細繊維の凝集物、及びその濃縮物については、凝集物となることで、セルロースザンテート微細繊維(ザンテート基の対イオンがアルカリ金属イオン等)と比べて、保管時にザンテート基の脱離が抑制され、セルロースザンテート微細繊維スラリーの再分散時に同等の分散性が得られる。
上記金属イオンにより凝集した上記セルロースザンテート微細繊維の凝集物、及びその濃縮物は、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオンの添加、再分散により再度、セルロースザンテート微細繊維の分散液とすることが出来る。アルカリ金属イオン、アンモニウムイオンを添加することによりザンテート基のイオン交換が起こり、再分散する。具体的には、水酸化アルカリ金属化合物が好適に用いられる。添加するアルカリ金属化合物を水酸化ナトリウムとした場合、凝集物中のセルロースザンテート微細繊維1gあたり104mmol以上の水酸化ナトリウムが必要である。104mmol/gセルロースザンテート微細繊維以下であると十分イオン交換が行われず、再分散しないため分散液を得ることが困難となる。
上記の再分散をさせる際に添加する水酸化アルカリ金属化合物の添加量はある一定量以上であれば再分散すると思われる。水酸化ナトリウムを使用する場合は、水酸化ナトリウム添加後のスラリー水酸化ナトリウム濃度を10質量%以下にすると好ましい。10質量%を超えると再分散中に微細繊維の構造がセルロースI型からセルロースII型に変化し、導入されているザンテート基によって溶解してしまう。
上記セルロースザンテート微細繊維の上記凝集物に、水酸化アルカリ金属化合物を添加して再分散したスラリー再分散液は、凝集及び再分散を経ていない同濃度のセルロースザンテート微細繊維のスラリーと比較して粘度が低下する。これは、水酸化アルカリ金属化合物中の水酸化物イオンが共存することで、上記セルロースザンテート微細繊維に水和していた水分子が水酸化物イオンと水和し、セルロースザンテート微細繊維が膨潤した状態ではなくなるためであると予想される。このため、再分散のために水酸化ナトリウム等を使用して再分散を行うと、高濃度でありながら、低粘度なスラリーを得ることが出来る。
なお、上記の解繊工程において、セルロースザンテートを解繊してセルロースザンテート微細繊維を作製する際に、水酸化ナトリウムなどの水酸化アルカリ金属化合物が共存するとナノファイバーの生成率(解繊率)が低下する傾向にある。これは、セルロースザンテートが十分水和されていないためと思われる。しかし、一旦解繊してセルロースザンテート微細繊維になった後は水和する水分子の量が減少しても、凝集することなく分散状態が保たれると考えられる。
また、再分散の際にカチオン置換体である4級アンモニウムカチオンを添加してセルロースザンテート微細繊維のザンテート基のカチオンを4級アンモニウムカチオンに置換して、エタノールや、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの有機溶媒中で再分散処理を行ってもよい。再分散時にアルカリ金属イオンを使用していると有機溶媒中で分散性が損なわれ凝集しやすくなるが、4級アンモニウムカチオンを使用することで疎水性が増大し、有機溶媒中での凝集を抑制することで再分散を行うことができる。また、得られたセルロースザンテート微細繊維を活用するにあたり、有機溶媒中で処理を行うのが望ましい場合には、解繊処理を水溶媒で行った後に、溶媒置換などの処理を省略することができる。
上記の4級アンモニウムカチオンとしては、テトラブチルアンモニウムカチオン、テトラプロピルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、デシルトリメチルアンモニウムカチオン、ドデシルトリメチルアンモニウムカチオン、ヘキシルジメチルオクチルアンモニウムカチオン、ベンジルトリエチルアンモニウムカチオン、トリエチルフェニルアンモニウムカチオンなどが挙げられる。
この発明で凝集及び濃縮の対象とするセルロースザンテート微細繊維の大きさは、分散媒中に分散している大きさであり、平均繊維径は概ね3nm以上300nm以下、平均繊維長が25nm以上100μm以下で、十分に高いアスペクト比を有するものが製造しやすくかつ凝集、濃縮を好適に行うことができる対象となる。また解繊の程度を調節することで上記セルロースザンテート微細繊維主成分として、平均繊維長が25nm以上300nm以下、平均繊維径は3nm以上7nm以下とすることができる。
凝集の対象とする上記セルロースザンテート微細繊維の平均ザンテート置換度は、目的に応じて0.1以上0.4以下で調整可能である。
以下、この発明を具体的に実施した実施例を示す。まず、セルロース材料として以下のものを用いた。
・クラフトパルプ(日本製紙(株)製:NBKP、α−セルロース含有率:90質量%、α−セルロースの平均重合度1000)以下、「NBKP」と表記する。
(実施例1)
まず、凝集及び濃縮の対象であるセルロースザンテートの微細繊維の製造手順について説明する。
<アルカリ処理>
NBKPをパルプ固形分(α−セルロースに加えて不純物であるリグニンなどを含む固形分、及びそれらの変性物を指す。以下同じ。)100gとなるように秤量した。これを3Lのビーカーに導入し、8.5質量%水酸化ナトリウム水溶液 2500gを入れ、室温にて3時間撹拌してアルカリ処理を行った。このアルカリ処理後のパルプを遠心分離(ろ布400メッシュ、3000rpmで5分間)により固液分離してアルカリセルロースの脱水物を得た。このアルカリセルロースの脱水物における水酸化ナトリウム含有率は約7.5質量%、パルプ固形分は27.4質量%であった。
<ザンテート化処理>
上記で作製したアルカリセルロースの脱水物をパルプ固形分10gとなるように秤量し、ナス型フラスコに導入した。このナス型フラスコ内へ二硫化炭素を3.5g(対パルプ固形分35質量%分)導入し、室温で約4.5時間硫化反応を進行させてザンテート化処理を行った。
<ザンテート置換度測定>
また、セルロースザンテートについて、平均ザンテート置換度はBredee法により測定したところ、0.312であった。なお、このザンテート置換度はセルロースのグルコース単位当たりにザンテート基が導入されている度合に対する値である。Bredee法の手順は次のように行った。100mLビーカーにセルロースザンテートを約1.5g精秤し、飽和塩化アンモニウム溶液(5℃)を40mL添加した。ガラス棒でサンプルを潰しながらよく混合し、約15分間放置後、GFPろ紙(ADVANTEC社製GS−25)でろ過して、飽和塩化アンモニウム溶液で十分に洗浄した。サンプルをGFPろ紙ごと500mLのトールビーカーに入れ、0.5M水酸化ナトリウム溶液(5℃)を50mL添加して撹拌した。15分間放置後、1.5M酢酸で中和した。(フェノールフタレイン指示薬)中和後蒸留水を250mL添加してよく撹拌し、1.5M酢酸 10mL、0.05mol/Lヨウ素溶液10mLをホールピペットを使用して添加した。この溶液を0.05mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定した。(1%澱粉溶液指示薬)チオ硫酸ナトリウムの滴定量、サンプルのセルロース含有量より次式(1)からザンテート置換度を算出した。このザンテート置換度は、セルロース繊維におけるグルコース単位当たりに、導入されているザンテート基の比率である。
ザンテート置換度=(0.05×10×2−0.05×チオ硫酸ナトリウム滴定量(mL))÷1000÷(サンプル中セルロース量(g)/162.1)……(1)
<セルロースザンテートの結晶性保持の確認>
上記のセルロースザンテート中のセルロース含有率測定時に得られたセルロースについてIR測定を行った結果、セルロースI型に対応するピーク形状が観測された。
<解繊処理>
上記のザンテート化処理で作製したセルロースザンテートをセルロース固形分で0.25g秤量し、蒸留水50mLを添加して攪拌し、セルロース固形分0.5質量%のスラリーとした。このスラリーを、ホモジナイザー((株)日本精機製作所製:AM−7)を用いて17000rpmにて30分間かけて解繊処理してセルロースザンテートの微細繊維を得た。
<微細繊維の解繊の度合い>
上記で解繊処理を行ったセルロースザンテート微細繊維のスラリー(セルロース固形分0.5質量%)に蒸留水を添加してスラリー濃度を0.1質量%に調整した。このスラリーを遠心分離(9000rpm、10分間)して未解繊物を沈降させた。上清はナノファイバースラリーとして分離して三角フラスコに移し、沈降した未解繊物に蒸留水を添加して再度遠心分離を行い、未解繊物を洗浄した。未解繊物をるつぼに移して絶乾し、未解繊物の質量を測定した。未解繊物の質量と解繊処理したセルロースザンテート中のセルロース含有量より次式(2)から生成したセルロースザンテートナノファイバーの生成率を求めた。以下、上記遠心分離操作にて沈降しなかったセルロースザンテート微細繊維をセルロースザンテートナノファイバーと定義する。
セルロースザンテートナノファイバーの生成率(質量%)=(セルロースザンテート中のセルロース含有量−未解繊物の質量)÷(セルロースザンテート中のセルロース含有量)×100……(2)
上記で三角フラスコに移したセルロースザンテート微細繊維の上清を一部サンプリングして500mLのトールビーカーに入れた。そこに0.5M水酸化ナトリウム溶液(5℃)を50mL添加して撹拌し、Bredee法により平均ザンテート置換度を測定したところ、0.305であった。
<遠心上清の繊維長、繊維径測定方法>
水で約0.1質量%に希釈した微細繊維スラリーを、遠沈管に入れ、9000rpmにて10分間かけて遠心分離を行った。遠心上清を回収し、濃度調整後染色を施し、支持膜上で乾燥し乾燥検体とした。透過型電子顕微鏡(TEM 日立ハイテク製)を使用し、加速電圧100kVで観察を行った。観察を行った100,000倍の画像よりナノファイバー100本を選択し、繊維長を測定した。同様に、400,000倍の画像よりナノファイバー100本を選択し、繊維径を測定した。遠心上清の繊維長、繊維径はそれぞれ測定した100点の平均とした。この写真をそれぞれ図1(a)(b)に示す。上記方法により算出されたセルロースザンテートナノファイバーの平均繊維径は5nm、平均繊維長は160nmとなった。
<未解繊物の繊維長測定方法>
水で約0.1質量%に希釈した微細繊維スラリーを、遠沈管に入れ、9000rpmにて10分間かけて遠心分離を行った。遠心上清を除去後、遠沈管底部に残留した未解繊物を回収し、スラリー濃度約0.05質量%になるように調整、ホモジナイザーで再分散させた上で、エタノールと体積比1:1で混合した。混合液をスライドガラス上に20μL滴下して自然乾燥させた。乾燥後、染色液であるサフラニンを滴下して約一分間静置し、流水で洗浄後に再度自然乾燥させ、顕微鏡観察を行った。この写真を図2に示す。顕微鏡観察を行った1000倍の画像を100分割し、1分割分(35μm×26μm)の中に含まれる繊維を一本選択して合計100本分の繊維長を測定した。繊維長の値は測定した100点の平均とした。上記方法により算出されたセルロースザンテート微細繊維の未解繊物の平均繊維長は195μmとなった。
<未解繊物の繊維径測定方法>
水で約0.1質量%に希釈した微細繊維スラリーを、遠沈管に入れ、9000rpmにて10分間かけて遠心分離を行った。遠心上清を除去後、遠沈管底部に残留した未解繊物を回収し、スラリー濃度約0.03質量%になるように調整し、ホモジナイザーで再分散させた上で、tert−ブチルアルコールと体積比8:2(tert−ブチルアルコール20%含有)で混合した。混合液を凍結乾燥させ、電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM)写真を撮影した。FE−SEM観察を行った1000倍、10,000倍の画像から繊維100本を選択し、繊維径を測定した。繊維径の値は測定した100点の平均とした。上記方法により算出されたセルロースザンテート微細繊維の未解繊物の平均繊維径は460nmとなった。
上記、遠心上清の平均繊維長、平均繊維径と、未解繊物の平均繊維長、平均繊維径、および、ナノファイバーの生成率より、次式(3)(4)から算出される数値をセルロースザンテート微細繊維スラリー全体の平均繊維長、平均繊維径とした。
セルロースザンテート微細繊維スラリー全体の平均繊維長(μm)=(遠心上清平均繊維長×ナノファイバーの生成率)+{未解繊物平均繊維長×(100%−ナノファイバーの生成率)}・・・(3)
セルロースザンテート微細繊維スラリー全体の平均繊維径(nm)=(遠心上清平均繊維径×ナノファイバーの生成率)+{未解繊物平均繊維径×(100%−ナノファイバーの生成率)}・・・(4)
<セルロースザンテート微細繊維の硫酸亜鉛による凝集>
以上の手順で得られたセルロースザンテート微細繊維のスラリー(ナノファイバー生成率92.4%、上記式(3)、(4)により算出した平均繊維径40nm、平均繊維長15μm)に水を加えて希釈し、遠沈管に入れ、9000rpmにて10分間かけて遠心分離を行い、遠心上清を回収した。回収したセルロースザンテートナノファイバーの固形分は0.12質量%(セルロース固形分0.116質量%)であった。このスラリー202g(ザンテート基モル量0.406mmol)を300mLビーカーに分取し、スターラーで撹拌しながら0.5M硫酸亜鉛溶液1.62mL(0.81mmol、セルロースザンテートナノファイバーのザンテート基モル量に対して2倍モル量)を添加し、5分間撹拌して凝集物を含むスラリーを得た。この凝集物を含むスラリー全量を遠沈管に移し、9000rpmにて10分間遠心分離を行い、上清を除去後の沈殿物(濃縮物)14gを回収した。こうして得られた濃縮物のセルロース固形分を測定したところ、1.42質量%であり、回収率は85%であった。濃縮物に含まれる凝集物の平均ザンテート置換度を測定したところ、0.302であり、凝集及び濃縮によりザンテート基がほとんど脱離していないことが確認された。
<凝集物中亜鉛含有量の測定>
上記濃縮物を分取し、水を添加してホモジナイザーにて濃縮物を粉砕した。このスラリー全量をメスフラスコに移し、1000mLにメスアップした。メスアップ後のスラリーを一部分取し、遠沈管に入れ、9000rpmにて10分間かけて遠心分離を行い、遠心上清を回収した。この遠心上清の亜鉛濃度を原子吸光法により測定した。測定した結果、遠心上清の亜鉛濃度は1.2mg/Lとなり、濃縮物中の亜鉛含有量は次式(5)より、0.014質量%と算出された。
亜鉛含有量(質量%)=(亜鉛濃度 × メスアップ量)/凝集物質量×100・・・(5)
<水酸化ナトリウムによる再分散>
上記濃縮物14gを分取し、0.5M水酸化ナトリウム溶液50mL(25mmol、セルロースザンテートナノファイバー1gに対して水酸化ナトリウム104mmol)を添加した。ホモジナイザーを使用して8000rpmにて3分間再分散させ、透明な分散液を得た。分散液スラリーのセルロース固形分濃度は0.31質量%、水酸化ナトリウムの濃度は1.56質量%であった。この結果を表1に示す。
<硫酸亜鉛の添加量による検討>
(実施例2)
実施例1において、添加する0.5M硫酸亜鉛溶液の添加量を0.81mL(0.41mmol、セルロースザンテートナノファイバーのザンテート基モル量に対して等倍モル量)に変更した以外は同様の手順により操作を行った。回収された凝集物は13.2gであり、セルロース固形分は1.1質量%、回収率は62%、亜鉛含有量は0.007質量%であった。再分散後のセルロース固形分濃度は0.23質量%、水酸化ナトリウムの濃度は1.58質量%であった。この結果を表1に示す。
(実施例3)
実施例1において、添加する0.5M硫酸亜鉛溶液の添加量を4.05mL(2.05mmol、セルロースザンテートナノファイバーのザンテート基モル量に対して5倍モル量)に変更した以外は同様の手順により操作を行った。回収された凝集物は11.2gであり、セルロース固形分は2.05質量%、回収率は98%、亜鉛含有量は0.041質量%であった。再分散後のセルロース固液分濃度は0.38質量%、水酸化ナトリウムの濃度は1.63質量%であった。この結果を表1に示す。
(実施例4)
実施例1において、添加する0.5M硫酸亜鉛溶液の添加量を16.2mL(8.2mmol、セルロースザンテートナノファイバーのザンテート基モル量に対して20倍モル量)に変更した以外は同様の手順により操作を行った。回収された凝集物は10.4gであり、セルロース固形分は2.2質量%、回収率は98%、亜鉛含有量は0.21質量%であった。再分散後のセルロース固形分濃度は0.38質量%、水酸化ナトリウムの濃度は1.66質量%であった。この結果を表1に示す。
(実施例5)
実施例1において、添加する硫酸亜鉛溶液の濃度を2Mに変更、添加量を10.3mL(20.5mmol、セルロースザンテートナノファイバーのザンテート基モル量に対して50倍モル量)に変更した以外は同様の手順により操作を行った。回収された凝集物は10.5gであり、セルロース固形分は2.2質量%、回収率は99%、亜鉛含有量は0.5質量%であった。再分散後のセルロース固形分濃度は0.38質量%、水酸化ナトリウムの濃度は1.65質量%であった。この結果を表1に示す。
(比較例1)
実施例1において、添加する0.5M硫酸亜鉛溶液の添加量を0.41mL(0.21mmol、セルロースザンテートナノファイバーのザンテート基モル量に対して0.5倍モル量)に変更した以外は同様の手順により操作を行った。凝集物はほとんど確認できず、回収された凝集物は0.2gであり、セルロース固形分は1.5質量%、回収率は1.3%であった。この結果を表1に示す。
(小括)
対ザンテート基等モルの硫酸亜鉛を添加すると約7割が凝集物として回収出来、対ザンテート基2倍の硫酸亜鉛を添加すると9割程度回収することが出来ることが示された。
<セルロースザンテート微細繊維スラリー濃度についての検討>
(実施例6)
実施例1において、セルロースザンテートナノファイバースラリーの代わりに、解繊処理したセルロースザンテート微細繊維スラリー(0.5質量%(セルロース固形分0.48質量%)、ナノファイバー生成率92.4%)を使用し、スラリー200g(ザンテート基モル量1.68mmol)を500mL容器に分取し、2M硫酸亜鉛溶液4.2mL(8.4mmol、セルロースザンテート微細繊維のザンテート基モル量に対して5倍モル量)を添加し、ホモジナイザーを使用し、8000rpmで5分間撹拌して凝集物を含むスラリーを得た。この凝集物を含むスラリー全量を遠沈管に移し、9000rpmにて10分間遠心分離を行い、上清を除去後の沈殿物(濃縮物)46gを回収した。こうして得られた濃縮物のセルロース固形分を測定したところ、2.05質量%であり、回収率は98%、亜鉛含有量は0.041質量%であった。沈殿物11.1gを分取し、2M水酸化ナトリウム水溶液12.5mL(25mmol、セルロースザンテート微細繊維1gに対して水酸化ナトリウム104mmol)を添加した。ホモジナイザーを使用して8000rpmにて3分間再分散させ、分散液を得た。分散液スラリーのセルロース固形分濃度は0.96質量%、水酸化ナトリウムの濃度は4.2質量%であった。
<他の無機系凝集剤についての検討>
(実施例7)
実施例1において、0.5M硫酸亜鉛溶液の代わりに1.5M塩化カルシウム溶液の添加量を13.5mL(20.3mmol、セルロースザンテート微細繊維のザンテート基モル量に対して50倍モル量)に変更した以外は同様の手順により操作を行った。回収された凝集物は15.2gであり、セルロース固形分は1.2質量%、回収率は78%であった。再分散後のセルロース固形分濃度は0.28質量%、水酸化ナトリウムの濃度は1.53質量%であった。
(実施例8)
実施例1において、0.5M硫酸亜鉛溶液の代わりに1.5M硫酸マグネシウム溶液の添加量を13.5mL(20.3mmol、セルロースザンテート微細繊維のザンテート基モル量に対して50倍モル量)に変更した以外は同様の手順により操作を行った。回収された凝集物は15.7gであり、セルロース固形分は1.1質量%、回収率は74%であった。再分散後のセルロース固形分濃度は0.26質量%、水酸化ナトリウムの濃度は1.52質量%であった。
(比較例2)
実施例1において、0.5M硫酸亜鉛溶液の代わりに1.5M塩化アルミニウム溶液の添加量を13.5mL(20.3mmol、セルロースザンテート微細繊維のザンテート基モル量に対して50倍モル量)に変更した以外は同様の手順により操作を行った。回収された凝集物は10.8gであり、セルロース固形分は2.0質量%、回収率は92%であった。ただし、凝集物の平均ザンテート置換度を測定したところ、0.057であった。このため、大半がザンテート基の脱離したセルロースに再生されていると考えられる。この状態は、セルロースナノファイバーがファンデルワールス力で凝集していると考えられ、水酸化ナトリウム水溶液を添加しても再分散されなかった。
<再分散時、水酸化ナトリウム添加量の検討>
(参考例1)
実施例1において、凝集物に添加する水酸化ナトリウムを0.1M水酸化ナトリウム溶液50mL(5mmol、セルロースザンテートナノファイバー1gに対して水酸化ナトリウム21mmol))に変更した以外は同様の手順により操作を行った。再分散液は濁っており、顕微鏡で確認したところ、再分散が不十分であった。
(参考例2)
実施例1において、凝集物に添加する水酸化ナトリウムを4M水酸化ナトリウム溶液50mL(200mmol、セルロースザンテートナノファイバー1gに対して水酸化ナトリウム829mmol、水酸化ナトリウム濃度12.5質量%)に変更した以外は同様の手順により操作を行った。再分散液は透明となったが、遠心上清にナノファイバーは確認できず、セルロースザンテートナノファイバーが溶解した。
<再分散時のアンモニウムイオンの使用検討>
(実施例9)
実施例1において、凝集物に添加する0.5M水酸化ナトリウムを14%アンモニア水3mL(25mmol、セルロースザンテートナノファイバー1gに対してアンモニア104mmol))と蒸留水47mL添加に変更した以外は同様の手順により操作を行った。再分散後のセルロース固形分濃度は0.31質量%、アンモニアの濃度は0.66質量%であった。アンモニア水で再分散が可能であったが、水酸化ナトリウムの場合と異なり、若干粘度の高い再分散液となった。
<再分散の検証>
(実施例10〜12)
実施例1に記載のセルロースザンテート微細繊維スラリー200gに対ザンテート基2倍モル数の硫酸亜鉛を添加し凝集後、遠心分離(3000rpm、10分)し、上清を除いた沈殿部として濃縮物を得た。この濃縮物に、0.1M(実施例10)、0.5M(実施例11)、1.0M(実施例12)の水酸化ナトリウム水溶液を50ml添加し、ホモジナイザーで再分散させた。再分散前の濃縮物とともに、顕微鏡写真を撮影したものを図3に示す。
<再分散後の粘度>
実施例1に記載のセルロースザンテート微細繊維に、濃度の異なる水酸化ナトリウム水溶液を添加し、セルロース固形分0.5質量%、水酸化ナトリウム濃度0.1〜5質量%になるよう調製し、ホモジナイザーで均一に分散後、E型粘度計DVH−Eで粘度を測定した。その結果を表2及び図4に示す。水酸化ナトリウム濃度0.1質量%以上のもので、未添加のものに比べて粘度は大きく減少することが示された。
<セルロースザンテート微細繊維の安定性確認>
実施例1に記載の解繊処理したセルロースザンテート微細繊維スラリー(セルロース固形分0.48質量%)を300mLビーカーに分取し、4℃で保管した。また、実施例6に記載のセルロースザンテート微細繊維の凝集遠心分離沈殿物も同様に4℃で保管した。この保管したセルロースザンテート微細繊維スラリー、および凝集沈殿物の平均ザンテート置換度を保管1日後、3日後、8日後に測定した。その結果を表3に示す。セルロースザンテート微細繊維スラリーの平均ザンテート置換度は8日後に約50%まで減少していたが、凝集沈殿物の平均ザンテート置換度は約70%残存していた。凝集沈殿物として保管することでザンテート基の脱離を抑制することが可能であった。
<再分散スラリー中のセルロースザンテートナノファイバー繊維径測定方法>
(実施例13)
実施例1において再分散させたスラリーに水を添加してセルロース固形分濃度が約0.05質量%になるように調整し、tert−ブチルアルコールと体積比8:2(tert−ブチルアルコール20%含有)で混合した。混合液を凍結乾燥させ、FE−SEM写真を撮影した。その写真を図5(a)に示す。FE−SEM観察を行った100,000倍の画像から繊維100本を選択し、繊維径を測定した。繊維径の値は測定した100点の平均とした。
実施例1で用いた凝集前ナノファイバースラリーと、上記実施例13における凝集、再分散後スラリー中ナノファイバーの平均繊維径を測定した結果を表4に示す。凝集、再分散による影響はみられなかった。

Claims (11)

  1. 多価金属イオンを0.005質量%以上0.5質量%以下含有するセルロースザンテート微細繊維の凝集物。
  2. 上記セルロースザンテート微細繊維の数平均繊維径が3nm以上300nm以下である請求項1に記載のセルロースザンテート微細繊維の凝集物。
  3. 上記セルロースザンテート微細繊維の固形分の含有量が1質量%以上である請求項1又は2に記載のセルロースザンテート微細繊維の凝集物。
  4. 上記セルロースザンテート微細繊維の分散液に、上記多価金属イオンを含有する無機系凝集剤が添加されることで上記セルロースザンテート微細繊維が凝集した、請求項1乃至3のいずれかに記載のセルロースザンテート微細繊維の凝集物。
  5. 上記多価金属イオンを含有する無機系凝集剤の添加量が、上記セルロースザンテート微細繊維分散液中のザンテート基のモル量に対して、1〜50倍モル量であることを特徴とする請求項4に記載のセルロースザンテート微細繊維の凝集物。
  6. 上記無機系凝集剤が亜鉛塩であることを特徴とする請求項4又は5に記載のセルロースザンテート微細繊維の凝集物。
  7. 請求項1乃至6のいずれかに記載のセルロースザンテート微細繊維の凝集物に、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン又はその両方を含有する溶液を添加して再分散させたセルロースザンテート微細繊維分散液。
  8. 上記アルカリ金属イオンがナトリウムであり、上記溶液が水酸化ナトリウム水溶液であり、水酸化ナトリウムの濃度が2質量%以上9質量%以下である請求項7に記載のセルロースザンテート微細繊維分散液。
  9. セルロースザンテート微細繊維の分散液に、多価金属イオンを含有する無機系凝集剤を添加させて上記セルロースザンテート微細繊維を凝集させて凝集物を生成させる、セルロースザンテート微細繊維凝集物の製造方法。
  10. 請求項9に記載の製造方法で得られたセルロースザンテート微細繊維凝集物の分散液を遠心分離機にて分離し、濃縮して、セルロースザンテート微細繊維の固形分の含有量が1質量%以上の濃縮物を得る、セルロースザンテート微細繊維濃縮物の製造方法。
  11. 請求項10に記載の製造方法で得られたセルロースザンテート微細繊維濃縮物に、水酸化アルカリ金属水溶液を添加させて、上記セルロースザンテート微細繊維凝集物を再分散させる、セルロースザンテート微細繊維分散液の製造方法。
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