JP2018145213A - 高吸水性高分子 - Google Patents
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Abstract
Description
(1)以下の式(I)で表されるパラミロン誘導体。
(式中、mは300〜3000の整数を表し、R2は以下の式(II)で表される基、以下の式(III)で表される基、または水素原子を表す。ただし、式(II)で表される基および式(III)で表される基は、それぞれ1つ以上含まれる。)
(式中、nは1〜25の整数を表す。)
(式中、Mはアルカリ金属を表す。)
(2)式(II)で表される基による置換度が、グルコースユニット一つに対し、0.01〜1.5である、(1)に記載のパラミロン誘導体。
(3)式(III)で表される基による置換度が、グルコースユニット一つに対し、0.1〜2.0である、(1)または(2)に記載のパラミロン誘導体。
(4)mが500〜2800の整数である、(1)から(3)のいずれか一項に記載のパラミロン誘導体。
(5)nが3〜21の整数である、(1)から(4)のいずれか一項に記載のパラミロン誘導体。
(6)重量平均分子量が1.0×105〜1.0×106である、(1)から(5)のいずれか一項に記載のパラミロン誘導体。
(7)(1)から(6)のいずれか一項に記載のパラミロン誘導体を含有する水溶液。
(8)(1)から(6)のいずれか一項に記載のパラミロン誘導体を含有するシート。
(9)吸水率がシートの重量に対し50〜1200重量%である、(8)に記載のシート。
(10)以下の式(IV)で表される化合物を無水コハク酸と反応させることを特徴とする、(1)から(6)のいずれか一項に記載のパラミロン誘導体の製造方法。
(式中、m1は300〜3000の整数を表し、R1は前記式(II)で表される基、または水素原子を表す。ただし、式(II)で表される基は1つ以上含まれる。)
本願におけるパラミロン誘導体とは、以下の式(I)で表される物質のことをいう。
(式中、mは300〜3000の整数を表し、R2は以下の式(II)で表される基、以下の式(III)で表される基、または水素原子を表す。ただし、式(II)で表される基および式(III)で表される基は、それぞれ1つ以上含まれる。)
(式中、nは1〜25の整数を表す。)
(式中、Mはアルカリ金属を表す。)
本願発明のパラミロン誘導体を含有する水溶液は、パラミロン誘導体を水に溶解することにより得ることができる。また、パラミロン誘導体が水に溶解しにくい場合には、実施例で後述するように、パラミロン誘導体をエタノールなどの溶媒に湿潤させ、これを水に溶解することにより、パラミロン誘導体を含有する水溶液を得ることが可能である。
本願発明のパラミロン誘導体を含有するシートは、実施例で後述するように、エタノールなどの溶媒に湿潤したパラミロン誘導体をデッシュなどの容器に入れ、溶媒を除去することにより調製することができる。デッシュとしては、テフロン(登録商標)デッシュを使用することが好ましい。
本願発明のパラミロン誘導体は、以下の式(IV)で表される化合物を無水コハク酸と反応させることにより製造することが好ましい。
(式中、m1は300〜3000の整数を表し、R1は前記式(II)で表される基、または水素原子を表す。ただし、式(II)で表される基は1つ以上含まれる。)
(1) 2x+y=1.0(mol/L)×3.0(mL)−0.10(mol/L)×a
(2) y=DSlac×z
(3) 102.09×x+MWlac×y+160.13×z+1.0×(3×z−(x+y))=b
ここで、x、y、zはそれぞれコハク酸、長鎖アシル基、サクシニル化多糖のグルコースユニットのモル数(mmol)であり、aは中和に必要であった0.10mol/L塩酸の体積(mL)である。bは試験に用いられたサクシニル化多糖の重量(mg)である。DSsucは、x/zより算出される。測定/算出は、3回繰り返して行った。
全ての試薬は購入可能であり、さらなる精製をすることなく使用した。Euglena gracillus EOD−1株(寄託番号:FERM BP−11530)より抽出されたパラミロンは、株式会社神鋼環境ソリューションより提供された。溶解パルプ(92%を超えるα−セルロース、NDPS)は、日本製紙株式会社より入手した。サクシノグリカンは、ソルベイ日華株式会社より入手した。カードランは、和光純薬工業株式会社より購入した。アルギン酸ナトリウム(15〜25cp、1重量%水溶液)は、アルドリッチ社より入手した。
[実施例1]
ミリスチン酸パラミロン(低DSlac)(1a)
0.75時間、約116℃で調製したN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc、150mL)と塩化リチウム(LiCl、2.381g、56.18mmol)のパラミロン(3.017g、18.61mmol)均一溶液に、トリメチルアミン(NEt3)(1.61mL、11.55mmol)と塩化ミリストイル(0.234g、0.95mmol)を含有する30mLのDMAcを室温で滴下した。この混合物を窒素雰囲気下で3時間、約109℃で加熱した。反応液をクロロホルム/メタノール(100mL/200mL)に注ぎ、白い固体を析出させた。続いて得られた固体をクロロホルム/メタノール(100mL/200mL)、つづいてメタノール(300mL)で15分間攪拌により洗浄した。遠心により白いゲル状の固体が得られた。一晩風乾し、続いて100℃で5時間真空乾燥し、固体のミリスチン酸パラミロン(3.303g、19.36mmol、103.5%)を得た。調製された産物をFT−IRにより確認した。
FT−IR(cm−1):3313,2882,1607,1363,1119,1043,1031,887
ミリスチン酸パラミロン(高DSlac)(1b)
前記の(1a)に記載した工程と同様な工程により、パラミロン(3.000g、18.50mmol)と塩化ミリストイル(0.927g、3.76mmol)より産物(1b)(3.292g、17.32mmol)を93.1%の収率で得た。調製された産物をFT−IRにより確認した。
FT−IR(cm−1):3295,2918,1713,1605,1362,1111,1040,1032,887
パルミチン酸パラミロン(低DSlac)(1c)
前記の(1a)に記載した工程と同様な工程により、パラミロン(3.022g、18.64mmol)と塩化パルミトイル(0.257g、0.94mmol)より産物(1c)(0.257g、0.94mmol)を103.1%の収率で得た。調製された産物をFT−IRにより確認した。
FT−IR(cm−1):3326,2881,1606,1362,1111,1042,1031,887
パルミチン酸パラミロン(高DSlac)(1d)
前記の(1a)に記載した工程と同様な工程により、パラミロン(3.038g、18.73mmol)と塩化パルミトイル(1.013g、3.68mmol)より産物(1d)(3.356g、18.63mmol)を98.9%の収率で得た。調製された産物をFT−IRにより確認した。
FT−IR(cm−1):3334,2921,1608,1362,1156,1070,1033,889
ステアリン酸パラミロン(低DSlac)(1e)
前記の(1a)に記載した工程と同様な工程により、パラミロン(3.020g、18.63mmol)と塩化ステアロイル(0.286g、0.94mmol)より産物(1e)(3.204g、19.07mmol)を101.8%の収率で得た。調製された産物をFT−IRにより確認した。
FT−IR(cm−1):3334,2919,1607,1361,1159,1044,1032,886
ステアリン酸パラミロン(高DSlac)(1f)
前記の(1a)に記載した工程と同様な工程により、パラミロン(3.012g、18.58mmol)と塩化ステアロイル(1.180g、3.94mmol)より産物(1f)(3.541g、19.35mmol)を103.6%の収率で得た。調製された産物をFT−IRにより確認した。
FT−IR(cm−1):3332,2917,1605,1363,1111,1038,883
ステアリン酸カードラン(低DSlac)(1g)
前記の(1a)に記載した工程と同様な工程により、カードラン(2.996g、18.48mmol)と塩化ステアロイル(0.283g、0.93mmol)より産物(1g)(3.217g、18.35mmol)を98.8%の収率で得た。調製された産物をFT−IRにより確認した。
FT−IR(cm−1):3304,2917,1605,1363,1112,1042,1032,888
ステアリン酸カードラン(高DSlac)(1h)
前記の(1a)に記載した工程と同様な工程により、カードラン(3.005g、18.78mmol)と塩化ステアロイル(1.126g、3.72mmol)より産物(1h)(3.211g、12.42mmol)を66.8%の収率で得た。調製された産物をFT−IRにより確認した。
FT−IR(cm−1):3334,2917,2849,1580,1578,1446,1402,1159,1041,1033,888
ミリスチン酸パラミロンサクシネート(低DSlac)(3a)
1時間、約105℃で調製したDMAc(5mL)とLiCl(79mg、1.86mmol)のミリスチン酸パラミロン(1a)(92mg、0.54mmol)均一溶液に、0.15mLのNEt3(1.08mmol)と無水コハク酸(105mg、1.05mmol)を含有する1.0mLのDMAcを室温で滴下した。この混合物を窒素雰囲気下で3時間、室温で攪拌した。反応液をエタノール(30mL)に注ぎ、白い固体を析出させた。遠心分離後、得られた固体をエタノール(40mL)で30分間攪拌により洗浄した(3回)。遠心により分離された固体をエタノール(50mL)に分散し、テフロン(登録商標)バット(70×100mm)に入れた。一晩風乾し、続いて60℃で6.5時間真空乾燥し、淡黄色の薄膜としてミリスチン酸パラミロンサクシネート(120mg、0.54mmol、収率101.4%)を得た。高収率であることは、産物に安定に含まれていた揮発性分子に起因する。調製された産物を1H−NMRおよびFT−IRにより確認した。
1H−NMR(D2O):δ4.48−3.49(m),3.19(q),2.65(brs),2.55(brs),1.27(t),0.86(s)
FT−IR(cm−1):3423,2922,1718,1565,1403,1364,1154,1038
DSsuc:0.46±0.04
ミリスチン酸パラミロンサクシネート(高DSlac)(3b)
前記の(3a)に記載した工程と同様な工程により、ミリスチン酸パラミロン(1b、102mg、0.53mmol)と無水コハク酸(107mg、1.06mmol)より産物(3b)(122mg、0.50mmol)を93.0%の収率で得た。調製された産物を1H−NMRおよびFT−IRにより確認した。
1H−NMR(D2O):δ4.47−3.33(m),3.19(q),2.65(brs),2.55(brs),1.27(t),0.86(s)
FT−IR(cm−1):3410,2921,1724,1568,1405,1366,1155,1039
DSsuc:0.51±0.12
パルミチン酸パラミロンサクシネート(低DSlac)(3c)
前記の(3a)に記載した工程と同様な工程により、パルミチン酸パラミロン(1c、93mg、0.48mmol)と無水コハク酸(108mg、1.08mmol)より産物(3c)(111mg、0.48mmol)を88.2%の収率で得た。調製された産物を1H−NMRおよびFT−IRにより確認した。
1H−NMR(D2O):δ4.46−3.55(m),3.19(t),2.62(brs),2.51(brs),1.27(m),0.87(s)
FT−IR(cm−1):3380,2920,1723,1568,1405,1368,1156,1039
DSsuc:0.56±0.04
パルミチン酸パラミロンサクシネート(高DSlac)(3d)
前記の(3a)に記載した工程と同様な工程により、パルミチン酸パラミロン(1d、100mg、0.55mmol)と無水コハク酸(110mg、1.10mmol)より産物(3d)(121mg、0.52mmol)を94.7%の収率で得た。調製された産物を1H−NMRおよびFT−IRにより確認した。
1H−NMR(D2O):δ4.47−3.57(m),3.19(t),2.62(brs),2.51(brs),1.27(m),0.87(s)
FT−IR(cm−1):3414,2920,1723,1568,1405,1368,1156,1039
DSsuc:0.47±0.07
ステアリン酸パラミロンサクシネート(低DSlac)(3e)
前記の(3a)に記載した工程と同様な工程により、ステアリン酸パラミロン(1e、95mg、0.56mmol)と無水コハク酸(109mg、1.09mmol)より産物(3e)(128mg、0.56mmol)を99.5%の収率で得た。調製された産物を1H−NMRおよびFT−IRにより確認した。
1H−NMR(D2O):δ4.47−3.57(m),3.19(t),2.63(brs),2.52(brs),1.27(m),0.87(s)
FT−IR(cm−1):3412,2918,1720,1569,1403,1367,1154,1040
DSsuc:0.56±0.01
ステアリン酸パラミロンサクシネート(高DSlac)(3f)
前記の(3a)に記載した工程と同様な工程により、ステアリン酸パラミロン(1f、103mg、0.56mmol)と無水コハク酸(108mg、1.07mmol)より産物(3f)(139mg、0.56mmol)を99.6%の収率で得た。調製された産物を1H−NMRおよびFT−IRにより確認した。
1H−NMR(D2O):δ4.48−3.57(m),3.19(t),2.63(brs),2.52(brs),1.27(m),0.87(s)
FT−IR(cm−1):3412,2920,1725,1569,1405,1369,1155,1038
DSsuc:0.61±0.13
ステアリン酸カードランサクシネート(低DSlac)(3g)
前記の(3a)に記載した工程と同様な工程により、ステアリン酸カードラン(1g、94mg、0.53mmol)と無水コハク酸(111mg、1.11mmol)より産物(3g)(99mg、0.38mmol)を71.8%の収率で得た。調製された産物を1H−NMRおよびFT−IRにより確認した。
1H−NMR(D2O):δ4.47−3.57(m),3.19(t),2.63(brs),2.53(brs),1.27(m)
FT−IR(cm−1):3407,2916,1724,1569,1404,1364,1154,1041
DSsuc:0.77±0.05
ステアリン酸カードランサクシネート(高DSlac)(3h)
前記の(3a)に記載した工程と同様な工程により、ステアリン酸カードラン(1h、104mg、0.40mmol)と無水コハク酸(108mg、1.08mmol)より産物(3h)(139mg、0.40mmol)を100.2%の収率で得た。調製された産物を1H−NMRおよびFT−IRにより確認した。
1H−NMR(D2O):δ4.46−3.57(m),3.19(t),2.63(brs),2.55(brs),1.27(m),0.86(s)
FT−IR(cm−1):3395,2920,1719,1567,1401,1364,1154,1041
DSsuc:0.81±0.07
パラミロンサクシネート(4)
1.5時間、約101℃で調製したDMAc(15mL)とLiCl(86mg、2.03mmol)のパラミロン(87mg、0.64mmol)均一溶液に、1.68mLのピリジン(20.86mmol)と無水コハク酸(107mg、1.069mmol)を室温で滴下した。この混合物を窒素雰囲気下で6.5時間、70℃で攪拌し、窒素雰囲気下で室温で放置した。水(30mL)を加えることにより固体を得た。続いてこの固体を水(15mL)とメタノール(5mL)により洗浄した。一晩風乾した後、60℃で6.5時間真空乾燥し、固体のパラミロンサクシネート(144mg、0.53mmol)を収率119.9%で固体として得た。調製された産物を1H−NMRおよびFT−IRにより確認した。
1H−NMR(D2O):δ4.47−3.57(m),3.19(t),2.62(brs),2.52(brs),1.27(m)
FT−IR(cm−1):3408,2906,1718,1567,1403,1363,1155,1042
DSsuc:0.58±0.06
固体中の揮発性分子の割合を評価するため、熱重量分析(TG)は、湿潤した多糖を一定時間風乾することにより得られた固体に対し、熱重量分析装置(株式会社リガク製、Thermo Plus Evo II TG8120)を用い、室温で行われた。成型された膜の熱重量分析も行われた。各サンプルを100mL/分の窒素気流下、10℃/分のスキャン速度で、25℃から500℃に加熱した。
凍結乾燥した固体(50mg)またはエタノールに浸潤した固体(約1.5g、乾燥重量で約150mg)をミリQ水(100mL)に分散させ、不均一な溶液を均一になるまで攪拌した。均一な溶液の粘度は、3種類のスピンドル(英弘精機株式会社製、SC4−14、SC4−21、SC4−34)を用い、様々な回転速度(0.3〜100rpm)で粘度測定計(英弘精機株式会社製、DV1M)により23℃で測定した。浸潤した固体を溶質に用いた場合、測定後に凍結乾燥した固体を秤量することにより、多糖の濃度を算出した。サクシノグリカン水溶液(0.5wt%、1.0wt%、1.5wt%)の粘度もまた、多糖サクシネートと同様に測定した。
多糖サクシネート(5mg)より得られた凍結乾燥した固体をミリQ水(5.0mL)の入ったフラスコに入れた。その混合物を均一になるまで攪拌した。その溶液を液体窒素で急速に凍結し、減圧下で乾燥し、綿状の固体を調製した。導電性カーボン両面テープを用いて、この固体を顕微鏡の金属ステージ上に固定した。2.5kVの加速電圧と走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM−6060)を用い、高度な真空下で顕微鏡観察を行った。
(溶液流延法による調製)
エタノール(1.0mL)に湿潤した多糖(約500mg)の固体の混合物を直径25mmの円形のテフロン(登録商標)デッシュに入れた。エタノールの除去後、デッシュに透明な円形の薄膜(直径約25mm)が調製された。後述する長方形の多糖膜(約65mm×約90mm)は、長方形のテフロン(登録商標)デッシュ(68mm×95mm)を用いて調製した。
透過光の分光分析は、分光光度計(島津製作所製、UV−2500)を用い、溶液流延膜に対して行った。全てのスペクトルは、400cm−1から800cm−1の間で録した。
機械的強度の測定は、万能試験機(株式会社エー・アンド・デイ製、Tensilon RTG−1225)を用い、ミリスチン酸パラミロンサクシネート(3b)、ステアリン酸パラミロンサクシネート(3f)、パラミロンサクシネート(4)から調製された溶液流延膜に対して行われた。チャック間の初期距離を30mmに設定し、引っ張り速度を3mm/分とした。
成型膜の吸水性はティーバッグ法を用いて行った。簡単に述べると、約5mgの成型膜(一片5mmの正方形、厚さ約100μm)をティーバッグ(スバル社製、95mm×70mm×約5mm、複合繊維製(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル))に入れた。一定時間経過後、ティーバッグに残っている水を除き、フィルター紙と共に膨張した膜の入ったティーバッグを秤量した。
長鎖のアシル基を付加すると、水溶性ポリマーの粘性を増強することが知られている。この増強は、一本鎖ポリマーの疎水性アルキル基の間の相互作用による接点の数の増加に起因する。本発明者は、このデザインの考え方は、パラミロンサクシネート由来の繊維にも有効であると考えた。本発明者の期待は、二点あった。一点目は、長鎖アシル基どうしの疎水性相互作用は、一本鎖ポリマーの会合を引き起こしてより粘性の高い繊維となることである。二点目は、多糖の繊維表面に結合した長鎖アシル基の間の会合は、強力な絡まりを引き起こして密な三次元の繊維ネットワークを形成することである。
アシル化パラミロンサクシネートの増粘の挙動を追う初期の段階で、エタノールに湿潤したものを風乾して得られた固体は容易に水和するが、真空乾燥して得られた固体はほとんど水和しないことを、本発明者は肉眼で観察した。エタノールに湿潤した固体に含まれる揮発性化合物の量を調べるため、熱重量解析を行った。測定に先立ち、表面に吸着している揮発性分子を風乾により除いた。乾燥時間は1日間と15日間である。図6はミリスチン酸パラミロンサクシネート(3a)のサーモグラムを典型的な例として示している。他のエステルもサーモグラムは同様であった。1日間乾燥した固体は約200℃までは温度の上昇と共にゆっくり重量が減少したが、その後約320℃までは急速に減少した。最初の約15重量%の減少段階が含まれていたエタノール分子の除去によるものであるとすると、ミリスチン酸パラミロンサクシネートのグルコースユニットのエタノールに対するモル比は約1.0と計算される。水の除去によるものであるとすると、比は約2.0と計算される。1日間乾燥した固体と15日間乾燥した固体のサーモグラムが同様であることは、表面に吸着していた揮発性分子のほとんどが1日以内に除かれることを示しており、多糖の固体は揮発性分子を安定に収容できる空間を有しており、その存在が水和するのに必要であることを示唆している。
(アシル化パラミロンサクシネート水溶液の粘度測定)
パラミロンサクシネートをアシル化することによりパラミロンをベースとした増粘剤を創出することにおける元々の興味は、どのような長さや数の長鎖アシル基が増粘性に影響するかということにあった。この問題を解明するため、鎖長とDSlacの異なる6種類のアシル化パラミロンサクシネート(3a〜3f)をそれぞれ含有する水溶液について、本発明者は粘度測定を行った。本発明者はまた、ステアリン酸カードランサクシネート(3g、3h)やパラミロンサクシネート(4)をそれぞれ含有する水溶液について、粘度測定を行った。予備的な実験によると、0.5重量%の真空乾燥したミリスチン酸パラミロンサクシネート(3b)を水に分散すると、穏やかな攪拌でも均一になるが、1.5重量%含有するものは3日間攪拌しても不均一なままであることが明らかになった。これらの結果に基づき、本発明者はまず、0.5重量%の多糖の水溶液の粘度を測定した(図7〜11)。これらの結果から本発明者が言えることは、ステアリン酸カードランサクシネート(3g、3h)が他のものよりも粘度が高いことを示したことのみである。これはSEC−MALLS測定で示唆されたカードラン誘導体の分子量が対応するパラミロン誘導体の約3倍であったことを考慮すると合理的である。パラミロンサクシネート誘導体(3a〜3f、4)の中では粘度に明らかな相違は無かった。この結果は、0.5重量%の濃度で水溶液に分散しても、これらの誘導体の繊維の絡み合いは高い粘度を達成するのに十分ではなかったことを示唆している。
ポリマー濃度、溶液温度、塩化ナトリウム(NaCl)濃度が多糖水溶液の粘度に与える効果について、本発明者は調べた。この調査では、本発明者は溶質としてステアリン酸パラミロンサクシネート(3f)を用いた。図16は、ステアリン酸パラミロンサクシネート(3f)水溶液の粘度の濃度依存性(0.40重量%〜0.72重量%)を示している。△が0.40重量%、■が0.60重量%、□が0.72重量%の場合である。これらの結果は、1.55重量%の3fを含有する水溶液から得られた粘度と剪断速度の結果(図14(f))と併せ、濃度が高いほど、粘度が高いことを示していたが、これは高い濃度においてはステアリン酸パラミロンサクシネートのポリマーの絡み合いが劇的に増加するからである。
本発明者は、ステアリン酸カードランサクシネート(3g、3h)を含有する高濃度の水溶液の粘度を測定した。測定結果を図19、図20に示す。ステアリン酸カードランサクシネートを含有する水溶液の粘度と、対応するパラミロン誘導体を含有する水溶液の粘度との比較は、高いDSlac値を有する多糖(3f、3h)は共に、同様の粘度−剪断速度の関係(図14(f)、図20)を示したが、低いDSlac値を有するパラミロン誘導体(3e)は、対応するカードラン誘導体(3g)よりもかなり低い粘度を示した(図14(e)、図19)。この相反する結果は、あるDSlac値よりも高い置換度の長鎖アシル基に起因する架橋が、短いポリマー鎖に起因する少ない絡み合いを補い、粘度の増加に寄与することを示唆している。
本発明者は、商業的に入手可能なサクシノグリカンの水溶液の粘度測定も行った。サクシノグリカンは、8つの糖からなる繰り返し構造中に、コハク酸残基ひとつに加え、ピルビン酸残基ひとつを有しており、そのカルボキシル基の置換度は0.25である。構造上の重要な相違は、パラミロンサクシネートはブドウ糖側鎖を有していないのに対し、サクシノグリカンはブドウ糖側鎖を有している点にある。図21は、3つの異なる濃度(▲:0.5重量%、○:1.0重量%、□:1.5重量%)のサクシノグリカン水溶液の粘度−剪断速度の関係を示している。明らかに、ステアリン酸パラミロンサクシネート(3f)と同様、濃度の上昇と共に粘度が上昇しており(図14(f)、図16)、粘度の桁数も3fと同等である。これらの結果は、パラミロンサクシネートがサクシノグリカンと同様の粘度を有していることを示唆している。
以前の実験結果(Carbohydrate Polymers, 98 (2013) p95 101)では、パラミロンサクシネートを含有する水溶液の粘度は、ナノファイバーの絡み合いに起因するものであり、本発明者は、本願において調製された多糖溶液の高い粘度も、ナノファイバーの構造に起因するものであると考えた。この推測を確認するため、本発明者はサクシニル化多糖(3a〜3h、4)を含有する水溶液を凍結乾燥し、走査型電子顕微鏡による観察を行った。図22(スケールバーの幅は、全て5μmである)に示す通り、凍結乾燥した全ての固体は、約100nm〜1000nmの範囲の直径の繊維状構造を有しており、そのサイズの相違は、凍結速度に起因していた。サクシニル化多糖を含有する水溶液の高い粘度が繊維の絡み合いに起因するという考えは、繊維状構造により確認された。
(多糖膜の調製)
アシル化パラミロンサクシネート(3a〜3f)から作製された膜の特徴は、透明度や平面度が高いというものであった(図23(a)〜(f))。反対に、ステアリン酸カードランサクシネート(3g、3h)から作製された膜は、ねじれており、不透明であった(図23(g)、(h))。図23(i)に示される、パラミロンサクシネート(4)から作製された膜は、アシル化パラミロンサクシネートから作製された膜と同様、透明度や平面度が高かった。成型された膜の熱重量分析の結果は、エタノールに湿潤した固体と同様のサーモグラムを示しており(図24)、約200℃までは温度の上昇と共に固体重量は徐々に減少し、その後約320℃までは急速に減少した。これらの結果は、成型膜は揮発性化合物を安定して含有していたことを示している。図25〜29に示される通り、アシル化パラミロンサクシネート(3a〜3f)から作製された膜と、パラミロンサクシネート(4)から作製された膜は、可視光領域で80%程度の透明度を有していた((a)〜(f)、(i))。これに対し、ステアリン酸カードランサクシネート(3g、3h)から作製された膜の透明度は低かった((g)、(h))。カードランベースの膜の奇妙な形は、恐らくステアリン酸カードランサクシネートの高い重合度に起因している。すなわち、膜が肉眼で確認できる程度の大きさの粒子状形態を有する多糖の凝集体を含む不透明な分散液から作製されていることを考慮すると、膜の製造工程がポリマー鎖の再構築を有しており、この再構築が過剰なエタノールの除去の終了前までに完了しなければならないことは明らかである。もしそうであるのなら、ステアリン酸カードランサクシネート(3g、3h)は、ステアリン酸パラミロンサクシネート(3e、3f)よりも再構成に長い時間を必要とし、その高い分子量のため、カードラン誘導体の再構成には蒸発時間が短すぎたものと思われる。本発明者は、この時間不足が膜の奇妙な形に起因したものと考えている。他に可能性のある理由として、ステアリン酸カードランサクシネート(3g、3h)が、他の誘導体よりも高いDSsuc値を有していることが挙げられる。手短に述べると、3g、3hの多量なサクシニル基が、多糖繊維の強力な絡み合いを引き起こしたが、これは過剰のエタノールの完全な除去の前の平坦なシートへの再構成には好ましくなかったものと思われる。詳細なメカニズムについてはまだ不明である。
エタノールに湿潤した固体から調製された膜は、機械的に強固なようであった。その機械的強度を測定するため、本発明者は膜に対し、引張試験を行った。鎖長が膜の機械的強度にどのように影響するか解明できるかも知れないとの期待から、検体は、ミリスチン酸パラミロンサクシネート(3b)から作製された膜、ステアリン酸パラミロンサクシネート(3f)から作製された膜、パラミロンサクシネート(4)から作製された膜とした。表1は、これらの膜の機械的強度を示している。明らかに、これらの膜の機械的強度に大きな相違はなく、このことは長鎖アシル基の導入は、粘度への効果ほど、膜の機械的強度には影響はないことを示している。膜の状態ではポリマーの動きは制限されているため、長鎖アシル基は最大の疎水性相互作用を達成するための位置をとることができず、膜の機械的強度に大きな差は出なかったのではないかと本発明者は考えている。
前述した通り、アシル化パラミロンサクシネートは、増粘性とシート形成能という特徴を有している。これらの特徴を組み合わせることにより、多糖誘導体にさらなる特徴を付与できるものと本発明者は考えた。本願に記載された増粘性は、繊維状ネットワーク中に水分子を含有することに本質的に起因する。よって本発明者は、膜がその形を維持したまま水を吸収するか(吸水能)を調べた。図30に示す通り、アシル化パラミロンサクシネート(3b)から作製された膜(a)は、水和後(b)も正方形の形を維持したまま、膨張した。定量的な評価を図31に示す。なお同様な水和現象は他のアシル化パラミロンサクシネートでも観察された。これらの膜は、その重量の300〜1000倍もの水を吸収した。この実験条件では化学構造と吸水性に明らかな相関は見られなかったが、パラミロンサクシネート(4)と他の(3a)〜(3h)とを比較すると、長鎖アシル基が吸水性を増加させていた。ステアリン酸カードランサクシネート(3g、3h)の高い吸水性は、膜構造の崩壊により引き起こされた表面積の増大に起因しているようであった。同じ方法を用い、天然に存在する典型的な吸水ポリマーであるアルギン酸ナトリウムの粉と、アルギン酸ナトリウムから作製された成型膜の吸水性についても、本発明者は調べた。本発明者は、この膜はパラミロンベースの膜よりも柔軟性が低く、壊れやすいことを見出した(図23(j))。アルギン酸ナトリウムの粉とその膜の吸水性の時間依存度の結果は、両者ともパラミロンベースの膜よりも吸水性が低いことを示していた(図31)。これらの結果は次の二点を示唆している。一点目は、アシル化パラミロンサクシネートは、アルギン酸ナトリウムよりも高い吸水性を示すことである。二点目は、アルギン酸ナトリウムの膜形状は、吸水性を示すのには、パラミロン誘導体よりも適してはいないということである。
Claims (10)
- 以下の式(I)で表されるパラミロン誘導体。
(式中、mは300〜3000の整数を表し、R2は以下の式(II)で表される基、以下の式(III)で表される基、または水素原子を表す。ただし、式(II)で表される基および式(III)で表される基は、それぞれ1つ以上含まれる。)
(式中、nは1〜25の整数を表す。)
(式中、Mはアルカリ金属を表す。) - 式(II)で表される基による置換度が、グルコースユニット一つに対し、0.01〜1.5である、請求項1に記載のパラミロン誘導体。
- 式(III)で表される基による置換度が、グルコースユニット一つに対し、0.1〜2.0である、請求項1または2に記載のパラミロン誘導体。
- mが500〜2800の整数である、請求項1から3のいずれか一項に記載のパラミロン誘導体。
- nが3〜21の整数である、請求項1から4のいずれか一項に記載のパラミロン誘導体。
- 重量平均分子量が1.0×105〜1.0×106である、請求項1から5のいずれか一項に記載のパラミロン誘導体。
- 請求項1から6のいずれか一項に記載のパラミロン誘導体を含有する水溶液。
- 請求項1から6のいずれか一項に記載のパラミロン誘導体を含有するシート。
- 吸水率がシートの重量に対し50〜1200重量%である、請求項8に記載のシート。
- 以下の式(IV)で表される化合物を無水コハク酸と反応させることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載のパラミロン誘導体の製造方法。
(式中、m1は300〜3000の整数を表し、R1は前記式(II)で表される基、または水素原子を表す。ただし、式(II)で表される基は1つ以上含まれる。)
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