JP2018188673A - セルロースナノファイバー分散体を用いた膜および分散体の製造方法 - Google Patents
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などを背景に、製造時の化石資源の使用量が少なく、廃棄時において低エネルギーで処理でき二酸化炭素の排出が少ない、環境に配慮された材料の利用が注目されている。こうした中、化石資源を原料とせず、一部または全部を天然の植物などを原料とするバイオマス資源由来の材料や、環境中で分解されて水と二酸化炭素になるポリ乳酸に代表される生分解性材料の積極利用が期待されている。
本発明に関わるセルロースナノファイバー分散体およびセルロース修飾体の製造方法は、少なくとも、酸化工程と、対イオン置換工程とを含む。さらに、溶媒置換工程、分散工程を含んでも構わない。
セルロースの酸化方法としては、原料となるセルロースにカルボキシル基を導入する方 法であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択される。たとえば、一般的に知られている水酸基からアルデヒドを経てカルボン酸に酸化させる方法から適宜選択することができる。その中でも、N−オキシル化合物を触媒として次亜ハロゲン酸塩や亜ハロゲン酸塩等を共酸化剤として用いる方法が好ましい。特に、触媒として2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペジニルオキシラジカル(TEMPO)を使用し、pHを調整しながら次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤、臭化ナトリウム等の臭化物を用いて処理するTEMPO酸化法では、反応媒体として有機溶媒を用いることなく完全に水中での反応であること、試薬の入手しやすさ、コスト、反応の安定性の点から好適である。
酸化処理後のセルロースの回収方法としては、(a)カルボキシル基が塩を形成したままろ別する方法、(b)反応液に酸を添加して系内を酸性下に調整し、カルボン酸としてろ別する方法、(c)有機溶媒を添加して凝集させた後にろ別する方法が挙げられる。その中でも、ハンドリング性や回収効率、廃液処理の観点から、(b)カルボン酸として回収する方法が好適である。また、後述する対イオン置換工程において、対イオンとして金属イオンを含有しないほうが副生成物の生成を抑制でき、置換効率に優れるため、カルボン酸として回収する方法が好ましい。
さらに回収したセルロースは洗浄を繰り返すことにより精製でき、触媒や副生成物を除去することができる。このとき、塩酸等を用いてpH3以下の酸性条件に調製した洗浄液で洗浄を繰り返した後に、純水で洗浄を繰り返すことにより、残存する金属イオン及び塩類の量を低減することができる。
次に、対イオン置換工程としては、カルボキシル基を導入したセルロースの懸濁液にアルカリを添加することにより実施される。アルカリの添加量としては、セルロースに導入されたカルボキシル基に対して0.8当量以上2当量以下であることが好ましい。特に、1当量以上1.8当量以下であると、過剰量のアルカリを添加することなく対イオン交換できるため、より好ましい。ここで、0.8当量未満でもセルロースをある程度分散させることは可能だが、分散処理により長時間・高エネルギーを要し、得られる繊維の繊維径も本発明のものより大きくなり、分散体の均質性が低下する。一方、2当量を超えると、過剰量のアルカリによる分解や分散媒への親和性が低下する場合があり好ましくない。
構造式(1)
上記構造式(1)中において、Mは窒素原子あるいはリン原子を表し、R1、R2、R3およびR4は水素原子または炭化水素基、あるいはヘテロ原子を含む炭化水素基を表す。
酸化処理にてカルボキシル基を導入したセルロースを分散体とする場合には、セルロースと分散媒を混合させて後述の方法を用いて分散処理することにより、セルロースを均質な分散体まで分散させることが可能となる。分散媒と混合させる前処理として、酸化処理したセルロースを溶媒置換することができる。ここで、セルロースの酸化工程において反応媒体が水であること、反応後の洗浄に用いる洗浄剤が主に水であることから、酸化処理後のセルロースは水を包含した湿潤状態として回収される。そのため、分散媒として水以外の有機溶媒を含む場合において、分散媒中に不純物となる水を除去する目的や、セルロースと分散媒を予め親和させ分散性を向上させる目的、或いは分散媒不溶成分を除去する目的により溶媒置換を行うことが好ましい。
分散工程により、カルボキシル基を導入したセルロースやセルロース修飾体がセルロースナノファイバーへと調製される。言い換えると、本発明においては、カルボキシル基を導入したセルロースやセルロース修飾体はセルロースナノファイバーに調製される段階より以前のセルロースの一形態として記載している。
以下の手順により、セルロース修飾体及びセルロースナノファイバー分散体の調製を行った。
セルロース:漂白クラフトパルプ(フレッチャー チャレンジ カナダ「Machenzie」)
TEMPO:市販品(東京化成工業社製、98%)
次亜塩素酸ナトリウム:市販品(和光純薬社製、Cl:5%)
臭化ナトリウム:市販品(和光純薬社製)
乾燥重量10gの漂白クラフトパルプを2Lのガラスビーカー中イオン交換水500ml中で一晩静置し、パルプを膨潤させた。ここにTEMPO0.1gと臭化ナトリウム1gを添加して攪拌し、パルプ懸濁液とした。さらに攪拌しながらセルロース重量当たり5mmol/gの次亜塩素酸ナトリウムを添加した。この際、約1Nの水酸化ナトリウム水溶液を添加してパルプ懸濁液のpHを約10.5に保持した。その後、2時間反応させ、エタノール10gを添加して反応を停止し、セルロースにカルボキシル基が導入された酸化セルロースを得た。なお、この際導入されたカルボキシル基は反応媒中に残存する反応試薬に由来するナトリウムイオンを対イオンとした塩を形成する。続いて0.5Nの塩酸を滴下してpHを2まで低下させた。ガラスフィルターを用いてセルロースをろ別し、さらに0.05Nの塩酸で3回洗浄してカルボキシル基をカルボン酸とした後に純水で5回洗浄し、固形分濃度20%の湿潤状態の酸化セルロースを得た。得られた酸化セルロースは、水酸化ナトリウムによる中和滴定からセルロースの乾燥重量当たりカルボキシル基量は1.6mmolと算出された。
上記により調製した酸化セルロースを固形分濃度5%となるよう水を加えて懸濁液とし、ここにアルカリ種として有機オニウム化合物である、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)を酸化セルロースのカルボキシル基量に対して1.0当量加えた。2時間攪拌した後ガラスフィルターを用いて酸化セルロースをろ別し、対イオン置換酸化セルロースを得た。
上記により対イオン置換した酸化セルロースを、置換溶媒となる有機溶媒としてエタノールを用いて溶媒置換した。すなわち体積分率において水と有機溶媒が2対1となるように混合した有機溶媒の水溶液に投入し、30分間攪拌した後にガラスフィルターを用いて酸化セルロースをろ別し回収した。続いて、同様にして水と有機溶媒が1対1とした有機溶媒の水溶液に投入して30分間攪拌してろ別し回収した後、有機溶媒にて3回洗浄・回収を繰り返すことにより有機溶媒を包含した酸化セルロースを得た。
溶媒置換した酸化セルロースを分散媒となる有機溶媒であるエタノールに加え、ミキサー(大阪ケミカル、アブソルートミル、14,000rpm)を用いて1時間処理することにより固形分濃度0.2%のセルロースナノファイバー分散体を得た。得られた分散体の660nmにおける光線透過率は94%を示した。また、このときのセルロース繊維の繊維幅は5nmであった。
実施例1と同様にして、対イオン置換工程において使用するアルカリ種を変更した他は同様の条件にてセルロースナノファイバー分散体を調製した。有機オニウム化合物の種類は表1に示した。(但し、略称は以下化合物を示す。TEAH:水酸化テトラエチルアンモニウム、TPAH:水酸化テトラプロピルアンモニウム、TBAH:水酸化テトラブチルアンモニウム、TBPH:水酸化テトラブチルホスホニウム)
実施例1と同様にして、溶媒置換工程及び分散工程において使用する有機溶媒を変更したほかは同様の条件にてセルロースナノファイバー分散体を調製した。有機溶媒の種類は表1に示した。
実施例1と同様にして、溶媒置換工程を経ず、分散工程における分散媒を水に変更したほかは同様の条件にてセルロースナノファイバー分散体を調製した。
実施例1と同様にして、酸化工程を経ない原料セルロースを用いた他は同様の条件にてセルロースナノファイバー分散体を調製した。
実施例1と同様にして、酸化工程において酸を用いてカルボン酸に変換することなくカルボン酸塩として水のみにより洗浄を行い、溶媒置換工程及び分散工程において使用する有機溶媒を水に変更したほかは同様の条件にてセルロースナノファイバー分散体を調製した。
実施例1と同様にして、酸化工程において酸を用いてカルボン酸に変換することなくカルボン酸塩として水のみにより洗浄する他は同様の条件にてセルロースナノファイバー分散体を調製した。
実施例1と同様にして、対イオン置換工程を経ない他は同様の条件にてセルロースナノファイバー分散体を調製した。
実施例8と同様にして、対イオン置換工程を経ない他は同様の条件にてセルロースナノ
ファイバー分散体を調製した。
実施例1と同様にして、対イオン置換工程及び溶媒置換工程を経ない他は同様の条件にてセルロースナノファイバー分散体を調製した。
実施例1と同様にして、対イオン置換工程においてアルカリ種として水酸化ナトリウム(NaOH)を用いる他は同様の条件にてセルロースナノファイバー分散体を調製した。
実施例1と同様にして、溶媒置換工程を経ない他は同様の条件にてセルロースナノファイバー分散体を調製した。
実施例1〜8、比較例1〜8、及び参考例について、評価結果を表2及び表3に示した。
酸化工程において得られた酸化セルロースについて、含有されるカルボキシル基量は以下の方法にて算出した。酸化工程を経たセルロースの乾燥重量換算0.2gをビーカーにとり、イオン交換水80mlを添加する。そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mlを加え、攪拌させながら0.1M塩酸を加えて全体がpH2.5となるように調整した。ここに自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、AUT−701)を用いて0.1M水酸化ナトリウム水溶液を0.05ml/30秒で注入し、30秒毎の電導度とpH値を測定し、pH11まで測定を続けた。得られた電導度曲線から水酸化ナトリウムの滴定量を求め、カルボキシル基の含有量を算出した。
分散工程を経て得られたセルロースナノファイバー分散体について、UV−vis分光光度計(島津製作所社製、UV3600)を用いて光透過率を測定した。予め固形分濃度0.2%に調製したセルロースナノファイバー分散液を10mm角の石英セルに気泡が入らないように充填し、660nmにおける光線透過率を求めた。測定結果を表2に示した。
分散工程を経て得られたセルロースナノファイバー分散体を用いて、PET基材にバーコーターを用いて塗工し、40℃1時間加熱して約0.1μm厚の塗工膜を形成した。塗工膜の接触角を接触角計(協和界面科学社製、PCA−1)を測定した。なお、評価液としては純水を用い、塗工膜表面に付着した液滴の濡れ性を評価した。測定結果を表3に示した。
分散工程を経て得られたセルロースナノファイバー分散体を用いて、ガラス基板上に展開して60℃で4日間乾燥させ、10μm厚の自立膜を形成した。この自立膜を5mm幅、50mm長さの短冊状に切り出し、恒温恒湿槽付き引張試験機(テスター産業社製、TE−7001)にて温度40℃、相対湿度30%及び、温度40℃、相対湿度90%の環境下で引張り強度を測定した。測定結果を表4に示した。
Claims (6)
- セルロースナノファイバー分散体を用いた膜であって、
セルロースナノファイバーのカルボキシル基の含有量がセルロースナノファイバーの乾燥重量あたり0.1mmol以上3.0mmol以下であり、該カルボキシル基の対イオンとして有機オニウムイオンを含み、セルロースナノファイバーの繊維幅が2nm以上200nm以下であり、該膜の接触角が88.3°以上であるセルロースナノファイバー分散体を用いた膜。 - 40℃90RHでの引張強度が110MPa以上である請求項1に記載のセルロースナノファイバー分散体を用いた膜。
- さらに樹脂を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセルロースナノファイバー分散体を用いた膜。
- 請求項1から請求項3の何れかに記載のセルロースナノファイバー分散体を用いた膜の製造方法であって、
セルロースを酸化することによりカルボキシル基を導入する酸化工程と、
該酸化工程で得られたカルボキシル基を有するセルロースを有機オニウム化合物を用いて対イオンを有機オニウムイオンに置換する対イオン置換工程と、
該対イオン置換工程で得られたセルロースを有機溶媒によって溶媒置換する溶媒置換工程と、該溶媒置換工程で得られたセルロースを分散媒中で分散処理する分散工程と、
を含み、前記分散工程において、カルボキシル基を導入したセルロースやセルロース修飾体は、セルロースナノファイバーに調製されることを特徴とするセルロースナノファイバー分散体の製造方法。 - 前記酸化工程において、酸化処理にて導入したカルボキシル基を酸を用いてカルボン酸として、セルロースを回収することを特徴とする請求項4に記載のセルロースナノファイバー分散体の製造方法。
- 前記溶媒置換工程において、用いる溶媒が前記分散媒として用いる溶媒を含むことを特徴とする請求項4または5に記載のセルロースナノファイバー分散体の製造方法。
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