JP5381338B2 - セルロースナノファイバーの製造方法 - Google Patents
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本発明で用いるN−オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。例えば、本発明で使用されるN−オキシル化合物としては、下記一般式(式1)で示される物質が挙げられる。
セルロース系原料の酸化の際に用いる臭化物またはヨウ化物としては、水中で解離してイオン化可能な化合物、例えば、臭化アルカリ金属やヨウ化アルカリ金属などを使用することができる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。例えば、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.1〜100mmol、好ましくは0.1〜10mmol、さらに好ましくは0.5〜5mmol程度を用いることができる。
セルロース系原料の酸化の際に用いる酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物など、目的の酸化反応を推進し得る酸化剤であれば、いずれの酸化剤も使用できる。中でも、ナノファイバー生産コストの観点から、現在工業プロセスにおいて最も汎用されている安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムが、特に好適である。酸化剤の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。例えば、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.5〜500mmol、好ましくは0.5〜50mmol、さらに好ましくは2.5〜25mmol程度を用いることができる。
本発明で用いるセルロース系原料は特に限定されるものではなく、各種木材由来のクラフトパルプ又はサルファイトパルプ、それらを高圧ホモジナイザーやミル等で粉砕した粉末セルロース、あるいはそれらを酸加水分解などの化学処理により精製した微結晶セルロース粉末などを使用することができる他、ケナフ、麻、イネ、バカス、竹等の植物を使用することもできる。このうち、漂白済みクラフトパルプ、漂白済みサルファイトパルプ、粉末セルロース、または微結晶セルロース粉末を用いることが量産化やコストの観点から好ましい。また、粉末セルロース及び微結晶セルロース粉末を用いると、高濃度であってもより低い粘度を有するセルロースナノファイバー分散液を製造することができるから、とりわけ好ましい。
本発明の方法は温和な条件であっても酸化反応を円滑に進行させることができるという特色がある。そのため、反応温度は15〜30℃程度の室温であってもよい。なお、反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHの低下が認められる。酸化反応を効率良く進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加することにより、反応液のpHを9〜12、好ましくは10〜11程度に維持することが望ましい。酸化反応における反応時間は、適宜設定することができ、特に限定されないが、例えば、0.5〜4時間程度である。
本発明では、N−オキシル化合物を用いて得られた酸化されたセルロース系原料に、酸を添加し、該原料を加水分解処理する(酸加水分解処理)。本発明の酸加水分解処理で使用する酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、もしくはリン酸のような鉱酸を使用することが好ましい。
本発明では、酸化されたセルロース系原料に酸を添加して加水分解処理した後、解繊・分散処理する。解繊・分散装置の種類としては、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの装置が挙げられるが、透明性と流動性に優れるセルロースナノファイバー分散液を効率よく得るには、50MPa以上、好ましくは100MPa以上、さらに好ましくは140MPa以上の条件下で分散できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーで処理することが好ましい。
本発明により製造されるセルロースナノファイバーは、幅2〜5nm、長さ1〜5μm程度のセルロースのシングルミクロフィブリルである。本発明において、「ナノファイバー化する」とは、セルロース系原料を、幅2〜5nm、長さ1〜5μm程度のセルロースのシングルミクロフィブリルであるセルロースナノファイバーへと加工することを意味する。
本発明では、N−オキシル化合物を用いて酸化されたセルロース系原料に酸を添加して加水分解処理し、次いで解繊・分散処理することで、高濃度であっても流動性と透明性に優れているセルロースナノファイバー分散液を低い消費電力量で得ることができる。その理由は、以下のように推察される。N−オキシル化合物を用いて酸化されたセルロース系原料の表面にはカルボキシル基が局在しており、水和層が形成されている。そのため、該原料同士の間には、カルボキシル基同士の電荷反発力の作用で、通常のパルプでは見られない微視的隙間が存在すると考えられる。そして、該原料を酸加水分解処理することによりセルロース鎖が効率よく分解され、最終的にセルロース系原料の短繊維化が促進されると考えられる。セルロース系原料の短繊維化により、次工程での解繊・分散処理における分散液のB型粘度が顕著に低下し、分散液の流動性が向上すると考えられる。また、セルロース系原料の短繊維化により、透明性に優れたセルロースナノファイバー分散液が得られると考えられる。
針葉樹由来の漂白済み未叩解サルファイトパルプ(日本製紙ケミカル社)5g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)78mg(0.5mmol)と臭化ナトリウム754mg(7.4mmol)を溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで攪拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素5%)18ml添加した後、0.5N塩酸水溶液でpHを10.3に調整し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHは低下するが、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。2時間反応した後、ガラスフィルターで濾過し、十分に水洗することで酸化パルプを得た。酸化パルプに0.1Nの塩酸水溶液を加えて(塩酸の添加量:パルプ絶乾質量に対して0.1質量%)、pH2.8の5%(w/v)パルプスラリーを調製し、90℃で2時間酸加水分解処理した。酸加水分解処理した酸化パルプを水洗し、0.1N水酸化ナトリウム水溶液で中和した後、超高圧ホモジナイザー(140MPa)で10回処理したところ、透明なゲル状分散液が得られた。得られた1%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液のB型粘度(60rpm、20℃)をTV−10型粘度計(東機産業社)を用いて測定し、0.1%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液の透明度(660nm 光の透過率)をUV−VIS分光光度計 UV−265FS(島津製作所社)を用いて測定し、解繊・分散処理に要した消費電力を(処理時における電力)×(処理時間)÷(処理したサンプル量)により求めた。結果を表1に示す。
塩酸の添加量をパルプ絶乾質量に対して0.3質量%とし、pH2.4で加水分解処理を行った以外、実施例1と同様にしてナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
酸加水分解処理しない以外、実施例1と同様にしてナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
実施例1により製造した1%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み20μm)片面に、手塗り専用のバー(バーNo.16)で塗工し、50℃で乾燥させてフィルムを形成した。フィルムの厚みは約7.6μmであった。
実施例2により製造した1%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み20μm)片面に、手塗り専用のバー(バーNo.16)で塗工し、50℃で乾燥させてフィルムを形成した。フィルムの厚みは約6.9μmであった。
比較例1により製造した1%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液を、B型粘度900mPa・s(60rpm、20℃)となるように濃度を調整した。このときのセルロースナノファイバー濃度は、0.88%(w/v)であった。この分散液を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み20μm)片面に、手塗り専用のバー(バーNo.16)で塗工し、50℃で乾燥させてフィルムを形成した。フィルムの厚みは約3.6μmであった。実施例1と同じ厚さである7.6μmのフィルムを形成させるためには、塗布と乾燥を少なくとも2回繰り返す必要があった。
Claims (5)
- (A)(1)N−オキシル化合物、及び、(2)臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で、酸化剤を用いてセルロース系原料を酸化すること、
(B)前記(A)からのセルロース系原料に、酸を添加して加水分解処理すること、及び、
(C)前記(B)からのセルロース系原料を解繊・分散処理することによりナノファイバー化すること、
を含む、セルロースナノファイバーの製造方法。 - 前記酸が、硫酸、塩酸、硝酸、またはリン酸であることを特徴とする、請求項1に記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
- 前記酸の添加量が、前記(A)からのセルロース系原料の絶乾質量に対して0.01〜0.5質量%である、請求項1または2に記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
- 前記加水分解処理を、pH2〜4の条件下で行うことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
- 前記解繊・分散処理が、50MPa以上の圧力下で行われることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
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