JP6607295B2 - セルロースナノファイバー分散体を用いた膜および分散体の製造方法 - Google Patents

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本発明は、セルロースを出発原料とした材料の機能化におけるセルロースナノファイバー分散体を用いた膜に関する。
近年、資源の枯渇や大気の二酸化炭素濃度の増加による温暖化や環境汚染、廃棄物問題
などを背景に、製造時の化石資源の使用量が少なく、廃棄時において低エネルギーで処理でき二酸化炭素の排出が少ない、環境に配慮された材料の利用が注目されている。こうした中、化石資源を原料とせず、一部または全部を天然の植物などを原料とするバイオマス資源由来の材料や、環境中で分解されて水と二酸化炭素になるポリ乳酸に代表される生分解性材料の積極利用が期待されている。
バイオマス材料の中でもその生産量の約半分を占めるセルロースは、その生産量の多さから有効利用が期待されている。さらに、高強度、高弾性率、極めて低い熱膨張係数を有しており、耐熱性に関して記述すると、ガラス転移点を持たず、230度と高い熱分解温度を示す。
ところが、セルロースはその多量な生産量に対して材料としての利用が多いとは言えない。その理由の一つに水系や非水系溶媒への溶解性・分散性の低さがある。セルロースはブドウ糖の6員環であるD−グルコピラノースがβ−(1→4)グルコシド結合したホモ多糖であり、C2位、C3位、C6位に水酸基を持つ。そのため、分子内、分子間に強固な水素結合を形成しており、水や一般的な溶媒に対して溶解しない。
最も一般的なセルロースの利用法の一つにカルボキシメチル化がある。カルボキシル基がC2位、C3位、C6位の水酸基にランダムに導入され、その置換度により多置換度では水溶性で増粘剤として利用できるものから、低置換度では不溶性のカルボキシメチル化セルロース繊維と多様な材料が得られる。しかし、セルロースのカルボキシメチル化反応では多量の有機溶媒を使用し、毒性のあるモノクロロ酢酸を用いているため、環境汚染や廃液処理などへの問題がある。また、導入されるカルボキシル基は水酸基の位置に区別がないため、生成物は不均一な化学構造となる。
一方、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカル(TEMPO)をはじめとするN−オキシル化合物を触媒とした酸化反応を用いてセルロースを処理し、処理度を調整すると水中での軽度な分散処理により均質な分散体が得られる。この際、セルロースはミクロフィブリルレベルまで解繊され、幅数nm〜数百nmに分散したセルロースナノファイバー分散体として存在する。さらに、このTEMPO酸化反応では有機溶媒は使用せず水のみを反応媒として用い、常温・常圧の温和な条件下、短時間で反応が完了するなど反応プロセスの環境適応性が極めて高い。
TEMPO酸化反応により得られた酸化セルロースが軽度な機械的な処理によりナノレベルまで分散するメカニズムとしては、以下のように知られている。酸化反応によりセルロースのミクロフィブリル表面のC6位の水酸基が選択的に酸化され、アルデヒド基を経由してカルボキシル基が導入される。このカルボキシル基がアニオンとして荷電反発し、分散媒中で浸透圧効果を示すため、ナノオーダーのミクロフィブリルが孤立しやすくなり、均質なセルロースナノファイバー分散体として得られる。さらに、セルロースに導入したカルボキシル基の静電的な作用を利用して、対イオンとしてカチオン性を有する様々な塩を形成することにより、特性の異なるセルロース修飾体を得ることができる。本処理では原料セルロースの結晶性を壊すことなく保持できるため、高い物理特性を有する。
このように、セルロースをナノ分散体や液体状態、修飾体として用いることができ、また環境への負荷が低く、さらに高い物理特性を有するため、TEMPO酸化反応による処理及び酸化物はセルロースの新たな利用形態として期待されている。
工業的利用として盛んに開発が進められている一例として、樹脂との複合化がある。樹脂中にセルロース分散体を混合することにより、セルロースの軽量、高強度、高弾性率、低線熱膨張係数、高耐熱性を利用した樹脂の高機能化を目的とするものである。この際の機能性向上の重要な要素として、樹脂中でのセルロースナノファイバーの分散性が挙げられている。セルロースナノファイバーが偏在または凝集していると、セルロースナノファイバー混合の効果が顕著に低下することが知られている。
そこで、疎水性を有する樹脂との親和性を高め分散性を向上させるため、親水性であるセルロースナノファイバーを疎水化処理する方法が開発されてきた。
例えば、特許文献1では、TEMPO酸化反応により得られた酸化セルロースを分散させナノファイバーとした後に、酸を添加して凝集させゲルとして取り出す。これを有機溶媒に添加してゲル中の水を溶媒置換した後、有機溶媒に溶解させたアルカリを作用させ、さらなる溶媒置換を繰り返した後に分散処理することで有機溶媒を包含した疎水性のセルロースナノファイバー分散体を得る方法が示されている。しかし、本方法を用いるには多段階の溶媒置換工程を経なければならず、またゲルを回収するハンドリングが煩雑であるなど工業的には不適である。
また、特許文献2では、TEMPO酸化反応により得られた酸化セルロースを有機アルカリでpH調整したものを水または有機溶媒中で分散させる方法が示されている。しかし、本方法では分散媒を基本的に水として捕らえ、水を含む有機溶媒を用いることを可能としている。水を包含したセルロース繊維分散液では、乾燥効率が低く、生産性を向上することが困難である。さらに、乾燥過程においては有機溶媒分が先に蒸発して除去され、結果的に水分散体と同様の特性としてセルロース繊維が本来の親水性を維持したままとなり、アルカリとして有機アルカリを用いて改質する効果を十分に発揮させることが難しい。
国際公開第2013/077354号 国際公開第2011/111612号
本発明は以上のような背景技術を考慮してなさられたもので、天然資源の産業利用を促進し、利用用途を拡大するための方法を提供することを課題とする。特に、高い親水性を有するセルロースを処理を経て有機溶媒との親和性を向上させ分散可能とすることにより、汎用性を格段に改善することができる。
上記の課題を解決するための手段として、本発明に係る実施の形態は、セルロースナノファイバー分散体を塗工した膜であって、セルロースナノファイバーのカルボキシル基の含有量がセルロースナノファイバーの乾燥重量あたり0.1mmol以上3.0mmol以下であり、該カルボキシル基の対イオンとして有機オニウムイオンを含み、セルロースナノファイバーの繊維幅が2nm以上200nm以下であり、該膜の接触角が88.3°以上であるセルロースナノファイバー分散体を塗工した膜である。
上述した膜がさらに樹脂を含むことを特徴とするセルロースナノファイバー分散体を塗工した膜である。
さらには、セルロースを酸化することによりカルボキシル基を導入する酸化工程と、該酸化工程で得られたカルボキシル基を有するセルロースを有機オニウム化合物を用いて対イオンを有機オニウムイオンに置換する対イオン置換工程と、該対イオン置換工程で得られたセルロースを有機溶媒によって溶媒置換する溶媒置換工程と、該溶媒置換工程で得られたセルロースを分散媒中で分散処理する分散工程と、を含み、前記分散工程において、カルボキシル基を導入したセルロースやセルロース修飾体は、セルロースナノファイバーに調製される工程と、前記セルロースナノファイバーを基材に塗工し、膜を形成することを特徴とするセルロースナノファイバー分散体を塗工した膜の製造方法である。
本発明によれば、天然資源の産業利用を促進し、利用用途を拡大するための方法を提供することができる。本方法によると、高い親水性を有するセルロースを処理を経て有機溶媒との親和性を向上させ分散可能とすることにより、汎用性を格段に改善することができる。
本発明における分散体の製造方法の概略図である。
以下、本発明の一実施形態について説明する。
(セルロースナノファイバー分散体の製造方法)
本発明に関わるセルロースナノファイバー分散体およびセルロース修飾体の製造方法は、少なくとも、酸化工程と、対イオン置換工程とを含む。さらに、溶媒置換工程、分散工程を含んでも構わない。
本発明に用いるセルロースを出発原料とした材料としては、天然セルロースまたは化学変成したセルロースを用いることが出来る。具体的には、漂白及び未漂白クラフト木材パルプ、前加水分解済みクラフト木材パルプ、亜硫酸木材パルプ等の木材を原料としたパルプ、あるいは綿やバクテリアセルロース等非木材パルプ、並びにこれらの混合物を用いることができ、これらを物理的、化学的処理した物質の何れを用いてもよい。好適には、結晶形I型を有する天然セルロースが望ましい。
<酸化工程>
セルロースの酸化方法としては、原料となるセルロースにカルボキシル基を導入する方 法であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択される。たとえば、一般的に知られている水酸基からアルデヒドを経てカルボン酸に酸化させる方法から適宜選択することができる。その中でも、N−オキシル化合物を触媒として次亜ハロゲン酸塩や亜ハロゲン酸塩等を共酸化剤として用いる方法が好ましい。特に、触媒として2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペジニルオキシラジカル(TEMPO)を使用し、pHを調整しながら次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤、臭化ナトリウム等の臭化物を用いて処理するTEMPO酸化法では、反応媒体として有機溶媒を用いることなく完全に水中での反応であること、試薬の入手しやすさ、コスト、反応の安定性の点から好適である。
TEMPO酸化法においては、結晶性のセルロースミクロフィブリルの表面のみを酸化し、結晶内部には酸化が起こらないため、結晶構造を維持できる。そのため、生成物はセルロース本来の高強度、高弾性率、低線熱膨張係数、高耐熱性の特性を有する。
上述のTEMPO酸化法による酸化処理は次の手順で行われる。
水中で分散させたセルロースにN−オキシル化合物と酸化剤や共酸化剤を添加してセルロースの酸化を行う。酸化反応中に水酸化ナトリウムを添加し、反応系内のpHを9から11に制御する。反応温度は0℃以上40℃以下が好適である。この時、セルロース繊維表面のC6位の水酸基がカルボキシル基に酸化される。反応終了後、十分水洗して回収し、本発明における構成材料として用いることが出来る。
なお、酸化剤としては、次亜ハロゲン酸又はその塩、亜ハロゲン酸又はその塩が使用でき、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。臭化物としては、臭化リチウム、臭化カリウム、臭化ナトリウム等が挙げられ、取り扱いの簡便さから臭化ナトリウムが好ましい。
セルロースに導入されるカルボキシル基の含有量は、反応条件を適宜設定することにより調整可能である。カルボキシル基が導入されたセルロースは、後述する分散工程を経てカルボキシル基の荷電反発により分散媒中に分散することから、セルロース中のカルボキシル基の含有量が少なすぎると安定的に分散媒中に分散させることができない。また、セルロース中のカルボキシル基の含有量が多すぎると、分散媒への親和性が増大し耐水性が低下する。これらの観点から、セルロースに導入されるカルボキシル基の含有量は、好ましくは乾燥重量当たり0.1mmol以上3mmol以下、さらに0.6mmol以上2.5mmol以下がより好ましい。
なお、セルロースに含有されるカルボキシル基量は以下の方法にて算出される。酸化処理したセルロースの乾燥重量換算0.2gをビーカーにとり、イオン交換水80mlを添加する。そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mlを加え、攪拌させながら0.1M塩酸を加えて全体がpH2.0となるように調整した。ここに自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、AUT−701)を用いて0.1M水酸化ナトリウム水溶液を0.05ml/30秒で注入し、30秒毎の電導度とpH値を測定し、pH11まで測定を続けた。得られた電導度曲線から水酸化ナトリウムの滴定量を求め、カルボキシル基含有量を算出することができる。
酸化反応の停止により酸化工程を終了した後、生成物をろ過により反応液中から回収する。反応終了後はセルロースに導入されたカルボキシル基は、反応媒中に存在するカチオンに由来する金属イオンを対イオンとした塩を形成する。
酸化処理後のセルロースの回収方法としては、(a)カルボキシル基が塩を形成したままろ別する方法、(b)反応液に酸を添加して系内を酸性下に調整し、カルボン酸としてろ別する方法、(c)有機溶媒を添加して凝集させた後にろ別する方法が挙げられる。その中でも、ハンドリング性や回収効率、廃液処理の観点から、(b)カルボン酸として回収する方法が好適である。また、後述する対イオン置換工程において、対イオンとして金属イオンを含有しないほうが副生成物の生成を抑制でき、置換効率に優れるため、カルボン酸として回収する方法が好ましい。
なお、酸化反応後のセルロース中の金属イオン含有量は、様々な分析方法で調べることができ、たとえば、電子線マイクロアナライザーを用いたEPMA法、蛍光X線分析法の元素分析によって簡易的に調べることができる。塩を形成したままろ別する方法を用いて回収した場合、金属イオンの含有率が5wt%以上であるのに対し、カルボン酸としてからろ別する方法により回収した場合、1wt%以下となる。
さらに回収したセルロースは洗浄を繰り返すことにより精製でき、触媒や副生成物を除去することができる。このとき、塩酸等を用いてpH3以下の酸性条件に調製した洗浄液で洗浄を繰り返した後に、純水で洗浄を繰り返すことにより、残存する金属イオン及び塩類の量を低減することができる。
<対イオン置換工程>
次に、対イオン置換工程としては、カルボキシル基を導入したセルロースの懸濁液にアルカリを添加することにより実施される。アルカリの添加量としては、セルロースに導入されたカルボキシル基に対して0.8当量以上2当量以下であることが好ましい。特に、1当量以上1.8当量以下であると、過剰量のアルカリを添加することなく対イオン交換できるため、より好ましい。ここで、0.8当量未満でもセルロースをある程度分散させることは可能だが、分散処理により長時間・高エネルギーを要し、得られる繊維の繊維径も本発明のものより大きくなり、分散体の均質性が低下する。一方、2当量を超えると、過剰量のアルカリによる分解や分散媒への親和性が低下する場合があり好ましくない。
このとき、セルロースの懸濁液のpHをアルカリを用いてpH4以上pH12以下の範囲に調整することが好ましい。特に、pHをpH7以上pH12以下のアルカリ性とし、添加したアルカリとカルボン酸塩を形成する。これにより、カルボキシル基同士の荷電反発が起こりやすくなるため、分散性が向上しセルロースナノファイバー分散体が得やすくなる。ここで、pH4未満でも機械的分散処理によりセルロースを分散させることは可能であるが、アルカリの添加量が過少である場合と同様の理由により分散体の均質性が低下する。一方、pH12を超えると分散処理中に酸化セルロースのピーリング反応やアルカリ加水分解による低分子量化や、末端アルデヒドや二重結合形成に伴い分散体の黄変が促進されるため、力学強度や均質性が低下する。
懸濁液のpHを調整するアルカリは、有機オニウム化合物を用いることができる。有機オニウム化合物としては、下記構造式(1)で示されるカチオン構造を有するものである。
構造式(1)


上記構造式(1)中において、Mは窒素原子あるいはリン原子を表し、R1、R2、R3およびR4は水素原子または炭化水素基、あるいはヘテロ原子を含む炭化水素基を表す。
例えば、Mとして窒素元素であり、R1、R2、R3およびR4が全て水素原子の場合としてアンモニアを用いることもできる。また、R1、R2、R3およびR4が炭化水素基である場合、アルキル基、アラルキル基、芳香族基等を挙げることができる。アルキル基としては、炭素数1〜18のアルキル基が好ましく、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ドデシル、n−トリデシル、n−テトラデシル、n−ペンタデシル、n−ヘキサデシル、n−ヘプタデシル、n−オクタデシルなどを用いることができる。アラルキル基としては、炭素数7〜20が好ましく、ベンジル基、o−トルイルメチル基、m−トルイルメチル基、p−トルイルメチル基、2−フェニルエチル基、1−ナフチルメチル基、2−ナフチルメチル基などが挙げられる。また、芳香族基としては、炭素数6〜20が好ましく、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、トシル基などが挙げられる。また、R1、R2、R3およびR4はヘテロ原子を含む炭化水素基であってもよく、R1、R2、R3およびR4が環を形成しても良い。また、有機オニウム化合物のカチオン構造の対イオンとしては限定されないが、金属イオンの混入が悪影響する場合や分散媒への分散性などを鑑み、水酸化物イオンが好適である。
上述のようにアルカリとして有機オニウム化合物を用いて得られたセルロース修飾体は、金属イオンを対イオンとする無機アルカリを用いた場合よりも低エネルギー、短時間で分散処理を行うことができ、かつ最終的に到達する分散体の均質性も高い。これは、有機オニウム化合物を用いた方が対イオンのイオン径が大きいため、分散媒中で微細セルロース繊維同士をより引き離す効果が大きいためと考えられる。さらに、分散媒として有機オニウム化合物を含むと、無機アルカリに比べ分散液の粘度とチキソ性を低下させることができ、分散処理のし易さと、その後のハンドリングにおいて有利になる。通常、セルロースナノファイバー分散体はゲル状となり、高濃度化するに従い粘度が上昇するため、分散処理において大きなエネルギーが必要となり、分散処理が困難になってくるが、有機オニウム化合物を用いると分散液の粘度が低下するため、分散処理が容易になる。有機オニウム化合物と溶媒の組み合わせにより、分散液の粘度特性を調整することが可能であり、産業上の適用範囲が格段に増大する。
<溶媒置換工程>
酸化処理にてカルボキシル基を導入したセルロースを分散体とする場合には、セルロースと分散媒を混合させて後述の方法を用いて分散処理することにより、セルロースを均質な分散体まで分散させることが可能となる。分散媒と混合させる前処理として、酸化処理したセルロースを溶媒置換することができる。ここで、セルロースの酸化工程において反応媒体が水であること、反応後の洗浄に用いる洗浄剤が主に水であることから、酸化処理後のセルロースは水を包含した湿潤状態として回収される。そのため、分散媒として水以外の有機溶媒を含む場合において、分散媒中に不純物となる水を除去する目的や、セルロースと分散媒を予め親和させ分散性を向上させる目的、或いは分散媒不溶成分を除去する目的により溶媒置換を行うことが好ましい。
対イオン置換工程の前に酸化セルロースを有機溶媒にて溶媒置換することも可能だが、包含された水が排除されることによりカルボキシル基の荷電反発が遮蔽されたり、カルボン酸の場合に荷電反発を生じないことからセルロースが凝集してしまい、その後の分散工程に悪影響が出る場合がある。そこで、有機溶媒にて溶媒置換する際、セルロースのカルボキシル基の対イオンを所望の有機オニウムイオンとして対イオン置換したセルロース修飾体を用いることが好ましい。溶媒置換後においてもカルボキシル基による荷電反発を維持出来るため、セルロースの繊維の凝集を抑制することができる。さらに、有機オニウムイオンを配位することにより有機溶媒との親和性が向上し、水を排出しやすく溶媒置換を効率的に行うことができる。
溶媒置換する方法としては、溶媒置換する有機溶媒や、用いる有機オニウム化合物の特性、その他所望の特性に応じて適宜選択される。酸化処理し洗浄したセルロースを有機オニウム化合物により対イオン置換した後に脱水或いは乾燥したものを用いてもよく、酸化処理し洗浄したセルロースを脱水或いは乾燥した後に有機オニウム化合物を用いても良い。ここで、脱水方法についての限定はなく、遠心分離機や各種フィルタなど適宜選択することができる。また、乾燥方法についての限定はなく、熱風乾燥、赤外線乾燥、真空乾燥、凍結乾燥など適宜選択することができ、乾燥に伴う凝集や熱によるセルロースの劣化等を抑制する目的で、各種溶剤や添加剤を適宜添加することができる。さらに、有機オニウムイオンとして対イオン置換したセルロース修飾体は、溶媒置換する有機溶媒中に直接投入してもよく、水を含む有機溶媒中に投入して順次溶媒置換してもよい。
溶媒置換に用いる有機溶媒としては、セルロース繊維の凝集や変性を生じない範囲において、目的に応じて適宜選択することができる。また、セルロースナノファイバー分散体を調製する際に使用される分散媒と同一であっても構わない。
<分散工程>
分散工程により、カルボキシル基を導入したセルロースやセルロース修飾体がセルロースナノファイバーへと調製される。言い換えると、本発明においては、カルボキシル基を導入したセルロースやセルロース修飾体はセルロースナノファイバーに調製される段階より以前のセルロースの一形態として記載している。
分散工程における分散処理の方法としては、既に知られている各種分散処理が可能である。例えば、ホモミキサー処理、回転刃つきミキサー処理、高圧ホモジナイザー処理、超高圧ホモジナイザー処理、超音波ホモジナイザー処理、ナノジナイザー処理、ディスク型レファイナー処理、コニカル型レファイナー処理、ダブルディスク型レファイナー処理、グラインダー処理、ボールミル処理、二軸混練機による混練処理、水中対向処理等がある。この中でも、微細化効率の面から回転刃つきミキサー処理、高圧ホモジナイザー処理、超高圧ホモジナイザー処理、超音波ホモジナイザー処理が好適である。なお、これらの処理のうち、二つ以上の処理方法を組み合わせて分散を行うことも可能である。
分散処理においてセルロースに導入されたカルボキシル基の有機オニウムイオンとして対イオン置換したセルロース修飾体を用いると、有機溶媒に対する親和性が高いため、分散媒としてアルコール等の有機溶媒を用いた際にも、セルロースナノファイバー分散体を調製することができる。さらに、必要に応じて、セルロース修飾体を有機溶媒中で分散処理したセルロースナノファイバー分散体に、分散処理後に水を添加することも可能である。また、予め溶媒置換することによってセルロース修飾体と分散媒との親和性を向上することができるため、水を含まない有機溶媒単体中でも凝集することなく均質なセルロースナノファイバー分散体を得ることができる。
分散媒として用いる有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、酢酸エチル、N、N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N、N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等が挙げられ、何れか1種、またはこれらの内何れかの2種類以上を混ぜたものが挙げられる。ここで、水酸化ナトリウム等の無機アルカリを用いると、溶媒中での分散処理や分散処理後の溶媒との混合は困難である。無機アルカリによる金属イオンを含んだセルロースナノファイバー分散体では、有機溶媒を添加するとセルロース繊維が凝集し、分散液の凝集白濁、不均一化を起してしまう。さらに、溶媒置換工程を経ずに水を含まない有機溶媒単体を分散媒として用いると、セルロースの繊維の凝集がより強く働き均質な分散体を得にくくなる。
また、分散媒として用いる有機溶媒の誘電率は25℃において15ε以上80ε以下であることが好ましい。誘電率が80ε(20℃)の水よりも、誘電率が高い物質は一般的利用において現実的ではない。また、誘電率が15εより低い場合には、セルロースが分散体として分散状態を保持できずに凝集してしまう。この一因として、セルロースのカルボキシル基の対イオンとして存在する有機オニウムイオンとカルボン酸のクーロン力が強くなり過ぎて、セルロース繊維の分散媒中での荷電反発が働かなくなることが挙げられる。
本方法によって本来親水性の高いセルロースが水を含まない有機溶媒中でナノファイバー状として分散し分散性を維持する原理としては、以下のように考えられる。まず、対イオン交換工程において用いる有機オニウムイオンの解離性が極めて高いことが挙げられる。さらに、有機オニウム化合物が有する炭化水素基が疎水的な相互作用を有する。これらの効果により、有機溶媒中でもイオンが解離し、酸化セルロースのカルボキシル基の電離と炭化水素基の浸透圧効果が働き、有機溶媒中での分散を可能としていると考えられる。
分散工程により得られたセルロースナノファイバー分散体の光路長10mmにおける660nmでの光線透過率は、セルロースナノファイバー分散体に含有されるセルロースナノファイバーの固形分濃度0.2%において分散媒をリファレンスとして85%以上であることが好ましい。上記の範囲内であれば、分散体が均質性に優れているということが示される。即ち、可視光領域である660nmにおいて光透過率が低い場合、試験光の透過を妨げるセルロースの繊維の凝集体が多数存在することを示唆する。光透過率の測定により、簡易的にセルロースの分散性を表す指標とすることができる。
なお、セルロースナノファイバー分散体の光線透過率は、セルロースナノファイバーの固形分濃度を調整した後に石英セルに充填し、分光光度計を用いて指定の波長における透過率を測定することにより求められる。また、セルロースナノファイバー分散体としてのセルロースの繊維幅は2nm以上200nm以下であることが好ましい。すなわち、繊維形状を維持するためには2nm以上が好ましく、200nm以下であれば光学透明性を有するために製品設計における自由度が向上する。なお、セルロースの繊維形状は、0.0001〜0.001wt%に調製したセルロースナノファイバー分散体を表面が平滑なマイカ等に展開して乾燥させ、SEMやAFM観察により確認することができる。
分散工程における分散媒に対するセルロースの繊維の固形分濃度は、分散処理において支障がない範囲において適宜調整することができ、分散処理後に濃縮処理を行っても構わない。濃縮方法については特に限定はないが、セルロース繊維の乾燥による凝集や分解反応による特性低下が問題にならない範囲において、遠心分離や減圧、真空蒸発等の方法を適宜選択することができる。
また、分散工程後のセルロースナノファイバー分散体に、凝集や沈殿を生じない範囲において、粘度調整や乾燥速度の調整、異種材料との親和性向上等を目的として、付加したい機能に応じて、水をはじめ、様々な有機溶媒を混合させることができる。このとき異種溶媒を混合することにより生じるショックを緩和するため、添加速度やpHの調整、攪拌方法、温度等を適宜選択することができる。
また、得られたセルロース修飾体、或いはセルロースナノファイバー分散体は、金属等を含んでも良い。金属としては、金、銀、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムの白金族元素の他、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウムなどの金属またはこれらの合金、または酸化物、複酸化物、炭化物などを用いることができる。金属の担持方法としては、金属または金属酸化物等の微粒子を混合する他、カルボキシル基を有するセルロースナノファイバー分散体が金属または金属酸化物の錯体を形成し、還元剤を添加することで金属粒子として析出させることができる。この方法を用いると、微小な金属粒子がセルロース繊維表面に均一に固定化されるため、微量な金属量によって効率的に効果を発揮させることができる。
なお、凝集や沈殿が生成しない範囲においては、より繊維同士の荷電反発を増大させる目的や分散液の粘度を制御する目的で、水溶性多糖類を含む各種添加物、各種樹脂を含んでも良い。例えば、化学修飾したセルロース、カラギーナン、キサンタンガム、グアーガム、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、寒天、可溶化澱粉、グリセリン、ソルビトール、消泡剤、水溶性高分子、合成高分子等を用いることができる。あるいは塗工性やぬれ性など機能性付与などの為に、各種溶剤を含んでもよい。アルコール類、セルソルブ類、グリコール類、などを用いることができる。さらには意匠性を付与する目的で、各種染料や顔料、有機フィラー、無機フィラーを含んでも構わない。
また、耐水性、電解液耐性を向上させるために各種架橋剤を含んでもよい。例えば、オキサゾリン、ジビニルスルホン、カルボジイミド、ジヒドラジン、ジヒドラジド、エピクロルヒドリン、グリオキザール、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物などを用いることができる。また、反応性を向上させるなどの目的で、酸やアルカリを添加することによってpHを調整することができる。
このようにして得られたセルロース修飾体やセルロースナノファイバー分散体は、前述のように水を排除した状態で分散状態を維持することができる。さらに、有機溶媒との親和性に優れ、有機溶媒中で均質なセルロースナノファイバーとして存在することができる。
また、セルロース修飾体やセルロースナノファイバー分散体を用いて、樹脂と混合させることにより強度向上や軽量化を目的とした樹脂複合体を形成したり、基材等へ塗工することによりセルロースナノファイバーを含む機能層を形成するなど、成形体の構成材料とすることが可能である。
これにより、樹脂のような疎水性の高い物質とのより均質な複合化が可能となり、セルロースの工業的利用範囲が格段に広がる。
以下に、本発明の実施例を説明する。なお、以下の実施例は本発明の一例であり、本発明はこれらの実施例には限定されない。
(実施例1)
以下の手順により、セルロース修飾体及びセルロースナノファイバー分散体の調製を行った。
(1)試薬・材料
セルロース:漂白クラフトパルプ(フレッチャー チャレンジ カナダ「Machenzie」)
TEMPO:市販品(東京化成工業社製、98%)
次亜塩素酸ナトリウム:市販品(和光純薬社製、Cl:5%)
臭化ナトリウム:市販品(和光純薬社製)
(2)酸化工程
乾燥重量10gの漂白クラフトパルプを2Lのガラスビーカー中イオン交換水500ml中で一晩静置し、パルプを膨潤させた。ここにTEMPO0.1gと臭化ナトリウム1gを添加して攪拌し、パルプ懸濁液とした。さらに攪拌しながらセルロース重量当たり5mmol/gの次亜塩素酸ナトリウムを添加した。この際、約1Nの水酸化ナトリウム水溶液を添加してパルプ懸濁液のpHを約10.5に保持した。その後、2時間反応させ、エタノール10gを添加して反応を停止し、セルロースにカルボキシル基が導入された酸化セルロースを得た。なお、この際導入されたカルボキシル基は反応媒中に残存する反応試薬に由来するナトリウムイオンを対イオンとした塩を形成する。続いて0.5Nの塩酸を滴下してpHを2まで低下させた。ガラスフィルターを用いてセルロースをろ別し、さらに0.05Nの塩酸で3回洗浄してカルボキシル基をカルボン酸とした後に純水で5回洗浄し、固形分濃度20%の湿潤状態の酸化セルロースを得た。得られた酸化セルロースは、水酸化ナトリウムによる中和滴定からセルロースの乾燥重量当たりカルボキシル基量は1.6mmolと算出された。
(3)対イオン置換工程
上記により調製した酸化セルロースを固形分濃度5%となるよう水を加えて懸濁液とし、ここにアルカリ種として有機オニウム化合物である、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)を酸化セルロースのカルボキシル基量に対して1.0当量加えた。2時間攪拌した後ガラスフィルターを用いて酸化セルロースをろ別し、対イオン置換酸化セルロースを得た。
(4)溶媒置換工程
上記により対イオン置換した酸化セルロースを、置換溶媒となる有機溶媒としてエタノールを用いて溶媒置換した。すなわち体積分率において水と有機溶媒が2対1となるように混合した有機溶媒の水溶液に投入し、30分間攪拌した後にガラスフィルターを用いて酸化セルロースをろ別し回収した。続いて、同様にして水と有機溶媒が1対1とした有機溶媒の水溶液に投入して30分間攪拌してろ別し回収した後、有機溶媒にて3回洗浄・回収を繰り返すことにより有機溶媒を包含した酸化セルロースを得た。
(5)分散工程
溶媒置換した酸化セルロースを分散媒となる有機溶媒であるエタノールに加え、ミキサー(大阪ケミカル、アブソルートミル、14,000rpm)を用いて1時間処理することにより固形分濃度0.2%のセルロースナノファイバー分散体を得た。得られた分散体の660nmにおける光線透過率は94%を示した。また、このときのセルロース繊維の繊維幅は5nmであった。
(実施例2、3、4、5、6)
実施例1と同様にして、対イオン置換工程において使用するアルカリ種を変更した他は同様の条件にてセルロースナノファイバー分散体を調製した。有機オニウム化合物の種類は表1に示した。(但し、略称は以下化合物を示す。TEAH:水酸化テトラエチルアンモニウム、TPAH:水酸化テトラプロピルアンモニウム、TBAH:水酸化テトラブチルアンモニウム、TBPH:水酸化テトラブチルホスホニウム)
(実施例7、8)
実施例1と同様にして、溶媒置換工程及び分散工程において使用する有機溶媒を変更したほかは同様の条件にてセルロースナノファイバー分散体を調製した。有機溶媒の種類は表1に示した。
(参考例)
実施例1と同様にして、溶媒置換工程を経ず、分散工程における分散媒を水に変更したほかは同様の条件にてセルロースナノファイバー分散体を調製した。
(比較例1)
実施例1と同様にして、酸化工程を経ない原料セルロースを用いた他は同様の条件にてセルロースナノファイバー分散体を調製した。
(比較例2)
実施例1と同様にして、酸化工程において酸を用いてカルボン酸に変換することなくカルボン酸塩として水のみにより洗浄を行い、溶媒置換工程及び分散工程において使用する有機溶媒を水に変更したほかは同様の条件にてセルロースナノファイバー分散体を調製した。
(比較例3)
実施例1と同様にして、酸化工程において酸を用いてカルボン酸に変換することなくカルボン酸塩として水のみにより洗浄する他は同様の条件にてセルロースナノファイバー分散体を調製した。
(比較例4)
実施例1と同様にして、対イオン置換工程を経ない他は同様の条件にてセルロースナノファイバー分散体を調製した。
(比較例5)
実施例8と同様にして、対イオン置換工程を経ない他は同様の条件にてセルロースナノ
ファイバー分散体を調製した。
(比較例6)
実施例1と同様にして、対イオン置換工程及び溶媒置換工程を経ない他は同様の条件にてセルロースナノファイバー分散体を調製した。
(比較例7)
実施例1と同様にして、対イオン置換工程においてアルカリ種として水酸化ナトリウム(NaOH)を用いる他は同様の条件にてセルロースナノファイバー分散体を調製した。
(比較例8)
実施例1と同様にして、溶媒置換工程を経ない他は同様の条件にてセルロースナノファイバー分散体を調製した。
[評価]
実施例1〜8、比較例1〜8、及び参考例について、評価結果を表2及び表3に示した。
[カルボキシル基量]
酸化工程において得られた酸化セルロースについて、含有されるカルボキシル基量は以下の方法にて算出した。酸化工程を経たセルロースの乾燥重量換算0.2gをビーカーにとり、イオン交換水80mlを添加する。そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mlを加え、攪拌させながら0.1M塩酸を加えて全体がpH2.5となるように調整した。ここに自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、AUT−701)を用いて0.1M水酸化ナトリウム水溶液を0.05ml/30秒で注入し、30秒毎の電導度とpH値を測定し、pH11まで測定を続けた。得られた電導度曲線から水酸化ナトリウムの滴定量を求め、カルボキシル基の含有量を算出した。
[光線透過率]
分散工程を経て得られたセルロースナノファイバー分散体について、UV−vis分光光度計(島津製作所社製、UV3600)を用いて光透過率を測定した。予め固形分濃度0.2%に調製したセルロースナノファイバー分散液を10mm角の石英セルに気泡が入らないように充填し、660nmにおける光線透過率を求めた。測定結果を表2に示した。
[接触角測定]
分散工程を経て得られたセルロースナノファイバー分散体を用いて、PET基材にバーコーターを用いて塗工し、40℃1時間加熱して約0.1μm厚の塗工膜を形成した。塗工膜の接触角を接触角計(協和界面科学社製、PCA−1)を測定した。なお、評価液としては純水を用い、塗工膜表面に付着した液滴の濡れ性を評価した。測定結果を表3に示した。
[引張り強度測定]
分散工程を経て得られたセルロースナノファイバー分散体を用いて、ガラス基板上に展開して60℃で4日間乾燥させ、10μm厚の自立膜を形成した。この自立膜を5mm幅、50mm長さの短冊状に切り出し、恒温恒湿槽付き引張試験機(テスター産業社製、TE−7001)にて温度40℃、相対湿度30%及び、温度40℃、相対湿度90%の環境下で引張り強度を測定した。測定結果を表4に示した。
表2に示すように、実施例1〜8は有機溶媒を分散媒とし、高い光線透過率を示すセルロースナノファイバー分散液を調製することができた。一方比較例では水を分散媒とする場合は高い透明性を得られるものの、有機溶媒中での分散性は低いものとなった。このことから、酸化工程にてセルロースに導入されたカルボキシル基を十分に有機オニウムイオンに対イオン置換し、尚且つ有機溶媒に溶媒置換することによって、有機溶媒への分散性が向上することが示された。
表3に示すように、実施例では酸化工程にてセルロースに導入されたカルボキシル基を有機オニウムイオンに対イオン置換したセルロースナノファイバー分散体より形成された塗工膜は、高い接触角を発現することが示された。これは、有機オニウムイオンに含まれる炭化水素基の疎水性に起因すると共に、分散体中に水を含有しないことにより、膜形成の過程でのセルロースの結合水を大幅に低減することが出来たことに由来すると考えられる。また、対イオンのアルカリ種や分散媒種を各種選択することにより、疎水性や接触角の設計が可能になることが示された。
表4に示すように、実施例1、参考例ではセルロースに導入されたカルボキシル基を有機オニウムイオンに対イオン置換したセルロースナノファイバー分散体より形成された自立膜は、引張り強度において湿度劣化が抑制されることが示された。これは、表3での説明と同様に、自立膜を形成するセルロースの結合水を低減することができたことが一因であると考えられる。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能である。
本発明により、セルロース修飾体やセルロースナノファイバー分散体は、前述のように水を排除した状態で分散状態を維持することができる。さらに、有機溶媒との親和性に優れ、有機溶媒中で均質なセルロースナノファイバーとして存在することができる。これにより、樹脂のような疎水性の高い物質とのより均質な複合化が可能となり、セルロースの工業的利用範囲が格段に広がる。また、有機オニウムイオンとの複合化により、セルロースをバインダーとして有機オニウム化合物本来の抗菌作用、触媒作用等を活かした構造体等への応用が可能となる。

Claims (6)

  1. セルロースナノファイバー分散体を塗工した膜であって、
    セルロースナノファイバーのカルボキシル基の含有量がセルロースナノファイバーの乾燥重量あたり0.1mmol以上3.0mmol以下であり、該カルボキシル基の対イオンとして有機オニウムイオンを含み、セルロースナノファイバーの繊維幅が2nm以上200nm以下であり、該膜の接触角が88.3°以上であるセルロースナノファイバー分散体を塗工した膜。
  2. 40℃90RHでの引張強度が110MPa以上である請求項1に記載のセルロースナノファイバー分散体を塗工した膜。
  3. さらに樹脂を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセルロースナノファイバー分散体を塗工した膜。
  4. 請求項1から請求項3の何れかに記載のセルロースナノファイバー分散体を塗工した膜の製造方法であって、
    セルロースを酸化することによりカルボキシル基を導入する酸化工程と、
    該酸化工程で得られたカルボキシル基を有するセルロースを有機オニウム化合物を用いて対イオンを有機オニウムイオンに置換する対イオン置換工程と、
    該対イオン置換工程で得られたセルロースを有機溶媒によって溶媒置換する溶媒置換工程と、該溶媒置換工程で得られたセルロースを分散媒中で分散処理する分散工程と、
    記分散工程において、カルボキシル基を導入したセルロースやセルロース修飾体は、セルロースナノファイバーに調製される工程と、
    前記セルロースナノファイバーを基材に塗工し、膜を形成することを特徴とするセルロースナノファイバー分散体を塗工した膜の製造方法。
  5. 前記酸化工程において、酸化処理にて導入したカルボキシル基を酸を用いてカルボン酸として、セルロースを回収することを特徴とする請求項4に記載のセルロースナノファイバー分散体を塗工した膜の製造方法。
  6. 前記溶媒置換工程において、用いる溶媒が前記分散媒として用いる溶媒を含むことを特徴とする請求項4または5に記載のセルロースナノファイバー分散体を塗工した膜の製造方法。
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