JP7287460B2 - セルロースナノクリスタル複合体及びその製造方法 - Google Patents
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Description
このような金属超微粒子の担持体として、上記セルロースナノファイバーとの組み合わせが提案されている。
また下記特許文献3には、木材を由来とする微細セルロースの表面上に、銀またはその化合物からなる金属微粒子が担持されてなる抗菌性微細セルロースであって、前記微細セルロースは、少なくともその結晶表面にカルボキシル基を有し、前記金属微粒子は、前記微細セルロースの結晶表面のカルボキシル基上に析出したものであることを特徴とする抗菌性微細セルロースが記載されている。
また、金属超微粒子は凝集しやすく、更に乾燥体は被固着物から脱離しやすいことから、金属超微粒子が有する優れた特性を効率よく発揮させるためには、金属超微粒子を均一に分散させ、かつ分散性や固着性等を付与する為の担持体に結合させることが必要である。金属微粒子が有する性能をより効果的に発現させるためには、ナノセルロースにより多くの金属微粒子を効率よく安定的に担持させることも必要である。
本発明の他の目的は、金属微粒子担持セルロースナノクリスタル複合体が均一に分散された透明性に優れた分散液、及び金属微粒子担持セルロースナノクリスタル複合体を含有する抗菌性能等の金属微粒子由来の性能を効率よく発現可能な成形体を提供することである。
本発明のセルロースナノクリスタル複合体の製造方法においては、前記親水化処理が、ネバードライ処理、カルボジイミド、硫酸、三酸化硫黄-ピリジン錯体、リン酸-尿素の何れかを用いた処理であることが好適である。
またセルロースナノクリスタルは、繊維長が短く且つ繊維幅が細いことから、セルロースナノファイバーを用いた場合等に比して、分散液の粘度の増粘やチクソトロピー性を抑制できると共に、透明性にも優れている。
更に、本発明のセルロースナノクリスタル複合体は、分散液の粘度の増粘やチクソトロピー性が抑制されていることから塗工性や塗布感等の取扱い性に優れており、金属微粒子が担持されたセルロースナノクリスタル複合体を含有する成形体を成形性よく成形することができる。
更にアニオン性官能基を上記範囲で含有するセルロースナノクリスタルは、ナノセルロース間の荷電反発により、繊維同士が分離しやすいという性質を有することから、本発明のセルロースナノクリスタル複合体は、アルコール等の水以外のプロトン性溶媒中でも良好な分散性を有しており、疎水性樹脂に対しても親和性を有すると共に、乾燥又は加熱時間を短縮することができるため、成形性も優れている。
本発明に用いるセルロースナノクリスタルは、硫酸基及び/又はスルホ基、及びアニオン性官能基を含有するセルロースナノクリスタルであって、前記硫酸基及び/又はスルホ基、及びアニオン性官能基の総量が0.17mmol/gより多く且つ4.0mmol/g以下、特に0.25~1.5mmol/gであることが重要である。
上記範囲よりも硫酸基及び/又はスルホ基、及びアニオン性官能基の総量が少ない場合には、上記範囲にある場合に比して、ナノセルロースの荷電反発が低下し、セルロースナノクリスタルの分散性が低下すると共に、所望の金属微粒子担持能を得ることができないおそれがある。その一方上記範囲よりも硫酸基及び/又はスルホ基、及びアニオン性官能基の総量が多い場合には、ナノセルロースの結晶構造が維持できず、セルロースナノクリスタルが本来有する結晶化度、強度、ガスバリア性等の優れた性能が損なわれるおそれがある。
なお、本発明において、セルロースナノクリスタルが含有する「アニオン性官能基」は、親水化処理によりセルロースナノクリスタルに導入されたアニオン性官能基を意味するが、後述するように、親水化処理によりアニオン性官能基として更に硫酸基及び/又はスルホ基が導入される場合があり、この場合には、セルロースナノクリスタルには「アニオン性官能基」も含めて、硫酸基及び/又はスルホ基のみが含有された状態となる。
セルロースナノクリスタルが有するアニオン性官能基は、後述するセルロースナノクリスタルの親水化処理の方法によって決まり、特にカルボキシル基、リン酸基、硫酸基及び/又はスルホ基であることが好適である。
尚、本明細書において、硫酸基は硫酸エステル基をも含む概念である。
本発明のナノセルロースの原料として使用される、セルロースナノクリスタルは、パルプなどのセルロース繊維を硫酸や塩酸で酸加水分解処理することにより得られる、ロッド状のセルロース結晶繊維であるが、本発明においては、自己組織化構造の形成に寄与可能な硫酸基及び/又はスルホ基を有する、硫酸処理によるセルロースナノクリスタルを使用する。
セルロースナノクリスタルは、硫酸基及び/又はスルホ基を0.01~0.17mmol/gの量で含有することが好適である。またセルロースナノクリスタルは、平均繊維径が50nm以下、特に2~50nm、の範囲にあり、平均繊維長が100~500nmの範囲にあり、アスペクト比が5~50の範囲にあり、結晶化度が60%以上、特に70%以上であるものを好適に用いることができる。
本発明で用いる硫酸基及び/又はスルホ基、及びアニオン性官能基を上記範囲の量で含有するセルロースナノクリスタルは、硫酸基及び/又はスルホ基を有するセルロースナノクリスタルに後述する親水化処理を施すことにより得られるが、従来の酸化方法によって製造された、繊維幅が50nm以下でアスペクト比が10以上であるセルロースナノファイバーを、本発明のナノセルロースが有する優れたバリア性や取扱い性を損なわない範囲で含有させてもよく、具体的には、セルロースナノクリスタルの50%未満の量で使用することができる。
本発明においては、上述した硫酸基及び/又はスルホ基を有するセルロースナノクリスタルの親水化処理を行うことにより、硫酸基及び/又はスルホ基量を調整、或いは、カルボキシル基、リン酸基等のアニオン性官能基をセルロースの水酸基に導入し、硫酸基及び/又はスルホ基、カルボキシル基、リン酸基等のアニオン性官能基の総量が0.17mmol/gより多く且つ4.0mmol/g以下、特に0.25~1.5mmol/gの範囲にあるナノセルロースを調製する。
親水化処理としては、ネバードライ処理、水溶性カルボジイミド、硫酸、三酸化硫黄-ピリジン錯体、リン酸-尿素、TEMPO触媒、酸化剤の何れかを用いて行う。ネバードライ処理、カルボジイミド、硫酸、三酸化硫黄-ピリジン錯体、の何れかを用いた処理により、セルロースナノクリスタルの硫酸基及び/又はスルホ基量が調整されると共に、更にナノセルロースが更に短繊維化される。またリン酸-尿素又はTEMPO触媒、酸化剤の何れかを用いた処理により、リン酸基又はカルボキシル基のアニオン性官能基が導入されて、ナノセルロースの総アニオン性官能基量が上記範囲に調整される。
尚、親水化処理は、アニオン性官能基の総量が上記範囲となる限り、いずれか一つの処理を行えばよいが、同一の処理を複数回、或いは他の処理と組み合わせて複数回行ってもよい。
セルロースナノクリスタルは、スプレードライ、加熱、減圧などによる乾燥処理を行ってパウダー等の固形化を経るが、乾燥処理による固形化の際にセルロースナノクリスタルに含有するアニオン性官能基の一部が脱離して親水性が低下する。すなわち、硫酸基及び/又はスルホ基、リン酸基、カルボキシル基等のアニオン性官能基を含有するセルロースナノクリスタルについてパウダー等の固形化を経ないネバードライ処理は親水化処理として挙げられる。
ネバードライ処理は、用いる硫酸基及び/又はスルホ基含有セルロースナノクリスタルを固形化しない、すなわち、それ単独の処理の場合の他、カルボジイミド、硫酸、三酸化硫黄-ピリジン錯体、リン酸-尿素、TEMPO触媒の何れかを用いた親水化処理との組み合わせで行うことができる。
カルボジイミドを用いた処理においては、ジメチルホルムアミド等の溶媒中でセルロースナノクリスタルとカルボジイミドを撹拌し、これに硫酸を添加した後、0~80℃の温度で5~300分反応させて硫酸エステルとする。カルボジイミド及び硫酸は、セルロースナノクリスタル1g(固形分)に対して5~30mmol及び5~30mmolの量で使用することが好ましい。
次いで水酸化ナトリウム等のアルカリ性化合物を添加して、セルロースナノクリスタルに導入された硫酸基及び/又はスルホ基をH型からNa型に変換することが、収率を向上する上で好ましい。その後、透析膜等を用いた濾過処理に付して不純物等を除去することにより、硫酸基及び/又はスルホ基変性セルロースナノクリスタルが調製される。
カルボジイミドとしては、分子内にカルボジイミド基(-N=C=N-)を有する水溶性化合物である1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド等を例示できる。また有機溶媒に溶解するジシクロヘキシルカルボジイミド等を使用することもできる。
本発明で使用するセルロースナノクリスタルは、セルロース繊維を硫酸で加水分解処理して成る硫酸基及び/又はスルホ基含有セルロースナノクリスタルであるが、このセルロースナノクリスタルを更に硫酸を用いて親水化処理する。硫酸は、セルロースナノクリスタル1g(固形分)に対して40~60質量%で使用することが好ましい。40~60℃の温度で5~300分反応させ、その後、透析膜等を用いた濾過処理に付して不純物等を除去することにより、硫酸基及び/又はスルホ基変性セルロースナノクリスタルが調製される。
三酸化硫黄-ピリジン錯体を用いた処理においては、ジメチルスルホキシド中でセルロースナノクリスタルと三酸化硫黄-ピリジン錯体を、0~60℃の温度で5~240分反応させることにより、セルロースグルコールユニットの水酸基に硫酸基及び/又はスルホ基を導入する。
三酸化硫黄-ピリジン錯体は、セルロースナノクリスタル1g(固形分)に対して0.5~4gの質量で配合することが好ましい。
反応後、水酸化ナトリウム等のアルカリ性化合物を添加して、セルロースナノクリスタルに導入された硫酸基及び/又はスルホ基をH型からNa型に変換することが、収率を向上する上で好ましい。その後、ジメチルホルムアミド又はイソプロピルアルコールを添加して、遠心分離等によって洗浄した後、透析膜等を用いた濾過処理によって不純物等を除去し、得られた濃縮液を水に分散させることにより、硫酸基及び/又はスルホ基変性セルロースナノクリスタルが調製される。
リン酸-尿素を用いた親水化処理は、リン酸-尿素を用いてリン酸基を導入する従来公知の処理と同様に行うことができる。具体的には、尿素含有化合物の存在下で、セルロースナノクリスタルとリン酸基含有化合物を、135~180℃の温度で5~120分反応させることによって、セルロースグルコースユニットの水酸基にリン酸基を導入する。
リン酸基含有化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩等を例示できる。中でもリン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸等を好適に単独または混合して使用できる。リン酸基含有化合物は、セルロースナノクリスタル10g(固形分)に対して10~100mmolの量で添加することが好ましい。
また尿素含有化合物としては、尿素、チオ尿素、ビュウレット、フェニル尿素、ベンジル尿素、ジメチル尿素などを例示できる。中でも尿素を好適に使用できる。尿素含有化合物は、セルロースナノクリスタル10g(固形分)に対して150~200mmolの量で使用することが好ましい。
TEMPO触媒(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル)を用いた親水化処理は、TEMPO触媒を用いた従来公知の酸化方法と同様に行うことができる。具体的には、硫酸基及び/又はスルホ基を有するセルロースナノクリスタルを、TEMPO触媒(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル)を介した水系、常温、常圧の条件下で、セルロースグルコースユニットの6位の水酸基をカルボキシル基に酸化する親水化反応を生じさせる。
TEMPO触媒としては、上記2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシルの他、4-アセトアミドーTEMPO、4-カルボキシーTEMPO、4-フォスフォノキシーTEMPO等のTEMPOの誘導体を用いることもできる。
TEMPO触媒の使用量は、セルロースナノクリスタル(固形分)1gに対して0.01~100mmol、好ましくは0.01~5mmolの量である。
酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸又はそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物等公知の酸化剤を例示することができ、特に次亜塩素酸ナトリウムや次亜臭素酸ナトリウムを好適に使用できる。酸化剤は、セルロースナノクリスタル(固形分)1gに対して0.5~500mmol、好ましくは5~50mmolの量である。酸化剤を添加して一定時間が経過した後、更に酸化剤を加えることで追酸化処理することもできる。
また共酸化剤としては、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属、ヨウ化ナトリウム等のヨウ化物アルカリ金属を好適に使用できる。共酸化剤は、セルロースナノクリスタル(固形分)1gに対して0.1~100mmol、好ましくは0.5~5mmolの量である。
また反応液は、水やアルコール溶媒を反応媒体とすることが好ましい。
反応の進行に伴い、セルロース中にカルボキシル基が生成するため、スラリーのpHの低下が認められるが、酸化反応を効率よく進行させるため、水酸化ナトリウム等のpH調整剤を用いてpH9~12の範囲に維持することが望ましい。
酸化処理後に、使用した触媒等を水洗などにより除去する。
本発明においては、原料として繊維長の短いセルロースナノクリスタルを使用するので、必ずしも必要ではないが、親水化処理後に解繊処理を行うこともできる。
解繊処理は、従来公知の方法によって行うことができ、具体的には、超高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、グラインダー、高速ブレンダ―、ビーズミル、ボールミル、ジェットミル、離解機、叩解機、二軸押出機等を使用して微細化することができる。
解繊処理は、親水化処理後のナノセルロースの状態や、ナノセルロースの用途に応じて、乾式又は湿式の何れで行うこともできる。ナノセルロースは、分散液の状態で使用することが好適であることから、水等を分散媒として超高圧ホモジナイザー等により解繊することが好適である。
本発明のセルロースナノクリスタル複合体においては、後述するように、セルロースナノクリスタルの分散液の状態で金属微粒子を供与可能な金属化合物と混合することが好適であることから、セルロースナノクリスタルは分散処理に付することが望ましい。
分散処理は超音波分散機、ホモジナイザー、ミキサー等の分散機を好適に使用することができ、また、攪拌棒、攪拌石等による攪拌方法を用いても良い。
本発明のセルロースナノクリスタル複合体が担持する金属微粒子の金属種は特に限定されず、金属微粒子が有する抗菌性能、吸着性能、触媒性能等の所望の作用効果によって適宜選択することができる。これに限定されないが、Cu,Ag,Au,In,Pd,Pt,Fe,Ni,Co,Zn,Nb,Sn,Ru,Rh,Ti等を例示することができる。金属微粒子は、単一の金属種の他、合金、或いは複数種の金属微粒子が担持されていてもよい。
金属微粒子は、これに限定されないが、平均一次粒径が50nm以下、特に5~20nmの範囲にあることが好適であり、これによりセルロースナノクリスタル表面に緻密に且つ安定的に担持させることができると共に、金属微粒子由来の機能を効率よく発揮することが可能になる。
本発明の金属微粒子が担持されているセルロースナノクリスタル複合体は、前述したとおり、セルロース原料を硫酸処理することにより得られた硫酸基及び/又はスルホ基含有セルロースナノクリスタルを、親水化処理することにより調製された、硫酸基及び/又はスルホ基、及びアニオン性官能基の総量が0.17mmol/gより多く且つ4.0mmol/g以下であるセルロースナノクリスタル表面の硫酸基及び/又はスルホ基やリン酸基等のアニオン性官能基と金属のカチオンを相互作用させて、金属微粒子を担持させることにより製造される。
硫酸基及び/又はスルホ基、及びアニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルに金属微粒子を担持させる方法としては、硫酸基及び/又はスルホ基、及びアニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルの分散液と、金属化合物を含有する溶液を混合した後、金属化合物を還元することによって、金属微粒子が担持されたセルロースナノクリスタルとすることができる。
金属含有溶液は、金属イオンや、ハロゲン化物、硝酸塩、及び酢酸塩等の金属化合物を含有する溶液であることが好ましい。金属含有溶液中の金属イオンや金属化合物の濃度は特に限定されないが、セルロースナノクリスタル100質量部に対して0.01~10質量部の量で含有されていることが好ましい。
金属化合物の還元方法は公知の方法により行うことができるが、金属化合物を還元する際に、金属化合物とアニオン性官能基との結合を阻害しないことが望ましい。このような還元方法としては、水素による気相還元法、還元剤を用いた液相還元法を例示できるが、セルロースナノクリスタル分散液と金属化合物溶液の混合液に容易に使用できることから、還元剤を用いた液相還元法によることが好ましい。
還元剤としては、これに限定されないが、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化アルミニウムリチウム、シアノ化水素化ホウ素ナトリウム、トリアルコキシ水素化アルミニウムリチウム、ジイソブチル水素化アルミニウム等の水素化金属を例示できるが、安全性や汎用性等の観点から水素化ホウ素ナトリウムを好適に使用できる。
還元剤の添加量は、金属化合物の金属種等によっても異なり一概に規定できないが、金属化合物1当量に対して1~10当量となるように添加することが望ましい。
増粘は水に溶解又は分散して粘稠性を生じる高分子によって発現する現象であり、多糖類やセルロースの化学的誘導体等が一般的に用いられるが、増粘は分散液の取り扱い性に大きく影響し、増粘が低い分散液ほど他の分散液への希釈分散処理に要する時間やエネルギーが掛からず、また塗工性、塗布感、乾燥等の取り扱い性の面で優れている。また分散液のチクソトロピー性は回転数等せん断速度を上昇させた後に下げるヒステリシスループ測定を行うことによって生じるせん断速度-せん断応力のループにより観測され、このループ面積を比較することで分散液のチクソトロピー性の程度を評価することができる。チクソトロピー性があると分散液に繰り返しせん断を加えることで粘度が低下し、塗工や塗布時での粘度低下や、使用前に与えたせん断刺激により塗工性や塗布感が変化するため、チクソトロピー性を抑制させることで塗工性や塗布感が変化しにくい効果がある。
また得られたセルロースナノクリスタル複合体分散液は、セルロースナノクリスタル複合体(固形分)1質量%の分散液で波長750nmにおける全光線透過率が50%T以上の優れた透明性を有している。
また本発明のセルロースナノクリスタル複合体分散液には、充填剤、着色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、耐水化剤、架橋剤、金属塩、コロイダルシリカ、アルミナゾル、酸化チタン等、公知の添加剤を配合することができる。
溶媒置換の方法としては、セルロースナノクリスタル複合体水分散液を、遠心分離機や、フィルタを用いた濾過等の脱水方法により水分散液の水分を除去した後、プロトン性極性溶媒と混合することによって行うことができる。溶媒置換処理後、上記分散処理と同様の方法によりナノセルロースをプロトン性極性溶媒中に分散させることによってセルロースナノクリスタル複合体分散液が調製される。
上記方法で調製された本発明のセルロースナノクリスタル複合体分散液は、それ単独で、セルロースナノクリスタル複合体の緻密な自己組織化構造に由来するガスバリア性を有すると共に、金属微粒子が有する抗菌性等の機能を兼ね備えたフィルムやシート等の成形体を容易に成形することができる。また本発明のセルロースナノクリスタル複合体をプロトン性極性溶媒に分散して成る分散液は疎水性の樹脂に対しても親和性を有すると共に、短時間での乾燥又は加熱により効率よく溶媒を除去できるため、効率よく成形体を成形できる。
本発明のセルロースナノクリスタル複合体分散液は、上述したとおりそれ単独で成形体を成形することも可能であるが、多価カチオン樹脂から成る層上にセルロースナノクリスタル複合体分散液から成る層を形成することによって、基材への密着性を発現可能な混合状態を有する混合物の成形体として成形できる。すなわち、セルロースナノクリスタルが有する自己組織化構造が維持された状態で多価カチオン樹脂及びセルロースナノクリスタル複合体が混合された混合物から成る成形体を成形することができ、この成形体の最外部の表面付近から最内部の表面(例えば熱可塑性樹脂から成る基材上に形成した場合には基材方向)までナノセルロースと多価カチオン樹脂が存在している。
また多価カチオン樹脂含有溶液に用いる溶媒としては、水、メタノール,エタノール,イソプロパノール等のアルコール、2-ブタノン,アセトン等のケトン、トルエン等の芳香族系溶剤、及びこれらと水との混合溶媒であってもよい。
塗布方法としては、これに限定されないが、例えばスプレー塗装、浸漬、或いはバーコーター、ロールコーター、グラビアコーター、スピンコーター、手指等により塗布することが可能である。また塗膜の乾燥方法としては、温度5~200℃で0.1秒~24時間の条件で乾燥することが好ましい。また乾燥処理は、オーブン乾燥、赤外線加熱、高周波加熱等により行うことができるが、自然乾燥であってもよい。
またセルロースナノクリスタル複合体分散液は、水分散液でもよいし、或いはプロトン性極性溶媒だけでもよいが、2-ブタノン、アセトン等のケトン、トルエン等の芳香族系溶剤との混合溶媒であってもよい。
セルロースナノクリスタル複合体分散液は、セルロースナノクリスタル複合体(固形分)が1m2当たり0.1~3.0gとなるように塗布することが好ましい。
セルロースナノクリスタル複合体分散液の塗布方法及び乾燥方法は、多価カチオン含有溶液の塗布方法及び乾燥方法と同様に行うことができるが、水分散液の場合は、温度5~200℃で1秒~24時間の条件で乾燥することが好ましく、プロトン性極性溶媒、例えばエタノールの場合で、温度5~200℃で1秒~24時間の条件で乾燥することが好ましい。
基材としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、アクリル系樹脂、等の従来公知の熱可塑性樹脂や水酸基及び/又はカルボキシル基含有樹脂を用い、ラミネート成形、押出成形、射出成形、ブロー成形、延伸ブロー成形或いはプレス成形等の手段で製造された、フィルム、シート、或いはボトル状、カップ状、トレイ状、パウチ状等の成形体を例示できる。
セルロースナノクリスタル又はセルロースナノファイバー分散液を秤量し、イオン交換水を加えて0.05~0.3質量%のセルロースナノクリスタル又はセルロースナノファイバー分散液100mlを調製した。陽イオン交換樹脂を0.1g加えて攪拌処理した。その後ろ過を行い陽イオン交換樹脂とセルロースナノクリスタル又はセルロースナノファイバー分散液を分離した。陽イオン交換後の分散液に対して電位差自動滴定装置(京都電子社製)を用いて0.05mol/L水酸化ナトリウム溶液を滴下し、セルロースナノクリスタル又はセルロースナノファイバー分散液が示す電気伝導度の変化を計測した。得られた伝導度曲線からアニオン性官能基の中和のために消費された水酸化ナトリウム滴定量を求め、下記式(1)を用いてアニオン性官能基量(mmol/g)を算出した。
アニオン性官能基量(mmol/g)=アニオン性官能基の中和のために消費した水酸化ナトリウム滴定量(ml)×前記水酸化ナトリウム濃度(mmol/ml)÷セルロースナノクリスタル又はセルロースナノファイバー固形質量(g)・・・(1)
<実施例1>
尿素2.4g、リン酸二水素アンモニウム1g及びイオン交換水3gに対して溶解させたリン酸溶液を調製し、前記リン酸溶液にパルプを64質量%の硫酸で分解処理することによって調製したセルロースナノクリスタル2g(固形量)を加えて分散処理した。多重安全式乾燥機(二葉科学製)を用いて165℃で15分間セルロースナノクリスタル分散液を蒸発させながら加熱を行い、前記セルロースナノクリスタルを親水化処理した。その後イオン交換水を100ml加えて分散処理し、超遠心分離機(50000rpm、10分)を用いて洗浄した。更にイオン交換水と水酸化ナトリウム溶液を加えてpHを12に調整し、イオン交換水を加えながら超遠心分離機(50000rpm、10分)を用いてpHが8になるまで洗浄した。その後透析膜(スペクトラム社製・分画分子量3500~5000D)の内部に入れてイオン交換水中で静置して不純物等を除去し親水化セルロースナノクリスタル分散液を調製した。前記の精製された親水化セルロースナノクリスタル分散液にイオン交換水を加えて分散処理することで親水化セルロースナノクリスタルの固形量が1質量%の親水化セルロースナノクリスタル分散液を得た。親水化セルロースナノクリスタルのアニオン性官能基量は0.8mmol/gであった。
前記の親水化セルロースナノクリスタルの固形量が1質量%の親水化セルロースナノクリスタル分散液を5ml採取し、8mmol/L硝酸銀水溶液を添加して攪拌した。その後16mmol/L水酸化ホウ素ナトリウムを添加して攪拌し、銀イオンを還元して親水化セルロースナノクリスタル上に銀微粒子を担持させ、セルロースナノクリスタル複合体を調製した。
<親水化セルロースナノクリスタル分散液の調製>
パルプを64重量%の硫酸で分解処理することによって調製したセルロースナノクリスタル1g(固形量)をN,N-ジメチルホルムアミド5mlに対して分散させた。N,N-ジメチルホルムアミド5mlに対して1-エチル-3-(3-ジエチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(東京化成工業株式会社製)が10mmol溶解した溶液をセルロースナノクリスタル分散液に加えて5分間分散した。その後N,N-ジメチルホルムアミド5mlに対して硫酸が10mmol分散された溶液をセルロースナノクリスタル分散液にゆっくり加え、前記セルロースナノクリスタルを0℃で60分間攪拌しながら親水化処理させることで親水化セルロースナノクリスタル分散液を調製した。その後イオン交換水と水酸化ナトリウム溶液を添加し、透析膜(スペクトラム社製・分画分子量3500~5000D)の内部に入れてイオン交換水中で静置して不純物等を除去し親水化セルロースナノクリスタル分散液を調製した。前記の精製された親水化セルロースナノクリスタル分散液にイオン交換水を加えてミキサーで分散処理することで親水化セルロースナノクリスタルの固形量が1質量%の親水化セルロースナノクリスタル分散液を得た。親水化セルロースナノクリスタルのアニオン性官能基量は0.7mmol/gであった。その後は実施例1と同様に処理して銀イオンを還元し、親水化セルロースナノクリスタル上に銀微粒子を担持させたセルロースナノクリスタル複合体を調製した。
パルプを64質量%の硫酸で分解処理することによって調製したセルロースナノクリスタル10g(固形量)の水分散液に対しTEMPO触媒(Sigma Aldrich社製)0.8mmolと臭化ナトリウム12.1mmolを添加し、イオン交換水を加えて1Lにメスアップし、均一に分散するまで攪拌した。その後5mmolの次亜塩素酸ナトリウムを添加し、酸化反応を開始した。反応中は0.5N水酸化ナトリム水溶液でpH10.0から10.5に系内のpHを保持し、30℃で4時間攪拌しながら親水化処理を行った。親水化セルロースナノクリスタルはイオン交換水を加えながら超遠心分離機(50000rpm、10分)を用いてpHが8になるまで洗浄した。その後透析膜(スペクトラム社製・分画分子量3500~5000D)の内部に入れてイオン交換水中で静置して不純物等を除去し親水化セルロースナノクリスタル分散液を調製した。前記の精製された親水化セルロースナノクリスタル分散液にイオン交換水を加えて分散処理することで親水化セルロースナノクリスタルの固形量が1質量%の親水化セルロースナノクリスタル分散液を得た。親水化セルロースナノクリスタルのアニオン性官能基量は0.9mmol/gであった。その後は実施例1と同様に処理して銀イオンを還元し、親水化セルロースナノクリスタル上に銀微粒子を担持させたセルロースナノクリスタル複合体を調製した。
パルプを64質量%の硫酸で分解処理することによって調製したセルロースナノクリスタル1g(固形量)をイオン交換水に加えて分散処理を行うことでセルロースナノクリスタルの固形量が1質量%のセルロースナノクリスタル分散液を得た。セルロースナノクリスタルのアニオン性官能基量は0.1mmol/gであった。その後は実施例1と同様に処理して銀イオンを還元し、セルロースナノクリスタル上に銀微粒子を担持させたセルロースナノクリスタル複合体を調製した。
クラフトパルプ10g(固形量)の水分散液に対してTEMPO触媒(Sigma Aldrich社)0.8mmolと臭化ナトリウム12.1mmolを添加し、イオン交換水を加えて1Lにメスアップし、均一に分散するまで攪拌した。反応系にセルロース1g当たり15mmolの次亜塩素酸ナトリウムを添加し、酸化反応を開始した。反応中は0.5N水酸化ナトリム水溶液でpH10.0から10.5に系内のpHを保持し、30℃で4時間酸化反応を行った。酸化セルロースはイオン交換水を加えながら高速冷却遠心分離機(16500rpm,10分)を用いて中性になるまで十分洗浄を行った。洗浄した酸化セルロースに水を加えて1質量%に調製し、ミキサー(7011JBB,大阪ケミカル株式会社)で解繊処理してカルボキシル基を含有するセルロースナノファイバー分散液を調製した。その後は実施例1と同様に処理して銀イオンを還元し、セルロースナノファイバーのカルボキシル基に銀微粒子を担持したセルロースナノファイバー複合体を調製した。
イオン交換水を5ml採取し、8mmol/L硝酸銀水溶液を添加して攪拌した。その後16mmol/L水酸化ホウ素ナトリウムを添加して攪拌し、銀イオンを還元して銀微粒子分散液を調製した。
分光光度計(UV-3100PC、島津製作所)を用いて実施例1~3又は比較例1~3で調製した1質量%のセルロースナノクリスタル複合体、セルロースナノファイバー複合体、又は微粒子分散液の750nmにおける全光線透過率(%T)を求めた。
回転式粘度計(VISCO、アタゴ)を用いて実施例1~3又は比較例1~3で調製した1質量%のセルロースナノクリスタル複合体又はセルロースナノファイバー複合体について、スピンドルの回転数を2.5から250rpmまで上昇させた後、3rpmまで降下させながら粘度(mPa・S)を求めた。
前記実施例1又は比較例1、2のセルロースナノクリスタル複合体、セルロースナノファイバー複合体についてシリコンウエハ上に展開しスピンコートしたものについて、SPM(AFM5300E、日立ハイテクサイエンス)を用いて銀微粒子を観察した。DFMモード、深針Si製(バネ定数9N/m相当品)の条件で行った。結果を図1~3に示した。
コロナ処理された2軸延伸PETフィルム(ルミラーP60,12μm,東レ株式会社製)基材にバーコーターを用いてポリエチレンイミン(PEI)(エポミン,P-1000,株式会社日本触媒製)を塗布量が固形量として0.6g/m2になるように塗工した。熱風乾燥器(MSO-TP,ADVANTEC社製)により50℃で10分乾燥して固形化した。前記で調製した実施例1~3及び比較例1~3のセルロースナノクリスタル複合体、セルロースナノファイバー複合体又は銀微粒子分散液について、前記の固形化したポリエチレンイミン上にバーコーター(♯40)を用いて塗工し、その後25℃で24時間乾燥を行うことで多価カチオン樹脂との混合物から成る成形体を調製した。
前記実施例1~3または比較例1~3のセルロースナノクリスタル複合体、セルロースナノファイバー複合体又は銀微粒子分散液から作製された成形体について、JIS Z 2801:2012「抗菌加工製品-抗菌性試験方法・抗菌効果」5試験方法のフィルム密着法に基づいて抗菌力試験を行い、試験菌に対する抗菌活性値を求めた。試験菌は黄色ぶどう球菌または大腸菌を用いた。
Claims (2)
- セルロース原料を硫酸処理することにより得られた、硫酸基及び/又はスルホ基含有セルロースナノクリスタルを、親水化処理することにより、硫酸基及び/又はスルホ基、及びアニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルを調製し、該硫酸基及び/又はスルホ基、及びアニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルに、金属微粒子を担持させることを特徴とするセルロースナノクリスタル複合体の製造方法。
- 前記親水化処理が、ネバードライ処理、カルボジイミド、硫酸、三酸化硫黄-ピリジン錯体、リン酸-尿素の何れかを用いた処理である請求項1記載のセルロースナノクリスタル複合体の製造方法。
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