JP6687079B2 - エポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物及び硬化物 - Google Patents

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Description

本発明は、可撓性及び低吸水性のバランスに優れたエポキシ樹脂に関する。また、本発明は、このエポキシ樹脂と硬化剤とを含むエポキシ樹脂組成物、及び該エポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化物に関する。
エポキシ樹脂は、耐熱性、接着性、耐水性、機械的強度及び電気的特性に優れていることから、接着剤、塗料、土木建築用材料、電気・電子部品の絶縁材料等、様々な分野で使用されている。特に、電気・電子分野では、絶縁注型材料、積層材料、封止材料等において幅広く使用されている。近年、電気・電子部品の小型化、精密化、高性能化が進んでおり、更なる多層化、高密度化、薄型化、軽量化と信頼性及び成形加工性の向上等が要求されている。
特に、モバイル機器などの普及に伴い、半導体パッケージ材料に用いられる液状封止材やフレキシブルプリント配線板においては、エポキシ樹脂硬化物に適度な柔軟性を付与できるような可撓性に優れたエポキシ樹脂が求められており、それに対応した種々の可撓性エポキシ樹脂が開発されている。
例えば、特許文献1には、2価アルコールから得られる2官能エポキシ樹脂と2価フェノールとを反応させて得られる、可撓性を有するエポキシ樹脂が開示されている。また、特許文献2には、アセタール結合を含む、可撓性を有するエポキシ樹脂が開示されている。
特開2005−320477号公報 特開2004−156024号公報
本発明者らの詳細な検討によれば、特許文献1において製造されている、1,6ヘキサンジオールジグリシジルエーテルと、ビスフェノールA型エポキシ樹脂又はビスフェノールF型エポキシ樹脂とを反応させて得られるエポキシ樹脂及び特許文献2において記載されているアセタール結合を含むエポキシ樹脂は、可撓性を有する一方、低分子量の脂肪族骨格を主鎖に持つため、従来の汎用エポキシ樹脂と比べても著しく吸水性が悪化(高吸水化)するという問題があることが見出された。
本発明は、上記課題を解決すること目的としてなされたものであり、可撓性を有しながら、低吸水性に優れ、高い信頼性の要求される各種分野に適用可能なエポキシ樹脂、該エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物及び該エポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化物を提供するものである。
本発明者らが上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、エポキシ樹脂の化学構造中にアルキレン構造及び/又はポリアルキレンオキサイド構造と、特定のビスフェノール由来の化学構造とを有するエポキシ樹脂が、可撓性と低吸水性のバランスに優れていることを見出したものである。即ち本発明の要旨は以下の[1]〜[17]に存する。
[1] 下記式(1)で表されるエポキシ樹脂。
Figure 0006687079
(上記式(1)中、Aは上記式(2)及び式(3)で表される骨格を少なくとも含み、Rは水素原子又は上記式(4)で表される基であり、nは1以上250以下の数である。式(2)中、R及びRは互いに異なっていてもよく、炭素数2〜20の炭化水素基であり、mは0以上30以下の数である。式(3)中、R〜R10は互いに異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜12の炭化水素基又はハロゲン元素であり、R11は水素原子又は炭素数1〜3の炭化水素基から選ばれる基であり、R12は炭素数4〜20の直鎖状の炭化水素基又は炭素数4〜20の分岐鎖状の炭化水素基である。)
[2] 前記式(1)中、前記式(2)で表される化学構造が、A全体のモル数に対して1〜99モル%含まれる、[1]に記載のエポキシ樹脂。
[3] 前記式(1)中のAとして、前記式(2)で表される化学構造と前記式(3)で表される化学構造とのモル比が1/99〜99/1である、[1]又は[2]に記載のエポキシ樹脂。
[4] 下記式(5)で表される2官能エポキシ樹脂と、下記式(6)で表される二価の水酸基含有化合物とを反応させて得られることを特徴とするエポキシ樹脂。
Figure 0006687079
(上記式(5)及び(6)中、A’は上記式(2’)で表される化学構造及び上記式(3’)で表される化学構造を少なくとも有し、式(5)中、n’は繰り返し数の平均値であり0以上6以下である。上記式(2’)中、R’1及びR’2は互いに異なっていてもよく、炭素数2〜20の炭化水素基であり、m’は0以上30以下の数である。式(3’)中、R’3〜R’10は互いに異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜12の炭化水素基又はハロゲン元素であり、R’11は水素原子又は炭素数1〜3の炭化水素基から選ばれる基であり、R’12は炭素数4〜20の直鎖状の炭化水素基又は炭素数4〜20の分岐鎖状の炭化水素基である。)
[5] 前記式(5)及び(6)中、前記式(2’)で表される化学構造が、A’全体のモル数に対して1〜99モル%含まれる、[4]に記載のエポキシ樹脂。
[6] 前記式(5)及び前記式(6)中のA’として、前記式(2’)で表される化学構造と前記式(3’)で表される化学構造とのモル比が1/99〜99/1である、[4]又は[5]に記載のエポキシ樹脂。
[7] エポキシ当量が200g/当量以上30,000g/当量以下である、[1]乃至[6]のいずれか1つに記載のエポキシ樹脂。
[8] 重量平均分子量が1,000〜100,000である、[1]乃至[7]のいずれか1つに記載のエポキシ樹脂。
[9] [1]乃至[8]のいずれか1つに記載のエポキシ樹脂と、硬化剤とを含む、エポキシ樹脂組成物。
[10] 前記エポキシ樹脂100重量部に対し、硬化剤を0.01〜100重量部含む、[9]に記載のエポキシ樹脂組成物。
[11] 前記硬化剤が、フェノール系硬化剤、アミド系硬化剤、アミン系硬化剤、イミダゾール類、酸無水物系硬化剤、有機ホスフィン類からなる群のうちの少なくとも1つである、[9]又は[10]に記載のエポキシ樹脂組成物。
[12] [9]乃至[11]のいずれか1つに記載のエポキシ樹脂組成物からなる電気・電子回路用封止材。
[13] [9]乃至[11]のいずれか1つに記載のエポキシ樹脂組成物からなる電気・電子回路用積層板。
[14] [9]乃至[11]のいずれか1つに記載のエポキシ樹脂組成物からなる光学部材。
[15] [9]乃至[11]のいずれか1つに記載のエポキシ樹脂組成物からなる接着剤。
[16] [9]乃至[11]のいずれか1つに記載のエポキシ樹脂組成物からなる塗料。
[17] [9]乃至[11]のいずれか1つに記載のエポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
本発明のエポキシ樹脂及びそれを含むエポキシ樹脂組成物は、可撓性に優れた硬化物を与える。また、本発明のエポキシ樹脂及びこれを用いて得られた硬化物のガラス転移温度は比較的低く、低温での使用条件下でも高い可撓性を維持することができるため、接着剤、塗料、土木用建築材料、電気・電子部品の絶縁材料等、様々な分野に適用可能であり、特に電気・電子分野における封止材料、積層材料、絶縁注型等として有用である。またこのエポキシ樹脂組成物は、低吸水性に優れ、硬化物の耐クラック性が改善されているため、半導体封止材料、アンダーフィル材料、3D−LSI用インターチップフィル、ダイボンディング材、フィルム状接着剤、液状接着剤等の接着剤、多層プリント配線基板、キャパシタ等の電気・電子回路用積層板、絶縁シート、プリプレグ、放熱基板、あるいは電気・電子用途での接着改良剤や可撓性付与材としての用途において好適に用いることができる。
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
〔エポキシ樹脂〕
本発明のエポキシ樹脂は、下記式(1)で表される。
Figure 0006687079
(上記式(1)中、Aは上記式(2)及び式(3)で表される骨格を少なくとも含み、Rは水素原子又は上記式(4)で表される基であり、nは1以上250以下の数である。式(2)中、R及びRは互いに異なっていてもよく、炭素数2〜20の炭化水素基であり、mは0以上30以下の数である。式(3)中、R〜R10は互いに異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜12の炭化水素基又はハロゲン元素であり、R11は水素原子又は炭素数1〜3の炭化水素基から選ばれる基であり、R12は炭素数4〜20の直鎖状の炭化水素基又は炭素数4〜20の分岐鎖状の炭化水素基である。)
本発明のエポキシ樹脂は、可撓性と低吸水性のバランスに優れるという顕著な効果を奏する。本発明のエポキシ樹脂がこのような効果を奏するのは、次の理由であると推定される。まず、可撓性については、前記式(2)で表される化学構造を主鎖に含むことによる柔軟性を有すること、及び前記式(3)におけるR12がある程度の鎖長を有する柔軟な炭化水素鎖であることによるものであると推定される。また、式(3)で表される化学構造におけるR12が特定の連結鎖長を有する炭化水素基であるために、式(1)で表されるエポキシ樹脂全体に対して、吸水性に寄与する二級水酸基が分子構造全体に占める割合が相対的に低くなり、可撓性を維持しながら低吸水性についても良好となるものと推定される。
<化学構造>
前記式(2)中、R及びRは互いに異なっていてもよく、炭素数2〜20の炭化水素基であり、好ましくは炭素数2〜10の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数2〜8の炭化水素基である。R及びRの炭化水素基は、鎖状構造の炭化水素基であっても環状構造の炭化水素基であってもよいし、また、鎖状構造と環状構造とからなる炭化水素基であってもよい。より具体的に、R及びRの好ましいものとしては、エチレン基、プロピレン基、1,4−ブチレン基、1,5−ペンチレン基、1,6−ヘキシレン基、1,8−オクチレン基、1,4−シクロへキシレン基、シクロへキシル−1,4−メチレン基等が挙げられ、これらの中でもより好ましいものとしては、エチレン基、プロピレン基、1,4−ブチレン基、1,6−ヘキシレン基、シクロへキシル−1,4−メチレン基等が挙げられる。
前記式(3)のR〜R10は、互いに異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜12の炭化水素基又はハロゲン元素から選ばれる基である。これらの中でも炭素数1〜12の炭化水素基としては次のようなものが挙げられる。例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、シクロヘプチル基、メチルシクロヘキシル基、n−オクチル基、シクロオクチル基、n−ノニル基、3,3,5−トリメチルシクロヘキシル基、n−デシル基、シクロデシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、シクロドデシル基、フェニル基、ベンジル基、メチルベンジル基、ジメチルベンジル基、トリメチルベンジル基、ナフチルメチル基、フェネチル基、2−フェニルイソプロピル基等である。これらの中でも、水素原子又はメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましい。また、ハロゲン元素の中ではフッ素、臭素が好ましい。
前記式(3)中、R11は水素原子又は炭素数1〜3の炭化水素基から選ばれる基である。R11は好ましくは水素原子又はメチル基である。
前記式(3)中、R12は炭素数4〜20の直鎖状の炭化水素基又は炭素数4〜20の分岐鎖状の炭化水素基である。R12は好ましくは直鎖状の炭素数4〜14の炭化水素基又は炭素数4〜14の分岐鎖状の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数4〜10の直鎖状の炭化水素基又は炭素数4〜10の分岐鎖状の炭化水素基である。
前記式(1)中、Rは水素原子又は前記式(4)で表される基(エポキシ基)である。即ち、式(1)において、Rは末端構造を示すものであり、両末端が水素原子又は式(4)のエポキシ基であってもよく、片末端のみが水素原子又は式(4)のエポキシ基であってもよい。ただし、前記式(1)は、エポキシ樹脂であることから、式(1)中のRとして少なくともエポキシ基を含むものである。本発明のエポキシ樹脂は、通常、これらの末端を有する分子や、次に説明する繰り返し数nの異なる分子等の混合物である。
前記式(1)中、nは繰り返し数であり、平均値である。その値の範囲は可撓性の観点から1以上であり、また、エポキシ樹脂の取り扱い性の観点から250以下である。これらをより良好なものとする観点から、好ましくは1.1以上であり、より好ましくは1.3以上であり、一方、好ましくは100以下であり、より好ましくは70以下であり、更に好ましくは50以下である。n数はゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により得られた数平均分子量(Mn)より算出することができる。数平均分子量を求めるGPC法については具体例を後掲実施例において説明する。
前記式(2)で表される化学構造におけるmは0以上30以下の数であり、好ましくは0以上20以下の数である。式(2)は本発明のエポキシ樹脂の原料として用いられる式(5)で表される2官能エポキシ樹脂及び/又は式(6)で表される2価の水酸基含有化合物に由来して導入されるため、mは後述する式(2’)におけるm’に基づいて決まる値とみなすこととする。
前記式(1)中、Aは前記式(2)で表される化学構造及び(3)で表される化学構造を少なくとも含み、可撓性及び低吸水性のバランスを良好なものとする観点からはAにおける式(2)で表される化学構造の割合がA全体のモル数に対して1〜99モル%、式(3)で表される化学構造の割合が1〜99モル%であることが好ましい。可撓性及び低吸水性のバランスをより良好なものとする観点から、Aにおける式(2)で表される化学構造の割合は、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは30モル%以上であり、一方、好ましくは90モル%以下、より好ましくは80モル%以下、特に好ましくは70モル%以下である。
本発明のエポキシ樹脂は、前記式(2)で表される化学構造により可撓性の効果を得ており、また、前記式(3)で表される化学構造により可撓性を維持しながら同時に低吸水性の効果を得ている。前記式(1)中のAとして、前記式(2)で表される化学構造と前記式(3)で表される化学構造とのモル比([式(2)で表される化学構造のモル数]/[式(3)で表される化学構造のモル数])は可撓性の観点から、1/99以上であることが好ましく、10/90以上であることが好ましく、20/80以上であることが更に好ましく、一方、低吸水性の観点から、99/1以下であることが好ましく、90/10以下であることがより好ましく、80/20以下であることが更に好ましい。
前記式(1)中、Aは前記式(2)で表される化学構造及び前記式(3)で表される化学構造以外のその他の化学構造を含んでいてもよい。その他の化学構造としては特に制限されないが、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、ジブチルハイドロキノン、ジヒドロアントラハイドロキノン、レゾルシン、メチルレゾルシン等のベンゼンジオール類(ここで、「ベンゼンジオール類とは、1つのベンゼン環を有する化合物であって、当該ベンゼン環に2つの水酸基が直接結合した化合物である。);ジヒドロキシジフェニルエーテル等のジヒドロキシジフェニルエーテル類;チオジフェノール等のチオジフェノール類;ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類;ジヒドロキシスチルベン等のジヒドロキシスチルベン類等の2価の水酸基含有化合物に由来する構造、及びこれらの2価の水酸基含有化合物をエポキシ化して得られる2官能エポキシ樹脂に由来する化学構造等が挙げられる。なお、これらの化学構造は後述する製造方法において、式(5)で表される2官能エポキシ樹脂及び/又は式(6)で表される2価の水酸基含有化合物と共に、上記原料を組み合わせて用いることにより導入することができる。前記式(1)中のAにおけるその他の化学構造の割合は通常、30モル%以下、好ましくは15モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
なお、本発明のエポキシ樹脂において、前記式(2)で表される化学構造、前記式(3)で表される化学構造及びその他の化学構造の割合は、後述のエポキシ樹脂の製造方法の項目において説明するように、原料の比率によって制御することができる。このため、本発明のエポキシ樹脂においては、原料として用いた2官能エポキシ樹脂と2価の水酸基含有化合物とのそれぞれに含まれる化学構造の割合が、そのまま本発明のエポキシ樹脂に含まれる化学構造の割合とみなすこととする。
<エポキシ当量>
本発明のエポキシ樹脂のエポキシ当量は、好ましくは200g/当量以上であり、より好ましくは300g/当量以上、更に好ましくは400g/当量以上であり、一方、好ましくは30,000g/当量以下であり、より好ましくは25,000当量以下、更に好ましくは20,000g/当量以下であり、特に好ましくは15,000g/当量以下である。エポキシ当量が上記下限値以上であると可撓性の観点で好ましく、上記上限値以下であるとエポキシ樹脂の取り扱いが良好となる傾向にある。なお、本発明において「エポキシ当量」とは、「1当量のエポキシ基を含むエポキシ樹脂の質量」と定義され、JIS K7236に準じて測定することができる。
<重量平均分子量(Mw)>
本発明のエポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は、1,000以上が好ましく、1,500以上がより好ましくで、一方、100,000以下が好ましく、50,000以下がより好ましい。重量平均分子量が上記下限値以上であると可撓性の観点で好ましく、上記上限値以下であるとエポキシ樹脂の取り扱いが良好となる傾向にある。なお、エポキシ樹脂の重量平均分子量及び数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定することができる。より詳細な方法の例について後述の実施例において説明する。なお、本発明においては、重量平均分子量が10,000未満であるものを「低分子量エポキシ樹脂」と称することがあり、重量平均分子量が10,000以上であるものを「高分子量エポキシ樹脂」と称することがある。
<ガラス転移温度(Tg)>
本発明のエポキシ樹脂は可撓性を有するため、可撓性付与材として有用である。可撓性付与材は、ガラス転移温度(Tg)がある程度低い領域であると、低温での使用条件下でも可撓性を維持することができるために好ましい。この観点から、低分子量エポキシ樹脂の場合、ガラス転移温度は、−60℃以上であることが好ましく、−40℃以上であることがより好ましく、一方、5℃以下であることが好ましく、0℃以下であることがより好ましく、−10℃以下であることが更に好ましい。また、同様の観点から、高分子量エポキシ樹脂の場合、−20℃以上であることが好ましく、−10℃以上であることがより好ましく、一方、30℃以下であることが好ましく、10℃以下であることがより好ましい。ガラス転移温度はDSC法(示差走査熱量計)により求めることができる。より詳細には、後掲の実施例に記載の方法により求めることができる。
<エポキシ樹脂の製造方法>
本発明のエポキシ樹脂は、2官能エポキシ樹脂と二価の水酸基含有化合物を反応させる、二段法によって得ることができる。また、2種類以上の二価の水酸基含有化合物とエピクロロヒドリンを直接反応させる、一段法によっても得ることができる。ただし、二段法では低分子量から高分子量まで様々なエポキシ樹脂を一段法よりも容易に得ることができるため、二段法を用いることが好ましい。
[二段法による製造方法]
本発明の他の実施態様にかかるエポキシ樹脂は、少なくとも前記式(5)で表される2官能エポキシ樹脂と前記式(6)で表される二価の水酸基含有化合物とを反応させて得られることを特徴とする。
Figure 0006687079
(上記式(5)及び(6)中、A’は上記式(2’)で表される化学構造及び上記式(3’)で表される化学構造を少なくとも有し、式(5)中、n’は繰り返し数の平均値であり0以上6以下である。上記式(2’)中、R’1及びR’2は互いに異なっていてもよく、炭素数2〜20の炭化水素基であり、m’は0以上30以下の数である。式(3’)中、R’3〜R’10は互いに異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜12の炭化水素基又はハロゲン元素であり、R’11は水素原子又は炭素数1〜3の炭化水素基から選ばれる基であり、R’12は炭素数4〜20の直鎖状の炭化水素基又は炭素数4〜20の分岐鎖状の炭化水素基である。)
(2官能エポキシ樹脂)
本発明のエポキシ樹脂の製造に用いられる2官能エポキシ樹脂は、前記式(5)で表されるエポキシ樹脂であり、例えば、前記式(6)で表される二価の水酸基含有化合物を、後述の一段法と同様の方法によりエピハロヒドリンと縮合させて得られるエポキシ樹脂が挙げられる。
前記式(5)中、A’は前記式(2’)で表される化学構造を含んでいてもよいし、含まなくともよい。ただし、前記式(5)中のA’が式(2’)で表される化学構造を含まない場合は、前記式(6)中のA’は前記式(2’)で表される化学構造を必ず含むものである。また、前記式(5)中、A’は前記式(3’)で表される化学構造を含んでいてもよいし、含まなくともよい。ただし、前記式(5)中のA’が式(3’)で表される化学構造を含まない場合は、前記式(6)中のA’は前記式(3’)で表される化学構造を必ず含むものである。なお、前記式(5)におけるA’として前記式(2’)で表される化学構造及び式(3’)で表される化学構造を含まない場合には、該A’には公知の任意の化学構造を導入することができる。
前記式(5)におけるn’は繰り返し数の平均値であり、0以上6以下である。
前記式(2’)におけるR’及びR’の定義と好ましいものについては前記式(2)におけるR及びRと同様のものである。また、式(2’)におけるm’の定義は式(2)におけるmと同様である。
前記式(3’)におけるR’〜R’10、R’11及びR’12のそれぞれの定義と好ましいものについては、前記式(3)におけるR〜R10、R11及びR12のそれぞれと同様である。
(二価の水酸基含有化合物)
本発明のエポキシ樹脂の製造に用いられる二価の水酸基含有化合物は、前記式(6)で表される二価の水酸基含有化合物である。
前記式(6)中、A’は前記式(2’)で表される化学構造を含んでいてもよいし、含まなくともよい。ただし、前記式(6)中のA’が式(2’)で表される化学構造を含まない場合は、前記式(5)中のA’は前記式(2’)で表される化学構造を必ず含むものである。また、前記式(6)中、A’は前記式(3’)で表される化学構造を含んでいてもよいし、含まなくともよい。ただし、前記式(6)中のA’が式(3’)で表される化学構造を含まない場合は、前記式(5)中のA’は前記式(3’)で表される化学構造を必ず含むものである。なお、前記式(6)におけるA’として前記式(2’)で表される化学構造及び式(3’)で表される化学構造を含まない場合には、該A’には公知の任意の化学構造を導入することができる。
つまり、二段法により製造されるエポキシ樹脂には、前記式(2’)で表される化学構造が必ず含まれるものであり、これを満たす限り、前記式(2)の化学構造が、2官能エポキシ樹脂及び二価の水酸基含有化合物のいずれかに含まれるものであってもよく、またその化学構造の割合も制限されるものではない。同様に、二段法により製造されるエポキシ樹脂には、前記式(3’)で表される化学構造が必ず含まれるものであり、これを満たす限り、前記式(3)の化学構造が、2官能エポキシ樹脂及び二価の水酸基含有化合物のいずれに含まれるものであってもよく、またその化学構造の割合も制限されるものではない。
本発明のエポキシ樹脂の製造に用いる2官能エポキシ樹脂又は二価の水酸基含有化合物には、可撓性と低吸水性のバランスを良好なものとする観点から、前記式(2’)で表される化学構造が、前記式(5)及び式(6)中のA’全体のモル数に対して1〜99モル%含まれていることが好ましい。この効果をより良好なものとする観点から、式(2’)の割合は、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは30モル%以上であり、一方、好ましくは90モル%以下、より好ましくは80モル%以下、特に好ましくは70モル%以下である。
前記式(5)及び式(6)中、A’は前記式(2’)で表される化学構造及び(3’)で表される化学構造を少なくとも含み、可撓性と低吸水性のバランスを良好なものとする観点から、前記式(5)及び式(6)のA’全体における式(2’)で表される化学構造の割合がA’全体のモル数に対して1〜99モル%、式(3’)で表されるビスフェノール骨格の割合が1〜99モル%である。この効果をより良好なものとする観点から、A’における式(2’)で表される化学構造の割合は、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは30モル%以上であり、一方、好ましくは90モル%以下、より好ましくは80モル%以下、特に好ましくは70モル%以下である。
本発明のエポキシ樹脂は、前記式(2’)で表される化学構造により可撓性の効果を得ており、また、前記式(3’)で表される化学構造により可撓性を維持しながら低吸水性の効果を得ている。このため、前記式(5)及び前記式(6)中のA’として、前記式(2’)で表される化学構造と前記式(3’)で表される化学構造とのモル比([式(2’)で表される化学構造のモル数]/[式(3’)で表される化学構造のモル数])は可撓性の観点から、1/99以上であることが好ましく、10/90以上であることが好ましく、20/80以上であることが更に好ましく、一方、可撓性を維持しながら低吸水性を得る観点から、99/1以下であることが好ましく、90/10以下であることがより好ましく、80/20以下であることが更に好ましい。
(触媒)
本発明のエポキシ樹脂の合成には触媒を用いてもよく、その触媒としては、エポキシ基とフェノール性水酸基、アルコール性水酸基やカルボキシル基との反応を進めるような触媒能を持つ化合物であればどのようなものでもよい。例えば、アルカリ金属化合物、有機リン化合物、第3級アミン、第4級アンモニウム塩、環状アミン類、イミダゾール類等が挙げられる。
以上に挙げた触媒の中でも第4級アンモニウム塩が好ましい。また、触媒は1種のみを使用することも、2種以上を組み合わせて使用することもできる。触媒の使用量は反応固形分中、通常0.001〜1重量%である。
(溶媒)
本発明のエポキシ樹脂は、その製造時の合成反応の工程において、反応用の溶媒を用いてもよく、その溶媒としては、エポキシ樹脂を溶解するものであればどのようなものでもよい。例えば、芳香族系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒、グリコールエーテル系溶媒等が挙げられる。
芳香族系溶媒の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。ケトン系溶媒の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン(以下、「MEK」と表記することがある。)、メチルイソブチルケトン(以下、「MIBK」と表記することがある。)、2−ヘプタノン、4−ヘプタノン、2−オクタノン、シクロヘキサノン、アセチルアセトンなどが挙げられる。アミド系溶媒の具体例としては、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、2−ピロリドン、N−メチルピロリドンなどが挙げられる。グリコールエーテル系溶媒の具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジオキサンなどが挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用することもできる。
(溶剤)
エポキシ樹脂の製造時の合成反応における固形分濃度は35〜95重量%が好ましい。このため、前述の溶媒において挙げたものと同様の有機化合物を希釈用の溶剤として用いてもよい。例えば、反応途中で高粘性生成物が生じたときに溶剤を追加添加して反応を続けることもできる。反応終了後、溶剤は必要に応じて、除去することもできるし、更に追加することもできる。なお、本発明においては「溶剤」という語と前述の「溶媒」という語をその使用形態により区別して用いるが、同種のものを用いても異なるものを用いてもよい。
(反応条件)
エポキシ樹脂の製造において、2官能エポキシ樹脂と二価の水酸基含有化合物との重合反応は使用する触媒が分解しない程度の反応温度で実施される。反応温度が高すぎると生成するエポキシ樹脂が劣化するおそれがある。逆に温度が低すぎると十分に反応が進まないことがある。これらの理由から反応温度は、好ましくは50〜230℃、より好ましくは120〜200℃である。また、反応時間は通常1〜12時間、好ましくは3〜10時間である。アセトンやメチルエチルケトンのような低沸点溶剤を使用する場合には、オートクレーブを使用して高圧下で反応を行うことで反応温度を確保することができる。
[一段法による製造]
本発明のエポキシ樹脂は、一段法によっても製造することができる。具体的には、前記式(6)で表される二価の水酸基含有化合物を、エピクロロヒドリンと直接反応させればよい。ただし、前述のように、一段法で製造した本発明のエポキシ樹脂のうち、低分子のものについては、二段法における2官能エポキシ樹脂として用いることができる。
一段法により本発明のエポキシ樹脂を製造する場合、原料として用いられる前記式(6)で表される二価の水酸基含有化合物中、A’は式(2)及び式(3)で表される化学構造を必ず含む。二段法において説明したものと同様の理由により、A’全体に対する式(2)の割合は、10モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、30モル%以上が更に好ましい。また、90モル%以下が好ましく、80モル%以下がより好ましく、70モル%以下が更に好ましい。
反応に用いるエピハロヒドリンの使用量は、二価の水酸基含有化合物の水酸基1モル当量当たり通常、0.8〜20モル当量、より好ましくは0.9〜15モル当量、更に好ましくは1.0〜10モル当量に相当する量を使用し、二価の水酸基含有化合物をエピハロヒドリンに溶解させて均一な溶液とする。エピハロヒドリンの量が上記下限値以上であると必要以上に高分子量化せず、反応を制御しやすく、また、適切な溶融粘度とすることができるために好ましい。一方、エピハロヒドリンの量が上記上限値以下であると、生産効率が向上する傾向にあるために好ましい。この反応におけるエピハロヒドリンとしては、通常、エピクロルヒドリン及び/又はエピブロモヒドリンが用いられる。
次いで、その溶液を撹拌しながら、これに二価の水酸基含有化合物の水酸基1モル当量当たり通常、0.5〜2.0モル当量、好ましくは0.7〜1.8モル当量、より好ましくは0.9〜1.6モル当量に相当する量のアルカリ金属水酸化物を固体又は水溶液で加えて反応させる。アルカリ金属水酸化物の量が上記下限値以上であると、未反応の水酸基と生成したエポキシ樹脂が反応して必要以上に高分子量化してしまうことを防ぐことができるために好ましい。また、アルカリ金属水酸化物が上記上限値以下であると、副反応による不純物の生成を低減することができるために好ましい。アルカリ金属水酸化物としては通常、水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウムが用いられる。
この反応は、常圧下又は減圧下で行うことができ、反応温度は、常圧下の反応の場合は通常、20〜150℃、より好ましくは30〜120℃、更に好ましくは35〜100℃であり、減圧下の反応の場合は20〜100℃、より好ましくは30〜90℃、更に好ましくは35℃〜80℃である。反応温度が上記下限値以上であると反応が進行しやすいために好ましい。反応温度が上記上限値以下であると副反応が進行しにくく、特に、エピハロヒドリンとしてエピクロルヒドリンを用いた場合、塩素不純物を低減しやすいために好ましい。
反応は必要に応じて所定の温度を保持しながら反応液を共沸させ、揮発する蒸気を冷却して得られた凝縮液を油分と水分とに分離し、水分を除いた油分を反応系へ戻す方法により脱水する。アルカリ金属水酸化物の添加は、急激な反応を抑えるために、好ましくは0.5〜8時間、より好ましくは1〜7時間、更に好ましくは1〜6時間かけて少量ずつを断続的又は連続的に添加する。添加時間が上記下限値以上であると急激に反応が進行するのを防ぐことができ、反応温度の制御が行ないやすくなるために好ましい。一方、添加時間が上記上限値以下であると、エピハロヒドリンとしてエピクロルヒドリンを用いた場合に塩素不純物が生成しにくくなるために好ましく、また、経済性の観点からも好ましい。全反応時間は通常、1〜15時間である。反応終了後、不溶性の副生塩を濾別して除くか、水洗により除去した後、未反応のエピハロヒドリンを減圧留去して除くと、目的のエポキシ樹脂を得ることができる。
また、この反応においては、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアン・BR>cJウムブロミドなどの第四級アンモニウム塩;ベンジルジメチルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの第三級アミン;2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾールなどのイミダゾール類;エチルトリフェニルホスホニウムアイオダイドなどのホスホニウム塩;トリフェニルホスフィンなどのホスフィン類;硫酸、三フッ化ホウ素エチルエーテル、四塩化錫などの酸性触媒等の触媒を用いてもよい。
更に、この反応においては、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類;メトキシプロパノールなどのグリコールエーテル類;ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどの非プロトン性極性溶媒等の不活性な有機溶媒を使用してもよい。
更に、上記のようにして得られたエポキシ樹脂の可鹸化ハロゲン量が多すぎる場合は、再処理して十分に可鹸化ハロゲン量が低下した精製エポキシ樹脂を得ることができる。つまり、その粗製エポキシ樹脂を、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、ジオキサン、メトキシプロパノール、ジメチルスルホキシドなどの不活性な有機溶媒に再溶解しアルカリ金属水酸化物を固体又は水溶液で加えて好ましくは30〜120℃、より好ましくは40〜110℃、更に好ましくは50〜100℃の温度で、好ましくは0.1〜15時間、より好ましくは0.3〜12時間、更に好ましくは0.5〜10時間再閉環反応を行った後、水洗等の方法で過剰のアルカリ金属水酸化物や副生塩を除去し、更に有機溶媒を減圧留去及び/又は水蒸気蒸留を行うと、加水分解性ハロゲン量が低減されたエポキシ樹脂を得ることができる。反応温度が上記範囲内であり、また、上記上限値以下であると、再閉環反応が進行しやすいために好ましい。また、反応温度が上記範囲内であると、高分子量化反応を制御しやすいために好ましい。
〔エポキシ樹脂組成物〕
本発明のエポキシ樹脂組成物は、少なくとも前述した本発明のエポキシ樹脂と硬化剤とを含むエポキシ樹脂組成物である。また、本発明のエポキシ樹脂組成物には、必要に応じて、他のエポキシ樹脂、その他の成分などを適宜配合することができる。本発明のエポキシ樹脂組成物は、可撓性と低吸水性のバランスに優れ、各種用途に要求される諸物性を十分に満たす硬化物を与えるものである。
<硬化剤>
本発明において硬化剤とは、エポキシ樹脂のエポキシ基間の架橋反応及び/又は鎖長延長反応に寄与する物質を意味する。なお、本発明においては通常、「硬化促進剤」と呼ばれるものであってもエポキシ樹脂のエポキシ基間の架橋反応及び/又は鎖長延長反応に寄与する物質であれば、硬化剤とみなすこととする。
本発明のエポキシ樹脂組成物中の硬化剤の含有量は、本発明のエポキシ樹脂100重量部に対して好ましくは0.01〜100重量部である。また、より好ましくは80重量部以下であり、更に好ましくは60重量部以下である。
また、本発明のエポキシ樹脂組成物において、後述する他のエポキシ樹脂が含まれる場合、硬化剤の含有量は、固形分としての全エポキシ樹脂成分100重量部に対して好ましくは0.01〜100重量部である。また、より好ましくは80重量部以下であり、更に好ましくは60重量部以下である。本発明において、「固形分」とは溶媒を除いた成分を意味し、固体のエポキシ樹脂のみならず、半固形や粘稠な液状物をも含むものとする。また、「全エポキシ樹脂成分」とは、本発明のエポキシ樹脂と後述する他のエポキシ樹脂との合計を意味する。
本発明のエポキシ樹脂組成物に用いる硬化剤としては、特に制限はなく一般的にエポキシ樹脂硬化剤として知られているものはすべて使用することができる。その中でもフェノール系硬化剤、アミド系硬化剤、アミン系硬化剤(ただし、3級アミンを除く。)、イミダゾール類、酸無水物系硬化剤、有機ホスフィン類等が挙げられる。以下、フェノール系硬化剤、アミド系硬化剤、アミン系硬化剤(ただし、3級アミンを除く。)、イミダゾール類、酸無水物系硬化剤、有機ホスフィン類及びその他の使用可能な硬化剤の例を挙げる。
[フェノール系硬化剤]
硬化剤としてフェノール系硬化剤を用いることが、得られるエポキシ樹脂組成物の取り扱い性と、硬化後の耐熱性を向上させる観点から好ましい。フェノール系硬化剤の具体例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、1,4−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ジヒドロキシビフェニル、10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキサイド、フェノールノボラック、ビスフェノールAノボラック、o−クレゾールノボラック、m−クレゾールノボラック、p−クレゾールノボラック、キシレノールノボラック、ポリ−p−ヒドロキシスチレン、ハイドロキノン、レゾルシン、カテコール、t−ブチルカテコール、t−ブチルハイドロキノン、フルオログリシノール、ピロガロール、t−ブチルピロガロール、アリル化ピロガロール、ポリアリル化ピロガロール、1,2,4−ベンゼントリオール、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、1,8−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,4−ジヒドロキシナフタレン、2,5−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,8−ジヒドロキシナフタレン、上記ジヒドロキシナフタレンのアリル化物又はポリアリル化物、アリル化ビスフェノールA、アリル化ビスフェノールF、アリル化フェノールノボラック、アリル化ピロガロール等が例示される。
以上で挙げたフェノール系硬化剤は1種のみで用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。また、硬化剤がフェノール系硬化剤の場合は、エポキシ樹脂中のエポキシ基に対する硬化剤中の官能基の当量比で0.8〜1.5の範囲となるように用いることが好ましい。この範囲内であると未反応のエポキシ基や硬化剤の官能基が残留しにくくなるために好ましい。
[アミド系硬化剤]
硬化剤としてアミド系硬化剤を用いることが、耐熱性等の向上の観点から好ましい。アミド系硬化剤としてはジシアンジアミド及びその誘導体、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
以上に挙げたアミド系硬化剤は1種のみで用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。また、アミド系硬化剤は、エポキシ樹脂組成物中の固形分としての全エポキシ樹脂成分とアミド系硬化剤との合計に対して0.1〜20重量%の範囲で用いることが好ましい。
[アミン系硬化剤]
硬化剤としてアミン系硬化剤(ただし、第3級アミンを除く。)を用いることが、耐熱性等の向上の観点から好ましい。アミン系硬化剤の例としては、脂肪族アミン類、ポリエーテルアミン類、脂環式アミン類、芳香族アミン類などが挙げられる。脂肪族アミン類としては、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノプロパン、ヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、N−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、テトラ(ヒドロキシエチル)エチレンジアミン等が例示される。ポリエーテルアミン類としては、トリエチレングリコールジアミン、テトラエチレングリコールジアミン、ジエチレングリコールビス(プロピルアミン)、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシプロピレントリアミン類等が例示される。脂環式アミン類としては、イソホロンジアミン、メタセンジアミン、N−アミノエチルピペラジン、ビス(4−アミノ−3−メチルジシクロヘキシル)メタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、ノルボルネンジアミン等が例示される。芳香族アミン類としては、テトラクロロ−p−キシレンジアミン、m−キシレンジアミン、p−キシレンジアミン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノアニソール、2,4−トルエンジアミン、2,4−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−1,2−ジフェニルエタン、2,4−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、m−アミノフェノール、m−アミノベンジルアミン、ベンジルジメチルアミン、2−ジメチルアミノメチル)フェノール、トリエタノールアミン、メチルベンジルアミン、α−(m−アミノフェニル)エチルアミン、α−(p−アミノフェニル)エチルアミン、ジアミノジエチルジメチルジフェニルメタン、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン等が例示される。
以上で挙げたアミン系硬化剤は1種のみで用いても2種以上を任意の組み合わせ及び配合比率で用いてもよい。また、アミン系硬化剤は、エポキシ樹脂中のエポキシ基に対する硬化剤中の官能基の当量比で0.8〜1.5の範囲となるように用いることが好ましい。この範囲内であると未反応のエポキシ基や硬化剤の官能基が残留しにくくなるために好ましい。
[イミダゾール類]
硬化剤としてイミダゾール類を用いることが、硬化反応を十分に進行させ、耐熱性を向上させる観点から好ましい。イミダゾール類としては、2−フェニルイミダゾール、2−エチル−4(5)−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノ−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾールトリメリテイト、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−エチル−4’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加体、2−フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加体、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、及びエポキシ樹脂と上記イミダゾール類との付加体等が例示される。なお、イミダゾール類は触媒能を有するため、一般的には後述する硬化促進剤にも分類されうるが、本発明においては硬化剤として分類するものとする。
以上に挙げたイミダゾール類は1種のみでも、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。また、イミダゾール類は、エポキシ樹脂組成物中の固形分としての全エポキシ樹脂成分とイミダゾール類との合計に対して0.01〜20重量%の範囲で用いることが好ましい。
[酸無水物系硬化剤]
硬化剤として酸無水物系硬化剤を用いることが、耐熱性の観点から好ましい。酸無水物系硬化剤としては、酸無水物、酸無水物の変性物等が挙げられる。
酸無水物としては、例えば、フタル酸無水物、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物、ポリアジピン酸無水物、ポリアゼライン酸無水物、ポリセバシン酸無水物、ポリ(エチルオクタデカン二酸)無水物、ポリ(フェニルヘキサデカン二酸)無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルハイミック酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、トリアルキルテトラヒドロフタル酸無水物、メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸無水物、エチレングリコールビストリメリテート二無水物、ヘット酸無水物、ナジック酸無水物、メチルナジック酸無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸無水物、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物、1−メチル−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物等が挙げられる。
酸無水物の変性物としては、例えば、上述した酸無水物をグリコールで変性したもの等が挙げられる。ここで、変性に用いることのできるグリコールの例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等のアルキレングリコール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等のポリエーテルグリコール類等が挙げられる。更には、これらのうちの2種類以上のグリコール及び/又はポリエーテルグリコールの共重合ポリエーテルグリコールを用いることもできる。なお、酸無水物の変性物においては、酸無水物1モルに対してグリコール0.4モル以下で変性させることが好ましい。変性量が上記上限値以下であると、エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなり過ぎず、作業性が良好となる傾向にあり、また、エポキシ樹脂との硬化反応の速度も良好となる傾向にある。
以上で挙げた酸無水物硬化剤は1種のみでも2種以上を任意の組み合わせ及び配合量で用いてもよい。酸無水物系硬化剤を用いる場合には、エポキシ樹脂中のエポキシ基に対する硬化剤中の官能基の当量比で0.8〜1.5の範囲となるように用いることが好ましい。この範囲内であると未反応のエポキシ基や硬化剤の官能基が残留しにくくなるために好ましい。
[有機ホスフィン類]
硬化剤として有機ホスフィン類を用いることが、硬化性に優れ、電気的信頼性の高い硬化物を与えるという観点から好ましい。有機ホスフィン類としては、トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフイン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィン等が例示され、ホスホニウム塩としては、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウム・エチルトリフェニルボレート、テトラブチルホスホニウム・テトラブチルボレート等が例示され、テトラフェニルボロン塩としては、2−エチル−4−メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート、N−メチルモルホリン・テトラフェニルボレート等が例示される。
以上に挙げた有機ホスフィン類は1種のみで用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。また、有機ホスフィン類は、エポキシ樹脂組成物中の固形分としての全エポキシ樹脂成分と有機ホスフィン類との合計に対して0.1〜20重量%の範囲で用いることが好ましい。
[その他の硬化剤]
本発明のエポキシ樹脂組成物に用いることのできる硬化剤として、フェノール系硬化剤、アミド系硬化剤、アミン系硬化剤、イミダゾール類、酸無水物系硬化剤、有機ホスフィン類以外のものとしては、例えば、メルカプタン系硬化剤、第3級アミン、ホスホニウム塩、テトラフェニルボロン塩、有機酸ジヒドラジド、ハロゲン化ホウ素アミン錯体、イソシアネート系硬化剤、ブロックイソシアネート系硬化剤等が挙げられる。以上に挙げたその他の硬化剤は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。
<他のエポキシ樹脂>
本発明のエポキシ樹脂組成物は、本発明のエポキシ樹脂に加え、他のエポキシ樹脂を含むことができる。他のエポキシ樹脂を用いることで、不足する物性を補ったり、種々の物性を向上させたりすることができる。
他のエポキシ樹脂としては、分子内に2個以上のエポキシ基を有するものであることが好ましく、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等の、各種エポキシ樹脂を使用することができる。これらは1種のみでも2種以上の混合体としても使用することができる。
本発明のエポキシ樹脂組成物において、本発明のエポキシ樹脂と他のエポキシ樹脂とを用いる場合、全エポキシ樹脂成分中の本発明のエポキシ樹脂の配合量は、好ましくは1重量%以上であり、より好ましくは5重量%以上であり、一方、好ましくは99重量%以下であり、より好ましくは95重量%以下である。他のエポキシ樹脂の割合が上記下限値以上であることにより、他のエポキシ樹脂を配合することによる物性向上効果を十分に得ることができ、特に本発明のエポキシ樹脂そのものよりも更に耐熱性に優れた材料を得ることができる。一方、他のエポキシ樹脂の割合が前記上限値以下であることにより、本発明のエポキシ樹脂の効果が十分に発揮され、可撓性と低吸水性を得ることができる傾向があるために好ましい。
<溶剤>
本発明のエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物には、塗膜形成時の取り扱い時に、エポキシ樹脂組成物の粘度を適度に調整するために溶剤を配合し、希釈してもよい。本発明のエポキシ樹脂組成物において、溶剤は、エポキシ樹脂組成物の成形における取り扱い性、作業性を確保するために用いられ、その使用量には特に制限がない。
本発明のエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物が含み得る溶剤としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、メタノール、エタノール等のアルコール類、ヘキサン、シクロヘキサン等のアルカン類、トルエン、キシレン等の芳香族類などが挙げられる。以上に挙げた溶剤は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。
<その他の成分>
本発明のエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物には、その機能性の更なる向上を目的として、以上に挙げた以外の成分(本発明において、「その他の成分」と称することがある。)を含んでいてもよい。その他の成分としては、無機フィラー、シランカップリング剤等のカップリング剤、紫外線防止剤、酸化防止剤、可塑剤、フラックス、難燃剤、着色剤、分散剤、乳化剤、低弾性化剤、希釈剤、消泡剤、イオントラップ剤等が挙げられる。
〔硬化物〕
本発明のエポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化物は、可撓性と低吸水性のバランスに優れ、良好な硬化物性を示すものである。なお、ここでいう「硬化」とは熱及び/又は光等によりエポキシ樹脂組成物を意図的に硬化させることを意味するものであり、その硬化の程度は所望の物性、用途により制御すればよい。進行の程度は完全硬化であっても、半硬化の状態であってもよく、特に制限されないが、エポキシ基と硬化剤の硬化反応の反応率として通常5〜95%である。
本発明のエポキシ樹脂組成物を硬化又は半硬化させて硬化物又は半硬化物とする際のエポキシ樹脂組成物の硬化方法は、エポキシ樹脂組成物中の配合成分や配合量によっても異なるが、通常、80〜200℃で60〜180分の加熱条件が挙げられる。この加熱は80〜160℃で10〜30分の一次加熱と、一次加熱温度よりも40〜120℃高い120〜200℃で60〜150分の二次加熱との二段処理で行うことが、硬化不良を少なくするという点で好ましい。
樹脂半硬化物を作製する際には、加熱等により形状が保てる程度にエポキシ樹脂組成物の硬化反応を進行させる。エポキシ樹脂組成物が溶剤を含んでいる場合には、加熱、減圧、風乾等の手法で大部分の溶剤を除去するが、樹脂半硬化物中に5質量%以下の溶剤が残留することもある。
〔用途〕
本発明のエポキシ樹脂及びそれを含むエポキシ樹脂組成物は、注型、フィルム成形・塗布等のプロセスに適用するのに十分な可撓性を有し、かつ低吸水性にも優れたものであり、接着剤、塗料、光学部材、土木建築用材料、電気・電子部品の絶縁材料等、様々な分野に適用可能である。特に、電気・電子分野における絶縁注型材料、積層材料、封止材料等として有用であり、例えば、電気・電子回路用積層板、電気・電子回路用封止材等が挙げられる。本発明のエポキシ樹脂及びそれを含むエポキシ樹脂組成物の用途の一例としては、半導体封止材料、アンダーフィル材料、3D−LSI用インターチップフィル、ダイボンディング材、フィルム状接着剤、液状接着剤等の接着剤、多層プリント配線基板、キャパシタ等の電気・電子回路用積層板、絶縁シート、プリプレグ、放熱基板、あるいは電気・電子用途での接着改良剤や可撓性付与材などが挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。
なお、本発明において「電気・電子回路用積層板」とは、本発明のエポキシ樹脂組成物を含む層と銅、アルミニウムやこれらの合金等がからなる導電性金属層とを積層したものであり、本発明のエポキシ樹脂組成物を含む層と導電性金属層とを積層したものであれば、電気・電子回路ではなくとも、例えばキャパシタも含む概念として用いられる。なお、電気・電子回路用積層板中には2種以上のエポキシ樹脂組成物からなる層が形成されていてもよく、少なくとも1つの層において本発明のエポキシ樹脂組成物が用いられていればよい。また、2種以上の導電性金属層が形成されていてもよい。
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。以下において、「部」は全て「重量部」を示す。また、以下における各種物性ないし特性の測定方法は次の通りである。
1)重量平均分子量及び数平均分子量
東ソー(株)製「HLC−8320GPC EcoSEC(登録商標)」を使用し、以下の測定条件で、標準ポリスチレンとして、TSK Standard Polystyrene:F−128(Mw1,090,000、Mn1,030,000)、F−10(Mw106,000、Mn103,000)、F−4(Mw43,000、Mn42,700)、F−2(Mw17,200、Mn16,900)、A−5000(Mw6,400、Mn6,100)、A−2500(Mw2,800、Mn2,700)、A−300(Mw453、Mn387)を使用した検量線を作成し、重量平均分子量及び数平均分子量をポリスチレン換算値として測定した。
カラム:東ソー(株)製「TSKGEL SuperHM−H+H5000+H4000+H3000+H2000」
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:0.5ml/min
検出:UV(波長254nm)
温度:40℃
試料濃度:0.1重量%
インジェクション量:10μl
2)nの値
前記式(1)におけるnの値及びその平均値は、上記で求められた数平均分子量より算出した。
3)エポキシ当量
JIS K7236に準じて測定し、固形分換算値として表記した。
4)ガラス転移温度(Tg)
エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化物について、SIIナノテクノロジー(株)製 示差走査熱量計「DSC7020」を使用し、30〜200℃まで10℃/minで昇温してガラス転移温度を測定した。なお、ここでいうガラス転移温度は、JIS K7121「プラスチックの転移温度測定法」に記載されているうちの「中点ガラス転移温度:Tmg」に基づいて測定した。
5)吸水率
(試験片の作成)
低分子量エポキシ樹脂:エポキシ樹脂組成物を減圧下で脱泡させた後、直径50mm、高さ3mmの金型に流し込み、150℃で1時間加熱し、更にその後180℃で1時間硬化させて、試験片を得た。
高分子量エポキシ樹脂:アプリケーターを用いて、エポキシ樹脂組成物をセパレータ(シリコーン処理したポリエチレンテレフタレートフィルム)上に塗膜し、150℃で1時間加熱し、更にその後180℃で1時間硬化させた。このエポキシ樹脂硬化フィルムを40mm×40mmに切り出し、試験片を得た。
(試験条件)
エポキシ樹脂組成物の硬化物を105℃で2時間乾燥した後、エスペック社 HASTチャンバー EHS−211MDを用いて、以下の条件下に放置した後の吸水率を下記式で算出した。
低分子量エポキシ樹脂:121℃、100%RH条件下に24時間放置した。低吸水性は、吸水率が3.5以下であるものを合格、それ以外のものを不合格と評価した。
高分子量エポキシ樹脂:85℃、85%RH条件下に168時間放置した。低吸水性は、吸水率が0.9以下であるものを合格、それ以外のものを不合格と評価した。
(吸水率)=[{(放置後の試験片の質量)−(放置前の試験片の質量)}/(放置前の試験片の質量)]×100
6)引張伸び
(試験片の作成)
低分子量エポキシ樹脂: 200mm×200mm×8mmのガラス板の片面に離型PETフィルムを貼り付けたものを2枚用意し、その内の1枚をフィルムを貼り付けた側が上に来るように置いた。この上に内径3mmのシリコン製チューブをU字型にセットし、またガラス板の四隅に厚さ3mmの金属製スペーサーを置いた上で、もう1枚のフィルム付ガラス板をフィルム側が向かい合うようにして重ね合わせ、小型万力で2枚のガラス板を固定して硬化物作成用の型を準備した。エポキシ樹脂組成物を減圧下で脱泡した後、準備した型の中に流し入れ、150℃で1時間加熱し、更にその後180℃で1時間硬化させた。このエポキシ樹脂硬化物をダンベル型に打ち抜き、試験片を得た。
高分子量エポキシ樹脂:アプリケーターを用いて、エポキシ樹脂組成物をセパレータ(シリコーン処理したポリエチレンテレフタレートフィルム)上に塗膜し、150℃で1時間加熱し、更にその後180℃で1時間硬化させた。このエポキシ樹脂硬化フィルムをダンベル型に打ち抜き、試験片を得た。
(試験条件)
インストロン社製 精密万能試験機「INSTRON 5582型」を使用し、JIS K7161に準じて引張伸びを測定した。
低分子量エポキシ樹脂:可撓性は、引張伸びの値が50%以上であるものを合格、それ以外のものを不合格と評価した。
高分子量エポキシ樹脂:可撓性は、引張伸びの値が25%以上であるものを合格、それ以外のものを不合格と評価した。
[原料]
以下の実施例、比較例において用いた原料、触媒、溶媒及び溶剤は以下の通りである。
<2官能エポキシ樹脂>
(A−1):1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(三菱化学(株)製 商品名「YED216D」、エポキシ当量116g/当量)
(A−2):1,4−シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル(エポキシ当量143g/当量)(A−3):ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル(エポキシ当量435g/当量)
<二価の水酸基含有化合物>
(B−1):4,4’−デシリデンビスフェノール(本州化学工業(株)製 商品名「BisP−DED」、水酸基当量163g/当量)
(B−2):4,4’−(2−エチルヘキシリデン)ビスフェノール(本州化学工業(株)製 商品名「BisP−IOTD」、水酸基当量149g/当量)
(B−3):4,4’−(1,3−ジメチルブチリデン)ビスフェノール(本州化学工業(株)製 商品名「BisP−MIBK」、水酸基当量135g/当量)
(B−4):ビスフェノールF(水酸基当量100g/当量)
(B−5):4,4’(2−メチルプロピリデン)ビスフェノール(本州化学工業製 商品名「BisP−IBTD」、水酸基当量121g/当量)(B−6):9,9−ビス(2−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(本州化学工業(株)製 商品名「BisOC−FL」、水酸基当量189g/当量)
(B−6):9,9−ビス(2−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(本州化学工業(株)製 商品名「BisOC−FL」、水酸基当量189g/当量)
Figure 0006687079
<触媒>
(C−1):エチルトリフェニルホスフォニウムアイオダイド 30重量%メチルセロソルブ溶液
(C−2):トリフェニルホスフィン 20重量%MEK溶液
(C−3):テトラメチルアンモニウムハイドロキサイド 27重量%水溶液
<溶媒(反応用)及び溶剤(希釈用)>
(S−1):シクロヘキサノン
(S−2):メチルエチルケトン
<硬化剤>
(D−1):ビスフェノールAノボラック樹脂(三菱化学(株)製 商品名「YLH129」)
(D−2):2−エチル−4(5)−メチルイミダゾール(三菱化学(株)製 商品名「EMI−24」) 20重量%MEK溶液
<その他のエポキシ樹脂>
(E−1):ビスフェノールアセトフェノンと3,3’,5,5’−テトラメチルビフェノールジグリシジルエーテルとを反応させて得られたエポキシ樹脂(エポキシ当量12,000g/当量、重量平均分子量36,000) 30重量%MEK・シクロヘキサノン混合溶液(MEKとシクロヘキサノンの重量比1:1)
(E−2):ビスフェノールAノボラック型多官能エポキシ樹脂 80重量%MEK溶液(三菱化学(株)製 商品名「157S65B80」
[低分子量エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂組成物の製造・評価]
<実施例1−1〜1−2及び比較例1−1,1−3〜1−6>
表−1に示した配合で2官能エポキシ樹脂、二価の水酸基含有化合物、触媒及び溶媒を撹拌機付き耐圧反応容器に入れ、窒素ガス雰囲気下、160℃で5時間反応を行った後、得られた樹脂について分析を行った。結果を表−1に示す。
Figure 0006687079
<実施例2−1〜2−2及び比較例2−1,2−3〜2−6>
表−2に示した配合で実施例1−1〜1−2及び比較例1−1〜1,1−3−6のそれぞれで得られたエポキシ樹脂、硬化剤を配合し、よく撹拌してエポキシ樹脂組成物を得た。これらのエポキシ樹脂組成物について、150℃で1時間加熱し、更にその後180℃で1時間加熱することにより硬化させ、エポキシ樹脂硬化物を得た。これらのエポキシ樹脂組成物の硬化物について、前述の方法によりガラス転移温度(Tg)測定、吸水率測定及び引張試験を行なった。結果を表−2に示す。
Figure 0006687079
[評価結果(低分子量エポキシ樹脂)]
表−2の結果より、本発明のエポキシ樹脂を用いて得られた実施例2−1〜2−2では、本発明のエポキシ樹脂を用いなかった比較例2−1,2−3〜2−6のそれぞれと比較して可撓性及び低吸水性のバランスに優れたものであることがわかる。
[高分子量エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂組成物の製造・評価]
<実施例3−1>
表−3に示した配合で2官能エポキシ樹脂、二価の水酸基含有化合物、触媒及び溶媒を撹拌機付き耐圧反応容器に入れ、窒素ガス雰囲気下、135℃で5時間反応を行った後、溶剤を加えて固形分濃度を調整した。反応生成物から定法により溶剤を除去した後、得られたエポキシ樹脂について分析を行った。結果を表−3に示す。
Figure 0006687079
<実施例4−1及び比較例4−2>
表−4に示した配合で実施例3−1で得られたエポキシ樹脂、その他のエポキシ樹脂、硬化剤を配合し、よく撹拌してエポキシ樹脂組成物を得た。これらのエポキシ樹脂組成物について、セパレータ(シリコーン処理したポリエチレンテレフタレートフィルム)にアプリケーターで塗布し、150℃で1時間加熱し、更にその後180℃で1時間加熱することにより、硬化させ、エポキシ樹脂硬化物のフィルムを得た。これらのエポキシ樹脂硬化物のフィルムについて、前述の方法によりガラス転移温度(Tg)測定、吸水率測定及び引張試験を行なった。結果を表−4に示す。
Figure 0006687079
[評価結果(高分子量エポキシ樹脂)]
表−4の結果より、本発明のエポキシ樹脂を用いて得られた実施例4−1では、本発明のエポキシ樹脂を用いなかった比較例4−2と比較して可撓性及び低吸水性のバランスに優れたものであることがわかる。
本発明のエポキシ樹脂及びそれを含むエポキシ樹脂組成物は、注型、フィルム成形・塗布等のプロセスに適用するのに十分な可撓性を有し、かつ低吸水性に優れるものであり、接着剤、塗料、光学部材、土木建築用材料、電気・電子部品の絶縁材料等、様々な分野に適用可能である。特に、電気・電子分野における絶縁注型材料、積層材料、封止材料等として有用である。本発明のエポキシ樹脂及びそれを含むエポキシ樹脂組成物の用途の一例としては、半導体封止材料、アンダーフィル材料、3D−LSI用インターチップフィル、ダイボンディング材、フィルム状接着剤、液状接着剤等の接着剤、多層プリント配線基板、キャパシタ等の電気・電子回路用積層板、絶縁シート、プリプレグ、放熱基板、あるいは電気・電子用途での接着改良剤や可撓性付与材などが挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。

Claims (14)

  1. 下記式(5)で表される2官能エポキシ樹脂と、下記式(6)で表される二価の水酸基含有化合物とを反応させて得られることを特徴とするエポキシ樹脂。
    Figure 0006687079
    (上記式(5)中、A’は上記式(2’)で表される化学構造を少なくとも有し、式(5)中、n’は繰り返し数の平均値であり0以上6以下である。上記式(2’)中、R’1は、炭素数〜20の炭化水素基であり、R’ は炭素数2〜20の炭化水素基であり、m’は0である。
    上記式(6)中、A’は上記式(3’)で表される化学構造を少なくとも有し、式(3’)中、R’3〜R’10は互いに異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜12の炭化水素基又はハロゲン元素であり、R’11は水素原子又は炭素数1〜3の炭化水素基から選ばれる基であり、R’12は炭素数4〜20の直鎖状の炭化水素基である。)
  2. 前記式(5)及び(6)中、前記式(2’)で表される化学構造が、A’全体のモル数に対して1〜99モル%含まれる、請求項1に記載のエポキシ樹脂。
  3. 前記式(5)及び前記式(6)中のA’として、前記式(2’)で表される化学構造と前記式(3’)で表される化学構造とのモル比が1/99〜99/1である、請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂。
  4. エポキシ当量が200g/当量以上30,000g/当量以下である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂。
  5. 重量平均分子量が1,000〜100,000である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂。
  6. 請求項1乃至5のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂と、硬化剤とを含む、エポキシ樹脂組成物。
  7. 前記エポキシ樹脂100重量部に対し、硬化剤を0.01〜100重量部含む、請求項6に記載のエポキシ樹脂組成物。
  8. 前記硬化剤が、フェノール系硬化剤、アミド系硬化剤、アミン系硬化剤、イミダゾール類、酸無水物系硬化剤、有機ホスフィン類からなる群のうちの少なくとも1つである、請求項6又は7に記載のエポキシ樹脂組成物。
  9. 請求項6乃至8のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物からなる電気・電子回路用封止材。
  10. 請求項6乃至8のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物からなる電気・電子回路用積層板。
  11. 請求項6乃至8のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物からなる光学部材。
  12. 請求項6乃至8のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物からなる接着剤。
  13. 請求項6乃至8のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物からなる塗料。
  14. 請求項6乃至8のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
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