JP6342353B2 - 血液試料中の物質の測定法 - Google Patents

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Description

本発明は、被酸化性呈色試薬を用いた酵素法による血液試料中の物質の測定法に関する。
血液試料中の種々の物質の濃度を測定することは、種々の疾患の診断、治療経過の判定のために重要である。例えば、血液中のコレステロール、尿酸、グルコース、トリグリセリド、リン脂質、コリン、クレアチン、クレアチニン、遊離コレステロール、コレステロールエステル等の物質の測定は、重要であり、その測定法としては、これらの成分あるいはこれらの成分の派生物に酸化酵素を作用させ、当該酵素反応から直接又は間接に生じた過酸化水素をその発色試薬である被酸化性呈色試薬に作用させてその呈色を定量する方法(被酸化性呈色試薬を用いた酵素法)が広く採用されている。
ところが、血液試料中には、ビリルビン、ヘモグロビン、アスコルビン酸等の還元物質が存在し、これらの物質の存在により前記の血液試料中の物質の測定値は大きく影響を受け、測定値に誤差を生じることがある。また、ビリルビンやヘモグロビン等は色素としても作用することから、測定波長によっては誤差の原因となるし、光及び測定試薬中の成分等によりこれらの色素自身の吸収が測定中に経時的に変化し、測定結果に影響を与えることが知られている。
これらの成分のうち、ビリルビンの影響を回避する方法として、両性界面活性剤を測定試薬に添加する方法が知られている。例えば、特許文献1には、ビリルビンの影響を回避する目的で第1試薬に両性界面活性剤を添加することが記載されている。特許文献2には、酵素反応により生成される過酸化水素をペルオキシターゼ及び被酸化性発色剤で検出する生体成分の測定法において、第一試薬又は第一試薬と第二試薬両方に、両性界面活性剤とフェロシアン化合物を存在させる生体成分の測定方法が記載されている。
さらに、特許文献3には、体液中に存在するヘモグロビン又は/及びビリルビンの影響を回避する目的で、測定系に両性界面活性剤(実施例として、アルキルベタインオキサイド(製品名アンヒトール20N)のみ)を第一試薬又は第二試薬に共存させる、体液中の基質又は酵素活性の測定方法が記載されている。しかし、特許文献3では、両性界面活性剤の存在下、試薬中の総ヘモグロビンとビリルビンの両者の影響を同時に検討した実施例はない。また、特許文献4には、ヘモグロビンとビリルビン両方の影響を回避する方法として、過酸化物及び非イオン界面活性剤又は/及び両性イオン界面活性剤を用いる方法が記載されている。しかし、特許文献4では、界面活性剤に対して光照射などの処理が必要であったり、過酸化物濃度が一定量になるように調整する必要があるなど、試薬調整が煩雑であった。
特開平7−039394号公報 特開平7−155196号公報 特開平3−010696号公報 特開2006−081471号公報
本発明者らはビリルビンの影響を回避する目的で特許文献1や2のように、測定用試薬に両性界面活性剤を用いたところ、溶血検体において、測定値が期待値に対して乖離する場合があることを見出した。この機序について検討したところ、両性界面活性剤がヘモグロビンの吸収スペクトルを変化させていることが判明した。
従って、本発明の課題は、簡便な操作により、ビリルビン及びヘモグロビンの両者の影響を同時に回避した、血液試料中の物質の測定法を提供することにある。
上記課題を解決すべく種々の界面活性剤の添加効果を検討したところ、ビリルビン及びヘモグロビンの影響回避効果は、界面活性剤の種類によって大きく相違し、また界面活性剤を測定系に添加する時期によっても大きく相違することを見出した。上記知見についてさらに検討したところ、先ず血液試料に非イオン性界面活性剤を接触させ、次いで酵素反応時にベタイン型両性界面活性剤を接触させたときにビリルビンとヘモグロビンの両者の影響が同時に回避できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、被酸化性呈色試薬を用いた酵素法による血液試料中の物質の測定法であって、(1)血液試料に非イオン性界面活性剤を接触させ、次いで(2)当該試料にベタイン型両性界面活性剤を接触させ、接触と同時又は接触後に酵素反応及び被酸化性呈色試薬による呈色反応を行うことを特徴とする血液試料中の物質の測定法を提供するものである。
また、本発明は、(A)非イオン性界面活性剤を含有する第1試薬と、(B)ベタイン型両性界面活性剤と、(C)測定対象物又はその派生物に特異的な酸化酵素と、(D)被酸化性呈色試薬を含む酵素法測定試薬を提供するものである。
本発明の測定法によれば、2種の界面活性剤をそれぞれ添加するだけで、血液試料中に広く存在するビリルビン及びヘモグロビンの影響を同時に回避することができ、血液試料中の種々の物質を正確に測定することが可能となる。
ヘモグロビン添加血清に、界面活性剤を含まない緩衝液を添加して、37℃、5分反応させた後に、両性界面活性剤を含む緩衝液を添加して、37℃、5分反応させたときの、ヘモグロビンの吸収スペクトルの経時的な変化を示す。 ヘモグロビン添加血清に、両性界面活性剤を含む緩衝液を添加して、37℃、5分反応させた後に、界面活性剤を含まない緩衝液を添加して、37℃、5分反応させたときの、ヘモグロビンの吸収スペクトルの経時的な変化を示す。 ヘモグロビン添加血清に、両性界面活性剤を含む緩衝液を添加して、37℃、5分反応させた後に、更に両性界面活性剤を含む緩衝液を添加して、37℃、5分反応させたときの、ヘモグロビンの吸収スペクトルの経時的な変化を示す。 ヘモグロビン添加血清に、非イオン性界面活性剤を含む緩衝液を添加して、37℃、5分反応させた後に、両性界面活性剤を含む緩衝液を添加して、37℃、5分反応させたときの、ヘモグロビンの吸収スペクトルの経時的な変化を示す。
本発明の血液試料中の物質の測定法は、(1)血液試料に非イオン性界面活性剤を接触させ(第1工程)、次いで(2)当該試料にベタイン型両性界面活性剤を接触させ、接触と同時又は接触後に酵素反応及び被酸化性呈色試薬による呈色反応を行う(第2工程)ことを特徴とし、この操作以外は通常の被酸化性呈色試薬を用いた酵素法による血液試料の物質の測定法である。
第1工程に用いられる血液試料としては、血漿、血清、尿等が挙げられるが、このうち、測定値にヘモグロビン及びビリルビンの影響が生じる可能性の高い血漿、血清がより好ましい。
被測定対象である血液試料中の物質(被検物質)としては、ヘモグロビン及びビリルビン以外の血液試料中の物質、例えば尿酸、クレアチニン、コレステロール、トリグリセリド、ポリアミン、胆汁酸、1,5−アンヒドログルシトール、ピルビン酸、乳酸、リン脂質、尿素、グルコース、コリン、クレアチン、遊離脂肪酸等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではなく、酵素反応により生成する過酸化水素を定量することによって測定が可能な体液成分は全て測定可能である。
本発明の第1工程は、非イオン性界面活性剤を、被検物質に対するオキシダーゼ反応を行う前の血液試料と接触させる工程である。本発明においては、第1工程に非イオン性界面活性剤を用いることが重要であり、第1工程にベタイン型両性界面活性剤を用いた場合や、第1工程及び第2工程の両方にベタイン型両性界面活性剤を用いた場合には、ヘモグロビン及びビリルビン両者の影響を回避できない。非イオン性界面活性剤と血液試料との接触手段としては、血液試料に非イオン性界面活性剤を添加してもよいし、血液試料の希釈液中に非イオン性界面活性剤を含有させてもよいし、血液試料の前処理液として非イオン性界面活性剤含有液を用いてもよい。血液試料の前処理液(第1試薬ともいう)として非イオン性界面活性剤含有液を用いるのが好ましい。
本発明に用いられる非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン縮合物(POE・POP縮合物)類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステルが好適である。
POE・POP縮合物類としては、下記式(1)〜(5)で表されるものが挙げられる。(a)下記式(1)で示される、POE・POP縮合物。
Figure 0006342353
式(1)中、l及びnはエチレンオキシドの平均付加モル数を示し、またmはプロピレンオキシドの平均付加モル数を示し、l及びnは0〜250の数であり、l+nは1以上であり、mは1〜250の数である。l+nは10〜300が好ましく、mは10〜100が好ましい。lとnは同じでも異なっていてもよい。R2は、水素原子又は炭素数2〜20のアルキル基を示す。
(b)下記式(2)〜(5)で示されるポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルアミン縮合物又はポリオキシエチレンポリオキシプロピレンジアミン縮合物。
Figure 0006342353
(式中、R1は炭素数2〜20のアルキル基を示し、lは、1〜150の数を示し、mは
1〜100の数を示す)
式(1)のPOE・POP縮合物の市販品としては、プルロニック(登録商標、以下同じ)F−108(EO300・PO50)、プルロニックP−85(EO54・PO39)が好適に使用できる。
式(2)又は式(3)のPOE・POPアルキルアミン縮合物又はPOE・POPジアミン縮合物としては、プルロニックTR−704(分子量5000、EO含量40質量%)、プルロニックTR−702(分子量3500、EO含量20質量%)が好適に使用できる。
上記l、m及びnは、通常ある程度の分布を有するものの平均値を表すが、その分布は好ましくは±20%以内、より好ましくは±10%以内、さらに好ましくは±5%以内の分布となっていることがよい。
ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、POE付加モル数5〜80のポリオキシエチレンC10−C24アルキルエーテルが挙げられる。ポリオキシエチレンアルキルエーテルの市販品としては、ニッコール(登録商標、以下同じ)BL−25(日光ケミカルズ社製、POE(25)ラウリル(C12)エーテル)、エマルゲン(登録商標、以下同じ)220(花王社製、POE(13)セチル(C16)エーテル)、ニッコールBT−9(日光ケミカルズ社製、POE(9)オレイル(C18)エーテル、C1531O(CH2CH2O)9H)、エマルゲン420(花王社製、POE(13)オレイル(C18)エーテル)が好適に使用できる。POE付加モル数のより好適な範囲は、8〜30である。
ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルとしては、POE付加モル数5〜80のC6−C18アルキルフェニルエーテルが挙げられる。ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルの市販品としては、ニッコールNP−10(日光ケミカルズ社製、POE(10)ノニル(C10)フェニルエーテル)、ニッコールNP−15(日光ケミカルズ社製、POE(15)ノニル(C10)フェニルエーテル)、ニッコールNP−20(日光ケミカルズ社製、POE(20)ノニル(C10)フェニルエーテル)、ノイゲンEA−143(第一工業製薬社製、POE(8)ドデシル(C12)フェニルエーテル)、TritonX−100(Sigma社製、POE(9.5)オクチル(C8)フェニルエーテル)が好適に使用できる。
ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステルとしては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンペンタエリスリトール脂肪酸エステル等が挙げられる。このうち、POE付加モル数30〜60のポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステルが好ましく、POE付加モル数3〜60のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルがより好ましく、POE付加モル数3〜60のポリオキシエチレンソルビタンC8−C24脂肪酸エステルが好ましい。
ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステルの市販品としては、Tween20(登録商標)(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(C12))が好適に使用できる。
これらの非イオン性界面活性剤のうち、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン縮合物(POE・POP縮合物)類がより好ましく、POE・POP縮合物、POE・POPアルキルアミン縮合物又はPOE・POPジアミン縮合物がさらに好ましい。
非イオン性界面活性剤は、血液試料と接触させた後の濃度が0.1〜10w/v%、さらに0.5〜10w/v%、よりさらに0.5〜1.0w/v%となるように用いるのが、ヘモグロビン及びビリルビン両方の影響を回避する点から好ましい。本発明の方法が好適に使用される臨床検査の分野では、本発明の試薬は、生化学自動分析装置に対して適用される。生化学自動分析装置では、血液試料/第1試薬/第2試薬の容量比が、1〜10μL/50〜300μL/20〜200μLの範囲にある場合が多く、第1試薬と第2試薬の容量比は1:1〜5:1である場合が多い。従って、血液試料と接触させた後の非イオン性界面活性剤の濃度と第1試薬中の非イオン性界面活性剤の濃度の希釈による差はわずかであるが、第2試薬は血液試料と第1試薬の混合物に対してさらに添加されるため、両性界面活性剤の濃度を反応系での濃度で表示しようとすると煩雑になる。これより本明細書において両性界面活性剤の濃度は両性界面活性剤を含む試薬中の濃度で表示する。当業者であれば、この記載から所望の試料・試薬容量比の測定系に適合するよう両性界面活性剤の濃度を設定することができる。
血液試料と非イオン性界面活性剤との接触は、例えば血液試料に非イオン性界面活性剤含有液を添加した後、30〜40℃、1分〜10分間、さらに37℃、5分間静置又はインキュベーションするのが好ましい。
本発明の第2工程は、非イオン性界面活性剤と接触させた血液試料に、ベタイン型両性界面活性剤を接触させ、接触と同時又は接触後に酵素反応及び被酸化性呈色試薬による呈色反応を行う。
第2工程に用いられる界面活性剤は、ベタイン型両性界面活性剤である。この第2工程に特許文献2の実施例3記載のラウリルジメチルアミンオキシド等のアミンオキシド型両性界面活性剤を用いた場合、ビリルビンの影響は回避できるが、ヘモグロビンの影響は回避できない。用いられるベタイン型両性界面活性剤としては、アルキルベタイン(R3+(CH32CH2COO-)、アミドアルキルベタイン(R3CONH(CH23N(CH32CH2COO-)、スルホベタイン(R3CONH(CH23+(CH32CH2CH(OH)CH2SO3 -)、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン(R3342(C24OH)CH2COO-)等が挙げられる(ここで、R3はC8〜C24アルキル基を示す)。このうち、アルキルベタイン及びアミドアルキルベタインがより好ましい。
ベタイン型両性界面活性剤の市販品としては、例えばアルキルベタイン誘導体としてアンヒトール24B(花王社製、ラウリルベタイン、CAS No.683−10−3)等が、アミドアルキルベタイン誘導体としてはエナジコールC−30B(ライオン社製、ヤシ油脂肪酸アミドアルキルベタイン、CAS No.61789−40−0)等が挙げられる。
ベタイン型両性界面活性剤の好適な濃度を前記したようにベタイン型両性界面活性剤を含む試薬中の濃度で例示する。ベタイン型両性界面活性剤は、試薬中の濃度で0.5〜10w/v%、さらに、2.0〜10w/v%となるように用いるのが、ヘモグロビン及びビリルビン両方の影響を回避する点から好ましい。また、非イオン性界面活性剤の濃度によっては0.5〜2.0w/v%である場合が好ましい場合もある。
ベタイン型両性界面活性剤と血液試料との接触は、非イオン性界面活性剤と接触したあとの血液試料にベタイン型両性界面活性剤を添加すればよい。酵素反応は、血液試料とベタイン型両性界面活性剤との接触と同時、又は接触後に行ってもよい。従って、ベタイン型両性界面活性剤は酵素含有試料(第2試薬)に添加してもよい。
本発明の実施態様の一つである第1試薬と第2試薬からなる二試薬系で測定系(試薬系)を構成する場合には、第1試薬に非イオン性界面活性剤、第2試薬にベタイン型両性界面活性剤を含有させ、血液試料と接触させた後の非イオン性界面活性剤の濃度が0.5〜1.0w/v%、試薬中のベタイン型両性界面活性剤の濃度が2.0〜10w/v%となるように処方するのが好ましい。
本発明の系が適用される血液試料中の被測定物質の測定に使用される酵素類としては、測定対象物又はその派生物に特異的な酸化酵素、例えば尿酸(ウリカーゼ、パーオキシダーゼ)、クレアチニン(クレアチニナーゼ、クレアチナーゼ、ザルコシンオキシダーゼ、パーオキシダーゼ)、コレステロール(コレステロールオキシダーゼ、パーオキシダーゼ)、トリグリセライド(リポプロテインリパーゼ、グリセロールキナーゼ、グリセロール−3−リン酸オキシダーゼ、パーオキシダーゼ)、ポリアミン(ポリアミンアミドヒドロラーゼ、ポリアミンオキシダーゼ、プトレスシンオキシダーゼ、パーオキシダーゼ)、胆汁酸(3−α−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ、ジアホラーゼ、パーオキシダーゼ)、1,5−アンヒドログルシトール(1,5−アンヒドログルシトールオキシダーゼ、ピラノースオキシダーゼ、パーオキシダーゼ)、ピルビン酸(ピルビン酸オキシダーゼ、パーオキシダーゼ)、乳酸(乳酸オキシダーゼ、パーオキシダーゼ)、リン脂質(ホスホリパーゼD、コリンオキシダーゼ、パーオキシダーゼ)、尿素(ウレアアミドリアーゼ、ピルベートキナーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、パーオキシダーゼ)等が挙げられる。
被酸化性呈色試薬としては、過酸化水素と反応して呈色する1種又は2種以上の成分であればよく、例えば、4−アミノアンチピリンとフェノール系、ナフトール系若しくはアニリン系化合物の組み合わせ、3−メチルー2−ベンゾチアゾリノンヒドラゾンとアニリン系化合物の組み合わせ、トリフェニルメタン系ロイコ色素、ジフェニルアミン誘導体、ベンジジン誘導体、トリアリルイミダゾール誘導体、ロイコメチレンブルー誘導体又はO−フェニレンジアミン誘導体が挙げられる。
第2工程は、通常30〜40℃で1分〜10分間、好ましくは37℃で5分間行われる。pHの調整には、リン酸塩、クエン酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩、トリス緩衝剤、グッド緩衝剤等が用いられる。第2工程による呈色の測定は、呈色試薬の発色を光学的により定量することにより行われる。
本発明方法によれば、血液試料中に含まれるヘモグロビン及びビリルビンによる測定値への影響を回避することができ、正確な被検物質の定量が可能である。
本発明方法を実施するための測定試薬は、(A)非イオン性界面活性剤を含有する第1試薬と、(B)ベタイン型両性界面活性剤と、(C)測定対象物又はその派生物に特異的な酸化酵素と、(D)被酸化性呈色試薬とを含む酵素法測定試薬であるのが好ましい。
本発明の好ましい実施態様を以下に示す。
[1]被酸化性呈色試薬を用いた酵素法による血液試料中の物質の測定法であって、(1)血液試料に非イオン性界面活性剤を接触させ、次いで(2)当該試料にベタイン型両性界面活性剤を接触させ、接触と同時又は接触後に酵素反応及び被酸化性呈色試薬による呈色反応を行うことを特徴とする血液試料中の物質の測定法。
[2]血液試料が、測定値にヘモグロビン及びビリルビンの影響が生じる可能性の高い血漿又は血清である[1]の測定法。
[3]血液試料中の物質が、酵素反応により生成する過酸化水素を定量することによって測定が可能な、ヘモグロビン及びビリルビン以外の血液試料中の物質であり、より好ましくは尿酸、クレアチニン、コレステロール、トリグリセリド、ポリアミン、胆汁酸、1,5−アンヒドログルシトール、ピルビン酸、乳酸、リン脂質、尿素、グルコース、コリン、クレアチン及び遊離脂肪酸から選ばれる物質である[1]又は[2]の測定法。
[4]非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン縮合物(POE・POP縮合物)類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル及びポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステルから選ばれる1種又は2種以上であり、より好ましくはPOE・POP縮合物、POE・POPアルキルアミン縮合物又はPOE・POPジアミン縮合物から選ばれる1種又は2種以上である[1]〜[3]のいずれかの測定法。
[5]非イオン性界面活性剤の使用量が、血液試料と接触させた後の濃度が0.1〜10w/v%、より好ましくは0.5〜10w/v%となる量である[1]〜[4]のいずれかの測定法。
[6]ベタイン型両性界面活性剤が、アルキルベタイン、アミドアルキルベタイン、スルホベタイン及び2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリウムベタインから選ばれる1種又は2種以上であり、より好ましくはアルキルベタイン及びアミドアルキルベタインから選ばれる1種又は2種以上である[1]〜[5]のいずれかの測定法。
[7]ベタイン型界面活性剤の使用量が、試薬中濃度で0.5〜10w/v%となる量である[1]〜[6]のいずれかの測定法。
[8]酵素が、測定対象物又はその派生物に特異的な酸化酵素である[1]〜[7]のいずれかの測定法。
[9]被酸化性呈色試薬が、過酸化水素と反応して呈色する1種又は2種以上の成分である[1]〜[8]のいずれかの測定法。
[10]血液試料中のヘモグロビン及びビリルビンの測定値に対する影響を回避するための測定法である[1]〜[9]のいずれかに記載の測定法。
[11](A)非イオン性界面活性剤を含有する第1試薬と、(B)ベタイン型両性界面活性剤と、(C)測定対象物又はその派生物に特異的な酸化酵素と、(D)被酸化性呈色試薬を含有する第2試薬とを含むことを特徴とする酵素法測定試薬。
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
〔試験例1〕
下記の表1の組成の第1試薬、第2試薬を用いて、測定用試料中のヘモグロビンの吸収スペクトルを測定した。
Figure 0006342353
(測定用試料)
プール血清に対し、ヘモグロビン(血球由来)を500mg/dLになるよう添加して、ヘモグロビン添加血清を調製した。
(測定方法)
日立U3310形分光光度計(日立製作所社製)を使用し、測定用試料45μL、第1試薬1.8mL、第2試薬0.9mLの液量比により、第1反応、第2反応をそれぞれ、37℃、5分間行い、ヘモグロビンの吸収スペクトルを測定した。なお、第2反応以降(7分、10分)は希釈比を考慮して液量補正を行った。
(結果)
ヘモグロビンは540nm、575nm付近に特有のピークを有しており、ヘモグロビンの性状に変化があるとピークの形状が変化する。例1では、第1反応ではピークの形状に変化がないが、第2反応開始後ピークが崩れてなだらかな形状に変化し始めた。例2および例3では第1反応開始1分後にはヘモグロビン特有のピークが認められたものの、3分後にはピークが崩れ、第2反応においてもスペクトルに大きな変化はなかった。これらの結果から、アンヒトール24Bはヘモグロビンのスペクトルを変化させる作用を有することが分かった(図1〜図3)。
〔実施例1〕
下記の表2の組成の第1試薬、第2試薬を用いて、測定用試料中のヘモグロビンの吸収スペクトルを測定した。
Figure 0006342353
(測定用試料)
プール血清に対し、ヘモグロビン(血球由来)を500mg/dLになるよう添加して、ヘモグロビン添加血清を調製した。
(測定方法)
日立U3310形分光光度計(日立製作所社製)を使用し、測定用試料45μL、第1試薬1.8mL、第2試薬0.9mLの液量比により、第1反応、第2反応をそれぞれ、37℃、5分間行い、ヘモグロビンの吸収スペクトルを測定した。なお、第2反応以降(7分、10分)は希釈比を考慮して液量補正を行った。
(結果)
実施例1では第1反応、第2反応のいずれにおいてもヘモグロビン特有の540、575付近のピークの形状は変化しなかった(図4)。
〔実施例2〕
尿酸測定系を用いて本発明の効果を確認した。
第1試薬及び第2試薬に処方する界面活性剤は、表3記載の組み合わせとし、実施例2及び比較例1〜4の測定試薬を調製した。
(第1試薬)
MES緩衝液 75mmol/L (pH7.0)
TOOS(製造元:同仁化学、カタログ番号:OC13)0.75mmol/L
POD(製造元:東洋紡績、カタログ番号:PEO−301)3U/mL
界面活性剤 2.0w/v%
プルロニックTR−704(製造元:アデカ、CAS No.11111−34−5)
又はアンヒトール24B(製造元:花王、CAS No.683−10−3)
(第2試薬)
MES緩衝液 75mmol/L (pH7.0)
フェロシアン化カリウム(製造元:キシダ化学、カタログ番号:63532)0.05mmol/L
4−アミノアンチピリン(4−AAP)(製造元:東京化成工業、カタログ番号:6694)0.75mmol/L
ウリカーゼ(製造元:キッコーマン、カタログ番号:60199)0.7U/mL
界面活性剤 2.0w/v%
プルロニックTR−704(製造元:アデカ、CAS No.11111−34−5)
又はアンヒトール24B(製造元:花王、CAS No.683−10−3)
(測定用血液試料)
プール血清に対し、ジタウロビリルビン(製造元:Promega)を50mg/dL、又はヘモグロビン(血球由来)を500mg/dLになるよう添加して、ビリルビン添加血清とヘモグロビン添加血清を調製した。
(測定方法)
日立7170型自動分析装置を使用し、検体5.0μL、第1試薬200μL、第2試薬100μLの液量比により、第1反応、第2反応をそれぞれ、37℃、5分間行い、主波長600nm/副波長800nmの吸光度をエンドポイント法により測定した。
各血液試料中の尿酸濃度は、濃度既知の標準液(アナセラムUA−E標準液、以下同じ)(製造元:積水メディカル、カタログ番号:154966)と対比させて求めた。
(効果の確認方法)
各測定用血液試料の尿酸濃度測定値を、対照用血液試料の尿酸濃度測定値を100とする比率に換算し、ビリルビン及びヘモグロビンの影響回避程度を相対値化した。
(結果)
第1試薬にアンヒトール24Bを処方した比較例2及び比較例4の場合、第2試薬の界面活性剤の種類によらずビリルビンの影響を受けないものの、ヘモグロビンの影響を強く受けた。この場合の相対値は、第1試薬及び第2試薬に界面活性剤を含有しない比較例1の相対値よりも低くかった。
第1試薬及び第2試薬にプルロニックTR−704を処方した比較例3の場合、ヘモグロビンの影響は受けないもののビリルビンの影響を強くうけていた。
これら比較例1〜4に対し、第1試薬にプルロニックTR−704、第2試薬にアンヒトール24Bを処方した実施例2の場合、ビリルビン及びヘモグロビンの影響を受けておらず、ビリルビン及びヘモグロビンの両者の影響を同時に回避できることが確認された。
Figure 0006342353
〔実施例3〕
尿酸測定系を用いて、各界面活性剤の至適濃度範囲を確認した。
(第1試薬)
MES緩衝液 75mmol/L (pH7.0)
TOOS(製造元:同仁化学、カタログ番号:OC13)0.75mmol/L
POD(製造元:東洋紡績、カタログ番号:PEO−301)3U/mL
界面活性剤 2.0w/v%
プルロニックTR−704(製造元:アデカ、CAS No.11111−34−5)
(第2試薬)
MES緩衝液 75mmol/L (pH7.0)
フェロシアン化カリウム(製造元:キシダ化学、カタログ番号:63532)0.05mmol/L
4−アミノアンチピリン(製造元:東京化成工業、カタログ番号:6694)0.75mmol/L
ウリカーゼ(製造元:キッコーマン、カタログ番号:60199)0.7U/mL
界面活性剤 2.0w/v%
アンヒトール24B(製造元:花王、CAS No.683−10−3)
(測定用血液試料)
プール血清に対し、ジタウロビリルビン(製造元:Promega)を40mg/dL、又はヘモグロビン(血球由来)を400mg/dLになるよう添加して、ビリルビン添加血清とヘモグロビン添加血清を調製した。
(対照用血液試料)
上記プール血清に対し、上記測定用血液試料調製時のジタウロビリルビン及びヘモグロビン添加容量相当分の生理食塩水を添加して使用した。
(測定方法)
日立7170型自動分析装置を使用し、検体5.0μL、第1試薬200μL、第2試薬100μLの液量比により、第1反応、第2反応をそれぞれ、37℃、5分間行い、主波長600nm/副波長800nmの吸光度をエンドポイント法により測定した。
各血液試料中の尿酸濃度は、濃度既知の標準液と対比させて求めた。
(効果の確認方法)
各測定用血液試料の尿酸濃度測定値を、対照用血液試料の尿酸濃度測定値を100とする比率に換算し、ビリルビン及びヘモグロビンの影響回避程度を相対値化(回収率(%))した。回収率は±10%以内を効果ありと判断した。
(結果)
各界面活性剤の至適濃度範囲を検討したところ、非イオン性界面活性剤であるプルロニックは0.1%〜10%、両性界面活性剤であるアンヒトールは0.5%〜10%で本発明の効果があった。特に、非イオン性界面活性剤であるプルロニックが0.5〜1.0%、両性界面活性剤であるアンヒトールが2.0〜10%でその効果は顕著であった。
Figure 0006342353
〔実施例4〕
尿酸測定系を用いて本発明に使用可能な界面活性剤を確認した。
第1試薬及び第2試薬に処方する界面活性剤の種類及び濃度は、表5記載のとおりとし、測定試薬を調製した。
(第1試薬)
MES緩衝液 75mmol/L (pH7.0)
TOOS(製造元:同仁化学、カタログ番号:OC−13)0.75mmol/L
POD(製造元:キッコーマン、カタログ番号:PEO−301)3U/mL
界面活性剤
(第2試薬)
MES緩衝液 75mmol/L (pH7.0)
フェロシアン化カリウム(製造元:キシダ化学、カタログ番号:63532)0.05mmol/L
4−アミノアンチピリン(製造元:東京化成工業、カタログ番号:6694)0.75mmol/L
ウリカーゼ(製造元:キッコーマン、カタログ番号:60199)0.7U/mL
界面活性剤
(測定用血液試料)
プール血清に対し、ジタウロビリルビン(製造元:Promega)を50mg/dL、又はヘモグロビン(血球由来)を500mg/dLになるよう添加して、ビリルビン添加血清とヘモグロビン添加血清を調製した。
(測定方法)
日立7170型自動分析装置を使用し、検体5.0μL、第1試薬200μL、第2試薬100μLの液量比により、第1反応、第2反応をそれぞれ、37℃、5分間行い、主波長600nm/副波長800nmの吸光度をエンドポイント法により測定した。
各血液試料中の尿酸濃度は、濃度既知の標準液と対比させて求めた。
(効果の確認方法)
各測定用血液試料の尿酸濃度測定値を、対照用血液試料の尿酸濃度測定値を100とする比率に換算し、ビリルビン及びヘモグロビンの影響回避程度を相対値化(回収率(%))した。回収率は±10%以内を効果ありと判断した。
(結果)
表5に示した通り、プルロニックTR−704以外の非イオン性界面活性剤を使用した場合においてもビリルビン、ヘモグロビンともに影響を回避できることが判った。両性界面活性剤としてベタイン型であるアンヒトール24Bの代わりにN−オキシド型であるアンヒトール20Nを使用したところ、ヘモグロビンの影響を大きく受けることが確認された。アンヒトール20Nは従来ヘモグロビンまたはビリルビンの影響をそれぞれ回避することができるとされていたが、発明者らの検討によるとその効果は実用的なレベルではないことが明らかになった。一方、アミドアルキルベタインであるコカミドプロピルベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインであるココアンホ酢酸ナトリウム、スルホベタインである3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアミノ]−1−プロパンスルフォネートでは、アミドベタインと同様の効果が確認された。
Figure 0006342353
〔実施例5〕
(第1試薬)
MES緩衝液 75mmol/L (pH7.0)
TOOS(同仁化学:カタログ番号:OC−13)0.75mmol/L
各界面活性剤 2.0w/v%
(第2試薬)
MES緩衝液 75mmol/L (pH7.0)
ウリカーゼ(製造元:キッコーマン、カタログ番号:60199)2.3U/mL
(第3試薬)
MES緩衝液 75mmol/L (pH7.0)
POD(製造元:東洋紡績、カタログ番号:PEO-301)8.6U/mL
フェロシアン化カリウム(製造元:キシダ化学、カタログ番号:63532)0.05mmol/L
4−アミノアンチピリン(製造元:東京化成工業、カタログ番号:6694)0.75mmol/L
各界面活性剤 2.0w/v%
(測定方法)
日立7170型自動分析装置を使用し、検体5.0μL、第1試薬200μL、第2試薬30μL、第3試薬70μLの液量比により、第1反応、第2反応、第3反応をそれぞれ、37℃、5分間行い(計15分反応)、主波長600nm/副波長800nmの吸光度をエンドポイント法により測定した。
各血液試料中の尿酸濃度は、濃度既知の標準液と対比させて求めた。
Figure 0006342353
(結果)
実施例5、比較例5〜8の手順は、ヘモグロビンを含む検体液と界面活性剤、発色剤を接触させる第一工程、第一工程で得られた検体液にウリカーゼを反応させて過酸化水素を生成させる第二工程、第二工程で得られた検体液にPODを添加し、過酸化水素が発色剤を酸化縮合させて呈色する第三工程、と分けることができる。本発明においては、第一工程で非イオン性界面活性剤が検体液中のヘモグロビンの色調を変化させないこと、及び、第三工程で両性界面活性剤がビリルビンをPODの基質になりにくくすること、によってビリルビン及びヘモグロビンの影響が回避されると考えられる。すなわち、検体液に含まれる基質や第二工程で使用される基質に特異的な酵素に制限されるものではなく、尿酸以外の基質、ウリカーゼ以外の酵素を使用した場合も効果を発揮するものと考えられる。

Claims (5)

  1. ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン縮合物、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルアミン縮合物、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンジアミン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステルから選ばれる1種又は2種以上の非イオン性界面活性剤を有効成分とする、テトラゾリウム化合物を使用せず、被酸化性呈色試薬及びベタイン型両性界面活性剤を用いた酵素法により血漿、血清及び尿より選ばれる試料中のヘモグロビン及びビリルビン以外の物質を測定する際のヘモグロビンの影響回避剤であって、
    前記影響回避剤は前記試料に直接接触させて使用されるものであり、その使用量が、前記試料と接触させた後の前記非イオン性界面活性剤の濃度が0.5〜10w/v%となる量であり、
    前記ベタイン型両性界面活性剤は前記試料と前記影響回避剤との混合後に使用されるものであり、その使用量が、前記試料と接触させた後の濃度が0.5〜10w/v%となる量である影響回避剤。
  2. 前記血漿、血清及び尿より選ばれる試料が、血漿又は血清である請求項1記載の影響回避剤。
  3. 前記試料中の前記被測定物質が、酵素反応により生成する過酸化水素を定量することによって測定が可能な、血漿、血清及び尿より選ばれる試料中のヘモグロビン及びビリルビン以外の物質である請求項1又は2記載の影響回避剤。
  4. 酵素が、測定対象物又はその派生物に特異的な酸化酵素である請求項1〜3のいずれか1項記載の影響回避剤。
  5. 被酸化性呈色試薬が、過酸化水素と反応して呈色する1種又は2種以上の成分である請求項1〜4のいずれか1項記載の影響回避剤。
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