JP6197863B2 - 二次電池用バインダー組成物、二次電池用スラリー組成物、二次電池用負極、および、二次電池 - Google Patents

二次電池用バインダー組成物、二次電池用スラリー組成物、二次電池用負極、および、二次電池 Download PDF

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Description

本発明は、二次電池用バインダー組成物、二次電池用スラリー組成物、二次電池用負極、および、二次電池に関するものである。
リチウムイオン二次電池などの二次電池は、小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、さらに繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。そのため、近年では、二次電池の更なる高性能化を目的として、電極などの電池部材の改良が検討されている。
ここで、二次電池の電極(正極及び負極)や、該電極上またはセパレータ上に耐熱性や強度の向上を目的として設けられる多孔膜などの電池部材は、これらの電池部材に含まれる成分同士、又は、該成分と基材(例えば、集電体、電極、セパレータなど)とをバインダーで結着して形成されている。具体的には、例えば二次電池の負極は、通常、集電体と、集電体上に形成された負極合材層とを備えている。そして、負極合材層は、例えば、負極活物質およびバインダー組成物などを分散媒に分散させてなるスラリー組成物を集電体上に塗布し、乾燥させて負極活物質などをバインダーで結着することにより形成されている。
そこで、近年では、二次電池の更なる性能向上を達成すべく、これら電池部材の形成に用いられるバインダー組成物やスラリー組成物の改良が試みられている。
具体的には、例えば、二次電池用の電極の形成に用いられるバインダー組成物やスラリー組成物に架橋剤を配合し、該バインダー組成物やスラリー組成物を用いて電極を形成することにより、二次電池の性能を向上させることが提案されている。例えば特許文献1では、負極活物質と、結着剤と、カルボキシメチルセルロース等の増粘剤と、そして更に、メラミン系樹脂、尿素ホルマリン樹脂、タンニン酸、グリオキザール系樹脂、ジメチロール化合物、PVAからなる群から選択される少なくとも1種である架橋剤と、で構成された合剤を備える負極を有する二次電池が提案されており、例えばカルボキシメチルセルロース(増粘剤)同士を、架橋剤を介して架橋させることが開示されている。
また、例えば特許文献2には、ケト基含有エチレン性不飽和単量体を含むエチレン性不飽和単量体を乳化重合して得られる官能基含有樹脂微粒子と、架橋剤としての多官能ヒドラジド化合物と、を含む二次電池電極用バインダー組成物が提案されており、官能基含有樹脂微粒子同士を、多官能ヒドラジド化合物を介して架橋させることが開示されている。
さらに、例えば特許文献3には、正極及び負極の少なくとも一方の上に多孔質被膜を有し、該正極又は負極は、水酸基を有する水溶性高分子材料と、該水酸基と反応する官能基を有する架橋剤とからなる結着剤を用いて形成されたリチウムイオン二次電池が提案されており、水溶性高分子材料同士を、架橋剤を介して架橋させることが開示されている。
特開2000−106189号公報 特開2011−134618号公報 特開平11−288741号公報
ここで、上述した電池部材の形成に用いられるバインダー組成物には、良好な結着性と、該バインダー組成物を用いて形成した電池部材を二次電池に適用した際に二次電池が良好な電気的特性(例えば、初期クーロン効率、サイクル特性、レート特性)を発揮し得ることとが求められている。
しかし、上記従来のバインダー組成物では、良好な結着性と、該バインダー組成物を用いた二次電池の良好な電気的特性との両方を十分に高いレベルで達成することができなかった。そのため、上記従来技術のバインダー組成物には、結着性と、該バインダー組成物を用いた二次電池の電気的特性とを向上するという点において改善の余地があった。
そこで、本発明は、結着性に優れ、かつ、電池部材の形成に用いた際に二次電池の電気的特性を向上させることができる二次電池用バインダー組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、集電体と電極活物質層との密着性に優れ、かつ、二次電池の電気的特性を向上させることができる電極の形成に用いることができる二次電池用スラリー組成物を提供することを目的とする。
そして、本発明は、集電体と負極合材層との密着性に優れ、かつ、二次電池の電気的特性を向上させることができる二次電池用負極を提供することを目的とする。
更に、本発明は、集電体と負極合材層との密着性が優れており、かつ、電気的特性に優れる二次電池を提供することを目的とする。
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者は、水酸基又はカルボキシル基を有する水溶性増粘剤(A)と、前記水溶性増粘剤(A)の水酸基又はカルボキシル基と反応する官能基を有する架橋剤(B)と、前記架橋剤(B)と反応する官能基および特定の主鎖構造を有する粒子状重合体(C)とを配合し、さらに、架橋剤(B)および粒子状重合体(C)それぞれの水溶性増粘剤(A)に対する配合比率を特定の範囲としたバインダー組成物が、結着性に優れ、かつ、電池部材の形成に用いた際に二次電池の電気的特性を向上させることができることを新たに見出し、本発明を完成させた。
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の二次電池用バインダー組成物は、水酸基又はカルボキシル基を有する水溶性増粘剤(A)と、前記水溶性増粘剤(A)の水酸基又はカルボキシル基と反応する官能基を有する架橋剤(B)と、粒子状重合体(C)とを含み、前記粒子状重合体(C)は、前記架橋剤(B)と反応する官能基を有し、かつ、脂肪族共役ジエン単量体単位および芳香族ビニル単量体単位を含み、前記水溶性増粘剤(A)100質量部当たり、前記架橋剤(B)を0.001質量部以上100質量部未満含有し、前記粒子状重合体(C)を10質量部以上500質量部未満含有する、ことを特徴とする。このように、水酸基又はカルボキシル基を有する水溶性増粘剤(A)と、前記水酸基又はカルボキシル基と反応する官能基を有する架橋剤(B)と、前記架橋剤と反応する官能基および特定の主鎖構造を有する粒子状重合体(C)とを配合し、さらに、架橋剤(B)および粒子状重合体(C)の水溶性増粘剤(A)に対する配合比率を特定の範囲とすることで、結着性に優れ、かつ、電池部材の形成に用いた際に二次電池の電気的特性を向上させることが可能なバインダー組成物が得られる。
ここで、本発明の二次電池用バインダー組成物は、前記架橋剤(B)の水溶率が、80質量%以上であることが好ましい。架橋剤(B)の水溶率が80質量%以上である場合、該バインダー組成物を含む二次電池用スラリー組成物中で架橋剤(B)が偏在するのを防ぎ、該二次電池用スラリー組成物を用いて形成した二次電池の電気的特性が向上するからである。
ここで、本発明の二次電池用バインダー組成物は、前記架橋剤(B)が、多官能エポキシ化合物であることが好ましい。架橋剤(B)が多官能エポキシ化合物である場合、該バインダー組成物を含む二次電池用スラリー組成物の安定性を確保することができると共に、該二次電池用スラリー組成物を用いて形成した二次電池の電気的特性が向上するからである。
そして、本発明の二次電池用バインダー組成物は、前記水溶性増粘剤(A)が、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、および、これらの塩、からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。水溶性増粘剤(A)が上記群から選択される少なくとも1種である場合、該バインダー組成物を含む二次電池用スラリー組成物を集電体などの基材上に塗布する際の作業性を良好とすることができる。
更に、本発明の二次電池用バインダー組成物は、前記粒子状重合体(C)中の前記架橋剤(B)と反応する官能基が、カルボキシル基、水酸基、グリシジルエーテル基、および、チオール基、からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。粒子状重合体(C)中の架橋剤(B)と反応する官能基が、上記群から選択される少なくとも1種である場合、該バインダー組成物を用いて得られる二次電池のサイクル特性などの電気的特性を良好なものとすることができる。
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の二次電池用スラリー組成物は、水酸基又はカルボキシル基を有する水溶性増粘剤(A)と、前記水溶性増粘剤(A)の水酸基又はカルボキシル基と反応する官能基を有する架橋剤(B)と、粒子状重合体(C)と、電極活物質と、水とを含み、前記粒子状重合体(C)は、前記架橋剤(B)と反応する官能基を有し、かつ、脂肪族共役ジエン単量体単位および芳香族ビニル単量体単位を含み、前記水溶性増粘剤(A)100質量部当たり、前記架橋剤(B)を0.001質量部以上100質量部未満含有し、前記粒子状重合体(C)を10質量部以上500質量部未満含有する、ことを特徴とする。このように、水酸基又はカルボキシル基を有する水溶性増粘剤(A)と、前記水酸基又はカルボキシル基と反応する官能基を有する架橋剤(B)と、前記架橋剤と反応する官能基および特定の主鎖構造を有する粒子状重合体(C)とを配合し、さらに、架橋剤(B)および粒子状重合体(C)の水溶性増粘剤(A)に対する配合比率を特定の範囲とすることで、集電体と電極活物質層との密着性に優れ、かつ、二次電池の電気的特性を向上させることができる電極の形成が可能な二次電池用スラリー組成物が得られる。
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の二次電池用負極は、前記電極活物質が負極活物質である前記二次電池用スラリー組成物から得られる負極合材層を有する、ことを特徴とする。このように、上述した二次電池用スラリー組成物を用いて負極合材層を形成すれば、集電体と負極合材層との密着性に優れ、かつ、二次電池の電気的特性を向上させることができる負極が得られる。
ここで、前記負極合材層は、前記水溶性増粘剤(A)、前記架橋剤(B)、及び、前記粒子状重合体(C)から形成される架橋構造を有することが好ましい。即ち、架橋剤(B)が、水溶性増粘剤(A)同士、水溶性増粘剤(A)と粒子状重合体(B)、そして、粒子状重合体(C)同士、を繋ぐ好適な架橋構造を形成することにより、集電体と負極合材層との密着性を十分に向上させることができると共に、二次電池の電気的特性を十分に向上させることができる。
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の二次電池は、上述した二次電池用負極のいずれかと、正極と、電解液と、セパレータとを備えることを特徴とする。上述した二次電池用負極を使用した二次電池は、優れた電気的特性を有しており、かつ、集電体と負極合材層との密着性が優れている。
本発明の二次電池用バインダー組成物によれば、良好な結着性が得られると共に、該バインダー組成物を用いて形成した電池部材を使用した二次電池の電気的特性を向上させることができる。また、本発明の二次電池用スラリー組成物によれば、集電体と電極活物質層との密着性に優れ、かつ、二次電池の電気的特性を向上させることが可能な電極を形成することができる。
そして、本発明の二次電池用負極によれば、集電体と負極合材層との密着性を向上させると共に、二次電池の電気的特性を向上させることができる。
更に、本発明の二次電池によれば、電気的特性を向上させることができると共に、負極合材層と集電体との密着性を確保できる。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の二次電池用バインダー組成物は、正極、負極、セパレータ、これらの上に設けられる多孔膜、などの二次電池の電池部材に用いることができるが、好適には、負極の形成に用いる。そして、本発明の二次電池用スラリー組成物は、本発明の二次電池用バインダー組成物を含んで構成され、二次電池の電池部材の形成、好適には二次電池の負極の形成に用いる。また、本発明の二次電池用負極は、本発明の二次電池用スラリー組成物を用いて製造することができる。更に、本発明の二次電池は、本発明の二次電池用負極を用いたことを特徴とする。
(二次電池用バインダー組成物)
本発明の二次電池用バインダー組成物は、水酸基又はカルボキシル基を有する水溶性増粘剤(A)と、前記水溶性増粘剤(A)の水酸基又はカルボキシル基と反応する官能基を有する架橋剤(B)と、粒子状重合体(C)とを含む。そして、本発明の二次電池用バインダー組成物は、前記水溶性増粘剤(A)100質量部当たり、前記架橋剤(B)を0.001質量部以上100質量部未満含有し、前記粒子状重合体(C)を10質量部以上500質量部未満含有する。以下、各成分について、特に該バインダー組成物を負極の形成に用いた場合を例に挙げて説明する。
<水溶性増粘剤(A)>
水酸基又はカルボキシル基を有する水溶性増粘剤(A)(以下「水溶性増粘剤(A)」と略記することがある)は、バインダー組成物及びバインダー組成物を含むスラリー組成物の粘度調整剤としての機能を有するものである。水酸基又はカルボキシル基を有する水溶性増粘剤(A)としては、その分子構造中に水酸基又はカルボキシル基を有し、且つ、水溶性の増粘剤として使用されうる化合物であれば特に限定されない。そして、水溶性増粘剤(A)としては、少なくとも水酸基を有する水溶性増粘剤が好ましい。
ここで本明細書において、増粘剤が「水溶性」であるとは、イオン交換水100質量部当たり増粘剤1質量部(固形分相当)を添加し攪拌して得られる混合物を、温度20〜70℃の範囲内で、かつ、pH3〜12(pH調整にはNaOH水溶液及び/又はHCl水溶液を使用)の範囲内である条件のうち少なくとも一条件に調整し、250メッシュのスクリーンを通過させた際に、スクリーンを通過せずにスクリーン上に残る残渣の固形分の質量が、添加した増粘剤の固形分に対して50質量%を超えないことをいう。なお、上記増粘剤と水との混合物が、静置した場合に二相に分離するエマルジョン状態であっても、上記定義を満たせば、その増粘剤は水溶性であるとする。
水溶性増粘剤(A)としては、バインダー組成物を含むスラリー組成物を集電体上などに塗布する際の作業性を良好とするため、例えばカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、これらの塩、が挙げられ、これらの中でもカルボキシメチルセルロースが好ましい。これら水溶性増粘剤(A)は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
水溶性増粘剤(A)としてカルボキシメチルセルロースを用いる場合、用いるカルボキシメチルセルロースのエーテル化度は、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.7以上であり、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.0以下である。エーテル化度が0.4以上のカルボキシメチルセルロースを用いることで、二次電池用バインダー組成物を含む二次電池用スラリー組成物を集電体上などに塗布する際の作業性を良好とすることができる。エーテル化度が0.4未満であると、カルボキシメチルセルロースの分子内及び分子間の水素結合が強固なために水溶性増粘剤がゲル状物となりうる。そして、二次電池電極用スラリー組成物を調製する際に、増粘効果が得られにくくなり、二次電池電極用スラリー組成物の調製時の作業性が悪化する虞がある。さらに、得られた二次電池電極用スラリー組成物を集電体上に塗布して架橋構造を形成するにあたり、カルボキシメチルセルロースと架橋剤とが反応しにくくなり、得られる電極の特性を劣化させる虞がある。また、エーテル化度が1.5以下のカルボキシメチルセルロースを用いることで、カルボキシメチルセルロース1分子当たりの水酸基の数が十分となり、後述する架橋剤(B)との反応性が良好となる。よって、カルボキシメチルセルロースが架橋剤(B)を介して良好な架橋構造を形成できるため、後に詳細に説明するように、架橋構造の形成により本発明のバインダー組成物の結着性を良好なものとすることができ、二次電池のサイクル特性を優れたものとすることができる。
なお、カルボキシメチルセルロースのエーテル化度とは、カルボキシメチルセルロースを構成する無水グルコース1単位当たり、カルボキシルメチル基などの置換基より置換された水酸基の数の平均値をいい、0超3未満の値を取り得る。エーテル化度が大きくなればなるほどカルボキシメチルセルロース1分子中の水酸基の割合が減少し(即ち、置換基の割合が増加し)、エーテル化度が小さいほどカルボキシメチルセルロース1分子中の水酸基の割合が増加する(即ち、置換体の割合が減少する)ということを示している。このエーテル化度(置換度)は、特開2011−34962号公報に記載の方法により求めることができる。
また、水溶性増粘剤(A)の1質量%水溶液の粘度は、好ましくは500mPa・s以上、より好ましくは1000mPa・s以上であり、好ましくは10000mPa・s以下、より好ましくは9000mPa・s以下である。1質量%水溶液とした際の該水溶液の粘度が500mPa・s以上の水溶性増粘剤を用いることで、バインダー組成物を含むスラリー組成物に適度に粘性を持たせることができる。従って、該スラリー組成物を集電体上に塗布する際の作業性を良好とすることができる。また、1質量%水溶液の粘度が10000mPa・s以下の水溶性増粘剤を用いることで、バインダー組成物を含むスラリー組成物の粘性が高くなりすぎず、スラリー組成物を集電体上に塗布する際の作業性を良好とすることができ、また、バインダー組成物を含むスラリー組成物を用いて得られる負極合材層と集電体との密着性を向上させることができる。なお、水溶性増粘剤の1質量%水溶液の粘度は、B型粘度計を用いて25℃、回転数60rpmで測定した時の値である。
<架橋剤(B)>
水溶性増粘剤(A)の水酸基又はカルボキシル基と反応する官能基を有する架橋剤(B)(以下「架橋剤(B)」と略記することがある)は、上述の水酸基又はカルボキシル基を有する水溶性増粘剤(A)、そして後述する粒子状重合体(C)と、加熱などにより架橋構造を形成する。即ち、架橋剤(B)は、水溶性増粘剤(A)同士、水溶性増粘剤(A)と粒子状重合体(C)、そして、粒子状重合体(C)同士、を繋ぐ好適な架橋構造を形成すると推察される。
即ち、本発明のバインダー組成物や、本発明のバインダー組成物を含むスラリー組成物は、加熱などの処理を施すことにより、組成物中に含まれている水溶性増粘剤(A)および粒子状重合体(C)が架橋剤(B)を介して架橋構造を形成する。その結果、水溶性増粘剤(A)同士、水溶性増粘剤(A)と粒子状重合体(C)、および、粒子状重合体(C)同士の架橋により、弾性率、引っ張り強度、耐疲労性などの機械的特性や、接着性に優れ、且つ、水への溶解度が小さい架橋構造が得られる。そのため、本発明のバインダー組成物や、本発明のバインダー組成物を含むスラリー組成物を二次電池の電池部材の調製に用いれば、電極部材中の成分(例えば、電極活物質など)を良好に結着させつつ、該電池部材を用いた二次電池の電気的特性を向上させることができる。具体的には、本発明のバインダー組成物や、本発明のバインダー組成物を含むスラリー組成物を二次電池の負極の調製に用いた場合には、架橋構造の形成により、充放電の繰り返しに伴う負極の膨れを抑制することができると共に、負極合材層と集電体との高い密着性を確保することができる。更には、架橋構造の形成により得られる耐水性(水への溶解度の低さ)を利用して、水系のスラリー組成物を用いて負極合剤層上に多孔膜などを形成することもできる。また、架橋剤(B)および架橋剤(B)に由来する構造に起因して、本発明のバインダー組成物や、本発明のバインダー組成物を含むスラリー組成物を用いて調製した電池部材を使用して二次電池を形成する際の電解液の注液性を高めることができる。そして、その結果、初期クーロン効率、サイクル特性、レート特性などの電気的特性を向上することができる。
なお、バインダー組成物およびバインダー組成物を含むスラリー組成物が、水酸基又はカルボキシル基を有する水溶性増粘剤(A)を含まない場合、即ち、粒子状重合体(C)同士の架橋構造のみしか形成されない場合には、弾性率、引っ張り強度、耐疲労性などの機械的特性が十分に良好な架橋構造が得られず、例えば負極の膨れを抑制することができない。また、バインダー組成物およびバインダー組成物を含むスラリー組成物が、後述する粒子状重合体(C)を含まない場合、即ち、水溶性増粘剤(A)同士の架橋構造のみしか形成されない場合には、得られる架橋構造が剛直になり過ぎ、例えば本発明の二次電池用バインダー組成物を用いた電極の柔軟性が低下するので、サイクル特性の悪化につながる虞がある。
ここで、本発明の二次電池用バインダー組成物は、水溶性増粘剤(A)100質量部当たり、架橋剤(B)を0.001質量部以上含有することが必要であり、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上、特に好ましくは3質量部以上、最も好ましくは5質量部以上含有し、100質量部未満含有することが必要であり、好ましくは90質量部以下、より好ましくは60質量部以下、更に好ましくは50質量部以下、特に好ましくは40質量部以下、最も好ましくは30質量部以下含有する。二次電池用バインダー組成物が水溶性増粘剤(A)100質量部当たり、架橋剤(B)を0.001質量部以上含有することで、良好な架橋構造を形成することができる。従って、バインダー組成物およびバインダー組成物を含むスラリー組成物を例えば負極の形成に使用した場合には、負極合材層と集電体との密着性を確保することができ、そして二次電池のサイクル特性を確保することができる。また、これら架橋剤(B)は電解液との親和性に優れるため、二次電池用バインダー組成物が水溶性増粘剤(A)100質量部当たり、架橋剤(B)を0.001質量部以上含有することで、該バインダー組成物を用いて得られる負極を備える二次電池の製造において、電解液の注液性が良好となり、レート特性やサイクル特性などの電気的特性を向上させることができる。そして、二次電池用バインダー組成物が水溶性増粘剤(A)100質量部当たり、架橋剤(B)を100質量部未満含有することで、架橋構造にむら生じるのを抑制する、即ち破壊の起点となり得る局所的に剛直な部分が生成するのを抑制することができるので、負極合材層と集電体との密着性を確保することができる。また、架橋が過剰に行われることによる負極合材層内での電荷担体の移動の阻害も抑制し、初期クーロン効率、レート特性、サイクル特性などの電気的特性を確保することができる。さらに、架橋剤由来の不純物(塩素含有化合物など)が原因で生じる電気化学的副反応を抑制することができ、サイクル特性を確保することができる。加えて、架橋剤(B)の量が過剰となると、架橋剤(B)が電極表面に多量に析出し、該表面で水溶性増粘剤(A)と架橋膜を形成してしまうため電解液の注液性が悪化するが、二次電池用バインダー組成物が水溶性増粘剤(A)100質量部当たり、架橋剤(B)を100質量部未満含有することで、このような電解液の注液性の悪化を十分に抑制することができる。
架橋剤(B)は、水溶性増粘剤(A)の水酸基又はカルボキシル基と反応する官能基を有する架橋剤であれば特に限定されないが、1分子中に反応性の官能基を、好ましくは2以上有し、好ましくは6未満、より好ましくは4未満有する。架橋剤(B)1分子中の反応性の官能基の数(全架橋剤の平均値)が上記の範囲であることで、本発明の二次電池用バインダー組成物を含むスラリー組成物中で各成分の凝集による沈降が発生することを防ぎ、スラリー組成物の安定性を確保することができる。ここで、架橋剤(B)中の反応性の官能基とは、水溶性増粘剤(A)中の水酸基、カルボキシル基、及び粒子状重合体(C)中の架橋剤(B)と反応する官能基の少なくともいずれかと反応する基をいい、例えば、エポキシ基(グリシジル基、グリシジルエーテル基を含む)、水酸基、オキサゾリン基、カルボジイミド基などが挙げられる。これらの中でも、架橋剤(B)は、グリシジルエーテル基を有することが特に好ましい。
具体的には、架橋剤(B)としては、本発明のバインダー組成物を含むスラリー組成物中の安定性を確保して、該二次電池用スラリー組成物を用いて形成した二次電池のサイクル特性を確保するため、多官能エポキシ化合物が好ましく、多官能グリシジルエーテル化合物がより好ましい。なお、多官能グリシジルエーテル化合物は、電解液との親和性が特に優れているため、架橋剤(B)として例えば脂肪族ポリグリシジルエーテル、芳香族ポリグリシジルエーテル、ジグリシジルエーテルなどの多官能グリシジルエーテル化合物を用いた場合には、二次電池を製造する際の電解液の注液性が特に向上する。ここで、「多官能エポキシ化合物」、「多官能グリシジルエーテル化合物」とは、それぞれ、1分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物、1分子中に2以上のグリシジルエーテル基を有する化合物をいう。
これら架橋剤(B)は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
また、架橋剤(B)の1質量%水溶液の粘度は、好ましくは5000mPa・s以下、より好ましくは700mPa・s以下、特に好ましくは150mPa・s以下である。1質量%水溶液の粘度が上記範囲内である架橋剤を用いることで、負極合材層と集電体との密着性を優れたものとすることができる。なお、架橋剤(B)の1質量%水溶液の粘度は、上述のカルボキシメチルセルロースの1質量%水溶液の粘度と同様の方法で測定することができる。
また、架橋剤(B)は水溶性であることが好ましい。架橋剤(B)が水溶性であることで、バインダー組成物を含む水系のスラリー組成物中で架橋剤(B)が偏在するのを防ぎ、得られる負極合材層が好適な架橋構造を形成するがことができる。従って、得られる二次電池における負極合材層と集電体との密着強度を確保すると共に、初期クーロン効率、レート特性、サイクル特性などの電気的特性を向上することができる。
ここで、本明細書において、架橋剤が「水溶性」であるとは、イオン交換水100質量部当たり架橋剤1質量部(固形分相当)を添加し、攪拌して得られる混合物を、温度20〜70℃範囲内で、かつpH3〜12(pH調整にはNaOH水溶液及び/又はHCl水溶液を使用)の範囲内である条件のうち少なくとも一条件に調整し、250メッシュのスクリーンを通過させた際に、スクリーンを通過せずにスクリーン上に残る残渣の固形分の質量が、添加した架橋剤の固形分に対して50質量%を超えないことをいう。なお、上記架橋剤と水との混合物が、静置した場合に二相に分離するエマルジョン状態であっても、上記定義を満たせば、その架橋剤は水溶性であるとする。
また、架橋剤(B)の水溶率は、上述した、架橋剤が水溶性であることが好ましい理由と同様の理由で、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。なお、架橋剤(B)の「水溶率」とは、イオン交換水100質量部当たり架橋剤1質量部(固形分相当)を添加し、攪拌して得られる混合物を25℃、pH7に調整して250メッシュのスクリーンを通過させた際に、スクリーンを通過せずにスクリーン上に残る残渣の固形分の質量の、添加した架橋剤の固形分の質量に対する割合をX質量%とした場合に以下の式で定義される。
水溶率=(100−X)質量%
<粒子状重合体(C)>
架橋剤(B)と反応する官能基を有し、かつ、脂肪族共役ジエン単量体単位および芳香族ビニル単量体単位を含む粒子状重合体(C)(以下「粒子状重合体(C)」と略記することがある)は、本発明の二次電池用バインダー組成物を含むスラリー組成物を用いて電極部材(例えば負極)を形成した際に、製造した電極部材において、電極部材に含まれる成分(例えば、電極活物質)が電極部材から脱離しないように保持しうる成分である。ここで、電極部材が負極であり、スラリー組成物を用いて負極合材層を形成する場合には、一般的に、負極合材層における粒子状重合体は、電解液に浸漬された際に、電解液を吸収して膨潤しながらも粒子状の形状を維持し、負極活物質同士を結着させ、負極活物質が集電体から脱落するのを防ぐ。また、粒子状重合体は、負極合材層に含まれる負極活物質以外の粒子をも結着し、負極合材層の強度を維持する役割も果たしている。
なお、本明細書において「単量体単位を含む」とは、「その単量体を用いて得た重合体中に単量体由来の構造単位が含まれている」ことを意味する。
本発明に用いる粒子状重合体(C)は、架橋剤(B)と反応する官能基を有し、かつ、脂肪族共役ジエン単量体単位および芳香族ビニル単量体単位を有する。粒状状重合体(C)が、架橋剤(B)と反応する官能基を有することで、粒子状重合体(C)同士、及び、水溶性増粘剤(A)と粒子状重合体(C)の架橋が可能となる。さらに、粒子状重合体(C)は、剛性が低くて柔軟な繰り返し単位であり、結着性を高めることが可能な脂肪族共役ジエン単量体単位と、重合体の電解液への溶解性を低下させて電解液中での粒子状重合体(C)の安定性を高めることが可能な芳香族ビニル単量体単位とを有する共重合体である。
ここで、本発明の二次電池用バインダー組成物は、水溶性増粘剤(A)100質量部当たり、粒子状重合体(C)を10質量部以上含有することが必要であり、好ましくは50質量部以上、より好ましくは80質量部以上、特に好ましくは100質量部以上含有し、500質量部未満含有することが必要であり、好ましくは300質量部以下、より好ましくは250質量部以下、特に好ましくは200質量部以下含有する。二次電池用バインダー組成物が水溶性増粘剤(A)100質量部当たり、粒子状重合体(C)を10質量部以上含有することで、架橋構造を良好に形成すると共に、結着性を確保することができる。従って、バインダー組成物を用いて得られる負極合材層の強度を確保することができ、負極の膨れを十分に抑制することができる。また、負極合材層と集電体との密着性を確保することができる。また、二次電池用バインダー組成物が水溶性増粘剤(A)100質量部当たり、粒子状重合体(C)を500質量部未満含有することで、電解液の注液性を確保でき、さらには電極の初期抵抗の上昇を抑制することができる。また、粒子状重合体(C)に残存する乳化剤などの不純物が電解液中に混入するのを抑制することができる。その結果、サイクル特性などの電気的特性の低下を防ぐことができる。
なお、「粒子状重合体」とは、水などの水系媒体に分散可能な重合体であり、水系媒体中において粒子状の形態で存在する。そして、通常、粒子状重合体は、25℃において、粒子状重合体0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が90質量%以上となる。
ここで、粒子状重合体(C)中の架橋剤(B)と反応する官能基としては、カルボキシル基、水酸基、グリシジルエーテル基、および、チオール基などが挙げられる。これらの中でも、本発明の二次電池用バインダー組成物を用いて得られる二次電池のサイクル特性などの電気的特性の観点から、粒子状重合体(C)は、カルボキシル基、水酸基、及び、チオール基を有することが好ましく、カルボキシル基、水酸基を有することが更に好ましい。更に、粒子状重合体(C)は、レート特性やサイクル特性などの電気的特性、および、充放電に伴う負極の膨れ抑制の両立の観点から、カルボキシル基と水酸基の両方を有することが特に好ましい。
粒子状重合体(C)の脂肪族共役ジエン単量体単位を形成し得る脂肪族共役ジエン単量体としては、特に限定されることなく、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換および側鎖共役ヘキサジエン類などが挙げられ、中でも1,3−ブタジエンが好ましい。なお、脂肪族共役ジエン単量体は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
粒子状重合体(C)において、脂肪族共役ジエン単量体単位の含有割合は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、特に好ましくは55質量%以下である。脂肪族共役ジエン単量体単位の含有割合が20質量%以上であることで、負極の柔軟性を高めることができ、また、70質量%以下であることで、負極合材層と集電体との密着性を良好なものとし、また、本発明の二次電池用バインダー組成物を用いて得られる負極の耐電解液性を向上させることができる。
また、粒子状重合体(C)の芳香族ビニル単量体単位を形成し得る芳香族ビニル単量体としては、特に限定されることなく、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼンなどが挙げられ、中でもスチレンが好ましい。なお、芳香族ビニル単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
粒子状重合体(C)において、芳香族ビニル単量体単位の含有割合は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上であり、好ましくは79.5質量%以下、より好ましくは69質量%以下である。芳香族ビニル単量体単位の含有割合が30質量%以上であることで、本発明の二次電池用バインダー組成物を用いて得られる負極の耐電解液性を向上させることができ、79.5質量%以下であることで、負極合材層と集電体との密着性を良好なものとすることができる。
そして、粒子状重合体(C)は、脂肪族共役ジエン単量体単位として1,3−ブタジエン単位を含み、芳香族ビニル単量体単位としてスチレン単位を含む(即ち、スチレン−ブタジエン共重合体である)ことが好ましい。
ここで、粒子状重合体(C)は、架橋剤(B)と反応する官能基を有する必要がある。即ち、粒子状重合体(C)は、架橋剤(B)と反応する官能基を含む単量体単位を有する必要がある。架橋剤(B)と反応する官能基を含む単量体単位としては、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位、水酸基を有する不飽和単量体単位、グリシジルエーテル基を有する不飽和単量体単位、チオール基を有する単量体単位などが挙げられる。
架橋剤(B)と反応する官能基としてカルボン酸基を有する粒子状重合体(C)の製造に使用し得るエチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのモノカルボン酸およびジカルボン酸、並びに、その無水物などが挙げられる。中でも、本発明のバインダー組成物を含むスラリー組成物の安定性の観点から、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸およびイタコン酸が好ましい。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
架橋剤(B)と反応する官能基として水酸基を有する粒子状重合体(C)の製造に使用し得る水酸基を有する不飽和単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジ−(エチレングリコール)マレエート、ジ−(エチレングリコール)イタコネート、2−ヒドロキシエチルマレエート、ビス(2−ヒドロキシエチル)マレエート、2−ヒドロキシエチルメチルフマレートなどが挙げられる。中でも、2−ヒドロキシエチルアクリレートが好ましい。なお、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
架橋剤(B)と反応する官能基としてグリシジルエーテル基を有する粒子状重合体(C)の製造に使用し得るグリジシジルエーテル基を有する不飽和単量体としては、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどが挙げられる。中でも、グリシジルメタクリレートが好ましい。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
架橋剤(B)と反応する官能基としてチオール基を有する粒子状重合体(C)の製造に使用し得るチオール基を有する単量体単位としては、たとえば、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、トリメチロールプロパン トリス(3−メルカプトブチレート)、トリメチロールエタン トリス(3−メルカプトブチレート)などがなどが挙げられる。中でも、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)が好ましい。なお、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
粒子状重合体(C)中の、架橋剤(B)と反応する官能基は、上述のような架橋剤(B)と反応する官能基を含む単量体を重合に用いることにより導入してもよいが、例えば、架橋剤(B)と反応する官能基を有しない粒子状重合体を重合した後、該粒子状重合体中の官能基を、架橋剤(B)と反応する官能基に一部又は全部置換することにより導入して、粒子状重合体(C)を調製してもよい。なお、このように導入された「架橋剤(B)と反応する官能基」を有する粒状重合体(C)中の繰り返し単位についても、「架橋剤(B)と反応する官能基を含む単量体単位」に含めるものとする。
そして、粒子状重合体(C)において架橋剤(B)と反応する官能基を含む単量体の含有割合は、特に限定されないが、上限は10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましく、5質量%以下が特に好ましく、一方下限は0.5質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、1.5質量%以上が特に好ましい。上記単量体の含有割合が、上記範囲であれば、得られる粒子状重合体(C)の機械的安定性、化学的安定性に優れる。
また、粒子状重合体(C)は、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述した以外にも任意の繰り返し単位を含んでいてもよい。前記の任意の繰り返し単位に対応する単量体としては、例えば、シアン化ビニル系単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、不飽和カルボン酸アミド単量体などが挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。粒子状重合体(C)における任意の繰り返し単位に対応する単量体の含有割合は、特に限定されないが、上限は合計量で10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましく、5質量%以下が特に好ましく、一方下限は0.5質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、1.5質量%以上が特に好ましい。
シアン化ビニル系単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどが挙げられる。中でも、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが好ましい。なお、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、2−エチルヘキシルアクリレートなどが挙げられる。中でも、メチルメタクリレートが好ましい。なお、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
不飽和カルボン酸アミド単量体としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドなどが挙げられる。中でも、アクリルアミド、メタクリルアミドが好ましい。なお、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
さらに、粒子状重合体(C)は、例えば、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどの通常の乳化重合において使用される単量体を用いて製造してもよい。なお、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
粒子状重合体(C)における、脂肪族共役ジエン単量体単位、芳香族ビニル単量体単位、架橋剤(B)と反応する官能基を含む単量体単位以外の他の繰り返し単位に対応する単量体の含有割合は、特に限定されないが、上限は合計量で20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、8質量%以下が特に好ましく、一方下限は0.5質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、1.5質量%以上が特に好ましい。
粒子状重合体(C)のゲル含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上であり、好ましくは98質量%以下、より好ましくは95質量%以下である。粒子状重合体(C)のゲル含有量が50質量%未満の場合、粒子状重合体(C)の凝集力が低下して、集電体などとの密着強度が不十分となる虞がある。一方、粒子状重合体(C)ゲル含有量が98質量%超の場合、粒子状重合体(C)が靱性を失って脆くなり、結果的に密着強度が不十分となる虞がある。
なお、本発明において、粒子状重合体(C)の「ゲル含有量」は、本明細書の実施例に記載の測定方法を用いて測定することができる。
粒子状重合体(C)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは−30℃以上、より好ましくは−20℃以上であり、好ましくは80℃以下、より好ましくは30℃以下である。粒子状重合体(C)のガラス転移温度が−30℃以上であることで、本発明の二次電池用バインダー組成物を含むスラリー組成物中の配合成分が凝集して沈降するのを防ぎ、スラリー組成物の安定性を確保することができる。更に、負極の膨らみを好適に抑制することができる。また、粒子状重合体(C)のガラス転移温度が80℃以下であることで、本発明の二次電池用バインダー組成物を含むスラリー組成物を集電体上などに塗布する際の作業性を良好とすることができる。
なお、本発明において、粒子状重合体(C)の「ガラス転移温度」は、本明細書の実施例に記載の測定方法を用いて測定することができる。
そして、粒子状重合体(C)は、例えば、上述した単量体を含む単量体組成物を水系溶媒中で重合することにより製造される。
ここで、単量体組成物中の各単量体の含有割合は、通常、所望の粒子状重合体(C)における繰り返し単位の含有割合と同様にする。
水系溶媒は粒子状重合体(C)が粒子状態で分散可能なものであれば格別限定されることはなく、通常、常圧における沸点が通常80℃以上、好ましくは100℃以上であり、通常350℃以下、好ましくは300℃以下の水系溶媒から選ばれる。
具体的には、水系溶媒としては、例えば、水;ダイアセトンアルコール、γ−ブチロラクトンなどのケトン類;エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコールなどのアルコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコールターシャリーブチルエーテル、ブチルセロソルブ、3−メトキシー3メチル−1−ブタノール、エチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル類;1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキソラン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;などが挙げられる。中でも水は可燃性がなく、粒子状重合体(C)の粒子の分散体が容易に得られやすいという観点から特に好ましい。なお、主溶媒として水を使用して、粒子状重合体(C)の粒子の分散状態が確保可能な範囲において上記の水以外の水系溶媒を混合して用いてもよい。
重合方法は、特に限定されず、例えば溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。重合方法としては、例えばイオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれの方法も用いることができる。なお、高分子量体が得やすいこと、並びに、重合物がそのまま水に分散した状態で得られるので再分散化の処理が不要であり、そのまま本発明の二次電池用バインダー組成物や本発明の二次電池用スラリー組成物の製造に供することができることなど、製造効率の観点からは、乳化重合法が特に好ましい。なお、乳化重合は、常法に従い行うことができる。
そして、重合に使用される乳化剤、分散剤、重合開始剤、重合助剤などは、一般に用いられるものを使用することができ、その使用量も、一般に使用される量とする。また重合に際しては、シード粒子を採用してシード重合を行ってもよい。また、重合条件も、重合方法および重合開始剤の種類などにより任意に選択することができる。
ここで、上述した重合方法によって得られる粒子状重合体(C)の粒子の水系分散体は、例えばアルカリ金属(例えば、Li、Na、K、Rb、Cs)の水酸化物、アンモニア、無機アンモニウム化合物(例えばNH4Clなど)、有機アミン化合物(例えばエタノールアミン、ジエチルアミンなど)などを含む塩基性水溶液を用いて、pHが通常5〜10、好ましくは5〜9の範囲になるように調整してもよい。なかでも、アルカリ金属水酸化物によるpH調整は、集電体と負極活物質との密着性を向上させるので、好ましい。
なお、粒子状重合体(C)のガラス転移温度およびゲル含有量は、粒子状重合体(C)の調製条件(例えば、使用する単量体、重合条件など)を変更することにより適宜調整することができる。
ガラス転移温度は、使用する単量体の種類および量を変更することにより調整することができ、例えば、スチレン、アクリロニトリルなどの単量体を使用するとガラス転移温度を高めることができ、ブチルアクリレート、ブタジエンなどの単量体を使用するとガラス転移温度を低下させることができる。
また、ゲル含有量は、重合温度、重合開始剤の種類、分子量調整剤の種類、量、反応停止時の転化率などを変更することにより調整することができ、例えば、連鎖移動剤を少なくするとゲル含有量を高めることができ、連鎖移動剤を多くするとゲル含有量を低下させることができる。
そして、本発明のバインダー組成物、スラリー組成物では、粒子状重合体(C)は、個数平均粒径が、好ましくは50nm以上、より好ましくは70nm以上であり、好ましくは500nm以下、より好ましくは400nm以下である。個数平均粒径が上記範囲にあることで、得られる負極の強度および柔軟性を良好にできる。なお、個数平均粒子径は、透過型電子顕微鏡法やコールターカウンター、レーザー回折散乱法などによって容易に測定することができる。
(二次電池用スラリー組成物)
本発明の二次電池用スラリー組成物は、水酸基又はカルボキシル基を有する水溶性増粘剤(A)と、前記水溶性増粘剤(A)の水酸基又はカルボキシル基と反応する官能基を有する架橋剤(B)と、粒子状重合体(C)と、電極活物質と、水とを含み、前記粒子状重合体(C)は、前記架橋剤(B)と反応する官能基を有し、かつ、脂肪族共役ジエン単量体単位および芳香族ビニル単量体単位を含む。そして、本発明の二次電池用スラリー組成物は、前記水溶性増粘剤(A)100質量部当たり、前記架橋剤(B)を0.001質量部以上100質量部未満含有し、前記粒子状スチレンブタジエン共重合体(C)を10質量部以上500質量部未満含有する。
ここで、本発明の二次電池用スラリー組成物に含まれる水溶性増粘剤(A)、架橋剤(B)、粒子状重合体(C)はそれぞれ、上述の本発明の二次電池用バインダー組成物の項で記載したものと同じものを使用することができる。
<電極活物質>
電極活物質は、二次電池の電極(正極、負極)において電子の受け渡しをする物質である。以下、リチウムイオン二次電池の負極において使用する電極活物質(負極活物質)を例に挙げて説明する。
リチウムイオン二次電池の負極活物質としては、通常は、リチウムを吸蔵および放出し得る物質を用いる。リチウムを吸蔵および放出し得る物質としては、例えば、炭素系負極活物質、金属系負極活物質、およびこれらを組み合わせた負極活物質などが挙げられる。
炭素系負極活物質とは、リチウムを挿入(「ドープ」ともいう。)可能な、炭素を主骨格とする活物質をいい、炭素系負極活物質としては、例えば炭素質材料と黒鉛質材料とが挙げられる。
炭素質材料は、炭素前駆体を2000℃以下で熱処理して炭素化させることによって得られる、黒鉛化度の低い(即ち、結晶性の低い)材料である。なお、炭素化させる際の熱処理温度の下限は特に限定されないが、例えば500℃以上とすることができる。
そして、炭素質材料としては、例えば、熱処理温度によって炭素の構造を容易に変える易黒鉛性炭素や、ガラス状炭素に代表される非晶質構造に近い構造を持つ難黒鉛性炭素などが挙げられる。
ここで、易黒鉛性炭素としては、例えば、石油または石炭から得られるタールピッチを原料とした炭素材料が挙げられる。具体例を挙げると、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチ系炭素繊維、熱分解気相成長炭素繊維などが挙げられる。
また、難黒鉛性炭素としては、例えば、フェノール樹脂焼成体、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、擬等方性炭素、フルフリルアルコール樹脂焼成体(PFA)、ハードカーボンなどが挙げられる。
黒鉛質材料は、易黒鉛性炭素を2000℃以上で熱処理することによって得られる、黒鉛に近い高い結晶性を有する材料である。なお、熱処理温度の上限は、特に限定されないが、例えば5000℃以下とすることができる。
そして、黒鉛質材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などが挙げられる。
ここで、人造黒鉛としては、例えば、易黒鉛性炭素を含んだ炭素を主に2800℃以上で熱処理した人造黒鉛、MCMBを2000℃以上で熱処理した黒鉛化MCMB、メソフェーズピッチ系炭素繊維を2000℃以上で熱処理した黒鉛化メソフェーズピッチ系炭素繊維などが挙げられる。
金属系負極活物質とは、金属を含む活物質であり、通常は、リチウムの挿入が可能な元素を構造に含み、リチウムが挿入された場合の単位質量当たりの理論電気容量が500mAh/g以上である活物質をいう。金属系活物質としては、例えば、リチウム金属、リチウム合金を形成し得る単体金属(例えば、Ag、Al、Ba、Bi、Cu、Ga、Ge、In、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Sr、Zn、Tiなど)およびその合金、並びに、それらの酸化物、硫化物、窒化物、ケイ化物、炭化物、燐化物などが用いられる。
そして、金属系負極活物質の中でも、ケイ素を含む活物質(シリコン系負極活物質)が好ましい。シリコン系負極活物質を用いることにより、リチウムイオン二次電池を高容量化することができるからである。
シリコン系負極活物質としては、例えば、ケイ素(Si)、ケイ素とコバルト、ニッケル、鉄などとの合金、SiO、SiOx、Si含有材料と炭素材料との混合物、Si含有材料を導電性カーボンで被覆または複合化してなるSi含有材料と導電性カーボンとの複合化物などが挙げられる。
ここで、SiOxは、SiOおよびSiO2の少なくとも一方と、Siとを含有する化合物であり、xは、通常、0.01以上2未満である。そして、SiOxは、例えば、一酸化ケイ素(SiO)の不均化反応を利用して形成することができる。具体的には、SiOxは、SiOを、任意にポリビニルアルコールなどのポリマーの存在下で熱処理し、ケイ素と二酸化ケイ素とを生成させることにより、調製することができる。なお、熱処理は、SiOと、任意にポリマーとを粉砕混合した後、有機物ガス及び/又は蒸気を含む雰囲気下、900℃以上、好ましくは1000℃以上の温度で行うことができる。
Si含有材料と炭素材料との混合物としては、ケイ素やSiOxなどのSi含有材料と、炭素質材料や黒鉛質材料などの炭素材料とを、任意にポリビニルアルコールなどのポリマーの存在下で粉砕混合したものが挙げられる。なお、炭素質材料や黒鉛質材料としては、炭素系負極活物質として使用し得る材料を用いることができる。
Si含有材料と導電性カーボンとの複合化物としては、例えば、SiOと、ポリビニルアルコールなどのポリマーと、任意に炭素材料との粉砕混合物を、例えば有機物ガス及び/又は蒸気を含む雰囲気下で熱処理してなる化合物を挙げることができる。また、SiOの粒子に対して、有機物ガスなどを化学的蒸着法によって表面をコーティングする方法、SiOの粒子と黒鉛または人造黒鉛をメカノケミカル法によって複合粒子化(造粒化)するなど公知の方法を用いることができる。
ここで、炭素系負極活物質や金属系負極活物質を負極活物質として用いた場合、これらの負極活物質は充放電に伴って膨張および収縮する。そのため、これらの負極活物質を使用した場合には、通常、負極活物質の膨張および収縮の繰り返しに起因して、負極が次第に膨らみ、二次電池が変形してサイクル特性などの電気的特性が低下する可能性がある。しかし、本発明の二次電池用バインダー組成物を用いて形成した負極では、上述の水溶性増粘剤(A)と架橋剤(B)と粒子状重合体(C)とで形成される架橋構造により、負極活物質の膨張および収縮に起因した負極の膨らみを抑制し、サイクル特性などの電気的特性を向上することができる。
なお、上記シリコン系負極活物質を用いれば、リチウムイオン二次電池を高容量化することはできるものの、一般に、シリコン系負極活物質は充放電に伴って大きく(例えば5倍程度に)膨張および収縮する。そこで、負極の膨れの発生を十分に抑制しつつリチウムイオン二次電池を高容量化する観点からは、炭素系負極活物質とシリコン系負極活物質との混合物を負極活物質として用いることが好ましい。
ここで、炭素系負極活物質とシリコン系負極活物質との混合物を負極活物質として用いる場合、負極の膨れの発生を十分に抑制しつつリチウムイオン二次電池を十分に高容量化する観点からは、炭素系負極活物質として人造黒鉛を使用することが好ましく、シリコン系負極活物質としてSi、SiOx、Si含有材料と炭素材料との混合物およびSi含有材料と導電性カーボンとの複合化物からなる群より選択される一種以上を用いることが好ましく、シリコン系負極活物質としてSi含有材料と導電性カーボンとの複合化物を用いることが更に好ましく、導電性カーボンのマトリックス中にSiOxが分散した複合化物(Si−SiOx−C複合体)を用いることが特に好ましい。これらの負極活物質は、比較的大量のリチウムを吸蔵および放出し得る一方で、リチウムを吸蔵および放出した際の体積変化が比較的小さい。従って、これらの負極活物質を用いれば、充放電時の負極活物質の体積変化の増大を抑制しつつ、スラリー組成物を用いて形成したリチウムイオン二次電池用負極を用いたリチウムイオン二次電池を十分に高容量化することができる。
また、炭素系負極活物質とシリコン系負極活物質との混合物を負極活物質として用いる場合、負極の膨れの発生を十分に抑制しつつリチウムイオン二次電池を十分に高容量化する観点からは、負極活物質は、炭素系負極活物質100質量部当たりシリコン系負極活物質を0質量部超100質量部以下含むことが好ましく、10質量部以上70質量部以下含むことがより好ましく、30質量部以上50質量部以下含むことが特に好ましい。負極活物質がシリコン系負極活物質を含む(即ち、炭素系負極活物質100質量部当たりのシリコン系負極活物質の量を0質量部超とする)ことにより、リチウムイオン二次電池を十分に高容量化することができる。また、炭素系負極活物質100質量部当たりのシリコン系負極活物質の量を100質量部以下とすることにより、負極の膨れの発生を十分に抑制することができる。
ここで、負極活物質の粒径や比表面積は、特に限定されることなく、従来使用されている負極活物質と同様とすることができる。
また、本発明の二次電池用スラリー組成物は、水溶性増粘剤(A)100質量部当たり、負極活物質を好ましくは5000質量部以上、より好ましくは8000質量部以上含有し、好ましくは15000質量部以下、より好ましくは12000質量部以下含有する。
二次電池用スラリー組成物が、水溶性増粘剤(A)100質量部当たり、負極活物質を好ましくは5000質量部以上含有することにより、該二次電池用スラリー組成物を用いて得られる二次電池の負極における電子の受け渡しが十分となり、二次電池として良好に機能する。また、二次電池用スラリー組成物が、水溶性増粘剤100質量部当たり、負極活物質を15000質量部以下含有することで、負極の膨れが抑制され、また、該スラリー組成物を集電体に塗布する際の作業性を確保することができる。
<その他の成分>
本発明のスラリー組成物は、上記成分の他に、導電剤、補強材、レベリング剤、電解液添加剤などの成分を含有していてもよい。これらは、電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限られず、公知のもの、例えば国際公開第2012/115096号に記載のものを使用することができる。これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、本発明の二次電池用バインダー組成物が、これらのその他の成分を含有してもよい。
<スラリー組成物の調製>
本発明のスラリー組成物は、上記各成分を分散媒としての水系媒体中に分散させることにより調製してもよいし、水溶性増粘剤(A)と、架橋剤(B)と、粒子状重合体(C)とを含む本発明のバインダー組成物を調製した後、該バインダー組成物と電極活物質とを分散媒としての水系媒体中に分散させることにより調製してもよい。なお、スラリー組成物中の各成分の分散性の観点からは、上記各成分を分散媒としての水系媒体中に分散させることにより、水溶性増粘剤(A)と、架橋剤(B)と、粒子状重合体(C)とを含有する(即ち、本発明のバインダー組成物を含む)スラリー組成物を調製することが好ましい。具体的には、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどの混合機を用いて上記各成分と水系媒体とを混合することにより、スラリー組成物を調製することが好ましい。
ここで、水系媒体としては、通常は水を用いるが、任意の化合物の水溶液や、少量の有機媒体と水との混合溶液などを用いてもよい。また、スラリー組成物の固形分濃度は、各成分を均一に分散させることができる濃度、例えば、30質量%以上90質量%以下であり、より好ましくは40質量%以上80質量%以下とすることができる。更に、上記各成分と水系媒体との混合は、通常、室温〜80℃の範囲で、10分〜数時間行うことができる。
(二次電池用負極)
本発明の二次電池用負極は、本発明の二次電池用スラリー組成物を使用して製造することができる。
そして、本発明の二次電池用負極は、集電体と、集電体上に形成された負極合材層とを備え、負極合材層は電極活物質が負極活物質である本発明の二次電池用スラリー組成物から得られる。
なお、本発明の二次電池用負極は、例えば、上述した二次電池用スラリー組成物を集電体上に塗布する工程(塗布工程)と、集電体上に塗布された二次電池用スラリー組成物を乾燥して集電体上に負極合材層を形成する工程(乾燥工程)と、任意に、負極合材層を更に加熱する工程(加熱工程)とを経て製造される。この製造方法により製造された場合は、例えば、乾燥工程の際に加わった熱や、加熱工程において加えた熱により、架橋剤(B)を介した架橋反応が進行する。即ち、負極合材層中に、水溶性増粘剤(A)同士、水溶性増粘剤(A)と粒子状重合体(C)、粒子状重合体(C)同士が架橋した架橋構造が形成され、この架橋構造により、充放電に伴う膨れを抑制できると共に、集電体と負極合材層との密着性を向上させ、さらに初期クーロン効率、レート特性、サイクル特性などの二次電池の電気的特性を向上させることができる。
そしてさらに、この架橋構造の形成により、架橋構造に組み込まれた水溶性増粘剤(A)、架橋剤(B)、粒子状重合体(C)は水に溶解、分散し難くなり、負極の耐水性が向上する。従来、水系スラリー組成物により得られた電極活物質層を有する極板に、強度の向上などの目的のため多孔膜を設ける際、多孔膜用スラリー組成物として水系のものを使用すると、電極活物質層上に該多孔膜用スラリー組成物を塗布した際に、電極活物質層中に含まれる水溶性増粘剤などの水溶性の成分が多孔膜用スラリー組成物中に溶出し、電池の特性が損なわれるという問題があった。しかしながら、本発明の二次電池用スラリー組成物から形成された二次電池用負極は、上記のように耐水性が向上しているため、水系の多孔膜用スラリー組成物からなる多孔膜を負極合材層上に設けても、電池の特性を十分に確保することができる。
[塗布工程]
上記二次電池用スラリー組成物を集電体上に塗布する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。具体的には、塗布方法としては、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などを用いることができる。この際、スラリー組成物を集電体の片面だけに塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。塗布後乾燥前の集電体上のスラリー膜の厚みは、乾燥して得られる負極合材層の厚みに応じて適宜に設定しうる。
ここで、スラリー組成物を塗布する集電体としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料が用いられる。具体的には、集電体としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などからなる集電体を用い得る。中でも、負極に用いる集電体としては銅箔が特に好ましい。なお、前記の材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
[乾燥工程]
集電体上のスラリー組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。このように集電体上のスラリー組成物を乾燥することで、集電体上に負極合材層を形成し、集電体と負極合材層とを備える二次電池用負極を得ることができる。なお、スラリー組成物を乾燥する際には、加えられた熱により、架橋剤(B)を介した架橋反応が進行する。ここで、乾燥温度は特に限定されないが、好ましくは50℃以上150℃未満であり、さらに好ましくは60℃以上140℃未満であり、特に好ましくは70℃以上130℃未満である。
なお、乾燥工程の後、金型プレスまたはロールプレスなどを用い、負極合材層に加圧処理を施してもよい。加圧処理により、負極合材層と集電体との密着性を向上させることができる。加圧処理後の負極合材層の密度は、特に限定されないが、セル容量、抵抗等の特性の観点から、好ましくは1.30g/cm3以上1.85g/cm3未満であり、より好ましくは1.40g/cm3以上1.75g/cm3未満である。
また、負極合材層の形成後に、加熱工程を実施して架橋反応を進行させ、架橋構造をさらに十分なものとすることが好ましい。該加熱工程は、80℃〜160℃で、1時間〜20時間程度行うことが好ましい。
(二次電池)
本発明の二次電池は、正極と、負極と、電解液と、セパレータとを備え、負極として、本発明の二次電池用負極を用いたものである。そして、本発明の二次電池は、本発明の二次電池用負極を用いているので、充放電の繰り返しに伴う負極の膨れを抑制することができると共に、負極合材層と集電体との密着性を確保でき、更に、優れた電気的特性が得られる。
<正極>
二次電池の正極としては、例えば二次電池がリチウムイオン二次電池である場合、リチウムイオン二次電池用正極として用いられる既知の正極を用いることができる。具体的には、正極としては、例えば、正極合材層を集電体上に形成してなる正極を用いることができる。
なお、集電体としては、アルミニウムなどの金属材料からなるものを用いることができる。また、正極合材層としては、既知の正極活物質と、導電材と、バインダーとを含む層を用いることができ、バインダーとしては本発明の二次電池用バインダー組成物を使用してもよい。ここで正極合材層の密度は、特に限定されないが、セル容量、抵抗等の特性の観点から、好ましくは2.50g/cm3以上3.80g/cm3未満であり、より好ましくは3.00g/cm3以上3.60g/cm3未満である。
<電解液>
電解液としては、溶媒に電解質を溶解した電解液を用いることができる。
ここで、溶媒としては、電解質を溶解可能な有機溶媒を用いることができる。具体的には、溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトンなどのアルキルカーボネート系溶媒に、2,5−ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、酢酸メチル、ジメトキシエタン、ジオキソラン、プロピオン酸メチル、ギ酸メチルなどの粘度調整溶媒を添加したものを用いることができる。
電解質としては、リチウム塩を用いることができる。リチウム塩としては、例えば、特開2012−204303号公報に記載のものを用いることができる。これらのリチウム塩の中でも、有機溶媒に溶解しやすく、高い解離度を示すという点より、電解質としてはLiPF6、LiClO4、CF3SO3Liが好ましい。
また、電解液としては、ポリマーおよび上記電解液を含有するゲル電解質であってもよく、さらには真性ポリマー電解質であってもよい。
<セパレータ>
セパレータとしては、例えば、特開2012−204303号公報に記載のものを用いることができる。これらの中でも、セパレータ全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、二次電池内の電極活物質の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系の樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)からなる微多孔膜が好ましい。また、セパレータとして、非導電性粒子を本発明の二次電池用バインダー組成物で結着してなる多孔膜を備えるセパレータを使用してもよい。
<二次電池の製造方法>
本発明の二次電池は、例えば、正極と、負極とを、セパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより製造することができる。リチウムイオン二次電池の内部の圧力上昇、過充放電などの発生を防止するために、必要に応じて、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、エキスパンドメタル、リード板などを設けてもよい。二次電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
実施例および比較例において、粒子状重合体(C)のガラス転移温度およびゲル含有量、二次電池の初期クーロン効率、レート特性、サイクル特性およびサイクル後膨らみ、並びに、負極の負極合材層と集電体との密着性および耐水性は、それぞれ以下の方法を使用して評価した。
<ガラス転移温度>
粒子状重合体(C)を含む水分散液を50%湿度、23〜25℃の環境下で3日間乾燥させて、厚み1±0.3mmのフィルムを得た。このフィルムを、120℃の熱風オーブンで1時間乾燥させた。その後、乾燥させたフィルムをサンプルとして、JIS K 7121に準じて、測定温度−100℃〜180℃、昇温速度5℃/分、DSC6220SII(示差走査熱量分析計、ナノテクノロジー社製)を用いてガラス転移温度(℃)を測定した。
<ゲル含有量>
粒子状重合体(C)を含む水分散液を用意し、この水分散体を50%湿度、23〜25℃の環境下で乾燥させて、厚み3±0.3mmに成膜した。成膜したフィルムを1mm角に裁断し、約1gを精秤した。
裁断により得られたフィルム片の質量をw0とする。このフィルム片を、10gのテトラヒドロフラン(THF)に25℃±1℃の環境の下、24時間浸漬した。その後、THFから引き揚げたフィルム片を105℃で3時間真空乾燥して、不溶分の質量w1を計測した。
そして、下記式にしたがってゲル含有量(質量%)を算出した。
ゲル含有量(質量%)=(w1/w0)×100
<初期クーロン効率>
作製したラミネートセル型のリチウムイオン二次電池を、電解液注液後、5時間静置させ、0.2Cの定電流法によって、セル電圧3.65Vまで25℃雰囲気下で充電(充電量をC1(mAh)と定義)し、その後60℃に昇温し12時間エージング処理を行い、その後、25℃雰囲気下で0.2Cの定電流法によってセル電圧3.00Vまで放電(放電量をD1(mAh)と定義)を行った。
その後、25℃雰囲気下で0.2Cの定電流にて、CC−CV充電(上限セル電圧4.20V)を行い(充電量をC2(mAh)と定義)、25℃雰囲気下で0.2Cの定電流にてCC放電(下限電圧3.00V)(放電量をD2(mAh)と定義)を実施した。
初期クーロン効率は(D1+D2)/(C1+C2)×100(%)で定義し、以下の基準により評価した。
A:初期クーロン効率が93.5%以上
B:初期クーロン効率が93.0%以上93.5%未満
C:初期クーロン効率が92.5%以上93.0%未満
D:初期クーロン効率が92.5%未満
<レート特性>
作製したラミネートセル型のリチウムイオン二次電池を、電解液注液後、5時間静置させ、25℃雰囲気下で0.2Cの定電流法によって、セル電圧3.65Vまで充電し、その後60℃に昇温し、12時間エージング処理を行い、25℃雰囲気下で0.2Cの定電流法によってセル電圧3.00Vまで放電を行った。
その後、25℃雰囲気下で、充電電圧4.20Vまで0.2Cレートで充電を行い、放電電圧3.00Vまで0.2Cおよび2.0Cレートで放電を行った。そのとき、各放電レート時の放電容量を、C0.2(0.2C時の放電容量)、C2.0(2.0C時の放電容量)、と定義し、ΔC=C2.0/C0.2時の放電容量×100(%)で示す容量変化率を求め、以下の基準により評価した。この容量変化率ΔCの値が高いほど、放電レート特性(レート特性)に優れることを示す。
A:ΔCが83%以上
B:ΔCが82%以上83%未満
C:ΔCが80%以上82%未満
D:ΔCが80%未満
<サイクル特性>
作製したラミネートセル型のリチウムイオン二次電池を、電解液注液後、5時間静置させ、25℃雰囲気下で0.2Cの定電流法によって、セル電圧3.65Vまで充電し、その後60℃に昇温し、12時間エージング処理を行い、25℃雰囲気下で0.2Cの定電流法によってセル電圧3.00Vまで放電を行った。
さらに、60℃環境下で充電電圧4.20V、放電電圧3.00V、1.0Cの充放電レートにて100サイクル充放電の操作を行った。そのとき1サイクル目の容量、すなわち初期放電容量X1、および100サイクル目の放電容量X2を測定し、ΔC´=(X2/X1)×100(%)で示す容量変化率を求め、以下の基準により評価した。この容量変化率ΔC´の値が高いほど、サイクル特性に優れることを示す。
A:ΔC´が85%以上
B:ΔC´が83%以上85%未満
C:ΔC´が80%以上83%未満
D:ΔC´が80%未満
<サイクル後膨らみ>
上記サイクル特性の測定終了後のセルを解体して負極を取り出し、負極の厚み(d2)(集電体の厚みを除く)を測定した。そして、リチウムイオン二次電池の作製前の負極の厚み(d0)(集電体の厚みを除く)に対するd2の割合(サイクル後膨らみ特性=(d2/d0)×100(%))を求め、以下の基準により評価した。サイクル後膨らみ特性が小さいほど、サイクル後の負極の膨らみが小さいことを示す。
A:サイクル後膨らみ特性が115%未満
B:サイクル後膨らみ特性が115%以上118%未満
C:サイクル後膨らみ特性が118%以上120%未満
D:サイクル後膨らみ特性が120%以上
<負極合材層と集電体との密着性>
作製した二次電池用負極を長さ100mm、幅10mmの長方形に切り出して試験片とし、負極合材層を有する面を下にして負極合材層表面にセロハンテープ(JIS Z1522に規定されるもの)を貼り付け、集電体の一端を垂直方向に引張り速度50mm/分で引っ張って剥がしたときの応力を測定した(なお、セロハンテープは試験台に固定されている)。測定を3回行い、その平均値を求めてこれを剥離ピール強度とし、以下の基準により評価した。剥離ピール強度の値が大きいほど、負極合材層と集電体との密着性に優れることを示す。
A:剥離ピール強度が30N/m以上
B:剥離ピール強度が25N/m以上30N/m未満
C:剥離ピール強度が20N/m以上25N/m未満
D:剥離ピール強度が20N/m未満
<電解液の注液性>
作製した二次電池用負極を直径16mmの円形に切り出し、負極合材層を有する面にプロピレンカーボネート(キシダ化学製、試薬)を1μL滴下して、滴下してから、その負極上のプロピレンカーボネートの液滴が負極合材層内に浸透するまでの時間(浸透時間)を目視で測定し、以下の基準により評価した。この浸透時間が短いほど、一般的な電解液に含まれるプロピレンカーボネートと負極との親和性が良好であり、即ち、二次電池の製造における、電解液の注液性に優れることを示す。
A:浸透時間が180秒未満
B:浸透時間が180秒以上240秒未満
C:浸透時間が240秒以上300秒未満
D:浸透時間が300秒以上
<負極の耐水性>
作製した二次電池用負極を直径16mmの円形に切り出し、質量を測定して、該質量から、集電体の質量を差し引き、負極合材層の質量(W1)を算出した。該円形の負極を、サンプル瓶に入れ、イオン交換水50mLを注ぎ、60℃で72時間、熱処理を行った。その後、該円形の負極を取り出し、イオン交換水で洗浄した後に、120℃で1時間乾燥させ、質量を測定し、該質量から、集電体の質量を差し引き、負極合材層の質量(W2)を算出した。上記イオン交換水への浸漬および加熱処理による質量変化率を[(W1−W2)/W1]×100で定義し、以下の基準により評価した。この質量変化率が小さいほど、負極が耐水性に優れることを示す。
A:質量変化率が5%未満
B:質量変化率が5%以上10%未満
C:質量変化率が10%以上20%未満
D:質量変化率が20%以上
<粒子状重合体(C)の調製>
(製造例1)粒子状重合体C1〜カルボキシル基+水酸基を有する重合体〜
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、芳香族ビニル単量体としてスチレン65部、脂肪族共役ジエン単量体として1,3−ブタジエン35部、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてイタコン酸4部、水酸基含有単量体として2−ヒドロキシエチルアクリレート1部、分子量調整剤としてt−ドデシルメルカプタン0.3部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム5部、溶媒としてイオン交換水150部、及び重合開始剤として過硫酸カリウム1部を入れ、十分に攪拌した後、55℃に加温して重合を開始した。
モノマー消費量が95.0%になった時点で冷却し、反応を停止した。こうして得られた重合体を含んだ水分散体に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調整した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った。さらにその後、30℃以下まで冷却し、粒子状重合体C1の水分散液を得た。得られた粒子状重合体C1の水分散液を用いて、上述した方法により、ゲル含有量、及び、ガラス転移温度を測定した。測定の結果、ゲル含有量は90%、ガラス転移温度(Tg)は10℃であった。
(製造例2)粒子状重合体C2〜カルボキシル基を有する重合体〜
上記製造例1において、水酸基含有単量体として2−ヒドロキシエチルアクリレートを添加しないで重合を行う以外は、製造例1と同様にして、粒子状重合体C2の水分散液を得た。結果、得られた粒子状重合体C2のゲル含有量は90%、ガラス転移温度(Tg)は10℃であった。
(製造例3)粒子状重合体C3〜カルボキシル基+チオール基を有する重合体〜
上記製造例1において、水酸基含有単量体としての2−ヒドロキシエチルアクリレートに代えて、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)0.15部を用い、かつ、分子量調整剤としてのt−ドデシルメルカプタンを添加しない以外は、製造例1と同様にして、粒子状重合体C3の水分散液を得た。結果、得られた粒子状重合体C3のゲル含有量は90%、ガラス転移温度(Tg)は10℃であった。
(実施例1)
<二次電池用スラリー組成物の調製>
プラネタリーミキサーに、炭素系活物質である天然黒鉛10000部、水溶性増粘剤(A)として「MAC350HC」(カルボキシメチルセルロースA1、日本製紙(株)製、エーテル化度0.8 1%水溶液の粘度3500mPa・s)の1%水溶液を固形分相当で100部、架橋剤(B)として「EX−313」(架橋剤B1、ナガセケムテック(株)製、官能基数3個(1分子当りエポキシ基2個と水酸基1個の化合物と、エポキシ基3個の化合物との混合物)/1分子、水溶率90%以上、1%水溶液の粘度140mPa・s)を固形分相当で0.1部、粒子状重合体C1の水分散液を固形分相当で100部投入し、さらに固形分濃度が52%となるようにイオン交換水を加えて混合し、カルボキシメチルセルロースA1、架橋剤B1、粒子状重合体C1を含んでなる二次電池用バインダー組成物を含有する二次電池(負極)用スラリー組成物を調製した。
<負極の製造>
上述の二次電池用スラリー組成物を、コンマコーターで、厚さ20μmの銅箔(集電体)の上に塗付量が8.8〜9.2mg/cm2となるように塗布した。この二次電池用スラリー組成物が塗布された銅箔を、0.3m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間、さらに120℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより、銅箔上のスラリー組成物を乾燥させ、負極原反を得た。
そして得られた原反をロールプレス機にて密度が1.45〜1.55g/cm3となるようプレスし、さらに、水分の除去および架橋のさらなる促進を目的として、真空条件下120℃の環境に10時間置き、負極を得た。
作製した負極を用いて、負極合材層と集電体との密着性、電解液の注液性、負極の耐水性を評価した。結果を表1に示す。
<正極の製造>
プラネタリーミキサーに、正極活物質としてLiCoO2100部、導電助剤としてアセチレンブラック2部(電気化学工業(株)製「HS−100」)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン、(株)クレハ化学製「KF−1100」)2部、さらに全固形分濃度が67%となるようにN−メチルピロリドンを加えて混合し、正極用スラリー組成物を調製した。
得られた正極スラリー組成物をコンマコーターで、厚さ20μmのアルミ箔の上に塗布し、乾燥した。なお、この乾燥は、アルミ箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理して正極原反を得た。
得られた原反を乾燥後、ロールプレス機にてプレス後の密度が3.40〜3.50g/cm3になるようにプレスし、さらに水分の除去を目的として、真空条件下120℃の環境に3時間置き、正極を得た。
<リチウムイオン二次電池の製造>
単層のポリプロピレン製セパレータ(幅65mm、長さ500mm、厚さ25μm;乾式法により製造;気孔率55%)を用意し、5×5cm2の正方形に切り抜いた。また、電池の外装として、アルミ包材外装を用意した。
そして作製した正極を、4×4cm2の正方形に切り出し、集電体側の表面がアルミ包材外装に接するように配置した。次に、正極の正極合材層の面上に、上記の正方形のセパレータを配置した。さらに、作製した負極を、4.2×4.2cm2の正方形に切り出し、これをセパレータ上に、負極合材層側の表面がセパレータに向かい合うよう配置した。その後、電解液として濃度1.0MのLiPF6溶液(溶媒はエチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)=1/2(体積比)の混合溶媒、添加剤としてビニレンカーボネート2体積%(溶媒比)含有)を充填した。さらに、アルミ包材の開口を密封するために、150℃のヒートシールをしてアルミ外装を閉口し、リチウムイオン二次電池を製造した。
作製したリチウムイオン二次電池について、初期クーロン効率、レート特性、サイクル特性、サイクル後膨らみを評価した。結果を表1に示す。
(実施例2〜9)
架橋剤B1の添加量をそれぞれ固形分相当で、0.5部、1部、5部、10部、15部、30部、50部、90部とした以外は、実施例1と同様にして、二次電池用バインダー組成物を含む二次電池用スラリー組成物、負極、リチウムイオン二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
(実施例10〜13)
水溶性増粘剤(A)であるカルボキシメチルセルロースA1に代えて、「MAC500LC」(カルボキシメチルセルロースA2、日本製紙(株)製、エーテル化度0.65 1%水溶液の粘度4200mPa・s)を固形分相当で100部使用し、架橋剤B1の添加量をそれぞれ固形分相当で、0.5部、5部、15部、30部とした以外は、実施例1と同様にして、二次電池用バインダー組成物を含む二次電池用スラリー組成物、負極、リチウムイオン二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
(実施例14〜17)
水溶性増粘剤(A)であるカルボキシメチルセルロースA1に代えて、それぞれ、「1380」(カルボキシメチルセルロースA3、ダイセルファインケミカル(株)製、エーテル化度1.2 1%水溶液の粘度1100mPa・s)を固形分相当で100部、「MAC200HC」(カルボキシメチルセルロースA4、日本製紙(株)製、エーテル化度0.9 1%水溶液の粘度1100mPa・s)を固形分相当で100部、「MAC800LC」(カルボキシメチルセルロースA5、日本製紙(株)製、エーテル化度0.65 1%水溶液の粘度8500mPa・s)を固形分相当で100部、「MAC1400LC」(カルボキシメチルセルロースA6、日本製紙(株)製、エーテル化度0.65 1%水溶液の粘度9100mPa・s)を固形分相当で100部使用した以外は、実施例6と同様にして、二次電池用バインダー組成物を含む二次電池用スラリー組成物、負極、リチウムイオン二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
(実施例18〜20)
粒子状重合体C1の水分散液の添加量を、それぞれ固形分相当で50部、300部、200部とした以外は、実施例6と同様にして、二次電池用バインダー組成物を含む二次電池用スラリー組成物、負極、リチウムイオン二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
(実施例21,22)
粒子状重合体C1の水分散液に代えて、それぞれ、粒子状重合体C2の水分散液、粒子状重合体C3の水分散液を固形分相当で100部使用した以外は、実施例6と同様にして、二次電池用バインダー組成物を含む二次電池用スラリー組成物、負極、リチウムイオン二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
(実施例23〜26)
架橋剤B1である「EX−313」に代えて、それぞれ、「EX−521」(架橋剤B2 ナガセケムテック(株)製、エポキシ基数3個/1分子、水溶率90%以上、1%水溶液の粘度4600mPa・s)を固形分相当で15部、「エチレングリコールジグリシジルエーテル」(架橋剤B3 東京化成工業(株)製、エポキシ基数2個/1分子、水溶率90%以上(但し、エマルジョン状態)、1%水溶液の粘度100mPa・s未満)を固形分相当で15部、「1,4ブタンジオールジグリシジルエーテル」(架橋剤B4 東京化成工業(株)製、エポキシ基数2個/1分子、水溶率90%以上、1%水溶液の粘度100mPa・s未満)を固形分相当で15部、「EX−421」(架橋剤B5 ナガセケムテック(株)製、エポキシ基数3個/1分子、水溶率80%以上90%未満、1%水溶液の粘度640mPa・s)を固形分相当で15部、使用した以外は、実施例1と同様にして、二次電池用バインダー組成物を含む二次電池用スラリー組成物、負極、リチウムイオン二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
(実施例27,28)
水溶性増粘剤(A)であるカルボキシメチルセルロースA1に代えて、ポリアクリル酸(アルドリッチ製、1%水溶液の粘度750mPa・s)を固形分相当で100部、ポリビニルアルコール(東京化成製、1%水溶液の粘度700mPa・s)を固形分相当で100部使用した以外は、実施例6と同様にして、二次電池用バインダー組成物を含む二次電池用スラリー組成物、負極、リチウムイオン二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
(実施例29)
架橋剤B1である「EX−313」に代えて、「アリルグリシジルエーテル」(架橋剤B6 東京化成工業(株)製、エポキシ基数1個/1分子、水溶率90%以上、1%水溶液の粘度100mPa・s未満)を固形分相当で15部使用した以外は、実施例1と同様にして、二次電池用バインダー組成物を含む二次電池用スラリー組成物、負極、リチウムイオン二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
(比較例1)
架橋剤B1を使用しない以外は、実施例6と同様にして、二次電池用バインダー組成物を含む二次電池用スラリー組成物、負極、リチウムイオン二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表2に示す。
(比較例2)
架橋剤B1を使用しない以外は、実施例21と同様にして二次電池用バインダー組成物を含む二次電池用スラリー組成物、負極、リチウムイオン二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表2に示す。
(比較例3)
粒子状重合体C1の水分散液を使用しない以外は、実施例6と同様にして、二次電池用バインダー組成物を含む二次電池用スラリー組成物、負極を作製したが、得られた負極の負極合材層が脆く、リチウムイオン二次電池を製造することはできなかった。
(比較例4)
架橋剤B1の添加量を固形分相当で100部とした以外は、実施例6と同様にして、二次電池用バインダー組成物を含む二次電池用スラリー組成物、負極、リチウムイオン二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表2に示す。
(比較例5)
粒子状重合体C1の水分散液の添加量を、固形分相当で550部とした以外は、実施例6と同様にして二次電池用バインダー組成物を含む二次電池用スラリー組成物、負極、リチウムイオン二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表2に示す。
なお、表1,2中、「CMC」はカルボキシメチルセルロースを、「PAA」はポリアクリル酸を、「PVA」はポリビニルアルコールを表す。
Figure 0006197863
Figure 0006197863
表1より、所定の水溶性増粘剤(A)、架橋剤(B)、粒子状重合体(C)を特定の比率で用いた実施例1〜29では、充放電に伴う負極の膨れを抑制することができると共に、負極と集電体との密着性および電解液の注液性を確保し、リチウムイオン二次電池の電気的特性を向上させることができることが分かる。また、負極の耐水性も向上していることが分かる。
一方、表2より、架橋剤(B)を配合しない比較例1,2や、過剰に架橋剤(B)を使用した比較例4では、充放電に伴う負極の膨れを抑制することができず、負極と集電体との密着性および電解液の注液性を確保することができず、リチウムイオン二次電池の電気的特性を向上させることができないことが分かる。また、比較例1,2,4の負極は、耐水性も低い。
また、表2より、粒子状重合体(C)を過剰に配合する比較例5では、負極合材層と集電体との密着性を確保することはできるが、充放電に伴う負極の膨れを抑制することができず、電解液の注液性を確保できず、リチウムイオン二次電池の電気的特性を向上させることができないことが分かる。また、比較例5の負極は、耐水性も低い。
特に、表1の実施例1〜9,18〜20より、架橋剤(B)及び粒子状重合体(C)の水溶性増粘剤(A)に対する配合比率を調整することで、負極の膨れ抑制、負極合材層と集電体との密着性、電解液の注液性、リチウムイオン二次電池の電気的特性、および、負極の耐水性を高い次元で並立し得ることが分かる。
また、表1の実施例6,12,14〜17より、水溶性増粘剤(A)であるカルボキシメチルセルロースのエーテル化度、1質量%水溶液の粘度を変更することで、負極の膨れ抑制、負極合材層と集電体との密着性、電解液の注液性、および、リチウムイオン二次電池の電気的特性を高い次元で並立し得ることが分かる。
そして、表1の実施例6,21,22より、粒子状重合体(C)の官能基の種類を選択することで、負極の膨れ抑制、負極合材層と集電体との密着性、電解液の注液性、および、リチウムイオン二次電池の電気的特性を高い次元で並立し得ることが分かる。
更に、表1の実施例6,23〜26より、架橋剤(B)の1質量%水溶液の粘度、水溶率を変更することで、負極の膨れ抑制、負極合材層と集電体との密着性、電解液の注液性、および、リチウムイオン二次電池の電気的特性を高い次元で並立し得ることが分かる。
加えて、表1の実施例6,27,28より、水溶性増粘剤(A)の種類を変更することで、負極の膨れ抑制、負極合材層と集電体との密着性、電解液の注液性、および、リチウムイオン二次電池の電気的特性を高い次元で並立し得ることが分かる。
本発明の二次電池用バインダー組成物によれば、良好な結着性が得られると共に、該バインダー組成物を用いて形成した電池部材を使用した二次電池の電気的特性を向上させることができる。また、本発明の二次電池用スラリー組成物によれば、集電体と電極活物質層との密着性に優れ、かつ、二次電池の電気的特性を向上させることが可能な電極を形成することができる。
そして、本発明の二次電池用負極によれば、集電体と負極合材層との密着性を向上させると共に、二次電池の電気的特性を向上させることができる。
更に、本発明の二次電池によれば、電気的特性を向上させることができると共に、負極合材層と集電体との密着性を確保できる。

Claims (9)

  1. 水酸基又はカルボキシル基を有する水溶性増粘剤(A)と、前記水溶性増粘剤(A)の水酸基又はカルボキシル基と反応する官能基を有する架橋剤(B)と、粒子状重合体(C)とを含み、
    前記粒子状重合体(C)は、前記架橋剤(B)と反応する官能基を有し、かつ、脂肪族共役ジエン単量体単位および芳香族ビニル単量体単位を含み、
    前記水溶性増粘剤(A)100質量部当たり、前記架橋剤(B)を0.001質量部以上100質量部未満含有し、前記粒子状重合体(C)を10質量部以上500質量部未満含有する、二次電池用バインダー組成物。
  2. 前記架橋剤(B)の水溶率が、80質量%以上である、請求項1に記載の二次電池用バインダー組成物。
  3. 前記架橋剤(B)が、多官能エポキシ化合物である、請求項1又は2に記載の二次電池用バインダー組成物。
  4. 前記水溶性増粘剤(A)が、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、および、これらの塩、からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の二次電池用バインダー組成物。
  5. 前記粒子状重合体(C)中の前記架橋剤(B)と反応する官能基が、カルボキシル基、水酸基、グリシジルエーテル基、および、チオール基、からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の二次電池用バインダー組成物。
  6. 水酸基又はカルボキシル基を有する水溶性増粘剤(A)と、前記水溶性増粘剤(A)の水酸基又はカルボキシル基と反応する官能基を有する架橋剤(B)と、粒子状重合体(C)と、電極活物質と、水とを含み、
    前記粒子状重合体(C)は、前記架橋剤(B)と反応する官能基を有し、かつ、脂肪族共役ジエン単量体単位および芳香族ビニル単量体単位を含み、
    前記水溶性増粘剤(A)100質量部当たり、前記架橋剤(B)を0.001質量部以上100質量部未満含有し、前記粒子状重合体(C)を10質量部以上500質量部未満含有する、二次電池用スラリー組成物。
  7. 前記電極活物質が負極活物質である請求項6に記載の二次電池用スラリー組成物から得られる負極合材層を有する、二次電池用負極。
  8. 前記負極合材層は、前記水溶性増粘剤(A)、前記架橋剤(B)、及び、前記粒子状重合体(C)から形成される架橋構造を有する、請求項7に記載の二次電池用負極。
  9. 請求項7又は8に記載の二次電池用負極と、正極と、電解液と、セパレータとを備える、二次電池。
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