以下、車両の制動制御装置を具体化した一実施形態を図1〜図5に従って説明する。
図1には、本実施形態の車両の制動制御装置である制御装置40を備える制動装置11が図示されている。図1に示すように、制動装置11は、複数(本実施形態では4つ)の車輪(右前輪FR、左前輪FL、右後輪RR及び左後輪RL)を有する車両に搭載されている。この制動装置11は、ブレーキペダル12が連結される液圧発生装置20と、運転者によるブレーキ操作時に各車輪FR,FL,RR,RLの制動力を個別に調整可能なブレーキアクチュエータ30とを備えている。
液圧発生装置20には、運転者によるブレーキペダル12の操作力を倍力するブースタ21と、このブースタ21によって倍力された操作力に応じたブレーキ液圧(以下、「MC圧」ともいう。)が内部で発生するマスタシリンダ22とが設けられている。そして、運転者によってブレーキ操作が行われている場合、マスタシリンダ22からは、その内部で発生したMC圧に応じたブレーキ液がブレーキアクチュエータ30を介して車輪FR,FL,RR,RLに個別対応するホイールシリンダ15a,15b,15c,15dに供給される。すると、ホイールシリンダ15a〜15dを備えるブレーキ機構が、ホイールシリンダ15a〜15d内のブレーキ液圧(以下、「WC圧」ともいう。)に応じた制動力を車輪FR,FL,RR,RLに付与する。
ブレーキアクチュエータ30には、右前輪用のホイールシリンダ15a及び左後輪用のホイールシリンダ15dに接続される第1の液圧回路31と、左前輪用のホイールシリンダ15b及び右後輪用のホイールシリンダ15cに接続される第2の液圧回路32とが設けられている。そして、第1の液圧回路31には右前輪用の経路33a及び左後輪用の経路33dが設けられるとともに、第2の液圧回路32には左前輪用の経路33b及び右後輪用の経路33cが設けられている。こうした経路33a〜33dには、ホイールシリンダ15a〜15d内のWC圧の増圧を規制する際に動作する常開型の電磁弁である増圧弁34a,34b,34c,34dと、WC圧を減圧させる際に動作する常閉型の電磁弁である減圧弁35a,35b,35c,35dとが設けられている。なお、本明細書における以降の記載では、ある車輪用のホイールシリンダ内のWC圧(例えば、右前輪用のホイールシリンダ15a内のWC圧)のことを、「ある車輪に対するWC圧(例えば、右前輪FRに対するWC圧)」ということもある。
また、液圧回路31,32には、ホイールシリンダ15a〜15dから減圧弁35a〜35dを介して流出したブレーキ液が一時貯留されるリザーバ361,362と、リザーバ361,362内に一時貯留されているブレーキ液を吸引して液圧回路31,32におけるマスタシリンダ22側に吐出するためのポンプ371,372とが設けられている。これら各ポンプ371,372は、同一の駆動モータ38の駆動によって動作する。
次に、制御装置40について説明する。
制御装置40の入力側インターフェースには、ブレーキペダル12の操作の有無を検出するブレーキスイッチSW1と、車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWを検出する車輪速度センサSE1,SE2,SE3,SE4とが電気的に接続されている。また、入力側インターフェースには、車両の前後方向の加速度である前後加速度Gxを検出する前後加速度センサSE5と、車両の横方向の加速度である横加速度Gyを検出する横加速度センサSE6とが電気的に接続されている。一方、制御装置40の出力側インターフェースには、各弁34a〜34d,35a〜35d及び駆動モータ38などが電気的に接続されている。そして、制御装置40は、各種センサSE1〜SE6及びブレーキスイッチSW1からの各種検出信号に基づき、各弁34a〜34d,35a〜35d及び駆動モータ38を制御する。
こうした制御装置40は、CPU、ROM及びRAMなどで構成されるマイクロコンピュータを有している。ROMには、CPUが実行する各種制御処理、各種マップ及び各種閾値などが予め記憶されている。また、RAMには、車両のイグニッションスイッチが「オン」である間に適宜書き換えられる各種の情報(車両の車体速度VSなど)が記憶される。
制御装置40を備える車両では、前輪FR,FLに対しては左右独立方式のアンチロックブレーキ制御(以下、「ABS制御」ともいう。)が実施され、後輪RR,RLに対してはセレクトロー方式のABS制御が実施されるようになっている。左右独立方式のABS制御では、運転者によるブレーキ操作によって、例えば右前輪FRのスリップ量Slpがスリップ判定値SlpTh以上になるなどして右前輪FRを制御対象とするABS制御の開始条件が成立すると、右前輪FRを制御対象とするABS制御が開始される。しかし、このとき、左前輪FLを制御対象とするABS制御の開始条件が成立していない場合、左前輪FLを制御対象とするABS制御は実施されない。
ここで、車両は、摩擦係数であるμ値が左右で異なるμスプリット路面を走行することがある。この際に、運転者によるブレーキ操作によって車両の各車輪FR,FL,RR,RLに制動力が付与されている場合、高μ路に接地している車輪である高μ側輪のスリップ量Slpはそれほど大きくならないものの、低μ路に接地している車輪である低μ側輪のスリップ量Slpが大きくなる。そのため、低μ側輪でABS制御の開始条件が成立し、同低μ側輪を制御対象とするABS制御が実施されることがある。
図2には、μスプリット路面の車両走行中に、低μ側輪(例えば、左前輪FL)を制御対象とするABS制御が実施される場合の一例が図示されている。すなわち、第1のタイミングt11でABS制御が開始されると、ABS制御のモードが減少モードであるため、低μ側輪に対するWC圧PwcAが減圧され、低μ側輪の制動力が減少される。このとき、ブレーキアクチュエータ30では、ポンプ371,372が動作している状態で、低μ側輪用の経路(例えば、左前輪用の経路33b)に設けられている増圧弁(例えば、増圧弁34b)が閉弁され、減圧弁(減圧弁35b)が開弁される。
また、第1のタイミングt11では、高μ側輪を制御対象とするヨーコントロール制御が開始される。このヨーコントロール制御は、高μ側輪のWC圧PwcBに対する増圧を制限し、高μ側輪の制動力の増大を制限する規定制御と、この規定制御の後に実施され、WC圧PwcBを緩やかに増圧させ、高μ側輪の制動力を緩やかに増大させる増大制御とを含んでいる。すなわち、第1のタイミングt11からは規定制御が開始される。
すると、高μ側輪に対するWC圧PwcBは、低μ側輪に対するWC圧PwcAの減圧速度とほぼ同等の速度で減圧される。この場合、高μ側輪用の経路(例えば、右前輪FR)に設けられている増圧弁(増圧弁34a)が閉弁され、減圧弁(減圧弁35a)が開弁される。そして、規定制御の開始時点である第1のタイミングt11から減圧時間T1Thaが経過した第2のタイミングt12で、高μ側輪用の経路に設けられている増圧弁及び減圧弁の双方が閉弁され、高μ側輪に対するWC圧PwcBが保持されるようになる。
その後、第3のタイミングt13に達すると、低μ側輪のスリップ量Slpが小さくなったため、ABS制御のモードが、減少モードから増大モードに移行される。すると、低μ側輪用の経路に設けられている増圧弁が開弁され、減圧弁が閉弁されるため、低μ側輪に対するWC圧PwcAが増圧される。
そして、ABS制御及び規定制御が開始された第1のタイミングt11からの経過時間が、予め設定されている規定時間T1Thに達する第4のタイミングt14になると、規定制御が終了され、規定制御の制御対象であった高μ側輪に対するWC圧PwcBを増圧させる増大制御が開始される。すると、高μ側輪用の経路に設けられている減圧弁の閉弁が維持された状態で、増圧弁の開弁及び閉弁が繰り返される。その結果、増大制御の制御対象である高μ側輪に対するWC圧PwcBが、緩やかに増圧される。すなわち、μスプリット路面を走行中の車両で、右前輪FR及び左前輪FLのうち一方の前輪を制御対象とするABS制御及び他方の前輪を制御対象とするヨーコントロール制御を実施することにより、左前輪FLに対するWC圧と右前輪FRに対するWC圧との差であるWC圧差ΔPwc、すなわち左前輪FLと右前輪FRとの制動力差が大きくなりにくい。そのため、制動力差に起因して車両に付与される回転力が大きくなりにくい。したがって、制御装置40が、「制御部」として機能する。
ところで、右前輪FR及び左前輪FLのうち一方の前輪のみを制御対象とするABS制御が実施される事象は、車両の走行する路面がμスプリット路面ではない場合にも起こりうる。この場合、ABS制御の制御対象ではない他方の前輪を制御対象とする規定制御が実施されることとなるが、同規定制御の実施によって左前輪FLに対するWC圧Pwcと右前輪FRに対するWC圧Pwcとの差であるWC圧差ΔPwcが大きくなり、右前輪FRと左前輪FLとの制動力差が大きくなる。その結果、この制動力差に起因して車両に付与される回転力が大きくなることがある。
そこで、本実施形態の制動制御装置である制御装置40を備える車両では、右前輪FR及び左前輪FLのうち一方の前輪を制御対象とするABS制御が実施され、他方の前輪を制御対象とする規定制御が実施されているときに、路面がμスプリット路面であるか否かを判定するようにした。そして、路面がμスプリット路面ではないと判定されたときには、規定制御を終了させ、規定制御の制御対象であった前輪に対するWC圧Pwcを増圧させる回復制御を実施するようにした。
次に、図3に示すフローチャートを参照し、右前輪FR及び左前輪FLのうち少なくとも一方の前輪を制御対象とするABS制御が実施されている場合に、制御装置40が実行する処理ルーチンについて説明する。
図3に示すように、本処理ルーチンにおいて、制御装置40は、車輪速度センサSE1〜SE4によって検出された車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWを取得する(ステップS11)。ここで取得される車輪速度VWは、車輪の回転速度である。続いて、制御装置40は、取得した各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWのうち少なくとも1つの車輪速度に基づき、車両の車体速度VSを演算する(ステップS12)。なお、この車体速度VSは、車両の前後方向への移動速度を車輪の回転速度に変換した値である。
そして、制御装置40は、横加速度センサSE6によって検出された横加速度Gyを取得し(ステップS13)、右前輪FRの制動力から左前輪FLの制動力を減じた差に相当する制動力差相当値TFを演算する(ステップS14)。
ここで、制動力差相当値TFの演算方法の一例について説明する。すなわち、制御装置40は、ABS制御が開始された時点からの右前輪FRの制動力の増大に要した増大時間TFR1と、同時点からの右前輪FRの制動力の減少に要した減少時間TFR2とを演算する。例えば、増大時間TFR1は、ABS制御の開始時点からの右前輪用の増圧弁34aが開弁している時間の積算値であり、減少時間TFR2は、ABS制御の開始時点からの右前輪用の減圧弁35aが開弁している時間の積算値である。同様に、制御装置40は、ABS制御が開始された時点からの左前輪FLの制動力の増大に要した増大時間TFL1と、同時点からの左前輪FLの制動力の減少に要した減少時間TFL2とを演算する。例えば、増大時間TFL1は、ABS制御の開始時点からの左前輪用の増圧弁34bが開弁している時間の積算値であり、減少時間TFL2は、ABS制御の開始時点からの左前輪用の減圧弁35bが開弁している時間の積算値である。
そして、制御装置40は、演算した各時間TFR1,TFR2,TFL1,TFL2を、以下に示す関係式(式1)に代入することにより、制動力差相当値TFを求める。この制動力差相当値TFが正の値である場合には、右前輪FRの制動力が左前輪FLの制動力よりも大きいと推定することができ、制動力差相当値TFが負の値である場合には、左前輪FLの制動力が右前輪FRの制動力よりも大きいと推定することができる。すなわち、こうした制動力差相当値の絶対値|TF|が、右前輪FRと左前輪FLとの制動力差の推定値に相当する。したがって、この点で、ステップS14を実行する制御装置40により、「制動力差推定部」の一例が構成される。
TF=(TFR1−TFR2)−(TFL1−TFL2) ・・・(式1)
なお、右前輪FR及び左前輪FLのうち一方の前輪を制御対象とするABS制御が実施され、他方の前輪を制御対象とするヨーコントロール制御が実施されている場合、ABS制御の制御対象である前輪の増大時間及び減少時間に加え、ABS制御の制御対象ではない前輪の増大時間及び減少時間もまた演算される。
そして、制御装置40は、規定制御が実施中であるか否かを判定する(ステップS15)。規定制御が実施されている場合、右前輪FR及び左前輪FLのうち一方の前輪がABS制御の制御対象ではないと判断することができる。一方、規定制御が実施されていない場合、右前輪FRを制御対象とするABS制御と、左前輪FLを制御対象とするABS制御とが実施されている可能性ある。また、この場合、右前輪FR及び左前輪FLのうち一方の前輪を制御対象とする規定制御が既に終了しており、増大制御、第1の回復制御又は第2の回復制御が実施されている可能性もある。そのため、規定制御が実施されていない場合(ステップS15:NO)、制御装置40は、本処理ルーチンを一旦終了する。
一方、規定制御が実施されている場合(ステップS15:YES)、制御装置40は、ステップS13で取得した横加速度の絶対値|Gy|が、車両が旋回しているか否かの判断基準として設定されている旋回判定値GyTh未満であるか否かを判定する(ステップS16)。横加速度の絶対値|Gy|が旋回判定値GyTh未満である場合には、車両の旋回半径が大きい又は車両が旋回していないと判断することができる。一方、横加速度の絶対値|Gy|が旋回判定値GyTh以上である場合には、車両の旋回半径が小さく、車両が旋回していると判断することができる。
そして、横加速度の絶対値|Gy|が旋回判定値GyTh未満である場合(ステップS16:YES)、制御装置40は、「判定値」の一例であるスプリット判定値TFThを、車両の直進時用の第1の値TFTh1とし(ステップS17)、その処理を後述するステップS19に移行する。一方、横加速度の絶対値|Gy|が旋回判定値GyTh以上である場合(ステップS16:NO)、制御装置40は、スプリット判定値TFThを、車両の旋回時用の第2の値TFTh2とし(ステップS18)、その処理を次のステップS19に移行する。なお、第2の値TFTh2は、第1の値TFTh1よりも大きい。
ステップS19において、制御装置40は、以下に示す(条件1)及び(条件2)の双方が成立しているか否かを判定する。
(条件1)ABS制御及び規定制御が開始された時点からの経過時間Tが、規定時間T1Thよりも短い判定時間T2Th以上であること。
(条件2)ステップS14で演算した制動力差相当値の絶対値|TF|が、ステップS17又はステップS18で設定したスプリット判定値TFTh未満であること。
ここで、車両がμスプリット路面を走行しており、右前輪FR及び左前輪FLの一方の前輪を制御対象とするABS制御及び他方の前輪を制御対象とする規定制御(ヨーコントロール制御)が実施されているとする。この場合、ABS制御の制御対象となる前輪が接地している路面のμ値は小さいため、ABS制御のモードが減少モードである期間が比較的長い。そのため、ABS制御の開始時点からの経過時間Tが判定時間T2Thに達した時点では、未だモードが減少モードである可能性があり、ABS制御の制御対象となる前輪の制動力が小さく、右前輪FRと左前輪FLとの制動力差が比較的大きい可能性がある。
これに対し、車両がμスプリット路面ではない路面を走行しているときに、右前輪FR及び左前輪FLの一方の前輪を制御対象とするABS制御及び他方の前輪を制御対象とする規定制御(ヨーコントロール制御)が実施されているとする。この場合、ABS制御の制御対象となる前輪が接地している路面のμ値が小さくないため、ABS制御のモードが減少モードである期間が比較的短い。そのため、ABS制御の開始時点からの経過時間Tが判定時間T2Thに達した時点では、モードが減少モードから増大モードに既に移行している可能性がある。この場合、ABS制御の制御対象となる前輪の制動力の増大が開始されており、右前輪FRと左前輪FLとの制動力差が比較的小さい可能性がある。そのため、上記の(条件1)及び(条件2)の双方が成立している場合、車両の走行する路面がμスプリット路面ではないと判断することができる。
そして、上記の(条件1)及び(条件2)の双方が成立している場合(ステップS19:YES)、制御装置40は、ヨーコントロール制御の制御対象である前輪の制動力を、上記の増大制御の実施時よりも早期に増大させる第1の回復制御を開始する(ステップS20)。すなわち、制御装置40は、規定制御(すなわち、ヨーコントロール制御)を終了し、第1の回復制御を開始する。例えば、制御装置40は、制御対象となる前輪用の経路に設けられている減圧弁を閉弁させた状態で、同経路に設けられている増圧弁の開弁及び閉弁を繰り返させる。このとき、制御装置40は、増圧弁を開弁させる開弁期間と閉弁させる閉弁期間との比率に相当するDuty比を、上記の増大制御の実施時よりも大きくする。その後、制御装置40は、本処理ルーチンを一旦終了する。
なお、第1の回復制御では、制御対象となる前輪の制動力の増大速度を、ABS制御のモードが増大モードであるときにおける前輪の制動力の増大速度と同等としてもよいし、同増大速度よりも僅かに遅くしてもよい。
一方、上記の(条件1)及び(条件2)の少なくとも一方の条件が成立していない場合(ステップS19:NO)、制御装置40は、右前輪FRが規定制御の制御対象であるか否かを判定する(ステップS21)。右前輪FRが規定制御の制御対象である場合(ステップS21:YES)、制御装置40は、ステップS14で演算した制動力差相当値TFが「0(零)」未満であるか否かを判定する(ステップS22)。すなわち、このステップS22では、左前輪FLを制御対象とするABS制御を実施すると共に右前輪FRを制御対象とする規定制御を実施している状態で、左前輪FLの制動力が右前輪FRの制動力よりも大きいか否かが判定される。
ここで、μスプリット路面を走行中の車両で、低μ路に接地している左前輪FLを制御対象とするABS制御が実施され、高μ路に接地している右前輪FRを制御対象とする規定制御が実施されているものとする。この場合、ABS制御及び規定制御の開始時点からの経過時間Tが判定時間T2Th未満であるときには、未だABS制御のモードが減少モードである可能性が高い。そのため、ABS制御によって制動力が減少されている左前輪FLの制動力が、規定制御によって制動力の増大が制限されている右前輪FRの制動力よりも小さいはずである。
しかし、路面がμスプリット路面ではない場合、左前輪FLを制御対象とするABS制御を実施し、左前輪FLの制動力を減少させると、左前輪FLのスリップが直ぐに解消され、ABS制御のモードが減少モードから増大モードに早期に移行される。その結果、上記の経過時間Tが判定時間T2Thに達する以前から左前輪FLの制動力の増大が開始され、左前輪FLの制動力が、規定制御の実施によって制動力の増大が制限されている右前輪FRの制動力よりも大きくなることがある。つまり、右前輪FRを制御対象とする規定制御を実施している状態で、左前輪FLの制動力が右前輪FRの制動力よりも大きいと予測できる場合には、路面がμスプリット路面ではないと判断することができる。
そのため、制動力差相当値TFが「0(零)」未満である場合(ステップS22:YES)、制御装置40は、その処理を後述するステップS24に移行する。一方、制動力差相当値TFが「0(零)」以上である場合(ステップS22:NO)、制御装置40は、その処理を後述するステップS25に移行する。
その一方で、左前輪FLが規定制御の制御対象である場合(ステップS21:NO)、制御装置40は、ステップS14で演算した制動力差相当値TFが「0(零)」よりも大きいか否かを判定する(ステップS23)。すなわち、このステップS23では、右前輪FRを制御対象とするABS制御を実施すると共に左前輪FLを制御対象とする規定制御を実施している状態で、右前輪FRの制動力が左前輪FLの制動力よりも大きいか否かが判定される。
ここで、μスプリット路面を走行中の車両で、低μ路に接地している右前輪FRを制御対象とするABS制御が実施され、高μ路に接地している左前輪FLを制御対象とする規定制御が実施されているものとする。この場合、ABS制御の開始時点からの経過時間Tが判定時間T2Th未満であるときには、未だABS制御のモードが減少モードである可能性が高い。そのため、ABS制御によって制動力が減少されている右前輪FRの制動力が、規定制御によって制動力の増大が制限されている左前輪FLの制動力よりも小さいはずである。
しかし、路面がμスプリット路面ではない場合、右前輪FRを制御対象とするABS制御を実施し、右前輪FRの制動力を減少させると、右前輪FRのスリップが直ぐに解消され、ABS制御のモードが減少モードから増大モードに早期に移行される。その結果、上記の経過時間Tが判定時間T2Thに達する以前から右前輪FRの制動力の増大が開始され、右前輪FRの制動力が、規定制御の実施によって制動力の増大が制限されている左前輪FLの制動力よりも大きくなることがある。つまり、左前輪FLを制御対象とする規定制御を実施している状態で、右前輪FRの制動力が左前輪FLの制動力よりも大きいと予測できる場合には、路面がμスプリット路面ではないと判断することができる。
そのため、制動力差相当値TFが「0(零)」よりも大きい場合(ステップS23:YES)、制御装置40は、その処理を次のステップS24に移行する。一方、制動力差相当値TFが「0(零)」以下である場合(ステップS23:NO)、制御装置40は、その処理を後述するステップS25に移行する。
ステップS24において、制御装置40は、ヨーコントロール制御の制御対象である前輪の制動力を、上記の第1の回復制御の実施時よりも早期に増大させる第2の回復制御を開始する。すなわち、制御装置40は、規定制御(すなわち、ヨーコントロール制御)を終了し、第2の回復制御を開始する。例えば、制御装置40は、制御対象となる前輪用の経路に設けられている減圧弁を閉弁させた状態で、同経路に設けられている増圧弁の開弁及び閉弁を繰り返させる。このとき、制御装置40は、増圧弁を開弁させる開弁期間と閉弁させる閉弁期間との比率に相当するDuty比を、第1の回復制御の実施時よりも大きくする。その後、制御装置40は、本処理ルーチンを一旦終了する。
なお、第2の回復制御では、制御対象となる前輪の制動力の増大速度を、ABS制御のモードが増大モードであるときにおける前輪の制動力の増大速度よりも速くすることが好ましい。
ステップS25において、制御装置40は、ABS制御及び規定制御の開始時点からの経過時間Tが上記の規定時間T1Th以上であるか否かを判定する。経過時間Tが規定時間T1Th未満である場合(ステップS25:NO)、制御装置40は、本処理ルーチンを一旦終了する。一方、経過時間Tが規定時間T1Th以上である場合(ステップS25:YES)、制御装置40は、上記の増大制御を開始し(ステップS26)、その後、本処理ルーチンを一旦終了する。
次に、図4に示すタイミングチャートを参照し、車両旋回中における制動時に、左前輪FLのスリップ量Slpが一時的に大きくなり、左前輪FLを制御対象とするABS制御が開始された場合の作用について説明する。なお、横加速度Gyは、車両の右旋回時に正の値となり、車両の左旋回時に負の値になるものとする。
図4(a),(b),(c),(d),(e),(f)に示すように、第1のタイミングで、車両を左旋回させるようなステアリング操作が運転者によって開始される。すると、横加速度Gyが「0(零)」から次第に小さくなる。このように車両が左旋回している第2のタイミングt22で、運転者によるブレーキ操作が開始され、マスタシリンダ22内のMC圧Pmcが増圧される。すると、これに伴って右前輪FRに対するWC圧Pwc及び左前輪FLに対するWC圧Pwcが増圧される。その結果、車両全体の制動力が大きくなり、車両の前後加速度の絶対値|Gx|もまた大きくなる。
このとき、左前輪FLが、路面上に存在する水たまりなどの低μの箇所に進入すると、左前輪FLのスリップ量Slpが一時的大きくなり、左前輪FLを制御対象とするABS制御の開始条件が成立する(第3のタイミングt23)。すると、この第3のタイミングt23で、ABS制御の減少モードによって、左前輪FLに対するWC圧Pwcの減圧が開始され、左前輪FLの制動力が減少され始める。
また、ABS制御が開始される第3のタイミングt23からは、ABS制御の制御対象ではない右前輪FRの制動力の増大を制限する規定制御が開始される。すると、右前輪FRに対するWC圧Pwcは、減圧された後、保持されるようになる(ステップS15:YES)。
なお、上述したように、車両は旋回しており、横加速度の絶対値|Gy|が徐々に大きくなっている。そして、第3のタイミングt23で、横加速度の絶対値|Gy|が、旋回判定値GyTh以上になる(ステップS16:YES)。そのため、路面がμスプリット路面であるか否かを判断するためのスプリット判定値TFThは、第1の値TFTh1から、同第1の値TFTh1よりも大きい第2の値TFTh2に変更される(ステップS18)。
そして、規定制御の制御対象である右前輪FRに対するWC圧Pwcが保持されるようになると、左前輪FLに対するWC圧Pwcが減圧されているため、右前輪FRと左前輪FLとの制動力差の推定値に相当する制動力差相当値の絶対値|TF|が次第に大きくなる。その後の第4のタイミングt24でABS制御のモードが減少モードから増大モードに移行されると、左前輪FLに対するWC圧Pwcの増圧が開始される。その結果、制動力差相当値の絶対値|TF|が小さくなる。
そして、ABS制御の開始時点である第3のタイミングt23からの経過時間Tが判定時間T2Thとなる第5のタイミングt25では、制動力差相当値の絶対値|TF|が、その時点のスプリット判定値TFTh(=TFTh2)未満となっている(ステップS19:YES)。そのため、この第5のタイミングt25で、第1の回復制御が開始され(ステップS20)、右前輪FRに対するWC圧Pwcの増圧が開始される。
ここで、第1の回復制御を実施しない比較例の場合、図4(e)に破線で示すように、第3のタイミングt23からの経過時間Tが規定時間T1Th(>T2Th)に達する第6のタイミングt26で増大制御が開始され、右前輪FRに対するWC圧Pwcが少しずつ増圧されることとなる。この場合、ABS制御の制御対象である左前輪FLに対するWC圧Pwcが、右前輪FRに対するWC圧Pwcよりも大きくなりやすい。
これに対し、本実施形態の制動制御装置である制御装置40を備える車両にあっては、第6のタイミングt26よりも前の第5のタイミングt25で、路面がμスプリット路面ではないと予測されると、規定制御、すなわちヨーコントロール制御が終了され、第1の回復制御の実施によって右前輪FRに対するWC圧Pwcが増圧され始める。その結果、右前輪FRに対するWC圧Pwcと左前輪FLに対するWC圧Pwcとの差の拡大が抑制され、右前輪FRと左前輪FLとの制動力差の拡大が抑制される。
また、第5のタイミングt25から第1の回復制御を実施することにより、第6のタイミングt26から増大制御を実施する比較例の場合と比較して、車両全体の制動力が早期に大きくなる。すなわち、図4(d)に示すように、車両の前後方向加速度の絶対値|Gx|が早期に大きくなる。
次に、図5に示すタイミングチャートを参照し、μ値の大きいμ均一路面での車両制動時に、左前輪FLのスリップ量Slpが一時的に大きくなり、左前輪FLを制御対象とするABS制御が開始された場合の作用について説明する。
図5(a),(b),(c),(d),(e)に示すように、第1のタイミングt31で運転者によるブレーキ操作が開始されると、マスタシリンダ22内のMC圧Pmcが増圧され、車両全体の制動力が大きくなる。その結果、前後加速度の絶対値|Gx|が大きくなる。そして、左前輪FLが、路面上に存在する水たまりなどの低μの箇所に進入すると、左前輪FLのスリップ量Slpが一時的大きくなり、左前輪FLを制御対象とするABS制御の開始条件が成立する(第2のタイミングt32)。すると、この第2のタイミングt32で、ABS制御の減少モードによって、左前輪FLに対するWC圧Pwcの減圧が開始され、左前輪FLの制動力が減少され始める。
また、ABS制御が開始される第2のタイミングt32からは、右前輪FRの制動力の増大を制限する規定制御が開始される。すると、右前輪FRに対するWC圧Pwcは、減圧された後、保持されるようになる(ステップS15:YES)。
そして、規定制御の制御対象である右前輪FRに対するWC圧Pwcが保持されるようになると、左前輪FLに対するWC圧Pwcが減圧されているため、右前輪FRの制動力から左前輪FLの制動力を減じた制動力差の推定値である制動力差相当値TFが次第に大きくなる。
しかし、この時点で、左前輪FLが上記の低μの箇所を脱すると、左前輪FLは高μ路に接地することとなる。そのため、左前輪FLのスリップは、ABS制御が開始されてから直ぐに解消される。すると、ABS制御の開始時点である第2のタイミングt32からの経過時間Tが判定時間T2Thに達する第5のタイミングt35よりも以前に、ABS制御のモードが減少モードから増大モードに移行される(第3のタイミングt33)。
すると、第3のタイミングt33以降では、規定制御の実施によって右前輪FRに対するWC圧Pwcが保持されているとともに、ABS制御の実施によって左前輪FLに対するWC圧Pwcが増圧されているため、制動力差相当値TFが次第に小さくなる。そして、第5のタイミングt35よりも以前の第4のタイミングt34で(ステップS19:NO)、左前輪FLを制御対象とするABS制御と右前輪FRを制御対象とする規定制御とが実施されている状態で(ステップS21:YES)、制動力差相当値TFが「0(零)」未満となる(ステップS22:YES)。すなわち、左前輪FLの制動力が右前輪FRの制動力よりも大きくなる。その結果、第4のタイミングt34で、第2の回復制御が開始される(ステップS24)。
ここで、第2の回復制御や第1の回復制御を実施しない比較例の場合、図5(d)に破線で示すように、第2のタイミングt32からの経過時間Tが規定時間T1Thに達する第6のタイミングt36で増大制御が開始され、右前輪FRに対するWC圧Pwcが少しずつ増圧されることとなる。この場合、ABS制御の制御対象である左前輪FLに対するWC圧Pwcが右前輪FRに対するWC圧Pwcよりも大きい期間が比較的継続するおそれがある。
これに対し、本実施形態の制動制御装置である制御装置40を備える車両にあっては、第6のタイミングt36や第5のタイミングt35よりも以前の第4のタイミングt34で、路面がμスプリット路面ではないと予測されると、規定制御、すなわちヨーコントロール制御が終了され、右前輪FRに対するWC圧Pwcが増圧され始める。しかも、このときの右前輪FRに対するWC圧Pwcの増圧速度は、ABS制御の実施によって増圧されている左前輪FLに対するWC圧Pwcの増圧速度よりも速い。そのため、右前輪FRに対するWC圧Pwcと左前輪FLに対するWC圧Pwcとの差の拡大の抑制にとどまらず、差を縮小させることも可能である。
以上、上記構成及び作用によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)右前輪FR及び左前輪FLのうち一方の前輪を制御対象とするABS制御及び他方の前輪を制御対象とする規定制御が実施されている状態で、ABS制御の開始時点からの経過時間Tが判定時間T2Th以上であることと、右前輪FRと左前輪FLとの制動力差が小さいと予測できることとの双方が成立しているときには、路面がμスプリット路面ではないと推定することができる。そのため、この場合、経過時間Tが規定時間T1Thに達していなくても、規定制御を終了させ、規定制御の制御対象であった前輪の制動力を増大させる第1の回復制御を実施するようにした。これにより、ABS制御の制御対象である前輪とABS制御の制御対象ではない前輪との実際の制動力差が大きくなりにくくなる。したがって、右前輪FR及び左前輪FLのうち一方の前輪を制御対象とするABS制御が実施されているときに、右前輪FRと左前輪FLとの制動力差に応じた回転力が車両に付与されにくくすることができる。
また、このように路面がμスプリット路面ではないと判定されたときには、ABS制御の制御対象ではない前輪の制動力の増大が早期に開始される。そのため、車両全体の制動力が大きくなる分、車両の車体減速度を大きくすることができる。
(2)また、路面がμスプリット路面であると判定され、第1の回復制御が実施されると、ABS制御の制御対象ではない前輪の制動力は、増大制御の実施時よりも急勾配で増大される。そのため、ABS制御の制御対象である前輪とABS制御の制御対象ではない前輪との制動力差の拡大を好適に抑制することができる。
(3)右前輪FR及び左前輪FLのうち一方の前輪を制御対象とするABS制御と、他方の前輪を制御対象とする規定制御とが実施されているときに、ABS制御の制御対象となる前輪の制動力がABSの制御対象ではない前輪の制動力よりも大きくなると、ABS制御の開始時点からの経過時間Tが判定時間T2Th未満であっても、規定制御を終了させ、第2の回復制御を開始するようにした。このようにABS制御の制御対象ではない前輪の制動力の増大を早期に開始することにより、ABS制御の制御対象である前輪とABS制御の制御対象ではない前輪との制動力差の拡大を好適に抑制することができる。
(4)しかも、第2の回復制御の実施による前輪の制動力の増大速度は、第1の回復制御の実施による前輪の制動力の増大速度よりも大きい。そのため、第2の回復制御の実施による前輪の制動力の増大速度が第1の回復制御の実施による前輪の制動力の増大速度と同等である場合と比較して、ABS制御の制御対象である前輪とABS制御の制御対象ではない前輪との制動力差の拡大の抑制にさらに貢献することができる。
(5)なお、本実施形態では、第2の回復制御時における前輪の制動力の増大速度を、ABS制御のモードが増大モードであるときの前輪の制動力の増大速度よりも速くなるようにした。これにより、ABS制御の制御対象である前輪とABS制御の制御対象ではない前輪との制動力差を縮小させることも可能となる。
(6)車両が旋回している場合、車両に横加速度Gyが付与されるため、右前輪FR及び左前輪FLのうち外輪の接地荷重が内輪の接地荷重よりも大きくなる。そのため、旋回中の車両の制動時にあっては、接地荷重の大きい方の前輪のスリップ量よりも接地荷重の小さい方の前輪のスリップ量のほうが大きくなりやすい。この状態で、右前輪FR及び左前輪FLのうち一方の前輪を制御対象とするABS制御と他方の前輪を制御対象とする規定制御を実施すると、路面がμスプリット路面でなくても、右前輪FRと左前輪FLとの制動力差が大きくなりやすい。
そこで、スプリット判定値TFThを、横加速度の絶対値|Gy|が小さく、車両の旋回半径が大きい又は車両が旋回していないと予測できるときには第1の値TFTh1とし、横加速度の絶対値|Gy|が大きく、車両の旋回半径が小さいと予測できるときには第1の値TFTh1よりも大きい第2の値TFTh2とするようにした。これにより、路面がμスプリット路面であるときには、ABS制御の制御対象ではない前輪を制御対象とする第1の回復制御の不要な実施を抑制することができる。また、路面がμスプリット路面ではないときには、ABS制御の開始時点からの経過時間Tが判定時間T2Thに達する時点、又は同時点から経過時間Tが規定時間T1Thに達する時点までの間で、ABS制御の制御対象ではない前輪を制御対象する第1の回復制御を適切に実施させることができる。
なお、上記実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・上記実施形態では、スプリット判定値TFThを、横加速度の絶対値|Gy|が旋回判定値GyTh未満であるか否かによって決定したが、横加速度の絶対値|Gy|に基づいてスプリット判定値TFThを決定するのであれば他の方法でスプリット判定値TFThを決定するようにしてもよい。例えば、横加速度の絶対値|Gy|が大きくなるにつれてスプリット判定値TFThを次第に大きくするようにしてもよい。また、スプリット判定値TFThを、横加速度の絶対値|Gy|の大きさに応じて複数段階で可変とするようにしてもよい。
・スプリット判定値TFThの大きさを決定するための横加速度は、横加速度センサSE6によって検出されたセンサ値ではなく、他のセンサによって検出されたセンサ値を用いて演算した推定値を用いてもよい。横加速度の推定値を演算する方法としては、車両の車体速度VSや運転者によって操作されるステアリングホイールの操舵角を用いる方法などが挙げられる。
・第2の回復制御時における前輪の制動力の増大速度を、第1の回復制御時における前輪の制動力の増大速度よりも大きいのであれば、ABS制御の増大モード時における前輪の制動力の増大速度と等しくしてもよい。この場合であっても、第2の回復制御を実施することにより、ABS制御の制御対象である前輪とABS制御の制御対象ではない前輪との制動力差の拡大を抑制することができる。
・第2の回復制御時における前輪の制動力の増大速度を、第1の回復制御時における前輪の制動力の増大速度と等しくしてもよい。この場合であっても、ABS制御の制御対象である前輪の制動力がABS制御の制御対象ではない前輪の制動力よりも大きくなったときに第2の回復制御を開始することにより、右前輪FRと左前輪FLとの制動力差の拡大を抑制することができる。
・上記の(条件1)及び(条件2)の双方の成立を契機に第1の回復制御を実施するのであれば、ABS制御の制御対象である前輪の制動力がABS制御の制御対象ではない前輪の制動力よりも大きくなっても第2の回復制御を実施しなくてもよい。この場合であっても、上記(1)と同等の効果を得ることができる。
・第1の回復制御では、制御対象となる前輪の制動力の増大速度を、ヨーコントロール制御の増大制御時における前輪の制動力の増大速度と等しくしてもよい。この場合であっても、ABS制御の制御対象ではない前輪の制動力の増大を早期に開始させることができる分、右前輪FRと左前輪FLとの制動力差の拡大を抑制することができる。
・右前輪FRと左前輪FLとの制動力差を推定する方法として、上記実施形態で説明した方法とは異なる方法を採用してもよい。例えば、各車輪FR,FL,RR,RLに対するWC圧Pwcを検出するセンサが設けられている場合、センサによって検出されたセンサ値に基づいて制動力差を推定するようにしてもよい。
・規定制御は、制御対象の車輪の制動力の増大を制限するのであれば、同規定制御の開始時点の制動力よりも減少させなくてもよい。例えば、規定制御は、制御対象の車輪の制動力を、ABS制御のモードが減少モードであるときにおける制動力の減少速度よりも小さい減少速度で減少させ続ける制御であってもよい。また、規定制御は、制御対象の車輪の制動力を、同規定制御の開始時点の制動力で保持させる制御であってもよい。また、規定制御は、制御対象の車輪の制動力を、同規定制御の開始時点までの増大速度よりも小さい増大速度で増大させる制御であってもよい。
・車両に、自動的に制動力を付与することのできるブレーキアクチュエータが搭載されているものもある。この場合、ブレーキアクチュエータの作動に伴う自動制動時に、右前輪FR及び左前輪FLの一方の前輪を制御対象とするABS制御が実施され、他方の前輪を制御対象とするヨーコントロール制御が実施されることがある。そして、この状態で、上記の(条件1)及び(条件2)の双方が成立するなどして、路面がμスプリット路面ではないと予測されるときには、ヨーコントロール制御(すなわち、規定制御)を終了し、同規定制御の制御対象であった前輪の制動力を増大させる回復制御を開始させるようにしてもよい。
・車両は、後輪RR,RLに対しては左右独立方式のABS制御を実施し、前輪FR,FLに対してはセレクトロー方式のABS制御を実施する車両であってもよい。
・制動装置は、液圧式の制動装置に限らず、電動式の制動装置であってもよい。