以下、車両のブレーキ制御装置を具体化した一実施形態を図1〜図6に従って説明する。
図1には、本実施形態の車両のブレーキ制御装置である制御装置40を備える車両のブレーキ装置11が図示されている。図1に示すように、ブレーキ装置11は、複数(図1に示す例では4つ)の車輪(右前輪FR、左前輪FL、右後輪RR、及び左後輪RL)を有する車両に搭載されている。このブレーキ装置11は、ブレーキペダル12が連結される液圧発生装置20と、各車輪FR,FL,RR,RLに付与するブレーキ力を調整するブレーキアクチュエータ30とを備えている。
液圧発生装置20には、運転者によるブレーキペダル12の操作力を倍力するブースタ21と、このブースタ21によって倍力された操作力に応じた液圧(以下、「MC圧」ともいう。)を発生するマスタシリンダ22とが設けられている。そして、運転者によってブレーキペダル12が操作されている場合、マスタシリンダ22からは、その内部で発生したMC圧に応じた量のブレーキ液がブレーキアクチュエータ30を介して車輪FR,FL,RR,RLに個別対応するホイールシリンダ15a,15b,15c,15dに供給される。これにより、車輪FR,FL,RR,RLには、ホイールシリンダ15a〜15d内の液圧であるWC圧に応じたブレーキ力が付与される。なお、以降の記載においては、運転者によるブレーキペダル12の操作のことを、「ブレーキ操作」ともいう。
ブレーキアクチュエータ30には、右前輪用のホイールシリンダ15a及び左後輪用のホイールシリンダ15dに接続される第1の液圧回路31と、左前輪用のホイールシリンダ15b及び右後輪用のホイールシリンダ15cに接続される第2の液圧回路32とが設けられている。そして、第1の液圧回路31には右前輪用の経路33a及び左後輪用の経路33dが設けられるとともに、第2の液圧回路32には左前輪用の経路33b及び右後輪用の経路33cが設けられている。こうした経路33a〜33dには、ホイールシリンダ15a〜15dのWC圧の増大を規制する際に作動する常開型の電磁弁である増圧弁34a,34b,34c,34dと、WC圧を減少させる際に作動する常閉型の電磁弁である減圧弁35a,35b,35c,35dとが設けられている。
また、液圧回路31,32には、ホイールシリンダ15a〜15dから減圧弁35a〜35dを介して流出したブレーキ液が一時貯留されるリザーバ361,362と、リザーバ361,362内に一時貯留されているブレーキ液を吸引して液圧回路31,32におけるマスタシリンダ22側に吐出するためのポンプ371,372とが設けられている。これら各ポンプ371,372は、同一のモータ38の駆動によって作動する。
次に、制御装置40について説明する。
図1に示すように、制御装置40には、ブレーキスイッチSW1、車輪FR,FL,RR,RLと同数の車輪速度センサSE1,SE2,SE3,SE4、前後方向加速度センサSE5、横方向加速度センサSE6、ヨーレートセンサSE7、圧力センサSE8及び操舵角センサSE9が電気的に接続されている。ブレーキスイッチSW1は、ブレーキペダル12の操作の有無を検出する。車輪速度センサSE1〜SE4は、対応する車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWを検出する。前後方向加速度センサSE5は車両の前後方向減速度Gxを検出し、横方向加速度センサSE6は車両の横方向加速度Gyを検出する。ヨーレートセンサSE7は、車両のヨーレートYrを検出する。圧力センサSE8は、マスタシリンダ22内のMC圧Pmcを検出する。そして、操舵角センサSE9は、車両のステアリング16の操舵角θを検出する。
なお、車両の前後方向減速度Gxは、車両が減速しているときほど大きくなり、車両が加速しているときほど小さくなる。また、横方向加速度Gyは、車両幅方向における一方に力が作用しているときには正の値となり、他方に力が作用しているときには負の値となる。また、ヨーレートYrは、右及び左のうち一方に車両を旋回させるような力が作用しているときには正の値となり、他方に車両を旋回させるような力が作用しているときには負の値となる。
こうした制御装置40は、CPU、ROM及びRAMなどで構成されるマイクロコンピュータを有している。ROMには、CPUに実行される各種のプログラム及び各種マップなどが予め記憶されている。また、RAMには、適宜書き換えられる各種の情報が記憶される。そして、制御装置40は、上記の各種のセンサなどの検出系によって検出された情報に基づき、ブレーキアクチュエータ30を構成する各種の弁34a〜34d,35a〜35d及びモータ38を制御する。
ところで、本実施形態の車両のブレーキ制御装置である制御装置40にあっては、左前輪FLと右前輪FRとに対して独立してアンチロックブレーキ制御(以下、「ABS制御」という。)を実施することが可能である。そのため、車両走行中に運転者によってブレーキ操作が行われ、各車輪FR,FL,RR,RLにブレーキ力が付与されると、左前輪FL及び右前輪FRのうち、一方の前輪に対してABS制御が実施される一方で、他方の前輪に対してはABS制御が実施されないことがある。こうした事象は、左前輪FLが接地する路面のμ値と右前輪FRが接地する路面のμ値とが異なる左右異μ路を車両が走行している状況下で発生しやすい。
このように左前輪FL及び右前輪FRのうち、一方の前輪に対してのみABS制御が実施されている場合、一方の前輪にはそれほど大きなブレーキ力が付与されない。そのため、車両全体に付与するブレーキ力を大きくし、車両の前後方向減速度Gxを大きくするためには、他方の前輪に付与するブレーキ力を増大させることとなる。しかしながら、一方の前輪と他方の前輪とのブレーキ力差が大きくなりすぎると、このブレーキ力差に起因したヨーレートYrが車両に発生し、車両挙動の安定性の低下を招くことがある。
ここで、車両のヨーレートYrが大きい場合、車両の横方向加速度の絶対値|Gy|が大きくなりやすい。そして、横方向加速度の絶対値|Gy|が大きいほど、車輪FR,FL,RR,RLに設けられているタイヤの横方向のグリップ力GPyが大きくなる。
そして、図2に示すように、摩擦円理論の関係上、このようにタイヤの横方向のグリップ力GPyが大きいほど、タイヤの縦方向のグリップ力GPxの上限値が小さくなる。例えば、タイヤの横方向のグリップ力GPyが第1のグリップ力GPy1である場合のタイヤの縦方向のグリップ力の上限値GPx1は、タイヤの横方向のグリップ力GPyが、第1のグリップ力GPy1よりも小さい第2のグリップ力GPy2である場合のタイヤの縦方向のグリップ力の上限値GPx2よりも小さくなる。なお、タイヤの横方向のグリップ力GPyが「0(零)」と等しい場合の縦方向のグリップ力の上限値GPx3が、最大値となる。
タイヤの横方向のグリップ力GPyが車両の横方向加速度の絶対値|Gy|に応じた値であるのに対し、タイヤの縦方向のグリップ力GPxは、車両の前後方向減速度Gxに応じた値となる。つまり、タイヤの縦方向のグリップ力の上限値が、車両の前後方向減速度の上限値GxLに応じた値となる。したがって、車両の前後方向減速度の上限値GxLは、車両の横方向加速度の絶対値|Gy|が小さく、タイヤの横方向のグリップ力GPyが小さいほど大きくなる。
そして、車両の実際の前後方向減速度Gxが車両の前後方向減速度の上限値GxL以下であるときには、タイヤが横滑りしにくいため、運転者によるステアリング16の操作によって車両の進行方向を適切に変更することができる。すなわち、左前輪FL及び右前輪FRのうち、一方の前輪に対してのみABS制御が実施されている状況下においては、車両の実際の前後方向減速度Gxが車両の前後方向減速度の上限値GxLと等しくなるまで他方の前輪に付与するブレーキ力を増大させても、車両挙動の安定性を保持することができる。
ちなみに、左前輪FL及び右前輪FRのうち、一方の前輪に対してのみABS制御が実施されている状況下で他方の前輪に付与するブレーキ力を増大させる場合、一方の前輪のホイールシリンダ内のWC圧と他方の前輪のホイールシリンダ内のWC圧との差である液圧差が大きくなる。そして、本実施形態の車両のブレーキ制御装置の制御装置40にあっては、当該液圧差が、車両の前後方向減速度の上限値GxLに応じた上限液圧差ΔPwcLに達するまで、他方の前輪のホイールシリンダ内のWC圧の増大を許容するようにしている。すなわち、他方の前輪に付与するブレーキ力の上限が、同他方の車輪のスリップ状態ではなく、車両の横方向加速度Gyに応じて決定されている。なお、以降の記載においては、「車輪のホイールシリンダ内のWC圧」のことを、単に「車輪のWC圧」というものとする。
図3には、車両の前後方向減速度の上限値GxLに応じて上限液圧差ΔPwcLを設定するためのマップの一例について説明する。すなわち、図3に示すように、上限液圧差ΔPwcLは、車両の前後方向減速度の上限値GxLが大きいほど大きくされる。
次に、図4に示すフローチャートを参照し、運転者によってブレーキ操作が行われているときに制御装置40が実行する処理ルーチンについて説明する。なお、この処理ルーチンは、予め設定された制御サイクル毎に実行される。
図4に示すように、本処理ルーチンにおいて、制御装置40は、左右の前輪FR,FLのうち一方の前輪に対してのみABS制御を実施している最中であるか否かを判定する(ステップS11)。左右の両前輪FR,FLに対してABS制御をそれぞれ実施している場合、又は、左右の両前輪FR,FLの何れにもABS制御を実施していない場合、一方の前輪に対してのみABS制御が実施されている最中ではないと判定することができる。そして、一方の前輪に対してのみABS制御を実施している最中ではない場合(ステップS11:NO)、制御装置40は、本処理ルーチンを一旦終了する。
一方、一方の前輪に対してのみABS制御を実施している最中である場合(ステップS11:YES)、制御装置40は、ABS制御の実施対象ではない他方の前輪に対してヨーコントロール処理を実施している最中であるか否かを判定する(ステップS12)。ヨーコントロール処理については後述する。そして、他方の前輪に対してヨーコントロール処理を実施している最中である場合(ステップS12:YES)、制御装置40は、本処理ルーチンを一旦終了する。一方、他方の前輪に対してヨーコントロール処理を実施していない場合(ステップS12:NO)、制御装置40は、その処理を次のステップS13に移行する。
ステップS13において、制御装置40は、センサによって検出されている最新の情報を取得する。すなわち、制御装置40は、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VW、車両の前後方向減速度Gx、車両の横方向加速度Gy、車両のヨーレートYr及びマスタシリンダ22内のMC圧Pmcを取得する。続いて、制御装置40は、取得した各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWのうち少なくとも1つの車輪速度VWに基づいて車両の車体速度VSを演算する(ステップS14)。
そして、制御装置40は、演算した車体速度VSに基づき、許容ブレーキ力差に相当する許容液圧差ΔPwcPを設定する(ステップS15)。具体的には、制御装置40は、車体速度VSが大きいほど、左前輪FLと右前輪FRとのブレーキ力差によって車両のヨーレートの絶対値|Yr|が大きくなりやすいため、許容液圧差ΔPwcPを小さくする。このとき、制御装置40は、上限液圧差ΔPwcLよりも小さい範囲内で、許容液圧差ΔPwcPを設定する。したがって、本明細書では、許容ブレーキ力差に相当する許容液圧差ΔPwcPを設定する制御装置40により、「許容ブレーキ力差設定部」の一例が構成される。
ここで、左前輪FL及び右前輪FRのうち一方の前輪に対してのみABS制御を実施している状況下であっても、一方の前輪と他方の前輪とのブレーキ力差、すなわち一方の前輪と他方の前輪との液圧差がそれほど大きくないときには、車両の走行するレーン(車線)をキープできないような大きなヨーレートYrが車両に発生することはない。そのため、上記のブレーキ力差、すなわち上記の液圧差がそれほど大きくないときには、他方の前輪のWC圧の増大を制御的に調整しなくてもよい。この場合、他方の前輪のWC圧は、運転者によるブレーキペダル12の操作量の増大に応じた態様、すなわちマスタシリンダ22内のMC圧の増大に応じた態様で増大される。
図4に戻り、許容液圧差ΔPwcPを設定した制御装置40は、取得した前後方向減速度Gxと横方向加速度Gyとの比率、すなわち図2を用いて説明した摩擦円理論に基づき、前後方向減速度の上限値GxLを演算する(ステップS16)。具体的には、制御装置40は、横方向加速度の絶対値|Gy|が小さいほど前後方向減速度の上限値GxLを大きくする。この点で、本明細書では、制御装置40により、「上限値演算部」の一例が構成される。
続いて、制御装置40は、図3に示すマップを参照し、上限液圧差ΔPwcLを、前後方向減速度の上限値GxLに応じた値とする(ステップS17)。この点で、本明細書では、上限ブレーキ力差に相当する上限液圧差ΔPwcLを演算する制御装置40により、「上限ブレーキ力差演算部」の一例が構成される。
そして、制御装置40は、運転者によってカウンタ操作が行われているか否かを判定する(ステップS18)。「カウンタ操作」とは、左前輪FLと右前輪FRとのブレーキ力差に起因して車両に生じるヨーレートを打ち消すようなステアリング16の操作のことである。制御装置40は、カウンタ操作が行われていると判定していない場合(ステップS18:NO)、その処理を後述するステップS19に移行する。一方、制御装置40は、カウンタ操作が行われていると判定した場合(ステップS18:YES)、その処理を後述するステップS21に移行する。
ここで、カウンタ操作が行われているか否かの判定方法の一例について説明する。すなわち、左前輪FLと右前輪FRとのうち一方の前輪に対してのみABS制御が実施されている場合、他方の前輪に付与するブレーキ力が一方の前輪に付与するブレーキ力よりも大きくなる。このとき、一方の前輪が左前輪FLであり、他方の前輪が右前輪FRであるとすると、左前輪FLと右前輪FRとのブレーキ力差に基づいて右旋回させるようなヨーレートが車両に発生する。こうした状況下であっても、ヨーレートセンサSE7によって検出されるヨーレートYrが、ほぼ「0(零)」であったり、車両の左旋回を示すような値であったりした場合、制御装置40は、運転者がカウンタ操作を行っていると判定することができる。
また、左前輪FLと右前輪FRとのブレーキ力差に基づいて右旋回させるようなヨーレートが車両に発生すると予測されている状況下で、車両を左旋回させるようなステアリング16の操作を運転者が行っていることを検出したときに、制御装置40は、運転者がカウンタ操作を行っていると判定するようにしてもよい。
図4に戻り、ステップS19において、制御装置40は、規定速度SPwcに予め設定されている基準規定速度SPwcBを代入する。この規定速度SPwcは、後述する増大制限処理の実施中における他方の前輪のWC圧の増大速度である。続いて、制御装置40は、ステップS17で演算した上限液圧差ΔPwcLを減少補正する(ステップS20)。カウンタ操作を運転者が行っていない場合、左前輪FLと右前輪FRとのブレーキ力差に相当する液圧差が大きくなるほど、車両挙動の安定性の更なる低下が予測される。そのため、カウンタ操作を運転者が行っていないときには、車両挙動の安定性を確保するために上限液圧差ΔPwcLを減少補正することで、上記の液圧差があまり大きくならないようにしている。その後、制御装置40は、その処理を後述するステップS23に移行する。
ステップS21において、制御装置40は、取得したヨーレートの絶対値|Yr|が予め設定されている判定ヨーレートYrTH以下であるか否かを判定する。ヨーレートの絶対値|Yr|が大きいときには車両挙動の安定性が低下していると判断することができる。そのため、車両挙動の安定性が低下しているか否かの判定を、ヨーレートYrによって行うために判定ヨーレートYrTHが設定されている。そして、ヨーレートの絶対値|Yr|が判定ヨーレートYrTHよりも大きい場合(ステップS21:NO)、制御装置40は、その処理を前述したステップS19に移行する。
一方、ヨーレートの絶対値|Yr|が判定ヨーレートYrTH以下である場合(ステップS21:YES)、制御装置40は、規定速度SPwcを増大補正する(ステップS22)。すなわち、カウンタ操作を運転者が行っており、車両のヨーレートの絶対値|Yr|が小さいときには、車両挙動の安定性が確保されていると判断することができる。そのため、こうした場合、規定速度SPwcが基準規定速度SPwcBよりも大きくされる。例えば、制御装置40は、基準規定速度SPwcBに所定のオフセット値を加算することで、規定速度SPwcの増大補正を行う。この点で、本明細書では、制御装置40により、車両のヨーレートの絶対値|Yr|が小さいときにはヨーレートの絶対値|Yr|が大きいときよりも、規定速度SPwcを大きくする「速度設定部」の一例が構成される。これにより、後述する増大制限処理の実施中における他方の前輪のWC圧の増大速度、すなわち他方の前輪に付与するブレーキ力の増大速度が大きくなるため、車両の前後方向減速度Gxを早期に大きくすることができる。その後、制御装置40は、その処理を次のステップS23に移行する。
ステップS23において、制御装置40は、ABS制御の実施対象である一方の前輪のWC圧に基づいた基準液圧PwcBを取得するとともに、ABS制御の実施対象ではない他方の前輪のWC圧Pwcを取得する。そして、制御装置40は、当該WC圧Pwcから基準液圧PwcBを減じ、その差(=Pwc−PwcB)を液圧差ΔPwcとする。基準液圧PwcBは、ABS制御の最初の減少モードが終了した時点での一方の前輪に付与するブレーキ力である基準ブレーキ力に応じた液圧である。すなわち、減少モードでのWC圧の減少量、すなわちブレーキ力の減少量は予め設定されている。そのため、制御装置40は、ABS制御が開始された時点のマスタシリンダ22内のMC圧Pmcから上記のWC圧の減少量を減じた差を基準液圧PwcBとすることができる。
また、他方の前輪に対して増大制限処理を未だ実施していない場合、制御装置40は、現時点のマスタシリンダ22内のMC圧Pmcを他方の前輪のWC圧Pwcと見なすことができる。一方、他方の前輪に対して増大制限処理を実施している場合、制御装置40は、増大制限処理の開始時点のMC圧Pmcと、増大制限処理の開始時点からの他方の前輪のWC圧の増大量との和を他方の前輪のWC圧Pwcとする。増大制限処理の開始時点からの他方の前輪のWC圧の増大量は、設定している規定速度SPwcと、増大制限処理の実施時間とに基づいて推定演算することができる。さらに、他方の前輪に対してヨーコントロール処理を実施している場合、制御装置40は、増大制限処理の実施の終了時点の他方の前輪のWC圧を、現時点の他方の前輪のWC圧Pwcとする。
そして、制御装置40は、演算した液圧差ΔPwcが上記の許容液圧差ΔPwcP未満であるか否かを判定する(ステップS24)。液圧差ΔPwcが許容液圧差ΔPwcP未満である場合(ステップS24:YES)、制御装置40は、増大制限処理及びヨーコントロール処理を実施することなく、本処理ルーチンを一旦終了する。一方、液圧差ΔPwcが許容液圧差ΔPwcP以上である場合(ステップS24:NO)、制御装置40は、演算した液圧差ΔPwcが上記の上限液圧差ΔPwcL以下であるか否かを判定する(ステップS25)。液圧差ΔPwcが上限液圧差ΔPwcL以下である場合(ステップS25:YES)、制御装置40は、ABS制御の実施対象ではない他方の前輪のWC圧Pwc、すなわち他方の前輪に付与するブレーキ力を、設定した規定速度SPwcで増大させる増大制限処理を実施する(ステップS26)。具体的には、制御装置40は、他方の前輪用の増圧弁に入力する信号のデューティ比を、規定速度SPwcに応じた速度で大きくする。これにより、増大制限処理の対象車輪のWC圧Pwcの増大速度を、規定速度SPwcとほぼ等しくすることができる。この点で、本明細書では、制御装置40により、「制限制御部」の一例が構成される。その後、制御装置40は、本処理ルーチンを一旦終了する。
一方、ステップS25において、液圧差ΔPwcが上限液圧差ΔPwcLよりも大きい場合(NO)、制御装置40は、液圧差ΔPwcの更なる増大を規制するヨーコントロール処理を実施する(ステップS27)。具体的には、制御装置40は、ヨーコントロール処理では、ABS制御の実施対象ではない他方の前輪のWC圧Pwc、すなわち他方の前輪に付与するブレーキ力を保持するために、他方の前輪用の増圧弁を閉じ状態で保持させる。その後、制御装置40は、本処理ルーチンを一旦終了する。
次に、図5及び図6に示すタイミングチャートを参照し、左前輪FL及び右前輪FRのうち左前輪FLに対してのみABS制御が実施される場合の作用を効果と合わせて説明する。
図5には、左右異μ路を比較的低速で車両が走行しているときに運転者によってブレーキ操作が行われた場合が図示されている。図5に示すように、ブレーキ操作が開始されると、マスタシリンダ22内のMC圧Pmcの増大に合わせ、各ホイールシリンダ15a〜15d内のWC圧もまた増大される。これにより、各車輪FR,FL,RR,RLに付与するブレーキ力が増大される。すると、左前輪FLの接地する路面のμ値が右前輪FRの接地する路面のμ値よりも低いため、右前輪FRのスリップ量はあまり大きくならないものの、左前輪FLのスリップ量が大きくなる。なお、車輪のスリップ量は、車両の車体速度VSから当該車輪の車輪速度VWを減じた差である。
そして、第1のタイミングt11で左前輪FLに対するABS制御の開始条件が成立し、左前輪FL及び右前輪FRのうち左前輪FLに対してのみABS制御が開始される(ステップS11:YES)。この第1のタイミングt11からは、ABS制御の最初の減少モードが開始される。この減少モードは、第1のタイミングt11からの左前輪FLのWC圧PwcFLの減少量が予め設定された量に達する第2のタイミングt12で終了される。そして、第2のタイミングt12以降では、左前輪FLのWC圧PwcFLの増減が調整される。
また、左前輪FLに対するABS制御が開始される第1のタイミングt11では、同ABS制御の最初の減少モードが終了する第2のタイミングt12での左前輪FLのWC圧PwcFLである基準液圧PwcBを予測することができる。そのため、第1のタイミングt11以降では、右前輪FRのWC圧PwcFRから基準液圧PwcBを減じた差である液圧差ΔPwcの演算が可能となる。そして、液圧差ΔPwcが許容液圧差ΔPwcP未満である状況下では(ステップS24:YES)、右前輪FRに対して増大制限処理が実施されず、右前輪FRのWC圧PwcFRは、MC圧Pmcの増大に合わせて増大される。すなわち、右前輪FRのWC圧PwcFRはMC圧Pmcとほぼ等しい。このように右前輪FRに対する増大制限処理の実施の開始を遅延させることにより、右前輪FRのWC圧PwcFRが早期に増大され、右前輪FRに付与するブレーキ力が早期に増大される。その結果、車両全体に付与するブレーキ力が早期に増大されることとなり、車両の前後方向減速度Gxを早期に増大させることができる。
図5に示す例では、車両の車体速度VSが比較的小さいことから、許容液圧差ΔPwcPは比較的大きい値に設定される(ステップS15)。これは、車両の車体速度VSが小さい状況下では左前輪FLと右前輪FRとのブレーキ力差が発生しても、当該ブレーキ力差に起因して車両に発生するヨーレートはあまり大きくならず、車両挙動の安定性が低下しにくいためである。すなわち、左前輪FLと右前輪FRとの間にブレーキ力差が発生しても車両挙動の安定性が低下しにくいときには、右前輪FRのWC圧PwcFRの増大速度をMC圧Pmcの増大速度とほぼ等しくする期間を長くできる分、車両の前後方向減速度Gxの早期の増大に貢献することができる。
なお、本実施形態の車両のブレーキ制御装置にあっては、図4に示す処理ルーチンが所定の制御サイクル毎に繰り返し実行されている。そのため、許容液圧差ΔPwcPは、第1のタイミングt11以降でも随時更新される(ステップS15)。ただし、図5に示す例では、説明理解の便宜上、許容液圧差ΔPwcPは第1のタイミングt11以降で変更されていないものとする。
そして、運転者によるブレーキ操作量の増大に基づいてMC圧Pmcが増大している最中の第3のタイミングt13で上記の液圧差ΔPwcが許容液圧差ΔPwcPに達する(ステップS24:NO)。そのため、第3のタイミングt13からは、右前輪FRに対する増大制限処理が開始される(ステップS26)。すなわち、第3のタイミングt13以降では、右前輪FRのWC圧PwcFRの増大速度が制御されることとなる。
増大制限処理の実施中にあっては、右前輪FRのWC圧PwcFRが規定速度SPwcで増大されることとなる。規定速度SPwcは、運転者がカウンタ操作を行っている場合とカウンタ操作を行っていない場合とで可変される。すなわち、運転者がカウンタ操作を行っている場合(ステップS18:YES)、左前輪FLと右前輪FRとの間のブレーキ力差に起因するヨーレートが、運転者によるステアリング16の操作による前輪FR,FLの転舵によって打ち消されており、運転者によって車両挙動の安定性が確保されている。そのため、運転者がカウンタ操作を行っている場合(ステップS18:YES)、カウンタ操作が行われていない場合(ステップS18:NO)よりも規定速度SPwcが大きくされる(ステップS22)。したがって、左前輪FLと右前輪FRとの間にブレーキ力差が発生しても運転者によるステアリング16の操作によって車両挙動の安定性が確保されているときには、増大制限処理が実施されている状況下であっても右前輪FRに付与するブレーキ力を早期に増大させることができる。その結果、増大制限処理の実施中であっても、車両全体に付与するブレーキ力を早期に増大させることができ、ひいては車両の前後方向減速度Gxを大きくすることができる。
また、増大制限処理は、液圧差ΔPwcが上限液圧差ΔPwcLに達するまで実施される。この上限液圧差ΔPwcLは、車両の横方向加速度の絶対値|Gy|が小さいほど大きい値に設定される(ステップS17)。そのため、車両の横方向加速度の絶対値|Gy|が小さく、車両挙動の安定性が低下しにくい状況下にあっては、右前輪FRに付与するブレーキ力を大きくすることができる。したがって、車両挙動の安定性の低下を抑制しつつも車両の前後方向減速度Gxを増大させることができる。その反対に、車両の横方向加速度の絶対値|Gy|が大きく、車両挙動の安定性が低下しやすい状況下にあっては、右前輪FRに付与するブレーキ力がそれほど大きくされない。すなわち、車両挙動の安定性の低下量を許容範囲内に抑えた形で、車両を減速させることができる。
なお、運転者がカウンタ操作を行っていないときには(ステップS18:NO)、左前輪FLと右前輪FRとのブレーキ力差が大きくなると、車両挙動の安定性が低下しやすいため、上限液圧差ΔPwcLが小さくされる(ステップS20)。そのため、運転者がカウンタ操作を行っていないときには、右前輪FRに対する制御の増大制限処理からヨーコントロール処理への移行を早めることができる。これにより、車両挙動の安定性を大きく低下させるようなブレーキ力差が左前輪FLと右前輪FRとの間に発生することを抑制することができる。
また、本実施形態の車両のブレーキ制御装置にあっては、図4に示す処理ルーチンが所定の制御サイクル毎に繰り返し実行されている。そのため、上限液圧差ΔPwcLもまた、許容液圧差ΔPwcPと同様に、第1のタイミングt11以降でも随時更新される(ステップS17)。すなわち、上限液圧差ΔPwcLを、車両の最新の走行状態に応じた値にすることができる。したがって、車両挙動の安定性の低下の抑制と、車両の前後方向減速度Gxの増大とを両立させることができる。
ただし、このように右前輪FRに対して増大制限処理を実施している最中で、液圧差ΔPwcが上限液圧差ΔPwcLに達する前の第4のタイミングt14で、右前輪FRのスリップ量が大きくなり、右前輪FRに対するABS制御の開始条件が成立することがある。この場合、増大制限処理の実施が終了され、右前輪FRに対するABS制御が開始される。
次に、図6には、左右異μ路を比較的高速で車両が走行しているときに運転者によってブレーキ操作が行われた場合が図示されている。図6に示すように、ブレーキ操作が開始されると、マスタシリンダ22内のMC圧Pmcの増大に合わせ、各ホイールシリンダ15a〜15d内のWC圧もまた増大される。これにより、各車輪FR,FL,RR,RLに付与するブレーキ力が増大される。すると、左前輪FLの接地する路面のμ値が右前輪FRの接地する路面のμ値よりも低いため、第1のタイミングt21で左前輪FLに対するABS制御の開始条件が成立し、左前輪FL及び右前輪FRのうち左前輪FLに対してのみABS制御が開始される(ステップS11:YES)。
図6に示す例では、車両の車体速度VSが大きいため、許容液圧差ΔPwcPが比較的小さい値に設定される(ステップS15)。そのため、比較的早期に液圧差ΔPwcが許容液圧差ΔPwcPに達する。図6に示す例では、左前輪FLに対するABS制御の最初の減少モードが終了する第2のタイミングt22で、液圧差ΔPwcが許容液圧差ΔPwcPに達する(ステップS24:NO)。なお、許容液圧差ΔPwcPの大きさによっては、第2のタイミングt22以前に、液圧差ΔPwcが許容液圧差ΔPwcPに達することもある。
このように液圧差ΔPwcが許容液圧差ΔPwcPに達すると、右前輪FRに対する増大制限処理が開始される(ステップS26)。増大制限処理の実施中にあっては、右前輪FRのWC圧PwcFRは規定速度SPwcで増大される。このようにWC圧PwcFRが規定速度SPwcで増大されている最中の第3のタイミングt23で、液圧差ΔPwcが上限液圧差ΔPwcLを超えると(ステップS25:NO)、増大制限処理が終了され、ヨーコントロール処理が開始される(ステップS27)。すると、WC圧PwcFRが保持されるようになり、左前輪FLと右前輪FRとのブレーキ力差の増大が規制される。
なお、上記実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・実施形態では、左前輪FL及び右前輪FRのうち一方の前輪に対してのみABS制御が実施されている最中では、許容ブレーキ力に相当する許容液圧差ΔPwcPを随時更新するようにしている。しかし、これに限らず、一方の前輪に対するABS制御の開始時点の車両の車体速度VSに応じて許容液圧差ΔPwcPを設定し、この許容液圧差ΔPwcPを保持するようにしてもよい。
・許容液圧差ΔPwcPを、運転者によってカウンタ操作が行われていると判定したときには、カウンタ操作が行われていると判定していないときよりも大きい値にしてもよい。この場合、運転者がカウンタ操作を行っており、車両挙動の安定性が確保されているときには、ABS制御の実施対象ではない前輪に付与するブレーキ力を早期に増大させることができる。
・許容液圧差ΔPwcPを、車両の車体速度VSなどの走行状態によらず固定値としてもよい。
・運転者がカウンタ操作を行っているか否かによって上限液圧差ΔPwcLを設定しないようにしてもよい。
・運転者がカウンタ操作を行っているか否かによって規定速度SPwcを設定しないようにしてもよい。
・図4に示す処理ルーチンにおいて、ステップS18の判定処理を省略してもよい。
・図4に示す処理ルーチンにおいて、ステップS21の判定処理を省略してもよい。この場合、規定速度SPwcを、車両のヨーレートの絶対値|Yr|に応じて設定することはできないものの、規定速度SPwcを、カウンタ操作が行われているか否かによって設定することができる。
・実施形態では、左前輪FL及び右前輪FRのうち一方の前輪に対してのみABS制御が実施されている最中では、規定速度SPwcを随時更新するようにしている。しかし、これに限らず、一方の前輪に対するABS制御の開始時点で規定速度SPwcを設定し、この規定速度SPwcを保持するようにしてもよい。また、増大制限処理の開始時点で規定速度SPwcを設定し、この規定速度SPwcを保持するようにしてもよい。
・実施形態では、左前輪FL及び右前輪FRのうち一方の前輪に対してのみABS制御が実施されている最中では、上限液圧差ΔPwcLを随時更新するようにしている。しかし、これに限らず、一方の前輪に対するABS制御の開始時点で上限液圧差ΔPwcLを設定し、この上限液圧差ΔPwcLを保持するようにしてもよい。また、増大制限処理の開始時点で上限液圧差ΔPwcLを設定し、この上限液圧差ΔPwcLを保持するようにしてもよい。
・前後方向減速度の上限値GxLの設定時に用いる車両の横方向加速度は、横方向加速度センサSE6によって検出された値ではなく、ヨーレートセンサSE7によって検出されたヨーレートYrや操舵角センサSE9によって検出されたステアリング16の操舵角θを用いた演算した値であってもよい。
・前後方向減速度Gxは、車両の前後方向加速度センサSE5によって検出された値ではなく、例えば車体速度VSを時間微分した値であってもよい。
・ブレーキアクチュエータとしては、各ホイールシリンダ15a〜15d内のWC圧を自動的に増大させることのできるものも知られている。そのため、ブレーキ装置11がこうしたブレーキアクチュエータを採用している場合、左前輪FL及び右前輪FRのうち、一方の前輪に対してはABS制御を実施し、他方の前輪に対しては増大制限処理を実施している状況下では、各後輪RR,RLのWC圧を、マスタシリンダ22内のMC圧Pmcよりも高くするようにしてもよい。この場合、左後輪RLと右後輪RRとの間に液圧差が発生しないようにすることで、車両挙動の安定性の低下を抑制しつつも、車両の前後方向減速度Gxを大きくすることができる。
また、こうしたブレーキアクチュエータを備えたブレーキ装置では、運転者によるブレーキ操作とは関係なく車両にブレーキを付与する自動ブレーキが実施されることがある。そして、こうした自動ブレーキの実施時でも、左前輪FLと右前輪FRとのうち一方の前輪に対してのみABS制御を実施することがある。こうした場合であっても、ABS制御の実施対象ではない他方の前輪に対して、上記増大制限処理を適宜実施するようにしてもよい。
・左後輪RLと右後輪RRとに対して独立してABS制御を実施するブレーキ制御装置もある。こうしたブレーキ制御装置であっても、左後輪RLと右後輪RRとのうち、一方の後輪に対してのみABS制御を実施しているときに、他方の後輪に対して増大制限処理を実施するようにしてもよい。
・ブレーキ装置11は、右輪と左輪とに対して個別にABS制御を実施することができる構成の装置であれば、他の任意の装置であってもよい。例えば、ブレーキ装置は、ブレーキバイワイヤ方式の装置であってもよい。また、ブレーキ装置としては、ブレーキ液を用いず、モータからの動力で各車輪に対するブレーキ力を調整する電動ブレーキ装置であってもよい。
次に、上記実施形態及び別の実施形態から把握できる技術的思想を以下に追記する。
(イ)右輪と左輪とのブレーキ力差に起因して車両に生じるヨーレートを打ち消すようなステアリングの操作をカウンタ操作とした場合、
カウンタ操作が行われているときにはカウンタ操作が行われていないときよりも、前記規定速度を大きくする速度設定部を備えることが好ましい。
上記構成によれば、右輪及び左輪のうち、一方の車輪に対してはABS制御が実施されている一方、他方の車輪に対してはABS制御が実施されてない状況下でも、車両の運転者がカウンタ操作を行っているときには車両挙動の安定性が確保されていると判断できるため、他方の車輪に付与するブレーキ力が早期に増大される。したがって、運転者によるステアリングの操作によって車両挙動が安定していると判断できるときには、車両の前後方向減速度を早期に増大させることができるようになる。
(ロ)前記上限ブレーキ力差演算部は、前記上限値演算部によって演算された車両の前後方向減速度の上限値に応じて演算した上限ブレーキ力差を、カウンタ操作が行われていないときには減少補正することが好ましい。
上記構成によれば、カウンタ操作が行われていないときには、車両挙動の安定性が低下しやすいと判断できるため、上限ブレーキ力差が減少補正される。そのため、右輪と左輪とのブレーキ力差が大きくなりにくくなり、車両挙動の安定性の低下を抑制することができるようになる。
(ハ)前記制限制御部は、
右輪及び左輪のうち、一方の車輪に対してはABS制御が実施されている一方で、他方の車輪に対してはABS制御が実施されてない状況下で、前記基準ブレーキ力と前記他方の車輪に付与するブレーキ力との差が、前記上限ブレーキ力差演算部によって演算された上限ブレーキ力差以下である場合、
前記基準ブレーキ力と前記他方の車輪に付与するブレーキ力との差が許容ブレーキ力差未満であるときには、前記増大制限処理を実施しない一方、
前記基準ブレーキ力と前記他方の車輪に付与するブレーキ力との差が前記許容ブレーキ力差以上であるときには、前記増大制限処理を実施することが好ましい。
一方の車輪と他方の車輪とのブレーキ力差がそれほど大きくないときには、車両の走行するレーンをキープできないような大きなヨーレートが車両に発生しにくい。そこで、上記構成では、右輪及び左輪のうち、一方の車輪に対してはABS制御が実施されている一方で、他方の車輪に対してはABS制御が実施されてない状況下であっても、上記の基準ブレーキ力と他方の車輪に付与するブレーキ力との差が許容ブレーキ力差未満であるときには、増大制限処理が実施されないため、運転者によるブレーキ操作量の増大に応じた態様で他方の車輪に付与するブレーキ力が増大される。一方、当該差が許容ブレーキ力差以上になったときには、増大制限処理の実施により、他方の車輪に付与するブレーキ力が規定速度で増大されるようになる。このように増大制限処理の実施を遅延させることにより、車両の前後方向減速度を早期に増大させることが可能となる。
(ニ)前記許容ブレーキ力差を、車両の車体速度が大きいほど小さくする許容ブレーキ力差設定部を備えることが好ましい。
上記構成によれば、車両の車体速度が大きいときほど、一方の車輪と他方の車輪とのブレーキ力差が小さい段階から車両挙動の安定性が低下しやすいため、許容ブレーキ力差が小さくされる。その結果、車両の車体速度が大きいほど、増大制限処理を早期に開始させることができる。