(第1の実施形態)
以下、車両の制動制御装置を具体化した第1の実施形態を図1〜図9に従って説明する。
図1には、本実施形態の車両の制動制御装置である制御装置100を備える制動装置10の一例が図示されている。図1に示すように、制動装置10を備える車両には、複数の車輪FL,FR,RL,RRと、車輪FL,FR,RL,RRに個別対応する複数のホイールシリンダ11a,11b,11c,11dとが設けられている。そして、ホイールシリンダ11a〜11dに制動装置10からブレーキ液が供給されることにより、ホイールシリンダ11a〜11d内の液圧が増大される。その結果、車輪FL,FR,RL,RRには、ホイールシリンダ11a〜11d内の液圧に応じた制動力が付与される。なお、ホイールシリンダ11a〜11d内の液圧のことを、「WC圧」ともいう。
制動装置10は、運転者によるブレーキペダル21の操作力に応じた液圧を発生する液圧発生装置20と、各ホイールシリンダ11a〜11d内のWC圧を個別に調整することのできるブレーキアクチュエータ30とを有している。なお、本明細書では、運転者がブレーキペダル21を操作することを「制動操作」といい、ブレーキペダル21の操作力を「制動操作力」ということもある。
液圧発生装置20は、マスタシリンダ22と、ブレーキペダル21に入力された制動操作力を助勢するバキュームブースタ23と、ブレーキ液が貯留される大気圧リザーバ24とを備えている。マスタシリンダ22には、制動操作力がバキュームブースタ23を通じて入力される。すると、マスタシリンダ22内では、入力された制動操作力に応じた液圧が発生する。なお、こうしたマスタシリンダ22内の液圧のことを「MC圧」ともいう。
ブレーキアクチュエータ30には、2系統の液圧回路311,312が設けられている。第1の液圧回路311には左前輪用のホイールシリンダ11aと右後輪用のホイールシリンダ11dとが接続されるとともに、第2の液圧回路312には右前輪用のホイールシリンダ11bと左後輪用のホイールシリンダ11cとが接続されている。そして、液圧発生装置20から第1及び第2の液圧回路311,312にブレーキ液が流入されると、ホイールシリンダ11a〜11dにブレーキ液が供給される。
マスタシリンダ22とホイールシリンダ11a〜11dとを接続する液路には、リニア電磁弁である差圧調整弁321,322が設けられている。また、第1の液圧回路311において差圧調整弁321よりもホイールシリンダ11a,11d側には、左前輪用の経路33a及び右後輪用の経路33dが設けられている。同様に、第2の液圧回路312において差圧調整弁322よりもホイールシリンダ11b,11c側には、右前輪用の経路33b及び左後輪用の経路33cが設けられている。そして、こうした経路33a〜33dには、ホイールシリンダ11a〜11d内のWC圧の増大を規制する際に動作する常開型の電磁弁である保持弁34a,34b,34c,34dと、WC圧を減少させる際に動作する常閉型の電磁弁である減圧弁35a,35b,35c,35dとが設けられている。すなわち、前輪用の保持弁34a,34bにより、前輪用のホイールシリンダ11a,11bへのブレーキ液の流入を、開き状態であるときには許容し、閉じ状態であるときには禁止する「前輪用保持弁」の一例が構成される。また、後輪用の保持弁34c,34dにより、後輪用のホイールシリンダ11c,11dへのブレーキ液の流入を、開き状態であるときには許容し、閉じ状態であるときには禁止する「後輪用保持弁」の一例が構成される。
また、第1及び第2の液圧回路311,312には、ホイールシリンダ11a〜11dから減圧弁35a〜35dを通じて流出したブレーキ液を一時的に貯留するリザーバ361,362と、モータ37の回転に基づき動作する供給ポンプ381,382とが接続されている。リザーバ361,362は、吸入用流路391,392を通じて供給ポンプ381,382に接続されるとともに、マスタ側流路401,402を通じて差圧調整弁321,322よりもマスタシリンダ22側の通路に接続されている。また、供給ポンプ381,382は、供給用流路411,412を通じて差圧調整弁321,322と保持弁34a〜34dの間の接続部位421,422に接続されている。
そして、供給ポンプ381,382は、モータ37が駆動する場合に、リザーバ361,362及びマスタシリンダ22内から吸入用流路391,392及びマスタ側流路401,402を通じてブレーキ液を汲み取り、該ブレーキ液を供給用流路411,412内に吐出する。すなわち、差圧調整弁321,322と供給ポンプ381,382とが動作することによって、マスタシリンダ22とホイールシリンダ11a〜11dとの間に差圧が発生し、同差圧に応じた制動力が車両に付与される。
また、図1に示すように、本制動装置10を備える車両には、ブレーキスイッチSW1、複数の車輪速度センサSE1,SE2,SE3,SE4、圧力センサSE5、前後方向加速度センサSE6、横方向加速度センサSE7及び操作力センサSE8が設けられている。ブレーキスイッチSW1は、ブレーキペダル21が操作されているか否かを検出する。車輪速度センサSE1〜SE4は、対応する車輪FL,FR,RL,RRの車輪速度VWを検出する。圧力センサSE5は、マスタシリンダ22内のMC圧Pmcを検出する。前後方向加速度センサSE6は車両の前後方向加速度Gxを検出し、横方向加速度センサSE7は車両の横方向加速度Gyを検出する。操作力センサSE8は、運転者によるブレーキペダル21の操作力Fbp(すなわち、踏力)を検出する。そして、これらの検出系によって検出された情報は、制御装置100に入力される。
なお、前後方向加速度センサSE6によって検出される前後方向加速度Gxは、車両が加速しているときには大きくなり、車両が減速しているときには小さくなる。また、前後方向加速度Gxは、車両が登坂路で停止している場合には正の値となり、車両が降坂路で停止している場合には負の値となる。
制御装置100は、マイクロコンピューターと、各種の弁やモータを駆動させるための駆動回路とを備えている。そして、制御装置100は、検出系から入力された情報に基づき、ブレーキアクチュエータ30、すなわちモータ37や各種の弁321,322,34a〜34d,35a〜35dを制御する。
次に、図2を参照し、バキュームブースタ23について説明する。図2には、運転者によって制動操作が行われていないときのバキュームブースタ23の状態が模式的に図示されている。
図2に示すように、バキュームブースタ23は、負圧室51と変圧室52とを備えている。負圧室51には、例えばエンジンの吸気マニホールドが接続されている。そのため、エンジンが運転されているときには、負圧室51内が負圧になっている。なお、ディーゼルエンジンなどのように吸気マニホールド内で負圧が大きくなりにくいエンジンの場合には、真空ポンプが負圧室51に接続されていることがある。
運転者が制動操作を行っていないときには、変圧室52が負圧室51と連通している。そのため、制動操作の行われていない状態が継続されると、変圧室52内の圧力が負圧室51内の圧力とほぼ等しくなる。すなわち、変圧室52内が負圧になる。そして、運転者によって制動操作が行われると、変圧室52と負圧室51との連通が遮断され、変圧室52が外部と連通し、変圧室52には外部から大気が流入する。すると、変圧室52内の圧力が大気圧に近づくため、変圧室52と負圧室51との差圧が大きくなる。これにより、バキュームブースタ23によって、運転者によってブレーキペダル21に入力された制動操作力が助勢される。そして、このように助勢された制動操作力がマスタシリンダ22に入力され、この入力された制動操作力に応じたMC圧が、マスタシリンダ22内で発生される。
なお、変圧室52と負圧室51との差圧は、変圧室52内の圧力が大気圧と等しくなったところで最大となる。そして、このように差圧が最大となると、バキュームブースタ23による助勢力もまた最大となり、助勢力はこれ以上大きくならない。
その後に制動操作が終了されると、変圧室52が負圧室51と再び連通される。その結果、負圧室51内には変圧室52から空気が流入され、負圧室51内の圧力が大きくなる、すなわち負圧室51内の負圧が小さくなる。しかし、エンジンが運転されているときには、エンジンの運転によって負圧室51内の空気が吸気マニホールドに排出されるため、負圧室51内の負圧が大きくされる。
一方、エンジンの運転が停止されているときに運転者による制動操作が終了された場合、負圧室51内の負圧が小さいままとなる。また、特にスロットルバルブが吸気通路に設けられておらず、大きな負圧を発生させにくいディーゼルエンジンなどでは、制動操作の開始と制動操作の終了とが通常の制動操作時よりも短期間で繰り返されると、エンジン運転中であっても負圧室51内の負圧が大きくなりにくい。そして、このように負圧室51内の負圧が小さい状態で制動操作が開始された場合、負圧室51と変圧室52との差圧(すなわち、差圧の最大値)がそれほど大きくならないため、ブレーキペダル21に入力された制動操作力が、バキュームブースタ23によって助勢されにくい。すなわち、バキュームブースタ23による助勢力が大きくなりにくい。特に、負圧室51内の圧力が大気圧とほぼ等しいときには、負圧室51と変圧室52との差圧がほぼ「0(零)」となるため、バキュームブースタ23は制動操作力を助勢できなくなる。
また、制動操作時にあっては、変圧室52には外部から大気が流入するため、基本的には、変圧室52内の圧力は大きくなる。しかし、急激な制動操作を運転者が行った場合、すなわちバキュームブースタ23に入力される制動操作力の増大速度が非常に大きい場合、変圧室52への大気の流入が追いつかず、変圧室52内の圧力は、大気圧と等しくなる前に小さくなることがある。このように変圧室52内の圧力が小さくなっているときには、負圧室51と変圧室52との差圧が一時的に低下傾向を示すため、バキュームブースタ23が制動操作力を助勢しにくくなる。
そこで、本明細書では、このように制動操作力の増大に対してバキュームブースタ23による助勢力の増大が追従できない状態のことを「助勢限界」というものとする。
そして、本実施形態の制動制御装置である制御装置100は、バキュームブースタ23が助勢限界になっているとき、制動装置10のブレーキアクチュエータ30を作動させることにより、ホイールシリンダ11a〜11d内のWC圧の増大を補助する制動補助処理を実施する。
なお、図3には、バキュームブースタ23が助勢限界に達しても制動補助処理が開始されない場合の一例が図示されており、タイミングt11でバキュームブースタ23が助勢限界に達するものとする。この図3に示すように、運転者による制動操作力が増大されている場合、タイミングt11以前では、運転者が要求する制動力である要求制動力BP_Tと、車両に実際に付与されている制動力である実制動力BP_Rとの差が大きくなりにくい。すなわち、要求されている車両の減速度である要求減速度と、車両の実際の減速度である実減速度との差が大きくなりにくい。
しかし、タイミングt11以降では、ブレーキペダル21に入力されている制動操作力がほとんど助勢されなくなる。そのため、ブレーキペダル21に入力される制動操作力が増大されても、マスタシリンダ22内のMC圧Pmcが増大されにくくなる。その結果、要求制動力BP_Tの増大速度と比較して、実制動力BP_Rの増大速度が小さくなり、実制動力BP_Rと要求制動力BP_Tとの差である制動力差ΔBP、すなわち要求減速度と実減速度との差が徐々に大きくなる。
そこで、バキュームブースタ23が助勢限界に達するタイミングt11で制動補助処理を開始させると、ブレーキアクチュエータ30が作動し始める。このとき、ブレーキアクチュエータ30では、供給ポンプ381,382の作動量を一定とした状態で、差圧調整弁321,322の開度が、制動力差ΔBPに応じた開度に調整される。これにより、各ホイールシリンダ11a〜11d内のWC圧が、要求制動力BP_Tに応じた液圧に近づき、上記の制動力差ΔBPが大きくなることが抑制される。
ところで、供給ポンプ381,382は、制動補助処理の開始条件が成立する前では停止されており、制動補助処理の開始条件が成立すると起動される。そして、供給ポンプ381,382の起動時では、応答遅れなどに起因し、供給ポンプ381,382の定常動作時と比較してブレーキ液の供給量が少ない。そのため、制動補助処理の実施の初期では、上記の制動力差ΔBP、すなわち要求減速度と実減速度との差が小さくなりにくい。
そこで、本制御装置100では、制動補助処理の実施の初期では、後輪RL,RRに付与される制動力を保持した上で、前輪FR,FLに付与される制動力を増大させる起動時モードでブレーキアクチュエータ30を制御するようにした。すなわち、起動時モードでは、前輪用の保持弁34a,34dが開き状態で保持される一方で、後輪用の保持弁34c,34dが閉じ状態で保持されている状態で、供給ポンプ381,382及び差圧調整弁321,322が作動される。これにより、後輪用のホイールシリンダ11c,11d内のWC圧は制動補助処理の開始直前の液圧で保持され、前輪用のホイールシリンダ11a,11b内のWC圧のみが増大されるようになる。その結果、後輪用のホイールシリンダ11c,11d内のWC圧も増大される場合と比較し、前輪用のホイールシリンダ11a,11b内に多くのブレーキ液が供給されるようになり、前輪用のホイールシリンダ11a,11b内のWC圧が早期に増大される。すなわち、前輪FR,FLに付与される制動力が、早期に増大される。
ここで、図9には、前輪FL,FRに設けられるブレーキ機構と、後輪RL,RRに設けられるブレーキ機構との特性の違いを模式的に示すグラフが図示されている。図9に示すように、これらブレーキ機構は、ホイールシリンダ11a〜11d内のWC圧Pwcが高いほど大きな制動力を車輪に付与することができるように構成されている。しかし、ホイールシリンダ11a〜11d内のWC圧Pwcが同等である場合、前輪用のブレーキ機構によって前輪FL,FRに付与される制動力の方が、後輪用のブレーキ機構によって後輪RL,RRに付与される制動力よりも大きくなる。つまり、前輪用のブレーキ機構は、後輪用のブレーキ機構よりも効率的に制動力を上昇させることのできる機構であるということができる。そのため、後輪用のホイールシリンダ11c,11d内のWC圧Pwcよりも前輪用のホイールシリンダ11a,11b内のWC圧Pwcを優先的に増大させることにより、車両に付与させる制動力を効率的に上昇させることが可能となる。
この点、上記の起動時モードでブレーキアクチュエータ30が作動されると、後輪用のホイールシリンダ11c,11d内のWC圧Pwcが保持される。そのため、後輪用のホイールシリンダ11c,11d内のWC圧Pwcも増大させる場合と比較し、前輪用のホイールシリンダ11a,11b内のWC圧Pwcが早期に増大される。この場合、後輪RL,RRに付与される制動力の増大が抑制されるため、前輪FL,FRに付与される制動力が早期に増大されることとなる。その結果、後輪用のホイールシリンダ11c,11d内のWC圧Pwcも増大される場合と比較し、車両に付与される制動力が早期に増大されることとなる。したがって、制動補助処理の実施の初期であっても、車両に付与させる制動力を効率的に増大させることで実減速度が大きくなりやすくなるため、要求減速度と実減速度との差が、より大きくなりにくくなる。
なお、車両制動時にあっては、車両重心が車両進行方向の前側に移動するため、後輪RL,RRの接地荷重が小さくなるとともに、前輪FL,FRの接地荷重が大きくなる。そして、上記の起動時モードでのブレーキアクチュエータ30の作動時にあっては、接地荷重の小さい後輪RL,RRに付与される制動力が増大されにくくなる。したがって、後輪RL,RRがロック傾向を示しにくくなる。
しかし、上記のように後輪RL,RRに付与される制動力の増大を抑制した上で前輪FR,FLに付与される制動力を増大させ続ける場合、前輪FL,FRと後輪RL,RRとの制動力差が大きくなる。すると、後輪RL,RRへの制動力の付与によるアンチリフト効果が、前輪FL,FRに付与される制動力及び後輪RL,RRに付与される制動力の双方が増大される通常の制動時と比較して弱くなるなどし、車両のピッチングレートが大きくなる。そして、車両のピッチングレートが大きくなりすぎると、後輪RL,RRの接地荷重が小さくなりすぎ、車両挙動の安定性が低下するおそれがある。
そこで、本制御装置100では、起動時モードでブレーキアクチュエータ30を制御している状況下で車両のピッチングレートがピッチングレート基準値以上になると、後輪RL,RRに付与される制動力の増大を許容する安定用モードでブレーキアクチュエータ30を制御するようにした。例えば、後輪用の車輪速度センサSE3,SE4によって検出されている後輪RL,RRの車輪速度VWに基づいて車両の車体速度VSを算出し、この車体速度VSを時間微分することで車体速度微分値DVSが求められる。この車体速度微分値DVSから、前後方向加速度センサSE6によって検出されている前後方向加速度Gxを差し引くことにより、ピッチングレートに応じた値であるピッチング傾向値PR(=DVS−Gx)が求められる。そして、このように演算されたピッチング傾向値PRが、上記のピッチングレート基準値に準じたピッチング傾向閾値PRTh以上になったときに、制動補助処理のモードが、起動時モードから安定用モードに移行される。
安定用モードでブレーキアクチュエータ30が制御されるようになると、後輪用の保持弁34c,34dの閉じ状態の保持が解除され、後輪用のホイールシリンダ11c,11d内のWC圧が増大されるようになる。この際、前輪用のホイールシリンダ11a,11bよりも後輪用のホイールシリンダ11c,11dにブレーキ液が優先的に供給されるように、各保持弁34a〜34dが制御される。これにより、後輪RR,RLに付与される制動力が大きくなり、前輪FL,FRと後輪RL,RRとの制動力差が小さくなる。その結果、後輪RL,RRへの制動力の付与によるアンチリフト効果が強くなるなどし、車両のピッチングレートも小さくなり、車両挙動の安定性の低下が抑制される。
なお、上記のピッチング傾向閾値PRThは、例えば、以下に示す条件下での制動操作時における車両のピッチングレートの最大値に準じた値、又は、同値よりも僅かに小さい値とすることができる。
(条件1)車両が水平路を直進走行していること。
(条件2)バキュームブースタ23の負圧室51内の負圧が十分に大きく、ブレーキペダル21に入力された制動操作力を適切に助勢することができること。
(条件3)制動補助処理などの制動制御が実施されていないこと。
ここで、図4には、前輪用のサスペンションの特性、すなわち同サスペンションのストローク量SSと、同サスペンションの反力SFとの関係が図示されている。すなわち、前輪のストローク量SSは、同サスペンションに加わる荷重と同サスペンションの反力SFとが釣り合うような値となっている。そして、車両に制動力が付与され、前輪用のサスペンションに加わる荷重が大きくなると、前輪用のサスペンションからの反力SFが同荷重と釣り合うように、前輪用のサスペンションのストローク量SSが変化する。なお、図4に示すように、前輪用のサスペンションのストローク量SSが大きくなる際におけるサスペンションの反力SFの増大勾配は、ストローク量SSが大きいほど大きくなる。そのため、車両に制動力が付与され、前輪用のサスペンションに加わる荷重が規定量だけ大きくなった場合、すなわちサスペンションの反力SFが規定反力だけ大きくなった場合、同サスペンションのストローク量SSの変化量は、制動力が付与される前のストローク量が小さいほど多くなる。
また、前輪用のサスペンションに加わる荷重が大きくなる事象は、車両制動時だけではなく、車両旋回時にも発生しうる。すなわち、運転者によるステアリングホイールの操作によって車両が旋回しているとき、前輪用のサスペンションに加わる荷重は、車両の横方向加速度Gyの大きさに応じて変化する。そのため、車両に付与される制動力が等しい場合、前輪用のサスペンションの反力SFの変化量が等しい場合であっても、車両が直進しているときと車両が旋回しているときとで、前輪用のサスペンションのストローク量SSの変化度合いが相違することとなる。
例えば、車両が直進している状況下で車両に制動力が付与される場合、制動力の付与開始直前での前輪用のストローク量SSを第1のストローク量SS1とし、同サスペンションに加わる荷重と同サスペンションの反力SFとが釣り合った時点のストローク量SSを第2のストローク量SS2としたとする。また、車両が旋回している状況下で車両に制動力が付与される場合、制動力の付与開始直前での前輪用のサスペンションのストローク量SSを第3のストローク量SS3とし、同サスペンションに加わる荷重と同サスペンションの反力とが釣り合った時点のストローク量SSを第4のストローク量SS4としたとする。図4に示すように、前輪用のサスペンションに加わる荷重の増大量、すなわち同サスペンションの反力の増大量ΔSFが等しい場合、車両の旋回時における前輪用のサスペンションのストローク量の変化量ΔSS43は、車両の直進時におけるサスペンションのストローク量の変化量ΔSS21よりも小さい。
したがって、車両が旋回しているときには、車両が直進しているときよりも車両のピッチングレートが大きくなりにくいということができる。より具体的には、車両の横方向加速度の絶対値|Gy|が大きいほど、車両に制動力が付与されても同車両のピッチングレートが大きくなりにくい。
そこで、本制御装置100では、上記のように演算したピッチング傾向値PRを、車両の旋回状態値の一例である横方向加速度の絶対値|Gy|で補正することが好ましい。例えば、補正前のピッチング傾向値PRに、横方向加速度の絶対値|Gy|に応じた補正係数X1を乗じることにより、車両の旋回状態に応じたピッチング傾向値PRの補正を行うことができる。そして、こうした補正を行うことにより、ピッチング傾向値PRを、車両の実際のピッチングレートに近づけることができる。
図5には、上記の補正係数X1を決定する際に参照されるマップの一例が図示されている。図5に示すように、このマップは、車両の横方向加速度の絶対値|Gy|に基づいて補正係数X1を決定するためのマップである。すなわち、車両の横方向加速度の絶対値|Gy|が第1の横方向加速度Gy1未満である場合、補正係数X1は「1.0」である。一方、車両の横方向加速度の絶対値|Gy|が第1の横方向加速度Gy1以上である場合、補正係数X1は、車両の横方向加速度の絶対値|Gy|が大きいほど小さくされる。
次に、図6を参照し、制御装置100が実行する処理ルーチンについて説明する。この処理ルーチンは、予め設定された制御サイクル毎に実行される。
図6に示すように、本処理ルーチンにおいて、制御装置100は、ブレーキスイッチSW1がオンであるか否かを判定する(ステップS11)。ブレーキスイッチSW1がオフである場合(ステップS11:NO)、制御装置100は、本処理ルーチンを一旦終了する。一方、ブレーキスイッチSW1がオンである場合(ステップS11:YES)、制御装置100は、運転者の要求している制動力である要求制動力Fwc_Tを演算する(ステップS111)。例えば、制御装置100は、操作力センサSE8によって検出されているブレーキペダル21の操作力Fbpを取得し、この操作力Fbpが大きいほど要求制動力Fwc_Tを大きくする。この点で、制御装置100により、制動操作に基づき、車両に要求されている制動力である要求制動力Fwc_Tを演算する「要求制動力演算部」の一例が構成される。なお、要求制動力Fwc_Tは、要求減速度と言い換えてもよい。
続いて、制御装置100は、バキュームブースタ23が助勢限界に達しているか否かを判定するための助勢限界判定処理を実施する(ステップS12)。
助勢限界判定処理において、制御装置100は、例えば、バキュームブースタ23の変圧室52内の圧力を図示しない圧力センサによって検出し、検出した変圧室52内の圧力が大気圧と等しいときに、バキュームブースタ23が助勢限界に達していると判定することができる。また、制御装置100は、運転者による制動操作によってバキュームブースタ23の変圧室52内の圧力が大きくなっている過程で、同変圧室52内の圧力の低下が検出されたときに、負圧室51と変圧室52との差圧が低下するため、バキュームブースタ23が助勢限界に達していると判定することができる。また、制御装置100は、ブレーキペダル21を操作している運転手の要求している要求減速度と車両の実際の減速度との差を用いて、バキュームブースタ23が助勢限界に達しているか否かを判定することもできる。
こうした助勢限界判定処理の実施を終了すると、制御装置100は、バキュームブースタ23が助勢限界に達しているか否かを判定する(ステップS13)。すなわち、このステップS13では、制動補助処理の開始条件が成立しているか否かが判定される。そして、バキュームブースタ23が助勢限界に達していない場合(ステップS13:NO)、制御装置100は、制動補助処理を実施することなく、本処理ルーチンを一旦終了する。一方、バキュームブースタ23が助勢限界に達している場合(ステップS13:YES)、制御装置100は、制動補助処理を実施する。
すなわち、ステップS14において、制御装置100は、ブレーキアクチュエータ30の供給ポンプ381,382を動作させる。続いて、制御装置100は、前後方向加速度センサSE6によって検出されている前後方向加速度Gxと上記の車体速度微分値DVSとを取得し、車体速度微分値DVSから前後方向加速度Gxを減じてピッチング傾向値PRを求める(ステップS15)。この点で、制御装置100により、車両のピッチングレートに応じた値であるピッチング傾向値PRを演算する「ピッチング演算部」の一例が構成される。
そして、制御装置100は、横方向加速度センサSE7によって検出されている横方向加速度Gyを取得する(ステップS16)。この点で、制御装置100により、車両の横方向加速度として、横方向加速度センサSE7によって検出されているセンサ値を取得する「旋回状態値取得部」の一例が構成される。続いて、制御装置100は、演算したピッチング傾向値PRを車両の旋回状態に応じて補正する(ステップS17)。すなわち、ステップS17では、補正前のピッチング傾向値PRに対し、図5に示すマップを参照して取得した補正係数X1を乗じることで、補正後のピッチング傾向値PRが求められる。この点で、制御装置100により、ピッチング傾向値PRを、横方向加速度の絶対値|Gy|が大きいほど小さくする「ピッチング補正部」の一例が構成される。
そして、制御装置100は、補正したピッチング傾向値PRが上記のピッチング傾向閾値PRTh以上であるか否かを判定する(ステップS18)。ピッチング傾向値PRがピッチング傾向閾値PRTh以上である場合(ステップS18:YES)、制御装置100は、移行フラグFLGに「1」をセットし(ステップS19)、その処理を後述するステップS24に移行する。この移行フラグFLGは、制動補助処理のモードが安定用モードであることを示すフラグである。すなわち、移行フラグFLGに「1」がセットされているときには、安定用モードによってブレーキアクチュエータ30が制御されている。なお、こうした移行フラグFLGには、制動補助処理が実施されていないときに「0(零)」がセットされる。
一方、ピッチング傾向値PRがピッチング傾向閾値PRTh未満である場合(ステップS18:NO)、制御装置100は、移行フラグFLGに「0(零)」がセットされているか否かを判定する(ステップS20)。移行フラグFLGに「1」がセットされている場合(ステップS20:NO)、制御装置100は、その処理を後述するステップS24に移行する。一方、移行フラグFLGに「0(零)」がセットされている場合(ステップS20:YES)、制御装置100は、起動時モードでブレーキアクチュエータ30を制御する。
すなわち、後輪用のホイールシリンダ11c,11d内へのブレーキ液の流入を防止するために、制御装置100は、後輪用の保持弁34c,34dを閉じ状態にし、後輪用のホイールシリンダ11c,11d内のWC圧を保持する(ステップS21)。例えば、制御装置100は、後輪RL,RRに付与される制動力の指示値である後輪用制動力指示値FwcR_Tを、WC圧の増大を規制できる値にする。続いて、制御装置100は、図9に示す破線で示すグラフに準じたマップを参照することにより、当該後輪用制動力指示値FwcR_Tに対応するWC圧Pwcを求め、後輪用のホイールシリンダ11c,11dのWC圧に対する指示値である後輪用液圧指示値PwcR_Tを同WC圧Pwcとする。そして、制御装置100は、このように演算した後輪用液圧指示値PwcR_Tに基づいて後輪用の保持弁34c,34dを制御するため、同後輪用の保持弁34c,34dを閉じ状態にすることができる。このとき、制御装置100は、前輪用の保持弁34a,34bを開き状態で保持し、前輪用のホイールシリンダ11a,11b内のWC圧の増大を許容する。
続いて、制御装置100は、前輪FL,FRに付与される制動力の指示値である前輪用制動力指示値FwcF_Tを演算し(ステップS211)、前輪用のホイールシリンダ11a,11bのWC圧に対する指示値である前輪用液圧指示値PwcF_Tを、前輪用制動力指示値FwcF_Tに基づいて演算する(ステップS22)。すなわち、制御装置100は、前輪用制動力指示値FwcF_Tと等しい制動力又は前輪用制動力指示値FwcF_Tに準じた制動力が前輪FL,FRに付与されるように前輪用液圧指示値PwcF_Tを求める。そして、制御装置100は、演算した前輪用液圧指示値PwcF_Tに基づいて差圧調整弁321,322の開度を制御し(ステップS23)、その後、本処理ルーチンを一旦終了する。
ここで、図8を参照し、前輪用制動力指示値FwcF_T及び前輪用液圧指示値PwcF_Tの演算方法について説明する。なお、図8では、運転者による制動操作時における前輪FR,FLと後輪RR,RLとの理想的な制動力の配分から求まる前輪用制動力指示値FwcF_Tの変化が破線で示されている。同様に、図8では、運転者による制動操作時における前輪FR,FLと後輪RR,RLとの理想的な制動力の配分から求まる後輪用制動力指示値FwcR_Tの変化が二点鎖線で示されている。また、第1のタイミングt21と第2のタイミングt22との間隔は、上記処理ルーチンの制御サイクルの長さと等しい。
車両全体に付与される制動力は、各車輪FR,FL,RR,RLに付与される制動力の総和とほぼ等しい。そのため、起動時モードでブレーキアクチュエータ30を制御している場合、通常の制動時には後輪RL,RRに付与される制動力の増大分だけ、前輪FL,FRに付与される制動力を増大させる必要がある。
すなわち、図8に実線で示すように、制動補助処理が開始される第1のタイミングt21では、前輪用制動力指示値FwcF_T(n−1)は、同第1のタイミングt21での前輪制動力理想値FwcF_I(n−1)に決定される。
次に上記処理ルーチンが実行される第2のタイミングt22では、第1のタイミングt21での前輪制動力理想値FwcF_I(n−1)と、第2のタイミングt22での前輪制動力理想値FwcF_I(n)との差分である前輪制動力差分ΔFwcFが演算される。また、第2のタイミングt22では、第1のタイミングt21での後輪制動力理想値FwcR_I(n−1)と、第2のタイミングt22での後輪制動力理想値FwcR_I(n)との差分である後輪制動力差分ΔFwcRが演算される。そして、前輪用制動力指示値FwcF_T(n)は、前回の指示値である前輪用制動力指示値FwcF_T(n−1)と、前輪制動力差分ΔFwcFと、後輪制動力差分ΔFwcRとの和に決定される。
そして、第2のタイミングt22以降でも上記の方法と同様な方法で、前輪用制動力指示値FwcF_Tが演算される。
なお、前輪制動力理想値FwcF_I及び後輪制動力理想値FwcR_Iは、例えば、操作力センサSE8によって検出されているブレーキペダル21の操作力Fbpに応じた要求制動力Fwc_Tから求めることができる。そして、図9に一点鎖線で示すグラフに準じたマップを用い、上記のように求めた前輪用制動力指示値FwcF_Tに対応するWC圧Pwcが、前輪用液圧指示値PwcF_Tとされる。
図6に戻り、制動補助処理のモードが安定用モードである場合、制御装置100は、安定用モードでブレーキアクチュエータ30を制御する。すなわち、ステップS24において、制御装置100は、後輪用の保持弁34c,34dの閉じ状態の保持を解除することにより、後輪用のホイールシリンダ11c,11d内のWC圧の保持を解除し、後輪RL,RRに付与される制動力の保持を解除する。そして、制御装置100は、前輪用制動力指示値FwcF_T及び後輪用制動力指示値FwcR_Tを演算する(ステップS241)。続いて、制御装置100は、前輪用制動力指示値FwcF_Tに基づいて前輪用液圧指示値PwcF_Tを演算するとともに、後輪用制動力指示値FwcR_Tに基づいて後輪用液圧指示値PwcR_Tを演算する(ステップS25)。このとき、制御装置100は、前輪用制動力指示値FwcF_Tを、制動補助処理のモードが起動時モードから安定用モードに移行する直前の指示値で保持する。そして、制御装置100は、図9に一点鎖線で示すグラフに準じたマップを用い、上記のように求めた前輪用制動力指示値FwcF_Tに対応するWC圧Pwcを求め、同WC圧Pwcを前輪用液圧指示値PwcF_Tとする。そのため、前輪用制動力指示値FwcF_Tに基づいて演算される前輪用液圧指示値PwcF_Tもまた、モードの移行直前の値で保持される。
また、後輪用制動力指示値FwcR_T及び後輪用液圧指示値PwcR_Tは、以下に示すように演算することができる。例えば、前回に本処理ルーチンが実行されたときの後輪制動力理想値を後輪制動力理想値の前回値FwcR_I(n−1)とし、現時点での後輪制動力理想値を後輪制動力理想値の今回値FwcR_I(n)としたとする。また、前回に本処理ルーチンが実行されたときの前輪制動力理想値を前輪制動力理想値の前回値FwcF_I(n−1)とし、現時点での前輪制動力理想値を前輪制動力理想値の今回値FwcF_I(n)としたとする。この場合、制御装置100は、後輪制動力理想値の前回値FwcR_I(n−1)と後輪制動力理想値の今回値FwcR_I(n)との差分である後輪制動力差分ΔFwcRと、前輪制動力理想値の前回値FwcF_I(n−1)と前輪制動力理想値の今回値FwcF_I(n)との差分である前輪制動力差分ΔFwcFとを演算する。そして、前回に本処理ルーチンが実行されたときに演算した後輪用制動力指示値を後輪用制動力指示値の前回値FwcR_T(n−1)とした場合、制御装置100は、後輪用制動力指示値の前回値FwcR_T(n−1)と、後輪制動力差分ΔFwcRと、前輪制動力差分ΔFwcFとの和を後輪用液圧指示値PwcR_Tとする。また、制御装置100は、図9に破線で示すグラフに準じたマップを用い、上記のように求めた後輪用制動力指示値FwcR_Tに対応するWC圧Pwcを求め、同WC圧Pwcを後輪用液圧指示値PwcR_Tとする。
つまり、後輪制動力理想値FwcR_Iは要求制動力Fwc_Tが大きいほど大きくなるため、安定用モードでブレーキアクチュエータ30が制御される場合、後輪用制動力指示値FwcR_Tは要求制動力Fwc_Tが大きいほど大きくなる。したがって、後輪用制動力指示値FwcR_Tに基づいて演算される後輪用液圧指示値PwcR_Tもまた、要求制動力Fwc_Tが大きいほど大きくなるということができる。
そして、制御装置100は、演算した前輪用液圧指示値PwcF_Tと後輪用液圧指示値PwcR_Tとに基づいてブレーキアクチュエータ30の差圧調整弁321,322及び各保持弁34a〜34dを制御する(ステップS26)。なお、保持弁34a〜34dを制御する場合、制御装置100は、保持弁34a〜34dのソレノイドに流す駆動信号のデューティ比を調整する。安定用モードである場合、前輪用液圧指示値PwcF_Tは変更されないものの、前輪用の保持弁34a,34bが閉じ状態で保持されることはない。そのため、前輪用液圧指示値PwcF_Tは保持されるものの、前輪用のホイールシリンダ11a,11b内の実際のWC圧は、運転者による制動操作力の増大に伴って僅かに増大されることがある。その後、制御装置100は、本処理ルーチンを一旦終了する。
次に、図7を参照し、運転者が制動操作を行った際の作用について説明する。なお、前提として、制動操作の開始時には、バキュームブースタ23が既に助勢限界に達しているものとする。また、図7(b)では、図6を用いて説明した制動補助処理によって決定された前輪用液圧指示値PwcF_T及び後輪用液圧指示値PwcR_Tを実線で示し、通常の理想制動力配分に従った場合におけるWC圧の推移に相当する前輪液圧理想値PwcF_I及び後輪液圧理想値PwcR_Iの推移を二点鎖線で示している。
図7(a),(b),(c)に示すように、運転者による制動操作が開始される第1のタイミングt31では、バキュームブースタ23が助勢限界に達しているため(ステップS13:YES)、制動補助処理が開始される。この第1のタイミングt31では、ピッチング傾向値PRはピッチング傾向閾値PRTh未満である(ステップS18:NO)。そのため、起動時モードでブレーキアクチュエータ30が制御される。
すなわち、後輪用制動力指示値FwcR_T及び後輪用液圧指示値PwcR_Tは保持されるため、後輪用の保持弁34c,34dは閉じ状態で保持される(ステップS21)。この場合、後輪用のホイールシリンダ11c,11d内のWC圧Pwcが保持されるため、後輪RR,RLに付与される制動力は増大されない。そのため、前輪用制動力指示値FwcF_Tは、前輪制動力理想値FwcF_Iよりも大きい値に決定される(ステップS211)。そして、前輪用液圧指示値PwcF_Tは、前輪制動力理想値FwcF_Iよりも大きい前輪用制動力指示値FwcF_Tに基づいて演算される(ステップS22)。したがって、前輪用液圧指示値PwcF_Tは、前輪制動力理想値FwcF_Iと等しい指示値に基づいて演算される前輪液圧理想値PwcF_Iよりも大きくなる。すると、前輪用液圧指示値PwcF_Tの増大に応じて前輪用のホイールシリンダ11a,11b内のWC圧が増大されるように、供給ポンプ381,382からブレーキ液が吐出されている状態で、差圧調整弁321,322の開度、及び、前輪用の保持弁34a,34bの動作が制御される。
このように制動操作力が大きくなっている最中でも前輪FR,FLに付与される制動力のみを増大させていると、前輪FR,FLと後輪RR,RLとの制動力差が、通常の制動時と比較して大きくなりやすい。そのため、車両のピッチングレートに相当するピッチング傾向値PRが徐々に大きくなり、第2のタイミングt32で、ピッチング傾向値PRがピッチング傾向閾値PRThに達する(ステップS18:YES)。すなわち、この第2のタイミングt32が、モードの移行条件が成立したタイミングとなる。
その結果、この第2のタイミングt32で、制動補助処理のモードが、起動時モードから安定用モードに移行される。そのため、後輪用の保持弁34c,34dの閉じ状態の保持が解除され、後輪用のホイールシリンダ11c,11d内のWC圧の増大が許容される(ステップS24)。つまり、後輪RL,RRに付与される制動力の増大が許容される。
すなわち、第2のタイミングt32以降では、前輪用制動力指示値FwcF_Tが、第2のタイミングt32での指示値で保持される一方で、後輪用制動力指示値FwcR_Tは、制動操作力の増大に応じて増大される(ステップS241)。そのため、前輪用液圧指示値PwcF_Tが、第2のタイミングt32での指示値で保持される一方で、後輪用液圧指示値PwcR_Tは、制動操作力の増大、すなわち要求制動力Fwc_Tの増大に応じて増大される(ステップS25)。そして、こうした前輪用液圧指示値PwcF_T及び後輪用液圧指示値PwcR_Tに基づき、ブレーキアクチュエータ30が作動することとなる(ステップS26)。すると、供給ポンプ381,382から吐出されたブレーキ液は、前輪用のホイールシリンダ11a,11bよりも後輪用のホイールシリンダ11c,11dに優先的に供給される。
これにより、後輪用のホイールシリンダ11c,11d内のWC圧が、後輪用液圧指示値PwcR_Tの増大に伴って増大される。すると、後輪RR,RLに付与される制動力が大きくなり、前輪FR,FLと後輪RR,RLとの制動力差が徐々に小さくなる。その結果、こうした制動力差の減少に応じ、ピッチング傾向値PRが小さくなる。したがって、車両挙動の安定性の低下が抑制される。
なお、安定用モードでのブレーキアクチュエータ30の制御が継続されると、前輪用制動力指示値FwcF_Tが前輪制動力理想値FwcF_Iと等しくなったり、後輪用制動力指示値FwcR_Tが後輪制動力理想値FwcR_Iと等しくなったりする。こうした場合であっても、本制御装置100を備える制動装置10では、前輪用制動力指示値FwcF_Tの保持、及び後輪用制動力指示値FwcR_Tの増大が継続される。すなわち、前輪FL,FRに付与される制動力が前輪制動力理想値FwcF_Iよりも小さくなるとともに、後輪RL,RRに付与される制動力が後輪制動力理想値FwcR_Iよりも大きくなることもある。
以上、上記構成及び作用によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)制動補助処理の開始条件が成立すると、起動時モードでブレーキアクチュエータ30が制御されるようになる。すると、前輪用のホイールシリンダ11a,11b内にブレーキ液が供給される一方で、後輪用のホイールシリンダ11c,11d内にはブレーキ液が供給されない。すると、後輪用のホイールシリンダ11c,11d内のWC圧が増大されず、WC圧の増大によって制動力を大きくしやすい前輪用のホイールシリンダ11a,11b内のWC圧が増大される。この場合、後輪用のホイールシリンダ11c,11dにもブレーキ液が供給される場合と比較し、前輪用のホイールシリンダ11a,11b内のWC圧が早期に大きくなる。その結果、制動補助処理の開始によって、車両に付与される制動力が早期に増大され、車両の減速度が大きくなりやすい。すなわち、ブレーキアクチュエータ30の供給ポンプ381,382で応答遅れが生じたとしても、制動補助処理の起動時における車両の減速度を大きくすることができ、制動補助処理の起動時では、車両の実際の減速度と、運転者が要求している減速度との間にずれが生じにくくなる。したがって、制動補助処理の初期における車両の減速度を大きくすることにより、ドライバビリティを向上させることができる。
(2)ただし、後輪用のホイールシリンダ11c,11d内のWC圧の保持によって後輪RR,RLに付与される制動力の保持が継続されることで、前輪FR,FLと後輪RR,RLとの制動力差が大きくなりすぎると、車両挙動の安定性が低下するおそれがある。この点、本制御装置100では、制動補助処理を実施している最中で、モードを起動時モードから安定用モードに移行させている。そして、このように安定用モードに移行されると、後輪RR,RLに付与される制動力が増大されるようになり、前輪FR,FLと後輪RR,RLとの制動力差が小さくなる。したがって、前輪FR,FLと後輪RR,RLとの制動力差に起因した車両挙動の安定性の低下を抑制することができる。
(3)具体的には、後輪RL,RRに付与される制動力の増大が抑制され、前輪FR,FLと後輪RR,RLとの制動力差が大きくなると、後輪RL,RRへの制動力の付与によるアンチリフト効果が、前輪FL,FRに付与される制動力及び後輪RL,RRに付与される制動力の双方が増大される通常の制動時と比較して弱くなる。その結果、前輪FL,FRと後輪RL,RRとの接地荷重の差が大きくなり、車両のピッチングレートが大きくなる。そこで、本制御装置100を備える制動装置10では、ピッチングレートに相当するピッチング傾向値PRがピッチング傾向閾値PRThに達すると、制動補助処理のモードが起動時モードから安定用モードに移行される。その結果、制動補助処理が実施されている最中にあっては、ピッチング傾向値PRがピッチング傾向閾値PRThよりも大きくなりにくくなり、車両挙動の安定性の低下を抑制することができる。
(4)制動補助処理のモードが安定用モードに移行されると、前輪用制動力指示値FwcF_Tは保持される一方で、後輪用制動力指示値FwcR_Tが増大される。そのため、安定用モードでブレーキアクチュエータ30が制御されているときには、前輪用のホイールシリンダ11a,11bよりも後輪用のホイールシリンダ11c,11d内にブレーキ液が優先的に供給されるようになる。そのため、安定用モードであるときでも前輪用制動力指示値FwcF_Tが増大される場合と比較し、後輪RL,RRに付与される制動力が早期に増大されるようになり、結果として、前輪FR,FLと後輪RR,RLとの制動力差を早期に小さくすることができる。
(5)なお、本制御装置100では、ピッチング傾向値PRを、車両の横方向加速度の絶対値|Gy|に応じて補正している。これにより、ピッチング傾向値PRを、車両の実際のピッチングレートに近づけることができる。そのため、こうしたピッチング傾向値PRを用いることにより、適切なタイミングで、制動補助処理のモードを起動時モードから安定用モードに移行させることができる。その結果、例えば、車両挙動の安定性が未だ十分に確保されている段階で、制動補助制御のモードが起動時モードから安定用モードに移行される事象が生じにくくなる。
(第2の実施形態)
次に、車両の制動制御装置を具体化した第2の実施形態を図9〜図11に従って説明する。なお、第2の実施形態では、安定用モードでの前輪用制動力指示値FwcF_T及び後輪用制動力指示値FwcR_Tの決定方法が第1の実施形態と異なっている。したがって、以下の説明においては、第1の実施形態と相違する部分について主に説明するものとし、第1の実施形態と同一の部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
車両制動時にあっては、車両挙動の安定性の低下を抑制するためには、前輪FR,FLに付与される制動力を前輪制動力理想値FwcF_Iと等しくするとともに、後輪RR,RLに付与される制動力を後輪制動力理想値FwcR_Iと等しくすることが望ましい。そのため、制動補助処理のモードが安定用モードに移行されたときには、後輪用制動力指示値FwcR_Tが後輪制動力理想値FwcR_Iまで早期に増大される。なお、後輪用制動力指示値FwcR_Tが後輪制動力理想値FwcR_Iと等しくなった時点では、前輪用制動力指示値FwcF_Tもまた前輪制動力理想値FwcF_Iと等しくなっている。したがって、これ以降では、前輪用制動力指示値FwcF_T及び後輪用制動力指示値FwcR_Tが、前輪制動力理想値FwcF_I及び後輪制動力理想値FwcR_Iの増大に連動して変更される。
ただし、制動補助処理のモードが起動時モードから安定用モードに移行し、後輪用制動力指示値FwcR_Tを後輪制動力理想値FwcR_Iまで増大させるに際し、その増大速度が大きすぎると、前輪FR,FLと後輪RR,RLとの制動力差が急激に変動することとなり、この点に関して運転者が不快に感じるおそれがある。
そこで、本実施形態の車両の制動制御装置である制御装置100では、後輪用制動力指示値FwcR_Tの増大速度が制限速度以上とならないようになっている。そして、このように後輪用制動力指示値FwcR_Tの増大に制限を設けたことにより、後輪用制動力指示値FwcR_Tが後輪制動力理想値FwcR_Iに達していなくても、前輪用制動力指示値FwcF_Tが増大されることがある。こうした場合であっても、前輪用制動力指示値FwcF_Tと後輪用制動力指示値FwcR_Tとの和は、運転者の要求している要求制動力Fwc_Tと等しくなる。
次に、図10を参照し、制御装置100が実行する処理ルーチンについて説明する。なお、本処理ルーチンは、図6を用いて説明した処理ルーチンとは安定用モードに関する部分のみが相違している。そのため、図10では、安定用モードでの処理に関係しないステップの図示を省略している。
図10に示すように、制動補助処理を実施している最中において、制御装置100は、上記ステップS15で演算したピッチング傾向値PRがピッチング傾向閾値PRTh以上である場合(ステップS18:YES)、移行フラグFLGに「1」をセットし(ステップS19)、その処理を後述するステップS32に移行する。一方、制御装置100は、ピッチング傾向値PRがピッチング傾向閾値PRTh未満である場合であっても(ステップS18:NO)、既に移行フラグFLGに「1」がセットされているときには(ステップS20:NO)、その処理を次のステップS32に移行する。
ステップS32において、制御装置100は、上記ステップS111で演算した要求制動力Fwc_Tに基づき、前輪制動力理想値FwcF_I及び後輪制動力理想値FwcR_Iを演算する。なお、前輪制動力理想値FwcF_I及び後輪制動力理想値FwcR_Iの演算方法は、上記第1の実施形態で説明した方法と同一方法であってもよい。
そして、制御装置100は、前輪用制動力指示値FwcF_T及び後輪用制動力指示値FwcR_Tを演算する(ステップS33)。すなわち、後輪用制動力指示値の前回値FwcR_T(n−1)が後輪制動力理想値FwcR_I未満である場合、制御装置100は、後輪用制動力指示値FwcR_Tを、後輪用制動力指示値の前回値FwcR_T(n−1)よりも大きくする。そして、制御装置100は、このように演算した後輪用制動力指示値FwcR_Tと前輪用制動力指示値FwcF_Tとの和が要求制動力に応じた値となるように、前輪用制動力指示値FwcF_Tを演算する。一方、後輪用制動力指示値の前回値FwcR_T(n−1)が後輪制動力理想値FwcR_Iと等しい場合、前輪用制動力指示値の前回値FwcF_T(n−1)もまた前輪制動力理想値FwcF_Iと等しい。そのため、制御装置100は、後輪用制動力指示値FwcR_Tを後輪制動力理想値FwcR_Iと等しくするとともに、前輪用制動力指示値FwcF_Tを前輪制動力理想値FwcF_Iと等しくする。
そして、制御装置100は、演算した前輪用制動力指示値FwcF_Tに基づいて前輪用液圧指示値PwcF_Tを求めるとともに、後輪用制動力指示値FwcR_Tに基づいて後輪用液圧指示値PwcR_Tを求める(ステップS321)。例えば、制御装置100は、図9に一点鎖線で示したグラフに準じたマップを用い、上記のように求めた前輪用制動力指示値FwcF_Tに対応するWC圧Pwcを求め、同WC圧Pwcを前輪用液圧指示値PwcF_Tとする。また、制御装置100は、図9に破線で示したグラフに準じたマップを用い、上記のように求めた後輪用制動力指示値FwcR_Tに対応するWC圧Pwcを求め、同WC圧Pwcを後輪用液圧指示値PwcR_Tとする。
続いて、制御装置100は、演算した前輪用液圧指示値PwcF_Tと後輪用液圧指示値PwcR_Tとに基づいてブレーキアクチュエータ30の差圧調整弁321,322及び各保持弁34a〜34dを制御する(ステップS34)。その後、制御装置100は、本処理ルーチンを一旦終了する。
次に、図11を参照し、運転者が制動操作を行った際の作用について説明する。なお、前提として、制動操作の開始時には、バキュームブースタ23が既に助勢限界に達しているものとする。また、図11(b)では、図10を用いて説明した制動補助処理によって決定された前輪用液圧指示値PwcF_T及び後輪用液圧指示値PwcR_Tを実線で示し、通常の理想制動力配分に従った場合におけるWC圧の推移に相当する前輪液圧理想値PwcF_I及び後輪液圧理想値PwcR_Iの推移を二点鎖線で示している。
図11(a),(b)に示すように、運転者による制動操作が開始される第1のタイミングt41では、バキュームブースタ23が助勢限界に達しているため(ステップS13:YES)、制動補助処理が開始される。この第1のタイミングt41では、ピッチング傾向値PRはピッチング傾向閾値PRTh未満である(ステップS18:NO)。そのため、起動時モードでブレーキアクチュエータ30が制御される。
すなわち、後輪用制動力指示値FwcR_T及び後輪用液圧指示値PwcR_Tは保持されるため、後輪用の保持弁34c,34dは閉じ状態で保持される(ステップS21)。この場合、後輪RR,RLに付与される制動力は増大されないため、前輪用制動力指示値FwcF_Tは、前輪制動力理想値FwcF_Iよりも大きい値に決定される(ステップS211)。そして、前輪用液圧指示値PwcF_Tは、前輪制動力理想値FwcF_Iよりも大きい前輪用制動力指示値FwcF_Tに基づいて演算される(ステップS22)。したがって、前輪用制動力指示値FwcF_Tが前輪制動力理想値FwcF_Iと等しく、同前輪用制動力指示値FwcF_Tに基づいて前輪用液圧指示値が演算される場合と比較し、前輪用液圧指示値PwcF_Tが大きくなる。すると、前輪用液圧指示値PwcF_Tの増大に応じて前輪用のホイールシリンダ11a,11b内のWC圧が増大されるように、供給ポンプ381,382からブレーキ液が吐出されている状態で、差圧調整弁321,322の開度、及び、前輪用の保持弁34a,34bの動作が制御される。
そして、このように制動操作力が大きくなっている最中でも前輪FR,FLに付与される制動力のみを増大させていると、前輪FR,FLと後輪RR,RLとの制動力差が、通常の制動時と比較して大きくなりやすい。そのため、車両のピッチングレートに相当するピッチング傾向値PRが徐々に大きくなり、第2のタイミングt42で、ピッチング傾向値PRがピッチング傾向閾値PRThに達する(ステップS18:YES)。すなわち、この第2のタイミングt42が、モードの移行条件が成立したタイミングとなる。
その結果、この第2のタイミングt42で、制動補助処理のモードが、起動時モードから安定用モードに移行される。そのため、後輪用の保持弁34c,34dの閉じ状態の保持が解除され、後輪用のホイールシリンダ11c,11d内のWC圧の増大が許容される。つまり、後輪RL,RRに付与される制動力の増大が許容される。
すなわち、第2のタイミングt42以降では、後輪用制動力指示値FwcR_Tが、後輪制動力理想値FwcR_Iに向けて増大される(ステップS321)。このときの後輪用制動力指示値FwcR_Tの増大速度によっては、前輪用制動力指示値FwcF_Tもまた増大されることがある(ステップS321)。しかし、こうした場合であっても、後輪用制動力指示値FwcR_Tの増大速度のほうが、前輪用制動力指示値FwcF_Tの増大速度よりも十分に大きい。
そして、前輪用制動力指示値FwcF_Tに基づいて前輪用液圧指示値PwcF_Tが演算されるとともに、後輪用制動力指示値FwcR_Tに基づいて後輪用液圧指示値PwcR_Tが演算される(ステップS33)。こうした前輪用液圧指示値PwcF_T及び後輪用液圧指示値PwcR_Tに基づき、ブレーキアクチュエータ30が作動することとなる(ステップS34)。すると、供給ポンプ381,382から吐出されたブレーキ液は、前輪用のホイールシリンダ11a,11bよりも後輪用のホイールシリンダ11c,11dに優先的に供給される。
これにより、後輪用のホイールシリンダ11c,11d内のWC圧が、後輪用液圧指示値PwcR_Tの増大に伴って増大される。このとき、前輪用液圧指示値PwcF_Tも僅かながら増大している場合、前輪用のホイールシリンダ11a,11b内のWC圧もまた、前輪用液圧指示値PwcF_Tの増大に伴って増大されるものの、後輪RL,RRに付与される制動力の増大速度のほうが、前輪FL,FRに付与される制動力の増大速度よりも大きい。そのため、前輪FR,FLと後輪RR,RLとの制動力差が徐々に小さくなる。その結果、こうした制動力差の減少に応じ、ピッチング傾向値PRが小さくなる。したがって、車両挙動の安定性の低下が抑制される。
そして、その後の第3のタイミングt43で、後輪用制動力指示値FwcR_Tが後輪制動力理想値FwcR_Iと等しくなるとともに、前輪用制動力指示値FwcF_Tが前輪制動力理想値FwcF_Iと等しくなる。そのため、第3のタイミングt43以降では、後輪用制動力指示値FwcR_Tが後輪制動力理想値FwcR_Iと等しいとともに、前輪用制動力指示値FwcF_Tが前輪制動力理想値FwcF_Iと等しい状態が保持される。すなわち、前輪用液圧指示値PwcF_Tが前輪液圧理想値PwcF_Iと等しいとともに、後輪用液圧指示値PwcR_Tが後輪液圧理想値PwcR_Iと等しい状態が保持される。そして、こうした前輪用液圧指示値PwcF_T及び後輪用液圧指示値PwcR_Tに基づいてブレーキアクチュエータ30が制御されることにより、前輪FR,FLと後輪RR,RLとの制動力の比率が、車両挙動を安定化させるための理想的な配分比率とほぼ等しくなる。
以上、上記構成及び作用によれば、上記第1の実施形態における効果(1)〜(3)及び(5)と同等の効果に加え、以下に示す効果をさらに得ることができる。
(6)制動補助処理のモードが起動時モードから安定用モードに移行されると、前輪用のホイールシリンダ11a,11b内のWC圧及び後輪用のホイールシリンダ11c,11d内のWC圧が、理想的な前輪FR,FLと後輪RR,RLとの制動力の配分に応じた液圧に徐々に近づくようになる。その結果、こうした安定用モードでブレーキアクチュエータ30を作動させることにより、制動補助処理の実施中における車両挙動の安定性を向上させることができる。
(7)具体的には、制動補助処理のモードが安定用モードに移行されると、後輪用制動力指示値FwcR_Tが後輪制動力理想値FwcR_Iに徐々に近づけられるとともに、前輪用制動力指示値FwcF_Tが前輪制動力理想値FwcF_Iに徐々に近づけられる。そして、こうした後輪用制動力指示値FwcR_Tに応じた後輪用液圧指示値PwcR_T及び前輪用制動力指示値FwcF_Tに応じた前輪用液圧指示値PwcF_Tに基づきブレーキアクチュエータ30が作動されるため、前輪FR,FLと後輪RR,RLとの制動力の配分比率が徐々に変わることとなる。したがって、制動補助処理のモードが安定用モードに移行されると、後輪用制動力指示値FwcR_Tが後輪制動力理想値FwcR_Iに等しくされるとともに、前輪用制動力指示値FwcF_Tが前輪制動力理想値FwcF_Iに等しくされる場合と比較し、前輪FR,FLと後輪RR,RLとの制動力の配分比率の急激な変化が抑えられる。これにより、前輪FR,FLと後輪RR,RLとの制動力の配分比率の変化に対する違和感を運転手に与えにくくすることができる。
なお、上記各実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・車両が登坂路を走行している場合、この登坂路の勾配が大きいほど車両のピッチングレートが大きくなりにくい。また、車両が降坂路を走行している場合、この降坂路の勾配が大きいほど車両のピッチングレートが大きくなりやすい。そこで、車体速度微分値DVSから前後方向加速度Gxを減じた差であるピッチング傾向値PRを、車両の走行している路面の勾配に応じて補正するようにしてもよい。そして、このように補正したピッチング傾向値PRを用いることにより、制動補助処理のモードを起動時モードから安定用モードに移行させるタイミングの更なる適正化を図ることができる。
・車体速度微分値DVSから前後方向加速度Gxを減じた差であるピッチング傾向値PRを、車両の旋回状態に応じて補正しなくてもよい。ただし、車両が旋回している場合、車両の横方向加速度の絶対値|Gy|が大きいほど、車両挙動の安定性が低下しやすい。そこで、ピッチング傾向閾値PRThを、車両の横方向加速度の絶対値|Gy|などのような旋回状態値に応じて補正するようにしてもよい。例えば、補正前のピッチング傾向閾値PRThに、横方向加速度の絶対値|Gy|に応じた補正係数X2を乗じることにより、車両の旋回状態に応じたピッチング傾向閾値PRThの補正を行うことができる。この構成によれば、車両の横方向加速度Gyが大きく、車両挙動の安定性が低下しやすいときほど、制動補助処理のモードを起動時モードから安定用モードに早期に移行させることができる。そのため、制動補助処理の実施中における車両挙動の安定性の低下を抑制することができる。
なお、図12には、上記の補正係数X2を決定する際に参照されるマップの一例が図示されている。図12に示すように、このマップは、車両の横方向加速度の絶対値|Gy|に基づいて補正係数X2を決定するためのマップである。すなわち、車両の横方向加速度の絶対値|Gy|が大きいほど、補正係数X2は小さくなる。この場合、制御装置100により、ピッチング傾向閾値PRThを、車両の横方向加速度の絶対値|Gy|が大きいほど小さくする「閾値補正部」の一例が構成されることとなる。
また、ピッチング傾向値PRを車両の旋回状態に応じて補正する場合であっても、ピッチング傾向閾値PRThを車両の旋回状態に応じて補正するようにしてもよい。
・車両の旋回中では、車両の横方向加速度Gyに抗して同車両の進路を維持するために後輪RL,RRに対して横坑力が求められる。そして、このように車両旋回時における車両の横方向加速度Gyが大きいほど、後輪RL,RRに対して大きな横坑力が求められるようになる。また、後輪RL,RRに付与される制動力が増大されると、タイヤのグリップ力が制動力によって使われることとなるため、後輪RL,RRで発生させることのできる横坑力の最大値が小さくなる。そのため、車両の旋回中において同車両の横方向加速度Gyが大きい状態で、後輪RL,RRに付与される制動力が増大されると、後輪RR,RLが横滑りしやすくなる、すなわち車両のオーバーステア傾向が大きくなる。そこで、図13に示すように、制御装置100は、起動時モードでブレーキアクチュエータ30が作動されている状況下で、車両の横方向加速度の絶対値|Gy|が規定値Gyth以上である場合(ステップS151:YES)、その処理を前述したステップS21に移行させるようにしてもよい。この場合、起動時モードから安定用モードへの移行が禁止される。この構成によれば、車両の横方向加速度の絶対値|Gy|が規定値GyTh以上であるときには、後輪RR,RLが横滑りしやすい状態であると判断することができるため、後輪RR,RLに付与される制動力の増大の禁止が継続される。その結果、車両旋回時におけるオーバーステアの発生を抑制することができる。
ただし、車両の横方向加速度の絶対値|Gy|が規定値Gyth未満である場合(ステップS151:NO)、ピッチング傾向値PRがピッチング傾向閾値PRTh以上になると(ステップS18:YES)、制動補助処理のモードが起動時モードから安定用モードに移行される。
・上記各実施形態では、車両のピッチングレートをパラメータとして、起動時モードから安定用モードへの移行タイミングを決定していたが、ピッチングレート以外の他のパラメータを用いて移行タイミングを決定するようにしてもよい。
例えば、制動補助処理の実施中に、後輪RR,RLに付与される制動力の増大を禁止し続けた場合、前輪FR,FL及び後輪RR,RLの双方に付与される制動力が増大される場合と比較して、車両に付与することのできる制動力の最大値が小さくなる。そのため、前輪FR,FLに付与される制動力のみを増大させる状態で車両に付与することのできる制動力の最大値である前輪制動最大値に、車両に付与されている制動力が達するまでに、制動補助処理のモードを起動時モードから安定用モードに移行させることが望ましい。
また、車両に付与されている制動力は、車両の前後方向加速度Gxに「−1」を乗じた値である車両の減速度Zと相関している。
そこで、図14に示すように、制御装置100は、起動時モードでブレーキアクチュエータ30が作動されている状況下で、車両の減速度Zが規定減速度ZTh以上である場合には(ステップS141:YES)、その処理を前述したステップS19に移行するようにしてもよい。この場合、車両の減速度Zが規定減速度ZThに達したタイミングで、制動補助処理のモードが起動時モードから安定用モードに移行される。一方、制御装置100は、車両の減速度Zが規定減速度ZTh未満である場合には(ステップS141:NO)、起動時モードを継続する。この構成によれば、規定減速度ZThを上記の前輪制動最大値に準じた値とすることで、制動補助処理の実施によって、車両全体の制動力を前輪制動最大値よりも大きくすることが可能となる。
また、例えば、起動時モードでのブレーキアクチュエータ30の制御が開始されてからの経過時間が規定時間に達したタイミングで、制動補助処理のモードを起動時モードから安定用モードに移行させるようにしてもよい。
・前輪に付与される制動力を保持し続けても車両挙動の安定性があまり低下しない場合にあっては、制動補助制御のモードを安定用モードに移行させずに、起動時モードでのブレーキアクチュエータ30の制御を継続させるようにしてもよい。
・車両の横方向加速度は、横方向加速度センサSE7によって検出されたセンサ値ではなく、車両のヨーレートや車両の車体速度VSなどから換算した横方向加速度の算出値であってもよい。
・車両の旋回状態値として、横方向加速度Gyではなく、例えば車両のヨーレートを用いるようにしてもよい。
・車両のピッチングレートを検出するセンサが同車両に設けられている場合、ピッチング傾向値PRとして、同センサによって検出されているピッチングレートを用いるようにしてもよい。
・液圧発生装置として、バキュームブースタ23に真空ポンプが接続されている装置を採用してもよい。
・液圧発生装置は、バキュームブースタ23などのブースタ装置を何ら備えない装置であってもよい。そして、こうした液圧発生装置を備える制動装置に、上記車両の制動制御装置を搭載させるようにしてもよい。
・上記各実施形態では、制動操作の開始時から起動時モードでのブレーキアクチュエータ30の制御を開始させているが、これに限らず、制動操作が開始されてからある程度時間が経過してから起動時モードでのブレーキアクチュエータ30の制御を開始させるようにしてもよい。例えば、ブレーキペダル21の操作力Fbpが小さい状態から同操作力Fbpが急激に増大されたときに、操作力Fbp、すなわち要求制動力Fwc_Tの急激な増大をトリガーとして、起動時モードでのブレーキアクチュエータ30の制御を開始させるようにしてもよい。