以下、車両の運転支援装置を具体化した一実施形態を図1〜図5に従って説明する。
図1には、本実施形態の車両の運転支援装置である制御装置50を備える車両が図示されている。図1に示すように、車両は、左前輪FL、右前輪FR、左後輪RL及び右後輪RRが駆動輪として機能する四輪駆動車である。
こうした車両は、運転者によるアクセルペダル11の操作量に応じた駆動力を出力するエンジン12を備えている。エンジン12から出力された駆動力は、トランスミッション13を通じてトランスファ14に伝達される。そして、トランスファ14によって前輪側に分配された駆動力が、前輪用デファレンシャル15を通じて前輪FL,FRに伝達され、トランスファ14よって後輪側に分配された駆動力が、後輪用デファレンシャル16を通じて後輪RL,RRに伝達される。なお、本明細書では、運転者がアクセルペダル11を操作することを、「アクセル操作」ということもある。
車両の制動装置20は、運転者によるブレーキペダル21の操作量に応じた液圧を発生する液圧発生装置22と、各車輪FL,FR,RL,RRに付与する制動力を個別に調整することのできるブレーキアクチュエータ23とを有している。なお、本明細書では、運転者がブレーキペダル21を操作することを、「ブレーキ操作」ということもある。
また、車両には、各車輪FL,FR,RL,RRに個別対応するホイールシリンダ25a,25b,25c,25dが設けられている。そして、ホイールシリンダ25a〜25dで発生している液圧に応じた制動力が車輪FL,FR,RL,RRに付与される。すなわち、運転者がブレーキ操作を行っている場合、液圧発生装置22で発生している液圧に応じた量のブレーキ液がホイールシリンダ25a〜25d内に供給されることにより、ホイールシリンダ25a〜25d内の液圧が増大される。また、ブレーキアクチュエータ23が作動している場合、同ブレーキアクチュエータ23によってホイールシリンダ25a〜25d内の液圧が調整される。なお、本明細書では、ホイールシリンダ25a〜25d内の液圧のことを、「WC圧Pwc」というものとする。
また、車両には、後述する車両降坂制御の実施を運転者が要求する際に操作される起動スイッチ32が設けられている。この起動スイッチ32は、運転者による操作によってオン・オフに切り替えられるスイッチである。そして、起動スイッチ32がオンである場合、車両降坂制御の開始条件が成立すると、同車両降坂制御の実施が開始される。
こうした車両には、ブレーキスイッチSW1、アクセル開度センサSE1、車輪速度センサSE4,SE5,SE6,SE7、前後方向加速度センサSE8及び圧力センサSE9が設けられている。ブレーキスイッチSW1は、ブレーキペダル21が操作されているか否かを検出する。アクセル開度センサSE1は、アクセルペダル11の操作量であるアクセル操作量に相当するアクセル開度ACを検出する。車輪速度センサSE4〜SE7は、車輪FL,FR,RL,RR毎に設けられており、対応する車輪の車輪速度VWを検出する。前後方向加速度センサSE8は、車両の前後方向の加速度である前後加速度Gxを検出する。圧力センサSE9は、運転者によるブレーキ操作によって液圧発生装置22内で発生する液圧であるMC圧Pmcを検出する。そして、これらの検出系によって検出された情報は、制御装置50に入力される。
なお、圧力センサSE9によって検出されるMC圧Pmcは、運転者によるブレーキ操作量が多いほど大きくなる。すなわち、本明細書では、このように検出されるMC圧Pmcが、ブレーキ操作量に応じて変化する「操作量相当値」の一例に相当する。ブレーキ操作量は、運転者によるブレーキペダル21の操作力であるブレーキ操作力とほぼ相関している。そのため、MC圧Pmcは、ブレーキ操作力が大きいほど大きくなるということもできる。
制御装置50は、エンジン12を制御するエンジンECU51、トランスミッション13を制御する変速機ECU52、及びブレーキアクチュエータ23を制御するブレーキECU53を備えている。これら各ECU51〜53は、各種の情報や指令を相互に送受信可能となっている。
次に、図2を参照し、車両の制動装置20の構成について説明する。
図2に示すように、制動装置20の液圧発生装置22は、マスタシリンダ61と、運転者によるブレーキ操作力を助勢するブースタ装置62と、ブレーキ液が貯留される大気圧リザーバ63とを備えている。そして、運転者がブレーキ操作を行うと、ブースタ装置62によって助勢されたブレーキ操作力に応じたMC圧Pmcがマスタシリンダ61内に発生するようになっている。
制動装置20のブレーキアクチュエータ23には、2系統の液圧回路711,712が設けられている。第1の液圧回路711には、左前輪用のホイールシリンダ25aと右後輪用のホイールシリンダ25dとが接続されるとともに、第2の液圧回路712には、右前輪用のホイールシリンダ25bと左後輪用のホイールシリンダ25cとが接続されている。そして、液圧発生装置22から第1及び第2の液圧回路711,712にブレーキ液が流入されると、ホイールシリンダ25a〜25d内にブレーキ液が流入し、同ホイールシリンダ25a〜25d内のWC圧Pwcが増大される。
液圧発生装置22のマスタシリンダ61とホイールシリンダ25a〜25dとを接続する経路には、リニア電磁弁である差圧調整弁721,722が設けられている。また、第1の液圧回路711において差圧調整弁721よりもホイールシリンダ25a,25d側には、左前輪用の経路73a及び右後輪用の経路73dが設けられるとともに、第2の液圧回路712において差圧調整弁722よりもホイールシリンダ25b,25c側には、右前輪用の経路73b及び左後輪用の経路73cが設けられている。そして、こうした経路73a〜73dには、ホイールシリンダ25a〜25d内のWC圧Pwcの増大を規制する際に動作する常開型の電磁弁である増圧弁74a,74b,74c,74dと、WC圧Pwcを減少させる際に動作する常閉型の電磁弁である減圧弁75a,75b,75c,75dとが設けられている。
また、第1及び第2の液圧回路711,712には、ホイールシリンダ25a〜25dから減圧弁75a〜75dを通じて流出したブレーキ液を一時貯留するためのリザーバ761,762と、ポンプ用モータ77の回転に基づき動作する供給ポンプ781,782とが接続されている。リザーバ761,762は、吸入用流路791,792を通じて供給ポンプ781,782に接続されるとともに、マスタ側流路801,802を通じて差圧調整弁721,722よりもマスタシリンダ61側の通路に接続されている。また、供給ポンプ781,782は、供給用流路811,812を通じて差圧調整弁721,722と増圧弁74a〜74dの間の接続部位821,822に接続されている。
そして、供給ポンプ781,782は、ポンプ用モータ77が駆動する場合に、リザーバ761,762及びマスタシリンダ61内から吸入用流路791,792及びマスタ側流路801,802を通じてブレーキ液を汲み取り、該ブレーキ液を供給用流路811,812内に吐出する。すなわち、差圧調整弁721,722と供給ポンプ781,782とが動作することによって、マスタシリンダ61とホイールシリンダ25a〜25dとの間に差圧が発生し、同差圧に応じた制動力が車両に付与されるようになっている。
ただし、供給ポンプ781,782が動作している状況下で、差圧調整弁721,722が全開である場合、供給ポンプ781,782からブレーキ液が吐出されていても、吐出されたブレーキ液は、ホイールシリンダ25a〜25d内に供給されず、マスタシリンダ61側に戻される。すなわち、ホイールシリンダ25a〜25d内のWC圧Pwcが増大されず、車両に付与する制動力が増大されない。
なお、上記の圧力センサSE9は、マスタシリンダ61と差圧調整弁721との間の経路に接続されている。そのため、圧力センサSE9は、マスタシリンダ61内の液圧であるMC圧Pmcを検出することができる。
車両の運転支援装置の一例である制御装置50を構成するブレーキECU53は、降坂路での車両の走行を支援する制御として、DACなどの車両降坂制御を実施するようになっている。DACは「Downhill Assist Control」の略記である。なお、車両降坂制御の開始条件は、車両の車体速度VSが開始速度VSTh以上であることを含んでいる。
車両降坂制御は、ブレーキアクチュエータ23を作動させることにより、極低速(例えば、5km/h)に設定された目標速度を車両の車体速度が超えないように車両に付与される制動力を調整する制御である。すなわち、車両降坂制御の開始条件が成立すると、目標制動力が、その時点の車体速度及び目標速度に基づいて決定され、車両に付与される制動力が目標制動力に近づくように、ブレーキアクチュエータ23が制御される。具体的には、車両降坂制御の実施中にあっては、供給ポンプ781,782が一定速度で動作し続け、差圧調整弁721,722の開度が、目標制動力に応じた開度にされる。そして、こうした車両降坂制御が実施されることにより、車両の車体速度が大きくなりすぎることが抑制されるため、運転者はステアリングホイールの操作に集中することが可能となる。
なお、上記の車両降坂制御は、降坂路の走行時に限らず、実施することができる。例えば、凍結している路面などのように摩擦係数の低い路面を車両が走行する際でも車両降坂制御を実施することにより、運転者による車両操作を適切に支援することができる。
ところで、ブレーキECU53が実施する車両降坂制御は、上述したように降坂路を車両に極低速で走行させるための制動制御に加え、降坂路で停止している車両の発進時における急加速を抑制する降坂路発進制御を含んでいる。この点で、本明細書では、この降坂路発進制御が「運転支援制御」の一例であり、同降坂路発進制御を実施するブレーキECU53により、「制御部」の一例が構成されている。
降坂路発進制御は、上記の起動スイッチ32がオンであること、及び、ブレーキ操作によって車両が停止していることの双方が成立しているときに開始される第1のモードと、車両に付与される制動力の減少速度を制御することにより、発進する車両の急加速を抑制する第2のモードとを有している。
すなわち、起動スイッチ32がオンであり、運転者によるブレーキ操作によって車両が停止されると、降坂路発進制御の第1のモードが開始される。また、運転者によるブレーキ操作によって車両が停止されてから起動スイッチ32がオンにされた場合、起動スイッチ32がオンになったことを契機に、降坂路発進制御の第1のモードが開始される。第1のモードが実施されているときには、ブレーキアクチュエータ23の差圧調整弁721,722の開度が、制動力指示値に応じた開度に設定される。これにより、第1のモードの実施中にあっては、車両に付与される制動力が、制動力指示値未満にならなくなる。制動力指示値の決定方法については後述する。なお、こうした第1のモードの実施中であっても、運転者によるブレーキ操作量が多い場合には、車両に付与される制動力が、上記制動力指示値よりも大きくなることもあり得る。
このような第1のモードが実施されている最中に、後述する第2のモードへの移行条件が成立すると、降坂路発進制御のモードが第1のモードから第2のモードに移行される。この第2のモードが実施されているとき、上記の制動力指示値が予め設定された規定の減少速度で小さくされる。具体的には、ブレーキアクチュエータ23の差圧調整弁721,722の開度が、予め設定された速度で徐々に大きくされる。これにより、車両に付与される制動力の減少速度が制御される。その結果、停止している車両がゆっくりと発進するようになる。
ところで、第1のモードが実施されている最中に、運転者によるブレーキ操作量の減少途中で上記移行条件が成立し、第2のモードによるブレーキアクチュエータ23の制御が開始されることとなる。このときの運転者によるブレーキ操作の態様によっては、ブレーキ操作量が減少している、又はブレーキ操作が解消されたにも拘わらず、運転者が所望する車両の動きと車両の実際の動きとに乖離が生じ、車両がなかなか発進しないことがある。この場合、運転者は、引っかかり感を覚え、不快に感じるおそれがある。
そこで、本実施形態の車両の運転支援装置である制御装置50では、第1の条件が成立したときに、降坂路発進制御のモードを第1のモードから第2のモードに移行するようにした。第1の条件は、MC圧Pmcが、第1の操作量基準値の一例である第1のMC圧判定値PmcTh1以下であること、及び、MC圧の減圧速度DPmcが、基準速度の一例である減圧速度判定値DPmcTh以上であることを含んでいる。
なお、MC圧Pmcが第1のMC圧判定値PmcTh1以下である状況下でブレーキ操作量が減少されるに際し、その減圧速度DPmcが減圧速度判定値DPmcTh以上であるときには、運転者がブレーキ操作を解消させる意志を有していると判断することができるような値に、第1のMC圧判定値PmcTh1が予め決定されている。また、減圧速度DPmcが減圧速度判定値DPmcTh未満である場合には、運転者によるブレーキ操作態様によって車両をゆっくりと発進することが可能と判断することができるような値に、減圧速度判定値DPmcThが予め決定されている。
ちなみに、第1のMC圧判定値PmcTh1は、車両の位置する降坂路の勾配が大きいほど大きい値に決定される。例えば、後述する勾配WC圧指示値PwcG_Iは、車両の位置する降坂路の勾配が大きいほど大きい値に決定される。そして、第1のMC圧判定値PmcTh1は、こうした勾配WC圧指示値PwcG_Iから所定のオフセット値を減じた差とされる。なお、このオフセット値は、詳しくは後述するが、降坂路発進制御の実施中における車両の発進時に同車両の飛び出しが発生しないように、小さい値に設定されている。
ただし、第1のモードでブレーキアクチュエータ23が制御されている最中での運転者によるブレーキ操作の態様によっては、第1の条件が成立しないこともある。そこで、本実施形態の車両の運転支援装置である制御装置50では、第1の条件が成立しない場合であっても、ブレーキ操作量が減少されている最中に第2の条件が成立したときには、降坂路発進制御のモードを第1のモードから第2のモードに移行するようにした。第2の条件は、MC圧Pmcが、第2の操作量基準値の一例である第2のMC圧判定値PmcTh2以下であることを含んでいる。
この第2のMC圧判定値PmcTh2は、第1のMC圧判定値PmcTh1よりも小さく、且つ「0(零)」よりも大きい値である。そして、MC圧Pmcが第2のMC圧判定値PmcTh2以下である状況下でブレーキ操作量が減少される場合には、その減圧速度DPmcの大小に拘わらず、運転者がブレーキ操作を解消させる意志を有していると判断することができるような値に、第2のMC圧判定値PmcTh2が予め決定されている。
すなわち、本実施形態の車両の運転支援装置では、第1の条件が成立したときに降坂路発進制御のモードを第1のモードから第2のモードに移行させることにより、ブレーキ操作が解消された時点、すなわちブレーキスイッチSW1がオフになった時点よりも前から、車両に付与される制動力を制御によって減少させることができる。そのため、ブレーキ操作の解消時点でモードを第1のモードから第2のモードに移行させる場合と比較し、運転者の所望する車両の動きと車両の実際の動きとの乖離が生じにくくなる分、運転者に引っかかり感を与えにくくなる。また、第1の条件が成立しなくても第2の条件が成立することで、モードを第1のモードから第2のモードに移行させることができる。そのため、マスタシリンダ61のMC圧Pmcの減圧速度が小さい場合であっても、第1のモードから第2のモードへの移行を確実に行わせることができる。
また、第2のモードでブレーキアクチュエータ23が制御されている最中に、一度解消したブレーキ操作を運転者が再び行ったり、運転者によってブレーキ操作量が増大されたりすることがある。この場合、第2のモードの実施によって上記の制動力指示値が減少しているにも拘わらず、MC圧Pmcが大きくなり、車両に付与される制動力が増大されることとなる。こうした状況下でも第2のモードの実施を継続させた場合、車両に付与される制動力が大きくても制動力指示値が「0(零)」となってしまうことがある。そして、この状態で運転者がブレーキ操作を解消させると、制動力指示値が「0(零)」であるためにブレーキアクチュエータ23の差圧調整弁721,722を作動させることができず、車両に付与される制動力をブレーキアクチュエータ23によって制御することが困難となる。
そこで、本実施形態の車両の運転支援装置である制御装置50では、第2のモードの実施によって制動力指示値が減少されている最中に、ブレーキ操作量の増大によって操作量相当値の一例であるMC圧Pmcが大きくなって車両が停止するときには、実施する運転支援制御のモードが第1のモードに戻される。より具体的には、MC圧Pmcの増大によって車両が停止したと判定できるときに、モードが第1のモードに戻される。すると、制動力指示値が第1のモードによって決定され、差圧調整弁721,722の開度が同制動力指示値に応じた開度に調整される。そのため、その後の運転者によるブレーキ操作によって第1の条件又は第2の条件が成立し、第1のモードから第2のモードに移行されたとしても、差圧調整弁721,722の開度を徐々に大きくすることができる。すなわち、車両に付与される制動力をブレーキアクチュエータ23によって制御することができる。その結果、車両に付与される制動力が徐々に減少されるようになり、発進時における車両の急加速が抑制される。
次に、図3に示すフローチャートを参照し、降坂路発進制御を実施するためにブレーキECU53が実行する処理ルーチンについて説明する。この処理ルーチンは、起動スイッチ32がオンであるときには予め設定されている制御サイクル毎に実行される。
図3に示すように、本処理ルーチンにおいて、ブレーキECU53は、降坂路発進制御を実施している最中であるか否かを判定する(ステップS11)。例えば、ブレーキECU53は、後述するステップS14やステップS20で決定されるWC圧指示値Pwc_Iが「0(零)」よりも大きいときには降坂路発進制御の実施中と判断することができる一方、WC圧指示値Pwc_Iが「0(零)」であるときには降坂路発進制御を実施していないと判断することができる。
降坂路発進制御を実施していない場合(ステップS11:NO)、ブレーキECU53は、運転者によってブレーキ操作が行われていること、及び、車両が停止していることの双方が成立しているか否かを判定する(ステップS12)。すなわち、ステップS12では、降坂路発進制御の第1のモードの開始条件が成立しているか否かが判定される。例えば、ブレーキECU53は、各車輪FR,FL,RR,RLのうち少なくとも1つの車輪の車輪速度VWに基づいて車両の車体速度VSを演算し、この車体速度VSが停止判断速度未満であるときに車両が停止していると判断することができる。
そして、運転者によってブレーキ操作が行われていること、及び、車両が停止していることのうち少なくとも一方が成立していない場合(ステップS12:NO)、ブレーキECU53は、本処理ルーチンを一旦終了する。一方、運転者によってブレーキ操作が行われていること、及び、車両が停止していることの双方が成立している場合(ステップS12:YES)、ブレーキECU53は、降坂路発進制御の第1のモードでのブレーキアクチュエータ23の制御を開始する。
すなわち、ステップS13において、ブレーキECU53は、勾配制動力指示値の一例に相当する勾配WC圧指示値PwcG_Iを、車両の停止している降坂路の勾配が大きいほど大きい値に決定する。これは、降坂路の勾配が大きい場合ほど、車両の急発進を抑制するために必要な制動力が大きくなるためである。例えば、ブレーキECU53は、前後方向加速度センサSE8によって検出される前後加速度Gxと、車両の車体速度VSを時間微分した値である車体速度微分値との差から、降坂路の勾配の推定値を演算することができる。
続いて、ブレーキECU53は、演算した勾配WC圧指示値PwcG_Iと、圧力センサSE9によって検出されているMC圧Pmcとのうち小さい方の値を、WC圧指示値Pwc_Iとする(ステップS14)。このステップS14で決定したWC圧指示値Pwc_Iが、第1のモードでの「制動力指示値」の一例に相当する。その後、ブレーキECU53は、その処理を次のステップS15に移行する。
ステップS15において、ブレーキECU53は、決定したWC圧指示値Pwc_Iに基づきブレーキアクチュエータ23を制御する。すなわち、ブレーキECU53は、ブレーキアクチュエータ23の差圧調整弁721,722の開度を、WC圧指示値Pwc_Iが大きいほど小さくする。なお、降坂路発進制御の実施によってブレーキアクチュエータ23を作動させる場合、ブレーキECU53は、供給ポンプ781,782を作動させなくてもよいし、供給ポンプ781,782を作動させてもよい。その後、ブレーキECU53は、本処理ルーチンを一旦終了する。
その一方で、ステップS11において、降坂路発進制御を実施している最中である場合(YES)、ブレーキECU53は、実施している降坂路発進制御のモードが第1のモードであるか否かを判定する(ステップS16)。実施しているモードが第1のモードである場合(ステップS16:YES)、ブレーキECU53は、上記第1の条件が成立しているか否かを判定する(ステップS17)。MC圧Pmcは、圧力センサSE9によって検出された値であり、MC圧の減圧速度DPmcは、MC圧Pmcを時間微分した値に「−1」を乗じた値である。そのため、減圧速度DPmcは、MC圧Pmcが減少しているときには正の値となり、MC圧Pmcが増大しているときには負の値となる。
第1の条件が成立している場合(ステップS17:YES)、ブレーキECU53は、その処理を後述するステップS19に移行する。すなわち、降坂路発進制御のモードが、第1のモードから第2のモードに移行される。一方、第1の条件が成立していない場合(ステップS17:NO)、ブレーキECU53は、上記第2の条件が成立しているか否かを判定する(ステップS18)。第2の条件が成立している場合(ステップS18:YES)、ブレーキECU53は、その処理を後述するステップS19に移行する。すなわち、降坂路発進制御のモードが、第1のモードから第2のモードに移行される。
一方、第2の条件が成立していない場合(ステップS18:NO)、ブレーキECU53は、その処理を前述したステップS13に移行する。すなわち、第1の条件及び第2の条件の双方が成立していない場合、ブレーキECU53は、第1のモードでのブレーキアクチュエータ23の差圧調整弁721,722の開度調整を継続する。
その一方で、ステップS16において、実施している降坂路発進制御のモードが第2のモードである場合(NO)、ブレーキECU53は、その処理を次のステップS19に移行する。
そして、実行する処理がステップS19に移行されると、ブレーキECU53は、第2のモードを実施する。すなわち、ステップS19において、ブレーキECU53は、WC圧指示値の前回値Pwc_I(n−1)から単位減少量ΔPwcを減じた差を、WC圧指示候補値Pwc_IAとする。WC圧指示値の前回値Pwc_I(n−1)とは、本処理ルーチンが前回に実行されたときに決定されたWC圧指示値である。また、単位減少量ΔPwcは、車両に付与される制動力の急減を抑制するために決定されている値である。なお、単位減少量ΔPwcは、WC圧指示値Pwc_Iの減少速度が上記減圧速度判定値DPmcThよりも小さくなるような大きさに決定されている。
続いて、ブレーキECU53は、演算したWC圧指示候補値Pwc_IAと、「0(零)」とのうち大きい方の値をWC圧指示値Pwc_Iとする(ステップS20)。このステップS20で決定したWC圧指示値Pwc_Iが、第2のモードでの「制動力指示値」の一例に相当する。そして、ブレーキECU53は、マスタシリンダ61のMC圧Pmcの増大によって車両が停止したか否かを判定する(ステップS21)。例えば、ブレーキECU53は、車両の車体速度VSが停止判断速度未満であるときに車両が停止していると判断することができる。そして、車両が停止していない場合(ステップS21:NO)、ブレーキECU53は、その処理を前述したステップS15に移行する。すなわち、ブレーキECU53は、第2のモードでブレーキアクチュエータ23の差圧調整弁721,722の開度調整を行う。
一方、MC圧Pmcの増大によって車両が停止した場合(ステップS21:YES)、ブレーキECU53は、その処理を前述したステップS13に移行する。すなわち、ブレーキECU53は、実施する降坂路発進制御のモードを第2のモードから第1のモードに戻す。
なお、第2のモードの実施によって差圧調整弁721,722の開度が徐々に大きくなっている状況下で、例えば車両の車体速度VSが開始速度VSTh以上であることがある。この場合、ブレーキECU53は、車体速度VSが目標速度を超えないように制動力指示値であるDAC指示値を決定し、このDAC指示値と上記ステップS20で決定したWC圧指示値Pwc_Iとを比較する。そして、ブレーキECU53は、DAC指示値がWC圧指示値Pwc_I未満であるときには降坂路発進制御を実施する。一方、ブレーキECU53は、DAC指示値がWC圧指示値Pwc_I以上であるときには、上記DAC指示値に基づいてブレーキアクチュエータ23を制御する。このとき、ブレーキECU53は、差圧調整弁721,722だけではなく、供給ポンプ781,782もまた作動させる。
ここで、勾配WC圧指示値PwcG_Iを、車両の位置する降坂路において車両の停止を保持可能な値の最小値とし、第1のMC圧判定値PmcTh1を、勾配WC圧指示値PwcG_Iとは無関係に固定値とした場合を比較例として説明する。こうした比較例では、車両の位置する路面の勾配によって、第1のMC圧判定値PmcTh1が勾配WC圧指示値PwcG_Iよりも大きくなったり、第1のMC圧判定値PmcTh1が勾配WC圧指示値PwcG_I以下になったりする。
(A)第1のMC圧判定値PmcTh1が勾配WC圧指示値PwcG_Iよりも大きい場合。
この場合、運転者によるブレーキ操作によって車両の停止が保持されている段階で、第1の条件が成立し、第1のモードから第2のモードに移行されることがある。第1のモードの実施中では、マスタシリンダ61のMC圧Pmcと勾配WC圧指示値PwcG_Iとのうち小さい方の値がWC圧指示値Pwc_Iとされており、第2のモードに移行されると、WC圧指示値Pwc_Iは、モードの移行時点の指示値から減少される。また、モードの移行時点では、マスタシリンダ61のMC圧PmcがWC圧指示値Pwc_Iよりも大きい。そのため、第2のモードが実施されるようになっても、第2のモードの開始時点からMC圧PmcがWC圧指示値Pwc_I未満となる時点までの期間では、MC圧Pmcに応じた制動力が車両に付与されることとなる。すなわち、当該期間では、車両の加速態様はMC圧Pmcの変化に応じた態様となり、第2のモードが有効に機能しない。
さらに、運転者によるブレーキ操作の態様によっては、車両の停止が保持されている状態のまま、WC圧指示値Pwc_Iが減少し続けて「0(零)」となることがあり得る。この場合、運転者によるブレーキ操作によってMC圧Pmcが急減され、同MC圧Pmcが勾配WC圧指示値PwcG_Iを一気に下回るような事態になると、本来は降坂路発進制御が必要であるにも拘わらず、WC圧指示値Pwc_Iが「0(零)」であるために、降坂路発進制御が実施されないことがある。このように降坂路発進制御が実施されないと、発進する車両が急加速するおそれがある。
(B)第1のMC圧判定値PmcTh1が勾配WC圧指示値PwcG_Iに対して小さすぎる場合。
第1のモードの実施中では、マスタシリンダ61のMC圧Pmcと勾配WC圧指示値PwcG_Iとのうち小さい方の値がWC圧指示値Pwc_Iとされるため、第1のモードから第2のモードに移行する前に、MC圧Pmcが勾配WC圧指示値PwcG_Iを下回り、路面勾配に応じた重力の作用によって車両が動き出す。この場合、第1のMC圧判定値PmcTh1が勾配WC圧指示値PwcG_Iに対して小さすぎるため、このように車両が動き始めても第2のモードになかなか移行されず、車両の加速度が大きくなり、車両の飛び出しが発生し得る。こうした車両の飛び出しを抑えるためには、勾配WC圧指示値PwcG_Iから第1のMC圧判定値PmcTh1を減じた差を小さくすることが望ましい。
これに対し、本実施形態の車両の運転支援装置にあっては、第1のMC圧判定値PmcTh1が勾配WC圧指示値PwcG_Iよりも小さいものの、第1のMC圧判定値PmcTh1と勾配WC圧指示値PwcG_Iとの差分が極力小さくなっている。すなわち、降坂路発進制御の実施中における車両の飛び出しを、仕様上許容される範囲内に収めることができるように、当該差分に相当する上記オフセット値が設定されている。そのため、上記(A),(B)のような課題を解決することができる。
次に、図4に示すタイミングチャートを参照し、降坂路で停止している車両を発進させる際の作用について説明する。なお、前提として、運転者によるブレーキ操作量が減少している最中に第1の条件が成立するものとする。
図4(a),(b),(c),(d),(e)に示すように、降坂路を車両が走行している第1のタイミングt11で、運転者によってブレーキ操作が開始される。すると、運転者によるブレーキ操作量の増大に伴って、圧力センサSE9によって検出されるMC圧Pmcが増大されるとともに、各ホイールシリンダ25a〜25d内のWC圧Pwcが増大される。これにより、車両に付与される制動力が大きくなり、車両の車体速度VSが徐々に小さくなる。
そして、第2のタイミングt12で車両が停止される(ステップS12:YES)。すると、降坂路発進制御の第1のモードによるブレーキアクチュエータ23の制御が開始される。図4に示す例では、第2のタイミングt12から後述する第4のタイミングt14までの期間では、勾配WC圧指示値PwcG_Iが、圧力センサSE9によって検出されるMC圧Pmcよりも小さいため、WC圧指示値Pwc_Iは、勾配WC圧指示値PwcG_Iと等しくされる(ステップS14)。すなわち、当該期間では、ブレーキアクチュエータ23の差圧調整弁721,722の開度が、勾配WC圧指示値PwcG_Iに応じた開度になる(ステップS15)。
この場合、降坂路発進制御の第1のモードによるブレーキアクチュエータ23の制御が開始される前に、WC圧Pwcは勾配WC圧指示値PwcG_Iよりも大きくなっている。そして、第2のタイミングt12から第4のタイミングt14までの期間では、WC圧Pwcは、勾配WC圧指示値PwcG_Iよりも大きいMC圧Pmcとほぼ等しくなっている。
このように降坂路発進制御の第1のモードによってブレーキアクチュエータ23が制御されている第3のタイミングt13で、運転者によるブレーキ操作量の減少が開始される。すると、MC圧Pmcの減少に応じて、WC圧Pwcもまた減少される。そして、第4のタイミングt14で、MC圧Pmcが、勾配WC圧指示値PwcG_Iよりも小さくなる。その結果、第4のタイミングt14から次の第5のタイミングt15までの期間では、WC圧指示値Pwc_Iが、MC圧Pmcと等しくなる(ステップS14)。すなわち、当該期間では、MC圧Pmcの減少に連動し、ブレーキアクチュエータ23の差圧調整弁721,722の開度が大きくされる(ステップS15)。その結果、WC圧Pwcもまた、MC圧Pmcの減少に連動して減少される。
なお、第4のタイミングt14では、MC圧の減圧速度DPmcが減圧速度判定値DPmcTh以上になる。しかし、このタイミングでは、MC圧Pmcが第1のMC圧判定値PmcTh1よりも大きいため、第1の条件が未だ成立しない(ステップS17:NO)。その後の第5のタイミングt15で、MC圧Pmcが第1のMC圧判定値PmcTh1以下になる。この第5のタイミングt15では、MC圧の減圧速度DPmcが減圧速度判定値DPmcTh以上であるため、第1の条件が成立される(ステップS17:YES)。その結果、降坂路発進制御のモードが第1のモードから第2のモードに移行される。
すると、WC圧指示値Pwc_Iが一定速度で減少される(ステップS19,S20)。これにより、ブレーキアクチュエータ23の差圧調整弁721,722の開度もまた一定速度で大きくされる(ステップS15)。その結果、WC圧Pwc、すなわち車両に付与される制動力が、WC圧指示値Pwc_Iの減少速度とほぼ等しい速度で減少される。この場合、WC圧Pwcの減圧速度は、第5のタイミングt15でのMC圧Pmcの減圧速度よりも小さくなっている。
すると、第5のタイミングt15の直後であって、運転者が未だブレーキ操作を行っているタイミングである第6のタイミングt16で、車両が発進する。このとき、車両に付与される制動力はゆっくりと減少しているため、発進時における車両の急加速が抑制される。
このように第2のモードでブレーキアクチュエータ23が制御されている最中の第7のタイミングt17で、運転者によるブレーキ操作が終了される。この第7のタイミングt17では、WC圧指示値Pwc_Iが未だ「0(零)」になっていないため、第7のタイミングt17以降でも、降坂路発進制御の実施が継続される(ステップS19,S20,S15)。その後、第8のタイミングt18で、WC圧指示値Pwc_Iが「0(零)」となる。この場合、差圧調整弁721,722の開度は「0(零)」となり、降坂路発進制御が終了される。
なお、第2のモードの実施によってWC圧指示値Pwc_Iの減少が開始される第5のタイミングt15以降において、差圧調整弁721,722の開度が徐々に大きくなっている最中に、運転者がブレーキ操作量を増大させたり、一回解消したブレーキ操作を運転者が再び行ったりすることがある。この場合、WC圧指示値Pwc_Iが減少しているにも拘わらず、MC圧Pmcが大きくなる。そして、こうした状況下であっても車両が未だ停止していないときには(ステップS21:NO)、第2のモードでの差圧調整弁721,722の開度調整が継続される。しかし、ブレーキ操作量の増大によって車両が停止したときには(ステップS21:YES)、降坂路発進制御のモードが第2のモードから第1のモードに戻される。すると、WC圧指示値Pwc_Iは、勾配WC圧指示値PwcG_Iと、MC圧Pmcとのうち小さい方の値に変更される(ステップS14)。このようにWC圧指示値Pwc_Iが大きくなると、差圧調整弁721,722の開度が小さくされる(ステップS15)。
そして、上記のようにモードが第1のモードに戻された以降での運転者によるブレーキ操作によって、第1の条件又は第2の条件が成立した場合、モードが第1のモードから第2のモードに移行される。こうしたモードの移行時点において、WC圧指示値Pwc_Iは、移行時点のMC圧Pmcと等しくなっており、「0(零)」ではない。したがって、第2のモードによって、WC圧指示値Pwc_Iを徐々に減少させることができるため、差圧調整弁721,722の開度を徐々に大きくすることができる(ステップS19,S20,S15)。すなわち、WC圧Pwcが徐々に減少される。
次に、図5に示すタイミングチャートを参照し、降坂路で停止している車両を発進させる際の作用について説明する。なお、前提として、運転者によるブレーキ操作量が減少している最中に、第1の条件は成立しないで第2の条件が成立するものとする。
図5(a),(b),(c),(d),(e)に示すように、降坂路発進制御の第1のモードでブレーキアクチュエータ23が制御されている第1のタイミングt21で、運転者によるブレーキ操作量の減少が開始される。すると、その後の第2のタイミングt22で、MC圧Pmcが勾配WC圧指示値PwcG_Iを下回るようになるため、WC圧指示値Pwc_Iが、MC圧Pmcと等しくなる(ステップS14)。すると、ブレーキアクチュエータ23の差圧調整弁721,722の開度は、MC圧Pmcの減少に連動して大きくされる(ステップS15)。
このようにMC圧Pmcが減少している第3のタイミングt23で、MC圧Pmcが第1のMC圧判定値PmcTh1未満となるものの、MC圧の減圧速度DPmcが減圧速度判定値DPmcTh以上にならず、第1の条件が成立しない(ステップS17:NO)。したがって、この第3のタイミングt23では、未だ降坂路発進制御のモードが第2のモードに移行されない。
そして、MC圧Pmcが第2のMC圧判定値PmcTh2よりも未だ大きい第4のタイミングt24で、車両が発進する。この場合、ブレーキ操作量がゆっくりと減少しているため、WC圧Pwcもゆっくりと減少されている。その結果、車両は、急発進することなく、ゆっくりと発進する。
このように車両が発進した後の第5のタイミングt25で、MC圧Pmcが第2のMC圧判定値PmcTh2以下になり、第2の条件が成立する(ステップS18:YES)。そのため、この第5のタイミングt25で、降坂路発進制御のモードが第1のモードから第2のモードに移行される。すると、WC圧指示値Pwc_Iが一定速度で減少される(ステップS19,S20)。この際のWC圧指示値Pwc_Iの減少速度は、第1の条件が成立した際におけるWC圧指示値Pwc_Iの減少速度と等しい。そして、こうしたWC圧指示値Pwc_Iの減少によって、ブレーキアクチュエータ23の差圧調整弁721,722の開度もまた一定速度で大きくされる(ステップS15)。その結果、WC圧Pwc、すなわち車両に付与される制動力が、WC圧指示値Pwc_Iの減少速度とほぼ等しい速度で減少される。
なお、図5に示す例では、その後の第6のタイミングt26で、運転者によるブレーキ操作が終了される。この第6のタイミングt26では、WC圧指示値Pwc_Iが未だ「0(零)」になっていない。そのため、降坂路発進制御は、WC圧指示値Pwc_Iが「0(零)」となる第7のタイミングt27まで実施される(ステップS19,S20,S15)。
以上、上記構成及び作用によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)運転者によるブレーキ操作によって車両に制動力が付与されている状況下で、ブレーキ操作量の減少中に第1の条件が成立すると、降坂路発進制御の第2のモードでブレーキアクチュエータ23が制御されることにより、車両に付与されている制動力が徐々に減少される。すなわち、ブレーキ操作の解消時点よりも前から制動力を減少させることができる。そのため、ブレーキ操作の解消時点から第2のモードでのブレーキアクチュエータ23の制御を開始させる場合よりも、ブレーキ操作を行う運転者が所望する車両の動きと車両の実際の動きとに乖離が生じにくくなり、運転者が引っかかりを感じにくくなる。しかも、制動力の減少速度は、上記減圧速度判定値DPmcThよりも小さい。このように車両に付与される制動力の急激な減少を抑制することにより、発進時における車両の急加速を抑制することができる。
なお、第1の条件は、運転者によるブレーキ操作量の減少速度が小さいときには成立しにくい。そこで、本実施形態では、第1の条件とは別に第2の条件を設け、第1の条件が成立しなくても第2の条件が成立したときには、降坂路発進制御の第2のモードでブレーキアクチュエータ23が制御されるようになる。すなわち、車両に付与される制動力が徐々に減少される。そのため、ブレーキ操作量の減少速度が小さい場合であっても、降坂路発進制御によって制動力の減少速度を制御することにより、車両に付与されている制動力を減少させることができる。
したがって、車両の発進時に降坂路発進制御を実施するに際し、同車両の急加速の抑制と、ドライバビリティの低下の抑制との両立を図ることができる。
(2)しかも、本実施形態では、第2のMC圧判定値PmcTh2は「0(零)」よりも大きい値に決定されている。そのため、第1の条件が成立せずに第2の条件が成立する場合であっても、第2のモードでのブレーキアクチュエータ23の制御を、ブレーキ操作の解消時点よりも前から開始させることができる。したがって、第1の条件が成立せずに第2の条件が成立する場合であっても、発進時における車両の急加速の抑制と、ドライバビリティの低下の抑制との両立を図ることができる。
(3)車両を降坂路で停止させる場合、車両の停止を維持させるために必要な制動力は降坂路の勾配が大きいほど大きくなる。そして、車両が停止している状況下でブレーキ操作量の減少が開始され、MC圧Pmcが小さくなっている最中に、第1の条件又は第2の条件が成立すると、降坂路発進制御の第2のモードの実施によって、車両に付与される制動力がゆっくりと減少されるようになる。
また、本実施形態にあっては、第1のMC圧判定値PmcTh1が勾配WC圧指示値PwcG_Iよりも小さいものの、第1のMC圧判定値PmcTh1と勾配WC圧指示値PwcG_Iとの差分が極力小さくなっている。そのため、上記(A)及び(B)で説明した比較例とは異なり、降坂路発進制御の実施中における車両の飛び出しを、仕様上許容される範囲内に収めることができる。すなわち、どのような勾配の降坂路での発進時であっても、降坂路発進制御の実施によって、発進時における車両の急加速を抑えることができる。
(4)本実施形態では、運転者によるブレーキ操作中において第1の条件や第2の条件が成立する以前から、降坂路発進制御の第1のモードによってブレーキアクチュエータ23の差圧調整弁721,722の開度が調整されている。しかも、第1のモードでのWC圧指示値Pwc_Iは、勾配WC圧指示値PwcG_IとMC圧Pmcとのうち小さい方の値となっている。そのため、第1のモードから第2のモードへの移行直前にあっては、WC圧指示値Pwc_IがMC圧Pmcと等しくなっている。すなわち、第1のモードから第2のモードへの移行直前では、運転者によるブレーキ操作の態様に応じ、車両に付与される制動力を変動させることができる。
ここで、勾配WC圧指示値PwcG_IとMC圧Pmcとのうち大きい方の値をWC圧指示値Pwc_Iとする第1のモードを比較例の第1のモードとしたとする。この場合、第1のモードから第2のモードへの移行直前では、WC圧指示値Pwc_Iは、勾配WC圧指示値PwcG_Iとなっている。すなわち、上記移行直前では、ブレーキ操作量が減少しているにも拘わらず、車両に付与される制動力が一時的に保持されてしまうこととなる。そのため、こうした点で運転者に不快感を与えてしまう。この点、本実施形態で実施される第1のモードでは、勾配WC圧指示値PwcG_IとMC圧Pmcとのうち小さい方の値をWC圧指示値Pwc_Iとしている。そのため、上記移行直前で車両に実際に付与されている制動力と、その時点のブレーキ操作量に準じた制動力との乖離が生じにくくなり、ドライバビリティを向上させることができる。
(5)降坂路発進制御としては、起動スイッチ32がオンであり、車両が停止しているときに、第1のモードで差圧調整弁721,722を制御しない制御も考えることができる。こうした比較例の制御を採用した場合、第1の条件又は第2の条件が成立すると、差圧調整弁721,722の開度調整が開始されることとなる。この場合、差圧調整弁721,722の開度が、WC圧指示値Pwc_Iに応じた開度になるまでに多少の時間が必要となり、その間に実際のWC圧PwcがWC圧指示値Pwc_Iよりも小さくなることがあり、第2のモードでのWC圧Pwcの制御性の低下を招くおそれがある。
これに対し、本実施形態では、起動スイッチ32がオンであり、車両が停止すると、第1のモードでブレーキアクチュエータ23の差圧調整弁721,722が制御されるようになる。そのため、第1の条件又は第2の条件が成立する時点では、差圧調整弁721,722が既に作動されている。したがって、上記比較例の場合とは異なり、第2のモードの開始直後でのWC圧の制御性の低下を抑制することができる。
(6)また、本実施形態では、第2のモードの実施によってWC圧指示値Pwc_Iが徐々に減少されている最中での運転者によるブレーキ操作によって車両に付与される制動力が増大され、車両が停止されると、モードが第2のモードから第1のモードに戻される。これにより、WC圧指示値Pwc_Iが第1のモードによって決定され、差圧調整弁721,722の開度が同WC圧指示値Pwc_Iに応じた開度に調整される。その後の運転者によるブレーキ操作によって第1の条件又は第2の条件が成立し、第2のモードに移行されたときには、差圧調整弁721,722の開度を調整することができ、車両に付与される制動力の減少をブレーキアクチュエータ23によって制御することができる。その結果、車両に付与される制動力が徐々に減少されるようになり、発進時における車両の急加速を抑制することができる。
なお、上記実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・上記実施形態では、第1の条件が成立した場合であっても、第2の条件が成立した場合であっても、第2のモード中におけるWC圧指示値Pwc_Iの減少速度を一定としていた。しかし、第1の条件が成立した場合と第2の条件が成立した場合とで、第2のモード中におけるWC圧指示値Pwc_Iの減少速度を変更してもよい。
第1の条件が成立する場合、ブレーキ操作量の減少速度が比較的大きい。そのため、発進する車両の急加速を抑制するという観点上、第1の条件の成立を契機に車両に付与される制動力を減少させる場合、WC圧指示値Pwc_Iの減少速度を小さくすることが望ましい。これに対し、第2の条件が成立する場合、ブレーキ操作量の減少速度が比較的小さい。すなわち、第1の条件が成立せず、第2の条件が成立するような場合、ブレーキ操作量の減少速度とほぼ等しい減少速度で、車両に付与される制動力を減少させても、発進する車両が急加速するという事象が生じにくい。
そこで、第2の条件が成立した場合のWC圧指示値Pwc_Iの減少速度である第2の減少速度を、第1の条件が成立した場合のWC圧指示値Pwc_Iの減少速度である第1の減少速度よりも大きくしてもよい。このように第2の減少速度を第1の減少速度よりも大きくしたことにより、第1の条件が成立しないで第2の条件が成立した場合には、MC圧の減圧速度DPmcが第2の減少速度よりも小さくなることがある。この場合、車両に付与される制動力の実際の減少速度は、MC圧の減圧速度DPmcに応じた速度となる。すなわち、車両に付与される制動力を、運転者によるブレーキ操作の態様に応じた速度で減少させることができる。その結果、発進時における車両の加速態様を、運転者によるブレーキ操作態様に近づけることができる。したがって、ブレーキ操作量がゆっくりと減少されるときには、発進時における車両の挙動を運転者のブレーキ操作の態様に近づけることができ、ひいてはドライバビリティを向上させることができる。
・第1のモードでブレーキアクチュエータ23を制御している場合、WC圧指示値Pwc_Iを勾配WC圧指示値PwcG_Iで保持するようにしてもよい。この場合、降坂路発進制御のモードが第1のモードから第2のモードに移行されたときには、移行時点の指示値、すなわち勾配WC圧指示値PwcG_IからWC圧指示値Pwc_Iを徐々に減少させるようにしてもよい。
・第2のMC圧判定値PmcTh2は、第1のMC圧判定値PmcTh1よりも小さい値であれば任意の値でよく、例えば、第2のMC圧判定値PmcTh2を「0(零)」としてもよい。
・第2のMC圧判定値PmcTh2は固定値であってもよいし可変値であってもよい。第2のMC圧判定値PmcTh2を可変値とする場合、第2のMC圧判定値PmcTh2を、車両の位置する降坂路の勾配に応じて可変とするようにしてもよい。例えば、降坂路の勾配に応じた第1のMC圧判定値PmcTh1から規定のオフセット値を減じ、この差を第2のMC圧判定値PmcTh2としてもよい。
・第2の条件を、MC圧が第2のMC圧判定値PmcTh2以下であることではなく、ブレーキスイッチSW1がオフであることとしてもよい。このようにブレーキスイッチSW1のオフで降坂路発進制御のモードを第1のモードから第2のモードに移行させることにより、MC圧の減圧速度DPmcが小さい場合であっても、第2のモードへの移行を確実に行わせることができる。
・第2のモードでブレーキアクチュエータ23を制御している状況下でのMC圧Pmcの増大によって車両の停止が予測されるのであれば、車両が停止したか否かを判断することなく、モードを第1のモードに戻すようにしてもよい。
図6には、降坂路発進制御を実施するための処理ルーチンの一部が図示されている。図6に示すように、上記ステップS20でWC圧指示値Pwc_Iを決定すると、ブレーキECU53は、降坂路で車両を停止させることのできる制動力に相当するWC圧である降坂路停止WC圧PwcGAを演算する(ステップS211)。この降坂路停止WC圧PwcGAは、車両の走行する降坂路の勾配が大きいほど大きい値になる。この点で、降坂路停止WC圧PwcGAが、「降坂路停止制動力」の一例に相当する。なお、WC圧が上記勾配WC圧指示値PwcG_Iと等しいときに降坂路での車両の停止を維持することができるのであれば、降坂路停止WC圧PwcGAは、勾配WC圧指示値PwcG_Iと等しくてもよい。しかし、WC圧を勾配WC圧指示値PwcG_Iと等しくしても降坂路での車両の停止を維持できない可能性がある場合には、降坂路停止WC圧PwcGAを、勾配WC圧指示値PwcG_Iよりも大きくすることが好ましい。
そして、ブレーキECU53は、圧力センサSE9によって検出されている現時点のMC圧Pmcが、決定した降坂路停止WC圧PwcGAよりも大きいか否かを判定する(ステップS212)。MC圧Pmcが降坂路停止WC圧PwcGA以下である場合(ステップS212:NO)、ブレーキECU53は、その処理を前述したステップS15に移行する。すなわち、ブレーキECU53は、第2のモードでブレーキアクチュエータ23の差圧調整弁721,722の開度調整を行う。一方、MC圧Pmcが降坂路停止WC圧PwcGAよりも大きい場合(ステップS212:YES)、ブレーキECU53は、その処理を前述したステップS13に移行する。すなわち、ブレーキECU53は、実施する降坂路発進制御のモードを第2のモードから第1のモードに戻す。
上記構成によれば、第2のモードの実施によってWC圧指示値Pwc_Iが徐々に減少されている最中での運転者によるブレーキ操作によって車両に付与される制動力が増大され、MC圧Pmcが降坂路停止WC圧PwcGAよりも大きくなると、モードが第2のモードから第1のモードに戻される。すなわち、第2のモードの実施中におけるブレーキ操作量の増大によって車両が停止するときには、モードが第1のモードに戻される。これにより、WC圧指示値Pwc_Iが第1のモードによって決定され、差圧調整弁721,722の開度が同WC圧指示値Pwc_Iに応じた開度に調整されるようになる。その後の運転者によるブレーキ操作によって第1の条件又は第2の条件が成立し、第2のモードに移行されたときには、差圧調整弁721,722の開度を調整することができ、車両に付与される制動力の減少をブレーキアクチュエータ23によって制御することができる。その結果、車両に付与される制動力が徐々に減少されるようになり、発進時における車両の急加速を抑制することができる。
・第1の条件が成立して第2のモードでブレーキアクチュエータ23が制御される場合、WC圧指示値Pwc_Iの減少速度を、第1の条件が成立した時点のMC圧の減圧速度DPmcよりも小さい範囲で可変としてもよい。例えば、WC圧指示値Pwc_Iの減少速度を、時間が経過するにつれて徐々に大きくするようにしてもよい。
・第2の条件が成立して第2のモードでブレーキアクチュエータ23が制御される場合、WC圧指示値Pwc_Iの減少速度を、第2の条件が成立した時点のMC圧の減圧速度DPmcと等しくしてもよい。
・上記実施形態では、勾配WC圧指示値PwcG_Iを演算した上で第1のMC圧判定値PmcTh1を求めているが、これに限らず、第1のMC圧判定値PmcTh1を路面の勾配に応じて演算し、同第1のMC圧判定値PmcTh1に基づいて勾配WC圧指示値PwcG_Iを求めるようにしてもよい。
・第1のMC圧判定値PmcTh1を固定値としてもよい。この場合であっても、第1のMC圧判定値PmcTh1は、第2のMC圧判定値PmcTh2よりも大きい値に設定されている。そのため、第1の条件の成立を契機に第2のモードの実施によってWC圧指示値Pwc_Iの減少を開始させることにより、ブレーキ操作の解消時点から第2のモードの実施によってWC圧指示値Pwc_Iの減少を開始させる場合よりも、ブレーキ操作量の減少の開始時点と車両が実際に発進する時点との間のタイムラグを短くすることができる。したがって、上記(1)と同等の効果を得ることができる。
・降坂路発進制御を、第1のモードを含まず、第2のモードを含む制御としてもよい。この場合、車両の停止中において第1の条件又は第2の条件が成立してから、ブレーキアクチュエータ23の制御が開始されることとなる。
・上記実施形態では、操作量相当値としてMC圧Pmcを採用していたが、ブレーキ操作量に応じて変化するパラメータであればMC圧Pmc以外の他のパラメータに応じた値を操作量相当値としてもよい。例えば、運転者によるブレーキペダル21の操作量を検出するセンサが車両に設けられている場合、同センサによって検出される操作量に基づき、運転者が要求している制動力を推定し、その推定値を操作量相当値としてもよい。また、運転者によるブレーキペダル21の操作力を検出するセンサが車両に設けられている場合、同センサによって検出される操作力に基づき、運転者が要求している制動力を推定し、その推定値を操作量相当値としてもよい。