以下、車両の制動制御装置の一実施形態を図1〜図6に従って説明する。
図1には、本実施形態の車両の制動制御装置である制御装置100を備える制動装置10の一例が図示されている。図1に示すように、制動装置10を備える車両には、複数の車輪FL,FR,RL,RRと、車輪FL,FR,RL,RRに個別対応する複数のホイールシリンダ11a,11b,11c,11dとが設けられている。そして、ホイールシリンダ11a〜11dに制動装置10からブレーキ液が供給されることにより、ホイールシリンダ11a〜11d内の液圧が増大される。その結果、車輪FL,FR,RL,RRには、ホイールシリンダ11a〜11d内の液圧に応じた制動力が付与される。なお、ホイールシリンダ11a〜11d内の液圧のことを、「WC圧」ともいう。
制動装置10は、運転者によるブレーキペダル21の操作力に応じた液圧を発生する液圧発生装置20と、各ホイールシリンダ11a〜11d内のWC圧を個別に調整することのできるブレーキアクチュエータ30とを有している。なお、本明細書では、運転者がブレーキペダル21を操作することを「制動操作」といい、ブレーキペダル21の操作力を「制動操作力」ということもある。
液圧発生装置20は、マスタシリンダ22と、ブレーキペダル21に入力された制動操作力を助勢するブースタ23と、ブレーキ液が貯留される大気圧リザーバ24とを備えている。マスタシリンダ22には、ブースタ23によって助勢された制動操作力が入力される。そして、マスタシリンダ22内では、入力された制動操作力に応じた液圧が発生する。なお、こうしたマスタシリンダ22内の液圧のことを「MC圧」ともいう。
ブレーキアクチュエータ30には、2系統の液圧回路311,312が設けられている。第1の液圧回路311には左前輪用のホイールシリンダ11aと右後輪用のホイールシリンダ11dとが接続されるとともに、第2の液圧回路312には右前輪用のホイールシリンダ11bと左後輪用のホイールシリンダ11cとが接続されている。そして、液圧発生装置20から第1及び第2の液圧回路311,312にブレーキ液が流入されると、ホイールシリンダ11a〜11dにブレーキ液が供給される。
マスタシリンダ22とホイールシリンダ11a〜11dとを接続する液路には、リニア電磁弁である差圧調整弁321,322が設けられている。また、第1の液圧回路311において差圧調整弁321よりもホイールシリンダ11a,11d側には、左前輪用の経路33a及び右後輪用の経路33dが設けられている。同様に、第2の液圧回路312において差圧調整弁322よりもホイールシリンダ11b,11c側には、右前輪用の経路33b及び左後輪用の経路33cが設けられている。そして、こうした経路33a〜33dには、ホイールシリンダ11a〜11d内のWC圧の増大を規制する際に作動する常開型の電磁弁である保持弁34a,34b,34c,34dと、WC圧を減少させる際に作動する常閉型の電磁弁である減圧弁35a,35b,35c,35dとが設けられている。なお、本実施形態では、保持弁34a〜34dが、「対象電磁弁」に相当する。
また、第1及び第2の液圧回路311,312には、ホイールシリンダ11a〜11dから減圧弁35a〜35dを介して流出したブレーキ液を一時的に貯留するリザーバ361,362と、モータ37の駆動に基づき作動するポンプ381,382とが接続されている。リザーバ361,362は、吸入用流路391,392を介してポンプ381,382に接続されるとともに、マスタ側流路401,402を介して差圧調整弁321,322よりもマスタシリンダ22側の通路に接続されている。また、ポンプ381,382は、供給用流路411,412を介して差圧調整弁321,322と保持弁34a〜34dとの間の接続部位421,422に接続されている。
そして、ポンプ381,382は、モータ37が駆動する場合に、リザーバ361,362及びマスタシリンダ22内から吸入用流路391,392及びマスタ側流路401,402を介してブレーキ液を汲み取り、該ブレーキ液を供給用流路411,412内に吐出する。
また、図1に示すように、本制動装置10を備える車両には、ブレーキスイッチSW1、車輪FL,FR,RL,RRと同数の車輪速度センサSE1,SE2,SE3,SE4、及び圧力センサSE5が設けられている。ブレーキスイッチSW1は、ブレーキペダル21が操作されているか否かを検出する。車輪速度センサSE1〜SE4は、対応する車輪FL,FR,RL,RRの回転速度である車輪速度VWに応じた信号を出力する。圧力センサSE5は、マスタシリンダ22内のMC圧Pmcに応じた信号を出力する。そして、これらの検出系によって検出された情報は、制御装置100に入力される。
制御装置100は、マイクロコンピュータと、各種の弁やモータ37を駆動させるための駆動回路とを備えている。そして、制御装置100は、検出系から入力された情報に基づき、ブレーキアクチュエータ30、すなわちモータ37や各種の弁321,322,34a〜34d,35a〜35dの駆動を制御する各種の制動制御を実施する。なお、このように制動制御が実施されている場合、マイクロコンピュータのメモリ101が、「状態量記憶部」としても機能する。
制動制御としては、例えば、アンチロックブレーキ制御(以下、「ABS制御」ともいう。)を挙げることができる。このABS制御は、制御対象となる車輪(例えば、左前輪FL)に対応するホイールシリンダ内(この場合、ホイールシリンダ11a内)のWC圧Pwcを減圧する減圧制御と、WC圧Pwcを増圧する増圧制御とを繰り返す制御である。そして、このようなABS制御が実施されることで、車両にある程度の制動力を付与しつつ制御対象となる車輪(この場合、左前輪FL)のロックが抑制される。
次に、図2に示すフローチャートを参照し、ABS制御の開始条件が成立したことを条件に制御装置100が実行する処理ルーチンについて説明する。なお、ABS制御の開始条件は、制動力の付与されている車輪のスリップ量Slpが開始判定スリップ量以上になることを含んでいる。
図2に示すように、本処理ルーチンにおいて、制御装置100は、各車輪速度センサSE1の出力信号を基に各車輪FL,FR,RL,RRの車輪速度VWを演算する(ステップS11)。続いて、制御装置100は、演算した各車輪FL,FR,RL,RRの車輪速度VWのうち少なくとも1つを用いて車両の車体速度VSを演算する(ステップS12)。この車体速度VSは、車両の移動速度を車輪の回転速度に変換した値と等しい。そして、制御装置100は、車両の車体速度VSを時間微分し、その演算結果の正負の符号を逆転させることで、車両の車体減速度DVSを導出する(ステップS13)。そのため、車体減速度DVSは、車両が減速しているときに正の値となる。
続いて、制御装置100は、ABS制御の制御対象となっている車輪のスリップ量Slpを演算する(ステップS14)。このスリップ量Slpは、車体速度VSから車輪速度VWを減じることで導出することができる。そして、制御装置100は、減圧制御の実施条件が成立しているか否かを判定する(ステップS15)。例えば、制御装置100は、以下に示す3つの条件のうち少なくとも1つの条件が成立したときに減圧制御の実施条件が成立していると判定することができる。
(条件1)ABS制御の実施条件が成立した直後であること。
(条件2)減圧制御を実施していない状況下で、車輪のスリップ量Slpが減圧開始スリップ量以上になったこと。
(条件3)減圧制御を実施している状況下で、車輪のスリップ量Slpが増圧開始スリップ量未満になっていないこと(ただし、増圧開始スリップ量<減圧開始スリップ量)。
減圧制御の実施条件が成立している場合(ステップS15:YES)、制御装置100は、制御対象となる車輪に対応する保持弁を閉弁し、且つ、同車輪に対応する減圧弁を開弁させる減圧制御を実施する(ステップS16)。例えば、制御対象となる車輪が左前輪FLである場合、制御装置100は、減圧制御では、保持弁34aを閉弁し、且つ、減圧弁35aを開弁させる。なお、ABS制御の実施期間では、モータ37の駆動によってポンプ381,382の作動が継続される。したがって、減圧制御の実施時には、ポンプ381,382が作動し且つ保持弁が閉弁される。この点で、本実施形態では、制御装置100が、「液圧制御部」の一例として機能する。そして、制御装置100は、その処理を後述するステップS18に移行する。
一方、減圧制御の実施条件が成立していない場合(ステップS15:NO)、すなわち上記の3つの条件(条件1)〜(条件3)が全て成立していない場合、増圧制御の実施条件が成立していると判定できる。そのため、制御装置100は、制御対象となる車輪に対応する減圧弁を閉弁させ、且つ同車輪に対応する保持弁の開度を調整する増圧制御を実施する(ステップS17)。例えば、制御対象となる車輪が左前輪FLである場合、制御装置100は、増圧制御では、減圧弁35aを閉弁させ、且つ、保持弁34aの開度を調整する。もちろん、増圧制御の実施中もポンプ381,382は作動している。そして、制御装置100は、その処理を後述するステップS18に移行する。
ステップS18において、制御装置100は、ABS制御の終了条件が成立しているか否かを判定する。終了条件としては、例えば、車両が停止していることを挙げることができる。終了条件が成立していない場合(ステップS18:NO)、制御装置100は、その処理を前述したステップS11に移行し、ABS制御の実施を継続する。一方、終了条件が成立している場合(ステップS18:YES)、制御装置100は、ABS制御の終了処理を実施する(ステップS19)。すなわち、制御装置100は、制御対象の車輪に対する保持弁及び減圧弁の制御を終了し、ポンプ381,382の作動を停止させる。その後、制御装置100は、本処理ルーチンを終了する。
なお、ABS制御は、1つの車輪だけではなく、複数の車輪に対して実施されることもある。例えば、2つの車輪(左前輪FLと右前輪FR)に対してABS制御をそれぞれ実施する場合、図2の処理ルーチンにおけるステップS14〜ステップS18までの各処理が、車輪FL,FR毎に実行されることとなる。このとき、左前輪FLに対応する保持弁34a及び減圧弁35aは左前輪FLのスリップ量Slpの推移に応じて制御され、右前輪FRに対応する保持弁34b及び減圧弁35bは右前輪FRのスリップ量Slpの推移に応じて制御される。
次に、図3に示すフローチャートを参照し、減圧制御を実施しているときには、図2の処理ルーチンと並行して制御装置100が実行する処理ルーチンについて説明する。
図3に示すように、本処理ルーチンにおいて、制御装置100は、現時点で実施されている減圧制御の開始時点からの経過時間である減圧制御の実施時間TMdを取得する(ステップS21)。この実施時間TMdは、減圧制御が実施されている車輪(例えば、左前輪FL)に対応する保持弁(この場合、保持弁34a)を閉弁させるために必要な電流が同保持弁に供給されている期間の時間的な長さでもある。続いて、制御装置100は、減圧制御が実施されている車輪のスリップ量Slpの最大値であるスリップ量最大値SlpMaxを更新する(ステップS22)。例えば減圧制御が実施されている車輪が左前輪FLである場合、制御装置100は、左前輪FLに対する今回の減圧制御が開始されてからの左前輪FLのスリップ量Slpを監視する。そして、スリップ量最大値SlpMaxと現時点の左前輪FLのスリップ量Slpとのうち大きい方の値をスリップ量最大値SlpMaxに代入する。すなわち、スリップ量最大値SlpMaxは、一回の減圧制御の実施中におけるスリップ量Slpの最大値である。
そして、制御装置100は、減圧制御が終了したか否かを判定する(ステップS23)。減圧制御が未だ終了していない場合(ステップS23:NO)、実施時間TMd及びスリップ量最大値SlpMaxの更新のため、制御装置100は、その処理を前述したステップS21に移行する。一方、減圧制御が終了した場合(ステップS23:YES)、制御装置100は、減圧制御が実施されていた車輪(例えば、左前輪FL)のスリップ量Slpが最大となった時点の実施時間TMdを最大到達時間Xとして取得する(ステップS24)。この最大到達時間Xは、減圧制御の実施期間内においてステップS22の処理が最後に実施された時点、すなわちスリップ量最大値SlpMaxが最後に更新された時点の実施時間TMdに相当する。
そして、制御装置100は、取得したスリップ量最大値SlpMax及び最大到達時間Xと現時点の車体減速度DVSとをメモリ101に記憶する(ステップS25)。すなわち、本実施形態では、減圧制御が終了すると、同減圧制御の実施時におけるスリップ量最大値SlpMax、最大到達時間X及び車体減速度DVSがメモリ101に記憶される。ここで、減圧制御が実施されている車輪のスリップ量Slpは、減圧制御の実施によって変わる値であり、減圧制御の実施中における車両状態を示す値、すなわち車両状態量であるということができる。そして、本実施形態では、減圧制御が実施されているときには、車両状態量の推移の一例である車輪のスリップ量Slpの推移を監視し、同減圧制御の実施期間におけるスリップ量Slpの最大値であるスリップ量最大値SlpMax及び最大到達時間Xが、スリップ量Slpの推移としてメモリ101(状態量記憶部)に記憶される。
続いて、制御装置100は、スリップ量最大値SlpMax及び最大到達時間Xを「0」にリセットし(ステップS26)、その後、本処理ルーチンを終了する。
なお、上述したように複数の車輪に対してABS制御が実施される場合、当該複数の車輪のうち、第1の車輪に対する減圧制御が実施されているときに、第2の車輪に対する減圧制御が実施されることもある。このような場合、第1の車輪に対して図3の処理ルーチンを実行することで第1の車輪のスリップ量最大値SlpMaxと最大到達時間Xとが取得されてメモリ101に車体減速度DVSとともに記憶され、第2の車輪に対して図3の処理ルーチンを実行することで第2の車輪のスリップ量最大値SlpMaxと最大到達時間Xとが取得されてメモリ101に車体減速度DVSとともに記憶される。
次に、図4に示すフローチャートを参照し、減圧制御を実施しているときには図2の処理ルーチン及び図3の処理ルーチンと並行して制御装置100が実行する処理ルーチンについて説明する。本実施形態では、本処理ルーチンは、ABS制御の実施中において2回目以降の減圧制御の実施時に実行される。
図4に示すように、本処理ルーチンにおいて、制御装置100は、前回の減圧制御における最大到達時間X(N−1)をメモリ101から読み出し、現時点で実施している減圧制御である今回の減圧制御の実施時間TMd(N)が前回の減圧制御における最大到達時間X(N−1)以上であるか否かを判定する(ステップS31)。今回の減圧制御の実施時間TMd(N)は、本処理ルーチンと並行して実行されている図3の処理ルーチンのステップS21で取得される実施時間TMdである。また、前回の減圧制御における最大到達時間X(N−1)は、今回の減圧制御が実施されている車輪(例えば、左前輪FL)に対して前回に減圧制御が実施された際に取得した最大到達時間Xである。ただし、前回の減圧制御の実施時に後述するリフレッシュ制御が実施された場合にあっては、リフレッシュ制御が実施されなかった減圧制御(例えば、前々回の減圧制御)の実施時に取得した最大到達時間Xがメモリ101から読み出される。そして、今回の減圧制御の実施時間TMd(N)がメモリ101から読み出された最大到達時間X以上であるか否かが判定される。
今回の減圧制御の実施時間TMd(N)が前回の減圧制御における最大到達時間X(N−1)未満である場合(ステップS31:NO)、制御装置100は、今回の減圧制御の実施時間TMd(N)が前回の減圧制御における最大到達時間X(N−1)以上となるまでステップS31の判定を繰り返す。一方、今回の減圧制御の実施時間TMd(N)が前回の減圧制御における最大到達時間X(N−1)以上になった場合(ステップS31:YES)、制御装置100は、その処理をステップS32に移行する。ステップS32において、制御装置100は、現時点の車体減速度DVS(すなわち、今回の減圧制御の実施時における車体減速度DVS)と、前回の減圧制御の実施時における車体減速度DVS(すなわち、前回の減圧制御の実施時にメモリ101に記憶された車体減速度DVS)との差分ΔDVSを演算する。そして、制御装置100は、演算した差分ΔDVSが規定差分ΔDVSTH以下であるか否かを判定する。ABS制御が実施されている最中に車体減速度DVSが変化している場合には、車両の走行する路面のμ値が変わった可能性がある。すなわち、規定差分ΔDVSTHは、ABS制御の実施中に路面のμ値が変わったか否か、すなわち前回の減圧制御の実施時と今回の減圧制御の実施時とで路面のμ値が変わったか否かを判断するために設定されている。
そして、差分ΔDVSが規定差分ΔDVSTHよりも大きい場合(ステップS32:NO)、路面のμ値が変わったと判断できるため、制御装置100は、後述するリフレッシュ制御を実施することなく、本処理ルーチンを終了する。一方、差分ΔDVSが規定差分ΔDVSTH以下である場合(ステップS32:YES)、路面のμ値が変わっていないと判断できるため、制御装置100は、その処理を次のステップS33に移行する。
ステップS33において、制御装置100は、前回の減圧制御におけるスリップ量最大値SlpMax(N−1)をメモリ101から読み出す。この前回の減圧制御におけるスリップ量最大値SlpMax(N−1)は、今回の減圧制御が実施されている車輪(例えば、左前輪FL)に対して前回に減圧制御が実施された際に取得したスリップ量最大値SlpMaxのことである。ただし、前回の減圧制御の実施時に後述するリフレッシュ制御が実施された場合にあっては、リフレッシュ制御が実施されなかった減圧制御(例えば、前々回の減圧制御)の実施時のスリップ量最大値SlpMaxがメモリ101から読み出され、読み出された値がスリップ量最大値SlpMax(N−1)として用いられる。また、ステップS33において、制御装置100は、今回の減圧制御が実施されている車輪(例えば、左前輪FL)の現時点のスリップ量Slpから前回の減圧制御におけるスリップ量最大値SlpMax(N−1)を減じ、その差をスリップ量差ΔSlpとする。このスリップ量Slpは、上記ステップS14で演算した値である。
続いて、制御装置100は、演算したスリップ量差ΔSlpが第1の判定スリップ量差ΔSlpTH1以上であるか否かを判定する(ステップS34)。ここで、液圧回路311,312では、ブレーキ液とともに異物が流れていることがあり、減圧制御によって保持弁34a〜34dを閉弁させる際に保持弁34a〜34dが当該異物を噛み込んでしまうことがある。このように保持弁34a〜34dが異物を噛み込むと、保持弁34a〜34dを閉弁させることができず、保持弁34a〜34dを介してホイールシリンダ11a〜11d側にブレーキ液が流動し、WC圧を減圧させにくくなる。この場合、減圧制御を実施しても車輪のスリップ量Slpが小さくならない。
また、車両の走行する路面のμ値が一定である状況下で例えば左前輪FLに対してABS制御が実施されている場合、保持弁34aが異物を噛み込んでいないと、今回の減圧制御の実施時におけるスリップ量Slp(車両状態量)の推移は、前回の減圧制御の実施時におけるスリップ量Slpの推移、すなわちメモリ101に記憶されているスリップ量Slpの推移と同じようになる。その一方で、保持弁34aが異物を噛み込んでいると、今回の減圧制御の実施時と前回の減圧制御の実施時とでは、ホイールシリンダ11a内のWC圧の変動態様が相異する。そのため、今回の減圧制御の実施時におけるスリップ量Slpの推移は、前回の減圧制御の実施時におけるスリップ量Slpの推移、すなわちメモリ101に記憶されているスリップ量Slpの推移と相異してしまう。そこで、本実施形態では、今回の減圧制御の実施時におけるスリップ量Slpの推移と、前回の減圧制御の実施時におけるスリップ量Slpの推移とが相異しているか否かをスリップ量差ΔSlpを用いて判断するために、第1の判定スリップ量差ΔSlpTH1が設定されている。そのため、演算したスリップ量差ΔSlpが第1の判定スリップ量差ΔSlpTH1以上であるときには、保持弁34a〜34dが異物を噛み込んでいる可能性有りと判定することができる。
スリップ量差ΔSlpが第1の判定スリップ量差ΔSlpTH1以上である場合(ステップS34:YES)、制御装置100は、その処理を後述するステップS38に移行する。一方、スリップ量差ΔSlpが第1の判定スリップ量差ΔSlpTH1未満である場合(ステップS34:NO)、制御装置100は、演算したスリップ量差ΔSlpが第1の判定スリップ量差ΔSlpTH1よりも小さい第2の判定スリップ量差ΔSlpTH2以上であるか否かを判定する(ステップS35)。
減圧制御を実施している車輪が左前輪FLである場合、保持弁34aが噛み込んでいる異物が比較的大きいと、スリップ量差ΔSlpが第1の判定スリップ量差ΔSlpTH1以上になることはある。しかし、保持弁34aが噛み込んでいる異物が比較的小さいと、スリップ量差ΔSlpは保持弁34aが異物を噛み込んでいないときよりも大きくなるものの、スリップ量差ΔSlpが第1の判定スリップ量差ΔSlpTH1以上にはならない。これは、保持弁34aが噛み込んでいる異物が大きいほど、減圧制御の実施中に保持弁34aを介してホイールシリンダ11a側に流動するブレーキ液の量が多いためである。そこで、本実施形態では、保持弁34aが小さい異物を噛み込んでいるか否かをスリップ量差ΔSlpを用いて判定するために、第2の判定スリップ量差ΔSlpTH2が設定されている。
そのため、スリップ量差ΔSlpが第2の判定スリップ量差ΔSlpTH2未満である場合(ステップS35:NO)、保持弁34a〜34dが異物を噛み込んでいないと判断できるため、制御装置100は、本処理ルーチンを終了する。一方、スリップ量差ΔSlpが第2の判定スリップ量差ΔSlpTH2以上である場合(ステップS35:YES)、制御装置100は、スリップ量差ΔSlpが第2の判定スリップ量差ΔSlpTH2以上である状態の継続時間TMaを取得する(ステップS36)。続いて、制御装置100は、取得した継続時間TMaが判定時間TMaTH以上であるか否かを判定する(ステップS37)。
減圧制御を実施している車輪が左前輪FLである場合、保持弁34aが異物を噛み込んでいなくても、演算したスリップ量差ΔSlpが第2の判定スリップ量差ΔSlpTH2以上になることがある。ただし、このように保持弁34aが異物を噛み込んでいない状況下でスリップ量差ΔSlpが第2の判定スリップ量差ΔSlpTH2以上になったとしても、この状態が長く継続されることはない。その一方で、保持弁34aが異物を噛み込んでいる状況下でスリップ量差ΔSlpが第2の判定スリップ量差ΔSlpTH2以上になった場合、スリップ量差ΔSlpが第2の判定スリップ量差ΔSlpTH2以上である状態は長く継続される。そこで、本実施形態では、保持弁34aが異物を噛み込んでいるためにスリップ量差ΔSlpが第2の判定スリップ量差ΔSlpTH2以上になったのか否かを判定するために、判定時間TMaTHが設定されている。そして、継続時間TMaが判定時間TMaTH以上になった場合には、今回の減圧制御の実施時におけるスリップ量Slpの推移が前回の減圧制御の実施時におけるスリップ量Slpの推移、すなわちメモリ101に記憶されているスリップ量Slpの推移と相異していると判定することができる。
そして、取得した継続時間TMaが判定時間TMaTH未満である場合(ステップS37:NO)、制御装置100は、その処理を前述したステップS33に移行する。一方、継続時間TMaが判定時間TMaTH以上である場合(ステップS37:YES)、保持弁34a〜34dが小さい異物を噛み込んでいる可能性があるため、制御装置100は、その処理を次のステップS38に移行する。
ステップS38において、制御装置100は、ABS制御を実施している車輪が1つのみであるか否かを判定する。そして、1つの車輪に対してのみABS制御を実施している場合(ステップS38:YES)、制御装置100は、その処理を後述するステップS40に移行する。一方、複数の車輪に対してABS制御を実施している場合(ステップS38:NO)、制御装置100は、その処理を次のステップS39に移行する。
複数の車輪に対してABS制御が実施されている場合、この図4の処理ルーチンは、ABS制御が実施されている車輪毎に実行されている。すなわち、制御装置100では、複数の車輪でスリップ量差ΔSlpが演算されている。その結果、制御装置100は、スリップ量差ΔSlpが第2の判定スリップ量差ΔSlpTH2未満であるか否かを車輪毎に判断することができる。また、前回の減圧制御の実施時と今回の減圧制御の実施時とで路面状況(路面のμ値や路面の勾配)が変わっていれば、スリップ量差ΔSlpは大きくなりうる。つまり、複数の車輪でスリップ量差ΔSlpが第2の判定スリップ量差ΔSlpTH2以上になっている場合、路面状況の変化によってスリップ量差ΔSlpが大きくなっていると判断することができる。一方、複数の車輪のうち1つの車輪のみで、スリップ量差ΔSlpが第2の判定スリップ量差ΔSlpTH2以上になっている場合、当該車輪に対応する保持弁が異物を噛み込んでいるために前回の減圧制御と今回の減圧制御とでスリップ量Slpの推移が相異していると判断することができる。
そこで、ステップS39において、制御装置100は、他の車輪のスリップ量差ΔSlpが第2の判定スリップ量差ΔSlpTH2未満であるか否かを判定する。そして、他の車輪のスリップ量差ΔSlpが第2の判定スリップ量差ΔSlpTH2以上である場合(ステップS39:NO)、制御装置100は、本処理ルーチンを終了する。一方、他の車輪のスリップ量差ΔSlpが第2の判定スリップ量差ΔSlpTH2未満である場合(ステップS39:YES)、制御装置100は、その処理を次のステップS40に移行する。
ステップS40において、制御装置100は、保持弁(すなわち、異物を噛み込んでいると判定した保持弁)の開度を一時的に大きくし、その後に同保持弁を閉弁させるリフレッシュ制御を実施する。すなわち、制御装置100は、例えば左前輪FLに対して減圧制御を実施している状況下では、今回の減圧制御の実施時におけるスリップ量Slpの推移が前回の減圧制御の実施時におけるスリップ量Slpの推移と相異していると判定したことを条件に、今回の減圧制御の実施中にリフレッシュ制御を実施する。
本実施形態では、保持弁が噛み込んでいる異物の大きさによって、リフレッシュ制御での保持弁の開度の変更量を可変するようにしている。すなわち、スリップ量差ΔSlpが第1の判定スリップ量差ΔSlpTH1以上になったことを条件に実施するリフレッシュ制御を第1のリフレッシュ制御とし、スリップ量差ΔSlpが第2の判定スリップ量差ΔSlpTH2以上である状態が判定時間TMaTH以上継続したことを条件に実施するリフレッシュ制御を第2のリフレッシュ制御とする。この場合、制御装置100は、第1のリフレッシュ制御では、第2のリフレッシュ制御を実施するときよりも保持弁が噛み込んでいる異物が大きいと予測できるため、第2のリフレッシュ制御の実施時よりも保持弁の開度を大きくする。すなわち、制御装置100は、保持弁の弁体のリフト量(すなわち、弁座から離間する量)を大きくする。
そして、リフレッシュ制御を終了すると、制御装置100は、本処理ルーチンを終了する。
次に、図5に示すタイミングチャートを参照し、左前輪FLに対してABS制御を実施しているときに保持弁34aが比較的大きい異物を噛み込んだ際の作用を効果とともに説明する。
図5(a),(b),(c),(d)に示すように、車両制動中に左前輪FLのスリップ量Slpが大きくなり、第1のタイミングt11でABS制御の開始条件が成立すると、ABS制御における減圧制御が開始される。このとき、減圧制御では、保持弁34aに対する指示電流値Inoを閉弁必要電流値InoAと等しくすることで、保持弁34aが閉弁される。
第1のタイミングt11から開始される減圧制御では、その後の第2のタイミングt12でスリップ量Slpが最大となる。すなわち、第1のタイミングt11から開始される減圧制御におけるスリップ量最大値SlpMax(1)は、第2のタイミングt12でのスリップ量Slpとなる。また、第1のタイミングt11から第2のタイミングt12までの期間の時間的な長さが最大到達時間X(1)となる。その後、当該減圧制御の実施によってスリップ量Slpが減少し、減圧制御の実施条件が成立しなくなると、増圧制御が開始される。
このように増大制御が実施されている状況下で左前輪FLのスリップ量Slpが大きくなり、第3のタイミングt13で減圧制御の実施条件が成立すると、第3のタイミングt13から減圧制御が開始される。この第3のタイミングt13から開始される減圧制御でも保持弁34aが異物を噛み込んでいないと、第1のタイミングt11から開始された減圧制御の実施時におけるスリップ量Slpの推移と、第3のタイミングt13から開始された減圧制御の実施時におけるスリップ量Slpの推移とがあまり変わらない。その結果、第3のタイミングt13から最大到達時間X(1)が経過した時点のスリップ量Slpからスリップ量最大値SlpMax(1)を減じた差であるスリップ量差ΔSlp(2)は、第2の判定スリップ量差ΔSlpTH2未満となる。そのため、第3のタイミングt13から開始された減圧制御の実施中では、リフレッシュ制御が実施されない。したがって、保持弁34aが異物を噛み込んでいないときにリフレッシュ制御が実施されることを抑制できる。
その後の第4のタイミングt14では、減圧制御が終了して増圧制御が開始される。そして、このように増圧制御が実施されている状況下の第5のタイミングt15で減圧制御の実施条件が成立すると、減圧制御が開始される。このとき、保持弁34aに対する指示電流値Inoを閉弁必要電流値InoAと等しくしても保持弁34aが大きな異物を噛み込んでいると、保持弁34aを閉弁させることはできない。そのため、減圧制御の実施中であっても保持弁34aを介してホイールシリンダ11a側にブレーキ液が流動し、ホイールシリンダ11a内のWC圧Pwcが却って増大してしまう。その結果、左前輪FLのスリップ量Slpが急激に増大する。
なお、第3のタイミングt13から開始された前回の減圧制御の実施時には保持弁34aが異物を噛み込んでいなかった。そのため、第5のタイミングt15から開始された今回の減圧制御の実施時におけるスリップ量Slpの推移は、前回の減圧制御の実施時におけるスリップ量Slpの推移と大きく相異する。すなわち、第5のタイミングt15から最大到達時間X(2)が経過した時点である第6のタイミングt16のスリップ量Slpからスリップ量最大値SlpMax(2)を減じた差であるスリップ量差ΔSlp(3)は、第1の判定スリップ量差ΔSlpTH1以上になる。すなわち、本実施形態では、WC圧Pwcを検出するためのセンサを制動装置10が設けていなくても、保持弁34aが異物を噛み込んでいるか否かを判定することができる。なお、最大到達時間X(2)及びスリップ量最大値SlpMax(2)は、第3のタイミングt13から開始された減圧制御である前回の減圧制御の実施時に取得された最大到達時間X及びスリップ量最大値SlpMaxである。
また、この場合、図5(b)に示すように車両の車体減速度DVSは、前回の減圧制御の実施時と変わっていない。また、左前輪FL以外の他の車輪に対してABS制御が実施されていない。そのため、その後の第7のタイミングt17からリフレッシュ制御(この場合には、第1のリフレッシュ制御)が開始される。すると、保持弁34aに対する指示電流値Inoが、第1のリフレッシュ電流値Ino1と等しくされる。ちなみに、第2のリフレッシュ制御を実施する場合、指示電流値Inoは、第1のリフレッシュ電流値Ino1よりも大きい第2のリフレッシュ電流値Ino2(<InoA)と等しくされる。そのため、第1のリフレッシュ制御を実施することで、第2のリフレッシュ制御が実施される場合よりも保持弁34aの開度をより大きくすることができる。その結果、保持弁34aが噛み込んでいる大きな異物を、液圧回路311におけるブレーキ液の流れによって保持弁34aから除去することができる。
そして、第8のタイミングt18でリフレッシュ制御が終了されると、保持弁34aが異物を噛み込んでいない状態となるため、保持弁34aが実際に閉弁される。その結果、減圧制御の実施によってホイールシリンダ11a内のWC圧Pwcが減圧され、車両のスリップ量Slpが減少されるようになる。すなわち、このようにリフレッシュ制御の実施によって保持弁34aから異物を除去することにより、減圧制御の実施中にWC圧Pwcが減圧されない事象を解消し、ABS制御によって左前輪FLのスリップ量Slpを適切に制御することができる。
ここで、スリップ量差ΔSlpが第1の判定スリップ量差ΔSlpTH1以上になる場合であっても、当該状態がある程度継続された場合にリフレッシュ制御を実施することも考えられる(比較例)。しかし、スリップ量差ΔSlpが第1の判定スリップ量差ΔSlpTH1以上になる場合とは、大きな異物を保持弁34aが噛み込んでいる可能性があり、スリップ量Slpの増大速度が大きく、リフレッシュ制御の緊急性が高い。そのため、比較例のように当該状態がある程度継続したことを契機にリフレッシュ制御を実施する場合、リフレッシュ制御の実施が遅れてしまうおそれがある。この点、本実施形態では、スリップ量差ΔSlpが第1の判定スリップ量差ΔSlpTH1以上になった場合、当該状態が所定時間以上継続するのを待つことなく、リフレッシュ制御が実施される。そのため、緊急性が高い場合にはリフレッシュ制御を早期に実施し、保持弁34aから異物を早期に除去することができる。
なお、図5に示す例では、第3のタイミングt13から開始された減圧制御の実施時と、第5のタイミングt15から開始された減圧制御の実施時とで車両の車体減速度DVSはほとんど変化していない。しかし、前回の減圧制御の実施時と今回の減圧制御の実施時との間で車体減速度DVSが大きく変わっていることがある。この場合、ABS制御の実施中に路面のμ値が変わった可能性があり、今回の減圧制御の実施時で保持弁34aが異物を噛みこんでいなくても、今回の減圧制御の実施時におけるスリップ量Slpの推移が、前回の減圧制御の実施時におけるスリップ量Slpの推移と相違してしまうことがある。この点、本実施形態では、前回の減圧制御の実施時と今回の減圧制御の実施時との間で車体減速度DVSが大きく変わっていると判定できる場合、車両の走行する路面状況(μ値や勾配)が変わった可能性があるため、リフレッシュ制御が実施されない。したがって、保持弁34aが異物を噛み込んでいないときにリフレッシュ制御が実施されることを抑制できる。
また、左前輪FL以外の他の車輪(例えば、右前輪FR)に対してもABS制御が実施されていることがある。こうした場合において、右前輪FRのスリップ量Slpの推移が、一の減圧制御の実施時と、該一の減圧制御の1つ前の減圧制御の実施時とで相違していることがある。このように複数の車輪でスリップ量Slpの推移の相違が検出されている場合、車両の走行する路面の状況が変わったと予測することができるため、リフレッシュ制御が実施されない。したがって、保持弁34aが異物を噛み込んでいないときにリフレッシュ制御が実施されることを抑制できる。
次に、図6に示すタイミングチャートを参照し、左前輪FLに対してABS制御を実施しているときに保持弁34aが比較的小さい異物を噛み込んだ際の作用を効果とともに説明する。
図6(a),(b),(c),(d)に示すように、車両制動中の第1のタイミングt21でABS制御が開始されると、減圧制御の実施によってホイールシリンダ11a内のWC圧Pwcが減圧される。図6に示す例では、第1のタイミングt21から開始される減圧制御の実施時及び第2のタイミングt22から開始される減圧制御の実施時の双方で、保持弁34aが異物を噛み込んでいない。そのため、第2のタイミングt22から開始される減圧制御の実施中に、スリップ量差ΔSlp(2)が第1の判定スリップ量差ΔSlpTH1以上になったり、スリップ量差ΔSlp(2)が第2の判定スリップ量差ΔSlpTH2以上である状態が判定時間TMaTH以上継続したりすることはない。すなわち、第1のタイミングt21から開始される減圧制御の実施時におけるスリップ量Slpの推移と第2のタイミングt22から開始される減圧制御の実施時におけるスリップ量Slpの推移とが相違していないと判定できるため、第2のタイミングt22から開始される減圧制御の実施中にリフレッシュ制御は実施されない。
しかし、図6に示す例では、第3のタイミングt23から開始される減圧制御の実施時に保持弁34aが異物を噛み込んでしまう。このときに保持弁34aが噛み込んでいる異物は比較的小さいため、図5に示す例の場合のように保持弁34aが大きな異物を噛み込んでいる場合と比較し、保持弁34aを介してホイールシリンダ11a側に流動するブレーキ液の量はそれほど多くない。そのため、第3のタイミングt23から最大到達時間X(2)が経過した時点である第4のタイミングt24のスリップ量Slpからスリップ量最大値SlpMax(2)を減じた差であるスリップ量差ΔSlp(3)は、第1の判定スリップ量差ΔSlpTH1以上にならない。なお、最大到達時間X(2)及びスリップ量最大値SlpMax(2)は、第2のタイミングt22から開始された減圧制御の実施時に取得された最大到達時間X及びスリップ量最大値SlpMaxである。
その一方で、保持弁34aが異物を噛み込んでいないときよりも、スリップ量Slpの減少速度が大きくなるため、スリップ量差ΔSlp(3)は第2の判定スリップ量差ΔSlpTH2以上にはなる。このようにスリップ量差ΔSlp(3)が第2の判定スリップ量差ΔSlpTH2以上となる状態は、第4のタイミングt24から判定時間TMaTHが経過した時点である第5のタイミングt25になっても継続されている。
また、この場合、図6(b)に示すように車両の車体減速度DVSは、第2のタイミングt22から開始される前回の減圧制御の実施時と変わっていない。また、左前輪FL以外の他の車輪に対してABS制御が実施されていない。そのため、今回の減圧制御の実施時におけるスリップ量Slpの推移が前回の減圧制御の実施時におけるスリップ量Slpの推移と相異しており、保持弁34aが異物を噛み込んでいると判定できるため、今回の減圧制御の実施期間内の第6のタイミングt26からリフレッシュ制御が開始される。したがって、保持弁34aに比較的小さい異物が噛み込まれていると予測できるときにも、減圧制御の実施中にリフレッシュ制御を実施することで、保持弁34aから異物を除去することができる。
ちなみに、この場合に実施されるリフレッシュ制御は第2のリフレッシュ制御である。そのため、保持弁34aの開度を一時的に大きくする際には、保持弁34aに対する指示電流値Inoが、第2のリフレッシュ電流値Ino2と等しくされる。すなわち、第2のリフレッシュ制御では、第1のリフレッシュ制御の実施時よりも保持弁34aの開度が大きくされない。このように保持弁34aの開度を必要以上に大きくしないようにすることで、リフレッシュ制御の実施に伴うホイールシリンダ11a内のWC圧Pwcの制御性の低下を抑制することができる。
また、スリップ量差ΔSlpが第2の判定スリップ量差ΔSlpTH2以上になることは、保持弁34aが異物を噛み込んでいないときでも生じうるものの、スリップ量差ΔSlpが第2の判定スリップ量差ΔSlpTH2以上となる状態が判定時間TMaTH以上継続されることはない。そのため、上記の継続時間TMaが判定時間TMaTH以上であることを条件にリフレッシュ制御を実施するようにしたことにより、保持弁34aが異物を噛み込んでいないときにリフレッシュ制御が実施されることを抑制できる。
そして、このような第2のリフレッシュ制御の終了後の第7のタイミングt27以降では、保持弁34aが適切に閉弁されるため、減圧制御の実施によってホイールシリンダ11a内のWC圧Pwcを適切に減少させることができる。
なお、上記実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・第1の車輪(例えば、左前輪FL)に対する今回の減圧制御の実施時における車体減速度DVSが、第1の車輪に対する前回の減圧制御の実施時における車体減速度DVSと相異している場合には、車両の走行する路面の状況が変わったと判断できる(第1の禁止条件)。
また、複数の車輪に対してABS制御が実施されている状況下では、第1の車輪においてスリップ量差ΔSlpが第1の判定スリップ量差ΔSlpTH1以上になったり、第1の車輪においてスリップ量差ΔSlpが第2の判定スリップ量差ΔSlpTH2以上である状態が判定時間TMaTH以上継続したりした場合において、第2の車輪においてスリップ量差ΔSlpが第2の判定スリップ量差ΔSlpTH2以上になったときには、車両の走行する路面の状況が変わったと判断できる(第2の禁止条件)。
そして、第1の車輪においてスリップ量差ΔSlpが第1の判定スリップ量差ΔSlpTH1以上になったり、第1の車輪においてスリップ量差ΔSlpが第2の判定スリップ量差ΔSlpTH2以上である状態が判定時間TMaTH以上継続したりした場合、第1の禁止条件及び第2の禁止条件の少なくとも一方の条件のみ成立しているときには、リフレッシュ制御を実施するようにしてもよい。
・第1のリフレッシュ制御と第2のリフレッシュ制御とで、保持弁34a〜34dの開度の増大量を同程度としてもよい。このように開度の増大量を一定とする場合、第1のリフレッシュ制御では、第2のリフレッシュ制御の実施時よりも保持弁34a〜34dの開度を大きくする時間を長くするようにしてもよい。
・第1のリフレッシュ制御では、スリップ量差ΔSlpが大きいほど、保持弁34a〜34dの開度の増大量を大きくするようにしてもよい。
・図4の処理ルーチンにおいて、ステップS34の判定処理を省略してもよい。この場合であっても、保持弁が比較的大きな異物を噛み込んでいるときには、スリップ量差ΔSlpが第2の判定スリップ量差ΔSlpTH2以上となる状態が判定時間TMaTH以上継続するため、リフレッシュ制御を実施することはできる。
・上記実施形態では、前回の減圧制御の実施時における最大到達時間X(N−1)及びスリップ量最大値SlpMax(N−1)をメモリ101から読み出し、今回の減圧制御の実施時にスリップ量差ΔSlpを演算している。しかし、スリップ量差ΔSlpを演算するに際してメモリ101から読み出す最大到達時間X及びスリップ量最大値SlpMaxは、現在実施されている減圧制御よりも以前に実施された減圧制御であれば前回の減圧制御よりも以前に実施した減圧制御(例えば、前々回の減圧制御)の実施時に取得した値であってもよい。
・上記実施形態では、スリップ量差ΔSlpが第1の判定スリップ量差ΔSlpTH1以上である場合、及び、スリップ量差ΔSlpが第2の判定スリップ量差ΔSlpTH2以上である状態が判定時間TMaTH以上継続している場合の少なくとも一方が成立するときに、今回の減圧制御の実施時におけるスリップ量の推移が前回の減圧制御の実施時におけるスリップ量の推移と相異していると判断するようにしている。しかし、今回の減圧制御の実施時におけるスリップ量の推移が、前回の減圧制御の実施時におけるスリップ量の推移(すなわち、メモリ101に記憶されているスリップ量Slpの推移)と相異しているか否かの判断方法は、上記実施形態で説明した方法とは別の方法を採用してもよい。例えば、今回の減圧制御の開始時からのスリップ量Slpの増大速度が前回の減圧制御の開始時からのスリップ量Slpの増大速度と相異している場合に、今回の減圧制御の実施時におけるスリップ量の推移が前回の減圧制御の実施時におけるスリップ量の推移と相異していると判断するようにしてもよい。この場合、制御装置100は、減圧制御を実施している場合、同減圧制御を実施している車輪のスリップ量Slpの変化速度が車両状態量の推移としてメモリ101に記憶されることとなる。
・上記実施形態では、ABS制御の実施中において、同ABS制御の減圧制御が実施されている期間におけるスリップ量Slpの推移と、一つ前の減圧制御の実施期間におけるスリップ量Slpの推移とが相異しているか否かで、保持弁34a〜34dが異物を噛み込んでいるか否かを判断するようにしている。しかし、保持弁34a〜34dを閉弁させることでホイールシリンダ11a〜11d内のWC圧Pwcを減圧する減圧制御は、ABS制御以外の他の制動制御(例えば、横滑り抑制制御やトラクション制御)でも実施されうる。そのため、ABS制御の他の制動制御の実施時でも、そのときのスリップ量Slpの推移が前回の減圧制御の実施時におけるスリップ量Slpの推移(すなわち、メモリ101に記憶されているスリップ量Slpの推移)と相異しているときには保持弁34a〜34dが異物を噛み込んでいると判断するようにしてもよい。そして、このように保持弁34a〜34dが異物を噛み込んでいると判定した場合には、減圧制御の実施中にリフレッシュ制御を実施することで、制御対象の保持弁から異物を除去することができる。したがって、その後の制動制御によってホイールシリンダ内のWC圧Pwcを適切に制御することができる。
・減圧制御の実施時には、車輪のスリップ量Slp以外の他の車両状態量の推移をメモリ101に記憶し、今回の減圧制御の実施時における他の車両状態量の推移とメモリ101に記憶されている他の車両状態量の推移との比較を基に、保持弁34a〜34dが異物を噛み込んでいるか否かを判断するようにしてもよい。
例えば、状態量取得部としても機能する制御装置100は、ホイールシリンダ11a〜11d内のWC圧の推定値PwcEの推移を車両状態量の推移としてメモリ101に記憶させるようにしてもよい。WC圧の推定値PwcEは、制動装置10の作動態様を基に演算することができる。具体的には、ABS制御が実施されている場合、WC圧の推定値PwcEは、圧力センサSE5によって検出されているMC圧Pmc、差圧調整弁321,322の開度、保持弁34a〜34dの開度、及び減圧弁35a〜35dの開度を基に演算することができる。
図7には、例えば左前輪FLにABS制御が実施されている場合におけるWC圧の推定値PwcEの推移と、実際のWC圧Pwcの推移とが図示されている。すなわち、WC圧の推定値PwcEは、各弁が正常に動作していることを前提に演算される。そのため、保持弁34aが異物を噛み込んでいない場合、第1のタイミングt31から開始される減圧制御のようにWC圧の推定値PwcEがWC圧Pwcとほぼ一致するようになる。一方、保持弁34aが異物を噛み込んでいる場合、第3のタイミングt33から開始される減圧制御のようにWC圧の推定値PwcEがWC圧Pwcから乖離してしまう。
そのため、第1のタイミングt31から開始された減圧制御の実施の終了時点である第2のタイミングt32でのWC圧の推定値PwcEを前回終了時WC圧推定値PwcEEとしたとする。そして、前回終了時WC圧推定値PwcEEから所定のオフセット量αを減じた差を、判定WC圧推定値PwcEETHとしたとする。そして、第3のタイミングt33から開始される今回の減圧制御の実施は、保持弁34aが異物を噛み込んでいるために、WC圧の推定値PwcEが判定WC圧推定値PwcEETH未満になっても終了されない。そのため、こうした場合には、今回の減圧制御の実施時におけるWC圧の推定値PwcEの推移が前回の減圧制御の実施時におけるWC圧の推定値PwcEの推移と相異しており、保持弁34aが異物を噛み込んでいると判定できるため、今回の減圧制御の実施中にリフレッシュ制御を実施するようにしてもよい。この場合であっても、WC圧Pwcの検出手段を設けなくても、リフレッシュ制御を、適切な時期(すなわち、保持弁34aが異物を噛み込んでいるとき)に実施することができる。
また、例えば、状態量取得部としても機能する制御装置100は、ABS制御中における減圧制御の実施時間TMcを車両状態量の推移としてメモリ101に記憶させるようにしてもよい。すなわち、車両の走行する路面状況が一定である場合、ABS制御の実施中にあっては、各減圧制御の実施時では、スリップ量Slpが同じように推移する。そのため、各減圧制御の実施時間のばらつきは小さい。しかし、減圧制御の実施時に保持弁34a〜34dが異物を噛み込んでいる場合、減圧制御を実施してもスリップ量Slpがなかなか小さくならないため、同減圧制御の実施時間が長くなってしまう。
図8には、例えば左前輪FLにABS制御が実施されている場合におけるWC圧Pwcの推移が図示されている。すなわち、第1のタイミングt51から開始される減圧制御の実施時には保持弁34aが異物を噛み込んでいない。そのため、この減圧制御は、その後の第2のタイミングt52で終了される。つまり、この減圧制御の実施時間TMcは、第1のタイミングt51から第2のタイミングt52までの時間である。
その後、第3のタイミングt53で減圧制御が実施される。この第3のタイミングt53から開始される今回の減圧制御では、保持弁34aが異物を噛み込んでいるため、WC圧Pwcが減圧されにくくなる。そのため、第3のタイミングt53から前回の減圧制御の実施時間TMcが経過した時点である第4のタイミングt54になっても今回の減圧制御は継続される。そして、第4のタイミングt54から所定時間βが経過した時点である第5のタイミングt55になっても、今回の減圧制御が未だ継続されているときには、今回の減圧制御の実施時における実施時間TMcの推移が前回の減圧制御の実施時における実施時間TMcの推移と相異しており、保持弁34aが異物を噛み込んでいると判定できる。そのため、こうした場合には、今回の減圧制御の実施中にリフレッシュ制御を実施するようにしてもよい。この場合であっても、WC圧Pwcの検出手段を設けなくても、リフレッシュ制御を、適切な時期(すなわち、保持弁34aが異物を噛み込んでいるとき)に実施することができる。
・例えば、制御装置100は、ABS制御中における減圧制御の開始タイミングを基に保持弁34a〜34dが異物を噛み込んでいるか否かを判定するようにしてもよい。すなわち、ABS制御の増圧制御では、保持弁34a〜34dの開度を大きくしてホイールシリンダ11a〜11d内のWC圧Pwcを急激に増大させる第1の期間と、第1の期間よりも開度を小さくしてWC圧Pwcを緩やかに増大させる第2の期間とを有していることがある。この場合、第1の期間から第2の期間への移行時に保持弁34a〜34dが異物を噛み込み、その開度を小さくできないことがある。この場合、第2の期間になっても、WC圧Pwcの急激な増大が継続され、車輪のスリップ量Slpの増大速度が大きくなるため、次の減圧制御の開始タイミングが早まってしまう。
図9には、例えば左前輪FLにABS制御が実施されている場合におけるWC圧Pwcの推移が図示されている。すなわち、第1のタイミングt41から開始される増圧制御の実施時において、第1の期間から第2の期間への移行期に保持弁34aが異物を噛み込んでいないため、第2のタイミングt42以降の第2の期間ではWC圧Pwcの増大速度が第2のタイミングt42以前の第1の期間よりも小さくなる。この場合、第3のタイミングt43で増圧制御が終了され、減圧制御が開始される。なお、この場合の増圧制御の実施時間TMbは、第1のタイミングt41から第3のタイミングt43までの時間であり、制御装置100によって取得される。
そして、第4のタイミングt44で減圧制御が終了して増圧制御が開始される。そして、このときの増圧制御の第1の期間から第2の期間への移行時に保持弁34aが異物を噛み込むと、第5のタイミングt45以降の第2の期間ではWC圧Pwcの増大速度が小さくならない。そのため、第4のタイミングt44から上記実施時間TMbが経過した時点である第7のタイミングt47よりも前の第6のタイミングt46から減圧制御が開始される。この場合、前回の減圧制御の終了タイミングから今回の減圧制御の開始タイミングまでの期間が、前々回の減圧制御の終了タイミングから前回の減圧制御の開始タイミングまでの期間と相異しているという条件が成立するため、今回の減圧制御の実施中にリフレッシュ制御が実施される。この構成によれば、このように間欠的に実施される減圧制御の間隔を比較することで、WC圧Pwcの検出手段を設けなくても、リフレッシュ制御を、適切な時期(すなわち、保持弁34aが異物を噛み込んでいるとき)に実施することができる。
・車両の制動制御装置が適用される制動装置は、ホイールシリンダ内のWC圧Pwcを減圧する減圧制御の実施時に閉弁される電磁弁(対象電磁弁)が液圧回路に設けられている構成であれば、上記ブレーキアクチュエータ30以外の他の構成のアクチュエータを備えた構成であってもよい。