以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図7に従って説明する。なお、以下における本明細書中の説明においては、車両の進行方向(前進方向)を前方(車両前方)として説明する。
図1に示すように、本実施形態の自動二輪車両は、駆動輪である後輪RWに駆動力を付与するための図示しない駆動装置と、前輪FW及び後輪RWに制動力を付与するための制動装置11とを備えている。駆動装置は、運転手によるアクセル12の操作量に応じた駆動力を発生させるべく駆動する図示しない駆動源(エンジンやモータなど)を備えており、該駆動源で発生した駆動力が後輪RWに伝達されることにより、車両が進行方向に向かって走行する。
制動装置11は、従動輪であって且つ操舵輪である前輪FWに制動力を付与するための前輪用液圧発生装置13fと、後輪RWに制動力を付与するための後輪用液圧発生装置13rとを備えている。また、制動装置11は、2つの液圧回路14f,14rを有するブレーキアクチュエータ15(図1では二点鎖線で囲まれた部分)と、該ブレーキアクチュエータ15を制御するための制動制御装置としての電子制御装置(以下、「ECU」という。)16とを備えている。前輪用液圧回路14fは、前輪用液圧発生装置13fに接続されると共に、前輪用ホイールシリンダ17fに接続されている。また、後輪用液圧回路14rは、後輪用液圧発生装置13rに接続されると共に、後輪用ホイールシリンダ17rに接続されている。
なお、本実施形態の車両には、各ホイールシリンダ17f,17r内のホイールシリンダ圧(「WC圧」ともいう。)を検出するための圧力検出手段としての圧力センサSE4,SE5が設けられている。これら各圧力センサSE4,SE5からは、ホイールシリンダ17f,17r内の実際のWC圧(「実WC圧」ともいう。)に応じた検出信号がECU16に出力される。
前輪用液圧発生装置13fは、運転手によるブレーキレバー18の操作、即ち自動二輪車両の右側ハンドル19にブレーキレバー18を接近させるような操作に応じたマスタシリンダ圧(「MC圧」ともいう。)が内部に発生する前輪用マスタシリンダ20fを備えている。後輪用液圧発生装置13rは、運転手によるブレーキペダル21の操作、即ち自動二輪車両の右足置きの前方に配設されたブレーキペダル21の踏込み操作に応じたMC圧が内部に発生する後輪用マスタシリンダ20rを備えている。そして、ブレーキレバー18やブレーキペダル21が運転手によって操作された場合、マスタシリンダ20f,20rからは、液圧回路14f,14rを介してホイールシリンダ17f,17r内にブレーキ液が供給される。その結果、各車輪FW,RWには、ホイールシリンダ17f,17r内のWC圧に応じた制動力が付与される。
ブレーキアクチュエータ15において各液圧回路14f,14rには、マスタシリンダ20f,20rとホイールシリンダ17f,17rとの間に配置される常開型の電磁弁である増圧弁(第1の電磁弁)24f,24rと、常閉型の電磁弁である減圧弁(第2の電磁弁)25f,25rとがそれぞれ設けられている。各増圧弁24f,24rは、各ホイールシリンダ17f,17r内のWC圧を増圧させる場合には開状態となるようにそれぞれ作動、即ち開動作する一方、WC圧を保圧及び減圧させる場合には閉状態となるようにそれぞれ作動、即ち閉動作する。また、各減圧弁25f,25rは、各ホイールシリンダ17f,17r内のWC圧を増圧及び保圧させる場合にはそれぞれ閉動作する一方、WC圧を減圧させる場合にはそれぞれ開動作する。
なお、各増圧弁24f,24r及び各減圧弁25f,25rは、二位置型の電磁弁である。しかし、本実施形態では、後述するABS制御においてホイールシリンダ17f,17rのWC圧を増圧させる場合には、WC圧を徐々に増圧させるように増圧弁24f,24rが開動作する。すなわち、増圧弁24f,24rの図示しない電磁コイルに供給される指令電流値Id(図2参照)は、徐々に小さくなるように調整される。
また、各液圧回路14f,14rには、減圧弁25f,25rを介してホイールシリンダ17f,17r内から流出してきたブレーキ液を一時貯留するためのリザーバ26f,26rと、駆動モータ27(例えばブラシレスモータ)の回転によって作動するポンプ28f,28r(ピストンポンプやギヤポンプなど)とが設けられている。これら各ポンプ28f,28rは、リザーバ26f,26r内のブレーキ液をそれぞれ吸引し、液圧回路14f,14rにおいてマスタシリンダ20f,20rと増圧弁24f,24rとの間の接続部位31f,31rに向けてそれぞれ吐出する。
次に、本実施形態のECU16について説明する。
ECU16の入力側インターフェースには、各車輪FW,RWの車輪速度を検出するための車輪速度センサSE1,SE2、及び圧力センサSE4,SE5が電気的に接続されている。また、ECU16の出力側インターフェースには、各弁24f,24r,25f,25r及び駆動モータ27などが電気的に接続されている。そして、ECU16は、各種センサSE1,SE2,SE4,SE5からの各種検出信号に基づき、各弁24f,24r,25f,25r及び駆動モータ27(即ち、ポンプ28f,28r)の作動を個別に制御する。なお、ECU16は、各車輪速度センサSE1,SE2からの検出信号に基づき、各種制動制御時に必要な車両の前後方向における車体減速度を推定演算する。
こうしたECU16は、CPU32、ROM33及びRAM34などから構成されるデジタルコンピュータ、各弁24f,24r,25f,25rを作動させるための図示しない弁用ドライバ回路、及び駆動モータ27を作動させるための図示しないモータ用ドライバ回路を有している。デジタルコンピュータのROM33には、各種制御処理(後述する制動制御処理等)、各種マップ(図2に示すマップ等)及び各種閾値(後述する車体速度閾値、各圧力差閾値、各カウンタ閾値等)などが予め記憶されている。また、RAM34には、車両の図示しないイグニッションスイッチが「オン」である間、適宜書き換えられる各種の情報(後述する車輪速度、車体速度、車体減速度、実WC圧、推定WC圧、圧力差、各カウンタ、各フラグ等)などがそれぞれ記憶される。
次に、ROM33に予め記憶される各種マップについて図2に基づき説明する。
図2に示す特性マップは、後述するアンチロックブレーキ制御(「ABS制御」ともいう。)の実行時に増圧弁24f,24rの図示しない電磁コイルに供給する指令電流値Idを、差圧推定値ΔPdに基づき設定するためのマップである。図2に示すように、指令電流値Idは、差圧推定値ΔPdが「0(零)」である場合には「0(零)」と初期電流値I0との間の電流値に設定される。この初期電流値I0とは、増圧弁24f,24rの図示しないコイルスプリングから図示しない弁体に付与される付勢力とほぼ同等の大きさの電磁力を発生させるために必要な大きさである。そのため、指令電流値Idが初期電流値I0以下である場合、増圧弁24f,24rは開状態となる。また、指令電流値Idは、差圧推定値ΔPdが「0(零)」よりも大きい場合には差圧推定値ΔPdが大きくなるに連れて大きな値に設定される。そして、指令電流値Idは、差圧推定値ΔPdが最大差圧ΔPholdである場合には保持電流値Iholdに設定される。
なお、ここでいう差圧とは、マスタシリンダ20f,20r内のMC圧とホイールシリンダ17f,17r内のWC圧との差圧のことであり、差圧推定値ΔPdは、当該差圧の推定値である。また、指令電流値Idが保持電流値Ihold以上である場合、増圧弁24f,24rは閉状態になり、ホイールシリンダ17f,17rのWC圧の増圧が規制される。
次に、本実施形態のECU16が実行する制動制御処理ルーチンについて、図3に示すフローチャートと図6に示すタイミングチャートに基づき説明する。なお、図6は、ABS制御時における車両の車体速度VS及び車輪速度VWF,VWR、マスタシリンダ20f,20rの推定MC圧Pmc、ホイールシリンダ17f,17rの推定WC圧Pwc_e、実WC圧Pwc_r、差圧推定値ΔPd及び増圧弁24f,24rに対する指令電流値Idの変化の一例を示すタイミングチャートである。
さて、ECU16は、予め設定された所定周期(例えば「6msec. 」)毎に制動制御処理ルーチンを実行する。この制動制御処理ルーチンにおいて、ECU16は、各車輪速度センサSE1,SE2からの検出信号に基づき各車輪FW,RWの車輪速度VWF、VWRを演算する(ステップS10)。続いて、ECU16は、ステップS10で演算した各車輪速度VWF,VWRのうち少なくとも一方(例えば前輪FWの車輪速度VWF)に基づき車両の車体速度(「推定車体速度」ともいう。)VSを演算する(ステップS11)。
そして、ECU16は、運転手によるブレーキ操作時に車輪FW,RWのロックを抑制して車両の操舵性を確保するABS制御の開始条件が成立したか否かを判定するためのABS制御開始判定処理を実行する(ステップS12)。具体的には、ECU16は、車両の車体速度VSから車輪FW,RWの車輪速度VWF,VWRを減算し、該減算結果を車輪FW,RWのスリップ量とする。また、ECU16は、ステップS10で演算した各車輪速度VWF,VWRを微分して各車輪FW,RWの車輪加速度を取得し、該車輪加速度に対して「−1」を乗算して各車輪FW,RWの車輪減速度を取得する。そして、ECU16は、車輪FW,RWの車輪減速度が予め設定された開始判定用減速度閾値以上であると共に、車輪FW,RWのスリップ量が予め設定されたスリップ閾値以上である場合に、ABS制御の開始条件が成立したと判断し、後述するABSフラグFLG1(図4参照)を「ON」にセットする。ただし、ECU16は、ABS制御の開始条件が不成立であると判断した場合にはABSフラグFLG1を「OFF」とする。
続いて、ECU16は、対象車輪に対して図4及び図5で詳述するABS制御処理を実行し(ステップS13)、制動制御処理ルーチンを一旦終了する。なお、「対象車輪」とは、運転手によるブレーキ操作によって車輪減速度及びスリップ量が共に閾値以上となり、車輪がロックした又はロックしかけた車輪のことである。例えば、ブレーキレバー18が操作される場合には前輪FWが対象車輪であり、ブレーキペダル21が操作された場合には後輪RWが対象車輪である。
ここで、前輪FWに対するABS制御について説明する。すなわち、図6のタイミングチャートに示すように、運転手によってブレーキ操作されると、前輪FWの車輪速度VWFは減速され、さらに、車両の車体速度VSもまた徐々に減速される。そして、第1のタイミングt11が経過すると、ABS制御の開始条件が成立する。すると、駆動モータ27の回転に基づきポンプ28f,28rが作動すると共に、前輪用液圧回路14fに設けられる増圧弁24fが閉状態になり、さらに、減圧弁25fが開状態になる。その結果、前輪FWの前輪用ホイールシリンダ17f内のWC圧が減圧される、即ち減圧制御が実行される。このとき、後輪用ホイールシリンダ17r内のWC圧が変化しないように、後輪用液圧回路14rに設けられる増圧弁24rは閉状態にされる。
そして、第2のタイミングt12が経過すると、前輪FWのスリップ量(=車体速度VW−前輪FWの車輪速度VWF)が小さくなり、前輪用ホイールシリンダ17f内のWC圧を徐々に増圧させる増圧制御(「リニア増圧制御」ともいう。)が開始される。すなわち、開状態にある減圧弁25fが閉状態になると共に、増圧弁24fは、前輪用ホイールシリンダ17f内のWC圧が徐々に増圧されるように開動作する。このようにABS制御中においては、前輪FWのスリップ量の変化に伴い、前輪用ホイールシリンダ17f内のWC圧に対する減圧制御及び増圧制御が繰り返し実行される。なお、減圧制御と増圧制御との間に、前輪用ホイールシリンダ17f内のWC圧を保圧させるための保圧制御を実行してもよい。
次に、上記ステップS13のABS制御処理ルーチン(ABS制御処理)について、図4及び図5に示すフローチャートと図6及び図7に示すタイミングチャートに基づき説明する。なお、図4及び図5は、前輪FWに対するABS制御処理ルーチンを示すフローチャートである。また、図7は、ABS制御時におけるホイールシリンダ17f,17rの推定WC圧Pwc_e、実WC圧Pwc_r、差圧推定値ΔPd及び増圧弁24f,24rに対する指令電流値Idの変化の一例を示すタイミングチャートである。
さて、ABS制御処理ルーチンにおいて、ECU16は、ABSフラグFLG1が「ON」であるか否かを判定する(ステップS20)。ただし、前輪FWのスリップ量及び車輪減速度が共に閾値以上になったことを契機に、ABSフラグFLG1が「ON」になった場合にかぎる。ステップS20の判定結果が否定判定(FLG1=OFF)である場合、ECU16は、前輪FWに対してABS制御が実行されていないため、その処理を後述するステップS25に移行する。なお、ECU16は、後輪RWのスリップ量及び車輪減速度が共に閾値以上になったことを契機にABSフラグFLG1が「ON」になった場合、前輪FWに対するABS制御を実行しないため、その処理をステップS25に移行する。
一方、ステップS20の判定結果が肯定判定(FLG1=ON)である場合、ECU16は、前輪FWに対するABS制御が実行中であると判断し、ステップS11で演算した車体速度VSが予め設定された車体速度閾値KVS以上であるか否かを判定する(ステップS21)。この車体速度閾値KVSは、前輪FWに対するABS制御を終了させるか否かを判断するための基準値であって、実験やシミュレーションなどによって予め設定される。ステップS21の判定結果が否定判定(VS<KVS)である場合、ECU16は、その処理を次のステップS24に移行する。
ステップS24において、ECU16は、ABSフラグFLG1を「OFF」にセットする。すなわち、ECU16は、予め設定された所定時間の間、ポンプ28f,28rを作動させた後、該ポンプ28f,28r、即ち駆動モータ27を停止させる。そして、ECU16は、前輪FWに対するABS制御を終了させる。このとき、後輪RWに対するABS制御が実行中である場合、ECU16は、ポンプ28f,28rの作動を継続させる。その後、ECU16は、その処理を次のステップS25に移行する。
ステップS25において、ECU16は、後述する第1カウンタC1及び第2カウンタC2をそれぞれ「0(零)」にリセットする。その後、ECU16は、ABS制御処理ルーチンを終了する。
その一方で、ステップS21の判定結果が肯定判定(VS≧KVS)である場合、ECU16は、前輪用圧力センサSE4からの検出信号に基づき前輪用ホイールシリンダ17f内の実WC圧Pwc_rを取得する(ステップS26)。したがって、本実施形態では、ECU16が、ホイールシリンダ圧取得手段としても機能する。続いて、ECU16は、前輪用ホイールシリンダ17f内のホイールシリンダ圧推定値(「推定WC圧」ともいう。)Pwc_eを、増圧弁24f及び減圧弁25fの動作態様に基づき取得する(ステップS27)。したがって、本実施形態では、ECU16が、ホイールシリンダ圧推定手段としても機能する。
ここで、図7のタイミングチャートに示すように、ABS制御が開始される前は、増圧弁24fが開状態であると共に減圧弁25fが閉状態であるため、前輪用ホイールシリンダ17f内のWC圧は、前輪用マスタシリンダ20f内のMC圧と略同等の圧力となる。すなわち、ブレーキ操作が開始される第0のタイミングt10から第1のタイミングt11が経過するまでは、前輪用マスタシリンダ20f内のMC圧を推定する、即ち推定MC圧Pmcを取得することにより、前輪用ホイールシリンダ17f内の推定WC圧Pwc_eが取得される。
そこで、本実施形態において、ECU16は、各車輪速度センサSE1,SE2からの検出信号に基づき推定演算した車両の車体減速度に所定の第1ゲインを乗算し、該乗算結果を前輪用マスタシリンダ20f内の推定MC圧Pmcとする。そして、ECU16は、取得した推定MC圧Pmcを前輪用ホイールシリンダ17f内の推定WC圧Pwc_eとする。ただし、ブレーキ操作が開始されてからABS制御が開始されるまでの時間(「ABS準備時間」ともいう。)の長さによって、上記演算によって取得される推定MC圧Pmcは、実際のMC圧と異なることがある。そこで、上記演算によって取得される推定MC圧Pmc、即ち推定WC圧Pwc_eを、ABS準備時間によって補正してもよい。
また、図7(a)に示すように、ABS制御における減圧制御時の実際のWC圧の単位時間あたりの変化量、即ち減圧量は、減圧制御が開始されてからの経過時間とほぼ比例の関係となる。一方、ABS制御における増圧制御時の実際のWC圧の単位時間あたりの変化量、即ち増圧量は、増圧弁24f,24rの図示しない弁座に対する図示しない弁体が接近するほど少なくなる、即ち増圧弁24f,24rに対する指令電流値Idの大きさとほぼ反比例の関係となる(図7(a)(c)参照)。そこで、本実施形態において、ECU16は、増圧制御時には、指令電流値Id、増圧制御の時間、増圧弁24f,24r毎に予め設定された指令電流値Idに応じたブレーキ液の流量、及びその流量に応じたホイールシリンダ17f,17r内の推定増加圧力に基づき前輪用ホイールシリンダ17f内の推定WC圧Pwc_eを取得する。一例として、ECU16は、指令電流値Idに応じたブレーキ液の流量に基づき、上記所定周期に相当する時間(以下、「単位時間」という。)あたりのWC圧の増加量を推定する。そして、ECU16は、取得した単位時間あたりのWC圧の増加量を、前回に演算された推定WC圧Pwc_eを積算し、該積算結果を今回の推定WC圧Pwc_eとする。また、ECU16は、減圧制御時には、上記所定周期に相当する時間に対して所定の第2ゲインを乗算する。そして、ECU16は、前回に演算された推定WC圧Pwc_eから乗算結果(=所定周期に相当する時間×第2ゲイン)を減算し、該減算結果を今回の推定WC圧Pwc_eとする。
図4及び図5のフローチャートに戻り、推定WC圧Pwc_eが取得されると、ECU16は、増圧制御から減圧制御に切り替るタイミングであるか否かを判定するための制御切替判定処理を実行する(ステップS28)。すなわち、増圧制御時において減圧弁25fには、電流が供給されない。また、減圧制御時において減圧弁25fには、電流が供給される。そこで、ECU16は、前輪FWに対する前回のABS制御処理の実行時点には減圧弁25fに電流が供給されていないと共に、今回のABS制御処理の実行時点には減圧弁25fに電流が供給されている場合に、増圧制御から減圧制御に切り替るタイミングであると判断し、切替フラグFLG2を「ON」にセットする。一方、ECU16は、前回のABS制御処理の実行時点には減圧弁25fに電流が供給されていた場合、及び今回のABS制御処理の実行時点には減圧弁25fに電流が供給されていない場合には、切替フラグFLG2を「OFF」にセットする。
そして、ECU16は、切替フラグFLG2が「ON」であるか否かを判定する(ステップS29)。この判定結果が否定判定(FLG2=OFF)である場合、ECU16は、その処理を後述するステップS34に移行する。一方、ステップS29の判定結果が肯定判定(FLG2=ON)である場合、ECU16は、ステップS26で取得した前輪用ホイールシリンダ17f内の実WC圧Pwc_rからステップS27で取得した前輪用ホイールシリンダ17f内の推定WC圧Pwc_eを減算して圧力差Pwc_subを取得する(ステップS30)。すなわち、ステップS30では、増圧制御から減圧制御に切り替った時点の実測値(実WC圧Pwc_r)に対する推定値(推定WC圧Pwc_e)のずれ量(圧力差Pwc_sub)が検出される。
続いて、ECU16は、ステップS30で取得した圧力差Pwc_subが予め正の値に設定された第1圧力差閾値KPwc1(例えば2MPa)以上であるか否かを判定する(ステップS31)。この判定結果が肯定判定(Pwc_sub≧KPwc1)である場合、ECU16は、第1カウンタC1を「1」だけインクリメントすると共に、第2カウンタC2を「0(零)」にリセットする(ステップS32)。第1カウンタC1は、前輪FWに対する1回のABS制御中においてステップS31が肯定判定になった連続回数をカウントしている。そして、ECU16は、ステップS32で更新した第1カウンタC1が予め設定された所定回数としての第1カウンタ閾値KC1(例えば3回)以上であるか否かを判定する(ステップS33)。
ちなみに、圧力センサSE4,SE5からの検出信号には、ノイズ成分が含まれることがある。つまり、ホイールシリンダ17f,17r内のWC圧の実測値である実WC圧Pwc_rには、検出信号に含まれるノイズ成分をも加味した値になっていることがある。この場合、ステップS30で圧力差Pwc_subを演算したとしても、該演算結果は必ずしも正しいとはいえない。もし仮に実WC圧Pwc_rが正しい値であり、該実WC圧Pwc_rと推定WC圧Pwc_eとの間にずれが本当にあるのであれば、圧力差Pwc_subが第1圧力差閾値KPwc1以上となることが連続するはずである。そこで、本実施形態では、圧力差Pwc_subが第1圧力差閾値KPwc1以上となることが誤検出されることを抑制するために、第1カウンタ閾値KC1が予め設定される。
そして、ステップS33の判定結果が否定判定(C1<KC1)である場合、ECU16は、その処理を次のステップS34に移行する。
ステップS34において、ECU16は、減圧制御時には増圧弁24fに供給する指令電流値Idを、保持電流値Iholdに設定する一方、増圧制御時には指令電流値Idを図2に示す特性マップに基づき設定する。その後、ECU16は、その処理を後述するステップS36に移行する。
一方、ステップS33の判定結果が肯定判定(C1≧KC1)である場合、ECU16は、前輪用ホイールシリンダ17f内のWC圧が予定よりも高圧すぎる、即ち対象車輪である前輪FWに対する制動力が大きすぎると判断する。そして、ECU16は、次回の増圧制御時における前輪用ホイールシリンダ17f内の実WC圧Pwc_rの増圧速度を前回の増圧制御時における実WC圧Pwc_rの増圧速度よりも遅くするための第1補正処理を行なう(ステップS35)。具体的には、ECU16は、最新の圧力差Pwc_subが大きいほど、次回の増圧制御時における実WC圧Pwc_rの増圧速度が遅くなるように増圧弁24fに供給する指令電流値Idを設定する。すなわち、第1補正処理では、図2に示す特性マップを用いて増圧制御を実行する場合よりも、実WC圧Pwc_rの増圧速度が遅くなるように指令電流値Idが調整される。その後、ECU16は、その処理を次のステップS36に移行する。
ステップS36において、ECU16は、増圧弁24f及び減圧弁25fを作動させるための出力処理を行なう。すなわち、ECU16は、ステップS34、ステップS35及び後述するステップS40で設定された指令電流値Idが増圧弁24fに供給されるように、増圧弁24fに印加する電圧のDuty比を設定する。また、ECU16は、増圧制御時には減圧弁25fに電流を供給せずに、該減圧弁25fを閉状態にする。一方、ECU16は、減圧制御時には減圧弁25fに電流を供給し、該減圧弁25fを開状態にする。すなわち、ECU16は、減圧弁25f(及び減圧弁25r)に対して電流のON/OFF制御を行なう。したがって、本実施形態では、ECU16が、電磁弁制御手段としても機能する。その後、ECU16は、ABS制御処理ルーチンを終了する。
なお、本実施形態において、増圧弁24f,24rは、PWM(Pulse Width Modulation)制御される。そのため、増圧弁24f,24rに出力される駆動信号には、信号レベルが「Hi」である期間と「Low」である期間とが繰り返される。そして、駆動信号の一周期に相当する時間に対する信号レベルが「Hi」である期間の比率のことを、「Duty比」という。そのため、Duty比が大きくなると、一周期内において信号レベルが「Hi」である期間が長くなる結果、制御対象(例えば増圧弁24f)に対する指令電流値Idが大きくなる。
ここで、図6のタイミングチャートに示すように、ホイールシリンダ17f内の実WC圧Pwc_rが推定WC圧Pwc_eよりも高圧である場合とは、差圧推定値ΔPdが、実際の差圧よりも大きくなることである。そのため、増圧制御時において増圧弁24fに対する指令電流値Idは、該増圧弁24fに本来供給すべき指令電流値よりも大きくなる。そして、増圧制御から減圧制御に切り替えられる第3のタイミングt13では、その時点の圧力差Pwc_subが第1圧力差閾値KPwc1未満となる。すなわち、第1カウンタC1は「0(零)」である。そのため、その後の第4のタイミングt14から開始される増圧制御では、増圧弁24fに対する指令電流値Idは、図2に示す特性マップに基づき設定される。
しかし、この増圧制御から次に減圧制御に切り替る第5のタイミングt15では、圧力差Pwc_subが第1圧力差閾値KPwc1以上になり、第1カウンタC1が「0(零)」から「1」にインクリメントされる。その後の増圧制御から減圧制御に切り替る第6のタイミングt16において、圧力差Pwc_subが第1圧力差閾値KPwc1未満である場合には、第1カウンタC1が「0(零)」にリセットされる。その一方で、第6のタイミングt16での圧力差Pwc_subが第1圧力差閾値KPwc1以上である場合には、第1カウンタC1が「2」になる。さらに、その後の増圧制御から減圧制御に切り替る第7のタイミングt17において、圧力差Pwc_subが第1圧力差閾値KPwc1以上になると、第1カウンタC1が「3」になる。
すると、第7のタイミングt17から開始される減圧制御が終了し、第8のタイミングt18から開始される増圧制御では、増圧弁24fに供給される指令電流値Idの低下速度が変更される。すなわち、前回までの増圧制御では、指令電流値Idは、図2に示す特性マップに基づき増圧制御が開始される時点の差圧推定値ΔPdに応じた値に設定され、その後、特性マップに基づき小さくなる。しかし、第8のタイミングt18から開始される増圧制御では、指令電流値Idは、図2に示す特性マップに関係なく調整される。そのため、図6(e)に示すように、指令電流値Idの低下速度は、前回までの増圧制御時における指令電流値Idの低下速度(第8のタイミングt18から二点鎖線で示す低下速度)よりも遅く設定される。その結果、図6(c)に示すように、第8のタイミングt18から開始される増圧制御では、実WC圧Pwc_rの増圧速度は、前回までの増圧制御時における増圧速度(第8のタイミングt18から二点鎖線で示す増圧速度)よりも遅くなる。ただし、こうした増圧制御が実行される間でも、差圧推定値ΔPdは、指令電流値Idが図2に示す特性マップなどに基づき設定されているものとして推定される。
すると、増圧制御から次の減圧制御が開始される第9のタイミングt19では、実WC圧Pwc_rと推定WC圧Pwc_eとの圧力差Pwc_subが「0(零)」に接近する。そのため、図6(d)に示すように、差圧推定値ΔPdは、実際の差圧に近づく。すると、第1カウンタC1が「0(零)」にリセットされる。そして、その後の増圧制御では、増圧弁24fに供給される指令電流値Idは、再び図2に示す特性マップに基づき調整される。このように実WC圧Pwc_rを推定WC圧Pwc_eに近づけさせるような補正処理を行なうことにより、前輪FWには適切な制動制御が実行される。そのため、ABS制御中における車両の挙動安定性がさらに向上する。
図5に示すフローチャートに戻り、ステップS31の判定結果が否定判定(Pwc_sub<KPwc1)である場合、ECU16は、ステップS30で演算した圧力差Pwc_subが予め負の値に設定された第2圧力差閾値KPwc2(例えば−2MPa)以下であるか否かを判定する(ステップS37)。この判定結果が否定判定(Pwc_sub>KPwc2)である場合、ECU16は、各カウンタC1,C2を「0(零)」にリセットし(ステップS38)、その処理を前述したステップS34に移行する。一方、ステップS37の判定結果が肯定判定(Pwc_sub≦KPwc2)である場合、ECU16は、第1カウンタC1を「0(零)」にリセットすると共に、第2カウンタC2を「1」だけインクリメントする(ステップS39)。第2カウンタC2は、前輪FWに対する1回のABS制御中においてステップS37が肯定判定になった連続回数をカウントしている。そして、ECU16は、ステップS39で更新した第2カウンタC2が予め設定された所定回数としての第2カウンタ閾値KC2(例えば3回)以上であるか否かを判定する(ステップS40)。なお、第2カウンタ閾値KC2を設定する理由は、第1カウンタ閾値KC1を設定する理由と同じである。
ステップS40の判定結果が否定判定(C2<KC2)である場合、ECU16は、その処理を前述したステップS34に移行する。一方、ステップS40の判定結果が肯定判定(C2≧KC2)である場合、ECU16は、前輪用ホイールシリンダ17f内のWC圧が予定よりも低圧すぎる、即ち対象車輪である前輪FWに対する制動力が小さすぎると判断する。そして、ECU16は、次回の増圧制御時における前輪用ホイールシリンダ17f内の実WC圧Pwc_rの増圧速度を前回の増圧制御時における実WC圧Pwc_rの増圧速度よりも速くするための第2補正処理を行なう(ステップS41)。具体的には、ECU16は、最新の圧力差Pwc_subが小さいほど、即ち最新の圧力差Pwc_subの絶対値が大きいほど、次回の増圧制御時における実WC圧Pwc_rの増圧速度が速くなるように増圧弁24fに供給する指令電流値Idを設定する。続いて、ECU16は、その処理を前述したステップS36を実行し、その後、ABS制御処理ルーチンを終了する。
ここで、図7のタイミングチャートに示すように、ホイールシリンダ17f内の実WC圧Pwc_rが推定WC圧Pwc_eよりも低圧である場合とは、差圧推定値ΔPdが、実際の差圧よりも小さくなることである。そのため、増圧制御時において増圧弁24fに対する指令電流値Idは、該増圧弁24fに本来供給すべき指令電流値よりも小さくなる。そして、増圧制御から減圧制御に切り替わる第1のタイミングt21では、その時点の圧力差Pwc_subが第2圧力差閾値KPwc2よりも大きい。すなわち、第2カウンタC2は「0(零)」になる。そのため、その後の第2のタイミングt22から開始される増圧制御では、増圧弁24fに対する指令電流値Idは、図2に示す特性マップに基づき設定される。
しかし、この増圧制御から次に減圧制御に切り替る第3のタイミングt23において、圧力差Pwc_subが第2圧力差閾値KPwc2以下になると、第2カウンタC2が「0(零)」から「1」にインクリメントされる。その後の増圧制御から減圧制御に切り替る第4のタイミングt24において、圧力差Pwc_subが第2圧力差閾値KPwc2以下である場合には、第2カウンタC2が「2」になる。さらに、その後の増圧制御から減圧制御に切り替る第5のタイミングt25において、圧力差Pwc_subが第2圧力差閾値KPwc2以下になると、第2カウンタC2が「3」になる。
すると、第5のタイミングt25から開始される減圧制御が終了し、第6のタイミングt26から開始される増圧制御では、増圧弁24fに供給される指令電流値Idの低下速度が変更される。すなわち、前回までの増圧制御では、指令電流値Idは、図2に示す特性マップに基づき増圧制御が開始される時点の差圧推定値ΔPdに応じた値に設定され、その後、特性マップに基づき小さくなる。しかし、第6のタイミングt26から開始される増圧制御では、指令電流値Idは、図2に示す特性マップに関係なく、調整される。そのため、図7(c)に示すように、指令電流値Idの低下速度は、前回までの増圧制御時における指令電流値Idの低下速度(第6のタイミングt26から二点鎖線で示す低下速度)よりも速く設定される。その結果、図7(a)に示すように、第6のタイミングt26から開始される増圧制御では、実WC圧Pwc_rの増圧速度は、前回までの増圧制御時における増圧速度(第6のタイミングt26から二点鎖線で示す増圧速度)よりも速くなる。
すると、増圧制御から次の減圧制御が開始される第7のタイミングt27では、実WC圧Pwc_rと推定WC圧Pwc_eとの圧力差Pwc_subが「0(零)」に接近する。そのため、図7(b)に示すように、差圧推定値ΔPdは、実際の差圧に近づくと共に、第2カウンタC2は、「0(零)」にリセットされる。そして、その後の増圧制御では、増圧弁24fに供給される指令電流値Idは、再び図2に示す特性マップに基づく調整される。このように推定WC圧Pwc_eを実WC圧Pwc_rに近づけるような補正処理を行なうことにより、前輪FWには適切な制動制御が実行される。そのため、ABS制御中における車両の挙動安定性がさらに向上する。
なお、後輪RWに対するABS制御処理ルーチンは、上述した前輪FWに対するABS制御処理ルーチンとほぼ同等である。すなわち、ECU16は、後輪用ホイールシリンダ17r内の実WC圧Pwc_rと推定WC圧Pwc_eとの圧力差Pwc_subに基づき、増圧弁24rに供給する指令電流値Idを設定する。こうした制御を行なうことにより、前輪FWに対するABS制御時と同様に、後輪RWに対して適切な制動制御を実行させることができる。ちなみに、後輪用ホイールシリンダ17r内の実WC圧Pwc_rは、後輪用圧力センサSE5からの検出信号に基づき取得される。
したがって、本実施形態では、以下に示す効果を得ることができる。
(1)ABS制御時には、対象車輪(例えば前輪FW)のホイールシリンダ(例えば前輪用ホイールシリンダ17f)内の推定WC圧Pwc_eが取得されると共に、圧力センサSE4,SE5からの検出信号に基づきホイールシリンダ内の実WC圧Pwc_rが検出される。そして、ABS制御中では、実WC圧Pwc_rが推定WC圧Pwc_eに近づくように増圧弁24f,24rの動作態様が調整される。そのため、ABS制御中では、対象車輪に対する制動力が適切に調整される。したがって、ABS制御中において圧力センサSE4,SE5からの検出信号に基づき増圧弁24f,24rの動作態様を調整することにより、車両の挙動の更なる安定化に貢献できる。
(2)ABS制御中において推定WC圧Pwc_eと実WC圧Pwc_rとの圧力差Pwc_subが第1圧力差閾値KPwc1以上である場合、対象車輪(例えば前輪FW)には、予定の大きさの制動力(即ち、推定WC圧Pwc_eに応じた大きさの制動力)よりも大きな制動力が付与されている。そのため、ABS制御中において増圧制御の実行時間が短くなる所謂ハンチング現象が発生するおそれがある。そこで、本実施形態では、圧力差Pwc_subが第1圧力差閾値KPwc1以上である場合には、増圧制御時における実WC圧Pwc_rの増圧速度が遅くなるように、増圧弁24f,24rが制御される。そのため、上記ハンチング現象の発生を抑制できる、又はハンチング現象を速やかに解消できる。
(3)また、ABS制御中において推定WC圧Pwc_eと実WC圧Pwc_rとの圧力差Pwc_subが第2圧力差閾値KPwc2以下である場合、対象車輪(例えば前輪FW)には、予定の大きさの制動力(即ち、推定WC圧Pwc_eに応じた大きさの制動力)よりも小さな制動力が付与されている。この場合、対象車輪に適切な大きさの制動力が付与される場合に比して、車両の制動距離が長くなるおそれがある。そこで、本実施形態では、圧力差Pwc_subが第2圧力差閾値KPwc2以下である場合には、増圧制御時における実WC圧Pwc_rの増圧速度が速くなるように、増圧弁24f,24rが制御される。そのため、ABS制御中における車両の挙動の安定化を図りつつ、車両の制動距離の短縮化を図ることができる。
(4)本実施形態では、増圧制御から減圧制御に切り替る時点における推定WC圧Pwc_eと実WC圧Pwc_rとの圧力差Pwc_subに基づき、増圧弁24f,24rが制御される。そのため、圧力差Pwc_subを取得するタイミングが毎回ばらばらな場合に比して、圧力差Pwc_subの取得タイミングが統一されている分、推定WC圧Pwc_eに対する実WC圧Pwc_rのずれの検出精度を向上させることができる。
(5)また、推定WC圧Pwc_eと実WC圧Pwc_rとの圧力差Pwc_subが第1圧力差閾値KPwc1以上又は第2圧力差閾値KPwc2以下である場合、実WC圧Pwc_rの増圧速度は、減圧制御の実行中に設定できる。そのため、減圧制御から増圧制御に切り替る時点における推定WC圧Pwc_eと実WC圧Pwc_rとの圧力差Pwc_subに基づき実WC圧Pwc_rの増圧速度を補正する場合に比して、増圧弁24f,24rの動作態様を補正する時間を得ることができる。したがって、実WC圧Pwc_rの増圧速度を、予定通りの増圧速度に補正できる。
(6)推定WC圧Pwc_eと実WC圧Pwc_rとの圧力差Pwc_subが第1圧力差閾値KPwc1以上又は第2圧力差閾値KPwc2以下である場合、増圧弁24f,24rに供給する指令電流値Idが圧力差Pwc_subに応じた値に補正される。そのため、指令電流値Idの補正後においては、対象車輪(例えば前輪FW)に対する制動制御を適切に実行でき、ひいてはABS制御中における車両の挙動の安定性の向上に貢献できる。
(7)第1カウンタC1を設けない場合、推定WC圧Pwc_eと実WC圧Pwc_rとの圧力差Pwc_subが第1圧力差閾値KPwc1以上になることが一回だけ検出されると、第1補正処理が実行される。また、第2カウンタC2を設けない場合、圧力差Pwc_subが第2圧力差閾値KPwc2以下になることが一回だけ検出されると、第2補正処理が実行される。こうした場合、圧力センサSE4,SE5からの検出信号に含まれるノイズ成分に起因した誤判定を起こしてしまうおそれがある。この点、本実施形態では、第1カウンタC1が第1カウンタ閾値KC1未満である場合には第1補正制御が実行されない。また、第2カウンタC2が第2カウンタ閾値KC2未満である場合には第2補正制御が実行されない。したがって、誤判定に起因した対象車輪に対する制動制御のミスの発生を抑制できる。
なお、実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・実施形態において、各カウンタ閾値KC1,KC2を、3回以外の任意の回数に変更してもよい。ただし、各カウンタ閾値KC1,KC2を3回よりも大きな値(例えば5回)にする場合、第1圧力差閾値KPwc1を「2MPa」よりも小さな値(例えば1MPa)に設定すると共に、第2圧力差閾値KPwc2を「−2MPa」よりも大きな値(例えば−1MPa)に設定することが望ましい。また、各カウンタ閾値KC1,KC2を3回よりも小さな値(例えば2回)にする場合、第1圧力差閾値KPwc1を「2MPa」よりも大きな値(例えば4MPa)に設定すると共に、第2圧力差閾値KPwc2を「−2MPa」よりも小さな値(例えば−4MPa)に設定することが望ましい。
・実施形態において、圧力差Pwc_subを、減圧制御から増圧制御に切り替る時点における推定WC圧Pwc_eと実WC圧Pwc_rとに基づき取得してもよい。
・実施形態において、各補正処理では、実WC圧Pwc_rの増圧速度を、最新の圧力差Pwc_subに応じた速度ではなく、連続する3回分の圧力差Pwc_subの平均値に応じた速度に設定してもよい。例えば、第1補正処理では、図6に示すように、第5のタイミングt15、第6のタイミングt16及び第7のタイミングt17での圧力差Pwc_subの平均値を演算し、実WC圧Pwc_rの増圧速度を当該平均値に応じた速度に設定してもよい。
・実施形態では、第1補正処理及び第2補正処理において、ホイールシリンダ17f,17r内の実WC圧Pwc_rの増圧速度が圧力差Pwc_subに応じて調整される。しかし、第1補正処理では、実WC圧Pwc_rの増圧速度が前回の増圧制御時における実WC圧Pwc_rの増圧速度よりも遅くなるのであれば、増圧速度の補正度合いは、圧力差Pwc_subに関係なく一定でもよい。同様に、第2補正処理では、実WC圧Pwc_rの増圧速度が前回の増圧制御時における実WC圧Pwc_rの増圧速度よりも速くなるのであれば、増圧速度の補正度合いは、圧力差Pwc_subに関係なく一定でもよい。
・実施形態において、各圧力差閾値KPwc1,KPwc2を設定しなくてもよい。この場合、増圧制御の実行時には、前回の増圧制御の終了時点の圧力差Pwc_subが小さくなるように増圧弁24f,24rに供給する指令電流値Idを調整することが望ましい。
・実施形態では、増圧弁24f,24rの増圧制御を行なう場合、該増圧弁24f,24rに印加する電圧のDuty比を徐々に変更させている。しかし、第1補正処理が実行された場合、増圧弁24f,24rに印加する電圧を、徐々に高圧にするような制御を行なってもよい。この場合、第1補正処理が実行されない場合に比して、ホイールシリンダ17f,17r内の実WC圧Pwc_rの増圧速度を遅くすることができる。
・実施形態において、車両の前後方向における車体加速度を検出するための加速度センサ(「Gセンサ」ともいう。)を、車両に設けてもよい。
・実施形態において、車両を、進行方向前側に1つの前輪が配置され、且つ進行方向後側に2つの後輪が配置される自動三輪車両に具体化してもよい。車両を、進行方向前側に2つの前輪が配置され、且つ進行方向後側に1つの後輪が配置される自動三輪車両に具体化してもよい。
次に、上記実施形態及び別の実施形態から把握できる技術的思想を以下に追記する。
(イ)アンチロックブレーキ制御の開始条件が成立した場合に、車輪(FW,RW)に制動力を付与するためのホイールシリンダ(17f,17r)内のホイールシリンダ圧(Pwc_r)を減圧させる減圧制御及びホイールシリンダ圧(Pwc_r)を徐々に増圧させる増圧制御を繰り返させるために、ブレーキ操作に応じたマスタシリンダ圧(Pmc)を発生するマスタシリンダ(20f,20r)と前記ホイールシリンダ(17f,17r)との間に配置され且つ前記増圧制御時に開動作する第1の電磁弁(24f,24r)と、前記減圧制御時に開動作する第2の電磁弁(25f,25r)とを作動させるための車両の制動制御方法において、車両には、前記ホイールシリンダ(17f,17r)内のホイールシリンダ圧(Pwc_r)を検出するための圧力検出手段(SE4,SE5)が設けられており、前記ホイールシリンダ(17f,17r)内のホイールシリンダ圧推定値(Pwc_e)を取得させるホイールシリンダ圧推定ステップ(S27)と、前記圧力検出手段(SE4,SE5)からの検出信号に基づき、前記ホイールシリンダ(17f,17r)内のホイールシリンダ圧(Pwc_r)を取得させるホイールシリンダ圧取得ステップ(S26)と、前記ホイールシリンダ圧取得ステップ(S26)で取得するホイールシリンダ圧(Pwc_r)が前記ホイールシリンダ圧推定ステップ(S27)で取得したホイールシリンダ圧推定値(Pwc_e)に近づくように、前記第1の電磁弁(24f,24r)を作動させる電磁弁制御ステップ(S34,S35,S36,S41)と、を有することを特徴とする車両の制動制御方法。