(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図5に従って説明する。なお、以下における本明細書中の説明においては、車両の進行方向(前進方向)を前方(車両前方)として説明する。また、特に説明がない限り、以下の記載における左右方向は、車両進行方向における左右方向と一致するものとする。
図1に示すように、本実施形態における車両の制動制御装置11は、複数(本実施形態では4つ)ある車輪(右前輪FR、左前輪FL、右後輪RR及び左後輪RL)のうち、全ての車輪FR,FL,RR,RLが駆動輪として機能する車両(いわゆる四輪駆動車)に搭載されている。この制動制御装置11は、駆動源となるエンジン12で発生した駆動力を前輪FR,FLに伝達する駆動力伝達機構13と、この駆動力伝達機構13により前輪FR,FLに伝達された駆動力を後輪RR,RLに伝達する後輪側伝達機構14と、前輪FR,FLを転舵輪(「操舵輪」ともいう。)として転舵させるための前輪転舵機構15とを備えている。また、この制動制御装置11は、各車輪FR,FL,RR,RLに制動力を付与するための制動力付与機構16と、上記各機構13〜16を車両の走行状態に応じて適宜に制御するための電子制御装置(「ECU」ともいう。)17とを備えている。なお、エンジン12は、車両の搭乗者によるアクセルぺダル18の踏込み操作に対応した駆動力を発生させる。
駆動力伝達機構13には、エンジン12の出力軸に接続されたトランスミッション19と、このトランスミッション19から伝達された駆動力を適宜配分して前輪FL,FRに伝達する前輪用ディファレンシャルギヤ20とが設けられている。また、エンジン12から外部に向けて延設された吸気管21内の吸気通路21aには、その開口断面積を可変させるスロットル弁22が設けられると共に、吸気管21外には、スロットル弁22の開度を制御するためのスロットル弁アクチュエータ(例えばDCモータ)23が設けられている。また、エンジン12の吸気ポート(図示略)近傍には、燃料を噴射するインジェクタを有する燃料噴射装置24が設けられている。なお、アクセルぺダル18の近傍には、搭乗者によるアクセルぺダル18の踏込み量(開度)を検出するためのアクセル開度センサSE1が設けられている。
後輪側伝達機構14には、前輪用センターシャフト25を介して前輪用ディファレンシャルギヤ20に連結されるセンターディファレンシャル26が設けられている。このセンターディファレンシャル26は、車両の後側に配置された後輪用ディファレンシャルギヤ27と後輪用センターシャフト28を介して連結されている。そのため、エンジン12の駆動に基づき前輪用ディファレンシャルギヤ20に駆動力が伝達された場合には、その駆動力が前輪用センターシャフト25、センターディファレンシャル26、後輪用センターシャフト28及び後輪用ディファレンシャルギヤ27を介して後輪RR,RLに伝達されるようになっている。
前輪転舵機構15には、ステアリングホイール29と、ステアリングホイール29が固定されたステアリングシャフト30と、ステアリングシャフト30に連結された転舵アクチュエータ31とが設けられている。また、前輪転舵機構15には、転舵アクチュエータ31により車両の左右方向に移動自在なタイロッドと、このタイロッドの移動により前輪FL,FRを転舵させるリンクとを含んだリンク機構部32とが設けられている。さらに、前輪転舵機構15には、ステアリングホイール29の操舵角を検出するための操舵角センサSE2が設けられている。
次に、制動力付与機構16について図2に基づき以下説明する。
図2に示すように、本実施形態の制動力付与機構16は、マスタシリンダ40及びブースタ41を有する液圧発生装置42と、2つの液圧回路43,44を有する液圧制御装置(図2では二点鎖線で示す。)45とを備えている。各液圧回路43,44は、液圧発生装置42に接続されると共に、各車輪FR,FL,RR,RLに対応して設けられたホイールシリンダ(制動手段)46a,46b,46c,46dに接続されている。すなわち、右前輪FRにはホイールシリンダ46aが対応すると共に、左前輪FLにはホイールシリンダ46bが対応している。また、右後輪RRにはホイールシリンダ46cが対応すると共に、左後輪RLにはホイールシリンダ46dが対応している。
液圧発生装置42では、車両の室内に設けられたブレーキペダル47が車両の搭乗者によって踏込み操作された場合に、液圧発生装置42のマスタシリンダ40及びブースタ41が駆動するようになっている。また、マスタシリンダ40には、2つの出力ポート40a,40bが設けられている。そして、各出力ポート40a,40bのうち一方の出力ポート40aには第1液圧回路43が接続されると共に、他方の出力ポート40bには第2液圧回路44が接続されている。さらに、液圧発生装置42には、ブレーキペダル47が操作された際に電子制御装置17に向けて信号を送信するブレーキスイッチSW1が設けられている。
液圧制御装置45には、第1液圧回路43内のブレーキ液圧を昇圧するためのポンプ48と、第2液圧回路44内のブレーキ液圧を昇圧するためのポンプ49と、各ポンプ48,49を同時に駆動させるモータMとが設けられている。また、各液圧回路43,44上にはブレーキオイルが貯留されるリザーバ50,51が設けられており、各リザーバ50,51内のブレーキオイルは、ポンプ48,49の駆動に基づき液圧回路43,44内に供給されるようになっている。さらに、各液圧回路43,44には、マスタシリンダ40内のブレーキ液圧を検出するための液圧センサPS1,PS2が設けられている。
第1液圧回路43には、右前輪FRに対応するホイールシリンダ46aに接続されるホイールシリンダ46a用(右前輪FR用)の右前輪用経路43aと、左後輪RLに対応するホイールシリンダ46dに接続されるホイールシリンダ46d用(左後輪RL用)の左後輪用経路43bとが形成されている。そして、これら各経路43a,43b上には、常開型の電磁弁52,53と常閉型の電磁弁54,55とがそれぞれ設けられている。
同様に、第2液圧回路44には、左前輪FLに対応するホイールシリンダ46bに接続されるホイールシリンダ46b用(左前輪FL用)の左前輪用経路44aと、右後輪RRに対応するホイールシリンダ46cに接続されるホイールシリンダ46c用(右後輪RR用)の右後輪用経路44bとが形成されている。そして、これら各経路44a,44b上には、常開型の電磁弁56,57と常閉型の電磁弁58,59とがそれぞれ設けられている。
また、第1液圧回路43において各経路43a,43bに分岐された部位よりもマスタシリンダ40側には、常開型の比例電磁弁60が接続されると共に、この比例電磁弁60と並列関係をなすリリーフ弁61が接続されている。そして、比例電磁弁60とリリーフ弁61とにより比例差圧弁62が構成されている。比例差圧弁62は、電子制御装置17による制御に基づき、比例差圧弁62よりもマスタシリンダ40側とホイールシリンダ46a,46d側とで液圧差(ブレーキ液圧の差)を発生させることができる。なお、この液圧差の最大値は、リリーフ弁61を構成するばね61aの付勢力に基づく値となる。また、第1液圧回路43には、リザーバ50とポンプ48との間からマスタシリンダ40側に向けて分岐された分岐液圧路43cが形成されており、この分岐液圧路43c上には常閉型の電磁弁63が接続されている。
同様に、第2液圧回路44において各経路44a,44bに分岐された部位よりもマスタシリンダ40側には、常開型の比例電磁弁64が接続されると共に、この比例電磁弁64と並列関係をなすリリーフ弁65が接続されている。そして、比例電磁弁64とリリーフ弁65とにより比例差圧弁66が構成されている。比例差圧弁66は、電子制御装置17による制御に基づき、比例差圧弁66よりもマスタシリンダ40側とホイールシリンダ46b,46c側とで液圧差(ブレーキ液圧の差)を発生させることができる。なお、この液圧差の最大値は、リリーフ弁65を構成するばね65aの付勢力に基づく値となる。また、第2液圧回路44には、リザーバ51とポンプ49との間からマスタシリンダ40側に向けて分岐された分岐液圧路44cが形成されており、この分岐液圧路44c上には常閉型の電磁弁67が接続されている。
ここで、上記各電磁弁52〜59のソレノイドコイルが通電状態にある場合及び非通電状態にある場合における各ホイールシリンダ46a〜46d内のブレーキ液圧の変化について説明する。なお、以下の説明においては、各比例電磁弁60,64が閉じ状態であると共に、分岐液圧路43c,44c上の電磁弁63,67が閉じ状態であるものとする。
まず、各電磁弁52〜59のソレノイドコイルが全て非通電状態にある場合には、常開型の電磁弁52,53,56,57は開き状態のままであると共に、常閉型の電磁弁54,55,58,59は閉じ状態のままである。そのため、上記ポンプ48,49が駆動している場合には、リザーバ50,51内のブレーキオイルが各経路43a,43b,44a,44bを介して各ホイールシリンダ46a〜46d内に流入し、各ホイールシリンダ46a〜46d内のブレーキ液圧は上昇することになる。
一方、各電磁弁52〜59のソレノイドコイルが全て通電状態にある場合には、常開型の電磁弁52,53,56,57が閉じ状態となると共に、常閉型の電磁弁54,55,58,59が開き状態となる。そのため、各ホイールシリンダ46a〜46d内からブレーキオイルが各経路43a,43b,44a,44bを介してリザーバ50,51へと流出し、各ホイールシリンダ46a〜46d内のブレーキ液圧は降下することになる。
そして、各電磁弁52〜59のうち常開型の電磁弁52,53,56,57のソレノイドコイルのみが通電状態にある場合には、全ての電磁弁52〜59が閉じ状態となる。そのため、各経路43a,43b,44a,44bを介したブレーキオイルの流動が規制される結果、各ホイールシリンダ46a〜46d内のブレーキ液圧はその液圧レベルが保持されることになる。
図1に示すように、電子制御装置17は、制御手段としてのCPU70、ROM71、及びRAM72などを備えたデジタルコンピュータと、各装置を駆動させるための駆動回路(図示略)とを主体として構成されている。ROM71には、液圧制御装置45(モータM、各電磁弁52〜59,63,67及び比例電磁弁60,64の駆動)を制御するための制御プログラム、及び各種の定数(後述する車体速度閾値、車輪減速度閾値及びスリップ量閾値)などが記憶されている。また、RAM72には、車両の制動制御装置11の駆動中に適宜書き換えられる各種の情報が記録されるようになっている。
また、電子制御装置17の入力側インターフェース(図示略)には、上記ブレーキスイッチSW1、液圧センサPS1,PS2、アクセル開度センサSE1、及び操舵角センサSE2がそれぞれ接続されている。また、入力側インターフェースには、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度を検出するための車輪速度センサSE3,SE4,SE5,SE6、及び実際に車両に働く横方向加速度(いわゆる「横G」)を検出するための横GセンサSE7がそれぞれ接続されている。さらに、入力側インターフェースには、実際に車両に働くヨーレイト(Yaw Rate)を検出するためのヨーレイトセンサSE8、及び車両の車体減速度(車体加速度)を検出するための車体加速度センサ(「前後Gセンサ」ともいう。)SE9が接続されている。すなわち、CPU70は、ブレーキスイッチSW1、液圧センサPS1,PS2、及び上記各種センサSE1〜SE9からの各信号を受信するようになっている。
一方、電子制御装置17の出力側インターフェース(図示略)には、各ポンプ48,49を駆動させるためのモータM、各電磁弁52〜59,63,67及び比例電磁弁60,64が接続されている。そして、CPU70は、上記スイッチSW1及び各センサPS1,PS2,SE1〜SE9からの入力信号に基づき、モータM、各電磁弁52〜59,63,67及び比例電磁弁60,64の動作を個別に制御するようになっている。
次に、本実施形態のCPU70が実行する制御処理ルーチンのうち各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を制御するための制動力制御処理ルーチンについて、図3及び図4に示すフローチャート、及び図5に示すタイミングチャートに従って以下説明する。
さて、CPU70は、所定周期毎に制動力制御処理ルーチンを実行する。そして、この制動力制御処理ルーチンにおいて、CPU70は、ブレーキスイッチSW1からの信号を受信したか否かを判定する(ステップS10)。すなわち、CPU70は、搭乗者がブレーキペダル47を踏み込み操作しているか否かを判定する。この点で、本実施形態では、CPU70が、ブレーキペダル判定手段としても機能する。そして、ステップS10の判定結果が否定判定(SW1=「OFF」)である場合、CPU70は、制動力制御処理ルーチンを終了する。一方、ステップS10の判定結果が肯定判定(SW1=「ON」)である場合、CPU70は、各車輪速度センサSE3〜SE6から受信した信号に基づき、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWをそれぞれ検出する(ステップS11)。この点で、本実施形態では、CPU70及び車輪速度センサSE3〜SE6が、車輪速度検出手段として機能する。
続いて、CPU70は、ステップS11にて検出した各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWに基づき車両の推定車体速度PVSを検出する(ステップS12)。すなわち、CPU70は、ステップS11にて検出した各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWのうち最も大きな値となる車輪速度VWを推定車体速度PVSとして設定する。この点で、本実施形態では、CPU70及び車輪速度センサSE3〜SE6が、車体速度検出手段としても機能する。続いて、CPU70は、車体加速度センサSE9から受信した信号に基づき、車両の車体減速度RDVSを検出し(ステップS13)、その検出された車両の車体減速度RDVSを積分することにより、実際の車両の車体速度(以下、「実車体速度」という。)RVSを検出する(ステップS14)。
そして、CPU70は、ステップS14にて検出した実車体速度RVSからステップS12にて検出した推定車体速度PVSを減算した値が予め設定された車体速度閾値KVSよりも大きいか否かを判定する(ステップS15)。この車体速度閾値KVSは、後述するカスケードロック状態が発生したか否かを判定するための値であって、実験やシミュレーションなどによって予め設定される。したがって、この点で、本実施形態では、CPU70が、車両制動時にステップS11にて検出した各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWが車両の実車体速度RVSよりも低くなるカスケードロック状態(「四輪落込状態」ともいう。)にあるか否かを判定するカスケードロック判定手段としても機能する。
ここで、カスケードロック状態とは、各車輪FR,FL,RR,RLに対して各ホイールシリンダ46a〜46dから制動力が付与されている場合に、車両の車体速度(実車体速度RVS)がほとんど低下しない状況において、全ての車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWが同時に低下してしまう状態のことである。すなわち、図5(a)に示すように、ブレーキペダル47の踏込み操作に基づき各ホイールシリンダ46a〜46d内のブレーキ液圧BPが増加し始めた場合には、図5(b)に示すように、ブレーキ液圧BPの増加量に基づき各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWが低下する。また、図5(c)に示すように、車両の推定車体速度PVS及び実車体速度RVSも低下する。
ところが、各ホイールシリンダ46a〜46d内のブレーキ液圧BPが増加することにより、そのブレーキ液圧BPがカスケードロック状態の発生領域(すなわち、車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力、及び、車輪FR,FL,RR,RLと路面との摩擦力がほぼ同一となるブレーキ液圧領域)内に入った場合には、次のようになる。すなわち、図5(b)(c)に示すように、車両の実車体速度RVSと各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWとの速度差が次第に大きくなると共に、実車体速度RVSと推定車体速度PVSとの速度差が次第に大きくなる。なお、カスケードロック状態は、特に路面の摩擦係数(μ値)が低い路面(例えば、凍結した路面)を走行中に発生しやすい状態である。
すると、ステップS15の判定結果が否定判定((RVS−PVS)<KVS)となるため、CPU70は、カスケードロック状態が発生していないものと判断し、その処理を後述するステップS17に移行する。一方、ステップS15の判定結果が肯定判定((RVS−PVS)≧KVS)である場合、CPU70は、カスケードロック状態が発生したものと判断し、各ホイールシリンダ46a〜46dから各車輪FR,FL,RR,RLに対して付与される制動力を増加させるために制動力増加制御を実行する(ステップS16)。すなわち、CPU70は、後述するアンチロックブレーキ制御の開始条件が未成立である場合において、カスケードロック状態の発生が検知されたときに、制動力増加制御を実行する。具体的には、CPU70は、比例電磁弁60,64を通電状態にすることにより閉じ状態とすると共に、モータMを駆動させることによりポンプ48,49を駆動させる。また、CPU70は、ステップS16において、図示しない制動力増加制御フラグを「ON」にセットする。なお、この制動力増加制御フラグは、制動力増加制御が実行されているか否かを判定するためのフラグであって、実行中の場合には「ON」にセットされる一方、非実行中の場合には「OFF」にセットされる。
このように、本実施形態における車両の制動制御方法では、車両の実車体速度RVSと推定車体速度PVSとの速度差が車体速度閾値KVS以上になった場合(すなわち、カスケードロック状態が検出された場合)に、図5(a)に示すように、各ホイールシリンダ46a〜46d内のブレーキ液圧BPを増圧させる。すると、各ホイールシリンダ46a〜46d内のブレーキ液圧BPがカスケードロック状態の発生領域よりも高圧になり、各車輪FR,FL,RR,RLに対する各ホイールシリンダ(制動手段)46a〜46dからの制動力>各車輪FR,FL,RR,RLと路面との摩擦力になる。その結果、カスケードロック状態が解消されることにより、図5(b)(c)に示すように、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWが急激に低下し始めると共に、車両の推定車体速度PVSと実車体速度RVSとの速度差が急激に小さくなる。
すると次に、ステップS17において、CPU70は、ブレーキスイッチSW1からの信号を受信したか否かを判定する。すなわち、CPU70は、搭乗者がブレーキペダル47を未だ踏込んでいるか否かを判定する。そして、ステップS17の判定結果が否定判定(SW1=「OFF」)である場合、CPU70は、制動力増加制御が実行されているか否かを判定する(ステップS18)。すなわち、CPU70は、制動力増加フラグが「ON」にセットされているか否かを判定する。
そして、ステップS18の判定結果が肯定判定(制動力増加フラグ=「ON」)である場合、CPU70は、制動力増加制御を停止させると共に、制動力増加制御フラグを「OFF」にセットする(ステップS19)。すなわち、CPU70は、ブレーキペダル47の踏込み操作が解消された場合に、制動力増加制御を停止させる。具体的には、CPU70は、比例電磁弁60,64を非通電状態にすることにより開き状態とすると共に、モータMの駆動を停止させることによりポンプ48,49を停止させる。その後、CPU70は、制動力制御処理ルーチンを終了する。一方、ステップS18の判定結果が否定判定(制動力増加フラグ=「OFF」)である場合、CPU70は、ステップS19の処理を実行することなく、制動力制御処理ルーチンを終了する。
一方、ステップS17の判定結果が肯定判定(SW1=「ON」)である場合、CPU70は、各車輪速度センサSE3〜SE6から受信した信号に基づき、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWをそれぞれ検出する(ステップS20)。続いて、CPU70は、ステップS20にて検出した各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWを微分することにより、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪減速度DVWをそれぞれ検出する(ステップS21)。そして、CPU70は、ステップS20にて検出した各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWのうち最も大きな値を車両の推定車体速度PVSとして設定する(ステップS22)。
続いて、CPU70は、ステップS22にて設定した車両の推定車体速度PVSに対する各車輪FR,FL,RR,RLのスリップ量SLPをそれぞれ検出する(ステップS23)。具体的には、CPU70は、車両の推定車体速度PVSから各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWを減算することにより、各車輪FR,FL,RR,RLのスリップ量SLPをそれぞれ検出する。この点で、本実施形態では、CPU70が、スリップ量検出手段としても機能する。
そして、CPU70は、ステップS21にて検出した各車輪FR,FL,RR,RLの車輪減速度DVWが予め設定された車輪減速度閾値KDVWよりも大きいか否かを判定する(ステップS24)。この車輪減速度閾値KDVWは、後述するアンチロックブレーキ制御を実行するために必要な閾値であって、実験やシミュレーションなどによって予め設定される。そして、ステップS24の判定結果が否定判定(DVW≦KDVW)である場合、CPU70は、ステップS24の判定結果が肯定判定になるまでステップS17〜S24の処理を繰り返し実行する。
一方、ステップS24の判定結果が肯定判定(DVW>KDVW)である場合、CPU70は、ステップS23にて検出した各車輪FR,FL,RR,RLのスリップ量SLPが予め設定されたスリップ量閾値KSLPよりも大きいか否かを判定する(ステップS25)。このスリップ量閾値KSLPは、後述するアンチロックブレーキ制御を実行するために必要な閾値であって、実験やシミュレーションなどによって予め設定される。すなわち、後述するように、CPU70は、ステップS25,S26の判定結果が共に肯定判定である場合に、アンチロックブレーキ制御を実行する。この点で、本実施形態では、CPU70が、アンチロックブレーキ制御の開始条件が成立したか否かを判定するアンチロックブレーキ制御判定手段としても機能する。
そして、ステップS25の判定結果が否定判定(SLP≦KSLP)である場合、CPU70は、アンチロックブレーキ制御の開始条件が成立していないものと判断し、ステップS25の判定結果が肯定判定になるまでステップS17〜S25の処理を繰り返し実行する。一方、ステップS25の判定結果が肯定判定(SLP>KSLP)である場合、CPU70は、制動力増加制御が実行中であるか否かを判定する(ステップS26)。すなわち、CPU70は、上述した制動力増加制御フラグが「ON」にセットされているか否かを判定する。
そして、ステップS26の判定結果が肯定判定(制動力増加制御フラグ=「ON」)である場合、CPU70は、制動力増加制御を停止させると共に、制動力増加制御フラグを「OFF」にセットする(ステップS27)。その後、CPU70は、その処理を後述するステップS28に移行する。一方、ステップS26の判定結果が否定判定(制動力増加制御フラグ=「OFF」)である場合、CPU70は、ステップS27の処理を実行することなく、その処理を後述するステップS28に移行する。
ステップS28において、CPU70は、各車輪FR,FL,RR,RLがロック状態になることを抑制するアンチロックブレーキ制御(「アンチスキッド制御」ともいう。)を実行する。すなわち、CPU70は、制動力増加制御が実行されていた場合には、この制動力増加制御を停止させた後に、アンチロックブレーキ制御を開始する。
具体的には、CPU70は、アンチロックブレーキ制御開始前において、各車輪FR,FL,RR,RLに付与する制動力を増加させるために各電磁弁52〜59のソレノイドを非通電状態とし、各ホイールシリンダ46a〜46d内のブレーキ液圧BPを増圧させている。そこで、CPU70は、アンチロックブレーキ制御の開始に基づき、まず、各車輪FR,FL,RR,RLがロック状態となることを回避するために、各電磁弁52〜59のソレノイドを通電状態とし、各ホイールシリンダ46a〜46d内のブレーキ液圧BPを減圧させる。その後、CPU70は、各車輪FR,FL,RR,RLの制動力の保持、増加及び減少が繰り返されるように、各電磁弁52〜59をそれぞれ制御する。
すると、図5(a)(b)に示すように、各ホイールシリンダ46a〜46d内のブレーキ液圧BPの減圧、保持及び増圧に対応するように、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWが変化する。その結果、車両の車体速度(実車体速度RVS)は、図5(c)に示すように、次第に低下することになる。そして、車両の推定車体速度PVSが「0」km/hになった場合には、アンチロックブレーキ制御が停止される。
その後、CPU70は、制動力制御処理ルーチンを終了する。なお、CPU70は、アンチロックブレーキ制御中にブレーキスイッチSW1=「OFF」となったことを検知した場合、アンチロックブレーキ制御を停止させる。
したがって、本実施形態では、以下に示す効果を得ることができる。
(1)アンチロックブレーキ制御の開始条件が未成立であって、且つカスケードロック状態が発生したと判断された場合には、制動力増加制御を実行することにより、カスケードロック状態が解消される。すなわち、制動力増加制御が実行された各車輪FR,FL,RR,RLに対する各ホイールシリンダ(制動手段)46a〜46dからの制動力>各車輪FR,FL,RR,RLと路面との摩擦力となるため、その後にアンチロックブレーキ制御が実行される場合に、車両全体の制動力が確保される。したがって、車両制動時にカスケードロック状態が発生した場合に、該カスケードロック状態を解消させると共に、車両の停止距離を短縮させることができる。
(2)制動力増加制御の実行中にアンチロックブレーキ制御の開始条件が成立した場合には、制動力増加制御が停止した後に、アンチロックブレーキ制御が実行される。すなわち、アンチロックブレーキ制御を実行するに際して、そのアンチロックブレーキ制御と制動力増加制御との干渉が回避されるため、車両における走行の安定性を確保できる。
(3)ブレーキペダル47の踏込み操作が解消された場合に、制動力増加制御が停止される。そのため、制動力増加制御に基づく制動力が各車輪FR,FL,RR,RLに付与された状態での搭乗者による車両の運転操作(例えば、発進操作)を回避できる。
(4)たとえカスケードロック状態が発生したとしても、制動力増加制御が実行されることにより各車輪FR,FL,RR,RLのスリップ量SLPがスリップ量閾値KSLPよりも大きくなった場合には、アンチロックブレーキ制御が実行される。そのため、カスケードロック状態が発生したことに基づき車両の停止距離が長くなることを良好に抑制できる。
(5)全ての車輪FR,FL,RR,RLが駆動輪となる四輪駆動車の場合には、カスケードロック状態が発生したときに、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力が増加するように制動力増加制御が実行される。そのため、一部の車輪(例えば、右前輪FR)のみに制動力増加制御が実行される場合に比して、制動力増加制御中での車両における走行の安定性の低下を良好に抑制できる。
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態を図6に従って説明する。なお、第2の実施形態は、制動制御装置が搭載される車両の駆動方式が第1の実施形態と異なっている。したがって、以下の説明においては、第1の実施形態と相違する部分について主に説明するものとし、第1の実施形態と同一又は相当する部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
本実施形態の制動制御装置11は、各車輪FR,FL,RR,RLのうち前輪FR,FLが駆動輪として機能する車両(いわゆる前輪駆動車)に搭載されている。この制動制御装置11は、駆動力伝達機構13と、前輪転舵機構15と、制動力付与機構16とを備えている。また、制動制御装置11は、上記各機構13,15,16を車両の走行状態に応じて適宜に制御するための電子制御装置17を備えている。
次に、本実施形態のCPU70が実行する制御処理ルーチンのうち各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を制御するための制動力制御処理ルーチンについて図6に基づき以下説明する。
さて、CPU70は、所定周期毎に制動力制御処理ルーチンを実行する。そして、この制動力制御処理ルーチンにおいて、CPU70は、ブレーキスイッチSW1からの信号を受信したか否かを判定する(ステップS30)。この判定結果が否定判定である場合、CPU70は、制動力制御処理ルーチンを終了する。一方、ステップS30の判定結果が肯定判定である場合、各車輪速度センサSE3〜SE6から受信した信号に基づき各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWを検出し(ステップS31)、検出された各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWに基づき車両の推定車体速度PVSを検出する(ステップS32)。続いて、CPU70は、車体加速度センサSE9から受信した信号に基づき車両の車体減速度RDVSを検出し(ステップS33)、検出された車両の車体減速度RDVSを積分することにより車両の実車体速度RVSを検出する(ステップS34)。
続いて、CPU70は、車両の実車体速度RVSから推定車体速度PVSを減算した値が車体速度閾値KVS以上であるか否かを判定する(ステップS35)。この判定結果が否定判定((RVS−PVS)<KVS)である場合、CPU70は、カスケードロック状態が発生していないものと判断し、その処理を後述するステップS38に移行する。一方、ステップS35の判定結果が肯定判定((RVS−PVS)≧KVS)である場合、CPU70は、カスケードロック状態が発生したものと判断し、ヨーレイトセンサSE8から受信した信号に基づき車両のヨーレイトYRを検出する(ステップS36)。この点で、本実施形態では、CPU70及びヨーレイトセンサSE8が、ヨーレイト検出手段として機能する。
そして、このようにヨーレイトYRを検出した後、CPU70は、制動力増加制御を実行する(ステップS37)。具体的には、CPU70は、ステップS36にて検出した車両のヨーレイトYRに基づき、非駆動輪である後輪RR,RLの中から外輪となる車輪を検出する。例えば、車両が左方向に旋回する場合には、右後輪RRが外輪になる一方、車両が右方向に旋回する場合には、左後輪RLが外輪になる。そして、CPU70は、外輪となる後輪(例えば、右後輪RR)用のホイールシリンダ46c内のブレーキ液圧BPと、第2液圧回路44にホイールシリンダ46cと共に接続される左前輪FL用のホイールシリンダ46b内のブレーキ液圧BPとを共に増圧させる。
すなわち、CPU70は、モータMを駆動させることにより、ポンプ48,49を駆動させる。また、CPU70は、第2液圧回路44上の電磁弁56〜59,67を全て非通電状態にすると共に、比例電磁弁64を通電状態にする。その結果、ポンプ49の駆動に基づき、ホイールシリンダ46b,46c内のブレーキ液圧BPがそれぞれ増圧される。一方、CPU70は、第1液圧回路43上の電磁弁63を通電状態にすることにより開き状態にすると共に、電磁弁52〜55及び比例電磁弁60を非通電状態にする。その結果、ポンプ48が駆動しても、ポンプ48の上流側と下流側とでは液圧差が発生しないため、ポンプ48の駆動に基づくホイールシリンダ46a,46d内のブレーキ液圧BPの増圧が抑制される。
そして次に、CPU70は、ブレーキスイッチSW1からの信号を受信したか否かを判定する(ステップS38)。この判定結果が否定判定である場合、CPU70は、制動力浄化制御が実行中であるか否かを判定し(ステップS39)、この判定結果が否定判定である場合には制動力制御処理ルーチンを終了する。一方、ステップS39の判定結果が肯定判定である場合、CPU70は、制動力増加制御を停止させ(ステップS40)、その後、制動力制御処理ルーチンを終了する。
一方、ステップS38の判定結果が肯定判定である場合、CPU70は、アンチロックブレーキ制御の開始条件が成立したか否かを判定する(ステップS41)。この判定結果が否定判定である場合、CPU70は、ステップS41の判定結果が肯定判定になるまで、ステップS38,41の処理を繰り返し実行する。一方、ステップS41の判定結果が肯定判定である場合、CPU70は、制動力増加制御が実行中であるか否かを判定する(ステップS42)。この判定結果が肯定判定である場合、CPU70は、制動力増加制御を停止させ(ステップS43)、その後、アンチロックブレーキ制御を実行する。そして、CPU70は、制動力制御処理ルーチンを終了する。一方、ステップS42の判定結果が否定判定である場合、CPU70は、ステップS43の処理を実行することなく、アンチロックブレーキ制御を実行し、その後、制動力制御処理ルーチンを終了する。
本実施形態では、上記第1の実施形態の効果(1)〜(4)に加え、さらに以下に示す効果をも得ることができる。
(6)カスケードロック状態が発生した場合には、各車輪FR,FL,RR,RLのうち少なくとも外輪となる非駆動輪(例えば右後輪RR)に対する制動力を増加させるように制動力増加制御が実行される。そのため、内輪となる非駆動輪(例えば左後輪RL)に対する制動力のみを増加させた場合に比して、制動力増加制御時における車両走行の安定性の低下を抑制することができる。
なお、各実施形態は以下のような別の実施形態(別例)に変更してもよい。
・第2の実施形態において、非駆動輪である後輪RR,RLのうち外輪となる後輪(例えば右後輪RR)に対応するホイールシリンダ46c内のブレーキ液圧BPのみを増圧するような制動力増加制御を実行してもよい。また、全てのホイールシリンダ46a〜46d内のブレーキ液圧BPを増圧させることにより、全ての車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を増加させるような制動力増加制御を実行してもよい。
・第2の実施形態において、車両のヨーレイトYRは、車体加速度センサSE9からの信号に基づき検出された車両の車体減速度RDVS、操舵角センサSE2からの信号に基づき検出されたステアリングホイール29の操舵角、及び横GセンサSE7からの信号に基づき検出された車両の横G(横方向への加速度)から算出されたものであってもよい。この場合、ヨーレイト検出手段は、車体加速度センサSE9、操舵角センサSE2、横GセンサSE7及びCPU70から構成されることになる。
・第1の実施形態において、第1液圧回路43に接続されるホイールシリンダ46a,46d内のブレーキ液圧BPを増加させることにより、右前輪FR及び左後輪RLに対する制動力をそれぞれ増加させる制動力増加制御を実行してもよい。同様に、第2液圧回路44に接続されるホイールシリンダ46b,46c内のブレーキ液圧BPを増加させることにより、左前輪FL及び右後輪RRに対する制動力をそれぞれ増加させる制動力増加制御を実行してもよい。
・各実施形態において、カスケードロック状態の発生を検出する方法は、上記実施形態に示した方法以外の任意の方法であってもよい。例えば、各車輪速度センサSE3〜SE6からの信号に基づき検出した各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWを微分することにより、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪減速度DVWを検出する。そして、車体加速度センサSE9からの信号に基づき車両の車体減速度RDVSを検出し、この車体減速度RDVSと各車輪FR,FL,RR,RLの車輪減速度DVWとの減速度差が予め設定された所定値以上になった場合に、カスケードロック状態が発生したと判断するようにしてもよい。
・各実施形態において、ブレーキペダル47は、搭乗者の足で操作するいわゆるフットペダル式のブレーキペダルではなく、手動で操作可能なブレーキペダルであってもよい。
・第2の実施形態において、前輪駆動車に搭載された車両の制動制御装置11ではなく、後輪駆動車に搭載される車両の制動制御装置に具体化してもよい。
・各実施形態において、第1液圧回路43には右前輪FR用のホイールシリンダ46aと左前輪FL用のホイールシリンダ46bとが接続されると共に、第2液圧回路44には右後輪RR用のホイールシリンダ46cと左後輪RL用のホイールシリンダ46dとが接続されるような回路構成としてもよい。
11…車両の制動制御装置、46a〜46d…ホイールシリンダ(制動手段)、47…ブレーキペダル、70…CPU(アンチロックブレーキ制御判定手段、制御手段、車輪速度検出手段、カスケードロック判定手段、ブレーキペダル判定手段、車体速度検出手段、スリップ量検出手段、ヨーレイト検出手段)、BP…ブレーキ液圧(制動力)、FR,FL…前輪、KSLP…スリップ量閾値、PVS…車両の推定車体速度、RR,RL…後輪、RVS…車両の実車体速度(実際の車両の車体速度)、SE3〜SE6…車輪速度センサ(車輪速度検出手段、車体速度検出手段)、SE8…ヨーレイトセンサ(ヨーレイト検出手段)、SLP…スリップ量、SW1…ブレーキスイッチ(ブレーキペダル判定手段)、VW…車輪速度、YR…ヨーレイト。