以下、車両の制動制御装置を具体化した一実施形態を図1〜図5に従って説明する。なお、以下における本明細書中の説明においては、車両の進行方向(前進方向)を前方(車両前方)として説明する。
図1に示すように、制動装置11は、複数(本実施形態では4つ)の車輪(右前輪FR、左前輪FL、右後輪RR、及び左後輪RL)を有する車両に搭載されている。この制動装置11は、ブレーキペダル12が連結されている液圧発生装置20と、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を調整するブレーキアクチュエータ30と、ブレーキアクチュエータ30を制御する車両の制動制御装置の一例としての制御装置40とを備えている。
液圧発生装置20には、運転者によるブレーキペダル12の操作力を倍力するブースタ21と、このブースタ21によって倍力された操作力に応じたブレーキ液圧(以下、「MC圧」ともいう。)を発生するマスタシリンダ22とが設けられている。そして、運転者によってブレーキ操作が行われている場合、マスタシリンダ22からは、その内部で発生したMC圧に応じたブレーキ液がブレーキアクチュエータ30を介して車輪FR,FL,RR,RLに個別対応するホイールシリンダ15a,15b,15c,15dに供給される。すると、車輪FR,FL,RR,RLには、ホイールシリンダ15a〜15dで発生するブレーキ液圧(以下、「WC圧」ともいう。)に応じた制動力が付与される。
ブレーキアクチュエータ30には、右前輪用のホイールシリンダ15a及び左後輪用のホイールシリンダ15dに接続される第1の液圧回路31と、左前輪用のホイールシリンダ15b及び右後輪用のホイールシリンダ15cに接続される第2の液圧回路32とが設けられている。そして、第1の液圧回路31には右前輪用の経路33a及び左後輪用の経路33dが設けられるとともに、第2の液圧回路32には左前輪用の経路33b及び右後輪用の経路33cが設けられている。こうした経路33a〜33dには、ホイールシリンダ15a〜15dのWC圧の増圧を規制する際に作動する常開型の電磁弁である増圧弁34a,34b,34c,34dと、WC圧を減圧させる際に作動する常閉型の電磁弁である減圧弁35a,35b,35c,35dとが設けられている。
また、液圧回路31,32には、ホイールシリンダ15a〜15dから減圧弁35a〜35dを介して流出したブレーキ液が一時貯留されるリザーバ361,362と、リザーバ361,362内に一時貯留されているブレーキ液を吸引して液圧回路31,32におけるマスタシリンダ22側に吐出するためのポンプ371,372とが設けられている。これら各ポンプ371,372は、同一の駆動モータ38の駆動によってポンプ作動する。
次に、制御装置40について説明する。
制御装置40の入力側インターフェースには、車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度を検出するための車輪速度センサSE1,SE2,SE3,SE4が電気的に接続されている。また、同入力側インターフェースには、車両に付与されている前後方向加速度を検出するための前後方向加速度センサSE5、車両に付与されている横方向加速度を検出するための横方向加速度センサSE6、及びブレーキペダル12の操作の有無を検出するためのブレーキスイッチSW1が電気的に接続されている。一方、制御装置40の出力側インターフェースには、各弁34a〜34d,35a〜35d及び駆動モータ38などが電気的に接続されている。そして、制御装置40は、各種センサSE1〜SE6及びブレーキスイッチSW1からの各種検出信号に基づき、各弁34a〜34d,35a〜35d及び駆動モータ38を制御する。
こうした制御装置40は、CPU、ROM及びRAMなどで構成されるマイクロコンピュータを有している。ROMには、CPUが実行する各種制御処理、各種マップ及び各種閾値などが予め記憶されている。
さて、本実施形態の制御装置40は、前輪FR,FLに対しては左右独立方式のアンチロックブレーキ制御(以下、「ABS制御」ともいう。)を実施し、後輪RR,RLに対しては左右共通のABS制御を実施するようになっている。すなわち、前輪FR,FLに対する左右独立方式のABS制御では、運転者によるブレーキ操作によって、例えば右前輪FRのスリップ量がスリップ量判定値以上になると、右前輪FRに対してABS制御が開始される。しかし、このとき、左前輪FLのスリップ量がスリップ量判定値未満である場合、左前輪FLにはABS制御が行われない。
これに対し、後輪RR,RLに対する左右共通のABS制御では、両後輪RR,RLを制御対象とするABS制御の開始条件が成立すると、右後輪RRに対する制動力と左後輪RLに対する制動力が同じように調整される。このため、ABS制御の減少モードでは、両後輪RR,RLに対する制動力がともに減少される、すなわち両後輪RR,RLに対応するホイールシリンダ15c,15dのWC圧がともに減圧される。また、ABS制御の増大モードでは、両後輪RR,RLに対する制動力がともに増大される、すなわち両後輪RR,RLに対応するホイールシリンダ15c,15dのWC圧がともに増圧される。また、ABS制御の保持モードでは、両後輪RR,RLに対する制動力がともに保持される、すなわち両後輪RR,RLに対応するホイールシリンダ15c,15dのWC圧がともに保圧される。
例えば、本実施形態の制御装置40では、右後輪RR及び左後輪RLの双方のスリップ量(=車体速度−車輪速度)を、車輪のスリップ傾向を示すスリップ傾向値として演算し、右後輪RRのスリップ量及び左後輪RLのスリップ量の間となる値である制御対象スリップ量SlpM(図3参照)を求める演算処理が行われる。すなわち、この制御対象スリップ量SlpMが「制御対象スリップ傾向値」の一例に相当する。なお、右後輪RRのスリップ量及び左後輪RLのスリップ量が等しい場合、制御対象スリップ量SlpMは、右後輪RRのスリップ量及び左後輪RLのスリップ量と同一値となる。また、車体速度は、車両の前後方向への移動速度を車輪の回転速度に変換した値である。
そして、両後輪RR,RLを制御対象とするABS制御は、こうした制御対象スリップ量SlpMに基づき行われる。例えば、同ABS制御が実施されていない状態で、制御対象スリップ量SlpMがスリップ量判定値以上になるなどしてABS制御の開始条件が成立すると、ABS制御(詳しくは、減少モード)が開始され、両後輪RR,RLに対する制動力の減少が開始される。また、こうしたABS制御の実施中であっても、制御対象スリップ量SlpMに基づき、モードの遷移タイミング(例えば、減少モードから増大モードへの遷移)が決定される。
ここで、車輪の横滑りのしやすさについては、摩擦円を用いて説明することができる。すなわち、車輪に対する制動力や駆動力が大きいほど、車輪に設けられているタイヤが前後方向に発揮しているグリップ力が大きくなる分、タイヤが横方向に発揮できるグリップ力が小さくなる。そのため、車輪に対する制動力や駆動力が大きい状態で、車両に付与される横方向加速度の絶対値が大きくなると、すなわちコーナーリングフォースが大きくなると、タイヤが横方向に発揮できるグリップ力が小さいため、車輪が早期に横滑りしやすい。反対に、車輪に対する制動力や駆動力が小さいほど、タイヤが前後方向に発揮しているグリップ力が小さい分、タイヤが横方向に発揮できるグリップ力が大きくなる。そのため、車輪に対する制動力や駆動力が小さい状態では、タイヤが横方向に発揮できるグリップ力が大きい分、車両に付与される横方向加速度の絶対値が大きくなっても車輪が横滑りしにくい。
また、タイヤが横方向に発揮しているグリップ力が大きい状態では、タイヤが前後方向に発揮できるグリップ力が小さいため、車両に付与される前後方向加速度の絶対値が大きくなると、すなわち車輪に対する制動力(又は駆動力)が大きくなると、車輪が早期にスリップしやすくなる。反対に、タイヤが横方向に発揮しているグリップ力が小さい状態では、タイヤが前後方向に発揮できるグリップ力が大きいため、車両に付与される前後方向加速度の絶対値が大きくなっても車輪がスリップしにくい。
つまり、車両に付与されている前後方向加速度の絶対値、すなわち車両の減速度が一定である条件下にあっては、横方向加速度の絶対値が大きいほど、車両制動時に同車両の挙動が不安定化しやすい。言い換えると、車両に付与されている前後方向加速度の絶対値、すなわち車両の減速度が一定である条件下にあっては、横方向加速度の絶対値が小さいほど、車両制動時に同車両の挙動が不安定化しにくい。そのため、横方向加速度の絶対値が小さく、車両挙動が不安定化しにくいと予測されるときには、車輪に対する制動力が大きい状態を長く継続させることにより、車両の減速度を大きくすることができる。
そこで、本実施形態の制御装置40では、車両制動時において挙動が不安定化しやすいと予測されるときには、両後輪RR,RLを制御対象とするABS制御の開始条件を緩和するようにした。そして、このようにABS制御の開始条件が緩和されると、ABS制御が早期に開始されるようになる。これにより、両後輪RR,RLに対する制動力が高い状態が早期に解消され、車両挙動の不安定化を抑制することができる。一方、車両制動時において挙動が不安定化しにくいと予測されるときには、両後輪RR,RLを制御対象とするABS制御の開始条件を厳しくするようにした。そして、このようにABS制御の開始条件が厳しくされると、ABS制御の開始が遅延されるようになる。これにより、両後輪RR,RLに対する制動力の高い状態の継続時間が長くなり、ひいては車両減速度を大きくすることができる。
次に、両後輪RR,RLを制御対象とするABS制御の開始タイミングを決定する方法について説明する。
本実施形態の制御装置40では、車両挙動が不安定化しやすいか否かを判断するための値として、以下に示す関係式(式1)に示す加速度比GRを演算している。すなわち、加速度比GRは、車両に付与されている前後方向加速度の絶対値|Gx|に対する同車両に付与されている横方向加速度の絶対値|Gy|の比である。この加速度比GRは、横方向加速度の絶対値|Gy|が大きいほど大きくなる。すなわち、加速度比GRが大きいほど、車両挙動が不安定化しやすいと予測することができる。
GR=|Gy|/|Gx| (式1)
そして、上述した制御対象スリップ量SlpMを演算するに際し、加速度比GRを用いた重み付け平均処理が行われる。すなわち、制御対象スリップ量SlpMは、以下の関係式(式2)のように表すことができる。関係式(式2)において、「Slp1」は、両後輪RR,RLのうち、車輪速度の遅い方の車輪(以下、「低速輪R1」ともいう。)のスリップ量であり、「Slp2」は、車輪速度の速い方の車輪(以下、「高速輪R2」ともいう。)のスリップ量である。また、「C1」は、低速輪スリップ量Slp1に対する比重に相当する低速輪重み付け係数であり、「C2」は、高速輪スリップ量Slp2に対する比重に相当する高速輪重み付け係数である。
SlpM=C1・Slp1+C2・Slp2 (式2)
低速輪スリップ量Slp1は、高速輪スリップ量Slp2よりも大きい。そのため、加速度比GRが大きいほど低速輪重み付け係数C1を大きくする一方で高速輪重み付け係数C2を小さくすることにより、制御対象スリップ量SlpMを、加速度比GRが大きいほど、両後輪RR,RLのスリップ量のうち大きい方のスリップ量Slp1に近づけることができる。
なお、車両の旋回時に両後輪RR,RLに対して同等の制動力が付与されている場合には、車両旋回時に外側となる外輪の車輪速度よりも車両旋回時に内側となる内輪の車輪速度のほうが低速になりやすい。そのため、旋回する車両の制動時では、内輪が低速輪R1となり、外輪が高速輪R2となりやすい。
次に、図2を参照して、低速輪重み付け係数C1及び高速輪重み付け係数C2を決定するためのマップについて説明する。
図2に示すように、低速輪重み付け係数C1及び高速輪重み付け係数C2は、これらの和(=C1+C2)が「1.0」となるように決定される。すなわち、加速度比GRが「0(零)」である場合、高速輪重み付け係数C2は基準値Caに決定され、低速輪重み付け係数C1は、「1.0」から基準値Caを減じた差(=1.0−Ca)に決定される。また、加速度比GRが「0(零)」よりも大きい判定加速度比GRTh以上である場合、低速輪重み付け係数C1は「1.0」とされる一方、高速輪重み付け係数C2は「0(零)」とされる。そして、加速度比GRが「0(零)」以上であって判定加速度比GRTh未満である場合、低速輪重み付け係数C1は加速度比GRが大きくなるにつれて大きくされる一方、高速輪重み付け係数C2は加速度比GRが大きくなるにつれて小さくされる。
次に、図3に示すフローチャートを参照し、両後輪RR,RLを制御対象とするABS制御を実施するために、制御装置40が実行する処理ルーチンについて説明する。なお、本処理ルーチンは、予め設定された所定周期毎に実行されるものである。
図3に示すように、本処理ルーチンにおいて、制御装置40は、車輪速度センサSE1〜SE4から出力される検出信号に基づいて、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWを取得する(ステップS11)。続いて、制御装置40は、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWのうち少なくとも一つの車輪の車輪速度VWに基づいて車体速度VSを演算する(ステップS12)。そして、制御装置40は、後輪RR,RLのスリップ量を演算する(ステップS13)。すなわち、このステップS13では、低速輪スリップ量Slp1及び高速輪スリップ量Slp2が演算される。
そして、制御装置40は、前後方向加速度センサSE5から出力される検出信号に基づいて車両に付与されている前後方向加速度Gxを取得し(ステップS14)、横方向加速度センサSE6から出力される検出信号に基づいて車両に付与されている横方向加速度Gyを取得する(ステップS15)。続いて、制御装置40は、上記関係式(式1)に前後方向加速度Gx及び横方向加速度Gyを代入することで、加速度比GRを演算する(ステップS16)。
そして、制御装置40は、図2に示すマップを参照して、低速輪重み付け係数C1及び高速輪重み付け係数C2を、ステップS16で演算した加速度比GRに応じた値に決定する(ステップS17)。続いて、制御装置40は、ステップS13で演算した低速輪スリップ量Slp1及び高速輪スリップ量Slp2と、ステップS17で決定した低速輪重み付け係数C1及び高速輪重み付け係数C2とを関係式(式2)に代入して、制御対象スリップ量SlpMを演算する(ステップS18)。このステップS18で実行される演算処理(すなわち、重み付け平均処理)では、加速度比GRが大きいほど、両後輪RR,RLのうち、車輪速度の遅い方の車輪(低速輪R1)のスリップ量Slp1に対する比重が大きくされる一方で、車輪速度の速い方の車輪(高速論R2)のスリップ量Slp2に対する比重が小さくされる。つまり、演算される制御対象スリップ量SlpMは、加速度比GRが大きいほど、両後輪RR,RLのスリップ量のうち大きい方のスリップ量、すなわち低速輪スリップ量Slp1に近づくことになる。したがって、こうした点で、制御装置40が、「左後輪RLのスリップ量及び右後輪RRのスリップ量との間の値である制御対象スリップ量を求める演算部」の一例としても機能する。
そして、制御装置40は、両後輪RR,RLを制御対象とするABS制御が実行中であるか否かを判定する(ステップS19)。両後輪RR,RLを制御対象とするABS制御中でない場合(ステップS19:NO)、制御装置40は、同ABS制御の開始条件が成立しているか否かを判定する(ステップS20)。例えば、開始条件には、制御対象スリップ量SlpMがスリップ量判定値SlpTh以上であることを含んでいる。この場合、制御対象スリップ量SlpMがスリップ量判定値SlpTh未満であるときには、両後輪RR,RLを制御対象とするABS制御の開始条件が成立していないと判断することができる。一方、制御対象スリップ量SlpMがスリップ量判定値SlpTh以上であるときには、両後輪RR,RLを制御対象とするABS制御の開始条件が成立していると判断することができる。
そして、制御対象スリップ量SlpMがスリップ量判定値SlpTh未満である場合(ステップS20:NO)、制御装置40は、本処理ルーチンを一旦終了する。一方、制御対象スリップ量SlpMがスリップ量判定値SlpTh以上である場合(ステップS20:YES)、制御装置40は、両後輪RR,RLに対応するホイールシリンダ15c,15dのWC圧を調整するABS制御を行い(ステップS21)、本処理ルーチンを一旦終了する。
なお、ステップS20が肯定判定であるためにステップS22が実行される場合とは、ABS制御の開始条件を満たし、両後輪RR,RLを制御対象とするABS制御が開始され、両後輪RR,RLに対する制動力の減少が開始される場合である。そのため、加速度比GRが大きく、制御対象スリップ量SlpMが低速輪スリップ量Slp1に近い場合ほど、ABS制御の開始条件が早期に成立しやすくなる。したがって、この点で、制御装置40が、「加速度比GRが大きいほど、両後輪RR,RLを制御対象とするABS制御の開始条件を緩和する制御部」の一例としても機能する。
一方、ステップS19において、両後輪RR,RLを制御対象とするABS制御の実施中である場合(ステップS19:YES)、制御装置40は、同ABS制御の終了条件が成立しているか否かを判定する(ステップS22)。例えば、ABS制御の終了条件としては、車両が停止することや運転者によるブレーキ操作が解消されることなどを挙げることができる。こうしたABS制御の終了条件が成立している場合(ステップS22:YES)、制御装置40は、ABS制御を終了して本処理ルーチンを一旦終了する。一方、ABS制御の終了条件が成立していない場合(ステップS22:NO)、制御装置40は、その処理を先のステップS21に移行する。
次に、図4及び図5に示すタイミングチャートを参照して、両後輪RR,RLを制御対象とするABS制御が実施される際の作用について説明する。なお、図4及び図5では、運転者によるブレーキ操作中において、両後輪RR,RLが異なるスリップ量でロック傾向を示すものとする。また、車体速度VSを右後輪RR又は左後輪RLの車輪速度VWに基づいて演算している場合、両後輪RR,RLのロック傾向に伴って車体速度VSが変化することになるが、明細書の説明理解の便宜上、そのような車体速度VSの変化はないものとする。
まず、図4に示すタイミングチャートを参照して、車両直進時にABS制御が実施される際の作用について説明する。
図4(a),(b),(c)に示すように、車両が直進走行しているため、同車両に付与される横方向加速度Gyはほぼ「0(零)」である。そのため、こうした横方向加速度Gyを用いて演算される加速度比GRは、「0(零)」又は「0(零)」に限りなく近い値とされる。以降の記載においては、明細書の説明理解の便宜上、加速度比GRが「0(零)」であるものとして説明する。
そして、こうした車両の直進走行中の第1のタイミングt11で運転者によるブレーキ操作が開始されると、後輪RR,RLに対応するホイールシリンダ15c,15dのWC圧Pwcがそれぞれ増圧される。このとき、ホイールシリンダ15cのWC圧Pwcの増大態様は、ホイールシリンダ15dのWC圧Pwcの増大態様とほぼ一致している。そのため、ABS制御が実施されていない状態にあっては、右後輪RRに対する制動力と左後輪RLに対する制動力とはほぼ同等である。
第1のタイミングt11以降では、後輪RR,RLに対する制動力の双方が増大されるため、これらの車輪速度VWが低下し、結果として、車体速度VSも低下される。このとき、車両の走行する路面のμ値(摩擦係数)が小さかったり、急制動であったりすると、後輪RR,RLがスリップ傾向を示すことがある。すると、両後輪RR,RLの車輪速度VWが急激に低下され、両後輪RR,RLのスリップ量が次第に大きくなる。
ここで、右後輪RRの接地する路面のμ値と左後輪RLの接地する路面のμ値とがほぼ等しい場合、右後輪RRのスリップ量の増大態様と、左後輪RLのスリップ量の増大態様とがほぼ一致する。そのため、両後輪RR,RLのうち、車輪速度VWの遅い車輪(低速輪R1)のスリップ量である低速輪スリップ量Slp1と、車輪速度VWの速い車輪(高速輪R2)のスリップ量である高速輪スリップ量Slp2とが同程度となる。この場合、上記関係式(式2)に基づいて演算される制御対象スリップ量SlpMは、加速度比GRの大きさによらず、スリップ量Slp1やスリップ量Slp2とほぼ等しい値となる。
しかし、右後輪RRの接地する路面のμ値と左後輪RLの接地する路面のμ値とが異なる場合、すなわち車両がμスプリット路を走行する場合、図4(a)に示すように、右後輪RRと左後輪RLとで車輪速度VWの低下態様が異なる。この場合、低速輪R1(例えば、右後輪RR)のスリップ量Slp1は、高速輪R2(例えば、左後輪RL)のスリップ量Slp2よりも大きくなる。なお、図4(a)においては、低速輪R1の車輪速度VWを「車輪速度VW1」とし、高速輪R2の車輪速度VWを「車輪速度VW2」としている。
また、この場合、加速度比GRが「0(零)」であるため、低速輪重み付け係数C1は「1.0−基準値Ca」とされ、高速輪重み付け係数C2は基準値Caとされる(図2参照)。したがって、低速輪スリップ量Slp1、高速輪スリップ量Slp2、低速輪重み付け係数C1、及び高速輪重み付け係数C2を関係式(式2)に代入することで演算される制御対象スリップ量SlpMは、低速輪スリップ量Slp1と高速輪スリップ量Slp2との間となる値となる。なお、加速度比GRが「0(零)」である場合の制御対象スリップ量SlpMを、「スリップ量基準値SlpA」というものとする。
すると、低速輪スリップ量Slp1がスリップ量判定値SlpThに達する第2のタイミングt12では、制御対象スリップ量SlpM(=SlpA)が未だスリップ量判定値SlpTh未満であるため(ステップS20:NO)、両後輪RR,RLを制御対象とするABS制御が開始されない。そして、第2のタイミングt12以降でも車両の制動状態が維持されると、第3のタイミングt13で、高速輪スリップ量Slp2が未だスリップ量判定値SlpTh未満であるにも拘わらず、制御対象スリップ量SlpM(=SlpA)が未だスリップ量判定値SlpTh以上になる(ステップS20:YES)。すなわち、ABS制御の開始条件が成立する第3のタイミングt13から両後輪RR,RLを制御対象とするABS制御が開始される(ステップS21)。すると、ABS制御の減少モードによって、両後輪RR,RLに対応するホイールシリンダ15c,15dのWC圧Pwcがともに減圧され始める。
ここで、いわゆるセレクトロー方式のABS制御を採用した場合、両後輪RR,RLを制御対象とするABS制御は、第3のタイミングt13よりも早い第2のタイミングt12から開始されることとなる。一方、いわゆるセレクトハイ方式のABS制御を採用した場合、ABS制御は、第3のタイミングt13よりも後であり、高速輪スリップ量Slp2がスリップ量判定値SlpTh以上となる第4のタイミングt14から開始されることとなる。
その後、ABS制御の実施中における第5のタイミングt15では、制御対象スリップ量SlpMが減少傾向を示し始めるため、ABS制御のモードが、減少モードから両後輪RR,RLに対応するホイールシリンダ15c,15dのWC圧Pwcをともに保圧させる保持モードに移行される。そして、制御対象スリップ量SlpMがある程度小さくなると、ABS制御のモードが、保持モードから両後輪RR,RLに対応するホイールシリンダ15c,15dのWC圧Pwcをともに増圧させる増大モードに移行される。その後においては、ABS制御の終了条件が成立するまでの間、こうしたABS制御の一例の制御サイクルが繰り返される。
次に、図5に示すタイミングチャートを参照して、車両旋回時においてABS制御が実施される際の作用について説明する。なお、図5(a)において、実線で示される車体速度VSと二点鎖線で示される速度との差分が、上記スリップ量基準値SlpAに相当する。
図5(a),(b),(c)に示すように、車両が旋回しているため、同車両には横方向加速度Gyが付与されている。そのため、こうした横方向加速度Gyを用いて演算される加速度比GRは、「0(零)」よりも大きい第1の加速度比GR1となる。
そして、こうした車両の旋回中における第1のタイミングt21で運転者によるブレーキ操作が開始されると、後輪RR,RLに対応するホイールシリンダ15c,15dのWC圧Pwcがそれぞれ増圧される。すると、後輪RR,RLに対する制動力が増大され、これらの車輪速度VWが低下し始める。車両に横方向加速度Gyが付与されている場合、旋回時の外輪(例えば、右後輪RR)の接地荷重は、旋回時の内輪(例えば、左後輪RL)の接地荷重よりも大きい。そのため、右後輪RR及び左後輪RLに対して同等の制動力を付与していても、右後輪RRと左後輪RLとの間では車輪速度差が生じる。なお、図5(a)においては、両後輪RR,RLのうち、低速輪R1の車輪速度VWを「車輪速度VW1」とし、高速輪R2の車輪速度VWを「車輪速度VW2」としている。
また、この場合、加速度比GRが第1の加速度比GR1(>0(零))である。このため、低速輪重み付け係数C1は、「1.0−基準値Ca」よりも大きい値に決定され、高速輪重み付け係数C2は、基準値Caよりも小さい値に決定される(図2参照)。したがって、制御対象スリップ量SlpMは、上記スリップ量基準値SlpAよりも低速輪スリップ量Slp1に近い値となる。こうして、図5(a)に実線で示されるように、第1のタイミングt21以降では、制御対象スリップ量SlpMは、高速輪スリップ量Slp2よりも低速輪スリップ量Slp1に近い状態が継続される。
そして、第2のタイミングt22では、制御対象スリップ量SlpMがスリップ量判定値SlpTh以上となるため(ステップS20:YES)、両後輪RR,RLを制御対象とするABS制御が開始される(ステップS21)。すると、ABS制御の減少モードによって、両後輪RR,RLに対応するホイールシリンダ15c,15dのWC圧Pwcがともに減圧され始める。
なお、この第2のタイミングt22では、低速輪スリップ量Slp1は既にスリップ量判定値SlpTh未満になっているのに対し、高速輪スリップ量Slp2及びスリップ量基準値SlpAは未だスリップ量判定値SlpTh以上である。すなわち、加速度比GRが「0(零)」よりも大きい場合、セレクトロー方式のABS制御を採用する場合よりはABS制御の開始タイミングが遅れるものの、加速度比GRを「0(零)」で固定するABS制御を採用する場合よりはABS制御の開始タイミングを早めることができる。
ABS制御が開始された第2のタイミングt22以降においても、両後輪RR,RLの制動力、すなわちホイールシリンダ15c,15dのWC圧Pwcは、制御対象スリップ量SlpMに基づいて制御される。この制御対象スリップ量SlpMは、スリップ量基準値SlpAよりも低速輪スリップ量Slp1に近い値となっている。そのため、スリップ量基準値SlpAに基づいたABS制御が実施される場合と比較して、両後輪RR,RLに対する制動力が大きくなりにくい。言い換えると、両後輪RR,RLが横滑りしにくくなり、ひいては車両挙動が不安定化されにくい。
なお、こうしたABS制御の実施中における運転者による車両操作(ステアリング操作やブレーキ操作)の態様によっては、車両に付与される横方向加速度Gyや前後方向加速度Gxが変動し、加速度比GRが変化することがある。例えば、加速度比GRが大きくなる場合、上記関係式(式2)によって演算される制御対象スリップ量SlpMは、低速輪スリップ量Slp1に次第に近づく。そのため、両後輪RR,RLに対する制動力がさらに大きくなりにくくなる。一方、加速度比GRが小さくなる場合、制御対象スリップ量SlpMは、低速輪スリップ量Slp1から次第に離れ、スリップ量基準値SlpAや高速輪スリップ量Slp2に次第に近づく。この場合、両後輪RR,RLに対する制動力が大きくなりやすくなり、車両の減速度が大きくなりやすくなる。
上記実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)車両の走行状態を示す数値として加速度比GRを採用することにより、両後輪RR,RLを制御対象とするABS制御を、そのときの車両の走行状態に応じた適切なタイミングで開始させることができる。したがって、同ABS制御の実施中において車両減速度を大きくすること、及び車両挙動の安定性を高めることを両立させることができる。
(2)加速度比GRが大きいほど、車両挙動が不安定化しやすいと予測することができる。そのため、加速度比GRが大きいほど、低速輪スリップ量Slp1に対する比重を大きくする一方で、高速輪スリップ量Slp2に対する比重を小さくする演算処理によって、制御対象スリップ量SlpMを求めるようにした。
これによれば、車両挙動が不安定化しやすいと予測されるときには、両後輪RR,RLを制御対象とするABS制御の開始タイミングを、セレクトロー方式のABS制御を採用した場合の開始タイミングに近づけることができる。その結果、両後輪RR,RLに対する制動力を早期に減少させることができ、ひいては両後輪RR,RLが横滑りする現象が生じにくくなる。したがって、ABS制御の実施中における車両挙動の不安定化を抑制することができる。
一方、車両挙動が不安定化しにくいと予測されるときには、両後輪RR,RLを制御対象とするABS制御の開始タイミングを、セレクトハイ方式のABS制御を採用した場合の開始タイミングに近づけることができる。その結果、両後輪RR,RLに対して大きな制動力が付与される期間を長くすることができる。したがって、ABS制御の実施中における車両の減速度を大きくすることができる。
すなわち、ABS制御の制御対象となる両後輪RR,RLの横滑りのしやすさに基づいてABS制御を適切に行うことができるため、ABS制御の実施中において車両減速度を大きくすること、及び車両挙動の安定性を高めることを両立させることができる。
(3)また、ABS制御の実施中における両後輪RR,RLの制動力の調整は、制御対象スリップ量SlpMに基づいて行われる。したがって、車両挙動が不安定化しやすいと予測されるときには、モードが早期に減少モードに移行されやすく、モードが早期に増大モードに移行されにくくなるようになるため、ABS制御の実施中における車両挙動の不安定化を抑制することができる。一方、車両挙動が不安定化しにくいと予測されるときには、モードが早期に増大モードに移行されやすく、モードが早期に減少モードに移行されにくくなる。よって、車両挙動が不安定化しない範囲内で、車両の減速度を大きくすることができる。
(4)本実施形態では、両後輪RR,RLを制御対象とするABS制御の実施中であっても、加速度比GRが更新される。そして、こうした加速度比GRを用いた演算した制御対象スリップ量SlpMに基づいてABS制御を実施することにより、両後輪RR,RLに対する制動力を、そのときの車両の状態に応じて適切に制御することができる。例えば、加速度比GRが大きくなり、車両が徐々に横滑りしやすくなるときには、ABS制御の減少モードに移行されやすくなる。その結果、ABS制御の実施中における車両挙動の不安定化を抑制することができる。一方、加速度比GRが小さくなり、車両挙動が徐々に安定化するときには、ABS制御の増大モードに移行されやすくなる。その結果、車両全体の制動力が大きくされ、車両の減速度を大きくすることができる。
なお、上記実施形態は、以下に示す実施形態に変更してもよい。
・上記実施形態では、両後輪RR,RLを制御対象とするABS制御が開始されても加速度比GRが更新されるようになっているが、加速度比GRは、ABS制御が開始された以降にあっては同ABS制御の開始時点の値で保持するようにしてもよい。この場合であっても、上記(1)〜(3)と同等の効果を得ることができる。
・制御対象スリップ量SlpMを、加速度比GRが大きいほど低速輪スリップ量Slp1に近づけることができるのであれば、上記関係式(式2)以外の任意の演算処理で求めるようにしてもよい。例えば、制御対象スリップ量SlpMを、低速輪スリップ量Slp1と低速輪重み付け係数C1との積としてもよい。この場合、低速輪重み付け係数C1を、加速度比GRが「0(零)」の場合には「1.0」未満とし、加速度比GRが判定加速度比GRTh以上である場合には「1.0」とすることが好ましい。これによれば、加速度比GRが大きく、車両挙動が不安定化しやすいと予測される場合には、制御対象スリップ量SlpMを低速輪スリップ量Slp1に近づけることができる。また、加速度比GRが小さく、車両挙動が不安定化しにくいと予測される場合には、制御対象スリップ量SlpMを低速輪スリップ量Slp1よりも小さくすることが可能となる。この場合、ABS制御としてセレクトロー方式のABS制御を採用する場合よりもABS制御の実施中における車両減速度を大きくすることが可能となる。
・制御対象スリップ量SlpMを、加速度比GRが小さいほど低速輪スリップ量Slp1との乖離を大きくすることができるのであれば、上記関係式(式2)以外の任意の演算処理で求めるようにしてもよい。例えば、制御対象スリップ量SlpMを、高速輪スリップ量Slp2と高速輪重み付け係数C2との積としてもよい。この場合、高速輪重み付け係数C2を、加速度比GRが「0(零)」の場合には「1.0」とし、加速度比GRが判定加速度比GRTh以上である場合には「1.0」よりも大きくすることが好ましい。これによれば、加速度比GRが小さく、車両挙動が不安定化しにくいと予測される場合には、制御対象スリップ量SlpMを高速輪スリップ量Slp2に近づけることができる。また、加速度比GRが大きく、車両挙動が不安定化しやすいと予測される場合には、制御対象スリップ量SlpMを高速輪スリップ量Slp2よりも大きくすることが可能となる。この場合、ABS制御としてセレクトハイ方式のABS制御を採用する場合よりも車両挙動の安定性をより重視することが可能となる。
・加速度比GRが大きいほど低速輪重み付け係数C1を大きくし、高速輪重み付け係数C2を小さくするのであれば、低速輪重み付け係数C1と高速輪重み付け係数C2との和を「1」より大きくしてもよいし「1」より小さくしてもよい。例えば、この和が「1」以上である場合、制御対象スリップ量SlpMが低速輪スリップ量Slp1以上となり得るため、ABS制御としてセレクトロー方式のABS制御を採用する場合よりも、車両挙動の安定性をより重視して両後輪RR,RLに対する制動力を調整することも可能となる。
・車両が横滑りしやすい状態であるか否かを判断するための判定値を設け、加速度比GRが同判定値未満であるときには、車両が横滑りしにくい状態であると判断し、低速輪重み付け係数C1を第11の値(例えば、(1.0−Ca))とし、高速輪重み付け係数C2を第21の値(例えば、基準値Ca)とするようにしてもよい。この場合、加速度比GRが同判定値以上であるときには、車両が横滑りしやすい状態であると判断し、低速輪重み付け係数C1を第11の値よりも大きい第12の値(例えば、1.0)とし、高速輪重み付け係数C2を第21の値よりも小さい第22の値(例えば、0(零))とするようにしてもよい。このような制御構成を採用しても、上記(1)と同等の効果を得ることができる。
・低速輪重み付け係数C1(及び高速輪重み付け係数C2)を、加速度比GRの増大に応じて単調増加(及び単調減少)させるのではなく、段差状に増大(及び減少)させるようにしてもよいし、二次関数的に増大(及び減少)させるようにしてもよい。
・加速度比GRが大きいほど両後輪RR,RLを制御対象とするABS制御の開始タイミングを早めることができるのであれば、上記実施形態以外の方法でABS制御の開始タイミングを決定するようにしてもよい。例えば、加速度比GRが大きい場合には、同加速度比GRが小さい場合よりもスリップ量判定値SlpThを小さくしてもよい。このようにスリップ量判定値SlpThを可変とした場合、ABS制御の基準となるスリップ量は、高速輪スリップ量Slp2及び低速輪スリップ量Slp1のうち少なくとも一方に基づいて演算した値であれば任意の値であってもよい。すなわち、ABS制御の基準となるスリップ量を、低速輪スリップ量Slp1としてもよいし、高速輪スリップ量Slp2としてもよいし、低速輪スリップ量Slp1と高速輪スリップ量Slp2との間の値としてもよい。
これによれば、加速度比GRが大きい場合には、スリップ量判定値SlpThが小さくなることで、両後輪RR,RLを制御対象とするABS制御が早期に開始されるようになる。一方、加速度比GRが小さい場合には、スリップ量判定値SlpThが大きくなることで、ABS制御の開始が遅らせられるようになる。したがって、上記(1)と同等の効果を得ることができる。
・加速度比GRが大きいほど制御対象スリップ量SlpMを低速輪スリップ量Slp1に近づけることができるのであれば、上記実施形態以外の方法で制御対象スリップ量SlpMを演算するようにしてもよい。例えば、加速度比GRが大きい場合には、同加速度比GRが小さい場合よりも大きい車速補正値を演算し、同車速補正値とその時点の車体速度VSとの和を疑似車体速度としてもよい。そして、車体速度VSの代わりにこの疑似車体速度を用いて、車輪のスリップ量を演算するようにしてもよい。すなわち、右後輪RRのスリップ量は、疑似車体速度から右後輪RRの車輪速度VWを減じた差となる。この場合、ABS制御の基準となるスリップ量は、右後輪RRのスリップ量及び左後輪RLのスリップ量のうち少なくとも一方に基づいて演算した値であれば任意の値であってもよい。すなわち、ABS制御の基準となるスリップ量を、右後輪RRのスリップ量としてもよいし、左後輪RLのスリップ量としてもよいし、右後輪RRのスリップ量と左後輪RLのスリップ量との間の値としてもよい。
これによれば、加速度比GRが大きい場合には、加速度比GRが小さい場合よりもスリップ量が大きく演算されることとなり、ABS制御が早期に開始されるようになる。一方、加速度比GRが小さい場合には、加速度比GRが大きい場合よりもスリップ量が小さく演算されることとなり、ABS制御の開始が遅らせられるようになる。したがって、上記(1)と同等の効果を得ることができる。
・ABS制御の制御サイクルは、減少モードと増大モードとを含んでいれば保持モードを含んでいなくてもよい。
・制御装置40は、右前輪FR及び左前輪FLに対して、右前輪FRのスリップ量と左前輪FLのスリップ量の制御対象スリップ量SlpMに基づくABS制御を実施するようにしてもよい。
・両前輪FR,FLを制御対象とするABS制御として、両前輪FR,FLに対する制動力をともに減少させる減少モードと両前輪FR,FLに対する制動力をともに増大させる増大モードとを含む制御であれば、加速度比GRが大きいほどABS制御の開始条件を緩和するABS制御を採用してもよい。
・スリップ傾向値は、車輪のスリップ傾向を示す値であれば、車体速度VSから車輪速度VWを減じた差であるスリップ量以外の他のパラメータであってもよい。例えば、スリップ傾向値は、車輪速度を時間微分した値である車輪速度の時間微分値から車体速度VSを時間微分した値である車体速度の時間微分値を減じた差、すなわちスリップ量を時間微分した値であってもよい。この場合、制御対象スリップ傾向値は、低速輪スリップ量Slp1の時間微分値と高速輪スリップ量Slp2の時間微分値とに基づいて演算することができる。そして、こうした制御対象スリップ傾向値を用いることにより、上記(1)と同等の効果を得ることができる。
・制動装置11は、車輪FR,FL,RR,RL毎に設けられる電動ブレーキ装置を備える装置であってもよい。
・制動装置11は、運転者による車両操作を介することなく自動的に制動力を付与する機能を有する車両に適用してもよい。そして、こうした制動装置11を制御する制御装置として、上記車両の制動制御装置を適用してもよい。この場合、自動制動中におけるABS制御時であっても、上記(1)と同等の効果を得ることができる。