(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図7に従って説明する。
図1に示すように、車両には、該車両を走行させるための駆動力発生装置11と、前輪FR,FLを転舵輪として転舵させるための操舵装置12と、各車輪FL,FR,RL,RRに制動トルクを付与するための制動装置13とが設けられている。
駆動力発生装置11には、運転手によるアクセルペダル20の操作量、即ちアクセル開度に基づいた駆動力を発生する動力源としてのエンジン21と、該エンジン21の出力軸に接続された自動変速機22とが設けられている。また、駆動力発生装置11には、アクセル開度を検出するためのアクセル開度センサSE1が設けられている。そして、エンジン21から出力された駆動トルクは、自動変速機22からディファレンシャルギヤ23に伝達され、該ディファレンシャルギヤ23から駆動輪である前輪FR,FLに配分される。
なお、車両には、運転手によって操作されるシフト装置25が設けられている。このシフト装置25のレンジが前進レンジである場合、自動変速機22からは、車両を前進させる方向の駆動トルクが出力される。一方、シフト装置25のレンジが後進レンジである場合、自動変速機22からは、車両を後進させる方向の駆動トルクが出力される。こうした前進レンジであるか又は後進レンジであるかなどのシフト情報は、挙動制御装置としての制御装置50に送信される。
操舵装置12には、運転手によって操舵されるステアリング30が固定されたステアリングシャフト31と、ステアリングシャフト31に連結された転舵アクチュエータ32とが設けられている。また、操舵装置12には、転舵アクチュエータ32により車両の左右方向に移動自在なタイロッドと、該タイロッドの移動により前輪FL,FRを転舵させるリンクとを含んだリンク機構部33が設けられている。また、操舵装置12には、ステアリング30の操舵角に応じた検出信号を制御装置50に出力する操舵角センサSE2が設けられている。なお、操舵角センサSE2からは、車両を右方向に旋回させる場合には操舵角が正の値となるような検出信号を出力し、車両を左方向に旋回させる場合には操舵角が負の値となるような検出信号を出力する。
制動装置13には、運転手によるブレーキペダル40の操作力に応じたブレーキ液圧を発生する液圧発生装置41と、車輪FR,FL,RR,RL毎に個別に設けられたブレーキ装置42a,42b,42c,42dに連結されたブレーキアクチュエータ43とが設けられている。また、制動装置13には、運転手によるブレーキペダル40の操作状況(オンかオフか)に応じた検出信号を制御装置50に出力するブレーキスイッチSW1が設けられている。
ブレーキアクチュエータ43は、運転手がブレーキペダル40を操作しない場合であっても各車輪FR,FL,RR,RLに対して制動トルクを付与できるように構成されている。例えば、ブレーキアクチュエータ43は、液圧発生装置41側のブレーキ液圧と、ブレーキ装置42a,42b,42c,42dに設けられたホイールシリンダ内のブレーキ液圧との間に差圧を発生させるための差圧調整弁と、ホイールシリンダ内にブレーキ液を供給するための電動ポンプとを備えている。また、ブレーキアクチュエータ43には、各ホイールシリンダ内のブレーキ液圧を個別に調整するための各種弁が設けられている。つまり、本実施形態のブレーキアクチュエータ43は、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動トルクを個別に調整可能である。
次に、本実施形態の車両の制御装置50について説明する。
図1に示すように、制御装置50には、アクセル開度センサSE1、操舵角センサSE2及びブレーキスイッチSW1に加え、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度を検出するための車輪速度センサSE3,SE4,SE5,SE6が電気的に接続されている。また、制御装置50には、車両の前後方向における加速度(以下、「前後方向加速度」という。)を検出するための前後方向加速度センサSE7と、車両の横方向(車幅方向)における加速度(以下、「横方向加速度」という。)を検出するための横方向加速度センサSE8と、車両のヨーレートを検出するためのヨーレートセンサSE9とが電気的に接続されている。さらに、制御装置50には、詳しくは後述する速度制限制御の実行を許可・禁止するための操作ボタン55が電気的に接続されている。
なお、前後方向加速度センサSE7からは、車両の走行する路面が水平路である場合において、車両が加速するときには前後方向加速度が正の値となる一方、車両が減速するときには前後方向加速度が負の値となるような検出信号が出力される。そして、車両が降坂路で停車する場合、車両の重心が前側に移動するため、前後方向加速度センサSE7からの検出信号に基づき算出される前後方向加速度は負の値となる。
また、横方向加速度センサSE8及びヨーレートセンサSE9からは、車両が右方向に旋回する場合には、車両の横方向加速度及びヨーレートが正の値となる一方、車両が左方向に旋回する場合には、車両の横方向加速度及びヨーレートが負の値となるような検出信号がそれぞれ出力される。
制御装置50は、エンジン21を制御するエンジンECU51と、ブレーキアクチュエータ43を制御するブレーキECU52とを備えている。こうした各ECU51,52は、CPU、ROM及びRAMなどで構成されるデジタルコンピュータを有しており、互いに協調して車両の挙動を制御するようにしている。
本実施形態のブレーキECU52は、ヒル・ディセント・コントロール(HDC)やダウンヒル・アシスト・コントロール(DAC)などの速度制限制御と、旋回する車両の挙動を安定化させるための姿勢制御の一例としての横滑り抑制制御とを実行可能となっている。そして、ブレーキECU52は、速度制限制御の開始条件と横滑り抑制制御の開始条件とが共に成立しているときには、横滑り抑制制御を速度制限制御よりも優先して行うようにしている。
速度制限制御は、その時点の車体速度が設定速度(例えば、10km/h)を超えないように車両に対する制動トルクを調整する制御である。具体的には、ブレーキECU52は、その時点の車両の車体速度と設定速度との速度差が大きいほど要求制動トルクを大きい値に設定し、この要求制動トルクに応じた制動トルクが各車輪FR,FL,RR,RLに付与されるようにブレーキアクチュエータ43を制御する。
横滑り抑制制御は、旋回する車両のオーバーステア傾向が強くなった場合には、旋回時外側の前輪及び旋回時外側の後輪のうち、主に旋回時外側の前輪に対する制動トルクを増大させ、オーバーステア傾向を弱くする。また、横滑り抑制制御は、旋回する車両のアンダーステア傾向が強くなった場合には、旋回時内側の後輪、旋回時内側の前輪及び旋回時外側の前輪のうち、主に旋回時内側の後輪に対する制動トルクを増大させ、アンダーステア傾向を弱くする。
ところで、図2(a)に示すように、勾配θを有する降坂路を車両100が走行する場合、車両100に加わる重力Gは、車両100に対して加速させるための推進力Gslope(=G×sinθ)として作用する。なお、本実施形態において「勾配θ」は、降坂路である場合には正の値となり、登坂路である場合には負の値となるものとする。そのため、降坂路において勾配θが急勾配側に変化する場合には勾配θが大きい値に変化する一方、登坂路において勾配θが急勾配側に変化する場合には勾配θが小さい値に変化する。
そのため、推進力Gslopeは、降坂路の勾配が急勾配であるほど大きくなる。そして、このように推進力Gslopeが大きい場合、即ち降坂路が急勾配である場合、車両の重心が前方に移動しやすくなり、進行方向前側の車輪(車両前進時には前輪FR,FL)の接地荷重が大きくなる一方で、進行方向後側の車輪(車両前進時には後輪RR,RL)の接地荷重が小さくなる。すなわち、降坂路が急勾配であるほど、車両の挙動が不安定化しやすい。
また、旋回する車両には同車両の旋回に伴う遠心力が作用するため、車両の横方向加速度が大きくなりやすい。そして、図2(b)に示すように、特に急勾配の降坂路で車両が旋回する場合、車両には、旋回に伴う横方向加速度に加え、推進力Gslopeの分力である横方向加速度が作用することになる。そして、推進力Gslopeが非常に大きくなるような急勾配の降坂路での旋回時には、横方向加速度センサSE8からの検出信号に基づいた横方向加速度Gyが大きくなりやすい。
なお、横方向加速度Gyが極端に大きくなると、車両が横転する可能性が高くなる。しかし、横方向加速度Gyが、その時点の車両の走行状態に応じた横方向加速度限界値を超えない程度では、横方向加速度Gyが大きくなっても、車両が横転しやすくなることはない。
そこで次に、車両の走行状態に応じた横方向加速度限界値について、図3を参照して詳述する。
図3に示すグラフは、車両の走行する降坂路の勾配θと横方向加速度限界値Gy_Limとの関係を示している。また、同図3に示す規定値Gythは、非制動時などのような通常の車両旋回時に車両に作用し得る横方向加速度(例えば、0.6G)である。そのため、横方向加速度限界値Gy_Limが規定値Gyth未満であるときに横滑り抑制制御を開始することは好ましくない。
図3に示す二点鎖線L1は、車両による降坂路の走行時に横滑り抑制制御を行わない場合における降坂路の勾配θと横方向加速度限界値Gy_Limとの関係を模式的に示している。また、図3に示す破線L2は、車両による降坂路の走行時に横滑り抑制制御を行う場合における降坂路の勾配θと横方向加速度限界値Gy_Limとの関係を模式的に示している。また、図3に示す実線L3は、車両による降坂路の走行時に後述するトルク調整制御を行う場合における降坂路の勾配θと横方向加速度限界値Gy_Limとの関係を模式的に示している。こうした各線L1,L2,L3からも明らかなように、横方向加速度限界値Gy_Limは、降坂路の勾配θが大きくなるに連れて、即ち降坂路が急勾配になるに連れて小さくなる。これは、降坂路の勾配θが大きいほど推進力Gslopeが大きい値になるためである。
そして、横滑り抑制制御の実行時における横方向加速度限界値Gy_Limは、降坂路の勾配θが、舗装されているオンロードで想定される降坂路の勾配の上限値θ_Lim以下である場合には、規定値Gythよりも大きい値となる。しかし、降坂路の勾配θが上限値θ_Limよりも大きい勾配θa1を超えると、横方向加速度限界値Gy_Limが規定値Gyth未満となる。すなわち、勾配θが勾配θa1よりも大きくなるような降坂路(以下、「極端降坂路」ともいう。)を車両が走行するときには、横滑り抑制制御を行わない方がよい。
横滑り抑制制御及びトルク調整制御を実行しない場合における横方向加速度限界値Gy_Limは、横滑り抑制制御の実行時における横方向加速度限界値Gy_Limよりも大きい。しかし、車両の走行する降坂路の勾配θが、勾配θa1よりも大きい勾配θa2よりも大きいときには、横方向加速度限界値Gy_Limが規定値Gyth以下となる。そのため、勾配θa2よりも大きい勾配θの降坂路を車両が走行するときには、トルク調整制御を実行することが好ましい。
なお、トルク調整制御は、各車輪FR,FL,RR,RLのうち少なくとも旋回時外側の前輪(例えば、右旋回時には左前輪FL)に対する制駆動トルクを大きくする制御である。この制駆動トルクとは、車輪に対する駆動トルクから制動トルクを差し引いた差である。そして、トルク調整制御では、旋回時外側の前輪に制動トルクが付与されているときには、制動トルクが付与されている全ての車輪(旋回時外側の前輪も含む)の制動トルクが減少される。一方、旋回時外側の前輪に制動トルクが付与されていないときには、駆動トルクを付与可能な全ての車輪(旋回時外側の前輪も含む。)に対する駆動トルクが増大されるようになっている。こうしたトルク調整制御が実行されると、横滑り抑制制御の実行時、又はトルク調整制御及び横滑り抑制制御が実行されないときと比較して、トルク調整制御によって制駆動トルクが調整される車輪(旋回時外側の前輪も含む)が回転しやすくなる。その結果、車両に作用する横方向加速度を小さくすることが可能となる。
次に、本実施形態のブレーキECU52のメモリに記憶されるマップについて説明する。
まず始めに、横滑り抑制制御の開始タイミングを決定するための開始判定値(後述するオーバー用開始判定値及びアンダー用開始判定値)を補正するための補正ゲインGhを、車両の走行する路面の勾配θに基づき設定するためのマップについて、図4を参照して説明する。
図4に示すように、補正ゲインGhは、車両の走行する路面が登坂路である場合には「1」に設定されている。また、補正ゲインGhは、路面が降坂路であっても、勾配θが上記勾配の上限値θ_Limよりも大きい急勾配判定値θth1以下である場合には「1」に設定される一方、勾配θが急勾配判定値θth1よりも大きい場合には勾配θが大きいほど大きい値に設定される。本実施形態では、急勾配判定値θth1は、図3に示す勾配θa1と同一値に設定されている。
なお、図4に示す基準判定値θth2は、上記トルク調整制御の実行の許可又は禁止を決定するための判定値であって、急勾配判定値θth1よりも大きく、且つ図3に示す勾配θa2よりも小さい値に設定されている。
次に、トルク調整制御の実行時における車輪に対する制駆動トルクの増大量である補正制駆動トルクXupを、車両のオーバーステア度合OS又はアンダーステア度合USに基づき設定するためのマップについて、図5を参照して説明する。なお、本実施形態では、トルク調整制御によって制駆動トルクが調整される車輪のことを「トルク調整対象車輪」ともいう。
図5に示すように、補正制駆動トルクXupは、オーバーステア度合OS(又はアンダーステア度合US)が第1の値OS11(又は第1の値US11)未満である場合には「0(零)」に設定される。また、補正制駆動トルクXupは、オーバーステア度合OS(又はアンダーステア度合US)が第1の値OS11(又は第1の値US11)よりも大きい第2の値OS12(又は第2の値US12)以上である場合には最大補正値Xup_maxに設定される。そして、補正制駆動トルクXupは、オーバーステア度合OS(又はアンダーステア度合US)が第1の値OS11(又は第1の値US11)以上であって且つ第2の値OS12(又は第2の値US12)未満である場合には、オーバーステア度合OS(又はアンダーステア度合US)が大きいほど大きい値に設定される。
なお、ここでいう「オーバーステア度合OS」は、車両のオーバーステア傾向が強いほど大きくなる値であり、「アンダーステア度合US」は、車両のアンダーステア傾向が強いほど大きくなる値である。すなわち、本実施形態では、オーバーステア度合OS及びアンダーステア度合USが、車両の挙動の不安定傾向が強くなるほど大きくなる車両状態値に相当する。
次に、本実施形態のブレーキECU52が実行する各種処理ルーチンについて説明する。
まず始めに、横滑り抑制制御又はトルク調整制御の開始を決定するための横滑り抑制処理ルーチンについて、図6に示すフローチャートを参照して説明する。
図6に示す横滑り抑制処理ルーチンは、予め設定された所定サイクル毎に実行される処理ルーチンである。この横滑り抑制処理ルーチンにおいて、ブレーキECU52は、以下に示す関係式(式1)を用いて車両のオーバーステア度合OSを演算し(ステップS11)、関係式(式2)を用いて車両のアンダーステア度合USを演算する(ステップS12)。すなわち、ステップS11,S12が、車両の挙動の不安定傾向が強くなるほど大きくなる車両状態値としてオーバーステア度合OS、アンダーステア度合USを取得するステップに相当する。本実施形態では、オーバーステア度合OSは、横方向加速度Gy、車両の車体速度VS及びヨーレートYrに基づき算出され、アンダーステア度合USは、車両の車体速度VS、ステアリング30の操舵角α及びヨーレートYrに基づき算出される。なお、車体速度VSは、各車輪速度センサSE3〜SE6からの検出信号に基づき算出された各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度のうち少なくとも一つの車輪速度に基づき算出された値である。
ただし、A…スタビリティファクタ、L…車両のホイールベース長、n…ステアリング30のギア比
そして、ブレーキECU52は、シフト装置25から受信したシフト情報を解析し、車両の進行方向(前進又は後進)を取得する(ステップS13)。そして、車両が前進している場合、ブレーキECU52は、「車両進行方向における前側の車輪」を前輪FR,FLとし、「車両進行方向における後側の車輪」を後輪RR,RLとする。一方、車両が後進している場合、ブレーキECU52は、「車両進行方向における前側の車輪」を後輪RR,RLとし、「車両進行方向における後側の車輪」を前輪FR,FLとする。
続いて、ブレーキECU52は、車両の走行する路面の勾配θを取得する(ステップS14)。例えば、ブレーキECU52は、前後方向加速度センサSE7からの検出信号に基づき算出された前後方向加速度を取得すると共に、車両の車体速度VSを時間微分した車体速度微分値を取得する。そして、ブレーキECU52は、車体速度微分値から前後方向加速度を減算し、この減算値に基づき勾配θを求める。そして、ブレーキECU52は、図4に示すマップを用い、補正ゲインGhをステップS14で取得した勾配θに応じた値に設定する(ステップS15)。
続いて、ブレーキECU52は、予め設定されたオーバーステア判定用の基準値OSbaseに対し、ステップS15で設定した補正ゲインGhを掛け合わせ、この演算結果をオーバー用開始判定値OSthとする(ステップS16)。すなわち、オーバー用開始判定値OSthは、車両の走行する路面が極端降坂路である場合には路面が極端降坂路ではない場合よりも大きい値に設定される。さらに、本実施形態では、オーバー用開始判定値OSthは、車両の走行する路面が極端降坂路である場合、勾配θが大きいほど、即ち急勾配であるときほど大きい値に設定される。
そして、ブレーキECU52は、予め設定されたアンダーステア判定用の基準値USbaseに対し、ステップS15で設定した補正ゲインGhを掛け合わせ、この演算結果をアンダー用開始判定値USthとする(ステップS17)。すなわち、アンダー用開始判定値USthは、車両の走行する路面が極端降坂路である場合には路面が極端降坂路ではない場合よりも大きい値に設定される。さらに、本実施形態では、アンダー用開始判定値USthは、車両の走行する路面が極端降坂路である場合、勾配θが大きいほど、即ち急勾配であるときほど大きい値に設定される。したがって、本実施形態では、ステップS16,S17が、車両が降坂路を走行するに際し、この降坂路の勾配θが急勾配判定値θth1以上であるときに、横滑り抑制制御の実行を制限する第1の制限処理を実行させるステップに相当する。
続いて、ブレーキECU52は、ステップS11で取得したオーバーステア度合OSがステップS16で設定したオーバー用開始判定値OSthよりも大きいか否かを判定する(ステップS18)。オーバーステア度合OSがオーバー用開始判定値OSthよりも大きい場合(ステップS18:YES)、車両のオーバーステア傾向が強いと判断され、ブレーキECU52は、その処理を後述するステップS20に移行する。一方、オーバーステア度合OSがオーバー用開始判定値OSth未満である場合(ステップS18:NO)、ブレーキECU52は、ステップS12で取得したアンダーステア度合USがステップS17で設定したアンダー用開始判定値USthよりも大きいか否かを判定する(ステップS19)。アンダーステア度合USがアンダー用開始判定値USthよりも大きい場合(ステップS19:YES)、ブレーキECU52は、その処理を次のステップS20に移行する。
ステップS20において、ブレーキECU52は、車両のオーバーステア傾向又はアンダーステア傾向を弱くするための横滑り抑制制御を実行する。例えば、前進中の車両の右旋回時にオーバーステア傾向が強くなった場合、ブレーキECU52は、旋回時外側の前輪である左前輪FLを制御対象車輪とし、この制御対象車輪に対する制動トルクを増大させるべくブレーキアクチュエータ43を制御する。また、前進中の車両の右旋回時にアンダーステア傾向が強くなった場合、ブレーキECU52は、旋回時内側の後輪である右後輪RRを制御対象車輪とし、この制御対象車輪に対する制動トルクを増大させるべくブレーキアクチュエータ43を制御する。
そして、ブレーキECU52は、横滑り抑制制御の実行中であることを示す横滑りフラグFLGをオンにセットし(ステップS21)、横滑り抑制処理ルーチンを一旦終了する。
その一方で、アンダーステア度合USがアンダー用開始判定値USth以下である場合(ステップS19:NO)、ブレーキECU52は、ステップS14で取得した路面の勾配θが、急勾配判定値θth1よりも大きい値に設定された基準判定値θth2(図4参照)よりも大きいか否かを判定する(ステップS22)。勾配θが基準判定値θth2以下である場合(ステップS22:NO)、トルク調整制御を行わなくても車両挙動の安定性を確保できると判断され、ブレーキECU52は、その処理を後述するステップS25に移行する。
一方、勾配θが基準判定値θth2よりも大きい場合(ステップS22:YES)、トルク調整制御の実行により車両の挙動を安定化させることができると判断される。このとき、ブレーキECU52は、図5に示すマップを用い、補正制駆動トルクXupを、ステップS11又はステップS12で演算したオーバーステア度合OS又はアンダーステア度合USに応じた値に設定する(ステップS23)。例えば、オーバーステア度合OSとオーバー用開始判定値OSthとの第1の差分がアンダーステア度合USとアンダー用開始判定値USthとの第2の差分以下である場合、アンダーステア傾向よりもオーバーステア傾向のほうが強いと判断され、ブレーキECU52は、補正制駆動トルクXupをオーバーステア度合OSに応じた値に設定する。一方、第1の差分よりも第2の差分のほうが小さい場合、オーバーステア傾向よりもアンダーステア傾向のほうが強いと判断され、ブレーキECU52は、補正制駆動トルクXupをアンダーステア度合USに応じた値に設定する。
そして、ブレーキECU52は、設定した補正制駆動トルクXupに基づき、トルク調整対象車輪に対する制駆動トルクを大きくするトルク調整制御を行い(ステップS24)、その処理を次のステップS25に移行する。すなわち、旋回時外側の前輪に制動トルクが付与されていない場合、旋回時外側の前輪を含む全ての駆動輪をトルク調整対象車輪と判定し、ブレーキECU52は、補正制駆動トルクXup分だけ駆動輪への駆動トルクを増大させる旨をエンジンECU51に要求する。すると、エンジンECU51は、予め設定された所定期間(例えば、0.1秒)、駆動輪に伝達される駆動トルクが補正制駆動トルクXup分だけ増大されるようにエンジン21の運転を制御する。
また、運転者がブレーキ操作を行っている場合などのように旋回時外側の前輪に制動トルクが付与されている場合、制動トルクが付与されている全ての車輪をトルク調整対象車輪と判定し、ブレーキECU52は、トルク調整対象車輪に対する制動トルクを、補正制駆動トルクXup分だけ減少させるべくブレーキアクチュエータ43を制御する。このとき、旋回時外側の前輪に対する制動トルクが補正制駆動トルクXupよりも小さい場合、ブレーキECU52は、補正制駆動トルクXupから旋回時外側の車輪に対する制動トルクを減算した減算値分だけ駆動輪への駆動トルクを増大させる旨をエンジンECU51に要求する。すると、エンジンECU51は、予め設定された所定期間(例えば、0.1秒)、駆動輪に伝達される駆動トルクが上記減算値分だけ増大されるようにエンジン21の運転を制御する。
ステップS25において、ブレーキECU52は、横滑りフラグFLGをオフにセットし、その後、横滑り抑制処理ルーチンを一旦終了する。
次に、速度制限制御の開始を決定するための速度制限処理ルーチンについて、図7に示すフローチャートを参照して説明する。
図7に示す速度制限処理ルーチンは、上記の横滑り抑制処理ルーチンと同様に、所定サイクル毎に実行される処理ルーチンである。この速度制限処理ルーチンにおいて、ブレーキECU52は、速度制限制御の開始条件が成立しているか否かを判定する(ステップS31)。なお、本実施形態における開始条件には、「操作ボタン55がオン状態であること」が少なくとも含まれている。
速度制限制御の開始条件が成立していない場合(ステップS31:NO)、ブレーキECU52は、速度制限処理ルーチンを一旦終了する。一方、速度制限制御の開始条件が成立している場合(ステップS31:YES)、ブレーキECU52は、横滑りフラグFLGがオフであるか否かを判定する(ステップS32)。横滑りフラグFLGがオンである場合(ステップS32:NO)、横滑り抑制制御が実行中であるため、ブレーキECU52は、速度制限処理ルーチンを一旦終了する。
一方、横滑りフラグFLGがオフである場合(ステップS32:YES)、横滑り抑制制御が実行されていないため、ブレーキECU52は、各車輪FR,FL、RR,RLの車輪速度のうち少なくとも一つの車輪の車輪速度に基づいた車両の車体速度VSを取得する(ステップS33)。続いて、ブレーキECU52は、取得した車体速度VSから設定速度VE(例えば、10km/h)を減算し、この減算値(=VS−VE)を速度差Vsubとする(ステップS34)。
そして、ブレーキECU52は、演算した速度差Vsubが大きいほど、車両に対する要求制動トルクBP_RQを大きい値に設定する(ステップS35)。続いて、ブレーキECU52は、各車輪FR,FL、RR,RLに対する制動トルクの合計値が要求制動トルクBP_RQと一致するようにブレーキアクチュエータ43を制御する速度制限制御を行う(ステップS36)。その後、ブレーキECU52は、速度制限処理ルーチンを一旦終了する。
次に、オフロードを前進中の車両が極端降坂路で右旋回する場合の動作について説明する。
極端降坂路を車両が走行する場合、進行方向前側の車輪である前輪FR,FLの接地荷重が極端に増大する一方で、進行方向後側の車輪である後輪RR,RLの接地荷重が極端に減少している。この状態で各車輪FR,FL、RR,RLに制動トルクが付与されていない状態で車両が右側に旋回すると、後輪RR,RLの接地荷重が極端に小さい分、これらに装着されるタイヤの横方向のグリップ力が低下しているため、結果として、後輪RR,RLが横滑りしやすくなっている。また、旋回時外側の前輪である左前輪FLの接地荷重が非常に大きくなるため、この左前輪FLに装着されるタイヤの横方向のグリップ力が増大し、左前輪FLのコーナーリングフォースが大きくなる。そのため、車両は不要に旋回しやすくなっており、車両のオーバーステア傾向が強くなり、車両の挙動が不安定側に変化する。
本実施形態では、横滑り抑制制御の開始タイミングを決定するためのオーバー用開始判定値OSthは、車両の走行する降坂路が急勾配である場合には降坂路が緩勾配である場合よりも大きい値に設定される。そのため、オーバーステア傾向を弱くするための横滑り抑制制御は、車両の走行する降坂路が急勾配である場合ほど開始されにくくなっている。こうして左前輪FLに対する制動トルクの増大が制限される分、車両に作用する横方向加速度Gyが大きくなりにくくなる。ただし、オーバーステア度合OSがオーバー用開始判定値OSthよりも大きくなった場合には、車両のオーバーステア傾向が強いため、オーバーステア傾向を弱くすべく横滑り抑制制御が開始される。
また、本実施形態では、車両の走行する降坂路の勾配θが基準判定値θth2よりも大きい場合において横滑り抑制制御が開始されてないときには、トルク調整制御が実行される。このとき、旋回時外側の前輪である左前輪FLに制動トルクが付与されていない場合、左前輪FLを含む全ての駆動輪に対する駆動トルクは、トルク調整制御によって、勾配θに応じた値に設定される補正制駆動トルクXup分だけ増大される。これにより、トルク調整制御の開始前と比較して、駆動輪に対する駆動トルクが増大された分だけ、左前輪FLを含む駆動輪が回転しやすくなる。そのため、車両に作用する横方向加速度Gyがさらに大きくなりにくくなる。こうしたトルク調整制御が所定期間だけ継続されることにより、運転者に違和感を与えることなく、横方向加速度Gyの増大に起因した車両の挙動の不安定化が抑制される。
その一方で、車両の走行する降坂路の勾配θが基準判定値θth2よりも大きい場合において横滑り抑制制御が開始されてないときには、左前輪FLに制動トルクが付与されていることがある。こうした場合としては、運転者がブレーキ操作を行っている場合、速度制限制御が実行されている場合などが挙げられる。
そして、こうした場合、制動トルクが付与されている全ての車輪(トルク調整対象車輪)に対する制動トルクは、トルク調整制御によって、補正制駆動トルクXup分だけ減少される。これにより、トルク調整制御の開始前と比較して、左前輪FLを含むトルク調整対象車輪に対する制動トルクが減少された分だけ、トルク調整対象車輪が回転しやすくなる。そのため、車両に作用する横方向加速度Gyがさらに大きくなりにくくなる。その結果、横方向加速度Gyの増大に起因した車両の挙動の不安定化が抑制される。
なお、極端降坂路での車両の旋回時には、アンダーステア傾向が強くなることがある。この状態でアンダーステア傾向を弱くすべく横滑り抑制制御が開始されると、旋回時内側の後輪が制御対象車輪とされ、この制御対象車輪に対する制動トルクが増大される。このとき、旋回時内側の後輪は各車輪FR,FL、RR,RLのうち最も坂上に位置しており、当該車輪の接地荷重が極端に小さくなっている。そのため、横滑り抑制制御の実行によって車両のアンダーステア傾向は解消されるものの、車両が旋回しやすくなり過ぎ、結果として、車両のオーバーステア傾向が大きくなることがある。
そこで、本実施形態では、極端降坂路を車両が走行する場合には、アンダー用開始判定値USthも大きい値に補正される。その結果、極端降坂路で旋回中の車両がアンダーステア傾向を示す場合であっても、横滑り抑制制御が開始されにくくなる。
以上説明したように、本実施形態では、以下に示す効果を得ることができる。
(1)極端降坂路を車両が走行するときには、車両の走行する路面が極端降坂路ではないときよりも、オーバー用開始判定値OSth及びアンダー用開始判定値USthを大きい値に補正する第1の制限処理が行われる。その結果、走行する路面が極端降坂路ではない場合と比較して横滑り抑制制御が開始されにくくなる。そのため、制御対象車輪に対する制動トルクの増大過多が抑制され、極端降坂路を走行する車両の挙動の不安定化を抑制することができるようになる。
(2)勾配θが基準判定値θth2以上となる降坂路を、横滑り抑制制御が行われていない状態で車両が旋回する場合には、旋回時外側の前輪を含むトルク調整対象車輪に対する制駆動トルクを増大させるトルク調整制御が実行される。これにより、トルク調整対象車輪が回転しやすくなり、車両の横方向加速度Gyが横方向加速度限界値Gy_Limを超えにくくなる。その結果、横方向加速度Gyの増大に伴う車両の挙動の不安定化を抑制することができるようになる。
(3)本実施形態のトルク調整制御では、旋回時外側の前輪に制動トルクが付与されていない場合には、旋回時外側の前輪を含む全ての駆動輪がトルク調整対象車輪とされ、トルク調整対象車輪に対する駆動トルクが増大される。その一方で、旋回時外側の前輪に制動トルクが付与されている場合には、制動トルクが付与されている全ての車輪(旋回時外側の前輪も含む)がトルク調整対象車輪とされ、トルク調整対象車輪に対する制動トルクが減少される。そのため、トルク調整制御によって、旋回時外側の前輪を含む全てのトルク調整対象車輪を回転させやすくすることができるようになる。
(4)また、トルク調整制御の制御パラメータである補正制駆動トルクXupは、オーバーステア度合OS又はアンダーステア度合USが大きい場合には小さい場合よりも大きい値に設定される。そのため、車両の挙動が不安定である場合ほど、トルク調整制御によって、旋回時外側の前輪を含むトルク調整対象車輪が回転しやすくなる。したがって、オーバーステア度合OS又はアンダーステア度合USに応じて補正制駆動トルクXupを適切な値に設定することにより、車両の挙動を適切に制御することができるようになる。
(5)また、トルク調整制御によって旋回時外側の前輪を含む全ての駆動輪に対する駆動トルクが増大される場合、トルク調整制御の実行期間は短時間とされる。そのため、運転者によるアクセル操作量が増大されていないにも拘わらずエンジン21から出力される駆動トルクが増大されたことに対して、運転者に違和感を与えにくくすることができるようになる。
(6)なお、極端降坂路を車両が走行する場合には、横滑り抑制制御が実行されにくくなった分、速度制限制御が実行される可能性が高くなる。そのため、車両の極端降坂路の走行時には、速度制限制御の実行によって車体速度VSが制御される分、車両の挙動の不安定化を抑制することができるようになる。
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態を図8に従って説明する。なお、第2の実施形態は、速度制限制御を実行しないとともに、横滑り抑制処理ルーチンの内容が第1の実施形態と異なっている。したがって、以下の説明においては、第1の実施形態と相違する部分について主に説明するものとし、第1の実施形態と同一又は相当する部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
本実施形態の横滑り抑制処理ルーチンについて、図8に示すフローチャートを参照して説明する。
図8に示すように、横滑り抑制処理ルーチンにおいて、ブレーキECU52は、上記ステップS11,S12,S13,S14の各処理を順次行う。すなわち、本実施形態では、オーバー用開始判定値OSth及びアンダー用開始判定値USthは、路面の勾配θに応じて補正されない。例えば、オーバー用開始判定値OSthは基準値OSbaseに予め設定され、アンダー用開始判定値USthは基準値USbaseに予め設定されている。
続いて、ブレーキECU52は、オーバーステア度合OSがオーバー用開始判定値OSthよりも大きいか否かを判定する(ステップS18)。そして、ブレーキECU52は、オーバーステア度合OSがオーバー用開始判定値OSthよりも大きい場合(ステップS18:YES)にはその処理を後述するステップS201に移行し、オーバーステア度合OSがオーバー用開始判定値OSth以下である場合(ステップS18:NO)にはその処理を次のステップS19に移行する。
続いて、ブレーキECU52は、アンダーステア度合USがアンダー用開始判定値USthよりも大きい場合(ステップS19:YES)にはその処理を後述するステップS201に移行し、アンダーステア度合USがアンダー用開始判定値USth以下である場合(ステップS19:NO)にはその処理をステップS22に移行する。そして、ブレーキECU52は、路面の勾配θが基準判定値θth2よりも大きい場合(ステップS22:YES)には、補正制駆動トルクXupを設定し(ステップS23)、トルク調整制御を行い(ステップS24)、横滑り抑制処理ルーチンを一旦終了する。一方、ブレーキECU52は、路面の勾配θが基準判定値θth2以下である場合(ステップS22:NO)には、横滑り抑制制御及びトルク調整制御を行うことなく、横滑り抑制処理ルーチンを一旦終了する。
ステップS201において、ブレーキECU52は、路面の勾配θが急勾配判定値θth1よりも大きいか否かを判定する。そして、勾配θが急勾配判定値θth1以下である場合(ステップS201:NO)、車両の走行する路面が極端降坂路ではないと判断され、ブレーキECU52は、第1の横滑り抑制制御を行う(ステップS202)。この第1の横滑り抑制制御では、制御対象車輪に対する制動トルクが、オーバーステア度合OSからオーバー用開始判定値OSthを差し引いた差、又はアンダーステア度合USからアンダー用開始判定値USthを差し引いた差に応じたトルク分だけ増大されるようにブレーキアクチュエータ43が制御される。その後、ブレーキECU52は、横滑り抑制処理ルーチンを一旦終了する。
一方、勾配θが急勾配判定値θth1よりも大きい場合(ステップS201:YES)、車両の走行する路面が極端降坂路であると判断され、ブレーキECU52は、第1の横滑り抑制制御とは異なる第2の横滑り抑制制御を行う(ステップS203)。この第2の横滑り抑制制御では、制御対象車輪に対する制動トルクの増大量が第1の横滑り抑制制御の場合と比較して少ない値に設定される。例えば、制御対象車輪に対する制動トルクの増大量は、第1の横滑り抑制制御時における制動トルクの増大量の半分程度とされる。すなわち、本実施形態では、車両が降坂路を走行するに際し、該降坂路の勾配θが急勾配判定値θth1以上であるときには、横滑り抑制制御(姿勢制御)の実行時における制御対象車輪に対する制動トルクの増大量を、勾配θが急勾配判定値θth1未満であるときよりも少なくする第2の制限処理が行われる。その後、ブレーキECU52は、横滑り抑制処理ルーチンを一旦終了する。
次に、本実施形態の車両の動作について説明する。なお、前提として、車両は極端降坂路を前進しているものとする。
極端降坂路を走行する車両が右旋回して車両のオーバーステア度合OSが大きくなると、車両の挙動は、時間が経過するに連れて次第に不安定側に変化する。そして、オーバーステア度合OSがオーバー用開始判定値OSthよりも大きくなると、第2の横滑り抑制制御が開始される。この第2の横滑り抑制制御では、第1の横滑り抑制制御が実行される場合と比較して、制御対象車輪である旋回時外側の前輪(即ち、左前輪FL)に対する制動トルクの増大量が少なくなる。
このように左前輪FLに対する制動トルクの増大が制限されることにより、車両に作用する横方向加速度Gyが大きくなりにくくなる。その結果、横方向加速度Gyの増大に起因した車両の挙動の不安定化が抑制される。
以上説明したように、本実施形態では、第1の実施形態における効果(2)〜(5)に加え以下に示す効果をさらに得ることができる。
(7)極端降坂路を車両が走行するときには、車両の走行する路面が極端降坂路ではないときよりも、横滑り抑制制御の実行時における制御対象車輪に対する制動トルクの増大を制限する第2の制限処理が行われる。その結果、制御対象車輪に対する制動トルクの増大過多が抑制され、極端降坂路を走行する車両の挙動の不安定化を抑制することができるようになる。
なお、上記各実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・第1の実施形態において、第1の制限処理は、横滑り抑制制御の開始を制限できるのであれば、開始判定値OSth,USthを大きい値に補正する以外の他の任意の処理であってもよい。例えば、車両の走行する降坂路が極端降坂路である場合には、横滑り抑制制御の実行を禁止してもよい。また、車両が極端降坂路を走行するに際し、横滑り抑制制御の開始条件と速度制限制御の開始条件とが共に成立しているときには、速度制限制御を横滑り抑制制御よりも優先して実行してもよい。
・第1の実施形態において、車両が極端降坂路を走行するに際し、横滑り抑制制御の開始条件が成立したときには、第2の横滑り抑制制御を実行するようにしてもよい。
・第2の実施形態において、第2の制限処理の代わりに、第1の制限処理を行ってもよい。
・第2の実施形態において、開始判定値OSth,USthを、車両の走行する路面の勾配θに応じた値に補正するようにしてもよい。そして、車両の走行する降坂路の勾配θが急勾配判定値θth1以上である場合において、オーバーステア度合OS(又はアンダーステア度合US)が基準値OSbase(又は基準値USbase)よりも大きく且つオーバー用開始判定値OSth(又はアンダー用開始判定値USth)以下であるときには、第2の横滑り抑制制御を実行するようにしてもよい。一方、車両の走行する降坂路の勾配θが急勾配判定値θth1以上である場合において、オーバーステア度合OS(又はアンダーステア度合US)がオーバー用開始判定値OSth(又はアンダー用開始判定値USth)よりも大きいときには、第1の横滑り抑制制御を実行するようにしてもよい。
・各実施形態において、トルク調整制御の開始条件が成立しているときには、旋回時外側の前輪に制動トルクが付与されていても、旋回時外側の前輪を含む全ての駆動輪に対する駆動トルクを増大させるようにしてもよい。
・各実施形態において、旋回時外側の前輪に制動トルクが付与されている状態でトルク調整制御を実行するときには、旋回時外側の前輪に対する制動トルクと、設定された補正制駆動トルクXupとを比較してもよい。そして、制動トルクが補正制駆動トルクXupよりも大きいときには、制動トルクが付与されている全ての車輪をトルク調整対象車輪とし、トルク調整対象車輪に対する制動トルクを補正制駆動トルクXup分だけ減少させてもよい。一方、制動トルクが補正制駆動トルクXupよりも小さいときには、旋回時外側の前輪を含む全ての駆動輪をトルク調整対象車輪とし、トルク調整対象車輪に対する駆動トルクを補正制駆動トルクXupだけ増大させるようにしてもよい。
・各実施形態において、トルク調整制御を行うに際し、旋回時外側の前輪に制動トルクが付与されているときには、制動トルクが付与されている全ての車輪のうち前輪FR,FLをトルク調整対象車輪とし、トルク調整対象車輪に対する制動トルクを減少させるようにしてもよい。また、旋回時外側の前輪のみをトルク調整対象車輪とし、トルク調整対象車輪に対する制動トルクを減少させるようにしてもよい。このように全ての車輪に対する制動トルクを減少させる場合と比較して、一部の車輪に対する制動トルクが減少させることとなるため、車両全体の制動トルクの減少を抑制することが可能となる。
・各実施形態において、トルク調整制御時に駆動輪に対する駆動トルクを増大させるときには、駆動輪のうち旋回時外側の車輪以外の他の車輪に対する制動トルクを増大させるようにしてもよい。これにより、エンジン21からの出力が大きくなっても車両全体の制動トルクも大きくなる分、トルク調整制御の実行に伴う車両の加速を抑制することが可能となる。
・第1の実施形態において、横滑り抑制制御が実行されていない状態で、オーバーステア度合OSが基準値OSbase以下であって且つアンダーステア度合USが基準値USbase以下であるときには、トルク調整制御を行わなくてもよい。
・各実施形態において、トルク調整制御の実行を、車両のオーバーステア傾向が強い場合にのみ許可するようにしてもよい。この場合、車両がアンダーステア傾向を示すときには、トルク調整制御が実行されない。
その反対に、トルク調整制御の実行を、車両のアンダーステア傾向が強い場合にのみ許可するようにしてもよい。この場合、車両がオーバーステア傾向を示すときには、トルク調整制御が実行されない。
・各実施形態において、トルク調整制御では、補正制駆動トルクXupを、横方向加速度Gyに基づき設定するようにしてもよい。例えば、トルク調整制御の開始前において車両に作用する横方向加速度Gyと、その時点の横方向加速度限界値Gy_Limとの差分が小さいほど、補正制駆動トルクXupを大きい値に設定するようにしてもよい。
・各実施形態において、補正制駆動トルクXupは、予め設定された所定値であってもよい。
・各実施形態において、車両の駆動方式は、前輪FR,FLに駆動トルクを付与可能な駆動方式であればよく、前輪駆動方式の他、四輪駆動方式であってもよい。
・車両の駆動方式は、前輪FR、FLに駆動トルクが付与されない後輪駆動方式であってもよい。この場合、旋回時外側の前輪に制動トルクが付与されていないときには、トルク調整制御の実行を禁止してもよい。
・各実施形態において、急勾配判定値θth1は、勾配の上限値θ_Lim以上であって且つ図3に示す勾配θa1以下の任意の値であってもよい。例えば、急勾配判定値θth1を、勾配の上限値θ_Limとしてもよい。
・各実施形態において、基準判定値θth2は、図3に示す勾配θa2以下の任意の値であってもよい。例えば、基準判定値θth2を、急勾配判定値θth1と同一値としてもよいし、勾配θa2と同一値としてもよい。
・設定速度VEは、予め設定された値であってもよいし、運転者による操作によって許容範囲内(例えば、5km/h〜30km/h)で変更可能な値であってもよい。
・各実施形態において、オーバーステア度合OSは、上記関係式(式1)を用いた算出方法とは異なる方法で算出してもよい。例えば、車両進行方向における後側の車輪に対する横力推定値と車両進行方向における前側の車輪に対する横力推定値との差分を、オーバーステア度合OSとしてもよい。また、車両の車体スリップ角の推定値を、オーバーステア度合OSとしてもよい。
・姿勢制御としては、車両の旋回時における挙動の安定化を図る制御であれば、横滑り抑制制御以外の他の任意の姿勢制御であってもよい。例えば、姿勢制御としては、旋回時の車両の横転を抑制するための横転抑制制御であってもよい。この場合、車両の挙動の不安定傾向が強くなるほど大きくなる車両状態値として、車両の横方向加速度Gyが取得される。そして、車両が極端降坂路を走行するときには、極端降坂路ではない路面を車両が走行するときよりも、横転抑制制御の開始を制限する第1の制限処理、及び、横転抑制制御の実行時における制御対象車輪に対する制動トルクの増大を制限する第2の制限処理のうち少なくとも一方を行うようにしてもよい。
・各実施形態において、車輪速度センサの中には、車輪の回転方向を検出可能なセンサもある。こうしたセンサを車輪速度センサSE3〜SE6として採用した場合には、車両が前進しているか後進しているかを、車輪速度センサSE3〜SE6からの検出信号に基づき判定してもよい。
・車両の動力源は、エンジンではなく、電動モータであってもよい。また、車両は、動力源としてエンジンと電動モータとを備えるハイブリッド車両であってもよい。
次に、上記各実施形態及び別の実施形態から把握できる技術的思想を以下に追記する。
(イ)前記第1の制限処理(S16,S17)は、前記開始判定値(OSth,USth)を、降坂路の勾配(θ)が前記急勾配判定値(θth1)以上であるときには勾配(θ)が前記急勾配判定値(θth1)未満であるときよりも大きい値にする処理である。
(ロ)前記第1の制限処理は、前記姿勢制御(S20)の実行を禁止する処理である。
(ハ)前記第1の制限処理は、前記姿勢制御(S20)及び前記速度制限制御(S36)のうち優先して行う処理を、前記姿勢制御(S20)から前記速度制限制御(S36)に切り替える処理である。