JP4886655B2 - 車両挙動制御装置 - Google Patents

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Description

本発明は、車両挙動の制御を統合的に行う車両挙動制御装置に関する。
従来から車両挙動の制御を統合的に行う技術として、マスタ(Master)・スレーブ(Slave)の制御方法を用いたものが開発されている。車両挙動の制御量を渡すマスタと、その制御量に従い、対象とするアクチュエータを制御する一または二以上のスレーブとから構成され、スレーブはマスタからの要求通りに動作する。
特許文献1に開示された技術も、この制御方法を取り入れたものといえる。特許文献1には、路面摩擦係数を使用せずに、車両の挙動状態及び路面状況に応じて、操舵系、制動系、駆動系の各アクチュエータを最適な配分で統合的に制御することにより、車両安定性を向上することができる車両の統合制御装置について開示されている。
特開2005−112007号公報
しかし、特許文献1を初めとして、従来のマスタ・スレーブの制御方法を用いた車両挙動の統合的な制御は、スレーブがマスタの要求通りに動作するために、かえって車両の走行を不安定にさせてしまう事態を引き起こす場合がある。例えば、車両挙動として、旋回走行している車両において後輪が横滑りすることにより車両が旋回内側に巻き込まれるオーバーステアが生じた場合、スレーブはオーバーステアを解消するために、前外輪を制動する等の制御を自律的に行うが、マスタは他のスレーブの制御との兼ね合い等もあるためにオーバーステアを助長するような制御をスレーブに要求してしまう。スレーブはマスタの要求に従うためオーバーステアを解消できず、車両の走行不安定化を招く。また、旋回走行している車両において前輪が横滑りすることにより車両が外側にはらんでしまうアンダーステアが生じた場合、スレーブはアンダーステアを解消するために、前内輪を制動する等の制御を自律的に行うが、マスタは他のスレーブの制御との兼ね合い等もあるためにアンダーステアを助長するような制御をスレーブに要求してしまう。スレーブはマスタの要求に従うためアンダーステアを解消できず、車両の走行不安定化を招く。このように、車両の走行状態がどのようになろうとも、スレーブはマスタの要求に従わざるを得ないという問題がある。なお、特許文献1は、この問題に言及するものではない。
上記事情を鑑みて、本発明の目的は、車両挙動の統合的な制御において、車両の走行安定化に適した制御を実行することにある。
上記目的を達成するために、本発明は、統合制御手段の目標制御量に基づく要求が、車両制御手段ベース制御量に基づく制御と矛盾する場合には、車両制御手段統合制御手段の要求を制限し、車両制御手段の制御を優先する。詳細は後記する。
なお、制限とは、統合制御手段の目標制御量に基づく要求の重みの値を小さくすること、車両制御手段の制御の重みの値を大きくすること、統合制御手段の要求を無視(禁止)すること等が含まれる。
本発明により、車両挙動の統合的な制御において、車両の走行安定化に適した制御を実行することができる。
以下、本発明の車両挙動制御装置を実施するための最良の形態(以下、「実施形態」という。)について説明する。説明の際には、本明細書と同時に提出する図面を適宜参照する。
図1は、本実施形態の車両1の概略構成を図示したものである。図1を用いて車両1の駆動系、操舵系および制動系について説明する。
(駆動系)
まず、車両1の駆動系について説明する。図1に示すように、車両1のエンジンEGは、トルクコンバータ2、トランスミッション3を介して、センターディファレンシャル4が連結されている。センターディファレンシャル4には、図示しないフロントプロペラシャフト及びフロントディファレンシャルを介してフロントアクスル5R,5Lが連結されている。フロントアクスル5Rには右前輪FRWが取り付けられ、フロントアクスル5Lには、左前輪FLWが取り付けられている。センターディファレンシャル4には、リアプロペラシャフト6を介して駆動力配分手段としての駆動力配分装置7が連結されている。リアプロペラシャフト6には駆動力配分装置7が連結されており、同駆動力配分装置7にはドライブピニオンシャフト8を介してリヤディファレンシャル9が連結されている。リヤディファレンシャル9には一対のリヤアクスル10R,10Lを介して、右後輪RRW及び左後輪RLWが連結されている。
エンジンEGの駆動力は、トルクコンバータ2、トランスミッション3を介してセンターディファレンシャル4に伝達され、さらに、図示しないフロントプロペラシャフト及びフロントディファレンシャル、及びフロントアクスル5R,5Lを介して右前輪FRW、左前輪FLWに伝達される。又、リアプロペラシャフト6とドライブピニオンシャフト8とが駆動力配分装置7にてトルク伝達可能に連結された場合、エンジンEGの駆動力はリアプロペラシャフト6、ドライブピニオンシャフト8、リヤディファレンシャル9及びリヤアクスル10R,10Lを介して右後輪RRW及び左後輪RLWに伝達される。
駆動力配分装置7は湿式多板式の図示しない公知の電磁クラッチ機構を備えており、同電磁クラッチ機構は互いに摩擦係合又は離間する複数のクラッチ板を有している。電磁クラッチ機構に内蔵されたアクチュエータとしての電磁ソレノイド(図示略)に指令制御量に応じた電流を供給すると各クラッチ板は互いに摩擦係合し、右後輪RRW及び左後輪RLWへのトルクの伝達が行われる。
各クラッチ板の摩擦係合力は電磁ソレノイドへ供給する電流の量(電流の強さ)に応じ増減する。この電磁ソレノイドへの電流供給量を制御することにより右前輪FRW,左前輪FLWと、右後輪RRW,左後輪RLWとの間の伝達トルク、即ち前輪と後輪との間の拘束力を任意に調整可能となっている。各クラッチ板の摩擦係合力が増大すると前輪と後輪との間の伝達トルクも増大する。逆に、各クラッチ板の摩擦係合力が減少すると前輪と後輪との間の伝達トルクも減少する。前記電磁ソレノイドへの電流の供給、遮断及び電流供給量の調整は電子制御装置11により制御される。前記電磁ソレノイドへの電流の供給を遮断すると、各クラッチ板は互いに離間し、後輪(右後輪RRW及び左後輪RLW)へのトルクの伝達も遮断される。このように、電子制御装置11は、駆動力配分装置7における各クラッチ板の摩擦係合力を制御することによって、四輪駆動状態又は二輪駆動状態のいずれかを選択すると共に、四輪駆動状態において前輪と後輪との間の駆動力配分率(トルク配分率)を制御する。本実施形態では、前輪と後輪の駆動力配分比は、100:0〜50:50に可変可能である。
車両1には、アクセルペダルAPが設けられている。アクセルセンサASは、アクセルペダルAPの踏み込み量に応じた検出信号を車両1に搭載した電子制御装置11に入力する。この検出信号に応じて電子制御装置11は、エンジンEGのスロットル開度を制御するようにされている。この結果、エンジンEGの出力は、アクセルペダルAPの踏み込み量に応じて制御される。アクセルセンサASはスロットル開度(運転操作量)を検出する手段に相当する。又、右前輪FRW及び左前輪FLW、並びに、左前輪FLW及び左後輪RLWには、それぞれ対応する車輪の回転速度(車輪速度という)を検出する車輪速度センサ12〜15が設けられている。各車輪速度センサ12〜15により検出された検出信号(車輪速度Vfr,Vfl,Vrr,Vrl)は、電子制御装置11に出力される。
(操舵系)
次に車両1の操舵系について説明する。操舵系は、ステアリングホイールSW、第1軸SWa、第2軸SWb、ラック18、操舵角センサSS、操舵トルクセンサTS、IFSアクチュエータFSV、EPSアクチュエータFSを備えている。ステアリングホイールSWに第1軸SWaの一端が接続され、この第1軸SWaの他端側にはIFSアクチュエータFSVの入力側が接続されている。ステアリングホイールSWは、運転操作手段に相当する。
IFSアクチュエータFSVは電動モータ、複数のギヤからなる減速機等から構成されており、この出力側には第2軸SWbの一端側が接続され、第2軸SWbの他端側にはステアリングギヤボックス17の入力側が接続されている。そして、ステアリングギヤボックス17はラック18&ピニオンギヤ(図示しない)により、第2軸SWbによって入力された回転運動を、ラック18の軸方向運動に変換して出力し得るように構成されている。ラック18の軸方向運動、すなわち、往復動は左右のタイロッド18L,18Rを介して、左前輪FLW及び右前輪FRWに伝達されて、該前輪を転舵する。IFSアクチュエータFSVでは、このように構成されていることによって、前記電動モータと減速機(図示略)により、入力ギヤに対する出力ギヤの比を車速Vに応じてリアルタイムに変更し、第1軸SWaの操舵角に対する第2軸SWbの出力角の比を可変する。IFSアクチュエータFSVは、伝達比可変手段を構成する。
なお、IFSはインテリジェント フロント ステアの略であり、車両のドライバビリティやセィフティ向上を目的として、例えばヨーレイトや車体スリップ角等の車両挙動量を検出し、その車両挙動量をフィードバックして、操舵輪(前輪)を操舵する意味であり、その制御を通常、IFS制御と呼んでいる。
又、第1軸SWaの回転角(操舵角θ)は操舵角センサSSにより検出され、操舵角信号として電子制御装置11にそれぞれ入力される。又、EPSアクチュエータFSは、ラック18と同軸となるように構成された電動モータを備えており、電子制御装置11により制御されて操舵状態に応じたアシスト力を発生させてラック18に付与し、操舵をアシストする操舵アクチュエータとして機能する。そして、電子制御装置11は、伝達比可変制御処理によってIFSアクチュエータFSVによりステアリングギヤ比を車両の速度(車速)に応じて可変制御する機能を有するとともに、操舵制御によって操舵状態に応じたアシスト力を発生させて操舵をアシストする機能を有する。
(制動系)
次に制動系について説明する。車両1の制動系は、右前輪FRW,左前輪FLW,右後輪RRW及び左後輪RLWに対してそれぞれ設けられた制動手段としてのホイールシリンダ24〜27、油圧回路28、図示しないマスターシリンダ、及び前記マスターシリンダを駆動するブレーキペダルBPにより構成されている。前記油圧回路28には、リザーバ、オイルポンプ、及び種々の弁装置等を備えている。前記各ホイールシリンダ24〜27のブレーキ液圧は、通常時には、ブレーキペダルBPの踏力量に応じて駆動されるマスターシリンダのブレーキ液圧により、油圧回路28を介して制御される。そして、各ホイールシリンダ24〜27のブレーキ液圧により、対応する各車輪に対し制動力が付与される。
電子制御装置11は、アンチロックブレーキ制御等の所定制御時には、後記する制御パラメータに基づいて前記油圧回路28の電磁弁(図示しない)を制御して、各ホイールシリンダ24〜27毎にそのブレーキ液圧を、増圧、減圧、或いは保圧する等、個別に制御する。ブレーキ踏力センサBSはブレーキペダルBPが踏み込まれた際の踏力に応じた信号を電子制御装置11に入力する。電子制御装置11は、この信号により、ブレーキペダルBPの踏力量を検出する。前記電磁弁は、制御系のアクチュエータに相当する。
液圧センサ29〜32は、対応する各ホイールシリンダ24〜27のブレーキ液圧を検出し、電子制御装置11に入力するようにされている。電子制御装置11は、この検出信号に基づいて右前輪FRW、左前輪FLW、右後輪RRW及び左後輪RLWの制動状態を検知する。
(制御系)
次に制御系について説明する。
電子制御装置11は、デジタルコンピュータから構成されている。電子制御装置11は、単一のECU(電子制御装置:Electronic Control Unit)から構成してもよく、又、各種制御毎に複数のECUにて構成してもよい。ただし、本実施形態では、少なくともマスタとしてのECUとスレーブとしての複数のECUとを含んで構成されているものとする。前記ECUはCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、及びRAM(Random Access Memory)等を含むメモリ11aを備えている。電子制御装置11は、車両1の挙動状態における以下に記載の検出信号を、制御パラメータとしてメモリ11aに格納し、同制御パラメータに基づいて車両1の各種ECUを統合制御し、車両1の走行姿勢の安定、すなわち車両安定性を向上させるように制御する。電子制御装置11は、制御手段に相当する。
(エンジン制御の概略)
電子制御装置11には、アクセルセンサASからアクセルペダルAPの踏み込み量を示す検出信号が入力される。電子制御装置11は、アクセルペダルAPの踏み込み量に基づいてエンジンEGのスロットル開度を演算するとともに、このスロットル開度を示す制御信号をエンジンEGに出力し、エンジン制御を行う。なお、演算されたスロットル開度は、メモリ11aに格納される。
(車速演算)
電子制御装置11には、車輪速度センサ12〜15から、右前輪FRW、左前輪FLW、右後輪RRW及び左後輪RLWの車輪速度Vfr,Vfl,Vrr,Vrlを示す検出信号が入力される。そして、電子制御装置11は、入力された検出信号に基づいて右前輪FRW、左前輪FLW、右後輪RRW及び左後輪RLWの車輪速度を演算し、制御パラメータとしてメモリ11aに格納する。又、電子制御装置11は、この演算結果に基づいて、車両1の車速Vを演算し、パラメータとしてメモリ11aに格納する。本実施形態では、車輪速度Vfr,Vfl,Vrr,Vrlの平均値を演算することにより、車速V(=(Vfr+Vfl+Vrr+Vrl)/4)としている。本実施形態では、電子制御装置11は、車速Vを検出する車両挙動量検出手段に相当する。
(EPSアクチュエータFSの制御)
電子制御装置11には、操舵角センサSSからステアリングホイールSWの操舵角θを示す検出信号として操舵角信号が入力されるとともに、操舵トルクセンサTSから操舵トルクTstrを示す検出信号が入力される。電子制御装置11は、これらの検出信号に基づいて操舵角θを演算するとともに、操舵トルクTstrを演算し、メモリ11aに格納する。電子制御装置11は、操舵トルクTstr及び前記車速Vに基づいてアシスト制御に必要な指令制御量を演算し、この指令制御量に基づいてEPSアクチュエータFSをアシスト制御する。
(IFSアクチュエータFSVの制御)
又、電子制御装置11は、操舵角θと車速Vに対応して一義的に定められるIFSアクチュエータFSVの電動モータの目標回転角に対応する角度の制御量を、図略の車速vsステアリングギヤ比マップから決定し、決定した制御量に応じたモータ電圧を図示略の増幅手段を介して、操舵制御を行うECUに供給する。なお、車速vsステアリングギヤ比マップは、車速Vが大きく、すなわち速くなるにつれてステアリングギヤ比Nが大きくなるような対応関係をもつ。
これにより、車速Vに対応したステアリングギヤ比N、例えば停車時や低速走行時にはステアリングホイールSWの操舵角θに対してIFSアクチュエータFSVの出力角が大きくなるように設定し、また高速走行時にはステアリングホイールSWの操舵角θに対してIFSアクチュエータFSVの出力角が小さくなるように設定することが可能である。
右前輪FRW,左前輪FLWの転舵量、すなわち、前輪(操舵輪)の舵角(実舵角δ)は、前記出力角と比例する。この結果、例えば、車両が停車や低速走行している場合には、IFSアクチュエータFSVによるステアリングギヤ比Nが小さく設定されるので、ステアリングホイールSWによる操舵角θが少なくても前輪は大きく切れて運転者の操舵を楽にできる。又、車両が高速走行している場合には、IFSアクチュエータFSVによるステアリングギヤ比Nが大きく設定されるので、ステアリングホイールSWによる操舵角θが大きくても操舵輪は小さく切れて車両挙動の安定を確保することができる。又、電子制御装置11は、ステアリングギヤ比Nに基づいて、前記操舵角θから実際の前輪の舵角である実舵角δ(=θ/N)を算出する。なお、ステアリングギヤ比Nは、ステアリングホイールSWの操舵角θに対する実舵角δの比であり、前記マップに基づいて得られる。従って、実舵角δは、前記マップに基づいて算出される。なお、実舵角δは、第2軸SWbの回転角に出力角センサを設けて、出力角センサが検出した信号に基づいて算出しても良い。電子制御装置11は、伝達比可変制御手段に相当する。実舵角δを算出する電子制御装置11は、車両挙動量検出手段に相当する。
(制動制御)
電子制御装置11は、ブレーキ踏力センサBSから同ブレーキペダルBPの踏力量を示す検出信号が入力される。電子制御装置11は、入力された検出信号に基づいて踏力量を演算する。この踏力量に基づいて電子制御装置11は、アンチロックブレーキ制御等の所定制御時に、制御すべき、各ホイールシリンダ24〜27毎のブレーキ液圧を演算し、このブレーキ液圧を発生させるための制御量を、油圧回路28の電磁弁の駆動回路部(不図示)に出力する。又、電子制御装置11には液圧センサ29〜32からホイールシリンダ24〜27のブレーキ液圧を示す検出信号が入力される。電子制御装置11は、この検出信号に基づいてホイールシリンダ24〜27のブレーキ液圧を演算し、制御パラメータとしてメモリ11aに格納する。なお、電子制御装置11は、検出したブレーキ液圧をフィードバック量としてフィードバック制御を行うようにされている。
図1に示すように、車両1は、ヨーレイトセンサ33、前後加速度センサ34、及び横加速度センサ35を備えている。ヨーレイトセンサ33は、車両1の実際のヨーレイトである実ヨーレイトγを示す検出信号を電子制御装置11に入力する。電子制御装置11は、この検出信号に基づいて実ヨーレイトγを演算し、制御パラメータとしてメモリ11aに格納する。前後加速度センサ34は、車両1の前後加速度である実前後加速度Gxを示す検出信号を電子制御装置11に入力する。電子制御装置11は、この検出信号に基づいて実前後加速度Gxを演算し、制御パラメータとしてメモリ11aに格納する。横加速度センサ35は、車両1の実際の横加速度である実横加速度Gyを示す検出信号を電子制御装置11に入力する。電子制御装置11は、この検出信号に基づいて実横加速度Gyを演算し、制御パラメータとしてメモリ11aに格納する。
ヨーレイトセンサ33は、実ヨーレイトγを検出する車両挙動量検出手段に相当する。
(制御構成)
次に、本実施形態の車両1が備える電子制御装置11の詳細について説明する。図2は、電子制御装置11の制御構成をブロック図として図示したものである。電子制御装置11は、マスタとして機能するECUである統合ECU111と、スレーブとして機能し、VSA(Vehicle Stability Assist:車両挙動安定化制御システム)による制御を行うECUであるVSA ECU112とを有して構成されている。VSA ECU112は自律的にVSAによる制御を行い、制動系のアクチュエータ113を制御する。その一方、統合ECU111は、目標となる制御量を求め、その制御量をVSA ECU112に渡すことにより、VSA ECU112によるVSAの制御を変更するように出力要求する。
電子制御装置1は、スレーブとして機能するECUとしてVSA ECU112だけでなく、例えば、エンジンEGを制御するエンジンECU、IFSアクチュエータFSVを制御するIFS ECU、EPSアクチュエータFSを制御するEPS ECUなども有している。統合ECU111は、これらのECUに対しても目標となる制御量をそれぞれ求め、その制御量を渡すことにより、スレーブとして機能する複数のECUを統合的に制御する。以下、スレーブとしてのECUについては、VSA ECU112を中心にして説明する。
統合ECU111は、目標制御量生成部1111を有して構成されている。目標制御量生成部1111は、車両1の挙動状態を示す物理量が入力されると、公知の演算処理を行い、VSA ECU112に出力要求するための目標制御量C1を生成する。生成した目標制御量C1は、VSA ECU112に出力する。車両1の挙動状態を示す物理量としては、例えば、ヨーレイトセンサ33が検出する実ヨーレイトγ、前後加速度センサ34が検出する実前後加速度Gx、横加速度センサ35が検出する実横加速度Gy、車輪速度センサ12〜15から求められた車速V、車速vsステアリングギヤ比マップから求められた実舵角δ等がある。
目標制御量生成部1111は、目標制御量C1を求めるために目標ヨーレイトγ*を算出する場合、車速V、実舵角δに基づいて公知の車両の基本的な運動方程式を用いて演算処理する。そして、実ヨーレイトγと目標ヨーレイトγ*とのヨーレイト偏差Δγを算出し、この値を目標制御量C1とする。
また、目標制御量C1を求めるために目標横滑り角β*を算出する場合、車速V、実舵角δに基づいて公知の車両の基本的な運動方程式を用いて演算処理する。そして、実横滑り角βと目標横滑り角β*との横滑り角偏差Δβを算出し、この値を目標制御量C1とする。
VSA ECU112は、ベース制御量生成部1121、要求制限部1122、加算器1123、制御量変換部1124を有して構成されている。ベース制御量生成部1121は、制御パラメータが入力されると、所定のマップ等を用いて公知の演算処理を行い、VSA ECU112自身が自律的に車両1の車両挙動を安定化するのに必要な制御量であるベース制御量C2を生成する。制御パラメータは、制動系に対応する制御パラメータが存在する。制動系の制御パラメータとしては、例えば、車速V、各車輪速度Vfr,Vfl,Vrr,Vrlや、ブレーキ踏力センサBSが検出した踏力量等がある。生成したベース制御量C2は、要求制限部1122および加算器1123に出力する。
要求制限部1122は、VSA ECU112が統合ECU111からされた出力要求に従うか否かを判定する。目標制御量生成部1111から生成された目標制御量C1およびベース制御量生成部1121から生成されたベース制御量C2が入力されると、目標制御量C1で定められる統合ECU111の出力要求がベース制御量C2で定められるVSA ECU112による制御と矛盾しているか否かを判定する。
この矛盾とは、目標制御量C1で定められる車両挙動を制御する方向が、ベース制御量C2で定められる車両挙動を制御する方向とは異なっていることを意味する。例えば、ステアリングホイールSWを切っている以上に車両1が旋回してしまう(つまり、|γ*|<|γ|)オーバーステアの状態にある場合について説明する。ベース制御量C2は、前外輪を制動して外向きのモーメントを発生させ、車両1のフロント側に生じたコーナリングフォースを低減できる制御量である。しかし、目標制御量C1は、前外輪を駆動する等の制御により、そのコーナリングフォースを増大するような制御量である場合がある。そのため、さらにオーバーステアが助長し、車両1が不安定化してしまう。要求制限部1122は統合ECU111からされた出力要求が、VSA ECU112自身の制御と矛盾する場合、その出力要求の使用を禁止するため、目標制御量C1を加算器1123に出力しないように制限する。そのような矛盾がない場合、つまり、目標制御量C1で定められる車両挙動を制御する方向が、ベース制御量C2で定められる車両挙動を制御する方向と異なっていない場合、統合ECU111からされた出力要求の使用を許可し、目標制御量C1を加算器1123に出力する。
加算器1123は、ベース制御量生成部1121から出力されたベース制御量C2に対して、要求制限部1122が統合ECU111からされた出力要求の使用を許可した場合には、要求制限部1122から出力された目標制御量C1を加算する。ベース制御量C2に目標制御量C1を加算した制御量を指令制御量C3とし、指令制御量C3を制御量変換部1124に出力する。もし、要求制限部1122が統合ECU111からされた出力要求の使用を禁止した場合には、ベース制御量C2そのものを指令制御量C3とし、その指令制御量C3を制御量変換部1124に出力する。
制御量変換部1124は、加算器1123から出力された指令制御量C3を、指令制御量C3で定まる量に相当し、アクチュエータ113を駆動するのに必要な物理量に変換する。変換した量を変換制御量C4として対応するアクチュエータ113に出力する。
例えば、VSA ECU112が制動系の制御を行う場合には、指令制御量C3に応じた液圧を変換制御量C4として油圧回路28に供給し、油圧回路28の、アクチュエータ113である電磁弁を制御し、各ホイールシリンダ24〜27毎のブレーキ液圧を制御する。この結果、ホイールシリンダ24〜27は、指令制御量C3に応じて、各車輪を制動する。
(制御動作)
次に、本実施形態の電子制御装置11が実行する制御動作について説明する。制御動作の具体例として、車両1の旋回中におけるオーバーステアまたはアンダーステアに対するマスタ・スレーブの制御方法について説明する。図3は、マスタである統合ECU111がスレーブであるVSA ECU112に対して、左旋回ヨーモーメントを発生させるように出力要求をしたときの制御フローチャートである。また、図4は、マスタである統合ECU111がスレーブであるVSA ECU112に対して、右旋回ヨーモーメントを発生させるように出力要求をしたときの制御フローチャートである。
まず、図3において、統合ECU111がVSA ECU112に対して、左旋回ヨーモーメントを発生させるように出力要求をしたとする(ステップS101)。ここでは、統合ECU111において、車速Vおよび実舵角δに基づいて目標ヨーレイトγ*を求め、実ヨーレイトγと目標ヨーレイトとの偏差Δγを目標制御量C1として求め、目標制御量C1をVSA ECU112に渡す。
次に、車両1が左旋回中であるか否か判定する(ステップS102)。VSA ECU112に対して、制御パラメータとして操舵角θが入力されることにより判定することができる。左旋回中であれば(ステップS102でYes)、ステップS103に進み、左旋回中でなければ(ステップS102でNo)、ステップS104に進む。
ステップS103において、車両1がオーバーステアの状態にあるか否か判定する。オーバーステアの状態にあるか否かは実横滑り角βが入力されることにより判定することができる。オーバーステアの状態であれば(ステップS103でYes)、出力要求としての左旋回ヨーモーメントは、オーバーステアを助長するものであり、車両の不安定化を招くものであるため、要求制限部1122において、その出力要求を使用禁止する(ステップS105)。結果的に、目標制御量C1をベース制御量C2に加算することはない。オーバーステアの状態でなければ(ステップS103でNo)、車両1はアンダーステアの状態(左旋回中であっても右側にふくらんでいる状態)である。そして、出力要求としての左旋回ヨーモーメントは、アンダーステアを解消するものであり、車両の安定化に寄与するものであるため、要求制限部1122において、その出力要求を使用許可する(ステップS106)。結果的に、目標制御量C1をベース制御量C2に加算する。
ステップS104において、車両1が右旋回中であるか否か判定する。右旋回中であれば(ステップS104でYes)、ステップS108に進み、右旋回中でなければ(ステップS104でNo)、出力要求としての左旋回ヨーモーメントは、特に、車両の不安定化を招くものとはならないため、要求制限部1122において、その出力要求を使用許可する(ステップS107)。結果的に、目標制御量C1をベース制御量C2に加算する。
ステップS108において、車両1がオーバーステアの状態にあるか否か判定する。オーバーステアの状態であれば(ステップS108でYes)、出力要求としての左旋回ヨーモーメントは、オーバーステアを解消するものであり、車両の安定化に寄与するものであるため、要求制限部1122において、その出力要求を使用許可する(ステップS109)。結果的に、目標制御量C1をベース制御量C2に加算する。オーバーステアの状態でなければ(ステップS108でNo)、車両1はアンダーステアの状態(右旋回中であっても左側にふくらんでいる状態)である。そして、出力要求としての左旋回ヨーモーメントは、アンダーステアを助長するものであり、車両の不安定化を招くものであるため、要求制限部1122において、その出力要求を使用禁止する(ステップS110)。結果的に、目標制御量C1をベース制御量C2に加算することはない。
また、図4において、統合ECU111がVSA ECU112に対して、右旋回ヨーモーメントを発生させるように出力要求をしたとする(ステップS201)。図3の場合と同様、統合ECU111において、目標制御量C1として求め、目標制御量C1をVSA ECU112に渡す。
次に、車両1が左旋回中であるか否か判定する(ステップS202)。左旋回中であれば(ステップS202でYes)、ステップS203に進み、左旋回中でなければ(ステップS202でNo)、ステップS204に進む。
ステップS203において、車両1がオーバーステアの状態にあるか否か判定する。オーバーステアの状態であれば(ステップS203でYes)、出力要求としての右旋回ヨーモーメントは、オーバーステアを解消するものであり、車両の安定化に寄与するものであるため、要求制限部1122において、その出力要求を使用許可する(ステップS205)。結果的に、目標制御量C1をベース制御量C2に加算する。オーバーステアの状態でなければ(ステップS103でNo)、車両1はアンダーステアの状態(左旋回中であっても右側にふくらんでいる状態)である。そして、出力要求としての右旋回ヨーモーメントは、アンダーステアを助長するものであり、車両の不安定化を招くものであるため、要求制限部1122において、その出力要求を使用禁止する(ステップS206)。結果的に、目標制御量C1をベース制御量C2に加算することはない。
ステップS204において、車両1が右旋回中であるか否か判定する。右旋回中であれば(ステップS104でYes)、ステップS208に進み、右旋回中でなければ(ステップS204でNo)、出力要求としての右旋回ヨーモーメントは、特に、車両の不安定化を招くものとはならないため、要求制限部1122において、その出力要求を使用許可する(ステップS207)。結果的に、目標制御量C1をベース制御量C2に加算する。
ステップS208において、車両1がオーバーステアの状態にあるか否か判定する。オーバーステアの状態であれば(ステップS208でYes)、出力要求としての右旋回ヨーモーメントは、オーバーステアを助長するものであり、車両の不安定化を招くものであるため、要求制限部1122において、その出力要求を使用禁止する(ステップS209)。結果的に、目標制御量C1をベース制御量C2に加算することはない。オーバーステアの状態でなければ(ステップS208でNo)、車両1はアンダーステアの状態(右旋回中であっても左側にふくらんでいる状態)である。そして、出力要求としての右旋回ヨーモーメントは、アンダーステアを解消するものであり、車両の安定化に寄与するものであるため、要求制限部1122において、その出力要求を使用許可する(ステップS210)。結果的に、目標制御量C1をベース制御量C2に加算する。
(まとめ)
本実施形態により以下の効果を奏する。すなわち、車両挙動の統合的な制御を行うマスタ・スレーブの制御方法において、マスタの出力要求に従ってしまうために車両1の走行を不安定化にするという事態を解消することができ、車両の走行を安定化するのに適した制御を行うことができる。要求制限部1122は、マスタである統合ECU111の出力要求がスレーブであるVSA ECU112の制御と矛盾する場合(双方の制御の方向が異なる場合)には、統合ECU111の出力要求の使用を禁止して、VSA ECU112の制御を優先するためである。
特に、要求制限部1122は、車両1がオーバーステアの状態にある場合は、さらにオーバーステアの状態に制御してしまう統合ECU111の出力要求を抑えることにより、車両の走行の安定化を実現する。また、車両1がアンダーステアの状態にある場合は、さらにアンダーステアの状態に制御してしまう統合ECU111の出力要求を抑えることにより、車両の走行の安定化を実現する。
また、要求制限部1122をマスタである統合ECU111側にではなく、スレーブであるVSA ECU112側に設けることにより、マスタのデバイスを設計変更した場合であっても、車両の走行を不安定にさせないようにすることができる。もしも、要求制限部1122をマスタ側に設けた場合には、要求制限部1122による制限がその設計変更の如何により変わってしまう可能性が生じ、車両の走行を不安定にさせてしまうようなマスタの出力要求の使用を許可してしまうおそれがあるからである。
なお、上述した形態は、本発明を実施するための最良のものであるが、その実施形式を上記内容に限定する趣旨ではない。従って、本発明の要旨を変更しない範囲内においてその実施形式を種々変形することは可能である。
例えば、要求制限部1122は、マスタである統合ECU111の出力要求がスレーブであるVSA ECU112の制御と矛盾する場合には、統合ECU111の出力要求の使用を禁止するように制限していたが、統合ECU111の出力要求の重みの値とVSA ECU112の制御の重みの値とを設定し、それらの重みの値の割合を適宜変更するように制限しても良い。
また、本実施形態では、スレーブとしてVSA ECU112を採り上げたが、4WD(Four Wheel Drive)による制御を行う4WD ECU、EPSによる制御を行うEPS ECU、4WS(Four Wheel Steering)による制御を行う4WS ECUなどといった、他のスレーブ(図2参照)であっても同様である。
本実施形態の車両1の概略構成を図示したものである。 電子制御装置11の制御構成をブロック図として図示したものである。 マスタである統合ECU111がスレーブであるVSA ECU112に対して、左旋回ヨーモーメントを発生させるように出力要求をしたときの制御フローチャートである。 マスタである統合ECU111がスレーブであるVSA ECU112に対して、右旋回ヨーモーメントを発生させるように出力要求をしたときの制御フローチャートである。
符号の説明
FSV IFSアクチュエータ
SS 操舵角センサ
SW ステアリングホイール
AP アクセルペダル
AS アクセルセンサ
7 駆動力配分装置
11 電子制御装置
24〜27 ホイールシリンダ
33 ヨーレイトセンサ
34 前後加速度センサ
35 横加速度センサ
111 統合ECU(マスタ)(統合制御手段)
112 VSA ECU(スレーブ)(車両制御手段)
113 アクチュエータ
1111 目標制御量生成部
1121 ベース制御量生成部
1122 要求制限部
1123 加算器
1124 制御量変換部

Claims (2)

  1. 複数の車両制御手段と、前記複数の車両制御手段を統合的に制御して車両挙動を制御する統合制御手段とを有する車両挙動制御装置において、
    前記車両制御手段は、前記統合制御手段からの目標制御量に基づく要求が、車両挙動を安定化するために自律的に生成したベース制御量に基づく制御と矛盾するか否かに係る判定結果に基づいて、前記目標制御量に基づく要求を制限する要求制限部を有し、
    前記要求制限部は、前記目標制御量に基づく要求が、前記ベース制御量に基づく制御と矛盾しない旨の判定が下された場合、前記目標制御量に基づく要求、および、前記ベース制御量に基づく制御の両者に基づいて車両挙動を制御する一方、前記目標制御量に基づく要求が、前記ベース制御量に基づく制御と矛盾する旨の判定が下された場合、前記目標制御量に基づく要求を制限し、かつ、前記ベース制御量に基づく制御を優先させて車両挙動を制御する、
    ことを特徴とする車両挙動制御装置。
  2. 請求項1に記載の車両挙動制御装置であって、
    前記要求制限部は、アンダーステア時に車両挙動をアンダーステア方向へ助長させる前記目標制御量に基づく要求を受けた場合またはオーバーステア時に車両挙動をオーバーステア方向へ助長させる前記目標制御量に基づく要求を受けた場合、前記目標制御量に基づく要求を制限し、かつ、前記ベース制御量に基づく制御を優先させて、前記アンダーステアまたは前記オーバーステアに係る車両挙動を制御する、
    ことを特徴とする車両挙動制御装置。
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