JP4114065B2 - 四輪駆動車の挙動制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、車輌の挙動制御装置に係り、更に詳細にはエンジンより前後輪への駆動力配分を制御するセンターディファレンシャルを備えた四輪駆動車の挙動制御装置に係る。
【0002】
【従来の技術】
自動車等の車輌の挙動制御装置は、周知の如く、後輪の横力が低下し車輌がスピン状態にあるときには、旋回外側前輪に制動力を付与し左右前輪の制動力差によるスピン抑制方向のヨーモーメントを車輌に付与することによってスピンを抑制し、また前輪の横力が飽和し車輌がドリフトアウト状態にあるときには、左右の後輪に制動力を付与し車輌を減速させると共に左右後輪の制動力差による旋回補助方向のヨーモーメントを車輌に付与することによってドリフトアウトを抑制するようになっている。
【0003】
特にエンジンより前後輪への駆動力配分を制御するセンターディファレンシャルを備えた四輪駆動車の挙動制御装置として、下記の特許文献1には所定の車輪に制動力を付与するときにはセンターディファレンシャルの拘束力を弱めて他の車輪の自由回転の拘束を低下させ、これにより車輌の安定性を向上させる構成が記載されている。
【0004】
尚本願出願人の出願にかかる下記の特許文献2には、センターディファレンシャルを備えた四輪駆動車に於いて、車輌のヨーレートが目標ヨーレートになるよう所定の車輪に制動力を付与すると共に、制動力の付与に起因して車輌全体の制駆動力が増減しないようエンジンの出力を制御するヨーレート制御装置が記載されている。
【特許文献1】
特開平11−115719号
【特許文献2】
特開2002−219958号
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
車輌が四輪駆動車である場合にも所定の車輪に制動力を付与することにより車輌の挙動が安定化されるが、特に路面の摩擦係数が低く且つセンターディファレンシャルの拘束力が高い状態にあるときには、所定の車輪に付与される制動力の一部がセンターディファレンシャルを介して前後反対輪に伝達されることにより当該車輪の横力が低下し、そのため挙動制御によって却って車輌の挙動が悪化される場合があり、このことは路面の摩擦係数が低いほど顕著である。
【0006】
例えば車輌がスピン状態になり旋回外側前輪に制動力が付与されると、その制動力の一部がセンターディファレンシャルを介して左右の後輪へ伝達され、これに起因して後輪の横力が更に低下し、車輌のスピン状態が悪化する場合がある。同様に、車輌がドリフトアウト状態になり左右の後輪に制動力が付与されると、その制動力の一部がセンターディファレンシャルを介して左右の前輪へ伝達され、これに起因して前輪の横力が更に低下し、車輌のドリフトアウト状態が悪化する場合がある。
【0007】
上記特許文献1に記載の技術によれば、所定の車輪に制動力を付与するときにはセンターディファレンシャルの拘束力が弱められ他の車輪の回転が自由にされるので、所定の車輪に付与される制動力の一部がセンターディファレンシャルを介して前後反対輪に伝達されることを抑制し、挙動制御によって却って車輌の挙動が悪化される虞れを低減することができるが、センターディファレンシャルの拘束力が弱められるため、四輪駆動制御による駆動力の前後配分が阻害されるという問題がある。
【0008】
また上記特許文献2に記載の技術によれば、所定の車輪に制動力を付与するときにはエンジンの出力が増大されるが、エンジンの出力は制動力の付与に起因して車輌全体の制駆動力が増減しないよう増大されるのであり、所定の車輪に付与される制動力の一部がセンターディファレンシャルを介して前後反対輪に伝達されることにより当該車輪の横力が低下することに着目し、これを抑制するためにエンジンの出力が増大される訳ではないので、この技術によっては所定の車輪に制動力を付与する挙動制御によって却って車輌の挙動が悪化されることを効果的に防止することができない。
【0009】
本発明は、四輪駆動車に於いて挙動制御を行う従来の挙動制御装置に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、センターディファレンシャルを介して前後反対輪に伝達される制動力の少なくとも一部をエンジン出力の増大によって相殺することにより、挙動制御によって車輌の挙動が却って悪化されることを防止し、挙動制御を効果的に行うことである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上述の主要な課題は、本発明によれば、エンジンより前後輪への駆動力配分を制御するセンターディファレンシャルを備えた四輪駆動車に於いて、車輌が所定の挙動状態にあるときには所定の車輪に制動力を付与することにより車輌の挙動を安定化させる挙動制御を行う四輪駆動車の挙動制御装置にして、前記センターディファレンシャルの拘束力を判定する手段と、前記所定の車輪とは前後反対の車輪の過剰減速スリップ量を求める手段と、前記センターディファレンシャルの拘束力がその基準値以上の状況にて前記挙動制御が行われており且つ前記過剰減速スリップ量がその基準値以上であるときには、前記過剰減速スリップ量が減少するよう前記過剰減速スリップ量に応じて前記エンジンの出力トルクを増大させる制御手段とを有することを特徴とする四輪駆動車の挙動制御装置(請求項1の構成)、又はエンジンより前後輪への駆動力配分を制御するセンターディファレンシャルを備えた四輪駆動車に於いて、車輌が所定の挙動状態にあるときには所定の車輪に制動力を付与することにより車輌の挙動を安定化させる挙動制御を行う四輪駆動車の挙動制御装置にして、前記センターディファレンシャルの拘束力を判定する手段と、前記センターディファレンシャルの拘束力がその基準値以上の状況にて前記挙動制御が行われているときには、車輪の前後力が駆動側にならない範囲に於いて予め設定された増大量にて前記エンジンの出力トルクを増大させる制御手段とを有することを特徴とする四輪駆動車の挙動制御装置(請求項4の構成)によって達成される。
【0011】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記過剰減速スリップ量を求める手段は車輌が所定の挙動状態にあるときに車輌の挙動を安定化させるための各車輪の目標スリップ率を演算すると共に、前記所定の車輪とは前後反対の車輪の実スリップ率と目標スリップ率との偏差に基づき前記過剰減速スリップ量を求めるよう構成される(請求項2の構成)。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項2の構成に於いて、前記過剰減速スリップ量を求める手段は前記所定の車輪とは前後反対の左右の車輪の過剰減速スリップ量を演算し、該左右の車輪の過剰減速スリップ量のうち大きい方の値を前記所定の車輪とは前後反対の車輪の過剰減速スリップ量とするよう構成される(請求項3の構成)。
【0012】
【発明の作用及び効果】
上記請求項1の構成によれば、センターディファレンシャルの拘束力が判定され、所定の車輪とは前後反対の車輪の過剰減速スリップ量が求められ、センターディファレンシャルの拘束力がその基準値以上の状況にて挙動制御が行われており且つ過剰減速スリップ量がその基準値以上であるときには、過剰減速スリップ量が減少するよう過剰減速スリップ量に応じてエンジンの出力トルクが増大されるので、センターディファレンシャルを介して所定の車輪とは前後反対の車輪に伝達される制動力の少なくとも一部をエンジン出力の増大によって相殺することができ、所定の車輪とは前後反対の車輪の減速スリップ量が過剰になることに起因する当該車輪の横力の低下を抑制し、これにより挙動制御によって車輌の挙動が却って悪化されることを防止し、挙動制御を効果的に行うことができる。
【0013】
また上記請求項2の構成によれば、車輌が所定の挙動状態にあるときに車輌の挙動を安定化させるための各車輪の目標スリップ率が演算されると共に、所定の車輪とは前後反対の車輪の実スリップ率と目標スリップ率との偏差に基づき過剰減速スリップ量が求められるので、所定の車輪とは前後反対の車輪の過剰減速スリップ量を正確に求めることができ、これによりエンジンの出力トルクを適正に増大させることができる。
また上記請求項3の構成によれば、所定の車輪とは前後反対の左右の車輪の過剰減速スリップ量が演算され、該左右の車輪の過剰減速スリップ量のうち大きい方の値が所定の車輪とは前後反対の車輪の過剰減速スリップ量とされるので、所定の車輪とは前後反対の車輪の過剰減速スリップ量が過小評価されることを確実に防止することができる。
【0014】
また上記請求項4の構成によれば、センターディファレンシャルの拘束力が判定され、センターディファレンシャルの拘束力がその基準値以上の状況にて挙動制御が行われているときには、車輪の前後力が駆動側にならない範囲に於いて予め設定された増大量にてエンジンの出力トルクが増大されるので、エンジンの出力トルクが過剰に増大されることを確実に防止しつつ、所定の車輪に付与される制動力の一部がセンターディファレンシャルを介して前後反対輪に伝達されることに起因して車輌の挙動が悪化される虞れが生じたときに応答性よくエンジンの出力トルクを増大させることができ、これにより上記請求項1の構成の場合に比して早期にエンジンの出力トルクを増大させることができる。
また上記請求項5の構成によれば、センターディファレンシャルの拘束力が高いほど増大量が大きくなるよう、センターディファレンシャルの拘束力に応じて増大量が可変設定されるので、センターディファレンシャルを介して前後反対の車輪に伝達される制動力に応じてエンジンの出力トルクの増大量を制御することができ、従って予め設定された増大量が一定値である場合に比してエンジンの出力トルクを適正に増大させることができる。
【0015】
【課題解決手段の好ましい態様】
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1又は3の構成に於いて、所定の挙動状態はスピン状態であり、所定の車輪は少なくとも旋回外側前輪であり、挙動制御はスピン制御であるよう構成される(好ましい態様1)。
【0016】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1又は3の構成に於いて、所定の挙動状態はドリフトアウト状態であり、所定の車輪は少なくとも旋回内側後輪であり、挙動制御はドリフトアウト制御であるよう構成される(好ましい態様2)。
【0017】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1又は3の構成に於いて、四輪駆動車は前輪に対する後輪の駆動力分配比が車輌の運転状態に応じて自動的に制御されるフルタイム式の四輪駆動車であり、前輪に対する後輪の駆動力分配比がその基準値以上であるときにセンターディファレンシャルの拘束力がその基準値以上であると判定されるよう構成される(好ましい態様3)。
【0018】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1又は3の構成に於いて、四輪駆動車は操作子により二輪駆動と四輪駆動との間に切換えられるパートタイム式の四輪駆動車であり、操作子が四輪駆動に切換えられているときにセンターディファレンシャルの拘束力がその基準値以上であると判定されるよう構成される(好ましい態様4)。
【0020】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1の構成に於いて、制御手段は少なくとも所定の車輪とは前後反対の車輪の前後力が実質的に0になるよう減速スリップ量に応じてエンジンの出力トルクを増大させるよう構成される(好ましい態様5)。
【0021】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項2の構成に於いて、過剰減速スリップ量を求める手段は制動力が付与されない車輪の車輪速度に基づいて推定車体速度を演算し、推定車体速度及び所定の車輪とは前後反対の車輪の車輪速度に基づいて当該車輪の実スリップ率を演算するよう構成される(好ましい態様6)。
【0022】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様6の構成に於いて、過剰減速スリップ量を求める手段は所定の時間毎に旋回内側前輪の車輪速度に基づいて車輌の重心に於ける推定車体速度を演算し、前回の推定車体速度及び車輌の前後加速度に基づき前回の推定車体速度に基づく推定車体速度を演算し、前回の推定車体速度に基づく推定車体速度及び今回の推定車体速度のうち小さい方の値を補正後の車輌の重心に於ける推定車体速度とし、補正後の車輌の重心に於ける推定車体速度に基づき所定の車輪とは前後反対の車輪位置に於ける推定車体速度を演算し、所定の車輪とは前後反対の車輪位置に於ける推定車体速度及び当該車輪の車輪速度に基づいて当該車輪の実スリップ率を演算するよう構成される(好ましい態様7)。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施の形態(以下単に実施形態という)について詳細に説明する。
【0025】
第一の実施形態
図1はフルタイム式の四輪駆動車に適用された本発明による四輪駆動車の挙動制御装置の一つの実施形態を示す概略構成図である。
【0026】
図1に於いて、10は車輌12に搭載された駆動源としてのエンジンを示しており、エンジン10の駆動力はトルクコンバータ14及びトランスミッション16を介して出力軸18へ伝達され、出力軸18の駆動力はセンターディファレンシャル20により前輪用プロペラシャフト22及び後輪用プロペラシャフト24へ伝達される。エンジン10の出力は運転者により操作される図1には示されていないアクセルペダルの踏み込み量等に応じてエンジン制御装置26により制御される。
【0027】
前輪用プロペラシャフト22の駆動力は前輪ディファレンシャル30によりプロペラシャフト22より左前輪車軸32L及び右前輪車軸32Rへ伝達され、これにより左右の前輪34FL及び34FRが回転駆動される。同様に後輪用プロペラシャフト24の駆動力は後輪ディファレンシャル36によりプロペラシャフト24より左後輪車軸38L及び右後輪車軸38Rへ伝達され、これにより左右の後輪40RL及び40RRが回転駆動される。
【0028】
かくしてトルクコンバータ14、トランスミッション16、センターディファレンシャル20、前輪ディファレンシャル30、後輪ディファレンシャル36等は車輌の駆動系を構成している。特に図示の実施形態の駆動系に於いては、左右前輪34FL、34FR及び左右後輪40RL、40RRに対するエンジン10の駆動トルクの配分はセンターディファレンシャル20によって周知の要領にて制御される。
【0029】
左右の前輪34FL、34FR及び左右の後輪40RL、40RRの制動力は制動装置42の油圧回路44により対応するホイールシリンダ46FL、46FR、46RL、46RRの制動圧が制御されることによって制御される。図には示されていないが、油圧回路44はリザーバ、オイルポンプ、種々の弁装置等を含み、各ホイールシリンダの制動圧は通常時には運転者によるブレーキペダル47に対する踏力に応じて駆動されるマスタシリンダ48により制御され、また必要に応じて後に詳細に説明する如く挙動制御用電子制御装置50により個別に制御される。
【0030】
尚図1に示されている如く、左右の前輪34FL及び34FRは操舵輪であり、運転者によるステアリングホイール52の操舵操作に応答して駆動される油圧式のパワーステアリング装置54によりタイロッド56L及び56Rを介して操舵される。
【0031】
電子制御装置50には車速センサ58より車速Vxを示す信号、前後加速度センサ60及び横加速度センサ62よりそれぞれ車輌12の前後加速度Gx及び横加速度Gyを示す信号、ヨーレートセンサ64より車輌のヨーレートγを示す信号、圧力センサ66より運転者による制動操作量としてのマスタシリンダ圧力Pmを示す信号、車輪速度センサ68i(i=fl、fr、rl、rr)より左右前輪及び左右後輪の車輪速度Vwi(i=fl、fr、rl、rr)を示す信号、操舵角センサ70より操舵角θを示す信号が入力される。尚運転者による制動操作量はブレーキペダル47に対する踏力又はブレーキペダル47の踏み込みストロークにより検出されてもよい。
【0032】
一方エンジン制御装置26にはエンジン回転数センサ72よりエンジン回転数Neを示す信号、スロットル開度センサ74よりスロットル開度Ta(運転者による駆動力制御操作量)を示す信号、シフトポジション(SP)センサ76よりトランスミッション16のシフトポジションPsを示す信号が入力され、これらの信号はエンジン制御装置26より電子制御装置50にも入力される。尚運転者による駆動力制御操作量はアクセルペダルの踏み込みストロークにより検出されてもよい。
【0033】
更にエンジン制御装置26、駆動系制御装置28、電子制御装置50は相互に必要な信号の送受信を行い、特に駆動系制御装置28は当技術分野に於いて公知の要領にてトランスミッション16の変速段を制御すると共に、拘束力センサ78により検出されたセンターディファレンシャル20の拘束力Drを示す信号を電子制御装置50へ出力する。
【0034】
尚前後加速度センサ60は車輌の加速方向を正として前後加速度を検出し、横加速度センサ62、ヨーレートセンサ64及び操舵角センサ70はそれぞれ車輌の左旋回方向を正として横加速度等を検出する。またエンジン制御装置26、駆動系制御装置28、電子制御装置50は実際にはそれぞれ例えばCPU、ROM、RAM、入出力装置を含むマイクロコンピュータ及び駆動回路にて構成されていてよい。
【0035】
後に詳細に説明する如く、挙動制御用電子制御装置50は、図4に示されたルーチンに従って、車輌の走行に伴い変化する車輌状態量に基づき車輌のスピンの程度を示すスピン状態量SS及び車輌のドリフトアウトの程度を示すドリフトアウト状態量DSを演算し、スピン状態量SSが基準値よりも大きいときにはスピン状態を低減して車輌を安定化させるための各車輪の目標スリップ率Rsti(i=fr、fl、rr、rl)をスピン状態量SSに基づいて演算し、ドリフトアウト状態量DSが基準値よりも大きいときにはドリフトアウト状態を低減して車輌を安定化させるための各車輪の目標スリップ率Rsti(i=fr、fl、rr、rl)をドリフトアウト状態量SSに基づいて演算し、各車輪のスリップ率が目標スリップ率Rstiになるよう各車輪の制動力を制御し、これにより車輌の挙動を安定化させる。
【0036】
また挙動制御用電子制御装置50は、図3に示されたルーチンに従って、センターディファレンシャル20の拘束力が高い状態であるか否かを判定し、センターディファレンシャル20の拘束力が高い状態にてスピン制御が実行されているときには、所定の車輪(旋回外側前輪)とは前後反対の車輪である左右後輪の過剰減速スリップ量SLl及びSLrを演算し、センターディファレンシャル20の拘束力が高い状態にてドリフトアウト制御が実行されているときには、所定の車輪(左右後輪)とは前後反対の車輪である左右前輪の過剰減速スリップ量SLl及びSLrを演算する。
【0037】
そして過剰減速スリップ量SLl及びSLrのうち大きい方の値を所定の車輪とは前後反対の車輪の過剰減速スリップ量SLとして演算し、過剰減速スリップ量SLが基準値よりも大きいときには過剰減速スリップ量SLが大きいほど係数Kcが大きくなるよう過剰減速スリップ量SLに基づき係数Kcを演算し、所定の車輪とは前後反対側の車輪のスリップ率を0にするためのエンジン10のゼロトルクTeoを演算し、係数KcとゼロトルクTeoとの積としてエンジン10のトルクアップ量Teuを演算し、トルクアップ量Teuを示す信号をエンジン制御装置26へ出力する。尚エンジン制御装置26は電子制御装置50よりトルクアップ量Teuを示す信号を受信したときには、トルクアップ量Teuに基づいてエンジン10の出力トルクを増大させる。
【0038】
次に図3に示されたフローチャートを参照して第一の実施形態に於ける挙動制御のためのエンジンのトルクアップ制御について説明する。尚図3に示されたフローチャートによる制御は図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。
【0039】
まずステップ10に於いては駆動系制御装置28よりの信号に基づきセンターディファレンシャル20の拘束力が高い状態であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ100へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ20へ進む。
【0040】
ステップ20に於いてはスピン制御が実行されているか否かの判別、即ちスピンを抑制すべく旋回外側前輪に制動力が付与されている状況であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ40へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ30に於いて左右後輪の過剰減速スリップ量SLl及びSLrが演算される。
【0041】
この場合左右後輪の過剰減速スリップ量SLl及びSLrは、スピン制御及びドリフトアウト制御の何れの場合にも制動力が付与されない旋回内側前輪の車輪速度に基づいて車輌の重心に於ける推定車体速度Vbが演算され、車輌の重心に於ける推定車体速度Vbに基づき左右後輪の位置に於ける推定車体速度Vbrl、Vbrrが演算されることにより、左右後輪の位置に於ける推定車体速度Vbrl、Vbrr及び左右後輪の車輪速度Vwrl、Vwrrに基づいて演算される。
【0042】
ステップ40に於いてはドリフトアウト制御が実行されているか否かの判別、即ちドリフトアウトを抑制すべく左右後輪に制動力が付与されている状況であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ100へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ50に於いて左右前輪の過剰減速スリップ量SLl及びSLrが演算される。
【0043】
この場合左右前輪の過剰減速スリップ量SLl及びSLrは、スピン制御及びドリフトアウト制御の何れの場合にも制動力が付与されない旋回内側前輪の車輪速度に基づいて車輌の重心に於ける推定車体速度Vbが演算され、前回の推定車体速度VbをVbfとし、αを0.05〜0.1程度の正の定数とし、Δtを図3に示されたフローチャートのサイクルタイムとして、Vbf+(Gx+α)Δtにより前回の推定車体速度Vbfに基づく車輌の重心に於ける推定車体速度Vbaが演算され、今回の推定車体速度Vb及び前回の推定車体速度に基づく推定車体速度Vbaのうち小さい方の値を補正後の車輌の重心に於ける推定車体速度Vbが演算され、補正後の車輌の重心に於ける推定車体速度Vbに基づき左右前輪の位置に於ける推定車体速度Vbfl、Vbfrが演算されることにより、左右前輪の位置に於ける推定車体速度Vbfl、Vbfr及び左右前輪の車輪速度Vwfl、Vwfrに基づいて演算される。
【0044】
ステップ60に於いては左輪の過剰減速スリップ量SLlが右輪の過剰減速スリップ量SLrよりも大きいか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときには所定の車輪とは前後反対側の車輪の過剰減速スリップ量SLが左輪の過剰減速スリップ量SLlに設定され、否定判別が行われたときには所定の車輪とは前後反対側の車輪の過剰減速スリップ量SLが右輪の過剰減速スリップ量SLrに設定される。
【0045】
ステップ90に於いては過剰減速スリップ量SLが基準値SLc(正の定数)よりも大きいか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ100に於いてエンジン10のトルクアップが禁止され、肯定判別が行われたときにはステップ110に於いて過剰減速スリップ量SLに基づき図5に示されたグラフに対応するマップより係数Kcが演算される。
【0046】
ステップ120に於いては路面の摩擦係数をμとし、四輪の接地荷重の総和をWtとし、車輪の半径をRtとし、デフ比をRrとし、駆動系のギア比をGrとして、路面の摩擦係数がμである場合に於ける車輪のスリップ率を0にするためのエンジン10のゼロトルクTeoが下記の式1に従って演算される。尚路面の摩擦係数μ及び四輪の接地荷重の総和Wtは当技術分野に於いて公知の任意の要領にて検出又は推定されてよい。
Teo=(μ・Wt・Rt)/(Rr・Gr) ……(1)
【0047】
ステップ130に於いてはエンジン10のトルクアップ量Teuが係数KcとゼロトルクTeoとの積として演算され、ステップ140に於いてはトルクアップ量Teuを示す信号が挙動制御用電子制御装置50よりエンジン制御装置26へ出力され、これによりエンジン10の出力トルクがゼロトルクTeuに基づいて増大される。
【0048】
次に図4に示されたフローチャートを参照して第一の実施形態に於ける制動力の制御による挙動制御について説明する。尚図4に示されたフローチャートによる制御も図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。
【0049】
まずステップ210に於いては横加速度Gyと車速V及びヨーレートγの積γVとの偏差Gy−γVとして横加速度の偏差、即ち車輌の横すべり加速度Vydが演算され、横すべり加速度Vydが積分されることにより車体の横すべり速度Vyが演算され、更に車体の前後速度Vx(=車速V)に対する車体の横すべり速度Vyの比Vy/Vxとして車体のスリップ角βが演算される。
【0050】
ステップ220に於いてはK1及びK2をそれぞれ正の定数として車体のスリップ角β及び横すべり加速度Vydの線形和K1β+K2Vydとしてスピン量SVが演算されると共に、ヨーレートγの符号に基づき車輌の旋回方向が判定され、スピン状態量SSが車輌の左旋回時にはSVとして、車輌の右旋回時には−SVとして演算され、演算結果が負の値であるときにはスピン状態量は0とされる。尚スピン量SVは車体のスリップ角β及びその微分値βdの線形和として演算されてもよい。
【0051】
ステップ230に於いては操舵角θに基づき前輪の実舵角δが演算され、HをホイールベースとしKhをスタビリティファクタとして下記の式2に従って目標ヨーレートγeが演算されると共に、Tを時定数としsをラプラス演算子として下記の式3に従って車速V及び操舵角θに基づく車輌の基準ヨーレートγtが演算される。尚目標ヨーレートγeは動的なヨーレートを考慮すべく車輌の横加速度Gyを加味して演算されてもよい。
γe=Vδ/{(1+KhV2)H} ……(2)
γt=γe/(1+Ts) ……(3)
【0052】
ステップ240に於いては下記の数4に従って車輌の基準ヨーレートγtと車輌の実ヨーレートγとの偏差としてドリフトバリューDVが演算されると共に、ヨーレートγの符号に基づき車輌の旋回方向が判定され、ドリフトアウト状態量DSが車輌の左旋回時にはDVとして、車輌の右旋回時には−DVとして演算され、演算結果が負の値であるときにはドリフトアウト状態量は0とされる。尚ドリフトバリューDVは下記の数5に従って演算されてもよい。
DV=(γt−γ) ……(4)
DV=H(γt−γ)/V ……(5)
【0053】
ステップ250に於いてはスピン状態量SSがその基準値SSo(正の定数)よりも大きいか否かの判別、即ちスピン制御が必要であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ270へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ260に於いてスピン状態量SSに基づき図6に示されたグラフに対応するマップより旋回外側前輪の目標制動力Fbtfoが演算されると共に、旋回内側前輪、旋回外側後輪、旋回内側後輪の目標制動力Fbtfi、Fbtro、Fbtriがそれぞれ目標制動力Fbtfoに基づき車輌モデルを使用して演算される最適値又は0に設定される。
【0054】
ステップ270に於いてはドリフトアウト状態量DSがその基準値DSo(正の定数)よりも大きいか否かの判別、即ちドリフトアウト制御が必要であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはそのまま図4に示されたルーチンによる制御を一旦終了し、肯定判別が行われたときにはステップ280に於いてドリフトアウト状態量DSに基づき図7に示されたグラフに対応するマップより旋回内側後輪の目標制動力Fbtri及び旋回外側後輪の目標制動力Fbtroが演算されると共に、旋回内側前輪及び旋回外側前輪の目標制動力Fbtfi、Fbtrfoがそれぞれ目標制動力Fbtri及びFbtroに基づき車輌モデルを使用して演算される最適値又は0に設定される。
【0055】
ステップ290に於いては例えば車輌のヨーレートγに基づき車輌の旋回方向が判定されることにより旋回内外輪が特定されると共に、車輌が左旋回状態にあるときには各車輪の目標制動力Fbti(i=fl、fr、rl、rr)が下記の数8に従って演算され、車輌が右旋回状態にあるときには各車輪の目標制動力Fbtiが下記の数9に従って演算される。
Fbtfl=Fbtfi
Fbtfr=Fbtfo
Fbtrl=Fbtri
Fbtrr=Fbtro ……(8)
Fbtfl=Fbtfo
Fbtfr=Fbtfi
Fbtrl=Fbtro
Fbtrr=Fbtri ……(9)
【0056】
ステップ300に於いては各車輪の目標制動力Fbtiに基づき各車輪の目標スリップ率Rsti(i=fl、fr、rl、rr)が演算され、ステップ310に於いては各車輪のスリップ率がそれぞれ対応する目標スリップ率Rstiになるよう各車輪の制動圧が制御される。
【0057】
かくして図示の第一の実施形態によれば、ステップ210及び220に於いて車輌のスピンの程度を示すスピン状態量SSが演算され、ステップ230及び240に於いて車輌のドリフトアウトの程度を示すドリフトアウト状態量DSが演算され、ステップ250に於いてスピン状態量SSがその基準値SSoよりも大きくスピン制御が必要であるか否かの判別が行われ、スピン状態量SSがその基準値SSoよりも大きいときにはステップ260に於いてスピン状態量SSに基づきスピン状態を低減するための旋回外側前輪の目標制動力Fbtfoが演算されると共に、旋回内側前輪、旋回外側後輪、旋回内側後輪の目標制動力Fbtfi、Fbtro、Fbtriがそれぞれ目標制動力Fbtfoに応じた最適値又は0に設定される。
【0058】
またステップ250に於いてスピン状態量SSがその基準値SSo以下であると判別されたときには、ステップ270に於いてドリフトアウト状態量DSがその基準値DSoよりも大きくドリフトアウト制御が必要であるか否かの判別が行われ、ドリフトアウト状態量DSがその基準値DSoよりも大きいときにはステップ280に於いてドリフトアウト状態量DSに基づきドリフトアウト状態を低減するための旋回内側後輪の目標制動力Fbtri及び旋回外側後輪の目標制動力Fbtroが演算されると共に、旋回内側前輪及び旋回外側前輪の目標制動力Fbtfi、Fbtrfoがそれぞれ目標制動力Fbtri及びFbtroに応じた最適値又は0に設定される。
【0059】
そしてステップ290に於いて車輌の旋回方向が判定されると共に、車輌の旋回方向に応じて各車輪の目標制動力Fbti演算され、ステップ300に於いて各車輪の目標制動力Fbtiに基づき各車輪の目標スリップ率Rstiが演算され、ステップ310に於いて各車輪のスリップ率がそれぞれ対応する目標スリップ率Rstiになるよう各車輪の制動圧が制御されることにより、所定の車輪に所要の制動力が付与され、車輌の挙動が安定化される。
【0060】
また図示の第一の実施形態によれば、ステップ10に於いてセンターディファレンシャル20の拘束力が高い状態であるか否かの判別が行われ、センターディファレンシャル20の拘束力が高い状態であるときにはステップ20に於いてスピン制御が実行されているか否かの判別が行われ、スピン制御が実行されているときにはステップ30に於いて左右後輪の過剰減速スリップ量SLl及びSLrが演算される。
【0061】
またステップ10に於いてセンターディファレンシャル20の拘束力が高い状態であると判別されても、ステップ20に於いてスピン制御が実行されていない旨の判別が行われた場合には、ステップ40に於いてドリフトアウト制御が実行されているか否かの判別が行われ、ドリフトアウト制御が実行されているときにはステップ50に於いて左右前輪の過剰減速スリップ量SLl及びSLrが演算される。
【0062】
そしてステップ60〜80に於いて左右の車輪の過剰減速スリップ量SLl及びSLrのうち大きい方の値が所定の車輪とは前後反対の車輪の過剰減速スリップ量SLとして演算され、ステップ90に於いて過剰減速スリップ量SLが基準値よりも大きいと判定されたときには、ステップ110に於いて過剰減速スリップ量SLが大きいほど係数Kcが大きくなるよう過剰減速スリップ量SLに基づき係数Kcが演算され、ステップ120に於いて現状の路面の摩擦係数に於ける車輪のスリップ率を0にするためのエンジン10のゼロトルクTeoが演算され、ステップ130に於いて係数KcとゼロトルクTeoとの積としてエンジン10のトルクアップ量Teuが演算され、ステップ140に於いてトルクアップ量Teuを示す信号がエンジン制御装置26へ出力され、これによりトルクアップ量Teuに基づいてエンジン10の出力トルクが増大される。
【0063】
従って図示の第一の実施形態によれば、センターディファレンシャル20の拘束力が高い状態である状況にてスピン制御又はドリフトアウト制御が実行されているときには、所定の車輪とは前後反対の車輪の過剰減速スリップ量SLが演算され、過剰減速スリップ量SLが基準値よりも大きいときには、過剰減速スリップ量SLに基づきエンジン10のトルクアップ量Teuが演算され、トルクアップ量Teuに基づいてエンジン10の出力トルクが増大されるので、センターディファレンシャル20を介して所定の車輪とは前後反対の車輪に伝達される制動力の少なくとも一部をエンジン10の出力の増大によって相殺することができ、所定の車輪とは前後反対の車輪の減速スリップ量が過剰になることに起因する当該車輪の横力の低下を抑制し、これにより挙動制御によって車輌の挙動が却って悪化されることを防止し、挙動制御を効果的に行うことができる。
【0064】
また図示の第一の実施形態によれば、過剰減速スリップ量SLが大きいほど係数Kcが大きくなるよう過剰減速スリップ量SLに基づき係数Kcが演算され、少なくとも所定の車輪とは前後反対側の車輪のスリップ率を0にするためのエンジン10のゼロトルクTeoが演算され、係数KcとゼロトルクTeoとの積としてエンジン10のトルクアップ量Teuが演算されるので、過剰減速スリップ量SLが演算されず、所定の車輪とは前後反対側の車輪のスリップの程度に関係なくエンジン10のトルクアップ量Teuが一定量にて増大される場合に比して、車輌の挙動状態及びセンターディファレンシャル20の拘束力に応じてエンジン10のトルクアップを適正に制御することができる。
【0065】
特に図示の第一の実施形態によれば、スピン状態又はドリフトアウト状態にあるときには、スピン状態又はドリフトアウト状態を低減して車輌の挙動を安定化させるための各車輪の目標スリップ率Rstiが演算され、所定の車輪とは前後反対の車輪の過剰減速スリップ量SLは当該車輪の実スリップ率と目標スリップ率Rstiとの偏差に基づいて演算されるので、所定の車輪とは前後反対の車輪の過剰減速スリップ量SLを正確に求めることができ、これによりエンジンの出力トルクを適正に増大させることができる。
【0066】
また図示の第一の実施形態によれば、所定の車輪とは前後反対の左右の車輪の過剰減速スリップ量が演算され、該左右の車輪の過剰減速スリップ量のうち大きい方の値が所定の車輪とは前後反対の車輪の過剰減速スリップ量とされるので、所定の車輪とは前後反対の車輪の過剰減速スリップ量が過小評価されることを確実に防止することができる。
【0067】
また図示の第一の実施形態によれば、所定の時間毎に旋回内側前輪の車輪速度に基づいて車輌の重心に於ける推定車体速度Vbが演算され、前回の推定車体速度Vbf及び車輌の前後加速度Gxに基づき前回の推定車体速度に基づく推定車体速度Vbaが演算され、前回の推定車体速度に基づく推定車体速度Vba及び今回の推定車体速度Vbのうち小さい方の値が補正後の車輌の重心に於ける推定車体速度Vbとされ、補正後の車輌の重心に於ける推定車体速度Vbに基づき所定の車輪とは前後反対の車輪位置に於ける推定車体速度が演算され、所定の車輪とは前後反対の車輪位置に於ける推定車体速度及び当該車輪の車輪速度に基づいて当該車輪の実スリップ率が演算されるので、例えば車速Vを基準に実スリップ率が演算される場合に比して、路面の摩擦係数が低い状況にて車輌の挙動が悪化し且つセンターディファレンシャル20の拘束力が高い状況に於いて、推定車体速度が高くなり所定の車輪とは前後反対の車輪の過剰減速スリップ量が過剰に高い値に演算されることを確実に防止することができ、これによりエンジンの出力トルクを過剰に増大させることを確実に防止することができる。
【0068】
第二の実施形態
図8は本発明による四輪駆動車の挙動制御装置の第二の実施形態に於ける挙動制御のためのエンジンのトルクアップ制御ルーチンを示すフローチャートである。尚図8に於いて、図2に示されたステップと同一のステップには図2に於いて付されたステップ番号と同一のステップ番号が付されている。
【0069】
この第二の実施形態に於いては、ステップ10に於いてセンターディファレンシャル20の拘束力が高い状態であると判別されると、ステップ95に於いて各種センサや制動装置42等が正常でありスピン制御及びドリフトアウト制御の実行が許可される状況であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ100へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ140に於いては予め設定されたトルクアップ量Teuoを示す信号が挙動制御用電子制御装置50よりエンジン制御装置26へ出力され、これによりエンジン10の出力トルクがトルクアップ量Teuoに基づいて増大される。尚トルクアップ量Teuoは例えば実験等により車輪の前後力が駆動側にならない範囲に於いて予め一定の値に設定される。
【0070】
かくして図示の第二の実施形態によれば、センターディファレンシャル20の拘束力が高い状態であると判別され且つスピン制御及びドリフトアウト制御の実行が許可される状況であるときには、所定の車輪とは前後反対の車輪の減速スリップ量が過剰であるか否かに拘らず、エンジン10の出力トルクが予め設定されたトルクアップ量Teuoに基づいて増大されるので、エンジン10の出力トルクが過剰に増大されることを確実に防止しつつ、所定の車輪に付与される制動力の一部がセンターディファレンシャル20を介して前後反対輪に伝達されることに起因して車輌の挙動が悪化される虞れが生じたときに応答性よくエンジン10の出力トルクを増大させることができ、これにより上述の第一の実施形態の構成の場合に比して早期にエンジンの出力トルクを増大させることができる。
【0071】
特に図示の第二の実施形態によれば、センターディファレンシャル20の拘束力が高い状態であると判別されても、スピン制御及びドリフトアウト制御の実行が許可されない状況であるときには、エンジン10の出力トルクは増大されないので、スピン制御及びドリフトアウト制御が行われず、従って所定の車輪に付与される制動力の一部がセンターディファレンシャル20を介して前後反対輪に伝達されることがない状況に於いて、エンジン10の出力トルクが不必要に増大されることを確実に防止することができる。
【0072】
尚図示の第二の実施形態に於いては、トルクアップ量Teuoは予め一定値に設定されるようになっているが、センターディファレンシャル20の拘束力が高いほど大きくなるよう、センターディファレンシャル20の拘束力に応じて可変設定されるよう修正されてもよく、その場合にはセンターディファレンシャル20を介して前後反対の車輪に伝達される制動力に応じてエンジン10の出力トルクの増大量を制御することができ、従って予め設定された増大量が一定値である場合に比してエンジン10の出力トルクを適正に増大させることができる。
【0073】
以上に於いては本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0074】
例えば上述の第一の実施形態に於いては、挙動制御としてスピン制御及びドリフトアウト制御の両者が実行可能であるが、挙動制御はスピン制御及びドリフトアウト制御の一方のみであってもよい。
【0075】
また上述の第一の実施形態に於いては、所定の車輪とは前後反対の左右の車輪の過剰減速スリップ量SLl及びSLrが演算され、該左右の車輪の過剰減速スリップ量SLl及びSLrのうち大きい方の値が所定の車輪とは前後反対の車輪の過剰減速スリップ量SLとされるようになっているが、左右の車輪の過剰減速スリップ量SLl及びSLrの平均値が所定の車輪とは前後反対の車輪の過剰減速スリップ量SLとされるよう修正されてもよい。
【0076】
また上述の各実施形態に於いては、四輪駆動車はフルタイム式の四輪駆動車であるが、四輪駆動車は操作子により二輪駆動と四輪駆動との間に切換えられるパートタイム式の四輪駆動車であってもよく、四輪駆動車はパートタイム式の四輪駆動車である場合には、操作子が四輪駆動に切換えられているときにセンターディファレンシャルの拘束力がその基準値以上であると判定されてよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】フルタイム式の四輪駆動車に適用された本発明による四輪駆動車の挙動制御装置の第一の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】第一の実施形態の制御系を示すブロック線図である。
【図3】第一の実施形態に於ける挙動制御のためのエンジンのトルクアップ制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】第一の実施形態に於ける制動力の制御による挙動制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図5】過剰スリップ量SLと係数Kcとの間の関係を示すグラフである。
【図6】スピン状態量SSと旋回外側前輪の目標制動力Fssfoとの間の関係を示すグラフである。
【図7】ドリフトアウト状態量DSと左右後輪の目標制動力Fdri、Fdroとの間の関係を示すグラフである。
【図8】フルタイム式の四輪駆動車に適用された本発明による四輪駆動車の挙動制御装置の第二の実施形態に於ける挙動制御のためのエンジンのトルクアップ制御ルーチンを示すフローチャートである。
【符号の説明】
10…エンジン
12…車輌
16…トランスミッション
20…センターディファレンシャル
26…エンジン制御装置
42…制動装置
44…油圧回路
50…挙動制御用電子制御装置
58…車速センサ
60…前後加速度センサ
62…横加速度センサ
64…ヨーレートセンサ
66…圧力センサ
68i…車輪速度センサ
70…操舵角センサ
78…拘束力センサ
Claims (5)
- エンジンより前後輪への駆動力配分を制御するセンターディファレンシャルを備えた四輪駆動車に於いて、車輌が所定の挙動状態にあるときには所定の車輪に制動力を付与することにより車輌の挙動を安定化させる挙動制御を行う四輪駆動車の挙動制御装置にして、前記センターディファレンシャルの拘束力を判定する手段と、前記所定の車輪とは前後反対の車輪の過剰減速スリップ量を求める手段と、前記センターディファレンシャルの拘束力がその基準値以上の状況にて前記挙動制御が行われており且つ前記過剰減速スリップ量がその基準値以上であるときには、前記過剰減速スリップ量が減少するよう前記過剰減速スリップ量に応じて前記エンジンの出力トルクを増大させる制御手段とを有することを特徴とする四輪駆動車の挙動制御装置。
- 前記過剰減速スリップ量を求める手段は車輌が所定の挙動状態にあるときに車輌の挙動を安定化させるための各車輪の目標スリップ率を演算すると共に、前記所定の車輪とは前後反対の車輪の実スリップ率と目標スリップ率との偏差に基づき前記過剰減速スリップ量を求めることを特徴とする請求項1に記載の四輪駆動車の挙動制御装置。
- 前記過剰減速スリップ量を求める手段は前記所定の車輪とは前後反対の左右の車輪の過剰減速スリップ量を演算し、該左右の車輪の過剰減速スリップ量のうち大きい方の値を前記所定の車輪とは前後反対の車輪の過剰減速スリップ量とすることを特徴とする請求項2に記載の四輪駆動車の挙動制御装置。
- エンジンより前後輪への駆動力配分を制御するセンターディファレンシャルを備えた四輪駆動車に於いて、車輌が所定の挙動状態にあるときには所定の車輪に制動力を付与することにより車輌の挙動を安定化させる挙動制御を行う四輪駆動車の挙動制御装置にして、前記センターディファレンシャルの拘束力を判定する手段と、前記センターディファレンシャルの拘束力がその基準値以上の状況にて前記挙動制御が行われているときには、車輪の前後力が駆動側にならない範囲に於いて予め設定された増大量にて前記エンジンの出力トルクを増大させる制御手段とを有することを特徴とする四輪駆動車の挙動制御装置。
- 前記制御手段は前記センターディファレンシャルの拘束力が高いほど前記増大量が大きくなるよう、前記センターディファレンシャルの拘束力に応じて前記増大量を可変設定することを特徴とする請求項4に記載の四輪駆動車の挙動制御装置。
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