本発明は、車輌のエンジン出力制御装置に係り、更に詳細には車輌の旋回時の安定性が悪化しないようエンジン出力を制御するエンジン出力制御装置に係る。
自動車等の車輌のエンジン出力制御装置の一つとして、例えば下記の特許文献1に記載されている如く、車輌の旋回時にエンジンブレーキによる車輌の減速度が過大であるときには、エンジン出力を増大させて車輌の減速度を低減し、旋回時の車輌の走行安定性を向上させるよう構成されたエンジン出力制御装置が従来より知られている。
かかるエンジン出力制御装置によれば、車輌の旋回時に運転者によりアクセル操作量が低減され、エンジンブレーキが過大になって駆動輪の減速方向の前後力が過大になるような場合にも、駆動輪の横力が低下することに起因して車輌の旋回時の車輌の走行安定性が低下することを効果的に防止することができる。
特許2942566号公報
一般に、自動車等の車輌に於いては、エンジンの出力は運転者のアクセル操作量に基づいて制御されるが、例えば車輌の高速道路走行時に車速を一定に制御するクルーズコントロールや駆動輪の駆動スリップが過大になることを防止するトラクション制御が行われる車輌に於いては、これらの制御によりエンジンの出力が運転者のアクセル操作量に関係なく制御される。
特に車輌の旋回時にクルーズコントロールやトラクション制御により例えばスロットル開度が全閉になるようエンジンの出力が制御されると、エンジンブレーキが過大になって駆動輪の横力が低下し、車輌の走行状態が不安定になり易いが、上述の如き従来の駆動力制御装置に於いては、かかる状況に於けるエンジン出力の制御について対策が講じられていない。
即ち、クルーズコントロールやトラクション制御によりエンジン出力の低減が要求されると共に、車輌の旋回時の走行安定性を確保する駆動力制御によりエンジン出力の増大が要求される場合に、前者の要求が優先されると車輌の旋回時の走行安定性が低下することが避けられず、逆に後者の要求が優先されると車速を一定に制御できなくなったり駆動スリップが過大になったりすることが避けられず、上述の如き従来のエンジン出力制御装置によってはかかる状況に対処することができない。
本発明は、車輌の旋回時にエンジンブレーキによる車輌の減速度が過大であるときには、エンジン出力を増大させて車輌の減速度を低減し、旋回時の車輌の走行安定性を向上させるよう構成された従来のエンジン出力制御装置に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、クルーズコントロールやトラクション制御によりエンジン出力の低減が要求される状況に於いて旋回時の車輌の走行安定性確保のための駆動力制御によりエンジン出力の増大が要求される場合にはエンジン出力の低減量を制限することにより、クルーズコントロールやトラクション制御の効果をできるだけ確保しつつ車輌の旋回時に於ける走行安定性の低下を効果的に防止することである。
上述の主要な課題は、本発明によれば、少なくとも運転者のアクセル操作量に基づいてエンジン出力の第一の制御目標値を演算する第一の演算手段と、車輌の旋回時にエンジンブレーキが過大になることを防止するためのエンジン出力の第二の制御目標値を演算する第二の演算手段と、作動されると運転者のアクセル操作量に関係なく車速が所定値になるようエンジン出力の第三の制御目標値を演算する第三の演算手段と、前記第一乃至第三の制御目標値に基づいてエンジン出力を制御する制御手段とを有し、前記制御手段は前記第三の制御目標値が前記第二の制御目標値よりも小さいときには前記第三の制御目標値よりも大きく前記第二の制御目標値以下の制御目標値に基づいてエンジン出力を制御することを特徴とする車輌のエンジン出力制御装置(請求項1の構成)、又は少なくとも運転者のアクセル操作量に基づいてエンジン出力の第一の制御目標値を演算する第一の演算手段と、車輌の旋回時にエンジンブレーキが過大になることを防止するためのエンジン出力の第二の制御目標値を演算する第二の演算手段と、駆動輪の駆動スリップが過大にならないようエンジン出力の第四の制御目標値を演算する第四の演算手段と、前記第一又は第二又は第四の制御目標値に基づいてエンジン出力を制御する制御手段とを有し、前記制御手段は前記第四の制御目標値が前記第二の制御目標値よりも小さいときには前記第四の制御目標値よりも大きく前記第二の制御目標値以下の制御目標値に基づいてエンジン出力を制御することを特徴とする車輌のエンジン出力制御装置(請求項3の構成)によって達成される。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記制御手段は前記第三の制御目標値が前記第二の制御目標値よりも小さいときには前記第二の制御目標値に基づいてエンジン出力を制御するよう構成される(請求項2の構成)。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項3の構成に於いて、前記制御手段は前記第四の制御目標値が前記第二の制御目標値よりも小さいときには前記第二の制御目標値に基づいてエンジン出力を制御するよう構成される(請求項4の構成)。
上記請求項1の構成によれば、車輌の旋回時にエンジンブレーキが過大になることを防止するためのエンジン出力の第二の制御目標値が演算され、運転者のアクセル操作量に関係なく車速が所定値になるようエンジン出力の第三の制御目標値が演算され、第三の制御目標値が第二の制御目標値よりも小さいときには第三の制御目標値よりも大きく第二の制御目標値以下の制御目標値に基づいてエンジン出力が制御されるので、第三の制御目標値が演算されたときには第二及び第三の制御目標値の大小関係に関係なく第三の制御目標値に基づいてエンジン出力が制御される場合に比して、駆動輪の横力が低下することに起因して車輌の旋回時の走行安定性が低下する虞れを確実に低減することができ、また第二及び第三の制御目標値の大小関係に関係なく第二の制御目標値に基づいてエンジン出力が制御される場合に比して、車速が所定値より大きくずれる虞れを効果的に低減することができる。
また上記請求項2の構成によれば、第三の制御目標値が第二の制御目標値よりも小さいときには第二の制御目標値に基づいてエンジン出力が制御されるので、駆動輪の横力が低下することに起因して車輌の旋回時の走行安定性が低下することを確実に防止することができる。
また上記請求項3の構成によれば、車輌の旋回時にエンジンブレーキが過大になることを防止するためのエンジン出力の第二の制御目標値が演算され、駆動輪の駆動スリップが過大にならないようエンジン出力の第四の制御目標値が演算され、第四の制御目標値が第二の制御目標値よりも小さいときには第四の制御目標値よりも大きく第二の制御目標値以下の制御目標値に基づいてエンジン出力が制御されるので、第四の制御目標値が演算されたときには第二及び第四の制御目標値の大小関係に関係なく第四の制御目標値に基づいてエンジン出力が制御される場合に比して、駆動輪の横力が低下することに起因して車輌の旋回時の走行安定性が低下する虞れを確実に低減することができ、また第二及び第四の制御目標値の大小関係に関係なく第二の制御目標値に基づいてエンジン出力が制御される場合に比して、駆動輪の駆動スリップが過大になる虞れを効果的に低減することができる。
また上記請求項4の構成によれば、第四の制御目標値が第二の制御目標値よりも小さいときには第二の制御目標値に基づいてエンジン出力が制御されるので、上記請求項2の構成の場合と同様、駆動輪の横力が低下することに起因して車輌の旋回時の走行安定性が低下することを確実に防止することができる。
[課題解決手段の好ましい態様]
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1又は2の構成に於いて、制御手段は第二及び第三の制御目標値が演算されていないときには第一の制御目標値に基づいてエンジン出力を制御し、第二の制御目標値が演算されており第三の制御目標値が演算されていないときには第二の制御目標値に基づいてエンジン出力を制御し、第二の制御目標値が演算されておらず第三の制御目標値が演算されているときには第三の制御目標値に基づいてエンジン出力を制御し、第二及び第三の制御目標値が演算されているが第三の制御目標値が第二の制御目標値以上であるときには第三の制御目標値に基づいてエンジン出力を制御するよう構成される(好ましい態様1)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項3又は4の構成に於いて、制御手段は第二及び第四の制御目標値が演算されていないときには第一の制御目標値に基づいてエンジン出力を制御し、第二の制御目標値が演算されており第四の制御目標値が演算されていないときには第二の制御目標値に基づいてエンジン出力を制御し、第二の制御目標値が演算されておらず第四の制御目標値が演算されているときには第四の制御目標値に基づいてエンジン出力を制御し、第二及び第四の制御目標値が演算されているが第四の制御目標値が第二の制御目標値以上であるときには第四の制御目標値に基づいてエンジン出力を制御するよう構成される(好ましい態様2)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項3の構成に於いて、第四の演算手段は所定の制御終了条件が成立すると、所定の時間に亘り終了制御の制御目標値として第四の制御目標値を0に演算し、制御手段は第四の演算手段により第四の制御目標値が0に演算されているときには第二の制御目標値以下の制御目標値に基づいてエンジン出力を制御するよう構成される(好ましい態様3)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項4の構成に於いて、第四の演算手段は所定の制御終了条件が成立すると、所定の時間に亘り終了制御の制御目標値として第四の制御目標値を0に演算し、制御手段は第四の演算手段により第四の制御目標値が0に演算されているときには第二の制御目標値に基づいてエンジン出力を制御するよう構成される(好ましい態様4)。
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至4の構成に於いて、第二の演算手段は車輌の駆動力がその車輌の定速走行時の駆動力よりも小さい基準値以下であり且つ車輌の旋回度合がその基準値以上であるときに、車輌の旋回時にエンジンブレーキが過大になることを防止するためのエンジン出力の第二の制御目標値を演算するよう構成される(好ましい態様5)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様5の構成に於いて、車輌の旋回度合は駆動輪が路面に対し発生可能な力の大きさに対する駆動輪の横力の大きさの比を示す値であるよう構成される(好ましい態様6)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様5の構成に於いて、車輌の旋回度合は少なくとも車輌の横加速度に基づいて演算されるよう構成される(好ましい態様7)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様7の構成に於いて、車車輌の旋回度合は車輌の横加速度の大きさを路面の摩擦係数にて除算した値として演算されるよう構成される(好ましい態様8)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様5の構成に於いて、車輌が旋回状態は少なくとも車輌の横加速度の大きさに基づいて判定されるよう構成される(好ましい態様9)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様5の構成に於いて、車輌の旋回度合に基づき駆動輪の目標駆動力を演算し、駆動輪の目標駆動力に基づき第二の制御目標値を演算するよう構成される(好ましい態様10)。
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施例について詳細に説明する。
図1はクルーズコントロール装置が搭載された後輪駆動車に適用された本発明による車輌のエンジン出力制御装置の実施例1を示す概略構成図(A)及び制御系のブロック線図(B)である。
図1に於いて、10はエンジンを示しており、エンジン10の駆動力はトルクコンバータ12及びトランスミッション14を含む自動変速機16を介してプロペラシャフト18へ伝達される。プロペラシャフト18の駆動力はディファレンシャル20により左後輪車軸22L及び右後輪車軸22Rへ伝達され、これにより駆動輪である左右の後輪24RL及び24RRが回転駆動される。
一方左右の前輪24FL及び24FRは従動輪であると共に操舵輪であり、図1には示されていないが運転者によるステアリングホイールの転舵に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン式のパワーステアリング装置によりタイロッドを介して周知の要領にて操舵される。
エンジン10への吸入空気量は吸気通路26に設けられたスロットルバルブ28により制御され、スロットルバルブ28は電動機を含むスロットルアクチュエータ30により駆動される。スロットルバルブ28の開度はアクセルポジションセンサ32により検出されるアクセルペダル33の踏み込み量に応じてエンジン制御装置34によりスロットルアクチュエータ30を介して制御される。またエンジン10の吸気通路26の各気筒の給気ポートにはガソリンの如き燃料を噴射するインジェクタ36が設けられており、インジェクタ36による燃料噴射量もエンジン制御装置34により制御される。
エンジン制御装置34にはアクセルポジションセンサ32よりアクセルペダル33の踏み込み量(アクセル開度Ap)を示す信号、スロットルポジションセンサ38よりスロットルバルブ28の開度φを示す信号が入力され、また図には示されていない他のセンサよりエンジン回転数Ne、その他のエンジン制御情報を示す信号が入力される。
エンジン制御装置34は通常時にはアクセル開度Ap等に基づき演算される目標エンジントルクTetnを目標エンジントルクTetとし、目標エンジントルクTet及びエンジン回転数Neに基づきスロットルバルブ28の目標開度φstを演算し、スロットルバルブ28の開度を目標開度φstになるよう制御する。特に図示の実施例1に於いては、アクセル開度Apが燃料カット開始基準値以下になると、エンジン制御装置34はアクセル開度Apが燃料カット終了基準値以上になるまで少なくとも一部の気筒についてインジェクタ36による燃料噴射を中止する燃料カットを行う。
またエンジン制御装置34には後述の如く制駆動力制御装置40より必要に応じてエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbを示す信号が入力され、またクルーズコントロールが実行されているときにはクルーズ制御装置60より目標エンジントルクTetcを示す信号が入力される。クルーズ制御装置60はスイッチ62がオンに切り替えられることにより作動され、車速Vが速度設定ダイヤル64により設定された目標速度Vtになるよう車速V、目標速度Vt等に基づき当技術分野に於いて公知の要領にてクルーズコントロールの目標エンジントルクTetcを演算する。
制駆動力制御装置40は、後述の如く図3に示されたフローチャートに従って、旋回走行時の車輌の走行安定性を確保するための目標エンジンブレーキ力Fetwを演算し、目標エンジンブレーキ力Fetwが実エンジンブレーキ力Feawよりも小さいときには目標エンジンブレーキ力Fetwに基づきエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbを演算し、目標エンジントルクTetbを示す信号をエンジン制御装置34へ出力する。
エンジン制御装置34は、後述の如く図2に示されたフローチャートに従って、制駆動力制御装置40よりエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbを示す信号が入力されているときには目標エンジントルクTetbを目標エンジントルクTetとし、クルーズ制御装置60よりクルーズコントロールの目標エンジントルクTetcを示す信号が入力されているが制駆動力制御装置40よりエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbを示す信号が入力されていないときには、クルーズコントロールの目標エンジントルクTetcを目標エンジントルクTetとし、クルーズ制御装置60よりクルーズコントロールの目標エンジントルクTetcを示す信号が入力され制駆動力制御装置40よりエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbを示す信号が入力されているときには、目標エンジントルクTetc及び目標エンジントルクTetbの小さい方の値を目標エンジントルクTetとし、目標エンジントルクTet及びエンジン回転数Neに基づきスロットルバルブ28の目標開度φstを演算する。
またエンジン制御装置34は、制駆動力制御装置40よりエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbを示す信号が入力されているときには、アクセル開度Apが燃料カット開始基準値以下であっても燃料カットを行わない。
左右の前輪24FL、24FR及び左右の後輪24RL、24RRの制動力は制動装置42の油圧回路44により対応するホイールシリンダ46FL、46FR、46RL、46RRの制動圧が制御されることによって制御される。図には示されていないが、油圧回路44はリザーバ、オイルポンプ、種々の弁装置等を含み、各ホイールシリンダの制動圧は通常時には運転者によるブレーキペダル48の踏み込み操作に応じて駆動されるマスタシリンダ50により制御され、車輌の挙動悪化時等に於いては制動力制御装置40によって油圧回路44が制御されることにより制御される。
図1(B)に示されている如く、制駆動力制御装置40には、横加速度センサ52より車輌の横加速度Gyを示す信号、摩擦係数センサ54より路面の摩擦係数μを示す信号、車速センサ56より車速Vを示す信号、ヨーレートセンサ58より車輌のヨーレートγを示す信号が入力される。また制駆動力制御装置40には、エンジン制御装置34よりアクセル開度Apを示す信号が入力される。
尚エンジン制御装置34、制駆動力制御装置40、クルーズ制御装置60は、実際にはそれぞれCPU、ROM、RAM、入出力ポート装置等を含み、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続された周知の構成のマイクロコンピュータと駆動回路と含むものであってよい。また横加速度センサ52及びヨーレートセンサ58はそれぞれ車輌の左旋回時を正として車輌の横加速度Gy及び車輌のヨーレートγを検出する。
制駆動力制御装置40は、フローチャートとして図には示されていないが、車輌の走行に伴い変化する車輌状態量に基づき車輌のスピンの程度を示すスピン状態量SS及び車輌のドリフトアウトの程度を示すドリフトアウト状態量DSを演算し、スピン状態量SS及びドリフトアウト状態量DSに基づき車輌の挙動を安定化させる挙動制御の各車輪の目標スリップ率Rsti(i=fr、fl、rr、rl)を演算し、各車輪のスリップ率が目標スリップ率Rstiになるよう各車輪の制動力を制御し、これによりスピン又はドリフトアウトを抑制する挙動制御を行う。
また制駆動力制御装置40は、各車輪の車輪速度Vwiに基づき当技術分野に於いて公知の要領にて車体速度Vb及び各車輪の制動スリップ量SBi(i=fl、fr、rl、rr)を演算し、何れかの車輪の制動スリップ量SBiがアンチスキッド制御(ABS制御)開始の基準値SBsよりも大きくなり、アンチスキッド制御の開始条件が成立すると、アンチスキッド制御の終了条件が成立するまで、当該車輪について制動スリップ量が所定の範囲内になるようホイールシリンダ内の圧力を増減するアンチスキッド制御を行う。
次に図2に示されたフローチャートを参照して実施例1に於けるエンジン出力制御ルーチンについて説明する。尚図2に示されたフローチャートによる制御は図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、イグニッションスイッチが開成されるまで所定の時間毎に繰返し実行される。このことは後述の実施例2に於いても同様である。
まずステップ10に於いてはアクセルポジションセンサ32により検出されたアクセル開度Apを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ20に於いてはクルーズ制御装置60のスイッチ62がオン状態にあるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ70へ進み、否定判別が行われたときにはステップ30へ進む。
ステップ30に於いてはアクセル開度Ap等に基づき通常制御の目標エンジントルクTetnが演算され、ステップ40に於いてはエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbが制駆動力制御装置40より入力されているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ50に於いて目標エンジントルクTetがエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbに設定され、否定判別が行われたときにはステップ60に於いて目標エンジントルクTetが通常制御の目標エンジントルクTetnに設定される。
ステップ70に於いては車速Vを設定された目標速度Vtにするためのクルーズコントロールの目標エンジントルクTetcが車速V、目標速度Vt等に基づいて演算され、ステップ80に於いてはエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbが制駆動力制御装置40より入力されているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ110へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ90へ進む。
ステップ90に於いてはクルーズコントロールの目標エンジントルクTetcがエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbよりも小さいか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ100に於いて目標エンジントルクTetがエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbに設定され、否定判別が行われたときにはステップ110に於いて目標エンジントルクTetがクルーズコントロールの目標エンジントルクTetcに設定される。
尚、クルーズコントロールの実行中に制駆動力制御装置40よりエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbが入力される場合には、一般に、クルーズコントロールの目標エンジントルクTetcがエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbよりも小さいので、ステップ90の判別は省略されてもよい。
ステップ120に於いては目標エンジントルクTet及びエンジン回転数Neに基づき目標スロットル開度φtが演算され、ステップ130に於いてはスロットル開度φが目標スロットル開度φtになるよう制御されることによってエンジン10の出力が最適に制御される。
次に図3に示されたフローチャートを参照して図示の実施例1に於けるエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbの演算について説明する。
まずステップ210に於いては車輌の横加速度Gyの絶対値Gyaを路面の摩擦係数μにて除算した値として車輌の旋回度合Dsが演算され、ステップ220に於いては車輌の旋回度合Dsに基づき図4に示されたグラフに対応するマップより車輌を安定的に旋回させるための目標車輌減速度Gxbtが演算される。尚路面の摩擦係数μは駆動輪である左右の後輪24RL、24RRが路面に対し発生し得る力に対応しており、車輌の横加速度Gyは左右の後輪が路面に対し発生している横力に対応しており、従って車輌の旋回度合Dsは左右の後輪が路面に対し発生し得る力に対する横力の占有度合を意味する。
ステップ230に於いては自動変速機16の変速段に基づくギヤ比Rt、ディファレンシャルギヤ装置20のギヤ比、左右後輪24RL、24RRの回転半径、目標車輌減速度Gxbtに基づき左右後輪24RL、24RRの接地点に於ける目標エンジンブレーキ力Fetwが演算され、ステップ240に於いてはアクセル開度Ap、エンジン回転数Ne、ギヤ比Rt等に基づき図には示されていないマップより左右後輪24RL、24RRの接地点に於ける実エンジンブレーキ力Feawが演算される。
ステップ250に於いては目標エンジンブレーキ力Fetwが実エンジンブレーキ力Feawよりも小さいが否かの判別、即ちエンジンブレーキが過大でありエンジン10の出力トルクを増大させる必要があるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときには図3に示されたルーチンによる制御が一旦終了され、肯定判別が行われたときにはステップ260へ進む。
ステップ260に於いてはエンジン制御装置34へ燃料カットを禁止する旨の指令信号が出力され、ステップ270に於いては目標エンジンブレーキ力Fetw、左右後輪24RL、24RRの回転半径、自動変速機16の変速段に基づくギヤ比Rt、ディファレンシャルギヤ装置20のギヤ比に基づき目標エンジントルクTetbが演算されると共に、エンジン制御装置34へ目標エンジントルクTetbを示す信号が出力される。
かくして図示の実施例1のエンジン出力制御装置は、クルーズ制御装置60のスイッチ62がオン状態にあるか否か及びエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbが演算されているか否かに応じて以下の如く作動することにより、状況に応じて最適の目標エンジントルクTetを演算し、目標エンジントルクTetに基づいてエンジン10の出力を最適に制御する。
(1)クルーズ制御装置60のスイッチ62がオフであり且つエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbが入力されていない場合
クルーズコントロールが行われておらず、過大なエンジンブレーキ力に起因して車輌の走行状態が不安定になる虞れもない場合であり、この場合にはステップ20に於いて否定判別が行われると共にステップ40に於いて否定判別が行われ、これによりステップ60に於いて目標エンジントルクTetが通常制御の目標エンジントルクTetnに設定され、エンジン10の出力は通常制御の目標エンジントルクTetnに基づいて制御される。
(2)スイッチ60がオフであり且つエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbが入力されている場合
クルーズコントロールが行われておらず、過大なエンジンブレーキ力に起因して車輌の走行状態が不安定になる虞れがある場合であり、この場合にはステップ20に於いて否定判別が行われるが、ステップ40に於いて肯定判別が行われ、ステップ50に於いて目標エンジントルクTetがエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbに設定され、これによりエンジン10の出力はエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbに基づいて制御される。
(3)スイッチ62がオンであり且つエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbが入力されていない場合
クルーズコントロールが行われており、過大なエンジンブレーキ力に起因して車輌の走行状態が不安定になる虞れがない場合であり、この場合にはステップ20に於いて肯定判別が行われるが、ステップ80に於いて否定判別が行われ、ステップ110に於いて目標エンジントルクTetがクルーズコントロールの目標エンジントルクTetcに設定され、これによりエンジン10の出力はクルーズコントロールの目標エンジントルクTetcに基づいて制御される。
(4)スイッチ62がオンであり且つエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbが入力されている場合
クルーズコントロールが行われており、過大なエンジンブレーキ力に起因して車輌の走行状態が不安定になる虞れがある場合であり、この場合にはステップ20、80、90に於いて肯定判別が行われ、ステップ100に於いて目標エンジントルクTetがエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbに設定され、これによりエンジン10の出力はエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbに基づいて制御される。
従って図示の実施例1によれば、クルーズコントロールによりエンジントルクTeが低減され、エンジンブレーキ力が過大になって車輌の走行状態が不安定になるような場合には、エンジン10の出力をエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbに基づいて制御し、これにより過大なエンジンブレーキ力に起因して車輌の走行状態が不安定になることを確実に防止することができる。
また図示の実施例1によれば、クルーズコントロールによる目標エンジントルクTetcよりもエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbを優先してエンジントルクTeが制御される訳ではないので、エンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbよりもクルーズコントロールによる目標エンジントルクTetcが高い状況に於いて、エンジントルクTeがエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbに基づいて制御されることに起因して車速Vをクルーズコントロールの目標車速Vtに制御することができなくなることを確実に防止することができる。
例えば図5はクルーズコントロールにより定速走行している状況に於いて降坂により車速が高くなり、クルーズコントロールによりエンジントルクTeが低減され、スロットル開度φが0の状況に於いて車輌が旋回状態になり、エンジンブレーキ力が過大になって車輌の走行状態が不安定になるような場合について、実施例1の作動を従来のエンジン出力制御装置の場合と対比して示す説明図である。
図5に示されている如く、時点t1に於いてクルーズコントロールによる目標エンジントルクTetcが低下し始め、時点t2より時点t4まで目標エンジントルクTetcが0になり、時点t4に於いて目標エンジントルクTetcが上昇し始めたとする。また時点t2と時点t4との間の時点t3より時点t4以降の時点t5までエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbが正の値になったとする。
図5に於いて(b)として示されている如く、従来のエンジン出力制御装置に於いてエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbよりもクルーズコントロールによる目標エンジントルクTetcが優先される場合には、時点t2より時点t4まで目標エンジントルクTetが0になり、時点t3より時点t4までの間に於けるエンジン出力が不足し、過大なエンジンブレーキ力に起因し駆動輪である左右後輪の横力が低下し、車輌の安定性が低下し易い。
また図5に於いて(c)として示されている如く、従来のエンジン出力制御装置に於いてクルーズコントロールによる目標エンジントルクTetcよりもエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbが優先される場合には、時点t3より時点t5まで目標エンジントルクTetがエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbに設定されるので、エンジンブレーキ力が過剰になることに起因して車輌の旋回時の走行安定性が悪化することを防止することはできるが、時点t4より時点t5まで目標エンジントルクがクルーズコントロールによる目標エンジントルクTetcよりも小さい値に設定されるため、車速Vを設定された目標速度Vtに制御することができず、車速Vは目標速度Vtよりも低い速度になってしまう。
これに対し図示の実施例1によれば、図5に於いて(a)として示されている如く、時点t3より時点t4より僅かに後の時点t4′まで目標エンジントルクTetがエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbに設定され、時点t4′以降の目標エンジントルクTetはクルーズコントロールによる目標エンジントルクTetcに設定される。
従って時点t3より時点t4′までエンジンブレーキ力が過大になることに起因して車輌の旋回時の走行安定性が悪化することを確実に防止することができると共に、時点t4′以降に於いてエンジン出力が不足することに起因して車速Vを設定された目標車速Vtに制御することができなくなることを確実に防止することができる。
特に図示の実施例1によれば、ステップ80に於いて肯定判別が行われたときには、ステップ90に於いてクルーズコントロールの目標エンジントルクTetcがエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbよりも小さいか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ100に於いて目標エンジントルクTetがエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbに設定されるが、否定判別が行われたときにはステップ110に於いて目標エンジントルクTetがクルーズコントロールの目標エンジントルクTetcに設定されるので、クルーズコントロールの目標エンジントルクTetcがエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetb以上である状況に於いて、目標エンジントルクTetが不必要に小さく設定され、エンジンの出力が不必要に低減されることを確実に防止することができる。
図6はトラクション制御装置が搭載された後輪駆動車に適用された本発明による車輌のエンジン出力制御装置の実施例2を示す概略構成図(A)及び制御系のブロック線図(B)である。尚図6に於いて図1に示された部材と同一の部材には図1に於いて付された符号と同一の符号が付されている。
この実施例2に於いては、図6に示されている如く、制駆動力制御装置40には各車輪に対応して設けられた車輪速度センサ66FL〜66RRより対応する車輪の車輪速度Vwi(i=fl、fr、rl、rr)を示す信号が入力される。制駆動力制御装置40は各車輪の車輪速度Vwiに基づき当技術分野に於いて公知の要領にて車体速度Vb及び左右後輪の加速スリップ量SAj(j=rl、rr)を演算する。
そして制駆動力制御装置40は、図8に示されている如く、加速スリップ量SAjがトラクション制御(TRC制御)開始の基準値よりも大きくなり、トラクション制御の開始条件が成立すると、トラクション制御の終了条件が成立するまで、当該車輪について加速スリップ量を所定の範囲内にするための目標駆動トルクTwtj(j=rl、rr)を演算し、駆動トルクTwjに基づきエンジンの目標駆動トルクTetaを演算し、目標駆動トルクTeta及びエンジン回転数Neに基づきスロットルバルブ28の目標開度φtを演算し、スロットルバルブ28の開度を目標開度φtになるよう制御することによりトラクション制御を行う。
また制駆動力制御装置40は、図8に示されている如く、トラクション制御の終了条件が成立すると、所定の時間に亘りエンジン10のスロットル開度φが0になるようスロットルバルブ28を全閉に制御し、これにより加速スリップ量SAjが再度過大になってトラクション制御の終了直後に再度トラクション制御が開始されることを防止するトラクション制御の終了制御を行う。
また制駆動力制御装置40は、図7に示されたフローチャートに従って、トラクション制御の終了条件が成立し、エンジン10のスロットル開度φが0に制御されるべき状況に於いて、エンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbが演算されると、目標エンジントルクTetb及びエンジン回転数Neに基づきスロットルバルブ28の目標開度φtを演算し、スロットルバルブ28の開度を目標開度φtになるよう制御することにより、トラクション制御よりも車輌の旋回走行安定性を確保するための制御を優先する。
尚、この実施例2に於いても、制駆動力制御装置40は、上述の実施例1の場合と同様図3に示されたフローチャートに従って、車輌の旋回走行時にエンジンブレーキ力制御の目標エンジンブレーキ力Fetwを演算し、目標エンジンブレーキ力Fetwが実エンジンブレーキ力Feawよりも小さいときには目標エンジンブレーキ力Fetwに基づきエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbを演算し、目標エンジントルクTetbを示す信号をRAMに記憶する。
次に図7に示されたフローチャートを参照して図2に於けるエンジン出力制御について説明する。尚図7に於いて、フラグFaj(j=rl、rr)はトラクション制御中であるか否かに関するものであり、1はトラクション制御中であることを意味する。またフラグFbj(j=rl、rr)はトラクション制御の終了制御が行われているか否かに関するものであり、1はトラクション制御終了制御が行われていることを意味する。
まずステップ310に於いてはアクセル開度Apを信号等の読み込みが行われ、ステップ320に於いてはアクセル開度Ap等に基づき当技術分野に於いて公知の要領にて通常制御の目標エンジントルクTetnが演算される。
ステップ330に於いてはフラグFaj(Farl若しくはFarr)が1であるか否かの判別、即ち左右後輪の少なくとも一方がトラクション制御中であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ340に於いて目標エンジントルクTetが後述の図8に示されたルーチンに従って演算されるトラクション制御の目標エンジントルクTettj(左右後輪の両方がトラクション制御中である場合にはTettrl及びTettrrの小さい方の値)に設定された後ステップ400へ進み、否定判別が行われたときにはステップ350へ進む。
ステップ350に於いてはフラグFbj(Fbrl若しくはFbrr)が1であるか否かの判別、即ち左右後輪の少なくとも一方についてトラクション制御の終了制御が行われているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ380へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ360へ進む。
ステップ360に於いてはエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbが正の値として演算されているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ390へ進み、否定判別が行われたときにはステップ370に於いて目標スロットル開度φtが0に設定された後ステップ420へ進む。
ステップ380に於いては上記ステップ360の場合と同様、エンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbが正の値として演算されているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ390に於いて目標エンジントルクTetがエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbに設定された後ステップ410へ進み、否定判別が行われたときにはステップ400に於いて目標エンジントルクTetが通常制御の目標エンジントルクTetnに設定された後ステップ410へ進む。
ステップ410に於いては目標エンジントルクTet及びエンジン回転数Neに基づき目標スロットル開度φtが演算され、ステップ420に於いてはスロットル開度φが目標スロットル開度φtになるよう制御されることによってエンジン10の出力が最適に制御される。
次に図8に示されたフローチャートを参照して実施例2に於けるトラクション制御のエンジンの目標駆動トルクTettの演算について説明する。図8に示されたフローチャートによる制御は左後輪及び右後輪について交互に実行される。
まずステップ510に於いては車輪速度Vwiを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ520に於いてはフラグFbjが1であるか否かの判別、即ち当該車輪についてトラクション制御の終了制御が実行されているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ560へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ530に於いて図8に示されたフローチャートのサイクルタイムをΔTとして、タイマのカウント値TcjがΔTインクリメントされる。
ステップ540に於いてはタイマのカウント値Tcjが基準値Tco(正の定数)以上であるか否かの判別、即ち当該車輪についてトラクション制御の終了制御が所定の時間以上継続して実行されたか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ610へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ550に於いてフラグFbjが0にリセットされる。
ステップ560に於いてはフラグFajが1であるか否かの判別、即ち当該車輪についてトラクション制御が実行されているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ590へ進み、否定判別が行われたときにはステップ570へ進む。
ステップ570に於いては当該車輪についてトラクション制御の開始条件が成立しているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ600へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ580に於いてフラグFajが1にセットされる。
ステップ590に於いては当該車輪についてトラクション制御の終了条件が成立しているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ620へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ600に於いてフラグFajが0にリセットされると共にFbjが1にセットされ、ステップ610に於いてはトラクション制御の目標エンジントルクTettが0にセットされる。
ステップ620に於いては当該車輪について加速スリップ量SAjを所定の範囲内にするための当該車輪の目標駆動トルクTwtj(j=rl、rr)が演算され、ステップ630に於いては目標駆動トルクTwtj、左右後輪24RL、24RRの回転半径、自動変速機16の変速段に基づくギヤ比Rt、ディファレンシャルギヤ装置20のギヤ比に基づいて目標エンジントルクTettjが演算され、ステップ640に於いてはフラグFaj、フラグFbj、目標エンジントルクTettjを示す信号がRAMに記憶される。
かくして図示の実施例2のエンジン出力制御装置は、トラクション制御が実行されているか否か、トラクション制御の終了制御が実行されているか否か、エンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbが演算されているか否かに応じて以下の如く作動することにより、状況に応じて最適の目標エンジントルクTetを演算し、目標エンジントルクTetに基づいてエンジンの出力を最適に制御する。
(1)トラクション制御及びその終了制御が実行されておらず且つ目標駆動トルクTetbが正の値でない場合
エンジンの出力が過剰ではなく、過大なエンジンブレーキ力に起因して車輌の走行状態が不安定になる虞れもない場合であり、この場合にはステップ330、350、380に於いてそれぞれ否定判別が行われ、ステップ400に於いて目標エンジントルクTetが通常制御の目標エンジントルクTetnに設定され、エンジン10の出力は通常の目標エンジントルクTetnに基づいて制御される。
(2)トラクション制御及びその終了制御が実行されておらず、目標駆動トルクTetbが正の値である場合
エンジンの出力が過剰ではないが、過大なエンジンブレーキ力に起因して車輌の走行状態が不安定になる虞れがある場合であり、この場合にはステップ330及び350に於いて否定判別が行われるが、ステップ380に於いて肯定判別が行われ、ステップ390に於いて目標エンジントルクTetがエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbに設定され、これによりエンジン10の出力は目標エンジントルクTetbに基づいて制御される。
(3)トラクション制御が実行されている場合
エンジンの出力が過剰である場合であり、この場合には過大なエンジンブレーキ力に起因して車輌の走行状態が不安定になる虞れがあるか否かに拘らず、ステップ330に於いて肯定判別が行われ、ステップ340に於いて目標エンジントルクTetがトラクション制御の目標エンジントルクTettに設定され、これによりエンジン10の出力はトラクション制御の目標エンジントルクTettに基づいて制御される。
(4)トラクション制御の終了制御が実行され、目標駆動トルクTetbが正の値でない場合
トラクション制御が終了してその終了制御が行われており、過大なエンジンブレーキ力に起因して車輌の走行状態が不安定になる虞れがない場合であり、この場合にはステップ330に於いて否定判別が行われ、ステップ350に於いて肯定判別が行われ、ステップ360に於いて否定判別が行われ、ステップ370に於いて目標スロットル開度φtが0に設定されることにより、エンジン10の出力はスロットル開度φが全閉になるよう制御される。
(5)トラクション制御の終了制御が実行され且つ目標駆動トルクTetbが正の値である場合
トラクション制御が終了してその終了制御が行われており、過大なエンジンブレーキ力に起因して車輌の走行状態が不安定になる虞れがある場合であり、この場合にはステップ330に於いて否定判別が行われ、ステップ350に於いて肯定判別が行われ、ステップ360に於いて肯定判別が行われ、ステップ390に於いて目標エンジントルクTetがエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbに設定され、これによりエンジン10の出力は目標エンジントルクTetbに基づいて制御される。
従って図示の実施例2によれば、トラクション制御が終了してその終了制御が行われることによりスロットル開度φが0に制御されている状況に於いて車輌が旋回状態になり、エンジンブレーキ力が過大になって車輌の走行状態が不安定になるような場合にも、エンジン10の出力をエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbに基づいて制御し、これにより過大なエンジンブレーキ力に起因して車輌の走行状態が不安定になることを確実に防止することができる。
例えば図9はトラクション制御が完了しトラクション制御の終了制御が実行されている状況に於いてエンジンブレーキ力が過大になる場合について、実施例2の作動を従来のエンジン出力制御装置の場合と対比して示す説明図である。
図9に示されている如く、時点t1まで運転者によるアクセルペダル33の踏み込み量が過大であり、これによりトラクション制御が実行され、時点t1に於いて運転者によるアクセルペダル33の踏み込み量が低減され、時点t3に於いてアクセル開度Apが0になり、これにより時点t1に於いてトラクション制御が終了すると共に、時点t1よりt4のまでトラクション制御の終了制御が行われるものとする。また時点t1より僅かに後の時点t2に於いてエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbが正の値になったとする。
図9に於いて(b)として示されている如く、従来のエンジン出力制御装置の場合には、時点t1より時点t4までトラクション制御の終了制御により目標スロットル開度φtが0に制御されるので、エンジン10の実際の出力トルクTeは時点t1以降にエンジン10の抵抗等に起因して負の値になり、エンジンブレーキ力が過大になることに起因して旋回時の車輌の走行安定性が悪化する場合がある。
これに対し図示の実施例2によれば、図9に於いて(a)として示されている如く、時点t2以降のエンジンの目標エンジントルクTetはエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbに設定されるので、エンジン10の実際の出力トルクTeが負の値になることがなく、これによりエンジンブレーキ力が過大になることに起因して旋回時の車輌の走行安定性が悪化することを確実に防止することができる。
以上に於いては本発明を特定の実施例について詳細に説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施例が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
例えば上述の実施例1に於いては、ステップ100に於いて目標エンジントルクTetがエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbに設定されるようになっているが、Kを0よりも大きく1よりも小さい正の一定の係数として、目標エンジントルクTetがクルーズコントロールの目標エンジントルクTetcよりも大きくエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbよりも小さいK・Tetbに設定されるよう修正されてもよい。
尚、この修正例に於いては、上記図5に示された例の場合には、図5(a)に仮想線にて示されている如く、時点t3より時点t4とt4′との間の時点まで目標エンジントルクTetはエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbとクルーズコントロールの目標エンジントルクTetcとの中間の値に設定される。
同様に、上述の実施例2に於いては、ステップ390に於いて目標エンジントルクTetがエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbに設定されるようになっているが、Kを0よりも大きく1よりも小さい正の一定の係数として、目標エンジントルクTetがエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbよりも小さいK・Tetbに設定されるよう修正されてもよい。
また上述の実施例1に於いては、クルーズコントロールの目標エンジントルクTetcとエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbとの調整が図られ、上述の実施例2に於いては、トラクション制御の終了制御の目標エンジントルクとエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbとの調整が図られるようになっているが、例えば図2のステップ40〜60に代えて図7のステップ330〜410が実行されることにより、上述の実施例1と実施例2とが組み合わされてもよい。
また上述の各実施例に於いては、エンジンの第一乃至第四の制御目標値は目標エンジントルクであるが、エンジンの第一乃至第四の制御目標値はエンジンの出力を制御するためのパラメータである限り、例えば目標スロットル開度の如き任意のパラメータであってよい。
また上述の各実施例に於いては、車輌の旋回度合Dsは車輌の横加速度Gyの絶対値Gyaを路面の摩擦係数μにて除算した値として演算されるようになっているが、車輌の横加速度Gyの絶対値Gyaは例えばタイロッド軸力、操舵輪のセルフアラアライニングトルク、車速Vと車輌のヨーレートγとの積として演算される車輌の横加速度の絶対値の如く、車輌の横力又は車輪の横力に対応する任意の値に置き換えられてよく、路面の摩擦係数μは車輌の重量又は車輪の接地荷重と路面の摩擦係数μとの積に置き換えられてもよく、更には路面の摩擦係数μによる除算が省略され、車輌の旋回度合Dsは車輌の横加速度Gyの絶対値Gya等であってもよい。
また上述の各実施例に於いては、車輌は後輪駆動車であるが、本発明が適用される車輌は前輪駆動車や四輪駆動車であってもよく、またアクセル開度Apが燃料カット開始基準値以下になると、アクセル開度Apが燃料カット終了基準値以上になるまで少なくとも一部の気筒について燃料カットが行われるようになっているが、本発明は燃料カットが行われない車輌に適用されてもよい。
更に上述の実施例2に於いては、トラクション制御の目標エンジントルクとエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbとの調整は図られないようになっているが、例えば図10に示されている如く、ステップ330に於いて肯定判別が行われた場合に、ステップ335に於いてトラクション制御の目標エンジントルクTettjがエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbよりも小さいか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ340に於いて目標エンジントルクTetがトラクション制御の目標エンジントルクTettjに設定され、否定判別が行われたときにはステップ390に於いてへ進み、目標エンジントルクTetがエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbに設定されるよう修正されてもよい。
クルーズコントロール装置が搭載された後輪駆動車に適用された本発明による車輌のエンジン出力制御装置の実施例1を示す概略構成図(A)及び制御系のブロック線図(B)である。(実施例1)
実施例1に於けるエンジン出力制御ルーチンを示すフローチャートである。(実施例1)
実施例1に於けるエンジンブレーキ力制御の目標エンジントルクTetbの演算ルーチンを示すフローチャートである。(実施例1)
車輌の旋回度合Dsと目標車輌減速度Gxbtとの間の関係を示すグラフである。(実施例1、2)
実施例1の作動の一例を従来のエンジン出力制御装置の場合と対比して示す説明図である。(実施例1)
トラクション制御装置が搭載された後輪駆動車に適用された本発明による車輌のエンジン出力制御装置の実施例2を示す概略構成図(A)及び制御系のブロック線図(B)である。(実施例2)
実施例2に於けるエンジン出力制御ルーチンを示すフローチャートである。(実施例2)
実施例2に於けるトラクション制御ルーチンを示すフローチャートである。(実施例2)
実施例2の作動の一例を従来のエンジン出力制御装置の場合と対比して示す説明図である。(実施例2)
実施例2の修正例に於けるエンジン出力制御ルーチンを示すフローチャートである。
符号の説明
10 エンジン
12 トルクコンバータ
16 自動変速機
34…エンジン制御装置
40…駆動力制御装置
42…制動装置
52…横加速度センサ
54…摩擦係数センサ
56…車速センサ
58…ヨーレートセンサ
60…変速制御装置