JP3660865B2 - 車両の姿勢制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両の旋回走行時の姿勢を制御してアンダーステア傾向(ドリフトアウト)やオーバーステア傾向(スピン)を回避・抑制するようにした車両の姿勢制御装置に関する技術分野に属する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、この種の車両の姿勢制御装置として、例えば特開平6―183288号や特開平7―223520号の各公報に示されるように、ハンドル舵角及び車速に基づいて目標ヨーレートを設定するとともに、車両の実際のヨーレートをヨーレートセンサにより検出し、この検出された実際のヨーレートが上記目標ヨーレートに対し所定以上の偏差を持つと、車両のアンダーステア傾向を抑制するアンダーステア制御又はオーバーステア傾向を抑制するオーバーステア制御の各介入をそれぞれ行うようにしたものは知られている。
【0003】
具体的には、実際のヨーレートに所定のしきい値を加えた値よりも目標ヨーレートが大きい場合には、アンダーステア制御の介入を、また目標ヨーレートに所定のしきい値を加えた値よりも実際のヨーレートが大きい場合には、オーバーステア制御の介入をそれぞれ行うようになっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記従来のものでは、例えば上記しきい値が小さい場合には、アンダーステア制御が介入し過ぎる傾向がある。これにより、制御介入と運転者の操舵とが互いに干渉して走り感が損なわれてしまうという問題がある。
【0005】
これを解消するには、上記アンダーステア制御の介入を決定するしきい値を大きくして、そのアンダーステア制御の早期介入を抑制すればよいが、しかしながら、今度は車両のアンダーステア傾向が過度にならなければ介入されず、さらに、強い制御が急激に介入されることになる。このため、車両自体の安定性は確保されるものの、アンダーステア制御が介入されるまでのアンダーステア傾向が成長しつつあるときにおいて、運転者は操縦性が悪いと感じたり、不安定感を覚えたりするようになる。
【0006】
特に、上記目標ヨーレートをハンドル舵角ではなくて車両の横加速度に基づいて設定し、該目標ヨーレートに基づいてアンダーステア制御の介入判定を行うものであって、介入しきい値を比較的大きくすることで制御干渉を回避したものにあっては、例えば直進状態からのハンドル切り込み時(操舵初期)には、横加速度の成長が小さく、しかも横加速度の検出が困難であるため、アンダーステア制御が介入され難くくなる。このため、旋回路を走行するシーンを考えると、旋回路入口付近における操舵初期においては、弱いアンダーステア傾向を抑制できず、その結果、旋回路出口付近において小さな旋回Rを取らざるを得なくなってしまったり、強いアンダーステア制御が介入したりする。このため、運転者は操縦性が悪いと感じたり、不安定感を覚えたりするようになる。
【0007】
また、車両自体はアンダーステア傾向でなく、例えばオーバーステア傾向であるにも拘わらず操舵に応じて車両の姿勢が変化しないと、運転者はアンダーステア傾向であると感じることがある。このときも、目標ヨーレートを横加速度に基づいて設定するものにあっては、車両自体はアンダーステア傾向でないため、アンダーステア制御が介入されない。このため、運転者は操縦性が悪いと感じたり、不安を感じたりするようになる。
【0008】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたもので、その目的は、上記アンダーステア制御に改良を加えることにより、車両の高い安定性を確保しつつも、運転者の感じる安定感や操縦性を向上させることにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明では、車両がアンダーステア傾向にあるときに、このアンダーステア傾向を抑制する第1アンダーステア制御の介入を行うと共に、ハンドル舵角の変化に対して実際のヨーレートが所定の変化をしないときには、第2アンダーステア制御の介入を行うこととした。
【0010】
具体的に、請求項1記載の発明は、車両の各輪のブレーキを独立に制御することによって、該車両のヨーイング方向の姿勢を制御する制御手段を備えた車両の姿勢制御装置を対象とし、上記制御手段を、上記車両のアンダーステア傾向が設定基準よりも強いときには、上記アンダーステア傾向を抑制する第1アンダーステア制御の介入を行うと共に、上記車両のハンドル舵角の変化に対して実際のヨーレートが所定の変化をしないときには、上記第1アンダーステア制御よりも制御量を低下させた第2アンダーステア制御の介入を行うように構成し、第1アンダーステア制御を、旋回内側の後輪のブレーキを制御するものとするのに対し、第2アンダーステア制御を、旋回内側の前輪のブレーキを制御するものとすることを特定事項とする。
【0011】
請求項1記載の発明によると、先ず、車両が設定基準よりも強いアンダーステア傾向にあるときには、第1アンダーステア制御が介入されて上記アンダーステア傾向が抑制される。これにより、車両の安定性が十分に確保される。
【0012】
そして、ハンドル舵角の変化に対して実際のヨーレートが所定の変化をしないとき、例えばハンドル舵角の変化率と実際のヨーレートの変化率との偏差が増大傾向にあるときには、このままいけばアンダーステア傾向が強くなってしまう状態(アンダーステアの初期状態)であるため、第2アンダーステア制御が介入されてアンダーステアの初期状態及びアンダーステアの成長(アンダーステア傾向が強くなること)が共に抑制される。また、車両自体はアンダーステア傾向ではないものの、ハンドル舵角に応じて車両の姿勢が変化しないことで運転者がアンダーステア傾向にあると感じてしまうときにも、第2アンダーステア制御が介入されて運転者がアンダーステア傾向にあると感じてしまうことが抑制される。このように第2アンダーステア制御が介入することで、強いアンダーステア傾向となることが抑制されて運転者の感じる安定感が向上すると共に、運転者の意図する方向に車両の姿勢が変更されるため、運転者の感じる操縦性が向上する。
【0013】
また、上記第2アンダーステア制御は、第1アンダーステア制御に比べて制御量が低下されているため、上記第2アンダーステア制御が介入しても運転者はほとんど気付かない。さらには、第2アンダーステア制御の介入によって運転者の操舵に応じて車両の姿勢が僅かに変化するものの、その姿勢変化は大きくはない。このため、運転者は、操舵に対して車両の挙動が追従したものと感じ、制御が介入したとはより一層感じ難い。その結果、運転者の違和感を防止して、走り感の向上が図られる。
【0014】
さらに、例えば第2アンダーステア制御が介入してもアンダーステアが成長して、アンダーステア傾向が設定基準よりも強くなれば、この第2アンダーステア制御に代わって第1アンダーステア制御が介入される。このため、制御量が強い第1アンダーステア制御が急激に介入されることがなくなり、運転者の違和感が大幅に解消される。また、第1アンダーステア制御の前に、予め第2アンダーステア制御を介入させることでブレーキの遊びが無くなっている(例えばディスクロータにブレーキパッドが密着した状態になっている)ため、第1アンダーステア制御の応答性が向上すると共に、車両には僅かなヨーイング方向の力が生じているため、第1アンダーステア制御によるアンダーステア傾向の抑制が容易になされる。すなわち、車両のより一層の安定性が確保される。
【0015】
従って、上記第2アンダーステア制御を第1アンダーステア制御とは別に設けることで、車両の高い安定性を確保しつつも、運転者の感じる安定感や操縦性が向上する。
【0016】
さらに、上記第2アンダーステア制御を、アンダーステア傾向の抑制に効果の高い旋回内側の前輪のブレーキを制御するものとすることで、アンダーステア傾向の抑制を確実かつ迅速に行い得る。
【0017】
この第2アンダーステア制御は、請求項2記載の如く、第1アンダーステア制御において供給可能な最大ブレーキ圧よりも低い圧力に設定された所定ブレーキ圧を上限にブレーキ圧を供給するようにしてもよい。
【0018】
これにより、第2アンダーステア制御における制御量が、第1アンダーステア制御における制御量に比べて低下する。これにより、弱いアンダーステア傾向等を抑制しつつも、運転者に制御介入を気付かれない第2アンダーステア制御が実現する。
【0019】
さらに、請求項3記載の如く、制御手段は、第2アンダーステア制御を、直進状態からのハンドル切り込み時において、該切り込みに伴うハンドル舵角の変化に対して実際のヨーレートが所定の変化をしないときに介入させるよう構成してもよい。
【0020】
すなわち、直進状態からのハンドル切り込み時のような、ハンドルの操舵初期における操舵に対して十分なヨーレート変化が得られない場合に、第2アンダーステア制御の介入を行うことによって、例えば旋回路入口における操舵初期においては舵角に対して必要なヨーレートが得られ、その結果、旋回路出口付近において小さな旋回Rを取らざるを得ない状況が回避される。こうして運転者の意図したように車両が挙動するため、目標旋回軌跡に対するトレース性が向上する。
【0021】
また、ハンドルの操舵初期のような、車両のアンダーステア傾向を判断し難いときであっても、第2アンダーステア制御は、ハンドル舵角と実際のヨーレートとに基づいて介入判定を行うため、制御介入を的確に行い得る。
【0022】
この第2アンダーステア制御の中止条件としては、例えば請求項4記載の如く設定してもよい。つまり、制御手段を、第2アンダーステア制御の介入後、ハンドル舵角の変化率と実際のヨーレートとの変化率との偏差が減少傾向に切り換わったときに、上記第2アンダーステア制御を中止するように構成してもよい。
【0023】
すなわち、ハンドル舵角の変化率と実際のヨーレートとの変化率との偏差が減少傾向に切り換わるのは、ハンドル操舵に応じて車両の姿勢が変化しつつあるときである。従って、第2アンダーステア制御の介入をこれ以上続けると、ハンドル舵角以上に車両の姿勢が変化することとなる。このため、請求項4記載の如く、実際のヨーレートがハンドル舵角の変化に近付く傾向になれば、第2アンダーステア制御を中止することによって、過剰制御となることなく、最適な第2アンダーステア制御が実現する。
【0024】
さらに、請求項5記載の如く、制御手段を、車両が設定基準よりも強いオーバーステア傾向にあるときには、第2アンダーステア制御の介入を禁止するように構成するのがよい。
【0025】
すなわち、車両がスピンしながらドリフトアウトするような、アンダーステア傾向でありかつオーバーステア傾向であるときには、先ず、オーバーステア傾向を抑制する必要がある。そこで、車両が設定基準よりも強いオーバーステア傾向のときには、第2アンダーステア制御の介入を禁止して、オーバーステア傾向を抑制するオーバーステア制御を行うことによって車両の安定性がより一層向上する。
【0026】
このように第1アンダーステア制御に加えて、第2アンダーステア制御を行う車両の姿勢制御装置は、請求項6記載の如く、制御手段が、第1アンダーステア制御の介入に係る車両のアンダーステア傾向の判定を、上記車両の横加速度に基づいて設定した目標ヨーレートと、実際のヨーレートとの偏差量に基づいて行うように構成されているものに好適である。
【0027】
すなわち、例えば直進状態からのハンドル切り込み時等のようなハンドル操舵初期においては、車両の横加速度の成長が小さく、しかも横加速度の検出が困難であるため、この横加速度に基づいて第1アンダーステア制御の介入を行うのは困難になってしまう。そこで、ハンドル舵角と実際のヨーレートとに基づいて介入判断を行う第2アンダーステア制御を設けることで、第2アンダーステア制御を早期に介入させることが可能になり、これにより、弱いアンダーステア傾向や、運転者がアンダーステア傾向と感じてしまう状態が的確に抑制される。その結果、トレース性の向上が図られると共に、運転者の感じる安定感や操縦性が向上する。
【0028】
【発明の効果】
以上説明したように、車両がアンダーステア傾向にあるときに、このアンダーステア傾向を抑制する第1アンダーステア制御の介入を行うことで、車両の高い安定性を確保することができる。これと共に、ハンドル舵角の変化に対して実際のヨーレートが所定の変化をしないときには、第2アンダーステア制御の介入を行うことによって、弱いアンダーステア傾向や、運転者がアンダーステア傾向であると感じてしまうこと等を抑制することができる。これにより、強いアンダーステア傾向となることが抑制されて、運転者の感じる安定感を向上させることができると共に、運転者の意図したように車両の姿勢が変更されることで、運転者の感じる操縦の容易さを向上させることができる。
【0029】
また、上記第2アンダーステア制御は、第1アンダーステア制御に比べて制御量が低下されているため、上記第2アンダーステア制御が介入しても運転者はほとんど気付かず、さらには、第2アンダーステア制御の介入によって運転者は、操舵に応じて車両の姿勢が変化したものと感じ、制御が介入したとはより一層感じ難くなる。このため、運転者の違和感を防止しつつ、走り感の向上を図ることができる。
【0030】
さらに、例えば第2アンダーステア制御に続いて第1アンダーステア制御が介入されたときは、制御量が強い第1アンダーステア制御が急激に介入されることがなくなり、運転者の違和感を大幅に解消することができる。また、第1アンダーステア制御の応答性が向上すると共に、第1アンダーステア制御によるアンダーステア傾向の抑制を容易に行うことができ、車両のより一層の安定性を確保することができる。
【0031】
特に、第1アンダーステア制御の介入に係る車両のアンダーステア傾向の判定を車両の横加速度に基づいて行う場合には、第1アンダーステア制御の介入を行うのは困難な状況においても、第2アンダーステア制御はハンドル舵角と実際のヨーレートとに基づいて介入判断を行うため、適切かつ早期に介入させることができる。これにより、弱いアンダーステア傾向や、運転者がアンダーステア傾向と感じてしまうことを的確に抑制することができる。
【0032】
従って、本発明に係る車両の姿勢制御装置によると、車両の高い安定性を確保しつつも、運転者の感じる安定感や操縦性を向上させることができる。
【0033】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の実施形態に係る車両の姿勢制御装置の全体構成を示している。先ず、入力側の各装置について説明すると、11は各車輪の車輪速度を検出する車輪速センサ、12はステアリング(ハンドル)の操舵角を検出する舵角センサ、13は車両に発生しているヨーレートを検出するヨーレートセンサ、14は車両の横方向の加速度を検出する横加速度センサ(横Gセンサ)、15はスロットル開度を検出するスロットル開度センサ、16は後述するアンチロックブレーキシステムの制御をキャンセルするためのストップランプスイッチ、17はエンジン回転数を検出するエンジン回転数センサであり、エンジン出力のフィードバック制御を行うために検出するようにしている。また、18はエンジン(パワートレイン)の運転状態を検出するためにシフト位置を検出するシフト位置センサ(AT)であり、このシフト位置検出センサ18は、リバースの場合には姿勢制御をキャンセルするキャンセルスイッチとしても用いるようにしている。さらに、19は第1液圧発生源としてのマスターシリンダ(MC)の液圧を検出するMC液圧センサであり、このMC液圧センサ19の検出結果に応じてブレーキ液圧を運転者のブレーキペダル踏み力に対応した液圧に補正するようにしている。加えて、110はリザーバ内のブレーキ液の存在を検出するリザーバ液面レベルスイッチである。
【0034】
次に、出力側の各装置について説明すると、31は上記アンチロックブレーキシステム21が作動していることを警報するアンチロックブレーキシステムランプ、32は第2液圧発生源としての加圧ポンプに備えられた加圧モータ、33,34はそれぞれ前輪及び後輪用に設けられたディスクブレーキ等のブレーキ装置に対してブレーキ液を供給・排出するフロントソレノイドバルブ及びリアソレノイドバルブ、35はマスターシリンダ側と上記各車輪のブレーキ装置側との間を遮断・開放するTSWソレノイドバルブ、36は上記マスターシリンダと上記加圧ポンプとの間を遮断・開放するASWソレノイドバルブ、37はエンジン出力の制御を行うエンジンコントローラ、38は車両の姿勢制御が行われていることを運転者に対し、音或いは表示によって警報する警報手段としての警報装置である。
【0035】
次に、上記入力側の各センサ、又はスイッチ11〜110の信号が入力され、上記出力側の各装置31〜38に制御信号を出力する制御手段としてのECU2について説明する。
【0036】
このECU2には、車輪が路面に対してロックしそうなときに、その制動力を制御して車輪のロックを抑制するアンチロックブレーキシステム21と、制動時に後輪がロックしないように、後輪に付与される制動力の配分を行う電子制動力配分装置22と、車両の走行中に車輪が路面に対してスリップする現象を、各車輪に対する駆動力或いは制動力を制御することによって抑制するトラクションコントロールシステム23と、例えばドリフトアウトやスピンといったヨーイング方向の姿勢を制御する車両安定性制御装置24とを備えている。
【0037】
次に、上記各装置の信号の入出力について説明すると、上記車輪速センサ11からの信号は車輪速度演算部及び推定車体速演算部において車輪速度及び推定車体速が演算され、また、上記ストップランプスイッチ16からの信号はストップランプ状態判断部に入力され、そこから上記アンチロックブレーキシステム21、電子制動力配分装置22、トラクションコントロールシステム23、及び車両安定性制御装置24にそれぞれ入力されるようになっている。
【0038】
また、上記エンジン回転数センサ17、スロットル開度センサ15、及びシフト位置センサ18からの各信号は、それぞれエンジン回転数演算部、スロットル開度情報取り込み部、及びシフト位置判断部に入力され、そこから上記トラクションコントロールシステム23、及び車両安定性制御装置24に入力されるようになっている。
【0039】
さらに、上記舵角センサ12、ヨーレートセンサ13、横Gセンサ14、及びMC液圧センサ19の信号は、それぞれ舵角演算部、ヨーレート演算部、横G演算部及びMC液圧演算部によって舵角、ヨーレート、横加速度、及びMC液圧が演算されて、上記車両安定性制御装置24に入力されるようになっている。
【0040】
加えて、上記リザーバ液面レベルスイッチ110の信号は液面レベル判断部を経て、上記トラクションコントロールシステム23及び車両安定性制御装置24にそれぞれ入力されるようになっている。
【0041】
そして、上記アンチロックブレーキシステム21は、各信号から制御量を演算し、アンチロックブレーキシステムランプ31及び加圧モータ32、並びに、フロントソレノイドバルブ33及びリアソレノイドバルブ34に信号を出力してこれらを制御するようになっている。
【0042】
また、上記電子制動力配分装置22は、リアソレノイドバルブ34を制御するようになっている。
【0043】
上記トラクションコントロールシステム23は、フロントソレノイドバルブ33、リアソレノイドバルブ34、加圧モータ32、TSWソレノイドバルブ35及びエンジンコントローラ37に対し信号を出力してこれらを制御するようになっている。
【0044】
そして、上記車両安定性制御装置24は、エンジンコントローラ37、フロント及びリアソレノイドバルブ33,34、加圧モータ32、TSW及びASWソレノイドバルブ35,36並びに警報装置38に対し信号を出力してこれらを制御するようになっている。
【0045】
(車両の姿勢制御)
次に、上記車両安定性制御装置24における車両の姿勢制御について説明する。この車両安定性制御装置24は、例えばドリフトアウトを回避・抑制する制御であるアンダーステア制御、及び例えばスピンを回避・抑制する制御であるオーバーステア制御を行うものであって、上記アンダーステア制御として、第1アンダーステア制御、第2アンダーステア制御及びエンジン制御の3つを備えている一方、上記オーバーステア制御として、第1〜第3オーバーステア制御の3つを備えている。
【0046】
上記第1アンダーステア制御は、基本的には制御目標ヨーレートTrψと実際のヨーレートψとの偏差が所定の介入しきい値よりも大きいときに、旋回内側の前輪(旋回内前輪)或いは旋回内側の後輪(旋回内後輪)に対して制動力を付与する比較的強い制御(車両の姿勢変化が比較的大きい制御)であるのに対し、エンジン制御は、基本的には制御目標ヨーレートTrψと実際のヨーレートψとの偏差が所定の介入しきい値よりも大きいときに、エンジン出力を低下させる制御である。この2つの制御によって、車速の低下による遠心力の低下と、各車輪に付与される制動力のアンバランスによる車両モーメントとが生じ、ドリフトアウトを回避・抑制することができるようになる。これに対し、第2アンダーステア制御は、車両のハンドル舵角の変化に対して実際のヨーレートが所定の変化をしないときに、旋回内側前輪に対して上記第1アンダーステア制御に比べ弱い制御量で制動力を付与する制御である。これにより、比較的弱いアンダーステア傾向や、アンダーステアの成長、及び運転者がアンダーステア傾向であると感じてしまうことを抑制することができるようになる。
【0047】
一方、第1オーバーステア制御は、基本的には制御目標ヨーレートTrψと実際のヨーレートψとの偏差が所定の介入しきい値よりも小さいときに、旋回外側の前輪(旋回外前輪)に制動力を付与する比較的強い制御である。このような制御によって、車両前部が旋回外方向となるモーメントが生じ、スピンが回避・抑制できるようになる。これに対し、第2オーバーステア制御は、その制御介入しきい値が第1オーバーステア制御の制御介入しきい値よりも小さくされている制御であり、第3オーバーステア制御は、その制御介入しきい値が上記第2オーバーステア制御の制御介入しきい値よりも小さくされている制御である。そして、上記第2及び第3オーバーステア制御は共に、上記第1オーバーステア制御よりも弱い制御(車両の姿勢変化が小さい制御)とされているが、第2オーバーステア制御は所定のブレーキ圧を上限にしたオープン制御でブレーキ圧を供給する制御であるのに対し、第3オーバーステア制御は制御目標ヨーレートTrψと実際のヨーレートψとの偏差に応じてブレーキ圧を供給するフィードバック制御である。
【0048】
この車両安定性制御装置24による姿勢制御について、さらに詳しく、図2に示すフローチャートに従って説明する。先ず、ステップS11においては、上述した各種センサ等11〜110からの信号の読み込みを行う。
【0049】
次いで、ステップS12において、舵角に基づく第1目標ヨーレートψ(θ)、及び横加速度に基づく第2目標ヨーレートψ(G)をそれぞれ演算する。
【0050】
この第1目標ヨーレートψ(θ)は、具体的には、車輪速センサ11の信号に基づき推定車体速演算部において演算される推定車体速Vと、舵角センサ12によって検出され舵角演算部において演算される舵角θとを用い、式(1)によって算出する。
【0051】
ψ(θ)=V×θ/{(1+K×V2)×L}……(1)
ここで、Kはスタビリティファクタであり、このKは高μ(摩擦係数)路の旋回から求めた定数である。また、Lはホイールベースである。
【0052】
一方、上記第2目標ヨーレートψ(G)は、上記推定車体速度V、及び上記横Gセンサ14の信号に基づき横G演算部において演算される横加速度Gyを用いて式(2)により演算する。
【0053】
ψ(G)=Gy/V……(2)
そして、ステップS13において、上記第2目標ヨーレートψ(G)の絶対値が第1目標ヨーレートψ(θ)の絶対値よりも小さいか否かを判定する。この判定は上記第1及び第2目標ヨーレートψ(θ,G)のうちのいずれを制御目標ヨーレートTrψとして設定するかを判定するステップであり、上記第1及び第2目標ヨーレートψ(θ,G)のうちの絶対値の小さい方を制御目標ヨーレートTrψとして設定し、車両の姿勢制御を行うようにしている。
【0054】
そして、このステップS13においてNOの場合はステップS14に進む一方、YESの場合はステップS15に進む。
【0055】
上記ステップS14では、第1目標ヨーレートψ(θ)を制御目標ヨーレートTrψとし、この制御目標ヨーレートTrψと、ヨーレートセンサ13によって検出されヨーレート演算部において演算された実ヨーレートψとの偏差Δψ(θ)を算出する。
【0056】
一方、上記ステップS15では、第2目標ヨーレートψ(G)を制御目標ヨーレートTrψとする。このとき、制御目標ヨーレートTrψは、式(3)によって舵角成分を考慮した補正を行うようにする。すなわち、
Trψ=ψ(G)+a×k1……(3)
とする。ここで、a=ψ(θ)−ψ(G)であり、k1は変数である。
【0057】
そして、この補正した制御目標ヨーレートTrψと実ヨーレートψとの偏差Δψ(θ,G)を算出する。
【0058】
このように、横加速度に基づく第2目標ヨーレートψ(G)を制御目標ヨーレートTrψとした場合に舵角成分の補正を行うことによって、運転者が意図してアンダーステア傾向としている場合(駆動アンダーステア)には、姿勢制御の介入を抑制することができるようになる。
【0059】
すなわち、例えば車両がアンダーステア傾向にあるときは、舵角を一定にして駆動力を上げるような運転者が意図的に行っている駆動アンダーステアと、運転者の操舵に対し車両の挙動が追従しないという運転者の意図しないアンダーステアの2種類がある。ここで、例えば横加速度に基づく第2目標ヨーレートψ(G)を制御目標ヨーレートTrψとする場合では、車両に生じる横加速度は上記2種類のアンダーステア傾向のいずれの場合も同じであるため、上記駆動アンダーステアであっても姿勢制御が行われるようになってしまう。そこで、第2目標ヨーレートψ(G)を制御目標ヨーレートとするときは舵角成分を補正することによって、運転者がハンドルが切り込んでいるときにのみ姿勢制御が行われるようになり、駆動アンダーステアでは姿勢制御を行わず、運転者が意図しないアンダーステア傾向の場合にのみ姿勢制御を行うようにすることができる。
【0060】
そして、上式において、k1の値としては、例えば図3に示すように、横加速度に対し変化する特性を有する値とする。すなわち、横加速度が小さい(氷面等、路面が低μの領域)或いは横加速度が大きい(高μの領域)では小さな値とし、舵角成分の補正割合を小さくする。
【0061】
これは、例えば低μ領域でk1の値を大きくすれば、次のような不都合が生じるためである。すなわち、低μ領域では舵が効きにくいため、運転者は、通常、舵角が比較的大きくなるハンドル操作を行う。このような場合に、k1の値を大きくして舵角成分の補正割合を大きくすれば制御目標ヨーレートTrψと実ヨーレートψとの偏差が大きくなって、姿勢制御の制御量、例えば制動量が大きくなってしまう。その結果、姿勢制御を行った後の車両挙動が逆方向に大きくなりすぎてしまい、その逆方向の挙動を立て直すことが困難になる虞れがあるためである。
【0062】
また、高μ領域において、k1の値を小さくするのは、例えば高μ領域はタイヤのグリップ力が十分に得られている状態であることから、k1の値を大きくして舵角成分を大きくすると、姿勢制御の開始が早すぎるようになってしまうためである。つまり、このような高μ領域では、舵角成分の補正割合を大きくしなくても適正な制御介入が実現するため、高μ領域ではk1の値を小さくするようにする。
【0063】
一方、横加速度が中程度(中μ領域)は、路面が圧雪状態の場合の路面μに該当し、横滑りが発生する可能性が高いため、k1の値を大きくすることによって舵角成分の補正割合を大きくし、姿勢制御が早期に行われるようにする。
【0064】
このように、上記k1の値を横加速度によって変化させることによって、適切なタイミングでの姿勢制御の介入が実現するようになる。
【0065】
そして、上記ステップS14又はステップS15で、制御目標ヨーレートTrψと実ヨーレートψとの偏差Δψ(θ,G)が算出されれば、ステップS16に進み、このステップS16において、第1オーバーステア制御を行うか否かのしきい値(第1の介入しきい値:THOS)、アンダーステアを抑制するエンジン制御を行うか否かのしきい値(THEUS)、第1アンダーステア制御を行うか否かのしきい値(THUS)、第2オーバーステア制御を行うか否かの第2しきい値(第2の介入しきい値:THOSII)及び第3オーバーステア制御を行うか否かのしきい値(第3の介入しきい値:THOSIII)をそれぞれ設定する。尚、THUS>THEUSとなっている。また、THOSII,THOSIIIは、THOSII<THOSかつTHOSIII<THOSIIを満たすように適宜設定すればよく、例えばTHOSIIは、THOSの約10%ダウンとし、THOSIIIは、THOSの約20%ダウンとしてもよい。また、THOSIIを、THOSの約20%ダウンとし、THOSIIIを、THOSの約30%ダウンとしてもよい。
【0066】
こうしてステップS16において、各しきい値が設定されれば、ステップS17に進む。
【0067】
(第2アンダーステア制御)
上記ステップS17〜ステップS110は、第2アンダーステア制御に係るステップとなっていて、先ず、ステップS17において、直進状態からの切り込み操舵でありかつ上記制御目標ヨーレートTrψと実ヨーレートψとの偏差Δψが第3の介入しきい値THOSIIIよりも小さい(Δψ<THOSIII)か否かを判定する。つまり、第2アンダーステア制御は、直進状態からの切り込み操舵時の、横Gの成長が小さく横Gの検出が困難な操舵初期における弱いアンダーステア傾向や、運転者がアンダーステア傾向であると感じてしまう状態を抑制することを目的としており、このため、直進状態からの切り込み操舵であるか否かを判定している。
【0068】
また、ヨーレート偏差Δψが第3の介入しきい値THOSIII以上のオーバーステア傾向にあるときには、先ず、オーバーステア傾向を抑制する必要があると共に、アンダーステア傾向を抑制する第2アンダーステア制御を介入させるとオーバーステア傾向を助長させる虞があることから、第2アンダーステア制御を介入させないために、ヨーレート偏差Δψ(θ,G)が第3の介入しきい値THOSIIIよりも小さいか否かを判定している。
【0069】
そして、上記ステップS17において、直進状態からの切り込み操舵でありかつΔψ<THOSIIIであるときには、ステップS18に進む一方、上記直進状態からの切り込み操舵でない、又はΔψ≧THOSIIIのときには、第2アンダーステア制御を行うことなくステップS111(図2B参照)に進む。
【0070】
上記ステップS18においては、[{第1目標ヨーレートψ(θ)の変化率}−{実ヨーレートψの変化率}]の値が正に増大しているか(第1目標ヨーレートψ(θ)の変化に対して実ヨーレートψが所定の変化をせずに(追従して変化せずに)、両者ψ(θ),ψが互いに離れつつあるか)否かを判定する。これは、ハンドル操舵の変化に対して、実際のヨーレートが追従して変化しないような運転者がアンダーステア傾向であると感じてしまう状態であるか否かを判定するものであると共に、このまま第1目標ヨーレートψ(θ)と実ヨーレートψとが、互いに離れると強いアンダーステア傾向となってしまう状態(アンダーステアの初期状態)にあるか否かを判定するものである。そして、YESのときはステップS19に進む一方、NOのときはステップS111に進む。
【0071】
上記ステップS19は、第2アンダーステア制御の介入ステップであり、上限のブレーキ圧を30barに設定して、ブレーキ圧ゲインKmaxでブレーキ圧を旋回内前輪に対して供給する。ここで、ブレーキ圧ゲインKmaxは、最大のゲイン(最大のブレーキ圧供給率(単位時間当たりのブレーキ圧供給量))である。但し、ゲインKmaxでブレーキ圧を供給しているときに、スリップが大きくなったとき又は切り込み操舵が終了されたときには、ブレーキ圧の供給を中止する。
【0072】
そして、ステップS110では、増大傾向にあった[{第1目標ヨーレートψ(θ)の変化率}−{実ヨーレートψの変化率}]が、減少傾向に切り換われば、ブレーキ圧を減圧させる。尚、[{第1目標ヨーレートψ(θ)の変化率}−{実ヨーレートψの変化率}]が減少傾向にならないときには、ブレーキ圧を減圧せずに保持する。このような制御により、ブレーキ圧の時間に対する供給パターンは台形となる。
【0073】
このようにして、第1アンダーステア制御とは別に、アンダーステアの初期状態において第2アンダーステア制御を介入させることで、車両が強いアンダーステア傾向となることが抑制されて、運転者が感じる安定感を向上させることができる。これと共に、運転者がアンダーステア傾向であると感じてしまう状態において第2アンダーステア制御を介入させることで、運転者の意図した方向に車両が姿勢変化するため、運転者が感じる操縦性を向上させることができる。
【0074】
また、第2アンダーステア制御は、上限のブレーキ圧が30barという比較的低い圧力に設定されていると共に、[{第1目標ヨーレートψ(θ)の変化率}−{実ヨーレートψの変化率}]が減少傾向になれば制御を中止するため、第2アンダーステア制御の介入によって運転者の操舵に応じて車両の姿勢が僅かに変化するものの、その姿勢変化は大きくはない。このような弱い制御である第2アンダーステア制御が介入すると、運転者は操舵に対して車両の挙動が追従したと感じるようになって、制御が介入したとは感じ難い。その結果、運転者の違和感を防止しつつ、走り感の向上を図ることができる。
【0075】
さらに、直進状態からのハンドル切り込み時のような、操舵に対して十分なヨーレート変化が得られない場合に、第2アンダーステア制御が介入されるため、旋回路の入口付近において必要なヨーレート変化が得られるようになる。その結果、旋回路の出口付近において小さな旋回Rを取らざるを得ない状況が回避される。すなわち、目標旋回軌跡に対するトレース性の向上を図ることができる。
【0076】
また、第2アンダーステア制御は、旋回内前輪のブレーキを制御するものであるため、アンダーステア傾向の抑制に効果的であって、アンダーステア傾向の抑制を確実かつ迅速に行うことができる。
【0077】
このように、第2アンダーステア制御は、横Gの成長が小さくかつ横Gセンサ14による横Gの検出が困難であるために、横Gに基づく第2目標ヨーレートψ(G)によって第1アンダーステア制御の介入を行うのが困難な旋回初期において特に有効な制御であり、制御量を低下させた第2アンダーステア制御を、ハンドル舵角(第1目標ヨーレートψ(θ))と実ヨーレートψとに基づいて比較的早期に介入させることにより、アンダーステア傾向の抑制が遅れてしまうことを防止することができると共に、強い制御である第1アンダーステア制御が急激に介入されることを回避することができる。しかも、第2アンダーステア制御は、制御量が低下されていると共に、運転者の意図する方向に車両の姿勢を変更させるため、第2アンダーステア制御を早期介入させても、制御介入に運転者がほとんど気付かない。従って、車両の高い安定性を確保しかつ運転者の違和感を防止しつつも、運転者の感じる安定感及び操縦性の向上が図られる。
【0078】
(エンジン制御)
上記第2アンダーステア制御の各ステップの後のステップS111〜ステップS118は、アンダーステア傾向を抑制するエンジン制御に係るステップである。
【0079】
先ず、ステップS111において、上記THEUSが、第1目標ヨーレートψ(θ)と実ヨーレートψとの偏差Δψ(θ)よりも大きいか否かを判定する。すなわち、エンジン制御を行うか否かを判定する。
【0080】
このエンジン制御を行うか否かの判定では、上記ステップS13において目標ヨーレートとして第2目標ヨーレートψ(G)を選択した場合であっても、第1目標ヨーレートψ(θ)の値を基準として判定を行う。
【0081】
これは、次の理由によるものである。すなわち、舵角信号は位相が速いため、第1目標ヨーレートψ(θ)を制御目標ヨーレートTrψとして姿勢制御を行えば、通常、その姿勢制御は早期に開始されるようになる。本実施形態においては、第1及び第2目標ヨーレートの2つを用いることによって、姿勢制御(第1アンダーステア制御)の早期介入を防止するようにしているが、エンジン出力を低下させてもブレーキを制御する場合に比べて運転者が気づかない場合が多いことから、エンジン制御に限っては早期に開始しても弊害が少ない。
【0082】
また、先ず車両の減速をすることがアンダーステア傾向の回避に有効であり、このためにエンジン出力を早期に低下させて車両の減速をすれば、効果的なアンダーステア回避を行うことができるようになる。
【0083】
また、横加速度とヨーレートとは略比例関係にあるため、横加速度に基づく第2目標ヨーレートの値ψ(G)は、実ヨーレートψの値との差が小さく、また、上記実ヨーレートψの値は、アンダーステア傾向の場合は不安定になることから、第2目標ヨーレートψ(G)を制御目標ヨーレートTrψとすれば適正な制御介入が困難となってしまう。以上の理由から、エンジン制御の開始判定は、上記第1目標ヨーレートψ(θ)を制御目標ヨーレートTrψとしている。
【0084】
そして、上記ステップS111において、YESの場合はステップS112に進む一方、NOの場合はステップS113に進み、第1オーバーステア制御開始の判定を行う。
【0085】
上記ステップS112においては、ヨーレート加速度が所定値以下であるか否かを判定する。これは、制御の誤介入防止を目的とするものであり、実際に車両が所定量以上の姿勢変化を生じているか否かを判定するようにしている。そして、YESであればステップS114に進む一方、NOであればステップS117に進み、エンジン制御を禁止して上記ステップS113に進む。
【0086】
上記ステップS114においては、車両がオーバーステア中であるか否かを判定する。これは、車両が旋回方向に回転しながら旋回路外方に移動するオーバーステア傾向とアンダーステア傾向とが同時に起きている状態が考えられるためであり、このような場合は、先ず、オーバーステア傾向を回避して車両の姿勢を直す必要がある。そこで、YESであればステップS117に進みエンジン制御を禁止してステップS113に進む一方、NOであればステップS115に進む。
【0087】
上記ステップS115においては、ブレーキが非操作か否かを判定する。これは、運転者がブレーキ操作を行っている場合には駆動力は発生しておらず、エンジン制御を行っても効果が少ないばかりか、もしエンジン制御を行えば、次にアクセルを踏み込んだときに加速できなくなるため、不要なエンジン制御を行わないようにするためである。そして、YESであればステップS116に進み、エンジン制御を行うべくエンジン抑制制御量を算出する。そして、ステップS118に進み、エンジンコントローラ37に信号を出力してエンジン制御を実行、すなわちエンジン出力を低減させる。一方、上記ステップS115においてNOの場合はステップS117に進みエンジン制御を禁止する。上記ステップS118が終了すれば、ステップS113に進む。
【0088】
(第1オーバーステア制御)
上記ステップS113,ステップS119〜ステップS121は、第1オーバーステア制御に係るステップであって、上記ステップS113においては、第1オーバーステア制御を行うか否かを判定する。この第1オーバーステア制御の判定は、ステップS14又はステップS15において算出したヨーレート偏差Δψ(θ,G)が、第1の介入しきい値THOSよりも大きいか否かを判定することによって行う。すなわち、ヨーレート偏差Δψ(θ,G)によって表されるオーバーステア傾向が、上記第1の介入しきい値THOSで表される第1の設定基準よりも強いか否かによって判定する。YESの場合はステップS119に進み、オーバーステア傾向を回避すべく外前輪、すなわち、ヨーレートの回転方向に対して外側の前輪に付与する制動量を、上記ヨーレート偏差Δψ(θ,G)に応じて設定する。
【0089】
制動量が設定されれば、ステップS120に進み制動力制御を実行する。これは、加圧モータ32、フロント及びリアソレノイドバルブ33,34、TSW及びASWソレノイドバルブ35,36をそれぞれ制御することによって行う(図7の下図参照)。次いで、ステップS121に進み、第1オーバーステア制御の終了判定を行いリターンする。
【0090】
(第2及び第3オーバーステア制御)
上記ステップS113においてNOと判定された場合は、ステップS122が進むが、このステップS122〜ステップS127は、第2及び第3オーバーステア制御に係るステップである。
【0091】
上記ステップS122においては、第2オーバーステア制御を行うか否かを判定する。この第2オーバーステア制御の判定は、上記ステップS14又はステップS15において設定したヨーレート偏差Δψ(θ,G)が、第2の介入しきい値THOSII<Δψであるか否かを判定することによって行う。すなわち、上記ヨーレート偏差Δψ(θ,G)によって表されるオーバーステア傾向が、上記第2の介入しきい値THOSIIで表される第2の設定基準よりも強いか否かによって判定する。THOSII<ΔψのYESのときは、ステップS123に進む一方、THOSII≧ΔψのNOのときは、ステップS124に進む。
【0092】
上記ステップS123は、比較的弱いオーバーステア傾向を抑制する第2オーバーステア制御の介入ステップであって、ブレーキ圧P2(15bar)を上限として、ゲインKmaxでブレーキ圧を、旋回外前輪に対して一気に供給する(図7の下図参照)。そして、ブレーキ圧の供給中にヨーレート偏差Δψが小さくなったときはブレーキ圧の供給を中止してブレーキ圧を減圧に転じる。従って、ヨーレート偏差Δψが大きくなっているときは、上限のブレーキ圧P2までブレーキ圧が供給される。
【0093】
次のステップS126では、第2オーバーステア制御の終了判定を行う。つまり、このステップS126においては、Δψが収束したか否か(Δψが小さくなったか)を判定する。この第2オーバーステア制御を介入させることによって、Δψが小さくなったとき(YESのとき)には、ステップS127に進み、制御を徐々に終了させてリターンする。一方、Δψが収束していないのNOのときは、ステップS127に進むことなくリターンして、第2オーバーステア制御を継続させる。
【0094】
一方、上記ステップS122において、THOSII≧ΔψのNOでステップS124に進んだ場合は、このステップS124において、第3オーバーステア制御を行うか否かを判定する。この第3オーバーステア制御介入の判定は、THOSIII<Δψか否かを判定することにより行う。すなわち、上記ヨーレート偏差Δψ(θ,G)によって表されるオーバーステア傾向が、上記第3の介入しきい値THOSで表される第3の設定基準よりも強いか否かによって判定する。THOSIII<ΔψのYESのときは、ステップS125に進む一方、THOSIII≧ΔψのNOのときは、ステップS128(図2C参照)に進む。
【0095】
上記ステップS125の第3オーバーステア制御の介入ステップにおいては、先ず、上限ブレーキ圧(油圧)P1(5bar)まで、ブレーキ圧ゲインKmaxでブレーキ圧を、旋回外前輪に対して一気に供給する。その後、ゲインK1(K1<Kmax)でΔψに応じてブレーキ圧を供給するフィードバック制御を行う。このときの上限のブレーキ圧はP2(15bar)に設定されている(図7の下図参照)。このように第3オーバーステア制御においては、ブレーキ圧ゲインK1でブレーキ圧を供給するため、第2オーバーステア制御におけるブレーキ圧の供給率(ゲインKmax)よりも低いブレーキ圧の供給率になっている。
【0096】
このステップS125においてブレーキ圧の供給を行った後は、上記ステップS126で終了判定を行い、Δψが収束しているのYESのときはステップS127に進み、制御を徐々に終了させる一方、Δψが収束していないのNOのときはステップS127に進むことなくリターンして、第3オーバーステア制御を継続させる。
【0097】
このように、比較的弱いオーバーステア傾向にあるとき(THOSII,THOSIII<Δψのとき)に、第2又は第3オーバーステア制御が介入されることで、比較的弱いオーバーステア傾向及びオーバーステアの成長が共に抑制されて、運転者が感じる安定感を向上させることができると共に、運転者が感じる操縦の容易さを向上させることができる。
【0098】
一方、介入される第2又は第3オーバーステア制御は、上限のブレーキ圧が低く設定されて制御量が低下されている弱い制御であるため、制御が過剰になることがなく、また、不要動作が強くなってしまうことを回避することができる。
【0099】
また、上記第3オーバーステア制御が介入しても、車両のオーバーステアが成長した(強くなった)ときには(THOSII<Δψ)、第2オーバーステア制御が上記第3オーバーステア制御に代わって介入され、また、上記第2オーバーステア制御が介入しても、車両のオーバーステアが成長したときには(THOS<Δψ)、第1オーバーステア制御が、記第2オーバーステア制御に代わって介入される。これにより、強い制御である第1オーバーステア制御が急激に介入されることなく、弱い制御である第2及び第3オーバーステア制御から強い制御である第1オーバーステア制御に連続的に移行される。従って、運転者の違和感を大幅に解消することができる。これと共に、第1オーバーステア制御の前に予め第2又は第3オーバーステア制御が介入されることで、ブレーキ系の遊びが無くなっている(例えばディスクロータにブレーキパッドが密着した状態になっている)ため、上記第1オーバーステア制御の応答性を向上させることができる。さらに、第3及び第2オーバーステア制御に続いて第1オーバーステア制御が介入した場合は、制御開始のしきい値を小さくしたこととを同様の結果となり、車両の姿勢の変化が連続的になると共に、車両のより一層の安定性を確保することができる。
【0100】
また、第2オーバーステア制御は、ブレーキ圧を最大のゲインKmaxでオープン制御により供給するようにされているため、制御の応答性が向上する。また、上限のブレーキ圧P2が第1オーバーステア制御におけるブレーキ圧(ブレーキ系が供給可能なブレーキ圧)よりも低い圧力(15bar)に設定されているため、第1オーバーステア制御よりも制御量が低下したオーバーステア制御が実現する。
【0101】
一方、第3オーバーステア制御は、ブレーキ圧をヨーレート偏差Δψに応じたフィードバック制御で供給するようにされているため、オーバーステア傾向の抑制が過剰になることなく、最適な制御を実現することができる。これにより、走り感を損なうことがない。
【0102】
また、第2及び第3オーバーステア制御における上限ブレーキ圧P2を15barとすることによって、車両のヨーイング方向の姿勢が僅かに変化するものの、運転者がほとんど気付かない程度に制御を行うことが可能になる。尚、上限ブレーキ圧は、10〜25barの範囲で設定してもよいが、車両の姿勢制御の効果と、運転者が気付くことによる違和感とを比較考慮すると、15barが最も好ましい。また、第2オーバーステア制御における上限のブレーキ圧は、路面μに応じて変更してもよい。例えば低μ路においては、上記上限のブレーキ圧を15barとするのに対し、高μ路においては、上限のブレーキ圧を50barとするようにしてもよい。
【0103】
このように、第1オーバーステア制御に加えて、第2及び第3オーバーステア制御を設けることで、車両の高い安定性を確保しつつも、運転者の感じる安定感及び操縦の容易さを向上させることができる。
【0104】
(第1アンダーステア制御)
ステップS128〜ステップS134は第1アンダーステア制御に係るステップであって、上記ステップS124においてNOと判定されてステップS128に進んだときは、このステップS128において第1アンダーステア制御を開始するか否かを判定する。そして、上記ステップS128において開始するYESであればステップS129に進む一方、開始しないNOであればリターンする。
【0105】
上記ステップS129においては、そのアンダーステア傾向が小さいか(弱いか)否かを判定する。小さい場合はステップS130に進む一方、大きい場合はステップS131に進む。
【0106】
上記ステップS130においては内前輪の制動量を演算する。一方、ステップS131においては内後輪の制動量を演算する。これはアンダーステア傾向が弱いときは、前輪にはグリップ力がある状態と考えられ、また、前輪に制動力を付与することは後輪に制動力を付与する場合に比べて、より制動効率が良い、すなわち車両をより効率的に減速できるためである。このため、アンダーステア傾向が弱い場合には内前輪に制動を行うことによって、確実かつ迅速なアンダーステア制御を行うことが可能になる。
【0107】
一方、アンダーステア傾向強い場合は、前輪のグリップ力がないものと考えられることから、内後輪に対し制動力を付与する。
【0108】
このように制動量が演算されれば、ステップS132に進み、制動力制御を実行する。
【0109】
そして、ステップS133においては、第1アンダーステア制御の終了判定を行う。これは、上記ヨーレート偏差Δψ(θ,G)がしきい値THUSよりも小さくなったか否かを判定することによって行う。そして、YESの場合はステップS134に進み制御を終了させてリターンする。一方、NOの場合は制御を終了することなくリターンする。
【0110】
(第1アンダーステア制御開始判定)
次に、上記ステップS128におけるアンダーステア傾向を抑制する第1アンダーステア制御開始の判定について、図4に示すフローチャートに従って説明する。この制御開始判定では、上記ヨーレート偏差Δψ(θ,G)がしきい値THUSを越えたか否かのみで判定を行うのではなく、その他の条件が成立することによって、制御を開始するようにしている。
【0111】
先ず、ステップS21において、ヨーレート偏差Δψ(θ,G)が第1アンダーステア制御の介入しきい値THUSよりも大きいか否かを判定する。YESの場合はステップS22に進む一方、NOの場合はステップS23に進む。
【0112】
上記ステップS22においては、実ヨーレートψの加速度が所定値以下か否かを判定する。これは上記ステップS112(図2参照)と同様に制御の誤介入防止を目的とするものである。
【0113】
そして、上記ステップS23においては、ハンドル操舵速度が切り増し方向に所定値以上であるか否かを判定する。YESであればステップS25に進む一方、NOであればステップS27に進み、非制御としてリターンする。そして、上記ステップS25においては、図5に示すように、第1目標ヨーレートψ(θ)の値が実ヨーレートψの値の2倍よりも大きく、かつ、第1目標ヨーレートψ(θ)−実ヨーレートψの値Δψ(θ)が所定値以上であるか否かを判定する。また、ステップS25がNOであればステップS26に進み、実ヨーレートψの加速度が所定値以下であり、かつ、Δψ(θ)が所定値以上であるか否かを判定する。NOであればステップS27に進み、制御を非制御としてリターンする。
【0114】
上記ステップS25は、第1目標ヨーレートψ(θ)と実ヨーレートψとの偏差が大きいか否か、上記ステップS26は、第1目標ヨーレートψ(θ)と実ヨーレートψとの偏差の広がりの速度が速いか否かをそれぞれ判定しており、上記ステップS25又はステップS26において、YESであればステップS24に進み、ブレーキ制御を開始する。
【0115】
すなわち、ヨーレート偏差Δψ(θ,G)が、しきい値THUSよりも大きいか否かのみで姿勢制御を開始するのでは、駆動アンダーステアのように運転者が意図してアンダーステア傾向としている場合にも制御が開始されるため、ハンドルを切り込み操作しているにも拘わらず、それに追従してヨーレートの増加がなく、運転者の意志通りに車両が挙動せずにアンダーステア傾向となっているときにのみ制御が行われるようにする。
【0116】
(オーバーステア制御開始判定)
次に、オーバーステア制御開始判定について説明する。第1〜第3オーバーステア制御の開始判定は、上述したように、制御目標ヨーレートとして、第1及び第2目標ヨーレートψ(θ,G)のうちの絶対値の小さい方を制御目標ヨーレートTrψとし、この制御目標ヨーレートTrψと実ヨーレートψとの偏差Δψ(θ,G)が、オーバーステア制御の介入しきい値(第1〜第3の介入しきい値)THOS,THOSII,THOSIIIよりも大きいか否かによって行うようにしている。
【0117】
例えば、図7に示すように、第2目標ヨーレートψ(G)の絶対値が、第1目標ヨーレートψ(θ)の絶対値よりも小さいときは、上記第2目標ヨーレートψ(G)を制御目標ヨーレートTrψとする(同図のT1参照)。ここで、制御目標ヨーレートTrψ(同図の破線参照)が第2目標ヨーレートψ(G)(同図の実線参照)に比べて大きくなっているのは、制御目標ヨーレートTrψに対して舵角成分を考慮した補正を行っているためである(式(3)参照)。
【0118】
そして、ヨーレート偏差Δψが第3の介入しきい値THOSIIIよりも大きくなれば、第3オーバーステア制御を介入させる。この第3オーバーステア制御は、上述したように、上限ブレーキ圧P1(5bar)まで、ブレーキ圧ゲインKmaxでブレーキ圧を一気に供給する。そしてその後、ゲインK1(K1<Kmax)でΔψに応じてブレーキ圧を供給するフィードバック制御を行う(図2のステップS125及び図7の下図参照)。また、ヨーレート偏差Δψが第2の介入しきい値THOSIIよりも大きくなれば、第2オーバーステア制御を介入させる。この第2オーバーステア制御は、上述したように、上限のブレーキ圧P2(15bar)まで、ゲインKmaxでブレーキ圧を一気に供給するオープン制御を行う(図2のステップS123及び図7の下図参照)。さらに、ヨーレート偏差Δψが第1の介入しきい値THOSよりも大きくなれば、第1オーバーステア制御を介入させる。
【0119】
また、例えば、オーバーステア傾向を回避しようと運転者がカウンターステアを行った場合には、第1目標ヨーレートψ(θ)の値が、上記第2目標ヨーレートψ(G)よりも小さくなる場合がある。このときは、制御目標ヨーレートTrψを第2目標ヨーレートψ(G)から第1目標ヨーレートψ(θ)に変更する(同図のT2参照)。
【0120】
このようにカウンターステアを行った場合には、第1目標ヨーレートψ(θ)の変化に伴い実ヨーレートψの値が第2目標ヨーレートψ(G)の値よりも小さくなる。ここで、例えば、第2目標ヨーレートψ(G)を制御目標ヨーレートTrψとしたままであれば、オーバーステア制御からアンダーステア制御に変更されてしまう。このようにアンダーステア制御となってしまえば、車両のヨーイング方向の姿勢としては未だオーバーステア傾向であり、かつ、運転者がカウンターステアとしているにも拘わらず、そのカウンターステアの効果が生じないような、つまりオーバーステア傾向を助長する制御となってしまう。ところが、第1及び第2目標ヨーレートψ(θ,G)のうちの小さい方を制御目標ヨーレートTrψとすれば、カウンターステアを行った場合でもオーバーステア制御(第1オーバーステア制御)が継続して行われ、上記の不都合が解消される。
【0121】
また、上記第1目標ヨーレートψ(θ)の値が中立点を通過し、この第1目標ヨーレートψ(θ)の値と第2目標ヨーレートψ(G)の値との符号が異なるときには、制御目標ヨーレートTrψの値を所定値で一定にし(同図のT3参照)、その後、上記第1及び第2目標ヨーレートψ(θ,G)の値が同符号となれば、上記第1及び第2目標ヨーレートψ(θ,G)のうちの絶対値の小さい方、図7では上記第2目標ヨーレートψ(G)の値を制御目標ヨーレートTrψに設定する(同図のT4参照)。
【0122】
このように、制御目標ヨーレートTrψの値を一定値で保持するようにするのは、舵角が中立点を越えるような状態遷移のときに制御ゲインが大きくなってしまうことを回避するためである。また、例えば第1目標ヨーレートψ(θ)の値をそのまま制御目標ヨーレートTrψとすれば、制御量が大きくなってしまい、車両が逆方向にスピンしてしまう虞れがあるためである。このように、車両が逆方向にスピンするようになると、その逆方向スピンの回避が困難となることから、上記第1及び第2目標ヨーレートψ(θ,G)の値が異符号となるときには、制御目標ヨーレートTrψを所定値で保持する。
【0123】
尚、上記所定値を例えば中立点としてしまうと、その後、車両がヨーイング方向の姿勢変化を起こさなくなってしまうため、上記所定値は中立点にオフセットした値としている。
【0124】
(カウンターの収束制御)
上述したように、オーバーステア傾向の場合には、運転者がカウンターステアを行う場合があり、このような場合であっても適正にオーバーステア傾向を回避する制御を行うようにしているが、姿勢制御によるブレーキ制御を行うことによって、ハンドルの操舵以上に車両の姿勢変化が大きくなる。その結果、例えば運転者がカウンターステアを行った後のハンドルの戻しの遅れ等に起因して逆方向のオーバーステア傾向となる場合がある。その結果、車両のヨーイング方向の姿勢が収束しなくなる虞れがある。
【0125】
このような逆方向のオーバーステア傾向を防止するために、旋回内前輪に制動力を付与する制御を行う。すなわち、図8は、カウンターステア後の収束制御のフローチャートを示しており、この制御では、先ず、ステップS31において、オーバーステア制御中又は制御後所定時間以内であるか否かを判定する。YESであればステップS32に進み、NOであればリターンする。
【0126】
上記ステップS32においては、カウンターステアを行ったか否かのカウンター判定を行う。これは、例えば実ヨーレートψの値と舵角に基づく第1目標ヨーレートψ(θ)の値との大小が反転した、或いは、舵角速度が反転したことを用いて判定すればよい。そしてYESであればステップS33に進む一方、NOであればリターンする。
【0127】
上記ステップS33においては、カウンター量が大きいか否かを判定する。これは、例えばカウンターステアを行う前のオーバーステア傾向が大きいか(強いか)否か、或いはカウンターステアを行っているときのハンドルの舵角速度が大きいか否か等に基づき判定すればよい。そして、YESであればステップS34に進み、NOであればリターンする。
【0128】
上記ステップS34においては舵角速度が反転したか否かを判定する。これは、カウンターステアを行った後に、ハンドルの切り戻し操作を行っているか否かを判定する。そして、YESであればステップS35に進み、NOであればリターンする。
【0129】
上記ステップS35においては、実ヨーレートψが舵角の変化に追従して変化しいるか否かを判定する。すなわち、実ヨーレートψが舵角の変化に追従すれば、ヨーレート姿勢が収束方向に向かっていると考えられることから、旋回内側の前輪に対する制動力の付与は行わないようにする。また、制動力を付与していたとしても、実ヨーレートが舵角の変化に追従して変化したら、その制動力付与は中止するようにしてもよい。
【0130】
そして、NOであればステップS36に進み、旋回内側の前輪に制動力を付与する一方、YESであればリターンする。
【0131】
このような制御によって、カウンターステアを行った後の、車両が逆方向のオーバーステアとなることを回避することができるようになる。
【0132】
(第1アンダーステア制御のしきい値の設定)
次に、ステップS16(図2A参照)における第1アンダーステア制御のしきい値THUSの設定について説明する。このしきい値THUSは、基本しきい値を決定し、この基本しきい値を補正することによって設定するようにしている。
【0133】
先ず、図9に示すように、ステップS41において、基本しきい値を設定する。この基本しきい値は、所定の定数とすればよい。
【0134】
次いで、ステップS42において、ハンドルの切り戻し時であればその操舵速度が大きいほどしきい値を高め制御の介入を抑える、つまり制御が介入し難くする。これは、アンダーステア傾向であるにも拘わらずハンドルを切り戻すことから、運転者が意図して操作をしているものと考えられるためであり、このような運転者が意図して運転を行っている場合は、制御の介入は抑えて運転者の操作に任せるようにするためである。これによって、制御の介入と運転者の操作とが干渉し合うことを回避することができるようになる。
【0135】
そして、ステップS43において、実ヨーレートの変動(実ヨーレートの変化)が大きいほどしきい値を高めて制御介入を抑えるようにする。これは、実ヨーレートが増加傾向にあれば、アンダーステア傾向は回避されるためである。逆に、このようなときに制御を早期に介入させると、さらに大きなヨーレート変化となり、オーバーステア傾向になってしまう場合がある。そこで、このような場合での制御の誤介入を回避するため、しきい値を高めるようにする。
【0136】
ステップS44においては、ハンドルが中立位置付近にあるときはしきい値を高めて制御介入を抑えるようにする。これは、アンダーステアは、通常、ハンドルが切られているときに発生するものであり、ハンドルの中立付近のような場合にはアンダーステア傾向を抑制する制御を行う必要はなく、このようなアンダーステアとなり難い状態での誤介入を回避するためである。
【0137】
ステップS45においては、横加速度が小さいとき(低μ領域のとき)ほどしきい値を低くし制御介入を早めるようにする。これは、例えば雪道等の低μ時にはアンダーステア傾向となり易いことから、このような場合には姿勢制御が早期に開始されるようにするためである。
【0138】
ステップS46においては、旋回中に第2目標ヨーレートψ(G)が所定値以上低下したら、しきい値を低下させ制御介入を早めるようにする。これは、例えば路面が部分的に凍結しているような、路面μが急激に小さくなって車両が横滑りを起こす場合に制御介入を早めることを目的としている。すなわち、路面μが急変した場合、運転者はハンドルを操作できない、或いはハンドルを操作するまでに長時間を要するようになる。ここで、例えば第1目標ヨーレートψ(θ)のみを用いて姿勢制御を行う場合であれば、この第1目標ヨーレートψ(θ)が変動しないため、姿勢制御を開始することができなくなってしまう。これに対し、本実施形態では、横加速度に基づく第2目標ヨーレートψ(G)をも用いて姿勢制御を行うため、このような路面μの変動にも、的確な制御を早期に行うことができるようになる。
【0139】
このようにして第1アンダーステア制御のしきい値THUSが設定される。
【0140】
(第1オーバーステア制御のしきい値の設定)
次に、ステップS16(図2参照)における第1オーバーステア制御のしきい値(第1の介入しきい値)THOSの設定について説明する。この第1の介入しきい値THOSも、基本しきい値を決定し、この基本しきい値を補正することによって設定するようにしている。
【0141】
先ず、図10に示すように、ステップS51において、基本しきい値を設定する。この基本しきい値は、図11に示すように、車速Vが低いほど基本しきい値を大きな値に設定する。そして、極低速時は、さらに基本しきい値を高い値に設定する。
【0142】
そして、ステップS52においては、図12に示すように、横加速度が高いほどしきい値を高める補正をし、かつ、その補正量は車速が高いほど大きくする。これは、例えば横加速度が低い、すなわち低μ領域では、オーバーステア傾向になり易くなるため、しきい値を低くして制御介入を早期に行うようにするためである。また、横加速度が高く(高μ領域)、かつ、高速走行の場合には、姿勢変化も速いため、例えばしきい値を低くすると姿勢制御の誤介入が生じ易くなるためである。さらに、高μ領域を高車速で走行できるような運転者は、車両が多少姿勢変化を起こしても十分に対応できる運転者であると考えられるため、姿勢制御と運転者の操作との干渉を防止すべく、高横加速度、かつ高速領域ではしきい値を高くする。
【0143】
ステップS53においては、ハンドル舵角が小さいほどしきい値を高めて制御介入を抑えるようにする。これは、例えばハンドル舵角が小さい場合であっても、特に雪道等では外乱等によって車両の向きと舵角の向きが逆になる場合がある。このような場合は、姿勢制御を行わずとも車両は自然に安定走行になるため、制御介入を抑えるようにする。
【0144】
ステップS54においては、ハンドル切り戻し時でハンドル操舵速度が小さいときほど、しきい値を高めて制御介入を抑える。これは、運転者がハンドルをゆっくりと戻していることから、制御介入を行わなくても、運転者が自らの操作で十分にオーバーステア傾向を回避できると考えられるためである。そこで、制御介入を抑えるべくしきい値を高める。
【0145】
そして、ステップS55においては、ヨーレートのオーバーシュート時にはしきい値を高めて制御介入を抑える。このヨーレートのオーバーシュート時とは、図13に示すように、ハンドルを切った状態から中立点まで戻した場合、車両としては不安定な状態ではないにも拘わらず、実ヨーレートψがオーバーシュートする場合があり、このような場合にはオーバーステア傾向であるとの判定がされてしまう。そこで、制御介入を抑えるためしきい値を高めるようにする。
【0146】
ステップS56においては、ヨーレートの変動が大きい場合は、しきい値を高めて制御介入を抑える。これは、制御の誤介入を防止する目的である。
【0147】
ステップS57においては、前輪が駆動輪とされた前輪駆動車のタックイン、又はカウンターステアを判定した場合には、しきい値を下げて制御介入を早めるようにする。ここで、タックインの判定としては、例えば舵角が切り込んだ状態で一定で、シフト段が2速又は3速といった低速段で、かつアクセルペダルが戻されてスロットル開度が小さくなったという条件を満たせばタックインであると判定すればよい。一方、カウンターステアの判定としては、ハンドル舵角から判定する。
【0148】
そして、ステップS58においては、上記各ステップにおいて基本しきい値を高める補正を行えば、その値が大きくなりすぎてしまう虞れがあるから、上限値を定めるようにする。このようにして第1オーバーステア制御のしきい値である第1の介入しきい値THOSが設定される。
【0149】
(第1オーバーステア制御の終了判定)
次に、第1オーバーステア制御の終了判定について(図2BのステップS121参照)、図14に示すフローチャートに従って説明する。これは、車両の姿勢が安定になった状態で姿勢制御を終了させつつ、運転者の操作と姿勢制御との干渉を回避することを目的とする制御である。
【0150】
先ず、ステップS61において、ハンドルが直進状態で安定したか否か、つまり、舵角が略中立位置で安定しているか否かを判定する。NOであればステップS62に進む。
【0151】
上記ステップS62においては、ハンドルが切り増し(切り込み)操作されたか否かを判定する。NOであればステップS63に進む。
【0152】
上記ステップS63においては、第2目標ヨーレートψ(G)と、実ヨーレートψとの偏差が所定値以下で安定しているか否かを判定する。すなわち、両者の値が十分に小さく、かつほぼ一致しているか否かを判定する。NOであればステップS65に進む。
【0153】
そして、上記ステップS61〜ステップS63においてYESの場合には、ステップS64に進み制御を終了してリターンする。これは、ステップS61の判定では、運転者が冷静にハンドル操作をしていると考えられるため、姿勢制御を行う必要がない、また、姿勢制御を行えば、運転者の操作と姿勢制御とが干渉する虞れがあるためである。また、ステップS62の判定では、オーバーステア傾向を助長する方向に運転者がハンドル操作を行うことから、運転者が意図してオーバーステア傾向にして旋回を行う、或いは車両が意図的にスピンさせて例えば事故回避を行おうとしていること等が考えられるためである。このような場合には速やかに姿勢制御を終了させることによって、姿勢制御と運転者の操作との干渉を防止することができるようになる。さらに、ステップS63の判定では、第2目標ヨーレートψ(G)と実ヨーレートψとが略一致して安定した状態であるから、車両の姿勢が安定した状態となっており、姿勢制御を行う必要がないため、制御を終了させるようにする。
【0154】
そして、上記ステップS65においては、姿勢制御における制動量から推定される推定ブレーキ液圧がマスターシリンダの圧力と略等しいか否かを判定する。すなわち、実質的に制動力の制御が行われておらず、姿勢制御を終了してもよいと考えられる状態であるかを判定する。YESであればステップS66に進む一方、NOであればステップS69に進む。
【0155】
上記ステップS66においては、スリップ角βが小さいか否かを判定する。すなわち、横滑りが生じていないか否かを判定する。YESであればステップS67に進む一方、NOであれば制御を終了することなくリターンする。
【0156】
上記ステップS67においては、第2目標ヨーレートψ(G)の値、第1目標ヨーレートψ(θ)の値、及び実ヨーレートψの値が全て所定値以下になっているか否かを判定する。すなわち、3つの値が所定値よりも小さくて近似している状態であるかを判定する。この判定は、車両が略直進状態であって、しかも、ハンドル操作もされていない状態であり、姿勢制御は必要のない状態であるか否かを判定しており、上記ステップS63の条件が成立し難い場合もあることから、上記ステップS63の条件よりも緩い条件であっても姿勢制御を終了させるようにする判定である。そして、YESであればステップS68に進み、上記条件が成立した状態が所定時間T1だけ経過したかを否かを判定する。すなわち、偶然に上記の条件が成立する場合も考えられることから、所定時間が経過するか否かを判定する。YESであればステップS612に進み、姿勢制御を終了してリターンする。NOであればリターンする。
【0157】
そして、上記ステップS69においては、スリップ角βが小さいか否かを判定する。YESであればステップS610に進む。
【0158】
上記ステップS610においては、第2目標ヨーレートψ(G)、第1目標ヨーレートψ(θ)、及び実ヨーレートψのうちの2つが所定値以下で、残りの1つも所定値よりも大きく離れた値ではないか否かを判定する。これは、上記ステップS67での条件よりも緩い条件となっている。そして、YESであればステップS611に進み、上記ステップS610の条件が成立した状態で所定時間T2だけ経過したか否かを判定する。ここで、所定時間T2は、上記ステップS67の条件よりも緩い条件であるため、上記ステップS68における所定時間T1よりも大きい値とする。そして、YESであれば制御を終了してリターンする。
【0159】
一方、上記ステップS67、ステップS69、ステップS610及びステップS611においてNOの場合は制御を継続してリターンする。
【0160】
このような、車両が安定した走行状態となるまで制御を継続させることによって、例えば制御目標ヨーレートTrψと実ヨーレートψとの偏差にのみ基づいて制御の終了を判定している場合に起こりうる、姿勢制御が早期に終了してしまうことを防止することができるようになる。
【0161】
また、このような姿勢制御の終了判定を行うことは、例えば障害物回避を行うような、一度姿勢制御が行われた後に、続けて姿勢制御が必要となる場合等に有効であり、制御の終了・開始が短時間に繰り返すことで姿勢制御の終了に伴う姿勢変化を招く虞れや、運転操作の安定性が不安定になってしまうこと等が防止される。
【0162】
一方、運転者が制御を必要としない状況においては、姿勢制御を早期に終了させることによって、姿勢制御と運転者の操作とが互いに干渉することを回避することができるようになる。
【0163】
(ブレーキ液圧制御)
次に、上記第1オーバーステア制御及び第1アンダーステア制御におけるブレーキ液圧(油圧)制御について、図15に示すフローチャートに従って説明する。このブレーキ液圧制御は、圧力のフィードバック制御を行うのではなく、所定の加圧(昇圧)速度でもってブレーキ液を加圧する第1フェーズを行い、このブレーキ液の加圧によって制動力が付与されて車両の姿勢に変化が現れれば、ブレーキ液圧の調圧を行う第2フェーズ(調圧ステート)に移行するようにしている。
【0164】
先ず、ステップS71において、挙動制御(第1オーバーステア制御及び第1アンダーステア制御)が開始されたか否かを判定する。次いで、ステップS72においては、オーバーステア制御であるか否かを判定する。YES(オーバーステア)であればステップS73に進み、NO(アンダーステア)であればステップS74に進む。
【0165】
ステップS73においては、ブレーキ液圧を機械限度の加圧速度(油圧MAX)で加圧する。すなわち、加圧ポンプ32を機械限度で作動させ、かつ、ASWソレノイドバルブ36、及び制動力を付与する車輪に対する供給経路に設けられたフロント又はリアソレノイドバルブ33,34を全開の状態にして加圧を行う。
【0166】
そして、ステップS77においては、スリップ率が所定値以上であるか否かを判定する。ここで、スリップ率は、車輪速センサ11の検出信号から得られる推定車体速と車輪速度とに基づき算出すればよい。この判定は、これ以上のブレーキ液の加圧が継続されると、ブレーキ液圧が過大となってしまうことから、この過大なブレーキ液圧を防止する目的で行われる。そして、NOであればステップS78に進む。
【0167】
上記ステップS78においてはスリップ角βの変化加速度のピークが通過したか否かを判定する。YESであればステップS79に進み、NOであればステップS710に進む。
【0168】
ステップS79においては、ヨーレート偏差Δψ(θ,G)の変化率(変化速度)、或いはヨーレート偏差Δψ(θ,G)の変化加速度のいずれかが減少傾向、すなわち収束方向となっているか否かを判定する。
【0169】
ステップS710においては、スリップ角のピークが通過していなくても、スリップ角βの変化率、或いはスリップ角βの変化加速度のいずれかが減少傾向、すなわち収束方向となっているか否かを判定する。
【0170】
上記ステップS78〜ステップS710は、ブレーキ液圧を加圧することよる制動力の付与によって車両の姿勢が変化したか否か、つまり、姿勢制御の効果が現れたか否かを判定している。
【0171】
そして、上記ステップS77、ステップS79又はステップS710においてYESであればステップS711に進み、ブレーキ液圧の加圧時間が所定時間T4経過したか否かを判定する。この所定時間T4は、姿勢制御の開始しきい値や加圧ポンプ32等のブレーキ液圧制御系の特性等を考慮して設定すればよい。つまり、上記ブレーキ液圧系の特性等から、必要なブレーキ液圧に昇圧するまでに最低限必要と考えられる時間として設定すればよい。そして、YESであればステップS712に進み、第2フェーズとしての調圧ステート、すなわち、状態に応じてブレーキ液圧を保持或いは加減圧させるステートに移行する。NOであればリターンして、加圧を継続する。
【0172】
これに対し、アンダーステア制御であるとしてステップS74に進んだ場合には、先ず、このステップS74において、機械限度の加圧速度でもってブレーキ液圧の加圧をする。そして、ステップS75に進み、この加圧時間が所定時間T3経過したか否かを判定する。YESであれば、ステップS76に進み、NOであれば加圧時間が所定時間T3経過するまで、機械限度の加圧速度での加圧を継続する。一方、ステップS76においては、例えば上記機械限度の加圧速度×0.8の速度でブレーキ液圧の加圧をする。
【0173】
これは、アンダーステア傾向のときはタイヤのグリップ力がないため、車輪をロックさせることを回避するためである。つまり、先ず、ブレーキ液圧を機械限度の加圧速度で加圧することにより、例えばディスクローターにブレーキパッドを密着させるような姿勢制御に対するブレーキ液圧の遅れを取り戻した後に、加圧速度を少し低くして加圧を継続する。これにより、過大なブレーキ液圧が付与されて、車輪がロックすることが回避される。
【0174】
そして、ステップS713においては、スリップ率が所定値以上であるか否かを判定する。NOであればステップS714に進み、ハンドルの切り込み操作に実ヨーレートψが追従して変化しているか否かを判定する。NOであれば、姿勢制御の効果が現れていないため、リターンして加圧を継続する。
【0175】
一方、上記ステップS713又はステップS714において、YESの場合には、ステップS715に進み、加圧時間が所定時間T5経過したか否かを判定する。YESであればステップS716に進み、調圧ステートに移行する。NOであれば、加圧を継続すべくリターンする。
【0176】
このようにフィードバック制御を行わないブレーキ液圧の制御を行うことによって、ブレーキ液圧の制御系システムを簡易に構成することができる。
【0177】
しかも、先ず、機械限度の加圧速度で、又は機械限度よりも減速した加圧速度でブレーキ液の加圧を行う(第1フェーズ)ことにより、制動力がより早期に付与されて迅速な姿勢制御を実現することができるようになる。それと共に、車両の姿勢が収束方向となれば、ブレーキ液圧の調圧制御に移行する(第2フェーズ)ことによって、制御量が過大とならずに正確な姿勢制御を実現することができるようになる。
【0178】
特に、本実施形態のように第1オーバーステア制御及び第1アンダーステア制御の介入をできるだけ遅らせるようにしている場合には、このようなブレーキ液圧の制御をしても運転者等が違和感を感じることは少なく、また、迅速な姿勢制御が可能となる点で極めて効果的なブレーキ液圧の制御となる。
【0179】
(警報装置の制御)
次に、警報装置38の制御について、図16に示すフローチャートに従って説明する。この警報装置38は、その作動開始を姿勢制御(挙動制御)の開始よりも遅延させ、かつ、その作動終了を挙動制御の終了よりも遅延させるようにしている。
【0180】
先ず、ステップS81において、フラグFが1か否かを判定する。これは、このフラグFは後述するように、車両の挙動制御が行われているときに1とするものである。そして、YESであればステップS87に進む一方、NOの場合は、警報装置の作動開始の制御を行うべくステップS82に進む。
【0181】
上記ステップS82においては、挙動制御中であるか否かを判定する。YESであればステップS83に進み、NOであればリターンする。
【0182】
上記ステップS83では、推定ブレーキ液圧が所定値以上であるか否かを判定する。そして、YESであればステップS84に進む。一方、NOであればステップS85に進む。
【0183】
上記ステップS85においては、挙動制御が開始されてから所定時間経過したか否かを判定する。YESであればステップS84に進む一方、NOであればリターンする。
【0184】
上記ステップS84においては、フラグFを1としてステップS86に進み、警報装置を作動させて(警報ON)リターンする。
【0185】
このように、例えば推定ブレーキ圧が所定値以上となるまで、或いは挙動制御が所定時間以上作動するまで、警報装置の作動開始を挙動制御の制御開始よりも遅延させることによって、運転者が挙動制御に気がつかないのに警報がされるといった運転者の違和感、或いは、その違和感に起因する操作ミスを防止することができるようになる。
【0186】
そして、上記ステップS82〜ステップS86は、警報装置38の作動開始に関する制御であるが、ステップS81においてYESの場合に行われる制御は、警報装置38の作動終了に関する制御である。
【0187】
すなわち、先ず上記ステップS87において、車両が直進で安定した状態であるか否かを判定する。NOの場合はステップS88に進む。
【0188】
上記ステップS88においては、挙動制御が終了してから所定時間が経過したか否かを判定する。NOの場合はステップS89に進む。
【0189】
上記ステップS89においては、ブレーキ液圧(制動圧)がマスターシリンダ圧力に略等しいか否か、すなわち、例えば運転者がブレーキペダルを踏んでいないときはブレーキ液圧が大気圧であるか否か、一方、運転者がブレーキペダルを踏んでいるときはブレーキ液圧がそのブレーキペダルの踏み量に対応するマスターシリンダの圧力であるか否かを判定する。NOの場合はリターンする。
【0190】
そして、上記ステップS83、ステップS88、及びステップS89においてYESの場合はステップS810に進み、フラグFを0とし、ステップS811において警報装置38の作動を終了させてリターンする。
【0191】
このように、警報装置38の作動を挙動制御の終了から所定時間経過後に終了することによって、例えば障害物回避のような挙動制御が断続的に行われる場合には、警報の終了・開始が繰り返することなく、連続して行われるようになる。このため、運転者の違和感を防止することができるようになる。
【0192】
また、車両が直進状態で安定する、或いはブレーキ液圧がマスターシリンダ圧力に略一致するような、挙動制御が終了してから車両の走行環境が変化するまで警報装置38の作動を継続させることにより、上述警報の終了・開始が繰り返されることを防止することができるようになる。その結果、運転者が違和感を感じないような適正な警報が実現する。
【0193】
(他の実施形態)
尚、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の実施形態を包含するものである。すなわち、上記実施形態では、第1アンダーステア制御のしきい値THUSの設定において(図9参照)、旋回中に第2目標ヨーレートψ(G)が所定値よりも低下すれば、しきい値を低下させるようにしているが(同図のステップS46参照)、しきい値THUSを補正するのではなく、上記条件に該当する場合は第1アンダーステア制御自体を強制的に介入させて、その制御を開始するようにしてもよい。
【0194】
また、上記実施形態では、第1オーバーステア制御のしきい値THOSの設定において(図10参照)、タックインの場合にはしきい値を低くしているが(同図のステップS57参照)、タックインの場合には、第1オーバーステア制御自体を強制的に介入させて、その制御を開始するようにしてもよい。すなわち、図2に示すステップS19において、ヨーレート偏差Δψ(θ,G)がしきい値を越えたか又はタックインかを判定するようにしてもよい。
【0195】
さらに、上記実施形態においては、カウンターステアの場合には、第1の介入しきい値THOSを低くしているが(同図のステップS57参照)、上記タックインの場合と同様に、カウンターステアの場合には、第1オーバーステア制御自体を強制的に介入させて、その制御を開始するようにしてもよい。
【0196】
加えて、オーバーステア傾向のときに運転者がカウンターステアを行った場合のように(図7参照)、第1目標ヨーレートψ(θ)が第2目標ヨーレートψ(G)よりも小さくなった場合に、上記実施形態では、第1目標ヨーレートψ(θ)が第2目標ヨーレートψ(G)よりも小さくなった時点で、制御目標ヨーレートTrψを第2から第1目標ヨーレートに変更するようにしているが、これに限らず、例えば次のような制御を行ってもよい。
【0197】
すなわち、第2目標ヨーレートψ(G)から第1目標ヨーレートψ(θ)に制御目標ヨーレートTrψが変更された場合には、ブレーキ圧等が急激に変化する虞れもある。このため、舵角が反転したこと等に基づき第1目標ヨーレートψ(θ)が第2目標ヨーレートψ(G)よりもその絶対値が小さくなると予測した場合には、制御目標ヨーレートTrψが急激に変化しないように、制御量を緩和するようにしてもよい。つまり、制御目標ヨーレートTrψを第2目標ヨーレートψ(G)から第1目標ヨーレートψ(θ)に切り換えたときの制御動作を緩和する緩和手段を設けるのである。
【0198】
この緩和手段としては、例えば、あらかじめブレーキ圧の上限値を設定しておき、制御目標ヨーレートTrψが第2目標ヨーレートψ(G)から第1目標ヨーレートψ(θ)に変更された場合でも、その上限値以上のブレーキ圧が生じないようにすることや、或いは、第1目標ヨーレートψ(θ)が第2目標ヨーレートψ(G)よりも小さくなると予測した場合には、制御目標ヨーレートTrψの補正式として、第1目標ヨーレートψ(θ)の一階微分の値を第2目標ヨーレートψ(G)の値に加算して、制御目標ヨーレートTrψを設定することが挙げられる。こうすると、制御目標ヨーレートTrψの切換時の制御動作が緩和されて、その切換えに伴うショックを低減することができる。
【0199】
また、上記実施形態においては、第1及び第2目標ヨーレートψ(θ,G)の値のうち、その絶対値が小さい方を制御目標ヨーレートTrψとして設定しているが、例えば悪路走行中等のようなヨーレート変動が極めて大きい場合には、第2目標ヨーレートψ(G)の絶対値の方が第1目標ヨーレートψ(θ)の絶対値よりも小さい場合でも、上記第1目標ヨーレートψ(θ)を制御目標ヨーレートTrψとして設定するようにしてもよい。すなわち、ヨーレート変動が極めて大きい場合は、横加速度の変動が大きくなってしまい、第2目標ヨーレートψ(G)の値が制御目標ヨーレートTrψの値として適さない虞れがある。このため、安定した値となる舵角に基づく第1目標ヨーレートψ(θ)を制御目標ヨーレートTrψとしてもよい。
【0200】
また、ヨーレート変動が極めて大きい場合は、制御目標ヨーレートTrψの補正式として上記式(3)に代えて以下の式を用いるようにしてもよい。
【0201】
Trψ=(1−k2)×ψ(G)+k2×ψ(θ)……(4)
つまり、第2目標ヨーレートψ(G)に対し第1及び第2目標ヨーレートψ(θ),ψ(G)間の差に応じた補正値を加えた目標ヨーレートを制御目標ヨーレートTrψにする。ここで、k2の値を大きくすれば、第1目標ヨーレートψ(θ)の補正割合が大きくなり、ヨーレート変動が極めて大きい場合であっても、適切な姿勢制御を行うことができるようになる。
【0202】
加えて、上記実施形態では、警報装置38の作動開始条件として、推定ブレーキ液圧が所定値以上としているが(図16のステップS83)、この条件に加えて、例えばエンジン出力の低減量が所定値以上となれば、警報装置38を作動させるようにしてもよい。
【0203】
さらに、上記実施形態では、オーバーステア制御として、第1オーバーステア制御に加えて、第2及び第3オーバーステア制御の2つを備えているが、上記第1オーバーステア制御と、第2及び第3オーバーステア制御の内のいずれか一方のみとを備えるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 車両の姿勢制御装置を示すブロック図である。
【図2A】 姿勢制御のフローチャートの一部である。
【図2B】 姿勢制御のフローチャートの一部である。
【図2C】 姿勢制御のフローチャートの一部である。
【図3】 横加速度に対する補正係数kの特性を表す図である。
【図4】 第1アンダーステア制御の開始判定を示すフローチャート図である。
【図5】 第1アンダーステア制御開始条件を示す実ヨーレートと第1目標ヨーレートとの関係を示す説明図である。
【図6】 図5とは異なる第1アンダーステア制御開始条件を示す実ヨーレートと第1目標ヨーレートとの関係を示す説明図である。
【図7】 上図は、第1目標ヨーレート、第2目標ヨーレート、制御目標ヨーレート及び実ヨーレートの変動の一例を示す説明図であり、下図は、第1〜第3オーバーステア制御におけるブレーキ圧供給の一例を示す説明図である。
【図8】 カウンターステア後の収束制御を示すフローチャート図である。
【図9】 第1アンダーステア制御のしきい値を設定するフローチャート図である。
【図10】 第1オーバーステア制御のしきい値を設定するフローチャート図である。
【図11】 第1オーバーステア制御の基本しきい値と車速との関係を示す図である。
【図12】 第1オーバーステア制御のしきい値に対する横加速度及び車速に応じた補正量を示す図である。
【図13】 実ヨーレートのオーバーシュート状態を示す図である。
【図14】 第1オーバーステア制御の終了判定を示すフローチャート図である。
【図15】 姿勢制御(第1オーバー及びアンダーステア制御)におけるブレーキ圧制御を示すフローチャート図である。
【図16】 警報装置の制御を示すフローチャート図である。
【符号の説明】
2 ECU(制御手段)
11 車輪速センサ
12 舵角センサ
13 ヨーレートセンサ
14 横Gセンサ
32 加圧モータ
33 フロントソレノイドバルブ
34 リアソレノイドバルブ
35 TSWソレノイドバルブ
36 ASWソレノイドバルブ
38 警報装置
Claims (6)
- 車両の各輪のブレーキを独立に制御することによって、該車両のヨーイング方向の姿勢を制御する制御手段を備えた車両の姿勢制御装置であって、
上記制御手段は、上記車両のアンダーステア傾向が設定基準よりも強いときには、上記アンダーステア傾向を抑制する第1アンダーステア制御の介入を行うと共に、
上記車両のハンドル舵角の変化に対して実際のヨーレートが所定の変化をしないときには、上記第1アンダーステア制御よりも制御量を低下させた第2アンダーステア制御の介入を行うように構成されており、
上記第1アンダーステア制御は、旋回内側の後輪のブレーキを制御するものであるのに対し、上記第2アンダーステア制御は、旋回内側の前輪のブレーキを制御するものである
ことを特徴とする車両の姿勢制御装置。 - 請求項1において、
第2アンダーステア制御は、第1アンダーステア制御において供給可能な最大ブレーキ圧よりも低い圧力に設定された所定ブレーキ圧を上限にブレーキ圧を供給するものである
ことを特徴とする車両の姿勢制御装置。 - 請求項1において、
制御手段は、第2アンダーステア制御を、直進状態からのハンドル切り込み時において、該切り込みに伴うハンドル舵角の変化に対して実際のヨーレートが所定の変化をしないときに介入させるよう構成されている
ことを特徴とする車両の姿勢制御装置。 - 請求項1において、
制御手段は、第2アンダーステア制御の介入後、ハンドル舵角の変化率と実際のヨーレートとの変化率との偏差が減少傾向に切り換わったときに、上記第2アンダーステア制御を中止するように構成されている
ことを特徴とする車両の姿勢制御装置。 - 請求項1において、
制御手段は、車両が設定基準よりも強いオーバーステア傾向にあるときには、第2アンダーステア制御の介入を禁止するように構成されている
ことを特徴とする車両の姿勢制御装置。 - 請求項1において、
制御手段は、第1アンダーステア制御の介入に係る車両のアンダーステア傾向の判定を、上記車両の横加速度に基づいて設定した目標ヨーレートと、実際のヨーレートとの偏差量に基づいて行うように構成されている
ことを特徴とする車両の姿勢制御装置。
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