(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図9に従って説明する。
図1に示すように、車両には、該車両を走行させるための駆動力発生装置11と、前輪FR,FLを転舵輪として転舵させるための操舵装置12と、各車輪FL,FR,RL,RRに制動力を付与するための制動装置13とが設けられている。
駆動力発生装置11には、運転手によるアクセルペダル20の操作量、即ちアクセル開度に基づいた駆動力を発生するエンジン21と、該エンジン21の出力軸に接続された自動変速機22とが設けられている。また、駆動力発生装置11には、アクセル開度を検出するためのアクセル開度センサSE1が設けられている。そして、エンジン21から出力された駆動力は、自動変速機22からディファレンシャルギヤ23に伝達され、該ディファレンシャルギヤ23から駆動輪である前輪FR,FLに配分される。
なお、車両には、運転手によって操作されるシフト装置25が設けられている。このシフト装置25のレンジが前進レンジである場合、自動変速機22からは、車両を前進させる方向の駆動力が出力される。一方、シフト装置25のレンジが後進レンジである場合、自動変速機22からは、車両を後進させる方向の駆動力が出力される。こうした前進レンジであるか又は後進レンジであるかなどのシフト情報は、制動装置13を制御する運転支援装置としてのブレーキECU50に送信される。
操舵装置12には、運転手によって操舵されるステアリング30が固定されたステアリングシャフト31と、ステアリングシャフト31に連結された転舵アクチュエータ32とが設けられている。また、操舵装置12には、転舵アクチュエータ32により車両の左右方向に移動自在なタイロッドと、該タイロッドの移動により前輪FL,FRを転舵させるリンクとを含んだリンク機構部33が設けられている。また、操舵装置12には、ステアリング30の操舵角に応じた検出信号を上記ブレーキECU50に出力する操舵角センサSE2が設けられている。なお、操舵角センサSE2からは、車両を右方向に旋回させる場合には操舵角が正の値となるような検出信号を出力し、車両を左方向に旋回させる場合には操舵角が負の値となるような検出信号を出力する。
制動装置13には、運転手によるブレーキペダル40の操作力に応じたブレーキ液圧を発生する液圧発生装置41と、車輪FR,FL,RR,RL毎に個別に設けられたブレーキ装置42a,42b,42c,42dに連結されたブレーキアクチュエータ43とが設けられている。また、制動装置13には、運転手によるブレーキペダル40の操作状況(オンかオフか)に応じた検出信号をブレーキECU50に出力するブレーキスイッチSW1が設けられている。
ブレーキアクチュエータ43は、運転手がブレーキペダル40を操作しない場合であっても各車輪FR,FL,RR,RLに対して制動力を付与できるように構成されている。例えば、ブレーキアクチュエータ43は、液圧発生装置41側のブレーキ液圧と、ブレーキ装置42a,42b,42c,42dに設けられたホイールシリンダ内のブレーキ液圧との間に差圧を発生させるための差圧調整弁と、ホイールシリンダ内にブレーキ液を供給するための電動ポンプとを備えている。また、ブレーキアクチュエータ43には、各ホイールシリンダ内のブレーキ液圧を個別に調整するための各種弁が設けられている。つまり、本実施形態のブレーキアクチュエータ43は、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を個別に調整可能である。
次に、ブレーキアクチュエータ43を制御するブレーキECU50について説明する。
図1に示すように、ブレーキECU50には、アクセル開度センサSE1、操舵角センサSE2及びブレーキスイッチSW1に加え、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度を検出するための車輪速度センサSE3,SE4,SE5,SE6が電気的に接続されている。また、ブレーキECU50には、車両の前後方向における加速度(以下、「前後方向加速度」という。)を検出するための前後方向加速度センサSE7と、車両の横方向(車幅方向)における加速度(以下、「横方向加速度」という。)を検出するための横方向加速度センサSE8と、車両のヨーレートを検出するためのヨーレートセンサSE9とが電気的に接続されている。さらに、ブレーキECU50には、詳しくは後述する速度制限制御の実行を許可・禁止するための操作ボタン55が電気的に接続されている。
なお、前後方向加速度センサSE7からは、車両の走行する路面が水平路である場合において、車両が加速するときには前後方向加速度が正の値となる一方、車両が減速するときには前後方向加速度が負の値となるような検出信号が出力される。そして、車両が降坂路で停車する場合、車両の重心が前側に移動するため、前後方向加速度センサSE7からの検出信号に基づき算出される前後方向加速度は負の値となる。
また、横方向加速度センサSE8及びヨーレートセンサSE9からは、車両が右方向に旋回する場合には、車両の横方向加速度及びヨーレートが正の値となる一方、車両が左方向に旋回する場合には、車両の横方向加速度及びヨーレートが負の値となるような検出信号がそれぞれ出力される。
ブレーキECU50は、CPU、ROM及びRAMなどで構成されるデジタルコンピュータを有している。ROMには、CPUに実行される制御プログラム及び各種マップなどが記憶されている。また、RAMには、適宜書き換えられる各種情報(車体速度など)が記憶される。
本実施形態のブレーキECU50は、車両の車体速度が設定速度(例えば、10km/h)を超えないように各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を調整する制動制御として、ヒル・ディセント・コントロール(HDC)やダウンヒル・アシスト・コントロール(DAC)などの速度制限制御を行う。こうした速度制限制御を行うブレーキECU50は、その時点の車両の車体速度と設定速度との速度差が大きいほど要求制動力を大きな値に設定する。そして、ブレーキECU50は、設定した要求制動力に応じた制動力が各車輪FR,FL,RR,RLに付与されるようにブレーキアクチュエータ43を制御する。
なお、車両が降坂路を走行する場合、車両に加わる重力は、車両に対して加速させるための力として作用する。そのため、降坂路の走行中で速度制限制御が行われる場合、車両の走行する降坂路の勾配が急勾配であるほど、上記速度差が大きくなりやすいため、要求制動力が大きくなりやすい。
ここで、図2に示すように、摩擦円理論の関係上、車輪FR,FL,RR,RLに装着されるタイヤのグリップ力は、縦方向のグリップ力GPxと横方向のグリップ力GPyとの合計の力となる。縦方向のグリップ力GPxは、車輪FR,FL,RR,RLに付与される制動力や駆動力が大きいほど大きくなる力である。また、横方向のグリップ力の限界値GPymaxは、縦方向のグリップ力GPxが第1のグリップ力GPx1である場合よりも縦方向のグリップ力GPxが第1のグリップ力GPx1よりも大きな第2のグリップ力GPx2である場合のほうが小さくなる。つまり、横方向のグリップ力の限界値GPymaxは、車輪FR,FL,RR,RLに付与される制動力が大きいほど小さくなる。
そして、運転手によって操舵されるステアリング30の操舵角及び車両の車体速度などによって決まる横方向のグリップ力の要求値GPy_RQが、その時点の横方向のグリップ力の限界値GPymax以下である場合には、車輪FR,FL,RR,RLに装着されるタイヤがグリップするため、車両は、運転手の要求する態様で旋回することになる。その一方で、横方向のグリップ力の要求値GPy_RQが、その時点の横方向のグリップ力の限界値GPymaxを超えると、車輪FR,FL,RR,RLに装着されるタイヤがグリップしないために、該タイヤが横滑りしやすくなる。その結果、旋回中の車両の挙動が不安定になるおそれがある。
具体的には、車両進行方向における後側の車輪(車両が前進する場合には後輪RR,RL)に装着されるタイヤに対するグリップ力の要求値が、該タイヤの横方向のグリップ力の限界値GPymaxを超えると、同タイヤが横滑りしやすくなるため、車両の挙動がオーバーステア傾向を示す。この場合、本実施形態では、車両のオーバーステア傾向を解消又は弱くして車両の挙動を安定化させるために、車両進行方向における後側の車輪に付与される制動力が小さくされる。これにより、車両進行方向における後側の車輪に装着されるタイヤの横方向のグリップ力の限界値GPymaxが大きくなるため、同タイヤが横滑りしにくくなる。その結果、車両のオーバーステア傾向が解消される又は弱くなる。
一方、車両進行方向における前側の車輪(車両が前進する場合には前輪FR,FL)に装着されるタイヤに対するグリップ力の要求値が、該タイヤのグリップ力の限界値GPymaxを超えると、同タイヤが横滑りしやすくなるため、車両の挙動がアンダーステア傾向を示す。この場合、本実施形態では、車両のアンダーステア傾向を解消又は弱くして車両の挙動を安定化させるために、車両進行方向における前側の車輪に付与される制動力が小さくされる。これにより、車両進行方向における前側の車輪に装着されるタイヤの横方向のグリップ力の限界値GPymaxが大きくなるため、同タイヤが横滑りしにくくなる。その結果、車両のアンダーステア傾向が解消される又は弱くなる。
次に、上記速度制限制御をブレーキECU50が行う際に使用される各種マップについて、図3〜図7を参照して説明する。
図3に示すマップは、速度制限制御を行う際の要求制動力BP_RQを、車両の車体速度VSと設定速度VEとの速度差Vsub(=VS−VE)に基づき設定するための制動力設定用マップである。図3に示すように、速度差Vsubが第1の速度差Vsub1(例えば、3km/h)未満である場合、要求制動力BP_RQは「0(零)」に設定される。また、速度差Vsubが第1の速度差Vsub1よりも大きな値に設定される第2の速度差Vsub2(例えば、10km/h)以上である場合、要求制動力BP_RQは、最大要求値RQmaxに設定される。そして、速度差Vsubが第1の速度差Vsub1以上であって且つ第2の速度差Vsub2未満である場合、要求制動力BP_RQは、速度差Vsubが大きくなるほど次第に大きな値に設定される。なお、第1の速度差Vsub1は、「0(零)」以上の値であることが好ましい。
図4に示すマップは、車両進行方向における前側の車輪に対する制動力を補正するための補正ゲインG1を、車両のオーバーステア度合OSに応じた値に設定するためのマップである。オーバーステア度合OSは、車両のオーバーステア傾向の強さを示す値であって、オーバーステア傾向が強いほど大きくなる。本実施形態では、オーバーステア度合OSに応じて補正ゲインG1を設定するためのマップとして、車両の走行する降坂路の勾配が緩勾配である場合に用いられる緩勾配用のマップと、降坂路の勾配が急勾配である場合に用いられる急勾配用のマップとが予め用意されている。
緩勾配用のマップでは、図4にて実線で示すように、オーバーステア度合OSが第2の値OS12未満である場合、補正ゲインG1は「1」に設定される。また、オーバーステア度合OSが第2の値OS12よりも大きな第4の値OS14以上である場合、補正ゲインG1は「1」よりも大きな値に設定される第1の補正最大値Gmax1(例えば、「2」)に設定される。そして、オーバーステア度合OSが第2の値OS12以上であって且つ第4の値OS14未満である場合、補正ゲインG1は、オーバーステア度合OSが大きくなるほど次第に大きな値に設定される。
急勾配用のマップでは、図4にて破線で示すように、オーバーステア度合OSが第2の値OS12よりも小さい第1の値OS11(>0(零))未満である場合、補正ゲインG1は「1」に設定される。また、オーバーステア度合OSが第2の値OS12よりも大きく且つ第4の値OS14よりも小さい値である第3の値OS13以上である場合、補正ゲインG1は第1の補正最大値Gmax1に設定される。そして、オーバーステア度合OSが第1の値OS11以上であって且つ第3の値OS13未満である場合、補正ゲインG1は、オーバーステア度合OSが大きくなるほど次第に大きな値に設定される。
なお、本実施形態では、第1の値OS11と第3の値OS13との差が第2の値OS12と第4の値OS14との差よりも小さくなるように、各値OS11〜OS14がそれぞれ設定されている。そのため、急勾配用のマップにおける補正ゲインG1の上昇勾配は、緩勾配用のマップにおける補正ゲインG1の上昇勾配よりも急勾配になっている。
図5に示すマップは、車両進行方向における後側の車輪に対する制動力を補正するための補正ゲインG2を、車両のオーバーステア度合OSに応じた値に設定するためのマップである。本実施形態では、オーバーステア度合OSに応じて補正ゲインG2を設定するためのマップとして、車両の走行する降坂路の勾配が緩勾配である場合に用いられる緩勾配用のマップと、降坂路の勾配が急勾配である場合に用いられる急勾配用のマップとが予め用意されている。
緩勾配用のマップでは、図5にて実線で示すように、オーバーステア度合OSが第2の値OS12未満である場合、補正ゲインG1は「1」に設定される。また、オーバーステア度合OSが第4の値OS14以上である場合、補正ゲインG1は「1」よりも小さく且つ「0(零)」よりも大きな値に設定される第1の補正最小値Gmin1(例えば、「0.1」)に設定される。そして、オーバーステア度合OSが第2の値OS12以上であって且つ第4の値OS14未満である場合、補正ゲインG1は、オーバーステア度合OSが大きくなるほど次第に小さな値に設定される。
急勾配用のマップでは、図5にて破線で示すように、オーバーステア度合OSが第1の値OS11未満である場合、補正ゲインG1は「1」に設定される。また、オーバーステア度合OSが第3の値OS13以上である場合、補正ゲインG1は第1の補正最小値Gmin1に設定される。そして、オーバーステア度合OSが第1の値OS11以上であって且つ第3の値OS13未満である場合、補正ゲインG1は、オーバーステア度合OSが大きくなるほど次第に小さな値に設定される。
なお、本実施形態では、上述したように、第1の値OS11と第3の値OS13との差は、第2の値OS12と第4の値OS14との差よりも小さい。そのため、急勾配用のマップにおける補正ゲインG2の降下勾配は、緩勾配用のマップにおける補正ゲインG2の降下勾配よりも急勾配になっている。
図6に示すマップは、車両進行方向における前側の車輪に対する制動力を補正するための補正ゲインG1を、車両のアンダーステア度合USに応じた値に設定するためのマップである。アンダーステア度合USは、車両のアンダーステア傾向の強さを示す値であって、アンダーステア傾向が強いほど大きくなる。本実施形態では、アンダーステア度合USに応じて補正ゲインG1を設定するためのマップとして、車両の走行する降坂路の勾配が緩勾配である場合に用いられる緩勾配用のマップと、降坂路の勾配が急勾配である場合に用いられる急勾配用のマップとが予め用意されている。
緩勾配用のマップでは、図6にて実線で示すように、アンダーステア度合USが第2の値US12未満である場合、補正ゲインG1は「1」に設定される。また、アンダーステア度合USが第2の値US12よりも大きな第4の値US14以上である場合、補正ゲインG1は「1」よりも小さく且つ「0(零)」よりも大きな値に設定される第2の補正最小値Gmin2(例えば、「0.1」)に設定される。そして、アンダーステア度合USが第2の値US12以上であって且つ第4の値US14未満である場合、補正ゲインG1は、アンダーステア度合USが大きくなるほど次第に小さな値に設定される。
急勾配用のマップでは、図6にて破線で示すように、アンダーステア度合USが第2の値US12よりも小さい第1の値US11(>0(零))未満である場合、補正ゲインG1は「1」に設定される。また、アンダーステア度合USが第2の値US12よりも大きく且つ第4の値US14よりも小さい値である第3の値US13以上である場合、補正ゲインG1は第2の補正最小値Gmin2に設定される。そして、アンダーステア度合USが第1の値US11以上であって且つ第3の値US13未満である場合、補正ゲインG1は、アンダーステア度合USが大きくなるほど次第に小さな値に設定される。
なお、本実施形態では、第1の値US11と第3の値US13との差が第2の値US12と第4の値US14との差よりも小さくなるように、各値US11〜US14がそれぞれ設定されている。そのため、急勾配用のマップにおける補正ゲインG1の降下勾配は、緩勾配用のマップにおける補正ゲインG1の降下勾配よりも急勾配になっている。
図7に示すマップは、車両進行方向における後側の車輪に対する制動力を補正するための補正ゲインG2を、車両のアンダーステア度合USに応じた値に設定するためのマップである。本実施形態では、アンダーステア度合USに応じて補正ゲインG2を設定するためのマップとして、車両の走行する降坂路の勾配が緩勾配である場合に用いられる緩勾配用のマップと、降坂路の勾配が急勾配である場合に用いられる急勾配用のマップとが予め用意されている。
緩勾配用のマップでは、図7にて実線で示すように、アンダーステア度合USが第2の値US12未満である場合、補正ゲインG2は「1」に設定される。また、アンダーステア度合USが第4の値US14以上である場合、補正ゲインG1は「1」よりも大きな値に設定される第2の補正最大値Gmax2(例えば、「2」)に設定される。そして、アンダーステア度合USが第2の値US12以上であって且つ第4の値US14未満である場合、補正ゲインG2は、アンダーステア度合USが大きくなるほど次第に大きな値に設定される。
急勾配用のマップでは、図7にて破線で示すように、アンダーステア度合USが第1の値US11未満である場合、補正ゲインG2は「1」に設定される。また、アンダーステア度合USが第3の値US13以上である場合、補正ゲインG2は第2の補正最大値Gmax2に設定される。そして、アンダーステア度合USが第1の値US11以上であって且つ第3の値US13未満である場合、補正ゲインG2は、アンダーステア度合USが大きくなるほど次第に大きな値に設定される。
なお、本実施形態では、上述したように、第1の値US11と第3の値US13との差は、第2の値US12と第4の値US14との差よりも小さい。そのため、急勾配用のマップにおける補正ゲインG2の上昇勾配は、緩勾配用のマップにおける補正ゲインG2の上昇勾配よりも急勾配になっている。
次に、本実施形態のブレーキECU50が実行する速度制限制御処理ルーチンについて、図8に示すフローチャートを参照して説明する。この速度制限制御処理ルーチンは、車両の運転スイッチがオン状態である場合には予め設定された所定周期毎に実行される処理ルーチンである。なお、本実施形態では、「運転スイッチがオン状態」である場合、エンジン21の機関運転が許可されている。
図8に示すように、速度制限制御処理ルーチンにおいて、ブレーキECU50は、上記速度制限制御の開始条件が成立しているか否かを判定する(ステップS10)。なお、本実施形態における開始条件には、「操作ボタン55がオン状態であること」が少なくとも含まれている。
そして、速度制限制御の開始条件が成立していない場合(ステップS10:NO)、ブレーキECU50は、速度制限制御処理ルーチンを一旦終了する。一方、速度制限制御の開始条件が成立している場合(ステップS10:YES)、ブレーキECU50は、以下に示す関係式(式1)を用いて、車両のオーバーステア度合OSを算出する(ステップS11)。本実施形態では、オーバーステア度合OSは、横方向加速度Gy、車両の車体速度VS及びヨーレートYrに基づき算出される。なお、車体速度VSは、各車輪速度センサSE3〜SE6からの検出信号に基づき算出された各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度のうち少なくとも一つの車輪速度に基づき算出された値である。
続いて、ブレーキECU50は、以下に示す関係式(式2)を用いて、車両のアンダーステア度合USを算出する(ステップS12)。すなわち、アンダーステア度合USは、車両の車体速度VS及びステアリング30の操舵角αに基づき算出される。
ただし、A…スタビリティファクタ、L…車両のホイールベース長
そして、ブレーキECU50は、シフト装置25から受信したシフト情報を解析し、車両の進行方向(前進又は後進)を取得する(ステップS13)。そして、車両が前進している場合、ブレーキECU50は、「車両進行方向における前側の車輪」を前輪FR,FLとし、「車両進行方向における後側の車輪」を後輪RR,RLとする。一方、車両が後進している場合、ブレーキECU50は、「車両進行方向における前側の車輪」を後輪RR,RLとし、「車両進行方向における後側の車輪」を前輪FR,FLとする。
続いて、ブレーキECU50は、車両の走行する路面が降坂路であるか否かを判定する(ステップS14)。具体的には、ブレーキECU50は、前後方向加速度センサSE7からの検出信号に基づき算出された前後方向加速度を取得すると共に、車両の車体速度VSを時間微分した車体速度微分値を取得する。そして、ブレーキECU50は、車体速度微分値から前後方向加速度を減算し、該減算値が降坂路判定値(>0(零))以上である場合には路面が降坂路であると判定する。一方、ブレーキECU50は、上記減算値が降坂路判定値未満である場合には路面が降坂路ではないと判定する。
路面が降坂路ではない場合(ステップS14:NO)、ブレーキECU50は、速度制限制御処理ルーチンを一旦終了する。一方、路面が降坂路である場合(ステップS14:YES)、ブレーキECU50は、車両の車体速度VSから設定速度VEを減算した速度差Vsubを取得する(ステップS15)。続いて、ブレーキECU50は、図3に示す制動力設定用マップを用い、ステップS15で取得した速度差Vsubに応じた車輪FR,FL、RR,RLに対する要求制動力BP_RQを設定し(ステップS16)、設定した要求制動力BP_RQが「0(零)」ではないか否かを判定する(ステップS17)。
要求制動力BP_RQが「0(零)」である場合(ステップS17:NO)、速度制限制御によって各車輪FR,FL,RR,RLに対して制動力を付与しないため、ブレーキECU50は、速度制限制御処理ルーチンを一旦終了する。一方、要求制動力BP_RQが「0(零)」ではない場合(ステップS17:YES)、速度制限制御によって各車輪FR,FL,RR,RLに対して制動力が付与されるため、ブレーキECU50は、車両の走行する降坂路の勾配θを取得する(ステップS18)。例えば、ブレーキECU50は、車体速度微分値から前後方向加速度を減算することにより求めた減算値(=車体速度微分値−前後方向加速度)を勾配θとして取得する。そして、ブレーキECU50は、ステップS18で取得した勾配θによって、補正ゲインG1,G2を設定するために用いるマップを選択する(ステップS19)。具体的には、ブレーキECU50は、勾配θが、急勾配であるか否かの判定基準として設定された基準勾配未満である場合には緩勾配用のマップを選択し、勾配θが基準勾配以上である場合には急勾配用のマップを選択する。
続いて、ブレーキECU50は、ステップS11で取得したオーバーステア度合OSが予め設定されたオーバーステア基準値OSthを越えたか否かを判定する(ステップS20)。このオーバーステア基準値OSthは、「0(零)」よりも大きく且つ上記第1の値OS11(図4及び図5参照)未満となる値に設定されている。
オーバーステア度合OSがオーバーステア基準値OSthを越えた場合(ステップS20:YES)、ブレーキECU50は、図4に示すマップを用い、車両進行方向における前側の車輪に対する補正ゲインG1を、ステップS11で算出したオーバーステア度合OSに応じた値に設定する(ステップS21)。
続いて、ブレーキECU50は、図5に示すマップを用い、車両進行方向における後側の車輪に対する補正ゲインG2を、ステップS11で算出したオーバーステア度合OSに応じた値に設定する(ステップS22)。車両の走行する降坂路が緩勾配である場合、ブレーキECU50は、オーバーステア度合OSが上記第2の値(判定値)OS12以上であるときに、補正ゲインG2を「1」よりも小さな値に設定する。一方、車両の走行する降坂路が急勾配である場合、ブレーキECU50は、オーバーステア度合OSが上記第1の値(判定値)OS11以上であるときに、補正ゲインG2を「1」よりも小さな値に設定する。その後、ブレーキECU50は、その処理を後述するステップS25に移行する。
その一方で、オーバーステア度合OSがオーバーステア基準値OSth以下である場合(ステップS20:NO)、車両がアンダーステア傾向を示している可能性がある。そのため、ブレーキECU50は、図6に示すマップを用い、車両進行方向における前側の車輪に対する補正ゲインG1を、ステップS12で算出したアンダーステア度合USに応じた値に設定する(ステップS23)。車両の走行する降坂路が緩勾配である場合、ブレーキECU50は、アンダーステア度合USが上記第2の値(判定値)US12以上であるときに、補正ゲインG1を「1」よりも小さな値に設定する。一方、車両の走行する降坂路が急勾配である場合、ブレーキECU50は、アンダーステア度合USが上記第1の値(判定値)US11以上であるときに、補正ゲインG1を「1」よりも小さな値に設定する。
続いて、ブレーキECU50は、図7に示すマップを用い、車両進行方向における後側の車輪に対する補正ゲインG2を、ステップS12で算出したアンダーステア度合USに応じた値に設定する(ステップS24)。その後、ブレーキECU50は、その処理を次のステップS25に移行する。
ステップS25において、ブレーキECU50は、ステップS16で設定した要求制動力BP_RQに対してステップS21又はステップS23で設定した補正ゲインG1を乗算し、該演算結果を車両進行方向における前側の車輪に対する補正要求制動力BP_Fとする。続いて、ブレーキECU50は、ステップS16で設定した要求制動力BP_RQに対してステップS22又はステップS24で設定した補正ゲインG2を乗算し、該演算結果を車両進行方向における後側の車輪に対する補正要求制動力BP_Rとする(ステップS26)。
そして、ブレーキECU50は、ステップS25で設定した補正要求制動力BP_Fが車両進行方向における前側の車輪に付与されると共に、ステップS26で設定した補正要求制動力BP_Rが車両進行方向における後側の車輪に付与されるように、ブレーキアクチュエータ43を制御する(ステップS27)。その後、ブレーキECU50は、速度制限制御処理ルーチンを一旦終了する。
次に、車両が降坂路で旋回する場合の動作について、図9(a)〜(f)に示すタイミングチャートを参照して説明する。なお、前提として、速度制限制御の開始条件は成立しており、旋回中にオーバーステア度合OSが徐々に大きくなるものとする。
図9に示すように、車両が降坂路を走行する途中の第1のタイミングt1で、車両を右方向(又は左方向)に旋回させるべく運転手がステアリング30を操舵し始めると、操舵角αの絶対値は徐々に大きくなる(図9(c)参照)。この時点では、車両の車体速度VSが設定速度VE未満であるため、速度制限制御の開始条件が成立していても、各車輪FR,FL,RR,RLに対して制動力が付与されていない(図9(b)(e)(f)参照)。なお、車両の車体速度VSは時間の経過と共に次第に速くなっていき、第3のタイミングt3が経過した時点で、車体速度VSが設定速度VEを超える。
また、車両のオーバーステア度合OSは、ステアリング30の操舵が開始された第1のタイミングt1では「0(零)」のままとなっている(図9(d)参照)。しかし、操舵角αの絶対値が大きくなった第2のタイミングt2以降では、前輪FR,FLの転舵角の変化などに起因してオーバーステア度合OSは徐々に大きくなる。
そして、車両の車体速度VSが設定速度VEを超える第3のタイミングt3になると、速度制限制御によって、車体速度VSが設定速度VE以下となるように、各車輪FR,FL,RR,RLに対して制動力が付与され始める。すなわち、車両進行方向における前側の車輪AFに対する補正要求制動力BP_F、及び車両進行方向における後側の車輪ARに対する補正要求制動力BP_Rは、「0(零)」よりも大きな値にそれぞれ設定される(図9(e)(f)参照)。
なお、第3のタイミングt3の時点では、車両のオーバーステア度合OSは、「0(零)」よりも大きな値ではあるものの、オーバーステア基準値OSth未満である(図9(d)参照)。そのため、各補正ゲインG1,G2は「1」にそれぞれ設定されるため、車両進行方向における前側の車輪AFに対する補正要求制動力BP_F、及び車両進行方向における後側の車輪ARに対する補正要求制動力BP_Rは、車体速度VSから設定速度VEを減算することにより算出される速度差Vsubに応じた値に設定された要求制動力BP_RQとなっている。
車両のオーバーステア度合OSは、第3のタイミングt3以降も大きくなっていき、第4のタイミングt4を経過した時点でオーバーステア基準値OSthを超える(図9(d)参照)。第4のタイミングt4の時点では、車両の走行する降坂路の勾配θは基準勾配θth未満である(図9(a)参照)。つまり、車両の走行する降坂路は緩勾配である。そのため、上記速度差Vsubに応じた値に設定された要求制動力BP_RQを補正するか否かの判断基準である判定値は上記第2の値OS12になっているため、上記補正ゲインG1,G2は、依然として「1」のままである。すなわち、オーバーステア度合OSが第2の値OS12を超えない間では、車両進行方向における前側の車輪AFに対する補正要求制動力BP_F、及び車両進行方向における後側の車輪ARに対する補正要求制動力BP_Rは、上記速度差Vsubに応じた値に設定された要求制動力BP_RQとなっている。
その後の第5のタイミングt5以降では、第5のタイミングt5の以前よりも車両の走行する路面(降坂路)のμ値が小さくなる。路面のμ値が小さくなる場合としては、例えば、積雪している路面を車両が走行するようになった場合などが挙げられる。この場合、各車輪FR,FL,RR,RLに装着されるタイヤのグリップ力は、第5のタイミングt5以前と比較して低下する。すると、車両進行方向における後側の車輪ARに装着されるタイヤの横方向のグリップ力の限界値GPymaxが小さくなり、オーバーステア度合OSが大きくなり始める(図9(d)参照)。
そして、第6のタイミングt6で、オーバーステア度合OSが上記第2の値OS12を超える。すると、上記補正ゲインG2が「1」未満の値に設定されるため、車両進行方向における後側の車輪ARに対する補正要求制動力BP_Rは、上記速度差Vsubに応じた値に設定された要求制動力BP_RQよりも小さくなる(図9(e)参照)。このとき、補正要求制動力BP_Rの減少速度は、オーバーステア度合OSの上昇速度が速いほど速くなる。
なお、補正要求制動力BP_Rが小さくなり始める第6のタイミングt6からその後の第7のタイミングt7までの間では、オーバーステア度合OSが徐々に大きくなるため、補正要求制動力BP_Rは、オーバーステア度合OSが大きくなるのに従い徐々に小さくなっていく(図9(d)(e)参照)。しかし、第7のタイミングt7を経過すると、オーバーステア度合OSがほぼ一定となる。すなわち、図9(d)に示すように、オーバーステア度合OSは、上記第2の値OS12と上記第3の値OS13との間の値で保持される。そのため、第7のタイミングt7から、車両の走行する降坂路の勾配θが変わる第8のタイミングt8までの間では、補正要求制動力BP_Rは、第7のタイミングt7の時点の値で保持される(図9(e)参照)。
第6のタイミングt6から第7のタイミングt7までのように補正要求制動力BP_Rが小さくなると、車両進行方向における後側の車輪ARに付与される制動力が、補正要求制動力BP_Rの低下に伴って小さくなる。そのため、車両進行方向における後側の車輪ARに装着されるタイヤの横方向のグリップ力の限界値GPymaxが大きくなる、又は限界値GPymaxの低下が抑制される。その結果、車両進行方向における後側の車輪ARに装着されるタイヤが、横滑りしにくくなる。これにより、車両の実際の旋回半径が、運転手によるステアリング30の操舵などによって決まる旋回半径、即ち運転手が車両に要求する旋回半径に近づく。
また、オーバーステア度合OSが次第に大きくなる第6のタイミングt6から第7のタイミングt7までの間では、上記補正ゲインG1は、オーバーステア度合OSの上昇に伴って、「1」よりも次第に大きくなる。そのため、第6のタイミングt6から第7のタイミングt7までの間では、車両進行方向における前側の車輪AFに対する補正要求制動力BP_Fは、上記速度差Vsubに応じた値に設定された要求制動力BP_RQから大きくなる方向に徐々に変化する(図9(f)参照)。
その結果、車両進行方向における後側の車輪ARに付与される制動力が、補正要求制動力BP_Rの低下に伴って小さくなっても、車両進行方向における前側の車輪AFに付与される制動力が、補正要求制動力BP_Fの上昇に伴って大きくなる。これにより、車両のオーバーステア傾向を解消させるべく車両進行方向における後側の車輪ARに付与される制動力が小さくなっても、車両全体の制動力の低下が抑制される。
その後、第8のタイミングt8で、車両の走行する降坂路の勾配θが基準勾配θthを超えると、車両の加速傾向が強くなる。つまり、図9では図示を省略したが、車両の車体速度VSが高速側に変化するおそれがある。しかし、この場合、要求制動力BP_RQは、車体速度VSの変化に応じて第8のタイミングt8以前よりも大きな値に設定される(図9(e)(f)参照)。その結果、第8のタイミングt8以降では、要求制動力BP_RQを第8のタイミングt8以前よりも大きくすることで、車体速度VSが設定速度VE以下とされる。
また、車両の走行する降坂路の勾配θが基準勾配θthを超える第8のタイミングt8以降では、上記速度差Vsubに応じた値に設定された要求制動力BP_RQを補正するか否かの判断基準である判定値は、上記第2の値OS12から第1の値OS11(<OS12)に切り替えられる。すると、オーバーステア度合OSが第2の値OS12と第3の値OS13との間の値であるため、上記補正ゲインG2は第8のタイミングt8以前よりも小さくなると共に、上記補正ゲインG1は第8のタイミングt8以前よりも大きくなる。
その結果、図9(e)に示すように、車両進行方向における後側の車輪ARに対する補正要求制動力BP_Rと要求制動力BP_RQとの制動力差BPsub_Rは、第8のタイミング8以前よりも大きくなる。つまり、要求制動力BP_RQが大きく設定される状態においては、要求制動力BP_RQが小さく設定される状態の場合と比較して、車両進行方向における後側の車輪ARに付与される制動力が大きく補正される。そのため、車両の走行する路面が急勾配になっても、車両進行方向における後側の車輪ARが横滑りしやすくなることが抑制される。その結果、車両の旋回半径は、運転手が要求する旋回半径から大きく乖離しない。
また、第8のタイミングt8では、車両進行方向における前側の車輪AFに対する補正要求制動力BP_Fと要求制動力BP_RQとの制動力差BPsub_Fは、第8のタイミング8以前よりも大きくなる。そのため、車両の挙動を安定化させるべく車両進行方向における後側の車輪ARに付与される制動力が補正されても、車両の車体速度VSが設定速度VEを超えることが抑制される。また、車体速度VSが一時的に設定速度VEを超えることがあっても、車体速度VSは、速やかに設定速度VE以下に調整される。
次に、降坂路で旋回する車両のアンダーステア度合USが大きくなる場合の当該車両の動作について説明する。
さて、車両が降坂路を走行する途中で、車両を右方向(又は左方向)に旋回させるべく運転手がステアリング30を操舵し始めると、車両進行方向における前側の車輪AFに対する制動力が大きくなるほど、当該車輪AFに装着されるタイヤの横方向のグリップ力の限界値GPymaxが小さくなる。そして、アンダーステア度合USが大きくなると、該アンダーステア度合USに基づき補正ゲインG1,G2がそれぞれ設定される。
設定された補正ゲインG1,G2が共に「1」である場合、その時点の車体速度VSと設定速度VEとの速度差Vsubに応じた要求制動力BP_RQが各車輪FR,FL,RR,RLに付与されるように、ブレーキアクチュエータ43が作動する。
しかし、アンダーステア度合USが大きくなり、速度差Vsubに応じた値に設定された要求制動力BP_RQを補正するか否かの判断基準である判定値をアンダーステア度合USが超えると、補正ゲインG1は「1」よりも小さな値に設定されると共に、補正ゲインG2は「1」よりも大きな値に設定される。なお、この判定値は、車両の走行する降坂路が緩勾配である場合には第2の値US12であり、降坂路が急勾配である場合には第2の値US12よりも小さい第1の値US11である。
すると、車両進行方向における前側の車輪AFに対する補正要求制動力BP_Fは、その時点の要求制動力BP_RQよりも小さくなると共に、車両進行方向における後側の車輪ARに対する補正要求制動力BP_Rは、その時点の要求制動力BP_RQよりも大きくなる。その結果、車両進行方向における前側の車輪AFに付与される制動力は、補正要求制動力BP_Fの低下に伴って小さくなる。これにより、車両進行方向における前側の車輪AFに装着されるタイヤの横方向のグリップ力の限界値GPymaxが大きくなる、又は限界値GPymaxの低下が抑制される。その結果、車両進行方向における前側の車輪AFに装着されるタイヤが、横滑りしにくくなる。そのため、車両の実際の旋回半径が、運転手によるステアリング30の操舵などによって決まる旋回半径、即ち運転手が車両に要求する旋回半径に近づく。
また、車両の挙動を安定化させるべく補正要求制動力BP_Fが小さくされても、補正要求制動力BP_Rが大きくされることにより、車両進行方向における後側の車輪ARに付与される制動力が大きくなる。つまり、車両進行方向における前側の車輪AFに付与される制動力の低下が、車両進行方向における後側の車輪ARに付与される制動力の上昇によって相殺される。その結果、車両全体に対する制動力はほとんど低下されない。したがって、補正要求制動力BP_Fの低下に伴う制動制御中における車両の加速が抑制される。
以上説明したように、本実施形態では、以下に示す効果を得ることができる。
(1)各車輪FR,FL,RR,RLに制動力が付与された状態で車両が降坂路を走行する場合では、取得されたオーバーステア度合OSによって、車両進行方向における後側の車輪ARに付与される制動力が小さくされる。すなわち、降坂路上で車両の向きが変わるいわゆる偏向状態では、重力により当該車両に発生するモーメント(オーバーステアを助長させる方向のモーメント)を打ち消すように、降坂路において上側に位置する車輪(即ち、車両進行方向における後側の車輪AR)に装着されるタイヤに横方向のグリップ力GPyが発生する。これにより、車両進行方向における後側の車輪ARに装着されるタイヤの横滑りが発生しにくくなる。その結果、車両のオーバーステア傾向が解消される又はオーバーステア傾向が弱くなる。したがって、降坂路で旋回する車両のオーバーステア傾向を弱くすることができる。
(2)速度制限制御によって各車輪FR,FL,RR,RLに対して制動力が付与される場合、車両の車体速度VSと設定速度VEとの速度差Vsubが大きいほど、要求制動力BP_RQが大きな値に設定される。つまり、速度差Vsubが大きいほど、車両進行方向における後側の車輪ARに付与される制動力が大きくなるため、オーバーステア度合OSが大きくなりやすい。そこで、本実施形態では、速度制限制御によって各車輪FR,FL,RR,RLに対して制動力が付与されている場合には、取得されたオーバーステア度合OSによって、車両進行方向における後側の車輪ARに付与される制動力が調整される。そのため、速度制限制御が行われる車両が降坂路で旋回する場合に、当該車両のオーバーステア傾向を弱くすることができる。
(3)オーバーステア度合OSが大きくなって車両進行方向における後側の車輪ARに付与される制動力が小さくされても、車両進行方向における前側の車輪AFに付与される制動力が大きくされる。その結果、車両全体の制動力の低下が抑制される。したがって、旋回時における車両のオーバーステア傾向を弱くしつつ、車両の車体速度VSの上昇を抑制することができる。
(4)降坂路を走行する車両の挙動がオーバーステア傾向である場合、車両の走行する降坂路の勾配が急勾配であるときほど、車両のオーバーステア度合OSが急激に大きくなりやすい。そこで、本実施形態では、車両の走行する降坂路が急勾配である場合には、降坂路が緩勾配である場合と比較して、車両進行方向における後側の車輪ARに対する制動力を小さくする制御の開始基準となる判定値が小さく設定される。そのため、降坂路が急勾配である場合には、車両進行方向における後側の車輪ARに対する制動力を小さくする制御が、降坂路が緩勾配である場合と比較して早いタイミングで開始される。その結果、オーバーステア度合OSが急激に大きくなる前に、車両進行方向における後側の車輪ARに装着されるタイヤの横方向のグリップ力の限界値GPymaxを大きくすることが可能となる。そのため、車両の走行する降坂路の勾配が急勾配であっても、旋回する車両のオーバーステア傾向を弱くすることができる。
一方、車両の走行する降坂路の勾配が緩勾配であるときには、車両進行方向における後側の車輪ARに対する制動力を小さくする制御の開始を遅らせることが可能となる。そのため、車両進行方向における後側の車輪ARに対する制動力を小さくする制御の不要な実行を抑制することができる。
(5)降坂路を走行する車両の挙動がオーバーステア傾向である場合、車両の走行する降坂路の勾配が急勾配であるときほど、オーバーステア度合OSが急激に大きくなりやすい。そこで、本実施形態では、車両の走行する降坂路の勾配が急勾配であるときほど、車両進行方向における後側の車輪ARに対する制動力は大幅に小さくされる。その結果、オーバーステア度合OSが急激に大きくなる前に、車両進行方向における後側の車輪AFに装着されるタイヤの横方向のグリップ力の限界値GPymaxを大きくすることが可能となる。そのため、車両の走行する降坂路の勾配の大きさによらず、旋回する車両のオーバーステア傾向を弱くすることができる。
(6)各車輪FR,FL,RR,RLに制動力が付与された状態で車両が降坂路を走行する場合では、取得されたアンダーステア度合USによって、車両進行方向における前側の車輪AFに付与される制動力が小さくされる。すなわち、降坂路上でステアリング30が操舵されても車両の向きがほとんど変わらない状態では、重力により当該車両に発生するモーメント(アンダーステアを助長させる方向のモーメント)を打ち消すように、降坂路において下側に位置する車輪(即ち、車両進行方向における前側の車輪AF)に装着されるタイヤに横方向のグリップ力GPyが発生する。これにより、車両進行方向における前側の車輪AFに装着されるタイヤの横滑りが発生しにくくなる。その結果、車両のアンダーステア傾向が解消される又はアンダーステア傾向が弱くなる。したがって、降坂路で旋回する車両のアンダーステア傾向を弱くすることができる。
(7)速度制限制御によって各車輪FR,FL,RR,RLに対して制動力が付与される場合、車両の車体速度VSと設定速度VEとの速度差Vsubが大きいほど、要求制動力BP_RQが大きな値に設定される。つまり、速度差Vsubが大きいほど、車両進行方向における前側の車輪AFに付与される制動力が大きくなるため、アンダーステア度合USが大きくなりやすい。そこで、本実施形態では、速度制限制御によって各車輪FR,FL,RR,RLに対して制動力が付与されている場合には、取得されたアンダーステア度合USによって、車両進行方向における前側の車輪AFに付与される制動力が調整される。そのため、速度制限制御が行われる車両が降坂路で旋回する場合に、当該車両のアンダーステア傾向を弱くすることができる。
(8)アンダーステア度合USが大きくなって車両進行方向における前側の車輪AFに付与される制動力が小さくされても、車両進行方向における後側の車輪ARに付与される制動力が大きくされる。その結果、車両全体の制動力の低下が抑制される。したがって、旋回時における車両のアンダーステア傾向を弱くしつつ、車両の車体速度VSの上昇を抑制することができる。
(9)降坂路を走行する車両の挙動がアンダーステア傾向である場合、車両の走行する降坂路の勾配が急勾配であるときほど、車両のアンダーステア度合USが急激に大きくなりやすい。そこで、本実施形態では、車両の走行する降坂路が急勾配である場合には、降坂路が緩勾配である場合と比較して、車両進行方向における前側の車輪AFに対する制動力を小さくする制御の開始基準となる判定値が小さく設定される。そのため、降坂路が急勾配である場合には、車両進行方向における前側の車輪AFに対する制動力を小さくする制御が、降坂路が緩勾配である場合と比較して早いタイミングで開始される。その結果、アンダーステア度合USが急激に大きくなる前に、車両進行方向における前側の車輪AFに装着されるタイヤの横方向のグリップ力の限界値GPymaxを大きくすることが可能となる。そのため、車両の走行する降坂路の勾配が急勾配であっても、旋回する車両のアンダーステア傾向を弱くすることができる。
一方、車両の走行する降坂路の勾配が緩勾配であるときには、車両進行方向における前側の車輪AFに対する制動力を小さくする制御の開始を遅らせることが可能となる。そのため、車両進行方向における前側の車輪AFに対する制動力を小さくする制御の不要な実行を抑制することができる。
(10)降坂路を走行する車両の挙動がアンダーステア傾向である場合、車両の走行する降坂路の勾配が急勾配であるときほど、アンダーステア度合USが急激に大きくなりやすい。そこで、本実施形態では、車両の走行する降坂路の勾配が急勾配であるときほど、車両進行方向における前側の車輪AFに対する制動力が大幅に小さくされる。その結果、アンダーステア度合USが急激に大きくなる前に、車両進行方向における前側の車輪AFに装着されるタイヤの横方向のグリップ力の限界値GPymaxを大きくすることが可能となる。そのため、車両の走行する降坂路の勾配の大きさによらず、旋回する車両のアンダーステア傾向を弱くすることができる。
(11)本実施形態では、オーバーステア基準値OSthは、「0(零)」よりも大きく且つ第1の値OS11よりも小さな値に設定されている。オーバーステア度合OSがオーバーステア基準値OSthよりも大きく且つ第1の値OS11未満である場合とは、車両がオーバーステア傾向ではあるものの、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を補正する必要はない場合である。そのため、オーバーステア基準値OSthを第1の値OS11よりも小さな値に設定することにより、車両がオーバーステア傾向を示している場合に、車両進行方向における前側の車輪AFに対する制動力の補正用の補正ゲインG1が「1」よりも小さな値に設定されると共に、車両進行方向における後側の車輪ARに対する制動力の補正用の補正ゲインG2が「1」よりも大きな値に設定されることが抑制される。したがって、オーバーステア傾向である車両に対して、アンダーステア傾向を解消させるための制動制御が行われることを抑制できる。
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態を図10及び図11に従って説明する。なお、第2の実施形態は、速度制限制御処理ルーチンの内容が第1の実施形態と異なっている。したがって、以下の説明においては、第1の実施形態と相違する部分について主に説明するものとし、第1の実施形態と同一又は相当する部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
図10に示すように、速度制限制御処理ルーチンにおいて、ブレーキECU50は、上記速度制限制御の開始条件が成立しているか否かを判定する(ステップS40)。速度制限制御の開始条件が成立していない場合(ステップS40:NO)、ブレーキECU50は、設定速度VE及び基準設定速度VE_Startを予め設定された基準値VE_base(例えば、10km/h)とし(ステップS41)、速度制限制御処理ルーチンを一旦終了する。
一方、速度制限制御の開始条件が成立している場合(ステップS40:YES)、ブレーキECU50は、車輪速度と車両の車体速度VSとに基づいたスリップ量SLPを車輪FR,FL,RR,RL毎に取得する(ステップS42)。続いて、ブレーキECU50は、各車輪FR,FL,RR,RLのスリップ積算値σSLPを演算する(ステップS43)。具体的には、右前輪FRのスリップ積算値σSLPを演算する場合、ブレーキECU50は、現時点の右前輪FRのスリップ積算値σSLPに対して今回の右前輪FRのスリップ量SLPを加算し、この演算結果を右前輪FRのスリップ積算値σSLPとする。そして、ブレーキECU50は、他の車輪FL,RR,RLのスリップ積算値σSLPを同様の処理で演算する。
そして、ブレーキECU50は、積算カウントLsを「1」だけインクリメントし(ステップS44)、この積算カウントLsが予め設定されたカウント判定値Lsth(例えば、10)以上であるか否かを判定する(ステップS45)。積算カウントLsがカウント判定値Lsth未満である場合(ステップS45:NO)、ブレーキECU50は、その処理を後述するステップS49に移行する。
一方、積算カウントLsがカウント判定値Lsth以上である場合(ステップS45:YES)、ブレーキECU50は、各車輪FR,FL,RR,RLの平均スリップ量SLP_AVEを演算する(ステップS46)。具体的には、右前輪FRの平均スリップ量SLP_AVEを求める場合、ブレーキECU50は、右前輪FRのスリップ積算値σSLPをカウント判定値Lsthで除算し、この演算結果(=σSLP/Lsth)を右前輪FRの平均スリップ量SLP_AVEとする。そして、ブレーキECU50は、他の車輪FL,RR,RLの平均スリップ量SLP_AVEを同様の処理で演算する。
続いて、ブレーキECU50は、各車輪FR,FL,RR,RLのスリップ積算値σSLP及び積算カウントLsを「0(零)」にリセットする(ステップS47)。そして、ブレーキECU50は、右前輪FRの平均スリップ量SLP_AVEと左前輪FLの平均スリップ量SLP_AVEとの差分を前輪スリップ量差ΔSLP_Fとするとともに、右後輪RRの平均スリップ量SLP_AVEと左後輪RLの平均スリップ量SLP_AVEとの差分を後輪スリップ量差ΔSLP_Rとする(ステップS48)。続いて、ブレーキECU50は、その処理を次のステップS49に移行する。
ここで、車両の挙動が不安定になる可能性(即ち、オーバーステア傾向が大きくなったり、アンダーステア傾向が大きくなったりする可能性)が高い場合としては、右側の車輪FR,RRが接地する路面のμ値と左側の車輪FL,RLが接地する路面のμ値とが大きく異なる左右異μ路を車両が走行する場合が挙げられる。この場合、右側の車輪FR,RRに対する制動力と左側の車輪FL,RLに対する制動力とが同等であっても、右側の車輪FR,RRのスリップ量SLPと左側の車輪FL,RLのスリップ量SLPとの間に乖離が生じる。この場合、現時点では車両の挙動が安定していたとしても、今後、車両の挙動の安定性が低下するおそれがある。そのため、本実施形態では、車両の挙動が不安定になる可能性が高いほど大きな値となる車両状態値として、前輪スリップ量差ΔSLP_F及び後輪スリップ量差ΔSLP_Rが取得される。
ステップS49において、ブレーキECU50は、以下に示す第1及び第2の各条件が全て成立しているか否かを判定する。なお、以下に示す各判定値X,Yは、同一値であってもよいし、互いに異なる値であってもよい。
(第1の条件)前輪スリップ量差ΔSLP_Fが予め設定された前輪用判定値Xよりも大きいこと。
(第2の条件)後輪スリップ量差ΔSLP_Rが予め設定された後輪用判定値Yよりも大きいこと。
第1及び第2の各条件が全て成立している場合(ステップS49:YES)、ブレーキECU50は、以下に示す第3及び第4の各条件が全て成立しているか否かを判定する(ステップS50)。なお、以下に示すタイマ判定値Trthは、設定速度VEの増大量に時間的な制約を設けるための判定値であって、上記のカウント判定値Lsth以上の値に設定されている。
(第3の条件)前回の設定速度VE(n−1)が、現時点の基準設定速度VE_Startに加算制限値ΔVE(例えば、2km/h)を加算した上限値未満であること。
(第4の条件)補正タイマTrが予め設定されたタイマ判定値Trth未満であること。
第3及び第4の各条件が全て成立している場合(ステップS50:YES)、ブレーキECU50は、補正タイマTrを「1」だけインクリメントし(ステップS51)、今回の設定速度VE(n)を、前回の設定速度VE(n−1)に対して加算値βを加算した値とする(ステップS52)。なお、加算値βは、上記の加算制限値ΔVEよりも十分に小さい値に予め設定されている。
そして、ブレーキECU50は、現時点の車体速度VSから今回の設定速度VE(n)を減算した速度差Vsubに応じた車両に対する要求制動力BP_RQを設定し(ステップS53)、この要求制動力BP_RQが車両に付与されるようにブレーキアクチュエータ43を制御する(ステップS54)。例えば、ブレーキECU50は、各車輪FR,FL,RR,RLに対して同程度の制動力が付与されるようにブレーキアクチュエータ43を制御する。その後、ブレーキECU50は、速度制限制御処理ルーチンを一旦終了する。
その一方で、第3及び第4の各条件のうち少なくとも一方が成立していない場合(ステップS50:NO)、ブレーキECU50は、補正タイマTrがタイマ判定値Trth以上であるか否かを判定する(ステップS55)。補正タイマTrがタイマ判定値Trth以上である場合(ステップS55:YES)、ブレーキECU50は、補正タイマTrを「0(零)」にリセットするとともに、基準設定速度VE_Startに前回の設定速度VE(n−1)を設定する(ステップS56)。そして、ブレーキECU50は、その処理を次のステップS57に移行する。一方、補正タイマTrがタイマ判定値Trth未満である場合(ステップS55:NO)、前回の設定速度VE(n−1)が上記上限値(=VE_Start+ΔVE)以上であるため、ブレーキECU50は、その処理を次のステップS57に移行する。
ステップS57において、ブレーキECU50は、今回の設定速度VE(n)を前回の設定速度VE(n−1)とする。そして、ブレーキECU50は、その処理を前述したステップS53に移行する。
また、上記第1及び第2の各条件のうち少なくとも一方が成立していない場合(ステップS49:NO)、車両の挙動が不安定化する可能性が低い又は不安定化する可能性が低くなったと判断される。そして、ブレーキECU50は、今回の設定速度VE(n)を、前回の設定速度VE(n−1)から加算値βを減算した減算値、及び基準値VE_baseのうち大きい方の値とする(ステップS58)。すなわち、車両の挙動が不安定化する可能性が低くなった場合、設定速度VEは、基準値VE_baseに向けて次第に小さくなる。また、設定速度VEは、基準値VE_baseよりも小さい値に設定されることがない。続いて、ブレーキECU50は、その処理を前述したステップS53に移行する。
すなわち、本実施形態では、ステップS52,S57,S58の何れか一つのステップで今回の設定速度VE(n)が設定され、ステップS53,S54により、今回の設定速度VE(n)に応じた制動力が各車輪FR,FL,RR,RLに付与される。したがって、ステップS52〜S54,S57により、速度制限制御の実行中に取得した前輪スリップ量差ΔSLP_F及び後輪スリップ量差ΔSLP_Rが大きい場合には、前輪スリップ量差ΔSLP_F及び後輪スリップ量差ΔSLP_Rが小さい場合と比較して車両に対する制動力を小さくする補正処理が構成される。
次に、車両が急勾配の降坂路で旋回する場合の動作について、図11(a)〜(f)に示すタイミングチャートを参照して説明する。なお、前提として、速度制限制御の開始条件は成立しており、旋回中に各スリップ量差ΔSLP_F,ΔSLP_Rが徐々に大きくなるものとする。
図11(a)(b)に示すように、勾配θが非常に大きい急勾配の降坂路を車両が走行する場合、車体速度VSがその時点の設定速度VEを超える第11のタイミングt11で、速度制限制御が開始される。すると、図11(f)に示すように、車両に対する要求制動力BP_RQは、車体速度VSと設定速度VEとの速度差Vsubに応じた値に設定される。その結果、各車輪FR,FL,RR,RLに対して制動力が付与されるようになり、車体速度VSが設定速度VE以下に調整される(図11(b)参照)。
ここで、図11(c)に示すように、速度制限制御が開始された第11のタイミングt11の時点では、車両が旋回している。このとき、車両の旋回する路面が左右異μ路である場合には、速度制限制御の実行によって各車輪FR,FL,RR,RLに制動力が付与されているため、図11(d)(e)に示すように、前輪スリップ量差ΔSLP_F及び後輪スリップ量差ΔSLP_Rは、次第に大きくなる。そして、後輪スリップ量差ΔSLP_Rが後輪用判定値Yを超える第12のタイミングt12では、前輪スリップ量差ΔSLP_Fが前輪用判定値X未満である。そのため、この時点では、車両の挙動が不安定化する可能性が高いとは判断されないため、設定速度VEを高速側に補正する補正処理は行われない。
その後の第13のタイミングt13で、後輪スリップ量差ΔSLP_Rが後輪用判定値Yよりも大きく、且つ前輪スリップ量差ΔSLP_Fが前輪用判定値Xよりも大きい状態になる。その結果、本実施形態では、第13のタイミングt13で、車両の挙動が不安定化する可能性が高くなったと判断され、補正処理が開始される。
すなわち、図11(b)に示すように、設定速度VEは、時間が経過するに連れて次第に高速側に補正される。すると、車体速度VSから設定速度VEを減算した速度差Vsubは次第に小さくなる。そのため、速度差Vsubに応じた値に設定される要求制動力BP_RQは、図11(f)に示すように、設定速度VEの高速側への変化に従って次第に小さくなる。その結果、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力も次第に小さくなり、各車輪FR,FL,RR,RLに装着されるタイヤのグリップ力が次第に大きくなる。
なお、本実施形態では、設定速度VEの急激な変化が制限されている。具体的には、図11(b)に示すように、第13のタイミングt13から規定時間KTが経過する第15のタイミングt15までの間の設定速度VEの補正量の上限値は、加算制限値ΔVEとされている。そのため、第15のタイミングt15よりも前の第14のタイミングt14で、第13のタイミングt13からの設定速度VEの補正量が加算制限値ΔVEに達すると、第14のタイミングt14から第15のタイミングt15までの間では、設定速度VEは、第14のタイミングt14時点の値で保持される。そして、この第14のタイミングt14から第15のタイミングt15までの間に、車両の車体速度VSが設定速度VEとほぼ同程度の速度となる。なお、ここでいう「規定時間KT」は、上記のタイマ判定値Trthに対して速度制限制御処理ルーチンのサイクルタイムを掛け合わせた値である。
また、第15のタイミングt15になっても、後輪スリップ量差ΔSLP_Rが後輪用判定値Yよりも大きく、且つ前輪スリップ量差ΔSLP_Fが前輪用判定値Xよりも大きい場合には、車両の挙動が不安定化する可能性が未だ高いため、補正処理が継続される。すなわち、図11(b)(f)に示すように、第15のタイミングt15以降では、設定速度VEは時間の経過とともに高速側に変化し始め、要求制動力BP_RQは、設定速度VEの高速側への変化に連動して次第に小さくなる。その結果、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力は、要求制動力BP_RQの変化に伴い次第に低下される。すると、各車輪FR,FL,RR,RLに装着されるタイヤのグリップ力が次第に大きくなり、図11(d)(e)に示すように、前輪スリップ量差ΔSLP_F及び後輪スリップ量差ΔSLP_Rが次第に小さくなる。
ここでも、図11(b)に示すように、第15のタイミングt15から規定時間KTが経過する第17のタイミングt17よりも前の第16のタイミングt16で、第15のタイミングt15からの設定速度VEの補正量が加算制限値ΔVEに達する。そのため、第16のタイミングt16から第17のタイミングt17までの間では、設定速度VEは、第16のタイミングt16時点の値で保持される。
そして、本実施形態では、図11(d)(e)に示すように、第17のタイミングt17で、前輪スリップ量差ΔSLP_Fが前輪用判定値X以下になるとともに、後輪スリップ量差ΔSLP_Rが後輪用判定値Y以下となる。その結果、車両の挙動が不安定になる可能性が低くなったと判断され、補正処理の実行条件が非成立となる。すると、図11(b)に示すように、設定速度VEは、時間が経過するに連れて次第に低速側に補正される。その結果、車両の車体速度VSと設定速度VEとの速度差Vsubが増加傾向となるため、図11(f)に示すように、要求制動力BP_RQは次第に大きくなる。すなわち、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力が次第に大きくなる。
そして、図11(b)に示すように、その後の第18のタイミングt18で、設定速度VEが基準値VE_baseになると、設定速度VEは基準値VE_baseで保持されるようになる。すると、図11(f)に示すように、要求制動力BP_RQは、第18のタイミングt18時点の値で保持される。すなわち、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力の変動が制限される。
以上説明したように、本実施形態では、以下に示す効果を得ることができる。
(12)降坂路の走行中の車両で速度制限制御が行われている場合、各車輪FR,FL,RR,RLには、車両の車体速度VSと設定速度VEとの速度差Vsubが大きいほど大きな制動力が付与される。そのため、特に急勾配の降坂路の走行中に速度制限制御が行われると、車両に対する制動力が大きいために、前輪FR,FL及び後輪RR,RLの少なくとも一方が横滑りしやすい状態になる。そこで、本実施形態では、速度制限制御の実行中においては、車両の挙動が不安定になる可能性が高いときには、車両の挙動が不安定になる可能性が低いときよりも要求制動力BP_RQを小さくする補正処理が行われる。その結果、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力が小さくされる。そのため、各車輪FR,FL,RR,RLに装着されるタイヤの横方向のグリップ力の限界値が大きくなり、タイヤの横方向のグリップ力の要求値が、その時点の当該タイヤの横方向のグリップ力の限界値を超えにくくなる。その結果、今後、車両の挙動が不安定化する可能性が低くなる。したがって、速度制限制御が行われる車両が降坂路で旋回する場合に、当該車両のオーバーステア傾向及びアンダーステア傾向を弱くすることができる。
(13)補正処理の開始タイミングを図る方法としては、オーバーステア度合OSやアンダーステア度合USが大きくなったタイミングで補正処理を開始させる方法も考えられる。この場合、車両の挙動が不安定化してから補正処理が開始されるようになるため、不安定化していないにも拘わらず補正処理が不要に開始される事態を回避することが可能となるものの、補正処理の開始タイミングに遅れが生じるおそれがある。この点、本実施形態では、車両の挙動が不安定化し始める前に補正処理を開始させることが可能となる。そのため、車両の挙動の安定性を保持することができるようになる。
(14)本実施形態の補正処理では、設定速度VEを高速側に補正することにより、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を小さくしている。その結果、車両の車体速度VSを適切に制御しつつ、車両の挙動の不安定化を抑制することができる。
(15)また、本実施形態の補正処理では、設定速度VEは、時間が経過するに連れて次第に高速側に補正されるため、要求制動力BP_RQが急激に小さくなることが回避される。したがって、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力は徐々に小さくされることになり、補正処理の開始に伴う車両の急加速を抑制することができる。
(16)車両の挙動が不安定化する可能性のある路面状況としては、一例として、右側の車輪FR,RRが接地する路面のμ値と左側の車輪FL,RLが接地する路面のμ値とが異なる左右異μ路が挙げられる。本実施形態では、右側の車輪FR,RRに対する制動力と左側の車輪FL,RLに対する制動力とがほぼ一致する状態で各スリップ量差ΔSLP_F,ΔSLP_Rが取得される。そして、こうしたスリップ量差ΔSLP_F,ΔSLP_Rに基づき、走行中の路面が左右異μ路であるか否かを推定することが可能となる。そのため、今後、車両の挙動が不安定化する可能性が高いか否かを容易に推定することができ、ひいては補正処理を適切なタイミングで開始することができるようになる。
なお、上記各実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・第1の実施形態において、図6及び図7に示すマップにおいて、第1の値US11と第3の値US13との差が第2の値US12と第4の値US14との差と同程度となるように各値US11〜US14を設定してもよい。この場合、図6に示すマップでは、急勾配用のマップにおける補正ゲインG1の降下勾配は、緩勾配用のマップにおける補正ゲインG1の降下勾配と同程度となる。また、図7に示すマップでは、急勾配用のマップにおける補正ゲインG2の上昇勾配は、緩勾配用のマップにおける補正ゲインG2の上昇勾配と同程度となる。
・また、第1の実施形態において、図6及び図7に示すマップでは、第1の値US11を、第2の値US12と同一値としてもよい。この場合、車両の走行する降坂路が急勾配であっても緩勾配であっても、車両のアンダーステア傾向を解消させるための制動制御は、同一タイミングで開始される。
・第1の実施形態において、図6及び図7に示すマップでは、2種類のマップ(緩勾配用のマップと急勾配用のマップ)を用意しているが、3種類以上の任意数(例えば、4種類)のマップを用意してもよい。そして、降坂路の勾配θの大きさによって、各マップを使い分けてもよい。
また、第1の実施形態において、図6及び図7に示すマップでは、降坂路の勾配θには関係なく1種類のマップのみであってもよい。
・第1の実施形態において、車両のアンダーステア傾向を解消させるための制動制御では、マップを用いないで、車両進行方向における前側の車輪AFに対する補正要求制動力BP_Fを設定してもよい。例えば、車両のアンダーステア傾向を解消させるための制動制御の開始判定用の基準値を、アンダーステア度合USが超えた場合には、当該制動制御の開始前の要求制動力BP_RQから補正量だけ減算した値を、補正要求制動力BP_Fとしてもよい。なお、補正量を、アンダーステア度合USが大きいほど大きな値に設定してもよいし、予め設定された一定値であってもよい。
また、車両のアンダーステア傾向を解消させるための制動制御の開始判定用の基準値をアンダーステア度合USが超えた場合には、車両進行方向における前側の車輪AFに付与可能な制動力の上限値を、上記開始判定用の基準値をアンダーステア度合USが超える前よりも小さくしてもよい。このとき、車両進行方向における前側の車輪AFに付与可能な制動力の上限値を、アンダーステア度合USが大きいほど小さな値としてもよい。
・第1の実施形態において、降坂路の勾配が所定勾配値以上であって且つステアリングの操舵角の絶対値が所定操舵角以上である場合には、旋回内側の車輪(右旋回時には右側の車輪)に対する制動力が旋回外側の車輪(右旋回時には左側の車輪)に対する制動力よりも大きくするようにしてもよい。この場合、その時点の車両の車体速度VSと設定速度VEとの速度差Vsubが大きいほど要求制動力BP_RQが大きな値に設定される。また、車両進行方向における前側の車輪に対する補正要求制動力BP_Fは、アンダーステア度合USが大きいほど小さな値に設定されると共に、車両進行方向における後側の車輪に対する補正要求制動力BP_Rは、アンダーステア度合USが大きいほど大きな値に設定される。
そして、車両進行方向における前側の各車輪のうち、旋回内側の車輪には、補正要求制動力BP_Fに補正量を加算した値に応じた制動力が付与され、旋回外側の車輪には、補正要求制動力BP_Fから補正量を減算した値に応じた制動力が付与される。また、車両進行方向における後側の各車輪のうち、旋回内側の車輪には、補正要求制動力BP_Rに補正量を加算した値に応じた制動力が付与され、旋回外側の車輪には、補正要求制動力BP_Rから補正量を減算した値に応じた制動力が付与される。このような制御構成を採用することで、車両のアンダーステア傾向の解消に更なる貢献をすることが可能となる。なお、上記補正値は、一定値であってもよいし、車両の走行する降坂路の勾配θなどによって変更されてもよい。
・第1の実施形態において、運転手によるブレーキ操作によって各車輪FR,FL,RR,RLに制動力が付与された車両が降坂路を走行する場合において、当該車両のアンダーステア度合USが大きくなったときにも、車両のアンダーステア傾向を解消させるための制動制御を行ってもよい。この場合には、車両進行方向における後側の車輪ARに対する制動力を大きくするような制御を行わなくてもよい。
・第1の実施形態において、速度制限制御によって各車輪FR,FL,RR,RLに制動力が付与された車両が降坂路を走行する場合において、当該車両のアンダーステア度合USが大きくなったときには、車両のアンダーステア傾向を解消させるための制動制御を行わなくてもよい。この場合、上記速度制限制御処理ルーチンでは、ステップS12,S23,S24の各処理を省略してもよい。
・第1の実施形態において、アンダーステア度合USを、上記関係式(式2)を用いた算出方法とは異なる方法で算出してもよい。例えば、車両進行方向における後側の車輪ARに対する横力推定値と車両進行方向における前側の車輪AFに対する横力推定値との差分を、アンダーステア度合USとしてもよい。
・第1の実施形態において、図4及び図5に示すマップにおいて、第1の値OS11と第3の値OS13との差が第2の値OS12と第4の値OS14との差と同程度となるように各値OS11〜OS14を設定してもよい。この場合、図4に示すマップでは、急勾配用のマップにおける補正ゲインG1の降下勾配は、緩勾配用のマップにおける補正ゲインG1の降下勾配と同程度となる。また、図5に示すマップでは、急勾配用のマップにおける補正ゲインG2の上昇勾配は、緩勾配用のマップにおける補正ゲインG2の上昇勾配と同程度となる。
・また、第1の実施形態において、図4及び図5に示すマップでは、第1の値OS11を、第2の値OS12と同一値としてもよい。この場合、車両の走行する降坂路が急勾配であっても緩勾配であっても、車両のオーバーステア傾向を解消させるための制動制御は、同一タイミングで開始される。
・第1の実施形態において、図4及び図5に示すマップでは、2種類のマップ(緩勾配用のマップと急勾配用のマップ)を用意しているが、3種類以上の任意数(例えば、3種類)のマップを用意してもよい。そして、降坂路の勾配θに応じて各マップを使い分けてもよい。
また、図4及び図5に示すマップでは、降坂路の勾配θには関係なく1種類のマップのみであってもよい。
・第1の実施形態において、車両のオーバーステア傾向を解消させるための制動制御では、マップを用いないで、車両進行方向における後側の車輪ARに対する補正要求制動力BP_Rを設定してもよい。例えば、車両のオーバーステア傾向を解消させるための制動制御の開始判定用の基準値をオーバーステア度合OSが超えた場合には、当該制動制御の開始前の要求制動力BP_RQから補正量だけ減算した値を、補正要求制動力BP_Rとしてもよい。なお、補正量を、オーバーステア度合OSが大きいほど大きな値に設定してもよいし、予め設定された一定値であってもよい。
・第1の実施形態において、降坂路の勾配が所定勾配値以上であって且つステアリングの操舵角の絶対値が所定操舵角以上である場合には、旋回内側の車輪(右旋回時には右側の車輪)に対する制動力が旋回外側の車輪(右旋回時には左側の車輪)に対する制動力よりも大きくするようにしてもよい。この場合、その時点の車両の車体速度VSと設定速度VEとの速度差Vsubが大きいほど要求制動力BP_RQが大きな値に設定される。また、車両進行方向における前側の車輪に対する補正要求制動力BP_Fは、オーバーステア度合OSが大きいほど大きな値に設定されると共に、車両進行方向における後側の車輪に対する補正要求制動力BP_Rは、オーバーステア度合OSが大きいほど小さな値に設定される。
そして、車両進行方向における前側の各車輪のうち、旋回内側の車輪には、補正要求制動力BP_Fに補正量を加算した値に応じた制動力が付与され、旋回外側の車輪には、補正要求制動力BP_Fから補正量を減算した値に応じた制動力が付与される。また、車両進行方向における後側の各車輪のうち、旋回内側の車輪には、補正要求制動力BP_Rに補正量を加算した値に応じた制動力が付与され、旋回外側の車輪には、補正要求制動力BP_Rから補正量を減算した値に応じた制動力が付与される。なお、上記補正値は、一定値であってもよいし、車両の走行する降坂路の勾配θなどによって変更されてもよい。
・第1の実施形態において、運転手によるブレーキ操作によって各車輪FR,FL,RR,RLに制動力が付与された車両が降坂路を走行する場合において、当該車両のオーバーステア度合OSが大きくなったときにも、車両のオーバーステア傾向を解消させるための制動制御を行ってもよい。この場合には、車両進行方向における前側の車輪AFに対する制動力を大きくするような制御を行わなくてもよい。
・第1の実施形態において、オーバーステア度合OSは、上記関係式(式1)を用いた算出方法とは異なる方法で算出してもよい。例えば、車両進行方向における後側の車輪ARに対する横力推定値と車両進行方向における前側の車輪AFに対する横力推定値との差分を、オーバーステア度合OSとしてもよい。また、車両の車体スリップ角の推定値を、オーバーステア度合OSとしてもよい。
・第2の実施形態において、補正処理中では、設定速度VEを、規定時間KT毎に加算制限値ΔVEを積算した値としてもよい。この場合、補正タイマTrがタイマ判定値Trth以上になると、その時点の設定速度VE(n−1)に加算制限値ΔVEが加算され、この演算結果が今回の設定速度VE(n)とされる。
・第2の実施形態において、加算制限値ΔVEを設けなくてもよい。この場合、補正処理中では、設定速度VEは、一定勾配で高速側に補正されるようになる。
・第2の実施形態において、前輪スリップ量差ΔSLP_Fが前輪用判定値Xよりも大きいこと、及び後輪スリップ量差ΔSLP_Rが後輪用判定値Yよりも大きいことのうち何れか一方が成立した場合に、ステップS50の処理を行うようにしてもよい。
・第2の実施形態において、補正処理の実行条件が非成立となった場合には、設定速度VEを徐々に基準値VE_baseに近づけるのではなく、設定速度VEを一気に基準値VE_baseとしてもよい。この場合、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力の急増に伴って車両が急減速することがある。
・第2の実施形態において、車両の挙動が不安定になる可能性が高いと判定された場合には、速度制限制御を一時的に終了させてもよい。この場合、各車輪FR,FL、RR,RLに対する制動力が急速に低下されることにより、各車輪FR,FL,RR,RLの横方向のグリップ力が回復し、結果として、車両の挙動を安定化させることができる。そして、その後に車両の挙動が不安定になる可能性が低いと判定された場合には、速度制限制御を再開させるようにしてもよい。
・第2の実施形態において、前輪スリップ量差ΔSLP_F及び後輪スリップ量差ΔSLP_Rの代わりに、車両の挙動が不安定になるほど大きな値となる車両状態値としてオーバーステア度合OSやアンダーステア度合USを取得してもよい。そして、オーバーステア度合OSやアンダーステア度合USなどの車両状態値が判定値よりも大きい場合には、車両の挙動が不安定化しつつあると判断し、補正処理を行うようにしてもよい。この場合、第2の実施形態の場合と比較して、補正処理の開始タイミングが多少遅れる可能性はあるものの、補正処理の不要な実行を抑制することができる。
・第2の実施形態において、補正処理の実行中であっても、オーバーステア傾向が強くなった場合には、車両進行方向における後側の車輪ARに対する制動力を小さくし、車両進行方向における前側の車輪AFに対する制動力を大きくしてもよい。
同様に、補正処理の実行中であっても、アンダーステア傾向が強くなった場合には、車両進行方向における前側の車輪AFに対する制動力を小さくし、車両進行方向における後側の車輪ARに対する制動力を大きくしてもよい。
・車両の走行する降坂路の勾配が急勾配であるときには、第2の実施形態で説明したように、車両に対する要求制動力を小さくし、各車輪FR,FL,RR,RLに装着されるタイヤの横方向のグリップ力を回復させるようにしてもよい。その一方で、勾配が緩勾配であるときには、第1の実施形態で説明したように、車両進行方向における前側の車輪AFに対する制動力と車両進行方向における後側の車輪ARに対する制動力との配分バランスを調整するようにしてもよい。ただし、このように降坂路の勾配θによって制御内容を切り分ける場合、急勾配であるか否かの判定値を、上記の基準勾配θthよりも大きい値にすることが好ましい。
・第1の実施形態において、車輪速度センサの中には、車輪の回転方向を検出可能なセンサもある。こうしたセンサを車輪速度センサSE3〜SE6として採用した場合には、車両が前進しているか後進しているかを、車輪速度センサSE3〜SE6からの検出信号に基づき判定してもよい。
・各実施形態において、車両の走行する路面に関する情報(例えば、降坂路か登坂路か、路面の勾配)を、ブレーキECU50が取得可能である場合には、取得した情報に基づき速度制限制御を行ってもよい。車両の走行する路面に関する情報を管理する装置としては、一例として、車両に搭載されるナビゲーション装置、及び車両の乗員が所有する情報端末(携帯電話など)が挙げられる。
・各実施形態において、速度制限制御の設定速度VEを、車両の乗員による操作によって変更可能としてもよい。
次に、上記実施形態及び別の実施形態から把握できる技術的思想を以下に追記する。
(イ)走行中の車両の各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力を調整する車両の運転支援方法であって、
車両のオーバーステア傾向の強さに応じた値となるオーバーステア度合(OS)を取得させるステップ(S11)と、
各車輪(FR,FL,RR,RL)に制動力が付与された状態で車両が降坂路を走行する場合に、取得したオーバーステア度合(OS)が大きいほど、車両進行方向における後側の車輪(AR)に対する制動力を小さくさせるステップ(S22,S26,S27)と、を有することを特徴とする車両の運転支援方法。