JP6052423B2 - ノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物及びテンパリング型チョコレート用油脂組成物 - Google Patents

ノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物及びテンパリング型チョコレート用油脂組成物 Download PDF

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Description

本発明は、油脂難溶性のマロニルイソフラボン配糖体を特定量含有させたノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物及びテンパリング型チョコレート用油脂組成物に関するものである。
チョコレートは使用する油脂成分によりテンパリング操作を必要とするテンパリング型と、必要としないノーテンパリング型に大別される。前者はココアバターに代表されるSUS型トリグリセリド(S:飽和脂肪酸、U:不飽和脂肪酸)を主要成分として含む油脂からなる。一方後者はヤシ油やパーム核油等のラウリン系油脂、及びトランス型不飽和脂肪酸を含む油脂が例示される。これらノーテンパリング型チョコレート用油脂を使用したチョコレートは、テンパリング型使用チョコレートに比べ、カカオマスの配合に制限があり、チョコレートに求められる乳味、甘味、カカオ風味等の風味のうちカカオ風味がどうしても薄くなる問題点があった。
このカカオ風味を増強する手段として、ノーテンパリング型チョコレート用油脂にカカオ原料を高温下接触させることにより製造されたカカオ風味香味油をチョコレートに配合する方法(特許文献1)が提案されているが製造工程が複雑という問題があった。
また乳味増強についても、植物油脂に粉乳と糖を高温下接触させて製造した乳風味香味油をチョコレートに配合する方法(特許文献2)などが試みられているがやはり製造工程が複雑という問題があった。
一方トランス型不飽和脂肪酸の健康への懸念が認識されるようになって以来、トランス型不飽和脂肪酸が低含有化された油脂が増加している。例えば、SOS型(O:オレイン酸)トリグリセリドとSSO型トリグリセリドを所定範囲で含有し、St/P(St:ステアリン酸、P:パルミチン酸)を所定範囲としたノーテンパリング型油脂(特許文献3)や、SSS及びS2Uの含有量、SUS/SSUの質量比、SU2及びUUUの合計含有量、並びにSt/Pの質量比を所定範囲としたノーテンパリング型油脂(特許文献4)が知られている。これらの油脂は、口溶けやスナップ性においてある程度の効果が認められるものの、チョコレートの風味発現という観点でみると、テンパリング型はもとより、従来のトランス型不飽和脂肪酸を含むノーテンパリング型油脂と比較しても、さらに味の発現が遅く、また味が薄いものであり、満足のいくものではなかった。
またトランス型不飽和脂肪酸が低含有化された油脂として炭素数12以下の脂肪酸30%以上含む油脂と炭素数20以上の飽和酸を30%以上含む油脂をエステル交換してなるチョコレート用油脂組成物(特許文献5)が知られている。この油脂はトランス型不飽和脂肪酸を含む油脂と同程度にはカカオマスを高配合することができ、口どけも優れているが、トランス型不飽和脂肪酸を含む油脂と比較するとチョコレートの味が薄いものであり、満足のいくものではなかった。
トランス型不飽和脂肪酸を低減し、かつ風味良好なチョコレートを作製するために、テンパリング型油脂を使うという選択ができる。しかし、チョコレートと焼き菓子を組み合わる商品においては、テンパリング操作ができない場合がある。例えば、焼き菓子が熱い状態でチョコレートと組み合わせる場合や、中空の焼き菓子にチョコレートを充填する場合等である。前者では焼き菓子を一旦冷却後、チョコレートのテンパリング操作を行えば良いが、この場合生産性が悪く、経済的ではない。後者の場合、一般にテンパリング操作を行ったチョコレートは粘度が高くなるため、充填操作ができない。つまり、低粘度で充填する必要があり、テンパリング操作ができないことが多い。
また近年、濃い味や濃厚な味がトレンドになっており、濃い味を謳った商品が多く発売されている。スナック菓子や飲料、ヨーグルトやプリンなどのチルドデザートだけでなく、チョコレートにおいても濃い味が求められている。物性や作業性重視でトランス型不飽和脂肪酸を低減させたチョコレート用油脂が開発されてきたが、近年では風味面の改良要望が増えている。
一方無味無臭であるテンパリング型チョコレート用油脂を配合したチョコレートは、これを配合しない所謂ピュアチョコに比べ、乳味、甘味、カカオ風味等のチョコレートとしての風味が薄まり、結果として弱くなる問題点があった。通常はこの問題点を市販のチョコレート香料やバニラなどのフレーバー添加による風味付与で補うことが最も一般的であるが、自然なチョコレート風味に仕上げるのは容易でなかった。
香味油のチョコレートへの配合による風味付与で前記問題点を補う試みがなされている。たとえばハードバターにカカオ原料を高温下接触させることにより製造されたカカオ風味香味油をチョコレートに配合する方法(特許文献1)や植物油脂に粉乳と糖を高温下接触させて製造した乳風味香味油をチョコレートに配合する方法(特許文献2)などであるが、いずれも自然なチョコレート本来の風味とは若干異なるものであり満足できないものであり、製造工程も複雑で問題があった。
一方チョコレートの中でもホワイトチョコレートやミルクチョコレートはその濃厚な乳味がチョコレートの口どけと相まって、おいしさを形成している。乳味の強いこれらのチョコレートは市場からの要望が大きく需要も高いが、乳脂を含む粉乳を高配合する必要があるため、乳脂混入による融点降下(チョコレートの耐熱性低下)を改善するための比較的高融点のテンパリングハードバターが高配合されることが多く、やはりチョコレートとしての風味が弱くなる問題点があった。
特開平5−146251号公報 特開平6−22691号公報 特開平9−316484号公報 特開2009−284899号公報 国際公開2007/129590号公報 特開2001−103930号公報 特表2004/057983号公報
本発明の目的は、チョコレートの風味発現の観点から問題のあるノーテンパリング型チョコレート用油脂、特にトランス型不飽和脂肪酸を低含有化した油脂を用いても、ココアバター相溶性や作業性に影響を与えず、チョコレートとしての風味(良好な乳味、甘味、カカオ風味など)を増強することができるチョコレート用油脂組成物及びそれを配合したチョコレートを提供することである。
本発明の他の目的は、自然なチョコレート本来の風味(良好な乳味、甘味、カカオ風味等)を増強させることができるテンパリング型チョコレート用油脂組成物とそれを配合したチョコレートを提供することにある。
上記の課題解決に向けて本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、油脂難溶性のマロニルイソフラボン配糖体をノーテンパリング型チョコレート用油脂又はテンパリング型チョコレート用油脂に特定量含有させるという平易な方法で、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、
(1) マロニルイソフラボン配糖体を5〜50ppm含有するノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物。
(2) (1)記載のチョコレート用油脂組成物を配合したチョコレート。
(3) マロニルイソフラボン配糖体を含有するノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物を配合することで、チョコレートの風味発現を増強する方法。
(4) マロニルイソフラボン配糖体を5〜50ppm含有するテンパリング型チョコレート用油脂組成物。
(5) (4)記載のチョコレート用油脂組成物を配合したチョコレート。
(6) マロニルイソフラボン配糖体を含有するテンパリング型チョコレート用油脂組成物を配合することで、チョコレートの風味発現を増強する方法。
である。
本発明により、ノーテンパリング型チョコレート用油脂、特にトランス型不飽和脂肪酸を低減させた油脂を用いても、物性や作業性に影響を与えずに、チョコレートの風味発現が改良できるようになり、組み合わせ商品において焼き菓子に負けない濃厚で風味の優れたチョコレートを設計する油脂組成物の提供が可能となった。
一方本発明のテンパリング型ハードバターは無味無臭であるにもかかわらず、チョコレートに同時に配合されているカカオマス、ココア、ココアバター、粉乳、砂糖などに由来する、自然でチョコレート本来の風味の発現を増強する効果を発揮しているという点で、従来のフレーバー類や香味油類による風味の付与とは一線を画する画期的な技術である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のノーテンパリング型チョコレート用油脂の原料としては、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、落花生油、ひまわり油、こめ油、ベニバナ油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、パーム油、ヤシ油、パーム核油等の植物油脂並びに牛脂、豚脂等の動物脂、並びにこれらを分別、水素添加、エステル交換等を施した加工油脂の単品又は、これらの組み合わせ油脂の精製油を挙げることができる。
また本発明のノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物には、通常の製菓用途に用いられる着色料、乳化剤、酸化防止剤、香料等の任意成分を適宜添加することができる。これらの添加量は本発明のチョコレート用油脂に対して20重量%以下、好ましくは10重量%以下である。
前記乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、等が挙げられる。
本発明のノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物の原料油を得るための前記エステル交換反応は、ランダムエステル交換反応(非選択的エステル交換反応又は位置特異性の低いエステル交換反応とも言う)であれば特に制限はなく、通常の方法により行うことができる。ランダムエステル交換反応は、ナトリウムメトキシド等の合成触媒を使用した化学的エステル交換、リパーゼ(位置特異性の低いリパーゼ)を触媒とした酵素的エステル交換のどちらの方法でも行うことができる。
化学的エステル交換は、例えば、原料油脂を十分に乾燥させ、ナトリウムメトキシドを原料油脂に対して0.1〜1質量% 添加した後、減圧下、80〜120℃で0.5〜1時間攪拌しながら反応を行うことができる。
酵素的エステル交換は、例えば、リパーゼ粉末又は固定化リパーゼを原料油脂に対して0.02〜10質量%、好ましくは0.04〜5質量%添加した後、40〜80℃、好ましくは40〜70℃で0.5〜48時間、好ましくは0.5〜24時間攪拌しながら反応を行うことができる。
本発明のノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物を配合したチョコレートは、「チョコレート類の表示に関する公正競争規約」(全国チョコレート業公正取引協議会)乃至法規上の規定により限定されるものではなく、食用油脂、糖類を主原料とし、必要によりカカオ成分(カカオマス、ココアパウダー等)、乳製品、香料、乳化剤等を加え、チョコレート製造の工程(混合工程、微粒化工程、混練工程、冷却工程等)を経て製造されたもののことである。また、本発明におけるチョコレートは、ダークチョコレート、ミルクチョコレートの他に、ホワイトチョコレート、カラーチョコレートも含むものである。
本発明のテンパリング型チョコレート用油脂組成物は、カカオバター、CBE及びそれらを任意に混合した油脂が原料となる。ここでCBEとはカカオバター同等油脂と呼ばれる油脂で、1,3−ジ飽和―2不飽和トリグリセリド(飽和:炭素数16〜22の飽和脂肪酸、不飽和:オレイン酸)を主要成分として含有するテンパリング型の油脂を意味する。この油脂としては、パーム油、シア脂、イリッペ脂、サル脂等の天然原料及び酵素等を用いたエステル交換技術により合成された油脂、それらの分画油またはそれらの混合油脂等が例示できる。
本発明のチョコレートに配合される本発明のテンパリング型チョコレート用油脂の配合量に特に制限はないが、本発明の風味増強効果を大きく発揮させるためには1%以上が好ましく、より好ましくは3%以上、さらに好ましくは5%以上、最も好ましくは10%以上である。本発明のチョコレートとは、原料としてカカオマス、ココアパウダー、砂糖などの糖類、ココアバターなどの油脂、乳化剤、香料等を使用して作られるダークチョコレート、例えば原料としてカカオマス、ココアパウダー、砂糖などの糖類、ココアバター等の油脂、全脂粉乳等の乳製品類、乳化剤、香料等を使用して作られるミルクチョコレート、例えば砂糖などの糖類、ココアバター等の油脂、全脂粉乳等の乳製品類、乳化剤、香料等を使用して作られるホワイトチョコレート、ホワイトチョコレートを色素で着色、香料で風味付けしたカラーチョコレートの何れも本発明のチョコレートに含まれる。また、カカオ分の含量により、チョコレート(カカオ分35%以上)、準チョコレート(カカオ分15%以上)、ミルクチョコレート(カカオ分21%以上)、準ミルクチョコレート(カカオ分7%以上)、チョコレート利用食品であるチョコレートコーチング(カカオ分8%以上)、乳製品を使用したチョコレートコーチング(カカオ分5%以上)の他、カカオ分非含有のホワイトコーチングやカラーコーチングのようにも区別されるが、何れも本発明のチョコレートに含まれる。
本発明はカカオマス、ココア、ココアバター、粉乳、砂糖などに由来する自然なチョコレート本来の風味を本発明のテンパリング型チョコレート用油脂によって、より増強させるものであるので、チョコレートに配合される粉乳がたとえ少量であっても乳味に対する一定の効果は示すが、より大きな効果を期待するにはチョコレート配合中の脱脂粉乳又は全脂粉乳等の粉乳を好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、最も好ましくは20%以上とする。同じ理由でカカオ風味の増強効果を大きく期待する場合は、チョコレート配合中のカカオ固形分を好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、最も好ましくは30%以上とする。
本発明のテンパリング型チョコレート用油脂には、通常の製菓用途に用いられる着色料、乳化剤、酸化防止剤、香料等の任意成分を適宜添加することができる。これらの添加量は本発明のチョコレート用油脂に対して20重量%以下、好ましくは10重量%以下である。
前記乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられる。
本発明で使用するマロニルイソフラボン配糖体とは、大豆中のイソフラボン化合物の主成分として存在が確認されているマロニルダイジン、マロニルゲニスチン等である。本発明は、かかる水に可溶で油脂難溶性のマロニルイソフラボン配糖体を油脂中に含有させるものである。
本発明に用いるマロニルイソフラボン配糖体は、例えば、特許文献6記載のオカラや脱脂大豆から製造されるイソフラボン化合物粉末や特許文献7記載の大豆杯軸から抽出、濃縮されたイソフラボン含有組成物中に含有されるものを利用することができる。上記のようなイソフラボン含有組成物中のマロニルイソフラボン配糖体の含有量は、油脂難溶性であるため含有量は好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは20重量%以上、最も好ましくは30重量%以上である。含有量が10重量%以下であると、マロニルイソフラボン配糖体を含有させた油脂に濁りが生じ易くなるため、好ましくない。
また、マロニルイソフラボン配糖体を含有するイソフラボン含有組成物中には、イソフラボン配糖体やアグリコンなどが含まれるが、マロニルイソフラボン配糖体を上記含有量で含有するものであれば問題なく本発明に使用することができる。
本発明は、マロニルイソフラボン配糖体を含有するノーテンパリング型チョコレート用油脂又はテンパリング型チョコレート用油脂であり、該チョコレート用油脂を配合したチョコレートは風味増強効果を示す。マロニルイソフラボン配糖体の含有量は、5〜50ppmが好ましく、さらに好ましくは10〜50ppm、最も好ましくは20〜50ppmである。マロニルイソフラボン配糖体の含有量が下限未満であると、チョコレートの乳味や濃厚感が不十分となるため好ましくない。また、上限を超えると苦みや異味を感じるようになり、チョコレートの濃厚感、乳味感は上限以上には増強されないため、上限を超えて含有させる必然性はない。
本発明のマロニルイソフラボン配糖体を含有するノーテンパリング型チョコレート用油脂又はテンパリング型チョコレート用油脂は、油脂に対しマロニルイソフラボン配糖体を含有するイソフラボン含有組成物を添加、混合して、得ることができる。イソフラボン含有組成物の添加、混合方法は特に限定されないが、例えば、70℃に加熱した油脂中に1%イソフラボン含有組成物水溶液を規定量加え、50〜180℃、0.5〜100Torrの減圧条件下で攪拌しながら15〜1時間処理して十分に脱水を行うことにより、マロニルイソフラボン配糖体を含有するチョコレート用油脂を得ることができる。イソフラボン含有組成物水溶液の濃度は0.1〜22重量%が好ましく、さらに好ましくは1〜10重量%である。下限未満では、油脂に対する水の量が多くなり脱水に長時間を要するため好ましくない。また、上限を超えるとマロニルイソフラボン配糖体などの結晶が析出して油脂への含有量が低下するため好ましくない。温度は50〜180℃が好ましく、下限未満では脱水に長時間を要するため好ましくない。また、上限を超えるとマロニルイソフラボン配糖体が分解してその効果が低下するため好ましくない。減圧条件は、0.5〜100Torrが好ましく、可及的に低い方がより優れた風味を得ることができる。
また、別法として、油脂の精製工程において、脱水工程の終了後に、イソフラボン含有組成物を粉末の状態で添加し、その後、100〜190℃、0.5〜100Torrの減圧条件下で15分間〜1時間攪拌後、ろ過することにより、マロニルイソフラボン配糖体を含有する清澄な油脂を得ることができる。この場合、攪拌処理中の温度は、100〜190℃で行うのが好ましく、100℃未満では、マロニルイソフラボン配糖体は油脂中に含有されず、190℃を超えるとマロニルイソフラボン配糖体が酸化、分解されてしまうおそれがあり、攪拌処理中の温度として、より好ましい温度は130〜150℃である。攪拌処理の時間は、30〜120分であることが好ましく、より好ましくは90分以上攪拌処理を行うのがよいが、120分を大幅に越えて攪拌処理を続けると、マロニルイソフラボン配糖体の酸化、分解が起こりやすくなるおそれがある。
また、攪拌後のろ過はろ布やメンブランフィルターなどの適当なろ材を用いてろ過し、外観上清澄な油脂とするのが望ましい。ろ過時の油脂温度は、油脂の酸化防止のため40〜100℃、好ましくは50〜80℃であるのが好ましい。なお、マロニルイソフラボン配糖体を油脂中に含有させる工程において、必要に応じてポリグリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、レシチンなどの乳化剤を添加することができる。かかる乳化剤の添加量は、風味的に3重量%以下が好ましく、さらに好ましくは1重量%以下が好ましい。
本発明のノーテンパリング型チョコレート用油脂又はテンパリング型チョコレート用油脂には、酸化安定性の向上や加熱安定性の向上のために、トコフェロール類、有機酸、アスコルビン酸パルミテート、カテキン等の酸化防止剤を添加することができる。これらの酸化防止剤は、マロニルイソフラボン配糖体含有油脂に対し、単純に添加するだけで容易に含有させることができ、少なくとも1種以上の酸化防止剤を10〜2000ppm含有させるのが好ましい。
(イソフラボンの定量法)
イソフラボンとして1〜10mgに対応する試料を正確に秤量し、これに70%(v/v)エタノールを25mL加えた。30分間室温で撹拌抽出した後、遠心分離して抽出液を得た。残渣は同様の抽出操作を更に2回行った。計3回分の抽出液を70%(v/v)エタノールで100mLに定容し、0.45μmPVDFフィルターにて濾過したものを試験溶液とした。
イソフラボンの確認試験は標準品12種類、すなわちダイジン、ゲニスチン、グリシチン、ダイゼイン、ゲニステイン、グリシテイン、マロニルダイジン、マロニルゲニスチン、マロニルグリシチン、アセチルダイジン、アセチルゲニスチン、アセチルグリシチン(和光純薬工業株式会社)を用い、ほぼ同じリテンションタイムのピークを確認した。定量試験はダイジン標準品を用いて12種類のイソフラボン濃度(ダイジン換算値)を定量し、下記の定量係数を乗じることにより真のイソフラボン濃度を算出した。
イソフラボンの定量係数:ダイジン(1.000)、ゲニスチン(0.814)、グリシチン(1.090)、マロニルダイジン(1.444)、マロニルゲニスチン(1.095)、マロニルグリシチン(1.351)、アセチルダイジン(1.094)、アセチルゲニスチン(1.064)、アセチルグリシチン(1.197)、ダイゼイン(0.583)、ゲニステイン(0.528)、グリシテイン(0.740) そして各種イソフラボン濃度の総和からイソフラボン量を求めた。なお、試験溶液及び標準溶液のHPLC条件は下記ように行った。マロニルイソフラボン配糖体含有量は、マロニルダイジン、マロニルゲニスチン、マロニルグリシチンの合計量で算出した。
(HPLC条件)
カラム:YMC−Pack ODS−AM−303(4.6×250mm)
移動相:A液 アセトニトリル:水:酢酸=15:85:0.1(v/v/v)
B液 アセトニトリル:水:酢酸=35:65:0.1(v/v/v)
A液 → B液 直線濃度グラジエント(50分間)
流速:1.0ml/分
温度:25℃
検出:UV254nm
注入量:10μl
以下、本発明について実施例を示し、より詳細に説明するが、本発明の精神は以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中の%及び部はいずれも重量基準を意味する。
<A.ノーテンパリング型チョコレート用油脂及びチョコレートの製造>
炭素数12以下の脂肪酸を含む油脂とパーム油を主成分とするエステル交換油からなるパーキッドY(融点33℃、不二製油株式会社製)を比較例A1の油脂とした。また同じく炭素数12以下の脂肪酸を含む油脂とパーム油を主成分とするパーキッドN(融点35℃、不二製油株式会社製)を比較例A2の油脂とした。
(実施例A1,A2)
パーキッドY3000gに対し、イソフラボン含有組成物(商品名:ソヤフラボンHG、不二製油株式会社製、マロニルイソフラボン配糖体含有量41.3%)粉末を0.324g添加し、180℃まで昇温し、10Torrの減圧条件下で40分間攪拌処理を行った。その後、油温80℃まで冷却してから、TOYO No.5ろ紙(1μm相当)でろ過し、マロニルイソフラボン配糖体45ppmを含有する実施例A1の油脂を得た。
またパーキッドYをパーキッドNに替える以外は実施例A1と同様にして実施例A2の油脂を得た。
実施例A1,A2及び比較例A1,A2の油脂を表A1に示す配合で混合し実施例A3,A4および比較例A3の油脂を得た。
表A1
Figure 0006052423
(ホワイトチョコレートの作製)
全脂粉乳14部、脱脂粉乳5部、砂糖43.9部、ココアバター4.1部、実施例A1の油脂23部をミキサーで混合し、ドウを調整した(混合)。これをリファイナーに通し、粒度を20マイクロメーターに調整した(微粒化)。得られたフレークをコンチングした(混練)。なお、コンチング最終段階で残りの実施例A1の油脂10部とレシチン0.4部を加え、油分中にココアバターを10%含むホワイトチョコレートを作製した。最終配合は表A2に記載した。
また実施例A1の油脂に替えて、実施例A2〜A4、比較例A1〜A3の油脂をそれぞれ使用したチョコレートを同様にして作製した。
表A2
Figure 0006052423
上記のように調製したチョコレートを油脂が融解している温度(50℃)で型に流し込み、18℃で冷却固化後20℃で1週間熟成(エージング)した。得られたチョコレートは以下の方法と評価で風味確認試験及び保存性確認試験を行った。項目としては風味、ブルーム若しくはグレーニングの程度とした。
(チョコレートの風味確認試験)
チョコレートの風味は、評価項目を乳味、甘味及び風味発現の早さについて、6名のパネラーにより評価を行った。結果を表A3に示す。
(評価の基準)
乳味又は甘味 :強いまたは濃く感じる◎>○>△>×弱いまたは薄い
風味発現の早さ:味の感じるのが早い◎>○>△>×口内に入れた後、味を感じるまで時間がかかる
すべての項目で○以上の評価となったチョコレートを風味評価良好とした。
表A3
Figure 0006052423
マロニルイソフラボン配糖体を5ppm以上含有する油脂である実施例A1〜実施例A4を使用したチョコレートではマロニルイソフラボン配糖体の含有量が多くなるにしたがって乳味、甘味を強く感じ、また味の発現が早まることが確認された。これに対し、比較例A1〜A3ではマロニルイソフラボン配糖体含量が低いため、良好ではなかった。
(チョコレートにおけるブルーム若しくはグレーニングの程度の確認)
上記のように得られたチョコレートを1日で17℃を10時間、28℃を10時間保持できる恒温器(温度を17℃から28℃に変えるのに2時間、同様に28℃から17℃に変えるのに2時間)に交互にチョコレートを保管し、サイクルテストを行った(サイクルは90回の結果)。また20℃の恒温器でチョコレートを保管して(保管日数90日の結果)、経時的なでチョコレートの品質変化(ブルームやグレーニングの発生など)を目視により確認した。
結果を表A4にまとめた。
表A4
Figure 0006052423
評価○:ブルーム若しくはグレーニング発生なし
いずれのチョコレートにおいても、保存中にブルーム若しくはグレーニングの発生が認められず、油分中ココアバター10%配合のチョコレートの系において、マロニルイソフラボン配糖体はブルーム若しくはグレーニングの発生に影響を与えないことが確認できた。
パームを主成分とするエステル交換分別油からなるメラノNT−R(融点40℃、不二製油株式会社製)を65部とパームの硬化分別油からなるメラノSTH(融点40℃、不二製油株式会社製)を35部混合した油脂を比較例A4の油脂とした。
(実施例A5)
上記比較例A4の油脂3000gに対し、イソフラボン含有組成物(商品名:ソヤフラボンHG、不二製油株式会社製、マロニルイソフラボン配糖体含有量41.3%)粉末を0.324g添加し、180℃まで昇温し、10Torrの減圧条件下で40分間攪拌処理を行った。その後、油温80℃まで冷却してから、TOYO No.5ろ紙(1μm相当)でろ過し、マロニルイソフラボン配糖体45ppmを含有する実施例A5の油脂を得た。
(ミルクチョコレートの作製)
カカオマス12部、ココアパウダー3部、全脂粉乳12部、砂糖43.0部、実施例A5で得られた油脂20部をミキサーで混合し、ドウを調整した(混合)。これをリファイナーに通し、粒度を20マイクロメーターに調整した(微粒化)。得られたフレークをコンチングした(混練)。なお、コンチング最終段階で残りの実施例A5の油脂10部とレシチン0.4部を加え、油分中にココアバターを17%含むミルクチョコレートを作製した。最終配合は表A5に記載した。
また実施例A5の油脂に替えて、比較例A4の油脂を使用したチョコレートを同様にして作製した。
表A5
Figure 0006052423
前述の方法により、チョコレートの風味確認試験及び保存性試験を実施した。結果を表A6,表A7に示す。
(評価の基準)
乳味又は甘味 :強いまたは濃く感じる◎>○>△>×弱いまたは薄い
チョコレート感:カカオ原料の味を強いまたは濃く感じる◎>○>△>×弱いまたは薄い
風味発現の早さ:味の感じるのが早い◎>○>△>×口内に入れた後、味を感じるまで時間がかかる
すべての項目で○以上の評価となったチョコレートを風味評価良好とした。
表A6
Figure 0006052423
結果はミルクチョコレート配合においても、マロニルイソフラボン配糖体を5ppm以上含有する油脂である実施例A5を使用したチョコレートでは乳味、甘味を強く感じ、また味の発現が早まることが確認された。またミルクチョコレートにおいては、カカオ原料(カカオマス、ココアパウダー)の味を強くなることも確認できた。
これに対し、比較例A4ではマロニルイソフラボン配糖体を含有していないため、良好ではなかった。
表A7
Figure 0006052423
評価○:ブルーム若しくはグレーニング発生なし
どちらの油脂においても、保存中にブルーム若しくはグレーニングの発生が認められず、油分中ココアバター17%配合のチョコレートの系において、マロニルイソフラボン配糖体はブルーム若しくはグレーニングの発生に影響を与えないことが確認できた。
<B.テンパリング型チョコレート用油脂及びチョコレートの製造>
一般的なテンパリング型チョコレート用油脂であるNEWSS7(商品名:メラノNEWSS7、不二製油株式会社製)を98部、パーム分別低融点油脂(ヨウ素価67)を2部混合した油脂を比較例B2の油脂とした。
一方NEWSS7を98部、パーム分別低融点油脂(ヨウ素価67)を2部混合した油脂3,000gを70℃に加温したものに対して、イソフラボン含有組成物(商品名:ソヤフラボンHG、不二製油株式会社製、マロニルイソフラボン配糖体含有量41.3%)の1.5%水溶液を適量添加し、120℃、2Torrの減圧条件下で攪拌しながら30分間処理して十分に脱水を行い、マロニルイソフラボン配糖体を6.2 ppm含有する実施例B8の油脂、14.9ppm含有する実施例B9の油脂、18.6ppm含有する実施例B10の油脂、26.0ppm含有する実施例B11の油脂、37.2ppm含有する実施例B12の油脂、62.0ppm含有する比較例B4の油脂を得た。これら実施例B8〜B12及び比較例B2,B4の油脂を使用して、表B2の配合で常法によりミルクチョコレート生地を調製した。さらにこの生地をテンパリング処理したのち、モールド(型)に入れ、約5℃で30分冷却した後、モールドより外し、20℃で1週間熟成(エージング)した後食味評価を行った。、食味評価を行った。結果を表B4に示す。
表B2
Figure 0006052423
表B4
Figure 0006052423
実施例B8から実施例B12にかけてマロニルイソフラボン配糖体含量が増すに従って、特に乳味、甘味、の評価が高く良好になっている。
ただし62ppm含有の比較例B4は乳味、甘味は高評価であるものの、マロニルイソフラボン配糖体に由来する苦味、異味が感じられ不良であった。

Claims (6)

  1. マロニルイソフラボン配糖体を5〜50ppm含有するノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物。
  2. 請求項1記載のチョコレート用油脂組成物を配合したチョコレート。
  3. マロニルイソフラボン配糖体を含有するノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物を配合することで、チョコレートの風味発現を増強する方法。
  4. マロニルイソフラボン配糖体を5〜50ppm含有するテンパリング型チョコレート用油脂組成物。
  5. 請求項4記載のチョコレート用油脂組成物を配合したチョコレート。
  6. マロニルイソフラボン配糖体を含有するテンパリング型チョコレート用油脂組成物を配合することで、チョコレートの風味発現を増強する方法。
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