しかし、図47に示す従来の構成においては、上糸Jに糸調子皿95による摩擦抵抗と、ロータリーテンション94による摩擦抵抗とが常に掛かり、このような摩擦抵抗は抵抗値として不安定である(一定ではない)ことから、ステッチごとに上糸への張力を制御することは困難である。また、1つのヘッドに複数の針棒を有する場合や、多頭刺繍ミシンの場合には、1つのヘッドにおける上糸ごとに糸調子皿やロータリーテンションの上糸に付与される抵抗値を同一にすることは困難であることから、各上糸への張力を等しくすることは困難である。
また、図47における構成においては、天秤12aを引き上げた際に上糸Jが巻き糸98から引き出されるが、その際、上糸Jに糸調子皿95による摩擦抵抗とロータリーテンション94による摩擦抵抗が掛かり、また、そのような摩擦抵抗は不安定なので、円滑に上糸Jを巻き糸98から引き出すことができない。また、天秤12aを引き上げた際に上糸Jを引き出すので、短時間に上糸Jを引き出すことになり、上糸Jに糸調子皿95による摩擦抵抗とロータリーテンション94による摩擦抵抗が掛かるので、上糸Jがそれらの摩擦により切れてしまう可能性がある。
また、上糸Jの糸切れが発生した場合に、図47の構成においては、ロータリーテンション94が回転しないことにより糸切れを検出することができるが、ロータリーテンション94と上糸Jとの間に滑りが発生するので、糸切れが発生していなくてもロータリーテンション94が回転しない場合があり、正確に上糸の糸切れを検出することができない。
また、特許文献1に記載のミシンの糸供給装置においては、縫目形成時に、手繰部材が糸を手繰らない位置に移動するだけであるので、糸の張力を制御することができない。また、通常ミシンにおいては、天秤が上昇する期間は、縫目形成時ではなく布送り時に対応するので、特許文献1の糸供給装置においては、天秤が上昇する期間では下流側把持器が閉成しているので、そもそも糸の張力を制御することができない。また、特許文献1の糸供給装置においては、手繰部材が一定量の糸を引き出すので、各ステッチにおける糸の消費量によっては、布送り時に蓄糸した糸が過不足するおそれがある。
そこで、本発明が解決しようとする問題点は、上糸に対する張力の大きさを制御することができ、特に、ステッチごとに上糸への張力を制御することができ、また、多針ヘッドや多頭刺繍ミシンの場合に、各上糸への張力を等しくすることができ、さらに、上糸を引き出す際に円滑に上糸を引き出すことができ、糸切れのおそれが小さく、また、糸切れが発生した場合に糸切れを正確に検出しやすく、また、上糸を引き出すことにより蓄糸した量の過不足が生じない上糸張力制御装置を提供することを目的とするものである。
本発明は上記問題点を解決するために創作されたものであって、第1には、ミシンであって、揺動可能に形成された天秤(12a、12a−1〜12a−9)と、天秤の上糸経路における上流側に設けられた上糸制御部で、上糸を挟んで把持する上流側把持部本体(41、241、1241)と、上流側把持部本体に対して上糸を把持した閉状態と上糸把持を解除した開状態とを切り換える上流側駆動部(50、250)と、を有する上流側把持部(40、240、1240)と、上流側把持部の上糸の経路における下流側に設けられた下流側把持部で、上糸を挟んで把持する下流側把持部本体(61、261、1261)と、下流側把持部本体に対して上糸を把持した閉状態と上糸把持を解除した開状態とを切り換える下流側駆動部(70、270)と、を有する下流側把持部(60、260、1260)と、上流側把持部本体と下流側把持部本体間の上糸(「上糸における上流側把持部本体と下流側把持部本体間の位置」としてもよい)を回動させる回動部で、上糸に接する(「上糸を回動させる際に上糸に接する」としてもよい)回動アーム(81、281、1281)と、回動アームを回動させる上糸用モータ(86、286、1286)とを有する回動部(80、280、1280)と、を有する上糸制御部(30、230)と、各ステッチごとの制御区間において、天秤が上糸により縫製する加工布に対して上糸を引っぱる区間である天秤の一方の死点から他方の死点までの区間における少なくとも一部を含む区間であるトルク制御区間においては、上流側把持部本体を閉状態とし、下流側把持部本体を開状態とした状態で、天秤が上糸を引っぱる方向に対抗して上糸に張力を付与するようにトルク値に従い上糸用モータを制御することにより回動アームに回転力を付与し、一方、トルク制御区間以外の区間の少なくとも一部である位置制御区間においては、上流側把持部本体を開状態とし、下流側把持部本体を閉状態とした状態で、上糸用モータの回転方向の位置である上糸用モータの角度における初期位置に上糸用モータの角度が戻るように上糸用モータの角度の位置データに従い上糸用モータを制御することにより回動アームに回転力を付与して上糸を上流から引き出す制御部(90)と、を有することを特徴とする。
第1の構成のミシンによれば、トルク制御区間において上糸に対してトルク制御を行なうので、上糸に対する張力の大きさを制御することができ、ステッチごとにトルク値を設定することにより、ステッチごとにトルク制御を行なうことができ、ステッチごとに上糸への張力を制御することができ、ステッチごとに縫い目の固さを調整することができる。
また、多針ヘッドの場合でも、異なる上糸よりステッチを形成した場合でも、トルク値を同じにすることにより、上糸への張力を等しく制御することができる。また、多頭刺繍ミシンの場合でも、トルク制御区間に使用するトルク値について、各ヘッドにおいて共通のトルク値とすることにより、各ヘッドにおいて、上糸への張力を等しくすることができる。
また、従来における糸調子皿とロータリーテンションの代わりに、上糸制御部を設けることにより、上糸を引き出す位置制御区間においては、上流側把持部本体が開となり、回動部の回動アームよりも上流には、糸調子皿とロータリーテンションによる摩擦抵抗が存在せず、また、下流側把持部本体が閉となるので、天秤の動きが上糸を引き出す際の支障となることがなく、よって、上糸を円滑に巻き糸から引き出すことができ、糸切れのおそれを小さくすることができる。
また、上糸の糸切れが発生した場合には、トルク制御区間において、天秤が上死点に移行する際に回動アームが上糸用モータの回転力付与方向と反対方向に引っぱられることがないので、回動アームが上糸用モータの回転力付与方向と反対方向に回動しないことを検出することにより糸切れを検出することができ、また、糸切れが発生していない場合には、トルク制御区間においては、回動アームが上糸用モータの回転力付与方向と反対方向に回動するので、正確に糸切れを検出することができる。
また、位置制御区間においては、上糸用モータの回転方向の位置である上糸用モータの角度における初期位置に上糸用モータの角度が戻るように上糸用モータの角度の位置データに従い回動アームに回転力を付与するので、回動アームが上糸用モータの回転力付与方向と反対方向に引き上げられることにより消費した量だけ上糸を引き出すことができ、上糸を引き出すことにより蓄糸した量の過不足が生じない。
上記第1の構成において、天秤を「上糸(「縫い針に挿通される上糸」としてもよい)が挿通され、回転中心を中心に揺動する天秤(12a、12a−1〜12a−9)」としてもよい。
また、第2には、上記第1の構成において、ミシンの筐体を構成するアーム(312、1312)と、アームに対して左右方向にスライド可能に設けられた針棒ケースで、回動部の回動アームの先端が正面側(「アーム側とは反対側である正面側」としてもよい)に露出可能であるように上下方向において上流側把持部本体と下流側把持部本体の間の位置に第1開口部(316b、1342b)が設けられるとともに、第1開口部の上方に設けられ、上流側磁石部が臨むための第2開口部(316a、1342a)と、第1開口部の下方に設けられ、下流側磁石部が臨むための第3開口部(316c、1342c)とが設けられた針棒ケース(314、1314)と、針棒ケースに設けられた複数の針棒(12b−1〜12b−9)と、針棒ケースに設けられ、上糸を第1開口部の位置で左右方向に支持する上糸支持部材(288、1288)(「針棒ケースに設けられ、第1開口部の正面側に上糸を左右方向に支持する上糸支持部材」としてもよい)と、を有し、天秤が、針棒ケースにおける下流側把持部の下方位置から正面側に露出して設けられ、回動アームが、上糸支持部材に支持された上糸に接して回動させることにより、上糸が回動され、上流側把持部本体が、針棒ケースの正面側に設けられ、上流側把持部本体が、磁石が吸引する材料である磁性体により板状に形成され、針棒ケースに設けられた複数の上流側第1板状部(242−1〜242−6、1242a、1404、1422)と、上流側第1板状部の背面側で第2開口部の正面側に設けられ、磁石が吸引しない非磁性体により板状に形成された上流側第2板状部(244、1244、1408、1426)とを有し、上流側駆動部が上流側磁石部としての磁石部であり、上流側第2板状部の背面側にアーム側に固定して設けられ、上流側駆動部が、上流側第1板状部を磁力により吸引することにより上流側第1板状部と上流側第2板状部とで上糸を挟んで把持した閉状態と磁力による吸引を解除することにより上糸把持を解除した開状態とを切り換え、下流側把持部本体が、針棒ケースの正面側における上流側把持部本体の下方に設けられ、下流側把持部本体が、磁石が吸引する材料である磁性体により板状に形成され、針棒ケースに設けられた複数の下流側第1板状部(262−1〜262−6、1262a、1414、1432)と、下流側第1板状部の背面側で第2開口部の正面側に設けられ、磁石が吸引しない非磁性体により板状に形成された下流側第2板状部(264、1264、1418、1436)とを有し、下流側駆動部が下流側磁石部としての磁石部であり、下流側第2板状部の背面側にアーム側に固定して設けられ、下流側駆動部が、下流側第1板状部を磁力により吸引することにより下流側第1板状部と下流側第2板状部とで上糸を挟んで把持した閉状態と磁力による吸引を解除することにより上糸把持を解除した開状態とを切り換えることを特徴とする。
よって、上流側把持部と下流側把持部と回動部を備えた構成を多針ヘッドに適用する場合に、上流側把持部の上流側磁石部と、下流側把持部の下流側磁石部と、回動部をそれぞれ1つ設けるのみで構成できるので、製造コストを抑えた効率的な構成とすることができる。
なお、上記第2の構成において、針棒ケースの構成を「アームに対してスライド可能に設けられた針棒ケースで、回動部の回動アームの先端を針棒ケースの内側から露出可能にアーム側とは反対側の正面側における上下方向において上流側把持部本体と下流側把持部本体の間の位置に第1開口部(316b、1342b)が設けられるとともに、第1開口部の上方に設けられ、上流側磁石部が臨むための第2開口部(316a、1342a)と、第1開口部の下方に設けられ、下流側磁石部が臨むための第3開口部(316c、1342c)とが設けられた針棒ケース(314、1314)」としてもよい。
また、第3には、上記第1又は第2の構成において、制御部が、トルク制御区間においては、ステッチごとにトルク値が規定されたトルクデータに従い制御を行ない、位置制御区間においては、位置制御区間の始点において、上糸用モータの角度の現在位置を検出し、上糸用モータの角度の現在位置から初期位置までの上糸用モータの角度を天秤に動力を伝達する主軸を回転させる主軸モータの回転方向の位置である主軸モータの角度ごとに規定した角度対応データを作成し、主軸モータが回転して主軸モータの角度が変化するに従い、主軸モータの角度に対応した上糸用モータの角度に上糸用モータを位置制御することを特徴とする。
よって、トルクデータにおいて、ステッチごとにトルク値が規定されているので、トルク制御において、ステッチごとに上糸への張力を制御することができ、また、位置制御においては、角度対応データが作成されるので、この角度対応データに基づき上糸用モータの角度を位置制御することができる。
なお、以下の構成としてもよい。すなわち、「ミシンであって、縫い針に挿通される上糸を挿通し回転中心を中心に揺動する天秤(12a、12a−1〜12a−6)と、主軸モータ(20)により回転し、天秤に動力を伝達するための主軸(22)と、天秤の上糸経路における上流側に設けられた上糸制御部で、上糸を挟んで把持する上流側把持部本体(41、241)と、上流側把持部本体に対して上糸を把持した閉状態と上糸把持を解除した開状態とを切り換える上流側駆動部(50、250)と、を有する上流側把持部(40、240)と、上流側把持部の上糸の経路における下流側に設けられた下流側把持部で、上糸を挟んで把持する下流側把持部本体(61、261)と、下流側把持部本体に対して上糸を把持した閉状態と上糸把持を解除した開状態とを切り換える下流側駆動部(70、270)と、を有する下流側把持部(60、260)と、上糸における上流側把持部本体と下流側把持部本体間の位置を回動させる回動部で、上糸に接する回動アーム(81、281)と、回動アームを回動させる上糸用モータ(86、286)とを有する回動部(80、280)と、を有する上糸制御部(30、230)と、各ステッチごとの制御区間において、天秤が上糸により縫製する加工布に対して上糸を引っぱる区間である天秤の下死点から上死点までの区間における少なくとも一部を含む区間であるトルク制御区間においては、上流側把持部本体を閉状態とし、下流側把持部本体を開状態とした状態で、刺繍データに基づき作成されステッチごとにトルク値が規定されたトルクデータに従い、天秤が上糸を引っぱる方向に対抗して上糸に張力を付与するようにトルク値に従い上糸用モータを制御することにより回動アームに回転力を付与し、一方、トルク制御区間以外の区間の少なくとも一部である位置制御区間においては、上流側把持部本体を開状態とし、下流側把持部本体を閉状態とした状態で、位置制御区間の始点において、上糸用モータの回転方向の位置である上糸用モータの角度の現在位置を検出し、上糸用モータの角度の現在位置から初期位置までの上糸用モータの角度を天秤に動力を伝達する主軸の角度ごとに規定した角度対応データを作成し、上糸用モータの角度における初期位置に上糸用モータの角度が戻るように、主軸モータが回転して主軸モータの角度が変化するに従い、主軸モータの角度に対応した上糸用モータの角度に上糸用モータを位置制御することにより回動アームに回転力を付与して上糸を上流から引き出す制御部(90)と、を有することを特徴とするミシン。」としてもよい。
また、第4には、ミシンであって、ミシンの筐体を構成するアーム(312、1312)と、アームに対して左右方向にスライド可能に設けられた針棒ケースで、回動部の回動アームの先端が正面側(「アーム側とは反対側である正面側」としてもよい)に露出可能であるように上下方向において上流側把持部本体と下流側把持部本体の間の位置に第1開口部(316b、1342b)が設けられるとともに、第1開口部の上方に設けられ、上流側磁石部が臨むための第2開口部(316a、1342a)と、第1開口部の下方に設けられ、下流側磁石部が臨むための第3開口部(316c、1342c)とが設けられた針棒ケース(314、1314)と、針棒ケースにおける正面側に露出して設けられるとともに、上糸の経路における下流側把持部の下流側に設けられた天秤で、揺動可能に形成された複数の天秤(12a−1〜12a−9)と、針棒ケースに設けられた複数の針棒(12b−1〜12b−9)と、針棒ケースの正面側に設けられ、上糸を挟んで把持する上流側把持部本体で、磁石が吸引する材料である磁性体により形成され、各針棒ごとに設けられた上流側第1板状部(242−1〜242−6、1242a、1404、1422)と、上流側第1板状部の背面側で第2開口部の正面側に設けられ、磁石が吸引しない非磁性体により形成された上流側第2板状部(244、1244、1408、1426)とを有する上流側把持部本体(241、1241)と、アーム側に固定して設けられ、上流側第1板状部を上流側第2板状部の背面側から磁力により吸引することにより上流側第1板状部と上流側第2板状部とで上糸を挟んで把持した閉状態と磁力による吸引を解除することにより上糸把持を解除した開状態とを切り換える上流側磁石部(250、1250)と、を有する上流側把持部(240、1240)と、上流側把持部の上糸の経路における下流側に設けられた下流側把持部で、針棒ケースの正面側における上流側把持部本体の下方に設けられ、上糸を挟んで把持する下流側把持部本体で、磁石が吸引する材料である磁性体により形成され、各針棒ごとに設けられた下流側第1板状部(262−1〜262−6、1262a、1414、1432)と、下流側第1板状部の背面側で第2開口部の正面側に設けられ、磁石が吸引しない非磁性体により形成された下流側第2板状部(264、1264、1418、1436)とを有する下流側把持部本体(261、1261)と、アーム側に固定して設けられ、下流側第1板状部を下流側第2板状部の背面側から磁力により吸引することにより下流側第1板状部と下流側第2板状部とで上糸を挟んで把持した閉状態と磁力による吸引を解除することにより上糸把持を解除した開状態とを切り換える下流側磁石部(270、1270)と、を有する下流側把持部(260、1260)と、針棒ケースに設けられ、上糸を第1開口部の位置で左右方向に支持する上糸支持部材(288、1288)(「針棒ケースに設けられ、第1開口部の正面側に上糸を左右方向に支持する上糸支持部材」としてもよい)と、上流側把持部本体と下流側把持部本体間の上糸(「上糸における上流側把持部本体と下流側把持部本体間の位置」としてもよい)を回動させる回動部で、上糸支持部材に支持された上糸に接する(「上糸を回動させる際に上糸支持部材に支持された上糸に接する」としてもよい)回動アーム(281、1281)と、アーム側に固定して設けられ、回動アームを回動させる上糸用モータ(286、1286)とを有する回動部(280、1280)と、各ステッチごとの制御区間において、天秤が上糸により縫製する加工布に対して上糸を引っぱる区間である天秤の一方の死点から他方の死点までの区間における少なくとも一部を含む区間であるトルク制御区間においては、上流側把持部本体を閉状態とし、下流側把持部本体を開状態とした状態で、刺繍データに基づき作成されステッチごとにトルク値が規定されたトルクデータに従い、天秤が上糸を引っぱる方向に対抗して上糸に張力を付与するようにトルク値に従い上糸用モータを制御することにより回動アームに対して上方に回転力を付与し、一方、トルク制御区間以外の区間の少なくとも一部である位置制御区間においては、上流側把持部本体を開状態とし、下流側把持部本体を閉状態とした状態で、位置制御区間の始点において、上糸用モータの回転方向の位置である上糸用モータの角度の現在位置を検出し、上糸用モータの角度の現在位置から初期位置(「回動アームの上死点に対応する位置である初期位置」としてもよい)までの上糸用モータの角度を天秤や針棒に動力を伝達するための主軸(22)を回転させる主軸モータ(20)の回転方向の位置である主軸モータの角度ごとに規定した角度対応データを作成し、上糸用モータの角度における初期位置に上糸用モータの角度が戻るように、主軸モータが回転して主軸モータの角度が変化するに従い、主軸モータの角度に対応した上糸用モータの角度に上糸用モータを位置制御することにより回動アームに対して上方に回転力を付与して上糸を上流から引き出し、次のステッチの制御に移行する際に、選択される上糸が変更される場合には、回動アームを下方に回動させて退避位置に退避させ(「回動アームを回動させて下方の退避位置に退避させ」としてもよい)(「回動アームを下方に回動させて、回動アームが上糸支持部材に支持された上糸に接する位置よりも下方の退避位置に退避させ」としてもよい)、針棒ケースをスライドさせて、選択された上糸の位置に上流側磁石部と下流側磁石部と回動アームが来るようにする制御部(90)と、を有することを特徴とする。
この第4の構成のミシンによれば、トルク制御区間において上糸に対してトルク制御を行なうので、上糸に対する張力の大きさを制御することができ、ステッチごとにトルク値が規定されたトルクデータに従い制御するので、ステッチごとにトルク制御を行なうことができ、ステッチごとに上糸への張力を制御することができ、ステッチごとに縫い目の固さを調整することができる。
また、複数の針棒を有する多針ヘッドにおいて、異なる上糸よりステッチを形成した場合でも、上糸制御用トルクデータにおけるトルク値を同じにすることにより、上糸への張力を等しく制御することができる。また、多頭刺繍ミシンの場合に、トルク制御区間に使用する上糸制御用トルクデータについて、各ヘッドにおいて共通の上糸制御用トルクデータとすることにより、各ヘッドにおいて、上糸への張力を等しくすることができる。
また、従来における糸調子皿とロータリーテンションの代わりに、上糸制御部を設けることにより、上糸を引き出す位置制御区間においては、上流側把持部本体が開となり、回動部の回動アームよりも上流には、糸調子皿とロータリーテンションによる摩擦抵抗が存在せず、また、下流側把持部本体が閉となるので、天秤の動きが上糸を引き出す際の支障となることがなく、よって、上糸を円滑に巻き糸から引き出すことができ、糸切れのおそれを小さくすることができる。
また、上糸の糸切れが発生した場合には、トルク制御区間において、天秤が上死点に移行する際に回動アームが上糸用モータの回転力付与方向と反対方向である下方に引っぱられることがないので、回動アームが下方に回動していかないことを検出することにより糸切れを検出することができ、また、糸切れが発生していない場合には、トルク制御区間においては、回動アームが下方に回動するので、正確に糸切れを検出することができる。
また、位置制御区間においては、上糸用モータの現在角度を検出し、上糸用モータの初期位置の角度にまで位置制御するための角度対応データを作成し、この角度対応データに従い、上糸用モータの初期位置の角度にまで位置制御により戻す制御を行なうので、トルク制御区間において、回動アームが引き上げられることにより消費した量だけ上糸を引き出すことがで、上糸を引き出すことにより蓄糸した量の過不足が生じない。
また、上流側把持部と下流側把持部と回動部を備えた構成を多針ヘッドに適用する場合に、上流側把持部の上流側磁石部と、下流側把持部の下流側磁石部と、回動部をそれぞれ1つ設けるのみで構成できるので、製造コストを抑えた効率的な構成とすることができる。
なお、上記第4の構成において、針棒ケースの構成を「アームに対してスライド可能に設けられた針棒ケースで、回動部の回動アームの先端を針棒ケースの内側から露出可能にアーム側とは反対側の正面側における上下方向において上流側把持部本体と下流側把持部本体の間の位置に第1開口部(316b、1342b)が設けられるとともに、第1開口部の上方に設けられ、上流側磁石部が臨むための第2開口部(316a、1342a)と、第1開口部の下方に設けられ、下流側磁石部が臨むための第3開口部(316c、1342c)とが設けられた針棒ケース(314、1314)」としてもよい。また、上記第4の構成において、天秤の構成を「針棒ケースにおける下流側把持部の下方位置から正面側に露出して設けられ、縫い針に挿通される上糸を挿通し回転中心を中心に揺動する天秤(12a−1〜12a−9)」としてもよい。
なお、第4の構成を以下のようにしてもよい。すなわち、「ミシンであって、ミシンの筐体を構成するアーム(312)と、アームに設けられ、縫い針に挿通される上糸を挿通し回転中心を中心に揺動する複数の天秤(12a−1〜12a−6)と、アームに対してスライド可能に設けられた針棒ケースで、回動部の回動アームの先端を針棒ケースの内側から露出可能にアーム側とは反対側の正面側における上下方向において上流側把持部本体と下流側把持部本体の間の位置に第1開口部(316b)が設けられるとともに、下流側把持部を構成する下流側把持部本体の下方に天秤を針棒ケースの内側から露出可能に正面側に第2開口部(316d)が設けられた針棒ケース(314)と、針棒ケースに設けられた複数の針棒(12b−1〜12b−6)と、針棒ケースの正面側に設けられ、上糸を挟んで把持する上流側把持部本体で、磁石が吸引する材料である磁性体により板状に形成された複数の上流側第1板状部(242−1〜242−6)と、上流側第1板状部の背面側に設けられ磁石が吸引しない非磁性体により板状に形成された上流側第2板状部(244)と、上流側第1板状部と上流側第2板状部とを吊り下げた状態で針棒ケースに取り付ける取付部材(246)とを有する上流側把持部本体(241)と、上流側第2板状部の背面側にアームに設けられ、上流側第1板状部を磁力により吸引することにより上流側第1板状部と上流側第2板状部とで上糸を挟んで把持した閉状態と磁力による吸引を解除することにより上糸把持を解除した開状態とを切り換える上流側磁石部(250)と、を有する上流側把持部(240)と、上流側把持部の上糸の経路における下流側に設けられた下流側把持部で、針棒ケースの正面側における上流側把持部本体の下方に設けられ、上糸を挟んで把持する下流側把持部本体で、磁石が吸引する材料である磁性体により板状に形成された複数の下流側第1板状部(262−1〜262−6)と、下流側第1板状部の背面側に設けられ磁石が吸引しない非磁性体により板状に形成された下流側第2板状部(264)と、下流側第1板状部と下流側第2板状部とを吊り下げた状態で針棒ケースに取り付ける取付部材(266)とを有する下流側把持部本体(261)と、下流側第2板状部の背面側にアームに設けられ、下流側第1板状部を磁力により吸引することにより下流側第1板状部と下流側第2板状部とで上糸を挟んで把持した閉状態と磁力による吸引を解除することにより上糸把持を解除した開状態とを切り換える下流側磁石部(270)と、を有する下流側把持部(260)と、第1開口部の正面側に上糸を正面視で左右方向に支持する上糸支持部材(288)と、上糸における上流側把持部本体と下流側把持部本体間の位置を回動させる回動部で、上糸支持部材に支持された上糸に接する回動アーム(281)と、アームに設けられ、回動アームを回動させる上糸用モータ(286)とを有する回動部(280)と、各ステッチごとの制御区間において、天秤が上糸により縫製する加工布に対して上糸を引っぱる区間である天秤の一方の死点から他方の死点までの区間における少なくとも一部を含む区間であるトルク制御区間においては、上流側把持部本体を閉状態とし、下流側把持部本体を開状態とした状態で、刺繍データに基づき作成されステッチごとにトルク値が規定されたトルクデータに従い、天秤が上糸を引っぱる方向に対抗して上糸に張力を付与するようにトルク値に従い上糸用モータを制御することにより回動アームに対して上方に回転力を付与し、一方、トルク制御区間以外の区間の少なくとも一部である位置制御区間においては、上流側把持部本体を開状態とし、下流側把持部本体を閉状態とした状態で、位置制御区間の始点において、上糸用モータの回転方向の位置である上糸用モータの角度の現在位置を検出し、上糸用モータの角度の現在位置から初期位置までの上糸用モータの角度を天秤や針棒に動力を伝達するための主軸(22)を回転させる主軸モータ(20)の回転方向の位置である主軸モータの角度ごとに規定した角度対応データを作成し、上糸用モータの角度における初期位置に上糸用モータの角度が戻るように、主軸モータが回転して主軸モータの角度が変化するに従い、主軸モータの角度に対応した上糸用モータの角度に上糸用モータを位置制御することにより回動アームに対して上方に回転力を付与して上糸を上流から引き出し、次のステッチの制御に移行する際に、選択される上糸が変更される場合には、回動アームを初期位置よりもさらに下方の退避位置に退避させ、針棒ケースをスライドさせて、選択された上糸の位置に上流側磁石部と下流側磁石部と回動アームが来るようにする制御部(90)と、を有することを特徴とする。」ものとしてもよい。
また、第5には、上記第2又は第4の構成において、上糸は、上流側把持部本体における上流側第1板状部と上流側第2板状部間を通過して下方に導かれ、針棒ケースに設けられた第1上糸経路反転部材(290、1290)により経路が反転されて上糸支持部材に至り、上糸支持部材から下方に導かれて、下流側把持部本体における下流側第1板状部と下流側第2板状部間を通過し、針棒ケースに設けられた第2上糸経路反転部材(292、1337)により経路が反転されて天秤に至り、天秤から下方に導かれて針棒に取り付けられた縫い針に至ることを特徴とする。
また、第6には、上記第5の構成において、第1上糸経路反転部材が、円柱状の周面を有する本体部(ga−1)と、本体部の基端から連設され、本体部の径よりも小さい径に形成された基端部(ga−2)とを有し、第1上糸経路反転部材と第2上糸経路反転部材の針棒ケースにおける取付け位置には、本体部の基端部側の端部を挿入するための凹部(1343b)と、凹部から連設され、基端部を挿入するための穴部(1343a)とが形成され、基端部が穴部に挿入されるとともに、本体部の基端部側の端部が凹部に挿入されていることを特徴とする。
よって、本体部の基端部側の端部が凹部に挿入して埋設されているので、上糸が本体部の基端と針棒ケースの面との間に入り込むおそれを防止することができる。
また、第7には、上記第2又は第4又は第5又は第6の構成において、上流側把持部本体において、針棒ケースの上流側第1板状部の上側と下側に設けられた第1ガイド部材(252、254、1252、1254)が左右方向に異なる位置に設けられて、上流側第1板状部と上流側第2板状部間の上糸経路が上下方向に対して斜めに形成され、下流側把持部本体において、針棒ケースの下流側第1板状部の上側と下側に設けられた第2ガイド部材(272、274、1272、1274)が左右方向に異なる位置に設けられて、下流側第1板状部と下流側第2板状部間の上糸経路が上下方向に対して斜めに形成されることを特徴とする。
これにより、上流側把持部本体において、第1板状部の背面側に存在する上糸の経路を長く確保することができ、上糸を第1板状部と第2板状部により確実に把持することができる。また、下流側把持部本体において、第3板状部の背面側に存在する上糸の経路を長く確保することができ、上糸を第3板状部と第4板状部により確実に把持することができる。
また、第8には、上記第7の構成において、第1ガイド部材と第2ガイド部材とが、円柱状の周面を有する本体部(ga−1)と、本体部の基端から連設され、本体部の径よりも小さい径に形成された基端部(ga−2)とを有し、第1ガイド部材と第2ガイド部材の針棒ケースにおける取付け位置には、本体部の基端部側の端部を挿入するための凹部(1343b)と、凹部から連設され、基端部を挿入するための穴部(1343a)とが形成され、基端部が穴部に挿入されるとともに、本体部の基端部側の端部が凹部に挿入されていることを特徴とする。
よって、本体部の基端部側の端部が凹部に挿入して埋設されているので、上糸が本体部の基端と針棒ケースの面との間に入り込むおそれを防止することができる。
また、第9には、上記第2又は第4又は第5又は第6又は第7又は第8の構成において、針棒ケースが、天秤や針棒が設けられ、アームに対してスライド可能に設けられた針棒ケース本体(1330)と、針棒ケース本体の上面に設けられた平板状のプレート部(1341)と、を有し、第1開口部と、第2開口部と、第3開口部と、上流側把持部と、下流側把持部と、上糸支持部材とが、プレート部に設けられていることを特徴とする。
よって、従来のミシンにおいて、糸調子皿やロータリーテンションが設けられた上糸調整部材取付部の代わりに、第1開口部と第2開口部と第3開口部と上流側把持部と下流側把持部と上糸支持部材とが設けられたプレート部を取り付けることにより、従来のミシンの構成を利用することができるので、製造コストを低減させることができる。
また、第10には、上記第2又は第4又は第5又は第6又は第7又は第8又は第9の構成において、上流側磁石部と、下流側磁石部と、上糸用モータとを支持する磁石部・モータ支持部材(1360)がアームに固定して設けられていることを特徴とする。
また、第11には、上記第2又は第4又は第5又は第6又は第7又は第8又は第9の構成において、上流側磁石部と、下流側磁石部と、上糸用モータとを支持する磁石部・モータ支持部材(1370)と、針棒ケースに設けられ、磁石部・モータ支持部材を左右方向に(「正面視において左右方向に」としてもよい)摺動可能に支持する摺動支持部材(1350、1352)と、アームに固定され、磁石部・モータ支持部材の左右方向の摺動を規制して支持部材の左右方向の位置決めを行なう摺動規制部材(1380)とを有し、摺動規制部材により磁石部・モータ支持部材の左右方向の摺動を規制することにより、上流側磁石部と、下流側磁石部と、上糸用モータとが、アーム側に固定して設けられることを特徴とする。
第11の構成においては、磁石部・モータ支持部材をミシンに取り付ける際に、磁石部・モータ支持部材を摺動支持部材に沿って摺動させ適切な位置に調整したら、摺動規制部材により磁石部・モータ支持部の左右方向の摺動を規制して、上流側磁石部と、下流側磁石部と、上糸用モータとをアーム側に固定する。よって、磁石部・モータ支持部の左右方向の位置を微調整することができ、上流側磁石部、下流側磁石部や回動アームの左右方向の位置を微調整することができる。
また、第12には、上記第2又は第4又は第5又は第6又は第7又は第8又は第9又は第10又は第11の構成において、針棒ケースの正面側に設けられ、上流側第1板状部(1404)の穴部に挿通する第1軸部(1401c)を有する上流側第1板状部支持部材(1401)と、第1軸部が挿通された上流側コイル状バネ(1402)と、第1軸部の先端に固定され、磁石が吸引しない非磁性体により形成された上流側保護用板状部(1406)とが設けられ、上流側第1板状部には、第1軸部を挿通するための穴部が設けられ、上流側保護用板状部における上流側第1板状部とは反対側の面は、上流側第2板状部に接し、上流側第1板状部が、上流側コイル状バネと上流側保護用板状部の間の位置に、第1軸部が穴部に挿通した状態で設けられることにより、上流側第1板状部が上流側コイル状バネにより上流側保護用板状部側に付勢され、針棒ケースの正面側に設けられ、下流側第1板状部(1414)の穴部に挿通する第2軸部(1411c)を有する下流側第1板状部支持部材(1411)と、第2軸部が挿通された下流側コイル状バネ(1412)と、第2軸部の先端に固定され、磁石が吸引しない非磁性体により形成された下流側保護用板状部(1416)とが設けられ、下流側第1板状部には、第2軸部を挿通するための穴部が設けられ、下流側保護用板状部における下流側第1板状部とは反対側の面は、下流側第2板状部に接し、下流側第1板状部が、下流側コイル状バネと下流側保護用板状部の間の位置に、第2軸部が穴部に挿通した状態で設けられ、下流側第1板状部が下流側コイル状バネにより下流側保護用板状部側に付勢されていることを特徴とする。
よって、上流側第1板状部と上流側保護用板状部は、上流側コイル状バネにより上流側第2板状部側に付勢され、上流側磁石部により上流側第1板状部が吸引されない場合でも、上流側第1板状部が上流側保護用板状部に接し、上流側保護用板状部が上流側第2板状部に接しているので、上流側把持部本体の開閉を繰り返すことによる振動音やヘッドの振動による振動音を防止することができる。同様に、下流側第1板状部と下流側保護用板状部は、下流側コイル状バネにより下流側第2板状部側に付勢され、下流側磁石部により下流側第1板状部が吸引されない場合でも、下流側第1板状部が下流側保護用板状部に接し、下流側保護用板状部が下流側第2板状部に接しているので、下流側把持部本体の開閉を繰り返すことによる振動音やヘッドの振動による振動音を防止することができる。
上流側第2板状部(下流側第2板状部)と上糸との間に上流側保護用板状部(下流側保護用板状部)が設けられるので、上糸が上流側第2板状部(下流側第2板状部)に接することによる上流側第2板状部(下流側第2板状部)の摩耗を防止することができる。
また、第13には、上記第2又は第4又は第5又は第6又は第7又は第8又は第9又は第10又は第11の構成において、針棒ケースにおける第2開口部の上側に挿通された上流側摺動部材で、上流側摺動部材の軸線方向に摺動可能に設けられた上流側摺動部材(1421)と、上流側摺動部材を針棒ケースの背面側に付勢する上流側付勢部材(1424)とが設けられ、上流側第1板状部(1422)が、上流側摺動部材に吊り下げられた状態で設けられ、アーム側には、上流側磁石部により吸引対象の上流側第1板状部に対応した上流側摺動部材を上流側付勢部材の付勢方向と反対側に押すための上流側押し操作部材(1362)が設けられており、針棒ケースにおける第3開口部の上側に挿通され、上流側第1板状部ごとに設けられた下流側摺動部材で、下流側摺動部材の軸線方向に摺動可能に設けられた下流側摺動部材(1431)と、下流側摺動部材を針棒ケースの背面側に付勢する下流側付勢部材(1434)とが設けられ、下流側第1板状部(1432)が、下流側摺動部材に吊り下げられた状態で設けられ、アーム側には、下流側磁石部により吸引対象の下流側第1板状部に対応した下流側摺動部材を下流側付勢部材の付勢方向と反対側に押すための下流側押し操作部材(1364)が設けられていることを特徴とする。
よって、選択された針棒以外の針棒に対応する上流側第1板状部については、上流側第1板状部は、上流側第2板状部側に押されているので、上流側第1板状部が上流側第2板状部に接することによる音は発生せず、ヘッドの振動によっても振動音は発生しない。また、選択された針棒に対応する上流側第1板状部については、上流側第1板状部は上流側押し操作部材により背面側に押されていないので、上糸の把持の解除を十分行なうことができる。同様に、選択された針棒以外の針棒に対応する下流側第1板状部については、下流側第1板状部は、下流側第2板状部側に押されているので、下流側第1板状部が下流側第2板状部に接することによる音は発生せず、ヘッドの振動によっても振動音は発生しない。また、選択された針棒に対応する下流側第1板状部については、下流側第1板状部は下流側押し操作部材により背面側に押されていないので、上糸の把持の解除を十分行なうことができる。
また、第14には、ミシンであって、ミシンの筐体を構成するアーム(1312)と、アームに対して左右方向にスライド可能に設けられ、複数の針棒(12b−1〜12b−9)を収納する針棒収納ケース(1330)と、針棒収納ケースの上面に設けられた平板状のプレート部(1341)で、回動部の回動アームの先端が正面側(「アーム側とは反対側である正面側」としてもよい)に露出可能であるように上下方向において上流側把持部本体と下流側把持部本体の間の位置に第1開口部(1342b)が設けられるとともに、第1開口部の上方に設けられ、上流側磁石部が臨むための第2開口部(1342a)と、第1開口部の下方に設けられ、下流側磁石部が臨むための第3開口部(1342c)とが設けられたプレート部(1341)と、針棒収納ケースに揺動可能に軸支されるとともに、針棒収納ケースにおける正面側に露出して設けられ、上糸の経路における下流側把持部の下流側に設けられた複数の天秤(12a−1〜12a−9)と、プレート部の正面側に設けられ、上糸を挟んで把持する上流側把持部本体で、磁石が吸引する材料である磁性体により形成され、各針棒ごとに設けられた上流側第1板状部(1242a、1404、1422)と、上流側第1板状部の背面側で第2開口部の正面側に設けられ、磁石が吸引しない非磁性体により形成された上流側第2板状部(1244、1408、1426)とを有する上流側把持部本体(1241)と、アーム側に固定して設けられ、上流側第1板状部を上流側第2板状部の背面側から磁力により吸引することにより上流側第1板状部と上流側第2板状部とで上糸を挟んで把持した閉状態と磁力による吸引を解除することにより上糸把持を解除した開状態とを切り換える上流側磁石部(1250)と、を有する上流側把持部(1240)と、上流側把持部の上糸の経路における下流側に設けられた下流側把持部で、プレート部の正面側における上流側把持部本体の下方に設けられ、上糸を挟んで把持する下流側把持部本体で、磁石が吸引する材料である磁性体により形成され、各針棒ごとに設けられた下流側第1板状部(1262a、1414、1432)と、下流側第1板状部の背面側で第2開口部の正面側に設けられ、磁石が吸引しない非磁性体により形成された下流側第2板状部(1264、1418、1436)とを有する下流側把持部本体(1261)と、アーム側に固定して設けられ、下流側第1板状部を下流側第2板状部の背面側から磁力により吸引することにより下流側第1板状部と下流側第2板状部とで上糸を挟んで把持した閉状態と磁力による吸引を解除することにより上糸把持を解除した開状態とを切り換える下流側磁石部(1270)と、を有する下流側把持部(1260)と、プレート部に設けられ、上糸を第1開口部の位置で左右方向に支持する上糸支持部材(1288)(「プレート部に設けられ、第1開口部の正面側に上糸を左右方向に支持する上糸支持部材」としてもよい)と、上流側把持部本体と下流側把持部本体間の上糸(「上糸における上流側把持部本体と下流側把持部本体間の位置」としてもよい)を回動させる回動部で、上糸支持部材に支持された上糸に接する(「上糸を回動させる際に上糸支持部材に支持された上糸に接する」としてもよい)回動アーム(1281)と、アーム側に固定して設けられ、回動アームを回動させる上糸用モータ(1286)とを有する回動部(1280)と、各ステッチごとの制御区間において、天秤が上糸により縫製する加工布に対して上糸を引っぱる区間である天秤の一方の死点から他方の死点までの区間における少なくとも一部を含む区間であるトルク制御区間においては、上流側把持部本体を閉状態とし、下流側把持部本体を開状態とした状態で、刺繍データに基づき作成されステッチごとにトルク値が規定されたトルクデータに従い、天秤が上糸を引っぱる方向に対抗して上糸に張力を付与するようにトルク値に従い上糸用モータを制御することにより回動アームに対して上方に回転力を付与し、一方、トルク制御区間以外の区間の少なくとも一部である位置制御区間においては、上流側把持部本体を開状態とし、下流側把持部本体を閉状態とした状態で、位置制御区間の始点において、上糸用モータの回転方向の位置である上糸用モータの角度の現在位置を検出し、上糸用モータの角度の現在位置から初期位置(「回動アームの上死点に対応する位置である初期位置」としてもよい)までの上糸用モータの角度を天秤や針棒に動力を伝達するための主軸(22)を回転させる主軸モータ(20)の回転方向の位置である主軸モータの角度ごとに規定した角度対応データを作成し、上糸用モータの角度における初期位置に上糸用モータの角度が戻るように、主軸モータが回転して主軸モータの角度が変化するに従い、主軸モータの角度に対応した上糸用モータの角度に上糸用モータを位置制御することにより回動アームに対して上方に回転力を付与して上糸を上流から引き出し、次のステッチの制御に移行する際に、選択される上糸が変更される場合には、回動アームを下方に回動させて退避位置に退避させ(「回動アームを回動させて下方の退避位置に退避させ」としてもよい)(「回動アームを下方に回動させて、回動アームが上糸支持部材に支持された上糸に接する位置よりも下方の退避位置に退避させ」としてもよい)、針棒収納ケースをスライドさせて、選択された上糸の位置に上流側磁石部と下流側磁石部と回動アームが来るようにする制御部(90)と、を有することを特徴とする。
この第14の構成のミシンによれば、トルク制御区間において上糸に対してトルク制御を行なうので、上糸に対する張力の大きさを制御することができ、ステッチごとにトルク値が規定されたトルクデータに従い制御するので、ステッチごとにトルク制御を行なうことができ、ステッチごとに上糸への張力を制御することができ、ステッチごとに縫い目の固さを調整することができる。
また、複数の針棒を有する多針ヘッドにおいて、異なる上糸よりステッチを形成した場合でも、上糸制御用トルクデータにおけるトルク値を同じにすることにより、上糸への張力を等しく制御することができる。また、多頭刺繍ミシンの場合に、トルク制御区間に使用する上糸制御用トルクデータについて、各ヘッドにおいて共通の上糸制御用トルクデータとすることにより、各ヘッドにおいて、上糸への張力を等しくすることができる。
また、従来における糸調子皿とロータリーテンションの代わりに、上糸制御部を設けることにより、上糸を引き出す位置制御区間においては、上流側把持部本体が開となり、回動部の回動アームよりも上流には、糸調子皿とロータリーテンションによる摩擦抵抗が存在せず、また、下流側把持部本体が閉となるので、天秤の動きが上糸を引き出す際の支障となることがなく、よって、上糸を円滑に巻き糸から引き出すことができ、糸切れのおそれを小さくすることができる。
また、上糸の糸切れが発生した場合には、トルク制御区間において、天秤が上死点に移行する際に回動アームが上糸用モータの回転力付与方向と反対方向である下方に引っぱられることがないので、回動アームが下方に回動していかないことを検出することにより糸切れを検出することができ、また、糸切れが発生していない場合には、トルク制御区間においては、回動アームが下方に回動するので、正確に糸切れを検出することができる。
また、位置制御区間においては、上糸用モータの現在角度を検出し、上糸用モータの初期位置の角度にまで位置制御するための角度対応データを作成し、この角度対応データに従い、上糸用モータの初期位置の角度にまで位置制御により戻す制御を行なうので、トルク制御区間において、回動アームが引き上げられることにより消費した量だけ上糸を引き出すことがで、上糸を引き出すことにより蓄糸した量の過不足が生じない。
また、上流側把持部と下流側把持部と回動部を備えた構成を多針ヘッドに適用する場合に、上流側把持部の上流側磁石部と、下流側把持部の下流側磁石部と、回動部をそれぞれ1つ設けるのみで構成できるので、製造コストを抑えた効率的な構成とすることができる。
なお、上記第14の構成において、天秤を「針棒収納ケースに揺動可能に設けられ、下流側把持部の下方位置から正面側に露出して設けられ、縫い針に挿通される上糸を挿通する複数の天秤(12a−1〜12a−9)」としてもよい。
なお、上記第2、第4及び第14の構成において、上流側第1板状部が上流側第2板状部との間隔が可変となるように設けられ、下流側第1板状部が下流側第2板状部との間隔が可変となるように設けられているものとするのが好ましい。また、上記第2、第4及び第14の構成において、上糸支持部材は、1つの上糸に対して一対設けられ、各上糸支持部材は、上糸用モータの回転中心と略同心円状に形成された第1円弧状部材と、上糸用モータの回転中心と略同心円状で、出力軸の軸線側とは反対側に第1円弧状部材と間隔を介して形成された第2円弧状部材と、第1円弧状部材の下端と第2円弧状部材の下端とを接続する接続部材とを有し、一対の上糸支持部材は、左右方向に間隔を介して設けられているとするのが好ましい。
また、第14−1の構成として、「上記第14の構成において、上糸は、上流側把持部本体における上流側第1板状部と上流側第2板状部間を通過して下方に導かれ、プレート部に設けられた第1上糸経路反転部材(1290)により経路が反転されて上糸支持部材に至り、上糸支持部材から下方に導かれて、下流側把持部本体における下流側第1板状部と下流側第2板状部間を通過し、針棒ケースに設けられた第2上糸経路反転部材(1292)により経路が反転されて天秤に至り、天秤から下方に導かれて針棒に取り付けられた縫い針に至ることを特徴とする。」としてもよい。
また、第14−2の構成として、「上記第14−1の構成において、第1上糸経路反転部材が、円柱状の周面を有する本体部(ga−1)と、本体部の基端から連設され、本体部の径よりも小さい径に形成された基端部(ga−2)とを有し、第1上糸経路反転部材と第2上糸経路反転部材のプレート部における取付け位置には、本体部の基端部側の端部を挿入するための凹部(1343b)と、凹部から連設され、基端部を挿入するための穴部(1343a)とが形成され、基端部が穴部に挿入されるとともに、本体部の基端部側の端部が凹部に挿入されていることを特徴とする。」としてもよい。
また、第14−3の構成として、「上記第14又は第14−1又は第14−2の構成において、上流側把持部本体において、取付部材が上流側第1板状部の上側領域の左右方向の略中央に取り付けられ、プレート部の上流側第1板状部の上側と下側に設けられた第1ガイド部材(1252、1254)が左右方向に異なる位置に設けられて、上流側第1板状部と上流側第2板状部間の上糸経路が上下方向に対して斜めに形成され、下流側把持部本体において、取付部材が下流側第1板状部の上側領域の左右方向の略中央に取り付けられ、プレート部の下流側第1板状部の上側と下側に設けられた第2ガイド部材(1272、1274)が左右方向に異なる位置に設けられて、下流側第1板状部と下流側第2板状部間の上糸経路が上下方向に対して斜めに形成されることを特徴とする。」としてもよい。
また、第14−4の構成として、「上記第14−3の構成において、第1ガイド部材と第2ガイド部材とが、円柱状の周面を有する本体部(ga−1)と、本体部の基端から連設され、本体部の径よりも小さい径に形成された基端部(ga−2)とを有し、第1ガイド部材と第2ガイド部材の針棒ケースにおける取付け位置には、本体部の基端部側の端部を挿入するための凹部(1343b)と、凹部から連設され、基端部を挿入するための穴部(1343a)とが形成され、基端部が穴部に挿入されるとともに、本体部の基端部側の端部が凹部に挿入されていることを特徴とする。
また、第14−5の構成として、「上記第14又は第14−1又は第14−2又は第14−3又は第14−4の構成において、上流側磁石部と、下流側磁石部と、上糸用モータとを支持する磁石部・モータ支持部材(1360)がアームに固定して設けられていることを特徴とする。」としてもよい。
また、第14−6の構成として、「上記第14又は第14−1又は第14−2又は第14−3又は第14−4の構成において、上流側磁石部と、下流側磁石部と、上糸用モータとを支持する磁石部・モータ支持部材(1370)と、プレート部及び/又は針棒収納ケースに設けられ、磁石部・モータ支持部材を正面視において左右方向に摺動可能に支持する摺動支持部材(1350、1352)と、アームに固定され、磁石部・モータ支持部材の左右方向の摺動を規制して支持部材の左右方向の位置決めを行なう摺動規制部材(1380)とを有し、摺動規制部材により磁石部・モータ支持部材の左右方向の摺動を規制することにより、上流側磁石部と、下流側磁石部と、上糸用モータとが、アーム側に固定して設けられることを特徴とする。」としてもよい。
また、第14−7の構成として、「上記第14又は第14−1又は第14−2又は第14−3又は第14−4又は第14−5又は第14−6の構成において、プレート部の正面側に設けられ、上流側第1板状部の穴部に挿通する第1軸部を有する上流側第1板状部支持部材(1401)と、第1軸部が挿通された上流側コイル状バネ(1402)と、第1軸部の先端に固定され、磁石が吸引しない非磁性体により形成された上流側保護用板状部(1406)とが設けられ、上流側第1板状部には、第1軸部を挿通するための穴部が設けられ、上流側保護用板状部における上流側第1板状部とは反対側の面は、上流側第2板状部に接し、上流側第1板状部が、上流側コイル状バネと上流側保護用板状部の間の位置に、第1軸部が穴部に挿通した状態で設けられることにより、上流側第1板状部が上流側コイル状バネにより上流側保護用板状部側に付勢され、針棒ケースの正面側に設けられ、下流側第1板状部の穴部に挿通する第2軸部を有する下流側第1板状部支持部材(1411)と、第2軸部が挿通された下流側コイル状バネ(1412)と、第2軸部の先端に固定され、磁石が吸引しない非磁性体により形成された下流側保護用板状部(1416)とが設けられ、下流側第1板状部には、第2軸部を挿通するための穴部が設けられ、下流側保護用板状部における下流側第1板状部とは反対側の面は、下流側第2板状部に接し、下流側第1板状部が、下流側コイル状バネと下流側保護用板状部の間の位置に、第2軸部が穴部に挿通した状態で設けられ、下流側第1板状部が下流側コイル状バネにより下流側保護用板状部側に付勢されていることを特徴とする。」としてもよい。
また、第14−8の構成として、「上記第14又は第14−1又は第14−2又は第14−3又は第14−4又は第14−5又は第14−6の構成において、プレート部における第2開口部の上側に挿通された上流側摺動部材で、上流側摺動部材の軸線方向に摺動可能に設けられた上流側摺動部材(1421)と、上流側摺動部材をプレート部の背面側に付勢する上流側付勢部材(1424)とが設けられ、上流側第1板状部が、上流側摺動部材に吊り下げられた状態で設けられ、アーム側には、上流側磁石部により吸引対象の上流側第1板状部に対応した上流側摺動部材を上流側付勢部材の付勢方向と反対側に押すための上流側押し操作部材(1362)が設けられており、プレート部における第3開口部の上側に挿通され、上流側第1板状部ごとに設けられた下流側摺動部材で、下流側摺動部材の軸線方向に摺動可能に設けられた下流側摺動部材(1431)と、下流側摺動部材をプレート部の背面側に付勢する下流側付勢部材(1434)とが設けられ、下流側第1板状部が、下流側摺動部材に吊り下げられた状態で設けられ、アーム側には、下流側磁石部により吸引対象の下流側第1板状部に対応した下流側摺動部材を下流側付勢部材の付勢方向と反対側に押すための下流側押し操作部材(1364)が設けられていることを特徴とする。」としてもよい。
また、第15には、上記第2又は第4又は第5又は第6又は第7又は第8又は第9又は第10又は第11又は第12又は第13又は第14の構成において、上糸支持部材は、上糸を第1開口部の正面側に支持することを特徴とする。
また、第16には、上記第3又は第4又は第14の構成において、トルク制御区間におけるトルク制御においては、トルクデータにおけるトルク値と上糸用モータに供給される電流値に基づくトルク値とからトルク偏差の値を算出し、算出されたトルク偏差に従い上糸用モータに電流を供給することを特徴とする。
また、第17には、上記第3又は第4又は第14又は第16の構成において、上糸用モータの回転方向の位置を検出するモータ角度検出部を有し、位置制御区間における位置制御においては、角度対応データから上糸用モータの角度を読み出す読出し工程と、読出し工程で読み出された角度データの単位時間当たりの変化量を算出して速度データを算出する速度データ算出工程と、速度データ算出工程において算出された速度データの単位時間当たりの変化量を検出してトルクデータを算出するトルクデータ算出工程と、読出し工程で読み出された角度のデータと、該モータ角度検出部により検出されたモータ角度のデータとから位置偏差の値を算出する位置偏差算出工程と、算出された位置偏差の値と、算出された速度データと、該角度検出部により検出されたモータの角度の単位時間当たりの変化量とから速度偏差の値を算出する速度偏差算出工程と、算出された速度偏差の値と、算出されたトルクデータと、モータに供給される電流値に基づくトルクの値とからトルク偏差の値を算出するトルク偏差算出工程と、算出されたトルク偏差の値に従いモータに電流を供給する電流供給工程と、からなる動作制御工程に従い位置制御を行なうことを特徴とする。
また、第18には、上記第1から第17までのいずれかの構成において、制御部は、トルク制御区間の始点と終点及び位置制御区間の始点と終点が主軸モータの回転方向の位置である主軸角度の情報として規定された区間データに従い、主軸角度を検出することにより、トルク制御区間と位置制御区間とを判定することを特徴とする。
また、第19には、上記第1から第18までのいずれかの構成において、位置制御区間の始点は、天秤の他方の死点から一方の死点までの区間におけるいずれかの位置で、釜の上死点よりも前の位置であり、位置制御区間の終点は、天秤の一方の死点から他方の死点までの区間におけるいずれかの位置であることを特徴とする。
また、第20には、上記第1から第19までのいずれかの構成において、トルク制御区間の終点と位置制御区間の始点の間には、上糸用モータに電流を供給しない区間を設けるとともに、位置制御区間の終点とトルク制御区間の始点の間には、上糸用モータに電流を供給しない区間を設け、位置制御区間の終点において、上流側把持部本体を閉状態、下流側把持部本体を開状態に切り換え、トルク制御区間の終点において、上流側把持部本体を開状態、下流側把持部本体を閉状態に切り換えることを特徴とする。つまり、上流側把持部本体と下流側把持部本体の開閉の切換えが確実に行われてから、トルク制御と位置制御の切換えを行なうために、電流供給停止時間が設けられる。なお、上記の各構成において、磁石部は、具体的には、電磁石である。
本発明に基づくミシンによれば、トルク制御区間において上糸に対してトルク制御を行なうので、上糸に対する張力の大きさを制御することができ、ステッチごとにトルク値を設定することにより、ステッチごとにトルク制御を行なうことができ、ステッチごとに上糸への張力を制御することができ、ステッチごとに縫い目の固さを調整することができる。
また、多針ヘッドの場合でも、異なる上糸よりステッチを形成した場合でも、トルク値を同じにすることにより、上糸への張力を等しく制御することができる。また、多頭刺繍ミシンの場合でも、トルク制御区間に使用するトルク値について、各ヘッドにおいて共通のトルク値とすることにより、各ヘッドにおいて、上糸への張力を等しくすることができる。
また、従来における糸調子皿とロータリーテンションの代わりに、上糸制御部を設けることにより、上糸を引き出す位置制御区間においては、上流側把持部本体が開となり、回動部の回動アームよりも上流には、糸調子皿とロータリーテンションによる摩擦抵抗が存在せず、また、下流側把持部本体が閉となるので、天秤の動きが上糸を引き出す際の支障となることがなく、よって、上糸を円滑に巻き糸から引き出すことができ、糸切れのおそれを小さくすることができる。
また、上糸の糸切れが発生した場合には、トルク制御区間において、天秤が上死点に移行する際に回動アームが上糸用モータの回転力付与方向と反対方向に引っぱられることがないので、回動アームが上糸用モータの回転力付与方向と反対方向に回動しないことを検出することにより糸切れを検出することができ、また、糸切れが発生していない場合には、トルク制御区間においては、回動アームが上糸用モータの回転力付与方向と反対方向に回動するので、正確に糸切れを検出することができる。
また、位置制御区間においては、上糸用モータの回転方向の位置である上糸用モータの角度における初期位置に上糸用モータの角度が戻るように上糸用モータの角度の位置データに従い回動アームに回転力を付与するので、回動アームが上糸用モータの回転力付与方向と反対方向に引き上げられることにより消費した量だけ上糸を引き出すことができ、上糸を引き出すことにより蓄糸した量の過不足が生じない。
本発明においては、上糸に対するテンションの大きさを制御することができ、特に、天秤が上昇する際に上糸に付与されるテンションの大きさを制御することができ、さらに、上糸を引き出すことにより蓄糸した量の過不足が生じない上糸張力制御装置を提供するという問題点を以下のようにして実現した。
本発明の実施例1に基づくミシン5は、図1〜図5に示すように構成され、ヘッド7と、釜12cと、縫製枠(保持枠、刺繍枠としてもよい)12dと、枠駆動装置24と、記憶装置92とを有している。なお、図2は、ミシン5の要部を概念的に示す図であり、図3は、図2の内容を具体的に示したものである。
ここで、ヘッド7は、略平板状のミシンテーブル(図示せず)の上方に設けられている。つまり、ミシンテーブルの上面からはフレーム120(図3、図4参照)が立設して設けられ、このフレーム120の正面側(Y1側)にヘッド7が設けられている。
ヘッド7は、図1、図3、図4に示すように構成され、機械要素群10と、主軸モータ20と、主軸22と、上糸制御部30と、制御回路90と、プリテンション96と、上糸ボビンに巻回された巻き糸98と、ケース部110とを有している。
この機械要素群10は、ヘッド7において駆動される各機械要素であり、機械要素としては、天秤12aと、針棒12bと、布押さえ(図示せず)が設けられている。天秤12a、針棒12b、布押さえの各機械要素や釜12cは、従来におけるミシンと同様に、主軸22の回転力をカム機構又はベルト機構等の動力伝達手段を介して伝達することにより駆動する。つまり、図18に示すように、主軸角度(すなわち、主軸22の回転方向の位置)、厳密には、主軸モータ20の角度(すなわち、主軸モータ20の回転方向の位置)に応じて、天秤12a、針棒12b、釜12cの位置(上死点と下死点間の位置)が特定される。
天秤12aは、ケース部110に対して左右方向(X1−X2方向)の軸線を中心に揺動可能に形成されている。この天秤12aは、下死点(一方の死点)と上死点(他方の死点)間を回動する。つまり、天秤12aは、回転中心(揺動中心としてもよい)12abを中心に揺動するように、ケース部110に軸支されている。この天秤12aには、縫い針12baに挿通される上糸が挿通される。
また、針棒12bは、上下動可能に設けられ、針棒12bには、下端に縫い針12ba(この縫い針12baの針穴12bbに上糸が挿通される)が固定して設けられ、上端には、針棒抱き14aが固定して設けられている。また、この針棒抱き14aには、針棒駆動部材14bが係合している。この針棒駆動部材14bには、上下方向に設けられた基針棒14cが挿通されて、針棒駆動部材14bは、基針棒14cに沿って上下動可能に形成されている。そして、主軸22の回転力が動力伝達手段により伝達されて、針棒駆動部材14bが上下動され、これにより、針棒12bが上下動することになる。
また、布押さえは、針棒12bに連結されていて、針棒12bの上下動に伴い上下動する。
また、主軸22は、主軸モータ20により回転され、その回転力が所定の動力伝達機構により伝達されて、天秤12a、針棒12b、布押さえの各機械要素や釜12cを駆動する。なお、主軸モータ20は、一方向に回転するように構成され、これにより、主軸22も一方向に回転する。なお、主軸角度とは、主軸22の回転方向の位置を示し、主軸モータ20の回転方向の位置(つまり、主軸モータ20の出力軸の回転方向の位置)と同義である。
また、上糸制御部30は、上糸を巻き糸98から引き出すとともに、上糸に掛かる張力を制御するものであり、上流側把持部40と、下流側把持部60と、回動部80とを有している。
ここで、上流側把持部40は、把持部本体(上流側把持部本体)41と、ソレノイド(上流側駆動部)50とを有し、ソレノイド50を駆動することにより把持部本体41により上糸を把持して固定するものである。把持部本体41は、ケース部110の正面側のプリテンション96の下方位置で、開口部110aの上側位置に設けられ、ソレノイド50は、把持部本体41の背面側でケース部110の内側に設けられている。
また、下流側把持部60は、把持部本体(下流側把持部本体)61と、ソレノイド(下流側駆動部)70とを有し、ソレノイド70を駆動することにより把持部本体61により上糸を把持して固定するものである。把持部本体61は、上流側把持部40の横方向に隣接して設けられ、上流側把持部40の天秤12a側に設けられ、ソレノイド70は、把持部本体61の背面側でケース部110の内側に設けられている。
上流側把持部40と下流側把持部60とは同様の構成であるので、下流側把持部60を例にとって説明すると、下流側把持部60における把持部本体61は、テンション皿群62と、支持部66とを有している。
テンション皿群62は、テンション皿62aとテンション皿62bとが互いに対向して設けられ、一対のテンション皿62a、62b間に上糸を挟むことができるようになっている。つまり、各テンション皿62a、62bは、ともに略円形板状(具体的には、円形板状の中央部分が外側に突出した形状)の本体部63と、本体部63の周端から斜めに立設したテンション皿フレーム部64とを有し、テンション皿フレーム部64が外側になるようにしてテンション皿62aとテンション皿62bとが互いに対向している。
また、支持部66は、テンション皿群62を支持するものであり、板状部66aと、ロッド66bとを有している。すなわち、板状部66aは、四角形状(その一辺がテンション皿62a、62bの直径よりも大きい四角形状)の板状を呈している。テンション皿62aは、この板状部66aの背面側に固定して設けられている。つまり、この例では、テンション皿62aは回転するようには取り付けられていない。また、ロッド66bは、板状部66aの4つの角部にそれぞれ固定して設けられ、各ロッド66bの板状部66aとは反対側の端部は、ケース部110の正面側に固着されている。
また、ソレノイド70は、ケース部110の内部に支持されており、ソレノイド70の軸部70aの先端には、テンション皿62bが固着されている。ソレノイド70を駆動することによりソレノイド70の軸部70aを正面側に移動させ、これにより、テンション皿62bをテンション皿62a側に押すことにより、一対のテンション皿62a、62bにより上糸Jが把持され上糸Jが固定される。ソレノイド70を駆動した状態を把持部本体61が閉の場合とする。一方、ソレノイド70の駆動を解除することにより、一対のテンション皿62a、62bによる上糸Jの把持が解除される。このように、ソレノイド70の駆動を解除した状態を把持部本体61が開の場合とする。
下流側把持部60においては、巻き糸98から引き出された上糸Jが一対のテンション皿62a、62b間に挟んだ状態で設けられ、ソレノイド70を駆動しない状態では、一対のテンション皿62a、62b間の上糸に対してはテンションが掛からない。一方、ソレノイド70を駆動した場合には、上糸Jがテンション皿62aとテンション皿62b間に把持され固定された状態となる。このように下流側駆動部としてのソレノイド70は、把持部本体61に対して上糸を把持した閉状態と上糸把持を解除した開状態とを切り換える。把持部本体41が閉になると、把持された上糸Jは固定され、把持部本体41が開になると、上糸Jの固定が解除される。
上流側把持部40は、下流側把持部60と同様の構成であるので詳しい説明を省略する。つまり、把持部本体41は、把持部本体61と同様の構成であり、ソレノイド50は、ソレノイド70と同様の構成である。つまり、ソレノイド50を駆動した場合には、一対のテンション皿により上糸Jが把持され、把持部本体41が閉の場合となり、一方、ソレノイド50の駆動を解除した場合には、一対のテンション皿による把持が解除され、把持部本体41が開の場合となる。このように上流側駆動部としてのソレノイド50は、把持部本体41に対して上糸を把持した閉状態と上糸把持を解除した開状態とを切り換える。把持部本体61が閉になると、把持された上糸Jは固定され、把持部本体61が開になると、上糸Jの固定が解除される。
なお、把持部本体41、61の開閉を切り換える装置としてソレノイドを例にとったが、往復駆動を行なう他の装置(アクチュエータ)を用いてもよい。
また、回動部80は、上流側把持部40の上糸の供給方向の下流側で、かつ、下流側把持部60の上糸の供給方向の上流側に設けられ、具体的には、上流側把持部40と下流側把持部60の下方位置で、ケース部110内部に設けられている。
回動部80は、回動アーム81と、回動アーム81を回転させる上糸用モータ86とを有している。回動アーム81は、棒状の本体部82と、本体部82の一方の先端に設けられた筒状部84とを有している。本体部82の他方の端部には、上糸用モータ86の出力軸が固定されている。この筒状部84は、円筒状(略円筒状としてもよい)を呈し、その軸線は、モータの出力軸と同心円がなす面と平行で、該同心円と接するように形成されている。なお、回動部80は、回動アーム81の筒状部84が把持部本体41と把持部本体61間の位置の下方位置となる位置に設けられていて、回動アーム81の筒状部84の前後方向における位置は、把持部本体41、61における一対のテンション皿間の位置と一致する(略一致するとしてもよい)ようになっている。以上のように、回動部80は、把持部本体41と把持部本体61間の上糸(上糸における把持部本体41と把持部本体61間の部分(位置)としてもよい)を回動させる。
また、制御回路90は、主軸モータ20と、上糸用モータ86と、ソレノイド50と、ソレノイド70の動作を制御する回路であり、記憶装置92に記憶されたデータに従い、各部の動作を制御する。つまり、制御回路90は、記憶装置92から読み出された刺繍データに従い主軸データ(図7参照)を作成し、作成した主軸データに従い主軸モータ20の動作を制御する。
また、制御回路90は、記憶装置92から読み出された刺繍データに従い上糸制御用トルクデータ(図9参照)を作成して、トルク制御区間においては、この上糸制御用トルクデータに基づき上糸用モータ86をトルク制御する。また、制御回路90は、位置制御区間においては、図15に示すような角度対応データを作成してこの角度対応データに従い位置制御する。
また、制御回路90は、位置制御区間の終点からトルク制御区間の終点までの区間においては、上流側把持部40を閉とし、下流側把持部60を開とするように、ソレノイド50、70を制御し、一方、トルク制御区間の終点から位置制御区間の終点までの区間においては、上流側把持部40を開とし、下流側把持部60を閉とするように、ソレノイド50、70を制御する。
制御回路90は、具体的には、図5に示すように、CPU90aと、PWM(Pulse Width Modulation)回路90bと、電流センサ90cとを有している。ここで、CPU90aは、記憶装置92からのデータに基づいてモータに供給する電流値のデータをPWM回路90bに出力する。PWM回路90bは、CPU90aからの電流値の振幅を振幅が一定のパルス信号に変換して該パルス信号を主軸モータ20や上糸用モータ86に供給する。また、電流センサ90cは、PWM回路90bから出力されるパルス信号を電流値に変換し、電流値に定数を乗算してトルク値を算出してCPU90aに出力する。
より具体的には、制御回路90は、記憶装置92から読み出された刺繍データに従い上糸制御用トルクデータを作成する他、図10〜図13、図17、図21、図22に示すフローチャートや、図16、図23に示す機能ブロック図や、図18に示すタイムチャートに示すように制御を行なう。詳しくは後述する。なお、図18は、1つのステッチについての制御区間における動作の例を示しており、1つのステッチについての制御区間は、主軸22の1回転に対応した区間である。
また、主軸モータ20と制御回路90間には、主軸モータ20の角度(主軸モータ20の回転方向の位置)を検出するためのエンコーダ21が設けられ、上糸用モータ86と制御回路90間には、上糸用モータ86の角度(上糸用モータ86の回転方向の位置)を検出するためのエンコーダ87が設けられ、制御回路90において、各エンコーダからの情報により各モータの角度(回転方向の位置)が検出される。
また、ケース部110は、ヘッド7の筐体を構成し、フレーム120に固定されている。このケース部110は、正面視と背面視において略四角形状で、左側面視において、略L字状を呈し、下側部分110−1が上側部分110−2に対して正面側に突出した形状となっている。下側部分110−1における上側部分110−2よりも突出した部分の上端には、開口部110aが形成され、上糸Jが挿通される。また、上側部分110−2における正面部の正面視左側には、縦長の開口部110bが形成され、この開口部110bからは天秤12aが正面側(Y1側)に突出して形成されている。
なお、主軸モータ20とエンコーダ21と主軸22とは、ヘッド7を構成するケース部110の外部に設けてもよい。
また、釜12cは、ヘッド7の下方でミシンテーブルの上面よりも下側の位置に設けられ、具体的には、ミシンテーブルの下側に設けられた釜土台(図示せず)に支持されている。
また、縫製枠12dは、加工布を張設保持するための部材であり、ミシンテーブルの上方(上面としてもよい)に設けられている。
枠駆動装置24は、制御回路からの指令に応じて縫製枠12dをX軸方向(X1−X2方向)及びY軸方向(Y1−Y2方向)に移動させるものであり、針棒12bの上下動に同期するようにして縫製枠12dを移動させる。この枠駆動装置24は、具体的には、X軸方向に縫製枠12dを移動させるためのサーボモータやY軸方向に縫製枠12dを移動させるためのサーボモータ等により構成される。
また、記憶装置92には、刺繍を行なうための刺繍データが記憶されている。この刺繍データは、例えば、ステッチ幅、ステッチ方向、糸属性(糸材質や糸太さ)についてのデータが各ステッチごとに設けられたものである。
また、記憶装置92には、図6に示すように、区間位置データ(区間データ)が記憶され、この区間位置データにおいては、トルク制御区間の始点と終点についてのデータが主軸角度の情報(すなわち、主軸モータ20の回転方向の位置の情報)として記憶され(始点がZ1、終点がZ2)、また、位置制御区間の始点と終点についてのデータが主軸角度の情報(すなわち、主軸モータ20の回転方向の位置の情報)として記憶されている(始点がZ3、終点がZ4)。
ここで、図18に示すように、トルク制御区間の始点は、その直前の位置制御区間の終点よりも時間的に後にあり、位置制御区間の始点は、その直前のトルク制御区間の終点よりも時間的に後となり、把持部本体41、61の開閉の切換えが確実に行われてから、トルク制御と位置制御の切換えを行なうために、トルク制御区間の終点と位置制御区間の始点間には、所定の時間が設けられ、位置制御区間の終点とトルク制御区間の始点間には、所定の時間が設けられる。これらの所定の時間とは、把持部本体41、61の開閉の切換えを行なうための時間である。
トルク制御区間の始点は、主軸22の回転に伴い、天秤の回動範囲における下死点(一方の死点)から上死点(他方の死点)までの区間(天秤の下死点から上死点に移行する区間)におけるいずれかの位置である。ここで、天秤の上死点(他方の死点)は、天秤の回動範囲において上糸を加工布から引っぱる方向の端部といえる。
また、トルク制御区間の終点は、天秤の上死点から下死点へ向かう途中の位置までの区間におけるいずれかの位置であり、かつ、縫い針12baが加工布に挿針する前の位置(例えば、縫い針12baの先端が鉄板13よりも上側となる位置)である。つまり、加工布を縫い動作中の上糸になるべく張力を掛けないために、加工布への挿針中は、トルク制御区間とはしない。よって、トルク制御区間の終点は、天秤の上死点の位置であってもよい。また、釜の上死点は、釜が円滑に上糸に挿通するように、トルク制御区間とはしないので、トルク制御区間の終点は、釜の上死点よりも前となる。
トルク制御区間においては、天秤12aが上糸Jを引き上げている状態で上糸Jを天秤12aの引上げ方向と逆方向に上糸Jを引っぱって上糸Jに張力を付与するため、少なくとも、トルク制御区間の少なくとも一部は、天秤が上昇している期間(加工布に対して上糸を引っぱる期間)に設けられる。つまり、トルク制御区間は、天秤の下死点から上死点までの区間の少なくとも一部を含む区間といえる。また、縫い針12baが挿針した後にもトルク制御をすると、縫い動作中の上糸に張力が掛かってしまうためので、トルク制御区間の終点は、、縫い針12baが加工布に挿針する前の位置とする。
また、位置制御区間の始点は、天秤の上死点から下死点までの区間(天秤の上死点から下死点に移行する区間)におけるいずれかの位置である。なお、縫い針12baが加工布に挿針する前の位置(例えば、縫い針12baの先端が鉄板13よりも上側となる位置)であるか挿針した後の位置(例えば、縫い針12baの先端が鉄板13よりも下側となる位置)であるかは問わない。また、釜が円滑に上糸に挿通するように、位置制御区間の始点は釜の上死点よりも前とし、釜の上死点は位置制御区間に位置させる。
また、位置制御区間の終点は、天秤の下死点から上死点までの区間(天秤の下死点から上死点に移行する区間)におけるいずれかの位置である。また、直後にトルク制御区間がくるので、位置制御区間の終点は、縫い針12baが加工布から抜けている位置(例えば、縫い針12baの先端が鉄板13よりも上側となる位置)とするのが好ましい。
なお、位置制御区間において、上糸Jを巻き糸98から引き出すが、なるべくゆっくり時間をかけて上糸を引き出して上糸の糸切れのおそれを小さくするために、位置制御区間はなるべく長く確保するのが好ましい。例えば、位置制御区間の始点を、天秤の上死点から下死点までの区間におけるいずれかの位置で、釜の上死点よりも前の位置とし、位置制御区間の終点を、天秤の下死点から上死点までの区間におけるいずれかの位置とすることにより、位置制御区間を長く確保することができる。また、天秤の下死点から上死点までの区間は、天秤が上糸を加工布に対して引っぱる区間であるので、トルク制御区間とするのが好ましい。よって、トルク制御区間の始点は、天秤の下死点から上死点までの区間における縫い針12baの挿針が解除された直後から天秤の上死点(もしくはその直後)までとするのが好ましいといえる。
なお、上記のように、トルク制御区間の始点と終点及び位置制御区間の始点と終点についてのデータが主軸角度の情報として規定されているので、「区間」の用語を用いたが、主軸モータ20及び主軸22は一方向のみに回転し、1つのステッチの制御区間において、主軸角度が大きくなるほど時系列としては後になるので、「区間」の代わりに「期間」としてもよく、例えば、「トルク制御区間」の代わりに「トルク制御期間」としてもよく、「位置制御区間」の代わりに「位置制御期間」としてもよく、「制御区間」の代わりに「制御期間」としてもよい。
なお、上糸Jと経路を説明すると、図1〜図3に示すように、巻き糸98から引き出された上糸Jは、プリテンション96、把持部本体41、回動アーム81の筒状部84、把持部本体61、天秤12a、縫い針12baの順に上流側から下流側に経由するように設けられる。
次に、上記構成のミシン5の動作について、図7〜図23を使用して説明する。まず、上糸用モータ86及びソレノイド50、70の動作について説明する。
まず、制御回路90は、記憶装置92に記憶されている刺繍データに従い、主軸データ(図7参照)を各ステッチごとに作成する。記憶装置92には、作成する刺繍について、ステッチごとにステッチ幅、ステッチ方向、糸属性(糸材質や糸太さ)等の情報が記憶されているので、各ステッチのステッチ幅、ステッチ方向、糸属性に応じて主軸データを作成する。この主軸データは、図7に示すように、単位時間ごとの時系列における主軸角度(つまり、主軸モータ20の回転方向の位置)のデータであり、例えば、ステッチ幅が大きい場合には、主軸角度の変化量を小さくし、ステッチ幅が小さい場合には、主軸角度の変化量を大きくする。また、ステッチの方向が前回のステッチの方向と逆の方向となる場合には、主軸角度の変化量を小さくする。
この制御回路90による主軸データの作成に際しては、複数のステッチから構成される刺繍データ全体について予め作成しておいてもよいし、実際に各機械要素(針棒、天秤、釜等)により刺繍縫いを行なうステッチよりも数ステッチ前の主軸データを作成することにより、主軸データを作成しながら実際の刺繍縫いを行なってもよい。
主軸データの一例としては、図8に示すものが挙げられる。図8に示す主軸データは、等速で回転しつづけるものであるが、各ステッチのステッチ幅が同じで、ステッチの角度も同じ方向である場合には、このような主軸データとすればよい。なお、あるステッチのステッチ幅が大きい場合には、1ステッチの時間を長くし、ステッチ幅が小さい場合には、1ステッチの時間を短くする。
また、制御回路90は、記憶装置92に記憶された刺繍データに従い、上糸用モータ86のトルク制御に使用する上糸制御用トルクデータを各ステッチごとに作成する(図9参照)。つまり、上糸制御用トルクデータにおいては、各ステッチごとにトルクの値が定められる。このトルクの値は、各ステッチにおけるステッチ幅、ステッチ方向、糸種類、糸属性等の情報に従い決定する。例えば、ステッチ幅が長い場合には、上糸の締付けを強くする必要があるので、トルク値を大きくし、また、糸の太さが太い場合には、上糸の締付けを強くする必要があるので、トルク値を大きくする。このトルク値は、後述するように、トルク制御区間において、天秤12aによる上糸Jの引っぱりに支障がない程度の値に設定する。なお、この上糸制御用トルクデータの作成に際しては、複数のステッチから構成される刺繍データ全体について予め作成しておいてもよいし、実際に各機械要素(針棒、天秤、釜等)により刺繍縫いを行なうステッチよりも数ステッチ前の上糸制御用トルクデータを作成することにより、上糸制御用トルクデータを作成しながら実際の刺繍縫いを行なってもよい。この上糸制御用トルクデータにより、ステッチごとに上糸への張力を制御することができる。
実際の刺繍縫いにおいては、図10に示すように、まず、主軸角度を検出する(S1)。すなわち、主軸モータ20に接続されたエンコーダ21の情報により主軸角度を検出する。この主軸角度の検出は所定の周期で行い、例えば、1ステッチ分の周期の数十分の1〜数千分の1程度の周期で行なう。
そして、検出された主軸角度に従い、トルク制御区間と位置制御区間と他の区間のいずれであるかを判定する。つまり、記憶装置92には、図6に示すように、トルク制御区間の始点と終点及び位置制御区間の始点と終点の情報が記憶されているので、検出された主軸角度と比較することにより判定する。
具体的には、トルク制御区間であるか否かが判定され(S2)、トルク制御区間である場合には、トルク制御サブルーチンに移行する(S3)。
トルク制御区間でない場合には、位置制御区間であるか否かが判定され(S4)、位置制御区間である場合には、位置制御サブルーチンに移行する(S5)。
位置制御区間でない場合には、CPU90aは、0の電圧値をPWM回路90bに出力して(S6)、上糸用モータ86への電流供給を停止する(S7)。このように上糸用モータ86への電流供給を停止する区間は、図18におけるトルク制御区間の終点から位置制御区間の始点までの区間と、位置制御区間の終点とトルク制御区間の始点までの区間に対応する。つまり、把持部本体41、61の開閉の切換えが確実に行われてから、トルク制御と位置制御の切換えを行なうために、電流供給停止時間が設けられる。これにより、トルク制御と位置制御の各制御における把持部本体41、61の開閉を確実に行なうことができる。
なお、把持部本体41、61の切換えの応答性を早くできる場合には、トルク制御区間の始点と位置制御区間の終点と一致させ、位置制御区間の始点とトルク制御区間の終点と一致させてもよい。
次に、トルク制御サブルーチンにおいては、トルク制御区間の始点において対象ステッチのトルクデータ(トルク値)を上糸制御用トルクデータから読み出しておき、当該ステッチのトルク制御区間においては、読み出したトルクデータに従いトルク制御する。すなわち、まず、図11に示すように、対象ステッチのトルクデータが制御回路90に保持されているか否かを判定し(S11)、トルク制御区間の始点であって、まだトルクデータが保持されていない場合には、対象ステッチのトルクデータを上糸制御用トルクデータから読み出して制御回路90に保持しておく(S12)。
対象ステッチのトルクデータが保持されたら、電流センサ90cからトルク値を検出し、対象ステッチのトルクデータの値から電流センサ90cからのトルク値を減算する(図11のS13、図16のS13)。
次に、ステップS13で算出された算出値に対して、予め定められた定数を乗算して、PWM回路90bに出力する電圧値(PWM回路への電圧指令)を算出し(図11のS14、図16のS14)、PWM回路90bに出力する(図11のS15、図16のS15)。
PWM回路90bは、入力された信号に基づき電圧信号としてのパルス信号を出力して、上糸用モータ86に対して電流を供給する(図11のS16、図16のS16、電流供給工程)。
次に、位置制御のサブルーチンにおいては、位置制御区間において、上糸用モータ86の角度、すなわち、上糸用モータ86の回転方向の位置(つまり、上糸用モータ86の出力軸の回転方向の位置)における現在位置を検出し、上糸用モータ86の回転方向の位置における初期位置(原点位置としてもよい)にまで位置制御するための角度対応データを作成し、この角度対応データに従い、上糸用モータ86の初期位置にまで位置制御により戻す制御を行なう。すなわち、まず、対象ステッチについて、角度対応データが作成されているか否かが判定される(図12のS21)。
角度対応データが作成されていない場合、つまり、位置制御区間の始点位置においては、エンコーダ87から上糸用モータ86の角度を検出する(図12のS22、図16のS22)。そして、検出した上糸用モータ86の角度に従い、角度対応データを作成する(図12のS23、図16のS23)。この角度対応データは、図15に示すように、主軸角度(つまり、主軸モータ20の回転方向の位置)と上糸用モータ角度(上糸用モータの角度)(上糸用モータ86の回転方向の位置)の対応データであり、位置制御区間の始点位置(位置制御区間の始点位置における主軸角度はaxとする)における上糸用モータ角度Cnから位置制御区間の終点位置(位置制御区間の終点位置における主軸角度はayとする)における上糸用モータの角度がC0になるまでの主軸角度と上糸用モータ角度の対応データである。主軸角度と上糸用モータ角度は、いずれも各モータの回転方向の位置を示している。この角度C0が上糸用モータ86の初期位置の角度である。この角度対応データの作成に際しては、位置制御区間の始点位置に対応する主軸角度axから位置制御区間の終点位置に対応する主軸角度ayまでの範囲を所定の間隔(単位角度)で等分し(すなわち、1/n(nは整数)ごとに等分し)、図14に示すように、位置制御区間の始点から所定の区間である第1区間(例えば、主軸角度ax〜ax+3)では、単位角度当たりの上糸用モータ角度の変化量が徐々に増加して、これにより、回動アーム81の回動速度が上昇するようにし、第1区間に続く第2区間(例えば、主軸角度ax+3〜ay-3)では、単位角度当たりの上糸用モータ角度の変化量が一定となり、第2区間に続く第3区間(例えば、主軸角度ay-3〜ay)では、単位角度当たりの上糸用モータ角度の変化量が徐々に減少して、これにより、回動アーム81の回動速度が減少するようにする。ここで、第1区間の角度範囲と第3区間の角度範囲とは、第2区間よりも短いものとする。
そして、角度対応データから上糸用モータ角度のデータを読み出す(図12のS24、図16のS24)。すなわち、ステップS1で検出した主軸角度に最も近い主軸角度を角度対応データ(図15)から検出し、その主軸角度に対応した上糸用モータ角度を読み出す。なお、ステップS1で検出した主軸角度に隣接した2つの主軸角度のデータが角度対応データにある場合には、2つの主軸角度との割合に応じて、上糸用モータ角度を算出してもよい。
次に、読み出した上糸用モータ角度から単位時間当たりの変化量を検出して速度データを算出する(図12のS25、図16のS25、速度データ算出工程)。つまり、角度データの変化量を時間で除算することにより速度データを算出する。すなわち、主軸角度と上糸用モータ角度の関係が図15に示す角度対応データに規定され、また、時間と主軸角度の関係が図7に示す主軸データに規定されているので、これらにより、単位時間当たりの上糸用モータ角度の変化量を検出する。なお、主軸データの主軸角度のデータと角度対応データの主軸角度のデータとが一致しない場合には、例えば、角度対応データにおける主軸角度が隣接する2つの主軸角度(主軸データにおける主軸角度)との差の割合から時間を算出すればよい。
次に、速度データの単位時間当たりの変化量を検出してトルクデータを算出する(図12のS26、図16のS26、トルクデータ算出工程)。つまり、速度データの変化量を時間で除算することによりトルクデータを算出する。つまり、ステップS25において、時刻ごとに上糸用モータの速度データが算出されるので、この速度データを微分することによりトルクデータを算出する。
次に、ステップS26で算出されたトルクデータからトルク補償データを算出する(図12のS27、図16のS27)。すなわち、トルクデータに対して慣性比率を乗算し(図16のS27−1)、慣性比率を乗算して得た値にメカロスに基づくトルクを加算してトルク補償データを算出する(図16のS27−2)。ここで、慣性比率とは、各機械要素の質量等に応じて予め定められた定数であり、メカロスに基づくトルクは、各機械要素に応じて予め定められた値である。
次に、ステップS24において読み出された角度データからエンコーダ87(上糸用モータ86に対応したエンコーダ)からのデータ(エンコーダのカウント値)を減算する(図13のS28、図16のS28、位置偏差算出工程)。このステップS28で算出された値は、位置偏差の値といえる。
次に、ステップS28で算出された算出値に対して、予め定められた定数を乗算して、速度値を算出する(図13のS29、図16のS29)。
次に、エンコーダ87からの出力を微分してモータ現在速度値を算出する(図13のS30、図16のS30)。つまり、エンコーダのカウント値の単位時間当たりの変化量を算出して、モータ現在速度値を算出する。
次に、ステップS30で算出された速度値からステップS31で算出されたモータ現在速度値を減算し、さらに、ステップS25で算出された速度データを加算する(図13のS31、図16のS31、速度偏差算出工程)。このステップS31で算出された値は、速度偏差の値であるといえる。
次に、ステップS31で算出された算出値に対して、予め定められた定数を乗算して、トルク値を算出する(図13のS32、図16のS32)。
次に、ステップS32で算出されたトルク値にステップS27で算出されたトルク補償データを加算する(図13のS33、図16のS33)。その後、ステップS33で算出した値から電流センサ90cからのトルク値を減算する(図13のS34、図16のS34、トルク偏差算出工程)。このステップS34で算出された値は、トルク偏差の値といえる。
次に、ステップS34で算出された算出値に対して、予め定められた定数を乗算して、PWM回路90bに出力する電圧値(PWM回路への電圧指令)を算出し(図13のS35、図16のS35)、PWM回路90bに出力する(図13のS36、図16のS36)。
PWM回路90bは、入力された信号に基づき電圧信号としてのパルス信号を出力して、上糸用モータ86に対して電流を供給する(図13のS37、図16のS37、電流供給工程)。
以上のように、図10〜図13のフローチャートに示す処理を所定の周期を行なうことにより、上糸用モータ86の制御を行なう。
次に、上流側把持部40と下流側把持部60の切換え制御については、図18に示すように、上糸用モータ86についてのトルク制御区間の終点から位置制御区間の終点までは、上流側把持部40の把持部本体41を開とし、下流側把持部60の把持部本体61を閉とし、一方、位置制御区間の終点からトルク制御区間の終点までは、上流側把持部40の把持部本体41を閉とし、下流側把持部60の把持部本体61を開とする。
すなわち、図17に示すフローチャートに従って説明すると、主軸角度を検出して(S41)(主軸角度の検出は、上記ステッチS1と同様に行なう)、トルク制御区間の終点であるか否かを判定し(S42)、トルク制御区間の終点である場合には、上流側把持部40の把持部本体41を開とし、下流側把持部60の把持部本体61を閉とする。つまり、上糸Jは、把持部本体41には固定されていないが、把持部本体61に固定された状態となる。なお、前回の主軸角度の検出(S41)に際してトルク制御区間の終点には到達しておらず、今回の主軸角度の検出(S41)に際してトルク制御区間の終点を過ぎている場合にも、トルク制御区間の終点であると判断する。
また、トルク制御区間の終点でない場合には、位置制御区間の終点であるか否かを判定し(S44)、位置制御区間の終点である場合には、上流側把持部40の把持部本体41を閉とし、下流側把持部60の把持部本体61を開とする。なお、前回の主軸角度の検出(S41)に際して位置制御区間の終点には到達しておらず、今回の主軸角度の検出(S41)に際して位置制御区間の終点を過ぎている場合にも、位置制御区間の終点であると判断する。
以上のようにして、トルク制御区間においては、把持部本体41が閉、把持部本体61が開となり、位置制御区間においては、把持部本体41が開、把持部本体61が閉となる。
上糸制御部30の動作を図解すると、図19に示すようになり、位置制御区間の終点で位置では、回動アーム81が下死点の位置(初期位置)となっている(図19(a))。
次に、トルク制御区間に入ると、把持部本体41が閉、把持部本体61が開の状態で、上糸用モータ86がトルク制御されて、上糸用モータ86により回動アーム81に対して下方に回転力が付与されている。これにより、天秤12aの上糸Jに対する引っぱり方向(引き上げ方向)に抗して回動アーム81が上糸Jを引っぱっている状態で、天秤12aが上方に回動して上糸Jを加工布に対して引き上げている。これにより、天秤12aが上糸Jを引き上げるに伴い、回動アーム81が天秤12aの上糸Jの引っぱり方向(上方)に回動していく(図19(b)、(c))。
なお、上糸制御用トルクデータにおいて設定されるトルクの値は、天秤12aが上糸Jを引き上げるに伴い回動アーム81が天秤12aの上糸Jの引っぱり方向(上方)に回動し、天秤12aによる上糸Jの引き上げに支障がない(つまり、天秤12aが加工布に対して上糸Jを引っぱるのに支障がない)程度の値に設定する。つまり、トルクの値が過度に大きいと、上糸Jが回動アーム81により下方に引っぱられることにより天秤12aが上方に回動して上糸Jを引き上げることができないことから、トルクの値は、天秤12aによる上糸Jの引っぱりに支障がない値に設定する。
次に、位置制御区間に入ると、把持部本体41が開、把持部本体61が閉の状態で、上糸用モータ86が位置制御されて回動アーム81が上糸Jを引き出す方向(下方)に回動する(図19(d))。この図19(d)は位置制御区間の終点で上糸用モータ86が初期位置に戻ることにより回動アーム81が初期位置(原点位置としてもよい)にまで回動した状態を示していて、図19(a)と同様の図である。
トルク制御に際して、トルクの値が大きい場合には、上糸Jを強く引くので、そのステッチは固く縫われることになり、トルクの値が小さい場合には、上糸Jを弱く引くので、そのステッチは柔らかく縫われることになる。
つまり、図20においては、図20(a)が図18における290度辺りの状態を示し、図20(b)が図18における330度辺りの状態を示し、図20(c)が図18における70度辺りの状態を示し、図20(d)が図18における110度辺りの状態を示し、図20(e)が図18における170度辺りの状態を示すが、図20(b)や図20(c)において上糸用モータ86のトルク制御を行なうので、あるステッチにおけるトルクの値を大きくした場合には、上糸Jを強く引くので、そのステッチは固く縫われ、一方、トルクの値を小さくした場合には、上糸Jを弱く引くので、そのステッチは柔らかく縫われることになる。なお、図20において、Kは下糸を示し、Nは加工布を示している。
以上のように、各ステッチごとの制御区間において、天秤12aが上糸により縫製する加工布に対して上糸を引っぱる区間である天秤12aの下死点から上死点までの区間における少なくとも一部を含む区間であるトルク制御区間においては、把持部本体41を閉状態とし、把持部本体61を開状態とした状態で、天秤12aが上糸を引っぱる方向に対抗して上糸に張力を付与するようにトルク値に従い回動アーム81に回転力を付与するトルク制御を行ない、一方、トルク制御区間以外の区間の少なくとも一部である位置制御区間においては、把持部本体41を開状態とし、把持部本体61を閉状態とした状態で、上糸用モータ86の回転方向の位置である上糸用モータ86の角度における初期位置に上糸用モータ86の角度が戻るように上糸用モータ86の角度の位置データに従い回動アーム81に回転力を付与する位置制御を行なって上糸を上流から引き出す。
次に、主軸モータ20の制御について説明する。主軸モータ20の制御は、上糸用モータ86における位置制御の場合と同様に行なう。
まず、主軸データから角度データ(位置データとしてもよい)を読み出す(図21のS51、図23のS51、読出し工程)。つまり、主軸データにおいて処理の対象となる時間に対応する角度(主軸角度)を検出してその角度のデータを読み出す。
次に、検出した主軸角度の単位時間当たりの変化量を検出して速度データを算出する(図21のS52、図23のS52、速度データ算出工程)。速度データの算出に際しては、角度データの変化量を時間で除算することにより速度データを算出する。つまり、角度データを微分することにより速度データを算出する。
次に、速度データの単位時間当たりの変化量を検出してトルクデータを算出する(図21のS53、図23のS53、トルクデータ算出工程)。トルクデータの算出に際しては、速度データの変化量を時間で除算することによりトルクデータを算出する。つまり、速度データを微分することにより速度データを算出する。なお、速度の変化量を算出するために必要な速度データは予めCPU90aが保持しておく。
次に、ステップS53で算出されたトルクデータからトルク補償データを算出する(図21のS54、図23のS54)。すなわち、トルクデータに対して慣性比率を乗算し(図23のS54−1)、慣性比率を乗算して得た値にメカロスに基づくトルクを加算してトルク補償データを算出する(図23のS54−2)。ここで、慣性比率とは、各機械要素の質量等に応じて予め定められた定数であり、メカロスに基づくトルクは、各機械要素に応じて予め定められた値である。
次に、ステップS51において読み出された角度データからエンコーダ21からのデータ(エンコーダのカウント値)を減算する(図22のS55、図23のS55、位置偏差算出工程)。このステップS55で算出された値は、位置偏差の値といえる。
次に、ステップS55で算出された算出値に対して、予め定められた定数を乗算して、速度値を算出する(図22のS56、図23のS56)。
次に、エンコーダ21からの出力を微分してモータ現在速度値を算出する(図22のS57、図23のS57)。つまり、エンコーダのカウント値の単位時間当たりの変化量を算出して、モータ現在速度値を算出する。
次に、ステップS56で算出された速度値からステップS57で算出されたモータ現在速度値を減算し、さらに、ステップS52で算出された速度データを加算する(図22のS58、図23のS58、速度偏差算出工程)。このステップS58で算出された値は、速度偏差の値であるといえる。
次に、ステップS58で算出された算出値に対して、予め定められた定数を乗算して、トルク値を算出する(図22のS59、図23のS59)。
次に、ステップS59で算出されたトルク値から電流センサ90cからのトルク値を減算し、さらに、ステップS54で算出されたトルク補償データを加算する(図22のS60、図23のS60、トルク偏差算出工程)。このステップS60で算出された値は、トルク偏差の値といえる。
次に、ステップS60で算出された算出値に対して、予め定められた定数を乗算して、PWM回路90bに出力する電圧値(PWM回路への電圧指令)を算出し(図22のS61、図23のS61)、PWM回路90bに出力する(図22のS62、図23のS62)。
PWM回路90bは、入力された信号に基づき電圧信号としてのパルス信号を出力して、主軸モータ20に対して電流を供給する(図22のS63、図23のS63、電流供給工程)。
以上のように、実施例1のミシンによれば、トルク制御区間において上糸に対してトルク制御を行なうので、上糸に対する張力の大きさを制御することができ、特に、上糸制御用トルクデータ(図9)により、トルク制御区間においてステッチごとにトルク制御を行なうので、ステッチごとに上糸への張力を制御することができ、ステッチごとに縫い目の固さを調整することができる。
また、従来のミシン(図46参照)における糸調子皿とロータリーテンションと糸調子バネの代わりに、上糸制御部30を設けることにより、上糸Jを引き出す位置制御区間においては、把持部本体41が開となり、回動部80の回動アーム81よりも上流には、プリテンション96が存在するのみで糸調子皿とロータリーテンションの摩擦抵抗が存在せず、また、把持部本体61が閉となるので、天秤12aの動きが上糸を引き出す際の支障となることがなく、よって、上糸を円滑に巻き糸から引き出すことができ、糸切れのおそれを小さくすることができる。
また、上糸の糸切れが発生した場合には、トルク制御区間において、天秤12aが上死点に移行する際に回動アーム81が上方に引き上げられることがない、すなわち、回動アーム81が上糸用モータ80の回転力付与方向と反対方向に引っぱられることがないので、回動アーム81が上方に引き上げられないことを検出することにより糸切れを検出することができ、また、糸切れが発生していない場合には、トルク制御区間においては、回動アーム81が引き上げられるので、正確に糸切れを検出することができる。
また、位置制御区間においては、位置制御区間において、上糸用モータ86の現在位置を検出し、上糸用モータ86の初期位置にまで位置制御するための角度対応データを作成し、この角度対応データに従い、上糸用モータ86の初期位置にまで位置制御により戻す制御を行なうので、トルク制御区間において、回動アーム81が引き上げられることにより消費した量だけ上糸を引き出すことができるので、上糸を引き出すことにより蓄糸した量の過不足が生じない。
次に、上記ミシン5の他の例を図24を使用して説明する。すなわち、図2、図3に示す例では、回動部80は上流側把持部40や下流側把持部60の下方に設けられているが、図24に示す例では、回動部80は、上流側把持部40や下流側把持部60の上方に設けられている。
天秤12aは、図2、図3の例では、上方に向けて回動することにより天秤12aから下流側の上糸Jを引っぱるように構成されているが、図24の例では、下方に向けて回動することにより天秤12aから下流側の上糸Jを引っぱるように構成されている。つまり、天秤12aの回動範囲において、上糸を引っぱる方向の端部である「他方の死点」が下端で、「一方の死点」が上端であり、天秤12aの一方の死点から他方の死点までの区間が加工布に対して上糸を引っぱる区間となる。
つまり、図24の例では、上糸Jの経路における巻き糸98と上流側把持部40間には、上糸Jの経路の方向を変えるための円柱状のガイドR1が設けられ、上糸Jの経路における天秤12aと縫い針12ba間には、同様に、上糸Jの経路の方向を変えるための円柱状のガイドR2が設けられている。
これにより、回動部80においては、トルク制御区間においては、上糸用モータ86がトルク制御されて回動アーム81に対して上方に回転力が付与され、天秤12aの上糸Jの引っぱり方向に抗して回動アーム81が上糸Jを引っぱっている状態で、天秤12aが下方に回動して上糸Jを加工布に対して引き上げて引っぱっている。これにより、天秤12aが上糸Jを引っぱるに伴い、回動アーム81が天秤12aの上糸Jの引っぱり方向(下方)に回動していく。
また、位置制御区間に入ると、把持部本体41が開、把持部本体61が閉の状態で、上糸用モータ86が位置制御されて回動アーム81が上糸Jを引き出す方向(上方)に回動する。
なお、上記の説明において、ミシン5が刺繍用ミシンであるとして説明したが、刺繍用ミシン以外のミシンであってもよく、上記構成の上糸制御部30と上糸制御部30を制御する制御部を設けて、各ステッチごとの制御区間において、天秤が上糸により縫製する加工布に対して上糸を引っぱる区間である天秤の下死点から上死点までの区間における少なくとも一部を含む区間であるトルク制御区間においては、把持部本体41を閉状態とし、把持部本体61を開状態とした状態で、天秤が上糸を引っぱる方向に対抗して上糸に張力を付与するようにトルク値に従い回動アーム81に回転力を付与するトルク制御を行ない、一方、トルク制御区間以外の区間の少なくとも一部である位置制御区間においては、把持部本体を開状態とし、把持部本体を閉状態とした状態で、上糸用モータ86の回転方向の位置である上糸用モータ86の角度における初期位置に上糸用モータ86の角度が戻るように上糸用モータ86の角度の位置データに従い回動アーム81に回転力を付与する位置制御を行なって上糸を上流から引き出す。
次に、実施例2のミシンについて説明する。実施例2に基づくミシン205は、刺繍用ミシンであり、図25〜図28に示すように構成され、ヘッド(刺繍ヘッド)207と、釜12cと、縫製枠12dと、枠駆動装置24と、記憶装置92とを有している。このミシン205は、多針用のミシンであり、具体的には、6種類の上糸に対応可能な6針の刺繍用ミシンである。
ここで、ヘッド207は、ヘッド7と同様に、略平板状のミシンテーブル(図示せず)の上方に設けられている。つまり、ミシンテーブルの上面からはフレーム320(図27参照)が立設して設けられ、このフレーム320の正面側にヘッド207が設けられている。
ヘッド207は、図25〜図28に示すように構成され、機械要素群10と、主軸モータ20と、主軸22と、上糸制御部230と、制御回路90と、上糸ガイド300、302と、ケース部310とを有している。
この機械要素群10は、ヘッド207において駆動される各機械要素であり、機械要素としては、実施例1と同様に、天秤と、針棒と、布押さえ(図示せず)が設けられているが、実施例2においては、複数の天秤と針棒が設けられている。すなわち、複数(具体的には、6つ)の天秤12a−1〜12a−6が設けられ、複数(具体的には、6つ)の針棒12b−1〜12b−6が設けられている。天秤12a−1〜12a−6や、針棒12b−1〜12b−6や、釜12cは、従来におけるミシンと同様に、主軸22の回転力をカム機構又はベルト機構等の動力伝達手段を介して伝達することにより駆動する。
天秤12a−1〜12a−6は、ケース部310の針棒ケース314に設けられ、左右方向(X1−X2方向)の軸線(回転中心)を中心に揺動可能に形成され、下死点(一方の死点)と上死点(他方の死点)間を回動する。つまり、天秤12a−1〜12a−6は、回転中心(揺動中心としてもよい)12abを中心に揺動するように、針棒ケース314に軸支されている。天秤12aには、縫い針12baに挿通される上糸が挿通される。なお、針棒ケース314がアーム312に対して左右方向にスライドすることにより、選択された特定の天秤のみに動力が伝達されて揺動する。なお、天秤12a−1〜12a−6の先端は、針棒ケース314の正面部314aに設けられた開口部316dから正面側(Y1側)に突出して露出している。なお、開口部316dの下方近傍位置には、上方から送られた(つまり、下流側側把持部260から送られた)上糸Jを上糸Jの撓みや弛みを防止して天秤に導くための糸調子バネ(糸取りバネとしてもよい(通称、ピンピンバネ))(第2上糸経路反転部材)292が針棒ケース314の正面部314aに固定して設けられている。この糸調子バネ292により、上方から導かれた上糸Jが反転して天秤に導かれるとともに、上糸Jに張力が加えられる。なお、糸調子バネ292の代わりに、ガイド部材290と同様に、棒状のガイド部材としてもよい。
また、針棒12b−1〜12b−6は、針棒ケース314に上下動可能に設けられ、各針棒には、下端に縫い針12ba(この縫い針12baの針穴12bbに上糸が挿通される)が固定して設けられ、上端には、針棒抱き14aが固定して設けられている。また、この針棒抱き14aには、針棒駆動部材14bが係合する。この針棒駆動部材14bには、上下方向に設けられた基針棒14cが挿通されて、針棒駆動部材14bは、基針棒14cに沿って上下動可能に形成されている。そして、主軸22の回転力が動力伝達手段により伝達されて、針棒駆動部材14bが上下動され、これにより、針棒が上下動することになる。なお、針棒ケース314がアーム312に対して左右方向(図26における左右方向)にスライドすることにより、針棒駆動部材14bは特定の針棒抱き14aに係合するので、選択された針棒が上下動することになる。また、布押えは、各針棒ごとに設けられている。
また、主軸22は、主軸モータ20により回転され、その回転力が所定の動力伝達機構により伝達されて、天秤12a−1〜12a−6、針棒12b−1〜12b−6、布押さえの各機械要素や釜12cを駆動する。なお、主軸モータ20は、一方向に回転するように構成されている。
また、上糸制御部230は、上糸を上糸ボビンに巻回された巻き糸(図示せず)から引き出すとともに、上糸に掛かる張力を制御するものであり、上流側把持部240と、下流側把持部260と、回動部280と、上糸支持部材288とを有している。
ここで、上流側把持部240は、ヘッド207における上側、すなわち、回動部280の上側に設けられ、把持部本体(上流側把持部本体)241と、把持部本体241の背面側に設けられた磁石部(上流側駆動部、上流側磁石部)250とを有している。
把持部本体241は、各針棒ごとに設けられた第1板状部(上流側第1板状部)242−1〜242−6と、第1板状部242−1〜242−6の背面側で針棒ケース314の正面部314aの正面側に設けられた第2板状部(上流側第2板状部)244と、第1板状部242−1〜242−6と第2板状部244とを針棒ケース314の正面部314aに取り付ける取付部材246とを有している。
ここで、第1板状部242−1〜242−6における各第1板状部は、方形状の板状を呈し、磁石が吸引する材料(磁石が付く材料)、つまり、磁性体(強磁性体としてもよい)により形成されている。すなわち、第1板状部242−1〜242−6は、例えば、鉄等の磁石が吸引する金属により形成されている。各第1板状部は、同大同形状(略同大同形状としてもよい)に形成され、第1板状部242−1〜242−6は、間隔を介して(具体的には等間隔に)左右方向に並んで配設されている。つまり、隣接する2つの第1板状部ユニット間には、間隔が設けられている。
また、第2板状部244は、細長長方形の板状を呈している。すなわち、第2板状部244は、第1板状部242−1〜242−6の背面側に設けられた1つの板状部材であり、左右方向には、正面視において左端に設けられた第1板状部242−1の左側面側の辺部から右端に設けられた第1板状部242−6の右側面側の辺部までの幅を有し、また、上下方向には、第1板状部242−1〜242−6における各第1板状部の上下方向の幅と同一幅(略同一幅としてもよい)を有している。つまり、第1板状部242−1〜242−6の各第1板状部の背面側には、第1板状部242−1〜242−6と平行に第2板状部244が存在する。この第2板状部244は、磁石が吸引しない材料(磁石が付かない材料)、つまり、非磁性体により形成され、例えば、アルミニウムやステンレスにより形成されている。
針棒ケース314の正面部314aの上側部分には、横方向に細長長方形状の開口部(第2開口部)316aが形成され、この開口部316aを正面側からカバーするように第2板状部244が設けられている。つまり、この開口部316aは、第2板状部244よりも小さい大きさに形成され、第2板状部244の上下幅は、磁石部250の先端部分よりも大きく、磁石部250の先端部分が開口部316aに挿通することができるように形成されている。
また、取付部材246は、第1板状部242−1〜242−6と第2板状部244とを針棒ケース314に取り付けるための部材で、ピン形状を呈し、第1板状部242−1〜242−6の各第1板状部の上側の中央(略中央としてもよい)に設けられた第1穴部と、第2板状部244に設けられ、該第1穴部に対応した第2穴部に挿通して針棒ケース314の正面部314aに固定することにより、第1板状部242−1〜242−6と第2板状部244とを針棒ケース314の正面部314aに取り付けている。つまり、取付部材246は、第1板状部242−1〜242−6における各第1板状部ごとに設けられ、第1板状部の上側領域の左右方向の中央(略中央としてもよい)に取り付けられている。以上のように、第1板状部242−1〜242−6と第2板状部244とは、取付部材246により吊り下げた状態(ぶら下げた状態としてもよい)となっている。これにより、第1板状部は、第2板状部244の正面側の面に対して垂直方向に摺動するようになっていて、第2板状部244との間隔が可変する(つまり、第1板状部の第2板状部244側の面と第2板状部244の第1板状部側の面との間の間隔が可変する)ようになっている。
また、磁石部250は、電磁石により形成され、その先端部分は、開口部316a内に配置され、磁石部250の先端が第2板状部244の背面側の面に接するように形成されている。磁石部250の先端の面(第2板状部244側の面)が吸引面となっている。磁石部250は、略四角柱状を呈している(磁石部270においても同じ)。なお、磁石部250、270は、通常の電磁石と同様の構成であり、磁性材料の芯と芯のまわりに巻回されたコイルとを有し、コイルに通電することにより磁力が発生する。上流側把持部240において、磁石部250は1つ設けられている。そして、制御回路90により磁石部250を駆動することにより、第1板状部242−1〜242−6における磁石部250の位置に対応した第1板状部が磁力により吸引されて、第1板状部と第2板状部244間の隙間が閉じた状態となる。
また、第1板状部242−1〜242−6における各第1板状部の正面視における上側と下側には、棒状のガイド部材(第1ガイド部材)252、254が設けられている。つまり、ガイド部材252、254が、針棒ケース314の正面部314aに固定されている。ガイド部材252、254は、上糸Jが第1板状部の背面側を対角状に通過するように配設され、ガイド部材252は、第1板状部の上側の正面視左側に設けられ、ガイド部材254は、第1板状部の下側の正面視右側に設けられている。これにより、第1板状部の背面側に存在する上糸Jの経路を長くする取ることができ、上糸Jを第1板状部と第2板状部244により確実に把持することができる。
また、下流側把持部260は、ヘッド207の上下方向における略中間位置、すなわち、回動部280の下側に設けられ、把持部本体(下流側把持部本体)261と、把持部本体261の背面側に設けられた磁石部(下流側駆動部、下流側磁石部)270とを有している。
ここで、把持部本体261は、把持部本体241と同様の構成であり、各針棒ごとに設けられた第1板状部(下流側第1板状部)262−1〜262−6と、第1板状部262−1〜262−6の背面側で針棒ケース314の正面部314aの正面側に設けられた第2板状部(下流側第2板状部)264と、第1板状部262−1〜262−6と第2板状部264とを針棒ケース314の正面部314aに取り付ける取付部材266とを有している。
第1板状部262−1〜262−6は、第1板状部242−1〜242−6と同様の構成である。すなわち、第1板状部262−1〜262−6における各第1板状部は、方形状の板状を呈し、磁石が吸引する材料、つまり、磁性体(強磁性体としてもよい)により形成され、各第1板状部は、同大同形状(略同大同形状としてもよい)に形成され、第1板状部262−1〜262−6は、間隔を介して(具体的には等間隔に)左右方向に並んで配設されている。つまり、隣接する2つの第1板状部ユニット間には、間隔が設けられている。第1板状部242−1〜242−6と第1板状部262−1〜262−6とにおいて、同じ上糸に対応する第1板状部は、左右方向に同じ位置に設けられている。
また、第2板状部264は、第2板状部244と同様の構成である。すなわち、第2板状部264は、左右方向には、正面視において左端に設けられた第1板状部262−1の左側面側の辺部から右端に設けられた第1板状部262−6の右側面側の辺部までの幅を有し、また、上下方向には、第1板状部262−1〜262−6における各第1板状部の上下方向の幅と同一幅(略同一幅としてもよい)を有し、第1板状部262−1〜262−6の各第1板状部の背面側には、第1板状部262−1〜262−6と平行に第2板状部264が存在する。この第2板状部264は、磁石が吸引しない材料、つまり、非磁性体により形成されている。
針棒ケース314の正面部314aの上下方向の略中央部分には、横方向に細長長方形状の開口部(第3開口部)316cが形成され、この開口部316cを正面側からカバーするように第2板状部264が設けられている。つまり、この開口部316cは、第2板状部264よりも小さい大きさに形成され、第2板状部264の上下幅は、磁石部270の先端部分よりも大きく、磁石部270の先端部分が開口部316cに挿通することができるように形成されている。
また、取付部材266は、第1板状部262−1〜262−6と第2板状部264とを針棒ケース314に取り付けるための部材で、取付部材246と同様の構成である。つまり、取付部材266は、ピン形状を呈し、第1板状部262−1〜262−6の各第1板状部の上側の中央(略中央としてもよい)に設けられた第1穴部と、第2板状部264に設けられ、該第1穴部に対応した第2穴部に挿通して針棒ケース314の正面部314aに固定することにより、第1板状部262−1〜262−6と第2板状部264とを針棒ケース314の正面部314aに取り付けている。つまり、取付部材266は、第1板状部262−1〜262−6における各第1板状部ごとに設けられ、第1板状部の上側領域の左右方向の中央(略中央としてもよい)に取り付けられている。以上のように、第1板状部262−1〜262−6と第2板状部264とは、取付部材266により吊り下げた状態(ぶら下げた状態としてもよい)となっている。これにより、第1板状部は、第2板状部264の正面側の面に対して垂直方向に摺動するようになっていて、第2板状部264との間隔が可変する(つまり、第1板状部の第2板状部264側の面と第2板状部264の第1板状部側の面との間の間隔が可変する)ようになっている。
また、磁石部270は、磁石部250と同様に、電磁石により形成され、その先端部分は、開口部316c内に配置され、磁石部270の先端が第2板状部264の背面側の面に接するように形成されている。磁石部270の先端の面(第2板状部264側の面)が吸引面となっている。下流側把持部260において、磁石部270は1つ設けられ、磁石部250と同大同形状(略同大同形状としてもよい)に形成されている。そして、制御回路90により磁石部270を駆動することにより、第1板状部262−1〜262−6における磁石部270の位置に対応した第1板状部が磁力により吸引されて、第1板状部と第2板状部264間の隙間が閉じた状態となる。
なお、磁石部250と磁石部270とは左右方向に同じ位置に設けられていて、磁石部250を駆動した場合と磁石部270を駆動した場合に、同じ上糸を把持するようになっている。例えば、図26の例では、磁石部250は第1板状部242−4の背面に位置し、磁石部270は第1板状部262−4の背面に位置しているので、同じ糸を把持する。
また、第1板状部262−1〜262−6における各第1板状部の正面視における上側と下側には、棒状のガイド部材(第2ガイド部材)272、274が設けられている。つまり、ガイド部材272、274が、針棒ケース314の正面部314aに固定されている。ガイド部材272、274は、上糸Jが第1板状部の背面側を対角状に通過するように配設され、ガイド部材272は、第1板状部の上側の正面視左側に設けられ、ガイド部材274は、第1板状部の下側の正面視右側に設けられている。これにより、第1板状部の背面側に存在する上糸Jの経路を長く確保することができ、上糸Jを第1板状部と第2板状部264により確実に把持することができる。
また、回動部280は、上流側把持部240と下流側把持部260の上下方向における中間位置に設けられていて、上流側把持部240の上糸の供給方向の下流側で、かつ、下流側把持部260の上糸の供給方向の上流側に設けられている。この回動部280は、把持部本体241と把持部本体261間の上糸(上糸における把持部本体241と把持部本体261間の部分(位置)としてもよい)を回動させるものである。
回動部280は、回動アーム281と、回動アーム281を回転させる上糸用モータ286とを有している。回動アーム281は、図28に示すように、棒状の本体部282と、本体部282の一方の先端に設けられたフック部284とを有している。本体部282の他方の端部には、上糸用モータ286の出力軸が固定されている。このフック部284は、略U字状の板状を呈し、回動アーム281が回動することにより、上糸Jをフック部284により掛止することができるようになっている。つまり、フック部284は、上糸用モータ286の出力軸の軸線と平行に設けられた溝部284aを有していて、回動アーム281が上糸用モータ286の出力軸(回転中心)を中心に上向きに回動することにより、上糸用モータ286の出力軸の軸線と平行に設けられた上糸Jに接して上糸Jを掛止できるように構成されている。回動アーム281は、磁石部250と磁石部270の間の位置に設けられ、回動アーム281により、選択された上糸を掛止できるようになっている。
また、上糸用モータ286は、アーム312に固定して設けられ、回動アーム281が正面側斜め下方である退避位置(図27の281(B)の位置)から上方に回動することにより、針棒ケース314の正面部314aの上下方向における開口部316aと開口部316cの間の位置に設けられた開口部(第1開口部)316bから正面側に突出するように構成されている。つまり、開口部316bは、回動アーム281の先端が針棒ケース314の正面側(Y1側)(正面側は、アーム312側とは反対側となる)に突出して露出可能となるように形成されている。また、回動アーム281が退避位置にある場合には、針棒ケース314が左右方向にスライドしても回動アーム281が針棒ケース314及び針棒ケース314に設けられた部材(例えば、上糸支持部材288等)に接触しないように構成されている。なお、開口部316bは、各針棒に対応して設けられ、把持部本体241における第1板状部と該第1板状部に対応する把持部本体261における第1板状部の間の位置に形成されている。つまり、開口部316bは、縦長の長方形状を呈し、図の例では、計6つ設けられている。なお、退避位置は、上記のように、針棒ケース314が左右方向にスライドしても回動アーム281が針棒ケース314及び針棒ケース314に設けられた部材に接触しない位置であり、少なくとも、回動アーム281が、上糸支持部材288に支持される上糸に接する位置よりも下方に回動した位置であるとともに、回動アーム281の先端が開口部316bに達しない位置である。
また、針棒ケース314の正面部314aにおける開口部316bの両側には、上糸Jを左右方向に支持するための上糸支持部材288が設けられている。つまり、上糸支持部材288は、開口部316bの両側に計一対設けられ、各上糸支持部材288は、同一の構成であり、線材を折返し状で、かつ、円弧状に形成したものである。具体的には、上糸支持部材288は、上糸用モータ286の回転中心と同心円状(略同心円状としてもよい)に形成された円弧状部材288aと、円弧状部材288aの上糸用モータ286の出力軸の軸線(回転中心を通る軸線)側とは反対側に円弧状部材288aと略平行に上糸用モータ286の回転中心と同心円状(略同心円状としてもよい)に形成された円弧状部材288bと、円弧状部材288aと円弧状部材288bとを下端位置において接続し、円弧状に形成された接続部材288cとを一体に形成した形状となっている。つまり、円弧状部材288aと円弧状部材288bとは、側面視において、上糸用モータ286の回転中心と同心円状に形成され、1つの上糸支持部材288において、円弧状部材288aと円弧状部材288bとは、上糸用モータ286の出力軸の軸線(回転中心を通る軸線)と直角をなす面に沿って形成され、出力軸の軸線と直角方向に間隔を介して形成されている。また、円弧状部材288aと円弧状部材288bとは左右方向に同じ位置に形成されている。また、1つの上糸支持部材288において、1つの上糸に対して設けられた一対の上糸支持部材288は、左右方向に間隔を介して設けられている。また、円弧状部288aの一部や接続部材288cの一部は、開口部316b内に設けられ、円弧状部288bは、正面部314aの正面側の面よりも正面側に突出している。これにより、一対の上糸支持部材288の上側から円弧状部材288aと円弧状部材288bの間の位置に上糸を挿入して、一対の接続部材288c上に配置することにより、一対の上糸支持部材288の接続部材288c間に上糸Jを左右方向に配置することができ、回動アーム281により上糸Jが引き上げられる際にも、上糸Jは、円弧状部材288aと円弧状部材288bの間にあることになる。つまり、上糸支持部材288は、上糸を開口部316bの位置(つまり、上下及び左右方向において開口部316bの位置(具体的には、開口部316bにおける下側の位置))で左右方向に支持しており、より具体的には、開口部316bの正面側に(「開口部316bの正面側の位置に」としてもよい)上糸を正面視で左右方向に支持している。なお、上糸支持部材288が、上糸を開口部316b内(つまり、前後方向で正面部314aの正面側の面と背面側の面の間の位置)で左右方向に支持するようにしてもよい。上糸支持部材288の下端部分は、図27に示すように、開口部316bから針棒ケース314内に入り込む構成としてもよい。
また、各開口部316bの下方近傍位置には、上方から送られた(つまり、上流側把持部240から送られた)上糸Jを上糸支持部材288に導くための棒状のガイド部材(第1上糸経路反転部材)290が針棒ケース314の正面部314aに固定して設けられている。このガイド部材290により、上方から導かれた上糸が反転して上糸支持部材288に導かれる。
また、制御回路90は、主軸モータ20と、上糸用モータ286と、磁石部250と、磁石部270の動作を制御する回路であり、記憶装置92に記憶されたデータに従い、各部の動作を制御する。つまり、制御回路90は、記憶装置92から読み出された刺繍データに従い主軸データ(図7参照)を作成し、作成した主軸データに従い主軸モータ20の動作を制御する。
また、制御回路90は、記憶装置92から読み出された刺繍データに従い上糸制御用トルクデータ(図9参照)を作成して、トルク制御区間においては、この上糸制御用トルクデータに基づき上糸用モータ286をトルク制御する。また、制御回路90は、位置制御区間においては、図15に示すような角度対応データを作成してこの角度対応データに従い位置制御する。
また、制御回路90は、位置制御区間の終点からトルク制御区間の終点までの区間においては、上流側把持部240を閉とし、下流側把持部260を開とするように、磁石部250、270を制御し、一方、トルク制御区間の終点から位置制御区間の終点までの区間においては、上流側把持部240を開とし、下流側把持部260を閉とするように、磁石部250、270を制御する。
制御回路90は、実施例1の場合と同様に、具体的には、図5に示すように、CPU90aと、PWM回路90bと、電流センサ90cとを有している。CPU90aとPWM回路90bと電流センサ90cの各部の構成は、実施例1と同様であるので、詳しい説明を省略する。なお、実施例2においては、図5におけるソレノイド50の代わりに磁石部250となり、ソレノイド70の代わりに磁石部270となる。
また、主軸モータ20と制御回路90間には、主軸モータ20の角度(主軸モータ20の回転方向の位置)を検出するためのエンコーダ21が設けられ、上糸用モータ286と制御回路90間には、上糸用モータ286の角度(上糸用モータ286の回転方向の位置)を検出するためのエンコーダ287が設けられ、制御回路90において、各エンコーダからの情報により各モータの角度(回転方向の位置)が検出される。
また、ケース部310は、ミシン205(具体的には、ヘッド207)の筐体を構成し、フレーム320に固定されたアーム(アーム部としてもよい)312と、アーム312の正面側に設けられアーム312に対して左右方向にスライドする針棒ケース314とを有している。針棒12b−1〜12b−6を駆動するための針棒駆動部材14b及び基針棒14cと、磁石部250、270と、上糸用モータ286はアーム312に設けられている。アーム312は、略ケース状に形成され、ミシン205(具体的には、ヘッド207)の筐体を構成している。
また、針棒ケース314は、アーム312に対して左右方向にスライド可能な略ケース状に形成され、その正面部314aには、磁石部250が臨むための開口部(第2開口部)316aと、回動アーム281が臨み、一対の上糸支持部材288を取り付けるための複数の開口部(第1開口部)316bと、磁石部270が臨むための開口部(第3開口部)316cと、天秤12a−1〜12a−6が露出するための複数の開口部316dが設けられている。正面部314aは、針棒ケース314のアーム312側とは反対側である正面側に設けられている。この針棒ケース314は、図示しないスライド機構部によって、アーム312に対して左右方向(X1−X2方向)にスライドする。
また、上糸ガイド300は、針棒ケース314の正面側の面の上端領域(ガイド部材252よりも上側の領域)に取り付けられ、各上糸を挿通可能にガイドしている。図の例では、3つの上糸ガイド300が設けられている。また、上糸ガイド302は、針棒ケース314の正面側の面の下端領域に取り付けられ、各上糸を挿通可能にガイドしている。
なお、主軸モータ20とエンコーダ21と主軸22とは、ヘッド207を構成するケース部310の外部に設けてもよい。例えば、ヘッドを複数設けた多頭刺繍ミシンの場合には、例えば、各ヘッドに共通の主軸が設けられ、該主軸を回転させる主軸モータが設けられる。
また、釜12cは、ヘッド207の下方でミシンテーブルの上面よりも下側の位置に設けられ、具体的には、ミシンテーブルの下側に設けられた釜土台(図示せず)に支持されている。
また、縫製枠12dは、加工布を張設保持するための部材であり、ミシンテーブルの上方(上面としてもよい)に設けられている。
枠駆動装置24は、制御回路からの指令に応じて縫製枠12dをX軸方向(X1−X2方向)及びY軸方向(Y1−Y2方向)に移動させるものであり、針棒12bの上下動に同期するようにして縫製枠12dを移動させる。この枠駆動装置24は、具体的には、X軸方向に縫製枠12dを移動させるためのサーボモータやY軸方向に縫製枠12dを移動させるためのサーボモータ等により構成される。
また、記憶装置92には、刺繍を行なうための刺繍データが記憶されている。この刺繍データは、例えば、ステッチ幅、ステッチ方向、糸種類(複数種類の糸のうちどの糸を使うか)、糸属性(糸材質や糸太さ)についてのデータが各ステッチごとに設けられたものである。
また、記憶装置92には、実施例1と同様に、図6に示すように、トルク制御区間の始点と終点についてのデータが主軸角度の情報として記憶され、また、位置制御区間の始点と終点についてのデータが主軸角度の情報として記憶されている。トルク制御区間と始点と終点、位置制御区間の始点と終点は、実施例1の場合と同様であるので詳しい説明を省略する。
なお、上糸Jの経路を説明すると、6つの糸はいずれも同様の経路であるので、正面視で右端の上糸を例に取ると、巻き糸(図示せず)から導かれた上糸Jは、上糸ガイド300からガイド部材252に接して上流側把持部240の第1板状部242−6と第2板状部244間を通り、その後、ガイド部材254に接し、その後、ガイド部材290により反転して、上糸支持部材288に至る。一対の上糸支持部材288を通った上糸Jは、ガイド部材272に接して下流側把持部260の第1板状部262−6と第2板状部264間を通り、その後、ガイド部材274に接し、糸調子バネ292を経て天秤12a−6に至り、天秤12a−6から上糸ガイド302を経て、針棒12b−6の縫い針に至る。上糸は、以上の順に上流側から下流側に経由する。
次に、上記構成のミシン205の動作について説明する。まず、上糸用モータ286及び磁石部250、270の動作について説明する。
まず、制御回路90は、記憶装置92に記憶されている刺繍データに従い、主軸データ(図7参照)を各ステッチごとに作成する。記憶装置92には、作成する刺繍について、ステッチごとにステッチ幅、ステッチ方向、糸種類、糸属性(糸材質や糸太さ)等の情報が記憶されているので、各ステッチのそれらの情報に応じて主軸データを作成する。この主軸データは、図7に示すように、単位時間ごとの時系列における主軸角度のデータであり、例えば、ステッチ幅が大きい場合には、主軸角度の変化量を小さくし、ステッチ幅が小さい場合には、主軸角度の変化量を大きくする。また、ステッチの方向が前回のステッチの方向と逆の方向となる場合には、主軸角度の変化量を小さくする。
この制御回路90による主軸データの作成に際しては、複数のステッチから構成される刺繍データ全体について予め作成しておいてもよいし、実際に各機械要素(針棒、天秤、釜等)により刺繍縫いを行なうステッチよりも数ステッチ前の主軸データを作成することにより、主軸データを作成しながら実際の刺繍縫いを行なってもよい。
また、制御回路90は、記憶装置92に記憶された刺繍データに従い、上糸用モータ286のトルク制御に使用する上糸制御用トルクデータを各ステッチごとに作成する(図9参照)。つまり、上糸制御用トルクデータにおいては、各ステッチごとにトルクの値が定められる。このトルクの値は、各ステッチにおけるステッチ幅、ステッチ方向、糸種類、糸属性等の情報に従い決定する。例えば、ステッチ幅が長い場合には、上糸の締付けを強くする必要があるので、トルク値を大きくし、また、糸の太さが太い場合には、上糸の締付けを強くする必要があるので、トルク値を大きくする。なお、この上糸制御用トルクデータの作成に際しては、複数のステッチから構成される刺繍データ全体について予め作成しておいてもよいし、実際に各機械要素(針棒、天秤、釜等)により刺繍縫いを行なうステッチよりも数ステッチ前の上糸制御用トルクデータを作成することにより、上糸制御用トルクデータを作成しながら実際の刺繍縫いを行なってもよい。
実際の刺繍縫いにおいては、実施例1における動作と同様であり、図10〜図13、図17のフローチャートに従い動作するが、実施例2においては、針棒が複数設けられ、複数の針棒の中から針棒が選択される(つまり、糸が選択される)ので、図10のフローチャートにおいて、主軸角度を検出し(S1)、1つのステッチの初頭に対応した主軸角度である場合(例えば、図18における0度)(つまり、次のステッチに移行する際)には、選択される上糸が変更される場合には、針棒ケース314をスライドさせて、選択された糸の位置に磁石部250、270が配置されるとともに、回動部280の回動アーム281が選択された糸を掛止して引き上げることができるようにその上糸に対応した開口部316bの位置に来るようにする針棒ケース314のスライド動作を制御する工程が、ステップS1とステップS2の間に行われることになる。
なお、針棒ケース314をアーム312に対してスライド動作する際には、回動アーム281を図27の281(B)に示す退避位置にまで下方に回動させて、回動アーム281が針棒ケース314及び針棒ケース314に設けられた部材に接触しないようにする。
また、図10のステップS3のトルク制御サブルーチンにおいても、実施例1と同様に、図11に示すフローチャートに示すように動作する。すなわち、トルク制御区間の始点において対象ステッチのトルクデータ(トルク値)を上糸制御用トルクデータから読み出しておき、当該ステッチのトルク制御区間においては、読み出したトルクデータに従いトルク制御する。
また、図10のステップS5の位置制御サブルーチンにおいても、実施例1と同様に、図12、図13に示すフローチャートに示すように動作する。すなわち、エンコーダ287により上糸用モータ286の現在位置(回転方向の位置)を検出し、位置制御区間において、上糸用モータ286の初期位置にまで位置制御するための角度対応データを作成し(図14、図15参照)、この角度対応データに従い、上糸用モータ286の初期位置にまで位置制御により戻す制御を行なう。
また、上流側把持部240と下流側把持部260の切換え制御についても、実施例1と同様に、図17、図18に示すように、上糸用モータ286についてのトルク制御区間の終点から位置制御区間の終点までは、上流側把持部240の把持部本体241を開とし、下流側把持部260の把持部本体261を閉とし、一方、位置制御区間の終点からトルク制御区間の終点までは、上流側把持部240の把持部本体241を閉とし、下流側把持部260の把持部本体261を開とする。なお、把持部本体241、261が閉になると、把持された上糸が固定され、把持部本体241、261が開になると、上糸の固定が解除される。
なお、磁石部250を駆動することにより、第1板状部242−1〜242−6における磁石部250の位置に対応した第1板状部が磁力により吸引されて、第1板状部と第2板状部244間の隙間が閉じた状態となって、把持部本体241が閉となり、第1板状部と第2板状部244とで上糸Jを挟んで把持した閉状態となる。例えば、図26に示すように、磁石部250が第1板状部242−4の背面側に位置している場合には、磁石部250を駆動することにより第1板状部242−4と第2板状部244間の隙間が閉じた状態となって、第1板状部242−4と第2板状部244間の上糸が把持される。また、磁石部250を駆動しない場合には、第1板状部242−4と第2板状部244間の隙間が閉じた状態とはならないため、把持部本体241が開となり、上糸把持を解除した開状態となる。このように上流側駆動部としての磁石部250は、把持部本体241に対して上糸を把持した閉状態と上糸把持を解除した開状態とを切り換える。
同様に、磁石部270を駆動することにより、第1板状部262−1〜262−6における磁石部270の位置に対応した第1板状部が磁力により吸引されて、第1板状部と第2板状部264間の隙間が閉じた状態となって、把持部本体261が閉となり、第1板状部と第2板状部264とで上糸Jを挟んで把持した閉状態となる。例えば、図26に示すように、磁石部270が第1板状部262−4の背面側に位置している場合には、磁石部270を駆動することにより第1板状部262−4と第2板状部264間の隙間が閉じた状態となって、第1板状部262−4と第2板状部264間の上糸が把持される。また、磁石部270を駆動しない場合には、第1板状部262−4と第2板状部264間の隙間が閉じた状態とはならないため、把持部本体261が開となり、上糸把持を解除した開状態となる。このように下流側駆動部としての磁石部270は、把持部本体261に対して上糸を把持した閉状態と上糸把持を解除した開状態とを切り換える。
すなわち、上糸制御部230の動作を説明すると、位置制御区間の終点の位置では、回動アーム281が上死点の位置(初期位置)となっている。つまり、回動アーム281のフック部284が斜め上方にある位置(図27の281(A)に示す位置)となっている。この初期位置では、回動アーム281の先端は、開口部316bから正面部314aの正面側に露出している。なお、選択される上糸が変更される場合には、回動アーム281が退避されるので、回動アーム281を退避位置にまで回動させる。その際、回動アーム281は下方に回動される。
次に、トルク制御区間に入ると、把持部本体241が閉、把持部本体261が開の状態で、上糸用モータ286がトルク制御されて、上糸用モータ286により回動アーム281に対して上方に回転力が付与されている。これにより、天秤12a−1等の上糸Jに対する引っぱり方向(引き上げ方向)に抗して回動アーム281が上糸Jを引っぱっている状態で、天秤12a−1等が上方に回動して上糸Jを加工布に対して引き上げている。これにより、天秤12a−1等が上糸Jを引き上げる(つまり、天秤12aが上死点(他方の死点)に移行する)に伴い、回動アーム281が天秤12a−1等の上糸Jの引っぱり方向(下方)に回動していく。
なお、実施例1と同様に、上糸制御用トルクデータにおいて設定されるトルクの値は、天秤12a−1等が上糸Jを引き上げるに伴い回動アーム281が天秤12a−1等の上糸Jの引っぱり方向(下方)に回動し、天秤12aによる上糸Jの引っぱりに支障がない程度の値に設定する。
次に、位置制御区間に入ると、把持部本体241が開、把持部本体261が閉の状態で、上糸用モータ286が位置制御されて回動アーム281が上糸Jを引き出す方向(上方)に回動する。図27における281(A)は位置制御区間の終点で上糸用モータ286が初期位置に戻ることにより回動アーム281が初期位置(原点位置としてもよい)にまで回動した状態を示している。
トルク制御に際して、トルクの値が大きい場合には、上糸Jを強く引くので、そのステッチは固く縫われることになり、トルクの値が小さい場合には、上糸Jを弱く引くので、そのステッチは柔らかく縫われることになる。
以上のように、各ステッチごとの制御区間において、天秤12a−1等が上糸により縫製する加工布に対して上糸を引っぱる区間である天秤12a−1の下死点から上死点までの区間における少なくとも一部を含む区間であるトルク制御区間においては、把持部本体241を閉状態とし、把持部本体261を開状態とした状態で、天秤12a−1等が上糸を引っぱる方向に対抗して上糸に張力を付与するようにトルク値に従い回動アーム281に回転力を付与するトルク制御を行ない、一方、トルク制御区間以外の区間の少なくとも一部である位置制御区間においては、把持部本体241を開状態とし、把持部本体261を閉状態とした状態で、上糸用モータ286の回転方向の位置である上糸用モータ286の角度における初期位置に上糸用モータ286の角度が戻るように上糸用モータ286の角度の位置データに従い回動アーム281に回転力を付与する位置制御を行なって上糸を上流から引き出す。
また、主軸モータ20の制御は、上記実施例1と同様であり、図21、図22に示すフローチャートに従い動作するが、実施例2においては、針棒が複数設けられ、複数の針棒の中から針棒が選択される(つまり、糸が選択される)ので、図21のフローチャートのステップS51において、主軸データから主軸角度を読み出した際に、1つのステッチの初頭に対応した主軸角度である場合(例えば、図18における0度)には、選択される糸が変更される場合には、針棒ケース314をスライドさせて、選択された糸の位置に磁石部250、270が配置されるとともに、回動部280の回動アーム281が選択された糸を掛止して引き上げることができるようにその糸に対応した開口部316bの位置に来るように針棒ケース314のスライド動作を制御する工程が、ステップS51とステップS52の間に行われることになる。
主軸モータ20の制御においては、針棒ケース314のスライド動作の制御が設けられる点以外は、実施例1と同様であるので、詳しい説明を省略する。
以上のように、実施例2のミシンによれば、トルク制御区間において上糸に対してトルク制御を行なうので、上糸に対する張力の大きさを制御することができ、特に、上糸制御用トルクデータ(図9)により、トルク制御区間においてステッチごとにトルク制御を行なうので、ステッチごとに上糸への張力を制御することができ、ステッチごとに縫い目の固さを調整することができる。
また、多針ヘッドの場合に、異なる上糸よりステッチを形成した場合でも、上糸制御用トルクデータにおけるトルク値を同じにすることにより、上糸への張力を等しく制御することができる。また、多頭刺繍ミシンの場合に、トルク制御区間に使用する上糸制御用トルクデータについて、各ヘッドにおいて共通の上糸制御用トルクデータとすることにより、各ヘッドにおいて、上糸への張力を等しくすることができる。
また、従来のミシン(図47参照)における糸調子皿とロータリーテンションの代わりに、上糸制御部230を設けることにより、上糸Jを引き出す位置制御区間においては、把持部本体241が開となり、回動部280の回動アーム281よりも上流には、上糸ガイド300が存在するのみで糸調子皿とロータリーテンションの摩擦抵抗が存在せず、また、把持部本体261が閉となるので、天秤12aの動きが上糸を引き出す際の支障となることがなく、よって、上糸を円滑に巻き糸から引き出すことができ、糸切れのおそれを小さくすることができる。
また、上糸の糸切れが発生した場合には、トルク制御区間において、回動アーム281が下方に回動することがない、すなわち、回動アーム281が上糸用モータ286の回転力付与方向と反対方向である下方に引っぱられることがないので、回動アーム281が下方に回動しないことを検出することにより糸切れを検出することができ、また、糸切れが発生していない場合には、トルク制御区間においては、回動アーム281が下方に回動するので、正確に糸切れを検出することができる。
また、位置制御区間においては、上糸用モータ286の現在位置(角度)を検出し、上糸用モータ286の初期位置の角度にまで位置制御するための角度対応データを作成し、この角度対応データに従い、上糸用モータ286の初期位置にまで位置制御により戻す制御を行なうので、トルク制御区間において、回動アーム281が引き上げられることにより消費した量だけ上糸を引き出すことができるので、上糸を引き出すことにより蓄糸した量の過不足が生じない。
また、上流側把持部240と下流側把持部260と回動部280を備えた構成を多針ヘッドに適用する場合に、上流側把持部240の磁石部250と、下流側把持部260の磁石部270と、回動部280をそれぞれ1つ設けるのみで構成できるので、製造コストを抑えた効率的な構成とすることができる。
次に、実施例3のミシンについて説明する。実施例3に基づくミシン1205は、刺繍用ミシンであり、図29〜図36に示すように構成され、ヘッド(刺繍ヘッド)1207と、釜12cと、縫製枠12dと、主軸モータ20と、主軸22と、枠駆動装置24と、制御回路90と、記憶装置92とを有している。このミシン1205は、多針用のミシンであり、具体的には、9種類の上糸に対応可能な9針の刺繍用ミシンである。
なお、図33、図34は、上糸制御用取付部1340と上糸制御部1230のみを図32におけるP−P位置において破断した部分断面左側面図であり、図35は、上糸制御用取付部1340と上糸制御部1230のみを図32におけるQ−Q位置において破断した部分断面左側面図である。また、図33、図34、図35は、上糸を省略して描いている。
ここで、ヘッド1207は、ヘッド7、207と同様に、略平板状のミシンテーブル(図示せず)の上方に設けられている。つまり、ミシンテーブルの上面からはフレーム(フレーム320(図27参照)と同様の構成のフレーム)が立設して設けられ、このフレームの正面側にヘッド1207が設けられている。
ヘッド1207は、図29〜図36に示すように構成され、機械要素群10と、主軸モータ20と、主軸22と、上糸制御部1230と、制御回路90と、ケース部1310とを有している。
ここで、ケース部1310は、ミシン1205(具体的には、ヘッド1207)の筐体を構成し、フレームに固定されたアーム(アーム部としてもよい)1312と、アーム1312の正面側(Y1側)に設けられアーム1312に対して左右方向にスライドする針棒ケース1314とを有している。
アーム1312は、前後方向に伸びた略ケース状に形成され、ミシン1205(具体的には、ヘッド1207)の筐体を構成している。アーム1312は、方形状の上面部1312aと、上面部1312aの左右両側の端部から下方に連設され、正面側の上端に四角形状の切欠部が形成された側面部1312b、1312cと、側面部1312b、1312cの上端を除く正面側の端部から連設された正面部1312dと、側面部1312b、1312cの上端領域の正面側の端部から連設された正面部1312eと、正面部1312eの下端と正面部1312dの上端の間に形成された上面部1312fとに囲まれた形状を呈している。アーム1312の背面側の端部は、上記フレームに接続されている。
このアーム1312の正面側には、針棒ケース本体1330の背面側に設けられたレール部1334が摺動自在に嵌合するレール支持部1312gが設けられている。
また、上面部1312fには、略逆T字状のレール1312hが設けられ、針棒ケース本体1330には、レール1312hに対して摺動する摺動部材1314hが設けられている。
アーム1312内には、主軸22の回転力を各機械要素に伝達するためのカム機構又はベルト機構等の動力伝達手段が設けられている。
また、アーム1312の上面には、針棒ケース1314を摺動させるためのモータ1313bと、クラッチ収納部1313aが設けられ、クラッチ収納部1313aには、モータ1313bにより回転されるクラッチ1313a−1が設けられている。このクラッチ1313a−1は螺旋状の溝を有し、このクラッチ1313a−1の螺旋状の溝が針棒ケース本体1330の背面側に設けられた円柱状のクラッチ係合部1339bと係合していて、クラッチ1313a−1が回転することにより針棒ケース1314が左右方向にスライドするようになっている。
また、針棒ケース1314は、アーム1312に対して左右方向にスライド可能な略ケース状に形成され、針棒ケース本体(針棒収納ケース)1330と、上糸制御用取付部1340とを有している。
針棒ケース本体1330は、図30、図31、図33、図34、図35に示すように構成され、筐体部1332と、筐体部1332の背面側に左右方向に形成されたレール部1334と、筐体部1332の正面側に設けられた支持部1335、ガイド部材1336、糸調子バネ(通称、ピンピンバネ)1337及び上糸ガイド1338とを有している。
筐体部1332は、側面視において縦長に形成されたケース状を呈し、側面視縦長で上端領域の背面と正面側に突出した側面部1332aと、側面部1332aと対称に形成された側面部1332bと、側面部1332aの下側領域と側面部1332bの下側領域間に設けられた方形状の正面部1332cと、側面部1332aの上端と側面部1332bの上端間に左右方向に水平に設けられた上面部1332dと、正面部1332cと上面部1332d間に設けられ、正面部1332cよりも正面側に突出するように形成された突出部1332eとを有し、突出部1332eは、複数の突出部1332eが、間隔を介して複数設けられ、隣接する突出部1332e間には、天秤12a−1〜12a−9が正面側に突出するための開口部(図示せず)が設けられている。
レール部1334は、筐体部1332の背面側に設けられ、断面四角棒状を呈し、左右方向に形成されている。このレール部1334は、アーム1312側に取り付けられたレール支持部1312gに左右方向に摺動可能に指示され、このレール支持部1312gとレール部1334とでリニアウエイを構成する。
また、針棒ケース本体1330の筐体部1332の背面側の上端には、左右方向に設けられた棒状部1339aを介して、複数の円柱状のクラッチ係合部1339bが間隔を介して左右方向に設けられ、モータ1313bが回転することにより、クラッチ1313a−1が回転して、針棒ケース1314が左右方向にスライドする。
また、支持部1335は、筐体部1332の正面部1332cの正面側の上側領域に取り付けられ、左右方向に水平(略水平としてもよい)に設けられている。ガイド部材1336は、この支持部1335に各天秤ごとに間隔を介して設けられ、略L字状の板状を呈している。また、糸調子バネ1337は、各天秤ごとに間隔を介して設けられ、支持部1335に取り付けられ、ガイド部材1336の下方に設けられている。なお、糸調子バネ1337は、上方から送られた(つまり、下流側側把持部1260から送られた)上糸Jを上糸Jの撓みや弛みを防止して天秤に導くために設けられている。この糸調子バネ1337により、上方から導かれた上糸Jが反転して天秤に導かれるとともに、上糸Jに張力が加えられる。また、上糸ガイド1338は、正面部1332cの正面側の下端に左右方向に設けられている。
また、上糸制御用取付部1340は、針棒ケース本体1330(特に、筐体部1332)の上面に取り付けられ、板状のプレート部1341と、プレート部1341の立設状態を支持するプレート部支持部1344と、プレート部1341に取り付けられたガイド部材1252、1254、1272、1274、1290と、上糸ガイド1300、1302、ガイド板1346a、1346b、台部1347a、1347b、押え板1348a、1348bとを有している。
ここで、プレート部1341は、方形状(略方形状としてもよい)の板状を呈し、磁石部1250が臨むための開口部(第2開口部)1342aと、回動アーム1281が臨み、一対の上糸支持部材1288を取り付けるための複数(図の例では、9個)の開口部(第1開口部)1342bと、磁石部1270が臨むための開口部(第3開口部)1342cとが形成されている。プレート部1341は左右方向に形成され、プレート部1341の上辺と下辺とは左右方向を向いている。
開口部1342aは、開口部1342bの上側に横長の長方形状に形成され、開口部1342aの上下幅は、磁石部1250の先端部分よりも大きく形成され、磁石部1250の先端部分が開口部1342aに挿通することができるように形成されている。同様に、開口部1342cは、開口部1342bの下側に横長の長方形状に形成され、開口部1342cの上下幅は、磁石部1270の先端部分よりも大きく形成され、磁石部1270の先端部分が開口部1342cに挿通することができるように形成されている。
開口部1342bは、各針棒に対応して設けられ、把持部本体1241における第1板状部ユニットと該第1板状部ユニットに対応する把持部本体1261における第1板状部ユニットの間の位置(つまり、第1板状部1242aと第1板状部1242aに対応する第1板状部1262aの間の位置)に形成されている。つまり、開口部1342bは、縦長の長方形状を呈し、図の例では、計9つ設けられ、開口部1342bは、間隔を介して(具体的には等間隔に)左右方向に並んで配設されている。開口部1342bは、回動アーム1281の先端がプレート部1341の正面側(Y1側)(正面側は、アーム1312側とは反対側となる)に突出して露出可能となるように形成されている。
プレート部支持部1344は、プレート部1341の背面側の左右両端にそれぞれ設けられ、略コ字状のフレーム状を呈している。各プレート部支持部1344は、筐体部1332の上面に取り付けられ、プレート部1341は、筐体部1332の正面側に取り付けられて、筐体部1332に支持されている。プレート部1341は、その正面側の面が、斜め上方を向くように取り付けられている。
また、ガイド部材1252、1254、1272、1274、1290は、プレート部1341の正面側の面にプレート部1341の正面側の面に対して垂直に立設して取り付けられている。ガイド部材1252とガイド部材1254は、第1板状部ユニット1242−1〜1242−9における各第1板状部ユニットごとに設けられ、ガイド部材1252は、開口部1342aの上側の辺部に沿って間隔を介して設けられ、ガイド部材1254は、開口部1342aの下側の辺部に沿って間隔を介して設けられている。ガイド部材1272とガイド部材1274とガイド部材1290は、第1板状部ユニット1262−1〜1262−9における各第1板状部ユニットごとに設けられ、ガイド部材1272は、開口部1342cの上側の辺部に沿って間隔を介して設けられ、ガイド部材1274は、開口部1342cの下側の辺部に沿って間隔を介して設けられ、ガイド部材(第1上糸経路反転部材)1290は、開口部1342cの上側の辺部に沿って間隔を介して設けられ、ガイド部材1272とも間隔を介して設けられている。
ガイド部材1252、1254、1272、1274、1290や、ガイド部材252、254、272、274、290の取付けの態様としては、図46に示す態様が考えられる。
すなわち、ガイド部材1252、1254、1272、1274、1290は、いずれも同様の構成であるので、ガイド部材1252を例にとって説明すると、ガイド部材1252は、略円柱状の本体部ga−1と、本体部ga−1の基端から突出したネジ部(基端部)ga−2とを有し、ネジ部ga−2の外周にはネジ溝が形成されている。
すなわち、本体部ga−1は、円柱状の外周面と、半球状の先端部とを有している。また、ネジ部ga−2は、略円柱状を呈し、円柱状の周面にネジ溝が形成されている。ネジ部ga−2の径(直径)は、本体部ga−2の径(直径)よりも小さく形成されている。
ここで、図46(a)の例では、プレート部1341には、ネジ部ga−2と螺合するネジ穴1343aが形成され、ネジ部ga−2をネジ穴1343aに取り付けることにより、本体部ga−1の基端面がプレート部1341の面に接することになる。
また、図46(b)の例では、プレート部1341には、本体部ga−1の基端部分(すなわち、ネジ部ga−2側の端部)を挿入するための凹部1343bと、凹部1343bから連設されたネジ穴(穴部)1343aとが形成され、凹部1343bとネジ穴1343aとによりプレート部1341の正面側から背面側にまで貫通した穴部が形成されている。ネジ部ga−2をネジ穴1343aに取り付けることにより、本体部ga−1の基端部分が凹部1343bに挿入される。つまり、本体部ga−1の基端部分が、プレート部1341に埋設されている。なお、ネジ穴1343aは、プレート部1341の背面側まで貫通しているが、プレート部1341の背面側にまで貫通しない凹部状の穴部としてもよい。
図46(b)の構成においては、上糸が本体部ga−1の基端とプレート部1341の面との間に入り込むおそれを防止することができる。つまり、図46(a)の態様においては、本体部ga−1の基端面がプレート部1341の正面側の面に接するので、上糸が本体部ga−1の基端面とプレート部1341の正面側の面の間に入り込んで引っかかるおそれがあるが、図46(b)の態様ではそのおそれを防止することができる。
また、図46(c)の態様は、図46(b)の態様と略同一であるが、ネジ部ga−2がネジ穴1343bから突出し、ネジ部ga−2にナットga−3が取り付けられている例である。図46(c)の態様によっても、本体部ga−1の基端部分が凹部1343bに挿入して埋設されているので、上糸が本体部ga−1の基端とプレート部1341の面との間に入り込むおそれを防止することができる。
また、上糸ガイド1300は、プレート部1341の正面側の面の上側領域(ガイド部材1252よりも上側の領域)に取り付けられ、各上糸を挿通可能にガイドしている。図の例では、5つの上糸ガイド1300が設けられている。
また、上糸ガイド1302は、プレート部1341の正面側の面の下端領域(ガイド部材1274よりも下側の領域)に取り付けられ、各上糸を挿通可能にガイドしている。図の例では、5つの上糸ガイド1302が設けられている。
また、ガイド板1346aは、細長長方形状の板状を呈し、プレート部1341の背面側の面における開口部1342aの上辺の背面側の位置に左右方向に設けられている。このガイド板1346aは、第1板状部ユニット1242−1〜1242−9の掛止部1242bの背面側に位置され、第1板状部ユニット1242−1〜1242−9がプレート部1341から脱落するのを防止している。また、台部1347aは、プレート部1341の背面の左右両端で、ガイド板1346aとプレート部1341の背面との間に設けられ、ガイド板1346aとプレート部1341間に隙間を形成して、第1板状部ユニット1242−1〜1242−9が前後方向に摺動するのに支障がないようにしている。
また、ガイド板1346bは、細長長方形状の板状を呈し、プレート部1341の背面側の面における開口部1342cの上辺の背面側の位置に左右方向に設けられている。このガイド板1346bは、第1板状部ユニット1262−1〜1262−9の掛止部1262bの背面側に位置され、第1板状部ユニット1262−1〜1262−9がプレート部1341から脱落するのを防止している。また、台部1347bは、プレート部1341の背面の左右両端で、ガイド板1346bとプレート部1341の背面との間に設けられ、ガイド板1346bとプレート部1341間に隙間を形成して、第1板状部ユニット1262−1〜1262−9が前後方向に摺動するのに支障がないようにしている。
また、押え板1348aは、プレート部1341の正面における開口部1342aの両側にそれぞれ設けられ、第2板状部1244の左右両側の端部をプレート部1341との間で挟設している。また、押さえ板1348bは、プレート部1341の正面における開口部1342cの両側にそれぞれ設けられ、第2板状部1264の左右両側の端部をプレート部1341との間で挟設している。
次に、機械要素群10は、ヘッド1207において駆動される各機械要素であり、機械要素としては、実施例1、実施例2と同様に、複数の天秤と針棒と布押さえが設けられているが、実施例3においては、9つの天秤12a−1〜12a−9と9つの針棒12b−1〜12b−9と、9つの布押さえ12eが設けられている。天秤12a−1〜12a−9や、針棒12b−1〜12b−9や、釜12cは、従来におけるミシンと同様に、主軸22の回転力をカム機構又はベルト機構等の動力伝達手段を介して伝達することにより駆動する。なお、天秤と針棒と布押さえの数は、9つ以外の数(例えば、12)であってもよい。
天秤12a−1〜12a−9は、ケース部1310の針棒ケース本体1330の筐体部1332に設けられ、左右方向(X1−X2方向)の軸線(回転中心)を中心に揺動可能に形成され、下死点(一方の死点)と上死点(他方の死点)間を回動する。つまり、天秤12a−1〜12a−9は、回転中心(揺動中心としてもよい)12abを中心に揺動するように、針棒ケース本体1330に軸支されている。天秤12a−1〜12a−9には、縫い針に挿通される上糸が挿通される。なお、針棒ケース1314がアーム1312に対して左右方向にスライドすることにより、選択された特定の天秤のみに動力が伝達されて揺動する。つまり、天秤12a−1〜12a−9の基端部12az(図31参照)にアーム1312側の係合部材1313zが係合して、係合部材1313zが回動中心を中心に回動することにより、天秤が揺動する。なお、天秤12a−1〜12a−9の先端は、筐体部1332の正面側の隣接する突出部1332e間に設けられた開口部から正面側(Y1側)に突出して露出している。
また、針棒12b−1〜12b−9は、筐体部1332に上下動可能に設けられ、各針棒には、下端に縫い針(実施例2の縫い針12baと同様の構成の縫い針であり、この縫い針の針穴に上糸が挿通される)が固定して設けられ、上端には、針棒抱き14aが固定して設けられている。また、この針棒抱き14aには、針棒駆動部材(実施例2の針棒駆動部材14bと同様の構成の針棒駆動部材)が係合する。この針棒駆動部材には、上下方向に設けられた基針棒(実施例2の基針棒14cと同様の構成の基針棒)が挿通されて、針棒駆動部材は、基針棒に沿って上下動可能に形成されている。そして、主軸22の回転力が動力伝達手段により伝達されて、針棒駆動部材が上下動され、これにより、針棒が上下動することになる。なお、針棒ケース1314がアーム1312に対して左右方向にスライドすることにより、針棒駆動部材は特定の針棒抱き14aに係合するので、選択された針棒が上下動することになる。また、布押え12cは、各針棒ごとに設けられている。
また、上糸制御部1230は、上糸を上糸ボビンに巻回された巻き糸(図示せず)から引き出すとともに、上糸に掛かる張力を制御するものであり、上流側把持部1240と、下流側把持部1260と、回動部1280(図29、図34、図35参照)と、支持部(磁石部・モータ支持部材)1360とを有している。
ここで、上流側把持部1240は、プレート部1341における上側、すなわち、回動部1280の上側に設けられ、把持部本体(上流側把持部本体)1241と、把持部本体1241の背面側に設けられた磁石部(上流側駆動部、上流側磁石部)1250とを有している。
把持部本体1241は、各針棒ごとに設けられた第1板状部ユニット1242−1〜1242−9と、第1板状部ユニット1242−1〜1242−9における第1板状部1242aの背面側で、かつ、針棒ケース1314(具体的には、プレート部1341)の正面側に設けられた第2板状部(上流側第2板状部)1244とを有している。
ここで、第1板状部ユニット1242−1〜1242−9における各第1板状部ユニットは、図36に示すように、方形状の板状を呈する第1板状部(上流側第1板状部)1242aと、第1板状部1242aの上端から背面側に突出して形成された掛止部(取付部材)1242bとを有し、掛止部1242bは、略L字状の板状(長方形状の板状を略L字状に折曲した形状)を呈している。この第1板状部ユニットは、磁石が吸引する材料(磁石が付く材料)、つまり、磁性体(強磁性体としてもよい)により一体に形成されている。すなわち、第1板状部ユニット1242−1〜1242−9は、例えば、鉄等の磁石が吸引する金属により形成されている。各第1板状部ユニットは、同大同形状(略同大同形状としてもよい)に形成され、掛止部1242bが、プレート部1341に設けられた掛止穴1342dに掛止されることにより、第1板状部ユニット1242−1〜1242−9が、間隔を介して(具体的には等間隔に)左右方向に並んで配設されている。つまり、隣接する2つの第1板状部ユニット間には、間隔が設けられている。プレート部1341における開口部1342aの上側には、複数(具体的には、計9つ)の掛止穴1342dが間隔を介して(具体的には等間隔に)左右方向に並んで配設されている。掛止部1242bを掛止穴1342dに掛止することにより、第1板状部は、プレート部1341に吊り下げた状態(ぶら下げた状態としてもよい)となっている。これにより、第1板状部1242aは、第2板状部1244の正面側の面に対して垂直方向に摺動するようになっていて、第2板状部1244との間隔が可変するようになっている。
また、第2板状部1244は、第1板状部ユニット1242−1〜1242−9における第1板状部1242aの背面側に設けられた1つの板状部材であり、細長長方形の板状を呈している。すなわち、第2板状部1244は、左右方向には、正面視において左端に設けられた第1板状部ユニット1242−1の第1板状部1242aの左側面側の辺部から右端に設けられた第1板状部ユニット1242−9の第1板状部1242aの右側面側の辺部までの長さよりも長く形成され、また、上下方向には、第1板状部ユニット1242−1〜1242−9における各第1板状部1242aの上下方向の幅と同一幅(略同一幅としてもよい)を有している。第2板状部1244の正面視における左端は、第1板状部ユニット1242−1の第1板状部1242a左側面側の辺部よりも左側面側にあり、押え板1348aによりプレート部1341に固定され、また、第2板状部1244の正面視における右端は、第1板状部ユニット1242−9の第1板状部1242aの右側面側の辺部よりも右側面側にあり、押え板1348aによりプレート部1341に固定されている。つまり、第1板状部ユニット1242−1〜1242−9の各第1板状部の背面側には、第1板状部ユニット1242−1〜1242−9における各第1板状部と平行に第2板状部1244が存在する。この第2板状部1244は、磁石が吸引しない材料(磁石が付かない材料)、つまり、非磁性体により形成され、例えば、合成樹脂製のフィルムにより形成されている。なお、第2板状部1244をアルミニウムやステンレスにより形成してもよい。
また、第2板状部1244は、開口部1342aよりも大きく形成され、開口部1342aを正面側からカバーするように設けられている。
また、磁石部1250は、電磁石により形成され、その先端部分は、開口部1342a内に配置され、磁石部1250の先端が第2板状部1244の背面側の面に接するように形成されている。磁石部1250の先端の面(第2板状部1244側の面)が吸引面となっている。磁石部1250は、略円柱状を呈している(磁石部1270においても同じ)。なお、図33〜図35、図38、図39、図42、図44において、磁石部1250、1270の詳しい断面形状は省略して描いているが、磁石部1250、1270は、通常の電磁石と同様の構成であり、磁性材料の芯と芯のまわりに巻回されたコイルとを有し、コイルに通電することにより磁力が発生する。上流側把持部1240において、磁石部1250は1つ設けられている。そして、制御回路90により磁石部1250を駆動することにより、第1板状部ユニット1242−1〜1242−9における磁石部1250の位置に対応した第1板状部ユニットにおける第1板状部1242aが磁力により吸引されて、第1板状部1242aと第2板状部1244間の隙間が閉じた状態となる。磁石部1250は、支持部1360における板状部1360eの正面側の面の上端側に取り付けられ、プレート部1341の背面側の面に対して垂直方向に設けられている。つまり、磁石部1250は、アーム1312側に固定して設けられている。
また、第1板状部ユニット1242−1〜1242−9における各第1板状部1242aの正面視における上側と下側には、ガイド部材(第1ガイド部材)1252、1254が設けられ、ガイド部材1252、1254は、図32に示すように、上糸Jが第1板状部の背面側を対角状に通過するように配設され、ガイド部材1252は、第1板状部の上側の正面視左側に設けられ、ガイド部材1254は、第1板状部の下側の正面視右側に設けられている。これにより、第1板状部の背面側に存在する上糸Jの経路を長く確保することができ、上糸Jを第1板状部と第2板状部1244により確実に把持することができる。
また、下流側把持部1260は、プレート部1341における下側、すなわち、回動部1280の下側に設けられ、把持部本体(下流側把持部本体)1261と、把持部本体1261の背面側に設けられた磁石部(下流側駆動部、下流側磁石部)1270とを有している。
把持部本体1261は、把持部本体1241と同様の構成であり、各針棒ごとに設けられた第1板状部ユニット1262−1〜1262−9と、第1板状部ユニット1262−1〜1262−9の第1板状部1262aの背面側で、かつ、針棒ケース1314(具体的には、プレート部1341)の正面側に設けられた第2板状部(下流側第2板状部)1264とを有している。
ここで、第1板状部ユニット1262−1〜1262−9は、第1板状部ユニット1242−1〜1242−9と同様の構成であり、第1板状部ユニット1262−1〜1262−9における各第1板状部1262aは、図36に示すように、方形状の板状を呈する第1板状部(下流側第1板状部)1262aと、第1板状部1262aの上端から背面側に突出して形成された掛止部(取付部材)1262bとを有し、掛止部1262bは、略L字状の板状を呈している。第1板状部ユニット1262−1〜1262−9は、磁石が吸引する材料(磁石が付く材料)、つまり、磁性体(強磁性体としてもよい)により形成され、各第1板状部ユニットは、同大同形状(略同大同形状としてもよい)に形成され、掛止部1262bが、プレート部1341に設けられた掛止穴1342eに掛止されることにより、第1板状部ユニット1262−1〜1262−9が、間隔を介して(具体的には等間隔に)左右方向に並んで配設されている。つまり、隣接する2つの第1板状部ユニット間には、間隔が設けられている。プレート部1341における開口部1342cの上側(かつ、開口部1342bの下側)には、複数(具体的には、計9つ)の掛止穴1342eが間隔を介して(具体的には等間隔に)左右方向に並んで配設されている。掛止部1262bを掛止穴1342eに掛止することにより、第1板状部は、プレート部1341に吊り下げた状態(ぶら下げた状態としてもよい)となっている。これにより、第1板状部1262aは、第2板状部1264の正面側の面に対して垂直方向に摺動するようになっていて、第2板状部1264との間隔が可変するようになっている。第1板状部ユニット1242−1〜1242−9と第1板状部ユニット1262−1〜1262−9とにおいて、同じ上糸に対応する第1板状部ユニットは、左右方向に同じ位置に設けられている。
また、第2板状部1264は、第2板状部1244と同様の構成であり、第1板状部ユニット1262−1〜1262−9の第1板状部1262a背面側に設けられた1つの板状部材であり、左右方向には、正面視において左端に設けられた第1板状部ユニット1262−1の第1板状部1262aの左側面側の辺部から右端に設けられた第1板状部ユニット1262−9の第1板状部1262aの右側面側の辺部までの長さよりも長く形成され、また、上下方向には、第1板状部ユニット1262−1〜262−9における各第1板状部1262aの上下方向の幅と同一幅(略同一幅としてもよい)を有している。第2板状部1264の正面視における左端は、第1板状部ユニット1262−1の第1板状部1262aの左側面側の辺部よりも左側面側にあり、押え板1348bによりプレート部1341に固定され、また、第2板状部1264の正面視における右端は、第1板状部ユニット1262−9の第1板状部1262aの右側面側の辺部よりも右側面側にあり、押え板1348bによりプレート部1341に固定されている。つまり、第1板状部ユニット1262−1〜1262−9の各第1板状部の背面側には、第1板状部ユニット1262−1〜1262−9における各第1板状部と平行に第2板状部1264が存在する。この第2板状部1264は、磁石が吸引しない材料(磁石が付かない材料)、つまり、非磁性体により形成されている。
また、第2板状部1264は、開口部1342cよりも大きく形成され、開口部1342cを正面側からカバーするように設けられている。
また、磁石部1270は、磁石部1250と同様に、電磁石により形成され、その先端部分は、開口部1342c内に配置され、磁石部1270の先端が第2板状部1264の背面側の面に接するように形成されている。磁石部1270の先端の面(第2板状部1264側の面)が吸引面となっている。下流側把持部1260において、磁石部1270は1つ設けられ、磁石部1250と同大同形状(略同大同形状としてもよい)に形成されている。そして、制御回路90により磁石部1270を駆動することにより、第1板状部ユニット1262−1〜1262−9における磁石部1270の位置に対応した第1板状部ユニットにおける第1板状部1262aが磁力により吸引されて、第1板状部1262aと第2板状部1264間の隙間が閉じた状態となる。磁石部1270は、支持部1360における板状部1360eの正面側の面の下端側に取り付けられ、プレート部1341の背面側の面に対して垂直方向に設けられている。つまり、磁石部1270は、アーム1312側に固定して設けられている。
なお、磁石部1250と磁石部1270とは左右方向に同じ位置に設けられていて、磁石部1250を駆動した場合と磁石部1270を駆動した場合に、同じ上糸を把持するようになっている。例えば、図30、図31、図33、図34、図35の例では、磁石部1250は第1板状部ユニット1242−8の第1板状部の背面に位置し、磁石部1270は第1板状部ユニット1262−8の第1板状部の背面に位置しているので、同じ糸を把持する。
また、第1板状部ユニット1262−1〜1262−9における各第1板状部1262aの正面視における上側と下側には、ガイド部材(第2ガイド部材)1272、1274が設けられ、ガイド部材1272、1274は、図32に示すように、上糸Jが第1板状部の背面側を対角状に通過するように配設され、ガイド部材1272は、第1板状部の上側の正面視左側に設けられ、ガイド部材1274は、第1板状部の下側の正面視右側に設けられている。これにより、第1板状部の背面側に存在する上糸Jの経路を長く確保することができ、上糸Jを第1板状部と第2板状部1264により確実に把持することができる。
また、回動部1280は、上流側把持部1240と下流側把持部1260の上下方向における中間位置に設けられていて、上流側把持部1240の上糸の供給方向の下流側で、かつ、下流側把持部1260の上糸の供給方向の上流側に設けられている。この回動部1280は、把持部本体1241と把持部本体1261間の上糸(上糸における把持部本体1241と把持部本体1261間の部分(位置)としてもよい)を回動させるものである。
回動部1280は、回動アーム1281と、回動アーム1281を回転させる上糸用モータ1286とを有している。回動アーム1281は、図31、図33、図34、図35に示すように、棒状の本体部1282と、本体部1282の一方の先端に設けられたフック部1284とを有している。本体部1282の他方の端部には、上糸用モータ1286の出力軸1286aが固定されている。具体的には、側面視において、上糸用モータ1286の出力軸1286aの中心軸が本体部1282の中心軸を通るように配設されている。このフック部1284は、円弧状(略円弧状としてもよい)の棒状を呈し、回動アーム1281が回動することにより、上糸Jをフック部1284により掛止することができるようになっている。つまり、フック部1284は、回動アーム1281が上糸用モータ1286の出力軸1286a(具体的には、出力軸1286aの軸線(回転中心))を中心に上向きに回動することにより、上糸用モータ1286の出力軸1286aの軸線と平行に設けられた上糸Jに接して上糸Jを掛止できるように構成されている。回動アーム1281は、磁石部1250と磁石部1270の間の位置に設けられ、左右方向において、磁石部1250、1270と同じ位置に設けられていて、選択された上糸を掛止できるようになっている。
また、上糸用モータ1286は、L字金具1360fに固定して設けられ、これにより、上糸用モータ1286は、アーム1312側に固定して設けられている。上糸用モータ1286が回転することにより、回動アーム1281が正面側斜め下方である退避位置(図34、図35の1281(B)の位置)から上方に回動し、プレート部1341の開口部1342bから正面側に突出する。上糸用モータ1286の出力軸1286aの方向(出力軸1286aの軸線の方向)は、左右方向(つまり、プレート部1341の背面側の面と平行で、かつ、水平方向)となっている。また、回動アーム1281が退避位置にある場合には、針棒ケース1314が左右方向にスライドしても回動アーム1281がプレート部1341及びプレート部1341に設けられた部材(例えば、上糸支持部材1288やガイド部材1346b等)に接触しないように構成されている。つまり、退避位置は、針棒ケース1314が左右方向にスライドしても回動アーム1281が針棒ケース1314(特に、プレート部1341及びプレート部1341に設けられた部材)に接触しない位置であり、少なくとも、回動アーム1281が、上糸支持部材1288に支持される上糸に接する位置よりも下方に回動した位置であるとともに、回動アーム1281の先端が開口部1342bに達しない位置である。
また、上糸支持部材1288は、プレート部1341の各開口部1342b内の両側に臨むように設けられている。すなわち、上糸支持部材1288は、線材を折返し状で、かつ、円弧状に形成したものであり、一対の上糸支持部材1288は、同一の構成となっている。
上糸支持部材1288は、基端部1288aと、基端部1288aの下端から連設された円弧状部材1288bと、円弧状部材1288bの基端部1288aとは反対側の端部から連設された接続部材1288cと、接続部材1288cの円弧状部材1288bとは反対側の端部から連設された円弧状部材1288dとを有し、上糸支持部材1288は、線材により一体に形成されている。
ここで、基端部1288aは、上下方向の直線状に形成され、基端部1288aの上端が、プレート部1341の背面側の面の開口部1342bの上側位置に取り付けられている。また、円弧状部材1288bは、上糸用モータ1286の回転中心と同心円状(略同心円状としてもよい)に形成され、開口部1342bに臨んで形成されている。円弧状部材1288bは、一部を除き開口部1342b内に設けられている。また、接続部材1288cは、略円弧状に形成されていて、正面側の端部は、プレート部1341の正面側の面よりも正面側に突出し、他の部分は開口部1342b内に設けられている。また、円弧状部材1288dは、円弧状部材1288bの上糸用モータ1286の出力軸の軸線(回転中心を通る軸線)側とは反対側に円弧状部材1288bと略平行に上糸用モータ1286の回転中心と同心円状(略同心円状としてもよい)に形成されていて、その上端は、正面側に湾曲している。円弧状部1288dは、プレート部1341の正面側の面よりも正面側に突出している。つまり、円弧状部材1288bと円弧状部材1288dとは、側面視において、上糸用モータ1286の回転中心と同心円状に形成され、1つの上糸支持部材1288において、円弧状部材1288bと円弧状部材1288dとは、上糸用モータ1286の出力軸の軸線(回転中心を通る軸線)と直角をなす面に沿って形成され、出力軸の軸線と直角方向に間隔を介して形成されている。また、1つの上糸支持部材1288において、円弧状部材1288bと円弧状部材1288dとは左右方向に同じ位置に形成されている。また、1つの上糸に対して設けられた一対の上糸支持部材1288は、左右方向に間隔を介して設けられている。また、接続部材1288cは、円弧状部材1288bの下端と円弧状部材1288dの下端とを接続している。
これにより、一対の上糸支持部材1288の上側から円弧状部材1288bと円弧状部材1288dの間の位置に上糸を挿入して、一対の接続部材1288c上に配置することにより、一対の接続部材1288c間に上糸Jを左右方向に配置することができ、回動アーム1281により上糸Jが引き上げられる際にも、上糸Jは、円弧状部材1288bと円弧状部材1288dの間にあることになる。つまり、上糸支持部材1288は、上糸を開口部1342bの位置(つまり、上下及び左右方向において開口部1342bの位置(具体的には、開口部1342bにおける下側の位置))で左右方向に支持しており、より具体的には、開口部1342bの正面側に(「開口部1342bの正面側の位置に」としてもよい)上糸を正面視で左右方向に支持している。なお、上糸支持部材1288が、上糸を開口部1342b内(つまり、前後方向でプレート部1341の正面側の面と背面側の面の間の位置)で左右方向に支持するようにしてもよい。
また、各開口部1342bの下方近傍位置には、上方から送られた(つまり、上流側把持部1240から送られた)上糸Jを上糸支持部材1288に導くための棒状のガイド部材(第1上糸経路反転部材)1290がプレート部1341の正面側に固定して設けられている。このガイド部材1290により、上方から導かれた上糸が反転して上糸支持部材1288に導かれる。
また、支持部1360は、アーム1312の上面部1312a上に取り付けられ、アーム1312上に取り付けられたL字金具1360aと、L字金具1360aに固定されたL字金具1360bと、L字金具1360bに固定された棒状板部1360cと、棒状板部1360cに固定されたL字金具1360dと、L字金具1360dに固定された板状部1360eと、板状部1360eの正面側の面に固定されたL字金具1360fとを有している。
ここで、板状部1360eは、プレート部1341と平行(略平行としてもよい)に設けられている。また、L字金具1360fにおける一方の板状部1360f−1は板状部1360eに固定され、板状部1360f−1から立設した他方の板状部1360f−2は、板状部1360eに対して直角に設けられている。これにより、板状部1360f−2は、プレート部1341に対して直角となっている。また、L字金具1360dにおける一方の板状部1360d−1は板状部1360eに固定され、板状部1360d−1から立設した他方の板状部1360d−2は、プレート部1341に対して直角に設けられている。
なお、支持部1360をアーム1312の構成要素の一部とし、上記アーム1312をアーム本体として、アームが、アーム本体と支持部1360とを有する構成としてもよい。
また、制御回路90は、主軸モータ20と、上糸用モータ1286と、磁石部1250と、磁石部1270の動作を制御する回路であり、記憶装置92に記憶されたデータに従い、各部の動作を制御する。つまり、制御回路90は、記憶装置92から読み出された刺繍データに従い主軸データ(図7参照)を作成し、作成した主軸データに従い主軸モータ20の動作を制御する。
また、制御回路90は、記憶装置92から読み出された刺繍データに従い上糸制御用トルクデータ(図9参照)を作成して、トルク制御区間においては、この上糸制御用トルクデータに基づき上糸用モータ1286をトルク制御する。また、制御回路90は、位置制御区間においては、図15に示すような角度対応データを作成してこの角度対応データに従い位置制御する。
また、制御回路90は、位置制御区間の終点からトルク制御区間の終点までの区間においては、上流側把持部1240を閉とし、下流側把持部1260を開とするように、磁石部1250、1270を制御し、一方、トルク制御区間の終点から位置制御区間の終点までの区間においては、上流側把持部1240を開とし、下流側把持部1260を閉とするように、磁石部1250、1270を制御する。
制御回路90は、実施例1、実施例2の場合と同様に、具体的には、図5に示すように、CPU90aと、PWM回路90bと、電流センサ90cとを有している。CPU90aとPWM回路90bと電流センサ90cの各部の構成は、実施例1、実施例2と同様であるので、詳しい説明を省略する。なお、実施例3においては、図5におけるソレノイド50の代わりに磁石部1250となり、ソレノイド70の代わりに磁石部1270となる。
また、主軸モータ20と制御回路90間には、主軸モータ20の角度(主軸モータ20の回転方向の位置)を検出するためのエンコーダ21が設けられ、上糸用モータ1286と制御回路90間には、上糸用モータ1286の角度(上糸用モータ1286の回転方向の位置)を検出するためのエンコーダ1287が設けられ、制御回路90において、各エンコーダからの情報により各モータの角度(回転方向の位置)が検出される。
また、釜12cは、ヘッド1207の下方でミシンテーブルの上面よりも下側の位置に設けられ、具体的には、ミシンテーブルの下側に設けられた釜土台(図示せず)に支持されている。
また、縫製枠12dは、加工布を張設保持するための部材であり、ミシンテーブルの上方(上面としてもよい)に設けられている。
また、主軸22は、主軸モータ20により回転され、その回転力が所定の動力伝達機構により伝達されて、天秤12a−1〜12a−9、針棒12b−1〜12b−9、布押さえの各機械要素や釜12cを駆動する。なお、主軸モータ20は、一方向に回転するように構成されている。なお、ヘッドを複数設けた多頭刺繍ミシンの場合には、例えば、各ヘッドに共通の主軸が設けられ、該主軸を回転させる主軸モータが設けられる。
枠駆動装置24は、制御回路からの指令に応じて縫製枠12dをX軸方向(X1−X2方向)及びY軸方向(Y1−Y2方向)に移動させるものであり、針棒12bの上下動に同期するようにして縫製枠12dを移動させる。この枠駆動装置24は、具体的には、X軸方向に縫製枠12dを移動させるためのサーボモータやY軸方向に縫製枠12dを移動させるためのサーボモータ等により構成される。
また、記憶装置92には、刺繍を行なうための刺繍データが記憶されている。この刺繍データは、例えば、ステッチ幅、ステッチ方向、糸種類(複数種類の糸のうちどの糸を使うか)、糸属性(糸材質や糸太さ)についてのデータが各ステッチごとに設けられたものである。
また、記憶装置92には、実施例1と同様に、図6に示すように、トルク制御区間の始点と終点についてのデータが主軸角度の情報として記憶され、また、位置制御区間の始点と終点についてのデータが主軸角度の情報として記憶されている。トルク制御区間と始点と終点、位置制御区間の始点と終点は、実施例1の場合と同様であるので詳しい説明を省略する。
なお、上糸Jの経路を説明すると、9つの糸はいずれも同様の経路であるので、正面視で右端の上糸を例に取ると、巻き糸(図示せず)から導かれた上糸Jは、上糸ガイド1300からガイド部材1252に接して上流側把持部1240の第1板状部ユニット1242−9の第1板状部と第2板状部1244間を通り、その後、ガイド部材1254に接し、その後、ガイド部材1290により反転して、上糸支持部材1288に至る。一対の上糸支持部材1288を通った上糸Jは、ガイド部材1272に接して下流側把持部1260の第1板状部ユニット1262−9の第1板状部と第2板状部1264間を通り、その後、ガイド部材1274に接する。上糸Jは、その他、上糸ガイド1302及び糸調子バネ1337を経て天秤12a−9に至り、天秤12a−9から上糸ガイド1338を経て、針棒12b−9の縫い針に至る。上糸は、以上の順に上流側から下流側に経由する。
次に、上記構成のミシン1205の動作について説明する。まず、上糸用モータ1286及び磁石部1250、1270の動作について説明する。
まず、制御回路90は、実施例2と同様に、記憶装置92に記憶されている刺繍データに従い、主軸データ(図7参照)を各ステッチごとに作成する。制御回路90による主軸データの作成方法は、実施例2と同様であるので、詳しい説明を省略する。
また、制御回路90は、実施例2と同様に、記憶装置92に記憶された刺繍データに従い、上糸用モータ1286のトルク制御に使用する上糸制御用トルクデータを各ステッチごとに作成する(図9参照)。上糸制御用トルクデータの作成方法は、実施例2と同様であるので、詳しい説明を省略する。
実際の刺繍縫いにおいては、実施例2における動作と同様であり、図10〜図13、図17のフローチャートに従い動作するが、実施例3においては、針棒が複数設けられ、複数の針棒の中から針棒が選択される(つまり、糸が選択される)ので、図10のフローチャートにおいて、主軸角度を検出し(S1)、1つのステッチの初頭に対応した主軸角度である場合(例えば、図18における0度)(つまり、次のステッチに移行する際)には、選択される上糸が変更される場合には、針棒ケース1314のスライド動作を制御する工程が、ステップS1とステップS2の間に設けられ、その工程においては、針棒ケース1314をスライドさせて、選択された糸の位置に磁石部1250、1270が配置されるとともに、回動部1280の回動アーム1281が選択された糸を掛止して引き上げることができるようにその上糸に対応した開口部1342bの位置に来るようにする。
なお、針棒ケース1314をアーム1312に対してスライド動作する際には、回動アーム1281を図34、図35の1281(B)に示す退避位置にまで下方に回動させて、回動アーム1281がプレート部1341及びプレート部1341に設けられた部材に接触しないようにする。
また、図10のステップS3のトルク制御サブルーチンにおいても、実施例1及び実施例2と同様に、図11に示すフローチャートに示すように動作する。
また、図10のステップS5の位置制御サブルーチンにおいても、実施例1と同様に、図12、図13に示すフローチャートに示すように動作する。
また、上流側把持部1240と下流側把持部1260の切換え制御についても、実施例1、実施例2と同様に、図17、図18に示すように、上糸用モータ1286についてのトルク制御区間の終点から位置制御区間の終点までは、上流側把持部1240の把持部本体1241を開とし、下流側把持部1260の把持部本体1261を閉とし、一方、位置制御区間の終点からトルク制御区間の終点までは、上流側把持部1240の把持部本体1241を閉とし、下流側把持部1260の把持部本体1261を開とする。なお、把持部本体1241、1261が閉になると、把持された上糸が固定され、把持部本体1241、1261が開になると、上糸の固定が解除される。
なお、磁石部1250を駆動することにより、第1板状部ユニット1242−1〜1242−9における磁石部1250の位置に対応した第1板状部ユニットの第1板状部が磁力により吸引されて、第1板状部1242aと第2板状部1244間の隙間が強く閉じた状態となって、把持部本体1241が閉となり、第1板状部1242aと第2板状部1244とで上糸Jを挟んで把持した閉状態となる。例えば、図31、図34、図35に示すように、磁石部1250が第1板状部ユニット1242−8の第1板状部1242aの背面側に位置している場合には、磁石部1250を駆動することにより第1板状部1242aと第2板状部1244間の隙間が強く閉じた状態となって、第1板状部1242aと第2板状部1244間の上糸が把持される。また、磁石部1250を駆動しない場合には、第1板状部1242aと第2板状部1244間の隙間が強く閉じた状態とはならない(つまり、第1板状部と第2板状部とが単に接している状態となっている)ため、把持部本体1241が開となり、上糸把持を解除した開状態となる。このように上流側駆動部としての磁石部1250は、把持部本体1241に対して上糸を把持した閉状態と上糸把持を解除した開状態とを切り換える。
同様に、磁石部1270を駆動することにより、第1板状部ユニット1262−1〜1262−9における磁石部1270の位置に対応した第1板状部ユニットの第1板状部が磁力により吸引されて、第1板状部1262aと第2板状部1264間の隙間が強く閉じた状態となって、把持部本体1261が閉となり、第1板状部1262aと第2板状部1264とで上糸Jを挟んで把持した閉状態となる。例えば、図31、図34、図35に示すように、磁石部1270が第1板状部ユニット1262−8の第1板状部1262a背面側に位置している場合には、磁石部1270を駆動することにより第1板状部1262aと第2板状部1264間の隙間が強く閉じた状態となって、第1板状部1262aと第2板状部1264間の上糸が把持される。また、磁石部1270を駆動しない場合には、第1板状部1262aと第2板状部1264間の隙間が強く閉じた状態とはならない(つまり、第1板状部と第2板状部とが単に接している状態となっている)ため、把持部本体1261が開となり、上糸把持を解除した開状態となる。このように下流側駆動部としての磁石部1270は、把持部本体1261に対して上糸を把持した閉状態と上糸把持を解除した開状態とを切り換える。
すなわち、上糸制御部1230の動作を説明すると、位置制御区間の終点の位置では、回動アーム1281が上死点の位置(初期位置)となっている。つまり、回動アーム1281のフック部1284が斜め上方にある位置(図34、図35の1281(A)に示す位置)となっている。この初期位置では、回動アーム1281の先端は、開口部1342bからプレート部1341の正面側に露出している。なお、選択される上糸が変更される場合には、回動アーム1281が退避されるので、回動アーム1281を退避位置にまで回動させる。その際、回動アーム1281は下方に回動される。
次に、トルク制御区間に入ると、把持部本体1241が閉、把持部本体1261が開の状態で、上糸用モータ1286がトルク制御されて、上糸用モータ1286により回動アーム1281に対して上方に回転力が付与されている。これにより、天秤12a−1等の上糸Jに対する引っぱり方向(引き上げ方向)に抗して回動アーム1281が上糸Jを引っぱっている状態で、天秤12a−1等が上方に回動して上糸Jを加工布に対して引き上げている。これにより、天秤12a−1等が上糸Jを引き上げる(つまり、天秤12aが上死点(他方の死点)に移行する)に伴い、回動アーム1281が天秤12a−1等の上糸Jの引っぱり方向(下方)に回動していく。
なお、実施例1、実施例2と同様に、上糸制御用トルクデータにおいて設定されるトルクの値は、天秤12a−1等が上糸Jを引き上げるに伴い回動アーム1281が天秤12a−1等の上糸Jの引っぱり方向(下方)に回動し、天秤12aによる上糸Jの引っぱりに支障がない程度の値に設定する。
次に、位置制御区間に入ると、把持部本体1241が開、把持部本体1261が閉の状態で、上糸用モータ1286が位置制御されて回動アーム1281が上糸Jを引き出す方向(上方)に回動する。図34、図35における1281(A)は位置制御区間の終点で上糸用モータ1286が初期位置に戻ることにより回動アーム1281が初期位置(原点位置としてもよい)にまで回動した状態を示している。
トルク制御に際して、トルクの値が大きい場合には、上糸Jを強く引くので、そのステッチは固く縫われることになり、トルクの値が小さい場合には、上糸Jを弱く引くので、そのステッチは柔らかく縫われることになる。
以上のように、各ステッチごとの制御区間において、天秤12a−1等が上糸により縫製する加工布に対して上糸を引っぱる区間である天秤12a−1の下死点から上死点までの区間における少なくとも一部を含む区間であるトルク制御区間においては、把持部本体1241を閉状態とし、把持部本体1261を開状態とした状態で、天秤12a−1等が上糸を引っぱる方向に対抗して上糸に張力を付与するようにトルク値に従い回動アーム1281に回転力を付与するトルク制御を行ない、一方、トルク制御区間以外の区間の少なくとも一部である位置制御区間においては、把持部本体1241を開状態とし、把持部本体1261を閉状態とした状態で、上糸用モータ1286の回転方向の位置である上糸用モータ1286の角度における初期位置に上糸用モータ1286の角度が戻るように上糸用モータ1286の角度の位置データに従い回動アーム1281に回転力を付与する位置制御を行なって上糸を上流から引き出す。
また、主軸モータ20の制御は、上記実施例1と同様であり、図21、図22に示すフローチャートに従い動作するが、実施例3においては、実施例2と同様に、針棒が複数設けられ、複数の針棒の中から針棒が選択される(つまり、糸が選択される)ので、図21のフローチャートのステップS51において、主軸データから主軸角度を読み出した際に、1つのステッチの初頭に対応した主軸角度である場合(例えば、図18における0度)には、選択される糸が変更される場合には、針棒ケース1314のスライド動作を制御する工程が、ステップS51とステップS52の間に行われ、その工程において、針棒ケース1314をスライドさせて、選択された糸の位置に磁石部1250、1270が配置されるとともに、回動部1280の回動アーム1281が選択された糸を掛止して引き上げることができるようにその糸に対応した開口部1342bの位置に来るようにする。
主軸モータ20の制御においては、針棒ケース1314のスライド動作の制御が設けられる点以外は、実施例1と同様であるので、詳しい説明を省略する。
以上のように、実施例3のミシンによれば、トルク制御区間において上糸に対してトルク制御を行なうので、上糸に対する張力の大きさを制御することができ、特に、上糸制御用トルクデータ(図9)により、トルク制御区間においてステッチごとにトルク制御を行なうので、ステッチごとに上糸への張力を制御することができ、ステッチごとに縫い目の固さを調整することができる。
また、多針ヘッドの場合に、異なる上糸よりステッチを形成した場合でも、上糸制御用トルクデータにおけるトルク値を同じにすることにより、上糸への張力を等しく制御することができる。また、多頭刺繍ミシンの場合に、トルク制御区間に使用する上糸制御用トルクデータについて、各ヘッドにおいて共通の上糸制御用トルクデータとすることにより、各ヘッドにおいて、上糸への張力を等しくすることができる。
また、従来のミシン(図47参照)における糸調子皿とロータリーテンションの代わりに、上糸制御部1230を設けることにより、上糸Jを引き出す位置制御区間においては、把持部本体1241が開となり、回動部1280の回動アーム1281よりも上流には、上糸ガイド1300が存在するのみで糸調子皿とロータリーテンションの摩擦抵抗が存在せず、また、把持部本体1261が閉となるので、天秤12aの動きが上糸を引き出す際の支障となることがなく、よって、上糸を円滑に巻き糸から引き出すことができ、糸切れのおそれを小さくすることができる。
また、図48に示す従来のミシンと比べて、糸調子皿95、ロータリーテンション94、上糸ガイド1300、1302が取り付けられた上糸調整部材取付部2340の代わりに、把持部本体1241、1261、上糸支持部材1288が取り付けられた上糸制御用取付部1340を針棒ケース本体1330に取り付け、さらに、アーム1312側に、支持部1360を介して、磁石部1250、1270と回動部1280を取り付け、制御回路90や記憶部92の構成を本実施例の構成とすることによりミシン1205を構成でき、ヘッドにおいて従来のミシンに比べて取り替える部材以外の構成、特に、アーム1312とその内部の構成や、針棒ケース本体1330とその内部の構成は、従来のミシンの構成を利用することができるので、製造コストを低減させることができる。
また、上糸の糸切れが発生した場合には、トルク制御区間において、回動アーム1281が下方に回動することがない、すなわち、回動アーム1281が上糸用モータ1286の回転力付与方向と反対方向である下方に引っぱられることがないので、回動アーム1281が下方に回動しないことを検出することにより糸切れを検出することができ、また、糸切れが発生していない場合には、トルク制御区間においては、回動アーム1281が下方に回動するので、正確に糸切れを検出することができる。
また、位置制御区間においては、位置制御区間において、上糸用モータ1286の現在位置(角度)を検出し、上糸用モータ1286の初期位置の角度にまで位置制御するための角度対応データを作成し、この角度対応データに従い、上糸用モータ1286の初期位置にまで位置制御により戻す制御を行なうので、トルク制御区間において、回動アーム1281が引き上げられることにより消費した量だけ上糸を引き出すことができるので、上糸を引き出すことにより蓄糸した量の過不足が生じない。
また、上流側把持部1240と下流側把持部1260と回動部1280を備えた構成を多針ヘッドに適用する場合に、上流側把持部1240の磁石部1250と、下流側把持部1260の磁石部1270と、回動部1280をそれぞれ1つ設けるのみで構成できるので、製造コストを抑えた効率的な構成とすることができる。
次に、実施例4のミシンについて説明する。実施例4のミシンは、実施例3のミシンと同様の構成であるが、磁石部1250、1270と回動部1280を支持する構成が異なる。
すなわち、実施例4のミシンを図37、図38により説明すると、上糸制御用取付部1340におけるプレート部1341の背面側の面には、摺動用部材1350が固定して設けられ、また、針棒ケース本体1330の上面には、摺動用部材1352が固定して設けられている。なお、図38は、上糸制御用取付部1340と上糸制御部1230のみを図32におけるP−P位置において破断した要部断面図である。また、図38は、上糸を省略して描いている。
すなわち、摺動用部材1350は、プレート部1341の背面側の面の上端領域に設けられ、L字状の板状部から構成されている。つまり、摺動用部材1350は、プレート部1341の背面側の面に対して直角をなし、左右方向に設けられた板状部1350aと、板状部1350aの背面側の端部から連設され、下方に向けて形成された板状部1350bとを有している。板状部1350aと板状部1350bは、ともに長方形状であり、板状部1350bは、プレート部1341と平行に設けられている。
また、摺動用部材1352は、針棒ケース本体1330の上面に固定され左右方向に設けられた板状部1352aと、板状部1352aの背面側の端部から斜め上方に形成された板状部1352bとを有している。板状部1352aと板状部1352bは、ともに長方形状であり、板状部1352bは、プレート部1341と平行に設けられている。板状部1352bとプレート部1341間の距離と板状部1350bとプレート部1341間の距離は同一に形成され、板状部1350bの背面側の面と板状部1352bの背面側の面とは同一平面上に配置される。板状部1350aと板状部1350bと板状部1352aと板状部1352bとは同じ厚みに形成されている。
板状部1350bの下端の辺部と板状部1352bの上端の辺部とは、支持部1370が左右方向に摺動するためのレール部として機能する。
なお、摺動用部材1352は、針棒ケース本体1330の上面に設けられているとしたが、これには限られず、プレート部1341の背面側の面に取り付ける構成としてもよい。また、摺動用部材1350と摺動用部材1352の両側面に摺動用部材1350と摺動用部材1352を接続する側面部を設けて、摺動用部材1350と摺動用部材1352とを一体に形成し、一体に形成した摺動用部材1350、1352を針棒ケース本体1330の上面に設けてもよい。
また、支持部(磁石部・モータ支持部材)1370は、磁石部1250、1270と回動部1280を支持する部材であり、板状部1372と、板状部1372の正面側の面に固定されたL字金具1374と、板状部1372の背面側の面に固定されたL字金具1376とを有している。
すなわち、板状部1372は、長方形状の板状を呈し、上下方向の長さL1は、板状部1350bの下端と板状部1352bの上端間の長さL2よりも長く形成されている。この板状部1372の背面側の面には、4つの角部の位置に車輪部1373が板状部1372に対して回転自在に取り付けられている。すなわち、車輪部1373は、間隔を介して設けられた一対の円板部1373aと、一対の円板部1373aの間に設けられた円筒状部1373bとを有し、該円筒状部1373bは、板状部1372に固定された軸部1373cに対して回転自在に形成されている。上側の2つの車輪部1373の一対の円板部1373a間には、板状部1350bの下端が位置し、板状部1350bの下端は、円筒状部1373bに接し、下側の2つの車輪部1373の一対の円板部1373a間には板状部1352bの上端が位置し、板状部1352bの上端は、円筒状部1373bに接している。これにより、板状部1372を左右方向にスライドさせることにより、車輪部1373が板状部1350b、1352bに沿って回転し、支持部1370は、左右方向に円滑に摺動する。板状部1372は、プレート部1341と平行となっている。
また、L字金具1374における一方の板状部1374−1は板状部1372に固定され、板状部1374−1から立設した他方の板状部1374−2は、板状部1374−1に対して直角に設けられている。これにより、板状部1374−2は、プレート部1341に対して直角となっている。また、L字金具1376における一方の板状部1376−1は板状部1372に固定され、板状部1376−1から立設した他方の板状部1376−2は板状部1376−1の下端から連設され、水平方向に設けられている。この板状部1376−2には、棒状板部1380cが係合する溝部1376−2aが形成されている。
また、アーム1312の上面部1312a上には、摺動規制部1380が設けられ、摺動規制部1380は、アーム1312上に取り付けられたL字金具1380aと、L字金具1380aに固定されたL字金具1380bと、L字金具1380bに固定された棒状板部1380cとを有している。図37に示すように、L字金具1380aにおける立設した板状部には、横方向に長穴1380a−1が設けられ、L字金具1380bに取り付けられたボルト1380b−1が長穴1380a−1に挿通され、ボルト1380b−1にナット1380b−2を螺着することにより、L字金具1380bがL字金具1380aに固着される。なお、長穴1380a−1にボルト1380b−1が挿通されるので、L字金具1380bのL字金具1380aへの取付け位置を左右方向に調整することができる。また、棒状板部1380cの正面側の端部は、L字金具1376の溝部1376−2aに係合している。以上のように、棒状板部1380cが板状部1376−2の溝部に係合した状態とすることにより、摺動規制部1380は、支持部1370の左右方向の摺動を規制して支持部1370の左右方向の位置決めを行い、棒状板部1380cが板状部1376−2の溝部に係合した状態とすることにより、磁石部1250、1270と回動部1280は、アーム1312側に固定して設けられることになる。
なお、摺動規制部1380をアーム1312の構成要素の一部とし、上記アーム1312をアーム本体として、アームが、アーム本体と摺動規制部1380とを有する構成としてもよい。
実施例4における上記構成以外の構成は実施例3と同様であるので、詳しい説明を省略する。
実施例4におけるミシンにおいては、支持部1370が摺動用部材1350、1352に対して摺動可能に形成されているので、支持部1370をプレート部1341の背面側に設置する際に、左右方向の位置を微調整することができ、上流側磁石部、下流側磁石部や回動アームの左右方向の位置を微調整することができる。すなわち、支持部1370を左右方向に摺動させて適切な位置に調整したら、棒状板部1380cをL字金具1376に係合させ、その後、ナット1380b−2を締めることによりL字金具1380bをL字金具1380aに固定させる。なお、ナット1380b−2をボルト1380b−1に対してゆるめた状態で、棒状板部1380cをL字金具1376に係合させ、L字金具1380bをL字金具1380aに対して左右方向に移動させることにより、支持部1370を摺動用部材1350、1352に対して摺動させて支持部1370の位置を調整し、その後、ナット1380b−2を締めるようにしてもよい。
なお、実施例4のミシンにおける動作は、実施例2、3と同様であるので、詳しい説明を省略する。
次に、実施例5のミシンについて説明する。実施例5のミシンは、実施例3のミシンと略同様の構成であるが、把持部本体1241、1261の構成が異なる。
すなわち、上流側把持部1240における把持部本体1241は、図39〜図41に示すように、第1板状部ユニット1400と、第2板状部1408とを有し、第1板状部ユニット1400は、各上糸ごとに設けられている。なお、図39は、上糸制御用取付部1340と上糸制御部1230のみを破断した要部断面図である。また、図39は、上糸を省略して描いている。
ここで、第1板状部ユニット1400は、プレート部1341の正面側の面の開口部1342aの位置に取り付けられた支持部材(上流側第1板状部支持部材)1401と、支持部材1401の軸部1401cが挿通されたコイル状バネ(上流側コイル状バネ)1402と、軸部1401cが挿通され、軸部1401cにおけるコイル状バネ1402よりも背面側に設けられた第1板状部(上流側第1板状部)1404と、軸部1401cの先端に固定された保護用板状部(上流側保護用板状部)1406とを有している。
支持部材1401は、方形状(長方形状)の板状部1401aと、板状部1401aの4つの角部から背面側に突出した円柱状部1401bと、板状部1401aの背面側の中央領域から背面側に突出した軸部(第1軸部)1401cとを有している。なお、上側の2つの円柱状部1401bは、プレート部1341における開口部1342aの上側に固定され、下側の2つの円柱状部1401bは、プレート部1341における開口部1342aの下側に固定されている。また、円柱状部1401bと軸部1401cの長さは、保護用板状部1406の背面側の面が、第2板状部1408の正面側の面に接するように設定されている。
コイル状バネ1402は、軸部1401cをコイル状バネ1402に挿通することにより軸部1401cに取り付けられており、第1板状部1404を保護用板状部1406側に付勢する。コイル状バネ1402の付勢力は、磁石部1250により第1板状部1404が吸引されない状態で、第1板状部1404の背面側の面が保護用板状部1406の正面側の面に重なるとともに、保護用板状部1406の背面側の面が第2板状部1408の正面側の面に重なるが、第1板状部1404と保護用板状部1406とで上糸が固定されない程度の力である。
第1板状部1404は、円形の板状を呈し、その中央には、軸部1401cを挿通するための穴部1404aが設けられている。第1板状部1404は、軸部1401cを穴部1404aに挿通することにより、軸部1401cに取り付けられている。これにより、第1板状部1404は、支持部材1401を介してプレート部1341側にぶら下がった状態となっている。これにより、第1板状部1404は、第2板状部1408の正面側の面に対して垂直方向に摺動し、保護用板状部1406及び第2板状部1408との間隔が可変するようになっている。穴部1404aの直径は、コイル状バネ1402の直径よりも小さく形成され、コイル状バネ1402が穴部1404aから背面側に外れないようになっている。この第1板状部1404は、鉄等の磁石が吸引する金属により形成されている。
また、保護用板状部1406は、第2板状部1408が上糸により摩耗するのを防止するための部材であり、円形板状を呈し、軸部1401cの先端に固定されている。この保護用板状部1406は、磁石が吸引しない材料(磁石が付かない材料)、つまり、非磁性体により形成され、金属製の非磁性体(例えば、ステンレスやアルミニウム)とするのが好ましい。
また、第2板状部1408は、断面略コ字状の板状に形成され、合成樹脂製のフィルムにより形成されている。第2板状部1408は、開口部1342aの上側の辺部と下側の辺部の正面側に沿って形成された切欠部に嵌合されている。つまり、第2板状部1408は、細長長方形状の板状を呈する第2板状部本体部Pt−1と、第2板状部本体部Pt−1の一方の長手辺である上辺から背面側に連設された細長長方形状の板状を呈する突出部Pt−2と、第2板状部本体部Pt−1の他方の長手辺である下辺から背面側に連設された細長長方形状の板状を呈する突出部Pt−3とを有し、第2板状部本体部Pt−1が、第1板状部1404とともに上糸を把持する構成となっている。
なお、上糸Jは、第1板状部1404と保護用板状部1406の間の位置に配置され、図41に示すように、軸部1401cやコイル状バネ1402に接触しないように、板状部1401aの対角状(板状部1401aの正面視左上から右下方向)に配置されることになる。
把持部本体1241を上記のように構成することにより、第1板状部1404と保護用板状部1406は、コイル状バネ1402により第2板状部1408側に付勢され、磁石部1250により第1板状部1404が吸引されない場合でも、第1板状部1404が保護用板状部1406に接し、保護用板状部1406が第2板状部1408に接しているので、把持部本体1241の開閉を繰り返すことによる振動音やヘッドの振動による振動音を防止することができる。つまり、上記実施例2〜4の場合には、第1板状部が単にぶら下がった状態なので、第1板状部が磁石部により吸引された際に第1板状部が第2板状部に接触する音が発生し、把持部本体の開閉を繰り返すことにより第1板状部が第2板状部に繰り返し接触して振動音が発生し、また、ヘッドの振動により第1板状部が第2板状部に接触する音が発生するが、本実施例の場合には、そのような振動音を防止することができる。すなわち、実際の刺繍縫いにおいて、選択された針棒に対応する第1板状部ユニット1400のみならず、選択されていない針棒に対応する第1板状部ユニット1400においても、第1板状部1404と保護用板状部1406は、コイル状バネ1402により第2板状部1408側に付勢されているので、把持部本体1241の開閉を繰り返すことによる振動音やヘッドの振動による振動音を防止する。また、第2板状部1408と上糸との間に保護用板状部1406が設けられるので、上糸が第2板状部1408に接することによる第2板状部1408の摩耗を防止することができる。つまり、上記実施例2〜4の場合には、上糸が第2板状部に接した状態となっているので、第2板状部を合成樹脂製のフィルムにより構成した場合には、上糸が経路上を移動することにより、上糸との摩擦により第2板状部が摩耗するおそれがあるが、保護用板状部1406を設けることにより、第2板状部1408の摩耗を防止することができる。また、保護用板状部1406を金属製とすることにより、保護用板状部1406自体の摩耗を防止することができる。
また、下流側把持部1260における把持部本体1261は、把持部本体1241と同様の構成であり、図39〜図41に示すように、第1板状部ユニット1410と、第2板状部1418とを有し、第1板状部ユニット1410は、各上糸ごとに設けられている。
ここで、第1板状部ユニット1410は、プレート部1341の正面側の面の開口部1342cの位置に取り付けられた(下流側第1板状部支持部材)支持部材1411と、支持部材1411の軸部1411cに挿通されたコイル状バネ(下流側コイル状バネ)1412と、軸部1411cに挿通され、軸部1411cにおけるコイル状バネ1412よりも背面側に設けられた第1板状部(下流側第1板状部)1414と、軸部1411の先端に固定された保護用板状部(下流側保護用板状部)1416とを有している。
支持部材1411は、支持部材1401と同一の構成であり、板状部1411aと、円柱状部1411bと、軸部(第2軸部)1411cとを有している。板状部1411aは、板状部1401aと同一の構成であり、円柱状部1411bは、円柱状部1401bと同一の構成であり、軸部1411cは、軸部1401cと同一の構成であるので、詳しい説明を省略する。なお、上側の2つの円柱状部1411bは、プレート部1341における開口部1342cの上側に固定され、下側の2つの円柱状部1411bは、プレート部1341における開口部1342cの下側に固定されている。
また、コイル状バネ1412は、コイル状バネ1402と同一の構成であり、保護用板状部1416は、保護用板状部1406と同一の構成であるので、詳しい説明を省略する。
また、第1板状部1414は、第1板状部1404と同一の構成であり、第2板状部1418は、第2板状部1408と同一の構成であるので、詳しい説明を省略する。第1板状部1414には、軸部1411cが挿通するための穴部1414aが形成されている。
把持部本体1261を上記のように構成することにより、把持部本体1241と同様に、第1板状部1414と保護用板状部1416は、コイル状バネ1412により第2板状部1418側に付勢されているので、把持部本体1261の開閉を繰り返すことによる振動音を防止することができる。
また、把持部本体1241と同様に、第2板状部1418と上糸との間に保護用板状部1416が設けられるので、上糸が第2板状部1418に接することによる第2板状部1418の摩耗を防止することができる。
なお、実施例5における上記構成以外の構成は実施例3と同様であるので、詳しい説明を省略する。また、上記の説明では、実施例3のミシンにおいて、把持部本体1241、1261の構成を実施例5の構成とするとして説明したが、実施例4のミシンにおいて、把持部本体1241、1261の構成を実施例5の構成としてもよい。
次に、実施例6のミシンについて説明する。実施例6のミシンは、実施例3のミシンと略同様の構成であるが、把持部本体1241、1261の構成が異なり、さらに、支持部1360における板状部1360eに、摺動部材1421、1431を正面側に押すための突出部材1362、1364が設けられている点が異なる。
すなわち、上流側把持部1240における把持部本体1241は、図42〜図45に示すように、第1板状部ユニット1420と、第2板状部1426とを有し、第1板状部ユニット1420は、各上糸ごとに設けられている。なお、図42は、上糸制御用取付部1340と上糸制御部1230のみを破断した要部断面図である。また、図42は、上糸を省略して描いている。
ここで、第1板状部ユニット1420は、摺動部材(上流側摺動部材)1421と、摺動部材1421が挿通された第1板状部1422と、摺動部材1421が挿通され、摺動部材1421における第1板状部1422よりも背面側に設けられたコイル状バネ(上流側付勢部材)1424とを有している。
摺動部材1421は、摺動部材本体1421aと、摺動部材1421の背面側の端部に固定された抜止め部1421bとを有し、摺動部材本体1421aは、直線状の棒状の軸部1421a−1と軸部1421a−1の正面側の端部に設けられた抜止め部1421a−2とを有し、摺動部材本体1421aは、全体に一体に形成されている。なお、抜止め部1421bと抜止め部1421a−2とは、ともに、円形の板状を呈し、それらの直径は略同一に形成されている。プレート部1341の開口部1342aの上側には、軸部1421a−1を挿通するための円形の穴部1342fが各針棒ごとに形成されていて、摺動部材1421は、この穴部1342fに摺動部材1421の軸線方向(つまり、ヘッドの前後方向)に摺動可能に支持されている。
また、第1板状部(上流側第1板状部)1422は、方形状の板状を呈し、その上側には、軸部1421a−1を挿通するための穴部1422aが形成され、この穴部1422aの直径は、抜止め部1421b、1421a−2の直径よりも小さく形成されている。この第1板状部1422は、鉄等の磁石が吸引する金属により形成されている。第1板状部1422は、軸部1421a−1を穴部1422aに挿通することにより、軸部1421a−1に取り付けられている。これにより、第1板状部1422は、摺動部材1421を介してプレート部1341側にぶら下がった状態となっていて、軸部1421a−1の軸線方向に沿って前後方向に摺動可能に形成されている。これにより、第1板状部1422は、第2板状部1426の正面側の面に対して垂直方向に摺動するようになっていて、第2板状部1426との間隔が可変するようになっている。
コイル状バネ1424は、軸部1421a−1をコイル状バネ1424に挿通することにより軸部1421a−1に取り付けられており、抜止め部1421bを背面側に付勢しており、これにより、突出部材1362により抜止め部1421bが正面側に押されていない場合には、第1板状部1422が第2板状部1426に接する状態となる。コイル状バネ1424の付勢力は、突出部材1362により摺動部材1421が押されていない状態(図44(a)の状態)では、第1板状部1422の背面側の面が第2板状部1426の正面側の面に接して重なる程度の力である。つまり、図44(a)の状態では、第1板状部1422は、第2板状部1426側に押されているので、第1板状部1422は、前後方向に摺動することはできない。
また、第2板状部1426は、実施例5における第2板状部1408と同様の構成であり、断面略コ字状の板状に形成され、合成樹脂製のフィルムにより形成されている。第2板状部1426は、開口部1342aの上側の辺部と下側の辺部の正面側に沿って形成された切欠部に嵌合されている。
また、突出部材(上流側押し操作部材)1362は、支持部1360における板状部1360eの正面側の面から板状部1360eの面に対して垂直に立設して固定され、左右方向には、磁石部1250の左右方向の中心位置に設けられている。突出部材1362は、略軸状を呈し、先端の径が大きく形成されている。つまり、突出部材1362は、軸部1362aと、軸部の先端に設けられ、軸部の直径よりも大きい直径(最大直径)を有する頭部1362bとを有していて、頭部1362bの正面側は、摺動部材1421を正面側に押しやすいように、略半球状に形成されている。つまり、頭部1362bの正面側である先端は、球面状を呈している。突出部材1362の軸線方向の長さha−1は、突出部材1362により摺動部材1421を押していない状態における摺動部材1421と板状部1360e間の長さha−2よりも長く形成され、選択された針棒に対応する第1板状部1422の背面側の位置に磁石部1250が来ると、この突出部材1362が、摺動部材1421の抜止め部1421bを正面側に押して、第1板状部1422が前後方向に摺動可能となる。
実施例6における上記の構成においては、選択された針棒以外の針棒に対応する第1板状部1422については、図44(a)に示すように、第1板状部1422の背面側に磁石部1250は存在せず、突出部材1362によって摺動部材1421が押されないので、第1板状部1422は、第2板状部1426側に押され、第1板状部1422は、前後方向に摺動することはできない。
一方、選択された針棒に対応する第1板状部1422(つまり、吸引対象の上流側第1板状部)については、図44(b)に示すように、第1板状部1422の背面側に磁石部1250が存在するとともに、突出部材1362が、摺動部材1421の抜止め部1421bを正面側に押して、第1板状部1422が前後方向に摺動可能となるので、磁石部1250により第1板状部1422を吸引することにより、第1板状部1422と第2板状部1426により上糸が把持されて、上糸が固定される。また、磁石部1250が第1板状部1422を吸引しない場合には、第1板状部1422は摺動部材1421により背面側に押されていないので、上糸の把持が解除される。
以上の構成とすることにより、選択された針棒以外の針棒に対応する第1板状部1422については、第1板状部1422は、第2板状部1426側に押されているので、第1板状部1422が第2板状部1426に接することによる音は発生せず、ヘッドの振動によっても振動音は発生しない。また、選択された針棒に対応する第1板状部1422については、第1板状部1422は摺動部材1421により背面側に押されていないので、上糸の把持の解除を十分行なうことができる。
つまり、上記実施例5の場合には、常に第1板状部1404(1414)が保護用板状部1406(1416)に付勢されているので、磁石部により第1板状部を吸引しない場合でも上糸の把持の解除が十分とはならないおそれがあるが、本実施例においては、磁石部により第1板状部を吸引しない場合には、上糸の解除を十分行なうことができる。
また、下流側把持部1260における把持部本体1261は、図42〜図45に示すように、第1板状部ユニット1430と、第2板状部1436とを有し、第1板状部ユニット1430は、各上糸ごとに設けられている。
ここで、第1板状部ユニット1430は、第1板状部ユニット1420と同様の構成であり、摺動部材(下流側摺動部材)1431と、摺動部材1431に挿通された第1板状部1432と、摺動部材1431が挿通され、摺動部材1431における第1板状部1432よりも背面側に設けられたコイル状バネ(下流側付勢部材)1434とを有している。
摺動部材1431は、摺動部材1421と同様の構成であり、摺動部材本体1431aと、摺動部材1431の背面側の端部に固定された抜止め部1431bとを有し、摺動部材本体1431aは、直線状の棒状の軸部1431a−1と軸部1431a−1の正面側の端部に設けられた抜止め部1431a−2とを有し、摺動部材本体1431aは、全体に一体に形成されている。プレート部1341の開口部1342cの上側には、軸部1431a−1を挿通するための円形の穴部1342gが各針棒ごとに形成されていて、摺動部材1431は、この穴部1342gに摺動可能に支持されている。
第1板状部(下流側第1板状部)1432は、板状部1422と同様の構成であり、軸部1431a−1を挿通するための穴部1432aが形成されている。
コイル状バネ1434は、コイル状バネ1424と同様に構成され、第2板状部1436は、実施例5における第2板状部1418と同様の構成である。
また、突出部材(下流側押し操作部材)1364は、支持部1360における板状部1360eの正面側の面から板状部1360eの面に対して垂直に立設して固定され、左右方向には、磁石部1270の左右方向の中心位置に設けられている。突出部材1364は、突出部材1362と同様の構成であり、選択された針棒に対応する第1板状部1432(つまり、吸引対象の下流側第1板状部)の背面側の位置に磁石部1270が来ると、この突出部材1364が、摺動部材1431の抜止め部1431bを正面側に押して、第1板状部1432が前後方向に摺動可能となる。
以上の構成とすることにより、把持部本体1241と同様に、選択された針棒以外の針棒に対応する第1板状部1432については、第1板状部1432は、第2板状部1436側に押されているので、第1板状部1432が第2板状部1436に接することによる音は発生せず、ヘッドの振動によっても振動音は発生しない。また、選択された針棒に対応する第1板状部1432については、第1板状部1432は摺動部材1431により背面側に押されていないので、上糸の把持の解除を十分行なうことができる。
なお、実施例6における上記構成以外の構成は実施例3と同様であるので、詳しい説明を省略する。また、上記の説明では、実施例3のミシンにおいて、把持部本体1241、1261の構成を実施例6の構成とし、さらに、摺動部材1421、1431を設けるとして説明したが、実施例4のミシンにおいて、把持部本体1241、1261の構成を実施例6の構成とし、さらに、摺動部材1421、1431を設けるものとしてもよい。
また、上記実施例2〜6において、針棒ケース本体1330を「針棒ケース」と名付けてもよい。
なお、図面において、Y1−Y2方向は、X1−X2方向に直角な方向であり、Z1−Z2方向は、X1−X2方向及びY1−Y2方向に直角な方向である。