本発明においては、低コストで、上糸の使用量と下糸の使用量のバランスを所望のバランスとすることができるミシンを提供し、特に、下糸用のボビンケースで、糸調子バネを取り付けたボビンケースを用いた従来の構成を用いた場合でも、上糸の使用量と下糸の使用量のバランスを所望のバランスとすることができるミシンを提供するという目的を以下のようにして実現した。
本発明に基づくミシン1は、刺繍用ミシンであり、図1~図24、図32、図42、図43に示すように構成され、ミシンテーブル(図示せず)と、ヘッド(刺繍ヘッド)3と、縫製枠12dと、主軸モータ20と、主軸22と、枠駆動装置24と、制御回路90と、記憶装置92と、入出力装置94と、操作部96と、釜100と、を有している。このミシン1は、多針用のミシンであり、具体的には、9種類の上糸に対応可能な9針の刺繍用ミシンである。
ミシン1において、ヘッド3と、釜100とが、ミシンユニット2を構成し、ミシンユニット2は複数設けられ、複数のミシンユニット2に対して、共通の縫製枠12dと、主軸モータ20と、主軸22と、枠駆動装置24と、制御回路(制御部)90と、記憶装置(記憶部)92と、入出力装置(入出力部、入力部)94と、操作部96とが設けられている。
なお、図5、図6は、上糸制御用取付部1340と上糸制御部1230のみを図4におけるP-P位置において破断した部分断面左側面図であり、図7は、上糸制御用取付部1340と上糸制御部1230のみを図4におけるQ-Q位置において破断した部分断面左側面図である。また、図5~図7では、上糸を省略して描いている。
ここで、ミシンテーブルは、略平板状を呈し、板状のテーブル本体と、テーブル本体に形成された開口部に設けられた針板5(図37参照)とを有している。
また、ヘッド3は、略平板状のミシンテーブルの上方に設けられている。つまり、ミシンテーブルの上面からはフレーム(図示せず)と同様の構成のフレーム)が立設して設けられ、このフレームの正面側にヘッド3が設けられている。このヘッド3は、ミシン1において複数設けられている。
ヘッド3は、図1~図8に示すように構成され、機械要素群10と、上糸制御部1230と、ケース部1310とを有している。
ここで、ケース部1310は、ミシン1(具体的には、ヘッド3)の筐体を構成し、フレームに固定されたアーム(アーム部としてもよい)1312と、アーム1312の正面側(Y1側)に設けられアーム1312に対して左右方向にスライドする針棒ケース1314とを有している。
アーム1312は、前後方向に伸びた略ケース状に形成され、ミシン1(具体的には、ヘッド3)の筐体を構成している。アーム1312は、方形状の上面部1312aと、上面部1312aの左右両側の端部から下方に連設され、正面側の上端に四角形状の切欠部が形成された側面部1312b、1312cと、側面部1312b、1312cの上端を除く正面側の端部から連設された正面部1312dと、側面部1312b、1312cの上端領域の正面側の端部から連設された正面部1312eと、正面部1312eの下端と正面部1312dの上端の間に形成された上面部1312fとに囲まれた形状を呈している。アーム1312の背面側の端部は、上記フレームに接続されている。
このアーム1312の正面側には、針棒ケース本体1330の背面側に設けられたレール部1334が摺動自在に嵌合するレール支持部1312gが設けられている。
また、上面部1312fには、略逆T字状のレール1312hが設けられ、針棒ケース本体1330には、レール1312hに対して摺動する摺動部材1314hが設けられている。
アーム1312内には、主軸22の回転力を各機械要素に伝達するためのカム機構又はベルト機構等の動力伝達手段が設けられている。
また、アーム1312の上面には、針棒ケース1314を摺動させるためのモータ1313bと、クラッチ収納部1313aが設けられ、クラッチ収納部1313aには、モータ1313bにより回転されるクラッチ1313a-1が設けられている。このクラッチ1313a-1は螺旋状の溝を有し、このクラッチ1313a-1の螺旋状の溝が針棒ケース本体1330の背面側に設けられた円柱状のクラッチ係合部1339bと係合していて、クラッチ1313a-1が回転することにより針棒ケース1314が左右方向にスライドするようになっている。
また、針棒ケース1314は、アーム1312に対して左右方向にスライド可能な略ケース状に形成され、針棒ケース本体(針棒収納ケース)1330と、上糸制御用取付部1340とを有している。
針棒ケース本体1330は、図2、図3、図5、図6、図7に示すように構成され、筐体部1332と、筐体部1332の背面側に左右方向に形成されたレール部1334と、筐体部1332の正面側に設けられた支持部1335、ガイド部材1336、糸調子バネ(通称、ピンピンバネ)1337及び上糸ガイド1338とを有している。
筐体部1332は、側面視において縦長に形成されたケース状を呈し、側面視縦長で上端領域の背面と正面側に突出した側面部1332aと、側面部1332aと対称に形成された側面部1332bと、側面部1332aの下側領域と側面部1332bの下側領域間に設けられた方形状の正面部1332cと、側面部1332aの上端と側面部1332bの上端間に左右方向に水平に設けられた上面部1332dと、正面部1332cと上面部1332d間に設けられ、正面部1332cよりも正面側に突出するように形成された突出部1332eとを有し、突出部1332eは、複数の突出部1332eが、間隔を介して複数設けられ、隣接する突出部1332e間には、天秤12a-1~12a-9が正面側に突出するための開口部(図示せず)が設けられている。
レール部1334は、筐体部1332の背面側に設けられ、断面四角棒状を呈し、左右方向に形成されている。このレール部1334は、アーム1312側に取り付けられたレール支持部1312gに左右方向に摺動可能に指示され、このレール支持部1312gとレール部1334とでリニアウエイを構成する。
また、針棒ケース本体1330の筐体部1332の背面側の上端には、左右方向に設けられた棒状部1339aを介して、複数の円柱状のクラッチ係合部1339bが間隔を介して左右方向に設けられ、モータ1313bが回転することにより、クラッチ1313a-1が回転して、針棒ケース1314が左右方向にスライドする。
また、支持部1335は、筐体部1332の正面部1332cの正面側の上側領域に取り付けられ、左右方向に水平(略水平としてもよい)に設けられている。ガイド部材1336は、この支持部1335に各天秤ごとに間隔を介して設けられ、略L字状の板状を呈している。また、糸調子バネ1337は、各天秤ごとに間隔を介して設けられ、支持部1335に取り付けられ、ガイド部材1336の下方に設けられている。なお、糸調子バネ1337は、上方から送られた(つまり、下流側把持部1260から送られた)上糸Jを上糸Jの撓みや弛みを防止して天秤に導くために設けられている。この糸調子バネ1337により、上方から導かれた上糸Jが反転して天秤に導かれるとともに、上糸Jに張力が加えられる。また、上糸ガイド1338は、正面部1332cの正面側の下端に左右方向に設けられている。
また、上糸制御用取付部1340は、針棒ケース本体1330(特に、筐体部1332)の上面に取り付けられ、板状のプレート部1341と、プレート部1341の立設状態を支持するプレート部支持部1344と、プレート部1341に取り付けられたガイド部材1252、1254、1272、1274、1290と、上糸ガイド1300、1302、ガイド板1346a、1346b、台部1347a、1347b、押え板1348a、1348bとを有している。
ここで、プレート部1341は、方形状(略方形状としてもよい)の板状を呈し、磁石部1250が臨むための開口部(第2開口部)1342aと、回動アーム1281が臨み、一対の上糸支持部材1288を取り付けるための複数(図の例では、9個)の開口部(第1開口部)1342bと、磁石部1270が臨むための開口部(第3開口部)1342cとが形成されている。プレート部1341は左右方向に形成され、プレート部1341の上辺と下辺とは左右方向を向いている。
開口部1342aは、開口部1342bの上側に横長の長方形状に形成され、開口部1342aの上下幅は、磁石部1250の先端部分よりも大きく形成され、磁石部1250の先端部分が開口部1342aに挿通することができるように形成されている。同様に、開口部1342cは、開口部1342bの下側に横長の長方形状に形成され、開口部1342cの上下幅は、磁石部1270の先端部分よりも大きく形成され、磁石部1270の先端部分が開口部1342cに挿通することができるように形成されている。
開口部1342bは、各針棒に対応して設けられ、把持部本体1241における第1板状部ユニットと該第1板状部ユニットに対応する把持部本体1261における第1板状部ユニットの間の位置(つまり、第1板状部1242aと第1板状部1242aに対応する第1板状部1262aの間の位置)に形成されている。つまり、開口部1342bは、縦長の長方形状を呈し、図の例では、計9つ設けられ、開口部1342bは、間隔を介して(具体的には等間隔に)左右方向に並んで配設されている。開口部1342bは、回動アーム1281の先端がプレート部1341の正面側(Y1側)(正面側は、アーム1312側とは反対側となる)に突出して露出可能となるように形成されている。
プレート部支持部1344は、プレート部1341の背面側の左右両端にそれぞれ設けられ、略コ字状のフレーム状を呈している。各プレート部支持部1344は、筐体部1332の上面に取り付けられ、プレート部1341は、筐体部1332の正面側に取り付けられて、筐体部1332に支持されている。プレート部1341は、その正面側の面が、斜め上方を向くように取り付けられている。
また、ガイド部材1252、1254、1272、1274、1290は、プレート部1341の正面側の面にプレート部1341の正面側の面に対して垂直に立設して取り付けられている。ガイド部材1252とガイド部材1254は、第1板状部ユニット1242-1~1242-9における各第1板状部ユニットごとに設けられ、ガイド部材1252は、開口部1342aの上側の辺部に沿って間隔を介して設けられ、ガイド部材1254は、開口部1342aの下側の辺部に沿って間隔を介して設けられている。ガイド部材1272とガイド部材1274とガイド部材1290は、第1板状部ユニット1262-1~1262-9における各第1板状部ユニットごとに設けられ、ガイド部材1272は、開口部1342cの上側の辺部に沿って間隔を介して設けられ、ガイド部材1274は、開口部1342cの下側の辺部に沿って間隔を介して設けられ、ガイド部材(第1上糸経路反転部材)1290は、開口部1342cの上側の辺部に沿って間隔を介して設けられ、ガイド部材1272とも間隔を介して設けられている。
ガイド部材1252、1254、1272、1274、1290は、略円柱状を呈している。
また、上糸ガイド1300は、プレート部1341の正面側の面の上側領域(ガイド部材1252よりも上側の領域)に取り付けられ、各上糸を挿通可能にガイドしている。図の例では、5つの上糸ガイド1300が設けられている。
また、上糸ガイド1302は、プレート部1341の正面側の面の下端領域(ガイド部材1274よりも下側の領域)に取り付けられ、各上糸を挿通可能にガイドしている。図の例では、5つの上糸ガイド1302が設けられている。
また、ガイド板1346aは、細長長方形状の板状を呈し、プレート部1341の背面側の面における開口部1342aの上辺の背面側の位置に左右方向に設けられている。このガイド板1346aは、第1板状部ユニット1242-1~1242-9の掛止部1242bの背面側に位置され、第1板状部ユニット1242-1~1242-9がプレート部1341から脱落するのを防止している。また、台部1347aは、プレート部1341の背面の左右両端で、ガイド板1346aとプレート部1341の背面との間に設けられ、ガイド板1346aとプレート部1341間に隙間を形成して、第1板状部ユニット1242-1~1242-9が前後方向に摺動するのに支障がないようにしている。
また、ガイド板1346bは、細長長方形状の板状を呈し、プレート部1341の背面側の面における開口部1342cの上辺の背面側の位置に左右方向に設けられている。このガイド板1346bは、第1板状部ユニット1262-1~1262-9の掛止部1262bの背面側に位置され、第1板状部ユニット1262-1~1262-9がプレート部1341から脱落するのを防止している。また、台部1347bは、プレート部1341の背面の左右両端で、ガイド板1346bとプレート部1341の背面との間に設けられ、ガイド板1346bとプレート部1341間に隙間を形成して、第1板状部ユニット1262-1~1262-9が前後方向に摺動するのに支障がないようにしている。
また、押え板1348aは、プレート部1341の正面における開口部1342aの両側にそれぞれ設けられ、第2板状部1244の左右両側の端部をプレート部1341との間で挟設している。また、押え板1348bは、プレート部1341の正面における開口部1342cの両側にそれぞれ設けられ、第2板状部1264の左右両側の端部をプレート部1341との間で挟設している。
次に、機械要素群10は、ヘッド3において駆動される各機械要素であり、機械要素としては、複数の天秤と針棒と布押さえが設けられているが、本実施例においては、9つの天秤12a-1~12a-9と9つの針棒12b-1~12b-9と、9つの布押さえ12cが設けられている。天秤12a-1~12a-9や、針棒12b-1~12b-9や、釜100は、従来におけるミシンと同様に、主軸22の回転力をカム機構又はベルト機構等の動力伝達手段を介して伝達することにより駆動する。なお、天秤と針棒と布押さえの数は、9つ以外の数(例えば、12)であってもよい。
天秤12a-1~12a-9は、ケース部1310の針棒ケース本体1330の筐体部1332に設けられ、左右方向(X1-X2方向)の軸線(回転中心)を中心に揺動可能に形成され、下死点(一方の死点)と上死点(他方の死点)間を回動する。つまり、天秤12a-1~12a-9は、回転中心(揺動中心としてもよい)12ab(図1参照)を中心に揺動するように、針棒ケース本体1330に軸支されている。天秤12a-1~12a-9には、縫い針に挿通される上糸が挿通される。なお、針棒ケース1314がアーム1312に対して左右方向にスライドすることにより、選択された特定の天秤のみに動力が伝達されて揺動する。つまり、天秤12a-1~12a-9の基端部12az(図3参照)にアーム1312側の係合部材1313zが係合して、係合部材1313zが回動中心を中心に回動することにより、天秤が揺動する。なお、天秤12a-1~12a-9の先端は、筐体部1332の正面側に設けられた複数の突出部1332eのうち隣接する突出部1332e間に設けられた開口部から正面側(Y1側)に突出して露出している。
また、針棒12b-1~12b-9は、筐体部1332に上下動可能に設けられ、各針棒には、下端に縫い針12ba(縫い針12baには、針穴12bbが設けられている)が固定して設けられ、上端には、針棒抱き14aが固定して設けられている。また、この針棒抱き14aには、針棒駆動部材14bが係合する。この針棒駆動部材には、上下方向に設けられた基針棒14cが挿通されて、針棒駆動部材14bは、基針棒14cに沿って上下動可能に形成されている。そして、主軸22の回転力が動力伝達手段により伝達されて、針棒駆動部材14bが上下動され、これにより、針棒が上下動することになる。なお、針棒ケース1314がアーム1312に対して左右方向にスライドすることにより、針棒駆動部材14bは特定の針棒抱き14aに係合するので、選択された針棒が上下動することになる。また、布押え12cは、各針棒ごとに設けられている。
また、上糸制御部1230は、上糸を上糸ボビンに巻回された巻き糸(図示せず)から引き出すとともに、上糸に掛かる張力を制御するものであり、上流側把持部1240と、下流側把持部1260と、回動部1280(図1、図6、図7参照)と、上糸支持部材1288と、支持部(磁石部・モータ支持部材)1360とを有している。
ここで、上流側把持部1240は、プレート部1341における上側、すなわち、回動部1280の上側に設けられ、上流側把持部1240は、把持部本体(上流側把持部本体)1241と、把持部本体1241の背面側に設けられた磁石部(上流側駆動部、上流側磁石部)1250とを有している。
把持部本体1241は、各針棒ごとに設けられた第1板状部ユニット1242-1~1242-9と、第1板状部ユニット1242-1~1242-9における第1板状部1242aの背面側で、かつ、針棒ケース1314(具体的には、プレート部1341)の正面側に設けられた第2板状部(上流側第2板状部)1244とを有している。
ここで、第1板状部ユニット1242-1~1242-9における各第1板状部ユニットは、図8に示すように、方形状の板状を呈する第1板状部(上流側第1板状部)1242aと、第1板状部1242aの上端から背面側に突出して形成された掛止部(取付部材)1242bとを有し、掛止部1242bは、略L字状の板状(長方形状の板状を略L字状に折曲した形状)を呈している。この第1板状部ユニットは、磁石が吸引する材料(磁石が付く材料)、つまり、磁性体(強磁性体としてもよい)により一体に形成されている。すなわち、第1板状部ユニット1242-1~1242-9は、例えば、鉄等の磁石が吸引する金属により形成されている。各第1板状部ユニットは、同大同形状(略同大同形状としてもよい)に形成され、掛止部1242bが、プレート部1341に設けられた掛止穴1342dに掛止されることにより、第1板状部ユニット1242-1~1242-9が、間隔を介して(具体的には等間隔に)左右方向に並んで配設されている。つまり、隣接する2つの第1板状部ユニット間には、間隔が設けられている。プレート部1341における開口部1342aの上側には、複数(具体的には、計9つ)の掛止穴1342dが間隔を介して(具体的には等間隔に)左右方向に並んで配設されている。掛止部1242bを掛止穴1342dに掛止することにより、第1板状部は、プレート部1341に吊り下げた状態(ぶら下げた状態としてもよい)となっている。これにより、第1板状部1242aは、第2板状部1244の正面側の面に対して垂直方向に摺動するようになっていて、第2板状部1244との間隔が可変するようになっている。
また、第2板状部1244は、第1板状部ユニット1242-1~1242-9における第1板状部1242aの背面側に設けられた1つの板状部材であり、細長長方形の板状を呈している。すなわち、第2板状部1244は、左右方向には、正面視において左端に設けられた第1板状部ユニット1242-1の第1板状部1242aの左側面側の辺部から右端に設けられた第1板状部ユニット1242-9の第1板状部1242aの右側面側の辺部までの長さよりも長く形成され、また、上下方向には、第1板状部ユニット1242-1~1242-9における各第1板状部1242aの上下方向の幅と同一幅(略同一幅としてもよい)を有している。第2板状部1244の正面視における左端は、第1板状部ユニット1242-1の第1板状部1242a左側面側の辺部よりも左側面側にあり、押え板1348aによりプレート部1341に固定され、また、第2板状部1244の正面視における右端は、第1板状部ユニット1242-9の第1板状部1242aの右側面側の辺部よりも右側面側にあり、押え板1348aによりプレート部1341に固定されている。つまり、第1板状部ユニット1242-1~1242-9の各第1板状部の背面側には、第1板状部ユニット1242-1~1242-9における各第1板状部と平行に第2板状部1244が存在する。この第2板状部1244は、磁石が吸引しない材料(磁石が付かない材料)、つまり、非磁性体により形成され、例えば、合成樹脂製のフィルムにより形成されている。なお、第2板状部1244をアルミニウムやステンレスにより形成してもよい。
また、第2板状部1244は、開口部1342aよりも大きく形成され、開口部1342aを正面側からカバーするように設けられている。
また、磁石部1250は、電磁石により形成され、その先端部分は、開口部1342a内に配置され、磁石部1250の先端が第2板状部1244の背面側の面に接するように形成されている。磁石部1250の先端の面(第2板状部1244側の面)が吸引面となっている。磁石部1250は、略円柱状を呈している(磁石部1270においても同じ)。なお、図5~図7において、磁石部1250、1270の詳しい断面形状は省略して描いているが、磁石部1250、1270は、通常の電磁石と同様の構成であり、磁性材料の芯と芯のまわりに巻回されたコイルとを有し、コイルに通電することにより磁力が発生する。上流側把持部1240において、磁石部1250は1つ設けられている。そして、制御回路90により磁石部1250を駆動することにより、第1板状部ユニット1242-1~1242-9における磁石部1250の位置に対応した第1板状部ユニットにおける第1板状部1242aが磁力により吸引されて、第1板状部1242aと第2板状部1244間の隙間が閉じた状態となる。磁石部1250は、支持部1360における板状部1360eの正面側の面の上端側に取り付けられ、プレート部1341の背面側の面に対して垂直方向に設けられている。つまり、磁石部1250は、アーム1312側に固定して設けられている。
また、第1板状部ユニット1242-1~1242-9における各第1板状部1242aの正面視における上側と下側には、ガイド部材(第1ガイド部材)1252、1254が設けられ、ガイド部材1252、1254は、図4に示すように、上糸Jが第1板状部の背面側を対角状に通過するように配設され、ガイド部材1252は、第1板状部の上側の正面視左側に設けられ、ガイド部材1254は、第1板状部の下側の正面視右側に設けられている。これにより、第1板状部の背面側に存在する上糸Jの経路を長く確保することができ、上糸Jを第1板状部と第2板状部1244により確実に把持することができる。
また、下流側把持部1260は、プレート部1341における下側、すなわち、回動部1280の下側に設けられ、下流側把持部1260は、把持部本体(下流側把持部本体)1261と、把持部本体1261の背面側に設けられた磁石部(下流側駆動部、下流側磁石部)1270とを有している。
把持部本体1261は、把持部本体1241と同様の構成であり、各針棒ごとに設けられた第1板状部ユニット1262-1~1262-9と、第1板状部ユニット1262-1~1262-9の第1板状部1262aの背面側で、かつ、針棒ケース1314(具体的には、プレート部1341)の正面側に設けられた第2板状部(下流側第2板状部)1264とを有している。
ここで、第1板状部ユニット1262-1~1262-9は、第1板状部ユニット1242-1~1242-9と同様の構成であり、第1板状部ユニット1262-1~1262-9における各第1板状部1262aは、図8に示すように、方形状の板状を呈する第1板状部(下流側第1板状部)1262aと、第1板状部1262aの上端から背面側に突出して形成された掛止部(取付部材)1262bとを有し、掛止部1262bは、略L字状の板状を呈している。第1板状部ユニット1262-1~1262-9は、磁石が吸引する材料(磁石が付く材料)、つまり、磁性体(強磁性体としてもよい)により形成され、各第1板状部ユニットは、同大同形状(略同大同形状としてもよい)に形成され、掛止部1262bが、プレート部1341に設けられた掛止穴1342eに掛止されることにより、第1板状部ユニット1262-1~1262-9が、間隔を介して(具体的には等間隔に)左右方向に並んで配設されている。つまり、隣接する2つの第1板状部ユニット間には、間隔が設けられている。プレート部1341における開口部1342cの上側(かつ、開口部1342bの下側)には、複数(具体的には、計9つ)の掛止穴1342eが間隔を介して(具体的には等間隔に)左右方向に並んで配設されている。掛止部1262bを掛止穴1342eに掛止することにより、第1板状部は、プレート部1341に吊り下げた状態(ぶら下げた状態としてもよい)となっている。これにより、第1板状部1262aは、第2板状部1264の正面側の面に対して垂直方向に摺動するようになっていて、第2板状部1264との間隔が可変するようになっている。第1板状部ユニット1242-1~1242-9と第1板状部ユニット1262-1~1262-9とにおいて、同じ上糸に対応する第1板状部ユニットは、左右方向に同じ位置に設けられている。
また、第2板状部1264は、第2板状部1244と同様の構成であり、第1板状部ユニット1262-1~1262-9の第1板状部1262aの背面側に設けられた1つの板状部材であり、左右方向には、正面視において左端に設けられた第1板状部ユニット1262-1の第1板状部1262aの左側面側の辺部から右端に設けられた第1板状部ユニット1262-9の第1板状部1262aの右側面側の辺部までの長さよりも長く形成され、また、上下方向には、第1板状部ユニット1262-1~262-9における各第1板状部1262aの上下方向の幅と同一幅(略同一幅としてもよい)を有している。第2板状部1264の正面視における左端は、第1板状部ユニット1262-1の第1板状部1262aの左側面側の辺部よりも左側面側にあり、押え板1348bによりプレート部1341に固定され、また、第2板状部1264の正面視における右端は、第1板状部ユニット1262-9の第1板状部1262aの右側面側の辺部よりも右側面側にあり、押え板1348bによりプレート部1341に固定されている。つまり、第1板状部ユニット1262-1~1262-9の各第1板状部の背面側には、第1板状部ユニット1262-1~1262-9における各第1板状部と平行に第2板状部1264が存在する。この第2板状部1264は、磁石が吸引しない材料(磁石が付かない材料)、つまり、非磁性体により形成されている。
また、第2板状部1264は、開口部1342cよりも大きく形成され、開口部1342cを正面側からカバーするように設けられている。
また、磁石部1270は、磁石部1250と同様に、電磁石により形成され、その先端部分は、開口部1342c内に配置され、磁石部1270の先端が第2板状部1264の背面側の面に接するように形成されている。磁石部1270の先端の面(第2板状部1264側の面)が吸引面となっている。下流側把持部1260において、磁石部1270は1つ設けられ、磁石部1250と同大同形状(略同大同形状としてもよい)に形成されている。そして、制御回路90により磁石部1270を駆動することにより、第1板状部ユニット1262-1~1262-9における磁石部1270の位置に対応した第1板状部ユニットにおける第1板状部1262aが磁力により吸引されて、第1板状部1262aと第2板状部1264間の隙間が閉じた状態となる。磁石部1270は、支持部1360における板状部1360eの正面側の面の下端側に取り付けられ、プレート部1341の背面側の面に対して垂直方向に設けられている。つまり、磁石部1270は、アーム1312側に固定して設けられている。
なお、磁石部1250と磁石部1270とは左右方向に同じ位置に設けられていて、磁石部1250を駆動した場合と磁石部1270を駆動した場合に、同じ上糸を把持するようになっている。例えば、図2、図3、図5、図7の例では、磁石部1250は第1板状部ユニット1242-8の第1板状部の背面に位置し、磁石部1270は第1板状部ユニット1262-8の第1板状部の背面に位置しているので、同じ糸を把持する。
また、第1板状部ユニット1262-1~1262-9における各第1板状部1262aの正面視における上側と下側には、ガイド部材(第2ガイド部材)1272、1274が設けられ、ガイド部材1272、1274は、図4に示すように、上糸Jが第1板状部の背面側を対角状に通過するように配設され、ガイド部材1272は、第1板状部の上側の正面視左側に設けられ、ガイド部材1274は、第1板状部の下側の正面視右側に設けられている。これにより、第1板状部の背面側に存在する上糸Jの経路を長く確保することができ、上糸Jを第1板状部と第2板状部1264により確実に把持することができる。
また、回動部1280は、上流側把持部1240と下流側把持部1260の上下方向における中間位置に設けられていて、上流側把持部1240の上糸の供給方向の下流側で、かつ、下流側把持部1260の上糸の供給方向の上流側に設けられている。この回動部1280は、把持部本体1241と把持部本体1261間の上糸(上糸における把持部本体1241と把持部本体1261間の部分(位置)としてもよい)を回動させるものである。
回動部1280は、回動アーム1281と、回動アーム1281を回転させる上糸用モータ1286と、上糸用モータ1286に接続されたエンコーダ1287とを有している。回動アーム1281は、図3、図5、図6、図7に示すように、棒状の本体部1282と、本体部1282の一方の先端に設けられたフック部1284とを有している。本体部1282の他方の端部には、上糸用モータ1286の出力軸1286aが固定されている。具体的には、側面視において、上糸用モータ1286の出力軸1286aの中心軸が本体部1282の中心軸を通るように配設されている。このフック部1284は、円弧状(略円弧状としてもよい)の棒状を呈し、回動アーム1281が回動することにより、上糸Jをフック部1284により掛止することができるようになっている。つまり、フック部1284は、回動アーム1281が上糸用モータ1286の出力軸1286a(具体的には、出力軸1286aの軸線(回転中心))を中心に上向きに回動することにより、上糸用モータ1286の出力軸1286aの軸線と平行に設けられた上糸Jに接して上糸Jを掛止できるように構成されている。回動アーム1281は、磁石部1250と磁石部1270の間の位置に設けられ、左右方向において、磁石部1250、1270と同じ位置に設けられていて、選択された上糸を掛止できるようになっている。
また、上糸用モータ1286は、L字金具1360fに固定して設けられ、これにより、上糸用モータ1286は、アーム1312側に固定して設けられている。上糸用モータ1286が回転することにより、回動アーム1281が正面側斜め下方である退避位置(図6、図7の1281(B)の位置)から上方に回動し、プレート部1341の開口部1342bから正面側に突出する。上糸用モータ1286の出力軸1286aの方向(出力軸1286aの軸線の方向)は、左右方向(つまり、プレート部1341の背面側の面と平行で、かつ、水平方向)となっている。また、回動アーム1281が退避位置にある場合には、針棒ケース1314が左右方向にスライドしても回動アーム1281がプレート部1341及びプレート部1341に設けられた部材(例えば、上糸支持部材1288やガイド部材1346b等)に接触しないように構成されている。つまり、退避位置は、針棒ケース1314が左右方向にスライドしても回動アーム1281が針棒ケース1314(特に、プレート部1341及びプレート部1341に設けられた部材)に接触しない位置であり、少なくとも、回動アーム1281が、上糸支持部材1288に支持される上糸に接する位置よりも下方に回動した位置であるとともに、回動アーム1281の先端が開口部1342bに達しない位置である。
なお、回動アーム1281の回動範囲の下端は、該退避位置であり、回動範囲の上端は、初期位置よりも上側の位置となる。すなわち、必要上糸量の補正において、回動アーム1281が初期位置よりも上側に回動することがあるので、回動アーム1281の回動範囲の上端は、初期位置よりも上側となっている。なお、回動アーム1281が回動した際の回動アーム1281の回動角度と上糸用モータ1286の回転角度は、同じである。
また、制御回路90は、トルク制御区間においては、入出力装置94から入力され記憶装置92に記憶されている上糸制御用トルクデータに基づき上糸用モータ1286をトルク制御する。また、制御回路90は、第1位置制御区間においては、図23に示すような第1角度対応データを作成してこの第1角度対応データに従い上糸用モータ1286を位置制御する。また、制御回路90は、第2位置制御区間においては、図24に示すような第2角度対応データを作成してこの第2角度対応データに従い上糸用モータ1286を位置制御する。つまり、制御回路90は、図20に示すフローチャートに従いトルク制御を行ない、図21、図22に示すフローチャートに従い位置制御を行なう。
また、制御回路90は、第1位置制御区間の終点からトルク制御区間の終点までの区間においては、上流側把持部1240を閉とし、下流側把持部1260を開とするように、磁石部1250、1270を制御し、一方、トルク制御区間の終点から第1位置制御区間の終点までの区間においては、上流側把持部1240を開とし、下流側把持部1260を閉とするように、磁石部1250、1270を制御する。つまり、制御回路90は、図27に示すフローチャートに従い、上流側把持部1240と下流側把持部1260の開閉制御を行なう。
また、制御回路90は、補正前必要上糸量と使用上糸量を比較することにより、補正後必要上糸量を補正する。つまり、制御回路90は、図28に示すフローチャートに従い補正後必要上糸量の補正を行なう。詳しくは、後述する。
なお、制御回路90は、具体的には、図9に示すように、CPU90aと、PWM(Pulse Width Modulation)回路90bと、電流センサ90cとを有している。ここで、CPU90aは、記憶装置92からのデータに基づいてモータに供給する電流値のデータをPWM回路90bに出力する。PWM回路90bは、CPU90aからの電流値の振幅を振幅が一定のパルス信号に変換して該パルス信号を主軸モータ20や上糸用モータ1286に供給する。また、電流センサ90cは、PWM回路90bから出力されるパルス信号を電流値に変換し、電流値に定数を乗算してトルク値を算出してCPU90aに出力する。なお、厳密には、PWM回路90bと電流センサ90cとは、主軸モータ20と上糸用モータ1286のそれぞれについて設けられ、各PWM回路90bと電流センサ90cが、対応するモータに接続されている。つまり、PWM回路90bは、CPU90aと対応するモータに接続され、電流センサ90cは、CPU90aと、対応するモータと対応するPWM回路90b間に接続されている。
また、主軸モータ20と制御回路90間には、主軸モータ20の角度(主軸モータ20の回転方向の位置)を検出するためのエンコーダ21が設けられ、上糸用モータ1286と制御回路90間には、上糸用モータ1286の角度(上糸用モータ1286の回転方向の位置)を検出するためのエンコーダ1287が設けられ、制御回路90において、各エンコーダからの情報により各モータの角度(回転方向の位置)が検出される。
また、記憶装置92には、図10に示すように、刺繍データ92aと、上糸制御用トルクデータ92bと、区間位置データ(区間データ)92cと、主軸データ92dと、上糸量データ92eと、第1対応テーブル92fと、第2対応テーブル92gが記憶されている。つまり、記憶装置92は、これらのデータを記憶するための記憶部である。
刺繍データ(縫製データ)92aは、図11に示すように、各ステッチごとに、ステッチ幅(すなわち、ステッチ幅の値)と、ステッチ方向(つまり、ステッチ方向を示す値)と、糸属性(糸の種類や糸の太さ)のデータが格納されている。この刺繍データ92aは、入出力装置94を介して外部から入力することにより、記憶装置92に記憶される。ここで、ステッチ方向としては、予め決められた方向(例えば、水平方向における一方の方向)に対する角度の値のデータとなっている。例えば、図40の例において、予め決められた方向をHKとした場合に、ステッチST0の角度の値を角度α4の値とし、ステッチST1の角度の値を角度α1の値とする。なお、角度α1の値は、方向HKに対して上方の向きであるので正の値とし、角度α4の値は、方向HKに対して下方の向きであるので、負の値とする。また、図41(a)の例で、ステッチST0の角度の値は角度β2の値(正の値)とし、ステッチST1の角度の値は角度β1の角度の値(正の値)とし、図41(b)の例で、ステッチST0の角度の値は角度β2の値(負の値)とし、ステッチST1の角度の値は角度β1の角度の値(負の値)とする。
また、上糸制御用トルクデータ92bには、図12に示すように、各ステッチごとに、上糸制御用トルク値が記憶されている。
ここで、上糸制御用トルクデータにおけるステッチごとのトルクの値は、各ステッチにおけるステッチ幅、ステッチ方向、糸種類に従い作成されたものであり、例えば、ステッチ幅が長い場合には、上糸の締付けを強くする必要があるので、トルク値を大きくし(ステッチ幅が短い場合には、トルク値を小さくする)、また、ステッチの方向が前回のステッチの方向との角度の差が大きい場合には、もともと上糸の締付けが強いので、トルク値を小さくし(ステッチの方向が前回のステッチの方向との角度の差が小さい場合には、トルク値を大きくする)、また、糸の太さが太い場合には、上糸の締付けを強くする必要があるので、トルク値を大きくする(糸の太さが細い場合には、トルク値を小さくする)。また、上糸を強く締める場合には、トルク値を大きくする(上糸を弱く締める場合には、トルク値を小さくする。)。刺繍の仕上げを固くする場合には、トルク値を大きくする。このトルク値は、後述するように、トルク制御区間において、天秤による上糸Jの引っぱりに支障がない程度の値に設定する。なお、上糸制御用トルクデータにおけるステッチごとのトルクの値は、各ステッチにおけるステッチ幅とステッチ方向とに従い作成したものでもよい。なお、図40の例では、あるステッチの方向と前回のステッチの方向の角度の差は、α1(正)-α4(負)となる。
上糸制御用トルクデータ92bは、入出力装置94を介して外部から入力することにより、記憶装置92に記憶される。つまり、刺繍データ92aに対応した内容の上糸制御用トルクデータ92bが記憶される。
また、区間位置データ92cは、図13に示すように、トルク制御区間の始点と終点についてのデータが主軸角度の情報(すなわち、主軸モータ20の回転方向の位置の情報)として記憶され(始点がZ1、終点がZ2)、また、第1位置制御区間の始点と終点についてのデータが主軸角度の情報(すなわち、主軸モータ20の回転方向の位置の情報)として記憶されている(始点がZ2、終点がZ3)。さらには、第2位置制御区間の始点と終点についてのデータが主軸角度の情報(すなわち、主軸モータ20の回転方向の位置の情報)として記憶されている(始点がZ3、終点がZ1)。なお、上記「始点」は「始点位置」としてもよく、また、上記「終点」は「終点位置」としてもよい。
ここで、図38、図39に示すモーションダイヤグラムに示すように、トルク制御区間の終点は、第1位置制御区間の始点と一致し、第1位置制御区間の終点は、第2位置制御区間の始点と一致し、第2位置制御区間の終点は、トルク制御区間の始点と一致している。
トルク制御区間の始点は、主軸22の回転に伴い、天秤の回動範囲における下死点(一方の死点)から上死点(他方の死点)までの区間(天秤の下死点から上死点に移行する区間)におけるいずれかの位置である。ここで、天秤の上死点(他方の死点)は、天秤の回動範囲において上糸を加工布から引っぱる方向の端部といえる。
また、トルク制御区間の終点は、天秤の上死点から下死点へ向かう途中の位置までの区間におけるいずれかの位置であり、かつ、縫い針12baが加工布に挿針する前の位置(例えば、縫い針12baの先端が針板5よりも上側となる位置)である。つまり、加工布を縫い動作中の上糸になるべく張力を掛けないために、加工布への挿針中は、トルク制御区間とはしない。よって、トルク制御区間の終点は、天秤の上死点の位置であってもよい。また、釜の上死点(縫い針12baが加工布に挿針した状態での釜の上死点。以下、特定上死点とする)、つまり、図38において200度あたりの位置の上死点は、釜が円滑に上糸に挿通するように、トルク制御区間とはしないので、トルク制御区間の終点は、釜の上死点よりも前となる。
トルク制御区間においては、天秤12aが上糸Jを引き上げている状態で上糸Jを天秤12aの引上げ方向と逆方向に上糸Jを引っぱって上糸Jに張力を付与するため、少なくとも、トルク制御区間の少なくとも一部は、天秤が上昇している期間(加工布に対して上糸を引っぱる期間)に設けられる。つまり、トルク制御区間は、天秤の下死点から上死点までの区間の少なくとも一部を含む区間といえる。また、縫い針12baが挿針した後にもトルク制御をすると、縫い動作中の上糸に張力が掛かってしまうため、トルク制御区間の終点は、縫い針12baが加工布に挿針する前の位置とする。
また、第1位置制御区間の始点は、天秤の上死点から下死点までの区間(天秤の上死点から下死点に移行する区間)におけるいずれかの位置である。なお、縫い針12baが加工布に挿針する前の位置(例えば、縫い針12baの先端が針板5よりも上側となる位置)であるか挿針した後の位置(例えば、縫い針12baの先端が針板5よりも下側となる位置)であるかは問わない。また、釜が円滑に上糸に挿通するように、第1位置制御区間の始点は釜の上死点(特定上死点)よりも前とし、該釜の上死点は第1位置制御区間に位置させる。
また、第1位置制御区間の終点は、釜100の下死点よりも後に位置している。つまり、第1位置制御区間の終点で、下流側把持部1260が開となるが、上糸が釜100を通過するまでは、下流側把持部1260を閉にしておく必要があるので(下流側把持部1260が開になっていると、釜100が上流側から上糸をひっぱってしまう)、第1位置制御区間の終点を釜100の下死点(特定上死点の後の直近の下死点(図38における290度あたりの下死点))よりも後にしている。
また、第2位置制御区間の終点は、天秤の下死点から上死点までの区間(天秤の下死点から上死点に移行する区間)におけるいずれかの位置である。また、直後にトルク制御区間がくるので、位置制御区間の終点は、縫い針12baが加工布から抜けている位置(例えば、縫い針12baの先端が針板5よりも上側となる位置)とするのが好ましい。
なお、第1位置制御区間において、上糸Jを巻き糸(巻き糸は、上糸ガイド1300よりも上流側に設けられている)から引き出すが、なるべくゆっくり時間をかけて上糸を引き出して上糸の糸切れのおそれを小さくするために、第1位置制御区間はなるべく長く確保するのが好ましい。例えば、第1位置制御区間の始点を、天秤の上死点から下死点までの区間におけるいずれかの位置で、釜の上死点よりも前の位置とし、第1位置制御区間の終点を、天秤の下死点から上死点までの区間におけるいずれかの位置とすることにより、第1位置制御区間を長く確保することができる。また、天秤の下死点から上死点までの区間は、天秤が上糸を加工布に対して引っぱる区間であるので、トルク制御区間とするのが好ましい。よって、トルク制御区間の始点は、天秤の下死点から上死点までの区間における縫い針12baの挿針が解除された直後から天秤の上死点(もしくはその直後)までとするのが好ましいといえる。
また、区間位置データ92cには、糸引出し区間の始点と終点についてのデータが主軸角度の情報として記憶され(始点Z4と終点Z3)、また、初期位置移動区間の始点と終点についてのデータが主軸角度の情報として記憶されている(始点Z3と終点Z5)。
糸引出し区間の始点は、第1位置制御区間において、回動アーム1281の回動を開始して上糸の引出しを開始する位置であり、糸引出し区間の終点は、第1位置制御区間において、回動アーム1281の回動を停止して上糸の引出しを終了する位置である。糸引出し区間の終点は、第1位置制御区間の終点と一致する。
また、初期位置移動区間の始点は、第2位置制御区間において、回動アーム1281の回動を開始する位置であり、初期位置移動区間の終点において、上糸用モータ1286が初期位置に戻る。初期位置移動区間の始点は、第2位置制御区間の始点と一致する。
なお、区間位置データ92cは、入出力装置94を介して予め記憶装置92に記憶されているものであるが、入出力装置94により記憶装置92に記憶される区間位置データ92cの内容を適宜入れ替えてもよい。なお、上記のように、トルク制御区間の始点と終点及び位置制御区間の始点と終点についてのデータが主軸角度の情報として規定されているので、「区間」の用語を用いたが、主軸モータ20及び主軸22は一方向のみに回転し、1つのステッチの制御区間において、主軸角度が大きくなるほど時系列としては後になるので、「区間」の代わりに「期間」としてもよく、例えば、「トルク制御区間」の代わりに「トルク制御期間」としてもよく、「第1位置制御区間」の代わりに「第1位置制御期間」としてもよく、「第2位置制御区間」の代わりに「第2位置制御期間」としてもよく、「制御区間」の代わりに「制御期間」としてもよい。
また、主軸データ92dは、図14に示すように、角度単位時間ごとの時系列における主軸角度(つまり、主軸モータ20の回転方向の位置)のデータである。
また、上糸量データ92eは、図16に示すように、ステッチごとに、補正前必要上糸量と、補正後必要上糸量と、使用上糸量と、必要上糸量と使用上糸量の差が記憶されたものである。
ここで、補正前必要上糸量は、各ステッチにおいて本来必要となる上糸の長さについてのデータであり、補正前必要上糸量は、ステッチ幅と加工布の厚みに基づき算出した値であり、ステッチ幅をL、加工布の厚みをTとし、加工布の裏側(下側としてもよい)における上糸の長さと下糸の長さの割合を図33(a)のように2:1とした場合に、そのステッチにおいて、必要な上糸量は、L+2×T+L×2/3(式(1)とする)となるので、この計算式に従い算出する。つまり、加工布の表側における上糸の長さは、Lであり、加工布の裏側における上糸の長さは、L×2/3であり、加工布の厚みに対応した上糸の長さは、2×Tであるので、上記の計算式となる。式(1)により必要上糸量を算出する場合、ステッチ幅Lと加工布の厚みTを式(1)に入力することにより、必要上糸量が算出される。なお、加工布の裏側とは、刺繍縫いした際に、下糸が表れる側であり、加工布の表側においては、上糸のみが表れる。
なお、加工布の裏側における上糸の長さと下糸の長さ割合をA:Bとした場合には、上記計算式は、L+2×T+L×A/(A+B)となる(式(2)とする)。式(2)の場合、加工布の裏側における上糸の長さは、L×A/(A+B)となる。
上記のように、加工布の裏側における上糸の長さと下糸の長さの割合に基づき加工布の裏側の上糸の長さを算出することにより、補正前必要上糸量が算出される。なお、補正前必要上糸量の欄における各ステッチごとの必要上糸量(つまり、補正前必要上糸量)が、補正前必要上糸量データとなる。
このように、補正前必要上糸量を加工布の裏側における上糸の長さと下糸の長さの割合に従って、補正前必要上糸量を算出するので、使用上糸量を補正前必要上糸量に近づける制御(詳しくは後述する)を行なうことにより、加工布の裏側における上糸の長さと下糸の長さのバランスを所望のバランスとして、上糸の使用量と下糸の使用量のバランスを所望のバランスとすることができる。
また、補正後必要上糸量は、当初は、補正前必要上糸量と同じデータであるが、後述する必要上糸量の補正が行われた場合には、補正後の必要上糸量に更新される。つまり、補正後必要上糸量は、必要上糸量の補正が順次行われるに従い、順次更新されていく。詳しくは後述する。補正後必要上糸量の欄における各ステッチごとの必要上糸量(つまり、補正後必要上糸量)が、補正後必要上糸量データとなる。
また、使用上糸量は、トルク制御区間において使用した上糸の長さ(つまり、縫製に使用された上糸の長さ)であり、具体的には、各ステッチのトルク制御区間において、回動アーム1281の回動角度(回転角度としてもよい)を検出し、検出された回動角度に対応した上糸の長さを使用上糸量とする。回動角度から使用上糸量を得るには、図17に示す第1対応テーブル92fが用いられる。トルク制御区間における回動アーム1281の回動角度は、上糸用モータ1286の回転角度と同じであるので、図39における角度αがこれに当たる。各ステッチごとの使用上糸量のデータが、使用上糸量データとなる。
なお、回動アーム1281の回動角度とは、回動アーム1281がある位置から他の位置まで回動する際の回動角度であり、例えば、回動アーム1281の本体部1282が回動する角度であり、回動アーム1281が、図6における1281(B)から1281(A)まで回動した場合には、本体部1282が1281(B)から1281(A)まで回動する角度をいう。
また、必要上糸量と使用上糸量の差については、必要上糸量の長さから使用上糸量の長さを減算したものであり、実際の刺繍縫いにおいて、各ステッチにおいて、使用上糸量が検出されたタイミングで、必要上糸量と使用上糸量の差のデータが格納される。
また、上糸量データには、当該上糸量データに適用される単位補正値が記憶されていて、後述する必要上糸量の補正に際して、単位補正値が必要上糸量に対して増減される。つまり、1つの刺繍データに対応して1つの単位補正値が設けられている。この単位補正値は、入出力装置94や操作部96により入力できるようにしてもよい。この場合、入出力装置94や操作部96が、単位補正値を入力するための入力部に当たる。
なお、図16に示す上糸量データは、実際の刺繍縫いに際して更新されていき、具体的には、後述するように、補正前必要上糸量と使用上糸量を比較することにより、補正後必要上糸量のデータが更新されていく。
また、第1対応テーブル92fは、図17に示すように、トルク制御区間における上糸用モータ1286の回転角度と使用上糸量の関係を示すテーブルであり、上糸用モータ1286が初期位置から回転した角度(つまり、回動アーム1281が回動した角度)に応じた使用上糸量が規定されている。この第1対応テーブル92fは、使用上糸量を検出する際に使用される。第1対応テーブル92fの代わりに、所定の演算式、すなわち、上糸用モータ1286の回転角度から使用上糸量を算出する演算式を用いて、使用上糸量を算出してもよい。
また、第2対応テーブル92gは、図18に示すように、補正後必要上糸量と上糸用モータ1286の回転角度の関係を示すテーブルであり、上糸用モータ1286の回転を開始する際の上糸用モータ1286の角度(つまり、糸引出し区間の始点における上糸用モータ1286の角度)ごとに補正後必要上糸量と回転角度の関係が規定されている。つまり、補正後必要上糸量と回転角度の関係を示す個別テーブル92g-1~92g-lが、上糸用モータの角度ごと(例えば、1度ごと)に規定されている。つまり、補正後必要上糸量と回転角度の関係は、糸引出し区間の始点における上糸用モータ1286の角度によって異なるので、上糸用モータ1286の糸引出し区間の始点における角度ごとに個別テーブルが設けられている。この第2対応テーブル92gは、第1位置制御区間において上糸を引き出す際に、補正後必要上糸量から上糸用モータ1286の回転角度を検出する際に使用される。なお、第2対応テーブル92gの代わりに、所定の演算式、すなわち、糸引出し区間の始点における上糸用モータ1286の角度(第1位置制御区間の始点における上糸用モータ1286の角度としてもよい)と補正後必要上糸量から上糸用モータ1286の回転角度を算出する演算式を用いて、回転角度を算出してもよい。なお、第1位置制御区間の始点における上糸用モータ1286の角度は糸引出し区間の始点まで維持されるので、第1位置制御区間の始点における上糸用モータ1286の角度と、糸引出し区間の始点における上糸用モータ1286の角度は同一である。
なお、補正前必要上糸量データについては、外部で生成された補正前必要上糸量データを入出力装置94を介して上糸量データに記憶させてもよいし、制御回路90により補正前必要上糸量を計算して、上糸量データに記憶させてもよい。つまり、ステッチ幅のデータは、外部から入力された刺繍データ92aに記憶されているので、加工布の厚みのデータと、加工布の裏側における上糸の長さと下糸の長さの割合のデータを入出力装置94を介して入力することにより、制御回路90により補正前必要上糸量を計算してもよい。
なお、上糸Jの経路を説明すると、9つの糸はいずれも同様の経路であるので、正面視で右端の上糸を例に取ると、巻き糸(図示せず)から導かれた上糸Jは、上糸ガイド1300からガイド部材1252に接して上流側把持部1240の第1板状部ユニット1242-9の第1板状部1242aと第2板状部1244間を通り、その後、ガイド部材1254に接し、その後、ガイド部材1290により反転して、上糸支持部材1288に至る。一対の上糸支持部材1288を通った上糸Jは、ガイド部材1272に接して下流側把持部1260の第1板状部ユニット1262-9の第1板状部1262aと第2板状部1264間を通り、その後、ガイド部材1274に接する。上糸Jは、その他、上糸ガイド1302及び糸調子バネ1337を経て天秤12a-9に至り、天秤12a-9から上糸ガイド1338を経て、針棒12b-9の縫い針に至る。上糸は、以上の順に上流側から下流側に経由する。
また、入出力装置94は、制御回路90のCPU90aに接続され、主として、記憶装置92との間でデータの入出力を行なうための装置であり、外部端子と接続するための接続端子や記憶媒体と接続するための接続端子を有している。つまり、入出力装置94は、入力装置と出力装置の機能を有している。この入出力装置94を介して、刺繍データ92aや上糸制御用トルクデータ92bや上糸量データ92e(特に、補正前必要上糸量)や第1対応テーブル92fや第2対応テーブル92gが記憶装置92に取り込まれる。
なお、刺繍データ92aや上糸制御用トルクデータを記憶装置92に記憶するのではなく、それらのデータを記憶した記憶媒体を入出力装置94に接続した状態として、該記憶媒体を記憶装置92の代わりに使用してもよい。つまり、各データを記憶媒体から直接読み出すようにする。
また、操作部96は、ミシン1を操作するための操作装置であり、操作キーや表示画面等により構成される。
また、釜100は、ヘッド3の下方でミシンテーブルの上面よりも下側の位置に各ヘッドごとに設けられている。具体的には、ミシンテーブルの下側に設けられた釜土台(図示せず)に支持されている。
釜100は、従来の釜2100と同様の構成であり、図42に示すように、釜100は、外釜2110と、中釜押さえ2130と、中釜2150を有していて、中釜2150には、ボビン2200及びボビンケース2210が収納される。
ここで、外釜2110は、上部が開口した略リング状部2122-1と円筒状部2122-2をつなげた形状を呈する外釜本体部2112と、外釜本体部2112の両側から突出した取付部2116とを有している。
外釜本体部2112の略リング状部2112-1には、内側に略円柱状の切欠部2114が設けられ、切欠部2114には、周状に段差が形成され、中釜押さえ2130側の大径部(ガイド溝)2114aと、その反対側の小径部2114bとから構成されている。大径部2114aには、中釜2150のレース部2152が配置されて、レース部2152が大径部2114aに沿って摺動する。
また、外釜2110の両側には、中釜押さえ2130を外釜2110に固定するためのレバー2122が設けられるとともに、釜土台に外釜2110を取り付けるための取付部2116が突出して形成されている。
また、中釜押さえ2130は、上部が開口した略リング状の板状部材であり、内側に切欠部2132が設けられている。中釜押さえ2130により、外釜2110内に配置された中釜2150の中釜押さえ2130側がカバーされ、中釜2150が中釜押さえ2130側に脱落することがない。
中釜2150は、中釜押さえ2130が取り付けられた外釜2110内に回転可能に配置され、中釜2150は、レース部2152と、中釜本体部2160と、先端部2170と、格納部2180を有している。
ここで、レース部2152は、略円弧状の板状、すなわち、棒状の板状部を円弧状に形成した形状を呈していて、その外側の面が外釜2110の大径部2114a内に沿って摺動可能に形成されている。また、また、中釜本体部2160は、全体に板状部材により形成され、レース部2152の内側の背面側の端部から背面側に連設された背面部2161と、レース部2152の内側の正面側の端部から正面側に連設された正面側テーパ状部2166とを有している。
また、先端部2170は、レース部2152の端部から周方向に形成され、その先端に尖鋭な剣先2172が形成されている。また、格納部2180は、円筒状の一部をなす側面部2182と、軸部2184とを有し、側面部2182と軸部2184は、背面部2161の正面側の面に固着されている。
ボビン2200は、円形の開口部が中心に設けられた板状部2202と、板状部2202と同大同形状の板状部2204と、板状部2202の開口部と板状部2204の開口部間に設けられた円筒状の筒状部2206とを有し、板状部2202と板状部2204間の空間に下糸を巻回できるようになっている。
また、ボビンケース2210は、図43に示すように、ケース本体2212と、ケース本体2212に取り付けられた糸調子バネ2220とを有し、糸調子バネ2220は、取付けビス2222によりケース本体2212にに取り付けられている。糸調子バネ2220には、調節ビス2224が取り付けられている。また、ボビンケース2210には、ボビン2200の脱落を防止するためのレバー2216が設けられている。
ボビンケース2210に収納されたボビン2200の下糸Kは、ケース本体2212に設けられた糸道2214を通ってボビンケース2210の外部に導かれるが、調節ビス2224の締付け度合いを調整することにより、下糸Kへの張力が調整される。つまり、糸調子バネ2220による摩擦抵抗により下糸への張力が調整される。
なお、ボビン2200を収納したボビンケース2210を中釜2150に取り付けた状態では、軸部2184がボビン2200の筒状部2206に挿通されている。
また、外釜本体部2112の内部には、釜軸の先端が配置され、釜軸の先端に中釜2150が連結されていて、釜軸の回転に伴い中釜2150が回転するようになっている。
次に、上記ミシン1の動作について、図14~図41を使用して説明する。
まず、制御回路90は、記憶装置92に記憶されている刺繍データに従い、主軸データ(図14参照)を各ステッチごとに作成する。記憶装置92には、作成する刺繍について、ステッチごとにステッチ幅、ステッチ方向、糸属性(糸の種類や糸の太さ)等の情報が記憶されているので、各ステッチのステッチ幅、ステッチ方向、糸属性に応じて主軸データを作成する。この主軸データは、図14に示すように、単位時間ごとの時系列における主軸角度(つまり、主軸モータ20の回転方向の位置)のデータであり、例えば、ステッチ幅が大きい場合には、主軸角度の変化量を小さくし、ステッチ幅が小さい場合には、主軸角度の変化量を大きくする。また、ステッチの方向が前回のステッチの方向と逆の方向となる場合には、主軸角度の変化量を小さくする。つまり、ステッチの方向と前回のステッチの方向のなす角度(図40における角度α3)が小さい場合には、主軸角度の変化量を小さくし、ステッチの方向と前回のステッチの方向のなす角度が大きい場合には、主軸角度の変化量を大きくする。糸属性については、糸が細い場合や糸が切れやすい場合には、主軸角度の変化量を小さくする。
この制御回路90による主軸データの作成に際しては、複数のステッチから構成される刺繍データ全体について予め作成しておいてもよいし、実際に各機械要素(針棒、天秤、釜等)により刺繍縫いを行なうステッチよりも数ステッチ前の主軸データを作成することにより、主軸データを作成しながら実際の刺繍縫いを行なってもよい。
主軸データの一例としては、図15に示すものが挙げられる。図15に示す主軸データは、主軸が等速で回転しつづけるものであるが、各ステッチのステッチ幅が同じで、ステッチの角度も同じ方向である場合には、このような主軸データとすればよい。なお、あるステッチのステッチ幅が大きい場合には、1ステッチの時間を長くし、ステッチ幅が小さい場合には、1ステッチの時間を短くする。なお、ステッチ幅やステッチ方向や糸属性に関係なく、図15に示すように、主軸を等速で回転するようにしてもよい。
実際の刺繍縫いにおける動作について説明すると、図19に示すように、まず、主軸角度を検出する(S1)。すなわち、主軸モータ20に接続されたエンコーダ21の情報により主軸角度を検出する。この主軸角度の検出は所定の周期で行い(つまり、図19に示す処理は所定の周期で行なう)、例えば、1ステッチ分の周期の数十分の1~数千分の1程度の周期で行なう。
なお、針棒が複数設けられ、複数の針棒の中から針棒が選択される(つまり、糸が選択される)ので、厳密には、主軸角度を検出し(S1)、その後、上糸を変更するか否かを判定して、上糸を変更する場合には、針棒ケース1314をスライドさせて、選択された糸の位置に磁石部1250、1270が配置されるとともに、回動部1280の回動アーム1281が選択された糸を掛止して引き上げることができるようにその上糸に対応した開口部1342bの位置に来るようにする。なお、上糸を変更する場合には、回動アーム1281を退避位置まで退避させる。
つまり、上糸を変更するか否か判定する工程は、ステップS1とステップS2の間に設けられ、この上糸を変更するか否かを判定する工程においては、検出した主軸角度が、1つのステッチの初頭に対応した主軸角度であるか否かを判定し(例えば、図38における0度、つまり、次のステッチに移行する際)、1つのステッチの初頭に対応した主軸角度である場合には、刺繍データから上糸が変更されるか否かを判定する工程がステップS1とステップS2の間に設けられ、上糸を変更する場合には、針棒ケース1314のスライド動作を制御する工程が設けられ、針棒ケース1314をスライド動作した後に、ステップS2に移行する。検出した主軸角度が1つのステッチの初頭に対応した主軸角度でない場合や、検出した主軸角度が1つのステッチの初頭に対応した主軸角度であっても、上糸を変更しない場合には、そのままステップS2に移行する。
そして、検出された主軸角度に従い、上糸について、トルク制御区間と第1位置制御区間と第2位置制御区間のいずれであるかを判定する。つまり、記憶装置92には、図13に示すように、トルク制御区間の始点と終点、第1位置制御区間の始点と終点及び第2位置制御区間の始点と終点の情報が記憶されているので、検出された主軸角度と比較することにより判定する。
具体的には、トルク制御区間であるか否かが判定され(S2)、トルク制御区間である場合には、トルク制御サブルーチンに移行する(S3)。
トルク制御区間でない場合には、第1位置制御区間であるか否かが判定され(S4)、第1位置制御区間である場合には、第1位置制御サブルーチンに移行する(S5)。また、第1位置制御区間でない場合には、第2位置制御サブルーチンに移行する(S6)。つまり、トルク制御区間と第1位置制御区間のいずれでもない場合には、第2位置制御区間であるので、第2位置制御サブルーチンに移行する。
次に、トルク制御サブルーチンにおいては、トルク制御区間の始点において対象ステッチの上糸制御用トルク値(トルクデータ)を上糸制御用トルクデータから読み出しておき、当該ステッチのトルク制御区間においては、読み出した上糸制御用トルク値に従いトルク制御する。すなわち、まず、図20に示すように、対象ステッチの上糸制御用トルク値が制御回路90に保持されているか否かを判定し(S11)、トルク制御区間の始点であって、まだトルクデータが保持されていない場合には、対象ステッチの上糸制御用トルク値を上糸制御用トルクデータから読み出して制御回路90に保持しておく(S12)。
対象ステッチの上糸制御用トルク値が保持されたら、電流センサ90cからトルク値を検出し、対象ステッチの上糸制御用トルク値から電流センサ90cからのトルク値を減算する(図20のS13、図26のS13)。
次に、ステップS13で算出された算出値に対して、予め定められた定数を乗算して、PWM回路90bに出力する電圧値(PWM回路への電圧指令)を算出し(図20のS14、図26のS14)、PWM回路90bに出力する(図20のS15、図26のS15)。PWM回路90bは、入力された信号に基づき電圧信号としてのパルス信号を出力して、上糸用モータ1286に対して電流を供給する(図20のS16、図26のS16、電流供給工程)。
なお、上記の説明では、トルク制御区間の始点において、上糸制御用トルクデータを読み出すとしたが、初期位置移動区間の終点からトルク制御区間の始点までの間に上糸制御用トルクデータを読み出しておいてもよい。
次に、第1位置制御のサブルーチンにおいては、第1位置制御区間の始点において、上糸用モータ1286の角度、すなわち、上糸用モータ1286の回転方向の位置(つまり、上糸用モータ1286の出力軸の回転方向の位置)における現在位置を検出し、上糸用モータ1286の出力軸が、補正後必要上糸量に対応した角度を回転するように位置制御するための第1角度対応データを作成し、この第1角度対応データに従い位置制御を行なう。すなわち、まず、対象ステッチについて、第1角度対応データが作成されているか否かが判定される(図21のS21)。
第1角度対応データが作成されていない場合、つまり、第1位置制御区間の始点においては、エンコーダ1287から上糸用モータ1286の角度を検出する(図21のS22、図26のS22)。そして、検出した上糸用モータ1286の角度に従い、第1角度対応データを作成する(図21のS23、図26のS23)。この第1角度対応データは、図23に示すように、主軸角度(つまり、主軸モータ20の回転方向の位置)と上糸用モータ角度(上糸用モータの角度)(上糸用モータ1286の回転方向の位置)の対応データであり、第1位置制御区間の始点(第1位置制御区間の始点における主軸角度はa0とする)における上糸用モータ角度Cnから第1位置制御区間の終点(第1位置制御区間の終点における主軸角度はayとする)における上糸用モータの角度がC0になるまでの主軸角度と上糸用モータ角度の対応データである。なお、第1位置制御区間の始点の上糸用モータ角度Cnから第1位置制御区間の終点の上糸用モータ角度C0までの角度は、上糸量データ92eにおいて、直近に到来するトルク制御区間のステッチ(図39の例では、対象ステッチの次のステッチ)における必要上糸量及び対象ステッチの第1位置制御区間の始点における上糸用モータの角度に対応する角度である(図16、図18参照)。
この第1角度対応データの作成に際しては、第1位置制御区間の始点に対応する主軸角度a0から糸引出し区間の始点の主軸角度axまでについては、トルク制御区間における終点の上糸用モータ角度Cnのままし(つまり、上糸用モータ角度Cnを維持する)、その後、糸引出し区間の始点に対応する主軸角度axから第1位置制御区間の終点に対応する主軸角度ayまでの範囲を所定の間隔(単位角度)で等分し(すなわち、1/n(nは整数)ごとに等分し)、図25に示すように、糸引出し区間の始点から所定の区間である第1区間(例えば、主軸角度ax~ax+m)では、単位角度当たりの上糸用モータ角度の変化量が徐々に増加して、これにより、回動アーム1281の回動速度が上昇するようにし、第1区間に続く第2区間(例えば、主軸角度ax+m~ay-m)では、単位角度当たりの上糸用モータ角度の変化量が一定となり、第2区間に続く第3区間(例えば、主軸角度ay-m~ay)では、単位角度当たりの上糸用モータ角度の変化量が徐々に減少して、これにより、回動アーム1281の回動速度が減少するようにする。ここで、第1区間の角度範囲と第3区間の角度範囲とは、第2区間よりも短いものとする。
そして、第1角度対応データから上糸用モータ角度のデータを読み出す(図21のS24、図26のS24)。すなわち、ステップS1で検出した主軸角度に最も近い主軸角度を第1角度対応データ(図23)から検出し、その主軸角度に対応した上糸用モータ角度を読み出す。なお、ステップS1で検出した主軸角度に隣接した2つの主軸角度のデータが第1角度対応データにある場合には、2つの主軸角度との割合に応じて、上糸用モータ角度を算出してもよい。
次に、読み出した上糸用モータ角度から単位時間当たりの変化量を検出して速度データを算出する(図21のS25、図26のS25、速度データ算出工程)。つまり、角度データの変化量を時間で除算することにより速度データを算出する。すなわち、主軸角度と上糸用モータ角度の関係が図23に示す第1角度対応データに規定され、また、時間と主軸角度の関係が図14に示す主軸データに規定されているので、これらにより、単位時間当たりの上糸用モータ角度の変化量を検出する。なお、主軸データの主軸角度のデータと角度対応データの主軸角度のデータとが一致しない場合には、例えば、角度対応データにおける主軸角度が隣接する2つの主軸角度(主軸データにおける主軸角度)との差の割合から時間を算出すればよい。
次に、速度データの単位時間当たりの変化量を検出してトルクデータを算出する(図21のS26、図26のS26、トルクデータ算出工程)。つまり、速度データの変化量を時間で除算することによりトルクデータを算出する。つまり、ステップS25において、時刻ごとに上糸用モータの速度データが算出されるので、この速度データを微分することによりトルクデータを算出する。
次に、ステップS26で算出されたトルクデータからトルク補償データを算出する(図21のS27、図26のS27)。すなわち、トルクデータに対して慣性比率を乗算し(図26のS27-1)、慣性比率を乗算して得た値にメカロスに基づくトルクを加算してトルク補償データを算出する(図26のS27-2)。ここで、慣性比率とは、各機械要素の質量等に応じて予め定められた定数であり、メカロスに基づくトルクは、各機械要素に応じて予め定められた値である。
次に、ステップS24において読み出された角度データからエンコーダ1287(上糸用モータ1286に対応したエンコーダ)からのデータ(エンコーダのカウント値)を減算する(図22のS28、図26のS28、位置偏差算出工程)。このステップS28で算出された値は、位置偏差の値といえる。
次に、ステップS28で算出された算出値に対して、予め定められた定数を乗算して、速度値を算出する(図22のS29、図26のS29)。
次に、エンコーダ1287からの出力を微分してモータ現在速度値を算出する(図22のS30、図26のS30)。つまり、エンコーダのカウント値の単位時間当たりの変化量を算出して、モータ現在速度値を算出する。
次に、ステップS30で算出された速度値からステップS31で算出されたモータ現在速度値を減算し、さらに、ステップS25で算出された速度データを加算する(図22のS31、図26のS31、速度偏差算出工程)。このステップS31で算出された値は、速度偏差の値であるといえる。
次に、ステップS31で算出された算出値に対して、予め定められた定数を乗算して、トルク値を算出する(図22のS32、図26のS32)。
次に、ステップS32で算出されたトルク値にステップS27で算出されたトルク補償データを加算する(図22のS33、図26のS33)。その後、ステップS33で算出した値から電流センサ90cからのトルク値を減算する(図22のS34、図26のS34、トルク偏差算出工程)。このステップS34で算出された値は、トルク偏差の値といえる。
次に、ステップS34で算出された算出値に対して、予め定められた定数を乗算して、PWM回路90bに出力する電圧値(PWM回路への電圧指令)を算出し(図22のS35、図26のS35)、PWM回路90bに出力する(図22のS36、図26のS36)。
PWM回路90bは、入力された信号に基づき電圧信号としてのパルス信号を出力して、上糸用モータ1286に対して電流を供給する(図22のS37、図26のS37、電流供給工程)。
なお、上記の説明では、第1位置制御区間の始点において、上糸用モータ1286の角度を検出して第1角度対応データを作成するとしたが、上糸用モータ1286の角度は、トルク制御区間の終点から糸引出し区間の始点まで変化しないので、トルク制御区間の終点から糸引出し区間の始点までの間に、第1角度対応データを作成してもよい。この場合、第1角度対応データは、糸引出し区間の始点から終点までのデータとなる。
次に、第2位置制御のサブルーチンにおいては、第2位置制御区間の始点において、上糸用モータ1286の角度における現在位置を検出し、上糸用モータ1286の角度(つまり、上糸用モータ1286の回転方向の位置である上糸用モータ1286の角度)における初期位置(原点位置としてもよい)にまで位置制御するための第2角度対応データを作成し、この第2角度対応データに従い位置制御を行なう。すなわち、まず、対象ステッチについて、第2角度対応データが作成されているか否かが判定される(図21のS21)。
第2角度対応データが作成されていない場合、つまり、第2位置制御区間の始点においては、エンコーダ1287から上糸用モータ1286の角度を検出する(図21のS22、図26のS22)。そして、検出した上糸用モータ1286の角度に従い、第2角度対応データを作成する(図21のS23、図26のS23)。この第2角度対応データは、図24に示すように、主軸角度(つまり、主軸モータ20の回転方向の位置)と上糸用モータ角度(上糸用モータの角度)(上糸用モータ1286の回転方向の位置)の対応データであり、第2角度対応データにおいては、第2位置制御区間の始点(第2位置制御区間の始点における主軸角度はayとする)における上糸用モータ角度がC0(=dW)で、初期位置移動区間の終点(初期位置移動区間の終点における主軸角度はay+qとする)における上糸用モータの角度がd0になり、さらに、第2位置制御区間の終点ay+rまで、上糸用モータの角度d0が維持される。角度d0は、上糸用モータ角度の初期位置である。
この第2角度対応データの作成に際しては、第1角度対応データの場合と同様であり、第2位置制御区間の始点に対応する主軸角度ayから第2位置制御区間の終点に対応する主軸角度ay+rまでの範囲を所定の間隔(単位角度)で等分し(すなわち、1/n(nは整数)ごとに等分し)、図25に示すように、第2位置制御区間の始点(初期位置移動区間の始点)から所定の区間である第1区間(例えば、主軸角度ay~ay+p)では、単位角度当たりの上糸用モータ角度の変化量が徐々に増加して、これにより、回動アーム1281の回動速度が上昇するようにし、第1区間の終点から初期位置移動区間の終点までの区間である第2区間(例えば、主軸角度ay+p~ay+q)では、単位角度当たりの上糸用モータ角度の変化量が徐々に減少して、これにより、回動アーム1281の回動速度が減少するようにする。初期位置移動区間の終点(ay+q)から第2位置制御区間の終点(ay+r)までは、初期位置である角度d0が維持される。なお、第1位置制御区間の場合と同様に、第1区間と第2区間の間に上糸用モータ角度の変化量が一定となる区間を設けてもよい。
そして、第2角度対応データから上糸用モータ角度のデータを読み出す(図21のS24、図26のS24)。すなわち、ステップS1で検出した主軸角度に最も近い主軸角度を第2角度対応データ(図24)から検出し、その主軸角度に対応した上糸用モータ角度を読み出す。なお、ステップS1で検出した主軸角度に隣接した2つの主軸角度のデータが第2角度対応データにある場合には、2つの主軸角度との割合に応じて、上糸用モータ角度を算出してもよい。
以降の処理は、上記第1位置制御区間の制御の場合と同様である。すなわち、読み出した上糸用モータ角度から単位時間当たりの変化量を検出して速度データを算出する(図21のS25、図26のS25、速度データ算出工程)。
次に、速度データの単位時間当たりの変化量を検出してトルクデータを算出する(図21のS26、図26のS26、トルクデータ算出工程)。
次に、ステップS26で算出されたトルクデータからトルク補償データを算出する(図21のS27、図26のS27)。
次に、ステップS24において読み出された角度データからエンコーダ1287(上糸用モータ1286に対応したエンコーダ)からのデータ(エンコーダのカウント値)を減算する(図22のS28、図26のS28、位置偏差算出工程)。
次に、ステップS28で算出された算出値に対して、予め定められた定数を乗算して、速度値を算出する(図22のS29、図26のS29)。
次に、エンコーダ1287からの出力を微分してモータ現在速度値を算出する(図22のS30、図26のS30)。
次に、ステップS30で算出された速度値からステップS31で算出されたモータ現在速度値を減算し、さらに、ステップS25で算出された速度データを加算する(図22のS31、図26のS31、速度偏差算出工程)。
次に、ステップS31で算出された算出値に対して、予め定められた定数を乗算して、トルク値を算出する(図22のS32、図26のS32)。
次に、ステップS32で算出されたトルク値にステップS27で算出されたトルク補償データを加算する(図22のS33、図26のS33)。その後、ステップS33で算出した値から電流センサ90cからのトルク値を減算する(図22のS34、図26のS34、トルク偏差算出工程)。
次に、ステップS34で算出された算出値に対して、予め定められた定数を乗算して、PWM回路90bに出力する電圧値(PWM回路への電圧指令)を算出し(図22のS35、図26のS35)、PWM回路90bに出力する(図22のS36、図26のS36)。
PWM回路90bは、入力された信号に基づき電圧信号としてのパルス信号を出力して、上糸用モータ1286に対して電流を供給する(図22のS37、図26のS37、電流供給工程)。
なお、上記のように、第2位置制御区間において、回動アーム1281を初期位置に戻しているが、これは、回動アーム1281が回動可能範囲から外れるのを防止するためである。すなわち、必要上糸量の補正(後述)において、例えば、必要上糸量から使用上糸量を減算した値が正になるステッチが連続した場合に、回動アーム1281を初期位置に戻しておかないと、第1位置制御区間の終点において回動アーム1281の位置がステッチごとに上側に位置してしまい、回動アーム1281の回動範囲の上端を超えてしまうおそれがあり、一方、必要上糸量から使用上糸量を減算した値が負になるステッチが連続した場合に、回動アーム1281を初期位置に戻しておかないと、第1位置制御区間の終点において回動アーム1281の位置がステッチごとに下側に位置してしまい、回動アーム1281の回動範囲の下端を超えてしまうおそれがあるからである。
なお、上記の説明では、第1位置制御区間の終点と初期位置移動区間の始点が一致するとしたが、初期位置移動区間の始点を第2位置制御区間の始点よりも後にして、第2位置制御区間の始点から初期位置移動区間の始点までは、第2位置制御区間の始点(つまり、第1位置制御区間の終点)における上糸用モータ1286の位置を維持するようにしてもよい。
以上のようにして、図19~図22のフローチャートに示す処理を繰り返して行なうことにより、上糸用モータ1286の制御を行なう。なお、上糸制御についての図19~図22のフローチャートの説明において、PWM回路90bと電流センサ90cは、上糸用モータ1286に対応したPWM回路90bと電流センサ90cである。
次に、上流側把持部1240と下流側把持部1260の切換え制御については、図38、図39に示すように、上糸用モータ1286についてのトルク制御区間の終点から第1位置制御区間の終点までは、上流側把持部1240の把持部本体1241を開とし、下流側把持部1260の把持部本体1261を閉とし、一方、第1位置制御区間の終点からトルク制御区間の終点までは、上流側把持部1240の把持部本体1241を閉とし、下流側把持部1260の把持部本体1261を開とする。
すなわち、図27に示すフローチャートに従って説明すると、主軸角度を検出して(S41)(主軸角度の検出は、上記ステップS1と同様に行なう)、トルク制御区間の終点であるか否かを判定し(S42)、トルク制御区間の終点である場合には、上流側把持部1240の把持部本体1241を開とし、下流側把持部1260の把持部本体1261を閉とする。つまり、上糸Jは、把持部本体1241には固定されていないが、把持部本体1261に固定された状態となる。なお、前回の主軸角度の検出(S41)に際してトルク制御区間の終点には到達しておらず、今回の主軸角度の検出(S41)に際してトルク制御区間の終点を過ぎている場合にも、トルク制御区間の終点であると判断する。
また、トルク制御区間の終点でない場合には、第1位置制御区間の終点であるか否かを判定し(S44)、第1位置制御区間の終点である場合には、上流側把持部1240の把持部本体1241を閉とし、下流側把持部1260の把持部本体1261を開とする。なお、前回の主軸角度の検出(S41)に際して第1位置制御区間の終点には到達しておらず、今回の主軸角度の検出(S41)に際して第1位置制御区間の終点を過ぎている場合にも、位置制御区間の終点であると判断する。
以上のようにして、トルク制御区間と第2位置制御区間においては、把持部本体1241が閉、把持部本体1261が開となり、第1位置制御区間においては、把持部本体1241が開、把持部本体1261が閉となる。把持部本体1241、1261が閉になると、把持された上糸が固定され、把持部本体1241、1261が開になると、上糸の固定が解除される。
なお、磁石部1250を駆動することにより、第1板状部ユニット1242-1~1242-9における磁石部1250の位置に対応した第1板状部ユニットの第1板状部が磁力により吸引されて、第1板状部1242aと第2板状部1244間の隙間が強く閉じた状態となって、把持部本体1241が閉となり、第1板状部1242aと第2板状部1244とで上糸Jを挟んで把持した閉状態となる。例えば、図3、図4、図5、図6、図7に示すように、磁石部1250が第1板状部ユニット1242-8の第1板状部1242aの背面側に位置している場合には、磁石部1250を駆動することにより第1板状部1242aと第2板状部1244間の隙間が強く閉じた状態となって、第1板状部1242aと第2板状部1244間の上糸が把持される。また、磁石部1250を駆動しない場合には、第1板状部1242aと第2板状部1244間の隙間が強く閉じた状態とはならない(つまり、第1板状部と第2板状部とが単に接している状態となっている)ため、把持部本体1241が開となり、上糸把持を解除した開状態となる。このように上流側駆動部としての磁石部1250は、把持部本体1241に対して上糸を把持した閉状態と上糸把持を解除した開状態とを切り換える。
同様に、磁石部1270を駆動することにより、第1板状部ユニット1262-1~1262-9における磁石部1270の位置に対応した第1板状部ユニットの第1板状部が磁力により吸引されて、第1板状部1262aと第2板状部1264間の隙間が強く閉じた状態となって、把持部本体1261が閉となり、第1板状部1262aと第2板状部1264とで上糸Jを挟んで把持した閉状態となる。例えば、図3、図4、図5、図6、図7に示すように、磁石部1270が第1板状部ユニット1262-8の第1板状部1262a背面側に位置している場合には、磁石部1270を駆動することにより第1板状部1262aと第2板状部1264間の隙間が強く閉じた状態となって、第1板状部1262aと第2板状部1264間の上糸が把持される。また、磁石部1270を駆動しない場合には、第1板状部1262aと第2板状部1264間の隙間が強く閉じた状態とはならない(つまり、第1板状部と第2板状部とが単に接している状態となっている)ため、把持部本体1261が開となり、上糸把持を解除した開状態となる。このように下流側駆動部としての磁石部1270は、把持部本体1261に対して上糸を把持した閉状態と上糸把持を解除した開状態とを切り換える。
また、上糸制御部1230の動作を説明すると、初期位置移動区間の終点で、回動アーム1281が初期位置に位置し、第2位置制御区間の終点の位置では、回動アーム1281が初期位置に位置している(なお、図39の例では、初期位置移動区間の終点で回動アーム1281が初期位置に位置している)。つまり、回動アーム1281のフック部1284が斜め上方にある位置(図6、図7の1281(A)に示す位置)となっている。この初期位置では、回動アーム1281の先端は、開口部1342bからプレート部1341の正面側に露出している。なお、選択される上糸が変更される場合には、回動アーム1281が退避されるので、退避後に回動アーム1281を初期位置にまで回動させる。その際、回動アーム1281は上方に回動され、上糸支持部材1288に支持された上糸に接して掛止した状態で上糸を初期位置まで回動させる。
次に、トルク制御区間に入ると、上糸用モータ1286がトルク制御されて、上糸用モータ1286により回動アーム1281に対して上方に回転力が付与されている。これにより、天秤(天秤12a-1~12a-9のうち作動させる天秤(以下「作動天秤」とする))の上糸Jに対する引っぱり方向(引き上げ方向)に抗して回動アーム1281が上糸Jを引っぱっている状態で、作動天秤が上方に回動して上糸Jを加工布に対して引き上げている。これにより、作動天秤が上糸Jを引き上げる(つまり、作動天秤が上死点(他方の死点)に移行する)に伴い、回動アーム1281が作動天秤の上糸Jの引っぱり方向(下方)に回動していく。なお、トルク制御区間の終点では、把持部本体1241が開、把持部本体1261が閉となる。
なお、上糸制御用トルクデータにおいて設定されるトルクの値は、作動天秤が上糸Jを引き上げるに伴い回動アーム1281が作動天秤の上糸Jの引っぱり方向(下方)に回動し、作動天秤による上糸Jの引っぱりに支障がない程度の値に設定する。
トルク制御に際して、トルクの値が大きい場合には、上糸Jを強く引くので、そのステッチは固く縫われることになり、トルクの値が小さい場合には、上糸Jを弱く引くので、そのステッチは柔らかく縫われることになる。つまり、図37においては、図37(a)が図38における290度辺りの状態を示し、図37(b)が図38における330度辺りの状態を示し、図37(c)が図38における70度辺りの状態を示し、図37(d)が図38における110度辺りの状態を示し、図37(e)が図38における170度辺りの状態を示すが、図37(b)や図37(c)において上糸用モータ1286のトルク制御を行なうので、あるステッチにおけるトルクの値を大きくした場合には、上糸Jを強く引くことから、そのステッチは固く縫われ、一方、トルクの値を小さくした場合には、上糸Jを弱く引くことから、そのステッチは柔らかく縫われることになる。なお、図37において、Kは下糸を示し、Nは加工布を示している。
次に、第1位置制御区間に入ると、把持部本体1241が開、把持部本体1261が閉の状態で、上糸用モータ1286が位置制御されて回動アーム1281が上糸Jを上流から引き出す方向(上方)に回動する。つまり、トルク制御区間において回動アーム1281に回転力を付与する方向と同じ方向に回動アーム1281を回動させる。第1位置制御区間において、上糸用モータ1286が回転する角度は、上糸量データ92eにおいて、直近に到来するトルク制御区間のステッチについての補正後必要上糸量に対応する角度である。つまり、上糸量データにおける該ステッチ(直近に到来するトルク制御区間のステッチ)の補正後必要上糸量に対応する回転角度を第2対応テーブル92gから検出して、検出された回転角度分上糸用モータ1286を回転させる。なお、回転角度の検出に際しては、複数の個別テーブル92g-1等から、第1位置制御区間の始点における上糸用モータ1286の角度(上糸用モータ1286の現在位置の角度)に対応した個別テーブルを選択して、選択した個別テーブルから回転角度を検出する。そして、上糸用モータ1286が、該検出した回転角度分回転するように、第1角度対応データに従い位置制御する。つまり、第1位置制御区間の始点における上糸用モータ1286の角度、及び、直近に到来するトルク制御区間のステッチにおける補正後必要上糸量により特定される角度分回転するように上糸用モータを制御することにより、補正後必要上糸量分の上糸を引き出すように、回動アーム1281を回動させる。つまり、該角度は、上糸用モータ1286の角度と補正後必要上糸量により特定される。よって、上糸量データに記憶された補正後必要上糸量によっては、図39の角度推移R-1に示すように、回動アーム1281が初期位置を超えて上方に回動することもあり、一方、角度推移R-2に示すように、回動アーム1281が初期位置まで回動しない場合もある。また、第1位置制御区間の終点で、回動アーム1281が初期位置になることもある。なお、第1位置制御区間の終点では、把持部本体1241が閉、把持部本体1261が開となる。なお、図39は、上糸用モータ1286の角度の変化を示すものであるが、回動アーム1281の角度も同様に変化する。
次に、第2位置制御区間に入ると、把持部本体1241が閉、把持部本体1261が開の状態で、回動アーム1281が初期位置に戻るように、第2角度対応データに従い位置制御される。なお、図39の角度推移R-1に示すように、第1位置制御区間の終点で、回動アーム1281が初期位置を超えて上方に回動している場合には、第2位置制御区間では、回動アーム1281は下方に回動し、一方、第1位置制御区間の終点で、回動アーム1281が初期位置に達していない場合には、第2位置制御区間では、回動アーム1281は上方に回動する。なお、第1位置制御区間の終点において、回動アーム1281が初期位置に位置している場合には、第2位置制御区間では回動アーム1281は回動する必要がない。
図6、図7における1281(A)は第2位置制御区間の終点で上糸用モータ1286が初期位置に戻ることにより回動アーム1281が初期位置(原点位置としてもよい)にまで回動した状態を示している。
次に、上糸量データ92eの補正について説明する。すなわち、図28に示すフローチャートに従って説明すると、主軸角度を検出して(S51)(主軸角度の検出は、上記ステップS1と同様に行なう)、トルク制御区間の終点であるか否かを判定し(S52)、トルク制御区間の終点である場合には、使用上糸量を検出する(S53)。つまり、上糸用モータ1286の初期位置からトルク制御区間の終点までの回転角度(図39における角度α)を検出し、第1対応テーブル92fにより、検出した回転角度に対応する使用上糸量を検出する。なお、上糸用モータ1286の回転角度と回動アーム1281の回動角度は、同じ角度であるので、上糸用モータ1286の回転角度を検出することにより、回動アーム1281の回動角度が検出される。
そして、検出した使用上糸量と補正前必要上糸量とを比較して(S54)、補正前必要上糸量と使用上糸量が同じであれば処理を終了し、補正前必要上糸量と使用上糸量が異なる場合には、補正前必要上糸量が使用上糸量よりも大きいか否かを判断し(S55)、補正前必要上糸量が使用上糸量よりも大きい場合(つまり、差が正の場合)には、補正後必要上糸量データにおける対象ステッチの次のステッチ以降のステッチ(つまり、対象ステッチの次のステッチを含み、該次のステッチから続くステッチ)の補正後必要上糸量を予め定められた長さ(単位補正値)増加する補正を行ない(S56)、補正前必要上糸量が使用上糸量よりも小さい場合(つまり、差が負の場合)には、補正後必要上糸量データにおける対象ステッチの次のステッチ以降のステッチの補正後必要上糸量を予め定められた長さ(単位補正値)減少する補正を行ない(S57)。つまり、上糸量データ92eにおける補正後必要上糸量データにおいて、必要上糸量が、補正後の必要上糸量に更新して記憶される。単位補正値は、絶対値により構成される。
ステップS53の処理は、トルク制御区間の終了のタイミング(図38、図39におけるZ2のタイミング)で行ない、ステップS54~S57の処理は、次の糸引出し区間の始点(Z4)までに行なう。
すなわち、上記ステップS55~S57の具体的な例を図29、図30を使用して説明すると、ステッチm~ステッチm+3・・・において、補正前必要上糸量には、A0~A3・・・が格納され、補正後必要上糸量には、補正前の状態では、同じようにA0~A3・・・が格納されている状態で(図29(a))、まず、ステッチmを対象ステッチとし、ステッチmにおけるトルク制御区間における使用上糸量がB0であり、A0-B0(補正前必要上糸量-使用上糸量)が+0.1mmであるとすると、補正前必要上糸量が使用上糸量より大きい(つまり、差が正)ので、ステッチmの次のステッチ以降のステッチの補正後必要上糸量に対して単位補正値を加算する補正を行なう。つまり、補正後必要上糸量データにおける必要上糸量を増加させる補正を行なう。図29の例では、ステッチm+1以降のステッチの必要上糸量を全て0.1mm(単位補正値)加算している(図29(b))。つまり、ステッチmを対象ステッチとすると、対象ステッチの次のステッチ以降のステッチの必要上糸量(補正後必要上糸量データにおける必要上糸量)を補正する。
よって、ステッチmの第1位置制御区間においては、次のステッチのための上糸を用意するため、ステッチm+1の補正された必要上糸量(つまり、補正後必要上糸量)が適用され、上糸用モータ1286は、A1+0.1mmの長さ分回転する。すなわち、ステッチmの制御区間の第1位置制御区間では、上糸用モータ1286は、ステッチm+1(つまり、直近に到来するトルク制御区間のステッチ)における補正後必要上糸量と上糸用モータ1286の現在位置の角度(ステッチmの第1位置制御区間の始点における角度)により特定される角度分回転して、直近に到来するトルク制御区間で使用する上糸を用意する。補正後必要上糸量から回転角度の検出は、第2対応テーブル92gにより行なう。
その後、次の対象ステッチであるステッチm+1においては、トルク制御区間における使用上糸量がB1であり、A1-B1(補正前必要上糸量-使用上糸量)が+0.2mmであるとすると、補正前必要上糸量が使用上糸量より大きい(つまり、差が正)ので、ステッチm+1の次のステッチ以降のステッチの補正後必要上糸量に対して単位補正値を加算する補正を行なう。つまり、補正後必要上糸量データにおける必要上糸量を増加させる補正を行なう。図30の例では、ステッチm+2以降のステッチの必要上糸量を全て0.1mm(単位補正値)加算することにより、結果として、ステッチm+2以降のステッチの補正後必要上糸量は、もとともとの必要上糸量(補正前必要上糸量)に0.2加算した値となる(図30(c))。つまり、ステッチm+1を対象ステッチとすると、対象ステッチの次のステッチ以降のステッチの必要上糸量(補正後必要上糸量データにおける必要上糸量)を補正する。
よって、ステッチm+1の第1位置制御区間においては、次のステッチのための上糸を用意するため、ステッチm+2の補正された必要上糸量が適用され、上糸用モータ1286は、A1+0.2mmの長さ分回転する。すなわち、ステッチm+1の制御区間の第1位置制御区間では、上糸用モータ1286は、ステッチm+2(つまり、直近に到来するトルク制御区間のステッチ)における補正後必要上糸量と上糸用モータ1286の現在位置の角度(ステッチm+1の第1位置制御区間の始点における角度)により特定される角度分回転して、直近に到来するトルク制御区間で使用する上糸を用意する。
その後、次の対象ステッチであるステッチm+2においては、トルク制御区間における使用上糸量がB2であり、A2-B2(補正前必要上糸量-使用上糸量)が-0.1mmであるとすると、補正前必要上糸量が使用上糸量より小さい(つまり、差が負)ので、対象ステッチ(ステッチm+2)の次のステッチ以降のステッチの補正後必要上糸量から単位補正値を減算する補正を行なう。つまり、補正後必要上糸量データにおける必要上糸量を減少させる補正を行なう。図30の例では、ステッチm+3以降のステッチの必要上糸量を全て0.1mm(単位補正値)減少させることにより、結果として、ステッチm+3以降のステッチの補正後必要上糸量は、もとともとの必要上糸量(補正前必要上糸量)に0.1加算した値となる(図30(d))。つまり、ステッチm+2を対象ステッチとすると、対象ステッチの次のステッチ以降のステッチの必要上糸量(補正後必要上糸量データにおける必要上糸量)を補正する。
よって、ステッチm+2の第1位置制御区間においては、次のステッチのための上糸を用意するため、ステッチm+3の補正された必要上糸量(補正後必要上糸量)が適用され、上糸用モータ1286は、A1+0.1mmの長さ分回転する。すなわち、ステッチm+2の制御区間の第1位置制御区間では、上糸用モータ1286は、ステッチm+3(つまり、直近に到来するトルク制御区間のステッチ)における補正後必要上糸量データと上糸用モータ1286の現在位置の角度(ステッチm+2の第1位置制御区間の始点における角度)により特定される角度分回転して、直近に到来するトルク制御区間で使用する上糸を用意する。
すなわち、補正前必要上糸量が使用上糸量よりも大きいということは、本来必要であるはずの上糸量が、上糸の張力が下糸に比較して強い等のために消費されず、図33(c)のように、使用上糸量が少ない結果となっているので、補正後必要上糸量を加算する補正を行って、上糸をより多く供給することにより、使用上糸量を補正前必要上糸量に近づけ、一方、補正前必要上糸量が使用上糸量よりも小さいということは、上糸の張力が下糸に比較して弱い等のために、必要以上に上糸が消費されていて、図33(a)のように、使用上糸量が多い結果となっているので、補正後必要上糸量を減算する補正を行って、上糸の供給を少なくすることにより、使用上糸量を補正前必要上糸量に近づけるのである。
上記の方法では、各ステッチを順次対象ステッチとし、各対象ステッチごとに使用上糸量と補正前必要上糸量とを比較して、補正後必要上糸量を補正するので、きめ細かく使用上糸量を補正前必要上糸量に近づけることができる。
なお、上記の説明においては、刺繍データにおけるステッチにおいて順次1つのステッチを対象ステッチと特定し、各ステッチごとに順次上糸量データの補正を行なうとして説明したが、対象ステッチを含む複数のステッチから構成されるステッチ群について補正前必要上糸量と使用上糸量を比較して、上糸量データを補正するようにしてもよい。すなわち、必要上糸量の複数のステッチ分の合計(つまり補正前必要上糸量の合計)と使用上糸量の複数のステッチ分の合計(つまり、使用上糸量の合計)を比較して、補正前必要上糸量の合計が使用上糸量の合計よりも大きい場合には、対象ステッチの次のステッチ以降のステッチの補正後必要上糸量に対して単位補正値を加算し、補正前必要上糸量の合計が使用上糸量の合計よりも小さい場合には、対象ステッチの次のステッチ以降のステッチの補正後必要上糸量に対して単位補正値を減少させる。なお、該ステッチ群は、対象ステッチと対象ステッチより前のステッチからなる複数のステッチから構成され、該複数のステッチは、連続している。つまり、ステッチ群は、対象ステッチと対象ステッチの前に対象ステッチから連続する1又は複数のステッチから構成される。また、上記の「使用上糸量の複数のステッチ分の合計」における複数のステッチとは、「補正前必要上糸量の複数のステッチ分の合計」における複数のステッチと同じステッチである。
なお、複数のステッチからなるステッチ群について補正前必要上糸量と使用上糸量を比較する際に、ステッチ群における直近のステッチである対象ステッチについては、刺繍データにおける各ステッチを順次対象ステッチとしてもよいし、ステッチ群を構成するステッチの数ごとに対象ステッチを設けてもよい。
例えば、図29、図30の例において、ステッチ群を構成するステッチの数を2とする場合には、ステッチm~ステッチm+1における補正後必要上糸量の更新を行わず、ステッチm+1において、ステッチm+2以降の必要上糸量(補正後必要上糸量)を補正する。この場合、ステッチm+1が対象ステッチとなり、ステッチm+1とステッチmがステッチ群を構成する。つまり、ステッチm+1においては、(A0-B0)+(A1-B1)は、+0.2mmとなり、差が正であるので、ステッチm+2以降の補正後必要上糸量を0.1mm加算する。つまり、この場合のステッチm+2の必要上糸量は、A2+0.1mmとなり、ステッチm+3の必要上糸量は、A3+0.1mmとなる(なお、ステッチmの必要上糸量は、A0のままであり、ステッチm+1の必要上糸量は、A1のままであるる)。
次に、各ステッチを順次対象ステッチとする場合には、ステッチm+1の次の対象ステッチがステッチm+2となるとともに、ステッチm+2とステッチm+1がステッチ群を構成するので、(A1-B1)-(A2-B2)は、+0.1mmとなり、差が正であるので、ステッチm+3以降の必要上糸量を0.1mm増加させる。つまり、この場合のステッチm+3の必要上糸量は、A3+0.2mmとなる。
一方、ステッチ群を構成するステッチの数ごとに対象ステッチを設ける場合には、上記の場合、2ステッチごとに対象ステッチを設けるので、対象ステッチであるステッチm+1の次の対象ステッチは、ステッチm+3となり(つまり、次の2ステッチにおける直近のステッチであるステッチm+3となる)、ステッチm+2とステッチm+3の2つのステッチにおける使用上糸量の合計と必要上糸量の合計を比較して、比較結果に基づき、ステッチm+4(つまり、対象ステッチの次のステッチ)以降のステッチの上糸量データを補正する。
以上のように、複数のステッチからなるステッチ群について使用上糸量と補正前必要上糸量を比較して、上糸量データを補正する場合には、各ステッチごとに順次上糸量データの補正を行なう場合に比べて、補正前必要上糸量と使用上糸量の差が正と負の間で変動する頻度を小さくできるので、加工布の裏側における上糸の割合の変化を小さくすることができる。
また、ステッチ群を構成するステッチの数ごとに対象ステッチを設ける場合には、必要上糸量の補正を行なう頻度が少なくなるので、その分制御回路90の負担を小さくすることができる。
なお、ステッチ群は、対象ステッチと対象ステッチより前のステッチからなる複数のステッチから構成され、該複数のステッチは、連続しているとしたが、対象ステッチと対象ステッチの前の1又は複数のステッチから構成されるものとしてもよく、複数のステッチが連続していなくてもよい。例えば、対象ステッチと、対象ステッチの2つ前のステッチによりステッチ群を構成してもよい。この場合、ステッチm+2を対象ステッチとした場合には、ステッチm+2とステッチmとでステッチ群が構成される。つまり、ステッチ群は、対象ステッチを含む複数のステッチであればよく、対象ステッチを含む複数のステッチについて、使用上糸量と補正前必要上糸量を比較して、必要上糸量を補正すればよい。
また、上記の説明では、各ステッチごとの制御区間において、図38、図39に示すように、トルク制御区間の後に第1位置制御区間が設けられ、第1位置制御区間の後に第2位置制御区間が設けられるとしたが、第1位置制御区間の後に第2位置制御区間が設けられ、第2位置制御区間の後にトルク制御区間が設けられるものとしてもよい。
この場合でも、あるステッチ(対象ステッチ)においては、第1位置制御区間において、そのステッチの制御区間におけるトルク制御区間(直近に到来するトルク制御区間)のステッチにおける補正後必要上糸量データと第1位置制御区間の始点における上糸用モータ1286の角度により特定される角度分上糸用モータ1286を回転させて、該トルク制御区間で使用される上糸を引き出す。つまり、この場合には、図38、図39に示すステッチの制御区間の場合と異なり、直近に到来するトルク制御区間のステッチは、対象ステッチと同じステッチとなる。また、上糸量データの補正に際しては、対象ステッチにおけるトルク制御区間の終点において、使用上糸量が検知できるので、補正前必要上糸量と使用上糸量とを比較して、対象ステッチの次のステッチ以降の必要上糸量データを補正する。
また、上記の説明では、単位補正値を加算又は減算するとしたが、単位補正値が複数設けられ、複数の単位補正値における各単位補正値は互いに異なる値として、必要上糸量の補正において、複数の単位補正値から選択された単位補正値を必要上糸量に対して増減するようにしてもよい。
例えば、必要上糸量の補正において、補正前必要上糸量から使用上糸量を減算した値の絶対値の大きさに応じて、必要上糸量に対して増減させる単位補正値を変化させ、該絶対値の大きさが大きいほど、単位補正値が大きくなるように変化させてもよい。
つまり、補正前必要上糸量と使用上糸量の差(補正前必要上糸量から使用上糸量を減算した値の絶対値)が予め定められたしきい値よりも大きい場合には、単位補正値を大きくし、補正前必要上糸量と使用上糸量の差がしきい値よりも小さい場合には、単位補正値を小さくする。
例えば、図29、図30の例で、単位補正値を0.1mmと0.2mmの二種類設け、しきい値を0.3とし、必要上糸量と使用上糸量の差(必要上糸量から使用上糸量を減算した値の絶対値)が該しきい値以下の場合には、単位補正値を0.1mmとし、必要上糸量と使用上糸量の差が該しきい値を超えたら単位補正値を0.2mmとする。このようにすることにより、使用上糸量を補正前必要上糸量に早く近づけることができる。
また、大きさの異なる複数の単位補正値を設け、必要上糸量の補正において、補正前必要上糸量から使用上糸量を減算した値の正負のいずれか一方が連続する回数に応じて、必要上糸量に対して増減させる単位補正値を変化させ、補正前必要上糸量から使用上糸量を減算した値の正負のいずれか一方が連続する回数が多いほど、単位補正値が大きくなるように変化させてもよい。
例えば、図29、図30の例で、単位補正値を0.1mmと0.2mmの二種類設け、該正負のいずれか一方となるステッチが連続する回数が2回以下の場合には、単位補正値を0.1mmとし、該正負のいずれか一方となるステッチが3つ以上連続した場合には、単位補正値を0.2とする。これにより、補正前必要上糸量から使用上糸量を減算した値が正となるステッチが3つ連続した場合には、必要上糸量に0.2mmを加算し、補正前必要上糸量から使用上糸量を減算した値が負となるステッチが3つ連続した場合には、必要上糸量から0.2mmを減算する。このようにすることにより、使用上糸量を補正前必要上糸量に早く近づけることができる。
また、上記の説明においては、補正前必要上糸量データにおける必要上糸量を上記の計算式(L+2×T+L×2/3)に従い計算して設定するとしたが、対象ステッチと対象ステッチの直前のステッチとの間の角度(鋭角の角度)(これを内角とする)に応じて定めてもよい。なお、内角とは、図31に示すように、ステッチmとステッチmの直前のステッチm-1の間の鋭角の角度γであり、該内角は絶対値である。このステッチmは、補正前必要上糸量の対象となるステッチであり、ステッチmの補正前必要上糸量を算出する際に、ステッチmとステッチm-1間の内角が考慮される。
すなわち、加工布の裏側における上糸と下糸の長さの割合が2:1とするのは、実際には、図31(a)に示すように内角が0の場合に適しており、図31(d)に示すように、内角が180度の場合には、加工布の裏側には、上糸はほとんど表れないことから、必要上糸量は0としてよい。よって、内角が0度の場合には、必要上糸量を上記計算式に従い算出するとともに、内角が180度の場合には、必要上糸量を0とし、内角が0度から180度に移行するに従い、直線的に比例して変化するようにする。つまり、上糸量データにおける補正前必要上糸量を予め格納しておく際に、必要上糸量に対して内角に応じた調整を行っておく。
すなわち、図32に示すような内角テーブル92hを用意しておき(内角テーブル92hは、記憶装置92に記憶しておく)、内角テーブル92hに規定された補正係数を上記計算式に加えて必要上糸量を計算する。つまり、この内角テーブル92hは、内角0度における補正係数が1000であるとともに、内角180度における補正係数が0であり、内角0度から180度に向けて補正係数が直線的に比例して変化するように規定されている。そして、補正係数をwとした場合に、必要上糸量の計算に際しては、L+2×T+(L×2/3×w/1000)の計算式により必要上糸量を計算する。つまり、加工布の裏側の上糸の長さに対して、内角の大きさにより重み付けする(つまり、加工布の裏側の上糸の長さに対して、内角の大きさに応じた係数を積算する)ことにより、加工布の裏側の上糸の長さを調整するのである。
なお、上糸の長さと下糸の長さの割合をA:Bとした場合には、補正係数を加えた計算式は、L+2×T+(L×A/(A+B)×w/1000)となる。なお、w/1000をWとし、Wを補正係数とした場合には、上記計算式は、L+2×T+(L×A/(A+B)×W)となる。Wを補正係数とした場合には、内角0度における補正係数が1であり、内角180度における補正係数が0となる。
なお、内角を考慮した場合の補正前必要上糸量データにおいても、外部で生成された補正前必要上糸量データを入出力装置94を介して上糸量データに記憶させてもよいし、制御回路90により補正前必要上糸量を計算して、上糸量データに記憶させてもよい。つまり、ステッチ幅のデータは、外部から入力された刺繍データ92aに記憶されていて、内角については、刺繍データ92aにおけるステッチ方向により算出することができるので、加工布の厚みのデータと、加工布の裏側における上糸の長さと下糸の長さの割合のデータを入出力装置94を介して入力することにより、制御回路90により補正前必要上糸量を計算することができる。また、内角をステッチ方向から算出するとしたが、内角のデータを入出力装置94を介して外部から入力してもよい。
以上のようにして、あるステッチと該ステッチの1つ前のステッチがなす角度(内角)を考慮して補正前必要上糸量を計算するので、補正前必要上糸量をより適切な値とすることができる。
以上のように、刺繍データに従い刺繍縫いを行なう際に、各ステッチごとの制御区間において、天秤が上糸により縫製する加工布に対して上糸を引っぱる区間である天秤の一方の死点から他方の死点までの区間における少なくとも一部を含む区間であるトルク制御区間においては、上流側把持部本体が閉状態で、下流側把持部本体が開状態である状態で、天秤が上糸を引っぱる方向に対抗して上糸に張力を付与するようにトルクデータのトルク値に従い上糸用モータを制御することにより回動アームに回転力を付与するトルク制御が行われ、また、トルク制御区間以外の区間の少なくとも一部である第1位置制御区間においては、上流側把持部本体が開状態で、下流側把持部本体が閉状態である状態で、上糸用モータが、補正後必要上糸量データにおける必要上糸量で、直近に到来するトルク制御区間のステッチにおける必要上糸量に対応する角度分回転するように上糸用モータを位置制御することにより、トルク制御区間において回動アームに回転力を付与する方向と同じ方向に回動アームを回動させて、上糸を上流から引き出す第1位置制御が行われ、また、トルク制御区間以外の区間の少なくとも一部であり、第1位置制御区間の後の区間である第2位置制御区間においては、上流側把持部本体が閉状態で、下流側把持部本体が開状態である状態で、上糸用モータの回転方向の位置である上糸用モータの角度における初期位置に上糸用モータの角度が戻るように上糸用モータを位置制御する第2位置制御が行われる。
また、刺繍データにおけるステッチにおいて順次特定される1つのステッチである対象ステッチ又は対象ステッチを含む複数のステッチについて、トルク制御区間において使用された上糸の長さを示す使用上糸量(具体的には、トルク制御区間における上糸用モータの回転角度から特定される上糸長さ)を補正前必要上糸量データにおける必要上糸量と比較することにより、必要上糸量が使用上糸量よりも大きい場合には、対象ステッチの次のステッチ以降の補正後必要上糸量データにおける必要上糸量を増加する補正が行なわれ、一方、必要上糸量が使用上糸量よりも小さい場合には、対象ステッチの次のステッチ以降の補正後必要上糸量データにおける必要上糸量を減少させる補正が行なわれる。
次に、主軸モータ20の制御について説明する。主軸モータ20の制御は、上糸用モータ1286における位置制御の場合と同様に行なう。
まず、主軸データから角度データ(位置データとしてもよい)を読み出す(図34のS61、図36のS61、読出し工程)。つまり、主軸データにおいて処理の対象となる時間に対応する角度(主軸角度)を検出してその角度のデータを読み出す。
次に、検出した主軸角度の単位時間当たりの変化量を検出して速度データを算出する(図34のS62、図36のS62、速度データ算出工程)。速度データの算出に際しては、角度データの変化量を時間で除算することにより速度データを算出する。つまり、角度データを微分することにより速度データを算出する。
次に、速度データの単位時間当たりの変化量を検出してトルクデータを算出する(図34のS63、図36のS63、トルクデータ算出工程)。トルクデータの算出に際しては、速度データの変化量を時間で除算することによりトルクデータを算出する。つまり、速度データを微分することにより速度データを算出する。なお、速度の変化量を算出するために必要な速度データは予めCPU90aが保持しておく。
次に、ステップS63で算出されたトルクデータからトルク補償データを算出する(図34のS64、図36のS64)。すなわち、トルクデータに対して慣性比率を乗算し(図36のS64-1)、慣性比率を乗算して得た値にメカロスに基づくトルクを加算してトルク補償データを算出する(図36のS64-2)。ここで、慣性比率とは、各機械要素の質量等に応じて予め定められた定数であり、メカロスに基づくトルクは、各機械要素に応じて予め定められた値である。
次に、ステップS61において読み出された角度データからエンコーダ21からのデータ(エンコーダのカウント値)を減算する(図35のS65、図36のS65、位置偏差算出工程)。このステップS65で算出された値は、位置偏差の値といえる。
次に、ステップS65で算出された算出値に対して、予め定められた定数を乗算して、速度値を算出する(図35のS66、図36のS66)。
次に、エンコーダ21からの出力を微分してモータ現在速度値を算出する(図35のS67、図36のS67)。つまり、エンコーダのカウント値の単位時間当たりの変化量を算出して、モータ現在速度値を算出する。
次に、ステップS66で算出された速度値からステップS67で算出されたモータ現在速度値を減算し、さらに、ステップS62で算出された速度データを加算する(図35のS68、図36のS68、速度偏差算出工程)。このステップS68で算出された値は、速度偏差の値であるといえる。
次に、ステップS68で算出された算出値に対して、予め定められた定数を乗算して、トルク値を算出する(図35のS69、図36のS69)。
次に、ステップS69で算出されたトルク値から電流センサ90cからのトルク値を減算し、さらに、ステップS64で算出されたトルク補償データを加算する(図35のS70、図36のS70、トルク偏差算出工程)。このステップS70で算出された値は、トルク偏差の値といえる。
次に、ステップS70で算出された算出値に対して、予め定められた定数を乗算して、PWM回路90bに出力する電圧値(PWM回路への電圧指令)を算出し(図35のS71、図36のS71)、PWM回路90bに出力する(図35のS72、図36のS72)。
PWM回路90bは、入力された信号に基づき電圧信号としてのパルス信号を出力して、主軸モータ20に対して電流を供給する(図35のS73、図36のS73、電流供給工程)。なお、主軸モータ20の制御についての図34、図35のフローチャートの説明において、PWM回路90bと電流センサ90cは、主軸モータ20に対応したPWM回路90bと電流センサ90cである。
以上のように、本実施例のミシンによれば、上糸量データを設けて、各ステッチごとに補正前必要上糸量を定めておき、補正前必要上糸量と使用上糸量の大小に応じて補正後必要上糸量データを補正していくので、使用上糸量を補正前必要上糸量に近づけることができ、上糸の使用量と下糸の使用量のバランスを所望のバランスとすることができる。上糸の使用量と下糸の使用量のバランスを所望のバランスとすることができるので、上糸の使用量と下糸の使用量のバランスが安定した縫い上がりを得ることができる。
つまり、加工布の裏側における上糸の長さと下糸の長さの割合に応じて補正前必要上糸量を定めておくことにより、上糸の使用量と下糸の使用量のバランスを所望のバランスとすることができる。
特に、下糸用のボビンケースで、糸調子バネを取り付けたボビンケースを用いた従来の構成を用いた場合でも、上糸の使用量と下糸の使用量のバランスを所望のバランスとすることができるので、低コストでミシン(つまり、上糸の使用量と下糸の使用量のバランスを所望のバランスとすることができるミシン)を提出することができる。
また、補正前必要上糸量を設定する際に、対象ステッチと対象ステッチの前のステッチの角度である内角に考慮して補正前必要上糸量を設定することにより、補正前必要上糸量をより適切な値とすることができる。
また、本実施例のミシン1によれば、トルク制御区間において上糸に対してトルク制御を行なうので、上糸に対する張力の大きさを制御することができ、特に、上糸制御用トルクデータにより、トルク制御区間においてステッチごとにトルク制御を行なうので、ステッチごとに上糸への張力を制御することができ、ステッチごとに縫い目の固さを調整することができる。
また、複数のミシン1においても、記憶装置92に記憶された上糸制御用トルクデータ92bと区間位置データ92cと上糸量データ92eを同一とすることにより、各ミシンにおいて加工布に同一の刺繍を形成することができ、各ミシンにおいて形成された刺繍の同一性を極めて高くすることができる。
また、従来のミシンにおいては、上糸ボビンに巻回された巻き糸から天秤までの上糸経路上に、プリテンション、糸調子皿、ロータリーテンション、糸調子バネが存在するが、上糸Jを引き出す第1位置制御区間においては、把持部本体1241が開となり、回動部1280の回動アーム1281よりも上流には、プリテンションが存在するのみで糸調子皿とロータリーテンションの摩擦抵抗が存在せず、また、把持部本体1261が閉となるので、天秤の動きが上糸を引き出す際の支障となることがなく、よって、上糸を円滑に巻き糸から引き出すことができ、糸切れのおそれを小さくすることができる。
また、上糸の糸切れが発生した場合には、トルク制御区間において、天秤が上死点に移行する際に回動アーム1281が下方に回動することがない、すなわち、回動アーム1281が上糸用モータ1286の回転力付与方向と反対方向に引っぱられることがないので、回動アーム1281が下方に回動しないことを検出することにより糸切れを検出することができ、また、糸切れが発生していない場合には、トルク制御区間においては、回動アーム1281が下方に回動するので、正確に糸切れを検出することができる。
また、位置制御区間においては、第1位置制御区間において、上糸用モータ1286の現在位置を検出し、補正後必要上糸量分の上糸を引き出すように位置制御するための第1角度対応データを作成し、この第1角度対応データに従い上糸用モータ1286を位置制御するので、次のステッチのトルク制御区間で必要な上糸が不足することがない。
なお、上記の説明において、使用上糸量を回動アーム1281の回動角度に従い検出するものとしたが、他の方法により、トルク制御区間において使用された上糸の長さを検出してもよく、例えば、上糸経路における下流側把持部1260(特に、把持部本体1261)よりも下流側に上糸が通過する長さを検知する機構を設けてもよい。該機構としては、上糸の移送に伴い回転するプーリと、該プーリの回転角度を検出するエンコーダからなる構成が考えられる。ただし、該機構によれば、上糸とプーリとの間に摩擦抵抗が生じてしまうので、回動アーム1281の回動角度に従い使用上糸量を検出する方法が、容易に使用上糸量を検出できる方法であるといえる。
なお、上記の説明において、ミシン1は、刺繍用ミシンであるとしたが、刺繍用ミシン以外のミシン(つまり、縫製用ミシン)であってもよい。
縫製用ミシンの場合には、1つのヘッドにおいて、天秤や針棒は通常1つであり、刺繍データの代わりに縫製データとなるが、縫製データにおいても、図11のように、各ステッチごとに、ステッチ幅とステッチ方向と糸属性のデータが設けられる(なお、糸属性のデータは省略してもよい)。また、この縫製用ミシンの場合においても、縫製データに従い縫製を行なう際に、各ステッチごとの制御区間において、天秤が上糸により縫製する加工布に対して上糸を引っぱる区間である天秤の一方の死点から他方の死点までの区間における少なくとも一部を含む区間であるトルク制御区間においては、上流側把持部本体が閉状態で、下流側把持部本体が開状態である状態で、天秤が上糸を引っぱる方向に対抗して上糸に張力を付与するようにトルクデータのトルク値に従い上糸用モータを制御することにより回動アームに回転力を付与するトルク制御が行われ、また、トルク制御区間以外の区間の少なくとも一部である第1位置制御区間においては、上流側把持部本体が開状態で、下流側把持部本体が閉状態である状態で、上糸用モータが、補正後必要上糸量データにおける必要上糸量で、直近に到来するトルク制御区間のステッチにおける必要上糸量に対応する角度分回転するように上糸用モータを位置制御することにより、トルク制御区間において回動アームに回転力を付与する方向と同じ方向に回動アームを回動させて、上糸を上流から引き出す第1位置制御が行われ、また、トルク制御区間以外の区間の少なくとも一部であり、第1位置制御区間の後の区間である第2位置制御区間においては、上流側把持部本体が閉状態で、下流側把持部本体が開状態である状態で、上糸用モータの回転方向の位置である上糸用モータの角度における初期位置に上糸用モータの角度が戻るように上糸用モータを位置制御する第2位置制御が行われる。
また、縫製用ミシンの場合にも、縫製データにおけるステッチにおいて順次特定される1つのステッチである対象ステッチ又は対象ステッチを含む複数のステッチについて、トルク制御区間において使用された上糸の長さ又はトルク制御区間における上糸用モータの回転角度から特定される上糸長さを示す使用上糸量を補正前必要上糸量データにおける必要上糸量と比較することにより、必要上糸量が使用上糸量よりも大きい場合には、対象ステッチの次のステッチ以降の補正後必要上糸量データにおける必要上糸量を増加する補正が行なわれ、一方、必要上糸量が使用上糸量よりも小さい場合には、対象ステッチの次のステッチ以降の補正後必要上糸量データにおける必要上糸量を減少させる補正が行なわれる。
以上のように、刺繍用ミシン以外のミシンにおいても、上糸の使用量と下糸の使用量のバランスを所望のバランスとすることができる、上糸の使用量と下糸の使用量のバランスが安定した縫い上がりを得ることができる。また、下糸用のボビンケースで、糸調子バネを取り付けたボビンケースを用いた従来の構成を用いた場合でも、上糸の使用量と下糸の使用量のバランスを所望のバランスとすることができるので、低コストでミシン(つまり、上糸の使用量と下糸の使用量のバランスを所望のバランスとすることができるミシン)を提出することができる。
なお、上記の説明において、トルク制御区間の終点が第1位置制御区間の始点と一致するとしたが、第1位置制御区間を糸引出し区間とし、第2位置制御区間を初期位置移動区間として、トルク制御区間の終点から糸引出し区間の始点までを回動アーム1281の角度を維持する第1角度維持区間とし、初期位置移動区間の終点からトルク制御区間の始点までを回動アーム1281の角度を維持する第2角度維持区間としてもよい。この場合、上流側把持部1240を閉から開とし、下流側把持部1260を開から閉にするタイミングは、トルク制御区間の終点から糸引出し区間の始点までのいずれかの位置とする。
なお、「縫製データ」は、「刺繍データ」の上位概念の語であり、刺繍データは、縫製データに含まれるといえる。
なお、各実施例の図面において、Y1-Y2方向は、X1-X2方向に直角な方向であり、Z1-Z2方向は、X1-X2方向及びY1-Y2方向に直角な方向である。