本発明においては、刺繍対象の布に重ねる板状の部材が必要ないとともに、該板状の部材を溶解する必要がなく、さらには、各ステッチごとに上糸の長さを調整できて、きめの細かい中空刺繍を得ることができるミシンを提供するという目的を以下のようにして実現した。
本実施例に基づくミシン5は、刺繍用ミシンであり、図1〜図14に示すように構成され、ヘッド(刺繍ヘッド)7と、釜12dと、縫製枠12eと、枠駆動装置24と、記憶装置92とを有している。
ここで、ヘッド7は、略平板状のミシンテーブル3の上方に設けられている。つまり、ミシンテーブルの上面からはフレーム120(図2、図3参照)が立設して設けられ、このフレーム120の正面側にヘッド7が設けられている。また、ミシンテーブル3は、略平板状を呈し、図6に示すように、板状のテーブル本体4と、テーブル本体4に形成された開口部に設けられた針板5とを有している。針板5には針孔5aが設けられている。
ヘッド7は、図1〜図11に示すように構成され、機械要素群10と、主軸モータ20と、主軸22と、上流側把持部40と、下流側把持部60と、回動部80と、上糸支持部材88と、制御回路90と、上糸ガイド104、106と、ケース部110とを有している。なお、上流側把持部40と下流側把持部60とで上糸制御部が構成される。
この機械要素群10は、ヘッド7において駆動される各機械要素であり、機械要素としては、天秤12aと、針棒12bと、布押さえ12cが設けられている。天秤12aや針棒12bは、従来におけるミシンと同様に、主軸22の回転力をカム機構又はベルト機構等の動力伝達手段を介して伝達することにより駆動する。
天秤12aは、ケース部110に設けられ、左右方向(X1−X2方向)の軸線(回転中心)を中心に揺動可能に形成され、下死点(一方の死点)と上死点(他方の死点)間を回動する。つまり、天秤12aは、回転中心(揺動中心としてもよい)12abを中心に揺動するように、ケース部110に軸支されている。天秤12aには、縫い針12baに挿通される上糸が挿通される。なお、天秤12aの先端は、ケース部110の正面部110−1に設けられた開口部116dから正面側(Y1側)に突出して露出している。なお、開口部116dの下方近傍位置には、上方から送られた(つまり、下流側把持部60から送られた)上糸Jを上糸Jの撓みや弛みを防止して天秤に導くための糸調子バネ(糸取りバネとしてもよい(通称、ピンピンバネ))102がケース部110の正面部110−1に固定して設けられている。この糸調子バネ102により、上方から導かれた上糸Jが反転して天秤に導かれるとともに、上糸Jに張力が加えられる。なお、糸調子バネ102の代わりに、ガイド部材100と同様に、棒状のガイド部材としてもよい。
また、針棒12bは、ケース部110に対して上下動可能に設けられ、針棒12bには、下端に縫い針12ba(この縫い針12baの針穴12bbに上糸が挿通される)が固定して設けられ、また、針棒12bの上下方向の略中間位置には、針棒抱き14aが固定して設けられている。
また、ケース部110には、鉛直方向に基針棒14cが設けられ、この基針棒14cには、針棒抱き14aと係合する針棒上下部品(針棒上下動部品、針棒用昇降体としてもよい)14bが基針棒14cに沿って上下動可能に設けられている。針棒上下部品14bを上下動させるための機構を用いて針棒上下部品14bを上下動させることにより、針棒抱き14aが上下動し、針棒12bが上下動する。
針棒12bを上下動させる機構としての上下動機構14は、針棒抱き14aと、針棒上下部品14bと、針棒上下部品14bを上下動させるクランクロッド14dとを有し、クランクロッド14dには、主軸22の回転力を伝達するための伝達機構(図示せず)が接続され、主軸22が回転することにより、クランクロッド14dが回転し、これにより、針棒上下部品14bが基針棒14cに沿って上下動して、針棒12bが上下方向に往復動する。
また、布押え12cは、ケース部110の底面側にケース部110に対して上下動可能に設けられるとともに、上糸を横方向に引っかける糸掛け棒(棒状部材としてもよい)236を有している。
すなわち、布押え12cは、図2、図6〜図9に示すように、本体部210と、本体部210に対して揺動しながら往復動する揺動往復動機構部(回転機構部、旋回機構部としてもよい)230と、揺動往復動機構部230を動作させるための糸掛け棒駆動モータ(上糸固定用駆動部)240とを有している。なお、図8は、図6におけるA−A断面図であり、図9は、図6におけるB−B断面図であるが、図9は、切断位置が途中でずれて描かれている。
ここで、本体部(布押え本体部)210は、ベース部212と、ベース部212に固定されたシャフト部220とを有している。
ベース部212は、方形状(具体的には、長方形状)の板状を呈する本体構成部(中央構成部としてもよい)214と、本体構成部214の正面側の端部(一対の短手辺における一方の短手辺)から連設された先端構成部(先端部としてもよい)(布面接触部)216と、先端構成部216の縦板部216eの内側の面に取り付けられた上糸受け部216fと、本体構成部214の背面側の端部(一対の短手辺における他方の短手辺)から連設された基端部218とを有している。ベース部212における軸部215(後述)と上糸受け部216f以外の構成は、全体に一体に形成されている。先端構成部216は、「布押えが布面接触位置にある場合に布面に接する布面接触部」に相当する。
本体構成部214には、図8に示すように、貫通穴214aが設けられ、この貫通穴214aに軸部215が設けられている。つまり、軸部215は、貫通穴214aよりも径が大きい頭部215aと、頭部215aから連設され、貫通穴214aに挿通された軸部本体215bと、軸部本体215bの頭部215aと反対側の端部に固定して設けられた抜止め部215cとを有している。つまり、軸部215は、本体構成部214に固定され、本体構成部214に対して軸部215の軸線と直角方向に移動できないように本体構成部214に挿通されている。この本体構成部214は、糸掛け棒支持部231(特に、横板部232)と対向している。なお、軸部215が本体構成部214に対して軸部215の軸線を中心に回転する構成であるが、軸部215の頭部215aを本体構成部214に固定した構成としてもよい。
また、先端構成部216は、本体構成部214の正面側の端部から下方に向けて連設された横長長方形形の縦板部216aと、縦板部216aの下端から正面側に連設された横板部216bと、横板部216bの正面側の端部から下方に向けて連設された縦板部216cと、縦体部216cの下端から背面側に連設された横長長方形状の横板部216dと、横板部216bの右側面側の端部と横板部216dの右側面側の端部間に横板部216b及び横板部216dと直角に形成された縦板部216e(図8、図9参照)とを有している。縦板部216aは、本体構成部214や横板部216bに対して直角をなし、縦板部216cは、横板部216bや横板部216dに対して直角をなしている。
横板部216bと横板部216dは、方形状(具体的には、長方形状)の板状を呈し、互いに平行に形成されている。横板部216bには、円形の開口部216bkが設けられるとともに、横板部216dには、円形の開口部216dkが設けられている。開口部216bkと開口部216dkとは上糸や縫い針12baを挿通するための穴部であり、開口部216bkと開口部216dkとは同一(略同一としてもよい)の径に形成され、開口部216bkと開口部216dkとは、横方向(つまり、上下方向以外の方向)には同じ位置に設けられている。つまり、開口部216bk、216dkは、縫い針が挿通するための被挿通部である。以上のようにして、横板部216bと横板部216dとは同大同形状に形成されている。縫い針12baの布への挿針時には布押え12cが布側に下降した状態となっていて先端構成部216が布面に接した状態となっているが、先端構成部216が布面に接した状態では、横板部216dの下面が布面に接する。
また、横板部216bと横板部216d間の間隔h1(図6参照)は、糸掛け棒236の径(直径)よりも大きく形成され、糸掛け棒236が横板部216bと横板部216dの間の位置で旋回できるように形成されている。また、実際の縫い動作の際には、先端構成部216の横板部216dの下面が布に接した状態で糸掛け棒236が上糸を押さえるので、布の上面の高さと糸掛け棒236の高さの間には間隔が設けられ、例えば、横板部216dの下面と糸掛け棒236の上端との間には間隔h2(図6参照)が設けられる。これにより、糸掛け棒236は、上糸を布面よりも離れた位置で固定する。この間隔h2は、以下の式1における糸掛け棒高さとなる。
横板部216b、216dの左右方向(X1−X2方向)の長さは、本体構成部214の左右方向の長さよりも長く形成され、横板部216b、216dの右側面側の辺部の左右方向の位置は、本体構成部214の右側面側の辺部の左右方向の位置と一致している(上面視において、横板部216bの右側面側の辺部と本体構成部214の右側面側の辺部とは一直線上に存在する)ので、横板部216b、216dは、本体構成部214に対して左側面側に突出して形成されている。
また、上糸受け部216fは、縦板部216eの内側の面に設けられた弾性部216f−1と、弾性部216f−1の縦板部216eとは反対側の端部に固定して設けられた板状部(上糸受け部本体)216f−2とを有している。弾性部216f−1は、コイルスプリングであり、一方の端部が縦板部216eに固定され、他方の端部が板状部216f−2に固定されている。板状部216f−2は、例えば、金属又は合成樹脂により形成されている。この上糸受け部216fは、糸掛け棒236とともに上糸を挟んで固定するものであり、糸掛け棒236により上糸受け部216f側に押されてきた上糸が板状部216f−2と接すると、糸掛け棒236と板状部216f−2とにより上糸が挟んだ状態となる。つまり、弾性部216f−1を構成するコイルスプリングの軸線(中心線)は、左右方向(X1−X2方向)に形成され、該コイルスプリングの軸線の延長線は、上面視において、開口部216bk、216dkの中心(又はその近傍)を通るように形成されている。つまり、弾性部216f−1は、旋回してきた糸掛け棒236を略左側面側方向(X1方向)に付勢するものであり、少なくとも弾性部216f−1は、旋回してきた糸掛け棒236を横方向に付勢する。なお、弾性部216f−1が設けられているので、板状部216f−2の向きが可変となり、糸掛け棒236が旋回することにより糸掛け棒236の向きが変化しても、糸掛け棒236と板状部216f−2により上糸(つまり、上糸における布と天秤12a間の部分である第2上糸部分Jb(図20参照))を挟むことができる。この上糸受け部216fは、図30の上糸固定ユニット12fにおける上糸受け部214cと同様の構成であり、板状部216f−2は、図30の板状部214c−2と同様の構成である。
この上糸受け部216fは、縫い針12baの挿針位置に対して布面の方向にずれた位置(つまり、X2側にずれた位置)に設けられおり、糸掛け棒236は、上糸を布面(すなわち、布上面)よりも離れた位置で固定するので、この揺動往復動機構部230(特に、糸掛け棒236)と、本体部210における上糸受け部216fは、上糸における布と天秤間の部分である第2上糸部分を布上面よりも上側の位置で、かつ、縫い針の挿針位置に対して布上面の方向にずれた位置で固定する。つまり、揺動往復動機構部230(特に、糸掛け棒支持部231と糸掛け棒236)と、本体部210における上糸受け部216fは、「上糸における布と天秤間の部分である第2上糸部分を布面よりも離れた位置で、かつ、縫い針の挿針位置に対して布面の方向にずれた位置で固定する上糸固定部」を構成する。
上糸受け部216fが縫い針12baの挿針位置に対して布面の方向にずれた位置に設けられているので、糸掛け棒236と上糸受け部216fとで上糸を押さえた状態で縫い針12baが布に挿針すると、上糸は糸掛け棒236を跨いだ状態(すなわち、糸掛け棒236の位置で折り返した状態)となる。
なお、開口部216bkや開口部216dkは円形でなくてもよく、また、開口部216bk、216dkの代わりに切欠部としてもよい。つまり、切欠部とした場合には、開口部216bkが横板部216bの先端側まで形成されるとともに、開口部216dkが横板部216dの先端側にまで形成され、さらに、縦板部216cには、開口部216bkと開口部216dkとをつなぐように開口部が形成されて、結果として、横板部216bkから縦板部216cを経て横板部216dkに至る切欠部が構成される。
また、基端部218は、本体構成部214の背面側の端部から上方に向けて連設された横長長方形状の縦板部218aと、縦板部218aの上端から背面側に連設された横板部218bとを有している。縦板部218aは、本体構成部214に対して直角をなし、横板部218bは、縦板部218aに対して直角をなしている。縦板部218aの左右方向の長さと横板部218bの左右方向の長さは略同一に形成され、また、縦板部218aの左右方向の長さと横板部218bの左右方向の長さは、本体構成部214の左右方向の長さと略同一に形成されている。
また、シャフト部220は、基端部218における横板部218bの上面における正面側の端部位置から固定して設けられ、シャフト部220は横板部218bの上面に対して垂直に立設している。
なお、ベース部212における上糸受け部216f以外の構成が、上糸受け部216fを支持する上糸固定部本体212−1を構成する。
また、揺動往復動機構部230は、軸部215に支持された横板部232と、横板部232の正面側の端部から下方に向けて連設された縦板部234と、縦板部234に固定された糸掛け棒236と、横板部232に対して回転可能に取り付けられた回転盤238とを有している。
横板部232は、帯板状を呈し、長方形状の一方の短手辺に半円形状を合わせた上面形状を有し、その短手方向の幅は、本体構成部214の短手方向の幅と略同一となっている。また、横板部232には、前後方向に長穴状の開口部232kが形成されている。この開口部232kには、軸部215の軸部本体215bが挿通しており、軸部本体215bは、横板部232に対して相対的に開口部232Kの長手方向に摺動可能となっている。
縦板部234は、長方形状の板部であり、横板部232に対して直角をなしていて、縦板部234の右側面側の端部の左右方向の位置は、横板部232の右側面側の端部の左右方向の位置と一致しているが、縦板部234は、横板部232よりも左側面側に突出しており、縦板部234の左側面側の端部は、横板部232の左側面側の端部よりも左側面側にある。縦板部234には、糸掛け棒236を挿通するための穴部が設けられている。この横板部232と縦板部234とで、糸掛け棒支持部(揺動往復動部としてもよい)231が構成される。
また、糸掛け棒236は、円柱状の糸掛け棒本体236aと、糸掛け棒本体236aの端部に設けられ、糸掛け棒本体236aの径よりも大径の頭部236bとを有し、糸掛け棒本体236aを縦板部234の穴部に挿通して糸掛け棒236が縦板部234に固定されている。糸掛け棒236は、例えば、金属により形成されている。糸掛け棒236の縦板部234への固定の方法としては、例えば、糸掛け棒本体236aの頭部236b側にネジ溝を設けるとともに、縦板部234の穴部にネジ溝を形成し、糸掛け棒本体236aを縦板部234に螺着することが考えられる。
また、回転盤238は、円形の板状を呈し、糸掛け棒駆動モータ240の出力軸242aが回転盤238の中心位置に固定され、また、回転盤238と横板部232とは、糸掛け棒駆動モータ240の出力軸242aから離れた位置(つまり、回転盤238の回転中心から偏心した位置)で接続され、具体的には、回転盤238の回転中心から偏心した位置に軸部239を挿通するための貫通穴が形成されるとともに、横板部232の背面側の端部領域の左右方向の中心位置に軸部239を挿通するための貫通穴が形成され、各貫通穴に軸部239を挿通することにより回転盤238と横板部232とは接続されている。つまり、軸部239は、回転盤238の貫通穴よりも径が大きい頭部239aと、頭部239aから連設され、各貫通穴に挿通された軸部本体239bと、軸部本体239bの頭部239aと反対側の端部に固定して設けられた抜止め部239cとを有している。
また、糸掛け棒駆動モータ240は、ベース部212(具体的には、基端部18の横板部218b)に固定して設けられ、糸掛け棒駆動モータ240の出力軸240aは、横板部232の上面に対して垂直方向にあり、出力軸240aは回転盤238の上下一対の平面に対して垂直となっているので、回転盤238と横板部232とは平行に形成されている。
布押え12cは以上のように構成されているので、糸掛け棒駆動モータ240が駆動することにより、回転盤238が回転し、回転盤238が回転することにより、横板部232の背面側が回転し、横板部232が背面側が回転することにより、軸部本体215bが開口部232kに挿通しているので、横板部232が左右方向(第1の横方向)に揺動しながら前後方向(第2の横方向)に往復動する。横板部232が左右方向に揺動しながら前後方向に往復動することにより、糸掛け棒236も同様に、左右方向に揺動しながら前後方向に往復動し、糸掛け棒236が横方向の面(平面)(水平方向(略水平方向としてもよい)の面(平面)としてもよい。)に沿って旋回する(つまり、糸掛け棒236は、布面と平行(略平行としてもよい)な面に沿って旋回する)。なお、糸掛け棒236は、第2上糸部分の方向(第2上糸部分を含む両側の範囲の方向としてもよい)(上下方向)に対して直角(略直角としてもよい)をなす面(平面)に沿って旋回するともいえる。これにより、糸掛け棒236の先端236Qは横方向(水平方向としてもよい)の面に沿って旋回し、図10に示すように、上面視において略楕円の軌跡を形成する。なお、布押え12cの上面視において、縦板部234の正面側の辺部における糸掛け棒本体236aの軸線236g(幅方向の中央線)との交点236Pの軌跡は、図10に示すようになる。
つまり、揺動往復動機構部230は、クランク機構によりベース部212の本体構成部214に対して左右方法に揺動しながら前後方向に往復動するようになっている。ここで、クランク機構は、回転盤238と、回転盤238の回転中心と偏心した位置で接続された横板部232と、軸部215とから構成されるといえる。
なお、糸掛け棒236の先端236Qの先端の軌跡は、図10に示すように、上面視した際に、開口部216bkや開口部216dkの縁部の外側となる。つまり、揺動往復動機構部230の構成(例えば、揺動往復動機構部230の長手方向の長さや、糸掛け棒236の長さや、糸掛け棒236の取付け位置、回転盤238における偏心長さ(出力軸240aの中心と軸部239の中心間の長さ))は、糸掛け棒236の先端236Qの先端の軌跡が、開口部216bkや開口部216dkの縁部の外側となるように設定されている。これにより、図10において、糸掛け棒236が290度の位置から反対側に戻る際に、糸掛け棒236が上糸に引っかかるおそれがない。
また、布押え12cは、上下動機構250により上下動される。すなわち、上下動機構250は、シャフト部220に固定された固定部品252と、ケース部110に固定して設けられたシャフト部254と、シャフト部254に沿って上下動可能に形成された布押え上下部品256と、クランクロッド258とを有している。固定部品252は、針棒抱き14aと同様に構成であり、また、シャフト部254は、ケース部110の底面部110−3に対して直角に設けられ、鉛直方向に形成されている。また、布押え上下部品256は、固定部品252と係合している。クランクロッド258には、主軸22の回転力を伝達するための伝達機構(図示せず)が接続され、主軸22が回転することにより、クランクロッド258が回転し、これにより、布押え上下部品256がシャフト部254に沿って上下動して、布押え12cが上下方向に往復動する。
布押え12cは、布面に接する下死点(布面接触位置)と布面から離れた上死点(布面離間位置)との間を移動(往復動としてもよい)し、所定の範囲の区間において下死点にあり、下死点区間の開始位置は、枠駆動装置24が停止した位置から縫い針12baが布に挿針する位置までのいずれかの位置であり(図19においては、約100度の位置となっている)、下死点区間の終了位置は、針棒12bが上昇して縫い針12baが布から抜ける位置(縫い針12baの挿針状態が解除される位置)から枠駆動装置24が動作するまでのいずれかの位置である(図19においては、約250度)。つまり、枠駆動装置24が動作している際には、布を押さえることはできず、また、縫い針12baが布に挿針する際には布を押さえておく必要があるので、下死点区間の開始位置は、上記のようになり、また、縫い針12baが布に挿針している際には布を押さえておく必要があり、また、枠駆動装置24が動作する際には、布を押さえることはできないので、下死点区間の終了位置は、上記のようになる。なお、下死点区間終了位置からは布押え12cは上昇していき、約340度の位置で上死点に達し、その後、約10度の位置まで上死点を維持して、その後、下降していく。
また、釜12dは、ヘッド7の下方でミシンテーブルの上面よりも下側の位置に設けられ、具体的には、針板5の針孔5aの下方に、ミシンテーブルの下側に設けられた釜土台(図示せず)に支持されている。釜12d内にはボビンが収納され、該ボビンに下糸が巻回されている。釜12dは、主軸22の回転力が伝達されて回転し、釜12dに設けられた剣先12d−1(図1参照)が上糸に引っ掛かることにより釜12dが上糸を捕捉して上糸を引き込み、回転動作により上糸を下糸に絡めることによりステッチを形成する。釜12dは、従来におけるミシンと同様に、主軸22の回転力をカム機構又はベルト機構等の動力伝達手段を介して伝達することにより駆動する。
また、縫製枠12eは、布(具体的には、刺繍を行なう加工布)を張設保持するための部材であり、ミシンテーブルの上方(上面としてもよい)に設けられている。
また、主軸22は、主軸モータ20により回転され、その回転力が所定の動力伝達機構により伝達されて、天秤12a、針棒12b、布押さえ12cの各機械要素や釜12dを駆動する。なお、主軸モータ20は、一方向に回転するように構成されている。
枠駆動装置24は、制御回路90からの指令に応じて縫製枠12eをX軸方向(X1−X2方向)及びY軸方向(Y1−Y2方向)に移動させるものであり、針棒12bの上下動に同期するようにして縫製枠12eを移動させる。この枠駆動装置24は、具体的には、X軸方向に縫製枠12eを移動させるためのサーボモータやY軸方向に縫製枠12eを移動させるためのサーボモータ等により構成される。
また、上流側把持部40は、ヘッド7における上側、すなわち、回動部80の上側に設けられ、把持部本体(上流側把持部本体)41と、把持部本体41の背面側に設けられた磁石部(上流側駆動部、上流側磁石部)50とを有している。
把持部本体41は、第1板状部ユニット42と、第1板状部ユニット42における第1板状部42aの背面側で、かつ、ケース部110の正面部110−1の正面側に設けられた第2板状部(上流側第2板状部)44とを有している。
ここで、第1板状部ユニット42は、図4に示すように、方形状の板状を呈する第1板状部(上流側第1板状部)42aと、第1板状部42aの上端から背面側に突出して形成された掛止部(取付部材)42bとを有し、掛止部42bは、略L字状の板状(長方形状の板状を略L字状に折曲した形状)を呈している。この第1板状部ユニット42は、磁石が吸引する材料(磁石が付く材料)、つまり、磁性体(強磁性体としてもよい)により一体に形成されている。すなわち、第1板状部ユニット42は、例えば、鉄等の磁石が吸引する金属により形成されている。第1板状部ユニット42は、掛止部42bが、ケース部110の正面部110−1に設けられた掛止穴110aに掛止されることにより、第1板状部42aは、正面部110−1に吊り下げた状態(ぶら下げた状態としてもよい)となっている。これにより、第1板状部42aは、第2板状部44の正面側の面に対して垂直方向に摺動するようになっていて、第2板状部44との間隔が可変するようになっている。
また、第2板状部44は、第1板状部ユニット42における第1板状部42aの背面側に設けられた1つの板状部材であり、細長長方形の板状を呈している。すなわち、第2板状部44は、左右方向には、第1板状部42aの左右方向の長さよりも長く形成され、また、上下方向には、第1板状部42aの上下方向の長さと略同一(厳密には、若干短い)の長さに形成されている。第2板状部44の正面視における左端は、第1板状部42a左側面側の辺部よりも左側面側にあり、押え板46により正面部110−1に固定され、また、第2板状部44の正面視における右端は、第1板状部42aの右側面側の辺部よりも右側面側にあり、押え板46により正面部110−1に固定されている。つまり、第1板状部ユニット42の第1板状部42aの背面側には、第1板状部42aと平行に第2板状部44が存在する。この第2板状部44は、磁石が吸引しない材料(磁石が付かない材料)、つまり、非磁性体により形成され、例えば、合成樹脂製のフィルムにより形成されている。なお、第2板状部44をアルミニウムやステンレスにより形成してもよい。
ケース部110の正面部110−1の上側部分には、横方向に細長長方形状の開口部(第2開口部)116aが形成され、この開口部116aを正面側からカバーするように第2板状部44が設けられている。つまり、この開口部116aは、第2板状部44よりも小さい大きさに形成され、第2板状部44の上下幅は、磁石部50の先端部分よりも大きく、磁石部50の先端部分が開口部116aに挿通することができるように形成されている。
また、正面部110−1における開口部116aの上側には、第1板状部ユニット42の掛止部42bを掛止するための掛止穴110aが設けられている。この掛止穴110aは、正面部110−1を貫通して形成されている。
また、磁石部50は、電磁石により形成され、その先端部分は、開口部116a内に配置され、磁石部50の先端が第2板状部44の背面側の面に接するように形成されている。磁石部50の先端の面(第2板状部44側の面)が吸引面となっている。磁石部50は、略四角柱状を呈している(磁石部70においても同じ)。なお、磁石部50、70は、通常の電磁石と同様の構成であり、磁性材料の芯と芯のまわりに巻回されたコイルとを有し、コイルに通電することにより磁力が発生する。上流側把持部40において、磁石部50は1つ設けられている。そして、制御回路90により磁石部50を駆動することにより、第1板状部42aが磁力により吸引されて、第1板状部42aと第2板状部44間の隙間が閉じた状態となる。磁石部50は、ケース部110の支持部112aに支持されている。
また、第1板状部ユニット42の正面視における上側と下側には、棒状のガイド部材(第1ガイド部材)52、54が設けられている。つまり、ガイド部材52、54が、ケース部110の正面部110−1に固定されている。ガイド部材52、54は、上糸Jが第1板状部の背面側を対角状に通過するように配設され、ガイド部材52は、第1板状部42aの上側の正面視左側に設けられ、ガイド部材54は、第1板状部42aの下側の正面視右側に設けられている。これにより、第1板状部42aの背面側に存在する上糸Jの経路を長くすることができ、上糸Jを第1板状部42aと第2板状部44により確実に把持することができる。
また、下流側把持部60は、ヘッド7の上下方向における略中間位置、すなわち、回動部80の下側に設けられ、把持部本体(下流側把持部本体)61と、把持部本体61の背面側に設けられた磁石部(下流側駆動部、下流側磁石部)70とを有している。
ここで、把持部本体61は、把持部本体41と同様の構成であり、第1板状部ユニット62と、第1板状部ユニット62における第1板状部62aの背面側で、かつ、ケース部110の正面部110−1の正面側に設けられた第2板状部(下流側第2板状部)64とを有している。
ここで、第1板状部ユニット62は、図4に示すように、方形状の板状を呈する第1板状部(下流側第1板状部)62aと、第1板状部62aの上端から背面側に突出して形成された掛止部(取付部材)62bとを有し、掛止部62bは、略L字状の板状(長方形状の板状を略L字状に折曲した形状)を呈している。この第1板状部ユニット62は、磁石が吸引する材料(磁石が付く材料)、つまり、磁性体(強磁性体としてもよい)により一体に形成されている。すなわち、第1板状部ユニット62は、例えば、鉄等の磁石が吸引する金属により形成されている。第1板状部ユニット62は、掛止部62bが、ケース部110の正面部110−1に設けられた掛止穴110bに掛止されることにより、第1板状部62aは、正面部110−1に吊り下げた状態(ぶら下げた状態としてもよい)となっている。これにより、第1板状部62aは、第2板状部64の正面側の面に対して垂直方向に摺動するようになっていて、第2板状部64との間隔が可変するようになっている。
また、第2板状部64は、第2板状部44と同様の構成であって、第1板状部ユニット62における第1板状部62aの背面側に設けられた1つの板状部材であり、細長長方形の板状を呈している。すなわち、第2板状部64は、左右方向には、第1板状部62aの左右方向の長さよりも長く形成され、また、上下方向には、第1板状部62aの上下方向の長さと略同一(厳密には、若干短い)の長さに形成されている。第2板状部64の正面視における左端は、第1板状部62a左側面側の辺部よりも左側面側にあり、押え板66により正面部110−1に固定され、また、第2板状部44の正面視における右端は、第1板状部62aの右側面側の辺部よりも右側面側にあり、押え板66により正面部110−1に固定されている。つまり、第1板状部ユニット62の第1板状部62aの背面側には、第1板状部62aと平行に第2板状部64が存在する。この第2板状部64は、磁石が吸引しない材料(磁石が付かない材料)、つまり、非磁性体により形成され、例えば、合成樹脂製のフィルムにより形成されている。なお、第2板状部64をアルミニウムやステンレスにより形成してもよい。
ケース部110の正面部110−1の上下方向の略中央部分には、横方向に細長長方形状の開口部(第3開口部)116cが形成され、この開口部116cを正面側からカバーするように第2板状部64が設けられている。つまり、この開口部116cは、第2板状部64よりも小さい大きさに形成され、第2板状部64の上下幅は、磁石部70の先端部分よりも大きく、磁石部70の先端部分が開口部116cに挿通することができるように形成されている。
また、正面部110−1における開口部116cの上側には、第1板状部ユニット62の掛止部62bを掛止するための掛止穴110bが設けられている。この掛止穴110bは、正面部110−1を貫通して形成されている。
また、磁石部70は、磁石部50と同様に、電磁石により形成され、その先端部分は、開口部116c内に配置され、磁石部70の先端が第2板状部64の背面側の面に接するように形成されている。磁石部70の先端の面(第2板状部64側の面)が吸引面となっている。磁石部70は、略四角柱状を呈し、磁石部50と同大同形状(略同大同形状としてもよい)に形成されている。下流側把持部60において、磁石部70は1つ設けられている。そして、制御回路90により磁石部70を駆動することにより、第1板状部62aが磁力により吸引されて、第1板状部62aと第2板状部64間の隙間が閉じた状態となる。磁石部70は、ケース部110の支持部112bに支持されている。
また、第1板状部ユニット62の正面視における上側と下側には、棒状のガイド部材(第1ガイド部材)72、74が設けられている。つまり、ガイド部材72、74が、ケース部110の正面部110−1に固定されている。ガイド部材72、74は、上糸Jが第1板状部の背面側を対角状に通過するように配設され、ガイド部材72は、第1板状部62aの上側の正面視左側に設けられ、ガイド部材74は、第1板状部62aの下側の正面視右側に設けられている。これにより、第1板状部62aの背面側に存在する上糸Jの経路を長くすることができ、上糸Jを第1板状部62aと第2板状部64により確実に把持することができる。
また、回動部80は、上流側把持部40と下流側把持部60の上下方向における略中間位置に設けられていて、上流側把持部40の上糸の供給方向の下流側で、かつ、下流側把持部60の上糸の供給方向の上流側に設けられている。この回動部80は、把持部本体41と把持部本体61間の上糸(上糸における把持部本体41と把持部本体61間の部分(位置)としてもよい)を回動させるものである。回動部80は、回動アーム81と、回動アーム81を回転させる上糸用モータ86とを有している。
回動アーム81は、図5に示すように、棒状の本体部82と、本体部82の一方の先端に設けられたフック部84とを有している。本体部82の他方の端部には、上糸用モータ86の出力軸が固定されている。このフック部84は、略U字状の板状を呈し、回動アーム81が回動することにより、上糸Jをフック部84により引っ掛ける(「掛止する」としてもよい)ことができるようになっている。つまり、フック部84は、上糸用モータ86の出力軸の軸線と平行に設けられた溝部84aを有していて、回動アーム81が上糸用モータ86の出力軸(回転中心)を中心に上向きに回動することにより、上糸用モータ86の出力軸の軸線と平行に設けられた上糸Jに接して上糸Jを引っ掛けることができるように構成されている。つまり、回動アーム81は、磁石部50と磁石部70の間の位置に設けられ、回動アーム81により、上糸を引っ掛けることができるようになっている。上糸において、回動アーム81に引っ掛かり(「掛止して」としてもよい)回動アーム81に回動される部分が第1上糸部分Jaとなる。回動アーム81が上方に回動することにより、上糸が第1上糸部分Jaを介して屈曲した状態となる。なお、図5における円内に示す図は、回動アーム81の構成を分かりやすくするために、回動アーム81のみの構成を描いたものである。
また、上糸用モータ86は、ケース部110の支持部112cに固定して設けられている。上糸用モータ86の出力軸の軸線は、左右方向を向いている。
回動アーム81の回動範囲における下限位置(図3、図4において81(B)に示す位置)(第2方向の終端である第2端部位置)は、上糸が一対の上糸支持部材88により横方向に直線状に支持された状態(つまり、上糸が一対の上糸支持部材88の接続部材88cに横方向に支持された状態)の際に、該上糸に回動アーム81のフック部84の溝部84aに接した状態であり(つまり、一対の上糸支持部材88の接続部材88cの上糸を受ける位置と、フック部84の溝部84aの上糸を受ける位置は同一(略同一としてもよい)の高さにあり、回動アーム81の下限位置では、上糸は一対の上糸支持部材88と回動アーム81に接していて、上糸における一対の上糸支持部材88間の部分は横方向に直線状となっている)、回動アーム81の下限位置に対する回動方向は、上糸を一対の上糸支持部材88により横方向に支持された状態から上糸における一対の上糸支持部材88の間の位置を直角方向(略直角方向としてもよい)に引っ張る方向であり、回動アーム81の上限位置(図3において81(A)に示す位置)(第1方向の終端である第1端部位置)は、回動アームの回動範囲における下限位置とは反対側の端部の位置である。
回動アーム81が上昇する方向(第1方向)においては、上糸の屈曲の度合いが大きくなり、回動アーム81が下降する方向(第2方向)においては、上糸の屈曲の度合いが小さくなる。図3において、81(B)から81(A)への方向は回動アーム81が上昇する方向であり、81(A)から81(B)への方向は回動アーム81が下降する方向である。
なお、回動アーム81の回動範囲における下限位置において、フック部84の溝部84aの上糸を受ける位置が一対の上糸支持部材88の接続部材88cの上糸を受ける位置よりも上側にあり、回動アーム81の下限位置では、上糸は一対の上糸支持部材88と回動アーム81に接していて、上糸における一対の上糸支持部材88間の部分は、正面視において、回動アーム81により支持された部分を中心に屈曲した状態となるようにしてもよい。
上糸用モータ86の回転動作は、制御回路90により制御され、各ステッチごとに作成される角度対応データ(図18)に従い位置制御される。詳しくは後述する。
また、上糸支持部材88は、ケース部110の正面部110−1における開口部116bの両側に設けられている。この上糸支持部材88は、上糸Jを左右方向に支持するためのものである。つまり、上糸支持部材88は、開口部116bの両側に計一対設けられ、各上糸支持部材88は、同一の構成であり、線材を折返し状で、かつ、円弧状に形成したものである。具体的には、上糸支持部材88は、上糸用モータ86の回転中心と同心円状(略同心円状としてもよい)に形成された円弧状部材88aと、円弧状部材88aの上糸用モータ86の出力軸の軸線(回転中心を通る軸線)側とは反対側に円弧状部材88aと略平行に上糸用モータ86の回転中心と同心円状(略同心円状としてもよい)に形成された円弧状部材88bと、円弧状部材88aと円弧状部材88bとを下端位置において接続し、円弧状に形成された接続部材88cとを一体に形成した形状となっている。つまり、円弧状部材88aと円弧状部材88bとは、側面視において、上糸用モータ86の回転中心と同心円状に形成され、1つの上糸支持部材88において、円弧状部材88aと円弧状部材88bとは、上糸用モータ86の出力軸の軸線(回転中心を通る軸線)と直角をなす面に沿って形成され、出力軸の軸線と直角方向に間隔を介して形成されている。また、円弧状部材88aと円弧状部材88bとは左右方向に同じ位置に形成されている。また、一対の上糸支持部材88は、左右方向に間隔を介して設けられている。また、円弧状部材88aの一部や接続部材88cの一部は、開口部116b内に設けられ、円弧状部材88bは、正面部110−1の正面側の面よりも正面側に突出している。これにより、一対の上糸支持部材88の上側から円弧状部材88aと円弧状部材88bの間の位置に上糸を挿入して、一対の接続部材88c上に配置することにより、一対の上糸支持部材88の接続部材88c間に上糸Jを左右方向に配置することができ、回動アーム81により上糸Jが引き上げられる際にも、上糸Jは、円弧状部材88aと円弧状部材88bの間にあることになる。つまり、上糸支持部材88は、上糸を開口部116bの位置(つまり、上下及び左右方向において開口部116bの位置(具体的には、開口部116bにおける下側の位置))で左右方向に支持しており、より具体的には、開口部116bの正面側に(「開口部116bの正面側の位置に」としてもよい)上糸を正面視で左右方向に支持している。以上のようにして、上糸支持部材88は、上糸における第1上糸部分を含む第1上糸部分の両側の範囲を左右方向に支持している。なお、上糸支持部材88が、上糸を開口部116b内(つまり、前後方向で正面部110−1の正面側の面と背面側の面の間の位置)で左右方向に支持するようにしてもよい。
また、開口部116bの下方近傍位置には、上方から送られた(つまり、上流側把持部40から送られた)上糸Jを上糸支持部材88に導くための棒状のガイド部材(第1上糸経路反転部材)100がケース部110の正面部110−1に固定して設けられている。このガイド部材100により、上方から導かれた上糸が反転して上糸支持部材88に導かれる。
また、制御回路(制御部)90は、主軸モータ20と、上糸用モータ86と、糸掛け棒駆動モータ240と、磁石部50と、磁石部70と、枠駆動装置24の動作を制御する回路であり、記憶装置92に記憶されたデータに従い、各部の動作を制御する。つまり、制御回路90は、記憶装置92から読み出された刺繍データに従い主軸データ(図15参照)を作成し、作成した主軸データに従い主軸モータ20の動作を制御する。
また、制御回路90は、刺繍データに基づき、回動アームの下降区間(第1区間)における回動アーム下げ量と、回動アームの上昇区間(第2区間)における回動アーム上げ量を算出して、回動アーム用データ(図17参照)を作成する。
すなわち、回動アーム下げ量は、回動アームの下降区間において、回動アーム81を下方に回動させる下げ量であり、具体的には、上糸用モータ86の回転角度により規定されている。この回動アーム下げ量は、以下の式1で示される長さに対応した下げ量が規定される。
つまり、図21に示すように、糸掛け棒236に引っ掛けられた(「掛止した」としてもよい)ステッチにおける一方の端部(布の下面位置の端部)と他方の端部(布の下面位置の端部)間の長さ(つまり、一方の端部から他方の端部までの上糸の長さ(つまり、上糸に沿った長さ))は、以下の式1で表され、糸掛け棒236で引っ掛けるステッチ(図20では、ステッチn+1(第n+1ステッチ)(nは整数))においては、式1で表される長さ(ステッチ基準長さ(上糸固定部に固定された状態におけるステッチの長さ(つまり、ステッチの上糸長さ)))の上糸を回動アーム81よりも下流側に確保する必要があることから、上記式1に示される長さに対応した下げ量(つまり、当該長さに対応した角度)(上糸基準長さに応じた角度)が規定される。つまり、式1の計算結果(つまり、上糸長さ)と上糸用モータ86の回転角度の対応テーブルを用意しておき、式1に従い計算した計算結果と該対応テーブルとにより回動アーム下げ量が算出される。つまり、制御回路90は、各ステッチごとに回動アーム下げ量を算出する。なお、式1において、a(糸掛け棒高さ)は、布Uの上面から糸掛け棒236(厳密には、糸掛け棒236の上端位置)までの高さ方向(布面に対する鉛直方向)の長さであり、b(ステッチ長)は、ステッチの布Uの上面の沿った長さであり、c(布厚)は、布Uの厚み方向の長さである。
また、回動アーム上げ量は、回動アームの上昇区間(第2区間)において、回動アーム81を上方に回動させる上げ量であり、具体的には、上糸用モータ86の回転角度により規定されている。この回動アーム上げ量は、回動アーム下げ量に対応する上糸長さ(式1により算出した長さ(ステッチ基準長さ))から上糸残り長さL2(上糸残り長さは、刺繍データに記憶されている)を減算した値に対応した上げ量が規定されている。つまり、該減算した値と上糸用モータ86の回転角度の対応テーブルを用意しておき、該減算した値と該対応テーブルとにより回動アーム上げ量が得られる。つまり、制御回路90は、各ステッチごとに回動アーム上げ量を算出して、回動アーム用データを作成する。
なお、あるステッチ(第1のステッチ)の次のステッチ(第2のステッチ)の動作において、回動アーム上げ量に従い回動アーム81を上昇させることにより、第1のステッチの上糸残り長さを調整するので、第2のステッチについての回動アーム上げ量は、第1のステッチの上糸残り長さから算出された値とする。つまり、図20において、ステッチn+1についての回動アーム上げ量は、ステッチn(ステッチn+1の1つ前のステッチ)のステッチ基準長さからステッチnの上糸残り長さを減じた値に対応した回転角度である。なお、図20において、ステッチnは、すでに布に形成したステッチにおける直近のステッチとなる。
なお、回動アーム上げ量を「ステッチnの回動アーム下げ量に対応する上糸長さからステッチnの上糸残り長さを減じた値に対応した回転角度」としたが、「ステッチnの回動アーム下げ量に対応する角度からステッチnの上糸残り長さに対応した角度を減じて算出した回転角度」としてもよい。
また、制御回路90は、記憶装置92から読み出された位置データと作成された回動アーム用データとに従い、角度対応データ(図18参照)を作成して、この角度対応データに従い上糸用モータ86を位置制御する。
つまり、位置データには、回動アームの下降区間の開始位置と終了位置、回動アームの上昇区間の開始位置と終了位置、回動アームの上糸引出し区間(第3区間)の開始位置と終了位置が記憶され、また、回動アーム用データには、各ステッチごとの回動アーム下げ量と回動アーム上げ量が記憶されているので、これらに従い、各ステッチごとに、主軸角度と上糸用モータ角度(上糸用モータの角度)(上糸用モータ86の回転方向の位置)の対応を規定した角度対応データを作成する。
角度対応データの作成に際しては、上糸引出し区間の終了位置では、回動アーム81を上限位置とする。この回動アーム81の上限位置は、回動アーム81が上糸を回動アーム81よりも上流側から引き出す場合の回動方向における端部位置となる。
そして、回動アーム81の下降区間においては、下降区間の開始位置及び終了位置と回動アーム下げ量に従い、該下降区間の開始位置から終了位置までの間に回動アーム下げ量だけ上糸用モータ86が下げ方向に回転するように、主軸角度ごとに上糸用モータ角度を決定する。これにより、回動アーム81は、ステッチn+1についてのステッチ基準長さに応じた角度分回動する。
また、回動アーム81の上昇区間においては、上昇区間の開始位置及び終了位置と回動アーム上げ量に従い、該上昇区間の開始位置から終了位置までの間に回動アーム上げ量だけ上糸用モータ86が上げ方向に回転するように、主軸角度ごとに上糸用モータ角度を決定する。これにより、回動アーム81は、ステッチnにおけるステッチ基準長さからステッチnにおける布面から突出した上糸の長さである上糸残り長さを減じた長さに応じた角度分上昇する。
また、回動アーム81の上糸引出し区間においては、上糸引出し区間の開始位置及び終了位置に従い、回動アーム81の上昇区間の終了位置から回動アーム81の上限位置(第1端部位置)にまで回動アーム81が回動するように、主軸角度ごとに上糸用モータ角度を決定する。
なお、角度対応データの作成に際しては、各対象区間(例えば、下降区間、上昇区間、上糸引出し区間)の始点位置に対応する主軸角度axから該区間の終点位置に対応する主軸角度ayまでの範囲を所定の間隔(単位角度)で等分し(すなわち、1/N(Nは整数)ごとに等分し(つまり、整数分の1ごとに等分し))、図25に示すように、開始位置から所定の区間であるA区間(第1の区間としてもよい)(例えば、主軸角度ax〜ax+3)では、単位角度当たりの上糸用モータ角度の変化量が徐々に増加して、これにより、回動アーム81の回動速度が上昇するようにし、A区間に続くB区間(第2の区間としてもよい)(例えば、主軸角度ax+3〜ay-3)では、単位角度当たりの上糸用モータ角度の変化量が一定となり、B区間に続くC区間(第3の区間としてもよい)(例えば、主軸角度ay-3〜ay)(C区間の終了位置が対象区間の終了位置となる)では、単位角度当たりの上糸用モータ角度の変化量が徐々に減少して、これにより、回動アーム81の回動速度が減少するようにする。ここで、A区間の角度範囲とC区間の角度範囲とは、B区間よりも短いものとする。なお、上記では、対象区間をA区間とB区間とC区間に分けるものとしたが、B区間を省略してA区間の後にC区間を続けるものとしてもよい。
また、角度対応データの作成に際して、下降区間と上昇区間と上糸引出し区間における隣接する区間において、ある区間の終了位置と次の区間の開始位置との間に間隔がある場合(つまり、ある区間の終了位置と次の区間の開始位置とが一致していない場合)には、ある区間の終了位置の上糸用モータ角度を次の区間の開始位置まで維持する。例えば、図19の例では、上昇区間の終了位置は約60度で、上糸引出し区間の開始位置は約110度であり、上昇区間の終了位置と上糸引出し区間の開始位置とは間隔があるので、上昇区間の終了位置から上糸引出し区間の開始位置までは、上昇区間の終了位置の上糸用モータ角度を維持する。
また、制御回路90は、図14に示す位置データに従い、糸掛け棒駆動モータ240の駆動を制御する。つまり、主軸角度が駆動開始位置となった場合に、糸掛け棒駆動モータ240の駆動を開始し、主軸角度が駆動終了位置となった場合に、糸掛け棒駆動モータ240の駆動を終了する。なお、制御回路90は、糸掛け棒駆動モータ240を制御することにより、少なくとも縫い針が布へ挿針する際と釜が上糸を引っ掛ける(「捕捉する」としてもよい)際に、上糸固定部により第2上糸部分を固定した状態とする。
また、制御回路90は、図14に示す位置データに従い、磁石部50の駆動を制御する。つまり、主軸角度が磁石部(上流側把持部)の駆動開始位置となった場合に、磁石部50の駆動を開始し、主軸角度が磁石部(上流側把持部)の駆動終了位置となった場合に、磁石部50の駆動を終了する。磁石部50が駆動されている区間においては、上流側把持部40は閉状態となる。
また、制御回路90は、図14に示す位置データに従い、磁石部70の駆動を制御する。つまり、主軸角度が磁石部(下流側把持部)の駆動開始位置となった場合に、磁石部70の駆動を開始し、主軸角度が磁石部(下流側把持部)の駆動終了位置となった場合に、磁石部70の駆動を終了する。磁石部70が駆動されている区間においては、下流側把持部70は閉状態となる。
また、制御回路90は、図14に示す位置データに従い、枠駆動装置24の駆動を制御する。つまり、主軸角度が駆動開始位置となった場合に、枠駆動装置24の駆動を開始し、主軸角度が駆動終了位置となった場合に、枠駆動装置24の駆動を終了する。
制御回路90は、具体的には、図11に示すように、CPU90aと、PWM(Pulse Width Modulation)回路90bと、電流センサ90cとを有している。ここで、CPU90aは、記憶装置92からのデータに基づいてモータに供給する電流値のデータをPWM回路90bに出力する。PWM回路90bは、CPU90aからの電流値の振幅を振幅が一定のパルス信号に変換して該パルス信号を主軸モータ20や上糸用モータ86に供給する。また、電流センサ90cは、PWM回路90bから出力されるパルス信号を電流値に変換し、電流値に定数を乗算してトルク値を算出してCPU90aに出力する。
より具体的には、制御回路90は、記憶装置92から読み出された刺繍データに従い、上糸用モータ86を制御するための角度対応データを作成する他、図19に示すタイミングチャートや、図22〜図24に示すフローチャートに示すように制御を行なう。詳しくは後述する。なお、図19は、1つのステッチについての制御区間における動作の例を示しており、1つのステッチについての制御区間は、主軸22の1回転に対応した区間である。図19における横軸は、主軸モータ20の角度(主軸モータ20の回転方向の位置)に対応している。
また、主軸モータ20と制御回路90間には、主軸モータ20の角度(主軸モータ20の回転方向の位置)を検出するためのエンコーダ21が設けられ、上糸用モータ86と制御回路90間には、上糸用モータ86の角度(上糸用モータ86の回転方向の位置)を検出するためのエンコーダ87(図1参照)が設けられ、制御回路90において、各エンコーダからの情報により各モータの角度(回転方向の位置)が検出される。
また、記憶装置92には、図12に示すように、刺繍データ92aと、位置データ92bとが記憶されている。つまり、記憶装置92は、これらのデータを記憶するための記憶部である。
刺繍データ92aは、図13に示すように、各ステッチごとに、ステッチ長(すなわち、ステッチ幅の長さ)(ステッチ幅としてもよい)と、ステッチ方向(つまり、ステッチ方向を示す値)と、上糸残り長さ(上糸残り高さとしてもよい)のデータが格納されている。この刺繍データ92aは、入出力装置94を介して外部から入力することにより、記憶装置92に記憶される。
ここで、ステッチ長は、あるステッチにおいて、上糸の布への一方の挿入位置(上糸と布上面とが交わる位置)m1から上糸の布への他方の挿入位置m2までの布上面上の長さbである(図21参照)。つまり、ステッチ長は、一方の挿入位置m1から他方の挿入位置m2までの直線距離となる。
また、ステッチ方向としては、予め決められた方向(例えば、水平方向における一方の方向)に対する角度の値のデータとなっている。例えば、図26の例において、予め決められた方向をHKとした場合に、ステッチST0の角度の値を角度α4の値とし、ステッチST1の角度の値を角度α1の値とする。なお、角度α1の値は、方向HKに対して上方の向きであるので正の値とし、角度α4の値は、方向HKに対して下方の向きであるので、負の値とする。
また、上糸残り長さは、1つのステッチにおいて、一方の挿入位置m1から他方の挿入位置m2までの上糸に沿った長さL2である(図20参照)。すなわち、上糸残り長さは、ステッチにおける布上面よりも上側の上糸の長さ(つまり、布面から突出した上糸の長さ)であり、中空刺繍を形成するステッチにおける上糸長さである。
また、位置データ92bは、糸掛け棒駆動モータ240や磁石部50や磁石部70や枠駆動装置24の駆動開始位置と駆動終了位置が、主軸角度の情報(すなわち、主軸モータ20の回転方向の位置の情報)として記憶されているとともに、回動アーム81について、回動アーム下降区間(第1区間)の開始位置及び終了位置と、回動アーム上昇区間(第2区間)の開始位置及び終了位置及び上糸引出し区間(第3区間)の開始位置及び終了位置が、主軸角度の情報(すなわち、主軸モータ20の回転方向の位置の情報)として記憶されている。
ここで、糸掛け棒駆動モータ240の駆動開始位置と駆動終了位置は、釜下死点(天秤下死点としてもよい)(図19では、約290度)から針棒挿針位置(図19では、約110度)までの間に設けられ、駆動終了位置は駆動開始位置よりも後に設けられる(なお、360度よりも後の位置は0度に戻ってからの位置となる)。図19の例では、糸掛け棒駆動モータ240の駆動開始位置は、釜下死点の位置(約290度)であり、駆動終了位置は、約90度の位置となっている。
また、磁石部50の駆動開始位置は、回動アーム81の糸引出し区間の終了位置(図19では、約190度)から釜が上糸を引っ掛ける(捕捉するとしてもよい)位置(図19では、約200度)までの区間におけるいずれかの位置に設けられ(図19では、糸引出し区間の終了位置の直後(約190度)となっている)、磁石部50の駆動終了位置は、回動アーム上昇区間の終了位置(図19では、約60度)から回動アーム81の糸引出し区間の開始位置(図19では、約110度)までの区間におけるいずれかの位置に設けられている(図19では、約100度)となっている。
また、磁石部70の駆動開始位置は、回動アーム81の上昇区間の終了位置から磁石部50の駆動終了位置(つまり、上流側把持部40の閉状態から開状態への切換え位置)(図19では、約100度)までの区間におけるいずれかの位置(図19では、約90度の位置)に設けられ、磁石部70の駆動終了位置は、磁石部50の駆動開始位置(つまり、上流側把持部40の開状態から閉状態への切換え位置)から釜が上糸を引っ掛ける(捕捉するとしてもよい)位置(図19では、約200度)までの区間におけるいずれかの位置(図19では、約200度)となっている。
また、枠駆動装置24の駆動開始位置と駆動終了位置は、縫い針が布に挿針されていない区間に設けられる。つまり、縫い針が布に挿針されていない区間に枠駆動装置24の駆動区間を設ける。図19においては、駆動開始位置は、針棒から布から抜けた直後(約260度)であり、駆動終了位置は、縫い針が布に挿針する直前(約100度)である。
また、回動アームの下降区間における開始位置と終了位置は、釜上死点(又は針棒下死点)から天秤下死点(又は天秤下死点の直後)までの区間におけるいずれかの位置に設けられている(つまり、下降区間は、釜上死点(又は針棒下死点)から天秤下死点(又は天秤下死点の直後)までの区間の少なくとも一部の区間である)。すなわち、釜12d(具体的には、釜12dの剣先12d−1)により上糸が引き込まれるのに応じて回動アームを下降させるので、釜上死点から釜下死点までの区間は下降区間とする。図19においては、開始位置は釜上死点の位置(約190度)に設けられ、終了位置は、天秤下死点の位置(約300度)に設けられている。なお、図19では、釜下死点は、約290度である。
また、回動アームの上昇区間における開始位置と終了位置は、天秤下死点から天秤上死点(又は天秤上死点の直後)までの区間におけるいずれかの位置に設けられる(つまり、上昇区間は、天秤下死点から天秤上死点までの区間の少なくとも一部の区間である)。すなあち、天秤が上糸を引き上げるのに合わせて回動アームを上昇させて上糸残り長さを決定するので、上昇区間は、天秤下死点から天秤上死点(又は天秤上死点の直後)までのいずれかの区間とする。図19においては、開始位置は、天秤下死点の位置(約300度)に設けられ、終了位置は、天秤上死点の位置(約60度)に設けられている。つまり、図19の例では、下降区間の終了位置と上昇区間の開始位置とが一致している。
また、回動アームの上糸引出し区間における開始位置と終了位置は、回動アームの上昇区間の終了位置から釜が上糸を引っ掛ける(捕捉するとしてもよい)位置までの区間で、かつ、磁石部50の駆動終了位置から磁石部50の駆動開始位置までの区間のいずれかの位置に設けられている(つまり、上糸引出し区間は、上昇区間の終了位置から釜が上糸を引っ掛けるまでの区間の少なくとも一部の区間である)。すなわち、上糸を磁石部50よりも上流側から引き出すために、終了位置は、少なくとも釜が上糸を引っかける位置以前とする必要があり、さらに、上流側把持部40が開状態になっている必要があるので、開始位置は、磁石部50の駆動が解除される位置以降の位置とし、終了位置は、磁石部50の駆動開始位置以前とする。図19においては、開始位置は、磁石部50の駆動終了位置の直後(約110度)に設けられ、終了位置は、磁石部50の駆動終了位置の直前(針棒下死点の位置)(約180度)に設けられている。なお、回動アームの下降区間と上昇区間と上糸引出し区間において、終了位置は開始位置よりも後に設けられる。
なお、図13に示す刺繍データ92aや、図17に示す回動アーム用データや、図18に示す角度対応データにおける1つのステッチの始点は、図19に示すタイミングチャートにおけるいずれの位置を始点としてもよいが、回動アーム81における上糸引出し区間の終了位置や下降区間における開始位置(さらには、上糸引出し区間の終了位置と下降区間における開始位置の間に間隔がある場合には、上糸引出し区間の終了位置と下降区間における開始位置の間の区間)においては、回動アーム81は上限位置にあるので、上糸引出し区間の終了位置又は下降区間における開始位置を1つのステッチの始点とするのが好ましいといえる。
また、ケース部110は、ミシン5(具体的には、ヘッド7)の筐体を構成し、フレーム120に固定されている。
ケース部110は、正面部110−1と、上面部110−2と、底面部110−3と、側面部110−4、110−5と、背面部110−6と、正面部110−1や側面部110−4、110−5から連設された支持部112a、112bと、側面部110−4、110−5から連設された支持部112cとを有している。
また、上糸ガイド104は、正面部110−1の正面側の面の上端領域(ガイド部材52よりも上側の領域)に取り付けられ、上糸を挿通可能にガイドしている。また、上糸ガイド106は、正面部110−1の正面側の面の下端領域に取り付けられ、上糸を挿通可能にガイドしている。
なお、主軸モータ20とエンコーダ21と主軸22とは、ヘッド7を構成するケース部110の外部に設けてもよい。
なお、上糸Jの経路を説明すると、巻き糸(図示せず)から導かれた上糸Jは、上糸ガイド104からガイド部材52に接して上流側把持部40の第1板状部ユニット42と第2板状部44間を通り、その後、ガイド部材54に接し、その後、ガイド部材100により反転して、上糸支持部材88に至る。一対の上糸支持部材88を通った上糸Jは、ガイド部材72に接して下流側把持部60の第1板状部ユニット62と第2板状部64間を通り、その後、ガイド部材74に接し、糸調子バネ102を経て天秤12aに至り、天秤12aから上糸ガイド106を経て、針棒12bの縫い針12baに至り、さらに、布押え12cの先端構成部216における開口部216bkの内側及び開口部216dkの内側に至る。上糸は、以上の順に上流側から下流側に経由する。
次に、ミシン5の動作について説明する。まず、制御回路90は、記憶装置92に記憶されている刺繍データに従い、主軸データ(図15参照)を各ステッチごとに作成する。記憶装置92には、作成する刺繍について、ステッチごとにステッチ長、ステッチ方向、の情報が記憶されているので、各ステッチのステッチ長、ステッチ方向に応じて主軸データを作成する。この主軸データは、図15に示すように、単位時間ごとの時系列における主軸角度(つまり、主軸モータ20の回転方向の位置)のデータであり、例えば、ステッチ長が大きい場合には、主軸角度の変化量を小さくし、ステッチ長が小さい場合には、主軸角度の変化量を大きくする。また、ステッチの方向が前回のステッチの方向と逆の方向となる場合には、主軸角度の変化量を小さくする。つまり、ステッチの方向と前回のステッチの方向のなす角度(図26における角度α3)が小さい場合には、主軸角度の変化量を小さくし、ステッチの方向と前回のステッチの方向のなす角度が大きい場合には、主軸角度の変化量を大きくする。
この制御回路90による主軸データの作成に際しては、複数のステッチから構成される刺繍データ全体について予め作成しておいてもよいし、実際に各機械要素(針棒、天秤、釜等)により刺繍縫いを行なうステッチよりも数ステッチ前の主軸データを作成することにより、主軸データを作成しながら実際の刺繍縫いを行なってもよい。
主軸データの一例としては、図16に示すものが挙げられる。図16に示す主軸データは、等速で回転しつづけるものであるが、各ステッチのステッチ長が同じで、ステッチの角度も同じ方向である場合には、このような主軸データとすればよい。なお、あるステッチのステッチ長が大きい場合には、1ステッチの時間を長くし、ステッチ長が小さい場合には、1ステッチの時間を短くする。
また、制御回路90は、刺繍データに基づき、回動アームの下降区間における回動アーム下げ量と、回動アームの上昇区間における回動アーム上げ量を算出して、回動アーム用データ(図17参照)を作成する。なお、回動アーム用データの作成に際しては、複数のステッチから構成される刺繍データ全体について予め作成しておくが、実際に各機械要素(針棒、天秤、釜等)により刺繍縫いを行なうステッチよりも数ステッチ前の回動アーム用データを作成することにより、回動アーム用データを作成しながら実際の刺繍縫いを行なってもよい。
また、制御回路90は、記憶装置92から読み出された位置データと作成された回動アーム用データとに従い、角度対応データ(図18参照)を作成する。なお、角度対応データの作成に際しては、複数のステッチから構成される刺繍データ全体について予め作成しておくが、実際に各機械要素(針棒、天秤、釜等)により刺繍縫いを行なうステッチよりも数ステッチ前の角度対応データを作成することにより、角度対応データを作成しながら実際の刺繍縫いを行なってもよい。
実際の刺繍縫いにおける動作について説明すると、図22に示すように、まず、主軸角度を検出する(S1)。すなわち、主軸モータ20に接続されたエンコーダ21の情報により主軸角度を検出する。この主軸角度の検出は所定の周期で行い(つまり、図22に示す処理は所定の周期で行なう)、例えば、1ステッチ分の周期の数十分の1〜数千分の1程度の周期で行なう。
そして、検出された主軸角度に従い(S1)、糸掛け棒駆動モータ240と磁石部50と磁石部70と枠駆動装置24と上糸用モータ86について、駆動区間であるか否かが判定され(S2)、駆動区間である場合には、駆動を行い(S3)、駆動区間でない場合には、駆動を停止状態とする(S4)。なお、駆動区間は、糸掛け棒駆動モータ240については、駆動開始位置から駆動終了位置の直前まで(駆動終了位置は駆動区間ではなく停止区間に入る)の区間であり、磁石部50については、駆動開始位置から駆動終了位置の直前まで(駆動終了位置は駆動区間ではなく停止区間に入る)の区間であり、磁石部70については、駆動開始位置から駆動終了位置の直前まで(駆動終了位置は駆動区間ではなく停止区間に入る)の区間であり、回動アーム81については、下降区間の開始位置から終了位置の直前まで(終了位置は駆動区間ではなく停止区間に入る)の区間であり、上昇区間の開始位置から終了位置の直前まで(終了位置は駆動区間ではなく停止区間に入る)の区間であり、上糸引出し区間の開始位置から終了位置の直前まで(終了位置は駆動区間ではなく停止区間に入る)の区間である。
糸掛け棒駆動モータ240については、駆動開始位置(図19では、約290度)に駆動を開始し、駆動終了位置(図19では、約90度)で駆動を終了する。実際の糸掛け棒236の動きとしては、約90度〜約290度の糸掛け棒駆動モータ240の停止区間、すなわち、糸掛け棒236が停止している状態では、糸掛け棒236は、図10の(b)に示す位置にあり、この位置で糸掛け棒236は、板状部216f−2との間で上糸を挟んで固定した状態となっている。また、約290度の位置から約90度の位置の間で、糸掛け棒駆動モータ240は駆動し、糸掛け棒236の先端236Qは、図10におけるw1に示す方向に回転するとともに、交点236Pは、図10におけるw2に示す方向に回転し、約70度の位置で糸掛け棒236は、図10の(a)に示す位置にあって、上糸に接する。つまり、糸掛け棒駆動モータ240は、上糸固定部により上糸を固定した固定状態(約90度〜約290度の位置における糸掛け棒駆動モータ240の停止状態)と、上糸固定部による上糸の固定を解除した解除状態(約290度〜約90度の位置における糸掛け棒駆動モータ240の駆動状態)とを切り換えている。
1つのステッチにおける動作を図19、図20を使用して説明すると、回動アーム81の下降区間の開始位置(約190度)から回動アーム81が下降し始めると、釜12dが上死点となって上糸を引っかけて引き込むので、回動アーム81の位置の上糸も下降し、回動アーム81が回動アーム用データにおける回動アーム下げ量分(図20では、ステッチn+1についての回動アーム下げ量)だけ下降して下降区間の終了位置で回動アーム81の下降が停止すると、回動アーム81の位置の上糸が回動アーム81のフック部84に掛止した状態となる。これにより、ステッチn+1に必要な長さの上糸が布と回動アーム81間に準備される。
釜12dが上糸を引き込む区間(釜上死点(約190度)から釜下死点(約290度))においては、糸掛け棒236は図10の(b)の位置で停止して上糸を上糸受け部216fとともに固定しているので、糸掛け棒236で固定しているステッチ(図20のステッチn)側から釜が上糸を引き込んでしまうおそれがない。
なお、回動アーム81の下降区間においては、磁石部50が駆動して上流側把持部40は閉状態となっているので、釜12dが上糸を引き込んでも上流側把持部40よりも上流側から上糸を引き込むものではない。図20の(a)は、回動アーム81の下降区間において釜12dが上糸に引っかかった後の状態(例えば、約230度の位置の状態)を示す図といえる。なお、約245度の位置で縫い針12baの布U(刺繍を行なう加工布)への挿針状態が解除され、約250度の位置で布押え12cが上昇し始める。なお、釜12dが回転動作して上糸Jを引き込み、上糸Jを下糸Gと絡めてステッチを形成する。
その後、約290度の位置で糸掛け棒236が回転を開始することにより、糸掛け棒236は固定していたステッチ(図20におけるステッチn)から離れ、約300度の位置で回動アーム81が上昇を開始し、回動アーム81は、回動アーム用データにおける回動アーム上げ量分(図20では、ステッチn+1についての回動アーム上げ量)だけ上昇する。なお、上記のように、ステッチn+1についての回動アーム上げ量は、ステッチnの際の回動アーム下げ量に対応する上糸長さからステッチnの上糸残り長さを減じた値に対応した回転角度である。
すると、回動アーム81の上昇区間においては、天秤12aも上昇するが、天秤12aが上昇する際に、回動アーム81が上昇した分だけ1つ前のステッチ(図20では、ステッチn)の上糸残り長さが短くなる。
図20の(b)は、回動アーム81が上昇をし始める約300度の位置を示す図であり、図20の(c)は、回動アーム81と天秤12aが上昇することにより、ステッチnの上糸残り長さが低くなった状態を示している。なお、回動アーム上げ量が0の場合には、そのステッチについては回動アーム81は上昇せず、天秤12aが上昇してもステッチnの上糸残り長さは低くはならない。
その後、約70度の位置で糸掛け棒236が上糸に接し、約90度の位置で糸掛け棒236が上糸(すなわち、第2上糸部分Jb)を板状部216f−2に押しつけて、糸掛け棒236と板状部216f−2とで上糸を挟んだ状態にして上糸を固定する。
その後、布押え12cは、約100度の位置で下死点に達して布Uに接し、その後、約110度の位置で針棒12bの縫い針が布Uに挿針するので、挿針することにより形成されたステッチ(図20では、ステッチn+1)には、糸掛け棒236が引っ掛かっていて(「掛止していて」としてもよい)、そのステッチの上糸は糸掛け棒236を跨いだ状態となる。つまり、上糸が糸掛け棒236の位置で折り返した状態となる。図20の(d)は、上糸が糸掛け棒236を跨いで挿針する直前の位置(約100度の位置)の状態を示すものといえる。このように、上糸が糸掛け棒236により上糸受け部216fに固定しているので、縫い針12baが布Uに挿針した際に上糸が縫い針12baを跨ぐことができ、また、縫い針12baが布Uに挿針しても、ステッチnから上糸が引き出されてしまうことがない。つまり、ステッチnの上糸残り長さが短くなってしまうことがない。
その後、回動アーム81は、上糸引出し区間の開始位置から終了位置まで上昇して上流側把持部40よりも上流側から上糸を引き出す。すなわち、上糸ガイド104の上流側に設けられた巻き糸(図示せず)から上糸を引き出す。その際、上流側把持部40は開状態であり、下流側把持部60は閉状態であるので、回動アーム81が上昇することにより、上流側把持部40よりも上流側から上糸が引き出される。図20の(e)は、回動アーム81の上糸引出し区間において、上糸を上流側把持部40よりも上流側から引き出す状態を示すものである。
この上糸引出し区間により上糸を上流側把持部40よりも上流側から引き出すことにより、回動アーム81の上昇区間において上げ量(上昇回動角度)が小さく、上糸の布への直近の挿入位置(上糸が直近に布と接する位置)(図20の(c)の位置m3)から上流側の上糸の長さ(つまり、位置m3と第1板状部ユニット42間の長さ)が短い場合でも、上糸引出し区間における回動アーム81の上げ量がその分大きくなるので、上流側把持部40よりも上流側から上糸を十分引き出すことができ、以後のステッチのための上糸が不足することがない。
例えば、図19において、回動アーム81の上昇区間における上げ量が小さい(つまり、ステッチnの上糸残り長さが長い)場合でも、その分、上糸引出し区間における回動アーム81の上げ量が大きくなり、上糸を上流側把持部40よりも上流側から引き出すことができるので、ステッチn+1の次のステッチのための上糸長さを確保しておくことができる。なお、回動アーム81が下限位置から上限位置まで回動する(つまり、回動範囲分を回動する)ことにより上流側把持部40よりも上流側から引き出すことができる上糸の長さ(上糸引出し区間における最大上糸引出し長さ)は、最大ステッチ長で、かつ、上糸残り長さが最大の場合の上糸の長さに布厚の長さの2倍の長さを加算した値の長さを少なくとも有する必要があるといえる。
また、回動アーム81の上昇区間において、回動アーム81の上げ量が大きい場合には、その分、上糸引出し区間における回動アーム81の上げ量が小さいが、上昇区間において、上糸の布への直近の挿入位置よりも上流側に上糸を引き出しているので、回動アーム81が上糸引出し区間で上限位置まで回動することにより、結果的に、回動アーム81が回動範囲分を回動して上糸を引き出した場合の長さを確保できるので、以後のステッチのための上糸が不足することがない。
例えば、図19において、回動アーム81の上昇区間における上げ量が大きい(つまり、ステッチnの上糸残り長さが短い)場合には、その分、上糸引出し区間における回動アーム81の上げ量が小さくなるが、上昇区間において、上糸の布への直近の挿入位置m3よりも上流側に上糸を引き出しているので、ステッチn+1の次のステッチのための上糸長さを確保しておくことができる。
回動アーム81の上糸引出し区間の終了位置(約180度)になると、その後は、回動アーム81の下降区間の開始位置(約190度)に至り、以後は、各ステッチごとに上記の動作を繰り返すことになる。図20(f)は、上糸引出し区間の終了位置(約180度の位置)の状態を示している。以上のようにして、中空立体刺繍を行なうことができる。
なお、図20、図21において、第1板状部ユニット42、62を示す矩形状の中に上糸Jの延長線が描かれている場合には、対応する把持部が開状態であることを示し、該矩形状の中に上糸Jの延長線が描かれていない場合には、対応する把持部が閉状態であることを示している。
なお、図19は、主軸角度に応じた各部の動作を示しているが、主軸22は一方向に回転するので、時系列としても図19に示すように各部が動作することになる。つまり、1ステッチ分の時間は変化することがあっても、各部の動作の前後関係は同様となる。よって、図19に示す横軸(主軸角度を示す横軸)は、時間軸としてもとらえることができ、横軸における各位置は時間的な位置ととらえることもできる。また、下降区間、上昇区間、糸引出し区間等の各区間は時間的な区間としてもとらえることができ、「下降区間(第1区間)」を「下降期間(第1期間)」とし、「上昇区間(第2区間)」を「上昇期間(第2期間)」とし、「糸引出し区間(第3区間)」を「糸引出し期間(第3期間)」としてもよい。
なお、上糸用モータ86の制御は以下のようにして行なう。すなわち、角度対応データから上糸用モータ角度のデータを読み出す(図23のS11)。すなわち、ステップS1で検出した主軸角度に最も近い主軸角度を角度対応データ(図18)から検出し、その主軸角度に対応した上糸用モータ角度を読み出す。なお、ステップS1で検出した主軸角度に隣接した2つの主軸角度のデータが角度対応データにある場合には、2つの主軸角度との割合に応じて、上糸用モータ角度を算出してもよい。
次に、読み出した上糸用モータ角度から単位時間当たりの変化量を検出して速度データを算出する(図23のS12、速度データ算出工程)。つまり、角度データの変化量を時間で除算することにより速度データを算出する。すなわち、主軸角度と上糸用モータ角度の関係が図18に示す角度対応データに規定され、また、時間と主軸角度の関係が図15に示す主軸データに規定されているので、これらにより、単位時間当たりの上糸用モータ角度の変化量を検出する。つまり、角度データを微分することにより速度データを算出する。なお、主軸データの主軸角度のデータと角度対応データの主軸角度のデータとが一致しない場合には、例えば、角度対応データにおける主軸角度が隣接する2つの主軸角度(主軸データにおける主軸角度)との差の割合から時間を算出すればよい。
次に、速度データの単位時間当たりの変化量を検出してトルクデータを算出する(図23のS13、トルクデータ算出工程)。つまり、速度データの変化量を時間で除算することによりトルクデータを算出する。つまり、ステップS12において、時刻ごとに上糸用モータの速度データが算出されるので、この速度データを微分することによりトルクデータを算出する。なお、速度の変化量を算出するために必要な速度データは予めCPU90aが保持しておく。
次に、ステップS13で算出されたトルクデータからトルク補償データを算出する(図23のS14)。すなわち、トルクデータに対して慣性比率を乗算し、慣性比率を乗算して得た値にメカロスに基づくトルクを加算してトルク補償データを算出する。ここで、慣性比率とは、各機械要素の質量等に応じて予め定められた定数であり、メカロスに基づくトルクは、各機械要素に応じて予め定められた値である。
次に、ステップS11において読み出された角度データからエンコーダ87(上糸用モータ86に対応したエンコーダ)からのデータ(エンコーダのカウント値)を減算する(図24のS15、位置偏差算出工程)。このステップS15で算出された値は、位置偏差の値といえる。
次に、ステップS15で算出された算出値に対して、予め定められた定数を乗算して、速度値を算出する(図24のS16)。
次に、エンコーダ87からの出力を微分してモータ現在速度値を算出する(図24のS17)。つまり、エンコーダのカウント値の単位時間当たりの変化量を算出して、モータ現在速度値を算出する。
次に、ステップS17で算出された速度値からステップS17で算出されたモータ現在速度値を減算し、さらに、ステップS12で算出された速度データを加算する(図24のS18、速度偏差算出工程)。このステップS18で算出された値は、速度偏差の値であるといえる。
次に、ステップS18で算出された算出値に対して、予め定められた定数を乗算して、トルク値を算出する(図24のS19)。
次に、ステップS19で算出されたトルク値にステップS14で算出されたトルク補償データを加算する(図24のS20)。その後、ステップS20で算出した値から電流センサ90cからのトルク値を減算する(図24のS21、トルク偏差算出工程)。このステップS21で算出された値は、トルク偏差の値といえる。
次に、ステップS21で算出された算出値に対して、予め定められた定数を乗算して、PWM回路90bに出力する電圧値(PWM回路への電圧指令)を算出し(図24のS22)、PWM回路90bに出力する(図24のS23)。
PWM回路90bは、入力された信号に基づき電圧信号としてのパルス信号を出力して、上糸用モータ86に対して電流を供給する(図24のS24、電流供給工程)。
以上のように、図22〜図24のフローチャートに示す処理を所定の周期を行なうことにより、上糸用モータ86の制御を行なう。
また、主軸モータ20の制御の方法は、上記上糸用モータ86における位置制御と同様に行なう。
まず、主軸データから角度データ(位置データとしてもよい)を読み出す(図23のS11、読出し工程)。つまり、主軸データにおいて処理の対象となる時間に対応する角度(主軸角度)を検出してその角度のデータを読み出す。この図23のステップS11は、図22のステップS1と同じである。
次に、検出した主軸角度の単位時間当たりの変化量を検出して速度データを算出する(図23のS12、速度データ算出工程)。速度データの算出に際しては、角度データの変化量を時間で除算することにより速度データを算出する。つまり、角度データを微分することにより速度データを算出する。
次に、速度データの単位時間当たりの変化量を検出してトルクデータを算出し(図23のS13、トルクデータ算出工程)、ステップS13で算出されたトルクデータからトルク補償データを算出し(図23のS14)、ステップS11において読み出された角度データからエンコーダ21からのデータ(エンコーダのカウント値)を減算し(図24のS15、位置偏差算出工程、このステップS15で算出された値は、位置偏差の値といえる)、ステップS15で算出された算出値に対して、予め定められた定数を乗算して、速度値を算出し(図24のS16)、エンコーダ21からの出力を微分してモータ現在速度値を算出し(図24のS17、つまり、エンコーダのカウント値の単位時間当たりの変化量を算出して、モータ現在速度値を算出する )、ステップS16で算出された速度値からステップS17で算出されたモータ現在速度値を減算し、さらに、ステップS12で算出された速度データを加算し(図24のS18、速度偏差算出工程、ステップS18で算出された値は、速度偏差の値であるといえる)、ステップS18で算出された算出値に対して、予め定められた定数を乗算して、トルク値を算出し(図24のS19)、ステップS19で算出されたトルク値から電流センサ90cからのトルク値を減算し、さらに、ステップS14で算出されたトルク補償データを加算し(図24のS20)、その後、ステップS20で算出した値から電流センサ90cからのトルク値を減算し(図24のS21、トルク偏差算出工程、ステップS21で算出された値は、トルク偏差の値といえる) 、ステップS21で算出された算出値に対して、予め定められた定数を乗算して、PWM回路90bに出力する電圧値(PWM回路への電圧指令)を算出し(図24のS22)、PWM回路90bに出力する(図24のS23)。そして、PWM回路90bは、入力された信号に基づき電圧信号としてのパルス信号を出力して、主軸モータ20に対して電流を供給する(図24のS24、電流供給工程)。
図23〜図24のフローチャートに示す処理を所定の周期を行なうことにより、主軸モータ20の制御を行なう。
以上のように、本実施例のミシン5によれば、糸掛け棒236や上糸受け部216fにより上糸を固定することにより中空刺繍を形成するので、上糸を刺繍対象の布に重ねる板状の部材が必要ないとともに、該板状の部材を溶解する必要がない。また、第2区間における回動アーム86の回動角度により各ステッチごとに上糸の長さ(つまり、上糸残り長さ)を調整できるので、きめの細かい中空刺繍を得ることができる。また、上糸の長さ(つまり、上糸残り長さ)を長くすることにより、ステッチを形成することにより布を過度に引っ張ることがなく、刺繍を形成した布が波打つ(つまり、凹凸になる)ことがなく、さらには、縫い目を柔らかくすることができる。つまり、上糸の長さを短くして縫い目を固く形成した場合には、刺繍を形成した布が波打つ(つまり、凹凸になる)おそれがあり、特に、布の厚みが薄い場合にはそのおそれが高いが、本実施例の場合には、刺繍を形成した布が波打つのを防止することができる。
なお、上記の説明では、布押え12cにおいて、ベース部212の本体構成部214には、軸部215を挿通するための貫通穴214aが設けられて軸部215が固定され、揺動往復動機構部230の横板部232には、長孔状の開口部232kが設けられているとしたが、逆の構成として、図27、図28に示すように、揺動往復動機構部230の横板部232に軸部215を挿通するための貫通穴232aが設けられて、軸部215が横板部232に固定され、本体構成部214に長孔状の開口部214dが形成された構成としてもよい。つまり、軸部215が、横板部232に対して軸部215の軸線と直角方向に移動できないように横板部232に挿通され、また、軸部本体215bは、開口部214dに挿通し、開口部214dの長手方向に摺動可能となっている。この場合でも、回転盤238が回転することにより、横板部232の背面側が回転し、横板部232が背面側が回転することにより、横板部232が左右方向に揺動しながら前後方向に往復動する。
また、布押え12cにおいて、先端構成部216が布押え12cにおける正面側となるように配置されているが、先端構成部216が布押え12cにおける正面側以外の側となるように配置してもよく、例えば、先端構成部216が左側面側(X1側)で基端部218が右側面側(X2側)となるように配置してもよく、また、先端構成部216が右側面側(X2側)で基端部218が左側面側(X1側)となるように配置してもよい。
また、上記の説明において、糸掛け棒236を駆動するための糸掛け棒駆動モータ240は布押え12cに設けられるとしたが、ケース部110側に設けてもよい。すなわち、図29に示すように、糸掛け棒駆動モータ240はケース部110の支持部112dに支持され、糸掛け棒駆動モータ240の出力軸240aは、ベース部212の基端部218の横板部218bに設けられた開口部(図示せず)を挿通し、出力軸240aにはシャフト状のギア240bが出力軸240aと同軸に接続されている。ギア240bの周面には、複数の歯が突出して形成されている。また、回転盤238には、ギア240bと歯合するための開口部(図示せず)が設けられ、糸掛け棒駆動モータ240が回転してギア240bが回転することにより、回転盤238が回転するようになっている。なお、布押え12cがケース部110に対して上下動した場合でも、ギア240bが回転盤238に対して摺動するので、ギア240bと回転盤238との歯合状態は維持される。なお、ギア240bは、糸掛け棒駆動モータ240の回転力を回転盤238に伝達する伝達部である。
以上のように、糸掛け棒駆動モータ240を布押え12cと別の構成とすることにより、布押え12cの重量を軽くすることができ、布押え12cの上下動を容易とすることができる。
また、上記の説明では、揺動往復動機構部230(特に、糸掛け棒236)と上糸受け部216fとにより構成される上糸固定部は、布押え12cに設けられるとしたが、上糸を固定するための構成を布押えと別の構成としてもよい。
すなわち、布押えとは別に図30に示す上糸固定ユニット12fを設け、上糸固定ユニット12fは、上記布押え12cから先端構成部216の上糸受け部216f以外の構成を省略した構成と近似している。
すなわち、上糸固定ユニット12fは、図30に示すように、本体部(上糸固定部本体)210と、本体部210に対して揺動しながら往復動する揺動往復動機構部(回転機構部としてもよい)230と、揺動往復動機構部230を動作させるための糸掛け棒駆動モータ240とを有している。
ここで、本体部210は、ベース部212と、ベース部212に固定されたシャフト部220とを有している。
ベース部212は、本体構成部214と、背面側の端部から連設された基端部218とを有している。本体構成部214は、略L字状の板状を呈する横板部214aと、横板部214aの先端の右側面側の端部から下方に連設された方形状の縦板部214bと、縦板部214bの内側の面に取り付けられた上糸受け部214cとを有している。なお、ベース部212における上糸受け部214c以外の構成、すなわち、横板部214aと縦板部214bと基端部218とが、上糸受け部214cを支持する上糸固定部本体212−1を構成する。
ここで、上糸受け部214cは、上記上糸受け部216fと同様の構成であり、上糸受け部214cは、縦板部214bの内側の面に設けられた弾性部214c−1と、弾性部214c−1の縦板部214bとは反対側の端部に固定して設けられた板状部(上糸受け部本体)214c−2とを有している。弾性部214c−1は、コイルスプリングであり、一方の端部が縦板部214bに固定され、他方の端部が板状部214c−2に固定されている。この上糸受け部214cは、糸掛け棒236とともに上糸を挟むものであり、糸掛け棒236により上糸受け部214c側に押されてきた上糸が板状部214c−2と接すると、糸掛け棒236と板状部214c−2とにより上糸が挟んだ状態となる。
基端部218は、上記布押え12cにおける基端部218と同様の構成であるので説明を省略する。
上糸固定ユニット12fにおける揺動往復動機構部230は、布押え12cにおける揺動往復動機構部230と同様の構成であり、また、上糸固定ユニット12fにおける糸掛け棒駆動モータ240は、布押え12cにおける糸掛け棒駆動モータ240と同様の構成であるので、説明を省略する。なお、揺動往復動機構部230において、横板部232と縦板部234とで糸掛け棒支持部231が構成される。揺動往復動機構部230(特に、糸掛け棒支持部231と糸掛け棒236)と、上糸受け部214cは、「上糸における布と天秤間の部分である第2上糸部分を布面よりも離れた位置で、かつ、縫い針の挿針位置に対して布面の方向にずれた位置で固定する上糸固定部」を構成する。また、上糸固定ユニット12fは、布押え12cの場合と異なり上下動する必要がないので、固定して設けられている。すなわち、上糸固定ユニット12fにおけるシャフト部220がケース部110に固定されている。
また、図30の構成において、上糸固定ユニット12fと別の構成の布押え12c’は、図30に示すように、上糸受け部214cの左側面側(X1側)の空間(図30では、上糸受け部214cと糸掛け棒236の間の空間)を通過するように上下動する。この布押え12c’は、従来の布押えと同様の構成であり、開口部12c’−kが設けられたリング状の布押え本体12c’−1と、布押え本体12c’−1を支持する棒状(又は板状)の支持部12c’−2とを有し、布押え12c’が下降して布押え本体12c’−1が布に接する構成となっている。布押え12c’に設けられた開口部12c’−kに縫い針が挿通されるので、この図30の構成においても、縫い針の挿針位置に対して布面の方向にずれた位置で、糸掛け棒236fと上糸受け部214cにより上糸が固定されることになる。
また、上記の説明において、弾性部216f−1、214c−1はコイルスプリングであるとしたが、板バネ等の他の弾性体としてもよい。また、板状部216f−2(214c−2)と糸掛け棒236とにより上糸を挟む力を強くするために、板状部216f−2(214c−2)に磁石(具体的には、永久磁石)を取り付けるか、又は、板状部216f−2(214c−2)を磁石(具体的には、永久磁石)により構成してもよい。すなわち、糸掛け棒236を磁性体(すなわち、鉄等のように磁石が吸引する材料(例えば、金属))により形成することにより、板状部216f−2(214c−2)との間で上糸を強く把持して固定することが可能となる。
また、上記の説明では、クランク機構を用いて糸掛け棒236を旋回させることにより糸掛け棒236と上糸受け部216fにより上糸を固定するとして説明したが、前後方向に往復駆動を行なう装置(前後方向駆動装置)と左右方向に往復駆動を行なう装置(左右方向駆動装置)とを用いて糸掛け棒を左右方向と前後方向に往復動させることにより上糸を固定するようにしてもよい。例えば、前後方向駆動装置に左右方向駆動装置を取り付け、左右方向駆動装置に糸掛け棒236を取り付けた構成とし、糸掛け棒が上糸に対して左側面側かつ正面側にある状態(これを初期位置とする)で、左右方向駆動装置により右側面側に移動させて糸掛け棒236と上糸受け部216fとにより上糸を固定し、その後、前後方向駆動装置により左右方向駆動装置を背面側に移動させて上糸の固定を解除し、その後、左右方向駆動装置より糸掛け棒を左側面側に移動させ、その後、前後方向駆動装置により左右方向駆動装置を正面側に移動させることにより初期位置に戻るのである。なお、往復駆動を行なう装置としては、ソレノイド等のアクチュエータが挙げられる。
また、布押え12cは、主軸22の回転力により上下動するとしたが、布押え12cを上下動させるモータである布押え用モータを別に設けるとともに、主軸角度と布押え用モータの回転方向の位置を規定した布押え用データを設けることにより、布押え用モータを布押え用データに従い動作させて、布押え12cを上下動させるようにしてもよい。
また、上記の説明では、回動アーム81の回動軸の方向が左右方向であり、上糸における第1上糸部分Jaを含む両側の範囲が上糸支持部材88により左右方向に支持されるとしたが、これには限られず、回動アーム81の回動軸の方向が上下方向で、上糸における上流側把持部本体41と下流側把持部本体61間の上下方向の上糸の部分を第1上糸部分として回動させるようにしてもよい。この場合には、上下方向の上糸における回動アーム81で掛止した箇所を横方向に回動させることになる。
なお、図面において、Y1−Y2方向は、X1−X2方向に直角な方向であり、Z1−Z2方向は、X1−X2方向及びY1−Y2方向に直角な方向である。