JP5752736B2 - スパッタリング用ターゲット - Google Patents
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Description
このような銅板は、フライスやドリル等の切削加工、曲げ等の塑性加工等を施すことにより、所望の形状の製品に加工されることになる。ここで、上述の銅板においては、加工時のムシレ、変形を抑制するために、結晶粒径を微細化すること、及び、残留歪みを少なくすることが要求されている。
上述のスパッタリング用ターゲット等に用いられる銅板を得るために、従来は、例えば特許文献1−3に開示された方法が提案されている。
さらに、上述の銅板においては、結晶粒を微細化させているが、放熱基板のように冷熱サイクルによって繰り返し応力が負荷された際の疲労特性が不十分であった。また、上述の銅板をスパッタリング用ターゲットとして使用した場合には、高出力のスパッタでの異常放電を十分に抑制することはできなかった。
また、スパッタリング用ターゲットにおいては、結晶方位によってスパッタ効率が異なることから、スパッタが進行するにしたがい結晶粒ごとに凹凸が発生し、異常放電の原因となる。ここで、本発明の熱延銅板においては、平均結晶粒径が40μm以下とされているので、スパッタ時の凹凸が微細となり、異常放電の発生を抑制することができる。
さらに、前記純銅は、Feが0.0003mass%以下、Oが0.0002mass%以下、Sが0.0005mass%以下、Pが0.0001mass%以下の範囲で含有し、残部が銅及び不可避不純物とされた組成である。前述の純銅の不純物のうちFe,O,S,Pといった元素は、特に(Σ3+Σ9)粒界長さ比率(L(σ3+σ9)/L)を低下させる作用を有するため、これらの元素の含有量を上述のように規定することにより、(Σ3+Σ9)粒界長さ比率(L(σ3+σ9)/L)を確実に28%以上とすることが可能となる。
結晶粒界は、二次元断面観察の結果、隣り合う2つの結晶間の配向方位差が15°以上となっている場合の当該結晶間の境界として定義される。
また、Σ3粒界およびΣ9粒界とは、結晶学的にCSL理論(Kronberg et al:Trans.Met.Soc.AIME,185,501(1949))に基づき定義されるΣ値が3および9の対応粒界であって、かつ、当該対応粒界における固有対応部位格子方位欠陥Dqが、Dq≦15°/Σ1/2 (D.G.Brandon:Acta.Metallurgica.Vol.14,p.1479,(1966))を満たす結晶粒界であるとして定義される。
一方、ランダム粒界とは、Σ値が29以下の対応方位関係があってかつDq≦15°/Σ1/2 を満たす特殊粒界、以外の粒界である。
上述のように、純銅中の不純物は、(Σ3+Σ9)粒界長さ比率(L(σ3+σ9)/L)を低下させる作用を有する。また、純銅中の不純物が多いと導電率は低下する。このため、導電率を上述のように規定することにより、純銅中の不純物量を少なく抑えることができ、(Σ3+Σ9)粒界長さ比率(L(σ3+σ9)/L)を確実に28%以上とすることが可能になる。
このような純銅としては、C10100、米国規格ASTM F68のClass1などが挙げられる。
ビッカース硬度が80以下と低い場合には、熱延銅板における歪み量が低減されていることになる。ここで、歪み量が低減された熱延銅板をスパッタリング用ターゲットとして使用した場合には、スパッタ時の歪みの解放による粗大なクラスタの発生及びこれに起因する凹凸の発生を抑えることができ、異常放電の発生を抑制することができる。
逆極点図の強度は、全ての結晶方位が同じ確率で出現する状態(完全なランダム配向の組織)に対して何倍の頻度でその面方向が測定面内に出現しているのかを表すものであり、最大値が大きいほど特定の結晶方向に偏っていることを示している。すなわち、EBSD法で測定した逆極点図の各面方位の強度の最大値が5を下回るということは、結晶方位がランダムになっていることを示している。このように、結晶方位がランダムになっていることから、スパッタ効率が均一となり、異常放電を抑制できる。
圧下率10%以下の冷間圧延加工やレベラーでの形状修正を実施した場合には、(Σ3+Σ9)粒界長さ比率(L(σ3+σ9)/L)が低下することを抑制でき、かつ、圧延の優先方位が発達することを抑制できる。
また、熱間圧延によって、上述のように平均結晶粒径が40μm以下、(Σ3+Σ9)粒界長さ比率(L(σ3+σ9)/L)が28%以上とされているので、冷間圧延工程及び熱処理工程を省略することができる。よって、スパッタリング用ターゲットの製造コストを大幅に削減することができる。
本実施形態である熱延銅板は、純度が99.99mass%以上である純銅からなり、より具体的には、Feが0.0003mass%以下、Oが0.0002mass%以下、Sが0.0005mass%以下、Pが0.0001mass%以下の範囲で含有し、残部が銅及び不可避不純物とされた組成とされている。
また、本実施形態である熱延銅板は、平均結晶粒径が40μm以下であり、ビッカース硬度が80以下とされている。
また、本実施形態である熱延銅板は、EBSD法で測定した逆極点図の各面方位の強度の最大値が5を下回っている。
また、Σ3粒界およびΣ9粒界とは、結晶学的にCSL理論(Kronberg et al:Trans.Met.Soc.AIME,185,501(1949))に基づき定義されるΣ値が3および9の対応粒界であって、かつ、当該対応粒界における固有対応部位格子方位欠陥Dqが、Dq≦15°/Σ1/2 (D.G.Brandon:Acta.Metallurgica.Vol.14,p.1479,(1966))を満たす結晶粒界であるとして定義される。
さらに、結晶粒径が粗大な場合には、曲げ加工等の塑性加工を施した場合に、加工割れが発生するおそれがある。
以上のことから、本実施形態である熱延銅板は、平均結晶粒径を40μm以下に規定している。
以上のことから、本実施形態である熱延銅板は、(Σ3+Σ9)粒界長さ比率(L(σ3+σ9)/L)が28%以上に規定している。なお、上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、(Σ3+Σ9)粒界長さ比率(L(σ3+σ9)/L)は30%以上とされていることが望ましく、35%以上であることがより望ましい。
すなわち、冷間圧延及び熱処理工程を行うことなく、熱間圧延工程のみによって、平均結晶粒径を40μm以下、全結晶粒界長さLとΣ3粒界長さLσ3及びΣ9粒界長さLσ9の和L(σ3+σ9)との比率である(Σ3+Σ9)粒界長さ比率(L(σ3+σ9)/L)が28%以上となるように、結晶組織を制御したものである。
まず、99.99mass%以上の純度を有する銅を、例えば、加熱炉によって溶融し、連続鋳造機を用いて純銅のインゴットを製出する。このとき、純銅インゴットの不純物として、Feが0.0003mass%以下、Oが0.0002mass%以下、Sが0.0005mass%以下、Pが0.0001mass%以下となるように管理することが望ましい。これらの不純物は、主に原料素材に含まれる不純物を調整することによって管理することができる。
さらに、仕上げ熱間圧延後、熱延銅板の形状を調整するために、圧下率10%以下の冷間圧延加工やレベラーでの形状修正を実施してもよい。
また、スパッタリング用ターゲットとして使用した場合には、スパッタが進行するにしたがい結晶粒ごとに凹凸が発生するが、平均結晶粒径が40μm以下とされているので、スパッタ時の凹凸が微細となり、異常放電の発生を抑制することができる。
なお、熱延銅板の形状を調整するために、圧下率10%以下の冷間圧延加工やレベラーでの形状修正を実施してもよい。この場合には、圧延率が低いことから、(Σ3+Σ9)粒界長さ比率(L(σ3+σ9)/L)が低下することがなく、圧延の優先方位が発達することを抑制できる。
このように結晶方位がランダムとなっていることから、熱延銅板の結晶組織が均一化することになり、スパッタリング用ターゲットとして使用した場合には、スパッタ時の異常放電を抑制できる。
よって、純度が99.99mass%以上である純銅からなり、平均結晶粒径が40μm以下であり、EBSD法にて測定した全結晶粒界長さLとΣ3粒界長さLσ3及びΣ9粒界長さLσ9の和L(σ3+σ9)との比率である(Σ3+Σ9)粒界長さ比率(L(σ3+σ9)/L)が28%以上とされた熱延銅板を製造することができる。
例えば、本実施形態では、熱延銅板をスパッタリング用ターゲットや放熱基板として使用するものとして説明したが、バッキングプレート、スティーブモールド、加速器用電子管、マグネトロン、超電導安定化材、真空部材、熱交換機の管板、バスバー、電極材、めっき用アノード等の他の銅加工品として用いても良い。
圧延素材として、電子管用無酸素銅(純度99.99mass%以上)の鋳造インゴットを用いた。圧延前の素材寸法は、幅620mm×長さ900mm×厚さ250mmとし、熱間圧延を行って表1記載の熱延銅板を作製した。熱間圧延工程の総圧延率は92%とした。また前述の熱間圧延工程の最終段階の圧延である仕上げ熱間圧延では、仕上げ熱間圧延の開始温度と終了温度は表1に示した。温度測定は放射温度計を用い、圧延板の表面温度を測定することにより行った。そして、このような熱間圧延終了後に、200℃以下の温度になるまで、200℃/min以上の冷却速度で水冷によって冷却した。なお、本発明例7では、形状修正のための冷間圧延を表1の条件で行った。
比較例1,2,4では、圧延素材として、電子管用無酸素銅(純度99.99mass%以上)の鋳造インゴットを用いた。比較例3では圧延素材として、リン脱酸銅(純度99.95mass%以上)の鋳造インゴットを用いた。圧延前の素材寸法は、幅620mm×長さ900mm×厚さ250mmとし、熱間圧延を行って表1記載の熱延銅板を作製した。また、仕上げ熱間圧延の開始温度及び終了温度の温度測定は放射温度計を用い、圧延板の表面温度を測定することにより行った。そして、熱間圧延終了後に、200℃以下の温度になるまで、200℃/min以上の冷却速度で水冷によって冷却する。なお、比較例4では、冷間圧延を表1の条件で行った。
平均結晶粒径の測定は、熱延銅板の圧延面(ND面)にて、光学顕微鏡を使用してミクロ組織観察を行い、JIS H 0501:1986(切断法)に基づき測定した。
得られた熱延銅板について、(Σ3+Σ9)粒界長さ比率(L(σ3+σ9)/L)を算出した。各試料について、圧延方向(RD方向)に沿う縦断面(TD方向に見た面)を耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った後、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行った。
そして、EBSD測定装置(HITACHI社製 S4300−SEM、EDAX/TSL社製 OIM Data Collection)と、解析ソフト(EDAX/TSL社製 OIM Data Analysis ver.5.2)によって、結晶粒界、Σ3粒界、Σ9粒界を特定し、その長さを算出することにより、(Σ3+Σ9)粒界長さ比率(L(σ3+σ9)/L)の解析を行った。
また、測定範囲における結晶粒界の全粒界長さLを測定し、隣接する結晶粒の界面がΣ3粒界およびΣ9粒界を構成する結晶粒界の位置を決定するとともに、Σ3粒界長さLσ3とΣ9粒界長さLσ9を求め、上記測定した結晶粒界の全粒界長さLとΣ3粒界およびΣ9粒界の和の長さ比率L(σ3+σ9)/Lを求め、(Σ3+Σ9)粒界長さ比率(L(σ3+σ9)/L)とした。
EBSD測定装置(HITACHI社製 S4300−SEM,EDAX/TSL社製 OIM Data Collection)を用いて、熱延銅板の圧延方向(RD方向)に沿う縦断面(TD方向に見た面)において、圧延方向に2mm、圧延面方向(ND方向)に4mmとなり、かつ短辺が圧延面と重なる8mm2の長方形の領域をステップサイズ2μmで測定した。測定面積は、統計的にXRDと同等の信頼性が得られるといわれる測定結晶粒数が5000個を超えるに十分な面積としている。また、ステップサイズは妥当な時間でEBSDの走査を完了するように試料の粒径に基づいて決定している。測定データを解析ソフト(EDAX/TSL社製 OIM Data Analysis ver.5.2)によって解析し、圧延面方向(ND)の逆極点図の強度の最大値を算出した。算出には球面調和関数法で行い、展開次数を16、半値幅を5°とした。
圧延方向(RD)に沿う縦断面(TD方向に見た面)に対して、JIS Z 2244に規定される方法により測定した。
各試料を100×2000mmの平板とし、その表面をフライス盤で超硬刃先のバイトを用いて切り込み深さ0.1mm、切削速度5000m/分で切削加工し、その切削表面の500μm四方の視野において、長さ100μm以上のムシレ疵が何個存在したかを評価した。
各試料からターゲット部分が直径152mm、厚さ6mmとなるようにバッキングプレート部分を含めた一体型のターゲットを作製し、そのターゲットをスパッタ装置に取り付け、チャンバー内の到達真空圧力を、1×10−5Pa以下、スパッタガスとしてArを用い、スパッタガス圧を0.3Paとし、直流(DC)電源にてスパッタ出力2kWを条件でスパッタリングテストを実施した。スパッタは2時間連続させた。その間に、電源に付属するアークカウンターを用いて、スパッタ異常により生じた異常放電の回数をカウントした。
比較例2,3においては、平均結晶粒径は32μm,31μmであったが、(Σ3+Σ9)粒界長さ比率(L(σ3+σ9)/L)が24.0%、19.9%と低かった。このため、ムシレは少なかったが、異常放電回数が多くなった。
比較例4においては、熱間圧延後に圧延率25%で冷間圧延しており、平均結晶粒径は37μmであったが、(Σ3+Σ9)粒界長さ比率(L(σ3+σ9)/L)が21.4%と低かった。また、ビッカース硬度が97と高く、残留歪みが大きいことが確認される。さらに、逆極点図の面方位強度の最大値が8.4となっており、圧延率25%の冷間圧延によって結晶方位が一定の方向に偏っていることが確認される。この比較例4においては、ムシレは少なかったが、異常放電回数が27回と多かった。
なお、本発明例7では、熱間圧延後に、圧下率8%で冷間圧延を実施しているが、(Σ3+Σ9)粒界長さ比率(L(σ3+σ9)/L)は29.1%であり、逆極点図の面方位強度の最大値も4.4であった。
Claims (5)
- 純度が99.99mass%以上である純銅からなり、圧延面の平均結晶粒径が40μm以下であり、
EBSD法にて測定した全結晶粒界長さLとΣ3粒界長さLσ3及びΣ9粒界長さLσ9の和L(σ3+σ9)との比率である(Σ3+Σ9)粒界長さ比率(L(σ3+σ9)/L)が28%以上とされており、
前記純銅は、Feが0.0003mass%以下、Oが0.0002mass%以下、Sが0.0005mass%以下、Pが0.0001mass%以下の範囲で含有し、残部が銅及び不可避不純物とされた熱延銅板からなることを特徴とするスパッタリング用ターゲット。 - 前記純銅は、導電率が101%IACS以上であることを特徴する請求項1に記載のスパッタリング用ターゲット。
- ビッカース硬度が80以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか一項に記載のスパッタリング用ターゲット。
- EBSD法で測定した逆極点図の各面方位の強度の最大値が5を下回ることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のスパッタリング用ターゲット。
- 圧下率10%以下の冷間圧延加工、あるいは、レベラ−での形状修正を施したことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のスパッタリング用ターゲット。
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