JP5585442B2 - 水産練製品の製造方法及び水産練製品用酵素製剤 - Google Patents
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Description
またトランスグルタミナーゼやアスコルビン酸オキシダーゼなどの酵素とアルカリや基質となる副材を併用することにより、硬さやしなやかさをある程度付与するという報告がある(特許第3702709号)。ところが実際の製造ラインでは初流の製品と終流の製品とで品質が異なるという問題が散見されている。これは製造ラインの終わりではすり身が練られてから成型・加熱されるまでの時間が長くなるため酵素反応がより進んでしまい、練り身の物性が変化しているためのだと推定される。また製造中の練り身物性変化が問題とならないレベルの酵素添加量では硬さ、しなやかさ付与効果は不十分である。特に、揚げ蒲鉾の場合、トランスグルタミナーゼ反応時間が短い為、トランスグルタミナーゼ量を増やさなければならず、結果、置き身工程中(製造工程において練り身を成型・加熱工程まで待機させている間)に物性が変化する。
一方、Marcel Dekker,Inc.発行 Surimi Technology291頁には、すり身にアスコルビン酸を添加するとゲル強度を向上効果が得られ、アスコルビン酸の最適添加量はすり身に対し0.2%であると記載されている。しかしながら発明者らの検討の結果、アスコルビン酸0.2%添加品はしなやかさが欠ける食感となることが確認されている。また、天然カルシウムとアスコルビン酸ナトリウムを用いて竹輪を製造することによりしなやかさや弾力を向上できるとの報告もある(特開平1−273566号公報)。この方法により製造工程での問題はある程度解決されるが、しなやかさを付与する効果は十分でなく、ゴム状の異質な食感となってしまうため水産練製品には好ましくない。
畜肉製品ではトランスグルタミナーゼとアスコルビン酸、重合リン酸を利用した技術も報告されている(特許3049966号)。しかしながら水産練製品における最適なアスコルビン酸量は定義されておらず、その併用効果も不明確であった。なおかつ、実施例に記載されているトランスグルタミナーゼとアスコルビン酸量の割合は1ユニットのトランスグルタミナーゼに対し0.000025〜0.00005gと本発明の範囲と大きく異なる。よって水産練製品においては上記の技術いずれも用いても製造適性を保ちつつ、求められる硬さやしなやかさを十分に付与できず、更なる改良が求められている。
本発明者らは鋭意研究を行った結果、トランスグルタミナーゼとアスコルビン酸類を適切に組み合わせることにより、さらに好ましくはα−グルコシダーゼを組み合わせることにより、製造時間に違いによる製品品質のバラツキを抑制しながら、原料すり身が減量された系においても水産練製品に硬さ・しなやかさを付与することのできる方法を見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は以下の通りである。
1.アスコルビン酸類とトランスグルタミナーゼとを添加することを特徴とする水産練製品の製造方法。
2.さらにα−グルコシダーゼを添加する前記1記載の方法。
3.アスコルビン酸類の添加量が原料すり身1kg当たり0.2〜1.2gであり、トランスグルタミナーゼの添加量が原料すり身1kg当たり40〜200ユニットである前記1又は2記載の方法。
4.α−グルコシダーゼの添加量が原料すり身1kg当たり1,000〜12,000ユニットである前記2又は3記載の方法。
5.水産練製品が揚げ蒲鉾、かに蒲鉾、竹輪、魚肉ソーセージ及びなるとよりなる群より選ばれるものである前記1乃至4何れか記載の方法。
6.アスコルビン酸類とトランスグルタミナーゼとを有効成分として含む水産練製品製造用の酵素製剤であって、該酵素製剤中のアスコルビン酸類の量が該酵素製剤中のトランスグルタミナーゼ1U当たり0.002〜0.03gである酵素製剤。
7.さらにトランスグルタミナーゼ1U当たり10〜200Uのα−グルコシダーゼを有効成分として含む前記6記載の酵素製剤。
本発明に用いられるトランスグルタミナーゼ(以下TGと記載することがある)は、哺乳動物由来のもの(特公平1−50382 参照)、魚類由来のもの(平成3年度日本水産学会秋季大会講演要旨集第180 頁参照)、植物由来のもの、微生物由来のもの(特開平1−27471、特許公開平11−75876参照)、遺伝子組換えによるもの(特開平1−300899 参照)、等が知られているが、その由来を問わず使用できる。味の素(株)より「アクティバ」TGという商品名で市販されている微生物由来のトランスグルタミナーゼが一例である。
本発明に用いられるアスコルビン酸類には、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸2グルコシド、アスコルビン酸パルミチン酸エステル、アスコルビン酸ステアリン酸エステル等が含まれ、食品用に用いることのできるグレードであればよい。アスコルビン酸ナトリウムが呈味等の面で最も好ましい。
本発明に用いられるα−グルコシダーゼ(以下AGと記載することがある)は、非還元末端α−1,4−グルコシド結合を加水分解し、α−グルコースを生成する酵素であるが、α−1,4結合をα−1,6結合へと変換する糖転移能を有するものが好ましい。そのようなα−グルコシダーゼをトランスグルコシダーゼと呼ぶ。すなわち、トランスグルコシダーゼは糖転移能を有するα−グルコシダーゼ酵素である。尚、グルコアミラーゼはα−グルコシダーゼと類似の反応を起こすが生成するグルコースはα−グルコースではなく、β−グルコースである。さらに、本発明に用いる酵素は単に分解活性を有するのみではなく、水酸基を持つ適当な受容体がある場合、グルコースをα−1,4結合よりα−1,6結合へと転移させ、分岐糖を生成する糖転移活性を有するものであることが特に重要である。尚、トランスグルコシダーゼL「アマノ」という商品名で天野エンザイム(株)より市販されている酵素が、本発明に用いられるα−グルコシダーゼの一例である。
本発明の水産練製品には、蒲鉾、揚げ蒲鉾、竹輪、かに蒲鉾、魚肉ソーセージ、なると、はんぺんに加え、シューマイなど原料に魚介類の練り身(魚介類をペースト状に加工したもの)を使用した加工品も含まれる。その中でも本発明が特に有用なものは、製造工程中に坐り時間を取らない製品である。ここでの坐り時間とはペースト状の練り身を意図的にゲル化させるための時間である。この坐り時間を取ることができない場合、練り身が製造ラインで移動、滞留する間の酵素反応の影響が大きく、同一ロットの製品であっても初流(最初の方に製造が完了した製品)と後流(最後の方に製造が完了した製品)とでは製品の物性品質が異なってしまうという問題が生じる。
このような坐り時間を取らない水産練製品の代表的な例としては揚げ蒲鉾、かに蒲鉾、魚肉ソーセージ、竹輪、なるとなどが挙げられる。更にはんぺん、伊達巻、魚肉を使用したつくねなども含まれる。
本発明において、原料すり身とは、水産練製品の原料として用いられた、魚介類をペースト状に加工したものを指す。原料すり身に使用される魚種はスケソウタラ、イトヨリダイ、ホッケ、エソ、サメ、イワシなどが一般的であるが、魚介類であればいかなるものでもよい。
本発明の水産練製品の製造方法において、アスコルビン酸類、TG、AGを添加する方法は、揚げ工程、蒸し工程等の加熱工程前に原料すり身に添加されている限り、特に制限はなく、また、添加順序にも特に制限はない。例えば、アスコルビン酸類、TGを含む酵素製剤あるいはアスコルビン酸類、TG、AGを含む酵素製剤を調製し、食塩、調味料等他の原料と共に、あるいは別に原料すり身に添加混合してもよいし、酵素製剤を調製せずに、アスコルビン酸類、TG、AGを別々に、食塩、調味料等他の原料と共に、あるいは別に原料すり身に添加混合してもよい。
本発明の水産練製品の製造方法において、TGの適正添加量は原料すり身1kg当たり40ユニット〜200ユニットである。添加量が40ユニット未満では十分な添加効果は得られず、200ユニットを超えると製造工程中の品質にフレが生じる。尚、TGの活性単位は、次のようなヒドロキサメート法で測定され、かつ、定義される。すなわち、温度37℃、pH6.0のトリス緩衝液中、ベンジルオキシカルボニル−L−グルタミルグリシン及びヒドロキシルアミンを基質とする反応系で、TGを作用せしめ、生成したヒドロキサム酸をトリクロロ酢酸存在下で鉄錯体にし、次に、525nmにおける吸光度を測定し、ヒドロキサム酸量を検量線により求め、1分間に1μモルのヒドロキサム酸を生成せしめた酵素量をTGaseの活性単位、即ち1ユニット(1U)と定義する(特開昭64−27471号公報参照)。
本発明の水産練製品の製造方法において、原料すり身1kgに対するアスコルビン酸類の量は0.2g〜1.2g、好ましくは0.4g〜0.8gである。アスコルビン酸類の量が0.2g以下であると効果がなく1.2gを超えると食感にしなやかさがなくなってしまう。これまですり身に対するアスコルビン酸の効果が報告されているMarcel Dekker,Inc.発行 Surimi Technology291頁によると、また1ユニットのTGに対するアスコルビン酸量は0.002g〜0.03g、好ましくは0.002g〜0.004gである。0.1g未満であると求められる硬さが得られず、さらに3gを超えるとTGによるしなやかさが感じられなくなり、硬く脆いゴム状の食感となってしまう。
本発明の水産練製品の製造方法において、α−グルコシダーゼを添加すると水産練製品の食感がなめらかとなり一層好ましい品質を有する水産練製品が得られる。更に澱粉の糊化を促進するため澱粉原料を多く配合できる。この場合のAGの添加量はすり身1kg当たり500〜50,000ユニットが好ましく、1,000〜12,000ユニットがより好ましい。添加量が1000ユニット未満では十分な添加効果は得られず、12,000ユニットを超えると異様なねちゃつきが生じる。また尚、AGの活性単位は、1mM α−メチル−D−グルコシド1mlに0.02M酢酸バッファー(pH5.0)1mlを加え、酵素溶液0.5ml添加して、40℃、60分間を作用させた時に、反応液2.5ml中に1μgのブドウ糖を生成する酵素量を1U(ユニット)と定義した。
TG及びアスコルビン酸類に、AG、デキストリン、澱粉等の賦形剤、リン酸塩等のアルカリ素材、グルコースなどの糖、アスコルビン酸オキシダーゼ等の酸化還元酵素、蛋白加水分解物、蛋白部分分解物、乳化剤、グルタチオン、システイン等の還元剤、その他食品添加物を混合することにより、酵素反応時間が短い水産練製品用の酵素製剤を得ることができる。
本発明の酵素製剤の形態は液体状、ペースト状、顆粒状、粉末状のいずれでも構わない。
本発明の酵素製剤におけるアスコルビン酸類、TG、AGの配合量は0%より多く、100%より少ないが、製剤1g当たり、TGは1〜200ユニット、アスコルビン酸類は0.1〜0.7g、AGは100〜10,000ユニット配合するのが好ましい。アスコルビン酸類の量はTG1U当たり0.002〜0.03gが好ましく、AGの量はTG1U当たり10〜200Uが好ましく、14〜130Uがより好ましい。
更にこの練り身の一部を楕円状に型抜き成型し、大豆白絞油にて140℃で2分、170℃で2分揚げた。残った練り身はプラストカップに80g程度充填し、充填直後と充填後90分後(15℃)に25mmの球形プランジャーで破断強度を測定した。揚げ蒲鉾の物性は5mmの球形プランジャーとテクスチャーアナライザー(英弘精機、TA−XT2i)を用い破断強度を測定した。製造工程中における練り身の物性変化を測る指標として0分と90分後の練り身の破断強度の差を用い、差が大きいほど物性変化が起こっていると判断した。またその物性変化が対照品1に対し優位さがなければ問題ないと判断した(n=3)。
揚げ蒲鉾は硬さ・しなやかさ2項目について標準レシピ区を0点とし0.5点刻み±2点で官能評価を実施した(n=5)。硬さとは噛み始めた際に感じる硬さを示し、しなやかさは噛み進めていく時に感じる応力のことを言う。総合評価以外の項目に関し、0.5点は対照区1とわずかに差を感じる、1点は差を感じる、1.5点は大きな差を感じる、2点は非常に大きな差を感じるとした。総合評価については求める食感と機能が最適のものが◎、食感と機能が十分のものが○、十分とは言えないが到達しているものが△、未達のものが×とした。
物性測定結果及び官能評価結果を表4に示す。表4より練り身の物性変化に関してTG4%は対照品1とほぼ同等であった。またTG7%、TG10%における値は有意差はないが対照品1よりも大きかった。TG13%、20%では対照品1に対し有意差があることが確認された。尚、表4中のASNaとはアスコルビン酸ナトリウムを意味する。
すなわち、原料すり身1kgに対し、トランスグルタミナーゼを86U、アスコルビン酸ナトリウムを0.6g、α−グルコシダーゼを1800〜11012U添加することにより、揚げ蒲鉾の硬さ・しなやかさが向上し、澱粉による食感劣化(ボソツキ)抑制が出来ることが確認された。
Claims (5)
- アスコルビン酸類とトランスグルタミナーゼとα−グルコシダーゼとを添加することを特徴とする水産練製品の製造方法。
- アスコルビン酸類の添加量が原料すり身1kg当たり0.2〜1.2gであり、トランスグルタミナーゼの添加量が原料すり身1kg当たり40〜200ユニットである請求の範囲第1項記載の方法。
- α−グルコシダーゼの添加量が原料すり身1kg当たり1,000〜12,000ユニットである請求の範囲第1項又は第2項記載の方法。
- 水産練製品が揚げ蒲鉾、かに蒲鉾、竹輪、魚肉ソーセージ及びなるとよりなる群より選ばれるものである請求の範囲第1項乃至第3項何れか記載の方法。
- アスコルビン酸類とトランスグルタミナーゼとα−グルコシダーゼとを有効成分として含む水産練製品製造用の酵素製剤であって、該酵素製剤中のアスコルビン酸類の量が該酵素製剤中のトランスグルタミナーゼ1U当たり0.002〜0.03gであり、該酵素製剤中のα−グルコシダーゼの量が該酵素製剤中のトランスグルタミナーゼ1U当たり10〜200Uである酵素製剤。
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