JP5577037B2 - 分包型のレドックス硬化型組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、分包型のレドックス硬化型組成物に関する。
水分を含有する湿潤体(以下、単に「湿潤体」と称する)、例えば、歯牙、骨等の生体硬組織の修復治療のために、接着材料が使用されている。湿潤体に使用する接着材料としては、ラジカル重合性単量体、重合開始剤などからなるレジン系の硬化性組成物が汎用されている。
レジン系の硬化性組成物については、湿潤体、特に生体硬組織に対する接着性を高めるべく、大別すると、従来、2種の提案がなされている。すなわち、接着対象である歯牙、骨等の基質との化学的・物理的相互作用を高めることを意図した酸性基を含有するラジカル重合性単量体に関する提案(例えば、特許文献1参照)、及び、酸性基を含有するラジカル重合性単量体を含有する硬化性組成物を生体硬組織上で効率的に重合硬化させることを意図した重合開始剤に関する提案(例えば、特許文献2参照)である。
ところで、湿潤体にレジン系の硬化性組成物を接着する場合、接着界面に存在する酸素による硬化阻害に因り、十分な接着強さが得られないことが多い。この種の硬化阻害は、酸素を多量に含有する歯牙の象牙質や骨に硬化性組成物を接着する場合に、特に顕著に起こる。
そこで、湿潤体に含まれる酸素による硬化阻害を抑制して重合硬化反応を促進するべく、触媒(酸化剤)と促進剤(還元剤)とからなるレドックス重合開始剤の使用が提案されている。促進剤としては、特に、硫黄を含有する還元性化合物が注目されている(例えば、特許文献3及び4参照)。
特許文献3では、含水エタノール、亜硫酸塩及び第3級アミンなどからなる第1剤と、フリーラジカル重合性液体単量体及び触媒からなる第2剤とからなるレドックス硬化型水系重合性組成物が提案されている。また、特許文献4では、重合性リン化合物、重合触媒及び希釈剤からなる第1剤と、水性エタノール、硫黄化合物及び第3級アミンからなる第2剤と、水性エタノール及びFeCl3 等の可溶性金属塩からなる第3剤とからなるレドックス硬化型水系歯科用接着組成物が提案されている。これら分包型のレドックス硬化型水系硬化性組成物は、分包された各剤を混和して1剤とした上で、使用に供せられる。
しかしながら、特許文献3又は4に記載のレドックス硬化型水系硬化性組成物には、二律背反的な課題がある。すなわち、湿潤体に対する接着強さを高めるべく、亜硫酸塩、第3級アミン等の促進剤を多量に配合すると、レドックス反応(酸化還元反応)が急速に進行して可使時間が極端に短くなり、実用し得なくなる。一方、接着操作に要する時間を確保するべく、促進剤の配合量を少量に抑えると、硬化不十分となり、湿潤体に対する接着強さが低下する。
特許文献3又は4に記載のレドックス硬化型水系硬化性組成物が抱える上述した二律背反的な課題を解決したものとしては、特許文献5に記載のレドックス硬化型非水系硬化性組成物がある。このレドックス硬化型非水系硬化性組成物は、液状ラジカル重合性単量体と、有機過酸化物と、粉末状水溶性還元性化合物とを含有し、前記液状ラジカル重合性単量体中に前記粉末状水溶性還元性化合物を分散させたものである。而して、上記の粉末状水溶性還元性化合物の具体例として、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、チオ硫酸塩、チオン酸塩、亜二チオン酸塩の各粉末が挙げられている(特許文献5〔0038〕参照)。特許文献5によれば、湿潤体に含まれる酸素による重合阻害は硬化性組成物の内部ではなく湿潤体との接着界面部において起こる現象であるから、上記の構成を採用することにより、重合阻害が起こる接着界面部におけるレドックス反応のみを選択的に促進することができ、その結果、可使時間をさほど短縮することなく、湿潤体に対する接着強さを改善することができる、とのことである。
特開昭53−67740号公報 特開昭45−29195号公報 特開昭57−168903号公報 特開昭58−125710号公報 WO2006/016545
上記の特許文献5に記載のレドックス硬化型非水系硬化性組成物は、液状ラジカル重合性単量体中に粉末状水溶性還元性化合物を分散させることにより従前のレドックス硬化型水系硬化性組成物が抱えていた二律背反的な課題を解決したものである。しかしながら、本発明者らが検討したところ、このレドックス硬化型非水系硬化性組成物は、歯牙、骨等の湿潤体に適用した場合の接着耐久性には優れるものの、金属、陶材、セラミックス、コンポジットレジン硬化物等の歯冠修復材料に適用した場合の接着耐久性にはさらなる改善が必要であることが分かった。
そこで、本発明者らは、上述の課題を解決するべく鋭意研究した結果、レドックス触媒の還元剤として特定の還元剤を使用するとともに、特定の成分構成を採用することにより、歯牙、骨等の湿潤体に適用した場合はもとより、金属、陶材等の歯冠修復材料に適用した場合にも優れた接着性及び接着耐久性を発現するレドックス硬化型組成物が得られるとの知見を得た。
本発明は、斯かる知見に基づきなされたものであって、その目的とするところは、接着操作に必要な時間を確保することができ、しかも湿潤体に適用した場合はもとより、歯冠修復材料に適用した場合にも、接着初期はもとよりその後も長期にわたって優れた接着強さを発現する分包型のレドックス硬化型組成物を提供することにある。
請求項1記載の分包型のレドックス硬化型組成物は、酸性基及び/又は親水性基を有するラジカル重合性単量体(a)を含有する第1のラジカル重合性単量体に少なくとも酸化剤(b)を溶かしてなる第1剤と、酸性基も親水性基も有しないラジカル重合性単量体(c)を含有する第2のラジカル重合性単量体に少なくとも芳香族スルフィン酸塩(d)を分散させてなる第2剤とからなる。なお、本明細書において、「酸性基及び/又は親水性基を有する」とは、「酸性基を有し親水性基を有しない」、「親水性基を有し酸性基を有しない」、及び、「酸性基と親水性基との両方を有する」の3つの場合の包括的記載である。
請求項2記載の分包型のレドックス硬化型組成物は、請求項1記載の分包型のレドックス硬化型組成物にして、前記第1のラジカル重合性単量体が前記酸性基及び/又は親水性基を有するラジカル重合性単量体(a)を1〜100重量%含有し、前記第2のラジカル重合性単量体が前記酸性基も親水性基も有しないラジカル重合性単量体(c)を60〜100重量%含有し、前記第1剤は前記第1のラジカル重合性単量体100重量部に対して前記酸化剤(b)を0.01〜10重量部含有し、前記第2剤は前記第2のラジカル重合性単量体100重量部に対して前記芳香族スルフィン酸塩(d)を0.1〜20重量部含有し、且つ前記第1剤と前記第2剤との混和重量比が1:10〜5:1である。
請求項3記載の分包型のレドックス硬化型組成物は、請求項1記載の分包型のレドックス硬化型組成物にして、前記酸性基及び/又は親水性基を有するラジカル重合性単量体(a)が、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基及びカルボン酸基よりなる群から選ばれた少なくとも1種の酸性基、及び/又は、水酸基を有する。
請求項4記載の分包型のレドックス硬化型組成物は、請求項1記載の分包型のレドックス硬化型組成物にして、前記酸性基及び/又は親水性基を有するラジカル重合性単量体(a)が、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテートアンハイドライド、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデカン−1,1−ジカルボン酸、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート及び1,2−ビス〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ〕エタンよりなる群から選ばれた少なくとも1種のラジカル重合性単量体である。
請求項5記載の分包型のレドックス硬化型組成物は、請求項1記載の分包型のレドックス硬化型組成物にして、前記酸性基も親水性基も有しないラジカル重合性単量体(c)が、ラジカル重合性基を2個以上有するラジカル重合性単量体である。
請求項6記載の分包型のレドックス硬化型組成物は、請求項5記載の分包型のレドックス硬化型組成物にして、前記ラジカル重合性基を2個以上有するラジカル重合性単量体が、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、〔2,2,4−トリメチルヘキサメチレン〕ビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジ(メタ)アクリレート、N,N’−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール〕テトラ(メタ)アクリレート及び1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレートよりなる群から選ばれた少なくとも1種のラジカル重合性単量体である。
以下において、請求項1〜6のいずれか1項記載の分包型のレドックス硬化型組成物を本発明組成物と総称することがある。
請求項7記載の歯科用接着剤は、請求項1記載のレドックス硬化型組成物からなる。
本発明により、接着操作に必要な時間を確保することができ、しかも歯牙、骨等の湿潤体の他、金属、陶材等の歯冠修復材料に対しても、接着初期はもとよりその後長期にわたって優れた接着強さを発現するレドックス硬化型組成物が提供される。この理由は次のとおりである。
レドックス硬化型組成物の湿潤体との接着界面部においては酸素による重合阻害が起こるので、接着界面部の重合硬化性は内部のそれに比べて低くなる。従来の水系硬化性組成物では、接着界面部の重合硬化性を高めるべく水系硬化性組成物中に多量の水溶性還元性化合物を溶解させると、重合硬化性を高める必要が無い内部の重合硬化性も同時に高められてしまうため、組成物全体の硬化時間が短くなって接着操作に必要な時間を確保することが困難であった。また、従来の水系硬化性組成物では、接着操作に必要な時間を確保するべく水系硬化性組成物中に溶解させる水溶性還元性化合物の量を減じると、湿潤体、とりわけ酸素を多量に含有する象牙質等の生体硬組織に対して十分な接着性を得ることが困難であった。これに対して、本発明組成物においては、その接着界面部に存在する芳香族スルフィン酸塩(d)は水溶性ゆえに湿潤体表面の水に溶解する。水に溶解した芳香族スルフィン酸塩(d)と第1のラジカル重合性単量体に溶解した酸化剤(b)とは、いずれも溶解状態にあるので、互いに分子状態で出会う頻度が高い。すなわち、湿潤体に含まれる酸素による重合阻害により本来は進行しにくい筈の接着界面部におけるラジカル生成反応(レドックス反応)が容易に進行する。このため、本発明組成物は酸素が含まれる湿潤体に対しても優れた接着強さを発現する。一方、本発明組成物の内部においては、第2剤中に分散した芳香族スルフィン酸塩(d)は、2剤を混和してもすぐには混和液(第1剤と第2剤との混和液)中に溶けこまず、徐々に溶けるので、混和後しばらくはラジカル生成反応は開始されない。このため、接着操作に必要な時間(可使時間)を確保することができる。さらに、本発明組成物は、優れた接着耐久性を発現する。この理由は次のように推察される。すなわち、混和後は芳香族スルフィン酸塩は混和液中に溶解するので、硬化後に未反応の余剰の芳香族スルフィン酸塩が硬化物からしみ出ても大きな空隙が硬化物の内部に生じることはない。それゆえ、金属、陶材、セラミックス、コンポジットレジン硬化物等の歯冠修復材料に適用した場合に、本発明組成物は、混和後も組成物中に溶解せずに粉末状に分散する亜硫酸ナトリウム等の無機金属塩を還元剤として使用した特許文献5に記載のレドックス硬化型非水系硬化性組成物に比べて、接着層の機械的強度が高く、優れた接着耐久性を発現するものと考えられる。上記において、芳香族フルフィン酸塩又は無機金属塩の分散とは、その少なくとも一部が組成物中において固体で存在する状態をいい、その溶解とは、それが組成物中において重合性単量体と混合して液相を形成している状態をいう。
本発明のレドックス硬化型組成物は、第1剤と第2剤とからなる分包型である。第1剤は、酸性基及び/又は親水性基を有するラジカル重合性単量体(a)を含有する第1のラジカル重合性単量体に少なくとも酸化剤(b)を溶かしたものである。
酸性基及び/又は親水性基を有するラジカル重合性単量体(a)は、レドックス重合開始剤によりラジカル重合反応が進行して高分子化する。酸性基及び/又は親水性基を有するラジカル重合性単量体(a)は、後述する第2剤に含まれる芳香族スルフィン酸塩(d)を溶解させる効果を有する。
酸性基を有するラジカル重合性単量体としては、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、カルボン酸基等の酸性基を少なくとも1個有し、且つアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、スチレン基等のラジカル重合性基(ラジカル重合可能な不飽和基)を少なくとも1個有するラジカル重合性単量体が挙げられる。酸性基を有するラジカル重合性単量体(a)は、被着体との親和性を向上させ脱灰作用を有する。酸性基を有するラジカル重合性単量体(a)の具体例を下記する。下記において、(メタ)アクリルなる記載はメタクリルとアクリルとの総称である。
リン酸基含有重合性単量体としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7−(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16−(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20−(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9−(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシ−(1−ヒドロキシメチル)エチル〕ハイドロジェンホスフェート及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が例示される。
ピロリン酸基含有重合性単量体としては、ピロリン酸ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕、ピロリン酸ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ビス〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ビス〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が例示される。
チオリン酸基含有重合性単量体としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンチオホスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンチオホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンチオホスフェート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンチオホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンチオホスフェート、7−(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンチオホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンチオホスフェート、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンチオホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンチオホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンチオホスフェート、16−(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンチオホスフェート、20−(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンチオホスフェート及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が例示される。
ホスホン酸基重合性単量体としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチル−3−ホスホノプロピオネート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル−3−ホスホノプロピオネート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシル−3−ホスホノプロピオネート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル−3−ホスホノアセテート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシル−3−ホスホノアセテート及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が例示される。
スルホン酸基含有重合性単量体としては、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレートが例示される。
カルボン酸基含有重合性単量体としては、分子内に1つのカルボキシル基を有する重合性単量体と、分子内に複数のカルボキシル基を有する重合性単量体とが挙げられる。
分子内に1つのカルボキシル基を有する重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸、N−(メタ)アクリロイルグリシン、N−(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、O−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルフェニルアラニン、N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−o−アミノ安息香酸、p−ビニル安息香酸、2−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、N−(メタ)アクリロイル−4−アミノサリチル酸及びこれらの酸ハロゲン化物が例示される。
分子内に複数のカルボキシル基を有する重合性単量体としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキサン−1,1−ジカルボン酸、9−(メタ)アクリロイルオキシノナン−1,1−ジカルボン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシデカン−1,1−ジカルボン酸、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデカン−1,1−ジカルボン酸、12−(メタ)アクリロイルオキシドデカン−1,1−ジカルボン酸、13−(メタ)アクリロイルオキシトリデカン−1,1−ジカルボン酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテートアンハイドライド、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリテート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−3’−(メタ)アクリロイルオキシ−2’−(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピルサクシネート及びこれらの酸無水物又は酸ハロゲン化物が例示される。
上記の酸性基を有するラジカル重合性単量体の中でも、歯科用接着剤として用いた場合に接着強度が大きい点および第1剤と第2剤を混合した際に、第2剤に含まれる芳香族スルフィン酸塩(d)を所望の時間で溶解させて操作可能時間を調整できる点で、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテートアンハイドライド、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデカン−1,1−ジカルボン酸が好ましい。これらの酸性基を有するラジカル重合性単量体は、一種類単独を用いてもよく、複数種類を併用してもよい。
親水性基を有するラジカル重合性単量体としては、水酸基を有するラジカル重合性単量体が例示される。水酸基を有するラジカル重合性単量体の具体例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−又は3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5−ヒドロキシペンチ(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレ−ト、1,2−又は1,3−又は2,3−ジヒドロキシプロパン(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、1,2−ビス〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ〕エタン、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有の(メタ)アクリレート類;N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(3−ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−(4−ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミド、N−(5−ヒドロキシペンチル)(メタ)アクリルアミド、N−(6−ヒドロキシヘキシル)(メタ)アクリルアミド、N−(10−ヒドロキシデシル)(メタ)アクリルアミド、N−(メタ)アクリロイル−1,2−ジヒドロキシプロピルアミン、N−(メタ)アクリロイル−1,3−ジヒドロキシプロピルアミン、N−(メタ)アクリロイル−2,3−ジヒドロキシプロピルアミン等の水酸基含有の(メタ)アクリルアミド類;2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−ナフトキシプロピル(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレート等のグリシジル(メタ)アクリレート(GMA)と脂肪族又は芳香族ポリオール(フェノールを含む)との付加生成物が挙げられる。
上記の水酸基を有するラジカル重合性単量体の中でも、歯科用接着剤として用いた場合に歯質との親和性が高く、接着強度が大きい点、および第1剤と第2剤を混合した際に、第2剤に含まれる芳香族スルフィン酸塩(d)を所望の時間で溶解させて操作可能時間を調整できる点で、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート及び1,2−ビス〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ〕エタンが好ましい。これらの水酸基を有するラジカル重合性単量体は、一種類単独を用いてもよく、複数種類を併用してもよい。
第1のラジカル重合性単量体は、上記の酸性基及び/又は親水性基を有するラジカル重合性単量体(a)を含有してなる。第1のラジカル重合性単量体としては、酸性基及び/又は親水性基を有するラジカル重合性単量体(a)の含有率が1〜100重量%のものが第1剤と第2剤を混合した際に、第2剤に含まれる芳香族スルフィン酸塩(d)を所望の時間で溶解させて操作可能時間を調整できる点で好ましく、3〜85重量%のものがより好ましく、5〜70重量%のものが最も好ましい。酸性基及び/又は親水性基を有するラジカル重合性単量体(a)の含有率が1重量%未満の場合は、得られる組成物の湿潤体に対する接着強さが低下することがある。
上記の酸性基及び/又は親水性基を有するラジカル重合性単量体(a)は1種単独を用いてもよいが、歯科用接着剤として用いた場合に接着強度が大きい点で、酸性基を有するラジカル重合性単量体と親水性基を有するラジカル重合性単量体とを併用することが好ましい。それらを併用する場合の比率は特に限定されず、得られる組成物の硬化性などを考慮して適宜設定すればよい。
第1のラジカル重合性単量体に、上記の酸性基及び/又は親水性基を有するラジカル重合性単量体(a)以外に、酸性基も親水性基も有しないラジカル重合性単量体を本発明の効果を損なわない範囲で加えることができる。酸性基も親水性基も有しないラジカル重合性単量体の具体例としては、後述する、第2のラジカル重合性単量体に加える酸性基も親水性基も有しないラジカル重合性単量体(c)と同じものが挙げられる。
第1のラジカル重合性単量体に溶解させる酸化剤(b)としては、有機過酸化物、アゾ化合物、有機ホウ素化合物、無機過酸化物、金属塩が例示される。有機過酸化物としては、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイドが例示される。ジアシルパーオキサイド類の具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイドが挙げられる。パーオキシエステル類の具体例としては、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ビス−t−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートが挙げられる。ジアルキルパーオキサイド類の具体例としては、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドが挙げられる。パーオキシケタール類の具体例としては、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサンが挙げられる。ケトンパーオキサイド類の具体例としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイドが挙げられる。ハイドロパーオキサイド類の具体例としては、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、p−ジイソプロピルベンゼンパーオキサイドが挙げられる。アゾ化合物としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソブチルバレロニトリルが挙げられる。有機ホウ素化合物としては、トリアルキルボランもしくはトリアルキルボランの部分酸化物が挙げられる。無機過酸化物としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アルミニウム、過硫酸アンモニウムが挙げられる。金属塩としては、コバルト(III)の塩、鉄(III)の塩、銅(II)の塩、過マンガン酸塩アニオンの塩が挙げられる。
第1剤への酸化剤(b)の配合量は、得られる組成物の硬化性などの点で、第1のラジカル重合性単量体100重量部に対して0.01〜10重量部が好ましい。同配合量が0.01重量部未満の場合は、硬化物の機械的強度が低下するとともに接着強度が低下するおそれがある。一方、同配合量が10重量部を越えた場合にも、接着強度が低下するおそれがある。
第2剤は、酸性基も親水性基も有しないラジカル重合性単量体(c)を含有する第2のラジカル重合性単量体に少なくとも芳香族スルフィン酸塩(d)を分散させたものである。
酸性基も親水性基も有しないラジカル重合性単量体(c)は、レドックス重合開始剤によりラジカル重合反応が進行して、高分子化する。
酸性基も親水性基も有しない重合性単量体に限定されるのは、酸性基又は親水性基を有する重合性単量体には芳香族スルフィン酸塩(d)が溶け易く、このため第2剤中に芳香族スルフィン酸塩(d)を分散させることができず、第1剤と第2剤とを混和するとすぐにラジカル生成反応が進行してしまい、接着操作のための時間を確保することができなくなるからである。
酸性基も親水性基も有しないラジカル重合性単量体(c)としては、α−シアノアクリル酸、(メタ)アクリル酸、α−ハロゲン化アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸、マレイン酸、イタコン酸等のカルボン酸のエステル類、(メタ)アクリルアミド及びその誘導体、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、モノ−N−ビニル誘導体、スチレン誘導体が例示される。中でも(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。
酸性基も親水性基も有しないラジカル重合性単量体(c)の具体例を下記する。オレフィン性二重結合を1個有する単量体を一官能性単量体、2個有する単量体を二官能性単量体、3個以上有する単量体を三官能性以上の単量体、とそれぞれ記載する。
一官能性単量体:
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2,3−ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、(メタ)アクリルアミド
二官能性単量体:
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングルコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン、[2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)]ジ(メタ)アクリレート
三官能性以上の単量体:
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、N,N’−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール〕テトラ(メタ)アクリレート、1,7−ジアクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラ(メタ)アクリロイルオキシメチル−4−オキシヘプタン
上記の酸性基も親水性基も有しないラジカル重合性単量体(c)の中でも、歯科用接着剤として用いた場合の機械的強度と取り扱い性の点で、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、〔2,2,4−トリメチルヘキサメチレン〕ビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジ(メタ)アクリレート、N,N’−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール〕テトラ(メタ)アクリレート及び1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレートが好ましい。
酸性基も親水性基も有しないラジカル重合性単量体(c)は、一種類単独を用いてもよいが、複数種類を併用することが好ましい。複数種類を併用する場合は、得られる組成物の機械的強度、取り扱い性、透明性などを考慮して適宜の組み合わせで使用すればよい。
第2のラジカル重合性単量体は、上記の酸性基も親水性基も有しないラジカル重合性単量体(c)を含有してなる。第2のラジカル重合性単量体としては、酸性基も親水性基も有しないラジカル重合性単量体(c)の含有率が60〜100重量%のものが好ましく、65〜100重量%のものがより好ましく、70〜100重量%のものが最も好ましい。同含有率が40重量%未満の場合は、得られる組成物を用いて接着操作をするのに使用できる時間(可使時間)が短くなることがある。
第2のラジカル重合性単量体に、酸性基も親水性基も有しないラジカル重合性単量体(c)以外に、本発明の効果を損なわない程度に親水性基を有するラジカル重合性単量体を配合することができる。親水性基を有するラジカル重合性単量体の具体例としては、第1剤のラジカル重合性単量体に加える(a)成分の具体例として挙げたものと同じものが挙げられる。
第2のラジカル重合性単量体に分散させる芳香族スルフィン酸塩(d)は、レドックス重合開始剤の還元剤成分である。芳香族スルフィン酸塩(d)としては、ベンゼンスルフィン酸、p−トルエンスルフィン酸、o−トルエンスルフィン酸、エチルベンゼンスルフィン酸、デシルベンゼンスルフィン酸、ドデシルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸、クロルベンゼンスルフィン酸、ナフタリンスルフィン酸などのリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、鉄塩、銅塩、亜鉛塩、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩が例示される。これらの中でも、組成物の硬化性及び保存安定性の点で、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸及び2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩が好ましく、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩がより好ましい。
芳香族スルフィン酸塩(d)としては、常温(25°C)における水に対する溶解度が1mg/100mL以上のものが好ましい。同溶解度が1mg/100mL未満の場合は、本発明組成物を湿潤体に適用した場合に、接着界面部において芳香族スルフィン酸塩(d)が湿潤体表面の水に十分に溶解せず、その結果、接着界面部における重合硬化性を高めることができなくなるからである。
芳香族スルフィン酸塩(d)は、その粒径が過大であると沈降し易くなるので、平均粒径は500μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。しかし、平均粒径が過小であると粉末の比表面積が過大になって第2剤の取り扱い性が低下するおそれがあるので、平均粒径は0.01μm以上が好ましい。すなわち、芳香族スルフィン酸塩(d)の平均粒径は0.01〜500μmの範囲が好ましく、0.01〜100μmの範囲がより好ましい。
芳香族スルフィン酸塩(d)の形状については、球状、針状、板状、破砕状など、種々の形状が挙げられるが、特に制限されない。芳香族スルフィン酸塩(d)は、粉砕法、凍結乾燥法等の従来公知の方法で作製することができる。
第2剤への芳香族スルフィン酸塩(d)の配合量は、第2のラジカル重合性単量体100重量部に対して、0.1〜20重量部が好ましく、0.2〜15重量部がより好ましく、0.5〜10重量部が最も好ましい。同配合量が0.1重量部未満の場合は、得られる組成物の湿潤体に対する接着強さが低下するおそれがある。一方、同配合量が20重量部を越えた場合は、得られる第2剤の取り扱い性が低下するおそれがある。
本発明組成物の硬化時間を調整するために、第2剤に、レドックス重合開始剤の還元剤成分として、公知の、脂肪族アミン、芳香族アミン等の還元性化合物を、さらに配合してもよい。尤も、これらの還元性化合物の過多な配合は可使時間を大きく短縮する場合があるので留意する必要がある。
脂肪族アミンとしては、n−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−オクチルアミン等の第1級脂肪族アミン;ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、N−メチルジエタノールアミン等の第2級脂肪族アミン;N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−ラウリルジエタノールアミン、2−(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、N−メチルジエタノールアミンジ(メタ)アクリレート、N−エチルジエタノールアミンジ(メタ)アクリレート、トリエタノールアミントリ(メタ)アクリレート、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の第3級脂肪族アミンが例示される。これらの中でも、組成物の硬化性及び保存安定性の点で、第3級脂肪族アミンが好ましく、その中でもN−メチルジエタノールアミン及びトリエタノールアミンが特に好ましい。
また、芳香族アミンとしては、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−エチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−4−エチルアニリン、N,N−ジメチル−4−イソプロピルアニリン、N,N−ジメチル−4−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチル−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸メチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸2−〔(メタ)アクリロイルオキシ〕エチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノン、4−ジメチルアミノ安息香酸ブチルが例示される。これらの中でも、得られる組成物に優れた硬化性を付与する点で、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノンが好ましい。上述した脂肪族アミン及び芳香族アミンはいずれも一種類単独を用いてもよく、複数種類を併用してもよい。また、必要に応じて、脂肪族アミンと芳香族アミンとを併用してもよい。
本発明組成物を、光照射によっても重合が開始するデュアルキュア型の組成物とするために、レドックス重合開始剤の外に、さらに従来公知の光重合開始剤を配合してもよい。従来公知の光重合開始剤としては、α−ジケトン類、ケタール類、チオキサントン類、アシルホスフィンオキサイド類、α−アミノアセトフェノン類が例示される。光重合開始剤は、第1剤及び第2剤の両方に配合してもよく、いずれか一方に配合してもよい。
α−ジケトン類の具体例としては、カンファーキノン、ベンジル、2,3−ペンタンジオンが挙げられる。
ケタール類の具体例としては、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタールが挙げられる。
チオキサントン類の具体例としては、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントンが挙げられる。
アシルホスフィンオキサイド類の具体例としては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ジベンゾイルフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、トリス(2,4−ジメチルベンゾイル)ホスフィンオキサイド、トリス(2−メトキシベンゾイル)ホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイル−ビス(2,6−ジメチルフェニル)ホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイド及び特公平3−57916号公報に開示の水溶性のアシルホスフィンオキサイド化合物が挙げられる。
α−アミノアセトフェノン類の具体例としては、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ベンジル−2−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1、2−ベンジル−2−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ペンタノン−1、2−ベンジル−2−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ペンタノン−1が挙げられる。
光重合開始剤は、一種類単独を用いてもよく、複数種類を併用してもよい。光重合開始剤の配合量は、第1のラジカル重合性単量体と第2のラジカル重合性単量体との総量100重量部に対して、0.01〜10重量部の範囲が好ましく、0.1〜5重量部の範囲がより好ましい。
また、光硬化性を高めるために、光重合開始剤と、脂肪族アミン、芳香族アミン、アルデヒド類、チオール化合物等の重合促進剤とを併用してもよい。
脂肪族アミン及び芳香族アミンの各具体例としては、既述の脂肪族アミン及び芳香族アミンと同じものが挙げられる。
アルデヒド類の具体例としては、ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒドが挙げられる。
チオール化合物の具体例としては、2−メルカプトベンゾオキサゾール、デカンチオール、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、チオ安息香酸が挙げられる。
重合促進剤は、一種類単独を用いてもよく、複数種類を併用してもよい。重合促進剤を過多に配合するとレドックス重合が過度に促進されて、組成物の可使時間を大きく短縮する場合があるので留意する必要がある。
硬化後の機械的強度を高めるために、本発明組成物に、ガラスフィラーを配合してもよい。配合するガラスフィラーは、非溶出性ガラスフィラー又は溶出性ガラスフィラーのいずれを用いてもよく、また両者を併用してもよい。非溶出性ガラスフィラーとしては、無機系フィラー、有機系フィラー及びこれらの複合体フィラーが挙げられる。無機系フィラーとしては、シリカ、シリカを基材とし、カオリン、クレー、雲母、マイカなどを含有する鉱物、シリカを基材とし、Al23、B23、TiO2、ZrO2、BaO、La23、SrO2、CaO、P25などを含有するセラミックス類及びランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス等のガラス類が例示される。これらの外、無機系フィラーとして、結晶石英、ヒドロキシアパタイト、アルミナ、酸化チタン、酸化イットリビウム、フッ化イットリビウム、ジルコニア、硫酸バリウムなどを配合してもよい。有機系フィラーとしては、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴム等の有機樹脂が挙げられる。複合体フィラーとしては、上記有機樹脂中に非溶出性ガラスフィラーを分散させたもの、上記有機樹脂で非溶出性フィラーの表面をコーティングしたものが例示される。溶出性ガラスフィラーとしては、酸性基を有するラジカル重合性単量体と反応し得る2以上の原子価をもつ陽イオン溶出性元素(例えば、ストロンチウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウム、鉄、ジルコニウムなど)を含むフルオロアルミノシリケートガラス(例えば、カルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、スロトンチウムフルオロアルミノシリケートガラス、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムカルシウムフルオロアルミノシリケートガラス)が例示される。これらのフィラーは、必要に応じてシランカップリング剤等の公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。表面処理剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシランが例示される。
本発明組成物の適用対象が生体硬組織である場合、特に歯牙である場合には、本発明組成物に、フッ素イオンを放出する公知の水溶性フッ化化合物を接着性を低下させない程度の量配合しても良い。水溶性フッ化化合物としては、例えば、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ルビジウム、フッ化セシウム、フッ化ベリリウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化亜鉛、フッ化アルミニウム、フッ化マンガン、フッ化銅、フッ化鉛、フッ化銀、フッ化アンチモン、フッ化コバルト、フッ化ビスマス、フッ化ベリリウム、フッ化スズ、フッ化ジアンミン銀、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化チタンカリウム、フッ化スズ酸塩、フルオロ珪酸塩が例示される。水溶性フッ化化合物は、一種類単独を用いてもよく、複数種類を併用してもよい。水溶性フッ化化合物を配合する場合は、特開昭2−258602号公報などに記載される方法によりこれを微粒子化したり、特開平10−36116号公報に記載される方法によりこれをポリシロキサンで被覆したりした上で配合することが好ましい。
本発明組成物に、従来公知の、安定剤、光重合開始剤、染料、顔料を配合してもよい。
本発明組成物の包装形態は、第1剤と第2剤との分包型である。1剤型としたのでは芳香族スルフィン酸塩(d)が、酸性基や親水性基を有するラジカル重合性単量体(a)に溶解してしまい、その溶解した芳香族スルフィン酸塩(d)が貯蔵中に酸化剤(b)と反応して分解してしまうため、ラジカル生成量が減少してしまうからである。
第1剤と第2剤との混和重量比は、得られる組成物の硬化性及び接着操作に使用できる時間(可使時間)の点で、1:10〜5:1が好ましい。
本発明組成物を湿潤体に適用する場合を例にして説明する。本発明組成物は、包装形態が第1剤と第2剤との分包形態であるので、使用直前に第1剤と第2剤とを混和して1剤とした後、湿潤体に適用する。混和物と湿潤体の表面の水分との接触により接着界面部における硬化反応速度が促進され、その硬化反応が終了することで本発明組成物と湿潤体とが接着される。歯牙に適用する場合を例により詳しく説明すると、次のとおりである。すなわち、歯牙窩洞を充填修復する場合は、常法により歯牙窩洞を清掃した後、1剤とした本発明組成物を歯牙窩洞へ充填する。クラウン、インレー等の補綴物を合着する場合は、支台歯又は歯牙窩洞の被着面と補綴物の被着面とを清掃した後、1剤とした本発明組成物を、歯牙窩洞若しくは支台歯の被着面又は補綴物の被着面の少なくとも一方に塗布し、合着する。なお、本発明組成物を歯牙表面に適用する前に、歯牙表面に、酸性水溶液によるエッチング処理、プライマーによる改質処理、エッチング能を有するプライマーによるエッチング・改質同時処理等の従来公知の前処理を施してもよい。
本発明を実施例により更に詳細に説明する。本発明は下記の実施例に限定されるものではない。以下で用いる略記号は次のとおりである。
MDP:10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
D−2.6E:2,2−ビス(メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン NPG:ネオペンチルグリコールジメタクリレート
Bis−GMA:ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート
HEMA:2−ヒドロシキエチルメタクリレート
TPBSS:2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウム BPO:ベンゾイルパーオキサイド
DEPT:N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン
TMDPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド
BHT:ジブチルヒドロキシトルエン
R972:シリカ(日本アエロジル社製、商品名「アエロジルR972」)
(実施例1〜8)
表1に組成を示す第1剤及び第2剤を調製し、これら2剤の重量比が1:1の分包型のレドックス硬化型組成物(本発明組成物)を作製した。第1剤は、シラン化石英粉及びR972以外の成分を調合後、攪拌して均一な溶液とした後、シラン化石英粉及びR972を練り込み脱泡して作製した。また、第2剤は、TPBSS、シラン化石英粉及びR972以外の成分を調合後、攪拌して均一な溶液とした後、TPBSS、シラン化石英粉及びR972を練り込み脱泡して作製した。第2剤中のTPBSSは粉末状に分散した状態であった。これらの分包型のレドックス硬化型組成物について、下記に示す方法により、操作可能時間、陶材に対する引張接着強さ及び接着耐久性、並びに、金合金に対する引張接着強さ及び接着耐久性を調べた。また、実施例2〜4で作製した分包型のレドックス硬化型組成物については、下記に示す方法により、さらに歯質(牛歯象牙質)に対する引張接着強さ及び接着耐久性についても調べた。
(比較例1〜4)
第2剤の調製においてTPBSSに代えて亜硫酸ナトリウム粉末を使用したこと以外は、実施例2〜4と同様にして、表2に第1剤及び第2剤の組成を示す、2剤の重量比が1:1の分包型のレドックス硬化型組成物(比較組成物)を作製した(比較例1〜3)。また、第2剤中のTPBSSをモノマーに溶解させた、表2に第1剤及び第2剤の組成を示す、2剤の重量比が1:1の分包型のレドックス硬化型組成物(比較組成物)を作製した(比較例4)。これらの分包型のレドックス硬化型組成物について、下記に示す方法により、操作可能時間、陶材に対する引張接着強さ及び接着耐久性、金合金に対する引張接着強さ及び接着耐久性、並びに、歯質(牛歯象牙質)に対する引張接着強さ及び接着耐久性を調べた。
〔操作可能時間〕
並列して配置された1対の収納容器(内容積5ml、ミックスパック社製、商品コード「SDL005−01052」)に、第1剤と第2剤とを重量比1:1で充填した後、各収納部材内のペーストを混合器(ミックスパック社製、商品コード「ML2.5−08−S」)のミキシング部へ押し出してミキシング部で2剤を練和し、生成した練和物約30mgを顕微鏡用スライドグラスの上に吐出させた。練和開始から所定時間経過後にもう一枚の顕微鏡用スライドグラスを練和物に剪断力が加わるように押し付け、練和物に不均一部分が発生していないか否かを目視にて検査した。この検査を、練和開始から練和物に剪断力を加えるまでの時間を10秒ずつ延長して行い、不均一部分が発生するまで繰り返した。不均一部分が発生した時点が硬化が始まった時間であることから、練和開始から不均一部分が発生するまでの時間を、試験に供した分包型のレドックス硬化型組成物の操作可能時間(接着操作に消費することが可能な時間)とした。結果を表3に示す。
〔陶材又は金合金に対する引張接着強さ及び接着耐久性〕
陶材ブロック(ビタ社製、商品名「セレイ」)及び各辺1cmの立方体形状の金合金鋳造品(ジーシー社製、商品名「キャスティングゴールドM.C.タイプIV」)の表面を流水下でそれぞれ#1000のシリコン・カーバイド紙で研磨して平滑面とした後、表面の水をエアブローして、乾燥した。乾燥後の平滑面に、直径5mmの丸穴を有する厚さ約150μmの粘着テープを貼着し、接着面積を規制した。
分包型のレドックス硬化型組成物の第1剤と第2剤とを重量比1:1で混練してセメント組成物を調製した。そのセメント組成物を、ステンレス製の円柱棒(直径7mm、長さ2.5mm)の一方の端面(円形端面)に築盛し、丸穴の中心とステンレス製の円柱棒の中心とが略一致するように、セメント組成物を築盛した側の端面を丸穴内の平滑面(被着面)に載置し、その平滑面に対して垂直にステンレス製の円柱棒を押し付けて接着して、供試サンプルを作製した。供試サンプルは、陶材ブロック及び金合金鋳造品について、それぞれ10個ずつ作製した。
押し付けた際にステンレス製の円柱棒の周囲からはみ出た余剰のセメント組成物を除去した後、供試サンプルを、30分間室温で静置し、蒸留水に浸漬した。蒸留水に浸漬した供試サンプルを、37°Cに保持した恒温器内に24時間静置した。10個の供試サンプルのうち5個については、37°C24時間静置後の引張接着強さを調べた。この引張接着強さは、接着初期の接着強さを示す。また、残り5個の供試サンプルについては、37°C24時間静置後、さらに70°Cに保持した恒温器内に10日間静置した後、引張接着強さを調べた。この引張接着強さは接着耐久性を表す。引張接着強さは、万能試験機(島津製作所社製)にてクロスヘッドスピードを2mm/分に設定して測定した。結果を表3に示す。表3に示す、37°C24時間静置後の引張接着強さも70°C10日静置後の引張接着強さも、5個の供試サンプルについての測定値の平均値である。
〔牛歯象牙質に対する引張接着強さ及び接着耐久性〕
ウシ下顎前歯の唇面を流水下にてシリコン・カーバイド紙で研磨して象牙質の平坦面を露出させた。露出した平坦面を流水下にて#1000のシリコン・カーバイド紙でさらに研磨した。研磨後、表面の水をエアブローすることで乾燥した。乾燥後の平滑面に、直径3mmの丸穴を有する厚さ約150μmの粘着テープを貼着し、接着面積を規制した。
分包型のレドックス硬化型組成物の第1剤と第2剤とを重量比1:1で混練してセメント組成物を調製した。そのセメント組成物を、ステンレス製円柱棒(直径7mm、長さ2.5cm)の一方の端面(円形断面)に築盛し、上記の丸穴の中心と上記のステンレス製円柱棒の中心とが略一致するように、セメント組成物を築盛した側の端面を丸穴内の平滑面(被着面)に載置し、上記セメント組成物を築盛した端面を上記の丸穴に載置して押しつけ、その平滑面に対して垂直にステンレス製の円柱棒を押し付けて接着して、供試サンプルを作製した。供試サンプルは、10個作製した。
押し付けた際にステンレス製の円柱棒の周囲からはみ出た余剰のセメント組成物を除去した後、供試サンプルを、30分間室温で静置し、蒸留水に浸漬した。蒸留水に浸漬した供試サンプルを、37°Cに保持した恒温器内に24時間静置した。10個の供試サンプルのうち5個については、37°C24時間静置後の引張接着強さを調べた。この引張接着強さは、接着初期の接着強さを示す。また、残り5個の供試サンプルについては、37°C24時間静置し、さらに4°Cの冷水中と60°Cの温水中に各1分間浸漬する熱サイクルを4000回(以下、この熱サイクルを「TC4000」と記す。)繰り返す負荷をかけた後、引張接着強さを調べた。この引張接着強さは接着耐久性を表す。引張接着強さは、万能試験機(島津製作所社製)にてクロスヘッドスピードを2mm/分に設定して測定した。結果を表4に示す。表中の、37°C24時間静置後の引張接着強さもTC4000後の引張接着強さも、5個の供試サンプルについての測定値の平均値である。
Figure 0005577037
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表3より、本発明組成物(実施例1〜8)からなるセメント組成物は、比較組成物(比較例1〜3)からなるセメント組成物に比べて、歯冠修復材料として汎用されている陶材及び金合金に対する接着耐久性が良いことが分かる。また、操作可能時間については、本発明組成物からなるセメント組成物の中には比較組成物(比較例1〜3)からなるセメント組成物に比べて短いものが多いが、最短のものでも1分40秒であるので、実用上は問題はない。なお、第2剤の調製において、TPBSSをモノマーに溶解させた比較組成物(比較例4)からなるセメント組成物は、操作可能時間が1分未満と短かい。第1剤と第2剤とを混和してすぐにラジカル生成反応が開始されたためと考えられる。
表4より、象牙質に適用した場合には、芳香族スルフィン酸塩を使用した本発明組成物(実施例2〜4)からなるセメント組成物と、亜硫酸ナトリウム粉末を使用した比較例組成物(比較例1〜3)からなるセメント組成物とは、ほぼ同程度の接着耐久性を発現することが分かる。

Claims (6)

  1. リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基及びカルボン酸基よりなる群から選ばれた少なくとも1種の酸性基、及び/ 又は、水酸基である親水性基を有するラジカル重合性単量体(a)を含有する第1のラジカル重合性単量体に少なくとも酸化剤(b)を溶かしてなる第1剤と、酸性基も親水性基も有しないラジカル重合性単量体(c)を含有する第2のラジカル重合性単量体に少なくとも芳香族スルフィン酸塩(d)を粉末状に分散させてなる第2剤とからなる分包型のレドックス硬化型組成物。
  2. 前記第1のラジカル重合性単量体が前記酸性基及び/又は親水性基を有するラジカル重合性単量体(a)を1〜100重量%含有し、前記第2のラジカル重合性単量体が前記酸性基も親水性基も有しないラジカル重合性単量体(c)を60〜100重量%含有し、前記第1剤は前記第1のラジカル重合性単量体100重量部に対して前記酸化剤(b)を0.01〜10重量部含有し、前記第2剤は前記第2のラジカル重合性単量体100重量部に対して前記芳香族スルフィン酸塩(d)を0.1〜20重量部含有し、且つ前記第1剤と前記第2剤との混和重量比が1:10〜5:1である請求項1記載の分包型のレドックス硬化型組成物。
  3. 前記酸性基及び/又は親水性基を有するラジカル重合性単量体(a)が、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテートアンハイドライド、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデカン−1,1−ジカルボン酸、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート及び1,2−ビス〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ〕エタンよりなる群から選ばれた少なくとも1種のラジカル重合性単量体であり、
    前記ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレートは、ビスフェノールAとグリシジル(メタ)アクリレートとの1:2反応生成物である、
    請求項1記載の分包型のレドックス硬化型組成物。
  4. 前記酸性基も親水性基も有しないラジカル重合性単量体(c)が、ラジカル重合性基を2個以上有するラジカル重合性単量体である請求項1記載の分包型のレドックス硬化型組成物。
  5. 前記ラジカル重合性基を2個以上有するラジカル重合性単量体が、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、〔2,2,4−トリメチルヘキサメチレン〕ビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジ(メタ)アクリレート、N,N’−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール〕テトラ(メタ)アクリレート及び1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレートよりなる群から選ばれた少なくとも1種のラジカル重合性単量体である請求項4記載の分包型のレドックス硬化型組成物。
  6. 請求項1記載の分包型のレドックス硬化型組成物からなる歯科用接着剤。
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